【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、超伝導体におけるクエンチの発生を検出するクエンチ検出方法であって、
(A) 超流動ヘリウムに浸漬させた状態で超伝導体に通電するステップと、
(B) 前記超流動ヘリウムの膜沸騰によって生じる温度または圧力の変動をセンサによって検出するステップと、
(C) 前記検出結果に基づいてクエンチの発生を検出するステップとを備えるクエンチ検出方法と構成することができる。
【0006】
本発明では、まず超流動ヘリウムに超伝導体を浸漬させる。こうすることにより、超流動ヘリウムが超伝導体に直接、接触するため、クエンチの発生を検出しやすくなる。また、超流動ヘリウムは、粘性が0の状態であるため、超伝導体がコイル状に形成されていても、その隙間に容易に入り込むことが可能となる。このため、超伝導体の形状に関わらずクエンチを検出しやすくなる利点もある。
そして、本発明では、クエンチ時の熱によって超流動ヘリウムに生じる膜沸騰に着目している。膜沸騰は、対流によって冷媒全体の温度が上昇することで生じる核沸騰に比して、局所的な加熱で速やかに生じる特徴があるため、クエンチ時に直ちに冷媒に生じる現象の一つである。そして、膜沸騰は、超流動ヘリウムによる現象の一つでもある。
本発明では、超流動ヘリウムを用いることにより、超伝導体に生じたクエンチが速やかに膜沸騰という現象を引き起こし、これをセンサで検出することによって、クエンチを速やかに精度良く検出することが可能となる。
【0007】
特許文献1では、超流動ヘリウムその他の作動流体の蒸気圧に基づいてクエンチの検出を行っている。蒸気圧の変化は、作動流体全体の温度上昇に依存して生じるものであるから、局所的な変化に対して検出までに時間遅れが生じる。これに対し、本発明では、膜沸騰という現象を検出するため、局所的な変化、クエンチの発生を速やかに検出することができる利点がある。
【0008】
本発明においては、
前記工程(B)は、膜沸騰に伴う第一音波を検出するものとしてもよい。
【0009】
第一音波とは、超流動ヘリウムに生じる密度波であり、いわゆる音の伝播と同様の原理による波である。膜沸騰の際には、超流動ヘリウムに微少な気泡が発生するが、この発生に伴って生じる密度波が第一音波である。第一音波は、超流動ヘリウムを音速で伝播する。上記態様では、これを検出するのである。こうすることにより、クエンチの発生を速やかに検出することが可能となる。
【0010】
本発明においては、
前記工程(B)は、膜沸騰に伴う第二音波を検出するものとしてもよい。
【0011】
第二音波とは、超流動ヘリウムにおいて熱伝導が拡散する際の現象として知られており、第一音波の約1/10程度の速度で伝播する熱的励起状態の変動である。第二音波は、時間応答性の早い温度センサで検出可能である。また、第二音波は、超流動ヘリウムを構成する超流動成分と常流動成分の割合の変化に対応するため、超流動成分のみを通過させる程度の細孔を備えたメンブレンフィルタを備えたOST(Oscillating Superleak Transducer)、これを用いた共振器などでも検出することができる。第二音波は、超流動ヘリウムにおける熱伝導に特有の現象であるため、これを用いることにより、クエンチをより精度良く検出することが可能となる。
【0012】
本発明においては、
前記工程(B)は、膜沸騰によって生じる気液界面を検出するものとしてもよい。
【0013】
膜沸騰の際には、気泡が発生し、加熱とともに成長する。この成長に伴って、気泡の気液界面が移動することになる。気液界面の到達は、超流動ヘリウムの温度、圧力の変化によって検出できる。気液界面の到達は、クエンチによる膜沸騰固有の現象であるため、これを用いることによりクエンチをより、クエンチをより精度良く検出することが可能となる。
【0014】
以上の態様で、膜沸騰を検出する方法として、第一音波、第二音波、および気液界面の3現象を示した。これらの3現象は、いずれか一つを検出するものとしてもよいし、2つまたは3つを並行して検出するものとしてもよい。また、これらの3現象を検出するためのセンサは、共通としてもよいし、個別に設けても良い。
複数の現象を並行して利用すれば、クエンチの発生の検出精度をより向上させることができる。また、3現象は、それぞれ超流動ヘリウムを伝播すう速度が異なるため、それぞれの現象の検出時刻に基づいてクエンチの発生箇所を推定することも可能となる。
また、3現象を検出するためのセンサは、超伝導体の周囲の一カ所のみに設けても良いし、複数箇所に設けても良い。複数箇所に設けることにより、検出精度を向上させることができ、また、それぞれのセンサでの検出時刻に基づいてクエンチの発生箇所を推定することも可能となる。
【0015】
本発明では、
前記工程(B)の検出は、温度センサを用いて行うものとしてもよい。
【0016】
温度センサを用いることにより、3現象いずれに対しても高応答性で検出できることが分かっている。ただし、圧力センサの利用を排除する趣旨ではない。
【0017】
本発明は、
前記超伝導体は、高温超伝導体である場合に特に有用性が高い。
【0018】
高温超伝導体とは、一般に77ケルビンよりも臨界温度が高い物質を言う。高温超伝導体では、従来、クエンチを検出する有効な技術がほとんど見いだされていなかったが、本発明によれば、クエンチの検出が可能である。また、高温超伝導体では、その性質上、クエンチを検出できる頃には、焼損が生じるほどに常伝導部分が拡大してしまうという問題が生じ得るため、早期のクエンチ検出が特に重要となるが、かかる点についても、本発明によれば速やかに検出することができるため、有用性が高い。
【0019】
本発明において、
前記超伝導体は、超伝導コイルとしてもよい。
【0020】
超伝導コイルでは、超伝導体が巻回されており、その内部でクエンチが生じた場合などは非常に検出が困難となるが、本発明によれば、超流動ヘリウムは、こうした隙間にも入り込みやすいため、コイル内部で生じたクエンチも支障なく検出することが可能となる。
【0021】
本発明は、以上で説明した種々の特徴を必ずしも全て備えている必要はなく、これらの特徴は、適宜、省略したり組み合わせたりしてもよい。また、本発明は、上述したクエンチ検出方法としての態様だけでなく、かかる検出方法を利用した超伝導装置として構成することもできる。
即ち、
超伝導体を用いた超伝導装置であって、
前記超伝導体を収納する容器と、
前記超伝導体を浸漬させて前記容器内に充填された超流動ヘリウムと、
前記超伝導体への通電時に前記超流動ヘリウムの膜沸騰によって生じる温度または圧力の変動を検出するセンサと、
前記検出結果に基づいて、クエンチの発生を検出する検出装置とを備える超伝導装置としての構成である。
【0022】
かかる構成とすれば、超流動ヘリウムに浸漬した状態で超伝導体に通電でき、膜沸騰を通じてクエンチの発生を検出することが可能となる。
検出装置は、センサの検出信号をソフトウェア的に処理するソフトウェアをコンピュータにインストールして構成してもよいし、検出機能を実現するための電子回路によってハードウェア的に構成してもよい。
上述の超伝導装置においても、先にクエンチ検出方法で説明した種々の特徴を、適宜、適用することが可能である。