(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本出願人の発明者等は、上記した課題を解決すべく、様々な実験や観察を行った。本出願人の発明者は、連続的に射出成形を行う際中、本来非晶性樹脂のペレットが溶融することなく固体状態を維持すべき射出シリンダの原料供給ゾーンにおいて、ペレットの少なくとも一部が溶融してメインスクリューに貼り付いてしまうため、可塑化が不安定になることに気づいた。そこで、本出願人の発明者は、様々な条件を鋭意検討することで、本出願にかかる発明を想到するに至った。
【0013】
実施の形態1.
図1〜
図3を参照して実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法について説明する。
図1及び
図2は、実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法を示す模式図である。
図3は、実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法で用いた射出成形機の要部を示す模式図である。
【0014】
(射出成形機)
実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法は、例えば、
図1及び
図2に示す射出成形機10を用いて行うことができる。射出成形機10は、射出シリンダ1と、供給シリンダ2と、ホッパ3とを含む。
【0015】
射出シリンダ1は、筒部1a〜1dと、ノズル1fとを有する。筒部1a〜1d、ノズル1fは、この順に、射出シリンダ1の根元側から先端に向かって、並ぶ。ノズル1fは、射出シリンダ1の先端に配置されている。筒部1b、1c、1dは、第1の領域HZ1、第2の領域HZ2、第3の領域HZ3にそれぞれ対応する。筒部1a〜1dの内径は、スクリュー口径Dsである。スクリュー口径Dsは、70mm以上であり、例えば、130mmである。
【0016】
射出シリンダ1には、ヒータ装置4と、冷却装置5と、メインスクリュー6とが設けられている。
【0017】
ヒータ装置4は、射出シリンダ1の外周面に配置されており、射出シリンダ1を加熱する。ヒータ装置4は、例えば、複数のバンドヒータであり、このようなバンドヒータは、射出シリンダ1の外周面に沿う円筒状体である。ヒータ装置4は、ヒータ4b、4c、4dを有し、ヒータ4b、4c、4dは、それぞれ筒部1b、1c、1dの外周面に射出シリンダ1の軸方向に並んで配置されており、第1の領域HZ1、第2の領域HZ2、第3の領域HZ3にそれぞれ対応する。
【0018】
冷却装置5は、射出シリンダ1の外周面に配置されており、射出シリンダ1を冷却する。
図3に示すように、冷却装置5は、冷却ファンユニット5b、5c、5dを有し、冷却ファンユニット5b、5c、5dは、それぞれ筒部1b、1c、1dの外周面に配置されており、第1の領域HZ1、第2の領域HZ2、第3の領域HZ3にそれぞれ対応する。冷却装置5とヒータ装置4とは、所定の制御部に接続されて、加熱動作及び冷却動作をそれぞれ制御されてよい。
【0019】
メインスクリュー6は、射出シリンダ1の内側に配置されている。メインスクリュー6は、回転可能に支持されており、モータ(図示略)から駆動力を伝達されて、回転駆動する。
図1及び
図2に示すように、メインスクリュー6は、射出シリンダ1の内側を前進後退可能に支持されており、前進限から後退限まで移動可能である。メインスクリュー6は、軸部6aと、軸部6aの外周面に設けられた羽6bと、を備える。羽6bは、軸部6aを中心として螺旋状に延びる板状体である。射出シリンダ1の内径は、メインスクリュー6のスクリュー口径Dsと略同じである。メインスクリュー6は、計量中の樹脂についての工程、又は、樹脂の状態に応じて、その根元側から先端に向かって並んだ複数の領域を有する。メインスクリュー6は、具体的には、原料供給ゾーンSZ1と、圧縮ゾーンSZ2と、計量ゾーンSZ3(図示略)と、その根元側から先端に向かってこの順を有する。スクリュー溝深さDgは、各ゾーンで変化する。例えば、原料供給ゾーンSZ1では10mm以上と一定であり、圧縮ゾーンSZ2において徐々に減少し、計量ゾーンSZ3では、圧縮比に応じた深さとなり、一定となる。軸部6aの径は、メインスクリュー6の根元から原料供給ゾーンSZ1までは一定であり、圧縮ゾーンSZ2において計量ゾーンSZ3側に向うにつれて徐々に増大し、計量ゾーンSZ3では、一定のとなる。羽6bの外径は一定である。ワンショット当たりにおける溶融樹脂を金型へ供給する量は、スクリューが回転し樹脂を溶融すると共に、スクリューが後退する事によってスクリュー前方に供給される溶融樹脂の量である。なお、第1の領域HZ1、第2の領域HZ2、及び、第3の領域HZ3は、メインスクリュー6の原料供給ゾーンSZ1、圧縮ゾーンSZ2、及び、計量ゾーンSZ3にそれぞれ対応する。しかし、メインスクリュー6が前進する、又は、後退することで、射出シリンダ1に対して相対的に移動することになるため、メインスクリュー6の射出シリンダ1に対する相対的な位置によっては、各ゾーンの対応が異なることがある。具体的には、メインスクリュー6が前進限にあるときは、メインスクリュー6の原料供給ゾーンSZ1、圧縮ゾーンSZ2、及び、計量ゾーンSZ3は、第1の領域HZ1、第2の領域HZ2、及び、第3の領域HZ3にそれぞれ、射出シリンダ1の軸上において殆ど同じ位置にあるとよい。メインスクリュー6が前進限から所定距離だけ後退すると、圧縮ゾーンSZ2、及び、計量ゾーンSZ3は、第1の領域HZ1、及び、第2の領域HZ2にそれぞれ、射出シリンダ1の軸上において殆ど同じ位置にある。
【0020】
供給シリンダ2は、射出シリンダ1の上方に任意に配置されており、供給管12を介して射出シリンダ1に接続される。供給シリンダ2は、その内側にフィードスクリュー7を備える。フィードスクリュー7は、回転可能に支持されており、モータ(図示略)から駆動力を伝達されて、回転駆動する。フィードスクリュー7は、軸部7aと、軸部7aの外周面に設けられた羽7bと、を備える。羽7bは、軸部7aを中心として螺旋状に延びる板状体である。
【0021】
ホッパ3は、供給シリンダ2の上部開口部に接続される。ホッパ3は、供給シリンダ2の上方に向かうにつれて、その断面積が大きくなる筒状体である。ホッパ3は、射出シリンダ1の上部開口部に直接接続されても良い。
【0022】
(射出成形機の要部)
次に、ヒータ装置4及び冷却装置5の詳細を説明する。
図3に示すように、ヒータ4bは、ヒータ要素41bとヒータ要素42bとを含み、ヒータ要素41bとヒータ要素42bとは、射出シリンダ1の筒部1a側からノズル1f側に向かう方向にこの順に、筒部1bの外周面に設置されている。ヒータ要素41bとヒータ要素42bとは、互い異なる温度を維持するように、温度制御される。ヒータ要素41bとヒータ要素42bは、予備加熱温度T1bと予備加熱温度T2bとにそれぞれ制御される。予備加熱温度T1b、T2bは、非晶性樹脂P1の熱変形温度Td−10[℃]以上、熱変形温度Td+90[℃]以下、又は、非晶性樹脂P1の流動開始温度以下の範囲である。予備加熱温度T2bは、予備加熱温度T1bよりも高い。例えば、予備加熱温度T1bは、熱変形温度Td以下であり、予備加熱温度T2bは、熱変形温度Td以上である。例えば、非晶性樹脂P1がアクリル樹脂からなる場合、予備加熱温度T1b、T2bは、130〜160〔℃〕である。
【0023】
冷却ファンユニット5bは、冷却ファン51b、52bを有し、冷却ファン51b、52bは、それぞれ、ヒータ要素41bとヒータ要素42bとに対応して設置される。
【0024】
ヒータ4cは、ヒータ要素41cとヒータ要素42cとヒータ要素43cとを含み、ヒータ要素41cとヒータ要素42cとヒータ要素43cとは、射出シリンダ1の筒部1a側からノズル1f側に向かう方向にこの順に並んで、射出シリンダ1の外周面に設置されている。ヒータ要素41cとヒータ要素42cとヒータ要素43cとは、互いに異なる温度を維持するように、温度制御される。ヒータ要素41cとヒータ要素42cとヒータ要素43cとは、それぞれ、圧縮温度T1cと圧縮温度T2cと圧縮温度T3cとに制御される。圧縮温度T1c、T2c、T3cは、非晶性樹脂P1の流動開始温度(ts要確認)以上、非晶性樹脂P1の成形温度Tf以下の範囲である。圧縮温度T3cは圧縮温度T2cよりも高く、圧縮温度T2cは圧縮温度T1cよりも高い。なお、成形温度Tfは、射出成形において、樹脂を金型(図示略)に射出するのに好ましい温度であり、樹脂や射出成形品のサイズに応じて決めてもよい。圧縮温度T1c、T2c、T3cは、例えば、非晶性樹脂P1がアクリル樹脂からなる場合、250〔℃〕である。
【0025】
冷却ファンユニット5cは、冷却ファン51c、52c、53cを有し、冷却ファン51c、52c、53cは、それぞれ、ヒータ要素41cとヒータ要素42cとヒータ要素43cとに対応して設置される。
【0026】
ヒータ4dは、ヒータ要素41dとヒータ要素42dとヒータ要素43dとヒータ要素44dを含み、ヒータ要素41dとヒータ要素42dとヒータ要素43dとヒータ要素44dとは、射出シリンダ1の筒部1a側からノズル1f側に向かう方向にこの順に並んで、射出シリンダ1の外周面に設置されている。ヒータ要素41dとヒータ要素42dとヒータ要素43dとヒータ要素44dとは、互いに異なる温度を維持するように、温度制御される。ヒータ要素41dとヒータ要素42dとヒータ要素43dとヒータ要素44dは、それぞれ計量温度T1dと、計量温度T2dと、計量温度T3dと、成形温度Tfとに制御される。計量温度T1d、T2d、T3dは、非晶性樹脂P1の成形温度Tfを中心とした所定の範囲である。計量温度T3dは計量温度T2dよりも高く、計量温度T2dは計量温度T1dよりも高い。計量温度T1d、T2d、T3dは、例えば、非晶性樹脂P1がアクリル樹脂からなる場合、280〔℃〕である。
【0027】
冷却ファンユニット5dは、冷却ファン51d、52d、53d、54dを有し、冷却ファン51d、52d、53d、54dは、それぞれ、ヒータ要素41dとヒータ要素42dとヒータ要素43dとヒータ要素44dとに対応して設置される。冷却ファン51d、52d、53d、54dは、ヒータ要素41d、42d、43d、44dによる射出シリンダの温度制御をより確実にするように、補助的に動作する。
【0028】
(製造方法)
次に、射出成形機10を用いた場合の、実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法について説明する。
【0029】
まず、非晶性樹脂P1のペレットを所定の温度範囲Tpとなるように冷却する(冷却工程S1)。具体的には、乾燥した前記ペレットを密封し、上記した温度範囲の環境、例えば、冷蔵庫の冷蔵室に置いて、温度範囲Tpに入るように冷却する。温度範囲Tpは、0℃以上室温以下の範囲内にあればよく、好ましくは4℃以上10℃以下の範囲内にある。ここでの室温は、例えば、15℃以上27℃以下の範囲内にある。また、温度範囲Tpが0℃を下回ると、ペレットが十分に溶融しなくなり、未溶融のペレットが多くなる。その結果、溶融樹脂P6の供給量が不足しやすい。また、温度範囲Tpが室温を超えると、ペレットの可塑化が不安定化する。
【0030】
非晶性樹脂P1は、射出成形を用いて成形することのできる樹脂である。このような樹脂として、例えば、アクリル樹脂などの非結晶性樹脂が挙げられる。非晶性樹脂のペレットは複数の粒子からなり、ペレットの平均粒径Dp(d50)は、例えば、2.0〜4.0mmであり、好ましくは2.5〜3.5mmである。また、ペレットの平均粒長は、例えば、2.7〜3.3mmである。平均粒長は、例えば、ペレットのうち、粒子の最大長を平均化することで、求めることができる。
【0031】
続いて、前記ペレットをホッパ3に装入する(ペレット装入工程S2)。ペレットの装入量は、射出成形品の体積等に応じて、決定してもよい。
【0032】
続いて、フィードスクリュー7を回転駆動させることにより、前記ペレットを供給管12へ移動させて、射出シリンダ1の筒部1aに供給する(ペレット供給工程S3)。
フィードスクリュー7の回転数を変更することで、ペレットの射出シリンダ1への供給速度を変更する。
供給管12を通過したペレットが、メインスクリュー6と接触する。メインスクリュー6は、前進限又はその近傍に位置している。ペレットは、冷却工程S1を経て低い温度範囲にあるため、ペレットは、固体状態を維持し、つまり、粒子形状を維持したまま射出シリンダ1の筒部1aを筒部1b側に向かって移動を開始する。つまり、ペレットは、溶融してブロック状になることなく、メインスクリュー6に貼り付かないのである。原料供給ゾーンSZ1よりもメインスクリュー6の根元側では、ペレットが射出シリンダ1に供給されて、メインスクリュー6の回転駆動によって、原料供給ゾーンSZ1へ移動する。
【0033】
続いて、原料供給ゾーンSZ1では、メインスクリュー6を回転させつつ前記ペレットを加熱することによって、ペレットを可塑化させる(予備加熱工程S4)。具体的には、ペレットが筒部1c、すなわち、圧縮ゾーンSZ2に近づくにつれて可塑化し、可塑化ペレットP3が形成されていく。ここで、ヒータ4bは、非晶性樹脂P1の温度が熱変形温度Td以上、流動開始温度以下の範囲、例えば、温度130〜160℃となるように設定される。
【0034】
続いて、圧縮ゾーンSZ2では、引き続いて可塑化ペレットP3を加熱しつつメインスクリュー6を回転させることによって、可塑化ペレットP3を圧縮する(圧縮工程S5)。可塑化ペレットP3が圧縮されて、圧縮ペレットP4が形成される。圧縮ペレットP4の少なくとも一部は溶融する。圧縮ペレットP4は、メインスクリュー6の回転によって、計量ゾーンSZ3へ向かう。ここで、ヒータ4cは、非晶性樹脂P1の流動開始温度よりも高い温度、例えば、温度250℃となるように設定される。
【0035】
続いて、計量ゾーンSZ3では、引き続いてメインスクリュー6を回転させつつ、前記圧縮ペレットP4を加熱することによって、混練する(混練工程S6)。圧縮ペレットP4が混練されて、混練ペレットP5が形成される。混練ペレットP5は、メインスクリュー6の回転によって、溶融樹脂P6へ向かう。ここで、ヒータ4dは、ヒータ4cの温度以上、成形温度Tf以下の範囲、例えば、温度280℃となるように設定される。
続いて、溶融樹脂P6がワンショットに相当する量になるまで、計量する(計量工程S7)。具体的には、予備加熱工程S4〜混練工程S6を所定の時間、連続的に実施する、言い換えると、同時並行して実施する。これによって、溶融樹脂P6が徐々に増大し、メインスクリュー6は、溶融樹脂P6から反力を受けて、後退する。メインスクリュー6は、溶融樹脂P6が、ワンショット相当量になるまで、後退する。
【0036】
最後に、メインスクリュー6を前進させて、ノズル1fから金型(図示略)の射出口へ溶融樹脂P6を射出する(射出工程S8)。射出された溶融樹脂P6は金型に充填されて、固まることによって、射出成形品(図示略)が製造される。
【0037】
以上、実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法によれば、非晶性樹脂のペレットを原料供給ゾーンにおいて溶融させることを抑制し、安定して可塑化させることができる。これによって、計量ゾーンSZ3における飢餓の発生を抑制したり、計量時間、射出時間、充填時間、及び、ピーク圧を安定させたりすることができる。さらに、シルバーストリーク、ボイド、ヤケなどの成形欠陥の発生を抑制する。
【0038】
また、ヒータ装置4が射出シリンダの温度を制御することによって、非晶性樹脂のペレットが原料供給ゾーンにおいて溶融することをさらに抑制し、より安定して可塑化させることができる。
【0039】
このような射出成形品の製造方法を用いると、射出成形品の体積に対する表面積の比が大きい形状、例えば、大型の薄肉板状成形品を製造することができる。このような大型の薄肉板状成形品の例として、太陽光集光フレネルレンズが挙げられる。
【0040】
(関連する技術)
ところで、
図5に示すように、平均粒径Dp(d50)3mmの非晶性樹脂のペレットを原料とし、スクリュー口径Ds0、及び、スクリュー溝深さDg0のメインスクリューを有する射出成形機によって、特許文献1に記載される製造方法を用いて射出成形品を行うことがある。
図5は、関連する射出成形品の製造方法の一工程を示す工程を示す模式図である。スクリュー口径Ds0は70mm未満であり、スクリュー溝深さDg0は10mm未満である。非晶性樹脂P1が、原料供給ゾーンSZ1よりもメインスクリュー6の根元側において、溶融することなく、固体状態を維持したまま、原料供給ゾーンSZ1へ移動する。原料供給ゾーンSZ1に移動した非晶性樹脂P1のペレットの少なくとも一部が溶融し、溶融樹脂M1を形成する。したがって、原料供給ゾーンSZ1よりもメインスクリュー6の根元側において、非晶性樹脂P1のペレットを安定的に可塑化させる。
【0041】
一方、
図6に示すように、平均粒径Dp(d50)3mmの非晶性樹脂のペレットを原料とし、スクリュー口径Ds1、及び、スクリュー溝深さDg1のメインスクリューを有する射出成形機によって、特許文献1に記載される製造方法を用いて射出成形品を行うことがある。
図6は、実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法の一工程を示す模式図である。スクリュー口径Ds1は70mmであり、スクリュー溝深さDg1は10mmである。このような場合、非晶性樹脂P1のペレットは、熱変形温度Tdよりも若干低い温度、例えば、Td―20〜Td―10℃である。連続的に射出成形を行う際中、本来前記ペレットが溶融することなく固体状態を維持すべき射出シリンダ1の原料供給ゾーンSZ1よりもメインスクリュー6の根元側において、非晶性樹脂P1のペレットの少なくとも一部が溶融して、溶融樹脂M1を形成する。溶融樹脂M1がメインスクリュー6に巻き付いてしまい体積が小さくなるため、前記ペレットの可塑化が不安定になることがあった。
【0042】
一因として、
図6に示すように、スクリュー口径Dsがペレット平均粒径Dp(d50)に対して大きくなり、メインスクリュー6と前記非晶性樹脂P1のペレットとの熱容量の差が大きくなるため、非晶性樹脂P1のペレットがメインスクリュー6から熱を与えられて溶け易くなることが挙げられる。
【0043】
また、スクリュー溝深さDgが大きいと、混練ペレットP5、溶融樹脂P6等の量が大きくなる。そのため、メインスクリュー6のノズル側部分が加熱されて、その熱がメインスクリュー6のホッパ側部分へ伝導する。これによって、前記非晶性樹脂P1のペレットがメインスクリュー6から熱を多く与えられて溶け易くなることが考えられる。
【0044】
さらに、別の一因として、
図7に示すように、羽6bの長さがペレット平均粒径Dp(d50)に対して長くなり、原料供給ゾーンSZ1よりもメインスクリュー6の根元側における射出シリンダ1内の空隙が大きくなることが挙げられる。
図7は、実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法の一工程を示す模式図である。これによって、原料供給ゾーンSZ1よりもメインスクリュー6の根元側における射出シリンダ1内空間に占める非晶性樹脂P1のペレットの体積が相対的に小さくなるため、個々のペレットが熱を多く与えられて溶け易くなることが考えられる。なお、射出シリンダ1内空間とは、射出シリンダ1の内周面とメインスクリュー6の対向する羽6b同士と軸部6aとに囲まれる空間である。
【0045】
さらに、別の一因として、羽6bの長さがペレット平均粒径Dp(d50)に対して長くなり、メインスクリュー6の回転によってせん断発熱が大量に生じる。これによって個々の前記非晶性樹脂P1のペレットが熱を多く与えられて溶け易くなることが考えられる。
【0046】
一方、平均粒径3mmの非晶性樹脂のペレットを原料とし、スクリュー口径Ds1、及び、スクリュー溝深さDg1のメインスクリューを有する射出成形機によって、上記した実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法を用いて射出成形を行うと、0℃以上室温以下の範囲内となるように冷却された前記ペレットを供給するため、前記ペレットの温度を調整して、この供給されたペレットを安定して可塑化させることができる。
【0047】
ところで、
図9に示す射出シリンダ91がある。射出シリンダ91は、ヒータ94b、94c、94dと、冷却ファン95b、95c、95dと、を有する。ヒータ94b、94c、94dは、第1の領域HZ1、第2の領域HZ2、第3の領域HZ3にそれぞれ対応し、冷却ファン95b、95c、95dは、第1の領域HZ1、第2の領域HZ2、第3の領域HZ3にそれぞれ対応する。
図9は、関連する射出成形機の要部を示す模式図である。射出シリンダ91では、各部位が射出シリンダ1(
図3参照)と比較して、細かく温度制御されておらず、可塑化が安定し難いことがあった。
【0048】
したがって、射出シリンダ1を備える射出成形機(不図示)は、射出シリンダ91を備える射出成形機(不図示)と比較して、樹脂を安定して可塑化し得る。
【0049】
(実験1)
次に、
図4及び
図10を用いて、実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法を用いた実験について説明する。
図4は、実施例におけるスクリューの状態を示す写真である。
図10は、比較例におけるスクリューの状態を示す写真である。
図4及び
図10は、実験終了後にスクリューを後退させ、供給ゾーンSZ1の先端部分をフィード部から観察したものである。
【0050】
実験例1では、射出成形機10と同じ構成を有する射出成形機を用いて、上記した実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法の冷却工程S1〜ペレット供給工程S3を行なった。また、この射出成形機では、型締め力は3400t、メインスクリューの口径は130mmである。溶融樹脂の重量は、6kgであった。
【0051】
なお、比較例1では、冷却工程S1を除いて、実験例1で用いた射出成形機を用いて、上記した実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法のペレット装入工程S2及びペレット供給工程S3を行なった。冷却工程S1に相当する工程では、非晶性樹脂P1の熱変形温度Tdよりも若干低い温度、例えば、Td―20〜Td―10℃、アクリル樹脂である場合、熱変形Tdが90〜100℃であるため、70〜90℃である。
【0052】
図4に示すように、実験例1では、非晶性樹脂P1のペレットが溶融することなく、粒子のまま射出シリンダ内を移動し、安定して可塑化した。
【0053】
図10に示すように、比較例1では、非晶性樹脂P1のペレットが溶融してしまい、メインスクリュー6の羽6bに付着し、射出シリンダ1内を円滑に移動できなかった。したがって、前記ペレットを原料供給ゾーンSZ1(
図1参照)(筒部1b(
図1参照))に良好に供給できなかった。
【0054】
(実験2)
次に、実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法を用いた実験について説明する。
【0055】
実験例2では、射出成形機10と同じ構成を有する射出成形機を用いて、上記した実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法によって、射出成形を行った。実施の形態1にかかる射出成形品の製造方法における冷却工程S1〜射出工程S8を1ショット(ワンショットとも称する)とし、これを連続的に繰り返した。冷却工程S1では、非晶性樹脂のペレットの温度は15℃とした。1ショットにおける計量時間を計測した。この射出成形機では、型締め力は3400t、メインスクリューの口径は130mmである。溶融樹脂の重量は、6kgであった。冷却工程S1〜射出工程S8を1ショットとし、これを連続的に繰り返した。
【0056】
なお、比較例2では、冷却工程S1に相当する工程において、非晶性樹脂のペレットの温度を40℃としたところを除き、実験例2と同様に射出成形を行ない、1ショットにおける計量時間を計測した。
【0057】
実験例2と比較例2とにおいて、計測した計量時間を
図8に示した。また、その統計値を下記の表1に示した。
図8は、ショット回数に対する計量時間を示すグラフである。
【表1】
【0058】
図8及び表1に示すように、実験例2は、比較例2と比較して、平均値AVe、計量時間の範囲R、標準偏差σ、及び、3σが小さい。したがって、実験例2は、比較例2と比較して、短時間で計量を行うことができ、実施例2の計量時間のバラツキは、比較例2と比較して小さい。これは、実験例2での冷却工程S1における非晶性樹脂のペレットの温度が、比較例2のそれと比較して低いことから、原料供給ゾーンSZ1(
図1参照)での前記ペレットが溶融されずに、安定的に可塑化させるためと考えられる。
【0059】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。