(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
〔縮合多環芳香族化合物〕
本発明の縮合多環芳香族化合物は、下記一般式(1)
【0023】
(式中、R
1及びR
2は、一方がアリール基、他方が水素原子を表し、R
3及びR
4は、一方が炭素数1〜4のアルキル基、他方が水素原子を表し、X
1及びX
2はそれぞれ独立に、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子を表す)
で表される縮合多環芳香族化合物である。
【0024】
一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物のうちで、合成が容易であることから、[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェン骨格上におけるアリール基の置換位置とアルキル基の置換位置とが対称的な化合物、すなわち、一般式(1)においてR
1がアリール基、R
2が水素原子、R
3が炭素数1〜4のアルキル基、R
4が水素原子である化合物、又は、一般式(1)においてR
1が水素原子、R
2がアリール基、R
3が水素原子、R
4が炭素数1〜4のアルキル基である化合物が好ましく、これら化合物の中でも、熱安定性がより高いことから、一般式(1)においてR
1がアリール基、R
2が水素原子、R
3が炭素数1〜4のアルキル基、R
4が水素原子である化合物が最も好ましい。
【0025】
上記炭素数1〜4のアルキル基は、炭素数1〜4の直鎖アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基)であってもよく、炭素数3〜4の分岐アルキル基(イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基)であってもよい。上記アルキル基は、縮合多環芳香族化合物の熱安定性及び溶解性がより高くなることから、炭素数2〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0026】
上記アリール基は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。上記アリール基は、芳香環を構成する炭素の数が少ないほど縮合多環芳香族化合物の溶解性がより高くなることから、芳香環を構成する炭素の数が6〜14であるアリール基(例えば、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換の1−ナフチル基、置換又は無置換の2−ナフチル基、置換又は無置換のビフェニル基、置換又は無置換のアンスラニル基など)であることが好ましく、芳香環を構成する炭素の数が6〜10であるアリール基(例えば、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換の1−ナフチル基、置換又は無置換の2−ナフチル基など)であることがより好ましく、フェニル基であることが最も好ましい。芳香環上の置換基は、アルキル基であることが好ましく、アルキル基の炭素数が多すぎると熱安定性が低下する恐れがあることから、炭素数が少ない方がより好ましく、炭素数1〜2のアルキル基であることが特に好ましい。
【0027】
一般式(1)で表される化合物の具体例を、下記表1及び表2に示す。
【0030】
上記縮合多環芳香族化合物は、示差走査熱量曲線において170℃未満に相転移を示すピークが観測されない化合物であることが好ましく、示差走査熱量曲線において200℃未満に相転移を示すピークが観測されない化合物であることがより好ましく、これにより、熱安定性がより高い縮合多環芳香族化合物やそれを用いた有機半導体薄膜及び有機半導体デバイスを実現できる。
【0031】
上記縮合多環芳香族化合物は、液晶性を示さないことが好ましい。これにより、熱安定性がより高い縮合多環芳香族化合物やそれを用いた有機半導体薄膜及び有機半導体デバイスを実現できる。
【0032】
また、上記縮合多環芳香族化合物は、有機溶媒に対する溶解度が十分に高いことが好ましく、具体的には、クロロホルムに対する溶解度が3.5mg/mL以上であることが好ましく、クロロホルムに対する溶解度が5mg/mL以上であることがより好ましい。これにより、有機溶媒に対する溶解性がより高く、塗布又は印刷による適切な膜厚の薄膜の形成が容易な縮合多環芳香族化合物を実現できる。有機溶媒に対する上記縮合多環芳香族化合物の溶解度は、高いほど好ましいので、上限は特にない。ただし、有機溶媒に対する溶解度が非常に高い縮合多環芳香族化合物については、有機溶媒に溶解させた溶液の塗布又は印刷により有機半導体薄膜を形成する場合には、溶解する限界まで縮合多環芳香族化合物を溶解させると、溶液中における縮合多環芳香族化合物の濃度が高くなりすぎて均質性の高い有機半導体薄膜を形成することが困難になる恐れがあるので、溶液中における縮合多環芳香族化合物の濃度を適宜設定すればよい。
【0033】
一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物は、例えば、R
1がアリール基(Ar)であり、R
3が炭素数1〜4のアルキル基であり、R
2及びR
4が水素原子である場合には、例えば下記スキーム1に示すように、対応する2−アルキル[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェンを原料として用いて臭素化を行って対応する2−アルキル−7−ブロモ[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェンを得た後、アリールボロン酸とのカップリング反応を行うことにより、合成できる。
【0035】
(上記スキーム中において、R
5は炭素数1〜4のアルキル基を表す)
上記スキーム1の出発物質である2−アルキル[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェンは、例えば、R
5が−CH
2R
6(R
6は炭素数1〜3のアルキル基を表す)で表されるアルキル基である場合には、例えば下記スキーム2に示すように、[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェンを出発原料として用いてフリーデル・クラフツ反応を行って2−アルキルカルボニル[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェンを得た後、これを還元することで、合成できる。
【0037】
また、上記スキーム1の出発物質である2−アルキル[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェンは、例えば、R
5がメチル基である場合には、下記スキーム3に示すように、[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェンを出発原料として用いて臭素化を行って2−ブロモ[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェンを得た後、この化合物をメチルボロン酸とのカップリング反応に付すことで、合成できる。
【0039】
〔有機半導体薄膜及びその形成方法、並びにそれに用いる有機半導体材料〕
本発明の有機半導体薄膜は、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含むものである。
【0040】
本発明の有機半導体薄膜の厚みは、その用途によって異なり、特に限定されるものではないが、通常は、0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜3μmであり、より好ましくは1nm〜1μmである。
【0041】
本発明の有機半導体薄膜の形成方法としては、各種の方法を用いることができる。一般的に、上記有機半導体薄膜の形成方法は、真空プロセスによる形成方法と、溶液プロセスによる形成方法とに大別され、何れを用いてもよい。上記真空プロセスによる有機半導体薄膜の形成方法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、分子積層法、CVD法、分子線エピタキシャル成長法、真空蒸着法等が挙げられる。また、溶液プロセスによる有機半導体薄膜の形成方法としては、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法等の塗布法;フレキソ印刷、樹脂凸版印刷等の凸版印刷法;オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法等の平板印刷法;グラビア印刷法等の凹版印刷法;シルクスクリーン印刷法、謄写版印刷法、リソグラフ印刷法等の孔版印刷法;インクジェット印刷法;マイクロコンタクト印刷法等が挙げられる。上記有機半導体薄膜は、上記した1つの形成方法によって形成することも、上記した形成方法を複数組み合わせて形成することも可能である。以下、有機半導体薄膜の形成方法について、詳細に説明する。
【0042】
本発明の有機半導体薄膜の形成方法としては、少なくとも1種類の一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物と、有機溶媒とを含む有機半導体材料を、有機半導体薄膜を形成しようとする表面(以下「被着面」と称する)上に塗布又は印刷した後、有機溶媒を除去する方法が好ましい。
【0043】
本発明の有機半導体材料は、上記方法に好適に使用されるものであり、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物と、有機溶媒とを含んでいる。本発明の有機半導体材料は、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を有機溶媒に溶解又は分散させることで調製することができる。
【0044】
上記有機半導体材料に使用する有機溶媒としては、被着面上への上記縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜の成膜を可能とするものであれば、特に限定されるものではない。上記有機溶媒としては、具体的には、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、アニソール、エトキシベンゼン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶媒;オクタフルオロペンタノール、ペンタフルオロプロパノール等のフッ化アルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル、炭酸ジエチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、フェニルシクロヘキサン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、デカヒドロナフタレン等の炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
有機半導体材料中における一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物の含有量は、有機溶媒の種類や作成する有機半導体薄膜の厚みにより異なり、一概に決めることは困難である。その目安としては、上記有機半導体材料の全量に対して、0.001重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましく、0.01重量%〜10重量%の範囲内であることがより好ましい。また、本発明の有機半導体材料は上記の有機溶媒に溶解又は分散していればよいが、均一な溶液として溶解している方が好ましい。
【0046】
上記有機半導体材料は、必要に応じて、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物以外の他の有機半導体や各種の添加剤を含むことができる。
【0047】
上記添加剤としては、例えば、半導体性を示す半導体性高分子化合物や、絶縁性を示す絶縁性高分子化合物などが挙げられる。上記半導体性高分子化合物の具体例として、ポリアセチレン系高分子、ポリジアセチレン系高分子、ポリパラフェニレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリアリールアミン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリチエニレンビニレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリアズレン系高分子、ポリピレン系高分子、ポリカルバゾール系高分子、ポリセレノフェン系高分子、ポリフラン系高分子、ポリ(p−フェニレン)系高分子、ポリインドール系高分子、ポリピリダジン系高分子、ポリスルフィド系高分子、ポリパラフェニレンビニレン系高分子、ポリエチレンジオキシチオフェン系高分子、核酸や、これらの誘導体などが挙げられる。
【0048】
一方、上記絶縁性高分子材料の具体例としては、アクリル系高分子、ポリエチレン系高分子、ポリメタクリレート系高分子、ポリスチレン系高分子、ポリエチレンテレフタレート系高分子、ナイロン系高分子、ポリアミド系高分子、ポリエステル系高分子、ビニロン系高分子、ポリイソプレン系高分子、セルロース系高分子、共重合系高分子およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0049】
半導体性高分子化合物、絶縁性高分子化合物等の高分子材料を使用するのであれば、有機半導体材料の総量を1とした場合における高分子材料の使用量は、通常は0.5%〜95%、好ましくは1%〜90%、より好ましくは3%〜75%、最も好ましくは5%〜50%の範囲である。なお、高分子材料を使用しなくてもよい。
【0050】
また、有機半導体材料には、得られる効果を損なわない限りにおいて、その他の添加物、例えば、キャリア発生剤(ドーパント)、導電性物質、粘度調整剤、表面張力調整剤、レベリング剤、浸透剤、濡れ調製剤、レオロジー調整剤などを加えてもよい。上記のその他の添加物を添加する場合、上記のその他の添加物の添加量は、有機半導体材料の総量を1とした場合、通常は0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%の範囲である。
【0051】
本発明の有機半導体材料は、他の添加物を含有してもよい。しかし、含有しなくても本発明の効果を得ることができる。
【0052】
上記の塗布又は印刷を用いた形成方法では、有機半導体薄膜の形成時における被着物(有機半導体薄膜をその表面上に形成しようとする物体)や有機半導体材料の温度等の環境も重要であり、被着物や有機半導体材料の温度によっては、有機半導体薄膜の特性が変化する(有機半導体薄膜を後述する有機半導体デバイスに使用した場合には、有機半導体デバイスの特性が変化する)ので、有機半導体薄膜の形成時の被着物及び有機半導体材料の温度を注意深く選択することが好ましい。被着物及び有機半導体材料の温度は、通常は、0〜200℃であり、好ましくは10〜120℃であり、より好ましくは15〜100℃である。有機半導体材料の温度は、当該有機半導体材料に含まれる有機溶媒の種類等に大きく依存するため、注意が必要である。
【0053】
上記の塗布又は印刷を用いた形成方法により形成される有機半導体薄膜の厚みは、通常、0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜3μmであり、より好ましくは1nm〜1μmである。
【0054】
次に、上述の塗布又は印刷を用いた方法に類似した有機半導体薄膜の形成方法として、水面上に上記有機半導体材料を滴下することにより一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜の単分子膜を作製し、その単分子膜を被着面上に移し積層させるラングミュアプロジェクト法;一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む液晶状態や融液状態の有機半導体薄膜形成用材料を毛管現象で基板間に導入する方法等も採用できる。
【0055】
さらに、他の有機半導体薄膜の形成方法として、前述した真空プロセスによって一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜を形成する方法についても説明する。
【0056】
この方法としては、上記縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜形成用材料を、ルツボや金属のボート等の容器中で真空下に加熱することで蒸発させ、蒸発した有機半導体薄膜形成用材料を、被着物の被着面に付着(蒸着)させる方法、すなわち、真空蒸着法が好ましく採用される。この蒸着の際の真空度は、通常は1.0×10
−1Pa以下であり、好ましくは1.0×10
−3Pa以下である。また、蒸着時の被着物の温度によっては、有機半導体薄膜の特性が変化する。有機半導体薄膜を後述する有機半導体デバイス(有機薄膜トランジスタ)の半導体層として使用した場合には、これにより、有機半導体デバイスの特性が変化するので、蒸着時の被着物の温度を注意深く選択することが好ましい。蒸着時の被着物の温度は、通常は0〜200℃であり、好ましくは5〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃であり、さらに好ましくは15〜120℃であり、特に好ましくは20〜100℃である。また、蒸着速度は、通常は0.001nm/秒〜10nm/秒であり、好ましくは0.01nm/秒〜1nm/秒である。また、上記有機半導体材料から形成される有機半導体薄膜の厚みは、通常、0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜3μmであり、より好ましくは1nm〜1μmである。
【0057】
本発明の有機半導体薄膜は、有機半導体デバイス、特に、有機薄膜トランジスタにおいて、半導体層を構成する有機半導体薄膜として利用可能である。
【0058】
〔有機半導体デバイス及びその製造方法〕
一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物をエレクトロニクス用途の材料として用いて、有機半導体デバイスを作製することができる。本発明の有機半導体デバイスは、上記した本発明の有機半導体薄膜(すなわち、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜)を含むものである。
【0059】
本発明の有機半導体デバイスは、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜を形成する工程を含む製造方法によって製造することができる。有機半導体デバイスの製造において、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜の形成方法には、前述した本発明の有機半導体薄膜の形成方法のいずれも採用することができるが、溶液プロセスによる有機半導体薄膜の形成方法、具体的には、上記した本発明の有機半導体材料を、有機半導体薄膜を形成しようとする表面上に塗布又は印刷して、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜を形成する方法がより好ましい。
【0060】
上記有機半導体デバイスとしては、例えば有機薄膜トランジスタや光電変換デバイス、有機太陽電池デバイス、有機ELデバイス、有機発光トランジスタデバイス、有機半導体レーザーデバイス等が挙げられる。これらについて詳細に説明する。
【0061】
(有機薄膜トランジスタ)
まず、有機薄膜トランジスタについて詳しく説明する。
【0062】
有機薄膜トランジスタは、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜からなる少なくとも1つの半導体層と、該半導体層に接して互いに離間するように配設された2つの電極、すなわち、ソース電極及びドレイン電極と、上記半導体層におけるソース電極に接する表面とドレイン電極に接する表面との間の領域(チャンネル領域)に対向するように配設されたゲート電極と呼ばれるもう一つの電極とを備え、ソース電極及びドレイン電極間に流れる電流を、ゲート電極に印加する電圧によって制御するものである。
【0063】
一般に、有機薄膜トランジスタとして、ゲート電極が絶縁膜からなる絶縁体層で半導体層と絶縁されている構造(Metal−Insulator−Semiconductor;MIS構造)の有機薄膜トランジスタがよく用いられる。MIS構造のうちで絶縁膜に金属酸化膜を用いるものはMOS(Metal−Oxide−Semiconductor)構造と呼ばれる。他の構造の有機薄膜トランジスタとしては、半導体層に対してショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造(Metal−Semiconductor;MES構造)もあるが、有機半導体を用いた有機薄膜トランジスタの場合、MIS構造がよく用いられる。
【0064】
以下、
図1を用いて有機薄膜トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれらの構造には限定されない。
【0065】
図1に、有機薄膜トランジスタのいくつかの態様例の概略断面図を示す。
図1(a)〜
図1(d)及び(f)に示す各態様例の有機薄膜トランジスタ10A〜10D及び10Fは、ソース電極1、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜を有する少なくとも1つの半導体層2、ドレイン電極3、絶縁体層4、ゲート電極5、基板6を備えている。
図1(e)に示す有機薄膜トランジスタ10Eは、ソース電極1、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜を有する少なくとも1つの半導体層2、ドレイン電極3、ゲート電極5を備えている。なお、各層2、4及び電極1、3、5の配置は、有機薄膜トランジスタの用途により適宜選択できる。
【0066】
有機薄膜トランジスタ10A〜10D及び10Fは、基板6、ソース電極1、及びドレイン電極3と平行な方向に電流が流れるので、横型トランジスタと呼ばれる。有機薄膜トランジスタ10A及び有機薄膜トランジスタ10Fは、半導体層2の下面(基板6に近い側の面)上にソース電極1及びドレイン電極3が配置された構造となっており、この構造はボトムコンタクト構造と呼ばれる。有機薄膜トランジスタ10B及び有機薄膜トランジスタ10Cは、半導体層2の上面(基板6から遠い側の面)上にソース電極1及びドレイン電極3が配置された構造となっており、この構造はトップコンタクト構造と呼ばれる。有機薄膜トランジスタ10Dは、ソース電極1及びドレイン電極3の一方が半導体層2の上面上に配置され、他方が半導体層2の下面上に配設された構造となっており、この構造はトップ&ボトムコンタクト構造と呼ばれる。
【0067】
有機薄膜トランジスタ10A、有機薄膜トランジスタ10B、及び有機薄膜トランジスタ10Dは、半導体層2の下側(基板6に近い側)にゲート電極5が配置された構造となっており、この構造はボトムゲート構造と呼ばれる。ボトムゲート構造では、単一の導電性基板(例えばシリコンウェハー)がゲート電極5と基板6とを兼ねてもよい。有機薄膜トランジスタ10C及び有機薄膜トランジスタ10Fは、半導体層2の上側(基板6から遠い側)にゲート電極5が配置された構造となっており、この構造はトップゲート構造と呼ばれる。
【0068】
各態様例における各構成要素について説明する。
【0069】
基板6は、その上に形成される各構成要素が剥離することなく保持できることが必要である。基板6としては、例えば、樹脂板、樹脂フィルム、紙、ガラス板、石英板、セラミック板等の絶縁性基板;金属又は合金等からなる導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成した基板;樹脂と無機材料との組み合わせ等のような各種組合せからなる基板;半導体基板(例えばシリコンウェハー)等の導電性基板等が使用できる。上記樹脂板及び樹脂フィルムを構成する樹脂の例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミド等が挙げられる。基板6として樹脂フィルム又は紙を用いると、有機薄膜トランジスタ10A〜10D及び10Fに可撓性を持たせることができることから、フレキシブルで軽量となり、有機薄膜トランジスタの実用性が向上する。基板の厚みは、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜5mmである。
【0070】
ソース電極1、ドレイン電極3、ゲート電極5には、導電性を有する材料が用いられる。上記導電性を有する材料としては、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫、チタン、インジウム、パラジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム、カリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金;InO
2、ZnO
2、SnO
2、ITO(酸化インジウムスズ)等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等の炭素材料等が使用できる。また、導電性高分子化合物や半導体は、ドーピングが施されたものであってもよい。そのドーピングに用いるドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸;スルホン酸等の酸性官能基を有する有機酸;PF
5、AsF
5、FeCl
3等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子等が挙げられる。ホウ素、リン、砒素等はシリコン等の無機半導体用のドーパントとしても多用されている。また、上記のドーパント中にカーボンブラックや金属粒子等の粒子を分散した、導電性の複合材料も用いることができる。
【0071】
なお、半導体層2と接触するソース電極1及びドレイン電極3には、コンタクト抵抗を低減させるための適切な仕事関数の選択や、表面処理等を行うことができる。
【0072】
また、ソース電極1とドレイン電極3との間の距離(チャネル長)は、有機半導体デバイスの特性を決める重要なファクターとなる。該チャネル長は、通常0.01〜300μm、好ましくは0.1〜100μmである。チャネル長が短ければ取り出せる電流量は増えるが、逆にコンタクト抵抗の影響等の短チャネル効果が発生し、制御が困難となるため、適正なチャネル長が必要である。ソース電極1及びドレイン電極3の長さ(チャネル幅)は通常10〜10000μm、好ましくは100〜5000μmである。また、このチャネル幅は、電極の構造をくし型構造とすること等により、さらに長いチャネル幅を形成することが可能であり、必要な電流量やデバイスの構造等により、適切な長さにすることができる。
【0073】
ソース電極1及びドレイン電極3のそれぞれの構造(形)について説明する。ソース電極1とドレイン電極3の構造はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0074】
ボトムコンタクト構造の場合は、一般的にはリソグラフィー法を用いてソース電極1及びドレイン電極3を作製する。また、これらの電極は、直方体に形成することが好ましい。最近は各種印刷方法による印刷精度が向上してきており、インクジェット印刷、グラビア印刷又はスクリーン印刷等の手法を用いて精度よくソース電極1及びドレイン電極3を作製することが可能となってきている。半導体層2上にソース電極1及びドレイン電極3のあるトップコンタクト構造の場合は、シャドウマスク等を用いて上記導電性を有する材料を蒸着することにより、ソース電極1及びドレイン電極3を作製できる。インクジェット印刷等の手法を用いてソース電極1及びドレイン電極3の電極パターンを直接印刷形成することも可能となってきている。ソース電極1及びドレイン電極3の長さは前記のチャネル幅と同じである。ソース電極1及びドレイン電極3の幅には特に規定は無いが、電気的特性を安定化できる範囲で、デバイスの面積を小さくするためには短い方が好ましい。ソース電極1及びドレイン電極3の幅は、通常は、0.1〜1000μmであり、好ましくは0.5〜100μmである。ソース電極1及びドレイン電極3の厚みは、通常は、0.1〜1000nmであり、好ましくは1〜500nmであり、より好ましくは5〜200nmである。ソース電極1及びドレイン電極3には、配線が連結されているが、配線もソース電極1及びドレイン電極3とほぼ同様の材料により作製される。
【0075】
絶縁体層4としては、絶縁性を有する材料が用いられる。前記絶縁性を有する材料としては、例えば、ポリパラキシリレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらポリマーの構成単位を2種以上組み合わせた共重合体;二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の(強誘電性ではない)酸化物;SrTiO
3、BaTiO
3等の強誘電性酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物;硫化物、フッ化物等の誘電体等を使用できる。また、上記絶縁性を有する材料として、ポリマー中に上記誘電体(ただし上記ポリマーとは異なる材料)の粒子を分散させた材料も使用できる。上記絶縁性を有する材料としては、リーク電流を少なくするために電気絶縁特性が高いものが好ましく、これにより、絶縁体層4の膜厚を薄膜化し、絶縁容量を高くすることができ、取り出せる電流を多くすることができる。また半導体の移動度を向上させるためには、絶縁体層4は、当該絶縁体層4の表面の表面エネルギーを低下させることができる、凹凸がないスムースな膜であることが好ましい。その為に自己組織化単分子膜の絶縁体層4や、2層構成の絶縁体層4を形成させる場合がある。絶縁体層4の厚みは、材料によって異なるが、通常は、0.1nm〜100μm、好ましくは0.5nm〜50μm、より好ましくは5nm〜10μmである。
【0076】
半導体層2は、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜を有するものである。半導体層2の構造は、上記した本発明の有機半導体薄膜からなる層のみを有する単層構造であっても、上記した本発明の有機半導体薄膜からなる層を含む複数の層を有する複層構造であってもよいが、上記単層構造であることが好ましい。
【0077】
また、半導体層2の厚みは、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。有機半導体10A〜10D及び10F等のような横型の有機薄膜トランジスタにおいては、半導体層2の厚みが所定以上の厚みを有していれば有機半導体デバイスの特性は厚みに依存しない一方、半導体層2の厚みが厚くなりすぎると漏れ電流が増加してくることが多い。このため、半導体層2の厚みが適当な範囲内にあることが好ましい。半導体層2の厚みは、通常、0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜3μmであり、より好ましくは1nm〜1μmである。
【0078】
有機薄膜トランジスタ10A〜10Fでは、上述した各構成要素の間や、上述した各構成要素の露出した表面に必要に応じて他の層を設けてもよい。例えば、上記有機薄膜トランジスタ10A〜10Fにおける半導体層2上に直接又は他の層を介して、保護層を形成してもよい。これにより、有機薄膜トランジスタの電気的特性に対する湿度等の外気の影響を小さくして、有機薄膜トランジスタの電気的特性を安定化させることができる。また、有機薄膜トランジスタのオン/オフ比等の電気的特性を向上させることができる。
【0079】
上記保護層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂;酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の無機酸化物;及び窒化物等の誘電体等が好ましく、酸素の透過率、水分の透過率、及び吸水率の小さな樹脂(ポリマー)がより好ましい。上記保護層を構成する材料として、有機ELディスプレイ用に開発されているガスバリア性保護材料も使用できる。保護層の厚みは、その目的に応じて任意の厚みを採用できるが、通常100nm〜1mmである。
【0080】
また、半導体層2が形成される表面(基板6の表面、絶縁体層4の表面等)に、半導体層2の形成前に予め表面改質又は表面処理を行うことにより、有機薄膜トランジスタ10A〜10Fの特性を向上させることが可能である。例えば、半導体層2が形成される表面の親水性/疎水性の度合いを調整することにより、その表面に形成される半導体層2の質(例えば、半導体層2を構成する有機半導体薄膜の膜質や成膜性)を改良することができる。特に、有機半導体材料からなる半導体層2は、分子の配向等のような層の状態によってその特性が大きく変わることがある。そのため、半導体層2が形成される表面への表面処理によって、半導体層2が形成される表面とその表面上に形成される半導体層2との界面部分における分子配向が制御されると共に、半導体層2が形成される基材(基板6や絶縁体層4等)中のトラップ部位が低減され、これにより、有機薄膜トランジスタのキャリア移動度等の特性が改良されるものと考えられる。トラップ部位とは、未処理の基材中に存在する例えば水酸基等の官能基を意味する。半導体層2が形成される基材中にこのような官能基が存在すると、電子が該官能基に引き寄せられ、この結果として、有機薄膜トランジスタのキャリア移動度が低下する。従って、半導体層2が形成される基材中のトラップ部位を低減することも、有機薄膜トランジスタのキャリア移動度等の特性改良には有効な場合が多い。
【0081】
上記した半導体層2が形成される基材の表面処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン等による自己組織化単分子膜処理;ポリマー等による表面処理;塩酸、硫酸、酢酸等の酸による酸処理;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等のアルカリによるアルカリ処理;オゾン処理;フッ素化処理;酸素プラズマやアルゴンプラズマ等のプラズマによるプラズマ処理;ラングミュア・ブロジェット膜の形成処理;その他の絶縁体や半導体の有機半導体薄膜を形成する処理;機械的処理;コロナ放電等の電気的処理;繊維等を利用したラビング処理等、及び、これら処理の組み合わせを挙げることができる。
【0082】
上記した有機薄膜トランジスタ10A〜10Fにおいて、基材に各種の層を設ける方法(基板6上に絶縁体層4を設ける方法、基板6上に絶縁体層2を設ける方法、絶縁体層4上に半導体層2を設ける方法等)としては、前記した真空プロセス、溶液プロセスを適宜採用できる。
【0083】
(有機薄膜トランジスタの製造方法)
次に、本発明に係る有機薄膜トランジスタの製造方法について、
図1(b)に示す態様例のトップコンタクト−ボトムゲート型有機薄膜トランジスタ10Bを例として、
図2に基づき以下に説明する。この製造方法は、
図1に示した他の態様の有機薄膜トランジスタにも同様に適用しうるものである。
【0084】
(1)基板6の用意及び基板6の表面処理
有機薄膜トランジスタ10Bの製造方法では、まず基板6を用意し(
図2(a)参照)、基板6上に必要な各種の層や電極を設けることで有機薄膜トランジスタ10Bを作製する。基板6としては、前述したものが使用できる。この基板6上に前述の表面処理等を行うことも可能である。基板6の厚みは、必要な機能を妨げない範囲で薄い方が好ましい。また、必要に応じて、基板6に電極の機能を持たせるようにすることもできる。
【0085】
(2)ゲート電極5の形成
次に、基板6上にゲート電極5を形成する(
図2(b)参照)。ゲート電極を構成する材料としては、前述した材料が用いられる。ゲート電極5を形成する方法としては、各種の方法を用いることができ、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾルゲル法等が採用できる。ゲート電極5を構成する材料(電極材料)の層を形成する時、又はその層を形成した後に、必要に応じて所望の形状となるよう層をパターニングすることが好ましい。層のパターニングの方法としても、各種の方法を用いうるが、例えば、フォトレジストのパターニングとエッチングとを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。また、シャドウマスクを用いた蒸着法:スパッタ法;インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法;マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法;又はこれら手法を複数組み合わせた手法を利用して、層をパターニングすることも可能である。ゲート電極5の厚みは、ゲート電極5を構成する材料によっても異なるが、通常は、0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜5μmであり、より好ましくは1nm〜3μmである。また、単一の導電性基板がゲート電極5と基板6とを兼ねるような場合には、その単一の導電性基板の厚みは、上述したゲート電極5の厚みの範囲より厚くてもよい。
【0086】
(3)絶縁体層4の形成
次に、ゲート電極5上に絶縁体層4を形成する(
図2(c)参照)。絶縁体層4を構成する材料としては、前述した材料が用いられる。絶縁体層4の形成には、各種の方法を用いることができる。絶縁体層4の形成に用いることができる方法としては、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、キャスト、バーコート、ブレードコーティング等の塗布法;スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷法;真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD法等のドライプロセス法等の各種の方法が挙げられる。絶縁体層4の形成方法として、その他、ゾルゲル法;アルミニウム上にアルマイトを形成する方法や、シリコン上に酸化珪素を形成する方法のように金属又は半金属の表層を熱酸化法等により酸化させて酸化物膜を形成する方法等も採用できる。
【0087】
なお、絶縁体層4と半導体層2とが接する部分においては、絶縁体層4と半導体層2との界面で半導体層2を構成する分子、例えば、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の分子を良好に配向させるために、絶縁体層4に所定の表面処理を行うこともできる。絶縁体層4の表面処理の手法としては、基板6の表面処理と同様のものを用いることができる。絶縁体層4の厚みは、絶縁体層4の電気容量をあげることで、取り出す電気量を増やすことができるため、できるだけ薄いことが好ましい。ただし、絶縁体層4の厚みが薄いほどリーク電流が増えるため、絶縁体層4の厚みは、その機能を損なわない範囲で薄い方が好ましい。絶縁体層4の厚みは、上記の通りである。
【0088】
(4)半導体層2の形成
次に、絶縁体層4上に、有機半導体材料を用いて有機半導体薄膜を形成し、半導体層2を得る(
図2(d)参照)。半導体層2を形成するにあたっては、前述した本発明の有機半導体薄膜の形成方法を用いることができる。この工程では、有機半導体薄膜(半導体層)が形成される物体(被着物)が
図2(c)に示す絶縁体層4であり、有機半導体薄膜(半導体層)が形成される表面(被着面)が絶縁体層4の上面である。
【0089】
(5)半導体層2の後処理
このように形成された半導体層2(
図2(d)参照)は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、半導体層2の後処理として熱処理を行うことにより、半導体層2の半導体特性の向上や安定化を図ることができる。この理由は、半導体層2を構成する有機半導体薄膜の形成時に生じた膜中の歪みが緩和されること、半導体層2中のピンホール等が低減されること、半導体層2中の配列・配向が制御できると考えらえていること等による。したがって、本発明の有機薄膜トランジスタの製造時には、上記熱処理を行うことが有機薄膜トランジスタの特性の向上のためには効果的である。上記熱処理は、半導体層2を形成した後に、半導体層2を含む積層体(ここでは
図2(d)に示す積層体)を加熱することによって行う。上記熱処理の温度は、特に制限はないが、通常は、室温以上150℃以下であり、好ましくは40〜120℃であり、さらに好ましくは45〜100℃である。上記熱処理の時間は、特に制限はないが、通常は、10秒以上24時間以下であり、好ましくは30秒以上3時間以下である。上記熱処理の雰囲気に関しては、大気中で熱処理を行ってもよいし、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で熱処理を行ってもよい。その他、有機溶媒蒸気によって、半導体層2の形状を制御すること等も可能である。
【0090】
また、半導体層2のその他の後処理方法として、酸素等の酸化性気体、水素等の還元性気体、酸化性液体、あるいは、還元性液体等を用いて半導体層2を処理することにより、酸化あるいは還元による半導体層2の特性変化を誘起することもできる。これは、例えば半導体層2中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用できる。
【0091】
また、ドーピングと呼ばれる手法において、微量のドーパント(元素、原子団、分子、又は高分子)を半導体層2に加えることにより、半導体層2の特性を変化させることができる。例えば、酸素等の酸化性気体;水素等の還元性気体;塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸;PF
5、AsF
5、FeCl
3等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;ナトリウム、カリウム等の金属原子;テトラチアフルバレン(TTF)やフタロシアニン等のドナー化合物等のドーパントを半導体層2にドーピングすることができる。これは、半導体層2にガス状態のドーパントを接触させる方法(ドーパントがガスである場合);溶液状態のドーパントに半導体層2を浸す方法(ドーパントが溶液状態である場合);電気化学的なドーピング処理をする方法等により達成できる。これらのドーパントは、必ずしも半導体層2の形成後に添加しなくてもよく、半導体層2の材料(有機半導体材料)の合成時に添加したり、有機半導体材料を用いて半導体層2を形成する場合には、その有機半導体材料に添加したり、半導体層2を形成する工程段階で添加したりしてもよい。また、半導体層2を形成する材料(有機半導体材料)にドーパントを添加して共蒸着すること;半導体層2を形成する時の周囲の雰囲気にドーパントを混合すること(ドーパントを存在させた環境下で半導体層2を形成する);さらには、ドーパントのイオンを真空中で加速して半導体層2に衝突させてドーピングすることも可能である。
【0092】
これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられる。
【0093】
(6)ソース電極1及びドレイン電極3の形成
次に、半導体層2上にソース電極1及びドレイン電極3を形成する(
図2(e)参照)。ソース電極1及びドレイン電極3の形成方法等は、ゲート電極5の形成方法等に準じたものとすることができる。また、ソース電極1及びドレイン電極3の形成においては、半導体層2との接触抵抗を低減するために、各種の添加剤等を用いることが可能である。
【0094】
(7)保護層7の形成
上述したソース電極及びドレイン電極3を形成する工程で、有機薄膜トランジスタ10B(
図1(b)参照及び
図2(e)参照)が完成するが、必要に応じて、ソース電極1及びドレイン電極3の形成後に、半導体層2の上面における露出している部分、ソース電極1の上面、及びドレイン電極3の上面の上に保護層7を形成してもよい(
図2(f)参照)。半導体層2の上面における露出している部分、ソース電極1の上面、及びドレイン電極3の上面の上に保護層7を形成すると、外気の影響を最小限にでき、また、有機薄膜トランジスタ10Bの電気的特性を安定化できるという利点がある。
【0095】
保護層7の材料としては、前述のものが使用される。また、保護層7の厚みは、その目的に応じて任意の厚みを採用できるが、通常は100nm〜1mmである。
【0096】
保護層7を形成する方法としては、各種の方法を採用しうるが、保護層7が樹脂からなる場合には、例えば、樹脂を含有する溶液を塗布した後に乾燥させて樹脂層とする方法;樹脂のモノマーを塗布あるいは蒸着した後に重合させる方法等が挙げられる。樹脂層の形成後に架橋処理を行ってもよい。保護層7が無機物からなる場合には、保護層7を形成する方法として、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスによる形成方法;ゾルゲル法等の溶液プロセスによる形成方法等も用いることができる。
【0097】
有機薄膜トランジスタにおいては、半導体層上の他、各構成要素の間にも、必要に応じて保護層を設けることができる。そのような保護層は有機薄膜トランジスタの電気的特性の安定化に役立つ場合がある。
【0098】
本発明の有機薄膜トランジスタは、半導体層を構成する材料として、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体材料を用いているため、比較的低温プロセスでの製造が可能である。従って、本発明の有機薄膜トランジスタでは、高温にさらされる条件下では使用できなかったプラスチック板やプラスチックフィルム等のフレキシブルな材料も基板として用いることができる。その結果、本発明の有機薄膜トランジスタでは、フレキシブルな材料を基板として用いることで、軽量で柔軟性に優れた壊れにくい有機半導体デバイスを実現でき、アクティブマトリクス型のディスプレイのスイッチングデバイス等として好適に利用することができる。
【0099】
本発明の有機薄膜トランジスタは、メモリー回路デバイス、信号ドライバー回路デバイス、信号処理回路デバイス等の、デジタルデバイス又はアナログデバイスとしても利用できる。さらにこれらを組み合わせることにより、ディスプレイや、IC(集積回路)カードや、ICタグ等の作製が可能となる。さらに、本発明の有機薄膜トランジスタは、化学物質等の外部刺激によりその特性に変化を起こすことができるので、センサーとしての利用も可能である。
【0100】
(有機ELデバイス)
本発明の有機半導体デバイスは、有機ELデバイスとして利用可能である。
【0101】
有機ELデバイスは、固体で自己発光型の大面積カラー表示や照明等の用途に利用できることが注目され、数多くの開発がなされている。有機ELデバイスの構成としては、陰極と陽極からなる対向電極の間に、発光層及び電荷輸送層の2層を有する構造のもの;対向電極の間に積層された電子輸送層、発光層及び正孔輸送層の3層を有する構造のもの;及び3層以上の層を有する構造のもの等が知られており、また発光層が単層であるもの等が知られている。
【0102】
本発明の有機半導体デバイスを、有機ELデバイスとして利用する場合において、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜は、上記電荷輸送層、又は、電子輸送層として機能し得る。
【0103】
(光電変換デバイス)
本発明の有機半導体デバイスは、一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物の半導体特性を利用することにより、光電変換デバイスとして利用可能である。
【0104】
光電変換デバイスとしては、固体撮像デバイスであるイメージセンサとして、動画や静止画等の映像信号をデジタル信号へ変換する機能を有する電荷結合デバイス(CCD)等が挙げられる。一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体材料は、安価であり、大面積化加工性や、有機物固有のフレキシブル機能性等を活かすことにより光電変換デバイスの材料としての利用が期待される。
【0105】
(有機太陽電池デバイス)
一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を用いて、フレキシブルで低コストの有機太陽電池デバイスを簡便に作製することができる。有機太陽電池デバイスは、固体デバイスであるため柔軟性や寿命向上の点で有利であることが特長である。従来は、導電性ポリマーやフラーレン等を組み合わせた有機薄膜半導体を用いる太陽電池の開発が主流であったが、発電変換効率が問題となっている。
【0106】
一般に、有機太陽電池デバイスの構成はシリコン系の太陽電池と同様に、発電を行う層(発電層)を陽極と陰極とではさみ、光を吸収することで発生した正孔と電子を各電極で受け取ることで太陽電池として機能する。その発電層はp型のドナー材料とn型のアクセプター材料及びバッファー層等のその他の材料で構成されており、その材料に有機材料が用いられているものを有機太陽電池という。
【0107】
構造としては、ショットキー接合、ヘテロ接合、バルクヘテロ接合、ナノ構造接合、ハイブリッド等が挙げられ、各材料が効率的に入射光を吸収し、電荷を発生させ、発生した電荷(正孔と電子)を分離・輸送・収集することで太陽電池として機能する。
【0108】
図3に、ヘテロ接合型の有機太陽電池デバイスの態様例(有機太陽電池デバイス20)の概略断面図を示す。
【0109】
有機太陽電池デバイス20は、基板21と、基板21の上面上に形成された陽極22と、陽極22の上面上に形成された発電層23と、発電層23の上面上に形成された陰極24とを備えており、発電層23が、陽極22の上面上に形成されたp型層231と、p型層231の上面上に形成されたn型層232と、n型層232の上面上に形成されたバッファー層233とで構成されている。
【0110】
次に、
図3に示す有機太陽電池デバイス20を例に、有機太陽電池デバイスにおける各構成要素について説明する。
【0111】
基板21の材料としては、先に述べた有機薄膜トランジスタ10A〜10Fの基板6と同様のものを使用できる。
【0112】
有機太陽電池デバイス20における陽極22及び陰極24を構成する材料としては、先に述べた有機薄膜トランジスタ10A〜10Fのソース電極1、ドレイン電極3、及びゲート電極5を構成する材料と同様のものを使用できる。陽極22及び陰極24は、光を効率的に取り込む必要があるため、発電層23の吸収波長領域で透明性を有することが望ましい。また、有機太陽電池デバイス20が良好な太陽電池特性を有するためには、陽極22及び陰極24では、シート抵抗が20Ω/□以下であり、且つ、光の透過率が85%以上であることが好ましい。
【0113】
発電層23は、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜からなる層のみで構成された単層構造であっても、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜からなる層を含む複数の層で構成された多層構造であってもよいが、一般的に、発電層23は、p型のドナー材料からなるp型層231と、n型のアクセプター材料からなるn型層232層と、バッファー層233とで構成されている。
【0114】
p型層231を構成するp型のドナー材料としては、基本的に正孔を輸送できる化合物が挙げられ、具体的には、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアニリン誘導体等のπ共役型ポリマー;カルバゾールやその他複素環側鎖にもつポリマーが挙げられる。また、p型のドナー材料としては、ペンタセン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、インジゴ誘導体、キナクリドン誘導体、メロシアニン誘導体、シアニン誘導体、スクアリウム誘導体、ベンゾキノン誘導体等の低分子化合物も挙げられる。
【0115】
n型層232を構成するn型のアクセプター材料としては、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含むn型のアクセプター材料を用いることができる。すなわち、n型層232は、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体薄膜で構成されている。n型層232を構成するn型のアクセプター材料としては、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を単独で使用してもよいし、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物と、他のアクセプター材料とを混合して使用してよい。混合する他のアクセプター材料としては、基本的に電子を輸送できる化合物であり、ピリジン又はその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、キノリン又はその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、ベンゾフェナンスロリン類又はその誘導体を持つポリマー、シアノポリフェニレンビニレン誘導体(CN−PPV等)等の高分子材料;フッ素化フタロシアニン誘導体、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、バソキュプロイン誘導体、C60やC70、PCBM等のフラーレン誘導体等の低分子材料等が挙げられる。
【0116】
p型のドナー材料及びn型のドナー材料としては、それぞれ、光を効率的に吸収し、電荷を発生させることができるものが好ましく、且つ、吸光係数が高いものが好ましい。
【0117】
バッファー層233の材料としては、銅フタロシアニン、三酸化モリブデン、カルシウム、酸化ニッケル、フッ化リチウム、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)等が挙げられる。
【0118】
有機太陽電池デバイス20における発電層23用の有機半導体薄膜の形成方法としては、前述した有機薄膜トランジスタにおける半導体層の形成方法と同様の方法を採用できる。発電層23の厚みは、有機太陽電池デバイスの構成によって異なるが、厚いほど、光を十分に吸収すること、及び短絡を防ぐことができ、薄いほど、発生した電荷を輸送する距離を短くすることができる。このため、発電層23の厚みは、10〜500nm程度であることが好ましい。
【0119】
(有機半導体レーザーデバイスについて)
一般式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物は、半導体特性を有する化合物であることから、有機半導体レーザーデバイスとしての利用が期待される。
【0120】
すなわち、本発明の有機半導体デバイスに、共振器構造を組み込み、効率的にキャリアを注入して励起状態の密度を十分に高めることができれば、光が増幅されレーザー発振にいたることが期待される。従来、光励起によるレーザー発振が観測されるのみで、電気励起によるレーザー発振に必要とされる、高密度のキャリアを有機半導体デバイスに注入し、高密度の励起状態を発生させるのは非常に困難と提唱されている。しかし、一般式(1)で表わされる化合物を含む有機半導体薄膜を含む有機半導体デバイスを用いることで、高効率な発光(電界発光)が起こる可能性が期待される。
【実施例】
【0121】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0122】
〔実施例及び比較例における目的化合物の合成方法の概要〕
以下の実施例及び比較例では、下記式及び表に示す、フェニル基を有する化合物100(7−フェニルBTBT)、フェニル基と炭素数1〜10の直鎖アルキル基又は炭素数4の分岐アルキル基とを有する化合物1〜4、6及び101〜106(2−アルキル−7−フェニルBTBT)、並びにナフチル基又はトリル基と炭素数4の直鎖アルキル基とを有する化合物18、26及び32を作製した。
【0123】
【化6】
【0124】
目的化合物1〜4、6及び101〜106は、下記式及び表に示す化合物110〜120(モノアルキルBTBT;2−アルキルBTBT)を原料として用いて下記式及び表に示す中間体化合物121〜131を合成した後、中間体化合物121〜131から合成した。
【0125】
【化7】
【0126】
【化8】
【0127】
すなわち、下記スキーム4に示すように、化合物110〜120を原料として用いて臭素化を行って中間体化合物121〜131を得た後、アリールボロン酸とのカップリング反応により目的化合物1〜4、6及び101〜106を合成した。
【0128】
【化9】
【0129】
目的化合物100(R
12=H)については、下記スキーム5に示すように、BTBTを原料として用いて臭素化を行ってBTBTの臭素1置換体(2−ブロモBTBT)である中間体化合物132を得た後、スキーム3と同様のフェニルボロン酸とのカップリング反応により合成した。
【0130】
【化10】
【0131】
化合物111〜120は、BTBTを出発原料として用いて下記式及び表に示す中間体化合物140〜149を合成した後、中間体化合物140〜149から合成した。
【0132】
【化11】
【0133】
すなわち、下記スキーム6に示すように、BTBTを出発原料として用いてフリーデル・クラフツ反応を行って中間体化合物140〜149を得た後、中間体化合物140〜149を還元することで化合物111〜120を合成した。
【0134】
【化12】
【0135】
化合物110(2−メチルBTBT)は、スキーム6の方法では得ることができないため、下記スキーム7に示すように、BTBTを出発原料として臭素化を行ってBTBTの臭素1置換体である中間化合物132を合成した後、この中間化合物132をメチルボロン酸とのカップリング反応に付して化合物110を得た。
【0136】
【化13】
【0137】
〔実施例1〕(目的化合物4(2−ブチル−7−フェニルBTBT)の合成)
(中間体化合物143の合成)
まず、モノC4アルキルBTBTである化合物113の合成のための中間体である中間体化合物143を合成した。すなわち、BTBT3.0g(12.5mmol)をジクロロメタンに溶解させ、得られた溶液に対して、塩化ブチリル4.0g(37.4mmol、3.0当量)、及び塩化アルミニウム5.0g(37.4mmol、3.0当量)を順に加えて1時間室温で撹拌した。撹拌終了後、反応液を2N塩酸水溶液に注ぎ入れ、しばらく撹拌した後、クロロホルムを加えて抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去して黄色固体を得た。得られた固体をクロロホルムから再結晶することで、中間体化合物143の淡黄色結晶を得た(収量2.9g、収率74%)。得られた中間体化合物143の
1H−NMRスペクトル、及び電子イオン化法(以下、適宜「EI」と略記する)によるガスクロマトグラフ質量分析(以下、適宜「GC/MS」と略記する)の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.55(d,J=1.5Hz,1H,ArH),8.06(dd,J=1.5Hz,1H,ArH),7.95−7.92(m,3H,ArH),7.50−7.44(m,2H,ArH),3.06(t,J=7.4Hz,2H,COCH
2),1.84(tq,J=7.4,7.4Hz,2H,CH
2),1.05(t,J=7.4Hz,3H,CH
3)
GC/MS(EI):m/z=310.1
【0138】
(化合物113(2−ブチルBTBT)の合成)
次に、先の工程により得られた中間体化合物143を原料として用いて、モノC4アルキルBTBTである化合物113を合成した。
【0139】
中間体化合物143の2.8g(9.0mmol)、KOH2.5g(45.0mmol、5.0当量)、及びヒドラジン一水和物2.3g(45.0mmol、5.0当量)をジエチレングリコールと混合し、120℃で1時間、180℃で3時間撹拌した。放冷後、反応溶液を2N塩酸水溶液に注ぎ入れ、しばらく撹拌した後、クロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去して黄色固体を得た。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン)により精製し、クロロホルム/エタノール混合溶媒で再結晶することで、化合物113の無色薄片状結晶を得た(収量1.8g、収率68%)。得られた化合物113の
1H−NMRスペクトル、及び電子イオン化法によるガスクロマトグラフ質量分析の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=7.90(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.86(dd,J=1.0,7.8Hz,1H,ArH),7.78(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.72(s1H,ArH),7.43(ddd,J=7.8,7.8,1.0Hz,1H,ArH),7.38(ddd,J=7.8,7.8,1.3Hz,1H,ArH),7.28(dd,J=7.8,1.3Hz,1H,ArH),2.77(t,J=7.7Hz,2H,ArCH
2),1.68(tt,J=7.7Hz,2H,CH
2),1.40(tq,J=7.7Hz,CH
2),0.96(q,J=7.7Hz,CH
3)
GC/MS(EI):m/z=296.1
【0140】
(中間体化合物124の合成)
実施例4における中間体化合物132の合成と同様の合成法により、モノC4アルキルBTBTである化合物113を原料として化合物113の500mg(1.7mmol)から中間体化合物124を合成した。すなわち、化合物113の500mg(1.7mmol)をジクロロメタンに溶解させ、得られた溶液に対して臭素300mg(1.1当量)のジクロロメタン溶液を滴下して加え、室温で3時間撹拌した。撹拌終了後、5重量%チオ硫酸ナトリウム水溶液を溶液の色が白〜淡黄色になるまで加えた後に、クロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去して黄色固体を得た。得られた固体をクロロホルムから再結晶することで、中間体化合物124の無色板状結晶を得た(収量250mg、収率41%)。得られた中間体化合物124の
1H−NMRスペクトル、及び電子イオン化法によるガスクロマトグラフ質量分析の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.02(d,J=1.7Hz,1H,ArH),7.76(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.70(s,1H,ArH),7.69(d,J=8.5Hz,1H,ArH),7.53(dd,J=1.7,8.5Hz,1H,ArH),7.28(d,J=8.0Hz,1H,ArH),2.76(t,J=7.7Hz,2H,ArCH
2),1.68(tt,J=7.7Hz,2H,CH
2),1.40(tq,J=7.7Hz,2H,CH
2),0.95(t,J=7.7Hz,3H,CH
3)
GC/MS(EI):m/z=376.0(100%),374.0(90%)
【0141】
(目的化合物4の合成)
アルゴン雰囲気下、中間体化合物124の376mg(1.0mmol)、Pd(PPh
3)
458mg(0.05mmol,5mol%),K
2CO
3415mg(3mmol,3.0当量)、及びフェニルボロン酸183mg(1.5mmol,1.5当量)を、トルエン:水=8:1(体積比)の混合溶媒中において90℃で14時間撹拌した。放冷後、2N塩酸水溶液を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を2N塩酸水溶液、飽和重曹水溶液の順で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧下で留去して淡黄色固体を得た。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=50/1)で精製後、クロロホルム/エタノール混合溶媒で再結晶することで目的化合物4の無色薄片状結晶を得た。得られた目的化合物4の
1H−NMRスペクトル、
13C−NMRスペクトル、及び融点の測定(株式会社ヤナコ機器開発研究所製の融点測定装置MP−S3を用いて測定)結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.11(d,J=1.5Hz,1H,ArH),7.91(d,J=8.1Hz,1H,ArH),7.79(d,J=8.1Hz,1H,ArH),7.73(s,1H,ArH),7.73−7.68(m,3H,ArH),7.48(dd,J=7.5,7.5Hz,2H,ArH),7.38(ddd,J=7.5,7.5,1,4Hz,1H,ArH),7.29(dd,J=8.1,1.5Hz,1H,ArH),2.77(t,J=7.7Hz,2H,ArCH
2),1.70(tt,J=7.7Hz,2H,CH
2),1.41(tq,J=7.7Hz,2H,CH
2),0.96(t,J=7.7Hz,3H,CH
3)
13C−NMR(125MHz,CDCl
3):δ(ppm)=143.3,143.1,141.2,140.8,138.5,134.1,132.8,131.5,129.3,127.8,127.7,126.4,124.9,123.8,122.7,122.0,121.7,36.2,34.2,22.8,14.4
融点:244.5−246.0℃
【0142】
〔実施例2〕(目的化合物3(2−プロピル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化プロピオニル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物3を合成した。得られた目的化合物3の
1H−NMRスペクトル及び融点の測定(株式会社ヤナコ機器開発研究所製の融点測定装置MP−S3を用いて測定)結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.11(d,J=1.6Hz,1H,ArH),7.91(d,J=8.3Hz,1H,ArH),7.79(d,J=8.3Hz,1H,ArH),7.73(s,1H,ArH),7.71−7.68(m,3H,ArH),7.49(dd,J=7.7,7.7Hz,2H,ArH),7.38(dd,J=7.7,7.7Hz,1H,ArH),7.29(dd,J=8.2,1.6Hz,1H,ArH),2.76(t,J=7.7Hz,2H,ArCH
2),1.74(tq,J=7.7Hz,2H,CH
2),1.00(s,3H,CH
3)
融点:258.5−261.5℃
【0143】
〔実施例3〕(目的化合物2(2−エチル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化アセチル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物2を合成した。得られた目的化合物2の
1H−NMRスペクトル及び融点の測定(株式会社ヤナコ機器開発研究所製の融点測定装置MP−S3を用いて測定)結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.12(d,J=1.4Hz,1H,ArH),7.91(d,J=8.1Hz,1H,ArH),7.80(d,J=8.1Hz,1H,ArH),7.75(s,1H,ArH),7.73−7.68(m,3H,ArH),7.48(dd,J=7.7,7.7Hz,2H,ArH),7.40(ddd,J=7.7,7.7,1,4Hz,1H,ArH),7.31(dd,J=8.1,1.4Hz,1H,ArH),2.82(q,J=7.7Hz,2H,ArCH
2),1.34(t,J=7.7Hz,3H,CH
3)
融点:264.0−266.0℃
【0144】
〔実施例4〕(目的化合物1(2−メチル−7−フェニルBTBT)の合成)
(中間体化合物132の合成)
まず、BTBTを臭素化して中間体化合物132を得た。すなわち、BTBT3g(12.5mmol)をジクロロメタンに溶解させ、得られた溶液に対して臭素2.2g(1.1当量)のジクロロメタン溶液を滴下して加え、室温で3時間撹拌した。撹拌終了後、5重量%チオ硫酸ナトリウム水溶液を溶液の色が白〜淡黄色になるまで加えた後に、クロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去して黄色固体を得た。得られた固体をクロロホルムから再結晶することで、中間体化合物132の無色板状結晶を得た(収量1.6g、収率40%)。得られた中間体化合物132の
1H−NMRスペクトル、及び電子イオン化法によるガスクロマトグラフ質量分析の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.06(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.92(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.88(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.73(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.57−7.55(m,1H,ArH),7.49−7.41(m,2H,ArH)
GC/MS(EI):m/z=317.9(100%),319.9(90%)
【0145】
(化合物110(2−メチルBTBT)の合成)
次に、先の工程により得られた中間体化合物132を原料として用いて、モノメチルBTBTである化合物110を合成した。アルゴン雰囲気下、DMFと混合した中間体化合物120の2.5g(7.8mmol)、PdCl
2(dppf)・CH
2Cl
20.64g(0.78mmol、10mol%)、K
3PO
44.96g(23.4mmol、3.0当量)及びメチルボロン酸1.40g(23.4mmol、3.0当量)を90℃で6時間撹拌した。放冷後、2N塩酸水溶液を加えクロロホルムで抽出した。有機層を2N塩酸水溶液で洗浄し、さらに飽和重曹水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去して褐色固体を得た。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン)及び高速液体クロマトグラフィー(溶出液:クロロホルム)で精製した後、クロロホルム/エタノール混合溶媒で再結晶することで、化合物110の無色薄片状結晶を得た(収量1.4g、収率69%)。得られた化合物110の
1H−NMRスペクトル、及び電子イオン化法によるガスクロマトグラフ質量分析の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=7.91(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.85(d,J=7.7Hz,1H,ArH),7.76(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.73(s,1H,ArH),7.45(ddd,J=1.0,7.7,8.0Hz,1H,ArH),7.38(ddd,J=1.0,7.7,8.0Hz,1H,ArH),7.27(d,J=8.0Hz,1H,ArH),2.52(s,3H,CH
3)
GC/MS(EI):m/z=254.0
【0146】
(中間体化合物121の合成)
次に、原料として先の工程により得られた化合物110を化合物113に代えて用いる以外は実施例1における中間体化合物124の合成及び目的化合物4の合成と同様にして(90℃で14時間)、目的化合物1を合成した。得られた目的化合物1の
1H−NMRスペクトル及び融点の測定(株式会社ヤナコ機器開発研究所製の融点測定装置MP−S3を用いて測定)結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.11(s,1H,ArH),7.91(d,J=8.2Hz,1H,ArH),7.79(d,J=8.2Hz,1H,ArH),7.73(s,1H,ArH),7.73−7.68(m,3H,ArH),7.48(dd,J=7.7,7.7Hz,2H,ArH),7.38(dd,J=7.7,7.7Hz,1H,ArH),7.29(d,J=8.2Hz,1H,ArH),2.53(s,3H,ArCH
3)
融点:211.0−213.5℃
【0147】
〔実施例5〕(目的化合物6(2−イソブチル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化イソブチル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物6を合成した。得られた目的化合物6の
1H−NMRスペクトル及び融点の測定(株式会社ヤナコ機器開発研究所製の融点測定装置MP−S3を用いて測定)結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.12(d,J=1.4Hz,1H,ArH),7.91(d,J=8.1Hz,1H,ArH),7.80(d,J=8.1Hz,1H,ArH),7.75(s,1H,ArH),7.73−7.68(m,3H,ArH),7.48(dd,J=7.7,7.7Hz,2H,ArH),7.40(ddd,J=7.7,7.7,1,4Hz,1H,ArH),7.31(dd,J=8.1,1.4Hz,1H,ArH),2.63(d,J=7.5Hz,2H,ArCH
2),1.96(m,1H,CH),0.94(d,J=7.5Hz,6H,CH
3)
融点:234.0−236.0℃
【0148】
〔実施例6〕(目的化合物18(2−ブチル−7−(2−ナフチル)BTBT)の合成)
フェニルボロン酸(1.5当量)に代えて2−ナフチルボロン酸(1.5当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物18を合成した。得られた目的化合物18の
1H−NMRスペクトル及び融点の測定(株式会社ヤナコ機器開発研究所製の融点測定装置MP−S3を用いて測定)結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.25(s,1H,ArH),8.15(s,1H,ArH),7.97−7.81(m,7H,ArH),7.75(s,1H,ArH),7.52(m,2H,ArH),7.30(d,J=8.0Hz,1H,ArH),2.78(t,J=7.7Hz,2H,ArCH
2),1.70(tt,J=7.7Hz,2H,CH
2),1.40(tq,J=7.7Hz,2H,CH
2),0.96(t,J=7.7Hz,3H,CH
3)
融点:280.0−282.0℃
【0149】
〔実施例7〕(目的化合物26(2−ブチル−7−(p−トリル)BTBT)の合成)
フェニルボロン酸(1.5当量)に代えてp−トリルボロン酸(1.5当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物26を合成した。得られた目的化合物26の
1H−NMRスペクトル及び融点の測定(株式会社ヤナコ機器開発研究所製の融点測定装置MP−S3を用いて測定)結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.08(d,1H,J=1.0Hz,ArH),7.89(d,J=8.1Hz,1H,ArH),7.78(d,J=8.1Hz,1H,ArH),7.72(s,1H,ArH),7.65(dd,J=1.0,8.1Hz,1H,ArH),7.58(m,2H,ArH),7.29(m,3H,ArH),2.77(t,J=7.7Hz,2H,ArCH
2),2.42(s,3H,PhCH
3),1.70(tt,J=7.7Hz,2H,CH
2),1.40(tq,J=7.7Hz,2H,CH
2),0.96(t,J=7.7Hz,3H,CH
3)
融点:260.5−262.0℃
【0150】
〔実施例8〕(目的化合物32(2−ブチル−7−(m−トリル)BTBT)の合成)
フェニルボロン酸(1.5当量)に代えてm−トリルボロン酸(1.5当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物32を合成した。得られた目的化合物32の
1H−NMRスペクトル及び融点の測定(株式会社ヤナコ機器開発研究所製の融点測定装置MP−S3を用いて測定)結果を以下に示す。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=8.11(s,1H,ArH),7.90(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.79(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.73(s,1H,ArH),7.68(dd,J=1.0,8.0Hz,1H,ArH),7.50(m,2H,ArH),7.37(dd,J=8.0,8.0Hz,1H,ArH),7.28(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.20(d,J=8.0Hz,1H,ArH),2.77(t,J=7.7Hz,2H,ArCH
2),2.46(s,3H,PhCH
3),1.70(tt,J=7.7Hz,2H,CH
2),1.40(tq,J=7.7Hz,2H,CH
2),0.97(t,J=7.7Hz,3H,CH
3)
融点:192.0−194.0℃
【0151】
〔比較例1〕(目的化合物106(2−デシル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化デカノイル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物106を合成した。
【0152】
〔比較例2〕(目的化合物105(2−ノニル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化ノナノイル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物105を合成した。
【0153】
〔比較例3〕(目的化合物104(2−オクチル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化オクタノイル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物104を合成した。
【0154】
〔比較例4〕(目的化合物103(2−ヘプチル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化ヘプタノイル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物103を合成した。
【0155】
〔比較例5〕(目的化合物102(2−ヘキシル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化ヘキサノイル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物102を合成した。
【0156】
〔比較例6〕(目的化合物101(2−ペンチル−7−フェニルBTBT)の合成)
塩化ブチリル(3.0当量)に代えて塩化ペンタノイル(3.0当量)を用いる以外は実施例1と同様にして、目的化合物101を合成した。
【0157】
〔比較例7〕(目的化合物100(2−フェニルBTBT)の合成)
(中間体化合物120の合成)
まず、実施例4の中間体化合物120の合成と同様にして、中間体化合物120を得た。
【0158】
(目的化合物100の合成)
上記のようにして得た中間体化合物120を原料として用いる以外は実施例1における目的化合物4の合成と同様にして、目的化合物100を合成した。
【0159】
〔単結晶構造解析〕
実施例1(アルキル鎖長4、C4)の化合物について、株式会社リガク製の4軸型単結晶X線回折計(型番「AFC−7R」)及び株式会社リガク製の検出器(商品名「MercuryCCD」)を用いてX線源:Mo、測定温度:20℃の条件で単結晶構造解析を行った。また、比較例1の化合物(アルキル鎖長6、C6)、比較例3の化合物(アルキル鎖長8、C8)、比較例5の化合物(アルキル鎖長10、C10)について、株式会社リガク製のイメージングプレート型単結晶X線回折計のカスタマイズ機である、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリーBL−8A、BL−8Bを用いてX線源:放射光(波長λ=1.55Å)、測定温度:20℃の条件で単結晶構造解析を行った。実施例2の化合物(C3)及び比較例6の化合物(C5)については、株式会社リガク製の湾曲イメージングプレート単結晶自動X線構造解析装置(商品名「R−AXIS RAPIDII」)を用いてX線源:Cu、測定温度:20℃の条件で単結晶構造解析を行った。
【0160】
実施例1並びに比較例1、3、及び5の化合物の結晶構造を
図4に示し、実施例1及び2の化合物並びに比較例1、3、5、及び6の化合物の結晶構造を
図5に示す。
【0161】
比較例1、3、5、及び6の化合物の結晶構造は、
図4及び
図5に示すように、二分子層構造を示すことが分かった。これに対し、実施例1及び2の化合物の結晶構造は、
図4及び
図5に示すように、分子層内でヘリンボーン型構造を取るものの、分子配向は層内でa軸方向に沿って互い違いになる構造を取ることが分かった。すなわち、実施例1及び2の化合物は、分子間におけるアルキル鎖同士の相互作用の低下によって分子層内の分子間の移動積分の変化をもたらし、比較例1,3,5の化合物とは異なる結晶形態をとることがわかった。
【0162】
実施例1及び2の化合物の結晶構造は、このような結晶構造を取ることにより、アルキル鎖同士の相互作用の低下(ファスナー効果の低減)によってBTBT骨格同士の面間距離が変化およびそれら同士の相互作用が低下し、その結果として分子の凝集力が小さくなり、溶解度及び熱安定性が高くなるものと考えられる。
【0163】
〔熱量分析〕
実施例4で得られた化合物1について、示差熱・熱重量分析計(TG/DTA)を用いて示差熱・熱重量分析を行い、示差熱・熱重量変化曲線を得た。実施例4で得られた化合物1の、示差熱・熱重量変化曲線を
図6に示す。
【0164】
実施例1〜8及び比較例1〜6で得られた化合物1〜4、6、18、26、32、及び101〜106について、示差走査熱量計(DSC)を用いて示差走査熱量分析を行い、示差走査熱量曲線(DSC曲線)を得た。実施例1〜3、5〜8及び比較例1〜6で得られた化合物2〜4、6、18、26、32、及び101〜106の示差走査熱量曲線を
図7〜9に示す。
【0165】
また、実施例4で得られた化合物1の示差熱・熱重量変化曲線及び実施例1〜3、5〜8、並びに比較例1〜6で得られた化合物2〜4、6、18、26、32及び101〜106のDSC曲線から得られた、結晶相が最初に相転移する温度及び融点を下記表に示す。
【0166】
【表3】
【0167】
図7〜9中、「C1」、「C2」、「C3」、「C4」、「C5」、「C6」、「C7」、「C8」、「C9」、及び「C10」は、それぞれ実施例4、3、2、1、比較例6、5、4、3、2、1の化合物に対応し、「Ph−BTBT−iBu」、「2Nap−BTBT−C4」、「pTol−BTBT−C4」、及び「mTol−BTBT−C4」は、それぞれ実施例5、6、7、及び8の化合物に対応する。また、
図7〜9において、「K」は結晶相を表し、「SmE」はスメクチックE相を表し、「SmA」はスメクチックA相を表し、「Iso.Liq.」は等方性液体相を表す。
【0168】
比較例1〜6の化合物は、
図7及び
図8に示すように、示差走査熱量測定における加熱過程において、結晶相からスメクチックE相へ、スメクチックE相からスメクチックA相へ、スメクチックA相から等方性液体相へと相転移し、液晶性を示した。また、比較例1〜6の化合物は、加熱過程の示差走査熱量曲線において結晶相からスメクチックE相への相転移を示すピークが170℃未満(144〜167℃)に観測された。
【0169】
これに対し、実施例1〜3、5、8の化合物は、
図7及び
図9に示すように、示差走査熱量測定における加熱過程において、相転移を示すピークが194℃以上に観測されたのみであり、示差走査熱量曲線において170℃未満に相転移を示すピークが観測されず、結晶相から等方性液体相へと直接的に相転移し、液晶性を示さなかった。実施例4の化合物も、示差走査熱量測定における加熱過程において、相転移を示すピークが194℃以上に観測されたのみであり、示差走査熱量曲線において170℃未満に相転移を示すピークが観測されず、結晶相から等方性液体相へと直接的に相転移し、液晶性を示さなかった。実施例6及び7の化合物は、加熱過程の示差走査熱量曲線において、液晶転移点を示すピークが観測されたものの、いずれも結晶相が最初に相転移する温度が171℃以上であり、170℃未満に相転移を示すピークが観測されず、比較例1〜6の化合物に比べ高い転移温度を示した。
【0170】
従って、実施例1〜8の化合物は、比較例1〜6の化合物と比較して顕著に熱安定性が高いことが分かった。
【0171】
〔目的化合物の溶解度の測定〕
温度25℃において、溶質(目的化合物)10mgを完全に溶解させるまでクロロホルムを加えて、加えたクロロホルムの体積から、クロロホルムに対する溶解度(mg/mL)を求めた。実施例1〜4、5、7、8及び比較例1〜7で得られた目的化合物1〜4、6、26、32及び100〜106の、クロロホルムに対する溶解度の測定結果を下記表に示す。
【0172】
【表4】
【0173】
表4の結果から、一般式(1)におけるR
3がC1〜C4アルキル基である実施例1〜4、5、7、8の化合物1〜4、6、26、及び32は、クロロホルムに対する溶解度が3.5mg/mL以上であって、有機溶媒に対する溶解性が高く、R
3がC10アルキル基である比較例1の化合物106と比較して顕著に溶解性が高いことが分かった。
【0174】
〔有機薄膜トランジスタの製造及び評価〕
以下の実施例及び比較例では、実施例1〜4で得られた化合物1〜4及び比較例8,9で得られた化合物101,106を用いて有機薄膜トランジスタを製造し、評価した。
【0175】
〔実施例9〕(実施例1で得られた化合物4を用いた有機薄膜トランジスタ10A(
図1(a)参照)の作製及び評価)
一方の面に膜厚100nmのSiO
2熱酸化膜(
図1(a)における絶縁体層4)が付けられ他方の面に電極作成用シャドウマスクが取り付けられたpドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下、
図1(a)におけるゲート電極5及び基板6を兼ねる)を真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が2.0×10
−4Pa以下になるまで排気し、pドープシリコンウェハー(以下「基板」と呼ぶ)上に電極作成用シャドウマスクを通して抵抗加熱蒸着法によってクロム及び金をそれぞれ蒸着することによって、厚さ1nmのクロム電極すなわちソース電極(
図1(a)におけるソース電極1)及び厚さ15nmの金電極すなわちドレイン電極(
図1(a)におけるドレイン電極3)を基板上に形成し、電極作成用シャドウマスクを取り外した。
【0176】
次いで、この基板をUV/オゾン洗浄機(形式:SSP16−110、セン特殊光源株式会社製)を用いて10分間洗浄した後、前記基板におけるソース電極及びドレイン電極が形成されている側の表面上に、有機溶媒を含む有機半導体材料としての、実施例1で得られた化合物4の約2重量%クロロベンゼン飽和溶液を100℃の条件下でスピンコート法により塗布した後、クロロベンゼンを乾燥させることで、有機半導体薄膜(
図1(a)における半導体層2)を、前記基板におけるソース電極及びドレイン電極が形成されている側の面上に形成した。これにより、ボトムゲート−ボトムコンタクト型である本発明の一例に係る有機薄膜トランジスタ(チャネル長50μm、チャネル幅350μm)を得た。
【0177】
得られた有機薄膜トランジスタをプローバー内に設置し、半導体パラメーターアナライザー(型式:E5270A、アジレント・テクノロジー社製)を用いて半導体特性を測定した。
【0178】
図10は、本実施例に係る有機薄膜トランジスタの半導体特性を示すグラフであり、ドレイン電圧を飽和領域である−40Vに固定し、ゲート電圧を10Vから−50Vまで走査し、ドレイン電圧−ゲート電圧(トランスファー)特性を測定した結果を示している。具体的には、横軸にゲート電圧(Vg(V))をとり、縦軸にドレイン電流の絶対値(|Id|(A);右端目盛り)と、ドレイン電流の絶対値の平方根(|Id|
1/2(A
1/2);左端目盛り)とをとって、実施例9で作成した有機薄膜トランジスタの特性を示したグラフである。
【0179】
図10に示した測定結果から、実施例9で作成した有機薄膜トランジスタの半導体特性を示す数値として閾値電圧を求めた。半導体特性を示す各数値の求め方は以下の通りである。
【0180】
<閾値電圧>
図10に示したゲート電圧(Vg(V))と、ドレイン電流の絶対値の平方根(|Id|
1/2(A
1/2))との関係を示すグラフにおける、傾きが略一定とみなせる範囲を直線近似し、その近似線を外挿した直線がX軸と交わる点(Id=0Aとなる点)の電圧値として求めた。
【0181】
<キャリア移動度>
飽和領域におけるドレイン電流−ゲート電圧特性は、下記の式(a)で表されることから、キャリア移動度は式(a)を用いて算出した。
Id=(1/2)WμCp(Vg−Vth)
2/L …式(a)
但し、Id:ドレイン電流
W:チャネル幅
μ:キャリア移動度
Cp:絶縁体層4の静電容量
Vg:ゲート電圧
Vth:閾値電圧
L:チャネル長
【0182】
なお、今回の測定において、チャネル幅Wは350μm、絶縁体層4の静電容量は33.5×10
−8F、チャネル長Lは50μmである。また、ゲート電圧Vgは、飽和領域となる−40Vとした。
【0183】
以上の測定及び計算により、実施例9で得られた有機薄膜トランジスタのキャリア移動度は9.0×10
−2cm
2/Vsであり、閾値電圧は1.7Vであった。これらの結果を表5に示した。なお、後述する実施例10〜12、比較例7、及び比較例8についても、同様の方法でキャリア移動度及び閾値電圧を算出した。
【0184】
〔実施例10〕(実施例2で得られた化合物3を用いた有機薄膜トランジスタ10A(
図1(a)参照)の作製及び評価)
実施例1で得られた化合物4を実施例2で得られた化合物3に変更したこと以外は実施例9と同様にして、本発明の一例に係る有機薄膜トランジスタを得た。さらに、実施例9に記載の方法により有機薄膜トランジスタの特性を調べ、結果を表5に示した。
【0185】
〔実施例11〕(実施例3で得られた化合物2を用いた有機薄膜トランジスタ10A(
図1(a)参照)の作製及び評価)
実施例1で得られた化合物4を実施例3で得られた化合物2に変更したこと以外は実施例9と同様にして、本発明の一例に係る有機薄膜トランジスタを得た。さらに、実施例9に記載の方法により有機薄膜トランジスタの特性を調べ、結果を表5に示した。
【0186】
〔実施例12〕(実施例4で得られた化合物1を用いた有機薄膜トランジスタ10A(
図1(a)参照)の作製及び評価)
実施例1で得られた化合物4を実施例4で得られた化合物1に変更したこと以外は実施例9と同様にして、本発明の一例に係る有機薄膜トランジスタを得た。さらに、実施例9に記載の方法により有機薄膜トランジスタの特性を調べ、結果を表5に示した。
【0187】
〔比較例8〕(比較例6で得られた化合物101を用いた有機薄膜トランジスタ10A(
図1(a)参照)の作製及び評価)
実施例1で得られた化合物4を比較例6で得られた化合物101に変更したこと以外は実施例9と同様にして、比較用の有機薄膜トランジスタを得た。さらに、実施例9に記載の方法により有機薄膜トランジスタの特性を調べ、結果を表5に示した。
【0188】
〔比較例9〕(比較例1で得られた化合物106を用いた有機薄膜トランジスタ10A(
図1(a)参照)の作製及び評価)
実施例1で得られた化合物4を比較例1で得られた化合物106に変更したこと以外は実施例9と同様にして、比較用の有機薄膜トランジスタを得た。さらに、実施例9に記載の方法により有機薄膜トランジスタの特性を調べ、結果を表5に示した。
【0189】
【表5】
【0190】
表5より、実施例1〜4の化合物を使用した実施例9〜12の有機薄膜トランジスタは、比較例1及び6の化合物を使用した比較例8及び9の有機薄膜トランジスタより優れたトランジスタ特性を示すことが分かった。