(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコン原料が投入される石英ルツボと、前記石英ルツボ中のシリコン単結晶を溶融するヒーターと、前記石英ルツボの上部に配置される熱遮蔽体とを備えた引き上げ装置を用い、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン原料の溶融時に、前記石英ルツボ中のシリコン融液の液面と、前記熱遮蔽体の下端との距離を、86mm以上、132mm以下に維持した状態で前記シリコン原料の溶融を行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶中のCsは、デバイス工程においてCiとなり、Oiと結合してCiOi欠陥を形成する。CiOi欠陥は、デバイス不良を引き起こす原因となる。
ここで、結晶中の炭素濃度は、炉内のヒーター、黒鉛ルツボ等の高温炭素部材から原料融液中に混入するCOの汚染速度と、原料融液からのCOの蒸発速度を制御することによって低減することが知られている。なお、高温炭素部材からのCO(gas)は、下記反応式に基づいて発生する。
SiO(gas)+2C(solid)→CO(gas)+SiC(solid)
【0003】
このため、特許文献1には、原料溶融時からシリコン単結晶の引き上げ開始時までの黒鉛ルツボの上端位置が、ヒーターの上端から上方に5mm以上、95mm以下になるように制御し、かつ、シリコン単結晶の原料溶融時から引き上げ終了時まで、輻射シールド下端と融液表面との隙間の排気流路の排気断面積が、内筒と外筒とによって形成される排気流路の断面積未満となるように制御する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術では、黒鉛ルツボとヒーターの相対位置は、ホットゾーンに固有のものであり、最適な範囲がホットゾーン毎に異なる。このため、結晶中の炭素濃度を低減する最適な範囲を一義的に決定することができないという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、シリコン単結晶中の炭素濃度を、確実に低減することのできるシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シリコン単結晶中の炭素濃度に影響を与える可能性のある制御因子を複数設定し、これらについて実験計画法に基づいて要因分析を行った。この結果、本発明者らは、シリコン融液面と、シリコン融液面上に配置される遮蔽板との距離を制御することにより、確実にシリコン単結晶中の炭素濃度を低減できることを知見した。
【0008】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、シリコン原料が投入される石英ルツボと、前記石英ルツボ中のシリコン単結晶を溶融するヒーターと、前記石英ルツボの上部に配置され
る熱遮蔽体とを備えた引き上げ装置を用い、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン原料の溶融時に、前記石英ルツボ中のシリコン融液の液面と、前記熱遮蔽体の下端との距離を、
86mm以上、132mm以下に維持した状態で前記シリコン原料の溶融を行うことを特徴とする
。
本発明では、前記石英ルツボ中のシリコン融液の液面と、前記熱遮蔽体の下端との距離
を、100mm以上、125mm以下に維持するのが好ましい。
【0009】
この発明によれば、シリコン原料の溶融工程において、シリコン融液の液面および熱遮蔽体との距離を前記の範囲に維持する。これにより、融液表面に存在するCO(gas)を効率的に排除することができるので、引き上げられたシリコン単結晶の炭素濃度を確実に低減することができる。
【0010】
本発明では、前記石英ルツボ中のシリコン融液の液面と、前記熱遮蔽体の下端との距離は、前記石英ルツボのルツボ高さと、前記石英ルツボの上端および前記ヒーターの上端位置との距離と、前記石英ルツボ内のシリコン融液の液面および前記熱遮蔽体の下端との距離と、前記石英ルツボ内に供給されるアルゴンガスの流量とを制御因子として、実験計画法により求められるのが好ましい。
この発明によれば、CO(gas)のシリコン融液への混入を低減することのできる複数の制御因子の中から、最も効果の高い制御因子を、少ない数の実験数で見出すことができるため、効率的に制御すべき制御因子を取得することができる。
【0011】
本発明では、シリコン原料の溶融は、シリコン原料を前記石英ルツボ中に投入して溶融させた後、シリコン溶融液面に、吊り下げられたロッド状のシリコン原料を順次着液させて行うのが好ましい。
この発明によれば、前述したシリコン融液の液面と熱遮蔽体の下端との距離を維持した状態で、投入可能な少量のシリコン原料を溶融させ、その後、ロッド状のシリコン原料を吊り下げた状態で着液させて溶融させる。したがって、シリコン原料の溶融中、シリコン融液の液面と、熱遮蔽体の下端との距離を維持した状態でロッド状のシリコン原料を投入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の引き上げ装置の構造を示す模式図。
【
図2】前記実施形態における実験計画法の制御因子を説明するための模式図。
【
図3】前記実施形態における制御因子とシリコン単結晶中の炭素濃度の変化を示すグラフ。
【
図4】前記実施形態におけるシリコン融液の液面および熱遮蔽体の下端の距離とシリコン融液中の炭素濃度の関係を示すグラフ。
【
図5】前記実施形態におけるシリコン融液の液面および熱遮蔽体の下端の距離が大きい場合のガス流れの状態を表す模式図。
【
図6】前記実施形態におけるシリコン融液の液面および熱遮蔽体の下端の距離が小さい場合のガス流れの状態を表す模式図。
【
図7】前記実施形態におけるシリコン融液の液面および熱遮蔽体の下端の距離が適切な場合のガス流れの状態を表す模式図。
【
図8】前記実施形態におけるロッド状のシリコン原料の吊り下げ治具の構造を示す側面図。
【
図9】前記実施形態におけるロッド状のシリコン原料を吊り下げた状態でシリコン融液に着液させることを説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1]シリコン単結晶の引き上げ装置1の構造
図1には、本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法を適用できるシリコン単結晶の引き上げ装置1の構造の一例を表す模式図が示されている。引き上げ装置1は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶10を引き上げる装置であり、外郭を構成するチャンバ2と、チャンバ2の中心部に配置されるルツボ3とを備える。
ルツボ3は、内側の石英ルツボ3Aと、外側の黒鉛ルツボ3Bとから構成される二重構造であり、回転および昇降が可能な支持軸4の上端部に固定されている。
【0014】
ルツボ3の外側には、ルツボ3を囲む抵抗加熱式のヒーター5が設けられ、その外側には、チャンバ2の内面に沿って断熱材6が設けられている。
ルツボ3の上方には、支持軸4と同軸上で逆方向または同一方向に所定の速度で回転するワイヤなどの引き上げ軸7が設けられている。この引き上げ軸7の下端には種結晶8が取り付けられている。
【0015】
チャンバ2内には、筒状の熱遮蔽体12が配置されている。
熱遮蔽体12は、育成中のシリコン単結晶10に対して、ルツボ3内のシリコン融液9やヒーター5やルツボ3の側壁からの高温の輻射熱を遮断するとともに、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、外部への熱の拡散を抑制し、単結晶中心部および単結晶外周部の引き上げ軸方向の温度勾配を制御する役割を担う。
また、熱遮蔽体12は、シリコン融液9からの蒸発部を炉上方から導入した不活性ガスにより、炉外に排気する整流筒としての機能もある。
【0016】
チャンバ2の上部には、アルゴンガス(以下、Arガスと称す)などの不活性ガスをチャンバ2内に導入するガス導入口13が設けられている。チャンバ2の下部には、図示しない真空ポンプの駆動によりチャンバ2内の気体を吸引して排出する排気口14が設けられている。
ガス導入口13からチャンバ2内に導入された不活性ガスは、育成中のシリコン単結晶10と熱遮蔽体12との間を下降し、熱遮蔽体12の下端とシリコン融液9の液面との隙間を経た後、熱遮蔽体12の外側、さらにルツボ3の外側に向けて流れ、その後にルツボ3の外側を下降し、排気口14から排出される。
【0017】
このような引き上げ装置1を用いてシリコン単結晶10を製造する際、チャンバ2内を減圧下の不活性ガス雰囲気に維持した状態で、ルツボ3に充填した多結晶シリコンなどの固形原料をヒーター5の加熱により溶融させ、シリコン融液9を形成する。ルツボ3内にシリコン融液9が形成されると、引き上げ軸7を下降させて種結晶8をシリコン融液9に浸漬し、ルツボ3および引き上げ軸7を所定の方向に回転させながら、引き上げ軸7を徐々に引き上げ、これにより種結晶8に連なったシリコン単結晶10を育成する。
【0018】
[2]シリコン融液9の液面と、熱遮蔽体12の下端との距離Gapの特定
[2-1]実験計画法による制御因子の特定
まず、本発明者らは、
図2(A)、(B)に示すように、黒鉛ルツボ3Bの上端位置に対する石英ルツボ3Aの上端位置の高さとなるルツボ高さ、黒鉛ルツボ3Bおよびヒーター5の上端位置の距離CP、石英ルツボ3A内に供給されるArガスの流量、および石英ルツボ3A内のシリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端の距離Gapを制御因子として、実験計画法により、どの制御因子がシリコン原料の溶融中のシリコン融液9内のカーボン濃度に影響を及ぼすかの検討を行った。各制御因子と、各制御因子の水準を表1に示す。なお、シリコン融液9の深さは自由に設定することができるようにして、CPおよびGapは独立して変化させた。また、炉内圧は、4000Pa(30Torrを換算した値)一定とした。
【0020】
実験計画法による要因分析の結果により、
図3に示すように、ルツボ高さ、CP、Arガス流量については、水準を変更しても大きな変化は認められず、シリコン融液9の内部のカーボン濃度に大きな影響を与えるものではないことが確認された。
一方、石英ルツボ3A内のシリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端の距離Gapについては、Gap=100mm〜120mmの範囲でシリコン融液9の内部のカーボン濃度が大きく低減していることが確認された。
すなわち、シリコン融液9の内部のカーボン濃度は、石英ルツボ3A内のシリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端の距離Gapの影響を受けることが確認された。
【0021】
[2-2]シミュレーションによる最適範囲の特定
次に、本発明者らは、STR社の熱流動解析プログラムCGSimを用いて、石英ルツボ3A内のシリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端の距離Gapを変更し、その際の化学反応モデル、およびガス流れについて、シミュレーションを行った。結果を表2および
図4に示す。
【0023】
表2および
図4からわかるように、石英ルツボ3A内のシリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端の距離Gapが、86mm以上、132mm以下の範囲で、シリコン融液9の内部のカーボン濃度が、著しく低減していることが確認された。特に、100mm以上、125mm以下の範囲では、カーボン濃度の低減の効果が著しい。
【0024】
距離Gap=187mmにおけるガス流れを確認してみると、
図5に示すようなガス流れを呈していた。シリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端が離れている場合、シリコン融液9上のArガスの流速が低下し、シリコン融液9上のCOガスの排出がされにくくなり、シリコン融液9内のカーボン濃度が上昇してしまう。なお、
図5から
図7において、線で繋がれた丸は、ガス流れを模式的に表したものである。
距離Gapを大きくすると、排気効果が弱まりシリコン融液9の上方に渦が発生する。この渦が滞留すると、渦でのCOガスが高濃度となり、拡散によりシリコン融液9へのCOガス混入量が増加する。
距離Gap=67mmにおけるガス流れを確認してみると、
図6に示すようなガス流れを呈していた。シリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端が接近している場合、熱遮蔽体12の下端から発生するCOガスによって、シリコン融液9内のカーボン濃度が上昇してしまう。
距離Gapを小さくすると、熱遮蔽体12からシリコン融液9へのCOガス混入量が増加する。
【0025】
距離Gap=122mmにおけるガス流れを確認してみると、
図7に示すようなガス流れを呈していた。シリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端の間の距離が適切に設定されているため、シリコン融液9上のArガスの流速が低下することなく、シリコン融液9上のCOガスを適切に排出することができ、熱遮蔽体12の下端から発生するCOガスがシリコン融液9内に浸透することも少ない。
【0026】
[3]シリコン原料の溶融方法
以上のシミュレーション結果から、シリコン原料の溶融時には、シリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の距離Gapを86mm以上、132mm以下とするのが好ましいことがわかった。
しかしながら、一般に石英ルツボ3A内へのシリコン原料の投入は、シリコンチャンクを石英ルツボ3A内に投入して行われる。この際、熱遮蔽体12を上昇させる必要があるため、シリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の距離Gapを上記範囲に維持することができない。
【0027】
そこで、本実施形態では、まず、シリコン原料の溶融工程において、シリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の距離Gapを上記範囲に維持した状態で投入できる量のシリコン原料を投入し、これを溶融させた後、吊り下げられたロッド状のシリコン原料を、シリコン融液9の液面に着液させることによりシリコン融液9の量を増加していく。
吊り下げ治具20は、
図8に示すように、ボックス金物21、ねじ切り丸棒22、吊り下げプレート23、ナット24、一対のフック25、および幅調整プレート26を備える。
【0028】
ボックス金物21は、有底の箱状体から構成され、底部中央には、孔21Aが形成されている。孔21Aには、ねじ切り丸棒22が挿通されている。
ねじ切り丸棒22は、外周に雄ねじ溝が形成された棒状体から構成され、孔21Aに挿通された部分にナット22Aが螺合され、ボックス金物21の下面から下方に垂下する。
ねじ切り丸棒22の下端には、吊り下げプレート23が挿通され、さらにその下部には、ナット24が螺合している。
吊り下げプレート23には、端部に複数の孔23Aが形成されており、それぞれの孔23Aには、フック25の基端部が挿通されている。
【0029】
一対のフック25のそれぞれは、上端部がボルト形状に拡径しており、吊り下げプレート23の孔23Aに挿通された状態で吊り下げプレート23に係止されている。一対のフック25の先端は、水平方向に屈曲しており、先端に形成される係止爪25Aが、互いに向かい合うように配置される。
幅調整プレート26は、一対のフック25の中間部分に挿通されている。フック25が挿通される孔26Aは、一対のフック25の向き合う方向に延びる長孔として形成されている。
【0030】
このような吊り下げ治具20は、ナット24を回転させて上方に引き上げると、吊り下げプレート23が引き上げられ、これに伴い、フック25も上方に移動する。フック25が上方に移動すると、相対的に幅調整プレート26がフック25の下方側に移動し、不一対のフック25は互いに接近して、それぞれの係止爪25Aの間隔が狭くなる。これにより、ロッド状シリコン原料Srd(
図9参照)を吊り下げることが可能となる。
【0031】
シリコン溶融時におけるシリコン原料は、まず、熱遮蔽体12の引き上げ用の開口から少量のチャンクのシリコンを投入できる量だけ投入し、シリコン原料の溶融を開始する。
シリコン原料が溶融したら、
図9に示すように、ロッド状シリコン原料Srdを吊り下げ治具20で挟み込み、吊り下げた状態で、熱遮蔽体12のシリコン単結晶10の引き上げ用開口から下方に移動させ、シリコン融液9の液面に着液させる。そして、この操作を、順次繰り返し、引き上げに必要なシリコン融液9の量を溶融させる。
【0032】
この際、シリコン融液9の液面および熱遮蔽体12の下端の距離Gapは、86mm以上、132mm以下を維持する。なお、シリコン融液9の液面位置を計測する方法としては、たとえば、特許第4784401号公報に開示された融液の液面監視装置を用いて計測する方法を採用することができる。
これにより、シリコン融液9中にCOガスが混入しにくい状態でシリコン原料の溶融を行うことができるため、引き上げられたシリコン単結晶10の内部の炭素濃度を低減することができる。