(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コア部は、前記円筒上部、前記円筒中間部及び前記円筒下部の前記内周側領域に設けられており、 前記クラッド部は、前記円筒上部、前記円筒中間部及び前記円筒下部の外周側領域に設けられている、請求項5に記載の種結晶保持具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の種結晶保持具は、水平断面における炭素繊維の方向が一方向に真っ直ぐであるため、
図9に示すように、種結晶保持具8の内周面S
1が炭素繊維8fの方向と平行であるA部及びC部では内周面S
1の変形が生じやすく、種結晶の外周面に加わる圧縮応力が小さいが、種結晶保持具8の内周面S
1が炭素繊維8fの方向と略直交するB部及びD部では内周面S
1の変形が生じにくく、種結晶の外周面に加わる圧縮応力が大きい。このように、種結晶の外周面が種結晶保持具の内周面から受ける応力が繊維方向(X方向)と平行な部分と直交する部分とで異なる場合には、種結晶の特定の部分に応力が集中して種結晶が破断するおそれがある。また、特許文献2、3に記載の方法は、クッション材を別途用意しなければならず、取り付け作業が必要なだけでなく効果も不十分である。
【0007】
応力集中による種結晶の破断の問題は、直径450mmのシリコン単結晶の引き上げで顕在化した新たな問題である。結晶重量がそこまで大きくない直径300mmのシリコン単結晶の引き上げでは、種結晶保持具と接触する部分で種結晶が破断が起こることはほとんどがなかった。しかし、450mm単結晶の引き上げでは結晶重量が1000kgを超えることもあり、単結晶の大重量化により上記問題が目立つようになってきており、早期解決が望まれている。
【0008】
したがって、本発明の目的は、種結晶の特定箇所への応力集中を防止し且つ垂直方向の強度を高めることが可能な単結晶引き上げ用種結晶保持具を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような種結晶保持具を用いた安全で信頼性の高いシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の側面による種結晶保持具は、炭素繊維強化炭素複合材料からなり、略棒状の種結晶の外形に合致する形状の中空部を有する略円筒状の単結晶引き上げ用種結晶保持具であって、少なくとも種結晶の外周面と接触する部分の炭素繊維の方向が前記中空部の中心軸から見て等方性を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、種結晶保持具と接触する種結晶の外周面のうち特定の部分に応力が集中することを防止することができる。
【0011】
本発明において、前記種結晶の外周面と接触する部分の前記炭素繊維の方向は周方向成分を有することが好ましい。この構成によれば、水平断面において種結晶保持具の中空部の内周面の全周が炭素繊維の方向と平行になるので、炭素繊維の繊維構造を等方性にすることができる。
【0012】
本発明において、前記種結晶の外周面と接触する部分の前記炭素繊維の方向は前記中心軸と平行な成分をさらに有することが好ましい。この構成によれば、炭素繊維を斜めにタスキがけ状に巻きつける場合など、炭素繊維が軸方向と平行な繊維成分を含むことから、種結晶保持具の軸方向の引っ張り強度を強めることができる。
【0013】
本発明において、前記種結晶は、直径が徐々に小さくなるテーパー部を有し、前記中空部は、前記テーパー部に面接触する内周面を有し、前記内周面を構成する部分の前記炭素繊維の方向が前記中空部の中心軸から見て等方性を有することが好ましい。このように、中空部の内周面のうち種結晶のテーパー部に面接触する部分に含まれる炭素繊維の方向が中空部の中心軸から見て等方性を有する場合には、種結晶保持具と接触する種結晶の外周面のうち特定の部分に応力が集中することを防止することができる。
【0014】
本発明において、種結晶保持具全体の前記炭素繊維の方向は前記中空部の中心軸から見て等方性を有することが好ましい。この構成によれば、構造が単純であるため容易に製造することができる。
【0015】
本発明において、前記種結晶の外周面と接触する部分以外の部分の炭素繊維の方向は前記中空部の中心軸から見て異方性を有することが好ましい。この構成によれば、軸方向の引っ張り強度を強めることができ、種結晶保持具の機械的強度を向上させることができる。
【0016】
本発明の第2の側面による種結晶保持具は、炭素繊維強化炭素複合材料からなり、略棒状の種結晶の外形に合致する形状の中空部を有する略円筒状の単結晶引き上げ用種結晶保持具であって、炭素繊維の方向が前記中空部の中心軸から見て等方性を有するコア部と、炭素繊維の方向が前記中空部の中心軸から見て異方性を有するクラッド部とを有し、前記コア部は、少なくとも前記種結晶の外周面と接触する部分に設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、種結晶保持具と接触する種結晶の外周面のうち特定の部分に応力が集中することを防止することができる。
【0018】
本発明において、前記コア部の炭素繊維の方向は周方向成分を有することが好ましい。この構成によれば、水平断面において種結晶保持具の中空部の内周面の全周が炭素繊維の方向と平行になるので、炭素繊維の繊維構造を等方性にすることができる。
【0019】
本発明において、前記コア部の炭素繊維の方向は前記中心軸と平行な成分を有することが好ましい。この構成によれば、炭素繊維が軸方向と平行な繊維成分を含むことから、種結晶保持具の軸方向の引っ張り強度を強めることができる。
【0020】
本発明による種結晶保持具は、第1の口径を有する円筒上部と、前記円筒上部の下方に位置し、前記第1の口径から第2の口径まで徐々に縮径した円筒中間部と、前記円筒中間部の下方に位置し、前記第2の口径を有する円筒下部とを有し、前記コア部は、少なくとも前記円筒中間部の内周側領域に設けられており、前記クラッド部は、前記コア部の形成領域以外の領域に設けられていることが好ましい。このように、コア部が少なくとも前記円筒中間部の内周側領域に設けられている場合には、種結晶保持具と接触する種結晶の外周面のうち特定の部分に応力が集中することを防止することができる。
【0021】
本発明において、前記コア部は、前記円筒中間部及び前記円筒下部に設けられており、前記クラッド部は、前記円筒上部に設けられていることが好ましい。この構成によれば、コア部とクラッド部とを別々に成形した後、炭化処理して一体化させることができ、あるいは、ピンやボルトなどを用いてコア部とクラッド部とを機械的に連結することもできるので、製造が容易であり、製造コスト
の低減と加工精度の向上を図ることができる。
【0022】
本発明において、前記コア部は、前記円筒上部、前記円筒中間部及び前記円筒下部の前記内周側領域に設けられており、前記クラッド部は、前記円筒上部、前記円筒中間部及び前記円筒下部の外周側領域に設けられていることが好ましい。この構成によれば、円筒状のコア部の成形体に炭素繊維クロスを巻き付けてクラッド部を成形することができ、加工が容易である。したがって、製造コスト
の低減と加工精度の向上を図ることができる。
【0023】
本発明において、前記コア部は前記クラッド部に対して着脱自在に設けられていることが好ましい。この構成によれば、コア部とクラッド部とを別々に製造することができ、製造が非常に容易である。またコア部とクラッド部をそれぞれ別々に交換することができるので、部品コストの低減を図ることができる。
【0024】
本発明の第3の側面による種結晶保持具は、炭素繊維強化炭素複合材料からなり、略棒状の種結晶の外形に合致する形状の中空部を有する略円筒状の単結晶引き上げ用種結晶保持具であって、炭素繊維の方向が前記中空部の中心軸から見て等方性を有するコア部と、炭素繊維の方向が前記中空部の中心軸から見て等方性を有するクラッド部とを有し、前記コア部の炭素繊維の方向は周方向成分を有し、前記クラッド部の炭素繊維の方向は周方向成分と前記中心軸と平行な成分の両方を有し、前記コア部は、少なくとも前記種結晶の外周面と接触する部分に設けられており、前記クラッド部は、前記コア部の形成領域以外の領域に設けられていることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、種結晶保持具と接触する種結晶の外周面のうち特定の部分に応力が集中することを防止することができる。
【0026】
さらにまた、本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、上述した本発明による種結晶保持具を用いて直径450mm以上のシリコン単結晶をCZ法により引き上げることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、種結晶への応力集中を防止し且つ垂直方向の強度を高めることが可能な種結晶保持具を提供することができる。また、本発明によれば、安全で信頼性の高いシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の第1の実施の形態による単結晶引き上げ用種結晶保持具の構造を示す図であって、(a)は垂直断面図、(b)は(a)のA−A'線に沿った水平断面図である。
【0031】
図1(a)及び(b)に示すように、この種結晶保持具1は、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジットともいう)からなる略円筒状の部材であり、種結晶9は中空部10h内に挿入されることによって保持される。種結晶保持具1に保持された種結晶9の下端部9dは、種結晶保持具1の下端よりも下方に突出しており、この下端部9dをシリコン融液に浸漬しながら引き上げることによりシリコン単結晶が育成される。なお、種結晶保持具1の上下方向は通常の使用状態に基づいて定められる。
【0032】
種結晶9は細長い棒状(略円柱状)であり、相対的に大きな直径R
1を有する上部9aと、直径が徐々に縮径したテーパー部9bと、相対的に小さな直径R
2(R
2<R
1)を有する下部9cとを有している。上部9a及び下部9cの直径は一定である。種結晶9の下部9cは、種結晶保持具1の下端から突出することができる十分な長さを有している。またできるだけ太い種結晶9を用いることで例えば450mmウェーハ用の大口径且つ大重量のシリコン単結晶を安全に引き上げることができる。大重量のシリコン単結晶を引き上げる場合、種結晶9が種結晶保持具1から受ける応力集中の影響も大きいため、本発明の効果も顕著である。
【0033】
種結晶保持具1は、種結晶9の上部9aの直径R
1よりも大きな口径を有する円筒上部10aと、口径が徐々に縮径した円筒中間部10bと、種結晶9の上部9aの直径R
1よりも小さく且つ下部9cの直径R
2よりも大きな口径を有する円筒下部10cとを有している。種結晶保持具1の中空部10hは種結晶9の外形に合致した形状を有しており、垂直方向に延びて種結晶保持具1を貫通している。円筒上部10aの上端部の内周面にはねじ溝10dが形成されており、シリコン単結晶引き上げ装置の引き上げ軸の先端部を螺着できるようになっている。
【0034】
円筒中間部10bの内周面は、種結晶9のテーパー部9bの傾斜角度に合わせたテーパー面となっている。円筒中間部10bのテーパー角度を種結晶9のテーパー部9bのテーパー角度とほぼ同じにすることにより、種結晶9の外周面を種結晶保持具1の中空部10hの内周面に面接触させることができ、種結晶9が種結晶保持具1と接触する範囲を広げることができる。種結晶9の下端に晶出する単結晶の重量が大きくなるほどテーパー部9bが種結晶保持具1の内周面から受ける圧力も強くなるが、面接触の範囲を広げることで種結晶9にかかる応力を広く分散させることができ、特定の箇所への応力集中を回避することができる。
【0035】
円筒中間部10bの内周のテーパー面は、内側にわずかに膨らんだ曲面であることがより好ましい。このように円筒中間部10bの内周面を緩やかに湾曲させることで種結晶9のテーパー部9bと確実に接触させて支持することができる。
【0036】
種結晶保持具1には炭素繊維強化炭素複合材料が用いられている。炭素繊維強化複合材料は、炭素繊維に樹脂又はピッチを含浸させたマトリックスを炭化(黒鉛化)処理して得られるものであり、黒鉛の特性を持ちながら機械的強度を向上させることができる。
【0037】
図1(b)に示すように、種結晶保持具1の炭素繊維10fは、中心軸Zと直交する水平断面において周方向に配向されており、中心軸Zから見て等方性を有している。
図9に示したように、水平断面における炭素繊維の方向が一方向に真っ直ぐである場合には、種結晶保持具の中空部10hの内周面と接する種結晶9の外周面(テーパー面)のうち、炭素繊維の方向と平行な面(A部及びC部)よりも、繊維方向と直交する面(B部及びD部)への応力集中が大きくなり、種結晶9が破断するおそれがあった。しかし、本実施形態のように種結晶保持具1の中空部10hの内周面がその全周にわたって炭素繊維10fの方向と平行である場合には、種結晶9の外周面のうち特定の部分への過度な応力集中を防止することができる。
【0038】
本実施形態による種結晶保持具1は、フィラメントワインディング法(FW法)又はシートワインディング法(SW法)により成形することができる。フィラメントワインディング法では、中空部10hと同一形状の金型(マンドレル)を用意し、樹脂又はピッチを含浸させた複数本の炭素繊維の配列を金型に巻き付けて成形体を得る。また、シートワインディング法では、樹脂又はピッチを含浸させた炭素繊維クロスを金型に巻き付けて成形体を得る。次に、高温下の不活性ガス雰囲気中で成形体を加熱して炭化(黒鉛化)させる。成形体の樹脂等への浸漬と炭化工程とを複数回繰り返してもよい。その後、炭化した成形体の形状を整え、研磨等の仕上げ加工を施すことにより、種結晶保持具1が完成する。
【0039】
フィラメントワインディング法では、巻芯軸に対する炭素繊維の巻回角度ができるだけ小さくなるように巻き付けることが好ましい。このように炭素繊維を巻き付けることで縦方向の繊維成分を増やし、軸方向の引っ張り強度を強めることができる。また、シートワインディング法では、縦方向の繊維成分を含む炭素繊維クロスを用いることで軸方向の引っ張り強度を強めることが好ましい。
【0040】
以上説明したように、本実施形態による種結晶保持具1は、炭素繊維強化炭素複合材料で成形された中空部を有する円筒状の部材であり、中心軸と直交する水平断面において炭素繊維10fの方向が周方向であり、等方性を有しているので、種結晶保持具1の種結晶9に対する応力集中を防止することができる。したがって、種結晶9の破断を防止することができる。
【0041】
図2は、本発明の第2の実施の形態による単結晶引き上げ用種結晶保持具の構造を示す図であって、(a)は垂直断面図、(b)は(a)のA−A'線に沿った水平断面図である。
【0042】
図2(a)及び(b)に示すように、この種結晶保持具2の特徴は、中心軸Zと平行な繊維成分を含む炭素繊維クロスを用いて構成されている点にある。すなわち、炭素繊維クロスは、軸方向と交差する周方向の繊維成分10f
1と、軸方向と平行な繊維成分10f
2の両方を有するものである。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0043】
本実施形態による種結晶保持具2は、樹脂等を含浸させた炭素繊維クロスを金型に巻き付けて成形体を得るシートワインディング法において、炭素繊維クロスに含まれる繊維成分の向きが軸方向と平行となるように巻き付けることにより成形することができる。本実施形態によれば、炭素繊維クロスが軸方向と交差する周方向の繊維成分10f
1を含むことから、第1の実施形態と同様、種結晶保持具
2の種結晶9に対する応力集中を防止することができる。しかも、本実施形態によれば、炭素繊維クロスが軸方向と平行な繊維成分10f
2を含むことから、種結晶保持具2の軸方向の引っ張り強度を強めることができる。
【0044】
図3は、本発明の第3の実施の形態による単結晶引き上げ用種結晶保持具の構造を示す図であって、(a)は垂直断面図、(b)は(a)のA−A'線に沿った水平断面図である。
【0045】
図3(a)及び(b)に示すように、この種結晶保持具3の特徴は、種結晶9のテーパー部9bの外周面と接触する部分だけが等方性の繊維構造を有し、それ以外の部分が異方性の繊維構造を有する点にある。すなわち、本実施形態による種結晶保持具3は、等方性の繊維構造を有するコア部11と、異方性の繊維構造を有するクラッド部12との組み合わせからなり、コア部11は主に円筒中間部10bの内周側領域に設けられている。コア部11の炭素繊維11fは中心軸Zと直交する水平断面において周方向に配向されており、中心軸Zから見て等方性を有している。一方、クラッド部12の炭素繊維12fは水平断面において真っ直ぐ一方向に配向されており、中心軸Zから見て異方性を有している。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0046】
コア部11は、少なくとも種結晶9と接触する円筒中間部10bの内周側領域に設けられていればよく、コア部11が円筒上部10aや円筒下部10cにまで及ぶことを妨げるものではない。したがって、例えば図示のように、コア部11の一部が円筒上部10aや円筒下部10cにまで及んでいてもよい。またコア部11は、円筒中間部10bの内周側領域から外周側領域までの径方向全体に及んでいてもよい。
【0047】
本実施形態において、コア部11はクラッド部12と一体的に成形されている。クラッド部12は炭素繊維クロスからなり、平面的な炭素繊維クロスが多層化されたものである。炭素繊維クロスの平面は中心軸Zと平行であり、水平断面内では特定の方向に配向されている。炭素繊維クロスは、中心軸Zと交差する繊維成分のみならず、中心軸Zと平行な繊維成分を有することが好ましい。これによれば、保持具全体の軸方向の引っ張り強度を強めることができる。
【0048】
本実施形態において、引き上げ軸を螺着するためのねじ溝10dは、クラッド部12側に設けられている。異方性の繊維構造を有するクラッド部12にねじ溝10dを形成する場合には、ねじ溝10dの強度をさらに高めることができる。
【0049】
コア部11は、フィラメントワインディング法(FW法)又はシートワインディング法(SW法)により成形することができる。また、クラッド部12は、例えばハンドレイアップ成形法により成形することができる。ハンドレイアップ成形法では、成形型を用いて成形した炭素繊維クロスに樹脂等を含浸させ、ハケやローラーを用いて脱泡しながら、炭素繊維クロスを所定の厚さまで積層することにより成形体を得る。次に、このクラッド部12の成形体とコア部11の成形体とを組み合わせて炭化処理を行うことにより両者を一体化させることができる。その後、炭化した成形体の形状を整え、研磨等の仕上げ加工を施すことにより、種結晶保持具3が完成する。
【0050】
本実施形態による種結晶保持具3は、種結晶9との接触する部分の繊維構造が等方性を有しているので、種結晶保持具
3の種結晶9に対する応力集中を防止することができ、種結晶9の破断を防止することができる。また、クラッド部12の繊維構造が異方性を有し、中心軸Zと平行な繊維成分を有するので、軸方向の引っ張り強度を強めることができ、種結晶保持具の機械的強度を向上させることができる。
【0051】
図4は、本発明の第4の実施の形態による単結晶引き上げ用種結晶保持具の構造を示す図であって、(a)は垂直断面図、(b)は(a)のA−A'線に沿った水平断面図である。
【0052】
図4(a)及び(b)に示すように、この種結晶保持具4の特徴は、下半分がコア部11からなり、上半分がクラッド部12からなる点にある。すなわち、コア部11は、主に円筒中間部10bと円筒下部10cに設けられており、クラッド部12は円筒上部10aに設けられている。コア部11の一部は円筒上部10aにも及んでおり、コア部11とクラッド部12との上下方向の境界面は凹凸面となっているので、コア部11とクラッド部12との上下方向の接続強度を強めることができる。その他の構成は第3の実施の形態と同様である。
【0053】
本実施形態による種結晶保持具4もまた、種結晶9との接触面を構成するコア部11の繊維構造が等方性を有しているので、種結晶保持具
4の種結晶9に対する応力集中を防止することができ、種結晶9の破断を防止することができる。また、クラッド部12の繊維構造が異方性を有し、中心軸Zと平行な繊維成分を有するので、軸方向の引っ張り強度を強めることができ、種結晶保持具の機械的強度を向上させることができる。さらに、本実施形態によれば、コア部11とクラッド部12とを別々に成形した後、炭化処理して一体化させることができ、あるいは、ピンやボルトなどを用いてコア部11とクラッド部12とを機械的に連結することもできるので、製造が容易であり、製造コストを低減と加工精度の向上を図ることができる。
【0054】
図5は、本発明の第5の実施の形態による単結晶引き上げ用種結晶保持具の構造を示す図であって、(a)は垂直断面図、(b)は(a)のA−A'線に沿った水平断面図である。
【0055】
図5(a)及び(b)に示すように、この種結晶保持具5の特徴は、円筒上部10a、円筒中間部10b及び円筒下部10cの内周側領域の全体がコア部11からなり、外周側領域の全体がクラッド部12からなる点にある。種結晶保持具5の中空部10hの内周面の全面がコア部11からなるため、引き上げ軸を螺着するためのねじ溝10dはコア部11側に設けられている。その他の構成は第3の実施の形態と同様である。
【0056】
本実施形態による種結晶保持具5もまた、種結晶9との接触面を構成するコア部11の繊維構造が等方性を有しているので、種結晶保持具1の種結晶9に対する応力集中を防止することができ、種結晶9の破断を防止することができる。また、クラッド部12の繊維構造が異方性を有し、中心軸Zと平行な繊維成分を有するので、軸方向の引っ張り強度を強めることができ、種結晶保持具の機械的強度を向上させることができる。さらに、本実施形態による種結晶保持具5は、第3の実施の形態による種結晶保持具3よりもその加工が容易であり、製造コストを低減と加工精度の向上を図ることができる。
【0057】
図6は、本発明の第6の実施の形態による単結晶引き上げ用種結晶保持具の構造を示す図であって、(a)は垂直断面図、(b)は(a)のA−A'線に沿った水平断面図である。
【0058】
図6(a)及び(b)に示すように、この種結晶保持具6の特徴は、コア部11とクラッド部12とが別々の部材からなり、円筒状のクラッド部12の内側にコア部11が収容されるソケット構造を有する点にある。種結晶9のテーパー部9bの外周面と接触するコア部11が等方性の繊維構造を有し、コア部11の外側のクラッド部12が異方性の繊維構造を有する点は第3の実施の形態と同様である。
【0059】
コア部11はクラッド部12から着脱可能である。コア部11の外周面にはテーパー面が設けられており、このテーパー面がクラッド部12のテーパー状の内周面に面接触することにより、コア部11はクラッド部12内に固定される。コア部11は種結晶9が予めセットされた状態でクラッド部12にセットされてもよく、あるいはコア部11をクラッド部12にセットした後に種結晶9をセットしてもよい。
【0060】
本実施形態によれば、第3の実施の形態による発明の効果に加えて、コア部11とクラッド部12を別々に製造することができるので、製造が非常に容易である。またコア部11とクラッド部12をそれぞれ別々に交換することができるので、部品コストの低減を図ることができる。
【0061】
図7は、本発明の第7の実施の形態による単結晶引き上げ用種結晶保持具の構造を示す図であって、(a)は垂直断面図、(b)は(a)のA−A'線に沿った水平断面図である。
【0062】
図7(a)及び(b)に示すように、この種結晶保持具7の特徴は、円筒上部10a、円筒中間部10b及び円筒下部10cの内周側領域の全体がコア部11からなり、外周側領域がクラッド部12からなり、コア部11がフィラメントワインディング法で成形された等方性の繊維構造を有し、クラッド部12がシートワインディング法(SW法)で成形された等方性の繊維構造を有する点にある。特に、クラッド部12には炭素繊維クロスが用いられており、この炭素繊維クロスは、軸方向と交差する周方向の繊維成分12f
1と、軸方向と平行な繊維成分12f
2の両方を有する。種結晶保持具
7の中空部10hの内周面の全面がコア部11によって形成されているため、引き上げ軸を螺着するためのねじ溝10dはコア部11側に設けられている。
【0063】
本実施形態による種結晶保持具7は、フィラメントワインディング法(FW法)とシートワインディング法(SW法)とを組み合わせて形成することができる。すなわち、まずフィラメントワインディング法でコア部11の成形体を成形し、コア部11の成形体の外側に樹脂等を含浸させた炭素繊維クロスを巻き付けてクラッド部12を成形する。このとき、炭素繊維クロスに含まれる繊維成分12f
2の配向方向が軸方向と平行となるように炭素繊維クロスを巻き付ける必要がある。次に、高温下の不活性ガス雰囲気中で成形体を加熱して炭化(黒鉛化)させる。その後、炭化した成形体の形状を整え、研磨等の仕上げ加工を施すことにより、種結晶保持具7が完成する。
【0064】
本実施形態による種結晶保持具7は、種結晶9との接触面を構成するコア部11の繊維構造のみならずクラッド部12の繊維構造までもが等方性を有しているので、種結晶保持具
7の種結晶9に対する応力集中を防止することができ、種結晶9の破断を防止することができる。また、クラッド部12を構成する炭素繊維クロスが中心軸Zと平行な繊維成分12f
2を有するので、軸方向の引っ張り強度を強めることができ、種結晶保持具の機械的強度を向上させることができる。さらに、本実施形態による種結晶保持具7は、第5の実施の形態による種結晶保持具5よりもその加工が容易であり、製造コストを低減と加工精度の向上を図ることができる。
【0065】
次に、上記種結晶保持具を用いたCZ法によるシリコン単結晶の製造方法について説明する。
【0066】
図8は、シリコン単結晶引き上げ装置の構造の一例を示す断面図である。
【0067】
図8に示すように、シリコン単結晶引き上げ装置20は、チャンバー21と、チャンバー21の内側に配置された断熱材22と、チャンバー21内に設置された石英ルツボ23と、石英ルツボ23を支持するサセプタ24と、サセプタ24を昇降可能に支持する回転支持軸25と、サセプタ24の周囲を取り囲むように配置されたヒーター26と、石英ルツボ23の上方に配置された略逆円錐台形状の熱遮蔽体27と、石英ルツボ23の上方であって回転支持軸25と同軸上に配置された単結晶引き上げ用ワイヤー28(引き上げ軸)と、チャンバー21の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構29とを備えている。
【0068】
ワイヤー28は、チャンバー21の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構29から真っ直ぐ下方に延びて石英ルツボ23の近くまで達している。ワイヤー28の先端部には種結晶保持具30が取り付けられており、種結晶保持具30は種結晶を保持している。種結晶保持具30としては、上記第1〜第7の実施の形態による種結晶保持具1〜7のいずれかを用いることができる。
【0069】
シリコン単結晶の引き上げ工程では、まずサセプタ24内に石英ルツボ23をセットし、石英ルツボ23内に多結晶シリコン原料を充填し、種結晶保持具30に種結晶をセットする。次にシリコン原料をヒーター26で加熱してシリコン融液31を生成し、種結晶を降下させてシリコン融液31に着液させる。その後、種結晶及び石英ルツボ23をそれぞれ回転させながら種結晶をゆっくり上昇させることにより、略円柱状のシリコン単結晶32を成長させる。
図1には、育成途中のシリコン単結晶32が種結晶保持具30を介してワイヤー28に吊設された状態が示されている。
【0070】
シリコン単結晶32の直径は、その引き上げ速度やヒーター26のパワーを制御することにより制御される。シリコン単結晶32の育成では、結晶直径が細く絞られたネック部を形成した後、結晶直径を徐々に広げてショルダー部を形成する。そして例えば450mm以上の規定の直径に到達した時点で引き上げ条件を変更して直径が一定であるボディー部を形成する。さらに引き上げ終了時には直径を細く絞ってテール部を形成し、最終的に液面から切り離す。以上により、シリコン単結晶インゴットが完成する。
【0071】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0072】
例えば、上記実施形態においてはシリコン単結晶引き上げ用の種結晶保持具として説明したが、本発明による種結晶保持具はシリコン単結晶引き上げ用に限定されず、種々の単結晶の引き上げに用いることができる。また、上記実施形態においては、種結晶保持具の中空部10hのテーパー面の角度を種結晶9のテーパー面と同じ角度にしているが、種結晶9のテーパー面の角度よりも大きくすることも可能である。さらに、上記各実施形態は必要に応じて任意に組み合わせることが可能である。