(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述したように、絶縁層に金属水酸化物を多量に配合すると、電気特性が低くなり、特に絶縁層を導体の直上に設けた場合に著しく低くなる。この点について検討したところ、絶縁層を内層および外層を有する積層構造として、導体側の内層を、金属水酸化物の含有量が少なくなるように構成し、その外層を、金属水酸化物の含有量が内層よりも多くなるように構成するとよいことが見出された。これにより、絶縁層全体における金属水酸化物の量を多くして所望の高い難燃性を維持しつつ、導体側の内層における金属水酸化物の量を少なくして電気特性の低下を抑制できるので、耐摩耗性とともに難燃性および電気特性を高い水準でバランスよく得ることができる。
【0012】
本発明は、上述の知見に基づいて成されたものである。
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の断面図である。
【0014】
(1)絶縁電線の構成
図1に示すように、絶縁電線1は、導体11を備えている。導体11としては、通常用いられる金属線、例えば銅線、銅合金線の他、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、金属線の外周に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。さらに、金属線を撚り合わせた集合撚り導体を用いることもできる。
【0015】
導体11の外周には、導体11を被覆するように絶縁層12が設けられている。絶縁層12は、導体11の外周を被覆する内層13および内層13の外周を被覆する外層14を有している。
【0016】
内層13は、後述する第1のノンハロゲン樹脂組成物から形成されており、例えば、第1のノンハロゲン樹脂組成物を導体11の外周上に押出成形して架橋させることで形成される。
【0017】
ここで、第1のノンハロゲン樹脂組成物について具体的に説明する。
【0018】
第1のノンハロゲン樹脂組成物は、ポリオレフィンを含むベースポリマ(A)と金属水酸化物とを含有する。
【0019】
ベースポリマ(A)は、ハロゲンを含まないポリオレフィンであれば特に限定されない。例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)や中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−アクリル酸エステル共重合体などのポリオレフィンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくは、内層13を構成するベースポリマ(A)は、後述する外層14を構成するベースポリマ(B)と同様の成分を含むことが好ましい。具体的には、高密度ポリエチレンを5質量部〜55質量部と、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体を30〜50質量部と、酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体を5〜20質量部と、エチレン−アクリル酸エステル共重合体を10〜30質量部とを、合計が100質量部となるように含むことが好ましい。これにより、内層13の機械的特性を向上でき、絶縁電線1全体の機械的特性をさらに向上させることができる。
【0020】
金属水酸化物は、難燃性を向上させるものである。金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも水酸化マグネシウムが好ましい。水酸化マグネシウムは、脱水反応が350℃と他の金属水酸化物よりも高く、難燃性をより向上できるからである。なお、金属水酸化物は、ベースポリマへの分散性の観点から、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸などの脂肪酸などによって表面処理されていてもよい。高い耐熱性が必要とされる場合、シランカップリング剤で表面処理するとよい。
【0021】
金属水酸化物の配合量は、難燃性を向上させる観点からは多いほど好ましいが、上述したように、導体11の直上に設けられる内層13に導電性の金属水酸化物を多量に配合すると、内層13の電気特性を低下させ、結果的に絶縁電線1全体としての電気特性を低下させることになる。そこで、本実施形態では、絶縁電線1全体の電気特性を向上させる観点から、内層13を形成する第1のノンハロゲン樹脂組成物は、外層14を形成する第2のノンハロゲン樹脂組成物よりも金属水酸化物が少なくなるように構成することが好ましい。本発明者らの検討によると、内層13のベースポリマ(A)100質量部に対して金属水酸化物の配合量が100質量部を超えると、電気特性が低下することから、内層13における金属水酸化物の配合量は100質量部以下であることが好ましい。一方、内層13には金属水酸化物を配合しなくてもよいが、内層13に所定の難燃性を付与する観点からはベースポリマ(A)100質量部に対して10質量部以上であることが好ましい。すなわち、内層13において難燃性と電気特性とのバランスを高い水準で得る観点からは、金属水酸化物の配合量が10質量部〜100質量部であることが好ましく、30質量部〜80質量部であることがさらに好ましい。
【0022】
外層14は、
図1に示すように、内層13の外周を被覆するように設けられている。外層14は、内層13よりも金属水酸化物の配合量が多く、難燃性が高くなるように構成される。そのため、外層14は、内層13を形成する第1のノンハロゲン樹脂組成物よりも多くの金属水酸化物を含有する第2のノンハロゲン樹脂組成物から形成されており、例えば、第2のノンハロゲン樹脂組成物を内層13の外周上に押出成形して架橋させることで形成される。
【0023】
ここで、第2のノンハロゲン樹脂組成物について具体的に説明する。
【0024】
第2のノンハロゲン樹脂組成物は、ポリオレフィンを含むベースポリマ(B)と、内層13を形成する第1のノンハロゲン樹脂組成物よりも多くの金属水酸化物と、を含有する。
【0025】
第2のノンハロゲン樹脂組成物に配合される金属水酸化物は、上述した第1のノンハロゲン樹脂組成物に配合されるものと同様のものを用いることができる。その配合量は、外層14において所望の高い難燃性を得られるように、第1のノンハロゲン樹脂組成物よりも多いことが好ましい。具体的には、ベースポリマ(B)100質量部あたり、120〜200質量部であることが好ましい。120質量部以上とすることにより、外層14において所望の高い難燃性を得ることができる。一方、200質量部以下とすることにより、金属水酸化物による機械的特性(伸び性)の低下を抑制でき、高く維持することができる。すなわち、金属水酸化物を120〜200質量部の範囲で配合することにより、外層14において難燃性および機械的特性を高い水準で得ることができる。
【0026】
ベースポリマ(B)は、外層14において所望の高い耐摩耗性を得る観点からは、高密度ポリエチレン(b1)(以下、HDPE(b1)ともいう)を含有することが好ましい。
ただし、HDPE(b1)に多量の金属水酸化物を添加すると、外層14において機械的特性や低温特性が低下して別の問題が生じることがある。この原因としては、HDPE(b1)が高結晶性を有することが考えられる。具体的に説明すると、高結晶性を有するHDPE(b1)は、結晶性領域が多く、金属水酸化物などのフィラーを取り込める非晶性領域が少ないため、フィラーの受容性が低い。このHDPE(b1)に多量の金属水酸化物を配合する場合、金属水酸化物がHDPE(b1)中に良好に分散できず、凝集しやすい。しかも、HDPE(b1)は金属水酸化物と強固に結合できないため、金属水酸化物との間に十分な密着性を確保できない。その結果、外層14においては機械的特性や低温特性が大きく損なわれることになる。
このような特性の低下を抑制する方法について検討したところ、金属水酸化物の分散を促進させるようなポリマや、HDPE(b1)と金属水酸化物との密着性に優れるポリマ等を混合することがよく、そのようなポリマとして、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体(b2)、酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体(b3)およびエチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)の3種がよいことが見出された。すなわち、ベースポリマ(B)は、HDPE(b1)、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体(b2)、酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体(b3)およびエチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)を含むことが好ましい。より好ましくは、ベースポリマ(B)は、高密度ポリエチレン(b1)を5質量部〜55質量部と、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体(b2)を30〜50質量部と、酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体(b3)を5〜20質量部と、エチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)を10〜30質量部とを、合計が100質量部となるように含む。
【0027】
HDPE(b1)は、高結晶性を有するポリマであり、外層14の耐摩耗性を向上させるものである。HDPE(b1)の密度および融点は特に限定されないが、密度は0.942g/cm
3以上0.965g/cm
3以下であることが好ましく、融点は126℃以上137℃以下であることが好ましい。
【0028】
HDPE(b1)の配合量は、ベースポリマ(B)100質量部あたり、5質量部〜55質量部であることが好ましい。5質量部未満となると、外層14のベースポリマ(B)に占める比率が過度に低くなるため、外層14の耐摩耗性が低下するおそれがある。一方、55質量部を超えると、その他の成分の比率が低くなるため、外層14における諸特性のバランスが悪くなるおそれがある。
【0029】
エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体(b2)(以下、単に三元共重合体(b2)ともいう)は、無水マレイン酸により金属水酸化物と強固に結合することで、ベースポリマ(B)と金属水酸化物との密着性を向上させる。これにより、外層14の機械強度を向上させて外層14の耐摩耗性を向上させることができる。三元共重合体(b2)としては、例えば、エチレン−アクリル酸メチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル−無水マレイン酸三元共重合体などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
三元共重合体(b2)の配合量は、ベースポリマ(B)100質量部あたり、30〜50質量部であることが好ましい。30質量部未満となると、外層14において十分な耐摩耗性が得られないおそれがある一方、50質量部を超えると、外層14の機械強度が過度に高くなるため、適度な伸び性(機械的特性)が得られないおそれがある。すなわち、三元共重合体(b2)を30〜50質量部配合することにより、外層14において耐摩耗性および機械的特性を高い水準でバランスよく得ることができる。
【0031】
三元共重合体(b2)は、アクリル酸エステルおよび無水マレイン酸をそれぞれ所定量含むが、金属水酸化物との密着性の観点からは、アクリル酸エステルを5質量%以上30質量%以下、無水マレイン酸を2.8質量%以上3.6質量%以下、含有することが好ましい。このような範囲で含有することにより、外層14において適度な機械強度が得られ、所望の高い耐摩耗性を得ることができる。
【0032】
酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体(b3)(以下、単に酸変性ポリオレフィン(b3)ともいう)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィンである。酸変性ポリオレフィン(b3)は、酸変性されることで金属水酸化物と強固に結合することができ、また低温環境下で柔軟性に優れるため、外層14の低温特性を向上させることができる。エチレン−α−オレフィン共重合体としては、炭素数が3〜12のα―オレフィンとエチレンとの共重合体を挙げることができる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げることができ、これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。変性させる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
【0033】
酸変性ポリオレフィン(b3)の配合量は、ベースポリマ(B)100質量部あたり、5〜20質量部であることが好ましい。5質量部未満であると、酸変性ポリオレフィン(b3)による低温特性の効果を十分に得られないおそれがある一方、20質量部を超えると、外層14の機械強度が過度に高くなるため、適度な伸び性(機械的特性)が得られないおそれがある。すなわち、酸変性ポリオレフィン(b3)を5〜20質量部配合することにより、外層14において低温特性および耐摩耗性を高い水準でバランスよく得ることができる。
【0034】
酸変性ポリオレフィン(b3)のガラス転移点(Tg)は、特に限定されないが、−55℃以下であることが好ましい。Tgが−55℃以下の酸変性ポリオレフィン(b3)によれば、ベースポリマ(B)のTgをさらに低くすることができ、外層14の低温特性をより向上させることができる。これにより、外層14が低温環境下に曝されたときに割れてしまうことを抑制することができる。
【0035】
エチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)は、フィラーの受容性が高いので、多量の金属水酸化物を取り込むことができる。しかも、上述のHDPE(b1)、三元共重合体(b2)および酸変性ポリオレフィン(b3)と適度な相溶性を有していると考えられ、これらと相溶することでベースポリマ(B)中に金属水酸化物を微細に分散させることができる。これにより、外層14の伸び性などの機械的特性を向上させる。なお、エチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)は、燃焼時には炭化層を形成するため、外層14の難燃性の向上にも寄与すると考えられる。
【0036】
エチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)としては、例えば、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
エチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)の配合量は、ベースポリマ(B)100質量部あたり、10〜30質量部であることが好ましい。10質量部未満となると、外層14において機械的特性が得られず、伸び性が不十分となるおそれがある。一方、30質量部を超えると、外層14の機械強度が過度に低くなるため、十分な耐摩耗性が得られないおそれがある。すなわち、エチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)を10〜30質量部配合することにより、外層14において耐摩耗性および機械的特性を高い水準でバランスよく得ることができる。
【0038】
エチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)は、アクリル酸エステルを10質量%以上30質量%以下、含むことが好ましい。
【0039】
このように、本実施形態の絶縁電線1において、絶縁層12は、導体11を被覆する内層13と、内層13を被覆する外層14とを有する。
内層13は、金属水酸化物の配合量の少ない第1のノンハロゲン樹脂組成物から形成されており、金属水酸化物の配合による電気特性の低下が抑制されている。
外層14は、HDPE(b1)、三元共重合体(b2)、酸変性ポリオレフィン(b3)およびエチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)を含むベースポリマ(B)に多量の金属水酸化物を配合した第2のノンハロゲン樹脂組成物から形成されている。第2のノンハロゲン樹脂組成物は、上記(b1)〜(b4)成分を含有することにより金属水酸化物がベースポリマ(B)中に微細に分散され、かつ金属水酸化物がベースポリマ(B)と強く結合されているので、外層14は、難燃性および耐摩耗性に優れるだけでなく、金属水酸化物の凝集による機械的特性や低温特性の低下が抑制されている。
したがって、内層13および外層14を有する絶縁層12は、難燃性、耐摩耗性、電気特性、機械的特性および低温特性を高い水準でバランスよく得ることができる。
【0040】
ただし、内層13の厚さが絶縁層12の全体の厚さに占める割合が過度に小さいと、もしくは外層14の厚さが過度に薄いと、諸特性を高い水準でバランスよく得るのは困難となる。そこで、本実施形態では、内層13により電気特性の低下を抑制する観点から、内層13の厚さは絶縁層12の全体の厚さの20%以上とする。一方、内層13の厚さが絶縁層12の全体の厚さに占める割合が大きすぎると、電気特性の低下は抑制できるものの、外層14の割合が少なくなるため、外層14において十分な難燃性や耐摩耗性を得ることが困難となる。そのため、内層13の厚さは絶縁層12の全体の厚さの58%以下とする。また、外層14において、所望の難燃性および耐摩耗性を得るには、外層14の厚さが少なくとも0.14mm以上であればよい。
【0041】
なお、絶縁層12は、内層13および外層14以外の他の樹脂層を有していてもよい。例えば、内層13と外層14との間に介在するように他の樹脂層を備えていてもよい。
【0042】
また、第1のノンハロゲン樹脂組成物および第2のノンハロゲン樹脂組成物のそれぞれには、必要に応じて、架橋剤、架橋助剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、滑剤、着色剤、補強剤、界面活性剤、無機充填剤、可塑剤、金属キレート剤、発泡剤、相溶化剤、加工助剤、安定剤等を添加することができる。これらは、それぞれの特性を損なわない範囲で含有させることができる。
【0043】
(2)絶縁電線の製造方法
次に、上述した絶縁電線1の製造方法について説明する。
【0044】
まず、上述の材料を混練することにより内層13を形成する第1のノンハロゲン樹脂組成物を調製する。その方法は公知の手段を用いることができ、例えば、予めヘンシェルミキサー等の高速混合装置を用いてブレンドした後、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等の公知の混練機を用いて混練することにより、第1のノンハロゲン樹脂組成物を得る。これと同様にして、外層14を形成する第2のノンハロゲン樹脂組成物も調製する。
【0045】
続いて、押出機を用いて、導体11の外周上に、第1のノンハロゲン樹脂組成物を所定の厚さで押し出して、内層13を形成する。さらに、内層13の外周上に、第2のノンハロゲン樹脂組成物を所定の厚さで押し出して、外層14を形成する。その後、例えば、内層13および外層14に電子線を照射して架橋させることにより、本実施形態の絶縁電線1を得る。なお、内層13および外層14は、第1および第2のノンハロゲン樹脂組成物を同時に押出して形成してもよい。
【実施例】
【0046】
次に、本発明について実施例に基づき詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0047】
(1)材料
実施例で用いた材料は次のとおりである。
・HDPE:プライムポリマ製「ハイゼックス5305E」(密度0.951g/cm
3)
・エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体:アルケマ製「ボンダインLX4110」(アクリル酸エステル量5wt%、無水マレイン酸量3wt%)
・酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体(無水マレイン酸変性エチレン−αオレフィン):三井化学製「タフマMA8510」(ガラス転移点−55℃)
・エチレン−アクリル酸エステル共重合体(エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)):日本ポリエチレン製「レクスパールA1150」(アクリルエステル酸量15%)
・金属水酸化物(水酸化マグネシウム):協和化学社製「キスマ5L」
【0048】
(2)内層用および外層用のノンハロゲン樹脂組成物の調製
まず、上述の材料を用い、内層および外層のそれぞれを形成するノンハロゲン樹脂組成物を調製した。
内層用の第1のノンハロゲン樹脂組成物は、HDPEを30質量部と、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体を30質量部と、無水マレイン酸変性エチレン−αオレフィンを20質量部と、EEAを30質量部とを混合してベースポリマとし、このベースポリマに水酸化マグネシウムを30質量部、添加して混練した後、造粒機でペレット化することにより調製した。
外層用の第2のノンハロゲン樹脂組成物は、第1のノンハロゲン樹脂組成物よりも水酸化マグネシウムの配合量が多くなるように調製した。具体的には、HDPEを30質量部と、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体を35質量部と、無水マレイン酸変性エチレン−αオレフィンを10質量部と、そしてEEAを25質量部とを混合してベースポリマとし、このベースポリマに水酸化マグネシウムを170質量部、添加して混練した後、造粒機でペレット化することにより調製した。
【0049】
(3)絶縁電線の作製
<サンプル1〜7>
調製した内層用および外層用の第1および第2のノンハロゲン樹脂組成物を用いて、導体の外周上に内層および外層を形成することにより絶縁電線を作製した。具体的には、まず、導体として、直径0.18mmの錫メッキ銅線を37本撚り合わせた撚り導体を準備した。続いて、40mm押出機を用いて、この撚り導体の外周に内層用の第1のノンハロゲン樹脂組成物および外層用の第2のノンハロゲン樹脂組成物をそれぞれ所定の厚さで同時に押し出し、これらに電子線を照射して架橋させることにより、内層および外層を形成した。サンプル1〜7では、下記表1に示すように、内層および外層の厚さが合計で0.26mmとなるように、それぞれの厚さを適宜変更した。なお、サンプル1〜7の絶縁電線は断面積が0.5〜1.0SQとなるように作製した。
【0050】
【表1】
【0051】
<サンプル8〜14>
サンプル8〜14では、下記表2に示すように、内層および外層の厚さが合計で0.35mmとなるように、それぞれの厚さを適宜変更した以外は、サンプル1〜7と同様にして絶縁電線を作製した。なお、サンプル8〜14の絶縁電線は断面積が1.5SQとなるように作製した。
【0052】
【表2】
【0053】
<サンプル15〜21>
サンプル15〜21では、下記表3に示すように、内層および外層の厚さが合計で0.40mmとなるように、それぞれの厚さを適宜変更した以外は、サンプル1〜7と同様にして絶縁電線を作製した。なお、サンプル15〜21の絶縁電線は断面積が2.5SQとなるように作製した。
【0054】
【表3】
【0055】
(4)評価
作製したサンプル1〜21の絶縁電線について、以下の方法により、難燃性、発煙性、毒性、耐摩耗性、電気特性、低温特性および伸びを評価した。各サンプルの評価結果を表1〜3にそれぞれ示す。
【0056】
<難燃性>
難燃性は、EN45545−2に準拠した難燃性試験により評価した。具体的には、作製した長さ約60cmの絶縁電線に対し、上側固定部より475mmの位置に角度45°でバーナーの炎を1分間あてた後、上側固定部と炭化上部端との距離が50mm以上、かつ上側固定部と炭化部下端との距離が540mm未満であれば、難燃性に優れるものとして合格「○」、そうでなければ難燃性に劣るものとして不合格「×」と評価した。
【0057】
<発煙性>
発煙性は、EN45545−2に準拠した発煙性試験により評価した。具体的には、規定本数の絶縁電線を束ね、それを3m四方の部屋の中で40分間、燃焼させた後、部屋の中に光を照射し、光の透過率を測定した。本実施例では、透過率が70%以上であれば、煙の発生が少なく、低発煙であるとして合格「○」、70%未満となれば、煙の発生が多いものとして不合格「×」と評価した。
【0058】
<毒性>
毒性は、EN45545−2に準拠した毒性試験により評価した。具体的には、絶縁電線の絶縁層を燃焼させ、発生したガスの定量分析を行い、発生したガスのそれぞれに規定された重みづけと、各ガスの発生量との組み合わせからITC値を算出した。本実施例では、ITC値が6以下であれば、毒性が低く合格「○」、6を超えれば毒性が高く不合格「×」と評価した。
【0059】
<耐摩耗性>
耐摩耗性は、EN50305.5.2に準拠した摩耗試験により評価した。具体的には、カッティングエッジ先端が直径0.45mmのバネ鋼線ニードルを絶縁電線の表面に荷重8Nで押し当て55サイクル/分で往復させて絶縁電線を摩耗させ、ニードルと導体とが接触するまで実施した。本実施例では、摩耗サイクル数が150サイクル以上であれば合格「○」、それ未満であれば不合格「×」と評価した。
【0060】
<電気特性>
電気特性は、EN50305.6.7に準拠した直流安定性試験により評価した。具体的には、絶縁電線を85℃、3%NaCl水溶液に浸漬させてDC300Vを課電し、240時間以上経過しても絶縁破壊しない場合を電気特性に優れているとして合格「○」、240時間未満で絶縁破壊したら不合格「×」と評価した。
【0061】
<低温特性>
低温特性は、絶縁電線を−40℃の低温槽に4時間以上放置した後、絶縁電線を直径7.0mmのマンドレルに6回巻き付け、絶縁層に割れが発生しなかったら低温特性に優れているものとして合格「○」、割れが生じたら低温特性に劣るものとして不合格「×」と評価した。
【0062】
<機械的特性>
機械的特性は、引張試験による伸びで評価した。具体的には、絶縁電線から導体を引き抜き、得られた筒状の絶縁層に対して引張速度200mm/minで引張試験を行い、破断伸びが50%以上であれば「○」、50%未満であれば「×」とした。
【0063】
(5)評価結果
表1〜3に示すように、サンプル1,8,15では、金属水酸化物の配合量の少ない内層を形成せずに、多量の金属水酸化物を含む外層を導体の直上に形成したため、直流安定性が低く、電気特性が低いことが確認された。
また、サンプル2,9,16では、内層を形成したものの、絶縁層の全体に占める内層の比率が20%よりも低いため、十分な直流安定性を得られず、電気特性が低いことが確認された。
サンプル6では、絶縁層の全体に占める内層の比率が58%と適切な数値であったが、外層の厚さが0.11mmと0.14mmよりも薄かったため、十分な耐摩耗性を得られないことが確認された。
サンプル7,14,21では、内層の比率が58%よりも大きく、外層の厚さが0.14mmよりも薄かったため、耐摩耗性だけでなく、十分な難燃性を得られないことが確認された。
これに対して、サンプル3〜5,10〜13,17〜20では、内層の比率を20〜58%の範囲とし、かつ外層の厚さを0.14mm以上としたため、難燃性、耐摩耗性、電気特性、機械的特性および低温特性を高い水準でバランスよく得られることが確認された。
【0064】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0065】
[付記1]
導体と、
前記導体の外周を被覆する内層および前記内層の外周を被覆する外層を有する絶縁層と、を備え、
前記内層は、ポリオレフィンを含むベースポリマ(A)と金属水酸化物とを含有する第1のノンハロゲン樹脂組成物から形成されており、
前記外層は、ポリオレフィンを含むベースポリマ(B)と金属水酸化物とを含有する第2のノンハロゲン樹脂組成物から形成されており、
前記内層の厚さが前記絶縁層の全体の厚さの20%以上58%以下であり、
前記外層の厚さが0.14mm以上である、絶縁電線が提供される。
【0066】
[付記2]
付記1の絶縁電線において、好ましくは、
前記内層を形成する前記第1のノンハロゲン樹脂組成物は、前記外層を形成する前記第2のノンハロゲン樹脂組成物よりも前記金属水酸化物の含有量が少ない。
【0067】
[付記3]
付記1又は2の絶縁電線において、好ましくは、
前記ベースポリマ(B)が、高密度ポリエチレン(b1)、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体(b2)、酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体(b3)およびエチレン−アクリル酸エステル共重合体(b4)を含む。
【0068】
[付記4]
付記3の絶縁電線において、好ましくは、
前記酸変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体(b3)のガラス転移点が−55℃以下である。
【0069】
[付記5]
付記3又は4の絶縁電線において、好ましくは、
前記エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体(b2)が、アクリル酸エステルを5質量%以上30質量%以下、無水マレイン酸を2.8質量%以上3.6質量%以下、含有する。
【0070】
[付記6]
付記3〜5のいずれかの絶縁電線において、好ましくは、
前記エチレン−アクリル酸エステル共重合体(4)がアクリル酸エステルを10質量%以上25質量%以下、含有する。
【0071】
[付記7]
付記3〜6のいずれかの絶縁電線において、好ましくは、
前記高密度ポリエチレン(b1)の密度が0.942以上である。
【0072】
[付記8]
付記1〜7の絶縁電線において、好ましくは、
前記金属水酸化物が水酸化マグネシウムである。