【文献】
Dengchao Wang,Physical origin of dynamic ion transport features through single conical nanopores at different bias,Chemical Science,2014年 5月 1日,Year.2014/Iss.5,PP.1827-1832
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電圧印加部は、前記基準電極の電位と前記第1電極の電位との間の第1電位差と、前記基準電極の電位と前記第2電極の電位との間の第2電位差とが互いに時分割されるように、前記第1電極と前記第2電極に対して電圧を供給する
ことを特徴とする請求項1記載の生体分子計測装置。
前記電圧印加部はさらに、前記第2電極に対して固定電圧を印加するとともに前記基準電極と前記第1電極に対して同じ電圧を印加する第1モード、前記基準電極に対して固定電圧を印加するとともに前記第1電極と前記第2電極に対して同じ電圧を印加する第2モード、を切り替える較正回路を備え、
前記生体分子計測装置はさらに、前記第1電極を流れる第1電流を計測する電流計測器を備える
ことを特徴とする請求項1記載の生体分子計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る生体分子計測装置の構成図である。本実施形態1に係る生体分子計測装置は、基準チャンバ101、第1チャンバ102、第2チャンバ103、ナノポアチップ108を備える。基準チャンバ101は、隔壁120〜121とナノポアチップ108によって囲まれている。第1チャンバ102は、隔壁123〜124とナノポアチップ108によって囲まれている。第2チャンバ103は、隔壁122および124とナノポアチップ108によって囲まれている。各チャンバは電解質溶液105で満たされている。
【0011】
基準チャンバ101は基準電極104を有し、第1チャンバ102は第1電極106を有し、第2チャンバ103は第2電極107を有する。各電極は電解質溶液105に浸されている。
【0012】
ナノポアチップ108上にはメンブレン109が形成され、さらにメンブレン109にナノポア110が開孔されている。
図1の左側のナノポア110によって基準チャンバ101と第1チャンバ102との間が連通し、右側のナノポア110によって基準チャンバ101と第2チャンバ103との間が連通する。メンブレン109は非常に薄く、測定対象の生体分子試料に応じて例えばサブnmから数10nmの厚みを持つ。ナノポア110の径は測定対象に依存するが、一本鎖のDNAを読む場合はおよそ1nm〜5nm程度の範囲であることが望ましい。およそ1nmより小さいと一本鎖DNAが通過できず、5nmより大きいと塩基種の違いに応じた封鎖電流の変化量が小さくなり、識別精度が悪化するからである。
【0013】
第1電極106には、電流計114と電圧源116が接続されている。第2電極107には、電流計115と電圧源117が接続されている。これら電流計と電圧源の詳細については後述する。
【0014】
図2は、封鎖電流を測定する方法を説明する図である。まず基準チャンバ101に測定対象のDNAサンプルを投入する。DNAは拡散により基準チャンバ101内に分布していく。このとき、基準電極104の電位を基準として第1電極106と第2電極107に対して正電圧を印加すると、ナノポア110の近傍に形成された電位勾配により、DNAサンプルがナノポア110へ導かれる。これは、DNAが負に帯電しているためである。DNAがナノポア110に入ると、ナノポア110中に存在する塩基の種類によって、ナノポア110の封鎖率が変化する。このとき、第1電極106と第2電極107にバイアス電圧をかけると、
図2に示すように塩基ごとの封鎖率に応じた電流(封鎖電流)が第1電極106と基準電極104の間、および第2電極107と基準電極104との間に流れる。このときの封鎖電流の値からナノポア110中の塩基種を推定することができる。
【0015】
DNAをナノポア110に対して導入する際の電圧値と、封鎖電流を測定するときのバイアス電圧値は、異なっていても構わない。たとえば1V以上の電圧でDNAを効率よくナノポア110へ導き、ナノポア110への導入後は100mV〜500mV程度に落として封鎖電流を測定することもできる。DNAをナノポア110へ導入した後にバイアス電圧を落とすことにより、ナノポア110近傍の電界が弱まり、DNAが進む速度が遅くなる。その結果、電流計114や115を変更することなく1塩基当たりの封鎖信号の測定サンプル点数を増やせるので、高精度化できる利点がある。
【0016】
封鎖信号を測定する際のクロストークについて説明する。
図1において、第1チャンバ102と第2チャンバ103は、隔壁124を介して隣接している。以下では説明の便宜上、第1チャンバ102、第1電極106、電流計114、電圧源116によって封鎖電流を測定する系をch1、第2チャンバ103、第2電極107、電流計115、電圧源117によって封鎖電流を測定する系をch2とする。隔壁124を樹脂などの絶縁材料で構成することにより、ch1とch2間におけるDC的なリーク電流によるクロストークを抑制することができる。一方、第1チャンバ102と第2チャンバ103との間には寄生容量Ciが存在するので、AC的には結合した状態となり、クロストークが発生する可能性がある。
【0017】
図3は、ch2において封鎖電流が100usでΔI
2だけ変化したとき、寄生容量Ciを介してch1に漏れ込むクロストーク量I
XTをシミュレーションにより評価した結果を示す。横軸は寄生容量Ciのキャパシタンスを表す。縦軸は封鎖信号クロストーク量I
XTに対するΔI
2の割合であり、信号品質の高さを示している。このケースにおいては、Ciが1nF程度であれば信号量は32dBであって十分確保できている。しかしCiが10nFになると信号量は0dBまで落ち込み、これはすなわちクロストーク量I
XTと封鎖信号量ΔI
2とがほぼ互角のレベルにまで悪化することを意味している。ナノポア110を高集積化するためには隔壁124を薄くすることが有効であるが、これによりCiが増加してクロストークが増加する。ナノポアアレイを高集積化しても封鎖電流の測定品質を落とさないためには、クロストーク量を減らさなくてはならない。
【0018】
図4は、
図1の等価回路図である。DNAによりナノポア110が封鎖されると、ナノポア110の抵抗値が変化すると考えることができる。そこで
図4においては、封鎖量に応じて変化する可変抵抗R
P1、R
P2としてナノポア110を表現している。C
M1、C
M2はそれぞれメンブレン109やナノポアチップ108がもつ寄生容量であり、前者は第1チャンバ102に対応し後者は第2チャンバ103に対応する。
【0019】
図5は、1ch分の電圧源116と電流計114の具体的な構成例である。
図5におけるアンプ回路406と電圧源407による回路は、電圧源116と電流計114を一体的に構成した回路に相当するものである。演算装置405は、フィルタ回路403とAD変換器404を介して電流計114による計測結果を取得し、処理する。フィルタ回路403、AD変換器404、演算装置405は、生体分子計測装置の構成要素としてもよいし、独立して構成してもよい。演算装置405は、例えばCPU(Central Processing Unit)を備えたコンピュータを用いて構成することができるが、その他適当な演算デバイスを用いてもよい。
【0020】
トランスインピーダンスアンプ401は、第1電極106に流れる封鎖電流Iinを電圧信号に変換する。トランスインピーダンスアンプ401のリファレンス端子には電圧源407から変調されたバイアス電圧V
Bが印加される。トランスインピーダンスアンプ401は、リファレンス端子に印加されたバイアス電圧V
Bと電流入力端子の電圧V
Eが等しくなるように動作するので、電圧V
Eもバイアス電圧V
Bに応じて変調される。このときの封鎖電流I
inは、ナノポア110の等価抵抗R
Pを用いて下記式1で表される。バイアス電圧V
Bの変調方法は限定されないが、ここでは単純な正弦波を仮定してV
E =V
0 *sin(ωt)とおいた。ωは角周波数である。
【0022】
図6は、各信号の波形図である。ナノポア110の封鎖率が変化するとR
pが変化し、結果として式1のI
in(t)はR
pの変化によって振幅変調された正弦波となる。波形600は、バイアス電圧V
Bと電圧V
Eの電圧波形である。仮にナノポア110中のDNAの搬送により封鎖率が変化して、等価抵抗R
Pが波形601のように変化すると、封鎖電流I
inは波形602のような振幅変調波形となる。トランスインピーダンスアンプ401の出力V
O1は、I
in*R
F+V
Eとなる。差動アンプ402がV
E成分を差し引くことにより、波形603に示す出力V
O2=I
in*R
Fが得られる。V
O2はフィルタ回路403によって振幅復調され、波形601を増幅した出力波形604が得られる。フィルタ回路403は、単純にはダイオードと抵抗、容量で構成される古典的な包絡線検波回路でもよいし、後述のロックインアンプによって同期検波してもよい。
【0023】
ch1とch2に対して互いに異なる周波数ω
1、ω
2の正弦波をバイアス電圧V
Bとして与えることを考える。このとき、電流計114に対して入力される電流成分I
in(t)は下記式2と式3で表現される。
【0026】
I
RP1は、抵抗R
P1に流れる電流成分であり、所望の封鎖電流信号である。抵抗成分であるので、バイアス電圧V
Bに対して同位相かつ同周波数で変化する。I
CM1は、寄生容量C
M1に流れる電流成分であり、バイアス電圧V
Bと同周波数だが位相が90°回転する。I
CM2//RP2は、ch1とch2の間の寄生容量C
iを介して、容量C
M2と抵抗R
P2に平行に流れる電流成分である。I
CM2//RP2の周波数はω
1であり、I
RP1の周波数と等しいが、容量CiとC
M2の影響で位相が回転する。Φ
CM2//RP2はこの位相の回転角度である。I
117は、電圧源117へ流れ込む電流成分であり、バイアス電圧V
Bに対して位相と周波数が変化する。以上から、I
RP1以外の成分は位相や周波数がバイアス電圧V
Bとは異なることが分かる。したがって、得られた電流I
inに対し、バイアス電圧V
Bを参照信号として同期検波を実施することにより、周波数と位相を選択的に検波してI
RP1のみを抽出できる。
【0027】
図7は、フィルタ回路403としてロックインアンプを用いた例である。ロックインアンプは同期検波回路の1例である。アナログミキサ701は、測定対象の信号と参照信号を掛け合わせる。フィルタ702は、信号のDC成分を抽出する。必要に応じて、参照信号の位相を微調整する位相シフタ703を備えることもできる。本実施形態1においては参照信号として、トランスインピーダンスアンプ401に入力するバイアス電圧V
Bを入力する。これにより、ロックインアンプは式2の右辺のうち第1項の周波数と位相に合致する成分のみを精度よく抽出することができる。
【0028】
同期検波は必ずしも回路で実現する必要はない。例えば
図5に示すように、AD変換器404が計測結果をデジタル信号に変換した後、演算装置405が計測結果をデータ処理することによりI
RP1を抽出してもよい。これにより、集積度が向上した際にも回路規模の増大を防ぐことができる。回路によって同期検波しない場合でもフィルタ回路403はあってもよい。フィルタ回路403がローパスフィルタであれば、AD変換器404におけるエイリアシングを防ぎ、所望の帯域外にあるノイズを事前に除去することができる。その結果、より信号の品質を向上することができる。
【0029】
図8は、本実施形態1の変形例である。
図8において、
図5で説明した構成に加えてトランスインピーダンスアンプ401の電流入力端子から第1電極106に至る経路上の配線801にガード電極800を並行して配置した。ガード電極800は電圧源407に接続されている。これにより、配線801とガード電極800が同電位に保たれるので、配線801から周囲へリークする電流が低減され、より高精度に封鎖電流を測定することができる。この構成は、ナノポア110のインピーダンスが高く、配線801から周辺の回路へリークする電流が封鎖電流に比べて無視できない場合に特に有効である。第2電極107についても同様にガード電極を設けることができる。
【0030】
図9は、本実施形態1の変形例である。
図9において、基準チャンバ101を隔壁906によって分離している。さらに、基準電極104を2つの個別電極904、905として分離することにより封鎖電流の流れるDC経路を隣接ch間で分離するとともに、個別電極904と905に電圧源900と901(電圧源116と117に相当)を接続し、電流計114と115には電圧源を接続しないこととした。この構成においては、トランスインピーダンスアンプ401に対して接続する電圧源は電流入力端子側となる。リファレンス端子に対して入力する電位は、例えばGNDなどの基準電位でよい。これにより、トランスインピーダンスアンプ401は出力を基準電位に合わせるように動作する。
図5におけるトランスインピーダンスアンプ401の出力は、電圧V
Eとバイアス電圧V
Bの合算であるのでバイアス電圧V
Bを差し引く差動アンプ402が必要であったが、
図9におけるトランスインピーダンスアンプ401の出力はバイアス電圧V
Bが重畳されないので、差動アンプ402が不要になって回路が簡単化される。
【0031】
<実施の形態2>
図10は、本発明の実施形態2に係る生体分子計測装置の構成図である。本実施形態2に係る生体分子計測装置は、実施形態1で説明した構成に加えてさらにバイアス電圧をオフセットするためのDC電圧源V
OFSTを備えている。DC電圧源V
OFSTは、電圧源116〜117が供給する電圧の中心電圧を、基準電極104の電位からオフセットさせる作用を有する。
【0032】
DNAの性質として、外部電界の変化がある周波数(たとえば100Hz以下)であればDNAが外部電界の変化に追従して移動する一方、高い周波数(例えば10kHz〜10MHz)になると、DNA自体が電界に応答しなくなって移動しないことが知られている(例えば非特許文献:“Conformation dependent non−linear impedance response of DNA in nanofluidic device,”Pungetmongkol,et al.,Proc. IEEE Internationla conference on Nanotechnology,2015)。しかも、高い周波数領域においてはDNAが分極するので、外部電界との相互作用でDNAが直線状に伸びる性質がある。そこで、変調周波数をDNAの応答周波数より速く、かつ溶液中のイオンが応答できる周波数以下とすることにより、DNAを直線状に伸ばしつつ封鎖電流を測定できる。
【0033】
ナノポアの課題として、DNAが絡まったり自己組織化したりすることにより実効的な分子径が増大し、ナノポアが詰まって封鎖電流の測定精度が低下する可能性があることが挙げられる。上記の周波数帯で変調すればDNAが直線状になるので、詰まりによる測定精度低下の可能性を軽減できるメリットがある。DNAをシーケンスするためには、ナノポア中を一定速度で搬送することが望ましい。本実施形態2によれば、一定速度でDNAを搬送することができ、封鎖電流の信号品質を向上させることができる。DC電圧源V
OFSTが存在しない場合は、例えば基準電極104と第1電極106との間の電位差を生じさせることによってDNAを搬送することができる。
【0034】
図11は、本実施形態2の変形例である。
図11に示す生体分子計測装置は、アクチュエータ1100によってDNAを搬送する。アクチュエータ1100は1nm以下の位置分解能で制御できるものが好ましく、例えばピエゾ素子を用いたアクチュエータが好適である。アクチュエータ1100の先端にはDNAを固定するための修飾を施した基板1101が接続されており、そこに測定対象のDNA試料1102を固定する。
【0035】
本変形例におけるDNAの塩基配列決定方法は以下の通りである。まず、アクチュエータ1100をナノポア110に接近する方向へ駆動し、DNA試料1102の先端をナノポア110近傍へ近づける。このとき、第1電極106に対し、オフセット電圧源V
OFSTによって基準電極104を基準とした正の電圧を印加しておくことにより、ナノポア110近傍の電界によってDNA試料1102がナノポア110内へ誘導される。DNA試料1102がナノポア110に入ったかどうかは、封鎖電流が低下したことによって確認できる。次に、アクチュエータ1100を基板1101から離れる方向に駆動しながら、変調されたバイアス電圧を印加して封鎖電流の変化を測定することにより、塩基配列パターンを決定する。この期間においても、オフセット電圧源V
OFSTによって基準電極104を基準とした正の電圧を印加しておくことが望ましい。かかる構成によれば、塩基配列パターンの解読時にDNA試料1102に対して第1電極106へ向かう方向に張力Fを与え、DNA試料1102を直線状に伸ばす効果が期待できる。これにより、DNA試料1102を安定して搬送し、封鎖電流の測定精度を向上させることができる。
【0036】
<実施の形態3>
図12は、本発明の実施形態3に係る生体分子計測装置の構成図である。本実施形態3に係る生体分子計測装置は、実施形態1で説明した構成に加えてさらに、較正回路1200と電圧源1205を備えている。本実施形態3においては、DNAサンプルを投入する前に較正回路1200が電流計114と115の値を監視しながら電圧源116、117、1205の出力信号を制御する。これにより、Ciをはじめとした寄生容量成分を算出することができる。
【0037】
具体的には、電圧源117を基準電圧に固定して、電圧源1205と116を同一の信号(同一周波数、同一振幅、同一位相)で駆動すると、電流計114が計測する電流はCiに流れる電流成分である。このときの駆動周波数/駆動振幅/電流量からCiを算出することができる。同様に、電圧源1205を基準電圧に固定して、電圧源116と117を同一の信号で駆動すると、電流計114が計測する電流に基づきch1の寄生容量C
M1を算出することができる。寄生容量C
M2についても同様である。
【0038】
演算装置405は、これら寄生容量Ci、C
M1、C
M2をあらかじめ算出しておくことができる。演算装置405は、電流計114による計測結果に対して式2〜式3を用いることにより、I
in(t)のうちI
RP1に相当する成分を算出することができる。この場合、I
in(t)からI
RP1を抽出するための同期検波回路を用いる必要はなく、電流計114による計測結果をAD変換してそのまま演算装置405に対して引き渡せばよいので、回路構成を簡易化できる利点がある。
【0039】
図13は、演算装置405が寄生容量を求める手順を示す図である。ユーザはまず各チャンバに溶液を充填する(S1301)。その後、較正回路1200は上述のように各電極間の電位差をセットし、各電圧源から変調信号を印加する(S1302)。各電流計は電流信号を測定し、演算装置405はその結果に基づき各寄生容量を算出する(S1303)。精度を上げるため同様の処理を繰り返してもよい(S1304)。寄生容量を算出し終えるとチャンバに対してDNA試料を導入し(S1305)、封鎖電流を測定する(S1306)。この手順によれば、電解質溶液が接したことによって形成される各種寄生成分を正確に算出できるとともに、DNAサンプルの投入に伴う封鎖電流の変化の影響を抑制することができるため、封鎖電流の測定精度を向上することができる。
【0040】
<実施の形態4>
図14は、本発明の実施形態4に係る生体分子計測装置における、バイアス電圧の印加タイミングを説明する波形図である。本実施形態4においては、バイアス電圧V
Bをch1とch2の間で時分割して間欠的に印加する。
【0041】
図15は、本実施形態4における1ch分の電圧源116と電流計114の構成例である。
図15に示す回路構成は、実施形態1で説明した構成に加えてさらに、スタンバイ電圧供給電源V
STBY、バイアス電圧選択スイッチ1400、駆動タイミング制御回路1401を備える。
図14の期間1300において、ch1にはバイアス電圧V
Bが印加される。この間、ch2のバイアス電圧V
Bはスタンバイ電圧V
STBYに固定する。期間1301においてはch1とch2を入れ替える。かかる構成によれば、時間軸上で隣接チャネル間の封鎖電流が分離されるので、クロストークをさらに低減することができる。
【0042】
封鎖電流測定時はナノポア近傍に高電界がかかるので、バイアスを長時間印加し続けるとポア径が増大する恐れがある。本実施形態4においてバイアス電圧V
Bを間欠駆動することにより、ナノポア110に対して電圧が印加される時間を低減でき、ナノポア110を長寿命化することができる。
【0043】
さらに、駆動タイミング制御回路1401によってAD変換器404を活性化するタイミングとバイアス電圧V
Bを印加するタイミングを同期してもよい。かかる構成によれば、AD変換器404を活性化する時間を必要最低限とし、装置の消費電力を抑制できる。同様にフィルタ回路403を活性化するタイミングもバイアス電圧V
Bを印加するタイミングと同期すれば、さらに消費電力を抑制できる。
【0044】
<実施の形態5>
図16は、本発明の実施形態5に係る生体分子計測装置の構成図である。本実施形態5においては、実施形態1で説明したアンプ回路406を複数設けてアレイ状に配置するとともに、各アンプ回路406の電圧源として電源V
B1とV
B2を設けた。隣接するアンプ回路406に対して、異なるバイアス電源を用いる。
図16に示す例においては、ch11を電源V
B1でバイアスするとともに、ch11と上下左右方向に隣接しているch21とch12は電源V
B2でバイアスする。V
B1とV
B2の出力をそれぞれ異なる周波数の正弦波とすれば、最も寄生容量が大きい隣接チャネル間のクロストークを抑制することができる。
【0045】
アンプ回路406をアレイ配置すると、各chの出力信号の配線間にも寄生容量C
Wが存在することになるので、出力間でクロストークが発生する要因となる。本実施形態5においては、隣接チャネル間の出力は異なる変調がかかっているので、たとえばV
O11とV
O12は後段のロックインアンプ700でそれぞれの変調波V
B1、V
B2を参照信号として復調することにより、出力を容易に分離することができる。また、バイアス電圧源V
B1とV
B2をチャネルごとに共通としているので、必要なハードウェア量を低減することができる。
【0046】
<実施の形態6>
図17は、本発明の実施形態6に係る生体分子計測装置の構成図である。本実施形態6においては、実施形態1で説明したアンプ回路406を複数設けてアレイ状に配置するとともに、各アンプ回路406の電圧源として4つの電源V
B1、V
B2、V
STBY、V
ZAPを設けた。さらにチャネルごとに、どのバイアス電源を接続するかを選択するスイッチ1601とその制御回路1600を備えた。
【0047】
封鎖電流測定時は実施形態5と同様に、隣接チャネルに異なるバイアス信号V
B1、V
B2を印加することにより、高いチャネル間分離性能を確保する。一方、DNA搬送中にナノポア110が詰まる場合がある。一度詰まってしまうと、以降の塩基配列の解読ができなくなるので、詰まりが発生した場合には随時詰まりを解消する必要がある。本実施形態6においては、詰まりが発生したナノポア110に対して選択的に負電圧V
ZAPを印加し、DNAに対して搬送方向とは逆向きの力を加えて詰まりを解消できるようにした。
【0048】
図18は、ch11、ch21、ch22のバイアス電圧の波形例である。バイアス電圧波形1800と1801から分かるように、通常の封鎖電流測定時は、隣接するチャネルch11とch21はバイアス電圧に対して互いに異なる周波数で変調をかけている。波形1804は、ch21の出力信号V
O21を検波した後の封鎖電流V
O21dの波形である。ナノポア110が詰まると、封鎖電流が波形1805のように比較的長時間低いレベルに安定する。演算装置405は、あらかじめ決められた封鎖電流レベルの閾値と無変動時間の閾値に基づいて、ナノポア110が詰まったかどうかを判定する。詰まったと判断された場合は、制御回路1600を経由してスイッチ1601で詰まったポアのみ選択的にバイアス電圧をV
ZAPに切り替える。すると波形1802のように、バイアス電圧V
Bが負側に大きく変化する。その結果、搬送方向とは逆の力をDNAに対して付与し、ナノポア110のつまりを解消することができる。
【0049】
こうした詰まり解消動作は、封鎖電流の信号変動よりも大きく電圧を変化させることもあるので、隣接するチャンネルにクロストークを及ぼす。しかし、詰まり解消動作を実施しているチャネルに隣接するチャネルは封鎖電流信号を変調・復調しているので、詰まり解消動作に起因するクロストークの影響を抑制することができる。詰まり解消動作によって隣接チャネルのナノポア110に対して予期せぬ過電圧が印加されてポア径が拡大される恐れがある場合は、隣接チャネルのバイアス電圧をスタンバイ電圧V
STBYに固定してもよい。これにより、隣接チャネルのポア径の拡大を低減することができる。
【0050】
<本発明の変形例について>
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。