(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591780
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】データ加重平均化回路、インクリメンタルデルタシグマAD変換器、及びデータ加重平均化方法
(51)【国際特許分類】
H03M 3/02 20060101AFI20191007BHJP
【FI】
H03M3/02
【請求項の数】21
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-94083(P2015-94083)
(22)【出願日】2015年5月1日
(65)【公開番号】特開2016-213598(P2016-213598A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】宮原 由一
(72)【発明者】
【氏名】志田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】片山 貴登
【審査官】
太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0074303(US,A1)
【文献】
特開2013−187696(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L個(Lは2以上の整数)のビット列で表されたサーモメータコードからなるデジタル入力信号が入力され、L種類の値を取り得るポインタにしたがって前記デジタル入力信号のビット位置をずらしたL個のビット列からなるデジタル出力信号を出力するビットシフタと、
前記サーモメータコードで表現されるデータ値の大きさと前記Lとをもとに、前記デジタル入力信号毎に前記ポインタを更新するポインタ発生器と、
を備え、
所定数の前記デジタル入力信号からなるデジタル入力信号群が変換サイクル毎に入力され、
前記ポインタ発生器は、前記変換サイクル毎に、前記ポインタの初期値が異なる値となるように、前記ポインタの取り得る値全てを候補として当該候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定し、当該ポインタの初期値を、前記変換サイクルの1番目に入力されるデジタル入力信号用のポインタとして設定するデータ加重平均化回路。
【請求項2】
前記ポインタ発生器は、n(n≧2)回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として、n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号に基づき更新されたポインタを設定する請求項1に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項3】
前記データ値は零以上前記L以下を満足する整数であり、前記ポインタは零以上前記L−1以下を満足する整数であり、
前記ポインタ発生器は、前記デジタル入力信号が入力される毎に、更新前の前記ポインタに前記データ値を加算した値を中間値Dp′として生成し、前記中間値Dp′がDp′≧Lを満足しない場合には前記ポインタを前記中間値Dp′に更新し、Dp′≧Lを満足する場合には前記ポインタをDp′−Lに更新し、
前記n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号に基づき更新されたポインタを、前記n回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として設定する請求項2に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項4】
乱数を発生する乱数発生器を備え、
前記ポインタ発生器は、前記乱数発生器で発生された乱数に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定する請求項1に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項5】
乱数を発生する乱数発生器を備え、
前記ポインタ発生器は、n−1(n≧2)回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号に基づき更新されたポインタと前記乱数発生器で発生された乱数との和に基づき、前記候補のうちのいずれか1つをn回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として設定する請求項1に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項6】
前記データ値は零以上前記L以下を満足する整数であり、前記ポインタは零以上前記L−1以下を満足する整数であり、
前記ポインタ発生器は、前記デジタル入力信号が入力される毎に、更新前の前記ポインタに前記データ値を加算した値を中間値Dp′として生成し、前記中間値Dp′がDp′≧Lを満足しない場合には前記ポインタを前記中間値Dp′に更新し、Dp′≧Lを満足する場合には前記ポインタをDp′−Lに更新し、
前記デジタル入力信号が前記n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号であるときには、更新された前記ポインタと前記乱数との和に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記n回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として設定する請求項5に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項7】
規則的に変化する値を出力する規則数値出力部を備え、
前記ポインタ発生器は、前記規則数値出力部の出力に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定する請求項1に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項8】
規則的に変化する値を出力する規則数値出力部を備え、
前記ポインタ発生器は、n−1(n≧2)回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号に基づき更新されたポインタと前記規則数値出力部の出力との和に基づき、前記候補のうちのいずれか1つをn回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として設定する請求項1に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項9】
前記データ値は零以上前記L以下を満足する整数であり、前記ポインタは零以上前記L−1以下を満足する整数であり、
前記ポインタ発生器は、前記デジタル入力信号が入力される毎に、更新前の前記ポインタに前記データ値を加算した値を中間値Dp′として生成し、前記中間値Dp′がDp′≧Lを満足しない場合には前記ポインタを前記中間値Dp′に更新し、Dp′≧Lを満足する場合には前記ポインタをDp′−Lに更新し、
前記デジタル入力信号が前記n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号であるときには、更新された前記ポインタと前記規則数値出力部の出力との和に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記n回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として設定する請求項8に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項10】
サンプルホールドされたアナログ信号が入力されるアナログ積分器と、
前記アナログ積分器の出力を量子化して出力する量子化器と、
前記量子化器の出力をデータ加重平均化処理したデジタル信号を出力するデータ加重平均化回路と、
前記データ加重平均化回路から出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して前記アナログ積分器にフィードバックするデジタル/アナログ変換器と、を備えるインクリメンタルデルタシグマAD変換器の前記データ加重平均化回路として用いられる請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のデータ加重平均化回路。
【請求項11】
サンプルホールドされたアナログ信号が入力されるアナログ積分器と、
前記アナログ積分器からの出力を量子化して出力する量子化器と、
前記量子化器の出力を入力し前記アナログ信号に応じたデジタル信号を演算するデジタル演算部と、
前記量子化器の出力をデータ加重平均化処理したデジタル信号を出力するデータ加重平均化回路と、
前記データ加重平均化回路から出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して前記アナログ積分器にフィードバックするデジタル/アナログ変換器と、を備え、
前記データ加重平均化回路として、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のデータ加重平均化回路を備えるインクリメンタルデルタシグマAD変換器。
【請求項12】
L種類(Lは2以上の整数)の値を取り得るポインタにしたがって、L個のビット列で表されたサーモメータコードからなるデジタル入力信号のビット位置をずらしたL個のビット列からなるデジタル出力信号を生成する出力信号生成ステップと、
前記サーモメータコードで表現されるデータ値の大きさと前記Lとをもとに、前記デジタル入力信号毎に前記ポインタを更新するポインタ更新ステップと、を備え、
所定数の前記デジタル入力信号からなるデジタル入力信号群が変換サイクル毎に入力され、前記ポインタ更新ステップでは、前記変換サイクル毎に、前記ポインタの初期値が異なる値となるように、前記ポインタの取り得る値全てを候補として当該候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定し、当該ポインタの初期値を、前記変換サイクルの1番目に入力されるデジタル入力信号用のポインタとして設定するデータ加重平均化方法。
【請求項13】
前記ポインタ更新ステップでは、n(n≧2)回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として、n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号に基づき更新されたポインタを設定する請求項12に記載のデータ加重平均化方法。
【請求項14】
前記データ値は零以上前記L以下を満足する整数であり、前記ポインタは零以上前記L−1値以下を満足する整数であり、
前記ポインタ更新ステップでは、前記デジタル入力信号が入力される毎に、更新前の前記ポインタに前記データ値を加算した値を中間値Dp′として生成し、前記中間値Dp′がDp′≧Lを満足しない場合には前記ポインタを前記中間値Dp′に更新し、Dp′≧Lを満足する場合には前記ポインタをDp′−Lに更新し、
前記n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号に基づき更新されたポインタを、前記n回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として設定する請求項13に記載のデータ加重平均化方法。
【請求項15】
前記ポインタ更新ステップでは、前記変換サイクル毎に発生させた乱数に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定する請求項12に記載のデータ加重平均化方法。
【請求項16】
前記ポインタ更新ステップでは、n(n≧2)回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として、n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号に基づき更新されたポインタと前記変換サイクル毎に発生させた乱数との和に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定する請求項12に記載のデータ加重平均化方法。
【請求項17】
前記データ値は零以上前記L以下を満足する整数であり、前記ポインタは零以上前記L−1以下を満足する整数であり、
前記ポインタ更新ステップでは、前記デジタル入力信号が入力される毎に、更新前の前ポインタに前記データ値を加算した値を中間値Dp′として生成し、前記中間値Dp′がDp′≧Lを満足しない場合には前記ポインタを前記中間値Dp′に更新し、Dp′≧Lを満足する場合には前記ポインタをDp′−Lに更新し、
前記デジタル入力信号が前記n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号であるときには、更新された前記ポインタと前記乱数との和に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記n回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として設定する請求項16に記載のデータ加重平均化方法。
【請求項18】
前記ポインタ更新ステップでは、前記変換サイクル毎に発生させた規則的に変化する数値に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定する請求項12に記載のデータ加重平均化方法。
【請求項19】
前記ポインタ更新ステップでは、n(n≧2)回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として、n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号に基づき更新されたポインタと前記変換サイクル毎に発生させた規則的に変化する数値に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定する請求項12に記載のデータ加重平均化方法。
【請求項20】
前記データ値は零以上前記L以下を満足する整数であり、前記ポインタは零以上前記L−1以下を満足する整数であり、
前記ポインタ更新ステップでは、前記デジタル入力信号が入力される毎に、更新前の前記ポインタに前記データ値を加算した値を中間値Dp′として生成し、前記中間値Dp′がDp′≧Lを満足しない場合には前記ポインタを前記中間値Dp′に更新し、Dp′≧Lを満足する場合には前記ポインタをDp′−Lに更新し、
前記デジタル入力信号が前記n−1回目の変換サイクルで最後に入力されたデジタル入力信号であるときには、更新された前記ポインタと前記規則的に変化する数値との和に基づき、前記候補のうちのいずれか1つを前記n回目の変換サイクルの前記ポインタの初期値として設定する請求項19に記載のデータ加重平均化方法。
【請求項21】
インクリメンタルデルタシグマAD変換器においてデジタル/アナログ変換動作を行う際に行われるデータ加重平均化処理に用いられる請求項12から請求項20のいずれか1項に記載のデータ加重平均化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ加重平均化回路、インクリメンタルデルタシグマAD変換器、及びデータ加重平均化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D(Analog/Digital)変換器が様々な機器(携帯電話、スマートフォン、オーディオ機器など)に使用されている。また、無線通信分野やオーディオ分野では、広い信号帯域で、かつ高い信号対雑音比をもつアナログデジタル変換器(AD変換器)が要求されている。特に、携帯機器に用いられるAD変換器には電力供給源のバッテリーの制約があるために低消費電力であることが求められるが、この用途としてデルタシグマ技術を用いたデルタシグマAD変換器が多く用いられている。
【0003】
一般的に、デルタシグマAD変換器は、1つ以上の積分器で構成されたループフィルタと、このループフィルタの出力をデジタル化して出力する量子化器と、この量子化器の出力信号をフィードバックするためのデジタルアナログ変換器(DA変換器)からなっている。
図1は、従来のインクリメンタルデルタシグマAD変換器を示すブロック図である。このインクリメンタルデルタシグマAD変換器は、サンプルホールド(SH)回路1とリセット信号発生器2とデルタシグマ変調器3とデジタル演算部4とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
入力信号AINは、サンプルホールド回路1によってあるタイミングの電圧がホールドされ、信号AIN’がデルタシグマ変調器3に入力される。デルタシグマ変調器3は、L(>=1)段のアナログ積分器12と、そのアナログ積分器12とデジタル演算部4内のデジタル積分器(図示せず)とを変換の最初にリセットするリセット信号発生器2と量子化器13とDAコンバータ(DAC)14と加算器11とで構成されている。
【0005】
図2は、
図1に示したサンプルホールド回路1とデルタシグマ変調器3の一例を示した回路構成図で、
図3(a)乃至(m)は、
図2における信号波形図である。
図2では、量子化レベルが1値である3次のデルタシグマ変調器を示したものであるが、これに限るものではなく、それぞれの値は自由に取りうる。
サンプルホールド回路1については、
図3(b)に示すトラッキングフェーズ(φt=H)にて、
図3(i)に示す入力信号AIN=AINP−AINNに応じた電荷をCsp及びCsnにて蓄え、
図3(c)に示すφhの立ち上がりにてAMP0を用いてChp及びChnに転送する。トラッキングフェーズ(φt=H)の初期段階では、
図3(a)に示すφrsh=HにてChp及びChnの電荷をリセットする。また、トラッキングフェーズ(φt=H)では、
図3(d)に示すφr=HにてCi1p,Ci1n,Ci2p,Ci2n及びCi3p,Ci3nの電荷をリセットする。
【0006】
転送した電荷をコンバージョンフェーズの間保持する(φh=H)ことにより、デルタシグマ変調器3の入力AIN’=AINP’−AINN’を一定に保つ。
デルタシグマ変調器3については、第1のアナログ積分器311は、
図3(j)に示す信号AIN’に応じた電荷を
図3(e)に示すφsの立ち上がりにてCs1p及びCs1nに蓄えるスイッチトキャパシタ部と、
図3(l)に示すREFP、
図3(m)に示すREFNを用いてフィードバック信号に応じた電荷をφsの立ち上がりにてCfbp及びCfbnに蓄えるSCDAC部(DAコンバータ),AMP1,Ci1p及びCi1nからなり、これらを第1のAMP311aを用いて
図3(f)に示すφiの立ち上がりにてCi1p及びCi1nに転送する。
【0007】
第2のアナログ積分器312、第3のアナログ積分器313についても同様にCs2p,Cs2nの電荷をCi2p,Ci2nに、Cs3p,Cs3nの電荷をCi3p,Ci3nにそれぞれ第2のAMP312a,第3のAMP313aを用いてφiの立ち上がりにて転送することで各段での積分を行う。
ここで、第1のアナログ積分器311は、加算器も兼ねている。すなわち、AIN’信号とフィードバック信号との加算は、第1のアナログ積分器311の第1のAMP311aのサミングノードにおいて、量子化器32の出力である
図3(k)に示すMODOに応じた
図3(g)に示す信号φip及び
図3(h)に示す信号φinにて信号経路を直接結合することによって実現される。例えば、量子化器32の出力MODOがLのとき信号φipにて信号経路を結合し、量子化器32の出力MODOがHのとき信号φinにて信号経路を結合する。
【0008】
量子化器32については、AIN’信号をC0ffp,C0ffnに、第1のアナログ積分器311の出力INT1Oに応じた電荷をC1ffp,C1ffnに、第2のアナログ積分器312の出力INT2Oに応じた電荷をC2ffp,C2ffnに、第3のアナログ積分器313の出力INT3Oに応じた電荷をC3ffp,C3ffnにφiの立ち上がりにてそれぞれ蓄えるスイッチトキャパシタ部と、各電荷の加算を行う加算部と、加算した信号SUMPとSUMNを比較する比較部とからなる。各電荷の加算は、各スイッチトキャパシタ部の出力の信号経路を直接結合することによって実現される。
【0009】
量子化器32の出力MODOは、デルタシグマ変調器3の出力となると同時に初段アナログ積分器311にフィードバックされる。量子化器32の出力MODOをデジタル演算器(図示せず)がデジタル演算(積分)し、デジタル出力DOUTを得る。
サンプルホールド回路1がある時刻の入力信号AINに応じた電荷を保持し、デルタシグマ変調器3が一定に保たれた入力AIN’に対し所定のオーバーサンプリング比により動作した後、第1のアナログ積分器311と第2のアナログ積分器312と第3のアナログ積分器313及びデジタル演算部4内のデジタル積分器(図示せず)は、リセット信号発生器2によりφr=Hにてリセットされる。例えば、第1のアナログ積分器311では、φr=Hにてアンプの入出力をショートしCi1p,Ci1nの電荷を0としてリセットを行う。
【0010】
φrsh=Hによるリセット後、サンプルホールド回路1は、次の時刻の入力信号AIN=AINP−AINNに応じた電荷をCsp及びCsnにて蓄え、各回路は上述した動作を順次繰り返す。
ところで、このような構成を有するインクリメンタルデルタシグマAD変換器においては、量子化器13の出力信号をフィードバックするためのDAコンバータ14を備えている。このため、DAコンバータ14を構成する複数のDA変換素子間の特性のばらつきによって不具合が生じ、結果的に、インクリメンタルデルタシグマAD変換器におけるAD変換結果に高調波の歪みを発生させてしまう等の可能性がある。これを回避するために、複数のDA変換素子を順番に選択することにより、各DA変換素子の使用回数を平均化する、データ加重平均化回路(以後、DWA(Data Weight Averaging)回路ともいう。)を設けることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
DWA回路は、例えば
図4に示すように、
図1に示すインクリメンタルデルタシグマAD変換器において、DAコンバータ14の入力側に設けられる。DWA回路15は、量子化器13からの量子化器出力MODOを入力し、量子化器出力MODOに基づいて、DAコンバータ14に含まれる複数のDA変換素子のうちのいずれかを選択するための信号を生成する。DAコンバータ14では、この生成された信号に基づいて、DA変換素子が順に選択される。
【0012】
図5は、DWA回路15の一例を示すブロック図である。
図5に示すDWA回路15は、ビットシフタ41とポインタ発生器42とを備える。
ビットシフタ41及びポインタ発生器42に入力される量子化器出力MODOは、
図4に示すように、インクリメンタルデルタシグマAD変換器に含まれる、量子化器13のデジタル出力信号であって、サーモメータコードで表現される。
【0013】
ここで、サーモメータコードとは、論理値0と論理値1の2値を用い、連続する論理値1の個数によりデータ値を表現したコードのことをいう。サーモメータコードによる表現では、論理値1のビット又は論理値1のビット列が、あるビットから論理値0のビット又は論理値1のビット列に切り替わる。例えば、10進数で表現された「3」は、7ビットのバイナリコードでは「0000011」と表現される。10進数で表現された「3」をサーモメータコードで表現すると、「0000111」となる。
【0014】
ビットシフタ41は、量子化器出力MODOを表すL個のビット列からなるL値のデジタル出力信号において、ポインタDpに基づき、論理値1を有するビット位置をソートし直す機能を有する。つまり、ポインタDpが示す、量子化器出力MODOのビット列における初期位置に該当するビットを基準として論理値1を有するビット又はビット列が形成されるように、ビット位置をずらし、L個のビット列からなるL値の平均化回路出力DWAOを出力する。
【0015】
ポインタ発生器42は、量子化器出力MODOが示すデータ値Dthの大きさに応じて、サーモメータコードをなすL個のビット列のうちの、初期位置となるビットを示すポインタDpを更新する機能を有する。
ポインタ発生器42により更新されたポインタDpは、
図4に示すインクリメンタルデルタシグマAD変換器のDAコンバータ14と同じ周波数で動作するクロック信号CLKで同期化され、次に入力される量子化器出力MODOにおける初期位置を表すポインタDpとなる。
【0016】
図6は、
図5に示すDWA回路15の動作を説明するための信号の流れを示す説明図である。
図6に示すように、データ値Dthをサーモメータコードで表した量子化器出力MODOは、ポインタDpとともにビットシフタ41に入力され、量子化器出力MODOは、ビットシフタ41でソートされて、L個のビット列からなるL値の平均化回路出力DWAOとして出力される。
【0017】
同時に、データ値Dthはポインタ発生器42に入力され、ポインタ発生器42は、データ値Dthに基づきポインタDpを更新する。
図7は、DWA回路15のビットシフタ41及びポインタ発生器42における処理手順の一例を示すフローチャートである。
ビットシフタ41には、量子化器出力MODOと、ポインタ発生器42からのポインタDpとが入力される。
【0018】
ビットシフタ41では、まず、ポインタDpとデータ値Dthとの和が、量子化器出力MODOのビット数を表すLよりも大きいか否か(Dp+Dth>L)を判定する(ステップS1)。
Dp+Dth>Lを満足しない場合には、ステップS2に移行し、1〜LまでのL個のビット列からなる平均化回路出力DWAOにおいて、Dp<k≦(Dp+Dth)を満足するk番目のビットについては、ビットデータとして論理値1を設定し(ステップS3)、Dp<k≦(Dp+Dth)を満足しない他のビットについてはビットデータとして論理値0を設定する(ステップS4)。
【0019】
一方、ステップS1でDp+Dth>Lを満足する場合にはステップS5に移行し、k>Dp、又は、k≦Dp+Dth−Lを満足するk番目のビットについては、ビットデータとして論理値1を設定し(ステップS6)、k>Dp、又は、k≦Dp+Dth−Lを満足しない他のビットについては、ビットデータとして論理値0を設定する(ステップS7)。そして、このようにして設定されたビットデータを有するL値のデジタル信号であるDWAO(L)を、平均化回路出力DWAOとして出力する(ステップS8)。
【0020】
なお、
図7中の、DWAO(k)は、平均化回路出力DWAOにおけるk番目のビットのビットデータを表す。
これにより、L値のサーモメータコードからなる量子化器出力MODOにおいて、論理値1と論理値0の個数を変えずに、ポインタDpで指定されるビット数分だけ、論理値1のビット位置を移動させたデジタル信号を得ることができる。すなわち、量子化器出力MODOにおいて、ポインタDpで指定されるビット数分だけビットシフトされた、平均化回路出力DWAOを得ることができる。
【0021】
一方、ポインタ発生器42には、量子化器出力MODOが入力される。
ポインタ発生器42では、まず、量子化器出力MODOを表すサーモメータコードを、2の補数コード(2′s comp.)に変換し、D2cとして出力する(ステップS11)。
この2の補数コード(2′s comp.)で表されるD2cが表す10進数表示の値を「データ値D2c(10進数表示)」と表すものとすると、データ値D2c(10進数表示)と、ポインタDpをクロック信号CLKで1クロックだけ遅延させたDp_Dとの和をとることで、新しいポインタの元となる中間値Dp′を算出する(Dp′=D2c+Dp_D)(ステップS12)。
【0022】
この中間値Dp′が量子化器出力MODOのビット数を表すLより小さい場合には(ステップS13)、中間値Dp′がそのまま新たなポインタDpとなる(Dp=Dp′)(ステップS14)。中間値Dp′が量子化器出力MODOのビット数を表すL以上である場合には、中間値Dp′からLを減算した値が新たなポインタDpとなる(Dp=Dp′−L)(ステップS15)。
【0023】
算出されたポインタDpは、コンバージョンステップ(Conversion Step)jがオーバーサンプリング比mに達すると(ステップS16)、一旦初期化されて初期位置として例えば“0”に更新され(ステップS17)、それ以外の時はそのままポインタの値として「Dp」が出力される。
なお、オーバーサンプリング比mは、
図4に示すインクリメンタルデルタシグマAD変換器に含まれるデルタシグマ変調器3におけるオーバーサンプリング比を表す。また、コンバージョンステップjは、量子化器出力MODOの入力サイクルを表す。コンバージョンステップjは、1からm(mはオーバーサンプリング比)までの値をとる。
図4のインクリメンタルデルタシグマAD変換器では、サンプルホールド回路1でホールドされたあるタイミングにおける電圧信号AIN′に対して、1からmのコンバージョンステップjを一つの変換サイクルとして、A/D変換を行う。1からmの各コンバージョンステップjにおける各量子化器出力MODOをデジタル積分した値が、サンプルホールドされた電圧信号AIN′のデジタル変換値となる。
【0024】
図8は、
図5〜
図7で説明したDWA回路15が、
図1及び
図2で示したようなインクリメンタルデルタシグマAD変換器ではなく、各コンバージョンステップjで重みが均等な回路で使用された場合、例えば、一般的なデルタシグマAD変換器等で使用された場合の具体的な入出力結果の一例を示したものである。
なお、ここでいう重みとは、1からmのコンバージョンステップjそれぞれで演算される量子化器出力MODOが、1からmのコンバージョンステップjを含む1つの変換サイクルで得られるデジタル変換値に寄与する度合いを表す。
【0025】
図1及び
図2で示したインクリメンタルデルタシグマAD変換器は、
図1に示すように、量子化器出力MODOに対し、デジタル演算部4により、アナログ積分器による演算処理と同様の演算である累積加算を行う処理を実行するため、量子化器出力MODOが最終出力結果すなわちデジタル変換値に及ぼす重みがコンバージョンステップ毎に異なるという特徴があり、各コンバージョンステップにおける量子化器出力MODOの重みは、コンバージョンステップjが進むほど小さくなる。
【0026】
インクリメンタルデルタシグマAD変換器のような、入力信号をサンプルホールドする構成を有していない一般的なデルタシグマAD変換器は、各コンバージョンステップにおける量子化器出力MODOの重みは、コンバージョンステップ間で同一となる。
図8は、オーバーサンプリング比mがm=8、量子化器13での量子化レベルLがL=7である場合に、適当な値の量子化器出力MODOが入力された場合の、DWA回路15における各種信号のデータの一例を示す。なお、各種信号はこれに限るものではなく、それぞれの値は自由に取りうる。
【0027】
図8は、各コンバージョンステップj(j=1〜m)における、L値のサーモメータコードで表される量子化器出力MODO、データ値D2c(10進数表示)、ポインタDp、L値のデジタル信号からなる平均化回路出力DWAO、重みWeightを表す。なお、
図8において、各コンバージョンステップにおける平均化回路出力DWAOの各ビットについてそのビットデータが論理値1であるときの重みWeightをビット毎に1変換サイクルにわたって積算した値を、合計値(Total)として表し、ビット毎の合計値(Total)の標準偏差をσとして表す。
【0028】
図8において、コンバージョンステップj=1では、この時点ではポインタは初期化されているためDp=0となり、サーモメータコードで表される量子化器出力MODOは、「0001111」であり、“1”が4つであるため、データ値Dth=4となる。そのため、Dp+Dth=0+4=4となり、L=7であるため、Dp+Dth>Lを満足しない。よって、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=1〜4に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0029】
また、サーモメータコードで表される量子化器出力MODOは、「0001111」であるため、D2c(10進数表示)=4となり、Dp′=D2c+Dp_D=4+0=4となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=4となり、ポインタDpが“4”に更新される。
コンバージョンステップj=2では、ポインタDpが更新されてDp=4である。また、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000111」であり、Dth=3となるため、Dp+Dth=4+3=7となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=5〜7に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0030】
また、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000111」であるため、D2c(10進数表示)=3となり、Dp′=D2c+Dp_D=3+4=7となり、Dp′≧Lを満足するため、Dp=Dp′−L=0となり、ポインタDpが“0”に更新される。
コンバージョンステップj=3では、ポインタDpが更新されてDp=0である。また、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000001」であり、Dth=1となるため、Dp+Dth=0+1=1となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=1に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0031】
また、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000001」であるため、D2c(10進数表示)=1となり、Dp′=D2c+Dp_D=1+0=1となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=1となり、ポインタDpが“1”に更新される。
以下、このシーケンスを繰り返すことにより、
図8に示すように各コンバージョンステップにおける平均化回路出力DWAOの各ビットデータが確定する。
【0032】
そして、コンバージョンステップj=8では、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000001」であるため、D2c(10進数表示)=1となり、Dp′=D2c+Dp_D=1+0=1となる。Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=1となるが、j=8であり、オーバーサンプリング比m(=8)に達するため、ポインタDpは初期化されて“0”に更新される。そのため、次の、コンバージョンステップj=1では、ポインタDp=0として処理が行われる。
【0033】
このようなシーケンスで動作するDWA回路15は、
図1及び
図2で示したようなインクリメンタルデルタシグマAD変換器ではなく、各コンバージョンステップで重みが均等な回路、例えば、デルタシグマAD変換器等で使用された場合、コンバージョンステップ毎に重みを数値化して「1」に規格化すると、
図8に示すように、8回のコンバージョンステップでは、1回に付き重みWeightはWeight=1/8=0.125となる。
【0034】
ここで、
図8に示す平均化回路出力DWAOの各列、すなわち平均化回路出力DWAOの各ビットに着目すると、コンバージョンステップ1〜8、すなわち1変換サイクルにおいて、それぞれ論理値1が3回、論理値0が5回設定されており、DWA回路15により、論理値0と論理値1とを均等に繰り返すように、ビットデータが設定されていることがわかる。
【0035】
各ビットについて、ビットデータが論理値1であるときの重みWeightを足し合わせると、0.125×3=0.375となり、各列のコンバージョンステップ1〜8における重みWeightの合計値はビット間で等しくなり、標準偏差σは“0”となる。
ここで、例えば、DWA回路15の出力をスイッチトキャパシタDA変換器の入力として使用した場合、平均化回路出力DWAOにおいて、ビットデータが論理値1であるビットに対応づけられたキャパシタ(CAP)がオンとなり、ビットデータが論理値0であるビットに対応づけられたキャパシタ(CAP)がオフとなるように動作する。
【0036】
このとき、各列の重みWeightが等しいということは、各列に対応づけられた7個のキャパシタが均等にオンとなることと等価であり、すなわちスイッチトキャパシタDA変換器の出力は、キャパシタの特性のばらつきの影響を受けないことを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】国際公開第2013/136676号
【特許文献2】特開2011−259347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
図9は、
図4に示すように、
図5〜
図7で説明したDWA回路15が
図1及び
図2で示したようなインクリメンタルデルタシグマAD変換器で使用された場合の具体的な入出力結果の一例を示したものである。
図9は、連続する2つの変換サイクルにおける、各コンバージョンステップでの入出力結果の一例を示したものであって、(a)は変換サイクル1、(b)は変換サイクル2における具体的な入出力結果の一例を示す。
【0039】
図9は、オーバーサンプリング比mがm=8、量子化レベルLがL=7である場合に、適当な値の量子化器出力MODOが入力された場合の、DWA回路15における各種信号のデータの一例を示す。なお、各種信号はこれに限るものではなく、それぞれの値は自由に取りうる。
図9(a)、(b)は、
図8と同様に、各コンバージョンステップj(j=1〜m)における、L値のサーモメータコードで表される量子化器出力MODO、データ値D2c(10進数表示)、ポインタDp、L値のデジタル信号からなる平均化回路出力DWAO、重みWeightを表す。また、
図9において、各コンバージョンステップにおける平均化回路出力DWAOの各ビットについてそのビットデータが論理値1であるときの重みWeightをビット毎に1変換サイクルにわたって積算した値を、合計値(Total)として表し、ビット毎の合計値(Total)の標準偏差をσとして表す。
【0040】
また、
図9(b)の再下段に、変換サイクル1における重みWeightの合計値(Total)と変換サイクル2における重みWeightの合計値(Total)との平均をとった値を、平均値Total(2th average)として表す。
図9(a)、(b)に示すように、平均化回路出力DWAOは、
図7に示すフローチャートにしたがってそのビットデータが論理値0又は論理値1に確定される。
【0041】
ここで、インクリメンタルデルタシグマAD変換器では、前述のように、量子化器出力MODOが最終出力結果、すなわちデジタル変換値に及ぼす寄与度である、重みWeightがコンバージョンステップ毎に異なる。
この重みWeightは、次式(1)で表すことができる。
なお、(1)式中のLは量子化器出力MODOの量子化レベル、mはオーバーサンプリング比、jは、各コンバージョンステップを表す。また、(1)式の分子は、(m−j+b)においてbを1からL−1まで変化させたときの総乗の演算結果にLを乗算することを表し、(1)式の分母は、(m+a−1)においてaを1からLまで変化させたときの総乗を演算することを表す。
【0042】
【数1】
【0043】
このように、コンバージョンステップ毎に重みが変化するような回路に、DWA回路15を適用した場合、
図9(a)、(b)に示すように、コンバージョンステップ毎の重みWeightが変化するため、平均化回路出力WDAOにおいて、ビット毎に、ビットデータが論理値1であるときの重みWeightを積算すると、重みの合計値(Total)がビット間で異なる値となり、標準偏差σは有限の値をとる。
【0044】
このように動作するDWA回路15の出力である平均化回路出力DWAOをスイッチトキャパシタDA変換器の入力として使用し、平均化回路出力DWAOにおいて、ビットデータが論理値1のビットに対応するキャパシタをオンし、ビットデータが論理値0のビットに対応するキャパシタをオフするように動作すると仮定する。
図9(a)、(b)に示すように、各ビットの重みの合計値Totalがビット間で異なるということは、各ビットに対応づけた7個のキャパシタが、均等にオンとならないことと等価であり、すなわち、スイッチトキャパシタDA変換器の出力が、キャパシタの特性のばらつきに依存することを意味しており、その分、WDA処理による効果が低減することになる。
【0045】
一方で、通常のAD変換器においては、AD変換処理を行う場合に、同一のアナログ信号を繰り返し入力し、出力されるデジタル信号を平均化することにより素子起因のノイズ特性を改善するという手法が取られることがある。
このような手法を用いることにより、WDA回路15に同一の量子化器出力MODOが2回連続して入力された場合、
図9(a)、(b)に示すように、平均化回路出力DWAOとして、同じパターンが繰り返されることになる。
【0046】
このため、DWA効果の低減により増えるノイズ(標準偏差σ)については、
図9(b)の最下段にある通り、複数回の変換サイクルにおける重みの合計値Totalの平均値(Total(2th average))をとっても、1回の変換サイクルにおける重みの合計値Totalの標準偏差σと同様に、複数回の変換サイクルにおける重みの合計値Totalの標準偏差σは有限の値をとり、標準偏差σを抑制することはできない。つまり、素子起因のノイズ特性を改善することを目的として、DWA回路15に同一のアナログ信号に基づく量子化器出力を繰り返し入力したとしても、標準偏差σを低減することはできない。
【0047】
このように、従来のDWA回路15は、コンバージョンステップ間で重みが異なるような構成を有するインクリメンタルデルタシグマAD変換器に含まれる量子化器からの量子化器出力MODOを入力としてDWA処理を行う場合、DWA処理を行うことによる効果が低減する可能性があり、この効果の低減は、同一のアナログ信号を複数回入力することにより、ノイズ特性の改善を図る方法を用いたとしても抑制することは困難である。
【0048】
本発明は、上記問題点に着目してなされたものであり、各コンバージョンステップで重みが異なるような回路の出力信号を処理する場合でも、DWA処理による効果の低減を抑制することの可能なデータ加重平均化回路、インクリメンタルデルタシグマAD変換器、及びデータ加重平均化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0049】
本発明の一態様によるデータ荷重平均化回路は、L個(Lは2以上の整数)のビット列で表されたサーモメータコードからなるデジタル入力信号が入力され、L種類の値を取り得るポイン
タにしたがって前記デジタル入力信号のビット位置をずらしたL個のビット列からなるデジタル出力信号を出力するビットシフタと、前記サーモメータコードで表現されるデータ
値の大きさと前記Lとをもとに、前記デジタル入力信号毎に前記ポインタを更新するポインタ発生器と、を備え、所定数の前記デジタル入力信号からなるデジタル入力信号群が変換サイクル毎に入力され、前記ポインタ発生器は、前記変換サイクル毎に、
前記ポインタの初期値が異なる値となるように、前記ポインタの取り得る値全てを候補として当該候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定し、当該ポインタの初期値を、前記変換サイクルの1番目に入力されるデジタル入力信号用のポインタとして設定することを特徴とする。
【0050】
本発明の他の態様によるインクリメンタルデルタシグマAD変換器は、サンプルホールドされたアナログ信号が入力されるアナログ積分器と、前記アナログ積分器からの出力を量子化して出力する量子化器と、前記量子化器の出力を入力し前記アナログ信号に応じたデジタル信号を演算するデジタル演算部と、前記量子化器の出力をデータ加重平均化処理したデジタル信号を出力するデータ加重平均化回路と、前記データ加重平均化回路から出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して前記アナログ積分器にフィードバックするデジタル/アナログ変換器と、を備え
、前記データ加重平均化回路として、上記態様のデータ加重平均化回路を備えることを特徴とする。
【0051】
また、本発明の他の態様によるデータ荷重平均化方法は、L種類(Lは2以上の整数)の値を取り得るポインタにしたがって、L個のビット列で表されたサーモメータコードからなるデジタル入力信号のビット位置をずらしたL個のビット列からなるデジタル出力信号を生成する出力信号生成ステップと、前記サーモメータコードで表現されるデータ値の大きさと前記Lとをもとに、前記デジタル入力信号毎に前記ポインタを更新するポインタ更新ステップと、を備え、所定数の前記デジタル入力信号からなるデジタル入力信号群が変換サイクル毎に入力され、前記ポインタ更新ステップでは、前記変換サイクル毎に、
前記ポインタの初期値が異なる値となるように、前記ポインタの取り得る値全てを候補として当該候補のうちのいずれか1つを前記ポインタの初期値として設定し、当該ポインタの初期値を、前記変換サイクルの1番目に入力されるデジタル入力信号用のポインタとして設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、デジタル入力信号の重みが異なることにより、データ加重平均化処理による効果が低減することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】従来のインクリメンタルデルタシグマAD変換器の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示したサンプルホールド回路とデルタシグマ変調器の一例を示した回路構成図である。
【
図4】DWA回路を備えたインクリメンタルデルタシグマAD変換器の一例を示すブロック図である。
【
図5】従来のDWA回路の一例を示すブロック図である。
【
図6】従来のDWA回路の信号の流れを説明するための説明図である。
【
図7】従来のDWA回路の動作説明に供するフローチャートの一例である。
【
図8】従来のDWA回路による、入出力結果の一例である。
【
図9】従来のDWA回路による、入出力結果の一例である。
【
図10】本発明の第1実施形態におけるDWA回路の動作説明に供するフローチャートの一例である。
【
図11】第1実施形態におけるDWA回路による、入出力結果の一例である。
【
図12】本発明の第2実施形態におけるDWA回路の一例を示すブロック図である。
【
図13】第2実施形態におけるDWA回路の動作説明に供するフローチャートの一例である。
【
図14】第2実施形態におけるDWA回路による、入出力結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかであろう。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
【0055】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
ここでは、本発明に係るDWA回路15を、
図4に示すように、インクリメンタルデルタシグマAD変換器に適用した場合について説明する。
まず、本発明の第1実施形態を説明する。
本発明の第1実施形態に係るDWA回路15は、
図5〜
図7に示す従来のDWA回路において処理手順が異なること以外は同様であって、その回路構成は、
図5に示す従来のDWA回路と同様である。すなわち、DWA回路15は、ビットシフタ41とポインタ発生器42とを備える。ビットシフタ41は、例えば組み合わせ回路で構成され、ポインタ発生器42は、例えば、演算処理装置で構成される。
【0056】
図10は、第1実施形態におけるDWA回路15のビットシフタ41及びポインタ発生器42における処理手順の一例を示すフローチャートである。
第1実施形態におけるDWA回路15は、従来のDWA回路において、ポインタ発生器42で決定されるポインタDpを算出した後の処理手順に特徴がある。
すなわち、従来のDWA回路においては、算出されたポインタDpは、コンバージョンステップjがj=m(mは、オーバーサンプリング比)に達すると一旦初期化されてDp=0となり、それ以外は、算出されたDpがそのままポインタの値として出力される。つまり、変換サイクル毎に、ポインタDpの初期値として「0」が設定され、「0」を基準としてコンバージョンステップ毎にポインタDpが更新される。
【0057】
これに対し、第1実施形態におけるDWA回路15では、コンバージョンステップに関係なく、ポインタDpは算出された値がそのまま出力される。つまり、一つ前の変換サイクルにおいてコンバージョンステップj=mにおける量子化器出力MODOに基づき設定されたポインタDpが、ポインタDpの初期値として設定される。
このポインタDpの設定方法を除くと、他の部分については従来のDWA回路における処理手順と同等の処理手順で処理が行われる。
【0058】
なお、ビットシフタ41の処理手順は従来の処理手順と同様であるため、同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
また、量子化器出力MODOの量子化レベルをLとしたとき、ポインタDp(10進数表示)は、0≦Dp≦L−1を満足する整数であり、データ値Dth(10進数表示)は、0≦Dth≦Lを満足する整数である。
【0059】
図10に示すように、ポインタ発生器42には、量子化器出力MODOが入力される。
ポインタ発生器42では、まず、量子化器出力MODOを表すサーモメータコードを、2の補数コードに変換し、データ値D2c(10進数表示)として出力する(ステップS101)。次いで、データ値D2c(10進数表示)と、ポインタDpをクロック信号CLKで1クロックだけ遅延させたDp_Dとの和をとることで、新しいポインタの元となる中間値Dp′を算出する(Dp′=D2c+Dp_D)(ステップS102)。
【0060】
この中間値Dp′と量子化器出力MODOのビット数を表すLとがDp′≧Lを満足しない場合には(ステップS103)、中間値DpがそのままポインタDpになる(Dp=Dp′)(ステップS104)。中間値Dp′がDp′≧Lを満足する場合には、ポインタ値Dp=Dp′−Lとする(ステップS105)。
そして、このようにして決定したポインタDpを、ビットシフタ41に出力し、次の量子化器出力MODOに対する処理を行う。
【0061】
図11は、
図10に示す処理を行うDWA回路15を備えた、
図4に示す、重みWeightがコンバージョンステップ毎に異なるインクリメンタルデルタシグマAD変換器における、DWA回路15の各種信号の入出力結果の一例を示したものである。
図11(a)は変換サイクル1における入出力結果を表し、
図11(b)は変換サイクル2における入出力結果を表し、変換サイクル1と変換サイクル2とは連続する変換サイクルである。
【0062】
図11は、オーバーサンプリング比mがm=8、量子化レベルLがL=7である場合に、適当な値の量子化器出力MODOが入力された場合を示す。なお、各種信号はこれに限るものではなく、それぞれの値は自由に取りうる。
図11(a)、(b)は、各コンバージョンステップj(j=1〜m)であるときの、L値のサーモメータコードで表される量子化器出力MODO、データ値D2c(10進数表示)、ポインタDp、L値のデジタル信号からなる平均化回路出力DWAO、重みWeightを表す。なお、重みとは、前述のように、各コンバージョンステップjそれぞれで演算される量子化器出力MODOが、これらコンバージョンステップjを含む1変換サイクルで得られるデジタル変換値に寄与する度合いを表す。
【0063】
また、
図11(a)、(b)において、各コンバージョンステップにおける平均化回路出力DWAOの各ビットについてそのビットデータが論理値1であるときの重みWeightをビット毎に加算した値を合計値(Total)として表し、ビット毎の合計値(Total)の標準偏差をσとして表す。
また、
図11(b)の最下段に、変換サイクル1と変換サイクル2における、重みWeightの合計値(Total)についてビット毎に平均をとった値を、平均値Total(2th average)として表している。
【0064】
図11(a)、(b)に示すように、
図10で説明したフローチャートにしたがって平均化回路出力DWAOが確定する。
すなわち、変換サイクル1では、
図11(a)に示すように、コンバージョンステップj=1では、この時点ではポインタDpは初期化されているため、Dp=0である。
サーモメータコードで表される量子化器出力MODOは「0001111」であり、Dth=4であるため、
図10のフローチャートにしたがって、ビットシフタ41では、Dp+Dth=0+4=4となり、L=7であって、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=1〜4に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外は論理値0となる。
【0065】
ポインタ発生器42では、サーモメータコードで表される量子化器出力MODOは、「0001111」であるため、D2c(10進数表示)=4、Dp′=D2c+Dp_D=4+0=4となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=4となる。
コンバージョンステップj=2では、ポインタDp=4であり、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000111」でありDth=3となるため、Dp+Dth=4+3=7となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=5〜7に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外は論理値0となる。
【0066】
また、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000111」であるため、D2c(10進数表示)=3となり、Dp′=D2c+Dp_D=3+4=7となり、Dp′≧Lを満足するため、Dp=Dp′−L=7−7=0となり、ポインタDpが“0”に更新される。
コンバージョンステップj=3では、ポインタDpは“0”であり、量子化器出力MODOがサーモメータコードで「0000001」であり、Dth=1となるため、Dp+Dth=0+1=1となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=1に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0067】
また、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000001」であるため、D2c(10進数表示)=1となり、Dp′=D2c+Dp_D=1+0=1となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=1となり、ポインタDpが“1”に更新される。
コンバージョンステップj=4では、ポインタDpがDp=1であり、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000011」であり、Dth=2となるため、Dp+Dth=1+2=3となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=2、3に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0068】
また、量子化器出力MODOはサーモメータコードで「0000011」であるため、D2c(10進数表示)=2となり、Dp′=D2c+Dp_D=2+1=3となり、Dp′≧7を満足しないため、Dp=Dp′=3となり、ポインタDpが“3”に更新される。
以後、同様に、コンバージョンステップj=5では、ポインタDp=3、Dth=2であり、Dp+Dth=3+2=5となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=4、5に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0069】
また、D2c(10進数表示)=2であり、Dp′=D2c+Dp_D=2+3=5となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=5となる。
コンバージョンステップj=6では、ポインタDp=5、Dth=2であり、Dp+Dth=5+2=8となり、Dp+Dth>Lを満足することから、k>Dp又は、k≦Dp+Dth−Lを満足する、k=6、7に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0070】
また、D2c(10進数表示)=2であり、Dp′=D2c+Dp_D=2+5=7となり、Dp′≧7を満足するため、Dp=Dp′−L=7−7=0となる。
コンバージョンステップj=7では、ポインタDp=0、Dth=3であり、Dp+Dth=0+3=3となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=1〜3に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0071】
また、D2c(10進数表示)=3であり、Dp′=D2c+Dp_D=3+0=3となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=3となる。
コンバージョンステップj=8では、ポインタDp=3、Dth=1であり、Dp+Dth=3+1=4となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=4に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
【0072】
また、D2c(10進数表示)=1であり、Dp′=D2c+Dp_D=1+3=4となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=4となる。
以上のコンバージョンステップj=1〜8の処理で、ある時点T1におけるAIN′信号に対する変換サイクル1によるAD変換処理が終了する。そして、量子化器13から再度、時点T1におけるAIN′信号に応じた量子化器出力MODOが入力され、量子化器出力MODOが変換サイクル1で入力された量子化器出力MODOと同一となる場合には、
図11(b)に示すように、新たに入力される、各コンバージョンステップj=1〜mにおける量子化器出力MODOは、
図11(a)に示す各コンバージョンステップj=1〜mにおける量子化器出力MODOと同一であるが、コンバージョンステップj=1におけるポインタDp、つまり、ポインタの初期値が“4”であるため、各コンバージョンステップにおいて、ビットデータが論理値1に設定されるビットが異なる。
【0073】
すなわち、
図11(b)に示すように、コンバージョンステップj=1の場合には、Dp=4であり、Dth=4であるため、Dp+Dth=4+4=8となりDp+Dth>Lを満足することから、k>Dpまたはk≦Dp+Dth−Lを満足する、k=1、5〜7に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外は論理値0となる。
また、D2c(10進数表示)=4であるため、Dp′=D2c+Dp_D=4+4=8となり、Dp′≧Lであるため、Dp=Dp′−L=8−7=1となる。
【0074】
コンバージョンステップj=2では、ポインタDp=1、Dth=3であり、Dp+Dth=1+3=4となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=2〜4に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
また、D2c(10進数表示)=3であり、Dp′=D2c+Dp_D=3+1=4となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=4となる。
【0075】
以後、同様に、コンバージョンステップj=3では、ポインタDp=4、Dth=1であり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=5に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
また、D2c(10進数表示)=1であり、Dp′=D2c+Dp_D=1+4=5となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=5となる。
【0076】
コンバージョンステップj=4では、ポインタDp=5、Dth=2であり、
Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=6、7に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
また、D2c(10進数表示)=2であり、Dp′≧Lを満足するため、Dp=Dp′−L=7−7=0となる。
【0077】
コンバージョンステップj=5では、ポインタDp=0、Dth=2であり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=1、2に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
また、D2c(10進数表示)=2であり、Dp′=D2c+Dp_D=2+0=2となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=2となる。
【0078】
コンバージョンステップj=6では、ポインタDp=2、Dth=2であり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=3、4に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
また、D2c(10進数表示)=2であり、Dp′=D2c+Dp_D=2+2=4となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=4となる。
【0079】
コンバージョンステップj=7では、ポインタDp=4、Dth=3であり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=5〜7に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
また、D2c(10進数表示)=3であり、Dp′=D2c+Dp_D=3+4=7となり、Dp′≧Lを満足するため、Dp=Dp′−L=7−7=0となる。
【0080】
コンバージョンステップj=8では、ポインタDp=0、Dth=1であり、Dp+Dth=0+1=1となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=1に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外のビットは論理値0となる。
また、D2c(10進数表示)=1であり、Dp′=D2c+Dp_D=1+0=1となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=1となる。
【0081】
以上のコンバージョンステップj=1〜8の処理で、時点T1におけるAIN′信号に対する2回目のAD変換処理が終了する。そして、次に、AIN′信号に応じた量子化器出力MODOが入力されたときには、コンバージョンステップj=1におけるポインタDpは“1”として、上記と同様の手順でコンバージョンステップj=1〜mが繰り返し行われることになる。
【0082】
図4に示すデジタル演算部4では、変換サイクル1で得た量子化器出力MODOに基づく、時点T1におけるAIN′信号のデジタル変換値と、変換サイクル2で得た量子化器出力MODOに基づく、時点T1におけるAIN′信号のデジタル変換値との平均をとり、これを時点T1におけるAIN′信号に対応するデジタル変換値とする。
図11(a)及び
図11(b)に示すように、変換サイクル1と変換サイクル2とでは、コンバージョンステップj=1〜m(=8)において同一の量子化器出力MODOが入力されてはいるが、コンバージョンステップj=1におけるポインタDpの値、つまり、ポインタの初期値が異なる。そのため、各コンバージョンステップにおいて、論理値1に設定されるビットが異なるが、平均化回路出力DWAOの各ビットについてそのビットデータが論理値1であるときの重みWeightをビット毎に加算した合計値(Total)は、変換サイクル1と変換サイクル2とは同じシーケンスで、論理値1又は論理値0が決定されるため、得られる標準偏差σは、変換サイクル1と変換サイクル2とで一致する。しかしながら、変換サイクル2では、コンバージョンステップj=1におけるポインタDpの位置がDp=4であるのに対し、変換サイクル1ではDp=0であって、ポインタDpの初期値が異なるため、変換サイクル1と変換サイクル2とで、平均化回路出力DWAOのビット毎に合計値(Total)の平均値をとり、標準偏差σの平均値を算出すると「0.035」となり、個別の標準偏差(σ=0.089)よりも低減している。
【0083】
つまり、
図4に示すインクリメンタルデルタシグマAD変換器において、素子起因のノイズ特性の改善を目的として同一のアナログ信号を繰り返し入力し、出力されるデジタル信号を平均化する手法が採用することにより、コンバージョンステップ毎に重みが異なり量子化器出力MODOによって重みが異なる場合でも、DWA処理による効果の低減を抑制することができると共に、素子起因のノイズ特性の改善を図ることができる。これは、コンバージョンステップが小さいときに使われる素子がランダム化されるために、インクリメンタルデルタシグマAD変換器に特有のコンバージョンステップごとに重みが異なる影響をランダム化できるためである。
【0084】
以上の効果は変換サイクルの実行回数が増すほど、さらにランダム化することができるため、DWA処理の効果の低減を抑制することができ、素子起因のノイズ同様にノイズ特性を改善することが可能となる。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
この第2実施形態におけるDWA回路15は、
図12に示すように、第1実施形態におけるDWA回路において、さらに、乱数発生器43を備える。そして、ポインタ発生器42は、乱数発生器43で発生された乱数を利用してポインタDpを設定する。
【0085】
図13は、第2実施形態における、ビットシフタ41及びポインタ発生器42の処理手順の一例を示すフローチャートである。ビットシフタ41における処理手順は、第1実施形態におけるビットシフタ41の処理手順と同様であるので同一部には同一符号を付与し、その詳細な説明は省略する。
図13に示すように、ポインタ発生器42には、量子化器出力MODOが入力される。
【0086】
ポインタ発生器42では、まず、量子化器出力MODOを表すサーモメータコードを、2の補数コードに変換し、データ値D2c(10進数表示)として出力する(ステップS111)。次いで、データ値D2cとポインタDpをクロック信号CLKで1クロックだけ遅延させたDp_Dとの和をとることで、新しいポインタの元となる中間値Dp′を算出する(Dp′=D2c+Dp_D)(ステップS112)。
【0087】
この中間値Dp′がDp′≧Lを満足しない場合には(ステップS113)、中間値Dp′がそのままポインタDpになる(Dp=Dp′)(ステップS114)。中間値Dp′がDp′≧Lを満足する場合には、ポインタ値Dp=Dp′−Lとする(ステップS115)。
算出されたポインタDpは、コンバージョンステップjがオーバーサンプリング比mに達しなければ(ステップS116)、現時点におけるポインタDpが、そのままポインタDpとして確定されるが、コンバージョンステップjがオーバーサンプリング比mに達したときには、乱数発生器43からの乱数Drandを入力し、ステップS114又はステップS115で設定したポインタDpに乱数Drandを加算し、この加算した値を、ポインタDpとして確定する(ステップS117)。つまり、一つ前の変換サイクルにおいてコンバージョンステップj=mにおける量子化器出力MODOに基づき設定されたポインタDpに乱数Drandを加算した値が、変換サイクル毎のポインタDpの初期値として設定される。
【0088】
そして、確定したポインタDpをビットシフタ41に出力し、次の量子化器出力MODOに対する処理を行う。
なお、ポインタDpと乱数Drandとの和が、0≦Dp+Drand≦L−1の範囲外となる場合には、例えば、再度乱数を発生させ、0≦Dp+Drand≦L−1を満足する乱数を採用する、或いは、ポインタDpと乱数Drandとの和から所定値を減算する等により、ポインタDpと乱数Drandとの和相当値が0以上L−1以下の値となるように調整する。
【0089】
図14は、
図13に示す処理を行うDWA回路15を備えた、
図4に示す、重みWeightがコンバージョンステップ毎に異なるインクリメンタルデルタシグマAD変換器における、DWA回路15の各種信号の入出力結果の一例を示したものである。
図14(a)は変換サイクル1における入出力結果を表し、
図14(b)は変換サイクル2における入出力結果を表し、変換サイクル1と変換サイクル2とは連続する変換サイクルである。
【0090】
図14は、オーバーサンプリング比mがm=8、量子化レベルLがL=7である場合に、適当な値の量子化器出力MODOが入力された場合を示す。なお、各種信号はこれに限るものではなく、それぞれの値は自由に取りうる。
図14(a)、(b)は、各コンバージョンステップj(j=1〜m)であるときの、L値のサーモメータコードで表される量子化器出力MODO、データ値D2c(10進数表示)、L値のデジタル信号からなる平均化回路出力DWAO、重みWeightを表す。
【0091】
また、
図14(a)、(b)において、各コンバージョンステップにおける平均化回路出力DWAOの各ビットについてそのビットデータが論理値1であるときの重みWeightをビット毎に加算した値を合計値(Total)として表し、そのときのビット毎の重みWeightの標準偏差をσとして表す。
また、
図14(b)の最下段に、変換サイクル1と変換サイクル2における重みWeightの合計値(Total)の平均をとった値を、平均値Total(2th average)として示す。
【0092】
図14(a)、(b)に示すように、
図12に示すブロック図、
図13で説明したフローチャートにしたがって平均化回路出力DWAOが確定する。
図14(a)に示す変換サイクル1でのコンバージョンステップ1〜8までの動作は、第1実施形態における変換サイクル1での動作と同様である。
変換サイクル1におけるコンバージョンステップj=8では、ポインタDp=6であり、Dth=1であるため、Dp+Dth=6+1=7となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=7に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外は論理値0となる。
【0093】
また、D2c(10進数表示)=1、Dp_D=6であることから、Dp′=D2c+Dp_D=1+6=7となり、Dp′≧Lを満足することから、Dp=Dp′−L=7−7=0となる。そして、コンバージョンステップj=m=8であることから、乱数発生器43から乱数Drand例えば“3”が入力され、Dp=Dp+Drand=0+3=3となり、ポインタDpは“3”に確定される。
【0094】
続いて、変換サイクル2での処理が行われ、コンバージョンステップj=1では、ポインタDpは“3”に設定されているため、変換サイクル2におけるポインタの初期値を“3”としてポインタDpを更新する。そして、ポインタDp=3、Dth=4であり、Dp+Dth=3+4=7となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足するk=4〜7に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外は論理値0となる。
【0095】
ポインタ発生器42では、D2c(10進数表示)=4、Dp′=D2c+Dp_D=4+3=7となり、Dp′≧Lを満足するため、Dp=Dp′−L=7−7=0となる。
コンバージョンステップj=2では、Dp=0、Dth=3であり、Dp+Dth=0+3=3となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=1〜3に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外は論理値0となる。
【0096】
また、D2c(10進数表示)=3、Dp′=D2c+Dp_D=3+0=3となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=3となる。
コンバージョンステップj=3〜7では、同様に処理が行われ、平均化回路出力DWAOが確定する。
そして、コンバージョンステップj=8では、Dp=2、Dth=1であり、Dp+Dth=2+1=3となり、Dp+Dth>Lを満足しないことから、Dp<k≦Dp+Dthを満足する、k=3に対応するビットのビットデータが論理値1となり、それ以外は論理値0となる。
【0097】
また、D2c(10進数表示)=1、Dp′=D2c+Dp_D=1+2=3となり、Dp′≧Lを満足しないため、Dp=Dp′=3となるが、j=m=8であることから、乱数発生器43から乱数Drand例えば“x”を入力し、Dp=Dp+Drand=2+xが次の変換サイクルにおけるコンバージョンステップj=1のポインタDpの値、すなわち、次の変換サイクルにおけるポインタの初期値となる。
【0098】
図14(a)及び
図14(b)に示すように、変換サイクル1と変換サイクル2とでは、コンバージョンステップj=1〜mにおいて同一の量子化器出力MODOが入力されてはいるが、ポインタの初期値、つまりコンバージョンステップj=1におけるポインタDpの値が異なるため、各コンバージョンステップにおいて、論理値1に設定されるビットが異なる。平均化回路出力DWAOの各ビットについてそのビットデータが論理値1であるときの重みWeightをビット毎に加算した合計値(Total)は、変換サイクル1と変換サイクル2とは同じシーケンスで、論理値1又は論理値0を決定しているため、標準偏差σは、変換サイクル1と変換サイクル2とで一致する。
【0099】
しかしながら変換サイクル2では、
図14(b)に示すように、コンバージョンステップj=1におけるポインタDpがDp=3であるのに対し、変換サイクル1ではDp=0であって、ポインタDpの初期値が異なるため、変換サイクル1と変換サイクル2とで、平均化回路出力DWAOのビット毎に合計値(Total)の平均値をとり、その標準偏差σを算出すると、変換サイクル1及び変換サイクル2における標準偏差σはそれぞれ「0.080」であるのに対し、重みの合計値(Total)の平均値の標準偏差σは「0.035」であり、個別の標準偏差よりも低減している。
【0100】
さらに、コンバージョンステップj=mでは、ポインタDpを設定する際に、乱数Drandを加算しているため、変換サイクル1のコンバージョンステップj=mにおけるポインタDpを変換サイクル2のポインタの初期値として用いる場合に比較して、変換サイクル2のポインタの初期値となり得る値は、ポインタDpの取り得る値(
図14の場合には0〜6)の中から、より均等に選ばれることになる。
【0101】
そのため、素子起因のノイズ特性の改善を図る手法がとられたことにより、変換サイクル1および変換サイクル2共に、同一のアナログ信号に基づく量子化器出力MODOが入力されるような場合に、変換サイクル毎のポインタの初期値すなわちコンバージョンステップj=1におけるポインタが変換サイクル1及び変換サイクル2で共にDp=0となることを回避することができ、その結果、DWA処理の効果の低減を抑制することができる。また、変換サイクルの実行回数が増すほど、DWA処理の効果の低減を抑制することができるため、素子起因のノイズ同様にノイズ特性を改善することが可能となる。
【0102】
さらに、各変換サイクルのコンバージョンステップj=1のときのポインタDpの値(ポインタの初期値)が均等に出現した場合、合計値(Total)の平均値の標準偏差σを、σ=0まで抑制することが可能である。
なお、上記実施形態においては、
図10や
図13に示す処理を行う本実施形態におけるWDA回路15を、量子化器出力MODOが最終出力結果に及ぼす寄与度、すなわち、重みWeightがコンバージョンステップ毎に異なるAD変換器として、
図1に示すインクリメンタルデルタシグマAD変換器に適用した場合について説明したがこれに限るものではなく、重みWeightがコンバージョンステップ毎に異なるAD変換器であれば適用することができる。
【0103】
また、上記実施形態においては、量子化器出力MODOにおいて“1”の位置を、1番目のビットからL番目のビットの方向にずらす場合について説明したが、L番目のビットから1番目のビット方向にずらすようにしてもよい。
また、上記実施形態では、一つ前の変換サイクルにおいて更新されたポインタDp、又はこのポインタDpに乱数を加算した値に基づき、次の変換サイクルにおけるポインタDpの初期値を設定することで、変換サイクル毎に、ポインタの初期値が異なる値となるようにした場合について説明したが、変換サイクル毎に乱数を発生させ、この乱数そのものに基づき、変換サイクルにおけるポインタDpの初期値を設定するようにしてもよい。
【0104】
また、乱数に基づいて変換サイクル毎におけるポインタDpの初期値を設定する場合に限らず、規則的に変化する値に基づいて変換サイクルにおけるポインタDpの初期値を設定してもよい。即ち、ポインタDpに変換サイクル毎に規則的に変化する値を加算し、その値に基づいて次の変換サイクルにおけるポインタDpの初期値を設定してもよい。また、規則的に変化する値を出力する規則数値出力部を設け、この規則数値出力部により、変換サイクル毎に規則的に変化する値を発生させ、この乱数そのものに基づき、変換サイクルにおけるポインタDpの初期値を設定するようにしてもよい。
また、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【符号の説明】
【0105】
1 サンプルホールド(SH)回路
2 リセット信号発生器
3 デルタシグマ変調器
4 デジタル演算部
11 加算器
12 アナログ積分器
13 量子化器
14 DAコンバータ(DAC)
15 DWA(データ加重平均化)回路
41 ビットシフタ
42 ポインタ発生器
43 乱数発生器