特許第6593510号(P6593510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6593510電極材料、該電極材料の製造方法、電極、及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6593510
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】電極材料、該電極材料の製造方法、電極、及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20191010BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20191010BHJP
   C04B 35/447 20060101ALN20191010BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   !C04B35/447
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-182506(P2018-182506)
(22)【出願日】2018年9月27日
【審査請求日】2018年11月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100204043
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 美和
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏次
(72)【発明者】
【氏名】忍足 暁
(72)【発明者】
【氏名】小山 将隆
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−041719(JP,A)
【文献】 特開2016−195003(JP,A)
【文献】 特開2013−069665(JP,A)
【文献】 特開2014−146431(JP,A)
【文献】 特開2014−207157(JP,A)
【文献】 特許第3685364(JP,B2)
【文献】 特表2011−505332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質被膜で被覆された電極活物質の一次粒子と、該一次粒子の集合体である二次粒子とを含み、
前記電極活物質が、下記一般式(1)で表される電極活物質であり、
窒素吸着法により求められる細孔径300nm以下の細孔容積に占める細孔径50nm以下の細孔容積の割合が40%以上であることを特徴とする電極材料。
LiBOz (1)
(式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種、MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種、BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種、0≦a<4、0<x<1.5、0≦y<1、0<z≦4である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される電極活物質が、下記一般式(2)で表される電極活物質であることを特徴とする、請求項1に記載の電極材料。
LiPO (2)
(式中、A、M、a、x、及びyは前記のとおりである。)
【請求項3】
前記炭素質被膜中に含まれる窒素の割合が、0.1質量%以上20質量%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項4】
炭素源としてイオン性有機物のみと、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒する第一工程と、
前記第一工程で得られた造粒物を非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する第二工程とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の電極材料を用いてなることを特徴とする電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極からなる正極を備えたことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料、該電極材料の製造方法、該電極材料を用いてなる電極、及び該電極からなる正極を備えたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型、軽量、高容量の電池として、リチウムイオン電池などの非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。リチウムイオン電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極および負極と、非水系の電解質とにより構成されている。
リチウムイオン電池は、従来の鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池などの二次電池に比べて、軽量かつ小型で高エネルギーを有しており、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯用電子機器の電源として用いられているが、近年、電気自動車、ハイブリッド自動車、電動工具などの高出力電源としても検討されている。これらの高出力電源として用いられる電池の電極活物質には、高速の充放電特性が求められている。また、発電負荷の平滑化や、定置用電源、バックアップ電源などの大型電池への応用も検討されており、長期の安全性、信頼性と共に資源量の問題が無いことも重要視されている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極は、正極活物質といわれるリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するリチウム含有金属酸化物、導電助剤およびバインダーを含む電極材料より構成され、この電極材料を集電体と呼ばれる金属箔の表面に塗布することにより正極とされている。このリチウムイオン電池の正極活物質としては、通常、コバルト酸リチウム(LiCoO)が用いられているが、その他に、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)などのリチウム(Li)化合物が用いられている。これらの中で、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムは元素の毒性や資源量の問題、充電状態の不安定性等の問題を抱えている。また、マンガン酸リチウムは高温下での電解液中への溶解の問題が指摘されている。一方、リン酸鉄リチウムは、長期の安全性、信頼性に優れるため、該リン酸鉄リチウムに代表される、オリビン構造を持つリン酸塩系電極材料が近年注目を浴びている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−161654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載のリン酸塩系電極活物質は、材料の電子伝導性が十分でないため、大電流の充放電を行うためには、粒子の微細化、導電性物質との複合化など様々な工夫が必要であり、多くの努力がなされている。
しかしながら、多量の導電性物質を用いた複合化は電極密度の低下を招くために、電池の密度低下、即ち単位容積当たりの容量低下を引き起こしてしまう。この問題を解決する方法として、電子導電性物質である炭素前駆体として、有機物溶液を用いた炭素被覆法が見出された。有機物溶液と電極活物質粒子を混合後、乾燥し、非酸化性雰囲気下で熱処理することで、有機物を炭化させる本手法は、必要最低限の電子導電性物質を、電極活物質粒子表面に、極めて効率良く被覆させることが可能であり、電極密度を大きく低下させることなく、導電性の向上を図ることができる。
ところが、炭素源である有機物の炭化温度は一般に高温であるため、これらの電極材料の製造の際に、電極活物質粒子同士が接触し、高温炭化時に一部が焼結し、該粒子が成長してしまい、微細な粒子とすることは容易ではない。
【0006】
また、リチウムイオン電池の電極材料は、一般にカーボンブラック等の導電助剤と呼ばれる材料とポリフッ化ビニリデンに代表される結着剤と溶剤を加え、ペースト化した後、集電体と呼ばれる金属箔上に塗工して使用される。微細な電極材料をこのようなペーストにして使用するには、塗工に適した粘度に調整するために溶剤を多く使用する、集電体への接着力を確保するために結着剤を多く用いる、など、電極材料以外の材料の使用量が増えてしまうとともに、溶剤の除去に時間とエネルギーを要するなどの問題があった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、粒子の成長を抑制しつつ、良質な炭素質被膜による被覆を実現するとともに、直流抵抗を低下させ、放電容量及び入出力特性を高めることが可能なリチウムイオン電池を得ることができる電極材料、該電極材料の製造方法、該電極材料を用いてなる電極、及び該電極からなる正極を備えたリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、炭素源としてイオン性有機物を用いることで、電極活物質粒子同士の接近を抑制し、高温による電極活物質の粒子成長及び焼結が起こりにくくなり、良質な炭素質被膜で被覆された微細な電極活物質粒子が得られ、該電極活物質粒子を顆粒状に造粒することで、窒素吸着法により求められる細孔径300nm以下の細孔容積に占める細孔径50nm以下の細孔容積の割合が特定の値以上である電極材料となり、該課題を解決できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]を提供する。
[1]電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含み、窒素吸着法により求められる細孔径300nm以下の細孔容積に占める細孔径50nm以下の細孔容積の割合が40%以上であることを特徴とする電極材料。
[2]前記電極活物質が、下記一般式(1)で表される電極活物質であることを特徴とする、上記[1]に記載の電極材料。
LiBOz (1)
(式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種、MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種、BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種、0≦a<4、0<x<1.5、0≦y<1、0<z≦4である。)
[3]前記一般式(1)で表される電極活物質が、下記一般式(2)で表される電極活物質であることを特徴とする、上記[2]に記載の電極材料。
LiPO (2)
(式中、A、M、a、x、及びyは前記のとおりである。)
[4]炭素源としてイオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒する第一工程と、前記第一工程で得られた造粒物を非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する第二工程とを有することを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
[5]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の電極材料を用いてなることを特徴とする電極。
[6]上記[5]に記載の電極からなる正極を備えたことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粒子の成長を抑制しつつ、良質な炭素質被膜による被覆を実現するとともに、直流抵抗を低下させ、放電容量及び入出力特性を高めることが可能なリチウムイオン電池を得ることができる電極材料、該電極材料の製造方法、該電極材料を用いてなる電極、及び該電極からなる正極を備えたリチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例3及び比較例2の電極材料の細孔容積分布である。
図2】実施例3及び比較例2の電極材料において、細孔直径d(nm)を横軸に、窒素吸着法により求められる細孔径300nm以下の細孔容積(Va)に占める細孔径50nm以下の細孔容積(Vb)の割合を縦軸にプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[電極材料]
本実施形態の電極材料は、電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含み、窒素吸着法により求められる細孔径300nm以下の細孔容積に占める細孔径50nm以下の細孔容積の割合が40%以上であることを特徴とする。
【0013】
本実施形態で用いられる電極活物質は、一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子で構成される。電極活物質粒子の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。電極活物質粒子が球状であることで、造粒された顆粒体(炭素質被覆電極活物質)の内部細孔が均一となりやすく、良好な電解液保持能が発現する。また、顆粒体とすることで、本実施形態の電極材料を用いて電極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、電極形成用ペーストの集電体への塗工も容易となる。なお、電極形成用ペーストは、例えば、本実施形態の電極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。
【0014】
本実施形態の電極材料で用いられる電極活物質は、下記一般式(1)で表される電極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度、安全性及びサイクル安定性の観点から好ましい。
LiBOz (1)
(式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種、MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種、BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種、0≦a<4、0<x<1.5、0≦y<1、0<z≦4である。)
【0015】
式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種であり、中でも、Mn、及びFeが好ましく、Feがより好ましい。
MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種であり、中でも、Mg、Ca、Al、Tiが好ましい。
BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種であり、中でも、安全性及びサイクル特性に優れる観点から、Pが好ましい。
aは、0以上4未満であり、好ましくは0.5以上3以下、より好ましくは0.5以上2以下であり、特に1が好ましい。xは、0より大きく1.5未満であり、好ましくは0.5以上1以下であり、中でも1が好ましい。yは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.1以下である。zは0より大きく4以下であり、Bの組成により選択される。例えば、Bがリン(P)の場合は、zは4が好ましく、Bがホウ素(B)の場合は、zは3が好ましい。
【0016】
前記一般式(1)で表される電極活物質は、オリビン構造を有することが好ましく、下記一般式(2)で表される電極活物質であることがより好ましく、LiFePOや該LiFePOにおいて、Feの一部がMnで置換されたLi(Fex1Mn1−x1)PO(但し、0<x1<1)であることがさらに好ましい。
LiPO (2)
(式中、A、M、a、x、及びyは前記のとおりである。)
【0017】
一般式(1)で表される電極活物質(LiBOz)は、固相法、液相法、気相法等の従来の方法により製造したものを用いることができる。
LiBOzは、例えば、Li源と、A源と、M源と、B源と、水と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成し、得られた沈殿物を水洗して得られる。また、水熱合成により電極活物質前駆体を生成し、さらに電極活物質前駆体を焼成することでも同様の電極活物質が得られる。水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
ここで、Li源としては、酢酸リチウム(LiCHCOO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩及び水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられ、酢酸リチウム、塩化リチウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
A源としては、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、A源がFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、硫酸鉄(II)(FeSO)等の2価の鉄塩が挙げられ、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)、及び硫酸鉄(II)からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
M源としては、同様にNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素の塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等を用いることができる。
B源としては、B、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種を含む化合物が挙げられる。例えば、B源がPである場合、P源としては、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物が挙げられ、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、及びリン酸水素二アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0018】
Li源、A源、M源及びB源の物質量比(Li:A:M:B)は、所望する電極活物質が得られ、不純物の生成が無いよう、適宜選択される。
【0019】
電極活物質の結晶子径は、好ましくは30nm以上250nm以下、より好ましくは35nm以上250nm以下、さらに好ましくは40nm以上200nm以下である。結晶子径が30nm以上であると電極活物質表面を炭素質被膜で十分に被覆するために必要な炭素量が抑えられ、また結着剤の量を抑えることができるため、電極中の電極活物質量を増やすことができ、電池の容量を高めることができる。同様に結着力不足による膜剥離を生じにくくすることができる。一方、結晶子径が250nm以下であると電極活物質の内部抵抗が抑えられ、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を高めることができる。
なお、前記結晶子径は、X線回折装置(例えば、RINT2000、RIGAKU製)により測定し、得られる粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出することができる。
【0020】
電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜は、該炭素質被膜の原料となる有機物を炭化することにより得られるが、所望の効果を発現するためには、電極活物質粒子表面への吸着能に優れ、電荷反発、立体障害による電極活物質粒子同士の接近を抑制可能なイオン性を有する有機物(イオン性有機物)を用いる。イオン性有機物は、電極活物質粒子の表面に炭素質被膜を形成することができれば特に限定されず、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、カルボン酸変性ポリビニルアルコールの塩、スルホン酸変性ポリビニルアルコールの塩、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩等が挙げられる。また、市販のイオン性界面活性剤も好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明者らは、炭素質被膜中に窒素原子を導入することにより、炭素質被膜の電子伝導性と、Liイオン拡散性との両立を図ることができることを見出した。
イオン性有機物の電荷極性や対イオンの種類は特に限定されないが、炭素質被膜中に窒素原子を導入する観点から、所望の窒素量を残留させるために、対イオンの少なくとも一部にアンモニア、ピリジン、尿素などの含窒素塩基を用いた、陰イオン性アンモニウム塩、ピリジニウム塩、尿素塩等が用いられることが好ましい。
【0022】
対イオンの中和率は特に限定されず、所望の吸着力を得るために、適宜調整すればよいが、好ましくは30mol%以上である。上限値は特に限定されないが、100mol%以下であることが好ましい。
中和は、アンモニア、有機アミン、アルカリ金属水酸化物等のアルカリを用いて行うことができる。中でも取扱の容易さや、不要な金属の残留するおそれのない点で、アンモニアが好ましい。
【0023】
同様に、アニリン塩酸塩、ポリアニリン塩酸塩等のポリアミン塩酸塩に代表される、窒素を含有する陽イオン性有機物も好適に用いることができる。同様に対イオンの中和率は特に限定されず、所望の吸着力を得るために、適宜調整すればよいが、好ましくは30mol%以上である。上限値は特に限定されないが、100mol%以下であることが好ましい。
イオン性有機物と電極活物質粒子との混合が容易で、均一な炭素質被膜の被覆を得るためには、用いるイオン性有機物は溶媒可溶性であることが好ましく、イオンへの解離、取扱いの容易さ、安全性、価格等の点で水溶性であることがより好ましい。
これらのイオン性有機物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
炭素質被膜で被覆された電極活物質(炭素質被覆電極活物質)の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以上250nm以下、より好ましくは50nm以上200nm以下、さらに好ましくは50nm以上150nm以下、よりさらに好ましくは60nm以上100nm以下である。平均粒子径が30nm以上であると、電極作成のために必要な結着剤の量を低減することができ、電極中の電極活物質量を増加させ、電池の容量を高めることができる。また、結着力不足による膜剥離を抑制することができる。一方、平均粒子径が250nm以下であると、十分な高速充放電性能を得ることができる。
ここで、一次粒子の平均粒子径とは、個数平均粒子径のことである。前記一次粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した200個以上の粒子の粒子径を個数平均することにより求めることができる。
【0025】
前記炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上200μm以下、より好ましくは1μm以上150μm以下、さらに好ましくは3μm以上100μm以下である。二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であると電極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合して電極材料ペーストを調製する際、導電助剤及び結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の電池容量を高くすることができる。一方、200μm以下であるとリチウムイオン電池の高速充放電における放電容量を高くすることができる。
ここで、二次粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。前記二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0026】
前記炭素質被膜中に含まれる窒素の割合は、好ましくは0.1%以上20%以下、より好ましくは3%以上15%以下、さらに好ましくは5%以上12%以下である。炭素質被膜中に含まれる窒素の割合が0.1%以上であると、炭素質被膜の電子伝導性と、Liイオン拡散性との両立を図ることができ、20%以下であると、炭素質被膜の電子伝導性が低くなりすぎない。
なお、前記炭素質被膜中に含まれる窒素の割合は、後述する本実施形態の電極材料に含まれる炭素含有量及び窒素含有量から算出することができる。
【0027】
前記電極活物質粒子を被覆する炭素質被膜の厚さ(平均値)は、好ましくは0.5nm以上6nm以下、より好ましくは0.8nm以上5nm以下、さらに好ましくは0.8nm以上3nm以下である。炭素質被膜の厚さが0.5nm以上であると炭素質被膜中の電子の移動抵抗の総和が高くなることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の内部抵抗の上昇を抑制でき、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。一方、6nm以下であるとリチウムイオンが炭素質被膜中を拡散することを妨害する立体障害の形成を抑制することができ、これによりリチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、電池の内部抵抗の上昇が抑えられ、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。
なお、前記炭素質被膜の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素質被覆電極活物質を撮影し、得られた断面の画像から炭素質被膜の厚さを100箇所測定し、その平均値から求めることができる。
【0028】
前記電極活物質粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が十分に得られる。
なお、前記炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて炭素質被覆電極活物質を観察し、電極活物質表面を覆っている部分の割合を算出し、その平均値から求めることができる。
【0029】
炭素質被膜の密度は、好ましくは0.2g/cm以上2g/cm以下、より好ましくは0.5g/cm以上1.5g/cm以下である。炭素質被膜の密度とは、炭素質被膜の単位体積当たりの質量である。
炭素質被膜の密度が0.2g/cm以上であると炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すことができる。一方、2g/cm以下であると炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0030】
本実施形態の電極材料に含まれる炭素含有量は、好ましくは0.5質量%以上3.5質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上2.5質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以上2.0質量%以下である。炭素含有量が0.5質量%以上であると、電子伝導性を十分に高めることができる。一方、炭素含有量が3.5質量%以下であると、電極密度を高めることができる。
なお、前記炭素含有量は、炭素分析計(例えば、株式会社堀場製作所製、炭素硫黄分析装置:EMIA−810W)を用いて測定することができる。
【0031】
本実施形態の電極材料に含まれる窒素と炭素との含有量比[(N)/(C)]は、質量比で好ましくは0.0005/0.5〜0.7/3.5、より好ましくは0.05/1.0〜0.36/3.0である。上記含有量比[(N)/(C)]が上記範囲内であると、炭素質被膜の電子伝導性と、Liイオン拡散性との両立を図ることができる。
なお、電極材料に含まれる窒素含有量は、CHN分析計(例えば、株式会社住化分析センター製、SUMIGRAPH NCH−22F)を用いて測定することができる。
【0032】
本実施形態の電極材料は、窒素吸着法により求められる細孔径300nm以下の細孔容積(Va)に占める細孔径50nm以下の細孔容積(Vb)の割合が40%以上である。Vaに占めるVbの割合が40%未満では、電極密度を保ったまま、十分な電解液の浸透性と電解液の保持性とを確保できないおそれがある。また、Vaに占めるVbの割合の上限値としては、好ましくは60%未満である。Vaに占めるVbの割合が60%未満であると電極密度の低下を抑制することができる。
なお、Vaに占めるVbの割合は、電極材料の細孔径分布を、ガス吸着測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:BELSORP−max)を用いて、窒素吸着法(B.J.H.法)により測定し、その細孔径分布データから対応するそれぞれの細孔容積Va及びVbを計算することで求めることができる。
【0033】
前記Vaは、好ましくは0.1cm/g以上0.3cm/g以下、より好ましくは0.12cm/g以上0.25cm/g以下である。Vaが0.1cm/g以上であると電解液の浸透性が十分確保される。一方、0.3cm/g以下であると電極密度の低下を抑制することができる。
また、前記Vbは、好ましくは0.04cm/g以上0.18cm/g以下、より好ましくは0.048cm/g以上0.15cm/g以下である。
【0034】
本実施形態の電極材料の比表面積は、好ましくは10m/g以上30m/g以下、より好ましくは12m/g以上28m/g以下、さらに好ましくは15m/g以上27m/g以下である。比表面積が10m/g以上であると、十分な高速充放電性能を発現することができる。一方、30m/g以下であると、結着剤と導電助剤を多量に含むことなく電極を構成できるため、電池の容量低下を抑制できる。
なお、前記比表面積は、比表面積計(例えば、株式会社マウンテック製、商品名:Macsorb HM model−1208)を用いて窒素(N)吸着によるBET1点法により測定することができる。
【0035】
[電極材料の製造方法]
本実施形態の電極材料の製造方法は、炭素源としてイオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒する第一工程と、前記第一工程で得られた造粒物を非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する第二工程とを有することを特徴とする。
【0036】
(第一工程)
本工程は、炭素源としてイオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒する工程である。
イオン性有機物、電極活物質及び/又は電極活物質前駆体としては、それぞれ前記[電極材料]の項で説明したものを用いることができる。
【0037】
炭素源としてイオン性有機物を用いることにより、イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーの乾燥、造粒中、及び後述する熱処理中に有機物の移動を抑制することができ、良質な炭素質被膜が形成され、電極活物質の粒子成長を抑制することができる。また、イオン性有機物の電荷反発と立体障害により、電極活物質粒子同士の接近を抑制し、高温による電極活物質の粒子成長及び焼結が起こりにくくなり、良質な炭素質被膜で被覆された微細な電極活物質粒子が得られる。さらに、顆粒状に造粒することで、細孔径300nm以下の細孔容積(Va)に占める細孔径50nm以下の細孔容積(Vb)の割合が上述の範囲となり、適度な細孔を有する電極材料を得ることができる。
【0038】
また、イオン性有機物として、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、尿素塩等、含窒素塩基を対イオンとする陰イオン性有機物、あるいは窒素を含有するポリアミン等の陽イオン性有機物を用いることが好ましく、これにより、炭素質被膜中に窒素原子を導入することができ、炭素質被膜の電子伝導性と、Liイオン拡散性との両立を図ることができる。
このように炭素源としてイオン性有機物を用いることにより、ペースト化が容易で塗工性に優れ、且つ、電極化後の電池動作時においては、適度な電解液の浸潤能、保持能を有し、直流抵抗が低く、放電容量及び入出力特性の高い電極材料を得ることができる。
【0039】
まず、イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上とを溶媒に溶解又は分散させて、混合物を調製する。イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上とを溶媒に溶解又は分散させる方法としては、特に限定されないが、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の分散装置を用いることができる。
【0040】
前記溶媒としては、たとえば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
なお、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0041】
イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上との配合比は、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上から得られる活物質100質量部に対して、イオン性有機物から得られる炭素質量で、好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。実際の配合量は加熱炭化による炭化量(炭素源の種類や炭化条件)により異なるが、おおむね1質量部から8質量部程度である。
【0042】
また、イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上とを溶媒に溶解又は分散する際には、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上を溶媒に分散させた後、イオン性有機物を添加し撹拌することが好ましい。
【0043】
次いで、得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒することで、造粒物を得ることができる。
【0044】
(第二工程)
本工程は、第一工程で得られた造粒物を非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する工程である。
非酸化性雰囲気としては、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H)等の還元性ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気が好ましい。また、熱処理時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去する目的で、酸素(O)等の支燃性または可燃性ガスを不活性雰囲気中に導入してもよい。
【0045】
熱処理は、600℃以上1000℃以下、好ましくは650℃以上900℃以下、より好ましくは700℃以上850℃以下、さらに好ましくは700℃以上800℃以下の範囲内の温度で、1〜24時間、好ましくは1〜10時間、より好ましくは1〜6時間、さらに好ましくは1〜3時間行う。
熱処理温度が600℃未満では、イオン性有機物の炭化が不十分となり、電子伝導性を高めることができないおそれがあり、1000℃超過では、電極活物質粒子の分解が生じたり、粒子成長を抑制できないおそれがある。
【0046】
本実施形態の製造方法によれば、粒子表面への吸着能に優れたイオン性有機物を炭素質被膜の前駆体として用いることで、被覆性が高くなる。また、電荷反発と立体障害により、電極活物質粒子同士の接近を抑制することができるため、高温炭化することが可能であり、炭素を過剰に含むことなく、より高電子伝導性の炭素質で被覆された微細で高反応性の電極材料を容易に得ることができるばかりではなく、電解液の浸透性、保持能に優れた、適度な細孔径分布を持つ造粒体とすることができる。このようにして得られる電極材料は、電極密度を高めることができ、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を高めるとともに、高速での充放電を可能にすることができる。
また、本実施形態の電極材料は、比表面積が大きく微小粒子径であるため、特に、電極活物質粒子表面での電荷移動反応や電極活物質粒子内部におけるイオン拡散性が低下する低温の反応においても、良好な反応性を示す。
【0047】
本実施形態の製造方法は、電極活物質の種類によらず適応可能であるが、低コスト、低環境負荷で、電子伝導性の低いオリビン型リン酸塩系電極材料の製造方法として特に有効である。
【0048】
[電極]
本実施形態の電極は、本実施形態の電極材料を用いてなる。
本実施形態の電極を作製するには、上述の電極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、電極形成用塗料又は電極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤を添加してもよい。
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
電極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、電極材料100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部以上30質量部以下、好ましくは3質量部以上20質量部以下とする。
【0049】
電極形成用塗料又は電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン(NMP)等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
次いで、電極形成用塗料又は電極形成用ペーストを、金属箔の一方の面に塗布し、その後、乾燥し、上述の電極材料とバインダー樹脂との混合物からなる塗膜が一方の面に形成された金属箔を得る。
次いで、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、金属箔の一方の面に電極材料層を有する集電体(電極)を作製する。
このようにして、直流抵抗を低下させ、放電容量及び入出力特性を高めることができる電極を作製することができる。
【0051】
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態の電極からなる正極を備える。したがって、本実施形態のリチウムイオン電池は、直流抵抗を低下させ、高い放電容量及び入出力特性を有する。
本実施形態のリチウムイオン電池では、負極、電解液、セパレーター等は特に限定されない。例えば、負極としては、金属Li、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いることができる。また、電解液とセパレーターの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
例えば、本実施例では、導電助剤としてアセチレンブラックを用いているが、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素材料を用いてもよい。また、対極に天然黒鉛を用いた電池で評価しているが、当然ながら人造黒鉛、コークスのような他の炭素材料、Li金属やLi合金等の金属負極、LiTi12の様な酸化物系負極材料を用いてもよい。また、非水電解液(非水電解質溶液)として1mol/LのLiPFを含む、炭酸エチレンと炭酸エチルメチルを体積%で3:7に混合したものを用いているが、LiPFの代わりにLiBFやLiClO、炭酸エチレンの代わりに炭酸プロピレンや炭酸ジエチルを用いてもよい。また、電解液とセパレーターの代わりに固体電解質を用いてもよい。
【0053】
<製造例1:電極活物質(LiFePO)の製造>
LiFePOの合成は以下のようにして水熱合成で行った。
Li源としてLiOH、P源(B源)としてNHPO、Fe源(A源)としてFeSO・7HOを用い、これらを物質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように純水に混合して200mLの均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃で12時間、水熱合成を行った。この反応後に室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。この沈殿物を蒸留水で複数回、十分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持しケーキ状物質とした。このケーキ状物質を若干量採取し、70℃で2時間真空乾燥させて得られた粉末をX線回折装置(製品名:RINT2000、RIGAKU製)で測定したところ、単相のLiFePOが形成されていることが確認された。
【0054】
<製造例2:電極活物質(LiMnPO)の製造>
Fe源として、FeSO・7HOの代わりにMnSO・HOを用い、反応を150℃で12時間の水熱合成とした他は、製造例1と同様にしてLiMnPOを合成した。
【0055】
<製造例3:電極活物質(Li[Fe0.25Mn0.75]PO)の製造>
Fe源として、FeSO・7HO:MnSO・HO=25:75(物質量比)の混合物を用いた以外は、製造例2と同様にしてLi[Fe0.25Mn0.75]POを合成した。
【0056】
<実施例1>
製造例1で得られたLiFePO(電極活物質)20gと、炭素源としてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム1gとを水に混合し、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を温度720℃で2.5時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0057】
<実施例2>
製造例2で得られたLiMnPO(電極活物質)19gと、炭化触媒としてLiFePO 1g相当の炭酸Li−酢酸鉄(II)−リン酸(Li:Fe:P=1:1:1)混合溶液と、炭素源としてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム2.5gとを水に混合し、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を温度750℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0058】
<実施例3>
製造例3で得られたLi[Fe0.25Mn0.75]PO(電極活物質)20gと、炭素源としてカルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:KL−318)1.2gとを水に混合し、アンモニア水を用いてカルボン酸変性ポリビニルアルコールのカルボキシル基の中和率が100mol%となるように中和した。その後、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を温度750℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0059】
<実施例4>
カルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:KL−318)のカルボキシル基の中和率を50mol%となるように中和した以外は実施例3と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0060】
<実施例5>
製造例3で得られたLi[Fe0.25Mn0.75]PO(電極活物質)20gと、炭素源としてカルボン酸アンモニウム系界面活性剤(東亜合成株式会社製、商品名:アロンA−6114)1.2gとを水に混合した。その後、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を温度780℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0061】
<比較例1>
炭素源としてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム2.5gの代わりに、ショ糖2.5gを用いた以外は実施例2と同様にして、比較例1の炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0062】
<比較例2>
カルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:KL−318)を中和せずに用いた以外は実施例3と同様にして、比較例2の炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0063】
<比較例3>
カルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:KL−318)の代わりに未変性のポリビニルアルコールを用いた以外は実施例3と同様にして比較例3の炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0064】
<リチウムイオン電池の作製>
実施例及び比較例で得られた電極材料と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂とを、電極材料:AB:PVdF=90:5:5の重量比で、N−メチルピロリドン(NMP)に混合し、正極材料ペーストとした。得られたペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔上に塗布、乾燥後、所定の密度となるように圧着して電極板とした。
得られた電極板を塗布面の面積が3×3cmでその周りにタブしろを有する板状に打ち抜き、タブを溶接して試験電極を作製した。
一方、対極には天然黒鉛を塗布した塗布電極を用いた。セパレーターとしては、多孔質ポリプロピレン膜を採用した。また、非水電解液(非水電解質溶液)として1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)溶液を用いた。なお、このLiPF溶液に用いられる溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸エチルメチルを体積%で3:7に混合し、添加剤として炭酸ビニレン2%を加えたものを用いた。
そして、以上のようにして作製した試験電極、対極および非水電解液を用いて、ラミネート型のセルを作製し、実施例及び比較例の電池とした。
【0065】
〔電極材料の評価〕
実施例及び比較例で得られた電極材料、及び該電極材料が含む成分について物性を評価した。評価方法は、以下の通りである。なお、結果を表1に示す。
【0066】
(1)電極材料の炭素量
炭素分析計(株式会社堀場製作所製、炭素硫黄分析装置:EMIA−810W)を用いて、電極材料の炭素量(質量%)を測定した。
【0067】
(2)電極材料の窒素量
CHN分析計(株式会社住化分析センター製、SUMIGRAPH NCH−22F)を用いて、電極材料の窒素量(質量%)を測定した。
【0068】
(3)炭素質被膜中に含まれる窒素の割合
前記(1)で得られた炭素量及び前記(2)で得られた窒素量から、炭素質被膜中に含まれる窒素の割合(%)を算出した。
【0069】
(4)電極材料の比表面積
全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名:Macsorb HM model−1208)を用いて、窒素(N)吸着によるBET1点法により測定した。
【0070】
(5)電極活物質の結晶子径
X線回折装置(製品名:RINT2000、RIGAKU製)により測定した粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出した。
【0071】
(6)電極材料の細孔径分布、細孔径300nm以下の細孔容積(Va)、細孔径50nm以下の細孔容積(Vb)
電極材料の細孔径分布を、ガス吸着測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:BELSORP−max)を用いて、窒素吸着法(B.J.H.法)により測定し、その細孔径分布データから対応するそれぞれの細孔容積Va及びVbを計算し、Vaに占めるVbの割合を求めた。
なお、図1に実施例3及び比較例2の電極材料の細孔容積分布を示し、図2に実施例3及び比較例2の電極材料において、細孔直径d(nm)を横軸に、Vaに占めるVbの割合を縦軸にプロットしたグラフを示す。
【0072】
〔電極及びリチウムイオン電池の評価〕
実施例及び比較例で得られたリチウムイオン電池を用いて放電容量と充放電の直流抵抗(DCR)を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(1)放電容量
環境温度30℃にて、実施例1のリチウムイオン電池では、カットオフ電圧を2.5−4.1V(vs天然黒鉛)とし、実施例2〜5、及び比較例1〜3のリチウムイオン電池では、カットオフ電圧を2.5−4.2V(vs天然黒鉛)とし、充電電流を1C、放電電流を5Cとして定電流充放電により放電容量を測定した。
【0074】
(2)充放電の直流抵抗(DCR)
リチウムイオン電池について、環境温度25℃にて0.1Cの電流で5時間充電し、充電深度を調整した(充電率(SOC)50%)。SOC50%に調整した電池に、第1サイクルとして「1C充電を10秒→休止10分→1C放電を10秒→休止10分」、第2サイクルとして「3C充電を10秒→休止10分→3C放電を10秒→休止10分」、第3サイクルとして「5C充電を10秒→休止10分→5C放電を10秒→休止10分」、第4サイクルとして「10C充電を10秒→休止10分→10C放電を10秒→休止10分」を、この順で実施し、その際の各充電、放電時10秒後の電圧を測定した。各電流値を横軸に、10秒後の電圧を縦軸にプロットして近似直線を描き、近似直線における傾きをそれぞれ充電時の直流抵抗(充電DCR)、放電時の直流抵抗(放電DCR)とした。
【0075】
【表1】
【0076】
(結果のまとめ)
実施例では、炭素質被膜の前駆体として、粒子表面への吸着能に優れ、電荷反発と立体障害により、電極活物質粒子同士の接近を抑制可能なイオン性有機物を用いたことで、高温による電極活物質の粒子成長及び焼結が起こりにくくなり、良質な炭素質被膜で被覆された微細な電極活物質粒子が得られただけでなく、さらに噴霧乾燥により球状の顆粒体を得る際にも、該電極活物質粒子同士の接近を抑制し、電解液の浸透性、保持能に優れた、適度な細孔を有した電極材料が得られた(図1及び2参照)。
上記の効果により、炭素質被膜の電子伝導性は十分に向上し、放電容量が増加するとともに、直流抵抗の低減が確認できた。
一方、比較例の電極材料は、熱処理に伴う粒子の成長が起こるとともに、噴霧乾燥により球状の顆粒体を得る際に、電極活物質粒子同士が接近しすぎてしまうため、電解液の浸透性、保持性に適した細孔分布が失われてしまう(図1及び2参照)。その結果、放電容量が低下し、直流抵抗の増加が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の電極材料は、リチウムイオン電池の正極として有用である。
【要約】
【課題】粒子の成長を抑制しつつ、良質な炭素質被膜による被覆を実現するとともに、直流抵抗を低下させ、放電容量及び入出力特性を高めることが可能なリチウムイオン電池を得ることができる電極材料、該電極材料の製造方法、該電極材料を用いてなる電極、及び該電極からなる正極を備えたリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含み、窒素吸着法により求められる細孔径300nm以下の細孔容積に占める細孔径50nm以下の細孔容積の割合が40%以上であることを特徴とする電極材料。
【選択図】なし
図1
図2