特許第6593196号(P6593196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6593196-非水系二次電池用組成物の保管方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593196
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】非水系二次電池用組成物の保管方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20191010BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M2/16 L
【請求項の数】5
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-13551(P2016-13551)
(22)【出願日】2016年1月27日
(65)【公開番号】特開2017-134988(P2017-134988A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100204401
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 睦美
(72)【発明者】
【氏名】秋池 純之介
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−180725(JP,A)
【文献】 特開平11−288720(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/024708(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/090669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系二次電池用組成物を容器中で保管する非水系二次電池用組成物の保管方法であって、
前記非水系二次電池用組成物が重合体および有機溶媒を含み、
前記有機溶媒の沸点が30℃以上150℃以下であり、
前記非水系二次電池用組成物のせん断速度1s-1における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下であり、かつ、
前記容器の内容積に対する、前記容器の内容積から前記非水系二次電池用組成物が前記容器中に占める容積を除いた空隙部の容積比率(空隙率)が5体積%以上50体積%以下である、
非水系二次電池用組成物の保管方法。
【請求項2】
前記空隙部の酸素濃度が1.0質量%以下である、
請求項1に記載の非水系二次電池用組成物の保管方法。
【請求項3】
前記空隙部の水分濃度が100質量ppm以下である、
請求項1又は2に記載の非水系二次電池用組成物の保管方法。
【請求項4】
前記容器の内壁が樹脂である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用組成物の保管方法。
【請求項5】
前記重合体の溶解度パラメータSPpと前記有機溶媒の溶解度パラメータSPsとの差の絶対値|SPdiff|=|SPp−SPs|が、1.5以上6.0以下である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用組成物の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用組成物の保管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、非水系二次電池の更なる高性能化を目的として、様々な改良が検討されている。
【0003】
ここで、二次電池が備える電池部材としては、一般に、正極、負極などの電極、および、正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレータなどが挙げられ、加えて、セパレータおよび電極の間には、セパレータおよび電極を良好に接着するための接着層が設けられることがある。また、電極は、一般に、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備えている。そして、これら接着層および電極合材層には、通常、各成分同士および各電池部材同士を良好に接着させるために、結着成分を含むバインダー組成物が用いられる。具体的には、接着層は、例えば、非導電性粒子と、バインダー組成物などとを分散媒に分散させてなる接着層用スラリー組成物をセパレータ上に塗布し、乾燥させることにより形成される。また、電極合材層は、例えば、電極活物質と、バインダー組成物などとを分散媒に分散させてなる電極用スラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成される。以下、これらのバインダー組成物および各種スラリー組成物を、単に「電池用組成物」と呼ぶことがある。
【0004】
一方、二次電池の製造プロセスにおいては、通常、上記のような各種電池用組成物を、電池用組成物の調製工程後から電池部材の製造工程にて用いるまでの期間、保管しておくことが必要である。従って、二次電池が良好な電池性能を発揮するためには、電池用組成物が有する所望の特性を、電池組成物の保管後においても劣化させないことが求められる。また、製造プロセスの安全性の観点からは、電池組成物の保管に際しては、容器を変形等させることなく安全に長期間に亘って保管することも求められている。
【0005】
そこで、近年では、二次電池の更なる性能向上を達成すべく、接着層および電極合材層などの形成に用いられる電池用組成物の保管方法の改良が試みられている。
【0006】
例えば、特許文献1〜2には、アクリロニトリル、アクリル酸、ブタジエン、スチレンなどに由来する構成単位を含有する重合体と水とを含む電極用バインダー組成物を、所定の容積比率にて容器内に保管する方法が提案されている。具体的には、特許文献1〜2では、ポリエチレンおよびポリプロプレン容器の内容積に対して、上記電極用バインダー組成物の占める容積を除いた空隙部の容積比率を10%以下と低く抑えている。そして、特許文献1〜2に記載の技術では、保管6カ月後のバインダー組成物においても目視にて凝集物が確認されず、異物が発生しない保管方法を実現している。また、保管に用いた容器の外観も変化していないことを確認している。更に、二次電池の開回路電圧に著しい電圧降下が発生しないことも確認している。
【0007】
また、特許文献3には、凝集物等の濃度が所定以下であるリチウム二次電池用水系バインダー組成物を、所定の容量割合で容器内に充填する保存方法が提案されている。具体的には、特許文献3では、粗大粒子および/または凝集物の濃度が500ppm以下であり、アクリレート系単量体、アクリロニトリル単量体、メタクリル酸単量体などを含有する重合体と水とを含むバインダー水分散液を、容器内の空隙率が10%以下となるようにポリエチレン容器内に充填している。そして、特許文献3に記載の保存方法では、保存6カ月後のバインダー組成物において、バインダー組成物内の凝集物含有量が上昇することを抑制している。また、保存したバインダー水分散液を用いて形成した多孔膜とセパレータとの接着性、および当該バインダー水分散液を用いて製造した二次電池の出力特性が良好であることを確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−209258号公報
【特許文献2】特開2012−248546号公報
【特許文献3】国際公開第2015/029835号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3などの従来技術では、保管したバインダー組成物を用いて製造した電池部材および/または二次電池の望ましい特性については、更に検討する余地があった。ここで、望ましい電池部材の特性としては、例えば、二次電池の製造プロセス中において、積層された電池部材同士が位置ズレなどを起こして生産性の低下に繋がらないよう、電池部材同士が高いプロセス接着性を有することなどが挙げられる。また、望ましい二次電池の特性としては、例えば、高いサイクル特性に代表される、繰り返し使用することのできる良好な寿命特性等が挙げられる。
【0010】
また、上記のような二次電池の製造プロセスにおける電池用組成物の保管に際しては、保管中の容器が膨張などすることなく安全に保管できることも、引き続き求められている。
【0011】
そこで、本発明は、電池部材および二次電池の製造に用いられる電池用組成物を長期間に亘って保管した場合であっても、容器が変形等することなく安全に保管でき、かつ、電池部材間のプロセス接着性、および、二次電池のサイクル特性を良好に保つことができる、電池用組成物の保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、電池用組成物の保管に際し、電池用組成物が重合体と所定の沸点を有する有機溶媒とを含み、電池用組成物の粘度および当該電池用組成物の保管容器への充填容積が所定の範囲内となるように制御することに着眼した。そして、当該電池用組成物を一定期間保管した場合であっても保管容器が変形等することなく、高い安全性を持って電池用組成物を保管できることを確認した。また、当該保管後の電池用組成物を用いて接着層を形成した場合、当該接着層を介した電極およびセパレータが、二次電池の製造プロセス中において良好なプロセス接着性を示すこと、並びに、当該接着層を備える二次電池が、高温下における良好なサイクル特性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法は、非水系二次電池用組成物を容器中で保管する非水系二次電池用組成物の保管方法であって、前記非水系二次電池用組成物が重合体および有機溶媒を含み、前記有機溶媒の沸点が30℃以上150℃以下であり、前記非水系二次電池用組成物のせん断速度1s-1における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下であり、かつ、前記容器の内容積に対する、前記容器の内容積から前記非水系二次電池用組成物が前記容器中に占める容積を除いた空隙部の容積比率(空隙率)が5体積%以上50体積%以下であることを特徴とする。このように、保管する電池用組成物が重合体と所定の沸点を有する有機溶媒とを含み、所定の粘度範囲であり、かつ、電池用組成物を充填した保管容器内の空隙率を所定範囲内に制御すれば、保管容器が膨張および破裂等することなく、安全に当該電池用組成物を保管することができる。また、当該保管後の電池用組成物を用いて形成された接着層が、電極とセパレータとを良好に接着させ、二次電池の製造プロセス中における電池部材の位置ズレを抑制する。更に、当該保管後の電池用組成物を用いて形成された接着層を備える二次電池が、高温下においても良好なサイクル特性を発揮する。
なお、本発明において、「せん断速度1s-1における粘度」は、B型粘度計を用いて測定した、温度23℃での粘度を指す。
また、本発明において「空隙率」は、定規(JISに適合したもの)を用いて本実施例の方法に従って測定することができる。
【0014】
ここで、本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法では、前記空隙部の酸素濃度が1.0質量%以下であることが好ましい。電池用組成物の保管に際し、空隙部の酸素濃度が上記濃度以下であれば、保管中の電池用組成物の反応および凝集等が抑えられることにより、保管後の電池用組成物を用いて形成した接着層を介した電極およびセパレータのプロセス接着性が更に高まるからである。
なお、本発明において「酸素濃度」は、酸素濃度計(横河電機製、製品名「OX−102」)を用いて本実施例の方法に従って測定することができる。
【0015】
また、本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法では、前記空隙部の水分濃度が100質量ppm以下であることが好ましい。電池用組成物の保管に際する空隙部の水分濃度が上記濃度以下であれば、保管中の電池用組成物の凝集等が抑えられることにより、保管後の電池用組成物を用いて形成した接着層を介した電極およびセパレータのプロセス接着性が更に高まるからである。
なお、本発明において「水分濃度」は、カールフィッシャー水分計(三菱化学製、製品名「CA−200」)を用いて本実施例の方法に従って測定することができる。
【0016】
また、本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法では、前記容器の内壁が樹脂であることが好ましい。保管に使用する容器の内壁が樹脂であれば、保管後の電池用組成物を用いて形成した接着層を介した電池部材間のプロセス接着性がより高まり、かつ、当該接着層を備える二次電池の高温サイクル特性がより高まるからである。
【0017】
そして、本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法では、前記重合体の溶解度パラメータSPpと前記有機溶媒の溶解度パラメータSPsとの差の絶対値|SPdiff|=|SPp−SPs|が、1.5以上6.0以下であることが好ましい。電池用組成物中の重合体と有機溶媒との溶解度パラメータの差が上記範囲内であれば、後述する理由により、保管後の電池用組成物を用いて形成した接着層が、電極およびセパレータを更に強固に接着し、電池製造プロセス中における電池部材間のプロセス接着性を更に高めることができるからである。また、当該接着層を備える二次電池に高温サイクル特性を更に良好に発揮させることができるからである。
なお、本発明において、「溶解度パラメータ(以下、単に「SP」または「SP値」ともいう。)」とは、Solubility Parameterを指し、物質間の親和性を評価する指標となりうる値である。すなわち、ある2つの物質のそれぞれのSP値が近ければ、それらの物質は相互に親和性が高いということを意味する。具体的には、SP値が略同等の2つの物質の一方が重合体であり、他方が溶媒であった場合には、重合体の溶媒に対する溶解性が高いということを意味する。
また、本発明において、重合体および有機溶媒それぞれの「SP値」は、後述する方法により、Fedorsの計算方法を用いて算出する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電池部材および二次電池の製造に用いられる電池用組成物を長期間に亘って保管した場合であっても、容器が変形等することなく安全に保管でき、かつ、電池部材間のプロセス接着性、および、二次電池のサイクル特性を良好に保つことができる、電池用組成物の保管方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施例に用いる撹拌装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(非水系二次電池用組成物の保管方法)
本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法は、例えば、リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池が備える、接着層、電極合材層といった電池部材または電池部材の一部分の形成に用いられる電池用組成物を、電池の製造プロセスにおいて一定期間保管・保存するための方法である。
そして、本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法では、電池用組成物が所定の有機溶媒を含み、所定の粘度を有し、かつ、所定の空隙率をもって電池用組成物を保管するため、長期に亘って当該電池用組成物を保管した場合であっても、保管容器が膨張や破裂を生じることなく、保管安全性に優れている。また、当該電池用組成物を長期間に亘って保管した後の電池用組成物を電池の製造プロセスに使用するため、電池部材間のプロセス接着性に優れ、かつ、得られる二次電池の高温サイクル特性が優れている、即ち、得られる二次電池の寿命が長い。
【0022】
<電池用組成物>
本発明の保管方法に使用される電池用組成物は、重合体と、所定の沸点を有する有機溶媒とを含み、任意にその他の成分を含み得る。また、本発明の保管方法に従って保管される電池用組成物は、せん断速度1s-1における粘度が所定範囲に制御されている。そして、電池用組成物は、通常、上記重合体が、上記有機溶媒中に良好に分散(良分散)している状態である。
ここで、電池用組成物としては、特に制限されることなく、例えば、結着材としての役割を担うバインダー組成物;バインダー組成物に、例えば、無機粒子および/または有機粒子を含む非導電性粒子を加えた接着層用スラリー組成物;バインダー組成物に、例えば、電極活物質を加えた電極用スラリー組成物;等が挙げられる。
【0023】
<<重合体>>
重合体としては、電池用組成物の粘度を後述する所定範囲内に調節し得る重合体であれば特に制限されない。例えば、重合体としては、共役ジエン系重合体、アクリル系重合体、不飽和カルボン酸系重合体などの任意の重合体を用いることができる。
【0024】
ここで、共役ジエン系重合体とは、共役ジエン単量体単位を含む重合体である。そして、共役ジエン系重合体の具体例としては、特に限定されることなく、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位を含む共重合体;ブタジエンゴム(BR);アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(アクリルゴム、NBR)などの共役ジエン単量体単位およびニトリル基含有単量体単位を含む共重合体;並びに、共役ジエン単量体単位およびニトリル基含有単量体単位を含む共重合体を水素化してなる水添重合体などが挙げられる。
【0025】
また、アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。ここで、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、2−エチルヘキシルアクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0026】
また、不飽和カルボン酸系重合体は、不飽和カルボン酸単量体単位を含む重合体である。ここで、不飽和カルボン酸単量体単位を形成し得る不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などを用いることができる。
【0027】
上述した中でも、電池用組成物に含まれる重合体としては、所望の粘度に調節し易い観点、および、耐熱性、耐化学薬品性、耐候性などに優れる観点から、共役ジエン単量体単位およびニトリル基含有単量体単位を含む共重合体を水素化してなる水添重合体が好ましく、アクリロニトリル単位およびブタジエン単位を含む共重合体を水素化してなる水添重合体(H−NBR)がより好ましい。
【0028】
[重合体の調製方法]
重合体の重合様式は、特に限定されることなく、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。
ここで、重合体がアクリロニトリル単位およびブタジエン単位を含む共重合体の水素化物である場合は、特に限定されることなく、例えば、アクリロニトリルおよびブタジエンを含む単量体組成物を、任意に連鎖移動剤の存在下において重合開始剤を用いて重合して共重合体を得た後、得られた共重合体を水素化(水素添加)することで調製することができる。また、重合体の水素化方法は、特に制限なく、触媒を用いる一般的な方法(例えば、国際公開第2012/165120号、国際公開第2013/080989号および特開2013−8485号公報参照)を使用することができる。
そして、重合に使用され得る乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とすることができる。
【0029】
例えば、乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれであってもよい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリル硫酸ナトリウムといったドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムといったドデシル硫酸アンモニウム、オクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウムなどの高級アルコールの硫酸エステル塩;ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムといったドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリルスルホン酸ナトリウムといったドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウムなどの脂肪族スルホン酸塩;などが挙げられ、不飽和結合を有するいわゆる反応性乳化剤であってもよい。中でも、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが挙げられる。中でも、過硫酸アンモニウムを用いることが好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0031】
連鎖移動剤としては、特に制限されることなく、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。これらのなかでも、副反応抑制という観点から、アルキルメルカプタンが好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。これらは1種類を単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0032】
<<有機溶媒>>
[沸点]
電池用組成物が含む有機溶媒の沸点は、30℃以上150℃以下である必要がある。また、有機溶媒の沸点は、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、120℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。沸点が30℃以上である有機溶媒を用いれば、電池用組成物の保管中において、有機溶媒が極端に容易に揮発することを原因として容器内壁に電池用組成物の被膜が形成されることを防げる。その結果、例えば、長期間保管した電池用組成物を用いて接着層を形成した場合であっても、当該接着層を介した電池部材間のプロセス接着性を良好にできる。また、沸点が150℃以下である有機溶媒を用いれば、例えば、当該有機溶媒を含む電池用組成物を塗布・乾燥させることにより接着層を形成した場合に、塗布された電池用組成物が適度に容易に揮発することで良好に乾燥できるため、形成された接着層が良好なプロセス接着性を発揮する。更に、電池部材間が良好に接着されることに伴い、製造した二次電池が良好なサイクル特性を発揮する。
【0033】
ここで、塗布された電池用組成物が容易に揮発して良好な乾燥性を発揮する場合に、例えば、形成された接着層を介した電池部材間のプロセス接着性が良好になる理由は明らかではないが以下の通りであると推察される。
即ち、塗布された電池用組成物を乾燥する際に、当該電池用組成物に含まれる有機溶媒の易揮発性に伴って、重合体成分が接着層内を移動し易くなる。その結果、形成された接着層中において、重合体を接着層の表面上に多く析出させることができる。つまり、結着機能を担う重合体が、電池部材と接する接着層の表面上に多く存在することにより、当該接着層を介した電池部材間のプロセス接着性を向上させることができる。
【0034】
[種類]
有機溶媒の種類としては、沸点が上記範囲内であれば特に制限されない。有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、塩化メチレン、アセトン、クロロホルム、メタノール、テトラヒドロフラン、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、メチルエチルケトン、ベンゼン、2−プロパノール、アセトニトリル、1−プロパノール、ギ酸、トルエン、1−ブタノール、酢酸、キシレン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンプロピオネート、プロピルプロピオネートなどが挙げられる。中でも、保管に適する沸点を有し、かつ重合体を良好に分散させることができる観点から、アセトン、トルエン、またはキシレンを用いることが好ましく、アセトンを用いることがより好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよいが、2種類以上の有機溶媒を併用する場合は、いずれか一つの有機溶媒の沸点が上記所定の範囲内であればよい。
【0035】
<<その他の成分>>
電池用組成物は、上述した重合体、有機溶媒に加え、その他の成分を更に含んでも良い。電池用組成物が更に含有し得るその他の成分としては、特に制限されることなく、例えば、表面張力調整剤、粘度調整剤、補強材、電解液添加剤、シアノエチル化プルランといった分散剤等の成分が挙げられる。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。なお、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0036】
<<バインダー組成物の調製方法>>
電池用組成物がバインダー組成物である場合、当該バインダー組成物は、例えば、上述した重合体および有機溶媒を、既知の方法で混合することにより調製することができる。
なお、当該混合に際しては、バインダー組成物が後述する所定の粘度を有するよう、例えば、混合物の濃度を調節しながら行うことができる。
【0037】
<<接着層用スラリー組成物>>
電池用組成物が接着層用スラリー組成物である場合、当該接着層用スラリー組成物は、例えば、上述した重合体、有機溶媒、および任意のその他の成分に対し、通常、非導電性粒子を更に混合することにより調製される。これらの成分の混合方法は特に制限されず、既知の方法により混合することができる。例えば、重合体、有機溶媒、任意のその他の成分、および非導電性粒子を一括混合する方法;非導電性粒子および有機溶媒を予め分散させた分散溶媒を準備し、当該分散溶媒と重合体とを別途混合する方法;等が挙げられる。また、当該混合に際しては、既知の分散装置および分級装置などを用いて、均一かつ効率的に混合分散してもよい。また、重合体の分散液を用いて接着層用スラリー組成物を調製する場合には、分散液が含有している液分をそのまま接着層用スラリー組成物の分散媒として利用してもよい。
なお、当該混合に際しては、接着層用スラリー組成物が後述する所定の粘度を有するよう、例えば、混合物の濃度を調節しながら行うことができる。
【0038】
[非導電性粒子]
非導電性粒子としては、特に限定されることなく、二次電池用の接着層に用いられる既知の非導電性粒子を挙げることができる。具体的には、非導電性粒子としては、例えば、無機微粒子を用いることができる。また、非導電性粒子としては、当該無機微粒子と、電池用組成物に用いられる重合体以外の有機微粒子との双方を用いることができるが、通常は無機微粒子のみが用いられる。なかでも、非導電性粒子の材料としては、非水系二次電池の使用環境下で安定に存在し、電気化学的に安定である材料が好ましい。このような観点から非導電性粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO3、ZrO、アルミナ−シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。
なお、上述した非導電性粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
<<電極用スラリー組成物>>
電池用組成物が電極用スラリー組成物である場合、当該電極用スラリー組成物は、例えば、上述した重合体、有機溶媒、および任意のその他の成分に対し、通常、電極活物質を更に混合することにより調製される。これらの成分の混合方法は特に制限されず、既知の方法により混合することができる。既知の混合方法とは、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と有機溶媒とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。また、重合体の分散液を用いて電極用スラリー組成物を調製する場合には、分散液が含有している液分をそのまま電極用スラリー組成物の分散媒として利用してもよい。なお、当該混合に際しては、電極用スラリー組成物が後述する所定の粘度を有するよう、例えば、混合物の濃度を調節しながら行うことができる。
【0040】
また、電池用組成物とは別に電極用スラリー組成物を調製する場合も上記同様の混合方法を用いることができ、例えば、電極活物質と、バインダーとして機能する重合体とを、任意の溶媒中に溶解または分散させることにより調製することができる。ここで、バインダーとして機能する重合体としては、特に制限されることなく、電池用組成物に含まれる重合体として列挙した重合体を用いても良く、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素含有重合体などのその他の重合体を用いても良い。また、溶媒としては、特に制限されることなく、電池用組成物に含まれる有機溶媒として列挙した溶媒を用いても良く、N−メチルピロリドンに代表されるその他の有機溶媒を用いても良く、水を用いても良い。
以下、一例として、非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
[電極活物質]
電極活物質は、二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、リチウムイオン二次電池用の電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
[[正極活物質]]
正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O2)、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li2MnO3−LiNiO2系固溶体、Li1+xMn2-x4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.54等の既知の正極活物質が挙げられる。
なお、正極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0042】
[[負極活物質]]
また、負極活物質としては、具体的には、特に限定されることなく、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0043】
そして、炭素系活物質としては、例えば、易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0044】
更に、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0045】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0046】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、負極活物質としては、炭素系活物質が好ましく、黒鉛質材料がより好ましく、人造黒鉛が更に好ましい。
【0047】
<<電池用組成物の粘度>>
ここで、電池用組成物の粘度は、せん断速度1s-1における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下である必要がある。また、電池用組成物の粘度は、せん断速度1s-1における粘度が120mPa・s以上であることが好ましく、150mPa・s以上であることがより好ましく、900mPa・s以下であることが好ましく、800mPa・s以下であることがより好ましい。電池用組成物のせん断速度1s-1における粘度が100mPa・s以上であれば、例えば、当該電池用組成物自体、または当該電池用組成物を用いて調製した各種スラリー組成物を塗布・乾燥して接着層または電極合材層を形成する場合に、電池用組成物またはスラリー組成物の基材への塗工性が良好になる。その結果、形成された接着層または電極合材層を介した電池部材間のプロセス接着性が良好になる。また、電池用組成物のせん断速度1s-1における粘度が1000mPa・s以下であれば、電池用組成物の保管に際し、電池用組成物の適度に低い粘性が寄与して、容器内壁に電池用組成物の被膜が形成されることを防げる。その結果、長期間保管した電池用組成物からの異物等の発生が抑制され、例えば、当該電池用組成物を用いて接着層を形成した場合であっても、当該接着層を介した電池部材間のプロセス接着性を良好にできる。
【0048】
<<溶解度パラメータ(SP値)>>
電池用組成物においては、重合体の溶解度パラメータSPpと有機溶媒の溶解度パラメータSPsとの差の絶対値|SPdiff|=|SPp−SPs|が、1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、2.5以上であることが更に好ましく、6.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.5以下であることが更に好ましい。当該SP値差の絶対値|SPdiff|が1.5以上であれば、有機溶媒に対して重合体が過度に溶解することを抑制して、セパレータ及び電極などの電池部材間のプロセス接着性をより向上させることができるからである。また、当該SP値差の絶対値|SPdiff|が6.0以下であれば、有機溶媒に対する重合体の良好な溶解性を確保して、電池部材間のプロセス接着性をより向上させることができるからである。その結果、|SPdiff|が上記範囲内である電池用組成物を、容器の膨張等を抑制しながら長期間に亘ってより安全に保管することができ、かつ、当該保管後の電池用組成物を用いて製造した二次電池により高いサイクル特性を発揮させることができるからである。
なお、通常、重合体の溶解度パラメータSPpと有機溶媒の溶解度パラメータSPsとの間には、SPp>SPsが成り立つことが好ましい。
【0049】
ここで、溶解度パラメータは、例えば、分子構造から推算する方法や、物性値から推算する方法により算出することができる。分子構造から推算する方法としては、Smallの計算方法、Rheineck及びLinの計算方法、KrevelenとHoftyzerの計算方法、Fedorsの計算方法、Hansenの計算方法、Hoyの計算方法などが挙げられる。また、物性値から推算する方法としては、蒸発潜熱から求める方法、Hildebrand Ruleによる方法、表面張力による方法、溶解度の値から求める方法、屈折率から求める方法などが挙げられる。更に、組成や化合物名を特定することが困難な物質のSP値は、例えば、濁点滴定法により算出することができる。中でも、Fedorsの計算方法を用いることが好ましい。
ここで、Fedorsの計算方法では、SP値は、凝集エネルギーと、モル体積とを用いて、ヒルデブランドの理論に基づいて計算される。具体的には、重合体に含まれる各単位の凝集エネルギーをEcoh、各単位のモル体積をVとすると、SP値は、以下の式(1)に従って算出することができる。
SP=[ΣEcoh/ΣV]1/2 ・・・(1)
【0050】
例えば、一例として、重合体がアクリロニトリル単位およびブタジエン単位を含む共重合体の水素化物(H−NBR)である場合についてより具体的に説明する。
アクリロニトリルは二級炭素(−CH2−)ユニットを1個、三級炭素(−CH<)ユニットを1個、ニトリル基(−CN)ユニットを1個有する。これらの各ユニットの凝集エネルギーEcoh及びモル体積Vは、Fedorsの提案した値よると、それぞれ、以下の通りである。
・−CH2−:Ecoh=4940J/mol、V=16.1cm3/mol
・−CH<:Ecoh=3430J/mol、V=−1.0cm3/mol
・−CN:Ecoh=25530J/mol、V=24.0cm3/mol
従って、これらの値を上記式(1)に基づき計算すると、アクリロニトリルのSP値SPANは、
SPAN=[(4940+3430+25530)/(16.1-1.0+24.0)]1/2=29.4 (J/cm3)1/2 ≒ 29.4 MPa1/2
となる。
一方、ブタジエンが水素化された、炭素数が4の直鎖アルキレンは、二級炭素(−CH2−)ユニットを4個有する。従って、上述と同様にしてSP値SPalkは、
SPalk=[(4940×4)/(16.1×4)]1/2=17.5 (J/cm3)1/2 ≒ 17.5 MPa1/2
となる。
そして、アクリロニトリル単量体由来のアクリロニトリル単位及び炭素数が4の直鎖アルキレン構造単位からなる重合体であって、重合体中におけるアクリロニトリル単位の割合がa1質量%、炭素数が4の直鎖アルキレン構造単位の割合がa2質量%の重合体のSP値SPpは、以下の式(2)に従って算出することができる。
SPp(MPa1/2)=(SPAN×a1+SPalk×a2)/(a1+a2)・・・(2)
なお、重合体中に含まれる各単量体由来の単位または構造単位の割合は、新たに重合体を調製する場合には、重合体の調製時における仕込部数(配合比率)に基づいて算出することができる。または、重合体について、例えば、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した、重合体中における各単量体単位又は構造単位の割合に基づいて算出することもできる。
【0051】
また、上記式(2)は、上記特定の単量体単位又は構造単位からなる重合体だけではなく、その他の単量体単位又は構造単位を有する重合体についても、下記式(3)のように一般化することができる。
SPp(MPa1/2)=(SP1×a1+SP2×a2+・・・+SPn×an)/(a1+a2+・・・+an)・・・(3)
ここで、SP1は重合体中における第1の単量体単位又は構造単位のSP値であり、a1は重合体中におけるその割合(質量%)である。SP2〜SPn、a2〜anについても、それぞれ、重合体中における第2〜第nの単量体単位又は構造単位のSP値であり、重合体中におけるそれらの割合(質量%)である。
【0052】
なお、有機溶媒の溶解度パラメータSPsも、重合体の溶解度パラメータと同様にして算出することができる。そして、本願においては、溶解度パラメータの算出にはFedorsの計算方法を用いる。
【0053】
<容器>
上述した電池用組成物の保管は容器中で行う。当該保管に用いる容器の種類質としては、特に制限されることなく、例えば、ドラム缶、一斗缶、ペール缶、ポリタンク、パウチ型容器等を用いることができる。
また、容器の材質としては、特に制限されることなく、例えば、樹脂、ステンレス鋼などの金属を挙げることができる。中でも、容器の内壁が樹脂であることが好ましく、容器内壁がポリエチレンまたはポリプロプレンであることがより好ましく、ポリエチレンであることが更に好ましい。また、例えば、パウチ型容器を用いる場合は、接液部のシート材料、即ち、パウチ型容器の内部のシート材料が、樹脂であることが好ましく、ポリエチレンまたはポリプロプレンであることがより好ましく、ポリエチレンであることが更に好ましい。このように容器の内壁が樹脂であれば、電池用組成物の保管中に容器内壁から金属等の不純物が当該電池用組成物内に溶出することを防ぐことができるため、電池用組成物を長期間に亘って保管した場合にも、当該保管した電池用組成物を用いて製造した二次電池のサイクル特性を更に良好にすることが可能だからである。
更に、保管に用いる容器の内容積としては、特に制限されることはないが、充填および保管の容易性の観点より、10L以上200L以下であることが好ましく、ポリタンクおよびパウチ型容器を用いる場合には10L以上25L以下であることがより好ましく、ドラム缶を用いる場合にはより好ましくは100L以上200L以下であることがより好ましい。
【0054】
<<容器内壁の表面粗さ>>
ここで、電池用組成物の保管に用いる容器の内壁の表面粗さは、算術平均粗さRaが10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが更に好ましい。容器の内壁の表面粗さRaが10μm以下であれば、電池用組成物の保管中における、当該電池用組成物と容器内壁との接触面積を小さくすることができ、容器内壁に電池用組成物の被膜が形成されることを抑制できるからである。その結果、例えば、長期間保管した電池用組成物を用いて接着層を形成した場合であっても、当該接着層を介した電池部材間のプロセス接着性を良好にできるからである。
なお、本発明において「容器内壁の表面粗さ」は、例えば、後述する表面形状測定機を用いて測定することができる。
【0055】
<空隙率>
ここで、電池用組成物の保管に際しては、容器の内容積に対する、容器の内容積から電池用組成物が容器中に占める容積を除いた空隙部の容積比率(空隙率)を5体積%以上50体積%以下とすることが必要である。また、当該空隙率は、6体積%以上とすることが好ましく、7体積%以上とすることがより好ましく、45体積%以下とすることが好ましく、40体積%以下とすることがより好ましい。空隙率を5体積%以上もうけて電池用組成物を充填保管すれば、保管中に、通常の環境下で生じ得る温度変化に起因して電池用組成物の体積および/または容器の内圧が僅かに増減した場合であっても、容器が破裂したり形状変化したりすることを抑制できるため、電池用組成物を長期間に亘って安全に保管することができる。また、空隙率を50体積%以下とすれば、電池用組成物と容器内壁との接触面積を小さく抑えられるため、電池用組成物の保管中に、容器内壁に電池用組成物の被膜が形成されることを抑制できる。その結果、例えば、長期間保管した電池用組成物を用いて接着層を形成した場合であっても、当該接着層を介した電池部材間のプロセス接着性を良好にできる。
【0056】
<酸素濃度>
また、電池用組成物の保管に際しては、上記空隙部の酸素濃度が1.0質量%以下であることが好ましく、0.9質量%以下であることがより好ましく、0.8質量%以下であることが更に好ましく、0質量%とすることができる。空隙部の酸素濃度が1.0質量%以下であれば、電池用組成物の保管中に、当該電池用組成物が酸化すること、および凝集することを抑制できるため、例えば、長期間に亘って保管した電池用組成物を用いて接着層を形成した場合であっても、当該接着層を介した電池部材間のプロセス接着性を更に向上することができるからである。
【0057】
<水分濃度>
また、電池用組成物の保管に際しては、上記空隙部の水分濃度が100質量ppm以下であることが好ましく、80質量ppm以下であることがより好ましく、60質量ppm以下であることが更に好ましく、0質量ppmとすることができる。空隙部の水分濃度が100質量ppm以下であれば、電池用組成物の保管中に、当該電池用組成物が凝集することを抑制できるため、例えば、長期間に亘って保管した電池用組成物を用いて接着層を形成した場合であっても、当該接着層を介した電池部材間のプロセス接着性を更に向上することができるからである。
【0058】
<保管温度および保管期間>
そして、電池用組成物の保管に際しては、電池用組成物が充填され、密封された容器内の保管温度を5℃以上40℃以下の環境下に保つことが好ましい。また、保管期間としては、1ヶ月以上24ヶ月以下とすることが好ましい。保管温度および保管期間を上記範囲内とすれば、電池用組成物を、保管に用いた容器の形状を変形等させることなく更に安全に保管することができるからである。また、保管後の電池用組成物を用いて、例えば接着層を形成した場合であっても、当該接着層を介した電池部材間のプロセス接着性の劣化を更に抑制することができ、かつ、当該接着層を備えた二次電池のサイクル特性の劣化を更に抑制することができるからである。
【0059】
<容器への充填方法>
電池用組成物の容器への充填方法は、上述した空隙率を満たせば特に制限されない。なお、上述した好適範囲内における酸素濃度、水分濃度、保管温度などを維持する観点からは、電池用組成物の容器への充填は、外気を遮断しながら行うことが好ましい。
【0060】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法に従って一定期間保管された電池用組成物は、特に制限されることなく、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、電極用スラリー組成物などを構成することにより、電池部材の作製および二次電池の製造に用いられる。
そして、本発明の非水系二次電池用組成物の保管方法に従って一定期間保管された電池用組成物は、上述した所定の組成および性状を有し、かつ上述した所定の空隙率をもって保管されるため、当該電池用組成物を用いて製造した二次電池に良好なサイクル特性、とりわけ高温サイクル特性を発揮させる。
【0061】
ここで、二次電池は、一般的に、電極(正極、負極)、セパレータ、および電池内において電極間のイオン移動を担う電解液を備え、例えば、電極とセパレータとの間を良好に接着させるための接着層を更に備えることができる。
また、二次電池が備える正極、負極、およびセパレータ等の電池部材は、通常、セパレータの片側に正極が、セパレータの他方の片側に負極が接するように配置される。より具体的には、セパレータの片側に正極合材層側が、セパレータの他方の片側に負極合材層側が、それぞれセパレータと接するように配置される。また、二次電池が接着層を更に備える場合には、特に制限されることなく、当該接着層を、例えば、セパレータの両面に形成することができる。つまり、セパレータの片側上に形成された接着層に正極合材層側が、セパレータの他方の片側に形成された接着層に負極合材層側が、それぞれ接するように配置することができる。
【0062】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂を用いた微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ナイロンなどのポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を用いた微多孔膜、ポリオレフィン系の繊維を用いた織布または不織布、絶縁性物質よりなる粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、非水系二次電池内の電極合材層の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂を用いた微多孔膜が好ましい。中でも、ポリプロピレンの樹脂からなる微多孔膜がより好ましい。
【0063】
<接着層>
接着層は、例えば、電極およびセパレータを良好に接着させるために設けられる電池部材である。そして、接着層は、特に制限されることなく、例えば、正極が備える正極合材層上に形成しても良く、負極が備える負極合材層上に形成してもよく、および/またはセパレータ上に形成してもよい。中でも、接着層は、作業容易性および高いプロセス接着性を発揮する観点から、セパレータ上に形成することが好ましく、セパレータの両面に形成することがより好ましい。
以下、一例として、接着層をセパレータ上に形成する場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0064】
<<接着層の形成方法>>
接着層は、例えば、上述した接着層用スラリー組成物を、セパレータ上に塗布する工程(塗布工程)と、セパレータ上に塗布された接着層用スラリー組成物を乾燥する工程(乾燥工程)とを経て形成される。
【0065】
[塗布工程]
上記接着層用スラリー組成物をセパレータ上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、接着層用スラリー組成物をセパレータの片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよいが、両面に塗布することが好ましい。塗布後乾燥前のセパレータ上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる接着層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0066】
[乾燥工程]
セパレータ上に塗布された接着層用スラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このようにセパレータ上の接着層用スラリー組成物を乾燥することで、セパレータ上に接着層を形成し、セパレータと接着層とを備える接着層付きセパレータを得ることができる。
【0067】
<電極>
電極は、リチウムイオンなど電池反応を担う金属イオンを吸蔵したり放出したりすることにより、二次電池の充放電を可能にする電池部材である。そして、電極としては、通常、集電体上に正極合材層が形成された正極、および、集電体上に負極合材層が形成された負極が挙げられる。
【0068】
<<集電体>>
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料からなる集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、正極の作製に用いる集電体としてはアルミニウムからなる薄膜が好ましく、また、負極の作製に用いる集電体としては、銅からなる薄膜が好ましい。
【0069】
<<電極合材層の形成方法>>
そして、電極合材層は、特に限定はされず、例えば、上述した電極用スラリー組成物(正極用スラリー組成物、負極用スラリー組成物)を、上述した接着層の形成方法と同様に、塗布工程および乾燥工程を経て集電体上に形成することができる。
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との接着性を向上させることができる。また、電極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、電極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0070】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。例えば、非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合には、支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C49SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO22NLi、(C25SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導性が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導性を調節することができる。
【0071】
また、電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
また、電解液には、既知の添加剤、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)やエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
なお、電解液に使用する有機溶媒は、本発明の保管方法に従って保管する電池用組成物に含まれる有機溶媒とは通常異なるが、同一の有機溶媒であってもよい。
【0072】
<組立方法>
そして、二次電池は、特に制限されることなく、既知の組立方法を用いて製造され得る。具体的には、二次電池は、例えば、上述のように、電極とセパレータとを、接着層を介して必要に応じて電池形状に巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。ここで、二次電池の内部圧力の上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。また、二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、以下の本実施例では、一例として電池用組成物が接着層の形成に用いられるバインダー組成物である場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
そして、電池用組成物の粘度、保管容器内壁の表面粗さ、電池用組成物の保管における空隙率、空隙部内の酸素濃度、空隙部内の水分濃度、電池部材間のプロセス接着性、二次電池の高温サイクル特性、および、保管時の容器安全性は、下記の方法で算出、測定および評価した。
【0074】
<電池用組成物の粘度>
電池用組成物の粘度(mPa・s)は、B型粘度計(東機産業製、製品名「TVB−25」)を用いて、せん断速度1s-1における粘度として測定した。具体的には、温度23℃の環境下にて、電池用組成物に、B型粘度計の回転数60rpmでのせん断力を加えながら電池用組成物の粘度測定を開始し、測定開始から60秒後の値を採用して評価した。結果を表1に示す。
【0075】
<容器内壁の表面粗さ>
電池用組成物の保管に用いた容器の内壁の表面粗さは、非接触表面形状測定機(Zygo社製、製品名「New View 5000」)を用いて、算術平均粗さRa(μm)として測定した。なお、測定条件は、対物レンズ:10倍、測定領域:1.82mm×1.36mmとした。結果を表1に示す。
【0076】
<電池用組成物の保管における空隙率>
電池用組成物を保管した際の容器内の空隙率(体積%)は、下記式(4):
空隙率(体積%)=空隙部の容積/容器の内容積×100
=(容器の内容積−電池用組成物が容器中に占める容積)/容器の内容積×100・・・(4)
で表すことができる。ここで、上記式(4)における容器および空隙部の容積比は、本実施例においては容器および空隙部の高さ比から求めることができるため、定規(JISに適合したもの)を用いて各高さを計測することにより、空隙率を算出した。ここで、高さの計測については、具体的には、電池用組成物を充填した容器の開封口から定規を入れ、定規を容器底部まで挿し込んでから、定規を容器から抜き出した。そして、容器から抜き出した定規に電池用組成物が付着した部分を計測することにより、容器底部から電池用組成物が容器中に占める高さを測定した。そして、下記式(5):
空隙率(体積%)=(容器高さ−容器底部から電池用組成物が容器中に占める高さ)/容器高さ×100・・・(5)
に従って空隙率を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
<空隙部内の酸素濃度>
保管容器の空隙部内の酸素濃度(質量%)は、電池用組成物の容器への充填作業を行った、外気と遮断された環境内にて行った。具体的には、酸素濃度計(横河電機製、製品名「OX−102」)を用いて、電池用組成物を充填する直前における容器の空隙部の酸素濃度を測定した。ここで、外気と遮断された環境内の酸素濃度は電池用組成物の充填作業の前後を通じて一定に保たれていた。また、空隙部の酸素濃度は、一定期間密封保管された後においても、一定に保たれていた。電池用組成物を充填する直前に計測した結果を表1に示す。
【0078】
<空隙部内の水分濃度>
保管容器の空隙部内の水分濃度(質量ppm)は、電池用組成物の容器への充填作業を行った、外気と遮断された環境内にて行った。具体的には、電池用組成物を充填する直前における容器の空隙部にバイアル瓶(三菱化学アナリテック製)を入れて空隙部の気体を採取した。そして、採取された空隙部の水分濃度を、カールフィッシャー水分計(三菱化学製、型番「CA−200」)を用いて測定した。ここで、外気と遮断された環境内の水分濃度は電池用組成物の充填作業の前後を通じて一定に保たれていた。また、空隙部の水分濃度は、一定期間密封保管された後においても、一定に保たれていた。電池用組成物を充填する直前に計測した結果を表1に示す。
【0079】
<電池部材間のプロセス接着性>
電池部材間のプロセス接着性は、ピール強度を算出することにより評価した。
具体的には、作製した正極及びセパレータを備える積層体、並びに、負極及びセパレータを備える積層体を、それぞれ10mm幅に切り出して、試験片を得た。次に、得られた試験片を温度120℃、圧力0.35MPa、8秒間の条件でプレスし、電極とセパレータを一体化させた一体化物を得た。その後、得られた一体化物を、電極(正極又は負極)の電極合材層側の表面を下にして、電極合材層の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。その後、セパレータの一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を、正極及びセパレータを備える積層体並びに負極及びセパレータを備える積層体でそれぞれ3回、合計6回行い、応力の平均値を求めて、当該平均値をピール強度(N/m)とした。
そして、算出されたピール強度を用いて、以下の基準により電池部材間のプロセス接着性として評価した。ピール強度が大きいほど、電池部材間のプロセス接着性が高いことを意味する。結果を表1に示す。
評価A:ピール強度が2.0N/m以上
評価B:ピール強度が1.0N/m以上2.0N/m未満
評価C:ピール強度が0.6N/m以上1.0N/m未満
評価D:ピール強度が0.6N/m未満
【0080】
<二次電池の高温サイクル特性>
製造した800mAh捲回型セルのリチウムイオン二次電池を、温度25℃の環境下で24時間静置した。その後、温度25℃の環境下、0.1Cのレートで電圧4.35Vまで充電し、0.1Cのレートで電圧2.75Vまで放電する初期充放電の操作を行った。そして、初期充放電後のリチウムイオン二次電池の初期容量C0を測定した。
次に、温度60℃の環境下で、上記と同様の条件で充放電を1000サイクル繰り返した。そして、1000サイクル後のリチウムイオン二次電池の容量C1を測定した。
そして、測定されたC0およびC1から、容量維持率ΔCを、下記式(6):
ΔC=C1/C0×100(%)・・・(6)
に従って算出した。この容量維持率ΔCの値が高いほど、リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性が優れ、電池が長寿命であることを示す。結果を表1に示す。
評価A:容量維持率が84%以上
評価B:容量維持率が80%以上84%未満
評価C:容量維持率が75%以上80%未満
評価D:容量維持率が75%未満
【0081】
<保管時の容器安全性>
保管時の容器安全性試験に用いた撹拌装置2を図1に示す。まず、電池用組成物が充填された保管用の容器8を、保持部18に固定することにより撹拌装置2にセットした。次に、保管用の容器8の上面6を、図1における奥側(換言すれば、モーター14側から見たときの回転軸16に対して反時計回りの方向)へ15回転させ、更に、底面4を、図1における奥側(換言すれば、モーター14側から見たときの回転軸16に対して時計回りの方向)へ15回転させる撹拌作業を1パスとして、当該撹拌作業を32パス行った。加えて、図1に示す軸線10と、水平軸12とがなす角度θを70°にセットして、上記と同様の撹拌作業を32パス行った。その後、保管用の容器8を静置し、保管用の容器8における軸線10と直交する方向、即ち、容器の幅方向の長さを測定した。そして、下記式(7):
容器膨張度(%)=(撹拌後の容器の幅方向の長さ−撹拌前の容器の幅方向の長さ)÷撹拌前の容器の幅方向の長さ×100・・・(7)
に従い、容器膨張度(%)を算出した。そして、算出された容器膨張度から、以下の基準に従って保管時の容器安全性を評価した。容器膨張度の値が小さいほど、容器安全性が高いことを示す。結果を表1に示す。
評価A:容器膨張度が5%以下
評価B:容器膨張度が5%超10%以下
評価C:容器膨張度が10%超20%以下
評価D:容器膨張度が20%超
【0082】
(実施例1)
<電池用組成物の調製>
<<重合体の調製>>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、乳化剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、重合性単量体としてのアクリロニトリル36.2部、連鎖移動剤としてのt−ドデシルメルカプタン0.45部をこの順で入れ、内部を窒素置換した後、重合性単量体としての1,3−ブタジエン63.8部を圧入し、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。そして、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとの共重合体を得た。なお、重合転化率は85%であった。
得られた共重合体に対してイオン交換水を添加し、全固形分濃度を12質量%に調整した溶液を得た。得られた溶液400mL(全固形分48g)を、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素化反応用触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(第一段階の水素化反応)を行った。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に、水素化反応用触媒としての酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(第二段階の水素化反応)を行った。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて固形分濃度が40%となるまで濃縮して、共重合体の水分散液を得た。
また、共重合体の水分散液をメタノール中に滴下して共重合体を凝固させた後、共重合体の凝固物を温度60℃の環境下で12時間真空乾燥し、共重合体を得た。
<<バインダー組成物の調製>>
上述で得られた共重合体を、有機溶媒としてのアセトンを用いて、アセトン中における共重合体の固形分濃度が10質量%となるよう混合することにより、電池用組成物としてのバインダー組成物を調製した。
そして、上述の方法により、調製された電池用組成物(バインダー組成物)のせん断速度1s-1における粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
<電池用組成物の保管>
上述で得られたバインダー組成物を、外壁および内壁ともにポリエチレン製である樹脂容器(積水成型工業社製、製品名「22AT−2」)に、空隙率が10体積%となるように充填した。なお、当該充填に先立ち、ポリエチレン製樹脂容器内には予め所定の酸素濃度および水分濃度を有する窒素ガスを封入し、当該容器内の酸素濃度を0.7質量%に、水分濃度を3質量ppmに調節しておいた。
ここで、保管に用いた樹脂容器の内壁の表面粗さRaは、上述の方法により測定した。また、電池用組成物の保管における空隙率、保管容器内の酸素濃度、および保管容器内の水分濃度も、上述の方法により測定した。結果を表1に示す。
そして、当該容器を密閉し、バインダー組成物を温度25℃の環境下、9か月間保管した。なお、上述の通り調節した酸素濃度および水分濃度は、保管の前後において変化がないことを確認した。
【0084】
<接着層用スラリー組成物の調製>
非導電性粒子としてバイヤー法で製造されたαアルミナ粒子(一次粒子径:0.85μm)100部と、分散剤としてシアノエチル化プルラン(置換率80%)0.5部とを混合し、固形分濃度が25質量%になるようにアセトンを添加した。そして、当該混合物を更に混合することにより、分散前スラリー組成物を得た。
次に、上述で得られた分散前スラリー組成物を、メディアレス分散装置(IKA社製、製品名「インライン型粉砕機MKO」)を用いて、周速:10m/秒、流量:200L/時間の条件で、1パス分散させた。その後、分級機(アコー社製、製品名「スラリースクリーナー」)を用いて、分級を行いながら粗大な粒子のみを取り除くことにより、分散後スラリー組成物を得た。
続いて、上記分散後スラリー組成物と上述の通り9か月間保管した後のバインダー組成物とを、バインダー組成物の配合量が非導電性粒子100質量部当たり固形分相当で20質量部になるように撹拌容器内で混合して、混合物を得た。なお、撹拌混合の方法としては、上述した保管時の容器安全性試験で行ったものと同様の撹拌混合方法を用いた。そして、当該混合物をアセトンにより希釈することにより、固形分濃度20%の接着層用スラリー組成物を得た。
【0085】
<接着層付きセパレータの作製>
セパレータ(ポリプロピレン製、製品名「セルガード2500」)の表面に、上述で得られた接着層用スラリー組成物を塗布し、温度50℃の環境下で3分間加熱することにより、塗布された接着層用スラリー組成物を乾燥させた。同様の操作をセパレータのもう一方の表面にも施し、片面の厚みが3μmずつである接着層を両面に備える接着層付きセパレータを得た。
【0086】
<正極の作製>
<<正極用スラリー組成物の調製>>
正極活物質としてLiCoO2(体積平均粒子径:12μm)を100部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、製品名「HS−100」)を2部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF、クレハ社製、製品名「#7208」)を固形分相当で2部と、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)とを混合し全固形分濃度が70%となる量とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
<<正極合材層の形成>>
上記正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体であるアルミニウム箔(厚さ:20μm)の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、スラリー組成物が塗布されたアルミニウム箔を、速度0.5m/分、温度60℃の環境下のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、温度120℃の環境下にて2分間加熱処理して、プレス前の正極原反を得た。そして、得られたプレス前の正極原反をロールプレスで圧延することにより、正極合材層の厚みが80μmであるプレス後の正極を得た(片面正極)。
【0087】
<負極の作製>
<<負極用バインダー組成物の調製>>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、重合性単量体として1,3−ブタジエン33部、イタコン酸3.5部、およびスチレン63.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部、並びに、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、負極用バインダー組成物として粒子状バインダー組成物(スチレン−ブタジエン共重合体)を含む混合物を得た。上記粒子状バインダー組成物を含む混合物に5%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH8に調整後、加熱減圧蒸留によって、上記粒子状バインダー組成物を含む混合物から未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却することにより、負極用バインダー組成物を含む水分散液を得た。
【0088】
<<負極用スラリー組成物の調製>>
人造黒鉛(平均粒子径:15.6μm)100部、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製、製品名「MAC350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1部、イオン交換水で固形分濃度68%に調製した後、温度25℃の環境下で60分間混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度62%に調製した後、さらに温度25℃の環境下で15分間混合した。上記混合液に、上記で得られた粒子状バインダー組成物を固形分相当量で1.5部、およびイオン交換水を入れ、最終固形分濃度52%となるように調整し、さらに10分間混合してスラリー用混合物を得た。そして、得られたスラリー用混合物を減圧下で脱泡処理することにより、流動性の良い負極用スラリー組成物を調製した。
<<負極合材層の形成>>
上記で得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である銅箔(厚さ:20μm)の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、スラリー組成物が塗布された銅箔を、速度0.5m/分、温度60℃の環境下のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、温度120℃の環境下にて2分間加熱処理して、プレス前の負極原反を得た。そして、得られたプレス前の負極原反をロールプレスで圧延することにより、負極合材層の厚みが80μmであるプレス後の負極を得た(片面負極)。
【0089】
<リチウムイオン二次電池の製造>
上述で得られたプレス後の正極を49cm×5cmに切り出した。また、当該切り出したプレス後の正極の正極合材層上に、120cm×5.5cmに切り出した接着層付きセパレータを配置した。さらに、上述で得られたプレス後の負極を50cm×5.2cmに切り出し、当該切り出したプレス後の負極を、負極合材層と、接着層付きセパレータの接着層面とが向かい合いように、接着層付きセパレータ上に配置することにより、正極/接着層付きセパレータ/負極からなる積層体を得た。得られた積層体を、捲回機により捲回し、捲回体を得た。このとき、得られた捲回体の最外周には、接着層面が配置される。更に、当該捲回体を、温度120℃、圧力0.35MPa、8秒間の条件でプレスすることにより扁平体とした。次に、当該扁平体を、電池の外装としてのアルミニウム包材外装で包み、当該アルミニウム包材外装中に、電解液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)/ビニレンカーボネート(VC)=68.5/30/1.5体積比、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入した。そして、電解液を注入したアルミニウム包材外装の開口を温度150℃のヒートシールにて密封閉口し、更に、アルミニウム包材外装と、当該包材外装に包まれた扁平体とを、温度100℃、圧力1.0MPa、2分間の条件でプレスすることにより、800mAh捲回型セルのリチウムイオン二次電池を製造した。
【0090】
(実施例2)
バインダー組成物の調製の際に、共重合体の固形分濃度を13質量%となるように調整した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
バインダー組成物の調製の際に、共重合体の固形分濃度を8質量%となるように調整した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例4)
バインダー組成物の調製の際に、共重合体の固形分濃度を13.5質量%となるように調整した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例5)
バインダー組成物の調製の際に、有機溶媒としてトルエンを用いた以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例6)
バインダー組成物の調製の際に、有機溶媒としてキシレンを用いた以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例7)
電池用組成物の保管の際に、空隙率が6体積%となるように充填した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例8)
電池用組成物の保管の際に、空隙率が43体積%となるように充填した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例9)
電池用組成物の保管の際に、酸素濃度0.9質量%の窒素を使用することにより容器内の酸素濃度を0.9質量%に調節した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例10)
電池用組成物の保管の際に、酸素濃度1.0質量%の窒素を使用することにより容器内の酸素濃度を1.0質量%に調節した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例11)
電池用組成物の保管の際に、水分濃度90質量ppmの窒素を使用することにより容器内の水分濃度を90質量ppmに調節した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例12)
電池用組成物の保管の際に、水分濃度70質量ppmの窒素を使用することにより容器内の水分濃度を70質量ppmに調節した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例1)
バインダー組成物の調製の際に、有機溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(比較例2)
電池用組成物の保管の際に、空隙率が1体積%となるように充填した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例3)
電池用組成物の保管の際に、空隙率が55体積%となるように充填した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例4)
バインダー組成物の調製の際に、共重合体の固形分濃度を7質量%となるように調整した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
(比較例5)
バインダー組成物の調製の際に、共重合体の固形分濃度を14質量%となるように調整した以外は実施例1と同様の方法にて、接着層用重合体、バインダー組成物、接着層用スラリー組成物、接着層付きセパレータ、正極、負極、リチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1より、沸点が150℃超である有機溶媒を用いた比較例1、せん断速度1s-1における粘度が100mPa・s未満/1000mPa・s超である電池用組成物を用いた比較例4/5、および、保管時の空隙率を50体積%超とした比較例3に対し、沸点が30℃以上150℃以下である有機溶剤を含み、当該粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下である電池用組成物を、空隙率が5体積%以上50体積%以下となるように充填保管した実施例1〜12では、高いプロセス接着性、高いサイクル特性、および保管時の高い容器安定性を並立した。
また、保管時の空隙率を5体積%未満とした比較例2では、空隙率が5体積%以上50体積%以下となるように充填保管した実施例1〜12に対し、保管時の容器安定性が著しく悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、電池部材および二次電池の製造に用いられる電池用組成物を長期間に亘って保管した場合であっても、容器が変形等することなく安全に保管でき、かつ、電池部材間のプロセス接着性、および、二次電池のサイクル特性を良好に保つことができる、電池用組成物の保管方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0109】
2 撹拌装置
4 底面
6 上面
8 保管用の容器
10 軸線
12 水平軸
14 モーター
16 回転軸
18 保持部
図1