(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基材粒子を準備する工程において、前記基材粒子として、前記a%が0.1%以上30%以下のものを準備することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
前記被覆粒子の質量に対する、該被覆粒子に含有される炭素の質量の割合を、0.5質量%以上40質量%以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
前記炭素被膜の形成を行う工程を、前記基材粒子に対して、熱分解して炭素を生成し得る有機物ガス雰囲気中で600〜1200℃の温度範囲で炭素を化学蒸着することにより行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
前記熱分解して炭素を生成し得る有機物ガスの原料として、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油及びナフサ分解タール油の中から選択される1種以上を用いることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来の負極材にはまだ問題があった。特に、特許文献4では、酸化珪素をリチウムイオン二次電池用負極材として用い、高容量の電極を得ているが、本発明者らが知る限りにおいては、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったり等の問題があり、改良する余地がある。
【0008】
また、負極材に導電性を付与した技術についても、特許文献6では固体と固体の融着であるため均一な炭素被膜が形成されず、導電性が不十分であるといった問題がある。特許文献8の方法においては、サイクル性の向上は確認されるものの、微細な珪素結晶の析出、炭素被覆の構造及び基材との融合が不十分であることより、充放電のサイクル数を重ねると徐々に容量が低下し、一定回数後に急激に低下するという現象があり、二次電池用としてはまだ不十分であるといった問題があった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池負極用負極材、及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような負極材を用いた負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、珪素原子を含む材料から成り、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な基材粒子を準備する工程と、前記基材粒子の表面に炭素被膜を形成して被覆粒子とする工程とを備えるリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法において、前記炭素被膜が形成されていない状態で前記基材粒子に対してレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における粒径1μm以下の粒子の割合をa%とし、前記被覆粒子に対してレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における粒径1μm以下の粒子の割合をb%としたときに、a/b≧3となるように、前記炭素被膜を形成する工程を行うことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供する。
【0011】
このように、a/b≧3になるようにして炭素被膜の形成を行う負極材の製造方法であれば、炭素被膜による被覆を行う前に存在していた粒径1μm以下の粒子(すなわち、比較的粒径の小さい微粉)が、被覆によって炭素で凝集した2次粒子を形成する。負極材により負極を作製した際にこの2次粒子が大粒子の間隙を埋めて負極の電気抵抗の低減に寄与する。これによって充放電サイクルを繰り返したときの容量維持率の向上につながる。
【0012】
この場合、前記基材粒子を準備する工程において、前記基材粒子として、前記a%が0.1%以上30%以下のものを準備することが好ましい。
【0013】
このように、基材粒子を、体積基準分布における粒径1μm以下の粒子の割合が0.1%以上30%以下のものとすることにより、2次粒子を形成しやすくなる。
【0014】
また、前記基材粒子を準備する工程において、前記基材粒子として、珪素粒子、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粒子、又はこれらの混合物であるものを準備することができる。
【0015】
本発明の負極材の製造方法は、上記のいずれの基材粒子にも適用することができる。
【0016】
また、前記被覆粒子の質量に対する、該被覆粒子に含有される炭素の質量の割合を、0.5質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。
【0017】
このような炭素被覆量とすることにより、負極材に十分な導電性を付与し、かつ充放電容量を高くすることができる。
【0018】
また、前記基材粒子を準備する工程において、前記基材粒子として、前記基材粒子のレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における累積50%径(D
50)が、0.1μm以上30μm以下であるものを準備することが好ましい。
【0019】
このような累積50%径を有する基材粒子を用いることにより、負極作製のために負極材を塗布した際にセパレーターを傷付けることなく、また電極の導電性を良好なものとすることができる。
【0020】
また、前記炭素被膜の形成を行う工程を、前記被覆粒子のレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における累積50%径(D
50)が、1μm以上30μm以下となるように行うことが好ましい。
【0021】
被覆粒子の累積50%径をこのような値とすることにより、負極作製のために負極材を塗布した際にセパレーターを傷付けることなく、また電極の導電性を良好なものとすることができる。
【0022】
また、前記炭素被膜の形成を行う工程を、前記基材粒子に対して、熱分解して炭素を生成し得る有機物ガス雰囲気中で600〜1200℃の温度範囲で炭素を化学蒸着することにより行うことが好ましい。
【0023】
このような条件で炭素被覆を行うことにより、良好な炭素被膜の形成を行うことができ、負極材に適切な導電性を付与することができる。
【0024】
また、前記熱分解して炭素を生成し得る有機物ガスの原料として、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油及びナフサ分解タール油の中から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0025】
有機物ガスの原料としてはこれらを好適に用いることができる。
【0026】
また、本発明は、上記のいずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により製造されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材を提供する。
【0027】
また、本発明は、珪素原子を含む材料から成り、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な基材粒子と、該基材粒子の表面に形成された炭素被膜とから成る被覆粒子であるリチウムイオン二次電池用負極材であって、前記炭素被膜が形成されていない状態で前記基材粒子に対してレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における粒径1μm以下の粒子の割合をa%とし、前記被覆粒子に対してレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における粒径1μm以下の粒子の割合をb%としたときに、a/b≧3となるものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材を提供する。
【0028】
本発明の負極材においては、炭素被膜による被覆を行う前に存在していた粒径1μm以下の微粉が被覆によって炭素で凝集した2次粒子を形成する。負極材により負極を作製した際にこの2次粒子が大粒子の間隙を埋めて負極の電気抵抗の低減に寄与する。これによって充放電サイクルを繰り返したときの容量維持率の向上につながる。
【0029】
また、本発明は、上記のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極を提供する。
【0030】
また、本発明は、上記のリチウムイオン二次電池用負極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
【0031】
本発明の負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極においては、負極材に含まれる上記の2次粒子の存在が負極の電気抵抗の低減に寄与する。これは、その負極を用いたリチウムイオン二次電池の充放電サイクルを繰り返したときの容量維持率の向上につながる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材においては、炭素被膜による被覆を行う前に存在していた粒径1μm以下の微粉が、被覆によって炭素で凝集した2次粒子を形成する。負極材により負極を作製した際にこの2次粒子が大粒子の間隙を埋めて負極の電気抵抗の低減に寄与する。これによって充放電サイクルを繰り返したときの容量維持率の向上につながる。また、珪素原子を含む材料を基材粒子として用いるので、本発明の負極材は、高容量なものとすることができる。また、その製造方法は特別複雑なものではなく簡便であり、工業的規模の生産にも十分耐え得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
[リチウムイオン二次電池用負極材]
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、珪素原子を含む材料から成り、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な基材粒子と、該基材粒子の表面に形成された炭素被膜とから成る被覆粒子である。また、本発明の負極材は、炭素被膜の形成前後の粒子が以下の条件を満たすものである。炭素被膜が形成されていない状態で基材粒子に対してレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における粒径1μm以下の粒子の割合をa%とする。また、被覆粒子に対してレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における粒径1μm以下の粒子の割合をb%とする。このとき、本発明の負極材はa/b≧3の関係を満たすものである。
【0036】
本発明者らは、基材粒子及び被覆粒子のそれぞれの粒径の分布を特定の範囲にすること、すなわち上記のa/bが3以上となる粒子を、リチウムイオン二次電池用負極材(活物質)として用いることで、高容量で且つサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0037】
上記のように、本発明における粒子の粒度分布の規定は、レーザー回折法を用いた粒度分布測定(レーザー回折式粒度分布測定とも称する)に基づく。レーザー回折法粒度分布測定装置としては、例えば、島津製作所製のSALD−3100を用いることができる。特定の粒子(粒子群、粉体)についてレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布を、以下では単に「体積基準分布」とも称する。なお、「粒径1μm以下の粒子の割合」は、一般に「累積1μm」とも称されることがある。
【0038】
[リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、以下の工程を経ることにより製造することができる。まず、珪素原子を含む材料から成り、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な基材粒子を準備する(工程A)。次に、基材粒子の表面に炭素被膜を形成して被覆粒子とする(工程B)。このとき、上記のaとbとが、a/b≧3となるように、基材粒子の炭素被膜を形成する。この製造方法は特別複雑なものではなく簡便であり、工業的規模の生産にも十分耐え得るものである。
【0039】
[基材粒子]
本発明では、上記のように、珪素原子を含む材料から成り、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な粒子(基材粒子)に炭素被覆を行う。本発明で用いる基材粒子(すなわち、工程Aで準備する基材粒子)は、珪素粒子、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粒子、又はこれらの混合物が好ましい。本発明の負極材の製造方法は、上記のいずれの基材粒子にも適用することができる。基材粒子として上記のいずれかを使用することで、より初回充放電効率が高く、高容量でかつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材が得られる。
【0040】
本発明における酸化珪素とは、非晶質の珪素酸化物の総称であり、不均化前の酸化珪素は、一般式SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表される。xは0.8≦x<1.3が好ましく、0.8≦x<1.0がより好ましい。この酸化珪素は、例えば、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得ることができる。
【0041】
珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子は、例えば、珪素の微粒子を珪素系化合物と混合したものを焼成する方法や、一般式SiO
xで表される不均化前の酸化珪素粒子を、アルゴン等不活性な非酸化性雰囲気中、400℃以上、好適には800〜1,100℃の温度で熱処理し、不均化反応を行うことで得ることができる。特に後者の方法で得た材料は、珪素の微結晶が均一に分散されるため好適である。上記のような不均化反応により、珪素ナノ粒子のサイズを1〜100nmとすることができる。なお、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子中の酸化珪素については、二酸化珪素であることが望ましい。なお、透過電子顕微鏡によってシリコンのナノ粒子(結晶)が無定形の酸化珪素に分散していることを確認することができる。
【0042】
基材粒子としては、酸化珪素系の材料がリチウムの吸蔵及び放出時の体積膨張率が低く、特に好ましい。基材粒子自体の体積膨張率が低いと、サイクル性が特に良好となる。
【0043】
本発明で用いる基材粒子の物性は、目的とする被覆粒子(複合粒子)によって、適宜選定することができる。例えばレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における累積50%径(D
50、体積平均粒径とも称される。)が、0.1μm以上30μm以下であるものを好適に用いることができる。この範囲の下限は0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。上限は20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。累積50%径(D
50)が0.1μm以上であれば、後述するBET比表面積を十分に小さいものとすることができ、BET比表面積が大きすぎることによる悪影響を及ぼさない。また、累積50%径(D
50)が30μm以下であれば、負極を作製する際の負極材の塗布等をしやすくなる。
【0044】
本発明で用いる基材粒子のBET比表面積は、0.5m
2/g以上100m
2/g以下が好ましく、1m
2/g以上20m
2/g以下がより好ましい。BET比表面積が0.5m
2/g以上であれば、負極を作製するために負極材を塗布した際の接着性を十分なものとすることができ、電池特性を向上させることができる。また、BET比表面積が100m
2/g以下であれば、粒子表面の自然酸化による二酸化珪素の割合を少なくすることができる。その結果、電池反応に寄与しない二酸化珪素を少なくすることができるので、リチウムイオン二次電池用負極材として用いた際に電池容量の低下を抑制することができる。
【0045】
また、本発明で用いる基材粒子の上記「a%」が0.1%以上30%以下であることが好ましい。基材粒子を、体積基準分布における粒径1μm以下の粒子の割合が0.1%以上30%以下のものとすることにより、上記した2次粒子を形成しやすくなり、負極における電気抵抗の低減に寄与する。
【0046】
[炭素被膜の形成方法]
本発明においては、上記のように、工程Bにおいて、基材粒子の表面に炭素被膜を形成して被覆粒子とする。これは、上記基材粒子に導電性を付与し、電池特性の向上を図るためである。本発明では、基材粒子の表面に炭素被膜を形成することが必須であるが、この炭素被覆を行うとともに、黒鉛等の導電性のある粒子と混合してもよい。基材粒子の表面に炭素被膜を形成する方法としては、化学蒸着(CVD)により行う方法が好適である。
【0047】
化学蒸着(CVD)の方法としては、例えば、基材粒子に対して、熱分解して炭素を生成し得る有機物ガス雰囲気中で600〜1200℃の温度範囲で炭素を化学蒸着することにより行う方法が挙げられる。
【0048】
この化学蒸着(CVD)は、常圧、減圧下共に適用可能であり、減圧下としては、50〜30,000Paの減圧下が挙げられる。また、炭素被膜の形成工程に使用する装置は、バッチ式炉、ロータリーキルン及びローラーハースキルンといった連続炉、並びに流動層等の一般的に知られた装置が使用可能である。特に、攪拌を行いながら連続して蒸着を行うことができるロータリーキルンは、効率的に、炭素をより均一に被覆することができ、電池特性の向上を図ることができる。
【0049】
化学蒸着による炭素被膜の形成には、下記のような様々な有機物がその炭素源として挙げられるが、熱分解温度や蒸着速度、また蒸着後に形成される炭素被膜の特性等は、用いる物質によって大きく異なる場合がある。炭素源は、目的とする被覆粒子の物性に従って適宜変更することができる。蒸着速度が小さい物質は、表面の炭素被膜の均一性を十分なものとしやすいため、好ましい。反面分解が低温で行われる物質であれば、蒸着時の基材粒子中の珪素結晶の成長が抑制されるため、放電効率やサイクル特性の低下を抑制することができる。
【0050】
熱分解して炭素を生成し得る有機物ガスの原料として、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油及びナフサ分解タール油等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0051】
炭素被膜の被覆量については、被覆粒子の質量に対する、該被覆粒子に含有される炭素の質量の割合を、0.5質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。この割合は、1.0〜30質量%がより好ましい。被覆される粒子にもよるが、炭素被覆量を0.5質量%以上とすることで、概ね十分な導電性を維持することができ、非水電解質二次電池の負極とした際のサイクル性の向上を確実に達成することができる。また、炭素被覆量が40質量%以下であれば、炭素被覆による導電性付与の効果を得ることができるとともに、負極材料に占める炭素の割合が多くなることによる充放電容量の低下を抑制することができる。
【0052】
[負極材の粒径分布及び粒径範囲]
本発明の負極材は、上記のように、粒径の規定がa/b≧3の関係を満たすものである。炭素被覆が形成されていない状態の基材粒子の体積基準分布における粒径1μm以下の粒子(微粉)が、被覆によって炭素で凝集した2次粒子を形成する。負極材により負極を作製した際にこの2次粒子が大粒子の間隙を埋めて負極(電極)の電気抵抗の低減に寄与する。これによって充放電サイクルを繰り返したときの容量維持率の向上につながる。
【0053】
また、炭素被膜の形成は、被覆粒子のレーザー回折法粒度分布測定装置で測定した体積基準分布における累積50%径(D
50)が、1μm以上30μm以下となるように行うことが好ましい。これにより、負極を作製するために負極材を塗布した際にセパレーターを傷付けることなく、また電極の導電性を良好なものとすることができる。
【0054】
本発明において、基材粒子を特定の粒径分布及び粒径範囲とするためには、粉砕や分級等の処理等により適宜調整することができる。また、炭素被膜を形成した被覆粒子を特定の粒径分布及び粒径範囲とするためには、その被覆量等により適宜調整することができる。炭素被膜の被覆量は、基材粒子の物性の他、CVDに用いる炭素源ガスや熱処理温度、熱処理時間等の条件に依存する。被覆を行う際の条件と被覆量との関係は実験的に容易に求めることができる。
【0055】
粒子の粉砕には公知の装置を使用することができる。例えば以下に例示される装置を用いることができる。まず、ボール、ビーズ等の粉砕媒体を運動させ、その運動エネルギーによる衝撃力や摩擦力、圧縮力を利用して被砕物を粉砕するボールミル、媒体撹拌ミルが例示される。また、ローラによる圧縮力を利用して粉砕を行うローラミルが例示される。また、被砕物を高速で内張材に衝突もしくは粒子相互に衝突させ、その衝撃による衝撃力によって粉砕を行うジェットミルが例示される。また、ハンマー、ブレード、ピン等を固設したローターの回転による衝撃力を利用して被砕物を粉砕するハンマーミル、ピンミル、ディスクミルが例示される。また、剪断力を利用するコロイドミルが例示される。また、高圧湿式対向衝突式分散機「アルティマイザー」が例示される。粉砕は、湿式、乾式をともに用いることができる。
【0056】
さらに、粉砕後に粒度分布を整えるため、乾式分級、湿式分級、及びふるい分け分級等を用いることができる。乾式分級は、主として気流を用い、分散、分離(細粒子と粗粒子の分離)、捕集(固体と気体の分離)、排出のプロセスが逐次又は同時に行われる。また、粒子相互間の干渉、粒子の形状、気流の流れの乱れ、速度分布、静電気の影響等で分級効率を低下させないよう、分級をする前に前処理(水分、分散性、湿度等の調整)を行ったり、使用される気流の水分や酸素濃度を調整して用いられる。また、サイクロン等の乾式で分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行われ、所望の粒度分布とすることが可能となる。
【0057】
本発明は、上記被覆粒子をリチウムイオン二次電池用負極材(活物質)に用いるものであり、本発明で得られたリチウムイオン二次電池用負極材を用いて、負極を作製し、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0058】
[負極]
上記リチウムイオン二次電池用負極材を用いて負極を作製する場合、さらにカーボンや黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよい。具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粒子や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粒子、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0059】
負極(成型体)の調製方法としては、一例として下記のような方法が挙げられる。
【0060】
まず、上述の負極材と、必要に応じて導電剤と、ポリイミド樹脂等の結着剤等の他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とする。この合剤を集電体のシートに塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0061】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記のリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池である。負極の他は、少なくとも、正極と、リチウムイオン導電性の非水電解質とを有する。本発明のリチウムイオン二次電池は、上記被覆粒子からなる負極材を用いた負極からなる点に特徴を有し、その他の正極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを使用することができ、特に限定されない。上述のように、本発明の負極材は、リチウムイオン二次電池用の負極材として用いた場合の電池特性(充放電容量及びサイクル特性)が良好で、特にサイクル耐久性に優れたものである。
【0062】
正極活物質としてはLiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4、V
2O
5、MnO
2、TiS
2、MoS
2等の遷移金属の酸化物、リチウム及びカルコゲン化合物等の公知のものを用いることができる。
【0063】
電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられる。非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0065】
[実施例1]
ジョークラッシャ―(前川工業所製)で粗砕したSiOx(x=1.0)を直径10mmのアルミナボールを媒体としてボールミル(マキノ製)で80分間粉砕した。この粒子を基材粒子とした(工程A)。この基材粒子をレーザー回折法粒度分布測定装置(島津製作所SALD−3100)で屈折率3.90−0.01iの条件で測定したところ、体積基準分布におけるD
50(累積50%径)は4.6μm、累積1μm(粒径1μm以下の粒子の割合)は14.8%(すなわち、a=14.8)であった。基材粒子の粒度分布チャートを
図1に示した。
【0066】
この基材粒子100gを粉体層厚みが10mmとなるようトレイに敷き、バッチ式加熱炉内に仕込んだ。そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を1,000℃に昇温した。そして1,000℃に達した後、炉内にメタンを0.3L/minで通気し、10時間の炭素被覆処理を行った(工程B)。メタン停止後、炉内を降温・冷却し、106gの黒色粒子を得た。
【0067】
得られた黒色粒子は、黒色粒子に対する炭素被覆量4.8質量%の導電性粒子であった。またこの粒子の粒度分布を上記と同様に測定したところ、体積基準分布におけるD
50は5.3μm、累積1μm(粒径1μm以下の粒子の割合)は2.6%(すなわち、b=2.6)であった。この被覆粒子の粒度分布チャートを
図2に示した。
【0068】
<電池評価>
次に、以下の方法で、得られた被覆粒子を負極活物質として用いた電池評価を行った。まず、得られた負極材45質量%と人造黒鉛(平均粒子径10μm)45質量%、ポリイミド10質量%を混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃で1時間真空乾燥させた。その後、2cm
2に打ち抜き、負極とした。
【0069】
そして、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0070】
作製したリチウムイオン二次電池を、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて、テストセルの電圧が0Vに達するまで0.5mA/cm
2の定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が40μA/cm
2を下回った時点で充電を終了させた。そして放電は0.5mA/cm
2の定電流で行い、セル電圧が1.4Vに達した時点で放電を終了して、放電容量を求めた。
【0071】
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の50サイクル後の充放電試験を行った。結果を表1に示す。初回放電容量1781mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率94%の高容量かつ及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0072】
[実施例2]
実施例1と同じSiOx(x=1.0)粉砕品(基材粒子)を100g、実施例1と同様にバッチ式加熱炉内に仕込んだ。そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を1,100℃に昇温した。そして1,100℃に達した後、炉内にメタンを0.3L/minで通気し、16時間の炭素被覆処理を行った。メタン停止後、炉内を降温・冷却した。
【0073】
得られた黒色粒子は黒色粒子に対する炭素被覆量21.3質量%の導電性粒子であった。この粒子の粒度分布はD
50が5.8μm、累積1μm(粒径1μm以下の粒子の割合)は0.3%(すなわち、b=0.3)であった。この被覆粒子の粒度分布チャートを
図3に示した。
【0074】
[実施例3]
実施例1と同じSiOx(x=1.0)粉砕品(基材粒子)を、1°に傾斜させてキルン内部を1000℃に昇温させたロータリーキルンに入口側から2kg/hrで供給し、出口側から16体積%に窒素で希釈したメタンを通気した。キルンの回転数は1rpmとした。投入開始から6時間後、出口側から被覆量3.5質量%の導電性粒子を得た。この粒子の粒度分布はD
50が5.2μm、累積1μm(粒径1μm以下の粒子の割合)は3.7%(すなわち、b=3.7)であった。この被覆粒子の粒度分布チャートを
図4に示した。
【0075】
[実施例4]
実施例1と同じSiOx(x=1.0)粉砕品(基材粒子)を、1°に傾斜させてキルン内部を1000℃に昇温させたロータリーキルンに入口側から2.8kg/hrで供給し、出口側から16体積%に窒素で希釈したメタンを通気した。キルンの回転数は1rpmとした。投入開始から6時間後、出口側から被覆量2.6質量%の導電性粒子を得た。この粒子の粒度分布はD
50が4.4μm、累積1μm(粒径1μm以下の粒子の割合)は4.9%(すなわち、b=4.9)であった。この被覆粒子の粒度分布チャートを
図5に示した。
【0076】
[比較例1]
実施例1と同じSiOx(x=1.0)粉砕品(基材粒子)を100g、同様にバッチ式加熱炉内に仕込んだ。そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を1,000℃に昇温した。そして1,000℃に達した後、炉内にメタンを0.1L/minで通気し、2時間の炭素被覆処理を行った。メタン停止後、炉内を降温・冷却し、127gの黒色粒子を得た。
【0077】
得られた黒色粒子は黒色粒子に対する炭素被覆量0.3質量%の導電性粒子であった。この粒子の粒度分布はD
50が4.8μm、累積1μm(粒径1μm以下の粒子の割合)は11.4%(すなわち、b=11.4)であった。この被覆粒子の粒度分布チャートを
図6に示した。
【0078】
[比較例2]
実施例1と同じSiOx(x=1.0)粉砕品を、気流式分級機(日清エンジニアリング(株)製TC−15)で風量2.5Nm
3/min、ローター回転数10,000rpmの条件で分級した。分級機下で回収した粗粉側の粒子のD
50は6.1μmで、累積1μm(粒径1μm以下の粒子の割合)は1.0%(すなわち、a=1.0)であった。この粉末を、比較例2における基材粒子(炭素被覆を行う対象の粒子)とした。この基材粒子の粒度分布チャートを
図7に示した。この基材粒子に対し、実施例1と同様に炭素被覆処理を行った。得られた粒子は炭素被覆量4.2質量%、D
50が6.2μm、累積1μm(粒径1μm以下の粒子の割合)は0.7%(すなわち、b=0.7)であった。この被覆粒子の粒度分布チャートを
図8に示した。
【0079】
実施例2〜4、比較例1、2で得られた粒子について、実施例1と同様に電池評価を行った。
【0080】
実施例1〜4、比較例1、2の粒度及び電池特性の一覧表を表1に示す。
【表1】
【0081】
実施例1〜4の負極材は、比較例1、2の負極材に比べて明らかに電池特性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0082】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。