特許第6592840号(P6592840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592840
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】トラス橋の落橋防止装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20191010BHJP
   E01D 6/00 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   E01D19/04 101
   E01D6/00
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-185357(P2015-185357)
(22)【出願日】2015年9月18日
(65)【公開番号】特開2017-57684(P2017-57684A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 芳顯
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠信
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−040398(JP,A)
【文献】 特開2004−285738(JP,A)
【文献】 特開2008−196162(JP,A)
【文献】 特開2000−226815(JP,A)
【文献】 特開2016−211238(JP,A)
【文献】 特開平10−060824(JP,A)
【文献】 特開平11−269819(JP,A)
【文献】 特開平09−071904(JP,A)
【文献】 特開2003−049487(JP,A)
【文献】 特開昭62−037449(JP,A)
【文献】 特開平10−219820(JP,A)
【文献】 特開2001−182016(JP,A)
【文献】 特開2015−183351(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0040100(US,A1)
【文献】 特開2017−201117(JP,A)
【文献】 特開2017−190582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の桁部材の両端を他の桁部材と三角形に繋いだ構造でありそれを繰り返して構成されたトラス構造を有する上部構造と、前記上部構造の両端を支える一対の下部構造を有するトラス橋の落橋防止装置において、
前記上部構造の幅員方向の両サイドに各々少なくとも1本の、前記上部構造を支持するための独立したケーブルを有すること、
複数の前記桁部材の側面に、前記ケーブルを摺動可能に挿通するガイド部材を有すること、
前記ケーブルは前記ガイド部材に挿通され、前記ケーブルの両端は前記一対の下部構造の各々に固定されていること、
前記ケーブルは、活荷重の移動により生じる通常振動時には、張力が作用しない弛んだ状態にあり、前記上部構造の前記トラス構造が、前記桁部材の破損により崩落に至る限界変位量を越えて下方に変形した時に、前記ケーブルが緊張して前記ガイド部材を介して前記トラス構造を支持することで、前記上部構造の崩落を防止し、前記トラス橋の落橋を防止すること、
を特徴とするトラス橋の落橋防止装置。
【請求項2】
請求項1に記載するトラス橋の落橋防止装置において、
前記ガイド部材は、前記ケーブルが懸垂曲線を描くように保持する位置に配置されていること、
を特徴とするトラス橋の落橋防止装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載するトラス橋の落橋防止装置において、
前記ガイド部材が、搖動可能に保持されていること、
を特徴とするトラス橋の落橋防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状の桁部材の両端を他の桁部材と三角形に繋いだ構造でありそれを繰り返して構成された上部構造と、上部構造の両端を支える一対の下部構造を有するトラス橋の落橋防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラス橋等の橋梁は上部構造と下部構造とが、支承により連結されている。上部構造は、床版とトラスを有する。下部構造は、橋脚を有する。
例えば、大地震等により、下部構造及び支承は損傷せずに、上部構造の一部が損傷した場合に、上部構造が地上に落下するのを防止するための装置が、落橋防止装置である。
落橋防止装置は上部構造が致命的な損傷に至っていない場合を想定しており,このような場合に限り有効に機能する。
【0003】
落橋防止装置としては、2タイプが公知である。すなわち、特許文献1には、図13に示すように、チェーン式の落橋防止装置が記載されている。上部構造202の端部下面に設けられた桁側固定具206と、下部構造203の側面に設けられた支持側固定具207とを、鋼製のチェーン205によって連結し,上部構造202の移動を制限することにより落橋を防止する。
ここで、チェーン205は、チェーン部材251、接続部材252とゴム製の緩衝部材253が連結され構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、ケーブル式の落橋防止装置が記載されている。すなわち、特許文献2には、図12に示すように、上部構造102の端部下面に設けられた桁側固定具106と、下部構造103の側面に設けられた支持側固定具107とを、両端に接続部材152を設けたケーブル105によって連結し,上部構造102の移動を制限することにより落橋を防止する。
ここで、ケーブル105は、地震発生時に張力がかからないように、緩めた状態で取り付けられている。
【0005】
一方、トラス橋の斜材が破断した場合については、非特許文献1がある。この論文では、次の点が記載されている。
1)引張り斜材が脆性的に破断する場合、破断時にひずみが突如解放される。この結果、まず、ひずみは縦波として高速で部材両端方向に伝播し破断部材の格点に一次衝撃を与える。
次に、部材破断による構造系全体の剛性低下により新たなつり合い状態への動的な移行により二次衝撃が発生する。
2)一次衝撃による応力の動的増幅は、二次衝撃による応力の増幅に較べて小さい。また,一次衝撃と二次衝撃の発生には時間差があり両者の連成の影響は無視できる。すなわち、リダンダンシー解析では衝撃係数として二次衝撃によるもののみを考慮すればよい。
3)一次衝撃、二次衝撃を同時に精度良く解析するには一次衝撃でのひずみ伝播における縦波の波長が非常に短く,伝播速度が速いので、細密な要素分割と時間増分となり、時刻歴応答解析では膨大な計算時間を要する。
ここでは衝撃係数への一次衝撃の影響が無視できることから、二次衝撃のみを精度良く解析できる近似解析法を提示した。この手法により大幅に計算時間を短縮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-177255号公報
【特許文献2】特開2012-012867号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】土木学会 構造工学論文集 Vol.56A(2010年3月)792頁〜805頁 後藤芳顯、川西直樹、本多一成 「リダンダンシー解析における鋼トラス橋の引張り斜材破断時の衝撃係数」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の落橋防止装置には、次のような問題があった。
(1)トラス橋は、桁をトラス構造とした橋である。トラス構造は細長い桁部材の両端を他の桁部材と三角形に繋いだ構造でありそれを繰り返して桁を構成している。トラス橋は、比較的大きな支間長に適用される。例えば、大地震により、トラスを構成する桁部材の一部、例えば、トラス橋の中央付近の桁部材が損傷した場合に、特許出願1、2の技術では対応不能であった。
すなわち、特許文献1、2の技術は、上部構造の端部と下部構造とをケーブルやチェーンで連結する構造であるため、上部構造の端部を支えることはできるが、上部構造の中央付近を支えることは不可能であり、トラス橋の中央付近の桁部材が損傷した場合には、落橋する事態を生じていた。
【0009】
(2)トラス橋の中央付近の桁部材が損傷した場合に、トラス橋の中央付近でトラス橋の崩壊を防止しようとすると、トラス橋がどのように変位するかについてシミュレーションを行う必要がある。しかし、非特許文献1では、トラス橋が受ける衝撃の算出を行っているが、桁部材が損傷した場合に、トラス橋がどのように変位するかについては、記載されていない。
【0010】
本発明は、トラス橋の上部構造の中央付近の桁部材が損傷した場合でも、トラス橋の落橋を防止できる落橋防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のトラス橋の落橋防止装置は、次のような構成を有し
ている。
(1)柱状の桁部材の両端を他の桁部材と三角形に繋いだ構造でありそれを繰り返して構成されたトラス構造を有する上部構造と、上部構造の両端を支える一対の下部構造を有するトラス橋の落橋防止装置において、上部構造の幅員方向の両サイドに各々少なくとも1本の、上部構造を支持するための独立したケーブルを有すること、複数の桁部材の側面に、ケーブルを摺動可能に挿通するガイド部材を有すること、ケーブルはガイド部材に挿通され、ケーブルの両端は一対の下部構造の各々に固定されていること、ケーブルは、活荷重の移動により生じる通常振動時には、張力が作用しない弛んだ状態にあり、上部構造のトラス構造が、桁部材の破損により崩落に至る限界変位量を越えて下方に変形した時に、ケーブルが緊張してガイド部材を介してトラス構造を支持することで、上部構造の崩落を防止し、トラス橋の落橋を防止すること、を特徴とする。
【0012】
(2)(1)に記載するトラス橋の落橋防止装置において、前記ガイド部材は、前記ケーブルが懸垂曲線を描くように保持する位置に配置されていること、を特徴とする。
ここで懸垂曲線とは、ロープや電線などの両端を持って垂らしたときにできる曲線である。カテナリー曲線とも言う。懸垂曲線は、重力下で一対の支持物によって張られた、柔軟な線状のものの自重による弛みをあらわす曲線であり、送電線など日常の多くのものに見ることができる。
【0013】
)(1)または(2)に記載するトラス橋の落橋防止装置において、前記ガイド部材が、搖動可能に保持されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトラス橋の落橋防止装置は、次のような作用、効果を有している。
(1)柱状の桁部材の両端を他の桁部材と三角形に繋いだ構造でありそれを繰り返して構成されたトラス構造を有する上部構造と、上部構造の両端を支える一対の下部構造を有するトラス橋の落橋防止装置において、上部構造の幅員方向の両サイドに各々少なくとも1本の、上部構造を支持するための独立したケーブルを有すること、複数の桁部材の側面に、ケーブルを摺動可能に挿通するガイド部材を有すること、ケーブルはガイド部材に挿通され、ケーブルの両端は一対の下部構造の各々に固定されていること、ケーブルは、活荷重の移動により生じる通常振動時には、張力が作用しない弛んだ状態にあり、上部構造のトラス構造が、桁部材の破損により崩落に至る限界変位量を越えて下方に変形した時に、ケーブルが緊張してガイド部材を介してトラス構造を支持することで、上部構造の崩落を防止し、トラス橋の落橋を防止すること、を特徴とする。
本発明者らは、桁部材破断により生じる運動エネルギ、破断系のエネルギ吸収能をいずれも静的な複合非線形解析によるPushover解析で近似評価している。このPushover解析はいわゆるModel Pushover解析であり、桁部材破断後の構造系の質点位置に作用する外力としては重力を加えて破断系が新たなつり合い状態へ動的に移行することで生じる慣性力を破断系の低次固有振動モードに基づき近似的に評価している。
この解析によると、損傷後のトラス橋の挙動を精度良く評価でき、落橋防止装置としてケーブルの作動タイミングをコントロールできる。
また、トラス橋は、例えば、自動車等の活荷重の移動により、上下に振動する。そのような通常振動時の限界変位量は、国交省により規定されている。通常振動時の限界変位量は、通常振動時には越えることのない値であるため、ケーブルの弛み量を限界変位量に設定しておけば、活荷重による振動によりケーブルが緊張することが無いため、ケーブルが疲労等により影響を受けることはない。一方、桁部材の損傷時には、下部構造がほとんどの死荷重を支持している状態で、トラス構造の変位の増大を止めることができるため、ケーブルにかかる力を最小とすることができ、ケーブルも小径のものを使用することができる。
【0015】
トラス構造は、元々一対の下部構造に全死荷重(トラス橋の自重による荷重)と活荷重(自動車荷重等)が支持されている。
本発明のトラス橋の落下防止装置で、損傷したトラス橋を支持する場合、損傷した桁部材周辺のトラス構造が順次下方に向かって変位するに連れて、下部構造で支持している反力が減少し、その分をケーブルが負担するので、ケーブルの張力が増大する。
そのため、下方への変位ができるだけ小さい時点で、ケーブルによりトラス構造自体に作用している荷重を受けてやれば、それ以上変位が増大することなく落橋が防止できる。
すなわち、桁部材が損傷した後には、上部構造の荷重の大半を下部構造が支持している状態を維持しながら、トラス構造をケーブルにより支持するのである。
【0016】
(2)(1)に記載するトラス橋の落橋防止装置において、前記ガイド部材は、前記ケーブルが懸垂曲線を描くように保持する位置に配置されていること、を特徴とする。
本発明者らは、トラスの桁部材破断によるトラス構造の変位をシミュレーションし、ケーブルをどのように配置したら良いかを検討した。両端が固定されたのみで、ケーブルがガイド部材に拘束されていない場合には、ケーブルのテンションが張るのは、ケーブルが懸垂曲線を描くように位置した後であることを発見した。ケーブルが懸垂曲線を描く状態になるまでは、ケーブルには、部分的なテンションがかかり、ケーブルは部分的に伸ばされた状態となり、トラス構造の変位が増大する。ケーブルが懸垂曲線を描いた後は、ケーブルによりトラスが支えられる。
したがって、通常状態において、ガイド部材をケーブルが懸垂曲線を描くように保持する位置に配置しておけば、桁部材が損傷した時に、速やかにケーブルが懸垂曲線を描いた状態になるため、ケーブルが部分的に伸びることが少なく、トラス構造を支えることができ、トラス構造の変位を最小限に抑えることができる。これにより、ケーブルの部分的な伸びを最小とすることができ、ケーブルとして小径のものを使用することができる。
【0018】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載するトラス橋の落橋防止装置において、前記ガイド部材が、搖動可能に保持されていること、を特徴とするので、ケーブルが少しの距離移動する場合に、リンク部材の搖動により対応可能である。ケーブルは、懸垂曲線を描くように保持されているが、緊張するときには、ケーブルが少しの距離移動する場合がある。その場合にリンク部材Bで対応しているのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の1つの実施形態における上路式トラス橋の側面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3図1のB部拡大図である。
図4】斜め桁部材12Cが破損した場合のシミュレーション結果を示す図である。
図5図1のトラス橋を多質点トラス橋モデルとしてモデル化した図である。
図6図5における各桁部材の諸元と材料定数を示す図である。
図7図5における各質点m1〜m11の質量を、死荷重、活荷重、合計として示す図である。
図8】ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEを鉛直部材11B、11C、11D、11Eの下端に設けた場合のモデル化した図である。
図9図8のモデルのシミュレーション結果を示す図である。
図10図1のモデルのシミュレーション結果を示す図である。
図11】第2の実施形態の落橋防止装置のガイド部材の構造を示す図である。
図12】従来のケーブル式の落橋防止装置を示す図である。
図13】従来のチェーン式の落橋防止装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の1実施の形態である落橋防止装置について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は上路式トラス橋の側面図であり、本発明の実施形態の構造を模式的に示した図である。
上路式トラス橋とは、自動車や歩行者が通行する床版1が、トラス構造2の上側に配置される形式のものである。床版1とトラス構造2により上部構造が形成されている。上部構造1、2は左右一対の下部構造3の段差部上面に両者の連結部である支承4を介して配置されている。
トラス構造2は、6本の柱状の鉛直部材11A、11B、11C、11D、11E、11Fを有する。鉛直部材11A〜11Fの上端は、鉛直部材11Aの上端から鉛直部材11Fの上端までに位置する上桁部材14に固定されている。また、鉛直部材11A〜11Fの下端は、鉛直部材11Aの下端から鉛直部材11Fの下端までに位置する下桁部材15に固定されている。鉛直部材11Aと鉛直部材11Bの間の空間には、傾斜する方向の異なる斜め桁部材12A、13Aが斜めに固定されている。順次、斜め桁部材12B〜12E、13B〜13Eが固定されている。
これらにより、トラス構造2が構成されている。
【0021】
次に、本実施例の特徴部分である落橋防止装置について説明する。本実施例では、上部構造1、2(トラス構造2)の幅員方向の両サイドに一対のケーブル5を張り巡らせている。ケーブル5の両端は、下部構造3の側面に固定された鋼製ブラケット8に固定されている。
図1のA部拡大図を図2に示す。(b)は、拡大部分断面図であり、(a)は、(b)のCC断面図である。また、図1のB部拡大図を図3に示す。(b)は、拡大部分断面図であり、(a)は、(b)のDD断面図である。
図2に示すように、鉛直部材11D下に設けられた下桁部材15の直下の位置には、ガイド部材21Dが溶接等により固設されている。ガイド部材21Dは、下桁部材15の両側面と底面とを囲む形状の取付ブラケット21cDと、下面に溝形状の一対のガイド部21aDが形成されたガイドブラケット21dDと、取付ブラケット21cDから上向きに延設され鉛直部材11Dに溶接される溶接ブラケット21bDを有している。
【0022】
ガイド部21aDの内周面は、図1において、右肩上がりに傾斜するように懸垂曲線に倣った曲面として形成されている。本実施例では、曲面に形成しているが、近似する傾斜直線で形成しても良い。曲面または近似する傾斜直線で形成しているのは、ケーブルと内周面全体とが全体的に接触することにより、ケーブル5の一部分に応力集中するのを防止するためである。
鉛直部材11Cには、ガイド部材21Dと同じ高さ位置にガイド部材21Cが固設されている。ガイド部材21Cに固定されたガイド部21aCの内周面は、ガイド部21aDとは反対方向である右肩下がりに傾斜するように曲面として形成されている。
【0023】
図3に示すように、鉛直部材11Eには、ガイド部材21Eが固設されている。ガイド部材21Eは、鉛直部材11Eの全周を取り囲んで一体的に固定された取付ブラケット21cEと、下面に溝形状の一対のガイド部21aEが形成されたガイドブラケット21dEを有している。
ガイド部21aEの内周面は、図1において、右肩上がりに傾斜するように懸垂曲線に倣った曲面として形成されている。本実施例では、曲面に形成しているが、近似する傾斜直線で形成しても良い。曲面または近似する傾斜直線で形成しているのは、ケーブルと内周面全体とが全体的に接触することにより、ケーブル5の一部分に応力集中するのを防止するためである。
鉛直部材11Bには、ガイド部材21Eと同じ高さ位置にガイド部材21Bが固設されている。ガイド部材21Bに固定されたガイド部21aBの内周面は、ガイド部21aEとは反対方向である右肩下がりに傾斜するように曲面として形成されている。
【0024】
両端を鋼製ブラケット8に固定されたケーブル5は、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEに挿入されている。ケーブル5は、弛みを持った状態であり、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEの内周上曲面からわずかに離れて弛んだ状態にある。
この弛み量は、上部構造1、2(トラス構造2)の変位が、通常振動時の限界変位量を越えない範囲では、ケーブル5が緊張することのない弛み量に設定されている。国交省の基準では、通常振動時の限界変位量は、L/600とされている。ここで、Lは、橋の長さである。本実施例では、L=60mであり、通常振動時の限界変位量は、60m/600=0.1mである。
両端が鋼製ブラケット8に固定され、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEに挿通されたケーブル5は、ほぼ懸垂曲線の形状を描いている。すなわち、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEの内周面は、ケーブル5が懸垂曲線を描くように形成されている。
【0025】
次に、中央付近の斜め桁部材12Cが損傷した場合のトラスの変位解析について説明する。
始めに、初期条件を説明する。図5に、図1のトラス橋を多質点トラス橋モデルとしてモデル化したものを示す。床版1には、m1〜m11の等しい荷重が等間隔で作用している。各桁部材の諸元と材料定数を図6に、断面形状、web(mm)、U−flg(mm)、L−flg(mm)、σy(MPa)として示す。尚、webはウェブの高さの板厚、V−flgは上フランジの幅と板厚、L−flgは下フランジの幅と板厚である。図7に、各質点m1〜m11の質量を、死荷重、活荷重、合計として示す。
【0026】
本発明者らは、桁部材破断により生じる運動エネルギ、破断系のエネルギ吸収能をいずれも静的な複合非線形解析によるPushover解析で近似評価している。このPushover解析はいわゆるModel Pushover解析であり、桁部材破断後の構造系の質点位置に作用する外力としては重力を加えて破断系が新たなつり合い状態へ動的に移行することで生じる慣性力を破断系の低次固有振動モードに基づき近似的に評価している。
この解析結果によれば、損傷した桁部材周辺のトラス構造が順次下方に向かって変位していくことがわかる。トラス構造は、元々一対の下部構造に全死荷重(トラス橋の自重による荷重)と活荷重(自動車荷重等)が支持されている。
損傷した桁部材周辺のトラス構造が順次下方に向かって変位するに連れて、下部構造で支持される荷重が減少し、トラス構造自体にかかる荷重が増大する。
【0027】
図4に、斜め桁部材12Cが破損した場合のシミュレーション結果を示す。(a)は、本発明の落橋防止装置を設置していない場合であり、(b)は、図1のケースである。
(a)の場合には、斜め桁部材12Cが破損すると、1秒後には、トラス構造2の変形が始まり、2秒後には変形が大きくなり、3秒後には、トラス構造2は、トラスとしての機能を有しない状態となる。
一方、(b)の場合には、1秒後の変形開始は、(a)と同様であるが、ここで、ケーブル5がトラス構造2を支えるため、2秒後、3秒後において、ほとんど変形が進むことが無い。1秒後の状態では、トラス構造2が構造体として機能している。
すなわち、損傷した桁部材周辺のトラス構造2が順次下方に向かって変位するに連れて、下部構造3で支持される荷重が減少し、トラス構造2自体にかかる荷重が増大する。そのため、下方への変位ができるだけ小さい時点で、ケーブル5によりトラス構造2自体にかかる増大した荷重を受けてやれば、それ以上変位が増大することなく落橋が防止できる。
上部構造1、2の死荷重と活荷重の大半を下部構造が支持している状態を維持しながら、桁部材損傷により生じたトラス構造2自体にかかる荷重をケーブル5により支持している。
【0028】
つぎに、ケーブルにかかる張力について説明する。図8に、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEを鉛直部材11B、11C、11D、11Eの下端に設けた場合の落橋防止構造を示す。図8に示すように、一端の鋼製ブラケット8aとガイド部材21Bとの間に位置するケーブルを5Aで表し、ガイド部材21Bとガイド部材21Cの間に位置するケーブルを5Bで表し、ガイド部材21Cとガイド部材21Dの間に位置するケーブルを5Cで表し、ガイド部材21Dとガイド部材21Eの間に位置するケーブルを5Dで表し、ガイド部材21Eと他端の鋼製ブラケット8bの間に位置するケーブルを5Eで表す。
【0029】
図8のように、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEを鉛直部材11B、11C、11D、11Eの下端に設けた場合のシミュレーション結果を図9に示す。横軸が時間軸(秒)であり、縦軸は、ケーブル5にかかる張力を取っている。図8のケースでは、ケーブル5Aに部分的に大きな張力が作用していることがわかる。それにより、ケーブル5Aにかかる張力は、ケーブルの降伏限界張力を越え、破断する危険性がある。
このシミュレーションにより、両端が固定されたのみで、ケーブルがガイド部に拘束されていない場合には、ケーブルにテンションがかかるのは、ケーブルが懸垂曲線を描くように位置した後であることを発見した。ケーブルが懸垂曲線を描く状態になるまでは、ケーブル5には、ケーブル5Aのように部分的なテンションがかかり、ケーブル5は部分的に伸ばされた状態となり、トラス構造の変位が増大する。ケーブル5が懸垂曲線を描いた後は、ケーブル5によりトラス構造2が支えられる。
【0030】
次に、図1に示すように、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEにより、ケーブル5が懸垂曲線を描くようにされている場合のシミュレーション結果を図10に示す。横軸が時間軸(秒)であり、縦軸は、ケーブル5にかかる張力を取っている。
図1のケースでは、ケーブル5が始めから略懸垂曲線を描いた状態にあるため、ケーブル5に部分的にテンションがかかることがなく、ケーブル5の一部が伸ばされることなく、ケーブル5の全ての部分であるケーブル5A、5B、5C、5D、5Eにかかる張力がほぼ等しく、ケーブル降伏張力未満であるため、ケーブル5が破損する恐れが無い。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態である落橋防止装置について説明する。
基本的構造は、第1実施形態と同じなので、同じ部分については説明を割愛し、異なる点のみ詳細に説明する。図11に鉛直部材11Bに取り付けられた落橋防止装置のガイド部材31Bの構造を示す。(a)は、正面図であり、(b)は、(a)のDD断面図である。
図11に示すように、下桁部材15に固設された下桁ブラケット32Bに、ガイド部材31Bの下部に延設されたガイドブラケット31eBが、リンク部材30Bにより搖動可能に保持されている。ガイド部材31Bに形成されたガイド部31aBには、ケーブル5が挿通されている。ガイド部31aBの内周上面は、曲面に形成されている。
第2の実施の形態のガイド部材31Bは、リンク部材30Bにより搖動可能に保持されているため、ケーブル5が少しの距離移動する場合に、リンク部材30Bの搖動により対応可能である。ケーブル5は、懸垂曲線を描くように保持されているが、緊張するときには、ケーブル5が少しの距離移動する場合がある。第2の実施の形態では、その場合にリンク部材30Bで対応しているのである。
【0032】
以上詳細に説明したように、本実施例のトラス橋の落橋防止装置は、(1)柱状の桁部材の両端を他の桁部材と三角形に繋いだ構造でありそれを繰り返して構成された上部構造1、2と、上部構造1、2の両端を支える一対の下部構造3を有するトラス橋の落橋防止装置において、上部構造1、2(トラス構造2)の幅員方向の両サイドに各々少なくとも1本のケーブル5を有すること、複数の桁部材の側面に、ケーブル5を摺動可能に挿通するガイド部21aB、21aC、21aD、21aEを有すること、ケーブル5はガイド部21aB、21aC、21aD、21aEに挿通され、ケーブル5の両端は一対の下部構造3の各々に固定されていること、ケーブル5は、活荷重の移動により生じる通常振動時には、弛んだ状態にあり、桁部材が破損して上部構造1、2(トラス構造2)が変形した時に、緊張して前記上部構造の崩落を防止すること、を特徴とする。
損傷した桁部材周辺のトラス構造2が順次下方に向かって変位するに連れて、下部構造3で支持される荷重が減少し、トラス構造2自体にかかる荷重が増大する。そのため、下方への変位ができるだけ小さい時点で、ケーブル5によりトラス構造2自体にかかる増大した荷重を受けてやれば、それ以上変位が増大することなく落橋が防止できる。
すなわち、上部構造1、2にかかる死荷重と活荷重の大半を下部構造が支持している状態を維持しながら、桁部材損傷により生じたトラス構造2自体にかかる荷重をケーブル5により支持するのである。
【0033】
(2)(1)に記載するトラス橋の落橋防止装置において、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEは、ケーブル5が懸垂曲線を描くように保持する位置に配置されていること、を特徴とする。
本発明者らは、トラスの桁部材破断によるトラス構造2の変位をシミュレーションし、ケーブル5をどのように配置したら良いかを検討した。両端が固定されたのみで、ケーブル5がガイド部21aB、21aC、21aD、21aEに拘束されていない場合には、ケーブル5全体にテンションがかかるのは、ケーブル5が懸垂曲線を描くように位置した後であることを発見した。ケーブル5が懸垂曲線を描く状態になるまでは、ケーブル5には、部分的なテンションがかかり、ケーブル5は部分的に伸ばされた状態となり、トラス構造2の変位が増大する。ケーブル5が懸垂曲線を描いた後は、ケーブルによりトラス構造2が支えられる。
したがって、通常状態において、ガイド部21aB、21aC、21aD、21aEをケーブル5が懸垂曲線を描くように保持する位置に配置しておけば、桁部材が損傷した時に、速やかにケーブル5が懸垂曲線を描いた状態になるため、ケーブル5が部分的に伸びることが少なく、トラス構造2を支えることができ、トラス構造2の変位を最小限に抑えることができる。これにより、ケーブル5の部分的な伸びを最小とすることができ、ケーブル5として小径のものを使用することができる。
【0034】
(3)(2)に記載するトラス橋の落橋防止装置において、上部構造1、2の変化量が、通常振動時の限界変位量を越える場合に、ケーブル5が緊張すること、を特徴とする。
トラス橋は、例えば、自動車等の活荷重の移動により、上下に振動する。そのような通常振動時の限界変位量は、国交省により規定されている。通常振動時の限界変位量は、通常振動時には越えることのない値であるため、ケーブル5の弛み量を限界変位量に設定しておけば、活荷重による振動によりケーブル5が緊張することが無いため、ケーブル5が疲労等により影響を受けることない。一方、桁部材の損傷時には、下部構造がほとんどの死荷重を支持している状態で、トラス構造2の変位の増大を止めることができるため、ケーブル5にかかる力を最小とすることができ、ケーブル5も小径のものを使用することができる。
【0035】
本発明のトラス橋の落橋防止装置は、上記実施例に限定されることなく色々な変形が可能である。
例えば、本実施例では、一対のケーブル5を用いているが、ケーブルの本数を3本以上としても良く、また例えば、下弦材がアーチ状の場合には、ケーブルを1本のみとしても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 床版
2 トラス構造
3 下部構造
4 支承
5 ケーブル
11 鉛直部材
12 斜め桁部材
13 斜め桁部材
21、31 ガイド部材
21a、31a ガイド部
21c、31c 取付ブラケット
21d、31d ガイドブラケット
30 リンク部材

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13