(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子が、X線光電子分光法から得られるAl2p波形において結合エネルギー65eV以上85eV以下の範囲に少なくとも1つ以上のピークを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
前記アルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子が、X線光電子分光法から得られるAl2p波形において結合エネルギー74eVよりも高いエネルギー位置にピークを有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の負極活物質。
前記アルミニウムリン複合酸化物は前記負極活物質粒子に対して5質量%以下の範囲で含まれることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質。
前記ケイ素化合物粒子は、Cu−Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に対応する結晶子サイズは7.5nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の負極活物質。
前記負極活物質と炭素系活物質との混合物を含む負極電極と対極リチウムとから成る試験セルを作製し、該試験セルにおいて、前記負極活物質にリチウムを挿入するよう電流を流す充電と、前記負極活物質からリチウムを脱離するよう電流を流す放電とから成る充放電を30回実施し、各充放電における放電容量Qを前記対極リチウムを基準とする前記負極電極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと前記電位Vとの関係を示すグラフを描いた場合に、X回目以降(1≦X≦30)の放電時における、前記負極電極の電位Vが0.40V〜0.55Vの範囲にピークを有するものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の負極活物質。
前記付着させる工程において、前記アルミニウムリン複合酸化物として、第3リン酸アルミニウム及びメタリン酸アルミニウムの混合物を用いることを特徴とする請求項16に記載の負極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。このケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い初期充放電特性及びサイクル特性が望まれている。また、ケイ素材は、炭素系活物質と同等に近いスラリー安定性が望まれている。しかしながら、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用した際に、炭素系活物質と同等の初期充放電特性及びサイクル特性を与え、また炭素系活物質と同等のスラリー安定性を示す負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0051】
そこで、本発明者らは、二次電池の負極活物質として用いた際に、スラリーを安定化しつつ、電池容量を増加させ、サイクル特性及び初期充放電特性を向上させることが可能な負極活物質を得るために鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0052】
本発明の負極活物質は、負極活物質粒子を含む。そして、負極活物質粒子は、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有する。このケイ素化合物粒子は、Li化合物を含有する。また、負極活物質粒子はその表面の少なくとも一部にアルミニウムリン複合酸化物が付着したものである。ここでいう、「付着」は「被覆」も含む概念である。従って、例えば、本発明においてアルミニウムリン複合酸化物は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆していても良い。
【0053】
本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子がLi化合物を含むことで、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。また、本発明の負極活物質は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部にアルミニウムリン複合酸化物が付着したものであるため耐水性が高い。よって負極製造時に作製する、この負極活物質を混合した水系スラリーの安定性が向上し、ガスの発生を抑制できる。
【0054】
また、本発明におけるアルミニウムリン複合酸化物は、P
2O
5及びAl
2O
3の複合物である。そして、P
2O
5とAl
2O
3の質量比が1.2<P
2O
5の質量/Al
2O
3の質量<3.0の範囲である。すなわち、アルミニウムリン酸複合酸化物はP
2O
5及びAl
2O
3に区分けした場合、P
2O
5とAl
2O
3の質量比が1.2<P
2O
5の質量/Al
2O
3の質量<3.0の範囲である。このように、本発明の負極活物質は、アルミニウムリン複合酸化物におけるP
2O
5とAl
2O
3の質量比が上記の範囲内であるため、この負極活物質を混合した水系スラリーのpHが所望の範囲内となる。この質量比が1.2以下である負極活物質を水系スラリーに混合すると、水系スラリーのpHが高くなり過ぎるため、スラリー安定性が悪化する。また、この質量比が3.0以上である負極活物質を水系スラリーに混合すると、水系スラリーのpHが低くなりすぎるため、スラリー安定性が悪化し、ガスが発生しやすくなる。
【0055】
また、本発明では、P
2O
5とAl
2O
3の質量比が1.3<P
2O
5の質量/Al
2O
3の質量<2.5の範囲であることが好ましい。P
2O
5とAl
2O
3の質量比が上記の範囲内であれば、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーのpHがより好ましい値となる。なお、この質量比は、より好ましくは1.4以上2.2以下である。
【0056】
また、本発明では、このようなアルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子が、X線光電子分光法から得られるP2p波形において結合エネルギー135eVを超えて144eV以下の範囲に少なくとも1つ以上のピークを有する。従って、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーにおいて、スラリー安定性がより良好となり、ガス発生がより抑制される。
【0057】
このとき、上記のピークに加えて、アルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子が、X線光電子分光法から得られるAl2p波形において結合エネルギー65eV以上85eV以下の範囲に少なくとも1つ以上のピークを有するものであることが好ましい。特に、アルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子が、X線光電子分光法から得られるAl2p波形において結合エネルギー74eVよりも高いエネルギー位置にピークを有するものであることが好ましい。このようなピークを有するものであれば、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーにおいて、スラリー安定性が特に良好となり、ガス発生が特に抑制される。
【0058】
<非水電解質二次電池用負極>
まず、非水電解質二次電池用負極について説明する。
図1は本発明の一実施形態における非水電解質二次電池用負極(以下、「負極」とも呼称する)の断面構成を表している。
【0059】
[負極の構成]
図1に示したように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の負極活物質が用いられたものであれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0060】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)が挙げられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0061】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100質量ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。このような変形抑制効果によりサイクル特性をより向上できる。
【0062】
また、負極集電体11の表面は粗化されていてもよいし、粗化されていなくてもよい。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は、化学エッチング処理された金属箔などである。粗化されていない負極集電体は、例えば、圧延金属箔などである。
【0063】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な本発明の負極活物質を含んでおり、電池設計上の観点から、さらに、負極結着剤(バインダ)や導電助剤など他の材料を含んでいてもよい。負極活物質は負極活物質粒子を含み、負極活物質粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有するケイ素化合物粒子を含む。
【0064】
また、負極活物質層12は、本発明の負極活物質(ケイ素系負極活物質)と炭素系活物質とを含む混合負極活物質材料を含んでいても良い。これにより、負極活物質層の電気抵抗が低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。炭素系活物質としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などを使用できる。
【0065】
また、混合負極活物質材料は、本発明のケイ素系負極活物質と炭素系活物質の質量の合計に対する、ケイ素系負極活物質の質量の割合が6質量%以上であることが好ましい。ケイ素系負極活物質と炭素系活物質の質量の合計に対する、ケイ素系負極活物質の質量の割合が6質量%以上であれば、電池容量を確実に向上させることが可能となる。
【0066】
また、上記のように本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含み、ケイ素化合物粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有する酸化ケイ素材である。このケイ素化合物を構成するケイ素と酸素の比は、SiO
x:0.5≦x≦1.6の範囲であることが好ましい。xが0.5以上であれば、ケイ素単体よりも酸素比が高められたものであるためサイクル特性が良好となる。xが1.6以下であれば、ケイ素酸化物の抵抗が高くなりすぎないため好ましい。中でも、SiO
xの組成はxが1に近い方が好ましい。なぜならば、高いサイクル特性が得られるからである。なお、本発明におけるケイ素化合物の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。
【0067】
また、本発明の負極活物質において、ケイ素化合物粒子は、Li化合物を含有している。より具体的には、ケイ素化合物粒子は、Li
2SiO
3、Li
4SiO
4、及びLi
2Si
2O
5のうち少なくとも1種以上を含有していることが好ましい。このようなものは、ケイ素化合物中の、電池の充放電時のリチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO
2成分部を予め別のリチウムシリケートに改質させたものであるので、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。また、Li化合物として比較的安定しているこれらのLiシリケートを含んでいれば、電極作製時のスラリーに対する安定性がより向上する。
【0068】
また、ケイ素化合物粒子のバルク内部にLi
4SiO
4、Li
2SiO
3、Li
2Si
2O
5は少なくとも1種以上存在することで電池特性が向上するが、上記のうち2種類以上、特に3種類のLi化合物を共存させる場合に電池特性がより向上する。なお、これらのリチウムシリケートは、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)又はXPS(X−ray photoelectron spectroscopy:X線光電子分光)で定量可能である。XPSとNMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
XPS
・装置: X線光電子分光装置、
・X線源: 単色化Al Kα線、
・X線スポット径: 100μm、
・Arイオン銃スパッタ条件: 0.5kV/2mm×2mm。
29Si−MAS−NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ: 4mmHR−MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0069】
また、ケイ素化合物粒子は、Cu−Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に対応する結晶子サイズは7.5nm以下であることが好ましい。このピークは、結晶性が高い時(半値幅が狭い時)2θ=28.4±0.5°付近に現れる。ケイ素化合物粒子におけるケイ素化合物のケイ素結晶性は低いほどよく、特に、Si結晶の存在量が少なければ、電池特性を向上でき、さらに、安定的なLi化合物が生成できる。
【0070】
また、本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子において、
29Si−MAS−NMRスペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−95ppmで与えられるSi及びLiシリケート領域の最大ピーク強度値Aと、ケミカルシフト値として−96〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク強度値Bが、A>Bという関係を満たすことが好ましい。ケイ素化合物粒子において、SiO
2成分を基準とした場合にケイ素成分又はLi
2SiO
3の量が比較的多いものであれば、Liの挿入による電池特性の向上効果を十分に得られる。なお、
29Si−MAS−NMRの測定条件は上記と同様でよい。
【0071】
また、本発明の負極活物質において、負極活物質粒子は、表層部に炭素材を含むことが好ましい。負極活物質粒子がその表層部に炭素材を含むことで、導電性の向上が得られるため、このような負極活物質粒子を含む負極活物質を二次電池の負極活物質として用いた際に、電池特性を向上させることができる。
【0072】
このとき、負極活物質粒子の表層部の炭素材の平均厚さは、5nm以上5000nm以下であることが好ましい。炭素材の平均厚さが5nm以上であれば導電性向上が得られる。また、被覆する炭素材の平均厚さが5000nm以下であれば、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、電池容量の低下を抑制することができる。
【0073】
この炭素材の平均厚さは、例えば、以下の手順により算出できる。まず、TEM(透過型電子顕微鏡)により任意の倍率で負極活物質粒子を観察する。この倍率は、厚さを測定できるように、目視で炭素材の厚さを確認できる倍率が好ましい。続いて、任意の15点において、炭素材の厚さを測定する。この場合、できるだけ特定の場所に集中せず、広くランダムに測定位置を設定することが好ましい。最後に、上記の15点の炭素材の厚さの平均値を算出する。
【0074】
炭素材の被覆率は特に限定されないが、できるだけ高い方が望ましい。被覆率が30%以上であれば、電気伝導性がより向上するため好ましい。炭素材の被覆手法は特に限定されないが、糖炭化法、炭化水素ガスの熱分解法が好ましい。なぜならば、被覆率を向上させることができるからである。
【0075】
また、負極活物質粒子のメジアン径(D
50:累積体積が50%となる時の粒子径)が1.0μm以上15μm以下であることが好ましい。メジアン径が上記の範囲であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、負極活物質粒子が割れにくくなるからである。メジアン径が1.0μm以上であれば、負極活物質粒子の質量当たりの表面積を小さくでき、電池不可逆容量の増加を抑制することができる。一方で、メジアン径を15μm以下とすることで、粒子が割れ難くなるため新表面が出難くなる。
【0076】
また、アルミニウムリン複合酸化物はメジアン径が5.5μm以下であることが好ましい。メジアン径が小さいほど、アルミニウムリン複合酸化物の比表面積が大きくなるため、本発明の効果(スラリー安定性等)が発動しやすくなる。また、このようなアルミニウムリン複合酸化物は、メジアン径が比較的小さいため、異物として作用しにくいものとなる。従って、このようなアルミニウムリン複合酸化物が異物として電極に入り込み電極上にLiが析出するといった事態が起こりにくい。
【0077】
また、アルミニウムリン複合酸化物は負極活物質粒子に対して5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。アルミニウムリン複合酸化物の含有量が上記の範囲内であれば、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーのチキソ性が高くなるのを防ぐことができる。アルミニウムリン複合酸化物の含有量の下限は、例えば、負極活物質粒子に対して0.1質量%とすることができる。アルミニウムリン複合酸化物の含有量は、より好ましくは負極活物質粒子に対して0.5質量%以上2質量%以下、特に好ましくは負極活物質粒子に対して0.8質量%以上1.5質量%以下である。
【0078】
また、本発明の負極活物質(ケイ素系負極活物質)は、該ケイ素系負極活物質と炭素系活物質との混合物を含む負極電極と対極リチウムとから成る試験セルを作製し、該試験セルにおいて、ケイ素系負極活物質にリチウムを挿入するよう電流を流す充電と、ケイ素系負極活物質からリチウムを脱離するよう電流を流す放電とから成る充放電を30回実施し、各充放電における放電容量Qを対極リチウムを基準とする負極電極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと電位Vとの関係を示すグラフを描いた場合に、X回目以降(1≦X≦30)の放電時における、負極電極の電位Vが0.40V〜0.55Vの範囲にピークを有するものであることが好ましい。V−dQ/dV曲線における上記のピークはケイ素材のピークと類似しており、より高電位側における放電カーブが鋭く立ち上がるため、電池設計を行う際、容量発現しやすくなる。また、30回以内の充放電で上記ピークが発現する負極活物質であれば、安定したバルクが形成されるものであると判断できる。また、30回以内の充放電で上記ピークが発現すれば、ピークはその後より強くなり、安定する。
【0079】
また、負極活物質層に含まれる負極結着剤としては、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、カルボキシメチルセルロースなどである。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエンなどである。
【0080】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0081】
負極活物質層は、例えば、塗布法で形成される。塗布法とは、ケイ素系負極活物質と上記の結着剤など、また、必要に応じて導電助剤、炭素系活物質を混合した後に、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0082】
[負極の製造方法]
負極は、例えば、以下の手順により製造できる。まず、負極に使用する負極活物質の製造方法を説明する。最初に、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する。次に、ケイ素化合物粒子にリチウムを挿入する。これにより、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を作製する。次に、該負極活物質粒子の表面の少なくとも一部にP
2O
5及びAl
2O
3の複合物であるアルミニウムリン複合酸化物を、P
2O
5及びAl
2O
3の質量比が1.2<P
2O
5の質量/Al
2O
3の質量<3.0の範囲となるように付着させる。次に、アルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子から、X線光電子分光法から得られるP2p波形において結合エネルギー135eVを超えて144eV以下の範囲に少なくとも1つ以上のピークを有する負極活物質粒子を選別する。
【0083】
このような製造方法で製造された負極活物質は耐水性に優れるため、水系スラリーと激しい反応を起こし難いものとなる。すなわち、このような負極活物質は電極作製時のスラリーに対する安定性が良好である。また、このような製造方法であれば、二次電池の負極活物質として使用した際に、高容量であるとともに良好なサイクル特性及び初期充放電特性を有する負極活物質を製造することができる。
【0084】
続いて、本発明の負極活物質の製造方法をより具体的に説明する。
【0085】
まず、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する。以下では、酸素が含まれるケイ素化合物として、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素を使用した場合を説明する。まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる。このとき、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末の混合物を用いることができる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。
【0086】
発生した酸化珪素ガスは吸着板上で固体化され堆積される。次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で酸化珪素の堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕し、粉末化を行う。以上のようにして、ケイ素化合物粒子を作製することができる。なお、ケイ素化合物粒子中のSi結晶子は、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、又は、ケイ素化合物粒子生成後の熱処理で制御できる。
【0087】
ここで、ケイ素化合物粒子の表層に炭素材の層を生成しても良い。炭素材の層を生成する方法としては、熱分解CVD法が望ましい。熱分解CVD法で炭素材の層を生成する方法の一例について以下に説明する。
【0088】
まず、ケイ素化合物粒子を炉内にセットする。次に、炉内に炭化水素ガスを導入し、炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが、1200℃以下が望ましく、より望ましいのは950℃以下である。分解温度を1200℃以下にすることで、活物質粒子の意図しない不均化を抑制することができる。所定の温度まで炉内温度を昇温させた後に、ケイ素化合物粒子の表面に炭素層を生成する。また、炭素材の原料となる炭化水素ガスは、特に限定しないが、C
nH
m組成においてn≦3であることが望ましい。n≦3であれば、製造コストを低くでき、また、分解生成物の物性を良好にすることができる。
【0089】
次に、上記のように作製したケイ素化合物粒子に、Liを挿入する。これにより、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を作製する。すなわち、これにより、ケイ素化合物粒子が改質され、ケイ素化合物粒子内部にLi化合物が生成する。Liの挿入は、熱ドープ法により行うことが好ましい。
【0090】
熱ドープ法による改質では、例えば、ケイ素化合物粒子をLiH粉やLi粉と混合し、非酸化雰囲気下で加熱をすることで改質可能である。非酸化雰囲気としては、例えば、Ar雰囲気などが使用できる。より具体的には、まず、Ar雰囲気下でLiH粉又はLi粉とケイ素化合物粒子を十分に混ぜ、封止を行い、封止した容器ごと撹拌することで均一化する。その後、700℃〜750℃の範囲で加熱し改質を行う。またこの場合、Liをケイ素化合物粒子から脱離するには、加熱後の粉末を十分に冷却し、その後アルコールやアルカリ水、弱酸や純水で洗浄しても良い。
【0091】
また、酸化還元法によって、ケイ素活物質粒子にLiを挿入しても良い。酸化還元法による改質では、例えば、まず、エーテル溶媒にリチウムを溶解した溶液Aにケイ素活物質粒子を浸漬することで、リチウムを挿入できる。この溶液Aに更に多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物を含ませても良い。リチウムの挿入後、多環芳香族化合物やその誘導体を含む溶液Bにケイ素活物質粒子を浸漬することで、ケイ素活物質粒子から活性なリチウムを脱離できる。この溶液Bの溶媒は例えば、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。または溶液Aに浸漬させた後、得られたケイ素活物質粒子を不活性ガス下で熱処理しても良い。熱処理することにLi化合物を安定化することができる。その後、アルコール、炭酸リチウムを溶解したアルカリ水、弱酸、又は純水などで洗浄する方法などで洗浄しても良い。
【0092】
溶液Aに用いるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。この中でも特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンを用いることが好ましい。これらの溶媒は、脱水されていることが好ましく、脱酸素されていることが好ましい。
【0093】
また、溶液Aに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができ、直鎖ポリフェニレン化合物としては、ビフェニル、ターフェニル、及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0094】
溶液Bに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0095】
また、溶液Bのエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル等を用いることができる。
【0096】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン等を用いることができる。
【0097】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸イソプロピル等を用いることができる。
【0098】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0099】
アミン系溶媒としては、メチルアミン、エチルアミン、及びエチレンジアミン等を用いることができる。
【0100】
また、電気化学的ドープ法により改質を行っても良い。この時、挿入電位、脱離電位の調整や電流密度、浴槽温度、挿入脱離回数を変化させることでバルク内生成物質を制御することができる。例えば、
図6に示すバルク内改質装置20を用いて、バルク内改質を行うことができる。なお、装置構造はバルク内改質装置20の構造に特に限定されない。
【0101】
図6に示すバルク内改質装置20は、電解液23で満たされた浴槽27と、浴槽27内に配置され、電源26の一方に接続された対極21と、浴槽27内に配置され、電源26の他方に接続された粉末格納容器25と、対極21と粉末格納容器25との間に設けられたセパレータ24とを有している。粉末格納容器25には、ケイ素化合物粒子22が格納される。
【0102】
電気化学的ドープ法による改質では、例えば、電解液23にリチウム塩を溶解するか、又は、Liを含む化合物を対極21に組み、電源26で粉末格納容器25と対極21との間に電圧をかけて、電流を流す事でケイ素化合物粒子にリチウムを挿入できる。
【0103】
電気化学的にLiを挿入することで、熱的方法で挿入したLiと異なったサイトにLiが挿入される。そのため、例えば、熱ドープ後に更に電気化学的ドープを行えば、さらなる初回効率の向上が可能になるとともに、熱的方法でのケイ素結晶子の成長を緩和することが可能である。
【0104】
電気化学的ドープ法に用いるリチウム源としては、金属リチウム、遷移金属リチウムリン酸塩、Niのリチウム酸化物、Coのリチウム酸化物、Mnのリチウム酸化物、硝酸リチウム、ハロゲン化リチウムのうちの少なくとも一つを用いることができる。なお、リチウム塩の形態は問わない。即ち、リチウム塩を対極21として用いてもよく、電解液23の電解質として用いてもよい。
【0105】
このとき、電解液23の溶媒としては、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジオキサン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、及びこれらの混合物などを用いることができる。また、電解液23の電解質として、LiBF
4、LiPF
6、LiClO
4及びこれらの誘導体も用いることができ、Li源も兼ねる電解質としては、特に、LiNO
3、LiClなども用いることができる。また、電気化学的ドープ法において、Liの挿入後、ケイ素化合物粒子からのLiの脱離過程を含んでもよい。これによってケイ素化合物粒子に挿入されるLi量を調整することが可能である。
【0106】
なお、熱ドープ法によって改質を行った場合、ケイ素化合物粒子から得られる
29Si−MAS−NMRスペクトルは酸化還元法を用いた場合とは異なる。
図2に酸化還元法により改質を行った場合にケイ素化合物粒子から測定される
29Si−MAS−NMRスペクトルの一例を示す。
図2において、−75ppm近辺に与えられるピークがLi
2SiO
3に由来するピークであり、−80〜−100ppmに与えられるピークがSiに由来するピークである。なお、−80〜−100ppmにかけて、Li
2SiO
3、Li
4SiO
4以外のLiシリケートのピークを有する場合もある。
【0107】
また、
図3に熱ドープ法により改質を行った場合にケイ素化合物粒子から測定される
29Si−MAS−NMRスペクトルの一例を示す。
図3において、−75ppm近辺に与えられるピークがLi
2SiO
3に由来するピークであり、−80〜−100ppmに与えられるピークがSiに由来するピークである。なお、−80〜−100ppmにかけて、Li
2SiO
3、Li
4SiO
4以外のLiシリケートのピークを有する場合もある。なお、XPSスペクトルから、Li
4SiO
4のピークを確認できる。
【0108】
次に、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子の表面の少なくとも一部にP
2O
5及びAl
2O
3の複合物であるアルミニウムリン複合酸化物を、P
2O
5及びAl
2O
3の質量比が1.2<P
2O
5の質量/Al
2O
3の質量<3.0の範囲となるように付着させる。
【0109】
アルミニウムリン複合酸化物の具体例としては、リン酸アルミニウムが挙げられる。リン酸アルミニウムは、Al
2O
3とP
2O
5に区分けした場合、これらの複合物で表記できる。また、リン酸アルミニウムの種類ごとにP
2O
5とAl
2O
3の含有割合は異なる。従って、用いるリン酸アルミニウムの種類を適宜選択することによって、上記の質量比を調整することができる。例えば、アルミニウムリン複合酸化物として第3リン酸アルミニウム(AlPO
4)、又は、第3リン酸アルミニウムとメタリン酸アルミニウム(Al(PO
3)
3)の混合物を用いることによって、負極活物質粒子の表面にアルミニウムリン複合酸化物を、P
2O
5及びAl
2O
3の質量比が上記の範囲となるように付着させることができる。
【0110】
特に、アルミニウムリン複合酸化物として上記の混合物を用いることが好ましい。メタリン酸アルミニウムは第3リン酸アルミニウムよりもP
2O
5の含有割合が高いので、メタリン酸アルミニウムを混合することによってアルミニウムリン複合酸化物中のP
2O
5の含有割合を高めることができる。従って、第3リン酸アルミニウムとメタリン酸アルミニウムの混合比を変えることによって、P
2O
5及びAl
2O
3の質量比の調整を簡便に行うことができる。また、一般的に第3リン酸アルミニウム単独のpHは7近辺、メタリン酸アルミニウム単独のpHは3.5近辺となる。従って、これらの混合比を変えることで、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーのpHを調整し、スラリーの安定性を調整することができる。すなわち、適切な混合比の上記混合物を使用することでスラリーの安定性をより高めることができる。なお、アルミニウムリン複合酸化物として第3リン酸アルミニウムのみを用いる場合、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーのpHがアルカリ側(pH11以上)となるため、スラリーがやや不安定になるが、許容範囲の下限値となる。一方で、アルミニウムリン複合酸化物としてメタリン酸アルミニウムのみを用いる場合、P
2O
5とAl
2O
3の質量比が3.0以上になってしまう。従って、この場合、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーのpHが酸性側にシフトしすぎてしまい、スラリーが不安定になる。すなわち、ガスが発生しやすくなる。従って、メタリン酸アルミニウムを使用する場合、これと第3リン酸アルミニウムを併用する必要がある。
【0111】
この付着工程は、例えば、以下のようにして行うことができる。まず、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子と、必要量のアルミニウムリン複合酸化物とをミキサーで乾式混合する方法が挙げられる。また別の方法として、以下に示す湿式混合法が挙げられる。まず、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子と、必要量のアルミニウムリン複合酸化物と、溶媒(例えば負極活物質粒子の質量に対して1〜10倍の純水)とを混合し、攪拌(例えば1〜60分攪拌)する。その後、得られた溶液をヌッチェで濾過し、真空乾燥(例えば50〜150℃で加熱しながら真空乾燥)をする。これら方法(乾式混合法、湿式混合法)により、負極活物質粒子の表面にアルミニウムリン複合酸化物を、P
2O
5及びAl
2O
3の質量比が上記の範囲となるように付着させることができる。
【0112】
なお、アルミニウムリン複合酸化物におけるP
2O
5とAl
2O
3の質量比は、例えば、ICP−OES(高周波誘導結合プラズマ発光分光質量分析法)、ICP−MS(高周波誘導結合プラズマ質量分析法)などにより測定することができる。また、この質量比は、原料として使用した試薬(Al(PO
3)
3やAlPO
4)におけるP
2O
5及びAl
2O
3の質量比から算出することもできる。リン酸アルミニウムは市場で購入して入手できるが、その場合、P
2O
5及びAl
2O
3の質量比が明記されていることが多く、その記載された質量比をそのまま用いて算出することもできる。
【0113】
また、アルミニウムリン複合酸化物のメジアン径としては、負極活物質粒子の表面に付着させる前のアルミニウムリン複合酸化物のメジアン径を用いることができる。購入した試薬(Al(PO
3)
3やAlPO
4)を粉砕する場合には、粉砕後のメジアン径である。負極活物質粒子の表面にアルミニウムリン複合酸化物を付着させた際、一部のアルミニウムリン複合酸化物が溶解し負極活物質粒子表面と反応するので、負極活物質粒子に付着させる前と比べて付着後のメジアン径は実際は少しだけ小さくなる。しかしながら、その変化は、付着後の負極活物質粒子を含むスラリーを負極集電体の表面に塗布した後にSEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)で見ても判断し辛い程度の変化である。従って、付着前のメジアン径を付着後のメジアン径として用いることができる。
【0114】
次に、アルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子から、X線光電子分光法から得られるP2p波形において結合エネルギー135eVを超えて144eV以下の範囲に少なくとも1つ以上のピークを有する負極活物質粒子を選別する。
【0115】
このとき、上記のピークに加えて、X線光電子分光法から得られるAl2p波形において結合エネルギー65eV以上85eV以下の範囲に少なくとも1つ以上のピークを有する負極活物質粒子を選別することが好ましい。この場合、特に、X線光電子分光法から得られるAl2p波形において結合エネルギー74eVよりも高いエネルギー位置にピークを有する負極活物質粒子を選別することが好ましい。
【0116】
一般的な文献値として存在するリン酸アルミニウム系のP2p波形及びAl2p波形におけるピーク位置の代表値は、Al 74eV,P 135eVとAl 74eV,P 134eVである。本発明の負極活物質の製造方法では、この文献値とは異なる位置(P2p波形において結合エネルギー135eVを超えて144eV以下の範囲)にピークを有する負極活物質粒子を選別する。これにより、水系スラリーに混合した際、スラリー安定性がより良好となり、ガス発生がより抑制される負極活物質を製造することができる。
【0117】
例えば、太平窯業薬品株式会社製の第3リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム等は、P2p波形及びAl2p波形におけるピーク位置の代表値が、Al 80.5eV,P 140.5eVとなる。従って、これらをアルミニウムリン複合酸化物として使用することで本発明の負極活物質を容易に製造することができる。但し、本発明の負極活物質の製造方法はこれらを用いる方法に限定されない。なお、これらのリン酸アルミニウムにおいてピーク位置が文献値に対してシフトしている原因は明確になっていない。すなわち、なぜAl 80.5eV等にピーク位置がシフトするのかが判明していない。これらのリン酸アルミニウムは文献におけるリン酸アルミニウムとは違う構造を取っている可能性がある。また、これらのリン酸アルミニウムにおいては、上記のピーク位置以外の位置にもピークを有する場合もある。
【0118】
なお、X線光電子分光法によりP2p波形及びAl2p波形を測定する際には、例えば、X線光電子分光装置を用い、X線源は単色化されたAlKα線を用い、X線スポット径は直径100μmとし、Arイオン銃スパッタ条件は、0.5〜3.0kV/2mm×2mmとすることができる。
【0119】
なお、負極活物質粒子の選別は、必ずしも負極活物質の製造の都度行う必要はなく、一度P2p波形において結合エネルギー135eVを超えて144eV以下の範囲に少なくとも1つ以上のピークを有する負極活物質粒子が得られる製造条件を見出して選択すれば、その後は、その選択された条件と同じ条件で負極活物質を製造することができる。
【0120】
以上のようにして作製した負極活物質を、負極結着剤、導電助剤などの他の材料と混合して、負極合剤とした後に、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。次に、負極集電体の表面に、上記のスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行ってもよい。以上のようにして、負極を作製できる。
【0121】
<リチウムイオン二次電池>
次に、本発明の負極活物質を含むリチウムイオン二次電池について説明する。ここでは具体例として、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を例に挙げる。
【0122】
[ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池の構成]
図4に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回体は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0123】
正負極リードは、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0124】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が巻回電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0125】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0126】
[正極]
正極は、例えば、
図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0127】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0128】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様とすることができる。
【0129】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物が挙げられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
xM1O
2あるいはLi
yM2PO
4で表される。式中、M1、M2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0130】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)などが挙げられる。リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0131】
[負極]
負極は、上記した
図1の非水電解質二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体11の両面に負極活物質層12を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池として充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができるためである。
【0132】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0133】
非対向領域、すなわち、上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため負極活物質層の状態が形成直後のまま維持される。これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0134】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0135】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0136】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0137】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒として、ハロゲン化鎖状炭酸エステル、又は、ハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において、負極活物質表面に安定な被膜が形成される。ここで、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(すなわち、少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0138】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素が好ましい。これは、他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は多いほど望ましい。これは、得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0139】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0140】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0141】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0142】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0143】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0144】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0145】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
本発明では、上記の本発明の負極活物質の製造方法によって製造した負極活物質を用いて負極を作製でき、該作製した負極を用いてリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0146】
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤とした後に、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また加熱又は圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0147】
次に、上記した
図1の非水電解質二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0148】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(
図1を参照)。
【0149】
続いて、電解液を調製する。続いて、超音波溶接などにより、
図4に示すように正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ開放状態にて、巻回電極体を封入する。正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。開放部から上記調製した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、開放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30を製造することができる。
【実施例】
【0150】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0151】
(実施例1−1)
以下の手順により、
図4に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30を作製した。
【0152】
最初に正極を作製した。正極活物質はリチウムニッケルコバルト複合酸化物であるLiNi
0.7Co
0.25Al
0.05O(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物:NCA)を95質量%と、正極導電助剤2.5質量%と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)2.5質量%とを混合し、正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmのものを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0153】
次に負極を作製した。まず、負極活物質を以下のようにして作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。このようにして得たケイ素化合物粒子のSiO
xのxの値は0.3であった。続いて、ケイ素化合物粒子の粒径を分級により調整した。その後、熱分解CVDを行うことで、ケイ素化合物粒子の表面に炭素材を被覆した。
【0154】
続いて、熱ドープ法によりケイ素化合物粒子にリチウムを挿入し改質した。まず、Ar雰囲気下でLiH粉とケイ素化合物粒子を十分に混ぜ、封止を行い、封止した容器ごと撹拌して均一化した。その後、700℃〜750℃の範囲で加熱し改質を行った。また、一部の活性なLiをケイ素化合物から脱離するために、加熱後のケイ素化合物粒子を十分に冷却した後、アルコールで洗浄した。以上の処理により、負極活物質粒子を作製した。
【0155】
次に、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子と、アルミニウムリン複合酸化物と、溶媒とを混合し、30分攪拌した。溶媒として純水を用い、純水の添加量は、負極活物質粒子の量の5倍とした。このとき、アルミニウムリン複合酸化物として第3リン酸アルミニウム(太平窯業薬品株式会社製、タイポリーL2)の粉砕物とメタリン酸アルミニウム(太平窯業薬品株式会社製)の粉砕物との混合物を用いた。今回用いた第3リン酸アルミニウム(AlPO
4)は、P
2O
5を55.46%、Al
2O
3を44.54%含むものであった。また、今回用いたメタリン酸アルミニウム(Al(PO
3)
3)は、P
2O
5を77.82%、Al
2O
3を22.18%含むものであった。また、このアルミニウムリン複合酸化物はメジアン径が0.8μmだった。また、アルミニウムリン複合酸化物の添加量は負極活物質粒子に対して1.5質量%とした。1.5質量%のうち1質量%分を第3リン酸アルミニウムとし、0.5質量%分をメタリン酸アルミニウムとした。従って、P
2O
5とAl
2O
3の質量比が1.70となった。なお、この質量比は以下のようにして算出した。
P
2O
5/Al
2O
3=(1)/(2)
(1)P
2O
5(質量%)=AlPO
4(質量%)×55.46+Al(PO
3)
3(質量%)×77.82
(2)Al
2O
3(質量%)=AlPO
4(質量%)×44.54+Al(PO
3)
3(質量%)×22.18
【0156】
攪拌後、得られた溶液をヌッチェで濾過し、100℃で真空乾燥した。これにより、負極活物質粒子の表面にアルミニウムリン複合酸化物を、P
2O
5及びAl
2O
3の質量比が1.70となるように付着させた。このようにして得られたアルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子は、X線光電子分光法から得られるP2p波形において結合エネルギー140.5eV(P 140.5eV)にピークを有するものであった。また、この負極活物質粒子は、Al2p波形において結合エネルギー80.5eV(Al 80.5eV)にピークを有するものであった。
【0157】
上記の負極活物質粒子と、炭素系活物質を1:9の質量比で配合し、負極活物質を作製した。ここで、炭素系活物質としては、ピッチ層で被覆した天然黒鉛及び人造黒鉛を5:5の質量比で混合したものを使用した。また、炭素系活物質のメジアン径は20μmであった。
【0158】
次に、作製した負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50nmの炭素微粒子)、スチレンブタジエンゴム(スチレンブタジエンコポリマー、以下、SBRと称する)、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)92.5:1:1:2.5:3の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。なお、上記のSBR、CMCは負極バインダー(負極結着剤)である。この負極合剤スラリーのpHは10.7であった。
【0159】
また、負極集電体としては、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔には、炭素及び硫黄がそれぞれ70質量ppmの濃度で含まれていた。最後に、負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は5mg/cm
2であった。
【0160】
次に、溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0161】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体の一端にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム(厚さ12μm)を用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだ後、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調製した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し、封止した。
【0162】
以上のようにして作製した二次電池のサイクル特性及び初期充放電特性を評価した。
【0163】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、0.2Cで2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、総サイクル数が499サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に、0.2C充放電で得られた500サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、容量維持率(以下、単に維持率ともいう)を算出した。通常サイクル、すなわち3サイクル目から499サイクル目までは、充電0.7C、放電0.5Cで充放電を行った。
【0164】
初期充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0165】
(実施例1−2〜実施例1−5)
ケイ素化合物のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例1−1と同様に、二次電池の製造を行った。この場合、ケイ素化合物の原料中の金属ケイ素と二酸化ケイ素との比率や加熱温度を変化させることで、酸素量を調整した。実施例1−1〜1−5における、SiO
xで表されるケイ素化合物のxの値を表1中に示した。
【0166】
このとき、実施例1−1〜1−5の負極活物質粒子は以下のような性質を有していた。負極活物質粒子中のケイ素化合物粒子の内部には、Li
2SiO
3及びLi
2Si
2O
5が含まれていた。また、ケイ素化合物は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が2.257°であり、そのSi(111)結晶面に起因する結晶子サイズは3.77nmであった。
【0167】
また、上記の全ての実施例において、
29Si−MAS−NMRスペクトルから得られるケミカルシフト値として−60〜−95ppmで与えられるSi及びLiシリケート領域のピークが発現した。上記の全ての実施例において、
29Si−MAS−NMRスペクトルから得られるケミカルシフト値として−96〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピークが発現した。また、上記全ての実施例で、
29Si−MAS−NMRスペクトルから得られるケミカルシフト値として−60〜−95ppmで与えられるSi及びLiシリケート領域の最大ピーク強度値Aと、−96〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク強度値Bとの関係がA>Bであった。
【0168】
また、負極活物質粒子に含まれる炭素材の平均厚さは100nmであった。また、負極活物質粒子のメジアン径D
50は4.0μmであった。
【0169】
また、上記のように作製した負極と対極リチウムとから、2032サイズのコイン電池型の試験セルを作製し、その放電挙動を評価した。より具体的には、まず、対極Liで0Vまで定電流定電圧充電を行い、電流密度が0.05mA/cm
2に達した時点で充電を終止させた。その後、1.2Vまで定電流放電を行った。この時の電流密度は0.2mA/cm
2であった。この充放電を30回繰り返し、各充放電において得られたデータから、縦軸を容量の変化率(dQ/dV)、横軸を電圧(V)としてグラフを描き、Vが0.4〜0.55(V)の範囲にピークが得られるかを確認した。その結果、SiOxのxが0.5未満である実施例1−1では、上記ピークが得られなかった。その他の実施例では、30回以内の充放電において上記ピークは得られ、上記ピークが初めて発現した充放電から30回目の充放電まで、全ての充放電において上記ピークが得られた。
【0170】
実施例1−1〜1−5の評価結果を表1に示す。
【0171】
【表1】
【0172】
表1に示すように、ケイ素化合物中の酸素量が増える、すなわち0.5≦xとなると、容量維持率が増加した。また、0.5≦x、特に1≦xとなる場合、Liドープ時にLiシリケートの存在率が十分になるためバルクが安定になり、スラリーにおいてガス発生が進行しにくくなったと考えられる。x≦1.6となる場合、ケイ素酸化物の抵抗が高くなりすぎず、電池評価を容易に行うことができ、容量維持率も良好であった。
【0173】
(実施例2−1〜実施例2−3)
ケイ素化合物粒子の内部に含ませるリチウムシリケートの種類を表2のように変更したこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。なお、実施例2−2は改質方法を酸化還元法に変更することでケイ素化合物粒子の内部に含ませるリチウムシリケートの種類を表2のように変更した。
【0174】
すなわち、実施例2−2では、炭素材を被覆したケイ素化合物粒子に対して酸化還元法によりリチウムを挿入し改質した。この場合、まず、ケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子を、リチウム片と、芳香族化合物であるナフタレンとをテトラヒドロフラン(以下、THFと呼称する)に溶解させた溶液(溶液A)に浸漬した。この溶液Aは、THF溶媒にナフタレンを0.2mol/Lの濃度で溶解させたのちに、このTHFとナフタレンの混合液に対して10質量%の質量分のリチウム片を加えることで作製した。また、負極活物質粒子を浸漬する際の溶液の温度は20℃で、浸漬時間は20時間とした。その後、負極活物質粒子を濾取した。以上の処理により負極活物質粒子にリチウムを挿入した。
【0175】
次に、負極活物質粒子を洗浄処理し、洗浄処理後の負極活物質粒子をAr雰囲気下で熱処理した。この時、600度で熱処理を行った。熱処理時間は3時間とした。以上の処理により、ケイ素化合物粒子に、結晶質のLi
4SiO
4を生成した。
【0176】
次に、負極活物質粒子を洗浄処理し、洗浄処理後の負極活物質粒子を減圧下で乾燥処理した。このようにして、負極活物質粒子の改質を行った。
【0177】
(比較例2−1)
ケイ素化合物粒子にリチウムの挿入を行わなかったこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0178】
実施例2−1〜2−3、比較例2−1の結果を表2に示す。
【0179】
【表2】
【0180】
ケイ素化合物がLi
2SiO
3、Li
4SiO
4、Li
2Si
2O
5のような安定したリチウムシリケートを含むことで、容量維持率、初期効率が向上した。特に、Li
2SiO
3とLi
2Si
2O
5の両方のリチウムシリケートを含む場合に、容量維持率、初期効率がより向上した。一方で、改質を行わず、ケイ素化合物にリチウムを含ませなかった比較例2−1では実施例2−1、2−2、2−3、1−3に比べて容量維持率、初期効率が低下した。
【0181】
(実施例3−1〜3−4)
ケイ素化合物粒子の表面に被覆された炭素材の平均厚さを表3のように変更したこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。炭素材の平均厚さは、CVD条件を変更することで調整できる。
【0182】
(実施例3−5)
ケイ素化合物粒子の表面に炭素材を被覆しなかったこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0183】
【表3】
【0184】
表3からわかるように、炭素材を被覆した場合、炭素材を被覆していない実施例3−5よりも良好な容量維持率及び初期効率が得られた。また、炭素材の平均厚さが5nm以上で導電性が特に向上するため、容量維持率及び初期効率を向上させることができる。一方、炭素材の平均厚さが5000nm以下であれば、電池設計上、ケイ素化合物粒子の量を十分に確保できるため、電池容量が低下することが無い。
【0185】
(実施例4−1、4−2)
P2p波形及びAl2p波形におけるピーク位置を表4のように変更したこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0186】
(比較例4−1)
アルミニウムリン複合酸化物の付着を行わなかったこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0187】
【表4】
【0188】
表4からわかるように、アルミニウムリン複合酸化物の付着を行わなかった場合(比較例4−1)、ガスの発生を抑制することができなかった。一方、アルミニウムリン複合酸化物の付着を行った場合(実施例1−3、4−1、4−2)、ガスの発生を抑制できた。これは、負極活物質の耐水性が向上し、この負極活物質を混合した水系スラリーの安定性が向上したためだと考えられる。
図7に本発明の実施例1−3において測定されたP2p波形を示す。また、
図8に、本発明の実施例1−3において測定されたAl2p波形を示す。
図7、8に示すように、実施例1−3の負極活物質は、P2p波形及びAl2p波形において、一般的な文献値(Al 74eV,P 135eVとAl 74eV,P 134eV)以外の位置(Al 80.5eV,P 140.5eV)にピークを有するものである。そのため、このような負極活物質を水系スラリーに混合した際、スラリー安定性がより良好となり、ガス発生がより抑制される。なお、
図7におけるP 125.5eVのピークは一般的なリン酸化物に由来するものである。
【0189】
(実施例5−1〜5−5、比較例5−1)
第3リン酸アルミニウムとメタリン酸アルミニウムの混合比(すなわち、P
2O
5とAl
2O
3の質量比)、アルミニウムリン複合酸化物の負極活物質粒子に対する添加量を表5のように変化させたこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。この際、得られるスラリーのpHも表5のように変化した。
【0190】
【表5】
【0191】
表5に示すように、アルミニウムリン複合酸化物として第3リン酸アルミニウムのみを用いた場合(実施例5−5)、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーのpHがアルカリ側(pH11以上)となるため、スラリーが不安定になるが、許容範囲の下限値となる。一方で、アルミニウムリン複合酸化物としてメタリン酸アルミニウムのみを用いる場合(比較例5−1)、P
2O
5とAl
2O
3の質量比が3.0以上になってしまう。従って、この場合、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーのpHが酸性側にシフトしすぎてしまい、スラリーが不安定になる。すなわち、ガスが発生しやすくなる。従って、メタリン酸アルミニウムを使用する場合、これと第3リン酸アルミニウムを併用する必要がある。アルミニウムリン複合酸化物を負極活物質粒子に対して1.5質量%添加し、第3リン酸アルミニウム1質量%に対して、メタリン酸アルミニウムを0.5質量%で添加した(P
2O
5/Al
2O
3(質量比)=1.70)場合(実施例1−3)、最も良好な結果が得られた。
【0192】
(実施例6−1〜6−5)
アルミニウムリン複合酸化物のメジアン径を表6のように変化させたこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0193】
(実施例6−6)
負極活物質粒子の表面にアルミニウムリン複合酸化物を付着させる方法を、湿式混合から、乾式混合に変更した以外、実施例6−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。具体的には、アルミニウム複合酸化物を粉砕し、得られた粉砕粉を、負極活物質粒子に対して1.5質量%となるように添加した。この際、粉砕粉と負極活物質粒子をミキサーで混ぜ材料(アルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子)を作成した。
【0194】
(実施例6−7)
負極活物質粒子の表面にアルミニウムリン複合酸化物を付着させる方法を、湿式混合から、乾式混合に変更した以外、実施例6−2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。具体的には、アルミニウム複合酸化物を粉砕し、得られた粉砕粉を、負極活物質粒子に対して1.5質量%となるように添加した。この際、粉砕粉と負極活物質粒子をミキサーで混ぜ材料(アルミニウムリン複合酸化物が付着した負極活物質粒子)を作成した。
【0195】
【表6】
【0196】
表6に示すように、アルミニウムリン複合酸化物はメジアン径が5.5μm以下であることが好ましい(実施例6−1〜6−4)。メジアン径が小さいほど、アルミニウムリン複合酸化物の比表面積が大きくなるため、本発明の効果(スラリー安定性等)が発動しやすくなる。また、このようなアルミニウムリン複合酸化物は、メジアン径が比較的小さいため、異物として作用しにくいものとなる。従って、このようなアルミニウムリン複合酸化物が異物として電極に入り込み電極上にLiが析出するといった事態が起こりにくい。
【0197】
(実施例7−1〜7−9)
ケイ素化合物粒子のケイ素結晶性を表7のように変化させたこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。なお、ケイ素化合物粒子中のケイ素結晶性は、原料の気化温度の変更、又は、ケイ素化合物粒子の生成後の熱処理で制御できる。実施例7−9では半値幅を20°以上と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例7−9のケイ素化合物は、実質的に非晶質であると言える。
【0198】
【表7】
【0199】
特に半値幅が1.2°以上で、尚且つSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い容量維持率が得られた。中でも、ケイ素化合物が非晶質である場合には、最も良い特性が得られた。
【0200】
(実施例8−1)
ケイ素化合物をSi及びLiシリケート領域の最大ピーク強度値Aと上記SiO
2領域に由来するピーク強度値Bとの関係がA<Bのものとしたこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。この場合、改質時にリチウムの挿入量を減らすことで、Li
2SiO
3の量を減らし、Li
2SiO
3に由来するピークの強度Aを小さくした。
【0201】
【表8】
【0202】
表8から分かるように、ピーク強度の関係がA>Bである場合の方が、電池特性が向上した。
【0203】
(実施例9−1)
上記試験セルにおける30回の充放電で得られたV−dQ/dV曲線において、いずれの充放電でもVが0.40V〜0.55Vの範囲にピークが得られなかった負極活物質を用いた以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0204】
【表9】
【0205】
放電カーブ形状がより鋭く立ち上がるためには、ケイ素化合物(SiOx)において、ケイ素(Si)と同様の放電挙動を示す必要がある。30回の充放電で上記の範囲にピークが発現しない、ケイ素化合物は比較的緩やかな放電カーブとなるため、二次電池にした際に、若干初期効率が低下する結果となった。ピークが30回以内の充放電で発現するものであれば、安定したバルクが形成され、容量維持率及び初期効率が向上した。
【0206】
(実施例10−1〜10−6)
負極活物質粒子のメジアン径を表10のように変化させたこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0207】
【表10】
【0208】
負極活物質粒子のメジアン径が0.5μm以上であれば、維持率が向上した。これは、負極活物質粒子の質量当たりの表面積が大きすぎず、副反応が起きる面積を小さくできたためと考えられる。一方、負極活物質粒子のメジアン径が15μm以下であれば、充電時に粒子が割れ難く、充放電時に新生面によるSEI(固体電解質界面)が生成し難いため、可逆Liの損失を抑制することができる。また、負極活物質粒子のメジアン径が15μm以下であれば、充電時の負極活物質粒子の膨張量が大きくならないため、膨張による負極活物質層の物理的、電気的破壊を防止できる。
【0209】
(実施例11−1)
改質方法を電気化学的ドープ法に変更したこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。電気化学的ドープ法では、
図6に示したバルク内改質装置を用いた。
【0210】
なお、実施例2−2、実施例11−1の負極活物質粒子中のケイ素化合物粒子の内部には、Li
4SiO
4が含まれていた。実施例1−3の負極活物質粒子中のケイ素化合物粒子の内部には、Li
2SiO
3及びLi
2Si
2O
5が含まれていた。
【0211】
【表11】
【0212】
酸化還元法や電気化学的ドープ法を用いた場合であっても良好な電池特性が得られた。
【0213】
(実施例12−1)
負極活物質中のケイ素系負極活物質粒子の質量の割合を変更したこと以外、実施例1−3と同じ条件で二次電池を作製し、電池容量の増加率を評価した。
【0214】
図5に、負極活物質の総量に対するケイ素系負極活物質粒子の割合と二次電池の電池容量の増加率との関係を表すグラフを示す。
図5中のAで示すグラフは、本発明の負極活物質において、ケイ素化合物粒子の割合を増加させた場合の負極の電池容量の増加率を示している。一方、
図5中のBで示すグラフは、Liをドープしていないケイ素化合物粒子の割合を増加させた場合の負極の電池容量の増加率を示している。
図5から分かるように、ケイ素化合物粒子の割合が6質量%以上となると、電池容量の増加率は従来に比べて大きくなり、体積エネルギー密度が、特に顕著に増加する。
【0215】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。