特許第6593227号(P6593227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593227
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】化学強化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20191010BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20191010BHJP
   C03C 3/078 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C03C21/00 101
   C03C3/087
   C03C3/078
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-44320(P2016-44320)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2016-188166(P2016-188166A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-67229(P2015-67229)
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 出
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】玉井 喜芳
(72)【発明者】
【氏名】青山 尚史
(72)【発明者】
【氏名】山本 直嗣
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−086917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸カリウムを含む無機塩とガラスとを接触させることによって、前記ガラス中のNaと前記無機塩中のKとをイオン交換する工程を含
前記イオン交換の前に、前記無機塩中に、SO2−、CO2−、HCO、PO3−、HPO2−およびHPOからなる群より選ばれる少なくとも一種のアニオンを有する塩を添加する工程を有し、
前記添加前において、前記無機塩はMg2+およびCa2+の少なくとも一方を含有し、Mg2+含有量が5質量ppm以上、および、Ca2+含有量が50質量ppm以上のいずれかの条件を満たす、化学強化ガラスの製造方法であって、
前記添加する塩がSO2−を有する塩である化学強化ガラスの製造方法
【請求項2】
前記添加後の前記無機塩のうち、液体状態の液相塩のMg2+濃度は5質量ppm未満であり、かつ、前記液相塩のCa2+濃度は50質量ppm未満である、請求項1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記ガラスが、酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを67〜75%、Alを0〜5%、CaOを1〜15%含有し、NaOおよびKOの含有量の合計が10〜18%であるガラスである、請求項1または請求項2に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学強化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ、携帯電話または携帯情報端末PDA(Personal Digital Assistants)等に用いられるフラットパネルディスプレイ装置において、ディスプレイの保護および美観を高めるために、画像表示部分よりも広い領域となるように薄い板状のカバーガラスをディスプレイの前面に配置することが行われている。ガラスは理論強度が高いものの、傷がつくことで強度が大幅に低下するため、強度が求められるカバーガラスには、無機塩を用いたイオン交換等によりガラス表面に圧縮応力層を形成した化学強化ガラスが用いられている。
【0003】
従来、ガラス強化用無機塩において、Li、Naなどのアルカリ金属不純物濃度が高まった場合に、それらを除去するためにピロリン酸カリウムやオルトリン酸カリウム、ピロアンチモン酸カリウムなどの添加物を添加することが行われていた(特許文献1および2並びに非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開昭46−38514号公報
【特許文献2】国際公開第2014/045977号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Doklady Akademii Nauk SSSR(1975),225(6),1373−6[Chem.Tech.].
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アルカリ金属不純物以外にもごく微量のMgやCaなどのアルカリ土類金属不純物がガラス強化用無機塩中に存在することにより、ガラスの強化が適切に行われなくなる場合があることを、本発明者らは見出した。
【0007】
本発明は、ガラスの化学強化が十分に行われる化学強化ガラスの製造方法および化学強化が十分に行われた化学強化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、化学強化用の無機塩中に特定アニオンを有する塩を存在させることで、マグネシウムやカルシウムによる影響を抑制でき、ガラス表面に対し適切な強化が可能となることを見出し本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下の通りである。
硝酸カリウムを含む無機塩とガラスとを接触させることによって、前記ガラス中のNaと前記無機塩中のKとをイオン交換する工程を含む化学強化ガラスの製造方法であって、
前記イオン交換の前に、前記無機塩中に、SO2−、CO2−、HCO、PO3−、HPO2−およびHPOからなる群より選ばれる少なくとも一種のアニオンを有する塩を添加する工程を有し、
前記添加前において、前記無機塩はMg2+およびCa2+の少なくとも一方を含有し、Mg2+含有量が5質量ppm以上、および、Ca2+含有量が50質量ppm以上のいずれかの条件を満たす、化学強化ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によればガラス表面に圧縮応力層を安定的に付与でき、適切な強化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0011】
<化学強化ガラスの製造方法>
本発明に係る製造方法は、硝酸カリウムを含む無機塩とガラスとを接触させることによって、ガラス中のNaと無機塩中のKとをイオン交換する工程を含み、イオン交換の前に、無機塩中に特定アニオンを有する塩を添加する工程を有し、さらに、特定アニオンを有する塩の添加前において、無機塩はMg2+およびCa2+の少なくとも一方を含有し、Mg2+含有量が5質量ppm以上、および、Ca2+含有量が50質量ppm以上のいずれかの条件を満たすことを特徴とする。
【0012】
(ガラス組成)
本発明で使用されるガラスはナトリウムを含んでいればよく、成形、化学強化処理による強化が可能な組成を有するものである限り、種々の組成のものを使用することができる。具体的には、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス(ホウ珪酸ガラス)、鉛ガラス、アルカリバリウムガラスおよびアルミノボロシリケートガラス(アルミノホウ珪酸ガラス)等が挙げられる。中でも、本発明の効果が得られやすい観点から、ソーダライムガラスが好ましい。
【0013】
ガラスの製造方法は特に限定されず、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を好ましくは1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0014】
なお、ガラスの成形には種々の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法およびリドロー法等)、フロート法、ロールアウト法およびプレス法等の様々な成形方法を採用することができる。
【0015】
ガラスの厚みは、特に制限されるものではないが、化学強化処理を効果的に行うために、通常5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明におけるガラスの組成としては特に限定されないが、例えば、以下の組成が挙げられる。
(i)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを50〜80%、Alを2〜25%、LiOを0〜10%、NaOを0〜18%、KOを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrOを0〜5%を含むガラス
(ii)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを50〜74%、Alを1〜10%、NaOを6〜14%、KOを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrOを0〜5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が75%以下、NaOおよびKOの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを68〜80%、Alを4〜10%、NaOを5〜15%、KOを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrOを0〜1%含有するガラス
(iv)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを67〜75%、Alを0〜4%、NaOを7〜15%、KOを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrOを0〜1.5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が71〜75%、NaOおよびKOの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
(v)酸化物基準の質量%で表示した組成で、SiOを65〜75%、Alを0.1〜5%、MgOを1〜6%、CaOを1〜15%含有し、NaOおよびKOの含有量の合計が10〜18%であるガラス
(vi)酸化物基準の質量%で表示した組成で、SiOを65〜72%、Alを3.4〜8.6%、MgOを3.3〜6%、CaOを6.5〜9%、NaOを13〜16%、KOを0〜1%、TiOを0〜0.2%、Feを0.01〜0.15%、SOを0.02〜0.4%含有し、(NaO+KO)/Alが1.8〜5.0であるガラス
(vii)酸化物基準の質量%で表示した組成で、SiOを60〜72%、Alを1〜10%、MgOを5〜12%、CaOを0.1〜5%、NaOを13〜19%、KOを0〜5%含有し、RO/(RO+RO)が0.20以上、0.42以下(式中、ROとはアルカリ土類金属酸化物、ROはアルカリ金属酸化物を示す。)であるガラス
(viii)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを67〜75%、Alを0〜5%、CaOを1〜15%含有し、NaOおよびKOの含有量の合計が10〜18%であるガラス
【0017】
(化学強化)
本発明に係る化学強化ガラスの製造方法では、ガラスの表面にイオン交換処理を施し、圧縮応力が残留する表面層(圧縮応力層)を形成させることで、ガラス表面を強化する。イオン交換とは一般的に、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換によりガラス表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、Liイオン、Naイオン)をイオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラスの表面に圧縮応力が残留し、ガラスの強度が向上する。
【0018】
本発明の製造方法において、化学強化は硝酸カリウム(KNO)を含有する無機塩にガラスを接触させることにより行なわれる。これによりガラス表面のNaイオンと無機塩中のKイオンとがイオン交換されることで高密度な圧縮応力層が形成される。無機塩にガラスを接触させる方法としては、ペースト状の無機塩を塗布する方法、無機塩の水溶液をガラスに噴射する方法、無機塩を融点以上に加熱した溶融塩の塩浴にガラスを浸漬させる方法などが可能であるが、これらの中では、溶融塩に浸漬させる方法が好ましい。
【0019】
無機塩としては化学強化を行うガラスの歪点(通常500〜600℃)以下に融点を有するものが好ましい観点から、本発明においては硝酸カリウム(融点330℃)を含有する。硝酸カリウムを含有することでガラスの歪点以下で溶融状態であり、かつ使用温度領域においてハンドリングが容易となる。無機塩における硝酸カリウムの含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法では、ガラスをイオン交換に供する前に、無機塩に対し、SO2−、CO2−、HCO、PO3−、HPO2−およびHPOからなる群より選ばれる少なくとも一種のアニオン(以下、「特定アニオン」とも総括する)を有する塩を添加する。無機塩を用いてイオン交換するにあたり、無機塩を液体状態の液相塩とするが、本発明ではこの液相塩中にMg2+やCa2+が存在することにより、ガラス表面で圧縮応力層が形成されにくいことが見出された。そこで本発明の製造方法では、Mg2+(マグネシウムイオン)やCa2+(カルシウムイオン)の少なくとも一方を含有する無機塩に対し、上記特定アニオンを有する塩を添加することにより、無機塩中のMg2+やCa2+がトラップされ、上記特定アニオンとのマグネシウム塩やカルシウム塩の固体となって沈殿するため、液相塩中のMg2+やCa2+が低減される。
【0021】
特定アニオンを有する塩の添加前の無機塩(液相塩)は、Mg2+含有量が5質量ppm以上、および、Ca2+含有量が50質量ppm以上のいずれかの条件を満たす。特定アニオンを有する塩の添加量は、液相塩におけるMg2+やCa2+が十分低減される量であればよく特に制限されないが、添加後の無機塩のうち、液相塩のMg2+濃度が5質量ppm未満でかつ、液相塩のCa2+濃度が50質量ppm未満となるように添加することが好ましい。
【0022】
特定アニオンとしては、Mg2+やCa2+の捕捉(トラップ)のしやすさの観点からSO2−またはCO2−が好ましい。
【0023】
また、特定アニオンを有する塩におけるカウンターカチオンとしては、例えばK、NaおよびLi等が挙げられ、KまたはNaが好ましい。
【0024】
特定アニオンを有する塩としては、KSO、KNaSO、NaSO、KCO、KNaCOおよびNaCOからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩が好ましく、特に、イオン交換を阻害しないという観点から、KSOまたはKCOが好ましい。なお、特定アニオンを有する塩の添加後の無機塩におけるKSOの含有量は0.5質量%以上が好ましい。特定アニオンを有する塩の添加後の無機塩におけるKCOの含有量は0.5質量%以上が好ましい。
また特定アニオンを有する塩は、単独で添加しても複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0025】
無機塩は、硝酸カリウム及び特定アニオンを有する塩の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の化学種を含んでいてもよく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸ナトリウムおよびホウ酸カリウム等のアルカリ塩化塩またはアルカリホウ酸塩などが挙げられる。これらは単独で含有しても、複数種を組み合わせて含有してもよい。
【0026】
上記のように調製されたガラス強化用無機塩は、特定アニオンを有する塩を含有することによって、硝酸カリウムの融点以上かつ600℃以下において、液体状態の液相塩と、固体状態の固相塩とを含有し、液相塩におけるMg2+濃度が5質量ppm未満であり、かつ、前記液相塩におけるCa2+濃度が50質量ppm未満であることが好ましい。そして固相塩は特定アニオンとのマグネシウム塩及び特定アニオンとのカルシウム塩のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。すなわち固相塩は硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸マグネシウム及びリン酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1の塩を含有することが好ましい。
固相塩はMg2+含有量が100質量ppm以上であるか、Ca2+含有量が100質量ppm以上であることが好ましい。
【0027】
以下、ガラスを溶融塩に浸漬させる方法により化学強化を行う態様を例に、本発明の製造方法を説明する。
【0028】
(1−1)溶融塩の製造1
溶融塩は下記に示す工程により製造することができる。
工程1a:硝酸カリウム溶融塩の調製
工程2a:硝酸カリウム溶融塩への特定アニオンを有する塩の添加
【0029】
(工程1a−硝酸カリウム溶融塩の調製−)
工程1aでは、硝酸カリウムを容器に投入し、融点以上の温度に加熱して溶融することで、溶融塩を調製する。溶融は硝酸カリウムの融点(330℃)と沸点(500℃)の範囲内の温度で行う。特に溶融温度を350〜470℃とすることが、ガラスに付与できる表面圧縮応力(CS)と圧縮応力層深さ(DOL)のバランスおよび強化時間の点からより好ましい。
【0030】
硝酸カリウムを溶融する容器としては、金属、石英またはセラミックスなどを用いることができる。中でも、耐久性の観点から金属材質が好ましく、耐食性の観点からはステンレススチール(SUS)材質が好ましい。
【0031】
(工程2a−硝酸カリウム溶融塩への特定アニオンを有する塩の添加−)
工程2aでは、工程1aで調製した硝酸カリウム溶融塩中に、先述した特定アニオンを有する塩を添加し、温度を一定範囲に保ちながら、攪拌翼などにより、全体が均一になるように混合する。特定アニオンを有する塩を複数種併用する場合、添加順序は限定されず、同時に添加してもよい。
温度は硝酸カリウムの融点以上、すなわち330℃以上が好ましく、350〜500℃がより好ましい。また、攪拌時間は1分〜10時間が好ましく、10分〜2時間がより好ましい。
【0032】
(1−2)溶融塩の製造2
上記の溶融塩の製造1では、硝酸カリウムの溶融後に特定アニオンを有する塩を添加する方法を例示したが、溶融塩はまた、下記に示す工程により製造することができる。
工程1b:硝酸カリウムと特定アニオンを有する塩の混合
工程2b:混合塩の溶融
【0033】
(工程1b―硝酸カリウムと特定アニオンを有する塩の混合―)
工程1bでは、硝酸カリウムと特定アニオンを有する塩とを容器に投入して、攪拌翼などにより混合し、混合塩とする。複数の塩を併用する場合、添加順序は限定されず、同時に添加してもよい。容器は上記工程1aで用いるものと同様のものを用いることができる。
【0034】
(工程2b―混合塩の溶融―)
工程2bでは、工程1bにより得られる混合塩を加熱して溶融する。溶融温度は、上記工程1aと同様である。また全体が均一になるように撹拌翼などにより撹拌しながら溶融することが好ましく、撹拌時間は1分〜10時間が好ましく、10分〜2時間がより好ましい。
【0035】
上記溶融塩の製造1または製造2により得られる溶融塩において、特定アニオンを有する塩の添加により析出物が発生するため、ガラスの化学強化処理を行う前に、当該析出物が容器の底に沈殿するまで静置することが好ましい。この析出物には、特定アニオンのマグネシウム塩及びカルシウム塩等が含まれる。
【0036】
(2)イオン交換
次に、調製した溶融塩を用いてガラスの化学強化処理を行う。化学強化処理は、ガラスを溶融塩に浸漬し、ガラス中の金属イオン(Naイオン)を、溶融塩中のイオン半径の大きな金属イオン(Kイオン)と置換することで行われる。イオン交換によってガラス表面の組成を変化させ、ガラス表面が高密度化した圧縮応力層を形成することができ、このガラス表面の高密度化によって圧縮応力が発生することから、ガラスを強化することができる。
本発明における化学強化処理は、具体的には、下記工程3により行うことができる。
【0037】
(工程3−ガラスの化学強化処理−)
まず、ガラスを予熱し、また、上記により製造した溶融塩を化学強化を行う温度に調整する。次いで予熱したガラスを溶融塩中に所定の時間浸漬したのち、ガラスを溶融塩中から引き上げ、放冷する。
なお、ガラスには、化学強化処理の前に、用途に応じた形状加工、例えば、切断、端面加工および穴あけ加工などの機械的加工を行うことが好ましい。また、ガラスは、必要に応じて化学強化前に研磨してもよい。
【0038】
ガラスの予熱温度は、溶融塩に浸漬する温度に依存するが、一般に100℃以上であることが好ましい。
【0039】
化学強化温度は、被強化ガラスの歪点(通常500〜600℃)以下が好ましく、より深い圧縮応力層深さを得るためには特に350℃以上が好ましい。
【0040】
ガラスの溶融塩への浸漬時間は1分〜10時間が好ましく、5分〜8時間がより好ましく、10分〜4時間がさらに好ましい。かかる範囲にあれば、表面圧縮応力(CS)と圧縮応力層深さ(DOL)のバランスに優れた化学強化ガラスを得ることができる。
【0041】
(工程4−ガラスの洗浄−)
続いて、工程4ではイオン交換後のガラスの洗浄を行う。洗浄には工業用水、イオン交換水等を用いることができ、中でもイオン交換水が好ましい。洗浄の条件は用いる洗浄液によっても異なるが、イオン交換水を用いる場合には0〜100℃で洗浄することが付着した塩を完全に除去させる点から好ましい。
【0042】
<化学強化ガラス>
上記本発明の製造方法により得られる化学強化ガラスについて説明する。
【0043】
(圧縮応力値(Compressive Stress:CS))
本発明の製造方法により得られる化学強化ガラスは、表面圧縮応力層の圧縮応力値が好ましくは500MPa以上、より好ましくは550MPa以上、特に好ましくは600MPa以上である。本発明の製造方法により、不純物であるMg2+やCa2+が低減された無機塩を用いた化学強化を行うことで、所望の表面圧縮応力が付与されたガラスを得ることができる。
【0044】
(圧縮応力層深さ(Depth of Layer:DOL))
本発明の化学強化ガラスは、表面圧縮応力層の圧縮応力層深さが好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上である。
【0045】
圧縮応力層の圧縮応力値および圧縮応力層深さは、表面応力計(例えば、折原製作所製FSM−6000)等を用いて測定することができる。また、圧縮応力層深さは、EPMA(electron probe micro analyzer)等を用いて測定したイオン交換深さによって代用することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0047】
<評価方法>
本実施例における各種評価は以下に示す分析方法により行った。
【0048】
(ガラスの評価:表面応力)
表面圧縮応力値(CS、単位はMPa)および圧縮応力層深さ(DOL、単位はμm)は折原製作所社製表面応力計(FSM−6000)を用いて測定した。
【0049】
下記各試験例のうち、例1〜例5、及び、例9〜例12は実施例であり、例6〜例8、及び、例13〜例15は比較例である。
【0050】
(例1)
SUS製のカップに、表1に示す量のMg2+及びCa2+を含む硝酸カリウム9800gを投入し、マントルヒーターで450℃まで加熱して、硝酸カリウム溶融塩を調製した。ここに硫酸カリウム200gを添加し、硫酸カリウム2質量%の硝酸カリウム溶融塩を調製した。添加後のMg2+及びCa2+量を表1に示す。なおMg2+量及びCa2+量はICP発光分光分析法により測定した。ICP発光分光分析装置はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS3100を用いた。
下記組成のガラスA(ソーダライムガラス)(50mm×50mm×0.95mm)を200〜400℃に予熱した後、450℃の溶融塩に2時間浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより化学強化処理を行った。得られた化学強化ガラスは純水で洗浄した。
ガラスA組成(酸化物基準のモル%表示):SiO 71.1%、Al 1.1%、NaO 12.4%、KO 0.2%、MgO 6.9%、CaO 8.3%
【0051】
(例2)
表1に示す量のMg2+及びCa2+を含む硝酸カリウムを用いた以外は例1と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0052】
(例3)
硫酸カリウムに代えて炭酸カリウムを200g添加し、炭酸カリウム2質量%の硝酸カリウム溶融塩を調製した以外は例1と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0053】
(例4)
表1に示す量のMg2+及びCa2+を含む硝酸カリウムを用いた以外は例3と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0054】
(例5)
ガラスAに代えて、下記組成のガラスB(アルミノシリケートガラス)(50mm×50mm×0.95mm)を用いた以外は例1と同様に、化学強化ガラスを得た。
ガラスB組成(酸化物基準のモル%表示):SiO 64.4%、Al 8.0%、NaO 12.5%、KO 4.0%、MgO 10.5%、CaO 0.1%、SrO 0.1%、BaO 0.1%、ZrO 0.5%
【0055】
(例9)
ガラスAに代えて、下記組成のガラスC(ソーダライムガラス)(50mm×50mm×0.7mm)を用いた以外は例1と同様に、化学強化ガラスを得た。
ガラスC組成(酸化物基準のモル%表示):SiO 68.74%、Al 2.96%、NaO 14.20%、KO 0.15%、MgO 6.16%、CaO 7.75%、SrO 0.00%、BaO 0.00%、ZrO 0.00%、TiO 0.02%
【0056】
(例10)
表1に示す量のMg2+及びCa2+を含む硝酸カリウムを用いた以外は例9と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0057】
(例11)
硫酸カリウムに代えて炭酸カリウムを200g添加し、炭酸カリウム2質量%の硝酸カリウム溶融塩を調製した以外は例9と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0058】
(例12)
表1に示す量のMg2+及びCa2+を含む硝酸カリウムを用いた以外は例11と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0059】
(例6)
硫酸カリウムを添加しなかった以外は例1と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0060】
(例7)
硫酸カリウムを添加しなかった以外は例2と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0061】
(例8)
表1に示す量のMg2+及びCa2+を含む硝酸カリウムを用い、硫酸カリウムを添加しなかった以外は例1と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0062】
(例13)
硫酸カリウムを添加しなかった以外は例9と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0063】
(例14、例15)
表1に示す量のMg2+及びCa2+を含む硝酸カリウムを用いた以外は例13と同様に、化学強化ガラスを得た。
【0064】
得られた化学強化ガラスの評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
上記表1の結果より、例1、3、5、9および11ではMg2+含有量が5質量ppm以上の無機塩を用いても、CSが500MPa以上であるガラスが得られた。また、例2、4、10および12ではCa2+含有量が50質量ppm以上の無機塩を用いても、CSが500MPa以上であるガラスが得られた。
【0067】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2015年3月27日出願の日本特許出願2015−067229に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。