特許第6593573号(P6593573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6593573
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】硬化性組成物及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20191010BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20191010BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20191010BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20191010BHJP
   C08G 18/58 20060101ALI20191010BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C08G59/42
   C08G59/32
   C08G18/40 045
   C08G18/42
   C08G18/58 010
   C08J5/24CFC
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-534985(P2019-534985)
(86)(22)【出願日】2019年2月12日
(86)【国際出願番号】JP2019004795
【審査請求日】2019年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2018-27835(P2018-27835)
(32)【優先日】2018年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 厚子
(72)【発明者】
【氏名】松井 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 真実
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−105916(JP,A)
【文献】 特開昭58−191723(JP,A)
【文献】 特開2015−086374(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/051209(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/20−59/38
C08G 18/42−18/46
C08G 18/58
C08G 59/14
C08G 59/42
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン変性エポキシ樹脂(A)を主剤の必須成分とし、酸無水物(B)を硬化剤の必須成分とする硬化性組成物であって、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)が、ポリイソシアネート化合物(a1)、ポリエステルポリオール(a2)及び水酸基含有エポキシ樹脂(a3)を必須の反応原料とする、エポキシ当量が150〜300g/当量の反応生成物であり、かつ主剤中のエポキシ樹脂成分の総質量に対する前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)の割合が30〜100質量%であることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
前記ポリエステルポリオール(a2)が、数平均分子量(Mn)500〜4,000のポリエステルジオールである請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記ポリエステルポリオール(a2)のポリオール原料の80質量%以上が、炭素原子数2〜8の直鎖の脂肪族ジオール化合物である請求項1又は2記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記ポリイソシアネート化合物(a1)のイソシアネート基含有量が、35質量%以上である請求項1〜3の何れか1項記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記主剤が、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)の他、脂肪族エポキシ樹脂を含有する請求項1〜4の何れか1項記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)と、前記脂肪族エポキシ樹脂との質量比[ウレタン変性エポキシ樹脂(A)/脂肪族エポキシ樹脂]が、30/70〜100/0の範囲である請求項記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記脂肪族エポキシ樹脂が、脂肪族ポリオール化合物のグリシジルエーテル化物である請求項5又は6記載の硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項記載の硬化性組成物と、強化繊維とを必須成分とする繊維強化複合材料。
【請求項10】
請求項8記載の硬化物と強化繊維とを必須成分とする繊維強化樹脂成形品。
【請求項11】
請求項9記載の繊維強化複合材料を熱硬化させる繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物における破壊靱性及び引張り強度に優れる硬化性組成物とその硬化物、繊維強化複合材料、繊維強化樹脂成形品、及び繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維で強化した繊維強化樹脂成形品は、軽量でありながら機械強度に優れるといった特徴が注目され、自動車や航空機、船舶等の筐体或いは各種部材をはじめ、様々な構造体用途での利用が拡大している。繊維強化樹脂成形品は、フィラメントワインディング法、プレス成形法、ハンドレイアップ法、プルトルージョン法、RTM法などの成形方法にて繊維強化複合材料を成形し、製造することができる。
【0003】
前記繊維強化複合材料は強化繊維に樹脂を含浸させたものである。繊維強化複合材料に用いられる樹脂には、常温での安定性、及び硬化物の耐久性や強度が求められることから、一般的には熱硬化性樹脂が多用されている。また、前記の通り樹脂を強化繊維に含浸させて用いることから含浸工程において低粘度であるほど好ましい。
【0004】
さらに、繊維強化樹脂成形品の用途によっても樹脂に対する要求特性は異なり、例えば、エンジンなどの構造部品や電線コア材に用いられる場合には、繊維強化樹脂成形品が過酷な使用環境に長期間耐えうるよう、硬化物における耐熱性や機械強度に優れる樹脂が求められる。また、船舶の筐体や部材に用いられる場合には、繊維強化樹脂成形品が水中での長期使用に耐えうるよう、硬化物における機械強度の他、低吸水性に優れる樹脂が求められる。
【0005】
繊維強化複合材料用の樹脂組成物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂含む主剤と、酸無水物を含む硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物が広く知られている(例えば、特許文献1参照。)。このようなエポキシ樹脂組成物は強化繊維への含浸性が高く、硬化物における耐熱性等にも優れる特徴を有するものの、破壊靱性試験や引張り強度試験にて評価される機械強度が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−163573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、硬化物における破壊靱性及び引張り強度に優れる硬化性組成物とその硬化物、繊維強化複合材料、繊維強化樹脂成形品、及び繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、エポキシ樹脂成分としてポリイソシアネート化合物、ポリエステルポリオール及び水酸基含有エポキシ樹脂(a3)を必須の反応原料とするウレタン変性エポキシ樹脂を用い、硬化剤として酸無水物を用いることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、ウレタン変性エポキシ樹脂(A)を主剤の必須成分とし、酸無水物(B)を硬化剤の必須成分とする硬化性組成物であって、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)が、ポリイソシアネート化合物(a1)、ポリエステルポリオール(a2)及び水酸基含有エポキシ樹脂(a3)を必須の反応原料とする反応生成物であることを特徴とする硬化性組成物を提供するものである。
【0010】
本発明は更に、前記硬化性組成物の硬化物、前記硬化性組成物を用いた繊維強化複合材料、繊維強化樹脂成形品、及び繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硬化物における破壊靱性及び引張り強度に優れる硬化性組成物とその硬化物、繊維強化複合材料、繊維強化樹脂成形品、及び繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の硬化性組成物は、ウレタン変性エポキシ樹脂(A)を主剤の必須成分とし、酸無水物(B)を硬化剤の必須成分とする硬化性組成物であって、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)が、ポリイソシアネート化合物(a1)、ポリエステルポリオール(a2)及び水酸基含有エポキシ樹脂(a3)を必須の反応原料とする反応生成物であることを特徴とする。
【0013】
前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)の反応原料である前記ポリイソシアネート化合物(a1)は、例えば、ブタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;ノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート化合物;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;下記構造式(1)で表される繰り返し構造を有するポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート;これらのイソシアヌレート変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0014】
【化1】
[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜6の炭化水素基の何れかである。Rはそれぞれ独立に炭素原子数1〜4のアルキル基、又は構造式(1)で表される構造部位と*印が付されたメチレン基を介して連結する結合点の何れかである。mは0又は1〜3の整数であり、lは1以上の整数である。]
【0015】
前記ポリイソシアネート化合物(a1)の中でも、硬化物における破壊靱性及び引張り強度が高く、かつ、強化繊維への含浸性にも優れる硬化性組成物となることから、各種のジイソシアネート化合物が好ましく、分子構造中に環構造を有するジイソシアネート化合物、即ち、脂環式ジイソシアネート又は芳香族ジイソシアネートがより好ましい。更に、イソシアネート基含有量が35質量%以上であるものが特に好ましい。前記ポリイソシアネート化合物(a1)を複数種併用する場合、その80質量%以上がジイソシアネート化合物であることが好ましく、80質量%以上が脂環式ジイソシアネート又は芳香族ジイソシアネートであることがより好ましい。
【0016】
前記ポリエステルポリオール(a2)は、例えば、多塩基酸原料とポリオール原料とを反応原料とするものが挙げられ、反応原料の一部にラクトン化合物を含んでいてもよい。前記多塩基酸原料の具体例としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体;
【0017】
テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸等の脂環族ジカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体;
【0018】
フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体;
【0019】
1,2,5−ヘキサントリカルボン酸等の3官能以上の脂肪族ポリカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体;
【0020】
1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸等の3官能以上の脂環族ポリカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体;
【0021】
トリメリット酸、無水トリメリット酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸等の3官能以上の芳香族ポリカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。
【0022】
中でも、硬化物における破壊靱性及び引張り強度が高く、かつ、強化繊維への含浸性にも優れる硬化性組成物となることから、2官能の化合物が好ましく、前記脂肪族ジカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体がより好ましく、更に、炭素原子数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体が特に好ましい。多塩基酸原料を複数併用する場合、その80質量%以上が2官能の化合物であることが好ましく、80質量%以上が前記脂肪族ジカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体であることがより好ましく、更に、80質量%以上が炭素原子数4〜10の脂肪族ジカルボン酸化合物、及びこれらの酸無水物や酸ハロゲン化物、アルキルエステル等の誘導体であることが特に好ましい。
【0023】
前記ポリオール原料の具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等の直鎖の脂肪族ジオール化合物;
【0024】
プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチルブタン−14−ブタンジオール、2,3−ジメチル−1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチルペンタン−1,5−ジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−プロピルペンタン−1,5−ジオール、2,2−ジエチル−1,4−ブタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジプロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジエチル−1,6−ヘキサンジオール等の分岐鎖を有する脂肪族ジオール化合物;
【0025】
シクロヘキサンジオールやシクロヘキサンジメタノール等の脂環構造含有ジオール化合物;
【0026】
ビフェノールやビスフェノール等の芳香環含有ジオール化合物;
【0027】
トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等の3官能以上の脂肪族ポリオール化合物;
【0028】
トリヒドロキシベンゼン等の3官能以上の芳香族ポリオール化合物;
【0029】
前記各種のジオール又は3官能以上のポリオール化合物と、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の環状エーテル化合物との開環重合によって得られるポリエーテル変性ポリオール化合物;
【0030】
ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。
【0031】
中でも、硬化物における破壊靱性及び引張り強度が高く、かつ、強化繊維への含浸性にも優れる硬化性組成物となることから、2官能の化合物が好ましく、前記脂肪族ジオール化合物がより好ましく、更に、炭素原子数2〜8の直鎖の脂肪族ジオール化合物が特に好ましい。ポリオール原料を複数併用する場合、その80質量%以上が2官能の化合物であることが好ましく、80質量%以上が前記脂肪族ジオール化合物であることがより好ましく、更に、80質量%以上が炭素原子数2〜8の直鎖の脂肪族ジオール化合物であることが特に好ましい。
【0032】
前記ポリエステルポリオール(a2)は、硬化物における破壊靱性及び引張り強度が高く、かつ、強化繊維への含浸性にも優れる硬化性組成物となることから、ポリエステルジオールであることが好ましい。また、その数平均分子量(Mn)は500〜4,000の範囲であることが好ましく、1,000〜3,000の範囲であることがより好ましい。なお、本願発明においてポリエステルポリオール(a2)の数平均分子量(Mn)は、メーカーの公表値或いは下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。
測定装置:東ソー株式会社製 HLC−8220GPC
カラム :東ソー株式会社製ガードカラム「HXL−L」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G4000HXL」

検出器 :RI(示差屈折計)
測定条件:カラム温度 40℃
溶媒 THF
流速 1.0ml/min
標準 :ポリスチレン標準試料にて検量線作成
試料 :樹脂固形分換算で0.1質量%のTHF溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(注入量:200μl)
【0033】
前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)は、分子構造中に水酸基とグリシジル基とを有するものであれば特に限定されない。また、前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)は一種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、硬化物における破壊靱性及び引張り強度が高く、かつ、強化繊維への含浸性にも優れる硬化性組成物となることから、ジオール化合物をグリシジルエーテル化して得られる、2官能型水酸基含有エポキシ樹脂が好ましい。
【0034】
前記2官能型水酸基含有エポキシ樹脂の理論構造は、例えば、下記構造式(2)で表すことができる。
【0035】
【化2】
(式中Xはジオール化合物に由来する構造部位であり、nは0又は1以上の整数であり、nの平均値は0を超える値である。)
【0036】
前記ジオール化合物は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチルプロパンジオール、1,2,2−トリメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−3−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘサン、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール化合物;ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールS等の芳香族ジオール化合物等が挙げられる。
【0037】
中でも、硬化物における破壊靱性及び引張り強度の他、耐熱性等にも優れる硬化性組成物となることから、前記芳香族ジオール化合物を用いて得られる芳香族2官能型水酸基含有エポキシ樹脂を用いることが好ましい。前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)として複数種を併用する場合には、前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)の総質量に対する前記芳香族2官能型水酸基含有エポキシ樹脂の割合が35質量%以上であることが好ましく、40〜90質量%の範囲であることがより好ましい。
【0038】
前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)のエポキシ当量は、100〜400g/当量の範囲であることが好ましく、100〜250g/当量の範囲であることがより好ましい。また、その水酸基当量は600〜3500g/当量の範囲であることがより好ましい。
【0039】
本願発明において前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)の水酸基当量は以下の方法で測定した値である。
1.フラスコ内に水酸基含有エポキシ樹脂(a3)約100gと無水ジメチルホルムアルデヒド25mLを加え、溶解させた。
2.ジブチル錫ラウレート約30mgと、フェニルイソシアネート無水トルエン溶液(1mol/L)20mLを加え、フラスコを50℃の湯浴に漬けて60分間撹拌した。
3.ジブチルアミン無水トルエン溶液(2mol/L)20mLを加え、室温で30分撹拌した。
4.メチルセロソルブ30mL、ブロムクレゾールグリーン指示薬0.5mLを加え、過塩素酸メチルセロソルブ溶液(1mol/L)を用いて滴定した。同時にブランク測定も行った。
5.下記計算式にて水酸基含有エポキシ樹脂(a3)の水酸基当量を計算した。
(水酸基当量(g/当量))=1000×(水酸基含有エポキシ樹脂(a3)のサンプル量[g])/[(過塩素酸メチルセロソルブ溶液濃度[1mol/L])×{(水酸基含有エポキシ樹脂(a3)溶液の滴定量[mL])−(ブランクの滴定量[mL])}]
【0040】
前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)は、前記ポリイソシアネート化合物(a1)、ポリエステルポリオール(a2)及び水酸基含有エポキシ樹脂(a3)を必須の反応原料とするが、これら以外のその他の反応原料を併用してもよい。その他の反応原料としては、例えば、脂肪族ポリオール、芳香族ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィン型ポリオール、ポリカーボネートポリオール等、前記ポリエステルポリオール(a2)以外のポリオール化合物等が挙げられる。その他の反応原料を用いる場合には、硬化物における破壊靱性及び引張り強度に優れる本発明の効果が十分に発揮されることから、ウレタン変性エポキシ樹脂(A)の反応原料の総質量に対する前記ポリイソシアネート化合物(a1)、ポリエステルポリオール(a2)及び水酸基含有エポキシ樹脂(a3)の合計質量が70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0041】
前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)は、前記ポリイソシアネート化合物(a1)、ポリエステルポリオール(a2)及び水酸基含有エポキシ樹脂(a3)を必須の反応原料とするものであれば、その製造方法は限定されず、如何なる方法にて製造されたものであってもよい。製造方法の一例としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
方法1:全ての反応原料を一括で仕込んで反応させる方法
方法2:前記ポリイソシアネート化合物(a1)、前記ポリエステルポリオール(a2)及び必要に応じて用いるその他のポリオール化合物を反応させてイソシアネート基含有中間体を得、次いで前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)を反応させる方法
方法3:前記ポリイソシアネート化合物(a1)と前記酸基含有エポキシ樹脂(a3)とを反応させてイソシアネート基含有中間体を得、次いで前記ポリエステルポリオール(a2)及び必要に応じて用いるその他のポリオール化合物を反応させる方法
方法4:前記ポリイソシアネート化合物(a1)、前記ポリエステルポリオール(a2)の一部乃至全部、前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)の一部乃至全部、及び必要に応じて用いるその他のポリオール化合物の一部乃至全部を反応させてイソシアネート基含有中間体を得、次いで、前記ポリエステルポリオール(a2)、前記水酸基含有エポキシ樹脂(a3)、前記その他のポリオール化合物の残りを反応させる方法
【0042】
前記方法1〜方法4の何れの場合においても、反応原料中のイソシアネート基と水酸基とのモル比[(NCO)/(OH)]は、保存安定性等に優れる硬化性組成物となることから、1/0.95〜1/5.0の範囲であることが好ましい。
【0043】
また、硬化物における破壊靱性及び引張り強度に優れる効果がより顕著に発現することから、反応原料の総質量に対する前記ポリエステルポリオール(a2)の割合が5〜50質量%の範囲であることが好ましく、15〜35質量%の範囲であることがより好ましい。
【0044】
前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、硬化物における破壊靱性及び引張り強度の他、硬化性や強化繊維への含浸性等にも優れる硬化性組成物となることから、150〜300g/当量の範囲であることが好ましい。
【0045】
本発明の硬化性組成物における主剤は、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)の他、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)以外のその他のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0046】
前記その他のエポキシ樹脂は、例えば、ジグリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルオキシナフタレン、脂肪族エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラフェノールエタン型エポキシ樹脂、フェノール又はナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン又はナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応物型エポキシ樹脂、フェノール性水酸基含有化合物−アルコキシ基含有芳香族化合物共縮合型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、これら以外のナフタレン骨格含有エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0047】
前記脂肪族エポキシ樹脂は、例えば、各種の脂肪族ポリオール化合物のグリシジルエーテル化物が挙げられる。脂肪族エポキシ樹脂は一種類を単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。前記脂肪族ポリオール化合物は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチルプロパンジオール、1,2,2−トリメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−3−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘサン、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール化合物;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等の3官能以上の脂肪族ポリオール化合物等が挙げられる。
【0048】
前記ビフェノール型エポキシ樹脂は、例えば、ビフェノールやテトラメチルビフェノール等のビフェノール化合物をエピハロヒドリンでポリグリシジルエーテル化したものが挙げられる。中でも、エポキシ当量が150〜200g/eqの範囲であるものが好ましい。
【0049】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール化合物をエピハロヒドリンでポリグリシジルエーテル化したものが挙げられる。中でも、エポキシ当量が158〜200g/eqの範囲であるものが好ましい。
【0050】
前記ノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、フェノール、クレゾール、ナフトール、ビスフェノール、ビフェノール等、各種フェノール化合物の一種乃至複数種からなるノボラック樹脂をエピハロヒドリンでポリグリシジルエーテル化したものが挙げられる。
【0051】
前記トリフェノールメタン型エポキシ樹脂は、例えば、下記構造式(3)で表される構造部位を繰り返し構造単位として有するものが挙げられる。
【0052】
【化3】
[式中R、Rはそれぞれ独立に水素原子又は構造式(3)で表される構造部位と*印が付されたメチン基を介して連結する結合点の何れかである。nは1以上の整数である。]
【0053】
前記フェノール又はナフトールアラルキル型エポキシ樹脂は、例えば、グリシジルオキシベンゼン又はグリシジルオキシナフタレン構造が、下記構造式(4−1)〜(4−3)の何れかで表される構造部位にて結節された分子構造を有するものが挙げられる。
【0054】
【化4】
(式中Xは炭素原子数2〜6のアルキレン基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、スルホン基の何れかである。]
【0055】
前記ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂は、例えば、下記構造式(5−1)〜(5−3)の何れかで表されるエポキシ化合物等が挙げられる。
【0056】
【化5】
【0057】
前記その他のエポキシ樹脂の中でも、硬化物における破壊靱性及び引張り強度が高く、かつ、強化繊維への含浸性に優れることから、脂肪族エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂の何れかが好ましく、脂肪族エポキシ樹脂またはビスフェノール型エポキシ樹脂がより好ましく、脂肪族エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0058】
主剤中の各エポキシ樹脂の含有量は特に限定されず、所望の性能や用途等によって適宜調整することができる。より好ましくは、エポキシ樹脂成分の総質量に対する前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)の割合が30〜100質量%の範囲であることが好ましい。前記その他のエポキシ樹脂として脂肪族エポキシ樹脂を用いる場合、両者の質量比[ウレタン変性エポキシ樹脂(A)/脂肪族エポキシ樹脂]が30/70〜100/0の範囲であることが好ましい。
【0059】
本発明の硬化性組成物における硬化剤は、酸無水物(B)を必須成分とする。酸無水物(B)は一種類を単独で用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。酸無水物(B)の具体例としては、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドエチレンテトラヒドロフタル酸、無水トリアルキルテトラヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0060】
本発明では、前記酸無水物(B)と合せて、その他の硬化剤或いは硬化促進剤(B’)を用いても良い。その他の硬化剤或いは硬化促進剤(B’)は、一般的にエポキシ樹脂と酸無水物との硬化促進剤として使用されているものを本発明でも用いることができ、具体的には、イミダゾール誘導体、第3級アミン、アミン錯塩、アミド化合物、フェノール性水酸基含有化合物或いはフェノール樹脂、リン系化合物、尿素誘導体、有機酸金属塩、ルイス酸等が挙げられる。
【0061】
本発明の硬化性組成物において、主剤と硬化剤との配合割合は特に限定されるものではなく、所望の硬化物性能や、用途に応じて適宜調整することができる。配合の一例として、例えば、前記主剤中エポキシ樹脂成分が有するエポキシ基1モルに対し、前記硬化剤中の酸無水物(B)が有する酸無水物基の合計が0.5〜1.05モルの範囲であることが好ましい。
【0062】
また、前記その他の硬化剤或いは硬化促進剤(B’)を用いる場合、その配合割合は特に限定されるものではなく、所望の硬化物性能や、用途に応じて適宜調整することができる。特に、硬化性組成物中0.1〜30質量%の割合で配合することが好ましい。その他の硬化剤或いは硬化促進剤(B’)は、前記酸無水物(B)と共に硬化剤中に配合してもよいし、主剤と硬化剤とを配合する際に添加して用いてもよい。
【0063】
本発明の硬化性組成物は、主剤或いは硬化剤のどちらか一方またはその両方に、他の樹脂成分や、各種添加剤を含有していてもよい。前記その他の樹脂成分としては、例えば、酸変性ポリブタジエン、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などを挙げることができる。
【0064】
前記酸変性ポリブタジエンは、ポリブタジエンを不飽和カルボン酸変性して得られるものが挙げられる。また、市販のものとしては、例えば、エボニック・デグサ社製無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン(polyvest MA75、Polyvest EP MA120等)、クラレ社製無水マレイン酸変性ポリイソプレン(LIR−403、LIR−410)などを使用することができる。
【0065】
前記ポリカーボネート樹脂は、例えば、2価又は2官能型のフェノールとハロゲン化カルボニルとの重縮合物、或いは、2価又は2官能型のフェノールと炭酸ジエステルとをエステル交換法により重合させたものが挙げられる。また、前記ポリカーボネート樹脂は、そのポリマー鎖の分子構造が直鎖構造であるもののほか、これに分岐構造を有していてもよい。
【0066】
前記ポリフェニレンエーテル樹脂は、その樹脂構造にカルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シリル基、水酸基、無水ジカルボキル基等の反応性官能基を、グラフト反応や、共重合等何らかの方法で導入した変性ポリフェニレンエーテル樹脂であってもよい。
【0067】
前記各種添加剤は、例えば、難燃剤或いは難燃助剤、充填材、その他の添加剤、有機溶剤等が挙げられる。前記難燃剤或いは難燃助剤としては、例えば、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩化合物、金属粉、ホウ素化合物、低融点ガラス、フェロセン、アセチルアセトナート金属錯体、有機金属カルボニル化合物、有機コバルト塩化合物、有機スルホン酸金属塩、金属原子と芳香族化合物又は複素環化合物がイオン結合又は配位結合した化合物等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
前記充填材は、例えば、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウム、硼酸マグネシウム、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミや、ケナフ繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、石英繊維等の繊維状補強剤や、非繊維状補強剤等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、これらは、有機物や無機物等で被覆されていてもよい。
【0069】
また、充填材としてガラス繊維を用いる場合、長繊維タイプのロービング、短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバー等から選択して用いることが出来る。ガラス繊維は使用する樹脂用に表面処理した物を用いるのが好ましい。充填材は配合されることによって、燃焼時に生成する不燃層(又は炭化層)の強度を一層向上させることができる。燃焼時に一度生成した不燃層(又は炭化層)が破損しにくくなり、安定した断熱能力を発揮できるようになり、より大きな難燃効果が得られる。さらに、材料に高い剛性も付与することができる。
【0070】
前記その他の添加剤は、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、応力緩和剤、離型剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、衝撃付与剤、摺動性改良剤、相溶化剤、核剤、強化剤、補強剤、流動調整剤、染料、増感材、着色用顔料、ゴム質重合体、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、消泡剤、カップリング剤、防錆剤、抗菌・防カビ剤、防汚剤、導電性高分子等が挙げられる。
【0071】
前記有機溶剤は、例えば、本発明の硬化性組成物を用いてフィラメントワインディング法にて繊維強化樹脂成形品を製造する場合などに有用である。有機溶剤の種類や添加量は特に限定されず、本発明の硬化性組成物が含有する各種化合物の溶解性や、成形工程における作業性等に応じて適宜選択される。その一例としては、例えば、メチルエチルケトンアセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0072】
本発明の硬化性組成物は、塗料や電気・電子材料、接着剤、成型品等、様々な用途に用いることができる。本発明の硬化性組成物はそれ自体を硬化させて用いる用途の他、繊維強化複合材料や繊維強化樹脂成形品等にも好適に用いることができる。
【0073】
本発明の硬化性組成物から硬化物を得る方法としては、一般的なエポキシ樹脂組成物の硬化方法に準拠すればよく、例えば加熱温度条件は、組み合わせる硬化剤の種類や用途等によって、適宜選択すればよい。例えば、硬化性組成物を、室温〜250℃程度の温度範囲で加熱する方法が挙げられる。成形方法なども硬化性組成物の一般的な方法が用いること可能であり、特に本発明の硬化性組成物に特有の条件は不要である。
【0074】
本発明の繊維強化複合材料とは、硬化性組成物を強化繊維に含浸させた後の硬化前の状態の材料のことである。ここで、強化繊維は、有撚糸、解撚糸、又は無撚糸などいずれでも良いが、解撚糸や無撚糸が、繊維強化複合材料において優れた成形性を有することから、好ましい。さらに、強化繊維の形態は、繊維方向が一方向に引き揃えたものや、織物が使用できる。織物では、平織り、朱子織りなどから、使用する部位や用途に応じて自由に選択することができる。具体的には、機械的強度や耐久性に優れることから、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられ、これらの2種以上を併用することもできる。これらの中でもとりわけ成形品の強度が良好なものとなる点から炭素繊維が好ましく、かかる、炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系などの各種のものが使用できる。
【0075】
本発明の硬化性組成物から繊維強化複合材料を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、硬化性組成物を構成する各成分を均一に混合してワニスを調整し、次いで、前記で得られたワニスに強化繊維を一方向に引き揃えた一方向強化繊維を浸漬させる方法(プルトルージョン法やフィラメントワインディング法での硬化前の状態)や、強化繊維の織物を重ねて凹型にセットし、その後、凸型で密閉してから樹脂を注入し圧力含浸させる方法(RTM法での硬化前の状態)等が挙げられる。
【0076】
前記炭素繊維としては、特に限定されるものではないが、機械強度や剛性の観点から、引張り強度が3,000MPa〜7,000MPa範囲であり、引張り伸度が1.5〜2.3%の範囲であり、引張り弾性率が200MPa以上であるものが好ましい。さらに、引張り強度が4,500MPa〜6,500MPaの範囲であり、引張り伸度が1.7〜2.3%の範囲であり、引張り弾性率が230MPa以上であるものがより好ましい。ここで、市販の炭素繊維製品としては、“トレカ(登録商標)”T800S−24000、“トレカ(登録商標)”T700SC−12000、“トレカ(登録商標)”T700SC−24000、“トレカ(登録商標)”T300−3000などが挙げられる。
【0077】
また、炭素繊維束は、一つの繊維束中のフィラメント数が3,000〜5,0000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が3000本を未満になると、繊維が曲がりやすくなる為、強度低下の原因になる場合がある。逆に、50,000以上では樹脂の含浸不良を起こしやすくなる為、5,000〜40,000のフィラメント数がより好ましい。
【0078】
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、繊維強化複合材料の全体積に対する強化繊維の体積含有率が40%〜85%であることが好ましく、強度の点から50%〜70%の範囲であることがさらに好ましい。体積含有率が40%未満の場合、前記硬化性組成物の含有量が多すぎて得られる硬化物の難燃性が不足したり、比弾性率と比強度に優れる繊維強化複合材料に要求される諸特性を満たすことができなかったりする場合がある。また、体積含有率が85%を超えると、強化繊維と樹脂組成物の接着性が低下してしまう場合がある。
【0079】
本発明の繊維強化樹脂成形品とは、強化繊維と硬化性組成物の硬化物とを有する成形品であり、繊維強化複合材料を熱硬化させて得られるものである。本発明の繊維強化樹脂成形品として、具体的には、繊維強化成形品における強化繊維の体積含有率が40%〜85%の範囲であることが好ましく、強度の観点から50%〜70%の範囲であることが特に好ましい。そのような繊維強化樹脂成形品としては、例えば、フロントサブフレーム、リアサブフレーム、フロントピラー、センターピラー、サイドメンバー、クロスメンバー、サイドシル、ルーフレール、プロペラシャフトなどの自動車部品、電線ケーブルのコア部材、海底油田用のパイプ材、印刷機用ロール・パイプ材、ロボットフォーク材、航空機の一次構造材、二次構造材などを挙げることができる。
【0080】
本発明の硬化性組成物から繊維強化成形品を得る方法としては、特に限定されないが、引き抜き成形法(プルトルージョン法)、フィラメントワインディング法、RTM法などを用いることが好ましい。引き抜き成形法(プルトルージョン法)とは、繊維強化複合材料を金型内へ導入して、加熱硬化したのち、引き抜き装置で引き抜くことにより繊維強化樹脂成形品を成形する方法であり、フィラメントワインディング法とは、繊維強化複合材料(一方向繊維を含む)を、アルミライナーやプラスチックライナー等に回転させながら巻きつけたのち、加熱硬化させて繊維強化樹脂成形品を成形する方法であり、RTM法とは、凹型と凸型の2種類の金型を使用する方法であって、前記金型内で繊維強化複合材料を加熱硬化させて繊維強化樹脂成形品を成形する方法である。なお、大型製品や複雑な形状の繊維強化樹脂成形品を成形する場合には、RTM法を用いることが好ましい。
【0081】
繊維強化樹脂成形品の成形条件としては、繊維強化複合材料を50℃〜250℃の温度範囲で熱硬化させて成形することが好ましく、70℃〜220℃の温度範囲で成形することがより好ましい。かかる成形温度が低すぎると、十分な速硬化性が得られない場合があり、逆に高すぎると、熱歪みによる反りが発生しやすくなったりする場合があるためである。他の成形条件としては、繊維強化複合材料を50℃〜100℃で予備硬化させ、タックフリー状の硬化物にした後、更に、120℃〜200℃の温度条件で処理するなど、2段階で硬化させる方法などを挙げることができる。
【0082】
本発明の硬化性組成物から繊維強化成形品を得る他の方法としては、金型に繊維骨材を敷き、前記ワニスや繊維骨材を多重積層してゆくハンドレイアップ法やスプレーアップ法、オス型・メス型のいずれかを使用し、強化繊維からなる基材にワニスを含浸させながら積み重ねて成形、圧力を成形物に作用させることのできるフレキシブルな型をかぶせ、気密シールしたものを真空(減圧)成型する真空バッグ法、あらかじめ強化繊維を含有するワニスをシート状にしたものを金型で圧縮成型するSMCプレス法などが挙げられる。
【実施例】
【0083】
次に、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、以下において「部」及び「%」は特に断わりのない限り質量基準である。
【0084】
製造例1 ウレタン変性エポキシ樹脂(A−1)の製造
窒素導入管、冷却管、温度計および撹拌機をセットした4つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート29質量部を仕込み、80℃まで加熱した。次いで、ポリエステルジオール(エチレングリコールとアジピン酸とを反応原料とする。水酸基価55mgKOH/g、数平均分子量(Mn)2000)161質量部を加えた。その後、ウレタン化触媒(日東化成株式会社製「ネオスタンU−28」)0.1質量部を添加し、更に2時間反応させて、イソシアネート基含有量が2.1質量%である中間体(1)を得た。
次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン850−S」、エポキシ当量188g/当量、水酸基当量2900g/当量)342質量部を加え、80℃の温度条件下、イソシアネート基の消失を確認するまで反応させてウレタン変性エポキシ樹脂(A−1)を得た。ウレタン変性エポキシ樹脂(A−1)のエポキシ当量は293g/当量であった。
【0085】
製造例2 ウレタン変性エポキシ樹脂(A−2)の製造
窒素導入管、冷却管、温度計および撹拌機をセットした4つ口フラスコに、トリレンジイソシアネート23質量部を仕込み、80℃まで加熱した。次いで、ポリエステルジオール(エチレングリコールとアジピン酸とを反応原料とする。水酸基価55mgKOH/g、数平均分子量(Mn)2000)156質量部を加えた。その後、ウレタン化触媒(日東化成株式会社製「ネオスタンU−28」)0.1質量部を添加し、更に2時間反応させて、イソシアネート基含有量が1.8質量%である中間体(2)を得た。
次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン850−S」、エポキシ当量188g/当量、水酸基当量2900g/当量)341質量部を加え、80℃の温度条件下、イソシアネート基の消失を確認するまで反応させてウレタン変性エポキシ樹脂(A−2)を得た。ウレタン変性エポキシ樹脂(A−2)のエポキシ当量は287g/当量であった。
【0086】
製造例3 ウレタン変性エポキシ樹脂(A−3)の製造
窒素導入管、冷却管、温度計および撹拌機をセットした4つ口フラスコに、トリレンジイソシアネート24質量部を仕込み、80℃まで加熱した。次いで、1,4−ブタンジオール型エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX−214」、エポキシ当量137g/当量、水酸基当量1460g/当量)88.8質量部と、ポリエステルジオール(エチレングリコールとアジピン酸とを反応原料とする。水酸基価55mgKOH/g、数平均分子量(Mn)2000)165質量部を加えた。その後、ウレタン化触媒(日東化成株式会社製「ネオスタンU−28」)0.1質量部を添加し、更に2時間反応させて、イソシアネート基含有量が0.8質量%である中間体(3)を得た。
次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン850−S」、エポキシ当量188g/当量、水酸基当量2900g/当量)543質量部を加え、80℃の温度条件下、イソシアネート基の消失を確認するまで反応させてウレタン変性エポキシ樹脂(A−3)を得た。ウレタン変性エポキシ樹脂(A−3)のエポキシ当量は202g/当量であった。
【0087】
製造例4 ウレタン変性エポキシ樹脂(A−4)の製造
窒素導入管、冷却管、温度計および撹拌機をセットした4つ口フラスコに、トリレンジイソシアネート23質量部を仕込み、80℃まで加熱した。次いで、ポリエステルジオール(ヘキサメチレングリコールとアジピン酸とを反応原料とする。水酸基価55mgKOH/g、数平均分子量(Mn)2000)159質量部加えた。その後、ウレタン化触媒(日東化成株式会社製「ネオスタンU−28」)0.1質量部を添加し、更に2時間反応させて、イソシアネート基含有量が1.8質量%である中間体(4)を得た。
【0088】
次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン850−S」エポキシ当量188g/当量、水酸基当量2900g/当量)317質量部を加え、80℃の温度条件下、イソシアネート基の消失を確認するまで反応させてウレタン変性エポキシ樹脂(A−4)を得た。ウレタン変性エポキシ樹脂(A−4)のエポキシ当量は285g/当量であった。
【0089】
製造例5 ウレタン変性エポキシ樹脂(A−5)の製造
窒素導入管、冷却管、温度計および撹拌機をセットした4つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート29質量部を仕込み、80℃まで加熱した。次いで、ポリエステルジオール(エチレングリコールとアジピン酸とを反応原料とする。水酸基価55mgKOH/g、数平均分子量(Mn)2000)161質量部を加えた。その後、ウレタン化触媒(日東化成株式会社製「ネオスタンU−28」)0.1質量部を添加し、更に2時間反応させて、イソシアネート基含有量が2.0質量%である中間体(1)を得た。
次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン850−S」、エポキシ当量188g/当量、水酸基当量2900g/当量)342質量部、1,4−ブタンジオール型エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX−214」、エポキシ当量137g/当量、水酸基当量1460g/当量)188質量部、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX−321」、エポキシ当量140g/当量、水酸基当量695g/当量)280質量部を加え、80℃の温度条件下、イソシアネート基の消失を確認するまで反応させてウレタン変性エポキシ樹脂(A−5)を得た。ウレタン変性エポキシ樹脂(A−5)のエポキシ当量は190g/当量であった。
【0090】
実施例1〜5及び比較例1
下記表1に示す配合に従って各成分を配合し、均一に撹拌混合して、硬化性組成物を得た。該硬化性組成物について、下記の要領で各種評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0091】
実施例及び比較例で用いた各成分の詳細は下記の通りである。
・脂肪族ポリオール型エポキシ樹脂(C−1):ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX−214」、1,4−ブタンジオール型エポキシ樹脂、エポキシ当量137g/当量、
・脂肪族ポリオール型エポキシ樹脂(C−2):ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX−321」、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、エポキシ基当量140g/当量
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:DIC株式会社製「EPICLON 850−S」エポキシ当量188g/当量
・酸無水物(B−1):無水メチルテトラヒドロフタル酸(DIC株式会社製「EPICLON B−570−H」)
・硬化促進剤:N,N−ジメチルベンジルアミン
【0092】
引張り強度試験
フィラメントワインディング装置を用い、炭素繊維(東レ株式会社製、「T700SC−12,000」)に硬化性組成物を含浸させながら巻き取り、120℃で2時間、次いで140℃で2時間加熱硬化させ、繊維体積含有率(Vf)60%、厚さ2mmの繊維強化樹脂成形物を得た。この板を切断し、JIS K7161に準拠して引っ張り試験を実施した。
【0093】
破壊靱性の測定
200mm×100mm×6mmの型枠に硬化性組成物を流し込み、120℃で2時間、次いで140℃で2時間加熱硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物について、ASTM D 5045に準拠し、KICの値を測定した。
【0094】
【表1】
【要約】
本発明は、ウレタン変性エポキシ樹脂(A)を主剤の必須成分とし、酸無水物(B)を硬化剤の必須成分とする硬化性組成物であって、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(A)が、ポリイソシアネート化合物(a1)、ポリエステルポリオール(a2)及び水酸基含有エポキシ樹脂(a3)を必須の反応原料とする反応生成物であることを特徴とする硬化性組成物を提供する。この硬化性組成物は、破壊靱性及び引張り強度に優れた硬化物を形成することができる。