特許第6592868号(P6592868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6592868
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】超伝導体のクエンチ検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20191010BHJP
   H01F 6/02 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   G01R31/00ZAA
   H01F6/02
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-164175(P2018-164175)
(22)【出願日】2018年9月3日
【審査請求日】2018年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】高田 卓
(72)【発明者】
【氏名】今川 信作
(72)【発明者】
【氏名】濱口 真司
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−23511(JP,A)
【文献】 特開昭53−45999(JP,A)
【文献】 特開2015−106683(JP,A)
【文献】 実開昭58−155810(JP,U)
【文献】 米国特許第4989989(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
H01F 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導体におけるクエンチの発生を検出するクエンチ検出方法であって、
(A) 超流動ヘリウムに浸漬させた状態で超伝導体に通電するステップと、
(B) 前記超流動ヘリウムの膜沸騰によって生じる温度または圧力の変動をセンサによって検出するステップと、
(C) 前記検出結果に基づいてクエンチの発生を検出するステップとを備えるクエンチ検出方法。
【請求項2】
請求項1記載のクエンチ検出方法であって、
前記工程(B)は、膜沸騰に伴う第一音波を検出するクエンチ検出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のクエンチ検出方法であって、
前記工程(B)は、膜沸騰に伴う第二音波を検出するクエンチ検出方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のクエンチ検出方法であって、
前記工程(B)は、膜沸騰によって生じる気液界面を検出するクエンチ検出方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のクエンチ検出方法であって、
前記工程(B)の検出は、温度センサを用いて行うクエンチ検出方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載のクエンチ検出方法であって、
前記超伝導体は、高温超伝導体であるクエンチ検出方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載のクエンチ検出方法であって、
前記超伝導体は、超伝導コイルであるクエンチ検出方法。
【請求項8】
超伝導体を用いた超伝導装置であって、
前記超伝導体を収納する容器と、
前記超伝導体を浸漬させて前記容器内に充填された超流動ヘリウムと、
前記超伝導体への通電時に前記超流動ヘリウムの膜沸騰によって生じる温度または圧力の変動を検出するセンサと、
前記検出結果に基づいて、クエンチの発生を検出する検出装置とを備える超伝導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体に生じたクエンチを検出する方法に関し、詳しくは超流動ヘリウムを利用した検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導体は、一定の臨界温度を超えると超伝導性を失う性質を有している。超伝導体に通電する際に、何らかの原因で局所的に臨界温度を超え常伝導状態が生じることがある。かかる現象をクエンチという。クエンチが生じると、超伝導体の抵抗が局所的に増大するため、局所的な加熱を生じることがあり、熱応力による破損や焼損に至ることもある。かかる状態を回避するため、超伝導体の利用においては、クエンチを早期に検出することが重要な課題の一つとなっている。
クエンチの検出は、高温超伝導体において特に重要であった。高温超伝導体とは、一般に77ケルビンよりも臨界温度が高い物質を言うが、かかる性質は、臨界温度を超えるまでの熱容量が大きいことを意味する。つまり、局所的に常伝導部分が生じたとしても、他の箇所にそれが広がるまでに時間を要することとなり、クエンチを検出できる頃には、焼損が生じるほどに常伝導部分が拡大してしまうという問題が生じ得る。従って、高温超伝導体では、クエンチの早期検出がより重要な課題となるのである。
クエンチを検出するための技術として、特許文献1は、超伝導コイルに対して、超流動ヘリウムなどの作動流体を密封した密封管を沿わせて配置し、クエンチ発生時の熱によって作動流体に生じる蒸気圧の変化を検出する方法を開示している。他にも、電流・電圧等の計測によってクエンチを検出する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−096833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のクエンチの検出方法には、まだ検出速度や精度向上の面で改善の余地があった。また、高温超伝導体に対して早期に精度良くクエンチを検出できる方法は見つかっていなかった。
本発明は、かかる課題に鑑み、高温超伝導体も含むあらゆる超伝導体に適用でき、早期に精度良くクエンチを検出可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、超伝導体におけるクエンチの発生を検出するクエンチ検出方法であって、
(A) 超流動ヘリウムに浸漬させた状態で超伝導体に通電するステップと、
(B) 前記超流動ヘリウムの膜沸騰によって生じる温度または圧力の変動をセンサによって検出するステップと、
(C) 前記検出結果に基づいてクエンチの発生を検出するステップとを備えるクエンチ検出方法と構成することができる。
【0006】
本発明では、まず超流動ヘリウムに超伝導体を浸漬させる。こうすることにより、超流動ヘリウムが超伝導体に直接、接触するため、クエンチの発生を検出しやすくなる。また、超流動ヘリウムは、粘性が0の状態であるため、超伝導体がコイル状に形成されていても、その隙間に容易に入り込むことが可能となる。このため、超伝導体の形状に関わらずクエンチを検出しやすくなる利点もある。
そして、本発明では、クエンチ時の熱によって超流動ヘリウムに生じる膜沸騰に着目している。膜沸騰は、対流によって冷媒全体の温度が上昇することで生じる核沸騰に比して、局所的な加熱で速やかに生じる特徴があるため、クエンチ時に直ちに冷媒に生じる現象の一つである。そして、膜沸騰は、超流動ヘリウムによる現象の一つでもある。
本発明では、超流動ヘリウムを用いることにより、超伝導体に生じたクエンチが速やかに膜沸騰という現象を引き起こし、これをセンサで検出することによって、クエンチを速やかに精度良く検出することが可能となる。
【0007】
特許文献1では、超流動ヘリウムその他の作動流体の蒸気圧に基づいてクエンチの検出を行っている。蒸気圧の変化は、作動流体全体の温度上昇に依存して生じるものであるから、局所的な変化に対して検出までに時間遅れが生じる。これに対し、本発明では、膜沸騰という現象を検出するため、局所的な変化、クエンチの発生を速やかに検出することができる利点がある。
【0008】
本発明においては、
前記工程(B)は、膜沸騰に伴う第一音波を検出するものとしてもよい。
【0009】
第一音波とは、超流動ヘリウムに生じる密度波であり、いわゆる音の伝播と同様の原理による波である。膜沸騰の際には、超流動ヘリウムに微少な気泡が発生するが、この発生に伴って生じる密度波が第一音波である。第一音波は、超流動ヘリウムを音速で伝播する。上記態様では、これを検出するのである。こうすることにより、クエンチの発生を速やかに検出することが可能となる。
【0010】
本発明においては、
前記工程(B)は、膜沸騰に伴う第二音波を検出するものとしてもよい。
【0011】
第二音波とは、超流動ヘリウムにおいて熱伝導が拡散する際の現象として知られており、第一音波の約1/10程度の速度で伝播する熱的励起状態の変動である。第二音波は、時間応答性の早い温度センサで検出可能である。また、第二音波は、超流動ヘリウムを構成する超流動成分と常流動成分の割合の変化に対応するため、超流動成分のみを通過させる程度の細孔を備えたメンブレンフィルタを備えたOST(Oscillating Superleak Transducer)、これを用いた共振器などでも検出することができる。第二音波は、超流動ヘリウムにおける熱伝導に特有の現象であるため、これを用いることにより、クエンチをより精度良く検出することが可能となる。
【0012】
本発明においては、
前記工程(B)は、膜沸騰によって生じる気液界面を検出するものとしてもよい。
【0013】
膜沸騰の際には、気泡が発生し、加熱とともに成長する。この成長に伴って、気泡の気液界面が移動することになる。気液界面の到達は、超流動ヘリウムの温度、圧力の変化によって検出できる。気液界面の到達は、クエンチによる膜沸騰固有の現象であるため、これを用いることによりクエンチをより、クエンチをより精度良く検出することが可能となる。
【0014】
以上の態様で、膜沸騰を検出する方法として、第一音波、第二音波、および気液界面の3現象を示した。これらの3現象は、いずれか一つを検出するものとしてもよいし、2つまたは3つを並行して検出するものとしてもよい。また、これらの3現象を検出するためのセンサは、共通としてもよいし、個別に設けても良い。
複数の現象を並行して利用すれば、クエンチの発生の検出精度をより向上させることができる。また、3現象は、それぞれ超流動ヘリウムを伝播すう速度が異なるため、それぞれの現象の検出時刻に基づいてクエンチの発生箇所を推定することも可能となる。
また、3現象を検出するためのセンサは、超伝導体の周囲の一カ所のみに設けても良いし、複数箇所に設けても良い。複数箇所に設けることにより、検出精度を向上させることができ、また、それぞれのセンサでの検出時刻に基づいてクエンチの発生箇所を推定することも可能となる。
【0015】
本発明では、
前記工程(B)の検出は、温度センサを用いて行うものとしてもよい。
【0016】
温度センサを用いることにより、3現象いずれに対しても高応答性で検出できることが分かっている。ただし、圧力センサの利用を排除する趣旨ではない。
【0017】
本発明は、
前記超伝導体は、高温超伝導体である場合に特に有用性が高い。
【0018】
高温超伝導体とは、一般に77ケルビンよりも臨界温度が高い物質を言う。高温超伝導体では、従来、クエンチを検出する有効な技術がほとんど見いだされていなかったが、本発明によれば、クエンチの検出が可能である。また、高温超伝導体では、その性質上、クエンチを検出できる頃には、焼損が生じるほどに常伝導部分が拡大してしまうという問題が生じ得るため、早期のクエンチ検出が特に重要となるが、かかる点についても、本発明によれば速やかに検出することができるため、有用性が高い。
【0019】
本発明において、
前記超伝導体は、超伝導コイルとしてもよい。
【0020】
超伝導コイルでは、超伝導体が巻回されており、その内部でクエンチが生じた場合などは非常に検出が困難となるが、本発明によれば、超流動ヘリウムは、こうした隙間にも入り込みやすいため、コイル内部で生じたクエンチも支障なく検出することが可能となる。
【0021】
本発明は、以上で説明した種々の特徴を必ずしも全て備えている必要はなく、これらの特徴は、適宜、省略したり組み合わせたりしてもよい。また、本発明は、上述したクエンチ検出方法としての態様だけでなく、かかる検出方法を利用した超伝導装置として構成することもできる。
即ち、
超伝導体を用いた超伝導装置であって、
前記超伝導体を収納する容器と、
前記超伝導体を浸漬させて前記容器内に充填された超流動ヘリウムと、
前記超伝導体への通電時に前記超流動ヘリウムの膜沸騰によって生じる温度または圧力の変動を検出するセンサと、
前記検出結果に基づいて、クエンチの発生を検出する検出装置とを備える超伝導装置としての構成である。
【0022】
かかる構成とすれば、超流動ヘリウムに浸漬した状態で超伝導体に通電でき、膜沸騰を通じてクエンチの発生を検出することが可能となる。
検出装置は、センサの検出信号をソフトウェア的に処理するソフトウェアをコンピュータにインストールして構成してもよいし、検出機能を実現するための電子回路によってハードウェア的に構成してもよい。
上述の超伝導装置においても、先にクエンチ検出方法で説明した種々の特徴を、適宜、適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例としての超伝導装置の構成を示す説明図である。
図2】ヘリウムの相状態を示す説明図である。
図3】膜沸騰による気液界面の伝播を示す説明図である。
図4】クエンチ検出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1は、実施例としての超伝導装置の構成を示す説明図である。実施例の超伝送装置は、超伝導装置本体10と、クエンチを検出するための検出装置20を備えている。
超伝導装置本体10は、中心軸c周りに軸対称の円筒状の形状であり、容器11内に密封されている。
超伝導体は、超伝導コイルとして形成されている。本実施例では、中央部分に高温超伝導体で形成された高温超伝導コイル15が設けられている。高温超伝導体は、テープ状の線材で提供されるのが通常であるため、高温超伝導コイル15は、かかる線材を巻回したパンケーキコイルを積層した構造となっている。
高温超伝導コイル15の外側には、低温超伝導体で形成された第1低温超伝導コイル13、第2低温超伝導コイル14が設けられている。以下、本実施例の説明において、第1低温超伝導コイル13、第2低温超伝導コイル14、高温超伝導コイル15を超伝導コイルと総称することもある。
超伝導コイルは、かかる構造に限られるものではない。高温超伝導コイル15のみを有するものとしてもよいし、低温超伝導コイルのみを有するものとしてもよい。また、本実施例では、超伝導コイルへの適用例を示すが、超伝導体は、コイル以外の形状であっても構わない。
【0025】
容器11の内部には、超伝導コイルを浸漬するように、冷媒としての超流動ヘリウム12が充填されている。超伝導コイルの全体が浸漬されていれば、超流動ヘリウムは、必ずしも容器11の全体を満たす必要はない。
【0026】
超伝導コイルには、高温超伝導コイル15の両端面において直径の両端にそれぞれセンサ16が取り付けられている。センサ16は、後述する通りクエンチ発生時の膜沸騰を検出するためのものであり、圧力センサ、温度センサ、OST(Oscillating Superleak Transducer)などを単体または組み合わせて用いることができる。本実施例では、時間応答性の高い高感度温度計を用いるものとした。かかる温度計としては、例えば、Lake shore社のセルノックスベアチップ、極細のカーボン抵抗体、超伝導熱線流速計が挙げられる。また、温度計は、膜沸騰時に発生する第二音波を検出可能な時間応答性を有することが好ましい。
センサ16の数および位置は、種々の選択が可能である。さらに多くのセンサ16を設けても良い。
【0027】
センサ16の出力は、検出装置20に接続されている。検出装置20は、各センサ16の検出結果に基づいてクエンチが発生したか否かを検出する装置である。本実施例では、CPUおよびメモリを備えたコンピュータに、検出処理を行うためのコンピュータプログラムをインストールして構成した。検出装置20は、かかる機能を実現するためのASICその他の電子回路によってハードウェア的に構成してもよい。
【0028】
図2は、ヘリウムの相状態を示す説明図である。図示するように、ヘリウムは、温度および圧力に応じて気体、液体に相変化するが、液体においても、「He I」で表される通常の流体の状態と、「He II」で表される超流動の状態がある。本実施例では、「He II」の超流動ヘリウムを超伝導コイルの冷媒として用いるのである。
超流動ヘリウムは、粘性が0という性質を有している。また、熱伝導が非常に高く、局所的に生じた温度勾配が、ほぼ瞬時に全体に伝導されるという性質を有している。また加熱されたとき、通常の流体は、対流等によって液体全体の温度が上昇した後、気泡が生じる核沸騰という現象を生じるが、超流動ヘリウムでは、核沸騰を生じることなく、加熱された箇所で瞬間的に気泡を生じる膜沸騰という現象を生じる特性もある。
かかる性質を有する超流動ヘリウムを用いることにより、本実施例では、超流動ヘリウムが、超伝導コイルの隙間にも入り込むことができ、全体に冷却効果を及ぼすことができる。また、超伝導コイルの内部で生じたクエンチによる影響は、直ちに超流動ヘリウムに現れることになる。
本実施例では、このように超流動ヘリウムを利用するため、図2に示した「He II」領域の温度および圧力下で、超伝導装置は稼働される。
【0029】
図3は、膜沸騰による気液界面の伝播を示す説明図である。この図を利用して、本実施例におけるクエンチ検出の原理について説明する。超伝導コイルにクエンチが発生すると、その加熱によって、超流動ヘリウムに膜沸騰が生じる。図3(a)には、膜沸騰が発生した状態の超流動ヘリウムの様子を示した。膜沸騰によって、小さな気泡が発生していることが確認できる。
膜沸騰が生じると、気泡の発生に伴って超流動ヘリウムに密度波が生じる。これを第一音波と呼ぶ。第一音波は、いわゆる音の伝播と同様の原理による波であり、超流動ヘリウムを約200m/秒の音速で伝播する。
また、膜沸騰が生じると、第二音波も発生する。第二音波とは、超流動ヘリウムにおいて熱伝導が拡散する際の現象として知られており、第一音波の約1/10程度の速度、即ち約20m/秒で伝播する熱的励起状態の変動である。
さらに、膜沸騰の際には、気泡が発生し、加熱とともに成長する。この成長に伴って、気泡の気液界面が移動することになる。気液界面の移動速度は、1m/秒程度である。図3(b)には、気液界面が成長して拡大した状態を示した。気液界面の到達は、超流動ヘリウムの温度、圧力の変化によって検出することができる。
本実施例では、センサ16によって、第一音波、第二音波、気液界面を検出し、これに基づいて膜沸騰の発生、ひいてはクエンチの発生を検出するのである。
【0030】
図4は、クエンチ検出処理のフローチャートである。検出装置20が実行する処理である。
処理を開始すると、検出装置20は、第一音波を検出する(ステップS10)。図の右上に、膜沸騰に伴う現象の伝播の様子を示した。膜沸騰の際に生じる第一音波は約200m/秒で伝播し、第二音波は約20m/秒で伝播し、気液界面は約1m/秒で拡大していくから、図示するようにこの順に伝わることになる。ステップS10では、このうち最も早く伝播される第一音波を検出するのである。
【0031】
第一音波が検出されたときは、その結果を記録する(ステップS13)。そして、その時点での結果に基づいて、クエンチが発生したか否かを判定し、結果を出力する(ステップS14)。図中の右下に、判定例を模式的に示した。
第一音波のみが検出されている状態は、ケースNo.1に相当する。この時点では、第一音波の検出結果として検出時刻Time_aが記録され、第二音波、気液界面の検出結果はNA(検出なし)の状態である。本実施例では、このように3つの現象のうちいずれか一つのみが検出されている段階では、確実とまでは言えないもののクエンチが発生した可能性があることを示す信号「Alart1」を出力するものとした。
超伝導装置は、このAlart1に応じて、クエンチの発生を回避するため電流を遮断するなどの措置をとるようにしてもよいし、稼働を継続して経過を観測するようにしてもよい。
【0032】
判定結果を出力すると、検出装置20は、また処理を最初から繰り返す。次に実行するときには、既に第一音波は検出済みであるから、ステップS10では、「No」の分岐に進むことになる。
【0033】
ステップS10において、第一音波が検出されないとき、または上述のように既に検出済みのときは、検出装置20は、第二音波を検出する(ステップS11)。
第二音波が検出されたときは、その結果を記録し(ステップS13)、クエンチが発生したか否かを判定し、結果を出力する(ステップS14)。図中の右下に、判定例を模式的に示した。
第一音波の検出時刻Time_a、第二音波の検出時刻Time_bが記録されている状態は、ケースNo.2に相当する。本実施例では、このように3つの現象のうち2つが検出されている状況では、クエンチが発生した可能性が高いことを示す信号「Alart2」を出力するものとした。
超伝導装置は、このAlart2に応じて、クエンチの発生を回避するため電流を遮断するなどの措置をとるようにしてもよいし、稼働を継続して経過を観測するようにしてもよい。
【0034】
判定結果を出力すると、検出装置20は、また処理を最初から繰り返す。次に実行するときには、既に第一音波、第二音波はそれぞれ検出済みであるから、ステップS10、S11では、「No」の分岐に進むことになる。
【0035】
ステップS10、S11において、第一音波、第二音波が検出されないとき、または上述のように既に検出済みのときは、検出装置20は、気液界面を検出する(ステップS12)。
気液界面が検出されたときは、その結果を記録し(ステップS13)、クエンチが発生したか否かを判定し、結果を出力する(ステップS14)。図中の右下に、判定例を模式的に示した。
第一音波、第二音波、気液界面の3現象が全て検出される場合もあるが、ケースNo.3に示すように第一音波の検出時刻Time_a、気液界面の検出時刻Time_cが記録され、第二音波は何らかの原因によって検出されないという可能性も生じ得る。本実施例では、かかる場合も、3つの現象のうち2つが検出されている状況であるため、クエンチが発生した可能性が高いことを示す信号「Alart2」を出力するものとした。
【0036】
また、他の例として、第二音波のみが検出されている場合(ケースNo.4)では、3つの現象のうち一つが検出されているため、Alart1が出力される。第二音波および気液界面が検出されている場合(ケースNo.5)では、2つの現象が検出されているためAlart2が出力される。
本実施例では、このように複数の現象を併用することによりクエンチの検出精度をより向上させることができる。
【0037】
図4では、単に検出された現象の数に応じて判定結果を変更する例を示したが、それぞれの現象に対する信用度に重みを持たせても良い。例えば、3つの現象のうち、第二音波の検出が最も精度が高いとすると、ケースNo.3のように第一音波、気液界面が検出されている場合であっても第二音波が検出されていないことから、第一音波、第二音波が検出されているケースNo.2よりもクエンチが発生している可能性は低いものと判断するようにしてもよい。
【0038】
また、図4では、単にクエンチが発生しているか否かの判断のみを出力する例を示したが、クエンチの発生場所を推定してもよい。3つの現象はそれぞれ伝播速度が異なるため、それぞれの現象の検出時刻の差違が得られれば、クエンチの発生場所からセンサ16までの距離を算出することができる。また、かかる計算を、複数のセンサ16についてそれぞれ行うことにより、クエンチの発生場所からそれぞれのセンサ16までの距離を求めることができるため、その全体が成立する箇所として、クエンチの発生箇所を特定することも可能となる。
【0039】
以上で説明した本実施例の超伝導装置によれば、クエンチの発生を速やかに精度良く検出することができるため、クエンチによる超伝導コイルの破壊や焼損を回避することが可能となる。
特に、従来、高温超伝導体におけるクエンチの発生を検出する有用な技術はほとんど存在していなかったため、本実施例は、その有用性が高い。
【0040】
本発明は、実施例の装置構成および処理に限らず、種々の変形例を構成することができる。例えば、
(1)超伝導装置は、超伝導コイルを用いるものには限られない。
(2)また、高温超伝導体を用いるものには限定されない。
(3)膜沸騰で生じる3現象の全てを併用する必要はなく、いずれか一つまたは二つの現象を用いるようにしてもよい。
(4)膜沸騰で生じる3現象のいずれかが検出された時点で、クエンチ発生を判断するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、超伝導体に生じたクエンチを検出するために利用することができる。特に高温超伝導体に生じたクエンチの検出に有用である。
【符号の説明】
【0042】
10 :超伝導装置本体
11 :容器
12 :超流動ヘリウム
13 :第1低温超伝導コイル
14 :第2低温超伝導コイル
15 :高温超伝導コイル
16 :センサ
20 :検出装置


【要約】
【課題】 超伝導体に生じたクエンチを速やかに精度良く検出可能とする。
【解決手段】 高温超伝導コイル15を含む超伝導コイルを、容器11に入れ、超流動ヘリウムに浸漬させる。超伝導コイルの近傍には、時間応答性の早い高感度温度計からなるセンサ16を取り付ける。超伝導コイルにクエンチが生じると、超流動ヘリウムには膜沸騰という現象が生じる。センサ16は、この膜沸騰に伴って超流動ヘリウム内を伝播する第一音波、第二音波、および気液界面をそれぞれ検出する。検出装置20は、これらの検出結果に基づいて、クエンチが発生したか否かを判断する。超流動ヘリウムを利用し、クエンチ発生に伴って生じる挙動を検出することにより、クエンチの発生を速やかに精度良く検出することが可能となる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4