(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属−カルベン錯体化合物(10)における金属がモリブデンまたはタングステンであり、かつ、前記金属−カルベン錯体化合物が配位子[L]として、イミド配位子、および、酸素原子が二座配位した配位子を有する請求項1または2に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、本発明は金属触媒による含フッ素ジエン化合物の非環状ジエンメタセシス重合反応による含フッ素重合体の製造に関するものであり、従来技術と共通する一般的特徴については記載を省略することがある。
なお本明細書において、「式(X)で表される化合物」のことを、単に「化合物(X)」と称する場合がある。
また、本明細書において、一置換オレフィンとは、二重結合の一方の炭素原子に1つの水素原子と1つの有機基が結合したオレフィンを意味する。1,2−二置換オレフィンとは、二重結合の両方の炭素原子に一つずつ、同一又は異なる有機基が結合したオレフィンを意味する。
ペルハロゲン化アルキル基とは、アルキル基の水素原子が全てハロゲン原子で置換された基を意味する。ペルハロゲン化アルコキシ基とは、アルコキシ基の水素原子が全てハロゲン原子で置換された基を意味する。ペルハロゲン化アリール基及びペルハロゲン化アリールオキシ基についても同様である。
また(ペル)ハロゲン化アルキル基とは、ハロゲン化アルキル基とペルハロゲン化アルキル基とを合わせた総称で用いる。すなわち該基は1個以上のハロゲン原子を有するアルキル基である。(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基、及び(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基についても同様である。
アリール基とは、芳香族化合物において芳香環を形成する炭素原子の内いずれか1つの炭素原子に結合した1つの水素原子を取り去った残基に相当する一価の基を意味し、炭素環化合物から誘導されるアリール基と、ヘテロ環化合物から誘導されるヘテロアリール基とを合わせた総称で用いる。
炭化水素基の炭素数とは、ある炭化水素基全体に含まれる炭素原子の総数を意味し、該基が置換基を有さない場合は炭化水素基骨格を形成する炭素原子の数を、該基が置換基を有する場合は炭化水素基骨格を形成する炭素原子の数に置換基中の炭素原子の数を加えた総数を表す。
ヘテロ原子とは、炭素原子と水素原子以外の原子を意味し、好ましくは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる1種以上の原子であり、より好ましくは、酸素原子または窒素原子である。
【0017】
<非環状ジエンメタセシス重合反応>
本発明は含フッ素ジエン化合物をモノマーとした非環状の含フッ素重合体の製造方法に関するものであり、金属−カルベン錯体触媒の存在下、フッ素原子を含むジエン化合物(含フッ素ジエン化合物)を非環状ジエンメタセシス重合反応させることにより、含フッ素重合体を得ることができ、同時にエチレンまたはエチレン誘導体も生成する。
例えば、原料として下記式(44)’で表される含フッ素ジエン化合物を用いた場合、下記式(74)’で表される含フッ素重合体とエチレンまたはエチレン誘導体が生成する。
【0019】
本発明においては、化合物(11)、化合物(12A)、化合物(12B)、化合物(13A)、化合物(13B)、化合物(13C)、化合物(14A)、化合物(15A)、化合物(15B)、化合物(15C)、及び化合物(15D)からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属−カルベン錯体化合物の存在下に反応を行う。
金属−カルベン錯体化合物としては、入手容易性及び反応効率の観点から反応開始時には化合物(11)が好ましい。
【0020】
<オレフィンメタセシス反応活性を有する金属−カルベン錯体化合物(10)>
オレフィンメタセシス反応活性を有する金属−カルベン錯体化合物(10)は本発明に係る製造方法において触媒としての役割を果たすが、試薬として投入するもの及び反応中で生成するもの(触媒活性種)の両方を意味する。ここで、化合物(10)は反応条件下、配位子のいくつかが解離することで触媒活性を示すようになるものと、配位子の解離なしで触媒活性を示すものが知られているが、本発明ではいずれでもよく限定されない。また一般に、メタセシス重合は触媒へのオレフィンの配位と解離を繰り返しながら進行するため、反応中、触媒上にオレフィン以外の配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明確でない。したがって本明細書中、[L]は配位子の数や種類を特定するものではない。また、金属−カルベン錯体化合物(10)における金属はルテニウム、モリブデン、またはタングステンであることが好ましい。
金属−カルベン錯体化合物(10)としてはルテニウム−カルベン錯体、モリブデン−カルベン錯体、又はタングステン−カルベン錯体(以下、「金属−カルベン錯体」とも総称する。)が例示できる。その代表例として下記式(11)に示す化合物を用いて詳細に説明するが、化合物(11)の他に、後述する化合物(12A)、化合物(12B)、化合物(13A)、化合物(13B)、化合物(13C)、化合物(14A)、化合物(15A)、化合物(15B)、化合物(15C)、または化合物(15D)であってもよく、いずれの錯体化合物を用いた場合でも、化合物(11)を用いた際と同様の反応機構でメタセシス重合反応が進んでいくものと考えられる。
【0022】
本明細書において、式中の記号は以下の意味を表す。
[L]は配位子である。
Mはルテニウム、モリブデン又はタングステンである。
Zは、単結合、炭素数1〜25のアルキレン基、またはヘテロ原子を含む炭素数1〜25のアルキレン基であり、前記炭素数1〜25のアルキレン基及びヘテロ原子を含む炭素数1〜25のアルキレン基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1の置換基を有していてもよく、環状構造を有していても良い。
Rはフッ素原子以外の原子または有機基であり、複数存在するRは同一であっても異なっていてもよい。
X
10、X
11及びX
12はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、複数存在するX
10は同一でも異なっていてもよい。
A
1、A
2、A
8及びA
9はそれぞれ独立して、下記基(i)、基(ii)、基(iii)、及び基(iv)からなる群から選ばれる基である。A
1及びA
2は互いに結合して環を形成してもよい。A
8及びA
9は互いに結合して環を形成してもよい。ただし、A
1及びA
2の一方がハロゲン原子である場合、他方は基(i)、基(iii)、及び基(iv)からなる群から選ばれる基である。
基(i):水素原子。
基(ii):ハロゲン原子。
基(iii):炭素数1〜20の一価炭化水素基。
基(iv):ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基。
【0023】
以下具体的な化合物(11)について説明する。
化合物(11)におけるA
1及びA
2はそれぞれ、前記同義と同様である。すなわち化合物(11)におけるA
1及びA
2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、または、さらに、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基である。A
1及びA
2は互いに結合して環を形成してもよい。ただし化合物(11)としては、A
1及びA
2の両方がハロゲン原子である場合は除く。
【0024】
ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子が入手容易性の点から好ましい。
炭素数1〜20の一価炭化水素基としては炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のアリール基が好ましく、直鎖状又は分岐状でもよい。また、二価炭化水素基として環を形成していてもよい。
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基としては、好ましくは、当該原子を含む炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、当該原子を含む炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基が例示できる。該一価炭化水素基は、直鎖状又は分岐状でもよい。また、二価炭化水素基として環を形成していてもよい。これらの好ましい基は少なくとも一部の炭素原子にハロゲン原子が結合していてもよい。すなわち例えば(ペル)フルオロアルキル基、(ペル)フルオロアルコキシ基であってもよい。またこれらの好ましい基は、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。またこれらの好ましい基は、さらに、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む置換基を有していてもよい。該置換基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アミド基(カルボニルアミノ基)、カルバメート基(オキシカルボニルアミノ基)、ニトロ基、カルボキシル基、エステル基(アシルオキシ基またはアルコキシカルボニル基)、チオエーテル基、及びシリル基等が例示できる。これらの基は更にアルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。例えばアミノ基(−NH
2)はモノアルキルアミノ基(−NHR’)、モノアリールアミノ基(−NHAr)、ジアルキルアミノ基(−NR’
2)、またはジアリールアミノ基(−NAr
2)であってもよい。ただしR’は炭素数1〜12のアルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基であり、Arは炭素数5〜12のアリール基である。
これらのA
1及びA
2の組み合わせを有する化合物(11)としては、入手容易性の点で、下記式に示すものが好ましく例示できる。なお、下記式中、Cyとはシクロヘキシル基を意味する。
【0026】
本発明においては、金属カルベン錯体化合物の金属がルテニウムであることが好ましい。
具体的には、化合物(11)においてMがルテニウムの場合、下記式(11−A)で表すことができる。式(11)における配位子[L]は式(11−A)においてL
1、L
2、L
3、Z
1及びZ
2で表される。L
1、L
2、L
3、Z
1及びZ
2の位置に限定はなく、式(11−A)において互いに入れ替わっていてもよい。すなわち例えばZ
1及びZ
2はトランス位にあっても、シス位にあってもよい。
【0028】
式(11−A)中、L
1、L
2及びL
3はそれぞれ独立して、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子(中性の電子供与性配位子)である。具体的には、カルボニル基、アミン類、イミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、スルホキシド類、スルホン類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類、ヘテロ原子含有カルベン化合物等が挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、ピリジン類、ヘテロ原子含有カルベン化合物が好ましく、トリアルキルホスフィンやN−ヘテロ環状カルベン化合物がより好ましい。
ただし前記配位子の組み合わせによっては、立体的要因及び/又は電子的要因により、すべての配位子が中心金属に配位できず、結果としていくつかの配位座が空になる場合もある。例えば、L
1、L
2及びL
3としては下記組合せが挙げられる。
L
1:ヘテロ原子含有カルベン化合物、L
2:ホスフィン類、L
3:なし(空配位)。
L
1:ヘテロ原子含有カルベン化合物、L
2:ピリジン類、L
3:ピリジン類。
【0029】
式(11−A)中、Z
1及びZ
2はそれぞれ独立して、中心金属から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子(アニオン性配位子)である。具体的には、ハロゲン原子、水素原子、置換ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、炭素数が1〜20のアルキル基、炭素数が5〜20のアリール基、炭素数が1〜20の置換アルコキシ基、炭素数が5〜20の置換アリールオキシ基、炭素数が1〜20の置換カルボキシレート基、炭素数が6〜20の置換アリールカルボキシレート基、炭素数が1〜20の置換アルキルチオレート基、炭素数炭素数が6〜20の置換アリールチオレート基及びナイトレート基等が挙げられる。中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0030】
式(11−A)中、A
1及びA
2は式(11)におけるA
1及びA
2とそれぞれ同様である。
また、L
1、L
2、L
3、Z
1、Z
2、A
1及びA
2のうち2〜6個で互いに結合し、多座配位子を形成してもよい。
【0031】
上記触媒は一般的に「ルテニウム−カルベン錯体」と称されるものであり、例えばVougioukalakis,G.C.et al.,Chem.Rev.,2010,110,1746−1787.に記載されているルテニウム−カルベン錯体を利用することができる。また、例えばAldrich社やUmicore社から市販されているルテニウム−カルベン錯体を利用することができる。
【0032】
ルテニウム−カルベン錯体の具体例としては、ビス(トリフェニルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)−3−メチル−2−ブテニリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3−ビス(2−メチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3−ジシクロヘキシル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)[ビス(3−ブロモピリジン)]ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(2−イソプロポキシフェニルメチリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)[(トリシクロヘキシルホスホラニル)メチリデン]ジクロロルテニウムテトラフルオロボラート、UmicoreM2、UmicoreM51、UmicoreM52、UmicoreM71SIMes、UmicoreM71SIPr、UmicoreM73SIMes、UmicoreM73SIPr等が挙げられ、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(2−イソプロポキシフェニルメチリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)[(トリシクロヘキシルホスホラニル)メチリデン]ジクロロルテニウムテトラフルオロボラート、UmicoreM2、UmicoreM51、UmicoreM52、UmicoreM71SIMes、UmicoreM71SIPr、UmicoreM73SIMes、UmicoreM73SIPrが特に好ましい。なお上記錯体のうち、「Umicore」で始まる名称は、Umicore社の製品の商品名である。
なお、上記ルテニウム−カルベン錯体は、単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。さらに必要に応じてシリカゲルやアルミナ、ポリマー等の担体に担持して用いてもよい。
【0033】
化合物(11)においてMがモリブデン又はタングステンの場合、下記式(11−B)または式(11−C)で表すことができる。また化合物(11)としては、これらにさらに配位性溶媒(テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等)が配位していてもよい。
金属触媒の金属がモリブデンまたはタングステンである場合、金属触媒の配位子[L]としては、イミド配位子(R
1−N=M)を有することが好ましい。ただし、R
1としては、アルキル基、アリール基等が例示できる。またさらに金属触媒の配位子[L]としては酸素原子が二座配位した配位子を有することが好ましい。ただし酸素原子が二座配位した配位子とは、酸素原子を2個以上有する配位子において該酸素原子のうちの2個で配位している配位子である場合、および、酸素原子を有する単座配位子が2個配位している場合(この場合に単座配位子は同一であっても異なっていてもよい)の双方の場合を含む。
【0035】
式(11)における配位子[L]は式(11−B)において=NR
1、−R
4、−R
5で表される。=NR
1、−R
4、−R
5の位置に限定はなく、式(11−B)において互いに入れ替わっていてもよい。Mは、モリブデンまたはタングステンであり、R
1としては、アルキル基、アリール基等が例示できる。R
4、R
5としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、スルホネート基、アミノ基(アルキルアミノ基、η
1−ピロリド、η
5−ピロリド等)等が例示できる。R
4とR
5は連結して二座配位子となっていてもよい。
【0036】
また式(11−C)は、式(11−B)で表わされる化合物の金属−炭素二重結合部分に、オレフィン(C
2(R
6)
4)が環化付加([2+2] cycloaddition)して、メタラシクロブタン環を形成した化合物である。ただし4個のR
6は互いに同じでも異なっていてもよい一価の基であり、水素原子、ハロゲン原子、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基等が例示できる。式(11−C)で表わされる化合物は、式(11−B)で表わされる化合物と等価と考える。
【0037】
式(11−B)及び式(11−C)中、A
1及びA
2は式(11)におけるA
1及びA
2とそれぞれ同様である。
【0038】
上記触媒は一般的に「モリブデン−カルベン錯体」、「タングステン−カルベン錯体」と称されるものであり、例えばGrela,K.(Ed)Olefin Metathesis:Theory and Practice,Wiley,2014.に記載されているモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を利用することができる。また、例えばAldrich社やStrem社、Ximo社から市販されているモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を利用することができる。
なお、上記モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体は、単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。さらに必要に応じてシリカゲルやアルミナ、ポリマー等の担体に担持して用いてもよい。
【0039】
化合物(11−B)の具体例を下記に示す。なお、Meとはメチル基を、i−Prとはイソプロピル基を、t−Buとはターシャリーブチル基を、Phとはフェニル基を、それぞれ意味する。
【0042】
化合物(11−C)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0044】
<化合物(12)〜(15)>
化合物(12)〜(15)は、上記化合物(11)と同様に本発明に係る製造方法において触媒としての役割を果たすが、試薬として投入するもの及び反応中で生成するもの(触媒活性種)の両方を意味する。
【0045】
<含フッ素ジエン化合物>
本発明にかかる含フッ素重合体の製造方法において、下記式(44)〜式(47)で表される含フッ素ジエン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の含フッ素ジエン化合物を原料として用いる。
【0047】
上記式中の記号は先述した定義と同様であるが、Zは、単結合、炭素数1〜25のアルキレン基、またはヘテロ原子を含む炭素数1〜25のアルキレン基であり、前記炭素数1〜25のアルキレン基及びヘテロ原子を含む炭素数1〜25のアルキレン基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1の置換基を有していてもよく、環状構造を有していても良い。
また、A
11〜A
13、及びAf
11は下記で表される官能基である。
【0049】
上記式中、X
10、X
11及びX
12はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、A
8及びA
9はそれぞれ独立して、下記基(i)、基(ii)、基(iii)、及び基(iv)からなる群から選ばれる基である。A
8及びA
9は互いに結合して環を形成してもよい。Rはフッ素原子以外の原子または有機基を表し、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。
基(i):水素原子。
基(ii):ハロゲン原子。
基(iii):炭素数1〜20の一価炭化水素基。
基(iv):ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基。
【0050】
すなわち、化合物(44)〜(47)はそれぞれ以下に示す式(44)’〜(47)’で表される化合物である。
【0052】
Zは、単結合、炭素数1〜25のアルキレン基、またはヘテロ原子を含む炭素数1〜25のアルキレン基であり、前記炭素数1〜25のアルキレン基及びヘテロ原子を含む炭素数1〜25のアルキレン基は、さらに、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1の置換基を有していてもよく環状構造を有しても良い。
【0053】
Zは単結合、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基を有する炭素数1〜2および炭素数7〜20のアルキレン基、またはヘテロ原子を含む炭素数2および炭素数6〜20のアルキレン基であることが反応性の点から好ましい。
【0054】
X
10、X
11及びX
12はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または炭素数1〜5のアルキル基であるが、水素原子、フッ素原子、メチル基であることが反応性の点から好ましい。一分子内にX
11及びX
12の少なくともいずれか一方が複数存在する場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
Rはフッ素原子以外の原子または有機基を表し、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。フッ素原子以外の原子としては水素原子、フッ素原子以外のハロゲン原子等が挙げられ、中でも水素原子、メチル基が好ましい。
有機基としてはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基、(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基、(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基等が挙げられる。アルキル基、アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基及び(ペル)ハロゲン化アルコキシ基の炭素数は1〜12であることが好ましく、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基及び(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基の炭素数は5〜12が好ましい。
また、前記有機基はさらに、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む置換基を有していてもよい。前記置換基としては、具体的には、ニトリル基、カルボキシル基、エステル基(アシルオキシ基またはアルコキシカルボニル基)等が例示できる。なお該置換基を有する場合であっても、アルキル基、アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基及び(ペル)ハロゲン化アルコキシ基全体の炭素数は1〜12であり、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基及び(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基全体の炭素数は5〜20である。
【0056】
炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、またはプロピル基が入手容易性の点から好ましい。アルキル基鎖は直鎖状でも分岐状でもよい。また、水素原子がひとつ取れた二価の基として環を形成していてもよい。
【0057】
炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、またはプロポキシ基が入手容易性の点から好ましい。アルコキシ基鎖は直鎖状でも分岐状でもよい。また、水素原子がひとつ取れた二価の基として環を形成していてもよい。
【0058】
炭素数5〜12のアリール基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、具体的にはフェニル基が入手容易性の点から好ましい。
【0059】
炭素数5〜12のアリールオキシ基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、特に炭素数5〜12のアリールオキシ基が好ましい。具体的にはフェニルオキシ基が入手容易性の点から好ましい。
【0060】
炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、特に炭素数1〜8の(ペル)フルオロアルキル基が好ましい。具体的にはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、またはヘプタフルオロプロピル基が入手容易性の点から好ましい。アルキル基鎖は直鎖状でも分岐状でもよい。また、水素原子又はハロゲン原子がひとつ取れた二価の基として環を形成していてもよい。
【0061】
炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、特に炭素数1〜8の(ペル)フルオロアルコキシ基が好ましい。具体的にはトリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基、ペルフルオロ(メトキシメトキシ)基、またはペルフルオロ(プロポキシプロポキシ)基が好ましく、特にトリフルオロメトキシ基またはペルフルオロ(プロポキシプロポキシ)基が入手容易性の点から好ましい。アルコキシ基鎖は直鎖状でも分岐状でもよい。また、水素原子又はハロゲン原子がひとつ取れた二価の基として環を形成していてもよい。
【0062】
炭素数5〜12の(ペル)ハロゲン化アリール基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、特に炭素数5〜12の(ペル)フルオロアリール基が好ましい。具体的にはモノフルオロフェニル基、又はペンタフルオロフェニル基が好ましく、特にペンタフルオロフェニル基が入手容易性の点から好ましい。
【0063】
炭素数5〜12の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、特に炭素数5〜12の(ペル)フルオロアリールオキシ基が好ましい。具体的にはモノフルオロフェニルオキシ基またはペンタフルオロフェニルオキシ基が好ましく、特にペンタフルオロフェニルオキシ基が入手容易性の点から好ましい。
【0064】
A
8及びA
9はそれぞれ独立して、先述した基(i)、基(ii)、基(iii)、及び基(iv)からなる群から選ばれる基である。すなわちA
8及びA
9はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基である。
A
8及びA
9は互いに結合して環を形成してもよい。
【0065】
ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子が入手容易性の点から好ましい。
【0066】
炭素数1〜20の一価炭化水素基としては炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、または炭素数5〜20のアリールオキシ基が好ましく、特にメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、(2−エチル)ヘキシルオキシ基、またはドデシルオキシ基が入手容易性の点から好ましい。また、炭化水素基骨格としては直鎖状又は分岐状でもよく、又は水素原子がひとつ取れた二価炭化水素基として環を形成していてもよい。
【0067】
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基としては、好ましくは、当該原子を含む炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、当該原子を含む炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基が例示できる。これらの好ましい基は少なくとも一部の炭素原子にハロゲン原子が結合していてもよい。すなわち例えば(ペル)フルオロアルキル基、(ペル)フルオロアルコキシ基であってもよい。またこれらの好ましい基は、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。またこれらの好ましい基は、さらに、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、またはケイ素原子を有する置換基を有していてもよい。該置換基としては、アミノ基、ニトリル基、カルボキシル基、エステル基(アシルオキシ基またはアルコキシカルボニル基)、チオアルキル基、及びシリル基が例示できる。
【0068】
中でも、A
8及びA
9はそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、(2−エチル)ヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、アセチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロオクチル基であることが入手容易性の点から好ましい。
【0069】
化合物(44)〜化合物(47)における二重結合上の置換基の数に特に限定はないが、エチレン、一置換オレフィン、1,2−二置換オレフィンが高い反応性を有する点で好ましい。また二重結合上の幾何異性も特に限定はない。
【0070】
化合物(44)〜化合物(47)において、主鎖を構成する炭素原子は、ジエンの両端の炭素原子を除いた炭素数が2〜27であることが好ましく、炭素数2〜4または炭素数9〜22であることがより好ましい。主鎖にヘテロ原子を含む場合には、当該ヘテロ原子を含んだ原子の数が2〜27であることが好ましく、原子数2〜4または原子数9〜22であることがより好ましい。
上記範囲とすることにより、副反応として考えられる閉環メタセシス反応による生成物であるシクロオレフィンの環の歪みが大きくなることから、前記副反応が抑制され、本発明における非環状ジエンメタセシス重合反応が進行しやすくなる。
また、ジエンを構成する2つの二重結合の他に、分子内に複数の不飽和結合を有していてもよく、側鎖に複数の不飽和結合を有していてもよい。
【0071】
化合物(44)〜化合物(47)としては以下に示す化合物が挙げられる。下記式におけるZの定義及び好ましい基は、上述したものと同様である。
【0073】
化合物(44)〜化合物(47)として、より具体的には、以下に示す化合物が挙げられる。
【0075】
<含フッ素重合体>
先述した含フッ素ジエン化合物をメタセシス重合させることにより、含フッ素重合体が得られる。
化合物(44)’〜化合物(47)’を原料モノマーとして用いた場合、下記に示す繰り返し単位を有する重合体(74)〜重合体(77)とエチレンまたはエチレン誘導体がそれぞれ得られる。また、モノマーとして複数種の化合物を用いると、それらの共重合体が得られる。なお、上述したように、化合物(44)’〜化合物(47)’は化合物(44)〜化合物(47)とそれぞれ同じである。
【0077】
重合体(74)〜重合体(77)におけるZ、X
10、R及びnはいずれも化合物(44)〜化合物(47)におけるZ、X
10、R及びnとそれぞれ同義であり、好ましい例も同様である。
なお、前記化合物(44−1)をモノマーとしてメタセシス重合反応を行うと、下記に示す繰り返し単位を有する重合体(74−1)が得られる。同様に、前記化合物(44−2)、前記化合物(45−1)、前記化合物(46−1)、前記化合物(47−1)、前記化合物(47−2)を原料とすると下記に示す重合体(74−2)、重合体(75−1)、重合体(76−1)、重合体(77−1)、重合体(77−2)がそれぞれ得られる。
【0079】
本発明のメタセシス重合により得られる重合体のうち、ホモポリマーとしては、原料となるモノマーの入手容易性の点からペルフルオロジエン化合物が好ましい。
具体例として、前記化合物(44−2−1)、化合物(44−2−2)、化合物(44−2−3)、化合物(45−1−1)、化合物(46−1−1)、化合物(47−1−1)、化合物(47−2−1)、化合物(47−2−2)、化合物(44−2−3)、または化合物(47−2−4)をモノマーとしてメタセシス重合反応を行うと、それぞれ以下に示す繰り返し単位を有する重合体(74−2−1)、重合体(74−2−2)、重合体(74−2−3)、重合体(75−1−1)、重合体(76−1−1)、重合体(77−1−1)、重合体(77−2−1)、重合体(77−2−2)、重合体(77−2−3)、重合体(77−2−4)のホモポリマーがそれぞれ得られる。
【0081】
構造の異なる2種類以上のモノマーを原料としてメタセシス重合させた場合には共重合体が得られる。共重合体としては、交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれもが合成可能であり、原料であるモノマーの仕込み比や、重合条件によって所望の共重合体を得ることができる。
【0082】
共重合体としてはペルフルオロジエン化合物と炭化水素系ジエン化合物の共重合体が入手容易性の点から好ましい。
【0083】
重合体の分子量は1,000〜1,000,000が機械的物性、物理的物性の点から好ましい。前記分子量は重量平均分子量/数平均分子量であり、GPCを用いて重合体溶液の条件下で測定される。
また、重合体がホモポリマーである場合、式中nで表される繰り返し単位の数は2〜10000であることが機械的物性、物理的物性の点から好ましく、より好ましくは5〜6500であり、さらに好ましくは5〜3000である。共重合体である場合は、複数存在する繰り返し単位の総数が2〜10000であることが好ましく、より好ましくは5〜6500であり、さらに好ましくは5〜3000である。
【0084】
得られたポリマーは高耐熱性、低吸水性、高光線透過率(透明性)、高化学耐久性、高耐候性等といった特性を有し、これら諸特性のバランスにも優れることから、電気・電子材料、半導体材料、光学材料等の多種多様な分野に利用することができる。
【0085】
<製造方法>
本発明は非環状ジエンメタセシス重合反応により含フッ素ジエン化合物からその重合体を製造する方法に関するものであり、典型的には、非環状の含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体とを接触させることによってメタセシス重合反応を行い、含フッ素重合体を得るものである。
【0086】
原料となる含フッ素ジエン化合物は上述の式(44)〜式(47)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
目的物収率向上の点で、原料となる含フッ素ジエン化合物は脱気及び脱水されたものを用いることが好ましい。脱気操作について、特に制限はないが、凍結脱気等を行うことがある。脱水操作について、特に制限はないが、通常モレキュラーシーブ等と接触させる。原料となる含フッ素ジエン化合物について、前記脱気及び脱水操作は通常金属−カルベン錯体と接触させる前に行う。
また原料となる含フッ素ジエン化合物は微量の不純物(例えば過酸化物等)を含むことがあるので、目的物収率向上の点で精製してもよい。精製方法については特に制限はない。例えば文献(Armarego,W.L.F.et al.,Purification of Laboratory Chemicals(Sixth Edition),2009,Elsevier)に記載の方法に従って行うことができる。
【0087】
原料となる含フッ素ジエン化合物を反応容器に投入するが、2種以上の含フッ素ジエン化合物をモノマーとして用いる場合は、反応容器にそれらをあらかじめ混合してから投入しても、別々に投入しても構わない。
2種以上の含フッ素ジエン化合物をモノマーとして用いる場合、それらのモル比に特に限定はないが、通常基準となる含フッ素ジエン化合物1モルに対して、その他の含フッ素ジエン化合物を0.01〜100モル程度用い、好ましくは0.1〜10モル程度用いる。
【0088】
金属−カルベン錯体は試薬として投入しても、系内で発生させてもよい。
試薬として投入する場合、市販の金属−カルベン錯体をそのまま用いてもよく、あるいは市販試薬から公知の方法で合成した市販されていない金属−カルベン錯体を用いてもよい。
系内で発生させる場合、公知の方法で前駆体となる金属錯体から調製した金属−カルベン錯体を本発明に用いることができる。
【0089】
用いる金属−カルベン錯体の量としては、特に制限はないが、原料となる含フッ素ジエン化合物の内、基準となる含フッ素ジエン化合物1モルに対して、通常0.0001〜1モル程度用い、好ましくは0.001〜0.2モル程度用いる。
【0090】
用いる金属−カルベン錯体は、通常固体のまま反応容器に投入するが、溶媒に溶解又は懸濁させて投入してもよい。この時用いる溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない範囲で特に制限はなく、有機溶媒、含フッ素有機溶媒、イオン液体、水等を単独又は混合して用いることができる。なお、これらの溶媒分子中、一部又はすべての水素原子が重水素原子で置換されていてもよい。
また含フッ素ジエン化合物が液体である場合(加熱して液化する場合も含む)は、溶媒を用いないことが好ましい。この場合含フッ素ジエン化合物に金属−カルベン錯体化合物が溶解することが好ましい。
【0091】
有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o−,m−,p−キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒等を使用することができる。含フッ素有機溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロベンゼン、m−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α−トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等を使用することができる。イオン液体としては、例えば、各種ピリジニウム塩、各種イミダゾリウム塩等を用いることができる。上記溶媒の中でも、金属−カルベン錯体の溶解性等の点で、ベンゼン、トルエン、o−,m−,p−キシレン、メシチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF、ヘキサフルオロベンゼン、m−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α−トリフルオロメチルベンゼン等、及びこれらの混合物が好ましい。
なお、目的物収率向上の点で、前記溶媒は脱気及び脱水されたものを用いることが好ましい。脱気操作について、特に制限はないが、凍結脱気等を行うことがある。脱水操作について、特に制限はないが、通常モレキュラーシーブ等と接触させる。前記脱気及び脱水操作は通常金属−カルベン錯体と接触させる前に行う。
【0092】
含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体を接触させる雰囲気としては、特に限定はないが、触媒の長寿命化の点で、不活性気体雰囲気下が好ましく、中でも窒素又はアルゴン雰囲気下が好ましい。ただし、例えばペルフルオロ−1,3−ブタジエン等、反応条件において気体となる含フッ素ジエン化合物を原料として用いる場合、これらの気体雰囲気下で行うことができる。
含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体を接触させる相としては、特に制限はないが、反応速度の点で、通常は液相が用いられる。原料となる含フッ素ジエン化合物が反応条件下で気体の場合、液相で実施するのが難しいため、気−液二相で実施することもできる。なお、液相で実施する場合には溶媒を用いることができる。このとき用いる溶媒としては、上記、金属−カルベン錯体の溶解又は懸濁に用いた溶媒と同様のものを利用することができる。なお、原料として用いる含フッ素ジエン化合物に反応条件下で液体であるものが含まれる場合、無溶媒で実施できることがある。
【0093】
含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体を接触させる容器としては、反応に悪影響を与えない範囲で特に制限はなく、例えば金属製容器又はガラス製容器等を用いることができる。なお、本発明にかかるメタセシス重合反応は反応条件下、気体状態の含フッ素ジエン化合物を扱うことがあるので、高気密が可能な耐圧容器が好ましい。
【0094】
含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体を接触させる温度としては、特に制限はないが、通常−100〜200℃の範囲で実施することができ、反応速度の点で、0〜150℃が好ましい。なお、低温では反応が開始せず、高温では錯体の速やかな分解が生じることがあるので適宜温度の下限と上限を設定する必要がある。通常、用いる溶媒の沸点以下の温度で実施される。
含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体を接触させる時間としては、特に制限はないが、通常1分〜48時間の範囲で実施される。
含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体を接触させる圧力としては、特に制限はないが、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。通常0.001〜10MPa程度、好ましくは0.01〜1MPa程度である。
モノマーの仕込み比や、上記反応温度や反応時間、反応圧力等の反応条件を適宜調整することで、得られる重合体の分子量を目的のものとすることができる。さらに、重合後の後処理によって、得られた含フッ素重合体の末端を所望の基にすることも可能である。
【0095】
含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体を接触させる際に、反応に悪影響を及ぼさない範囲で無機塩や有機化合物、金属錯体等を共存させてもよい。また、反応に悪影響を及ぼさない範囲で、含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体の混合物を攪拌してもよい。このとき、攪拌の方法としては、メカニカルスターラーやマグネティックスターラー等を用いることができる。
【0096】
含フッ素ジエン化合物と金属−カルベン錯体を接触させて反応を終えた後、目的物である重合体は公知の方法で単離してもよい。単離方法としては、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィー、リサイクル分取HPLC等が挙げられ、必要に応じてこれらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。
【0097】
本反応で得られた目的物は通常の高分子化合物と同様の公知の方法で同定することができる。例えば、
1H−、
19F−、
13C−NMR、GPC、静的光散乱、SIMSやGC−MS等が挙げられ、必要に応じてこれらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。
【0098】
また、2種以上のモノマーを用いて共重合体とすることで、ホモポリマーに比べて多様な性質を付与することも可能である。
得られた高分子化合物が共重合体である場合、その共重合体を構成する2種以上の単位構造の比はモノマーの仕込み比に依存するが、通常基準となる含フッ素ジエン化合物由来の繰り返し単位数を1とすると、その他の含フッ素ジエン化合物由来の繰り返し単位数は0.01〜100程度であり、好ましくは0.1〜10程度である。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<市販試薬>
本実施例において、触媒は、特に記載しない場合においては、市販品をそのまま反応に用いた。溶媒(m−キシレン−d
10、o−ジクロロベンゼン−d
4)及び内部標準物質(p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)は、市販品をあらかじめ凍結脱気したあと、モレキュラーシーブ4Aで乾燥してから反応に用いた。
<評価方法>
本実施例において、合成した化合物の構造は日本電子株式会社製の核磁気共鳴装置(JNM−AL300)により
1H−NMR、
19F−NMR測定を行うことで同定した。また、分子量は株式会社島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS−QP2010Ultra)を用いて、電子イオン化法(EI)により求めた。
【0100】
<実施例1>
第2世代グラブス触媒によるペルフルオロ−1,3−ブタジエンのメタセシス重合反応
窒素雰囲気下、第2世代グラブス触媒(10mol%、0.012mmol)、ペルフルオロ−1,3−ブタジエン(CF
2=CF−CF=CF
2、0.12mmol、19.5mg)及びo−ジクロロベンゼン−d
4(0.6mL)をNMR測定管の中に量り入れた。NMR管を180℃で加熱し、その温度で1時間反応させた。反応終了後、NMR及びGC−MSを測定して所期の反応の進行を確認した。
【0101】
【化20】
【0102】
<実施例2>
UmicoreM73SIPr触媒による3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロ−1,9−デカジエンのメタセシス重合反応
窒素雰囲気下、UmicoreM73SIPr触媒(50mol%、0.05mmol)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロ−1,9−デカジエン(CH
2=CH−(CF
2)
6−CH=CH
2、0.10mmol、0.024mL)及びm−キシレン−d
10(0.6mL)をNMR測定管の中に量り入れた。NMR管を60℃まで加熱し1時間、次いで100℃まで加熱し1時間、最後に140℃まで加熱しその温度で1時間反応させた。反応終了後、NMR及びGC−MSを測定して所期の反応の進行を確認した。
【0103】
【化21】
【0104】
<実施例3〜6>
モリブデン触媒によるペルフルオロ−1,3−ブタジエンのメタセシス重合反応
実施例1の第2世代グラブス触媒を、下式で示される公知のモリブデン触媒D〜Gに変更して、同様に反応を行い、実施例1と同じ反応生成物を得る。
【0105】
【表1】
【0106】
<実施例7>
タングステン触媒による3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロ−1,9−デカジエンのメタセシス重合反応
実施例1の第2世代グラブス触媒を、下式で示される公知のタングステン触媒Hに変更して、同様に反応を行い、実施例1と同じ反応生成物を得る。
【0107】
【表2】
【0108】
<実施例8〜11>
モリブデン触媒による3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロ−1,9−デカジエンのメタセシス重合反応
実施例2のUmicoreM73SIPr触媒を前述のモリブデン触媒D〜Gに変更して、同様に反応を行い、実施例2と同じ反応生成物を得る。
【0109】
<実施例12>
タングステン触媒による3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロ−1,9−デカジエンのメタセシス重合反応
実施例2のUmicoreM73SIPr触媒を前述のタングステン触媒Hに変更して、同様に反応を行い、実施例2と同じ反応生成物を得る。
【0110】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2015年2月9日出願の日本特許出願(特願2015−023409)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。