(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粒子状重合体が、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を0.5質量%以上5質量%以下含む、請求項1〜3の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物は、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物、好適にはリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製に用いられる。また、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池の負極の形成に用いられる。そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物から形成される負極合材層を備えることを特徴とする。更に、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いたことを特徴とする
【0021】
(リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物)
本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物は、表面酸量が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下である粒子状重合体が、分散媒としての水系媒体に分散した組成物である。
【0022】
<粒子状重合体>
粒子状重合体は、本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物を用いて形成した電極合材層を備える電極(正極、負極)において、電極合材層中の各成分同士または各成分と集電体とを結着させる。なお、粒子状重合体としては、水などの水系媒体に分散可能な重合体を用いることができる。
【0023】
[粒子状重合体の性状]
以下、本発明で使用する粒子状重合体の表面酸量および水相中の酸量、ゲル含有量、並びに個数平均粒子径について詳述する。
【0024】
[[表面酸量および水相中の酸量]]
本発明において、「表面酸量」とは、粒子状重合体の表面部分に存在する酸の量であって、粒子状重合体の固形分1g当たりの酸量を指す。そして、粒子状重合体は、表面酸量が、0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが必要であり、1.0mmol/g以上であることが好ましく、1.5mmol/g以上であることがより好ましく、また、2.8mmol/g以下であることが好ましく、2.7mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/l以下であることが特に好ましい。粒子状重合体の表面酸量が0.5mmol/g未満であると、十分な電極合材層の強度が得られず、電極の膨れの抑制が不十分となり、また、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を確保することができない。一方、粒子状重合体の表面酸量が3.0mmol/g超であると、集電体に対する電極合材層の結着強度が十分に得られず、電極及び該電極を備えたリチウムイオン二次電池の生産性、並びにリチウムイオン二次電池のサイクル特性を確保することができない。
【0025】
本発明において、「水相中の酸量」は、粒子状重合体を含む水分散液における水相中に存在する酸の量であって、粒子状重合体の固形分1g当たりの酸量をいう。そして、粒子状重合体は、水相中の酸量が、0.7mmol/g以下であることが好ましく、0.65mmol/g以下であることがより好ましく、0.6mmol/g以下であることが更に好ましく、0.55mmol/g以下であることが特に好ましい。また、水相中の酸量の範囲の下限については特に限定されないが、通常0.1mmol/g以上である。
粒子状重合体の水相中の酸量が0.7mmol/g以下であり、水相中に存在している水溶性の酸成分、例えば、粒子状重合体の調製の際に生成する遊離オリゴマー等の副生成物の量が十分に少なければ、該水溶性の酸成分による悪影響を抑制することができる。具体的には、水溶性の酸成分による結着の阻害を抑制し、集電体に対する電極合材層の結着強度およびリチウムイオン二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。また、水溶性の酸成分の、リチウムイオン二次電池の電解液中への持ち込み量を低減し、リチウムイオン二次電池のレート特性を向上させることができる。加えて水溶性の酸成分の分解等により生じるガスの発生を抑制し、リチウムイオン二次電池のセルの膨らみを抑制することができる。
【0026】
ここで、粒子状重合体の表面酸量の値を水相中の酸量の値で除した値(表面酸量/水相中の酸量)は、2.5以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、3.5以上であることがより好ましく、4以上であることがより好ましく、4.5以上であることが更に好ましく、5以上であることが特に好ましい。表面酸量/水相中の酸量の値が2.5以上であることで、水溶性の酸成分による悪影響の発生を抑制しつつ、電極の膨れを更に抑制し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0027】
そして、粒子状重合体の表面酸量および水相中の酸量は、以下の方法で算出することができる。
まず、粒子状重合体を含む水分散液を調製する。蒸留水で洗浄したガラス容器に、前記粒子状重合体を含む水分散液を入れ、溶液電導率計をセットして攪拌する。なお、攪拌は、後述する塩酸の添加が終了するまで継続する。
粒子状重合体を含む水分散液の電気伝導度が2.5〜3.0mSになるように、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を、粒子状重合体を含む水分散液に添加する。その後、6分経過してから、電気伝導度を測定する。この値を測定開始時の電気伝導度とする。
さらに、この粒子状重合体を含む水分散液に0.1規定の塩酸を0.5mL添加して、30秒後に電気伝導度を測定する。その後、再び0.1規定の塩酸を0.5mL添加して、30秒後に電気伝導度を測定する。この操作を、30秒間隔で、粒子状重合体を含む水分散液の電気伝導度が測定開始時の電気伝導度以上になるまで繰り返し行う。
得られた電気伝導度のデータを、電気伝導度(単位「mS」)を縦軸(Y座標軸)、添加した塩酸の累計量(単位「mmol」)を横軸(X座標軸)としたグラフ上にプロットする。これにより、
図1のように3つの変曲点を有する塩酸添加量−電気伝導度曲線が得られる。3つの変曲点のX座標および塩酸添加終了時のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP1、P2、P3およびP4とする。X座標が零から座標P1まで、座標P1から座標P2まで、座標P2から座標P3まで、および、座標P3から座標P4まで、の4つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L1、L2、L3およびL4を求める。近似直線L1と近似直線L2との交点のX座標をA1(mmol)、近似直線L2と近似直線L3との交点のX座標をA2(mmol)、近似直線L3と近似直線L4との交点のX座標をA3(mmol)とする。
粒子状重合体1g当たりの表面酸量及び粒子状重合体1g当たりの水相中の酸量は、下記の式(a)及び式(b)から、塩酸換算した値(mmol/g)として与えられる。また、水中に分散した粒子状重合体1g当たりの総酸量は、下記式(c)に表すように、式(a)及び式(b)の合計となる。
(a) 粒子状重合体1g当たりの表面酸量=(A2−A1)/水分散液中の粒子状重合体の固形分量
(b) 粒子状重合体1g当たりの水相中の酸量=(A3−A2)/水分散液中の粒子状重合体の固形分量
(c) 水中に分散した粒子状重合体1g当たりの総酸量=(A3−A1)/水分散液中の粒子状重合体の固形分量
【0028】
粒子状重合体の表面酸量は、例えば、粒子状重合体を構成する単量体単位の種類及びその割合、そして重合方法の変更により制御しうる。具体的には、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体などの酸性基含有単量体の使用量を増加することにより表面酸量を増大させることができる。
また、後述するように、粒子状重合体の調製にセミバッチ重合を採用すること、より好適には例えば水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合反応の後半に添加し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体などの酸性基含有単量体と他の単量体との共重合性を粒子状重合体の表面部分において高めることで、粒子状重合体の表面酸量を増大させつつ水相中の酸量を減少させることができる。
【0029】
[[ゲル含有量]]
また、粒子状重合体は、ゲル含有量が、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、また、99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、94質量%以下であることが更に好ましい。粒子状重合体のゲル含有量が80質量%以上であれば、粒子状重合体の重合度が高まり粒子状重合体自身の強度が向上するため、電極合材層の強度を高め、電極の膨らみを抑制することができると共に、粒子表面において表面酸量の大きさを適切に制御することができる。また、粒子状重合体のゲル含有量が99質量%以下であれば、粒子状重合体が靱性を失って脆くなるのを防止し、電極合材層を構成する成分同士および電極合材層と集電体とを良好に結着させることができる。
【0030】
なお、本発明において、「ゲル含有量」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0031】
そして、粒子状重合体のゲル含有量は、粒子状重合体の重合条件を変更することにより調整することができ、例えば、重合時に使用する連鎖移動剤(例えば、t−ドデシルメルカプタンなど)の量を少なくするとゲル含有量を高めることができ、重合時に使用する連鎖移動剤の量を多くするとゲル含有量を低下させることができる。
【0032】
[[個数平均粒子径]]
そして、粒子状重合体は、個数平均粒子径が、80nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、120nm以上であることが特に好ましく、また、400nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが特に好ましい。個数平均粒子径が上記範囲にあることで、得られる電極合材層の強度および柔軟性を良好にできる。
【0033】
ここで、本発明において、「個数平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した粒子径−個数積算分布において、積算分布の値が50%となる粒子径を指す。
【0034】
そして、粒子状重合体の個数平均粒子径は、粒子状重合体の製造条件を変更することにより調整することができる。具体的には、例えば、粒子状重合体をシード重合により調製する場合には、重合に使用するシード粒子の数や粒子径を調整することにより粒子状重合体の個数平均粒子径を制御することができる。
【0035】
[粒子状重合体の種類]
ここで、粒子状重合体としては、既知の重合体、例えば、ジエン重合体、アクリル重合体、フッ素重合体、シリコン重合体などが挙げられる。これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0036】
具体的には、例えばリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物を負極用スラリー組成物の形成に用いる場合には、粒子状重合体としては、ジエン重合体、特に脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体、或いは、その水素添加物を用いることが好ましい。剛性が低くて柔軟な繰り返し単位であり、結着性を高めることが可能な脂肪族共役ジエン単量体単位と、重合体の電解液への溶解性を低下させて電解液中での粒子状重合体の安定性を高めることが可能な芳香族ビニル単量体単位とを有する共重合体よりなる粒子状重合体は、結着材としての機能を良好に発揮し得るからである。
なお、本発明において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
【0037】
[[脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体の調製に用いる単量体]]
ここで、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体を粒子状重合体として用いる場合、脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、特に限定されることなく、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などを用いることができる。なお、脂肪族共役ジエン単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0038】
そして、粒子状重合体中において、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が30質量%以上であることで、バインダー組成物を用いて形成される電極の柔軟性を高めることができるからである。また、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が70質量%以下であることで、粒子状重合体の結着力が十分に高くなり、電極合材層を構成する成分同士および電極合材層と集電体とを良好に結着させることができるからである。
【0039】
また、芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、特に限定されることなく、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどを用いることができる。なお、芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
そして、粒子状重合体中において、芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が20質量%以上であることで、バインダー組成物を用いて形成される電極の耐電解液性を向上させることができるからである。また、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が50質量%以下であることで、共重合体よりなる粒子状重合体の結着力が十分に高くなり、電極合材層を構成する成分同士および電極合材層と集電体とを良好に結着させることができるからである。
【0041】
なお、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体は、脂肪族共役ジエン単量体単位として1,3−ブタジエン単位を含み、芳香族ビニル単量体単位としてスチレン単位を含む(即ち、スチレン−ブタジエン共重合体または水素化スチレン−ブタジエン共重合体である)ことが好ましい。
【0042】
また、本発明で用いる粒子状重合体が上述した表面酸量を有する必要がある観点からは、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体(粒子状重合体)は、酸性基含有単量体単位を含むことが好ましい。酸性基含有単量体単位としては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、スルホン酸基を有する不飽和単量体単位が挙げられる。中でも、粒子状重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含むことが好ましい。
【0043】
ここで、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を形成し得るエチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、ジアクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。さらに、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどが挙げられる。中でも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、アクリル酸が特に好ましい。
これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、スルホン酸基を有する不飽和単量体単位を形成し得るスルホン酸基を有する不飽和単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0045】
そして、粒子状重合体中において、酸性基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、特に好ましくは18質量%以上であり、また好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、特に好ましくは23質量%以下、さらに特に好ましくは20質量%以下である。酸性基含有単量体単位の含有割合が10質量%以上であることで、粒子状重合体の表面酸量を本願の所望の範囲まで上昇させ易く、電極の膨れを抑制しつつリチウムイオン二次電池のサイクル特性を優れたものとすることができる。一方、30質量%以下であることで、粒子状重合体の調製が容易となる。
【0046】
また、上述した脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体(粒子状重合体)は、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことが好ましい。
ここで、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどが挙げられる。中でも、2−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
そして、粒子状重合体中において、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、さらに特に好ましくは2質量%以下である。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が0.5質量%以上であることで、エチレン性不飽和カルボン酸単量体などの酸性基含有単量体と他の単量体との共重合性を高めることができる。一方、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が5質量%以下であることで、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体同士が重合して重合体を形成することを抑制し、粒子状重合体へのエチレン性不飽和カルボン酸単量体の共重合性が向上するため、上述した単量体の共重合を良好に進行させることができる。
【0048】
また、上述した脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した以外にも任意のその他の繰り返し単位を含んでいてもよい。
その他の繰り返し単位の含有割合は、特に限定されないが、上限は合計量で6質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
【0049】
[粒子状重合体の調製方法]
粒子状重合体は、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより調製することができる。
ここで、本発明において単量体組成物中の各単量体の含有割合は、粒子状重合体における単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
【0050】
水系溶媒は粒子状重合体が粒子状態で分散可能なものであれば格別限定されることはないが、水は可燃性がなく、粒子状重合体の粒子の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。なお、主溶媒として水を使用して、粒子状重合体の粒子の分散状態が確保可能な範囲において水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0051】
重合様式は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの様式も用いることができる。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。なお、高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま本発明のバインダー組成物や本発明のスラリー組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点からは、乳化重合法が特に好ましい。なお、乳化重合は、常法に従い行うことができる。また、乳化重合においては、シード粒子を用いるシード重合を採用してもよい。
【0052】
そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とする。
【0053】
また、本発明で使用する粒子状重合体を製造すべく、バッチ重合、セミバッチ重合を用いることができるが、反応系に単量体を連続的又は断続的に添加するセミバッチ重合を用いることが好ましい。セミバッチ重合を用いることで、エチレン性不飽和カルボン酸単量体などの酸性基含有単量体を反応系に最初から一括で添加するバッチ重合を用いた場合に比して、粒子状重合体の表面酸量、および、表面酸量/水相中の酸量の値を容易に制御することができる。
【0054】
セミバッチ重合を用いた粒子状重合体の調製方法としては、例えば、粒子状重合体が上述した脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体である場合、脂肪族共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体および酸性基含有単量体を含む一次単量体組成物を、反応系に連続的又は断続的に添加し、単量体組成物の添加率が70%以上となってから、水酸基含有(メタ)アクリル酸単量体を含む二次単量体組成物の添加を開始し、粒子状重合体を得る方法が好ましい。この好適な態様について、以下に詳述する。
なお、「連続的又は断続的に添加」とは、単量体組成物を反応系に一度に添加するのではなく、ある程度の時間(例えば30分以上)をかけて添加することをいう。
また、「単量体組成物の添加率」とは、重合に用いる全単量体組成物に占める、反応系内に添加済みの単量体の割合(質量%)をいう。
【0055】
「一次単量体組成物」は、重合の開始段階から反応系へ添加する単量体組成物であり、重合に用いる全単量体組成物のうち、好ましくは80〜99質量%、より好ましくは90〜99質量%を、一次単量体組成物に含める。そして、一次単量体組成物は、芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン単量体、酸性基含有単量体を含むことが好ましく、また、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を実質的に含有しないものであることが好ましい。
セミバッチ重合を用いた粒子状重合体の調製においては、例えば、この一次単量体組成物に、適宜、乳化剤、連鎖移動剤、水を加えてなる混合物と、別途用意した重合開始剤とを一つの反応容器に添加することで重合反応を開始する。この際の反応条件は特に限定されないが、反応温度は、好ましくは60〜90℃である。重合開始から、単量体組成物の添加率が70%に達するまでの時間は、特に限定されないが好ましくは2〜6時間、より好ましくは3〜5時間である。
【0056】
そして単量体組成物の添加率が70%以上となってから(即ち、重合に用いる全単量体組成物のうち70質量%を反応系に添加し終えた時以降から)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む二次単量体組成物の添加を開始する。二次単量体組成物の添加開始から、二次単量体組成物の添加が終了するまでの時間は、特に限定されないが好ましくは1〜3時間である。このように、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を後で添加することで、酸性基含有単量体と他の単量体との共重合を良好に進行させ、表面酸量の大きさを容易に制御することができる。
【0057】
また、一次単量体組成物と二次単量体組成物の添加は別々に終了してもよいし、同時に終了してもよい。重合開始から全単量体組成物の添加が終了するまでの時間は、特に限定されないが好ましくは3〜8時間、より好ましくは4〜7時間である。そして全単量体組成物の添加が終了した後、0〜90℃で3〜9時間反応させることが好ましい。
【0058】
その後、重合転化率が十分(例えば95%以上)となった時点で冷却し反応を停止させる。
ここで、上述した重合の後、得られた水分散液は、例えばアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)の水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(例えばNH
4Clなど)、有機アミン化合物(例えばエタノールアミン、ジエチルアミンなど)などを含む塩基性水溶液を用いて、pHが通常5以上であり、通常10以下、好ましくは9以下の範囲になるように調整して、粒子状重合体の水分散液としてもよい。なかでも、アルカリ金属水酸化物によるpH調整は、集電体に対する電極合材層の結着強度を向上させるので、好ましい。
また、pH調整後に、加熱減圧蒸留によって、未反応の単量体を除去することが好ましい。
【0059】
<リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物の調製>
本発明のバインダー組成物は、単量体組成物を重合して得た粒子状重合体の水分散液に対し、水や、発明の効果を損ねない範囲で任意のその他の成分を添加して調製してもよいが、乳化重合(上述の任意のpH調整および加熱減圧蒸留を含む)により得られた粒子状重合体の水分散液を、そのまま本発明のバインダー組成物として使用することが好ましい。すなわち、本発明の二次電池電極用バインダー組成物は、単量体組成物を乳化重合してなるバインダー組成物であることが好ましい。
そして、本発明のバインダー組成物は、リチウムイオン二次電池の正極及び負極の何れの作製にも使用することができるが、極板の膨らみの問題が顕著であり、電極合材層の強度がより求められる負極に用いることが好ましい。即ち、本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物は、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の形成に用いることが好ましい。
【0060】
(リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物)
本発明のリチウムイオン電池負極用スラリー組成物は、負極活物質と、上述の本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物とを含む水系のスラリー組成物である。なお、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上述の負極活物質およびバインダー組成物以外に、後述するその他の成分を含有していてもよい。
【0061】
そして、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物によれば、上述の粒子状重合体を含有する本発明のバインダー組成物を含んでいるので、リチウムイオン二次電池の負極の膨らみを抑制し、かつ、サイクル特性を優れたものとすることができる。
【0062】
<負極活物質>
負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極において電子の受け渡しをする物質である。そして、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。リチウムを吸蔵および放出し得る物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0063】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0064】
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。なお、炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0065】
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。なお、熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0066】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。また、シリコン系負極活物質は、一般的にリチウムイオン二次電池の充放電により、炭素系負極活物質に比して大きく膨張・収縮する。しかしながら、本発明のスラリー組成物は、本発明のバインダー組成物を用いているため、負極活物質がシリコン系負極活物質を含有する場合であっても、充放電による負極の膨らみを好適に抑制することができる。
【0067】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiO
x、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、アルミニウムと、鉄などの遷移金属とを含み、さらにスズおよびイットリウム等の希土類元素を含む合金組成物が挙げられる。
【0069】
SiO
xは、SiOおよびSiO
2の少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。そして、SiO
xは、例えば、一酸化ケイ素(SiO)の不均化反応を利用して形成することができる。具体的には、SiO
xは、SiOを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で熱処理し、ケイ素と二酸化ケイ素とを生成させることにより、調製することができる。なお、熱処理は、SiOと、任意にポリマーとを粉砕混合した後、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行うことができる。
【0070】
Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物としては、例えば、SiOと、ポリビニルアルコールなどのポリマーと、任意に炭素材料との粉砕混合物を、例えば有機物ガスおよび/または蒸気を含む雰囲気下で熱処理してなる化合物を挙げることができる。また、かかる複合化物は、SiOの粒子に対して、有機物ガスなどを用いた化学的蒸着法によって表面をコーティングする方法、SiOの粒子と黒鉛または人造黒鉛をメカノケミカル法によって複合粒子化(造粒化)する方法などの公知の方法でも得ることができる。
【0071】
<リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物>
本発明のスラリー組成物に用いるバインダー組成物は、上述の本発明の粒子状重合体を含むリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物である。そして、本発明のスラリー組成物は、スラリー組成物中の粒子状重合体の含有量が、負極活物質100質量部当たり好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、特に好ましくは1質量部以上となり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下となるように、バインダー組成物を含有する。スラリー組成物が粒子状重合体を上記の量で含有することにより、粒子状重合体の量が負極活物質の膨張と収縮に好適に追従するために十分となり、負極の膨れを抑制しつつ、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を優れたものとすることができる。
【0072】
<その他の成分>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上記成分の他に、カルボキシメチルセルロースやポリアクリル酸などの水溶性重合体、導電材、補強材、レベリング剤、電解液添加剤などの成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、これらのその他の成分は、該成分を配合した本発明のバインダー組成物を使用することにより、本発明のスラリー組成物に含有させてもよい。
なお、本発明で用いる粒子状重合体は、表面酸量が大きく、水に対する親和性が比較的高いため、カルボキシメチルセルロースやポリアクリル酸などの水溶性重合体と良好に相溶する。従って、カルボキシメチルセルロースやポリアクリル酸などの水溶性重合体を本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物に配合した場合には、表面酸量が小さい粒子状重合体を使用した場合と比較し、粒子状重合体と水溶性重合体との相溶により電極合材層の強度を更に高めることができる。
【0073】
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製方法>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上記各成分を分散媒としての水系媒体中に分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と任意の水系媒体とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。
ここで、水系媒体としては、通常は水を用いるが、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを用いてもよい。なお、バインダー組成物を調製後、該バインダー組成物に負極活物質などを添加することで、スラリー組成物を調製してもよい。そして、スラリー組成物中の水系媒体は、バインダー組成物由来のものであってもよい。
【0074】
(リチウムイオン二次電池用負極)
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を使用して製造することができる。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、集電体上に形成された負極合材層とを備え、負極合材層は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物から得られる。なお、負極合材層中に含まれている各成分は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、負極用スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、膨れが抑制され、リチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0075】
<リチウムイオン二次電池用負極の製造方法>
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、集電体上に、上述したリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を乾燥し、集電体上に負極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0076】
[塗布工程]
上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、負極用スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる負極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0077】
ここで、負極用スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0078】
[乾燥工程]
集電体上の負極用スラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上の負極用スラリー組成物を乾燥することで、集電体上に負極合材層を形成し、集電体と負極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用負極を得ることができる。
【0079】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、負極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、集電体に対する負極合材層の結着強度を向上させることができる。
【0080】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレーターとを備え、負極として、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いたものである。そして、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いているので、サイクル特性に優れている。
【0081】
<正極>
リチウムイオン二次電池の正極としては、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる既知の正極を用いることができる。具体的には、正極としては、例えば、正極合材層を集電体上に形成してなる正極を用いることができる。
なお、集電体としては、アルミニウム等の金属材料からなるものを用いることができる。また、正極合材層としては、既知の正極活物質と、導電材と、結着材とを含む層を用いることができる。因みに、正極合材層の調製には、本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物を用いてもよい。
【0082】
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のアルキルカーボネート系溶媒に、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチル等の粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。
【0083】
<セパレーター>
セパレーターとしては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。
【0084】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレーターを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電などの発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0085】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、粒子状重合体の表面酸量、水相中の酸量、ゲル含有量および個数平均粒子径、並びに、リチウムイオン二次電池の負極の耐膨らみ性(初期)、サイクル特性、負極の耐膨らみ性(サイクル後)、集電体に対する負極合材層の結着強度は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0086】
<表面酸量および水相中の酸量>
蒸留水で洗浄した容量150mLのガラス容器に、調製した粒子状重合体を含む水分散液(固形分濃度 2%に調整)を50g入れ、溶液電導率計をセットして攪拌した。なお、攪拌は、後述する塩酸の添加が終了するまで継続した。
粒子状重合体を含む水分散液の電気伝導度が2.5〜3.0mSになるように、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を、粒子状重合体を含む水分散液に添加した。その後、6分経過してから、電気伝導度を測定した。この値を測定開始時の電気伝導度とした。
さらに、この粒子状重合体を含む水分散液に0.1規定の塩酸を0.5mL添加して、30秒後に電気伝導度を測定した。その後、再び0.1規定の塩酸を0.5mL添加して、30秒後に電気伝導度を測定した。この操作を、30秒間隔で、粒子状重合体を含む水分散液の電気伝導度が測定開始時の電気伝導度以上になるまで繰り返し行った。
得られた電気伝導度データを、電気伝導度(単位「mS」)を縦軸(Y座標軸)、添加した塩酸の累計量(単位「mmol」)を横軸(X座標軸)としたグラフ上にプロットした。これにより、
図1のように3つの変曲点を有する塩酸添加量−電気伝導度曲線が得られた。3つの変曲点のX座標および塩酸添加終了時のX座標を、値が小さい方から順にそれぞれP1、P2、P3およびP4とした。X座標が零から座標P1まで、座標P1から座標P2まで、座標P2から座標P3まで、および、座標P3から座標P4まで、の4つの区分内のデータについて、それぞれ、最小二乗法により近似直線L1、L2、L3およびL4を求めた。近似直線L1と近似直線L2との交点のX座標をA1(mmol)、近似直線L2と近似直線L3との交点のX座標をA2(mmol)、近似直線L3と近似直線L4との交点のX座標をA3(mmol)とした。
粒子状重合体1g当たりの表面酸量及び粒子状重合体1g当たりの水相中の酸量は、それぞれ、下記の式から、塩酸換算した値(mmol/g)として求めた。
粒子状重合体1g当たりの表面酸量=A2−A1
粒子状重合体1g当たりの水相中の酸量=A3−A2
<ゲル含有量>
粒子状重合体を含む水分散液を用意し、この水分散液を湿度50%、温度23〜25℃の環境下で乾燥させて、厚み1±0.3mmのフィルムに成膜した。このフィルムを、温度60℃の真空乾燥機で10時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムを3〜5mm角に裁断し、約1gを精秤した。裁断により得られたフィルム片の質量をw0とする。
このフィルム片を、50gのテトラヒドロフラン(THF)に24時間浸漬した。その後、THFから引き揚げたフィルム片を温度105℃で3時間真空乾燥して、不溶分の質量w1を計測した。
そして、下記式に従ってゲル含有量(質量%)を算出した。
ゲル含有量(質量%)=(w1/w0)×100
<個数平均粒子径>
粒子状重合体を含む水分散液について、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製、LS230)を用いて粒子状重合体の粒子径−個数積算分布を測定し、積算分布の値が50%となる粒子径を粒子状重合体の個数平均粒子径とした。
<負極の耐膨らみ性(初期)>
作製したラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、25℃環境下で5時間静置させた後、25℃環境下で、4.2V、0.5Cのレートにて充電を行った。
その後、充電状態のセルを解体して負極を取り出し、負極合材層の厚み(d1)を測定した。そして、リチウムイオン二次電池の作製前の負極合材層の厚み(d0)に対する変化率(初期膨らみ率={(d1−d0)/d0}×100(%))を求め、以下の基準により判定した。初期膨らみ率が小さいほど、負極の耐膨らみ性(初期)に優れることを示す。
A:初期膨らみ率が30%未満
B:初期膨らみ率が30%以上35%未満
C:初期膨らみ率が35%以上40%未満
D:初期膨らみ率が40%以上
<サイクル特性>
作製したラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を25℃の環境下で24時間静置させた後、25℃の環境下で、4.2V、0.5Cの充放電レートにて充放電の操作を行い、初期容量C1を測定した。さらに、45℃の環境下で充放電を繰り返し、300サイクル後の容量C2を測定した。
サイクル特性は、ΔC=(C2/C1)×100(%)で示す容量変化率ΔCを算出し、以下の基準で評価した。この容量変化率ΔCの値が高いほど、サイクル特性に優れることを示す。
A:容量変化率ΔCが75%以上
B:容量変化率ΔCが70%以上75%未満
C:容量変化率ΔCが65%以上70%未満
D:容量変化率ΔCが65%未満
<負極の耐膨らみ性(サイクル後)>
上述のようにしてサイクル特性を評価した後のリチウムイオン二次電池について、25℃環境下で、0.5Cにて充電を行い、充電状態のセルを解体して負極を取り出し、負極合材層の厚み(d2)を測定した。そして、リチウムイオン二次電池の作製前の負極合材層の厚み(d0)に対する変化率(サイクル後膨らみ率={(d2−d0)/d0}×100(%))を求め、以下の基準により判定した。サイクル後膨らみ率が小さいほど、負極の耐膨らみ性(サイクル後)に優れることを示す。
A:サイクル後膨らみ率が35%未満
B:サイクル後膨らみ率が35%以上40%未満
C:サイクル後膨らみ率が40%以上45%未満
D:サイクル後膨らみ率が45%以上
<集電体に対する負極合材層の結着強度>
作製した負極を、幅1.0cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とした。そして、試験片の負極合材層側の表面を上にして固定し、試験片の負極合材層側の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープはJIS Z1522に規定されるものを用いた。その後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向(試験片の他端側)に引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、応力の平均値を求めて、これをピール強度(N/m)とした。ピール強度が大きいほど、集電体に対する負極合材層の結着強度が優れていることを示す。
A:ピール強度が5N/m以上
B:ピール強度が3N/m以上5N/m未満
C:ピール強度が2N/m以上3N/m未満
D:ピール強度が2N/m未満
【0087】
(実施例1)
<リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物の調製>
芳香族ビニル単量体としてスチレン33部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン46部、酸性基含有単量体としてアクリル酸20部、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.25部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.35部の混合物を入れた容器Aから、これらの混合物の耐圧容器Bへの添加を開始し、これと同時に、重合開始剤として過硫酸カリウム1部の耐圧容器Bへの添加を開始することで重合を開始した。反応温度は75℃を維持した。
また、重合開始から4時間後(単量体組成物全体のうち70%添加後)、耐圧容器Bに水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレートを1部、1時間半に亘って加えた。
重合開始から5時間半後、これら単量体組成物の全量添加が完了し、その後、さらに85℃に加温して6時間反応させた。
重合転化率が97%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体を含む混合物を得た。この粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、固形分濃度:30%)を得た。この粒子状重合体を含む水分散液を用いて、表面酸量および水相中の酸量、ゲル含有量、並びに個数平均粒子径を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製>
まず、一酸化珪素((株)大阪チタニウムテクノロジー製)100部およびポリビニルアルコール(東京化成工業(株)試薬グレード)20部をビーズミルに加え、湿式粉砕および一酸化珪素粒子の表面コーティングを行った。その後、窒素雰囲気下でケーク状に乾燥させた後に、アルゴン雰囲気下950℃で加熱処理を施し、分級して325メッシュ未満のカーボンコートSiOx(x=1.1、体積平均粒子径:5μm)を作製した。
次に、ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として人造黒鉛(比表面積:4m
2/g、体積平均粒子径:24.5μm)を95部、及び上述の作製したカーボンコートSiOxを5部、水溶性高分子としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液を固形分換算で1部を加えた。これらの混合物をイオン交換水で固形分濃度60%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分間混合し混合液を得た。
上記の混合液に、粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物)を、粒子状重合体の固形分換算で1.5部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度50%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を得た。
【0089】
<リチウムイオン二次電池用負極の製造>
上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の上に塗付量が9〜10mg/cm
2となるように塗布した。このリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物が塗布された銅箔を、0.5m/分の速度で、温度60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、乾燥させた。その後、温度120℃のオーブン内で2分間加熱処理して負極原反を得た。
得られた負極原反をロールプレス機にて負極合材層の密度が1.6〜1.7g/cm
3となるようプレスを行い、リチウムイオン二次電池用負極を得た。このリチウムイオン二次電池用負極を用いて、集電体に対する負極合材層の結着強度を評価した。結果を表1に示す。
【0090】
<リチウムイオン二次電池用正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのLiCoO
2100部、導電材としてのアセチレンブラック2部(電気化学工業(株)製、HS−100)、結着材としてのPVDF(ポリフッ化ビニリデン、(株)クレハ化学製、KF−1100)2部、さらに全固形分濃度が67%となるように2−メチルピリロドンを加えて混合し、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を調製した。
得られたリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に塗布した。このリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物が塗布されたアルミ箔を、0.5m/分の速度で温度60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、乾燥させた。その後、温度120℃のオーブン内で2分間加熱処理して、正極原反を得た。
得られた正極原反をロールプレス機にて正極合材層の密度が3.40〜3.50g/cm
3になるようにプレスを行い、リチウムイオン二次電池用正極を得た。
【0091】
<リチウムイオン二次電池の製造>
単層のポリプロピレン製セパレーター(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm;乾式法により製造;気孔率55%)を用意し、5cm×5cmの正方形に切り抜いた。また、電池の外装として、アルミ包材外装を用意した。
そして、作製した正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミ包材外装に接するように配置した。次に、正極の正極合材層の面上に、上記の正方形のセパレーターを配置した。さらに、作製した負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレーター上に、負極合材層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF
6溶液(溶媒はエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート2質量%含有)を充填した。さらに、150℃のヒートシールをしてアルミ包材外装の開口を密封閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池を用いて、負極の耐膨らみ性(初期)、サイクル特性および負極の耐膨らみ性(サイクル後)を評価した。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例2〜4)
リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物調製時に1,3−ブタジエンとアクリル酸の配合量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例5、6)
リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物調製時に1,3−ブタジエンと2−ヒドロキシエチルアクリレートの配合量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例7)
リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物を下記の方法で調製した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
<リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物の調製>
芳香族ビニル単量体としてスチレン33部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン46部、酸性基含有単量体としてアクリル酸20部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2―ヒドロキシエチルアクリレート1部、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.25部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.35部の混合物を入れた容器Aから、これらの混合物の耐圧容器Bへの添加を開始し、これと同時に、重合開始剤として過硫酸カリウム1部の耐圧容器Bへの添加を開始することで重合を開始した。反応温度は75℃を維持した。
重合開始から5時間半後、これら単量体組成物を含む混合物の全量添加が完了し、その後、さらに85℃に加温して6時間反応させた。
重合転化率が97%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体を含む混合物を得た。この粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液(リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物 固形分濃度:30%)を得た。
【0095】
(実施例8)
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調整時に、負極活物質として、人造黒鉛95部およびカーボンコートSiOx5部に替えて、人造黒鉛100部を使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例1)
リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物調製時に1,3−ブタジエンとアクリル酸の配合量を表1のように変更し、2−ヒドロキシエチルアクリレートを使用しなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例2)
リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物調製時に1,3−ブタジエンの配合量を表1のように変更し、アクリル酸20部に替えてイタコン酸を1部使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
【0098】
(比較例3)
リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物調製時に1,3−ブタジエンの配合量を表1のように変更し、アクリル酸20部に替えてメタクリル酸を30部使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例4)
以下の手順でバインダー組成物を調製した。
ブチルアクリレート35部、エチルアクリレート35部、酸性基含有単量体としてメタクリル酸30部、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.25部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.35部の混合物を入れた容器Aから、これらの混合物の耐圧容器Bへの添加を開始し、これと同時に、重合開始剤として過硫酸カリウム1部の耐圧容器Bへの添加を開始することで重合を開始した。反応温度は75℃を維持した。
重合開始から5時間半後、これら単量体組成物を含む混合物の全量添加が完了し、その後、さらに85℃に加温して6時間反応させた。
重合転化率が97%になった時点で冷却し反応を停止し、重合体を含む混合物を得た。この重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行い、さらにその後冷却し、バインダー組成物とした。得られたバインダー組成物中の重合体は水溶性であり、粒子状重合体を形成しなかった。この水溶性重合体のゲル含有量を測定した。
また、個数平均粒子径は、重合体が粒子状を呈していないため測定することができなかった。
同様に、表面酸量および水相中の酸量は、重合体が水中で溶解してしまうため、全て水相中の酸量として換算されてしまい(すなわち
図1中のA2の値を特定することができず)、表面酸量を算出することができなかった。
この水溶性重合体を含むバインダー組成物をリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物に替えて使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例5)
リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物調製時にスチレンおよび1,3−ブタジエンの配合量を表1のように変更し、アクリル酸20部に替えてイタコン酸を1部使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造し、そして上述の方法で評価を行なった。結果を表1に示す。
【0101】
なお、表1においてSTはスチレンを、BDは1,3−ブタジエンを、2−HEAは2−ヒドロキシエチルアクリレートを、AAはアクリル酸を、IAはイタコン酸を、MAAはメタクリル酸を、BAはブチルアクリレートを、EAはエチルアクリレートを示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1より、実施例1〜8では、初期およびサイクル後の負極の膨らみが抑制され、集電体に対する負極合材層の結着強度並びにサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られることが分かる。
一方、表1より、比較例1、2および5では、表面酸量が小さく、初期およびサイクル後の負極の膨らみが抑制されず、そしてサイクル特性に劣っていることが分かる。また、比較例3では、表面酸量が大きく、特にサイクル後の負極の膨らみが抑制されず、そして集電体に対する負極合材層の結着強度並びにサイクル特性に劣っていることが分かる。さらに比較例4では、結着材として用いる重合体が粒子状を呈しておらず、初期およびサイクル後の負極の膨らみが抑制されず、そして集電体に対する負極合材層の結着強度並びにサイクル特性に劣っていることが分かる。
【0104】
なお、実施例1〜7より、粒子状重合体の表面酸量、水相中の酸量、および表面酸量/水相中の酸量を変更することで、集電体に対する負極合材層の結着強度、負極の耐膨らみ性(サイクル後)およびサイクル特性を向上させ得ることが分かる。