特許第6593433号(P6593433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6593433フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593433
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/28 20060101AFI20191010BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20191010BHJP
   C07C 23/30 20060101ALI20191010BHJP
   C07C 21/20 20060101ALI20191010BHJP
   C07C 21/185 20060101ALI20191010BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C03C17/28
   C07C21/18
   C07C23/30
   C07C21/20
   C07C21/185
   C08J7/12
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-503651(P2017-503651)
(86)(22)【出願日】2016年2月29日
(86)【国際出願番号】JP2016056122
(87)【国際公開番号】WO2016140201
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-41642(P2015-41642)
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼平 祐介
(72)【発明者】
【氏名】上牟田 大輔
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/046699(WO,A1)
【文献】 特表2002−517372(JP,A)
【文献】 特開平4−363386(JP,A)
【文献】 特開2003−64348(JP,A)
【文献】 特開平4−326965(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/129600(WO,A1)
【文献】 特表2004−510699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00−17/44
C07C 21/18
C07C 21/185
C07F 7/18
C07B 61/00
C23C 18/12
C08J 7/00−7/18
C08G 2/00−101/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭素二重結合を含む有機基が導入された基材表面において、オレフィンメタセシス反応活性を有する金属−カルベン錯体化合物(10)の存在下、前記炭素−炭素二重結合を下記式(21)で表されるオレフィン化合物とメタセシス反応させることにより、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を製造する方法。
【化1】
ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
はフッ素原子、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルキル基、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルコキシ基、エーテル性酸素原子を含む炭素数1〜200の(ペル)フルオロアルキル基、及びエーテル性酸素原子を含む炭素数2〜200の(ペル)フルオロアルコキシ基からなる群から選ばれる基である。
11〜X13はそれぞれ独立して、下記基(i)、基(ii)、基(v)及び基(vi)からなる群から選ばれる基である。X12及びX13は互いに結合して環を形成してもよい。
基(i):水素原子。
基(ii):ハロゲン原子。
基(v):炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、及び炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基からなる群から選ばれる基。
基(vi):さらに、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む前記基(v)。
【請求項2】
前記基材がガラス又は樹脂である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記基材表面に炭素−炭素二重結合導入剤を反応させて基材表面に炭素−炭素二重結合を導入する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記炭素−炭素二重結合導入剤が、分子内に炭素−炭素二重結合を有するシランカップリング剤である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記基材が樹脂フィルムであり、かつ、前記炭素−炭素二重結合導入剤が、多官能(メタ)アクリレートである請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属−カルベン錯体化合物(10)の金属がルテニウムである請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属−カルベン錯体化合物(10)の金属がモリブデンまたはタングステンであり、かつ、前記金属−カルベン錯体化合物(10)が配位子[L]として、イミド配位子、および、酸素原子が二座配位した配位子を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記式(21)で表わされるオレフィン化合物が、1,1−ジフルオロオレフィンである請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記式(21)で表わされるオレフィン化合物のRがエーテル性酸素原子を含む炭素数1〜200の(ペル)フルオロアルキル基、及びエーテル性酸素原子を含む炭素数2〜200の(ペル)フルオロアルコキシ基からなる群から選ばれる基である請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記メタセシス反応の温度が0〜150℃である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記メタセシス反応に溶媒を用いない請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタセシス反応によりフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を製造する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素原子を含む有機基を表面層に有する基材は、ディスプレイやメガネ、タッチパネルなど、撥水、撥油、防汚性が求められる用途において産業上有用である。ここでフッ素原子を含む有機基は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示すため、基材の表面処理剤に好適に用いられる。該表面処理剤によって基材の表面に撥水撥油性を付与すると、基材の表面の汚れを拭き取りやすくなり、汚れの除去性が向上する。
【0003】
基材の表面に含フッ素化合物を導入する方法としては、含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤を用いる方法などが知られている。特許文献1には含フッ素シラン化合物として、分子内に2つ以上のケイ素原子を有する化合物を用いる表面処理剤が開示されている。
【0004】
一方、金属触媒による二重結合組み換え反応であるオレフィンメタセシス反応(以下、単に、「オレフィンメタセシス」又は「メタセシス」ということもある。)は多彩な置換基を有するオレフィンの製造方法として広く利用されている。しかし、電子求引性置換基を有する電子不足オレフィンは反応性が低いため、オレフィンメタセシスに利用することは容易ではない。例えば非特許文献1では、種々の置換基を有するオレフィンの反応性が調べられており、電子不足オレフィンの反応性が低いと記載されている。実際、フッ素原子や塩素原子等、ハロゲン原子を有するオレフィンも電子不足オレフィンであるため、オレフィンメタセシスに用いた報告はほとんどない。例えば、非特許文献2において、ルテニウム錯体とフッ化ビニリデン(すなわち、1,1−ジフルオロエチレン)のオレフィンメタセシスが検討されたが、期待した生成物すなわちエチレン及びテトラフルオロエチレンは全く得られなかったと述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/069592号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chatterjee,A.K.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2003,125,11360−11370.
【非特許文献2】Trnka,T.et al.,Angew.Chem.Int.Ed.,2001,40,3441−3444.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤は長期の使用による性能の低下が懸念され、例えば摩擦耐久性が充分でない等改善の余地があった。そのため、含フッ素シラン化合物ではない、工業的に入手容易な別の含フッ素化合物を用いてフッ素原子を含む有機基を表面層に有する基材を、温和な条件下で簡便かつ効率的に製造できれば、既存手法と比較して耐久性の高い基材となり得る。
一方、ハロゲン原子を有するオレフィンをオレフィンメタセシスに利用することは実用的ではない。中でも、テトラフルオロエチレンやヘキサフルオロプロピレンは、工業的に入手容易で事業化の観点から有用な化合物であるが、極めて電子不足なオレフィンであるだけでなく、その取扱いの難しさ等のため、オレフィンメタセシスに利用した報告はこれまでなかった。
【0008】
そこで本発明では、含フッ素シラン化合物に代えて、工業的に入手容易な別の含フッ素化合物を原料としてメタセシス反応させることにより、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を、温和な条件下で簡便かつ効率的に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研鑽を積んだ結果、炭素−炭素二重結合を含む有機基が導入された基材表面において、金属−カルベン錯体化合物の存在下、フッ素原子を含むオレフィン(含フッ素オレフィン)と温和な条件下でメタセシス反応をさせることにより、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は下記<1>〜<11>に関するものである。
<1>炭素−炭素二重結合を含む有機基が導入された基材表面において、オレフィンメタセシス反応活性を有する金属−カルベン錯体化合物(10)の存在下、前記炭素−炭素二重結合を下記式(21)で表されるオレフィン化合物とメタセシス反応させることにより、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を製造する方法。
【0011】
【化1】
【0012】
ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
はフッ素原子、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルキル基、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルコキシ基、エーテル性酸素原子を含む炭素数1〜200の(ペル)フルオロアルキル基、及びエーテル性酸素原子を含む炭素数2〜200の(ペル)フルオロアルコキシ基からなる群から選ばれる基である。
11〜X13はそれぞれ独立して、下記基(i)、基(ii)、基(v)及び基(vi)からなる群から選ばれる基である。X12及びX13は互いに結合して環を形成してもよい。
基(i):水素原子。
基(ii):ハロゲン原子。
基(v):炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、及び炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基からなる群から選ばれる基。
基(vi):さらに、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む前記基(v)。
<2>前記基材がガラス又は樹脂である前記<1>に記載製造方法。
<3>前記基材表面に炭素−炭素二重結合導入剤を反応させて基材表面に炭素−炭素二重結合を導入する前記<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>前記炭素−炭素二重結合導入剤が、分子内に炭素−炭素二重結合を有するシランカップリング剤である前記<3>に記載の製造方法。
<5>前記基材が樹脂フィルムであり、かつ、前記炭素−炭素二重結合導入剤が、多官能(メタ)アクリレートである前記<3>または<4>に記載の製造方法。
<6>前記金属−カルベン錯体化合物(10)の金属がルテニウムである前記<1>〜<5>のいずれか一に記載の製造方法。
<7>前記金属−カルベン錯体化合物(10)の金属がモリブデンまたはタングステンであり、かつ、前記金属−カルベン錯体化合物(10)が配位子[L]として、イミド配位子、および、酸素原子が二座配位した配位子を有する前記<1>〜<5>のいずれか一に記載の製造方法。
<8>前記式(21)で表わされるオレフィン化合物が、1,1−ジフルオロオレフィンである前記<1>〜<7>のいずれか一に記載の製造方法。
<9>前記式(21)で表わされるオレフィン化合物のRがエーテル性酸素原子を含む炭素数1〜200の(ペル)フルオロアルキル基、及びエーテル性酸素原子を含む炭素数2〜200の(ペル)フルオロアルコキシ基からなる群から選ばれる基である前記<1>〜<8>のいずれか一に記載の製造方法。
<10>前記メタセシス反応の温度が0〜150℃である、前記<1>〜<9>のいずれか一に記載の製造方法。
<11>前記メタセシス反応に溶媒を用いない前記<1>〜<10>のいずれか一に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る基材を製造する方法によれば、含フッ素オレフィンを用いたメタセシス反応によって簡便かつ効率的にフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を製造することができ、当該基材は従来の基材と比較して耐久性の高い基材となり得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、本発明は金属触媒によるメタセシスに関するものであり、従来技術と共通する一般的特徴については記載を省略することがある。
なお本明細書において、「式(X)で表される化合物」のことを、単に「化合物(X)」と称する場合がある。
また、本明細書において、ペルハロゲン化アルキル基とは、アルキル基の水素原子が全てハロゲン原子で置換された基を意味する。ペルハロゲン化アルコキシ基、ペルハロゲン化アリール基及びペルハロゲン化アリールオキシ基についても同様である。
(ペル)ハロゲン化アルキル基とは、ハロゲン化アルキル基とペルハロゲン化アルキル基とを合わせた総称で用いる。すなわち該基は1個以上のハロゲン原子を有するアルキル基である。(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基、及び(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基についても同様である。
(ペル)フルオロアルキル基とは、フルオロアルキル基とペルフルオロアルキル基とを合わせた総称で用いる。すなわち該基は1個以上のフッ素原子を有するアルキル基である。(ペル)フルオロアルコキシ基についても同様である。
アリール基とは、芳香族化合物において芳香環を形成する炭素原子の内いずれか1つの炭素原子に結合した1つの水素原子を取り去った残基に相当する一価の基を意味し、炭素環化合物から誘導されるアリール基と、ヘテロ環化合物から誘導されるヘテロアリール基とを合わせた総称で用いる。
炭化水素基の炭素数とは、ある炭化水素基全体に含まれる炭素原子の総数を意味し、該基が置換基を有さない場合は炭化水素基骨格を形成する炭素原子の数を、該基が置換基を有する場合は炭化水素基骨格を形成する炭素原子の数に置換基中の炭素原子の数を加えた総数を表す。
なお化学式中の結合を示す波線はE/Zの異性体のうち、いずれか一方または両方の混合物であることを意味する。また基材と原子を結ぶ結合を横切る波線は、基材表面から当該原子に至る詳細な結合を省略して図示していることを意味する。
ヘテロ原子とは、炭素原子と水素原子以外の原子を意味し、好ましくは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる1種以上の原子であり、より好ましくは、酸素原子または窒素原子である。
【0015】
本発明はメタセシス反応による、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材の製造方法に関するものである。例えば下記スキーム(a)〜(d)に基材をガラスとした場合の、前記フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材の製造手順をそれぞれ表す。
式中Xはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルコキシ基、及び炭素数5〜20のアリール基からなる群から選ばれる基であり、Rはフッ素原子、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルキル基、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルコキシ基、エーテル性酸素原子を含む炭素数1〜200の(ペル)フルオロアルキル基、及びエーテル性酸素原子を含む炭素数2〜200の(ペル)フルオロアルコキシ基からなる群から選ばれる基である。
【0016】
【化2】
【0017】
例えば、基材をガラスとした場合、未処理である基材表面にはシラノール基が多く存在している。そこへシランカップリング剤等を反応させることにより炭素−炭素二重結合を導入する。導入された炭素−炭素二重結合部分を、特定の金属触媒存在下で含フッ素オレフィン化合物とメタセシス反応させることにより、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を得ることができる。
【0018】
<基材>
本発明における基材は特に限定されない。具体的にはガラス、樹脂(天然又は合成)、金属、セラミック、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材、建築部材、又はこれらの複合基材等が挙げられ、任意の適切な材料で構成される。光学レンズ、ディスプレイ、光記録媒体における基材の表面材料としては、ガラス基材又は樹脂基材が好ましい。
【0019】
ガラス基材としては、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、又はこれらの化学強化したガラスが好ましく、化学強化したソーダライムガラス、化学強化したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス、又は化学強化したホウ珪酸ガラスが特に好ましい。
樹脂基材の材料としては、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂が好ましい。中でも表面にヒドロキシル基を有するものが炭素−炭素二重結合を導入しやすいことから好ましい。
【0020】
基材の形状は特に限定されない。また、表面処理層を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。また、基材はその具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I−CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、位相差フィルム、又は液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0021】
<炭素−炭素二重結合導入剤>
本発明における基材表面に炭素−炭素二重結合を導入するには、公知の方法を用いることができる。具体的には、基材表面に炭素−炭素二重結合導入剤を反応させて基材表面に炭素−炭素二重結合を導入する方法が好ましい。炭素−炭素二重結合導入剤とは、分子内に炭素−炭素二重結合を1以上有し、かつ、基材表面の特定反応部位と反応しうる官能基(炭素−炭素二重結合を有する官能基であってもよい)を有する化合物である。
【0022】
例えば、基材がガラス又は樹脂である場合には、炭素−炭素二重結合導入剤として、分子内に炭素−炭素二重結合を有するシランカップリング剤等が好ましく用いられる。該シランカップリング剤として具体的には、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリクロルシラン、アリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
また基材が樹脂フィルムである場合には、炭素−炭素二重結合導入剤として、多官能アクリレート又は多官能メタクリレート(以下、アクリレートおよびメタクリレートを合わせて、「(メタ)アクリレート」とも言う。)等が好ましく用いられる。多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
基材が金である場合には、炭素−炭素二重結合導入剤として、炭素−炭素二重結合を有するチオール化合物等が好ましく用いられる。
基材表面に炭素−炭素二重結合を導入する際の反応条件も公知の条件で行えばよく、特に制限されない。
【0025】
炭素−炭素二重結合導入後の基材表面は、例えば下記式で表される。
本明細書において、式中A11〜A13はそれぞれ独立して、下記基(i)、基(ii)、基(iii)、及び基(iv)からなる群から選ばれる基である。ただし、A12及びA13の一方がハロゲン原子である場合、他方は基(i)、基(iii)、及び基(iv)からなる群から選ばれる基である。中でも、A11〜A13がいずれも水素原子であることが好ましい。
基(i):水素原子。
基(ii):ハロゲン原子。
基(iii):炭素数1〜20の一価炭化水素基。
基(iv):ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基。
【0026】
【化3】
【0027】
<メタセシス反応>
(反応機構)
基材表面に炭素−炭素二重結合が導入された後、金属触媒(金属−カルベン錯体化合物(10))の存在下、前記炭素−炭素二重結合と含フッ素オレフィン化合物とをメタセシス反応させることにより、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材となる。下記スキーム(e)にクロスメタセシス反応の反応機構の例を表すが、金属触媒に由来する中間体(Metal I)及び中間体(Metal II)を反応機構の一部として含むことを特徴とする。
【0028】
【化4】
【0029】
本明細書中、式中の記号は下記意味を表す。
[L]は配位子であり、Mはルテニウム、モリブデン又はタングステンである。
はフッ素原子、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルキル基、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルコキシ基、エーテル性酸素原子を含む炭素数1〜200の(ペル)フルオロアルキル基、及びエーテル性酸素原子を含む炭素数2〜200の(ペル)フルオロアルコキシ基からなる群から選ばれる基である。
11〜X13はそれぞれ独立して、下記基(i)、基(ii)、基(v)及び基(vi)からなる群から選ばれる基である。X12及びX13は互いに結合して環を形成してもよい。
基(i):水素原子。
基(ii):ハロゲン原子。
基(v):炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、及び炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基からなる群から選ばれる基。
基(vi):さらに、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む前記基(v)。
ただし、前記基(vi)は、前記基(v)である場合を除く。
【0030】
またメタセシス反応は可逆である。すなわちスキーム(e)において逆向きの反応(逆向きの方向の矢印で表わされる反応)が存在する。しかしこの点についての詳細は説明を省略する。また導入されたフッ素原子を含む炭素−炭素二重結合部分については幾何異性体が存在する可能性がある。しかしこの点の詳細については、個々の反応に強く依存するので、説明を省略する。
【0031】
本発明は、下記スキーム(f)に表すように、例えば化合物(11)の存在下、炭素−炭素二重結合が導入された基材表面とオレフィン化合物(21)とを反応させることにより、表面にフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を得ることができる。
【0032】
【化5】
【0033】
上記スキーム(f)において、化合物(11)は、金属−カルベン錯体化合物(10)の代表例として記載する。特定の金属−カルベン錯体化合物(10)としては、ルテニウム−カルベン錯体、モリブデン−カルベン錯体、又はタングステン−カルベン錯体(以下、「金属−カルベン錯体」とも総称する。)が例示できる。
【0034】
<金属−カルベン錯体化合物(10)>
金属−カルベン錯体化合物(10)として、上記スキーム(f)では化合物(11)を例に示したが、金属と二重結合を形成している炭素原子に結合する2つの基は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、又は、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基であればよい。また、これら2つの基は水素原子がひとつ取れた二価の基として互いに結合し、環を形成してもよい。
化合物(10)は本発明に係る製造方法において触媒としての役割を果たすが、試薬として投入するもの及び反応中で生成するもの(触媒活性種)の両方を意味する。ここで、化合物(10)は反応条件下、配位子のいくつかが解離することで触媒活性を示すようになるものと、配位子の解離なしで触媒活性を示すものが知られているが、本発明ではいずれでもよく限定されない。また一般に、オレフィンメタセシスは触媒へのオレフィンの配位と解離を繰り返しながら進行するため、反応中、触媒上にオレフィン以外の配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明確でない。したがって本明細書中、[L]は配位子の数や種類を特定するものではない。
【0035】
上記触媒のうち金属がルテニウムである化合物は一般的に「ルテニウム−カルベン錯体」と称されるものであり、例えばVougioukalakis,G.C.et al.Chem.Rev.,2010,110,1746−1787.に記載されているルテニウム−カルベン錯体を利用することができる。また、例えばAldrich社やUmicore社から市販されているルテニウム−カルベン錯体を利用することができる。
本発明においては、金属カルベン錯体化合物の金属がルテニウムであることが好ましい。
【0036】
ルテニウム−カルベン錯体の具体例としては、ビス(トリフェニルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)−3−メチル−2−ブテニリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3−ビス(2−メチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3−ジシクロヘキシル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)エトキシメチリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)[ビス(3−ブロモピリジン)]ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(2−イソプロポキシフェニルメチリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)[(トリシクロヘキシルホスホラニル)メチリデン]ジクロロルテニウムテトラフルオロボラート、UmicoreM2、UmicoreM51、UmicoreM52、UmicoreM71SIMes、UmicoreM71SIPr、UmicoreM73SIMes、UmicoreM73SIPr等が挙げられ、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)(2−イソプロポキシフェニルメチリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン)[(トリシクロヘキシルホスホラニル)メチリデン]ジクロロルテニウムテトラフルオロボラート、UmicoreM2、UmicoreM51、UmicoreM52、UmicoreM71SIMes、UmicoreM71SIPr、UmicoreM73SIMes、UmicoreM73SIPrが特に好ましい。なお上記錯体のうち、「Umicore」で始まる名称は、Umicore社の製品の商品名である。
なお、上記ルテニウム−カルベン錯体は、単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。さらに必要に応じてシリカゲルやアルミナ、ポリマー等の担体に担持して用いてもよい。
【0037】
上記触媒のうち金属がモリブデン又はタングステンである化合物は一般的に「モリブデン−カルベン錯体」「タングステン−カルベン錯体」と称されるものであり、例えばGrela,K.(Ed)Olefin Metathesis:Theory and Practice,Wiley,2014.に記載されているモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を利用することができる。また、例えばAldrich社やStrem社、Ximo社から市販されているモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を利用することができる。
本発明においては、金属カルベン錯体化合物の金属がモリブデンまたはタングステンであることが触媒の入手容易性の点で好ましい。
なお、上記モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体は、単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。さらに必要に応じてシリカゲルやアルミナ、ポリマー等の担体に担持して用いてもよい。
【0038】
金属触媒の金属がモリブデンまたはタングステンである場合、金属触媒の配位子[L]としては、イミド配位子(R−N=M)を有することが好ましい。ただし、Rとしては、アルキル基、アリール基等が例示できる。またさらに金属触媒の配位子[L]としては酸素原子が二座配位した配位子を有することが好ましい。ただし酸素原子が二座配位した配位子とは、酸素原子を2個以上有する配位子において該酸素原子のうちの2個で配位している配位子である場合、および、酸素原子を有する単座配位子が2個配位している場合(この場合に単座配位子は同一であっても異なっていてもよい)の双方の場合を含む。
【0039】
モリブデン−カルベン錯体の具体例を下記に示す。なお、Meとはメチル基を、i−Prとはイソプロピル基を、t−Buとはターシャリーブチル基を、Phとはフェニル基を、それぞれ意味する。
【0040】
【化6】
【0041】
【化7】
【0042】
タングステン−カルベン錯体の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0043】
【化8】
【0044】
<オレフィン化合物(21)>
炭素−炭素二重結合を含む有機基が導入された基材表面において、オレフィンメタセシス反応活性を有する金属−カルベン錯体化合物(10)の存在下、前記炭素−炭素二重結合をオレフィン化合物(21)とメタセシス反応させることにより、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を製造することができる。
【0045】
【化9】
【0046】
化合物(21)におけるX11〜X13及びRは、前記定義と同様である。
すなわち化合物(21)におけるX11〜X13はそれぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;炭素数1〜12のアルキル基;炭素数1〜12のアルコキシ基;炭素数5〜20のアリール基;炭素数5〜20のアリールオキシ基;炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基;炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基;炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基;、及び炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基;からなる群から選ばれる基であり、前記アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基、(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基、及び(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基からなる群から選ばれる基は、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む置換基を有していてもよい。X12及びX13は、水素原子またはハロゲン原子がひとつ取れた2価の基として互いに結合して環を形成してもよい。環としては、炭素原子のみからなる、または、炭素原子とヘテロ原子とからなる環が好ましい。環の大きさは3員環〜10員環が例示できる。環の部分構造としては、下式の構造が例示できる。
【0047】
【化10】
【0048】
上記基のうち炭素原子を有する基は、後述するように炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。
【0049】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が入手容易性の点から好ましい。
【0050】
炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、又はプロピル基が入手容易性の点から好ましい。アルキル基鎖は直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。
【0051】
炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基が入手容易性の点から好ましい。アルコキシ基鎖は直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。
【0052】
炭素数5〜20のアリール基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、具体的にはフェニル基が入手容易性の点から好ましい。
【0053】
炭素数5〜20のアリールオキシ基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましい。具体的にはフェニルオキシ基が入手容易性の点から好ましい。
【0054】
炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、特に炭素数1〜8の(ペル)フルオロアルキル基が好ましい。具体的にはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、又はヘプタフルオロプロピル基が入手容易性の点から好ましい。アルキル基鎖は直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。
【0055】
炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、特に炭素数1〜8の(ペル)フルオロアルコキシ基が好ましい。具体的にはトリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基、ペルフルオロ(メトキシメトキシ)基、又はペルフルオロ(プロポキシプロポキシ)基が好ましく、特にトリフルオロメトキシ基又はペルフルオロ(プロポキシプロポキシ)基が入手容易性の点から好ましい。アルコキシ基鎖は直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。
【0056】
炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、特に炭素数5〜12の(ペル)フルオロアリール基が好ましい。具体的にはモノフルオロフェニル基、又はペンタフルオロフェニル基が好ましく、特にペンタフルオロフェニル基が入手容易性の点から好ましい。
【0057】
炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、特に炭素数5〜12の(ペル)フルオロアリールオキシ基が好ましい。具体的にはモノフルオロフェニルオキシ基又はペンタフルオロフェニルオキシ基が好ましく、特にペンタフルオロフェニルオキシ基が入手容易性の点から好ましい。
【0058】
酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む置換基としては、ニトリル基、カルボキシル基、エステル基(アシルオキシ基又はアルコキシカルボニル基)が例示できる。なお該置換基を有する場合であっても、アルキル基、アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基及び(ペル)ハロゲン化アルコキシ基全体の炭素数は1〜12であり、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基及び(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基全体の炭素数は5〜20である。
【0059】
また前記アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基、(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基、又は(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基は、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。すなわち、基(vi)としては、さらに酸素原子を1以上含む基(v)が好ましく、酸素原子はエーテル性酸素原子であることがより好ましい。つまり基(vi)としては下記基(vii)であることが好ましい。
基(vii):炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する基(v)。
【0060】
12とX13との組合せとして好ましくは、X12が基(i)、基(ii)、基(v)、又は基(vii)であり、X13が基(ii)、基(v)、又は基(vii)である組み合わせである。
より好ましくはX12が水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基、又は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基;X13がハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2〜12のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20のアリール基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基、又は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基の組み合わせである。
【0061】
化合物(21)におけるRはフッ素原子、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルキル基、炭素数1〜12の(ペル)フルオロアルコキシ基、エーテル性酸素原子を含む炭素数1〜200の(ペル)フルオロアルキル基、及びエーテル性酸素原子を含む炭素数2〜200の(ペル)フルオロアルコキシ基からなる群から選ばれる基である。
化合物(21)としては、1,1−ジフルオロオレフィン又は1,2−ジフルオロオレフィンが好ましく、1,1−ジフルオロオレフィン又は炭素数3以上の1,2−ジフルオロオレフィンがより好ましく、特に1,1−ジフルオロオレフィンが好ましい。
また化合物(21)としては、Rがエーテル性酸素原子を含む炭素数1〜200の(ペル)フルオロアルキル基、及びエーテル性酸素原子を含む炭素数2〜200の(ペル)フルオロアルコキシ基からなる群から選ばれる基であるオレフィンが好ましい。
【0062】
<製造方法>
本発明は基材表面に炭素−炭素二重結合を含む有機基を導入し、さらに前記炭素−炭素二重結合をメタセシス反応させることによりフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を製造する方法に関するものである。
【0063】
基材に対して、公知の方法により表面に炭素−炭素二重結合を導入する。例えば基材がガラスである場合、炭素−炭素二重結合を含む有機基を有するシランカップリング剤等を塗布することで炭素−炭素二重結合を導入することができる。塗布方法としては、公知の手法を適宜用いることができる。該塗布方法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0064】
基材が樹脂である場合には、多官能(メタ)アクリレート等を用いて熱硬化や光硬化の条件で炭素−炭素二重結合を導入することができる。光硬化は、活性エネルギー線を照射することによって行われる。活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波線等が挙げられ、波長180〜500nmの紫外線が経済的に好ましい。
活性エネルギー線源としては、紫外線照射装置(キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、紫外線LED等)、電子線照射装置、X線照射装置、高周波発生装置等が使用できる。硬化反応を完結させる目的で、活性エネルギー線の照射後に加熱してもよい。加熱温度は、50〜120℃が好ましい。
【0065】
また前述した炭素−炭素二重結合を導入する反応を円滑に進行させるために、基材表面に適切な前処理を施してもかまわない。具体的には基材表面に溶媒をかけ流す方法や、溶媒をしみこませた布でふき取る方法、コロナ処理、UV−オゾン処理等が挙げられる。
同様に、炭素−炭素二重結合を導入する反応後、表面層中の化合物であって他の化合物や基材と化学結合していない化合物は、必要に応じて除去してもよい。具体的な方法としては、たとえば、表面層に溶媒をかけ流す方法や、溶媒をしみ込ませた布でふき取る方法が挙げられる。
【0066】
表面に炭素−炭素二重結合が導入された基材に対してメタセシス反応をさせる化合物(21)としてフッ素原子を含むオレフィンを用いるが、当該化合物は内部オレフィン及び末端オレフィンのいずれも利用することができる。
目的物収率向上の点で、原料となる化合物(21)は脱気及び脱水されたものを用いることが好ましい。脱気操作について、特に制限はないが、凍結脱気等を行うことがある。脱水操作について、特に制限はないが、通常モレキュラーシーブ等と接触させる。原料となる化合物(21)について、前記脱気及び脱水操作は通常金属−カルベン錯体化合物と接触させる前に行う。
また原料となる化合物(21)は微量の不純物(例えばフッ化水素等)を含むことがあるので、目的物収率向上の点で精製してもよい。精製方法については特に制限はない。例えば文献(Armarego,W.L.F.et al.,Purification of Laboratory Chemicals(Sixth Edition),2009,Elsevier)記載の方法に従って行うことができる。
【0067】
原料となる炭素−炭素二重結合が導入された基材(以後、単に「C=C基材」と称することがある。)及び化合物(21)を反応容器に投入する順序は問わず、反応容器に先にC=C基材を設置しておき、そこに化合物(21)を投入してもよいし、先に化合物(21)を投入した反応容器にC=C基材を浸漬させてもよい。さらには、C=C基材又は化合物(21)のいずれかを金属−カルベン錯体化合物(10)と接触させた後に、他方の化合物(21)又はC=C基材を接触させる場合もある。
原料となるC=C基材表面の炭素−炭素二重結合部分(以下、「基材表面のオレフィン部分」と称することがある。)と化合物(21)とのモル比に特に限定はないが、通常C=C基材表面のオレフィン部分1モルに対して、化合物(21)を0.01〜100モル程度用い、好ましくは0.1〜10モル程度用いる。
【0068】
金属−カルベン錯体化合物は試薬として投入しても、系内で発生させてもよい。
試薬として投入する場合、市販の金属−カルベン錯体化合物をそのまま用いてもよく、あるいは市販試薬から公知の方法で合成した市販されていない金属−カルベン錯体化合物を用いてもよい。
系内で発生させる場合、公知の方法で前駆体となる金属錯体から調製した金属−カルベン錯体化合物を本発明に用いることができる。
【0069】
用いる金属−カルベン錯体化合物の量としては、特に制限はないが、原料となるC=C基材表面のオレフィン部分1モルに対して、通常0.0001〜1モル程度用い、好ましくは0.001〜0.2モル程度用いる。
【0070】
用いる金属−カルベン錯体化合物は、通常固体のまま反応容器に投入するが、溶媒に溶解又は懸濁させて投入してもよい。この時用いる溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない範囲で特に制限はなく、有機溶媒、含フッ素有機溶媒、イオン液体、水等を単独又は混合して用いることができる。なお、これらの溶媒分子中、一部又はすべての水素原子が重水素原子で置換されていてもよい。
また化合物(21)が液体である場合(加熱して液化する場合も含む)は、メタセシス反応には溶媒を用いないことが好ましい。この場合、化合物(21)に金属−カルベン錯体化合物が溶解することが好ましい
【0071】
有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o−,m−,p−キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒等を使用することができる。含フッ素有機溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロベンゼン、m−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α−トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等を使用することができる。イオン液体としては、例えば、各種ピリジニウム塩、各種イミダゾリウム塩等を用いることができる。上記溶媒の中でも、金属−カルベン錯体の溶解性等の点で、ベンゼン、トルエン、o−,m−,p−キシレン、メシチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF(テトラヒドロフラン)、ヘキサフルオロベンゼン、m−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α−トリフルオロメチルベンゼン等、及びこれらの混合物が好ましい。
なお、目的物収率向上の点で、前記溶媒は脱気及び脱水されたものを用いることが好ましい。脱気操作について、特に制限はないが、凍結脱気等を行うことがある。脱水操作について、特に制限はないが、通常モレキュラーシーブ等と接触させる。前記脱気及び脱水操作は通常金属−カルベン錯体化合物と接触させる前に行う。
【0072】
C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物を接触させる雰囲気としては、特に限定はないが、触媒の長寿命化の点で、不活性気体雰囲気下が好ましく、中でも窒素又はアルゴン雰囲気下が好ましい。ただし、化合物(21)が反応条件において気体となる場合、これらの気体雰囲気下で行うことができる。
C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物を接触させる相としては、特に制限はないが、反応速度の点で、通常は液相が用いられる。原料となる化合物(21)が反応条件下で気体の場合、液相で実施するのが難しいため、気−液二相で実施することもできる。なお、液相で実施する場合には溶媒を用いることができる。このとき用いる溶媒としては、上記、金属−カルベン錯体化合物の溶解又は懸濁に用いた溶媒と同様のものを利用することができる。なお、原料となる化合物(21)が2種以上ある場合であって、それら化合物のうち少なくとも1種が反応条件下で液体の場合、無溶媒で実施できることがある。
【0073】
C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物を接触させる容器としては、反応に悪影響を与えない範囲で特に制限はなく、例えば金属製容器又はガラス製容器等を用いることができる。なお、本発明にかかるクロスメタセシスは反応条件下、気体状態のオレフィンを扱うことがあるので、高気密が可能な耐圧容器が好ましい。
【0074】
C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物を接触させる温度としては、特に制限はないが、通常−100〜200℃の範囲で実施することができ、反応速度の点で、0〜150℃が好ましい。なお、低温では反応が開始せず、高温では錯体の速やかな分解が生じることがあるので適宜温度の下限と上限を設定する必要がある。通常、用いる溶媒の沸点以下の温度で実施される。
C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物を接触させる時間としては、特に制限はないが、通常1分〜48時間の範囲で実施される。
C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物を接触させる圧力としては、特に制限はないが、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。通常0.001〜10MPa程度、好ましくは0.01〜1MPa程度である。
【0075】
C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物を接触させる際に、反応に悪影響を及ぼさない範囲で無機塩や有機化合物、金属錯体等を共存させてもよい。また、C=C基材が破損せず、反応に悪影響を及ぼさない範囲で、C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物の混合物を攪拌してもよい。このとき、攪拌の方法としては、メカニカルスターラーやマグネティックスターラー等を用いることができる。
【0076】
C=C基材及び化合物(21)と金属−カルベン錯体化合物を接触させた後、目的である基材表面のオレフィン部分は通常複数のオレフィンの混合物として得られる。
反応後、表面層中の化合物であって他の化合物や基材と化学結合していない化合物は、必要に応じて除去してもよい。具体的な方法としては、たとえば、表面層に溶媒をかけ流す方法や、溶媒をしみ込ませた布でふき取る方法が挙げられる。
【0077】
本反応で得られた基材表面は通常の有機化合物と同様の公知の方法で同定することができる。例えば、H−、19F−、13C−NMRやGC−MS等が挙げられ、必要に応じてこれらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<実施例1>
クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
60×60mmのガラス基材を希塩酸、イオン交換水の順に洗浄して清浄なガラス基材を得た(基材A1)。次に、アリルトリクロロシランのジメチルアセトアミド溶液をスピンコート法によって基材A1に塗布した。これをデシケータ内で乾燥させ、メタノールで表面を洗浄することで、表面に炭素−炭素二重結合を導入したガラス基材(基材B1)を得た。ガラスシャーレに、下記に示すGrubbs第二世代触媒(0.01mmol)、C17−CH=CH(1mmol)及び塩化メチレン10mLを計り入れ、得られた溶液に基材B1を沈めた。室温で24時間放置後、基材を取りだし、メタノールで洗浄することで、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(基材C1)を得た。基材A1、B1及びC1を用いて水の接触角測定を行った結果を表1に示す。また一連の反応を以下に示す。
【0079】
【化11】
【0080】
【表1】
【0081】
<実施例2>
開環クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
60×60mmのガラス基材を希塩酸、イオン交換水の順に洗浄して清浄なガラス基材を得る(基材A2)。次に、5−[(2−トリメトキシシリル)エチル]ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテンのジメチルアセトアミド溶液をスピンコート法によって基材A2に塗布する。これをデシケータ内で乾燥させ、メタノールで表面を洗浄することで、表面に炭素−炭素二重結合を導入したガラス基材(基材B2)を得る。ガラスシャーレに、実施例1と同様のGrubbs第二世代触媒(0.01mmol)、C17−CH=CH(1mmol)及び塩化メチレン10mLを計り入れ、得られた溶液に基材B2を沈める。室温で24時間放置後、基材を取りだし、メタノールで洗浄することで、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(基材C2)を得る。一連の反応を以下に示す。
【0082】
【化12】
【0083】
<実施例3>
開環メタセシス重合によるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
60×60mmのガラス基材を希塩酸、イオン交換水の順に洗浄して清浄なガラス基材を得る(基材A3)。次に、5−[(2−トリメトキシシリル)エチル]ビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテンのジメチルアセトアミド溶液をスピンコート法によって基材A3に塗布する。これをデシケータ内で乾燥させ、メタノールで表面を洗浄することで、表面に炭素−炭素二重結合を導入したガラス基材(基材B3)を得る。ガラスシャーレに、実施例1と同様のGrubbs第二世代触媒(0.01mmol)、5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン(1mmol)及び塩化メチレン10mLを計り入れ、得られた溶液に基材B3を沈める。室温で24時間放置後、基材を取りだし、メタノールで洗浄することで、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(基材C3)を得る。一連の反応を以下に示す。なお、式中nは繰り返し単位を表す正の整数である。
【0084】
【化13】
【0085】
<実施例4>
鎖状ジエンメタセシス重合によるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
60×60mmのガラス基材を希塩酸、イオン交換水の順に洗浄して清浄なガラス基材を得る(基材A4)。次に、アリルトリクロロシランのジメチルアセトアミド溶液をスピンコート法によって基材A4に塗布する。これをデシケータ内で乾燥させ、メタノールで表面を洗浄することで、表面に炭素−炭素二重結合を導入したガラス基材(基材B4)を得る。耐圧気密容器に、実施例1と同様のGrubbs第二世代触媒(0.01mmol)及び塩化メチレン10mLを計り入れ、得られた溶液に基材B4を沈め、耐圧気密容器内をヘキサフルオロブタジエンで置換する。室温で24時間放置後、基材を取りだし、メタノールで洗浄することで、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(基材C4)を得る。一連の反応を以下に示す。なお、式中nは繰り返し単位を表す正の整数である。
【0086】
【化14】
【0087】
<実施例5>
モリブデン触媒クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
実施例1のGrubbs第二世代触媒を下式で示される公知のモリブデン触媒D〜Gに変更して、同様に反応を行い、実施例1と同じフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(C1)を得る。
【0088】
【表2】
【0089】
<実施例9>
タングステン触媒クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
実施例1のGrubbs第二世代触媒を下式で示される公知のタングステン触媒Hに変更して、同様に反応を行い、実施例1と同じフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(C1)を得る。
【0090】
【表3】
【0091】
<実施例10>
クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
耐圧容器内に実施例1と同様の方法で得たガラス基材B1、実施例1と同様のGrubbs第二世代触媒(0.01mmol)及び塩化メチレン10mLを計り入れる。耐圧容器内をテトラフルオロエチレン(1mmol)で置換したあと、室温で24時間放置後、基材を取りだし、メタノールで洗浄することで、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(基材C10)を得る。また一連の反応を以下に示す。
【0092】
【化15】
【0093】
<実施例11〜14>
クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
実施例10のテトラフルオロエチレンを、下表に示す化合物(21)にそれぞれ変更して反応を実施する。生成物として表4中に示すフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(基材C11〜C14)を得る。
【0094】
【表4】
【0095】
<実施例15〜18>
モリブデン触媒クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
実施例10のGrubbs第二世代触媒をモリブデン触媒D〜Gに変更して、同様に反応を行い、実施例10と同じフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(C15〜C18)を得る。
【0096】
<実施例19>
タングステン触媒クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
実施例10のGrubbs第二世代触媒をタングステン触媒Hに変更して、同様に反応を行い、実施例10と同じフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(C19)を得る。
【0097】
<実施例20>
開環メタセシス重合によるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材の製造
実施例3と同様の方法で得たガラス基材B3、実施例1と同様のGrubbs第二世代触媒(0.01mmol)、ペルフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(1mmol)、及び塩化メチレン10mLを計り入れて、所期の開環メタセシス重合を進行させる。基材を取りだし、メタノールで洗浄することで、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(基材C20)を得る。また一連の反応を以下に示す。式中nは繰り返し単位を示す正の整数である。
【0098】
【化16】
【0099】
<実施例21>
クロスメタセシスによるフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された金基材の製造
エタノールとイオン交換水で洗浄した清浄なシリコンウェハーに、はじめに、減圧下、金を蒸着することで金基材を得て、次に、4−メルカプトー1−ブタノールのエタノール溶液で処理することで、ヒドロキシ基末端を有する金基材を得る(A21)。アリルトリクロロシランのジメチルアセトアミド溶液をスピンコート法によって基材A21に塗布する。これをデシケータ内で乾燥させ、メタノールで表面を洗浄することで、表面に炭素−炭素二重結合を導入した金基材(基材B21)を得る。ガラスシャーレに、実施例1と同様のGrubbs第二世代触媒(0.01mmol)、C17−CH=CH(1mmol)及び塩化メチレン10mLを計り入れ、得られた溶液に基材B1を沈める。室温で24時間放置後、基材を取りだし、メタノールで洗浄することで、フッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入されたガラス基材(基材C21)を得る。一連の反応を以下に示す。
【0100】
【化17】
【0101】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2015年3月3日出願の日本特許出願(特願2015−041642)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、含フッ素オレフィンを用いたメタセシス反応によって簡便かつ効率的にフッ素原子と炭素−炭素二重結合とを含む有機基が導入された基材を製造することができる。