(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1凹状接触面、前記第2凸状接触面、前記第3凹状接触面、および前記第4凸状接触面の曲率半径を選定することにより、前記回転体の下端面から前記回転中心までの距離を変更することができることを特徴とする請求項4または5に記載の連結機構。
前記第1摺接部材および前記第2摺接部材の一方は、他方のヤング率と同じか、またはそれよりも低いヤング率を有するか、または他方の減衰係数よりも高い減衰係数を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の連結機構。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、基板研磨装置1を模式的に示す斜視図である。この基板研磨装置1は、研磨面10aを有する研磨パッド10が取り付けられた研磨テーブル3と、ウェハなどの基板Wを保持しかつ基板Wを研磨テーブル3上の研磨パッド10に押圧する研磨ヘッド5と、研磨パッド10に研磨液やドレッシング液(例えば、純水)を供給するための研磨液供給ノズル6と、研磨パッド10の研磨面10aのドレッシングを行うためのドレッサー7を有するドレッシング装置2と、を備えている。
【0029】
研磨テーブル3は、テーブル軸3aを介してその下方に配置されるテーブルモータ11に連結されており、このテーブルモータ11により研磨テーブル3が矢印で示す方向に回転されるようになっている。この研磨テーブル3の上面には研磨パッド10が貼付されており、研磨パッド10の上面がウェハを研磨する研磨面10aを構成している。研磨ヘッド5はヘッドシャフト14の下端に連結されている。研磨ヘッド5は、真空吸引によりその下面にウェハを保持できるように構成されている。ヘッドシャフト14は、上下動機構(図示せず)により上下動するようになっている。
【0030】
ウェハWの研磨は次のようにして行われる。研磨ヘッド5および研磨テーブル3をそれぞれ矢印で示す方向に回転させ、研磨液供給ノズル6から研磨パッド10上に研磨液(スラリー)を供給する。この状態で、研磨ヘッド5は、ウェハWを研磨パッド10の研磨面10aに押し付ける。ウェハWの表面は、研磨液に含まれる砥粒の機械的作用と研磨液の化学的作用により研磨される。研磨終了後は、ドレッサー7による研磨面10aのドレッシング(コンディショニング)が行われる。
【0031】
ドレッシング装置2は、研磨パッド10に摺接されるドレッサー7と、ドレッサー7が連結されるドレッサーシャフト23と、ドレッサーシャフト23の上端に設けられたエアシリンダ24と、ドレッサーシャフト23を回転自在に支持するドレッサーアーム27とを備えている。ドレッサー7の下面はドレッシング面7aを構成し、このドレッシング面7aは砥粒(例えば、ダイヤモンド粒子)から構成されている。エアシリンダ24は、複数の支柱25により支持された支持台20上に配置されており、これら支柱25はドレッサーアーム27に固定されている。
【0032】
ドレッサーアーム27は図示しないモータに駆動されて、旋回軸28を中心として旋回するように構成されている。ドレッサーシャフト23は、図示しないモータの駆動により回転し、このドレッサーシャフト23の回転により、ドレッサー7がドレッサーシャフト23を中心に矢印で示す方向に回転するようになっている。エアシリンダ24は、ドレッサーシャフト23を介してドレッサー7を上下動させ、ドレッサー7を所定の押圧力で研磨パッド10の研磨面(表面)10aに押圧するアクチュエータとして機能する。
【0033】
研磨パッド10のドレッシングは次のようにして行われる。ドレッサー7がドレッサーシャフト23を中心として回転しつつ、研磨液供給ノズル6から純水が研磨パッド10上に供給される。この状態で、ドレッサー7はエアシリンダ24により研磨パッド10に押圧され、そのドレッシング面7aが研磨パッド10の研磨面10aに摺接される。さらに、ドレッサーアーム27を旋回軸28を中心として旋回させてドレッサー7を研磨パッド10の半径方向に揺動させる。このようにして、ドレッサー7により研磨パッド10が削り取られ、その表面10aがドレッシング(再生)される。
【0034】
上記したヘッドシャフト14は、回転可能かつ上下動可能な駆動軸であり、上記した研磨ヘッド5は、その軸心を中心に回転する回転体である。同様に、上記したドレッサーシャフト23は、回転可能かつ上下動可能な駆動軸であり、上記したドレッサー7は、その軸心を中心に回転する回転体である。これら回転体5,7は、以下に説明する連結機構によって、駆動軸14,23に対して傾動可能に該駆動軸14,23にそれぞれ連結される。
【0035】
図2は、本発明の一実施形態に係る連結機構によって支持されるドレッサー(回転体)7を示す概略断面図である。
図2に示されるように、ドレッシング装置2のドレッサー7は、円形のディスクホルダ30と、ディスクホルダ30の下面に固定された環状のドレッサーディスク31を有する。ディスクホルダ30は、ホルダ本体32およびスリーブ35により構成される。ドレッサーディスク31の下面は、上記したドレッシング面7aを構成する。
【0036】
ディスクホルダ30のホルダ本体32には、段差部33aを有する孔33が形成されており、この孔33の中心軸は、ドレッサーシャフト(駆動軸)23によって回転されるドレッサー7の中心軸に一致する。孔33は、ホルダ本体32を鉛直方向に貫通して延びている。
【0037】
スリーブ35は、ホルダ本体32の孔33に嵌め込まれる。スリーブ35の上部には、スリーブフランジ35aが形成され、スリーブフランジ35aは、孔33の段差部33aに嵌め込まれる。この状態で、スリーブ35は、ホルダ本体32にねじなどの固定部材(図示せず)を用いて固定される。スリーブ35には、上方に開口した挿入凹部35bが設けられる。この挿入凹部35b内に、後述する連結機構(ジンバル機構)50の上側球面軸受52、および下側球面軸受55が配置される。
【0038】
ドレッサーシャフト23とドレッサー7を連結するベローズ44が設けられている。より具体的には、ベローズ44の上部に接続された上側円筒部45はドレッサーシャフト23の外周面に固定され、ベローズ44の下部に接続された下側円筒部46はドレッサー7のスリーブ35の上面に固定される。ベローズ44は、ドレッサーシャフト23のトルクをディスクホルダ30(すなわち、ドレッサー7)に伝達しつつ、ドレッサー7のドレッサーシャフト23に対する傾動を許容するように構成されている。
【0039】
回転する研磨パッド10の研磨面10aのうねりにドレッサー7を追従させるために、ドレッサー7(回転体)のディスクホルダ30は、連結機構(ジンバル機構)50を介してドレッサーシャフト23(駆動軸)に連結される。以下、連結機構50について説明する。
【0040】
図3は、
図2に示される連結機構50の拡大図である。連結機構50は、鉛直方向に互いに離間して配置された上側球面軸受52および下側球面軸受55を有する。これら上側球面軸受52および下側球面軸受55は、ドレッサーシャフト23とドレッサー7との間に配置されている。
【0041】
上側球面軸受52は、第1凹状接触面53aを有する環状の第1摺接部材53と、第1凹状接触面53aに接触する第2凸状接触面54aを有する環状の第2摺接部材54とを備えている。第1摺接部材53と第2摺接部材54は、ドレッサーシャフト23とドレッサー7との間に挟まれている。より具体的には、第1摺接部材53は、スリーブ35の挿入凹部35bに挿入されており、さらに、ベローズ44の下部に接続された下側円筒部46と第2摺接部材54とに挟まれている。ドレッサーシャフト23の下端は、環状の第2摺接部材54に挿入されており、さらに、第2摺接部材54は、後述する第3摺接部材56と第1摺接部材53とに挟まれている。第1摺接部材53の第1凹状接触面53aおよび第2摺接部材54の第2凸状接触面54aは、第1の半径r1を有する球面の上半分の一部からなる形状を有している。つまり、これら2つの第1凹状接触面53aおよび第2凸状接触面54aは、同一の曲率半径(上述した第1の半径r1に等しい)を有し、互いに摺動自在に係合する。
【0042】
下側球面軸受55は、第3凹状接触面56cを有する第3摺接部材56と、第3凹状接触面56cに接触する第4凸状接触面57aを有する第4摺接部材57とを備えている。第3摺接部材56は、ドレッサーシャフト23に取り付けられている。より具体的には、ドレッサーシャフト23には、該ドレッサーシャフト23の下端から上方に延びるねじ孔23aが形成されている。第3摺接部材56の上部にはねじ部56aが形成されている。ねじ部56aをねじ孔23aに螺合させることにより、第3摺接部材56がドレッサーシャフト23に固定されるとともに、第1摺接部材53および第2摺接部材54は、下側円筒部46に押し付けられる。
【0043】
上側球面軸受52の第2摺接部材54は、第1摺接部材53と第3摺接部材56との間に挟まれている。すなわち、第2摺接部材54は、第3摺接部材56の上部に形成された環状の段部56bと、第1摺接部材53の第1凹状接触面53aとの間に挟まれている。第4摺接部材57はドレッサー7に取り付けられている。本実施形態では、第4摺接部材57は、ドレッサー7のスリーブ35の底面上に設けられており、第4摺接部材57はスリーブ35と一体に構成されている。第4摺接部材57はスリーブ35とは別体として構成されていてもよい。
【0044】
第3摺接部材56の第3凹状接触面56cと第4摺接部材57の第4凸状接触面57aは、上記第1の半径r1よりも小さい第2の半径r2を有する球面の上半分の一部からなる形状を有している。つまり、これら2つの第3凹状接触面56cおよび第4凸状接触面57aは、同一の曲率半径(上述した第2の半径r2に等しい)を有し、互いに摺動自在に係合する。エアシリンダ24(
図1参照)によって発生される押圧力は、ドレッサーシャフト23および下側球面軸受55を介して、ドレッサー7に伝達される。
【0045】
上側球面軸受52と下側球面軸受55は、異なる回転半径を有する一方で、同一の回転中心CPを有する。すなわち、第1凹状接触面53a、第2凸状接触面54a、第3凹状接触面56c、および第4凸状接触面57aは同心であり、その曲率中心は回転中心CPに一致する。この回転中心CPは、第1凹状接触面53a、第2凸状接触面54a、第3凹状接触面56c、および第4凸状接触面57aよりも下方に位置する。より具体的には、回転中心CPは、ドレッサー7の下端面(すなわち、ドレッシング面7a)上か、またはドレッサー7の下端面近傍に配置される。
図2に示した実施形態では、回転中心CPは、ドレッサー7の下端面から1mm上方に位置している。すなわち、
図3に示すように、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hは1mmである。この距離hは、0mm(すなわち、回転中心CPがドレッサー7の下端面上に位置する)であってもよいし、マイナスの値(すなわち、回転中心CPがドレッサー7の下端面よりも下方に位置する)であってもよい。同一の回転中心CPを有する第1凹状接触面53a、第2凸状接触面54a、第3凹状接触面56c、および第4凸状接触面57aの曲率半径を適宜選定することにより、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hを変更することができる。その結果、所望の距離hを得ることができる。回転中心CPを、ドレッサー7の下端面上か、または下端面近傍に配置するために、上側球面軸受52と下側球面軸受55は、ホルダ本体32に設けられた孔33に嵌挿されたスリーブ35の挿入凹部35b内に配置される。上側球面軸受52と下側球面軸受55から発生した摩耗粉は、スリーブ35に受け止められる。したがって、摩耗粉が研磨パッド10上に落下することが防止される。
【0046】
上側球面軸受52の第1凹状接触面53aおよび第2凸状接触面54aは、下側球面軸受55の第3凹状接触面56cおよび第4凸状接触面57aよりも上方に位置している。ドレッサー7は、2つの球面軸受、すなわち上側球面軸受52と下側球面軸受55によりドレッサーシャフト23に傾動可能に連結される。上側球面軸受52と下側球面軸受55は、同一の回転中心CPを有するので、ドレッサー7は、回転する研磨パッド10の研磨面10aのうねりに対して柔軟に傾動することができる。
【0047】
上側球面軸受52および下側球面軸受55は、ドレッサー7に作用するラジアル方向の力を受け止める一方で、ドレッサー7を振動させる原因となるアキシャル方向(ラジアル方向に対して垂直方向)の力を連続的に受け止めることができる。さらに、上側球面軸受52および下側球面軸受55は、これらラジアル方向の力とアキシャル方向の力を受け止めながら、ドレッサー7と研磨パッド10との間に発生する摩擦力に起因して回転中心CP回りに発生するモーメントに対して摺動力を作用させることができる。その結果、ドレッサー7にばたつきや振動が発生することを防止することができる。本実施形態では、回転中心CPは、ドレッサー7の下端面上か、またはドレッサー7の下端面近傍に位置するので、ドレッサー7と研磨パッド10との間に発生する摩擦力に起因したモーメントがほとんど発生しない。このモーメントは、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hが0のときに0である。その結果、ドレッサー7にばたつきや振動が発生することをより効果的に防止することができる。さらに、ドレッサー7が持ち上げられたときに、該ドレッサー7は上側球面軸受52によって支持される。その結果、ドレッサー7の重力よりも小さい荷重領域においても研磨面10aに対するドレッシング荷重を精密に制御することができる。したがって、細やかなドレッシング制御を実行することができる。
【0048】
図4は、
図2に示される連結機構によって支持されるドレッサー7が傾いた状態を示す概略断面図である。
図4に示されるように、上側球面軸受52および下側球面軸受55は、ドレッサー7が研磨面10aのうねりに応じて傾動することを許容する。ドレッサー7が傾動したときに、ドレッサーシャフト23とドレッサー7とを連結するベローズ44は、ドレッサー7の傾動に応じて変形する。したがって、ドレッサー7は、ベローズ44を介して伝わるドレッサーシャフト23のトルクを受けながら、傾動することができる。
【0049】
図5は、連結機構50の他の実施形態を示す断面図である。特に説明しない本実施形態の構成は、
図2に示される連結機構50の構成と同一である。本実施形態では、上側球面軸受52および下側球面軸受55の回転中心CPは、ドレッサー7の下端面上にある(すなわち、距離h=0)。
図5に示されるドレッサー7のドレッサーディスク31は、磁性材料から構成されており、ドレッサーディスク31は、ホルダ本体32の上面に設けられた複数の凹部32a内にそれぞれ配置される磁石37によって、ホルダ本体32に固定される。凹部32aおよび磁石37は、ホルダ本体32の円周方向に沿って等間隔に配列される。
【0050】
スリーブ35の上面(すなわち、スリーブフランジ35aの上面)には、環状溝35cが形成されており、この環状溝35cには、連結機構50の周囲を延びるOリング41が配置されている。Oリング41は、スリーブ35と下側円筒部材46との間の隙間をシールする。
【0051】
下側円筒部46の外周面から僅かに離間して上方に延びる基部42aを有する第1円筒カバー42が設けられる。第1円筒カバー42は、スリーブ35の上面から上方に延びる基部42aと、基部42aの上端から水平方向外方に延びる環状の水平部42bと、水平部42bの外周端から下方に延びる折返し部42cとを有している。第1円筒カバー42の基部42aおよび折返し部42cは、円筒形状を有し、水平部42bは、基部42aの全周に亘って水平方向に延びる。下側円筒部46の外周面には、環状溝46aが設けられ、該環状溝46aにはOリング47が配置される。Oリング47は、下側円筒部46の外周面と第1円筒カバー42の基部42aの内周面との間の隙間をシールする。
【0052】
ドレッサーシャフト23を回転自在に支持するドレッサーアーム27には、第2円筒カバー48が固定されている。第2円筒カバー48は、ドレッサーアーム27の下端面から下方に延びる基部48aと、基部48aの下端から水平方向内方に延びる環状の水平部48bと、水平部48bの内周端から上方に延びる折返し部48cとを有している。第2円筒カバー48の基部48aおよび折返し部48cは、円筒形状を有し、水平部48bは、基部48aの全周に亘って水平方向に延びる。第2円筒カバー48の基部48aは、第1円筒カバー42の基部42aを囲んでおり、第2円筒カバー48の折返し部48cは、第1円筒カバー42の折返し部42cよりも内側に位置している。第1円筒カバー42と第2円筒カバー48は、ラビリンス構造を構成する。図示はしないが、第1円筒カバー42の折返し部42cの下端が、第2円筒カバー48の折返し部48cの上端よりも下方に位置していてもよい。
【0053】
Oリング41、Oリング47、および第1円筒カバー42と第2円筒カバー48とで構成されたラビリンス構造により、上側球面軸受52と下側球面軸受55から発生した摩耗粉がドレッサー7の外部に飛散することが防止される。同様に、Oリング41、Oリング47、および第1円筒カバー42と第2円筒カバー48とで構成されたラビリンス構造により、ドレッサー7に供給されたドレッシング液が、上側球面軸受52と下側球面軸受55に到達することが防止される。
【0054】
図6は、連結機構のさらに他の実施形態を示す概略断面図である。特に説明しない本実施形態の構成は、上述した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
図6に示される連結機構60は、ドレッサー7をドレッサーシャフト23に傾動可能に連結するジンバル機構を構成する。
【0055】
図7は、
図6に示される連結機構60の拡大図である。
図7に示されるように、連結機構60の下側球面軸受55は、ボールから構成された第4摺動部材57を有している。この第4摺動部材57は、第3摺接部材56と、スリーブ35との間に配置される。この実施形態では、ボール状の第4摺動部材57の球面のほぼ上半分は、下側球面軸受55の第4凸状接触面57aを構成する。第3摺接部材56の下端には第3凹状接触面56cが形成されている。第4摺動部材57の第4凸状接触面57aと第3摺接部材56の第3凹状接触面56cとは、互いに摺動自在に係合する。スリーブ35の挿入凹部35bの底面には、台座65が固定されており、該台座65は、ボール状の第4摺動部材57の球面の下部が摺動自在に係合する凹状接触面65bを有する。この台座65は、スリーブ35と一体に構成されてもよい。
【0056】
図7に示した連結機構60の上側球面軸受52と下側球面軸受55は、異なる回転半径を有する一方で、同一の回転中心CPを有する。すなわち、第1凹状接触面53a、第2凸状接触面54a、第3凹状接触面56c、第4凸状接触面57a、および凹状接触面65bは同心であり、その曲率中心は回転中心CPに一致する。この回転中心CPは、第1凹状接触面53a、第2凸状接触面54a、第3凹状接触面56c、および第4凸状接触面57aよりも下方に位置する。より具体的には、回転中心CPは、第4摺動部材57の中心であり、ドレッサー7の下端面(すなわち、ドレッシング面7a)近傍に配置される。図示した例では、回転中心CPは、ドレッサー7の下端面から6mm上方に位置している。
【0057】
上側球面軸受52の第1凹状接触面53aおよび第2凸状接触面54aは、下側球面軸受55の第3凹状接触面56cおよび第4凸状接触面57aよりも上方に位置している。ドレッサー7は、2つの球面軸受、すなわち上側球面軸受52と下側球面軸受55によりドレッサーシャフト23に傾動可能に連結される。上側球面軸受52と下側球面軸受55は、同一の回転中心CPを有するので、ドレッサー7は、回転する研磨パッド10の研磨面10aのうねりに対して柔軟に傾動することができる。
【0058】
上側球面軸受52および下側球面軸受55は、ドレッサー7に作用するラジアル方向の力を受け止める一方で、ドレッサー7を振動させる原因となるアキシャル方向(ラジアル方向に対して垂直方向)の力を連続的に受け止めることができる。さらに、上側球面軸受52および下側球面軸受55は、これらラジアル方向の力とアキシャル方向の力を受け止めながら、ドレッサー7と研磨パッド10との間に発生する摩擦力に起因して回転中心CP回りに発生するモーメントに対して摺動力を作用させることができる。その結果、ドレッサー7にばたつきや振動が発生することを防止することができる。本実施形態では、回転中心CPは、ドレッサー7の下端面近傍に位置するので、ドレッサー7と研磨パッド10との間に発生する摩擦力に起因したモーメントがほとんど発生しない。その結果、ドレッサー7にばたつきや振動が発生することをより効果的に防止することができる。さらに、ドレッサー7が持ち上げられたときに、該ドレッサー7は上側球面軸受52によって支持される。その結果、ドレッサー7の重力よりも小さい荷重領域においても研磨面10aに対するドレッシング荷重を精密に制御することができる。したがって、細やかなドレッシング制御を実行することができる。
図5に示されるOリング41、Oリング47、第1円筒カバー42、および第2円筒カバー48の構成を、
図6に示される実施形態に適用してもよい。
【0059】
図2,
図5,
図6に示される第1摺接部材53および第2摺接部材54の一方は、他方のヤング率と同じか、またはそれよりも低いヤング率を有するか、または他方の減衰係数よりも高い減衰係数を有することが好ましい。
図2,
図5,
図6に示される連結機構では、第2摺接部材54が、第1摺接部材53のヤング率と同じか、またはそれよりも低いヤング率を有するか、または第1摺接部材53の減衰係数よりも高い減衰係数を有している。この構成によれば、ドレッサー7の耐振動特性を向上させることができる。つまり、ドレッサー7と研磨面10aとの間に発生する摩擦力を受けたときに発生するドレッサーシャフト23の振動を、第1摺接部材53および第2摺接部材54の一方により減衰させることができる。その結果、ドレッサー7に振動やばたつきが発生するのを抑制することができる。
【0060】
本実施形態では、第2摺接部材54が、第1摺接部材53のヤング率と同じか、またはそれよりも低いヤング率を有するか、または第1摺接部材53の減衰係数よりも高い減衰係数を有している。このような第2摺接部材54を構成する材料の例としては、第1摺接部材53がステンレス鋼から作られている場合、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリプロピレン(PP)などの樹脂、およびバイトン(登録商標)などのゴムが挙げられる。例えば、
図2,
図5,
図6に示される第2摺接部材54は、ゴムから作られていてもよい。
【0061】
第2摺接部材54は、好ましくは、0.1GPaから210GPaの範囲にあるヤング率か、または減衰比が0.1から0.8の範囲となる減衰係数を有する。ここで、第2摺接部材54の減衰比をζとし、第2摺接部材54の減衰係数をCとし、第2摺接部材54の臨界減衰係数をCcとすると、減衰比ζは、式ζ=C/Ccから求められる。第2摺接部材54の質量がmであり、第2摺接部材54の
ばね定数がKのときに、臨界減衰係数Ccは、2・(m・K)
1/2である。第2摺接部材54の減衰比は、0.707が最も好ましい。減衰比が大きすぎると、ドレッサー7が研磨面10aのうねりに柔軟に追従できなくなる。
【0062】
図8は、連結機構のさらに他の実施形態を示す概略断面図である。本実施形態の連結機構は、上側球面軸受および下側球面軸受を有していない点で、上述した実施形態と異なる。特に説明しない他の構成は、上述した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0063】
図8に示される連結機構では、ドレッサーシャフト23の下端に減衰リング(減衰部材)70が固定される。図示した例では、減衰リング70は、円環形状を有し、固定部材71によってドレッサーシャフト23に固定される。より具体的には、ドレッサーシャフト23のねじ孔23aに固定部材71のねじ部71aを螺合することにより、減衰リング70は、ドレッサーシャフト23の肩部23bと、固定部材71のフランジ部71bとの間に挟まれる。減衰リング70の内周面70aがドレッサーシャフト23の下端の外周面に接触するように、減衰リング70はドレッサーシャフト23の下端に取り付けられる。さらに、減衰リング70の外周面70bがスリーブ35の挿入凹部35bの内周面に接触するように、減衰リング70はドレッサー7のスリーブ35に取り付けられる。このように、減衰リング70は、ドレッサーシャフト23の下端とドレッサー7のスリーブ35との間に挟まれており、ドレッサー7は、減衰リング70を介してドレッサーシャフト23に連結される。ドレッサーシャフト23のトルクは、減衰リング70およびベローズ44を介してドレッサー7に伝達される。また、エアシリンダ24(
図1参照)によって発生される押圧力は、ドレッサーシャフト23および減衰リング70を介して、ドレッサー7に伝達される。
【0064】
減衰リング70は、ドレッサーシャフト23のヤング率と同じか、またはそれよりも低いヤング率を有するか、またはドレッサーシャフト23の減衰係数よりも高い減衰係数を有している。このような減衰リング70を構成する材料の例としては、ドレッサーシャフト23がステンレス鋼から作られている場合、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリプロピレン(PP)などの樹脂、およびバイトン(登録商標)などのゴムが挙げられる。例えば、
図8に示される減衰リング70は、ゴムから作られており、ゴムブッシュとして構成されている。
【0065】
減衰リング70は、好ましくは、0.1GPaから210GPaの範囲にあるヤング率か、または減衰比が0.1から0.8の範囲となる減衰係数を有する。ここで、減衰リング70の減衰比をζとし、減衰リング70の減衰係数をCとし、減衰リング70の臨界減衰係数をCcとすると、減衰比ζは、式ζ=C/Ccから求められる。減衰リング70の質量がmであり、減衰リング70の
ばね定数がKのときに、臨界減衰係数Ccは、2・(m・K)
1/2である。減衰リング70の減衰比は、0.707が最も好ましい。減衰比が大きすぎると、ドレッサー7が研磨面10aのうねりに柔軟に追従できなくなる。
【0066】
ドレッサー7が固定される減衰リング70は、ドレッサーシャフト(駆動軸)23のヤング率と同じか、またはそれよりも低いヤング率を有するか、またはドレッサーシャフト23の減衰係数よりも高い減衰係数を有している。回転する研磨パッド10の研磨面10aにうねりが生じた場合、この減衰リング70が適度に変形することによって、ドレッサー7は、研磨面10aのうねりに適度に追従することができる。また、ドレッサー7が減衰リング70を介してドレッサーシャフト23に固定されているので、該ドレッサー7の耐振動特性を向上させることができる。より具体的には、ドレッサー7が研磨面10aに摺接したときに発生する摩擦力に起因するドレッサー7の振動を、減衰リング70により減衰させることができる。その結果、ドレッサー7に振動やばたつきが発生するのを抑制することができる。さらに、ドレッサー7は、減衰リング70を介してドレッサーシャフト23に連結されているので、ドレッサー7の重力よりも小さい荷重領域においても研磨面10aに対するドレッシング荷重を精密に制御することができる。したがって、細やかなドレッシング制御を実行することができる。
【0067】
従来のドレッシング装置では、ドレッサーが研磨パッドに押圧されるドレッシング荷重が大きくなったときに、ドレッサーと研磨パッドの間にスティックスリップが発生することがあった。スティックスリップ対策として、従来は、ドレッサーシャフトの直径を大きくして、ドレッサーシャフトの剛性を上げていた。また、ドレッサーシャフトを回転させる機構として、ボールスプラインが採用されている場合は、スプラインシャフトとスプラインナットとの間の与圧を大きくしていた。しかしながら、ドレッサーシャフトの直径を大きくするか、またはスプラインシャフトとスプラインナットとの間の与圧を大きくした場合、ドレッサーシャフトを上下動させるときの摺動抵抗が大きくなる。結果として、ドレッシング荷重の細やかな制御が阻害される。
【0068】
図8に示した実施形態に係る連結機構によれば、ドレッサーシャフト23の下端に取り付けられた減衰リング70に、ドレッサー7が固定される。ドレッサー7が研磨面10aに摺接されたときに発生する摩擦力に起因したドレッサー7の振動は、減衰リング70により減衰させることができる。その結果、ドレッサー7にスティックスリップが発生するのを抑制することができる。したがって、ドレッサーシャフト23の直径を大きくするか、またはスプラインシャフトとスプラインナットとの間の与圧を大きくする必要がないので、細やかなドレッシング制御を実行することができる。
【0069】
これまでドレッサー7をドレッサーシャフト23に連結する連結機構の実施形態を説明してきたが、これら実施形態に係る連結機構を用いて、研磨ヘッド5をヘッドシャフト14に連結してもよい。上記した実施形態に係る連結機構によって支持された研磨ヘッド5は、回転する研磨パッド10の研磨面10aのうねりに、ばたつきや振動を発生させずに追従することができる。また、上述した連結機構は、研磨ヘッド5の重力よりも小さい荷重領域においても研磨面10aに対する研磨荷重を精密に制御することができる。したがって、細やかな研磨制御を実行することができる。
【0070】
上述したように、
図2および
図5に示される連結機構50では、同一の回転中心CPを有する第1凹状接触面53a、第2凸状接触面54a、第3凹状接触面56c、および第4凸状接触面57aの曲率半径を適宜選定することにより、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hを変更することができる。すなわち、連結機構50の回転中心CPの位置を変更することができる。以下では、回転体のばたつきや振動を発生させない連結機構の回転中心CPの位置(すなわち、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離h)を決定するための回転中心位置決定方法が説明される。
【0071】
本実施形態に係る回転中心位置決定方法では、最初に、ドレッサー(回転体)7を回転させながら、該ドレッサー7を、回転する研磨パッド10に摺接させたときの、ドレッサー7の並進運動の運動方程式および傾動運動の運動方程式を特定する。
図9は、
図2に示される連結機構50の回転中心CPがドレッサー7の下端面にある場合の並進運動と回転運動とを示したモデル図である。
図10は、
図2に示される連結機構50の回転中心CPがドレッサー7の下端面よりも下方にある場合の並進運動と回転運動とを示したモデル図である。
図11は、
図2に示される連結機構50の回転中心CPがドレッサー7の下端面よりも上方にある場合の並進運動と回転運動とを示したモデル図である。
【0072】
図9乃至
図11に示されるように、後述する運動方程式において、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hは、ドレッサー(回転体)7の下端面を原点とした鉛直方向に延びる座標軸Z上の数値である。より具体的には、
回転中心CPがドレッサー7の下端面上にある場合(
図9参照)に、距離hは0であり、回転中心CPがドレッサー7の下端面から下方に位置する場合(
図10参照)に、距離hは正数であり、回転中心CPがドレッサー7の下端面から上方に位置する場合(
図11参照)に、距離hは負数である。
【0073】
ドレッサー7のすべり速度をsとし、ドレッサー7の研磨パッド10に対する相対速度をVとし、ドレッサー7が、該ドレッサー7と研磨パッド10との摩擦に起因して、研磨パッド10に対して水平方向にxだけ微小に変位するときのドレッサー7の速度をx’とする。この場合、すべり速度s、相対速度V、および変位速度x’の間には、以下の式(1)が成り立つ。
s=V−x’ ・・・(1)
さらに、ドレッサー7と研磨パッド10との間の摩擦係数をμとしたときに、μ’を以下の式(2)で定義する。
μ’=(dμ/ds) ・・・(2)
なお、μ’は、例えば、ストライベック曲線から得ることもできる。μ’は、ストライベック曲線の接線の傾きに相当する。
【0074】
ドレッサー7に加わる水平方向の力F0は、以下の式(3)で表される。
F0=(μ0+μ’・s)・FD
=(μ0+μ’・V)・FD−μ’・FD・x’ ・・・(3)
ここで、μ0は、ドレッサー7と研磨パッド10との間の静止摩擦係数であり、FDは、ドレッサー7を研磨パッド10に押圧するときに、ドレッサー7に加えられる押付荷重である。
【0075】
すべり速度s(=V−x’)に起因して、ドレッサー7から研磨パッド10に加えられる押付荷重FDの分布の中心は、ドレッサー7の中心からシフトする(
図9参照)。押付荷重FDの分布の中心の、ドレッサー7の中心からのシフト量を荷重半径Rとした場合に、以下の式(4)が定義される。
R=f(V−x’) ・・・(4)
式(4)は、荷重半径Rがすべり速度s(=V−x’)を変数とする関数fによって決定されることを表している。関数fは、相対速度Vが0のときに荷重半径Rが0となり、相対速度Vが∞のときに荷重半径Rがドレッサー7の半径Rdとなる関数である。
【0076】
ドレッサー7の半径方向における位置R(i)でドレッサー7の押付荷重をFD(i)とした場合、この押付荷重FD(i)によって発生するモーメントの合計Mは、以下の式(5)で表される。
M=Σ(R(i)・FD(i)) ・・・(5)
さらに、荷重半径Rを以下の式(6)で定義する。
R=M/FD=Rd・(V―x’)・η ・・・(6)
ここで、ηは、ドレッサー7の半径Rdに対する荷重半径Rの比である。例えば、押付荷重FDの分布の中心がドレッサー7の中心と外縁との間の中央にある場合、ηの値は0.5である。
【0077】
ドレッサー7が研磨パッド10の研磨面10aのうねりに追従して回転中心CPまわりに回転角θだけ傾動したときに、ドレッサー7に発生する回転中心CPまわりのモーメントM0は、以下の式(7)で表される。
M0=(μ0+μ’・s)・FD・h+η・FD・Rd(V−x’)
=(μ0+μ’・V)・FD・h−μ’・FD・h
2・θ’
+η・FD・Rd・V−η・FD・Rd・h・θ’) ・・・(7)
ここで、θ’は、ドレッサー7が回転中心CPまわりに回転角θだけ傾動するときの角速度である。
【0078】
上述した式(1)乃至式(7)から、ドレッサー(回転体)7の並進運動の運動方程式および傾動運動の運動方程式を特定することができる。ドレッサー7の並進運動の運動方程式は、以下の式(8)で表される。
m・x’’+(Cx+μ’・FD)x’+Kx・x=
(μ0+μ’・V)・FD ・・・(8)
ここで、mは、研磨パッド10のうねりによって回転中心CPまわりに傾動される変位部の質量であり、
図2に示される実施形態では、変位部は、ドレッサー7だけでなく、ベローズ44の下部に接続された下側円筒部46(
図2参照)を含む。したがって、変位部の質量mは、ドレッサー7の質量と下側円筒部46の質量の合計値である。x’’は、ドレッサー7が該ドレッサー7と研磨パッド10との摩擦に起因して、研磨パッド10に対して水平方向にxだけ変位するときのドレッサー7の加速度である。Cxは、並進運動の減衰係数であり、Kxは、並進運動の剛性である。
【0079】
式(8)の左辺において、「(Cx+μ’・FD)x’」の項は、並進運動の運動方程式における速度項であり、この速度項が負数となるときに、ドレッサー7の並進運動が不安定になる(発散する)。すなわち、この速度項が負数になるときに、ドレッサー7のばたつきや振動が発生する。したがって、以下の式(9)がドレッサー7のばたつきや振動の発生を防止するための並進運動の安定条件式となる。
(Cx+μ’・FD)>0 ・・・(9)
【0080】
並進運動の安定条件式から明らかなように、μ’の値が負数であるときに、並進運動の運動方程式における速度項が負数になりやすい。すなわち、μ’の値が負数であるときに、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすい。μ’の値は、通常、ドレッサー7の研磨パッド10に対する相対速度Vが低速であり、かつドレッサー7の押付荷重FDが大きいときに負数となる。
【0081】
ドレッサー7の傾動運動の運動方程式は、以下の式(10)で表される。
(Ip+m・L
2)・θ’’+
(C+μ’・FD・h
2+η・FD・Rd・h)θ’+(Kθ+Kpad)・θ=
(μ0+μ’・V)・FD・h+η・FD・Rd・V ・・・(10)
ここで、(Ip+m・L
2)は、研磨パッド10のうねりによって回転中心CPまわりに傾動される変位部の慣性モーメントであり、Lは、変位部の慣性中心(慣性質量の中心)Gから回転中心CPまでの距離である。Ipは、慣性質量中心の慣性モーメントである。θ’’は、ドレッサー7が回転角θだけ回転中心CPまわりに回転するときの角加速度である。また、Cは、回転中心CPまわりの減衰係数であり、Kθは、回転中心CPまわりの傾き剛性であり、Kpadは、
研磨パッドの弾性特性によって発生する回転中心CPまわりの傾き剛性である。
ドレッサー7の下端面から上方に位置する場合(
図11参照)に、距離hは負数である。
【0082】
式(10)の左辺において、「(C+μ’・FD・h
2+η・FD・Rd・h)θ’」の項は、傾動運動の運動方程式における速度項であり、この速度項が負数であるときに、ドレッサー7の傾動運動が不安定になる(発散する)。すなわち、この速度項が負数であるときに、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすくなる。したがって、以下の式(11)がドレッサー7のばたつきや振動の発生を防止するための傾動運動の安定条件式となる。
(C+μ’・FD・h
2+η・FD・Rd・h)>0 ・・・(11)
【0083】
傾動運動の安定条件式から明らかなように、μ’の値が負数であるときに、傾動運動の運動方程式における速度項が負数になりやすい。すなわち、μ’の値が負数であるときに、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすい。さらに、距離hが負数のとき、速度項が負数になりやすい。すなわち、回転中心CPがドレッサー7の下端面から上方に位置しているとき、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすい。一方で、距離hが正数のときに、傾動運動の運動方程式における速度項は正数になりやすい。すなわち、回転中心CPがドレッサー7の下端面から下方に位置しているときに、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しにくい。さらに、距離hが正数のときには、μ’が負数であっても、傾動運動の安定条件式を満足する場合がある。すなわち、回転中心CPがドレッサー7の下端面から下方に位置している場合、ドレッサー7のばたつきや振動の発生を効果的に防止することができる。
【0084】
さらに、距離hが0である(回転中心CPがドレッサー7の下端面上にある)ときは、ドレッサー7の押付荷重FD、ドレッサー7の半径Rd、およびμ’の値に関わらず、傾動運動の安定条件式を満足することができる。
【0085】
このように、本実施形態に係る回転中心位置決定方法では、傾動運動の運動方程式である式(10)に基づいて、傾動運動の安定条件式である式(11)を特定する。さらに、本実施形態に係る回転中心位置決定方法では、式(11)を距離hについて解き、以下の式(12)で表される距離hの範囲を算出する。
(−b−(b
2−4・a・c)
1/2)/(2・a)< h <
(−b+(b
2−4・a・c)
1/2)/(2・a) ・・・(12)
式(12)から、ドレッサー7のばたつきや振動の発生を防止することができる距離hの下限値hmin、および上限値hmaxを、以下の式(13)および式(14)で表すことができる。
hmin=(−b−(b
2−4・a・c)
1/2)/(2・a) ・・・(13)
hmax=(−b+(b
2−4・a・c)
1/2)/(2・a) ・・・(14)
なお、式(12)乃至式(14)において、aは、μ’・FDであり、bは、η・FD・Rdであり、cは、回転中心CPまわりの減衰係数Cである。
【0086】
式(12)は、ドレッサー7のばたつきや振動の発生を防止することができる距離h(すなわち、回転中心CPの位置)の範囲を示している。したがって、本実施形態に係る回転中心位置決定方法では、式(12)を満足するように、回転中心CPの位置を決定する。より具体的には、第1凹状接触面53a、第2凸状接触面54a、第3凹状接触面56c、および第4凸状接触面57aの曲率半径を選定して、回転中心CPの位置を決定する。なお、ドレッサー7のばたつきや振動の発生を防止することができる距離hの範囲を算出する際に、研磨パッド10の特性から想定されるμ’の値を用いてもよいし、ストライベック曲線から得られたμ’の値を用いてもよい。いずれにしても、μ’の値は、想定されるかまたは得られた最も大きな負の値を用いるのが好ましい。押付荷重FDは、ドレッシングプロセスで用いられる最大押付荷重を用いるのが好ましい。さらに、ドレッサー7の半径Rdに対する荷重半径Rの比ηは、想定される最大相対速度Vから決定してもよいし、実験などから得られた所定の値を用いてもよい(例えば、ηを0.8と仮定する)。回転中心CPまわりの減衰係数Cは、実験などから得られた所定の値を設定する(例えば、Cを0.05と仮定する)。
【0087】
ドレッサー7は、研磨パッド10の研磨面10aのうねりに対して素早く傾動することが好ましい。研磨面10aのうねりに対するドレッサー7の傾動の応答性は、変位部の固有振動数ωθに比例し、この固有振動数ωθが最大値であるときに、最も高くなる。固有振動数ωθは、以下の式(15)で表される。
ωθ=((Kθ+Kpad)/(Ip+m・L
2))
1/2 ・・・(15)
【0088】
式(15)から明らかなように、固有振動数ωθは、回転中心CPまわりの傾き剛性Kθに比例し、慣性質量中心の慣性モーメントIp、および変位部の慣性中心Gから回転中心CPまでの距離Lに反比例する。距離Lが0のときに、固有振動数ωθが最大値となる。すなわち、回転中心CPが変位部の慣性中心Gと一致するときに、研磨パッド10の研磨面10aのうねりに対するドレッサー7の応答性が最も高くなる。したがって、ドレッサー7の下端面から慣性中心Gまでの距離が式(12)で特定される距離hの範囲内にあるときは、回転中心CPを慣性中心Gに一致させるのが好ましい。
【0089】
図12は、回転中心CPを変位部の慣性中心Gに一致させた連結機構50によって支持されるドレッサー7を示す概略断面図である。回転中心CPが慣性中心Gに一致している以外の、
図12に示される実施形態に係る連結機構50の構成は、
図2に示される実施形態に係る連結機構50の構成と同一であるため、その重複する説明を省略する。
【0090】
図12に示される実施形態では、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hは−7mmであり、この回転中心CPは変位部の慣性中心Gに一致している。
図12に示されるように、回転中心CPを慣性中心Gに一致させる場合、ドレッサー7を研磨パッド10の研磨面10aのうねりに最適に追従させることができる。図示はしないが、ドレッサー7のばたつきや振動の発生を防止しつつ、研磨パッド10の研磨面10aのうねりに対するドレッサー7の傾動の応答性を向上させるために、回転中心CPを、ドレッサー7の下端面から変位部の慣性中心Gまでの範囲で選択してもよい。
【0091】
次に、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー(回転体)7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係を説明する。変位部の臨界減衰係数Ccは、以下の式(16)で表される。
Cc=2・((Ip+m・L
2)・(Kθ+Kpad))
1/2 ・・・(16)
さらに、減衰比ζは、以下の式(17)で表される。
ζ=ΣC/Cc
=(C+μ’・FD・h
2+η・FD・Rd・h)/
2・((Ip+m・L
2)・(Kθ+Kpad))
1/2 ・・・(17)
式(17)で表される減衰比ζが負数のときに、ドレッサー7の傾動運動が不安定になる(発散する)。すなわち、この減衰比ζが負数であるときに、ドレッサー7のばたつきや振動が発生する。
【0092】
式(17)に基づいて、変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー(回転体)7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係をシミュレーションした。
図13は、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果の一例を示すグラフである。
図14は、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果の別の例を示すグラフである。
図13は、300mmの直径を有するウェハを研磨する研磨パッド10に用いられるドレッサー7(その直径が100mmである)のシミュレーション結果である。
図14は、450mmの直径を有するウェハを研磨する研磨パッド10に用いられるドレッサー7(その直径が150mmである)のシミュレーション結果である。
【0093】
図13に示されるグラフの左側の縦軸は、減衰比ζを表し、
図13に示されるグラフの横軸は、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hを表す。さらに、
図13に示されるグラフの右側の縦軸は、固有振動数ωθを表す。後述する
図14乃至
図20においても同様に、グラフの左側の縦軸は、減衰比ζを表し、グラフの横軸は、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hを表し、グラフの左側の縦軸は、固有振動数ωθを表す。
【0094】
図13に結果が示されるシミュレーションは、式(17)に基づいて、以下のシミュレーション条件により実行された。
回転中心CPまわりの減衰係数C=0.1
μ’=0
ドレッサー7の押付荷重FD=70[N]
η=0.7
ドレッサー7の半径Rd=50[mm]
慣性質量中心の慣性モーメントIp=0.00043[kg・m
2]
変位部の質量m=0.584[kg]
変位部の慣性中心Gと回転中心CPの距離L=9+h[mm]
【0095】
図13において、太い実線は、KθとKpadの合計値であるΣK(=Kθ+Kpad)が4000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表し、太い一点鎖線は、ΣKが40000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表し、太い二点鎖線は、ΣKが400000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表す。さらに、
図13において、細い実線は、ΣKが4000である場合の固有振動数ωθのシミュレーション結果を表し、細い一点鎖線は、ΣKが40000である場合の固有振動数ωθのシミュレーション結果を表し、細い二点鎖線は、ΣKが400000である場合の固有振動数ωθのシミュレーション結果を表す。後述する
図14乃至
図20においても同様に、太い実線は、KθとKpadの合計であるΣK(=Kθ+Kpad)が4000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表し、太い一点鎖線は、ΣKが40000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表し、太い二点鎖線は、ΣKが400000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表す。さらに、
図14乃至
図20において、細い実線は、ΣKが4000である場合の固有振動数ωθのシミュレーション結果を表し、細い一点鎖線は、ΣKが40000である場合の固有振動数ωθのシミュレーション結果を表し、細い二点鎖線は、ΣKが400000である場合の固有振動数ωθのシミュレーション結果を表す。
【0096】
図14に結果が示されるシミュレーションは、式(17)に基づいて、以下のシミュレーション条件により実行された。
回転中心CPまわりの減衰係数C=0.1
μ’=0
ドレッサー7の押付荷重FD=70[N]
η=0.8
ドレッサー7の半径Rd=75[mm]
慣性質量中心の慣性モーメントIp=0.0014[kg・m
2]
変位部の質量m=0.886[kg]
変位部の慣性中心Gと回転中心CPの距離L=7+h[mm]
【0097】
図13および
図14に結果が示されるシミュレーションでは、μ’の値を0に設定している。
図13に示されるように、ドレッサー7の半径Rdが50mmである場合は、減衰比ζは、ΣKの値が400000であっても正数であり、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しない。一方で、
図14に示されるように、ドレッサー7の半径Rdが75mmである場合は、ΣKの値が400000であり、かつ距離hが−18mmのときに、減衰比ζがほぼ0である。したがって、距離hが−18mmより小さい(回転中心CPがドレッサー7の下端面よりも18mm以上上方に位置している)場合に、ドレッサー7のばたつきや振動が発生する。さらに、
図13および
図14を比較すると、ドレッサー7の半径Rdが大きくなるにつれて、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすくなることが分かる。さらに、
図13および
図14に示されるように、ΣKの値が大きくなるにつれて、減衰比ζが小さくなるので、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすくなる。
【0098】
図15は、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果のさらに別の例を示すグラフである。
図15に結果が示されるシミュレーションでは、回転中心CPまわりの減衰係数Cを0.05に設定している。
図15に結果が示されるシミュレーションにおいて、回転中心CPまわりの減衰係数C以外のシミュレーション条件は、
図13に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。
【0099】
図15に示されるように、ΣKが40000および400000であり、かつ距離hが−17mmのときに、減衰比ζがほぼ0である。したがって、距離hが−17mmより小さい場合に、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすくなる。
図13と
図15を比較すると、回転中心CPまわりの減衰係数Cが小さくなるにつれて、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすくなることが分かる。
【0100】
図16は、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果のさらに別の例を示すグラフである。
図16に結果が示されるシミュレーションでは、回転中心CPまわりの減衰係数Cを0.05に設定している。
図16に結果が示されるシミュレーションにおいて、回転中心CPまわりの減衰係数C以外のシミュレーション条件は、
図14に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。
【0101】
図16に示されるように、ΣKの値に関わらず、距離hが−12mmよりも小さいときに、減衰比ζの値が負数となる。したがって、距離hが−12mmより小さい場合に、ドレッサー7のばたつきや振動が発生する。
図14と
図16を比較すると、回転中心CPまわりの減衰係数Cが小さくなるにつれて、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすくなることが分かる。
【0102】
図17は、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果のさらに別の例を示すグラフである。
図17に結果が示されるシミュレーションでは、ドレッサー7の押付荷重FDを40Nに設定している。
図17に結果が示されるシミュレーションにおいて、ドレッサー7の押付荷重FD以外のシミュレーション条件は、
図15に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。
【0103】
図18は、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果のさらに別の例を示すグラフである。
図18に結果が示されるシミュレーションでは、ドレッサー7の押付荷重FDを40Nに設定している。
図18に結果が示されるシミュレーションにおいて、ドレッサー7の押付荷重FD以外のシミュレーション条件は、
図16に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。
【0104】
図15と
図17との比較、および
図16と
図18との比較から、ドレッサー7の押付荷重FDが大きくなるにつれて、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすくなることが分かる。
【0105】
図19は、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果のさらに別の例を示すグラフである。
図19に結果が示されるシミュレーションでは、回転中心CPまわりの減衰係数Cを0に設定している。
図19に結果が示されるシミュレーションにおいて、回転中心CPまわりの減衰係数C以外のシミュレーション条件は、
図17に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。
【0106】
図20は、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果のさらに別の例を示すグラフである。
図20に結果が示されるシミュレーションでは、回転中心CPまわりの減衰係数Cを0に設定している。
図20に結果が示されるシミュレーションにおいて、回転中心CPまわりの減衰係数C以外のシミュレーション条件は、
図18に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。
【0107】
図19および
図20に示されるように、回転中心CPまわりの減衰係数Cが0であっても、距離hが0よりも大きい場合、減衰比ζは正数である。したがって、回転中心CPがドレッサー7の下端面よりも下方に位置していれば、ドレッサー7の半径Rdに関わらず、ドレッサー7のばたつきや振動を防止することができる。
【0108】
図15乃至
図20は、μ’の値が0に設定されたときのシミュレーション結果を示している。以下では、μ’の値が負数である場合のシミュレーション結果について説明する。上述したように、μ’の値が負数である場合に、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすい。
【0109】
減衰比ζは、上述の式(17)によって表される。回転中心CPまわりの減衰係数Cの値が0であると仮定すると、式(17)によって表される減衰比ζが正数となる条件式は、以下の式(18)である。
(μ’・FD・h
2+η・FD・Rd・h)>0
(μ’・h+η・Rd)FD・h>0 ・・・(18)
式(18)において、距離hが正数であると仮定すると、減衰比ζが正数となる条件式は、以下の式(19)で表される。
(μ’・h+η・Rd)>0 ・・・(19)
式(19)から、以下の式(20)が導かれる。
μ’>(−η・Rd)/h ・・・(20)
【0110】
式(20)から、減衰比ζが正数となるμ’の下限値(臨界値)であるμ’criを式(21)で定義する。
μ’cri=(−η・Rd)/h ・・・(21)
臨界値μ’criよりもμ’の値が小さいときに、減衰比ζは負数となり、臨界値μ’criよりもμ’の値が大きいときに、減衰比ζは正数となる。すなわち、臨界値μ’criよりもμ’の値が小さいときに、ドレッサー7のばたつきや振動が発生する。
【0111】
式(21)に基づいて、臨界値μ’criと、ドレッサー(回転体)7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係をシミュレーションした。
図21は、臨界値μ’criと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図21において、縦軸は、臨界値μ’criを表し、横軸は、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hを表す。
図21において、細い実線は、ドレッサー7の半径Rdが50mmである場合のシミュレーション結果を表し、一点鎖線は、ドレッサー7の半径Rdが75mmである場合のシミュレーション結果を表し、二点鎖線は、ドレッサー7の半径Rdが100mmである場合のシミュレーション結果を表し、太い実線は、ドレッサー7の半径Rdが125mmである場合のシミュレーション結果を表す。
図21に結果が示される全ての(4つの)シミュレーションで、ηの値は0.8に設定された。
【0112】
図21に示されるように、距離hが一定の場合、ドレッサー7の半径Rdが大きくなるにつれて、
臨界値μ’criが小さくなる。したがって、ドレッサー7の半径Rdが大きいときに、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しやすい。
【0113】
図22は、μ’の値が負数であるときの、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果の一例を示すグラフである。
図23は、μ’の値が負数であるときの、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果の別の例を示すグラフである。
図22および
図23に結果が示されるシミュレーションは、式(17)に基づいて実行された。
図22に結果が示されるシミュレーションでは、μ’の値が−100に設定された。
図23に結果が示されるシミュレーションでは、μ’の値が−50に設定された。
図22および
図23に結果が示されるシミュレーションにおいて、μ’の値以外のシミュレーション条件は、
図20に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。
【0114】
図22および
図23において、実線は、KθとKpadの合計であるΣK(=Kθ+Kpad)が4000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表し、一点鎖線は、ΣKが40000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表し、二点鎖線は、ΣKが400000である場合の減衰比ζのシミュレーション結果を表す。
【0115】
図22および
図23に示されるように、減衰比ζのシミュレーション結果は、上に凸の二次曲線を描く。この二次曲線において、距離hが0かまたはh1に等しいときに、減衰比ζが0である。したがって、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hが0とh1の間に位置するときに、減衰比ζは正数であり、距離hが0よりも小さいか、またはh1よりも大きいときに、減衰比ζは負数となる。
【0116】
図22と
図23の比較から明らかなように、μ’の負の値が大きいときに、減衰比ζのピークが小さくなる。さらに、μ’の負の値が大きいときに、距離h1が小さくなる。したがって、μ’の負の値が大きくなるにつれて、ドレッサー7にばたつきや振動を発生させない距離hの範囲が小さくなる。
【0117】
式(17)および
図13乃至
図18に示されるシミュレーション結果から明らかなように、回転中心CPまわりの減衰係数Cが正数であるとき、
図22に示される二次曲線は、
図22における左方にシフトする。同様に、回転中心CPまわりの減衰係数Cが正数であるとき、
図23に示される二次曲線は、
図23における左方にシフトする。
図24および
図25は、μ’の値が負数であるときの、回転中心CPまわりに傾動する変位部の傾動運動の減衰比ζと、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hとの関係のシミュレーション結果のさらに別の例を示すグラフである。
図24に結果が示されるシミュレーションにおいて、回転中心CPまわりの減衰係数Cが0.05であり、ドレッサー7の押付荷重FDが70Nである以外のシミュレーション条件は、
図23に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。さらに、
図25に結果が示されるシミュレーションにおいて、μ’の値が−20である以外のシミュレーション条件は、
図24に結果が示されるシミュレーションのシミュレーション条件と同一である。
【0118】
図24および
図25に示されるように、ドレッサー7のばたつきや振動を発生させない回転中心CPの位置を示す距離hは、負数であってもよい。すなわち、回転中心CPは、式(17)で表される減衰比ζが負数にならなければ、ドレッサー7の下端面よりも上方に位置させてもよい。
【0119】
図13乃至
図20、および
図22乃至
図25から明らかなように、同一の距離hで減衰比ζを比較したときに、KθとKpadの合計値であるΣKが小さくなるにつれて、減衰比ζの値が大きくなる。したがって、ドレッサー7のばたつきや振動を発生させないために、回転中心CPまわりの傾き剛性であるKθの値は、小さいほうが有利である。しかしながら、研磨パッド10の研磨面10aのうねりに対するドレッサー7の傾動の応答性に対しては、回転中心CPまわりの傾き剛性であるKθの値は、大きいほうが有利である。Kθの値は、目的/用途に応じて選択すればよい。
【0120】
図26は、ベローズ44の代わりに複数のトルク伝達ピンでドレッサー7にトルクを伝達するドレッシング装置の一例を示す概略断面図である。
図26に示される実施形態では、
図2に示されるベローズ44、上側円筒部45、および下側円筒部46の代わりに、円環状の上側フランジ81、円環状の下側フランジ82、複数のトルク伝達ピン84、および複数のばね機構85とが設けられる。特に説明しない本実施形態の構成は、
図2に示される実施形態の構成と同一であるため、その重複する説明を省略する。
【0121】
上側フランジ81は、下側フランジ82と同一の直径を有している。上側フランジ81は、ドレッサーシャフト23に固定されており、上側フランジ81と下側フランジ82との間には微小な隙間が形成されている。上側フランジ81および下側フランジ82は、例えば、ステンレス鋼などの金属から構成されている。
【0122】
下側フランジ82は、ドレッサー7のスリーブ35の上面に固定され、ドレッサー7に連結される。上側球面軸受52の第1摺接部材53は、下側フランジ82と第2摺接部材54とに挟まれている。さらに、上側フランジ81と下側フランジ82とは、複数のトルク伝達ピン(トルク伝達部材)84により互いに連結されている。これらのトルク伝達ピン84は、上側フランジ81および下側フランジ82の周り(すなわち、ドレッサーシャフト23の中心軸の周り)に等間隔に配置されている。トルク伝達ピン84は、ドレッサーシャフト23に対するドレッサー7の傾動を許容しつつ、ドレッサーシャフト23のトルクをドレッサー7に伝達する。
【0123】
トルク伝達ピン84は、球面状の摺接面を有しており、この摺接面は、上側フランジ81の収容孔に緩やかに係合している。トルク伝達ピン84の摺接面と上側フランジ81の収容孔との間には、微小な隙間が形成されている。下側フランジ82、および該下側フランジ82に連結されたドレッサー7が、上側球面軸受52および下側球面軸受55を介して上側フランジ81に対して傾くと、トルク伝達ピン84は、上側フランジ81との係合を維持しつつ、下側フランジ82およびドレッサー7と一体に傾く。
【0124】
トルク伝達ピン84は、ドレッサーシャフト23のトルクを下側フランジ82及びドレッサ−7に伝達する。このような構成により、ドレッサー7及び下側フランジ82は、上側球面軸受52および下側球面軸受55の回転中心CPを支点に傾動可能であり、かつその傾動運動を拘束せずに、ドレッサーシャフト23のトルクをトルク伝達ピン84を介してドレッサー7に伝達することができる。
【0125】
さらに、上側フランジ81と下側フランジ82とは、複数のばね機構85により互いに連結されている。これらのばね機構85は、上側フランジ81および下側フランジ82の周り(すなわち、ドレッサーシャフト23の中心軸の周り)に等間隔に配置されている。各ばね機構85は、下側フランジ82に固定され、上側フランジ81を貫通して延びるロッド85aと、ロッド85aの上端に形成された鍔部と上側フランジ81の上面との間に配置されたばね85bとを有している。ばね機構85は、ドレッサー7及び下側フランジ82の傾動に抗する力を発生して、ドレッサー7を元の位置(姿勢)に戻すものである。
【0126】
図2に示される実施形態では、ドレッサーシャフト23とドレッサー7とを連結するベローズ44は、ドレッサー7の傾動に応じて変形しながら、ドレッサーシャフト23のトルクを受けている。したがって、ベローズ44は、ある程度の剛性を有する必要があり、回転中心CPまわりの傾き剛性Kθを小さくすることができない。一方で、
図26に示される実施形態では、トルク伝達ピン84がドレッサーシャフト23のトルクをドレッサー7に伝達するので、変位部(本実施形態では、ドレッサー7と下側フランジ82)が傾くときの回転中心CPまわりの傾き剛性Kθは、ばね85bのばね定数に応じて変更可能である。したがって、回転中心CPまわりの傾き剛性Kθを任意に設定することが可能であり、その結果、回転中心CPまわりの傾き剛性Kθを小さくすることができる。
【0127】
次に、同一の回転中心CPを有する上側球面軸受52と下側球面軸受55とを備えた連結機構50によって、ドレッサーシャフト(駆動軸)23に傾動可能に連結されるドレッサー(回転体)7の最大押付荷重FDmaxを決定する最大押付荷重決定方法を説明する。
【0128】
本実施形態の最大押付荷重決定方法では、距離h(すなわち、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離)が既知である場合に、ドレッサー7にばたつきや振動を発生させずに、ドレッサー7を研磨パッド10の研磨面10aに押し付けることができるドレッサー(回転体)7の最大押付荷重FDmaxを決定する。
【0129】
本実施形態の最大押付荷重決定方法は、並進運動の運動方程式である上述の式(8)、および傾動運動の運動方程式である上述の式(10)を特定する。さらに、並進運動の運動方程式から、並進運動の安定条件式である上述の式(9)を特定し、傾動運動の運動方程式から、傾動運動の安定条件式である上述の式(11)を特定する。
【0130】
さらに、並進運動の安定条件式から、以下の式(22)を得ることができる。
FD>(−Cx)/μ’ ・・・(22)
式(22)から、並進運動においてドレッサー7にばたつきや振動を発生させない押付荷重FDの上限値(臨界値)FD1は、以下の式(23)で表される。
FD1=(−Cx)/μ’ ・・・(23)
【0131】
同様に、傾動運動の安定条件式から、以下の式(24)を得ることができる。
FD>(−C)/(μ’・h
2+η・Rd・h) ・・・(24)
式(24)から、傾動運動においてドレッサー7にばたつきや振動を発生させない押付荷重FDの上限値(臨界値)FD2は、以下の式(25)で表される。
FD2=(−C)/(μ’・h
2+η・Rd・h) ・・・(25)
【0132】
並進運動における押付荷重の臨界値FD1、および傾動運動における押付荷重の臨界値FD2を算出するときは、研磨パッド10の特性から想定されるμ’の値を用いてもよいし、ストライベック曲線から得られたμ’の値を用いてもよい。いずれにしても、μ’の値は、想定されるかまたは得られた最も大きな負の値を用いるのが好ましい。並進運動の減衰係数Cxは、実験などから得られた所定の値を設定する(例えば、Cxを0.05と仮定する)。同様に、回転中心CPまわりの減衰係数Cは、実験などから得られた所定の値を設定する(例えば、Cを0.05と仮定する)。さらに、ドレッサー7の半径Rdに対する荷重半径Rの比ηは、想定される最大相対速度Vから決定してもよいし、実験などから得られた所定の値を用いてもよい(例えば、ηを0.8と仮定する)。ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hおよびドレッサー7の半径Rdは、既知の値が用いられる。
【0133】
本実施形態の最大押付荷重決定方法では、さらに、並進運動における押付荷重の臨界値FD1と傾動運動における押付荷重の臨界値FD2とを比較する。さらに、本実施形態の最大押付荷重決定方法では、並進運動における押付荷重の臨界値FD1が傾動運動における押付荷重の臨界値FD2よりも小さいか等しいときは、並進運動における押付荷重の臨界値FD1をドレッサー7の最大押付荷重FDmaxに決定する。並進運動における押付荷重の臨界値FD1が傾動運動における押付荷重の臨界値FD2よりも大きいときは、傾動運動における押付荷重の臨界値FD2をドレッサー7の最大押付荷重FDmaxに決定する。必要に応じて、より小さいほうの臨界値に所定の安全率(例えば、0.8)を乗算して、得られた押付荷重の値を、最大押付荷重FDmaxに決定してもよい。
【0134】
次に、上述した回転中心位置決定方法を実行するための回転中心位置決定プログラムについて説明する。
図27は、回転中心位置決定プログラムを実行するコンピュータ90の一例を示す模式図である。
図27に示されるように、コンピュータ90は、回転中心位置決定プログラムを格納するハードディスクなどの記憶装置91と、回転中心位置決定プログラムを処理する演算部92と、回転中心位置決定プログラムを実行するために必要な情報を入力するキーボードなどの入力部93とを有する。演算部92は、CPU(Central Processing Unit)92a、ROM(Read Only Memory)92b、RAM(Random Access Memory)92cなどから構成され、記憶装置91に格納された回転中心位置決定プログラムに基づいて、回転中心CPの位置の範囲を算出する。演算部92で演算された回転中心位置CPの位置の範囲は、コンピュータ90に備えられた表示部95に表示される。
【0135】
コンピュータ90で実行される回転中心位置決定プログラムは、CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto Optical Disk)、メモリカードなどのコンピュータ90で読み取り可能な記録媒体から記憶装置91に格納されてもよいし、インターネットなどの通信ネットワークを介して記憶装置91に格納されてもよい。
【0136】
図28は、一実施形態に係る回転中心位置決定プログラムに基づいて、
図2に示される連結機構50の回転中心CPを決定する一連の処理を示すフローチャートである。本実施形態に係る回転中心位置決定プログラムは、上述した傾動運動の運動方程式(10)に基づいて特定された安定条件式(11)から、式(12)に示される距離hの範囲(すなわち、回転中心CPの位置の範囲)を算出するプログラムを含んでいる。すなわち、回転中心位置決定プログラムは、式(12)に基づいて、ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hの範囲を算出するプログラムを含んでいる。
【0137】
コンピュータ90を用いて回転中心CPの位置を決定するために、最初に、コンピュータ90の入力部93から、ドレッサー7の半径Rd、μ’の値、ηの値、および回転中心CPまわりの減衰係数Cがコンピュータ90に入力される(ステップ1)。コンピュータ90に入力されるμ’の値は、研磨パッド10の特性から想定されるμ’の値を用いてもよいし、ストライベック曲線から得られたμ’の値を用いてもよい。いずれにしても、μ’の値は、想定されるかまたは得られた最も大きな負の値を用いるのが好ましい。押付荷重FDは、ドレッシングプロセスで用いられる最大押付荷重を用いるのが好ましい。さらに、コンピュータ90に入力されるηの値は、想定される最大相対速度Vから決定されてもよいし、実験などから得られた所定の値を用いてもよい。例えば、所定の値として、コンピュータ90に入力されるηの値を0.8と仮定する。所定の値に設定された減衰係数Cがコンピュータ90に入力される。例えば、回転中心CPまわりの減衰係数Cを、0.05と仮定する。
【0138】
次に、コンピュータ90は、回転中心位置決定プログラムに基づいて、上述した式(12)からドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hの範囲を算出し(ステップ2)、この距離hの範囲を表示部95に表示する(ステップ3)。ステップ2で算出された距離hの範囲は、ドレッサー7のばたつきや振動の発生を防止することができる回転中心CPの位置の範囲を示している。
【0139】
さらに、本実施形態に係る回転中心位置決定プログラムは、研磨面10aのうねりに対するドレッサー7の応答性を考慮するプログラムを含む。より具体的には、回転中心位置決定プログラムは、変位部の慣性中心Gと回転中心CPとの間の距離Lが0であるときの距離hがステップ2で算出された距離hの範囲に含まれるか否かを判断するプログラムを含んでいる。したがって、コンピュータ90は、回転中心位置決定プログラムによって、距離Lが0であるときの距離hがステップ2で算出された距離hの範囲内にあるか否かを判断する(ステップ4)。変位部の慣性中心Gは、ドレッサー7の形状および材料、および下側円筒部46の形状および材料から予め算出することができる。あるいは、回転中心位置決定プログラムが、ドレッサー7の形状および材料、および下側円筒部46の形状および材料から変位部の慣性中心Gを算出するプログラムを含んでいてもよい。
【0140】
距離Lが0であるときの距離hがステップ2で算出された距離hの範囲内にある場合は、コンピュータ90は、回転中心位置決定プログラムに基づいて、距離Lが0であるときの距離hを回転中心CPの位置として決定する(ステップ5)。距離Lが0であるときの距離hがステップ2で算出された距離hの範囲外にある場合は、コンピュータ90は、ステップ3で表示部95に表示された距離hの範囲に回転中心CPが位置するように、回転中心CPの位置を決定する(ステップ6)。
【0141】
ステップ6で、回転中心CPの位置を決定する際に、コンピュータ90は、回転中心CPがドレッサー7の下端面上に位置するように、回転中心CPの位置を決定してもよい。上述したように、回転中心CPがドレッサー7の下端面上にある(距離hが0である)ときは、ドレッサー7の押付荷重FD、ドレッサー7の半径Rd、およびμ’の値に関わらず、傾動運動の安定条件式(11)を満足することができる。
【0142】
回転中心位置決定プログラムは、研磨面10aのうねりに対するドレッサー7の応答性を考慮するプログラムを含んでいなくてもよい。すなわち、ステップ3で表示部95に表示された距離hの範囲に回転中心CPが位置するように、コンピュータ90が回転中心CPの位置を決定してもよい。この場合、コンピュータ90は、回転中心CPがドレッサー7の下端面上に位置するように、回転中心CPの位置を決定してもよい。
【0143】
次に、上述した最大押付荷重決定方法を実行するための最大押付荷重決定プログラムについて説明する。本実施形態の最大押付荷重決定プログラムは、
図27に示されるコンピュータ90と同一の構成を有するコンピュータによって実行される。コンピュータ90で実行される最大押付荷重決定プログラムは、CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto Optical Disk)、メモリカードなどのコンピュータ90で読み取り可能な記録媒体から記憶装置91に格納されてもよいし、インターネットなどの通信ネットワークを介して記憶装置91に格納されてもよい。
【0144】
図29は、一実施形態に係る最大押付荷重決定プログラムに基づいて、
図2に示されるドレッサー7の最大押付荷重FDmaxを決定する一連の処理を示すフローチャートである。本実施形態に係る最大押付荷重決定プログラムは、上述した並進運動の運動方程式(8)に基づいて特定された並進運動の安定条件式(9)から、並進運動における押付荷重の臨界値FD1を算出するプログラムを含んでいる。さらに、本実施形態に係る最大押付荷重決定プログラムは、上述した傾動運動の運動方程式(10)に基づいて特定された傾動運動の安定条件式(11)から、傾動運動における押付荷重の臨界値FD2を算出するプログラムを含んでいる。すなわち、最大押付荷重決定プログラムは、上述の式(23)に基づいて、並進運動における押付荷重の臨界値FD1を算出するプログラムと、上述の式(25)に基づいて、傾動運動における押付荷重の臨界値FD2を算出するプログラムとを含んでいる。
【0145】
コンピュータ90を用いて並進運動の押付荷重の臨界値FD1および傾動運動の押付荷重の臨界値FD2を算出するために、最初に、コンピュータ90の入力部93から、μ’の値、並進運動の減衰係数Cx、回転中心CPまわりの減衰係数C、ドレッサー7の半径Rdに対する荷重半径Rの比η、ドレッサー7の半径Rd、およびドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hがコンピュータ90に入力される(ステップ1)。
【0146】
コンピュータ90に入力されるμ’の値は、研磨パッド10の特性から想定されるμ’値を用いてもよいし、ストライベック曲線から得られたμ’の値を用いてもよい。いずれにしても、μ’の値は、想定されるかまたは得られた最も大きな負の値を用いるのが好ましい。並進運動の減衰係数Cxは、実験などから得られた所定の値を設定する(例えば、Cxを0.05と仮定する)。同様に、回転中心CPまわりの減衰係数Cは、実験などから得られた所定の値を設定する(例えば、Cを0.05と仮定する)。さらに、ドレッサー7の半径Rdに対する荷重半径Rの比ηは、想定される最大相対速度Vから決定してもよいし、実験などから得られた所定の値を用いてもよい(例えば、ηを0.8と仮定する)。ドレッサー7の下端面から回転中心CPまでの距離hおよびドレッサー7の半径Rdは、既知の値が用いられる。
【0147】
次に、コンピュータ90は、最大押付荷重決定プログラムに基づいて、上述した式(23)から並進運動における押付荷重の臨界値FD1を算出し(ステップ2)、さらに、上述した式(25)から傾動運動における押付荷重の臨界値FD2を算出する(ステップ3)。さらに、コンピュータ90は、最大押付荷重決定プログラムに基づいて、算出された臨界値FD1および算出された臨界値FD2を表示部95に表示する(ステップ4)。
【0148】
次に、コンピュータ90は、最大押付荷重決定プログラムに基づいて、並進運動における押付荷重の臨界値FD1と傾動運動における押付荷重の臨界値FD2とを比較する。より具体的には、コンピュータ90は、並進運動における押付荷重の臨界値FD1が傾動運動における押付荷重の臨界値FD2よりも小さいかまたは等しいか否かを判断する(ステップ5)。さらに、コンピュータ90は、最大押付荷重決定プログラムに基づいて、並進運動における押付荷重の臨界値FD1が傾動運動における押付荷重の臨界値FD2よりも小さいかまたは等しいときは、並進運動における押付荷重の臨界値FD1を最大押付荷重FDmaxに決定する(ステップ6)。並進運動における押付荷重の臨界値FD1が傾動運動における押付荷重の臨界値FD2よりも大きいときは、コンピュータ90は、傾動運動における押付荷重の臨界値FD1を最大押付荷重FDmaxに決定する(ステップ7)。さらに、コンピュータ90は、最大押付荷重FDmaxを表示部95に表示する(ステップ8)。
【0149】
図示はしないが、コンピュータ90は、最大押付荷重決定プログラムに基づいて、より小さいほうの臨界値に所定の安全率(例えば、0.8)を乗算することにより得られた押付荷重値を、最大押付荷重FDmaxに決定してもよい。この場合、コンピュータ90は、最大押付荷重FDmaxおよび安全率の両方を表示部95に表示するのが好ましい。
【0150】
図30は、研磨パッド10のプロファイルを取得するためのパッド高さ測定器100がドレッシング装置2に設けられた基板研磨装置1の一例を示す概略側面図である。パッド高さ測定器100以外の本実施形態の構成は、
図1に示される実施形態の構成と同一であるため、その重複する説明を省略する。
【0151】
図30に示されるパッド高さ測定器100は、研磨面10aの高さを測定するパッド高さセンサ101と、パッド高さセンサ40に対向して配置されたセンサターゲット102と、パッド高さセンサ101が接続されるドレッシング監視装置104とを有している。パッド高さセンサ101は、ドレッサーアーム27に固定されており、センサターゲット102は、ドレッサーシャフト23に固定されている。センサターゲット102は、ドレッサーシャフト23およびドレッサー7と一体に上下動する。一方、パッド高さセンサ101の上下方向の位置は固定されている。パッド高さセンサ101は変位センサであり、センサターゲット102の変位を測定することで、研磨面10aの高さ(研磨パッド10の厚さ)を間接的に測定することができる。センサターゲット102はドレッサー7に連結されているので、パッド高さセンサ101は、研磨パッド10のドレッシング中に研磨面10aの高さを測定することができる。
【0152】
パッド高さセンサ101は、研磨面10aに接するドレッサー7の上下方向の位置から研磨面10aを間接的に測定する。したがって、ドレッサー7の下面(ドレッシング面)が接触している研磨面10aの高さの平均がパッド高さセンサ101によって測定される。パッド高さセンサ101としては、リニアスケール式センサ、レーザ式センサ、超音波センサ、または渦電流式センサなどのあらゆるタイプのセンサを用いることができる。
【0153】
パッド高さセンサ101は、ドレッシング監視装置104に接続されており、パッド高さセンサ101の出力信号(すなわち、研磨面10aの高さの測定値)がドレッシング監視装置104に送られるようになっている。ドレッシング監視装置104は、研磨面10aの高さの測定値から、研磨パッド10のプロファイル(研磨面10aの断面形状)を取得し、さらに研磨パッド10のドレッシングが正しく行われているか否かを判定する機能を備えている。
【0154】
上述した回転中心位置決定方法および回転中心位置決定プログラムによって、連結機構50の回転中心CPの位置を決定した場合、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しない。同様に、上述した最大押付荷重決定方法および最大荷重押付プログラムによって、ドレッサー7の最大押付荷重FDmaxを決定した場合、ドレッサー7のばたつきや振動が発生しない。したがって、ドレッサー7が研磨パッド10の研磨面10aをドレッシングする際に、研磨パッド10の正確なプロファイルを取得することができる。その結果、ドレッシング監視装置104は、研磨パッド10のドレッシングが正しく行われているか否かを正確に判定することができる。
【0155】
上述した回転中心位置決定方法および回転中心位置決定プログラムの実施形態は、ドレッサー7をドレッサーシャフト23に連結する連結機構50の回転中心CPの位置を決定する実施形態である。しかしながら、同様の回転中心位置決定方法および回転中心位置決定プログラムを用いて、研磨ヘッド5をヘッドシャフト14に連結する連結機構の回転中心の位置を決定してもよい。さらに、上述した最大押付荷重決定方法および最大押付荷重決定プログラムの実施形態は、ドレッサー7の最大押付荷重FDmaxを決定する実施形態である。しかしながら、同様の最大押付荷重決定方法および最大押付荷重決定プログラムを用いて、研磨ヘッド5の最大押付荷重を決定してもよい。
【0156】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。