特許第6593511号(P6593511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6593511リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6593511
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20191010BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 A
   H01M4/36 C
【請求項の数】3
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-183719(P2018-183719)
(22)【出願日】2018年9月28日
【審査請求日】2018年11月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】忍足 暁
(72)【発明者】
【氏名】小山 将隆
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏次
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−191516(JP,A)
【文献】 特開2017−69028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiFeMn1−w−x−yMgPO(但し、AはCo、Ni、Zn、Al、Ga、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種、0.00≦w≦0.02、0.05≦x≦1.00、0.00≦y≦0.10)で表される電極活物質と、該電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜と、を含むリチウムイオン二次電池用電極材料であって、
前記電極活物質の比表面積が12.4m/g以上かつ20.5m/g以下、
一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が3.9μm以上かつ4.6μm以下
一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90が16.8μm以上かつ21.4μm以下、
一次粒子の表面に存在する炭素質被膜について二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値が1.77nm以上かつ1.97nm以下、
二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値が1.96nm以上かつ2.12nm以下、
一次粒子の表面に存在する炭素質被膜について二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値に対し、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値の比(O/I)が0.87以上かつ0.97以下であり、
結晶子径が64nm以上かつ89nm以下、
炭素量が1.03質量%以上かつ1.95質量%以下、
比表面積当たりの炭素含有量が0.83mg/m以上かつ0.96mg/m以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項2】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用電極であって、
前記電極合剤層は、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
請求項に記載のリチウムイオン二次電池用電極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
オリビン系電極活物質であるLiFeMn1−x−yPO(以下、「LFMP」と言うこともある。)を含む電極を備えた二次電池は、電池充放電サイクルに伴う充放電容量低下が著しいという課題がある。その要因の1つとしては、LFMPからなる電極活物質(以下、「LFMP活物質」と言う。)の電子伝導性が低いことが挙げられる。そこで、電極活物質の表面に導電性炭素質被膜を形成し、この導電性炭素質被膜中の炭素を電子伝導性物質として、電極活物質同士の間に介在させることで、電子伝導性を高めた電極材料が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、LFMP活物質は、充放電反応に伴って、結晶体積が大きく膨張または収縮することが知られている(例えば、特許文献2参照)。充放電反応に伴う結晶体積の大きな膨張収縮の結果、一次粒子同士の接触が外れるため、LFMP活物質は、電子伝導性が劣化する。そのため、LFMP活物質は、抵抗が増加し、充放電容量が低下するという課題がある。
【0004】
この充放電容量の低下の解決策の1つとしては、LFMP活物質の一次粒子の表面に、多量の炭素を担持することが挙げられる。しかしながら、多量に炭素が存在すると、LFMP割合が減少して、電極活物質の充放電容量が低下する。また、LFMP活物質の一次粒子の表面に、過剰に炭素質被膜が存在すると、リチウムイオンの移動を制限する。LFMP活物質の一次粒子の表面に、多量の炭素を担持すると、特に低温環境下において、LFMP活物質は、反応性が低下し、結果として、充放電容量が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−15111号公報
【特許文献2】特許第5928648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、LFMP活物質の充放電反応に伴う大きな結晶体積の変化によっても、一次粒子同士の接触を保持して、電子伝導性を維持し、かつ低温環境下でも充放電容量を保持できるリチウムイオン二次電池用電極材料、そのリチウムイオン二次電池用電極材料を含有するリチウムイオン二次電池用電極、および、そのリチウムイオン二次電池用電極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、一般式LiFeMn1−w−x−yMgPO(但し、AはCo、Ni、Zn、Al、Ga、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種、0.00≦w≦0.02、0.05≦x≦1.00、0.00≦y≦0.10)で表される電極活物質と、該電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜と、を含むリチウムイオン二次電池用電極材料において、一次粒子が凝集してなる二次粒子の粒径を制御し、二次粒子の表面近傍に存在する一次粒子の表面に存在する炭素質被膜の厚さに対し、二次粒子の中心近傍に存在する一次粒子の表面に存在する炭素質被膜の厚さを厚くすることで、充放電反応を繰り返しても一次粒子同士の接触を保持することができ、サイクル増加に伴う充放電容量の低下を抑制し、かつ低温環境下でも充放電容量の保持が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、一般式LiFeMn1−w−x−yMgPO(但し、AはCo、Ni、Zn、Al、Ga、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種、0.00≦w≦0.02、0.05≦x≦1.00、0.00≦y≦0.10)で表される電極活物質と、該電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜と、を含むリチウムイオン二次電池用電極材料であって、前記電極活物質の比表面積が12.4m/g以上かつ20.5m/g以下、一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が3.9μm以上かつ4.6μm以下、一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90が16.8μm以上かつ21.4μm以下、一次粒子の表面に存在する炭素質被膜について二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値が1.77nm以上かつ1.97nm以下、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値が1.96nm以上かつ2.12nm以下、一次粒子の表面に存在する炭素質被膜について二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値に対し、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値の比(O/I)が0.87以上かつ0.97以下であり、結晶子径が64nm以上かつ89nm以下、炭素量が1.03質量%以上かつ1.95質量%以下、比表面積当たりの炭素含有量が0.83mg/m以上かつ0.96mg/m以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用電極であって、前記電極合剤層は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料によれば、LFMP活物質の充放電反応に伴う大きな結晶体積の変化によっても、一次粒子同士の接触を保持することができ、電子伝導性を維持することができる。従って、本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、サイクル特性および低温容量維持に優れる。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有しているため、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池用電極を提供することができる。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えているため、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
[リチウムイオン二次電池用電極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、一般式LiFeMn1−w−x−yMgPO(但し、AはCo、Ni、Zn、Al、Ga、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種、0.00≦w≦0.02、0.05≦x≦1.00、0.00≦y≦0.10)で表される電極活物質と、該電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜と、を含むリチウムイオン二次電池用電極材料であって、一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が0.5μm以上、一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90が25μm以下、一次粒子の表面に存在する炭素質被膜について二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値に対し、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値の比(O/I)が0.85以上かつ1.00未満である。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、主に、リチウムイオン二次電池用正極材料として用いられる。
【0016】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、LiFeMn1−w−x−yMgPOで表わされる電極活物質(一次粒子)、および、その表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体(二次粒子)を含む。以下、LiFeMn1−w−x−yMgPOで表わされる電極活物質(一次粒子)、および、その表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子を、炭素質被覆電極活物質の一次粒子と言うこともある。
【0017】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、炭素質被覆電極活物質の一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が0.5μm以上であり、0.7μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。
粒子径D10の上限値は任意に選択できる。粒子径D10の上限値は8.0μm以下でもよく、7.0μm以下でもよく、6.0μm以下でもよい。
二次粒子における粒子径D10が0.5μm未満では、体積当たりの二次粒子の個数が多くなり過ぎてしまい、電極材料、導電助剤、バインダー樹脂(結着剤)および溶剤を混合して、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際の導電助剤および結着剤の配合量が大きくなり、リチウムイオン二次電池用電極合剤層の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が小さくなるため好ましくない。
【0018】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、炭素質被覆電極活物質の一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90が25μm以下であり、22μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
粒子径D90の下限値は任意に選択できる。粒子径D10の下限値は5μm以上でもよく、7μm以上でもよく8μm以上でもよい。
二次粒子における粒子径D90が25μmを超えると、車載用途リチウムイオン二次電池で一般的な厚さである数十μmの薄い電極において、電極表面に粗大二次粒子に由来する凹凸が生じ、凸部への電流集中により電極内の反応分布が不均一となり充放電性能が低下するため好ましくない。
【0019】
二次粒子の体積粒度分布は、JIS Z8825「粒子径解析−レーザ回折・散乱法」に準ずる方法で測定される。
【0020】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、炭素質被覆電極活物質の一次粒子の表面に存在する炭素質被膜について二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値に対し、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する炭素質被覆電極活物質の一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値の比(O/I)が0.85以上かつ1.00未満であり、0.86以上かつ1.00未満であることが好ましく、0.87以上かつ1.00未満であることがより好ましい。
O/Iが0.85未満では、二次粒子の最表面の炭素厚みが薄すぎてしまい、二次粒子同士、もしくは二次粒子と導電助剤間の電子伝導性が不充分となるため電池特性が低下する。一方、O/Iが1.00を超えると、二次粒子の最表面の炭素厚みが厚すぎてしまい、二次粒子の外部から内側への電解液の移動を阻害され、その結果、Liイオンの移動が阻害されるため電池特性が低下する。
【0021】
炭素質被膜の厚さОおよび炭素質被膜の厚さIは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
炭素質被膜の厚さОは、例えば、次のようにして測定される。電界放射型透過型電子顕微鏡を用いて、リチウムイオン二次電池用電極材料の二次粒子表面に存在する一次粒子の表面について300箇所観察し、二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値を得る。
また、炭素質被膜の厚さIは、例えば、次のようにして測定される。リチウムイオン二次電池用電極材料の粉末を、収束イオンビーム加工−低加速走査電子顕微鏡観察装置を用いて薄膜加工し、電界放射型透過型電子顕微鏡を用いて二次粒子の中央付近に存在する一次粒子の表面について300箇所観察し、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値を得る。
炭素質被膜の厚さOの平均値と炭素質被膜の厚さIの平均値から、炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を得る。
【0022】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の厚さが0.7nm以上かつ5.0nm以下であることが好ましく、0.8nm以上かつ4.5nm以下であることがより好ましく、1.0nm以上かつ4.0nm以下であることがさらに好ましい。
炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の厚さが0.7nm以上であると、炭素質被膜の厚さが薄過ぎるために、所望の抵抗値を有する炭素質被膜を形成することができなくなることを抑制できる。一方、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の厚さが5.0nm以下であれば、電極材料の単位質量当たりの電池容量が低下することを抑制できる。
【0023】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、炭素質被覆電極活物質の結晶子径は、40nm以上かつ150nm以下であることが好ましく、43nm以上かつ130nm以下であることがより好ましく、45nm以上かつ120nm以下であることがさらに好ましい。
炭素質被覆電極活物質の一次粒子の結晶子径が40nm以上であると、電極活物質表面を炭素質被膜で充分に被覆するための炭素量を抑制でき、また結着剤の必要量を抑制できるために、電極中の電極活物質量を増加でき、電池の容量を増加できる。一方、炭素質被覆電極活物質の結晶子径が150nm以下であると、電極活物質の一次粒子の内部におけるリチウムイオン拡散抵抗や電子の移動抵抗が大きくなることを抑制できる。
【0024】
炭素質被覆電極活物質の結晶子径は、X線回折測定により得られた粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅および回折角(2θ)を用いて、シェラーの式により算出される。
【0025】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径は、10nm以上かつ500nm以下であることが好ましく、20nm以上かつ400nm以下であることがより好ましく、20nm以上かつ300nm以下であることがさらに好ましい。
炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径が10nm以上であると、比表面積が大きくなり過ぎることによる、炭素量の増加を抑制することができる。一方、炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径が500nm以下であると、比表面積の大きさから電子伝導性とイオン拡散性が向上することができる。
【0026】
炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、無作為に測定した200個以上の一次粒子の粒子径を個数平均することで求められる。
【0027】
炭素質電極活物質複合粒子の一次粒子の形状は特に限定されないが、球状、特に真球状の粒子からなる電極材料を生成し易いことから、その形状も球状であることが好ましい。
ここで、球状が好ましい理由は、次の通りである。炭素質被膜で被覆されている、電極活物質の一次粒子と、結着剤と、溶媒とを混合して、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができる。さらに、このリチウムイオン二次電池用電極材料ペーストの電極集電体への塗工も容易となる。また、形状が球状であれば、電極活物質の一次粒子の表面積が最小となり、ひいては、添加する結着剤の混合量を最小限にすることができ、得られる電極の内部抵抗を小さくすることができる。
さらに、電極活物質の一次粒子の形状を球状、特に真球状とすることで最密充填し易くなる。これにより、単位体積あたりのリチウムイオン二次電池用電極材料の充填量が多くなり、その結果、電極密度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の高容量化を図ることができるので、好ましい。
【0028】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、炭素質被覆電極活物質の一次粒子で造粒された造粒体(二次粒子)の平均粒子径は、2.0μm以上かつ10μm以下であることが好ましく、2.5μm以上かつ9μm以下であることがより好ましく、3.0μm以上かつ8μm以下であることがさらに好ましい。
二次粒子の平均粒子径が2.0μm以上であると、電極材料、導電助剤、バインダー樹脂(結着剤)および溶剤を混合して、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際の導電助剤および結着剤の配合量を抑えることができ、リチウムイオン二次電池用電極合剤層の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。一方、二次粒子の平均粒子径が10μm以下であると、リチウムイオン二次電池用電極合剤層に含まれる導電助剤や結着剤の分散性、均一性を高めることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
【0029】
二次粒子の平均粒子径は、ポリビニルピロリドン0.1質量%を水に溶解した分散媒に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を懸濁させて、レーザ回折式粒度分析装置を用いて測定される。
【0030】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、比表面積当たりの炭素含有量が0.4mg/m以上かつ1.8mg/m以下であることが好ましく、0.5mg/m以上かつ1.8mg/m以下であることがより好ましく、0.6mg/m以上かつ1.5mg/m以下であることがさらに好ましい。
リチウムイオン二次電池用電極材料の比表面積当たりの炭素含有量が0.4mg/m以上であると、電子伝導性を充分に高めることができる。一方、リチウムイオン二次電池用電極材料の比表面積当たりの炭素含有量が1.8mg/m以下であると、電極密度を高めることができる。
【0031】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料における炭素含有量は、炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA−810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて、測定される。比表面積当たりの炭素含有量は、測定された炭素含有量を、後述の通り測定する比表面積で求めた値を除することで求めることができる。
【0032】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の比表面積は、7m/g以上かつ35m/g以下であることが好ましく、10m/g以上かつ32m/g以下であることがより好ましい。
リチウムイオン二次電池用電極材料の比表面積が7m/g以上であると、電極材料内のリチウムイオンの拡散速度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、比表面積が35m/g以下であると、電子伝導性を高めることができる。
【0033】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の比表面積は、比表面積計を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により測定される。
【0034】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率が70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率が70%以上であると、炭素質被覆の被覆効果が充分に得られる。
【0035】
炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0036】
「電極活物質」
電極活物質は、Li拡散に好適な結晶構造を有する、一般式LiFeMn1−w−x−yMgPO(但し、AはCo、Ni、Zn、Al、Ga、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種、0.00≦w≦0.02、0.05≦x≦1.00、0.00≦y≦0.10)で表される化合物からなる。
LiFeMn1−w−x−yMgPOにおいて、wが、0.00≦w≦0.02を満たすこととした理由は、次の通りである。CoやZnは電圧1.0V〜4.3Vの範囲で電気化学的不活性な元素であり、電子伝導性およびLi拡散性、リチウムイオン(Li)の挿入脱離反応の活性化エネルギーの改善効果が高い。しかしながら、多量の固溶により充放電容量およびエネルギー密度の低減が顕著となるため、エネルギー密度を低減し過ぎない範囲で高レート特性や低温特性等の電池特性を充分に改善可能となる比較的少ない量が固溶可能となる。
【0037】
LiFeMn1−w−x−yMgPOにおいて、xが、0.05≦x≦1.00を満たすこととした理由は、次の通りである。Feは、炭化触媒元素であり、Fe含有により炭素質被膜の被覆性を良好にすることで高レート特性や低温特性などの電池特性を改善できるため、充分な炭化触媒作用を発現可能な含有量とした。
【0038】
LiFeMn1−w−x−yMgPOにおいて、yが、0.00≦y≦0.10を満たすこととした理由は、次の通りである。Mgは電気化学的不活性な元素であり、電子伝導性およびLi拡散性、リチウムイオン(Li)の挿入脱離反応の活性化エネルギーの改善効果が高い。しかしながら、多量の固溶により充放電容量およびエネルギー密度の低減が顕著となるため、エネルギー密度を低減し過ぎない範囲で高レート特性や低温特性等の電池特性を充分に改善可能となる比較的少ない量が固溶可能となる。
【0039】
LiFeMn1−w−x−yMgPOにおいて、Aは、電圧1.0V〜4.3Vの範囲で電気化学的不活性な元素である。電圧1.0V〜4.3Vの範囲で電気化学的不活性とは、具体的には、リチウムイオン二次電池を構成し電圧を1.0V〜4.3Vの範囲で変化させた場合でも、その元素の価数が2価のままで変化せず、充放電容量の発現に寄与しない元素が好ましい。
【0040】
このようなAとしては、Co、Ni、Zn、Al、Ga、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。すなわち、Aは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて(混合して)用いてもよい。
本実施形態におけるLiFeMn1−w−x−yMgPOにおいて、Aが、Coであることが好ましく、CoとZnの混合物であることがより好ましい。AがCoの混合物である場合、上記のwは、0.00≦w≦0.02を満たすことが好ましく、0.003≦w≦0.015を満たすことがより好ましい。
【0041】
「炭素質被膜」
炭素質被膜は、原料となる有機化合物が炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。炭素質被膜の原料となる炭素源は、炭素の純度が42.00%以上かつ60.00%以下の有機化合物由来であることが好ましい。
【0042】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素質被膜の原料となる炭素源の「炭素の純度」の算出方法としては、複数種類の有機化合物を用いる場合、各有機化合物の配合量(質量%)と既知の炭素の純度(%)から、各有機化合物の配合量中の炭素量(質量%)を算出、合算し、その有機化合物の総配合量(質量%)と総炭素量(質量%)から、下記の式(1)に従って算出する方法が用いられる。
炭素の純度(%)=総炭素量(質量%)/総配合量(質量%)×100・・・(1)
【0043】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料によれば、LFMP活物質の充放電反応に伴う大きな結晶体積の変化によっても、一次粒子同士の接触を保持して、電子伝導性を維持することができる。従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、サイクル特性および低温容量維持に優れる。
【0044】
[リチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は、特に限定されない。例えば、Li源、Fe源、Mn源、Mg源、P源およびA源を、水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーαを、125℃以上かつ300℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて、LiFeMn1−w−x−yMgPO粒子を合成する工程と、炭素源を含む水溶媒中にLiFeMn1−w−x−yMgPO粒子を分散させてなる原料スラリーβを乾燥して、造粒した後、450℃以上かつ850℃以下の範囲の温度に加熱することで、LiFeMn1−w−x−yMgPO粒子(一次粒子)の表面を炭素質被膜によって被覆する工程と、を有する方法が挙げられる。
【0045】
LiFeMn1−w−x−yMgPO粒子の合成方法は特に限定されないが、例えば、Li源、Fe源、Mn源、Mg源、P源およびA(Co、Ni、Zn、Al、Ga、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種)源を、水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌してLiFeMn1−w−x−yMgPOの前駆体を含む原料スラリーαを調製する。
【0046】
これらLi源、Fe源、Mn源、Mg源、P源およびA源を、これらのモル比(Li源:Fe源:Mn源:Mg源:P源:A源)、すなわち、Li:Fe:Mn:Mg:P:Aのモル比が2.5〜3.5:0.05〜1.0:0〜0.95:0〜0.10:0〜0.02:0.95〜1.08となるように水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌・混合して原料スラリーαを調製する。
これらLi源、Fe源、Mn源、Mg源、P源およびA源は、均一に混合する点を考慮すると、Li源、Fe源、Mn源、Mg源、P源およびA源をそれぞれ、一旦、水溶液の状態とした後、混合することが好ましい。
この原料スラリーαにおけるLi源、Fe源、Mn源、Mg源、P源およびA源のモル濃度は、高純度であり、結晶性が高くかつ非常に微細なLiFeMn1−w−x−y−zMgPO粒子を得る必要があることから、0.8mol/L以上かつ3.0mol/L以下であることが好ましい。
【0047】
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物、炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩、および、これらの水和物が挙げられる。Li源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
なお、リン酸リチウム(LiPO)は、Li源およびP源としても用いることができる。
【0048】
Fe源としては、例えば、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))等の鉄化合物またはその水和物や、硝酸鉄(III)(Fe(NO)、塩化鉄(III)(FeCl)、クエン酸鉄(III)(FeC)等の3価の鉄化合物や、リン酸鉄リチウム等が用いられる。
【0049】
Mn源としては、Mn塩が好ましく、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl)、硫酸マンガン(II)(MnSO)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO)、酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Mn源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0050】
Mg源としては、Mg塩が好ましく、例えば、塩化マグネシウム(II)(MgCl)、硫酸マグネシウム(II)(MgSO)、硝酸マグネシウム(II)(Mg(NO)、酢酸マグネシウム(II)(Mg(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Mg源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0051】
P源としては、例えば、オルトリン酸(HPO)、メタリン酸(HPO)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリン酸塩、および、これらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0052】
A源としては、コバルト化合物からなるCo源、ニッケル化合物からなるNi源、亜鉛化合物からなるZn源、アルミニウム化合物からなるAl源、ガリウム化合物からなるGa源、カルシウム化合物からなるCa源およびバリウム化合物からなるBa源からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0053】
Co源としては、Co塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Co源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0054】
Ni源としては、Ni塩が好ましく、例えば、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))および、これらの水和物が挙げられる。Ni源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0055】
Zn源としては、Zn塩が好ましく、例えば、塩化亜鉛(II)(ZnCl)、硫酸亜鉛(II)(ZnSO)、硝酸亜鉛(II)(Zn(NO)、酢酸亜鉛(II)(Zn(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Zn源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0056】
Al源としては、例えば、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物等のアルミニウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0057】
Ga源としては、例えば、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物等のガリウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0058】
Ca源としては、Ca塩が好ましく、例えば、塩化カルシウム(II)(CaCl)、硫酸カルシウム(II)(CaSO)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Ca源としては、これらの化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0059】
Ba源としては、Ba塩が好ましく、例えば、塩化バリウム(II)(BaCl)、硫酸バリウム(II)(BaSO)、硝酸バリウム(II)(Ba(NO)、酢酸バリウム(II)(Ba(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Ba源としては、これらの化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0060】
水を主成分とする溶媒とは、水単独、あるいは、水を主成分とし、必要に応じてアルコール等の水性溶媒を含む水系溶媒、のいずれかである。
水性溶媒としては、Li源、Fe源、Mn源、Mg源、P源およびA源を溶解させることのできる溶媒であれば、特に制限されない。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの水性溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
次いで、この原料スラリーαを耐圧容器に入れ、125℃以上かつ300℃以下、好ましくは130℃以上かつ220℃以下の範囲の温度に加熱し、1時間以上かつ72時間以下、水熱処理を行い、LiFeMn1−w−x−yMgPO粒子を得る。
この125℃以上かつ300℃以下の範囲の温度に到達したときの耐圧容器内の圧力は、例えば、0.1MPa以上かつ2MPa以下となる。
この場合、水熱処理時の温度および時間を調整することにより、LiFeMn1−w−x−yMgPO粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0062】
次いで、炭素源を含む水溶媒中に、LiFeMn1−w−x−yMgPO粒子を分散させて、原料スラリーβを調製する。
次いで、この原料スラリーβを、乾燥して、造粒した後、450℃以上かつ850℃以下の範囲の温度にて、1時間以上かつ36時間以下加熱し、LiFeMn1−w−x−yMgPO粒子(一次粒子)の表面を炭素質被膜によって被覆し、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を得る。
【0063】
「炭素源」
炭素源としては、正極活物質の表面に炭素質被膜を形成することができる有機化合物であれば特に限定されない。
有機化合物としては、水への溶解性もしくは水への分散性を有する化合物が好ましい。
例えば、サリチル酸、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシベンゼン、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、フェニルアラニン、水分散型フェノール樹脂等、スクロース、グルコース、ラクトース、マルトデキストリン等の糖類、リンゴ酸、クエン酸などのカルボン酸、アリルアルコール、プロパルギルアルコール等の不飽和一価アルコール、アスコルビン酸、ポリビニルアルコール等が挙げられ、1種類または2種類以上を混合して炭素の純度を42.00%以上として使用することができる。
【0064】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法において、炭素源の添加量(添加率)は、電極活物質と炭素源の合計質量を100質量%とした場合に、0.5質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上かつ10質量%以下がより好ましい。
【0065】
炭素源の添加量が0.5質量%未満であると、リチウムイオン二次電池用電極材料における混合安定性が低下するため好ましくない。一方、炭素源の添加量が15質量%を超えると、相対的に電極活物質の含有量が少なくなり、電池特性が低下するため好ましくない。
【0066】
また、炭素源として、複数種類の有機化合物を用いる場合、その有機化合物の炭素の純度が42.00%以上かつ60.00%以下となるように、上述のように、各有機化合物の配合量を調整する。
【0067】
[リチウムイオン二次電池用電極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極は、電極集電体と、その電極集電体上に形成された電極合剤層(電極)と、を備え、電極合剤層が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有するものである。
すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いて、電極集電体の一主面に電極合剤層が形成されてなるものである。
【0068】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いて、電極集電体の一主面に電極を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合してなる、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する。
【0069】
「結着剤」
結着剤としては、水系で使用できれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸ビニル共重合体や、スチレン・ブタジエン系ラテックス、アクリル系ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス、フッ素系ラテックス、シリコン系ラテックス等の群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0070】
リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストにおける結着剤の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ6質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0072】
リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストにおける導電助剤の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上かつ10質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を含むリチウムイオン二次電池用電極材料ペーストでは、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くするために、溶媒を適宜添加してもよい。
主な溶媒は水であるが、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の特性を失わない範囲内で、アルコール類やグリコール類、エーテル類等の水系溶媒が含有されていてもよい。
【0074】
リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量部とした場合に、60質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、80質量部以上かつ300質量部以下であることがより好ましい。
上記の範囲で溶媒が含有されることにより、電極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを得ることができる。
【0075】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0076】
次いで、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着することにより、電極集電体の一主面に電極合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。
【0077】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極によれば、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有しているため、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池用電極を提供することができる。
【0078】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極からなる正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備えてなる。
【0079】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、電解液、セパレータ等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いることができる。
また、電解液とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0080】
電解液は、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート、EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート、EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解することで作製することができる。
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0081】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を用いたため、サイクル特性に優れる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例5の正極材料を以下のようにして作製した。
【0084】
[実施例1]
Li源と、P源としてのLiPOと、Fe源としてのFeSO水溶液と、Mn源としてのMnSO水溶液と、Mg源としてのMgSO水溶液と、Co源としてのCoSO水溶液とを用い、これらをモル比でLi:Fe:Mn:Mg:Co:P=3.000:0.245:0.700:0.050:0.005:1.000となるように混合して、1000Lの原料スラリーを調製した。
次いで、この原料スラリーを耐圧容器に入れた。
その後、この原料スラリーを、185℃にて4.5時間、加熱反応を行った。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、ケーキ状物質とした。
次いで、このケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液1.78kgと、全体の固形分が20質量%となるように純水を加え、媒体粒子として直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体100質量%に対して、マルトデキストリン粉末が2.37質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得た。このとき、正極活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して9.50質量%とした。
この焼成用原料2.5kgを容積が10Lの黒鉛鞘に敷き詰め、730℃の非酸化性ガス雰囲気下にて1.5時間焼成した。その後、40℃にて30分間保持し、焼成物を得た。
この焼成物を網目の直径が75μmの篩に通して、実施例1のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0085】
炭素源の添加方法として、正極活物質のケーキ状物質に炭素源の水溶液として添加する方法と、スラリーを噴霧乾燥して得られた正極活物質の造粒体に炭素源の粉末として添加する方法を併用した。
正極活物質のケーキ状物質に炭素源の水溶液として添加する方法では、正極活物質の造粒体にまんべんなく炭素源の有機物が被覆可能であるが、その後の焼成工程により表面の有機物が優先的に揮発し造粒体最表面の膜厚Оが薄くなる。
一方、正極活物質の造粒体に炭素源の粉末として添加する方法では、造粒体表面に有機物が多く存在することから焼成工程において造粒体最表面の炭素質被膜の厚さОが薄くなることを防ぐことが可能であるが、正極活物質の造粒体内部への有機物の浸透が不充分となり造粒体内部に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIが薄くなる。そこで、上記2種類の炭素源添加手法を用い、炭素源の水溶液/粉末添加量を調整することで電極材料のО/I比を調整した。
【0086】
「リチウムイオン二次電池の作製」
溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、上記のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、リチウムイオン二次電池用正極材料:AB:PVdF=90:5:5となるように加えて、これらを混合し、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製した。
次いで、このリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。その後、正極合剤層を、所定の密度となるように、所定の圧力にて加圧し、実施例1のリチウムイオン二次電池用正極を作製した。
次いで、このリチウムイオン二次電池用正極を、成形機を用いて直径16mmの円板状に打ち抜き、真空乾燥後、乾燥アルゴン雰囲気下、ステンレススチール(SUS)製の2016コイン型セルを用いて、実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
負極としては金属リチウムを、セパレータとしては多孔質ポリプロピレン膜を、電解液としては1mol/LのLiPF溶液を用いた。LiPF溶液としては、炭酸エチレンと、炭酸エチルメチルとを、体積比で1:1となるように混合したものを用いた。
【0087】
[実施例2]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液1.48kgを加え、また、得られた造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が3.56質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得たこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して9.50質量%とした。
また、実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0088】
[実施例3]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液1.19kgを加え、また、得られた造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が4.75質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得たこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して9.50質量%とした
【0089】
また、実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0090】
[比較例1]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液2.37kgを加え、また、得られた造粒体に対してマルトデキストリン粉末を添加せずに焼成用原料を得たこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して9.50質量%とした。
また、実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0091】
[比較例2]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液0.59kgを加え、また、得られた造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が7.12質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得たこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して9.50質量%とした。
また、実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0092】
[比較例3]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液0.30kgを加え、また、得られた造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が8.31質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得たこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して9.50質量%とした。
また、実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0093】
[比較例4]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液1.19kgを加えた後、この原料を半分に分け、一方には固形分5質量%となるように純水を加え、他方には固形分45質量%となるように純水を加えた。
それぞれの原料を、媒体粒子として直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーをそれぞれ160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された正極活物質の造粒体を得た。
その後、それぞれに得られた造粒体を質量比1:1となるように混合し、混合後の造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が4.75質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得たこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して9.50質量%とした。
また、実施例1と同様にして、比較例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
「実施例5」
Li源と、P源としてのLiPOと、Fe源としてのFeSO水溶液とを用い、これらをモル比でLi:Fe:P=3:1:1となるように混合して、1000Lの原料スラリーを調製した。
次いで、この原料スラリーを耐圧容器に入れた。
その後、この原料スラリーを、205℃にて2.5時間、加熱反応を行った。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、ケーキ状物質とした。
次いで、このケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液1.19kgと、全体の固形分が25質量%となるように純水を加え、媒体粒子として直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された、正極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が2.37質量%となるように添加し混合して焼成用原料を得た。このとき、正極活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して7.12質量%とした。
この焼成用原料2.5kgを容積が10Lの黒鉛鞘に敷き詰め、820℃の非酸化性ガス雰囲気下にて1.5時間焼成した。その後、40℃にて30分間保持し、焼成物を得た。
この焼成物を網目の直径が75μmの篩に通して、実施例5のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
また、実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0095】
[実施例6]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液0.89kgを加え、また、得られた造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が3.56質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得たこと以外は、実施例5と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して7.12質量%とした。
また、実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0096】
[比較例5]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液1.78kgを加え、また、得られた造粒体に対してマルトデキストリン粉末を添加せずに焼成用原料を得たこと以外は、実施例5と同様にして、比較例5のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質にマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して7.12質量%とした。
また、実施例1と同様にして、比較例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0097】
[比較例6]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液0.30kgを加え、また、得られた造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が5.94質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得たこと以外は、実施例5と同様にして、比較例6のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して7.12質量%とした。
また、実施例1と同様にして、比較例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0098】
[比較例7]
ケーキ状物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したマルトデキストリン水溶液0.89kgを加えた後、この原料を半分に分け、片方には固形分5質量%となるように純水を加え、もう片方には固形分45質量%となるように純水を加えた。
それぞれの原料を、媒体粒子として直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーをそれぞれ160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された正極活物質の造粒体を得た。その後、それぞれに得られた造粒体を質量比1:1となるように混合し、混合後の造粒体100質量%に対してマルトデキストリン粉末が3.56質量%となるように添加し混合して、焼成用原料を得たこと以外は、実施例5と同様にして、比較例7のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
このとき、正活物質に添加されるマルトデキストリンの総量を、造粒体100質量%に対して7.12質量%とした。
また、実施例1と同様にして、比較例7のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0099】
「評価」
(1)リチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積
比表面積計(商品名:BELSORP−mini、日本ベル社製)を用いて、実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例7のリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積を、窒素(N)吸着によるBET法により測定した。また、この測定結果に基づいて、リチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積当たりの炭素含有量を算出した。結果を表1に示す。
【0100】
(2)リチウムイオン二次電池用正極材料の結晶子径
X線回折装置(商品名:RINT2000、リガク社製)を用いたX線回折測定により得られた粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅および回折角(2θ)を用いて、シェラーの式により、実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例7のリチウムイオン二次電池用正極材料の結晶子径を算出した。結果を表1に示す。
【0101】
(3)リチウムイオン二次電池用正極材料の炭素量
炭素分析計(商品名:EMIA−220V、堀場製作所社製)を用いて、実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例7のリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素量を測定した。結果を表1に示す。
【0102】
(4)リチウムイオン二次電池用正極材料の粒度分布(D10、D90)
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(商品名:LA−950、堀場製作所社製)を用いて、実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例7のリチウムイオン二次電池用正極材料の粒度分布(二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%のときの粒子径(D10)、二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%のときの粒子径(D90))を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
(5)リチウムイオン二次電池用正極材料の炭素被膜の厚さ
電界放射型透過型電子顕微鏡(商品名:HF2000、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例7のリチウムイオン二次電池用正極材料の二次粒子表面に存在する一次粒子の表面について300箇所観察し、二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値を得た。
また、実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例7のリチウムイオン二次電池用正極材料の粉末を樹脂中に分散、凝固させた。その後、粉末含有樹脂を収束イオンビーム加工−低加速走査電子顕微鏡観察装置(Crоssbeam540)を用いて加速電圧40kVで厚さ200μm程度に薄膜加工し、観察検体を得た。電界放射型透過型電子顕微鏡を用いて二次粒子の中央付近に存在する一次粒子の表面について300箇所観察し、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値を得た。
また、炭素質被膜の厚さOの平均値と炭素質被膜の厚さIの平均値から、炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を得た。結果を表1に示す。
【0104】
(6)リチウムイオン二次電池の容量維持率
実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例7のリチウムイオン二次電池の容量維持率を評価した。
実施例1〜実施例および比較例1〜比較例4のリチウムイオン二次電池では、環境温度25℃にて、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.3Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、4.3Vに到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止した後、環境温度25℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行った。この試験を500サイクル繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量を容量維持率とした。結果を表2に示す。
実施例5〜実施例6および比較例5〜比較例7のリチウムイオン二次電池では、環境温度25℃にて、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.2Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、4.2Vに到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止した後、環境温度25℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行った。この試験を500サイクル繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量を容量維持率とした。結果を表2に示す。
【0105】
(7)リチウムイオン二次電池の低温出力特性
実施例1〜実施例3、実施例5、実施例6および比較例1〜比較例7のリチウムイオン二次電池の低温出力特性を評価した。
実施例1〜実施例および比較例1〜比較例4では、環境温度25℃にて、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.3Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、4.3Vに到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止した後、環境温度25℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行い、25℃放電容量を得た。その後、環境温度25℃にて、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.3Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、4.3Vに到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止した後、環境温度0℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行い、0℃放電容量を得た。この0℃放電容量を、25℃放電容量で除した値を低温出力特性とした。結果を表2に示す。
実施例5〜実施例6および比較例5〜比較例7では、環境温度25℃にて、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.2Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、4.2Vに到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止した後、環境温度25℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行い、25℃放電容量を得た。その後、環境温度25℃にて、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.2Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、4.2Vに到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止した後、環境温度0℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行い、0℃放電容量を得た。この0℃放電容量を、25℃放電容量で除した値を低温出力特性とした。結果を表2に示す。
【0106】
(8)リチウムイオン二次電池の容量維持率と低温出力特性の両立
リチウムイオン二次電池の容量維持率と低温出力特性がどちらも80%以上である場合を「◎」、どちらも75%以上である場合を「○」、どちらも70%以上である場合を「△」、容量維持率と低温出力特性のいずれかが70%未満である場合を「×」とした。結果を表2に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
表1および表2の結果から、実施例1〜実施例と比較例1〜比較例3を比較すると、炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を0.86〜0.93とした実施例1〜実施例は、炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を0.74とした比較例1、炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を1.07とした比較例2、および、炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を1.22とした比較例3に比べて、容量維持率と低温出力特性を両立できることを確認した。
また、表1および表2の結果から、実施例1〜実施例と比較例4を比較すると、粒子径D10を3.9μm〜4.4μm、粒子径D90を16.8μm〜17.8μmとした実施例1〜実施例は、粒子径D10を0.3μm、粒子径D90を34.2μmとした比較例4に比べて、容量維持率と低温出力特性を両立できることを確認した。
また、表1および表2の結果から、実施例5および実施例6と比較例5および比較例6を比較すると、炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を0.88とした実施例5および炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を0.97とした実施例6は、炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を0.76とした比較例5および炭素質被膜の厚さの平均値の比(O/I)を1.11とした比較例6に比べて、容量維持率と低温出力特性を両立できることを確認した。
また、表1および表2の結果から、実施例5および実施例6と比較例7を比較すると、粒子径D10を4.4μm〜4.6μm、粒子径D90を20.1μm〜21.4μmとした実施例5および実施例6は、粒子径D10を0.2μm、粒子径D90を27.5μmとした比較例7に比べて、容量維持率と低温出力特性を両立できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、LFMP活物質と、そのLFMP活物質の表面を被覆する炭素質被膜と、を含み、一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が0.5μm以上、一次粒子が凝集してなる二次粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90が25μm以下、一次粒子の表面に存在する炭素質被膜について二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値に対し、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値の比(O/I)が0.85以上かつ1.00未満であるため、LFMP活物質の充放電反応に伴う大きな結晶体積の変化によっても、一次粒子同士の接触を保持して、電子伝導性を維持し、かつ低温環境下でも充放電容量を保持できるから、から、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性および高速充放電特性が期待される次世代の二次電池に対しても適用することが可能であり、次世代の二次電池の場合、その効果は非常に大きなものである。
【要約】
【課題】LFMP活物質の充放電反応に伴う大きな結晶体積の変化によっても、一次粒子同士の接触を保持して、電子伝導性を維持しかつ低温環境下でも充放電容量を保持できるリチウムイオン二次電池用電極材料を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、LiFeMn1−w−x−yMgPOで表される電極活物質と、その表面を被覆する炭素質被膜とを含み、二次粒子の粒子径D10が0.5μm以上、二次粒子の粒子径D90が25μm以下、一次粒子の表面に存在する炭素質被膜について二次粒子の最表面から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さОの300測定点の平均値に対し、二次粒子の中心から0.3μm以内の範囲に存在する一次粒子の表面の炭素質被膜の厚さIの300測定点の平均値の比(O/I)が0.85以上かつ1.00未満である。
【選択図】なし