特許第6593603号(P6593603)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6593603液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593603
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20191010BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
【請求項の数】8
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-529640(P2016-529640)
(86)(22)【出願日】2015年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2015068245
(87)【国際公開番号】WO2015199149
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2018年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-130396(P2014-130396)
(32)【優先日】2014年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】巴 幸司
(72)【発明者】
【氏名】野田 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】坂本 謙治
(72)【発明者】
【氏名】川野 勇太
【審査官】 磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/002501(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/115228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(i)、(ii)のジアミンから選ばれる少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分から得られる可溶性ポリイミドを含有することを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
式中、Dは2価の炭素数1〜20の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基または複素環を表し、Dは種々の置換基を有していてもよい。Eは単結合、または、2価の炭素数1〜20の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基もしくは複素環であり、Fは単結合またはエーテル結合(−O−)、エステル結合(−OCO−、−COO−)を表す。mは、1または0である。
【請求項2】
さらに、式(iii)〜(vi)で表される化合物を少なくとも1種以上用いて得られるポリアミック酸を含有することを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
式(vi)中、Rは水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表す。
【請求項3】
前記可溶性ポリイミドと前記ポリアミック酸とを合計で1〜10質量%含有し、かつ前記ポリイミドの重量と前記ポリアミック酸の重量の比が95:5〜5:95である請求項2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記可溶性ポリイミドが、式(i)、(ii)のジアミンから選ばれる少なくとも1種のジアミンを10〜90モル%含有するジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物から得られる可溶性ポリイミドである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記可溶性ポリイミドのイミド化率が20%〜100%である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記可溶性ポリイミドが、式(vii)〜式(x)から選ばれる少なくとも1種以上のジアミンを含有するジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物から得られる可溶性ポリイミドである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化3】
nは1〜6の整数を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5の直鎖アルキレン基である。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の液晶配向剤を用いて得られる液晶配向膜。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶配向膜を具備したことを特徴とする液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に横電界駆動方式の液晶表示素子に用いられる液晶配向剤、それを用いた液晶配向膜、及び横電界駆動方式液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子において、液晶配向膜は液晶を一定の方向に配向させるという役割を担っている。現在、工業的に利用されている主な液晶配向膜は、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸(ポリアミド酸ともいわれる。)やポリイミドの溶液からなるポリイミド系の液晶配向剤を、基板に塗布し成膜することで作製される。また、基板面に対して液晶を平行配向又は傾斜配向させる場合は、成膜した後、更にラビングによる表面延伸処理が行われている。また、ラビング処理に代わるものとして偏光紫外線照射等による異方性光化学反応を利用する方法も提案されており、近年では工業化に向けた検討が行われている。
【0003】
液晶表示素子の表示特性の向上のために、ポリアミック酸やポリイミドの構造を種々変更し、最適化を行なったり、特性の異なる樹脂をブレンドしたり、添加剤を加えるなどにより、液晶配向性の改善やプレチルト角のコントロール、電気特性などの改善などが可能となり、更なる表示特性の改善を行なうことができるとして、数々の技術が提案されてきた。例えば、高い電圧保持率を得るために、特定の繰り返し構造を有するポリイミド樹脂を用いることが提案されている(特許文献1等参照)。また、残像現象に対し、イミド基以外に窒素原子を有する可溶性ポリイミドを用いることにより、残像が消去されるまでの時間を短くすることが提案されている(特許文献2等参照)。また、オキサゾールやイミダゾール骨格を含む特定のジアミンとテトラカルボン酸二無水物から得られるポリアミック酸やその誘導体が提案されている(特許文献3)。
【0004】
近年では大画面で高精細の液晶テレビや、車載用途、例えば、カーナビゲーションシステムやメーターパネルなどの用途に液晶表示素子が多く用いられている。こうした用途では、高輝度を得るために、発熱量の大きいバックライトを使用する場合がある。このため、液晶配向膜には、さらに別の観点からの高い信頼性、すなわち、バックライトからの光や熱に対する高い安定性が要求されるようになっている。特に、電気特性の1つである電圧保持率が、バックライトからの光照射によって低下してしまうと、液晶表示素子の表示不良の1つである焼付き不良(線焼付き)が発生しやすくなってしまい、信頼性の高い液晶表示素子を得ることができなくなる。また、横電界モードは配向方位のズレによる焼き付き(AC焼き付き)が課題であり、特に熱により発生しやすくなるため、解決が難しくなってきている。したがって、液晶配向膜においては、初期特性が良好なことに加え、例えば、光照射に長時間曝された後であっても、電圧保持率が低下しにくいことも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−287324号公報
【特許文献2】特開平10−104633号公報
【特許文献3】特開2010−54872号公報
【特許文献4】WO2006−126555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、基板等への印刷性(ポリマーの溶剤への溶解性)が良好である液晶配向剤の提供、及びラビング耐性に優れ、表示特性も良好であることに加え、信頼性に乏しい液晶を用いた場合や、高温やバックライト光に長期に渡り晒された場合に対し、優れた信頼性を有する横電界駆動方式の液晶表示素子用液晶配向膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、特定の可溶性ポリイミド及びポリアミック酸を含む液晶配向剤が上記の目的を達成するために極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の要旨を有するものである。
【0009】
<1>下記式(i)、(ii)のジアミンから選ばれる少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分から得られる可溶性ポリイミドを含有することを特徴とする液晶配向剤。
【0010】
【化1】
【0011】
式中、Dは2価の炭素数1〜20の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基または複素環を表し、Dは種々の置換基を有していてもよい。Eは単結合、または、2価の炭素数1〜20の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基もしくは複素環であり、Fは単結合またはエーテル結合(−O−)、エステル結合(−OCO−、−COO−)を表す。mは、1または0である。
【0012】
<2>さらに、式(iii)〜(vi)で表される化合物を少なくとも1種以上用いて得られるポリアミック酸を含有することを特徴とする<1>に記載の液晶配向剤。
【0013】
【化2】
【0014】
式(vi)中、Rは水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を表す。
【0015】
<3>前記可溶性ポリイミドが、式(i)、(ii)のジアミンから選ばれる少なくとも1種のジアミンを10〜90モル%含有するジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物から得られる可溶性ポリイミドである、<1>または<2>に記載の液晶配向剤。
【0016】
<4>前記可溶性ポリイミドのイミド化率が20%〜100%である<1>から<3>のいずれか1つに記載の液晶配向剤。
【0017】
<5>前記可溶性ポリイミドが、式(vii)〜式(x)から選ばれる少なくとも1種以上のジアミンを含有するジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物から得られる可溶性ポリイミドである、<1>から<4>のいずれか1つに記載の液晶配向剤。
【0018】
【化3】
【0019】
nは1〜6の整数を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5の直鎖アルキレン基である。
【0020】
<6>前記可溶性ポリイミドと前記ポリアミック酸とを合計で1〜10質量%含有し、かつ前記ポリイミドの重量と前記ポリアミック酸の重量の比が95:5〜5:95である<1>〜<5>のいずれか1つに記載の液晶配向剤。
【0021】
<7><1>〜<6>に記載の液晶配向剤を用いて得られる液晶配向膜。
【0022】
<8><7>に記載の液晶配向膜を具備したことを特徴とする液晶表示素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液晶配向剤は、上記式(i)、(ii)のジアミンから選ばれる少なくとも1種のジアミン(以下、特定ジアミンとも称する)を含有するジアミン成分と、テトラカルボン酸二無水物から得られる可溶性ポリイミドを含有することを特徴としている。上記の可溶性ポリイミドは溶媒への溶解性が高く、ポリアミック酸とブレンドした際のポリアミック酸への相溶性も非常に良好なため、それらを用いた液晶配向剤は基板への塗布・成膜性に優れ、凹凸の少ない良質の膜を得ることができる。加えて、特定ジアミンは、加熱により高活性な置換基を発生する特徴を有し、一部は自ら縮合反応を起こし直線性の良い構造に変化し、またアミック酸と接している部分においてはアミック酸の特定部位と反応するため、液晶配向性に優れ、かつラビング耐性に優れた液晶配向膜が得られる。それに付随し、良質な黒表示も可能となる。
【0024】
更に、上記の可溶性ポリイミドは光や熱に対して非常に安定であり、またイオン性不純物などの影響を非常に小さくする働きがあるため、上記の可溶性ポリイミドを含有する液晶配向膜は、コンタミに非常に弱いネガ型液晶などにおいても非常に高い信頼性を得ることができる。
【0025】
また、式(iii)〜(vi)で表される化合物を用いたポリアミック酸は、配向膜内に蓄積した残留電荷を速やかに放出する特性があり、これにより焼き付き特性に優れた配向膜が得ることができる。一方でこのようなポリアミック酸を用いた配向膜は信頼性に乏しくなる傾向があるが、本発明の可溶性ポリイミドと組み合わせることにより優れた信頼性と優れた焼き付き特性を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明について詳細に説明する。
<可溶性ポリイミド>
本発明の液晶配向剤は、特定ジアミンを含有するジアミン成分と、テトラカルボン酸二無水物から得られる可溶性ポリイミドを含有する。特定ジアミンは、熱によって脱離し得る有機基を有している。該有機基の脱離により、アミノ基を発生させることが出来る。
【0027】
【化4】
【0028】
式中、Dは2価の炭素数1〜20の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基または複素環を表し、Dは種々の置換基を有していてもよい。また、Eは単結合、または、2価の炭素数1〜20の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基もしくは複素環であり、Fは単結合またはエーテル結合(−O−)、エステル結合(−OCO−、−COO−)を表す。mは、1または0である。
【0029】
上記式(i)および(i)中のアミノ基の置換位置は特に限定されないが、合成難易度や試薬の入手性の観点では、アミド結合を基準とすると、メタまたはパラの位置が好ましく、液晶配向性の観点ではパラの位置が特に好ましい。また第三級ブトキシカルボニル基(以下Boc基とも記載する)で保護されたアミノ基(すなわち−NHBoc)を有さないアミノベンゼンにおいても、同様にアミド結合を基準としたときに、メタまたはパラの位置が好ましく、溶解性の観点ではメタの位置が好ましく、液晶配向性の観点ではパラの位置が好ましい。また、―NHBocを有さないアミノベンゼンの水素は有機基やフッ素などのハロゲン原子などで置換されていても良い。
【0030】
式(i)中のDは限定されず、原料として使用するジカルボン酸やテトラカルボン酸二無水物などの構造によって、構造を種々選択することが出来る。Dとしては、溶解性の観点では2価の炭化水素基などが好ましく、直鎖アルキレン基や環状アルキレン基などが好ましい例として挙げられ、この炭化水素基は不飽和結合を有していても良い。また液晶配向性や電気特性の観点では、2価の芳香族炭化水素基や複素環などが好ましい。液晶配向性の観点からはDは置換基を有さないほうが好ましいが、溶解性の観点では、水素原子がカルボン酸基やフッ素原子などで置換されているものが好ましい。
【0031】
本発明の液晶配向剤における可溶性ポリイミドを合成する際のジアミン成分中、特定ジアミンの割合については特に限定はなく、溶解性の改良や電気特性の改良など、種々の機能の付与を目的とする場合において調整される。横電界方式で用いる場合、式(vii)〜式(x)で表されるジアミンを組み合わせることによって、非常に優れた液晶配向性を得ることができる。
【0032】
【化5】
【0033】
式(viii)、(ix)中、nは1〜6の整数を表し、式(x)中、Rは水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5の直鎖アルキレン基である。
【0034】
具体的には、本発明に使用される特定ジアミンの割合は1〜90モル%であり、好ましくは1〜50モル%であり、より好ましくは5〜30モル%である。また、(vii)〜(x)で表されるジアミンは少なくとも10モル%以上含有していることが好ましい。
【0035】
可溶性ポリイミドの合成に用いられるジアミンとしては、種々の機能の付与を目的として、上述のジアミン以外に他のジアミンを併用してもよい。他のジアミンの具体的な構造は下記一般式(3)で表される。
【0036】
【化6】
【0037】
Yは二価の有機基を表す。その一例を以下に示すが、それに限定されない。尚、点がついている部分が−NHの窒素に結合する部分を意味する。
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
【化9】
【0041】
【化10】
【0042】
液晶配向性を向上させる目的で、導入することが好ましいジアミンの例として、Y−20、Y−29、Y−30、Y−31、Y−32、Y−33、Y−40、Y−47、Y−48、Y−53、Y−54、Y−55、Y−56、Y−58、Y−59、Y−60、Y−61、Y−64、Y−68、Y−69、Y−70、Y−71が挙げられる。一方で、配向性の良いモノマーは直線構造のものが多く、可溶性ポリイミドに用いられる場合、ポリイミドの溶解性が不足し、調整できなくなる可能性がある。これに関しては後に説明するテトラカルボン酸二無水物の構造を種々選択することで解決できる場合がある。溶解性と液晶配向性の観点から特に好ましい構造としてはY−29、Y−30、Y−31、Y−32、Y−60などが挙げられる。また、Y−29、Y−30、Y−31、Y−32においては、脂肪族アミンの水素の一つがメチル基やエチル基等の比較的炭素数の小さなアルキル基やアルケニル基、アルキニル基に置き換わっていても良く、良好な特性をえることが出来るため、好ましい。
【0043】
また、複素環化合物や、窒素原子や硫黄原子などを含有するようなジアミンを用いることで焼き付き特性を向上させることが出来る。その好ましい構造の一例を以下に示す。
【0044】
【化11】
【0045】
【化12】
【0046】
また、液晶配向膜の機械強度向上や、長期信頼性の向上、溶解性の向上などを目的とする場合、以下に示すような側鎖状の官能基を有するジアミンの併用が好ましい。
【0047】
【化13】
【0048】
【化14】
【0049】
ポリアミック酸及び可溶性ポリイミドの合成に使用されるテトラカルボン酸二無水物は下記式(4)で表される。
【0050】
【化15】
【0051】
Xは4価の有機基であり、その構造は特に限定されない。
【0052】
本発明に使用されるテトラカルボン酸二無水物の種類は特に制限は無く、液晶配向膜にした際の液晶配向性、プレチルト角、電圧保持特性、蓄積電荷などの特性に応じて、1種類または2種類以上併用することができる。
【0053】
具体的なXの例を以下に示すが、これらの構造に限定はしない。
【0054】
【化16】
【0055】
【化17】
【0056】
【化18】
【0057】
上述の構造のうち、溶解性の観点ではX−1〜26に示すような脂環式のテトラカルボン酸二無水物が好ましく、X−2、X−3、X−4、X−6、X−9、X−10、X−11、X−12、X−13、X−14、X−15、X−16、X−17、X−18、X−19、X−20、X−21、X−22、X−23、X−24、X−25、X−26が好ましい。一方、配向性の観点ではX−27〜46のような芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、特にX−27、X−28、X−33、X−34、X−35、X−40、X−41、X−42、X−43、X−44、X−45、X−46が好ましい。
【0058】
特に好ましくは、配向性と溶解性を程よく有するX−1、X−2、X−18〜22、X−25、X−26である。
【0059】
<ポリアミック酸>
本発明の液晶配向剤に使用されるポリアミック酸は、液晶配向膜中に発生する残留電荷(以後RDCと表記)を速やかに放出する役割を担うため、原料として式(iii)〜(vi)で表される化合物が少なくとも1種以上用いられることを特徴としている。式(iii)〜(v)で表されるテトラカルボン酸二無水物は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。また、式(vi)で表されるジアミンを用いる場合、(iii)〜(v)で表されるテトラカルボン酸二無水物を併用することで更なるRDCの放出を促進することができる。一方で、式(vi)のジアミンのみでも優れたRDCの放出能力があるため、脂肪族テトラカルボン酸二無水物と組み合わせても良好な特性が得られる。
【0060】
【化19】
【0061】
(iii)〜(v)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、本発明で使用されるポリアミック酸の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物全体に対して、20モル%〜100モル%が好ましく、40モル%〜100モル%がより好ましい。また、式(vi)で表されるジアミンは、本発明で使用されるポリアミック酸の合成に用いられるジアミン成分全体に対して、20モル%〜100モル%が好ましく、40%〜90%がより好ましい。
【0062】
本発明で使用されるポリアミック酸は、式(iii)〜(vi)の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物以外に、上述したジアミン及びテトラカルボン酸二無水物を併用しても良く、式(i)および(ii)を使用していても良い。また、必要に応じて以下Y−112〜143に示すような側鎖ジアミンを使用しても良い。
【0063】
【化20】
【0064】
【化21】
【0065】
Y−112〜Y−116中、Aは、炭素数2〜24のアルキル基又はフッ素含有アルキル基である。
【0066】
【化22】
【0067】
式Y−117〜Y−118中、Aは、−O−、−OCH−、−CHO−、−COOCH−、又は−CHOCO−を示し、Aは炭素数1〜22のアルキル基、アルコキシ基、フッ素含有アルキル基又はフッ素含有アルコキシ基である。
【0068】
【化23】
【0069】
式Y−119〜Y−121中、Aは、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−COOCH−、−CHOCO−、−CHO−、−OCH−、又は−CH−を示し、Aは炭素数1〜22のアルキル基、アルコキシ基、フッ素含有アルキル基又はフッ素含有アルコキシ基である。
【0070】
【化24】
【0071】
式Y−122〜Y−123中、Aは、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−COOCH−、−CHOCO−、−CHO−、−OCH−、−CH−、−O−、又は−NH−を示し、Aはフッ素基、シアノ基、トリフルオロメタン基、ニトロ基、アゾ基、ホルミル基、アセチル基、アセトキシ基、又は水酸基である。
【0072】
【化25】
【0073】
Y−124及び式Y−125中、Aは、炭素数3〜12のアルキル基であり、1,4−シクロヘキシレンのシス−トランス異性は、それぞれトランス異性体である。
【0074】
【化26】
【0075】
式Y−126及び式Y−127中、Aは、炭素数3〜12のアルキル基であり、1,4−シクロヘキシレンのシス−トランス異性は、それぞれトランス異性体である。
【0076】
【化27】
【0077】
【化28】
【0078】
式[Y−136]〜式[Y−141]中、A12は、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CH−、−O−、−CO−、又は−NH−を示し、A13は炭素数1〜22のアルキル基又はフッ素含有アルキル基を示す。
【0079】
【化29】
【0080】
<可溶性ポリイミドとポリアミック酸の製造>
本発明に使用されるポリイミドを製造する際、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜305,000であり、より好ましくは、20,000〜210,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、5,000〜152,500であり、より好ましくは、10,000〜105,000である。
【0081】
本発明の液晶配向剤に含有される可溶性ポリイミドとポリアミック酸は、次のようにして製造される。なお、可溶性ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸をイミド化して得られるが、可溶性ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸と、可溶性ポリイミドと混合されるポリアミック酸との違いは、前者は、その原料となるジアミン成分として、特定ジアミンを使用することにある。
【0082】
可溶性ポリイミドと混合されるポリアミック酸、及び可溶性ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、いずれも、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを有機溶媒中で重縮合させることにより製造される。
【0083】
テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを有機溶媒中で重縮合させる方法としては、ジアミン成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液を攪拌させ、テトラカルボン酸二無水物成分をそのまま、又は有機溶媒に分散あるいは溶解させて添加する方法、逆にテトラカルボン酸二無水物成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液にジアミン成分を添加する方法、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを交互に添加する方法などが挙げられる。また、テトラカルボン酸二無水物成分又はジアミン成分が複数種の化合物からなる場合は、これら複数種の化合物をあらかじめ混合した状態で重縮合反応させてもよく、個別に順次重縮合反応させてもよい。
【0084】
テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを有機溶剤中で重縮合反応させる際の温度は、通常0〜150℃、好ましくは5〜100℃、より好ましくは10〜80℃である。温度が高い方が重縮合反応は早く終了するが、温度が高すぎると高分子量の重合体が 得られない場合がある。
【0085】
また、重縮合反応は任意の濃度で行うことができるが、濃度が低すぎると高分子量の重合体を得ることが難しくなり、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分との合計質量の濃度が高すぎると反応液の粘性が高くなり過ぎて均一な攪拌が困難となるので、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%である。重縮合反応初期は高濃度で行い、その後、有機溶媒を追加しても構わない。
【0086】
上記反応の際に用いられる有機溶媒は、生成したポリアミック酸が溶解するものであれば特に限定されない。その具体例を挙げるならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。これらは単独でも、また混合して使用してもよい。さらに、ポリアミック酸を溶解させない溶媒であっても、生成したポリアミック酸が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。
【0087】
また、有機溶媒中の水分は重縮合反応を阻害し、さらには生成したポリアミック酸を加水分解させる原因となるので、有機溶媒はなるべく脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0088】
ポリアミック酸の重縮合反応に用いるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分の比率は、モル比で1:0.8〜1:1.2であることが好ましく、このモル比が1:1に近いほど得られるポリアミック酸の分子量は大きくなる。
【0089】
上記のようにしてポリアミック酸は製造され、可溶性ポリイミドと混合されるポリアミック酸は、本発明の液晶配向剤の一成分として使用される。一方、可溶性ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、イミド化される。ポリアミック酸のイミド化は、有機溶媒中において、好ましくは塩基性触媒と酸無水物の存在下で好ましくは1〜100時間攪拌することにより行われる。
【0090】
塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でもピリジンは、反応を進行させるのに適度な塩基性を有するので好ましい。
【0091】
また、酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などを挙げることができる。中でも無水酢酸は、イミド化終了後に、得られたポリイミドの精製が容易となるので好ましい。有機溶媒としては前述したポリアミック酸の重縮合反応時に用いる溶媒を使用することができる。
【0092】
可溶性ポリイミドのイミド化率は、触媒量、反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。このときの塩基性触媒の量はアミック酸基の0.2〜10倍モルが好ましく、より好ましくは0.5〜5倍モルである。また、酸無水物の量はアミック酸基の1〜30倍モルが好ましく、より好ましくは1〜10倍モルである。反応温度は−20〜250℃が好ましく、より好ましくは0〜180℃である。反応時間は、好ましくは1〜100時間、より好ましくは1〜20時間である。
【0093】
可溶性ポリイミドのイミド化率は特に限定されないが、40%以上であることが好ましく、高い電圧保持率を得るためには60%以上が好ましく、より好ましくは80%以上である。得られた可溶性ポリイミドの溶液内には、添加した触媒などが残存しているので、可溶性ポリイミドを回収・洗浄してから本発明の液晶配向剤に用いることが好ましい。
【0094】
可溶性ポリイミドの回収は、イミド化後の溶液を攪拌している貧溶媒に投入し、ポリイミドを析出させた後にろ過することで可能である。このときの貧溶媒としてはメタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセロソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼンなどを挙げることができる。回収した可溶性ポリイミドの洗浄も、この貧溶媒で行うことができる。
【0095】
このようにして回収・洗浄したポリイミドは、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱乾燥して粉末とすることができる。
【0096】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の可溶性ポリイミドと、ポリアミック酸とを有機溶媒に溶解した形態で含有する。液晶配向剤には可溶性ポリイミドが、好ましくは3〜10質量%、より好ましくは4〜7質量%含有される。また、液晶配向剤にはポリアミック酸が、好ましくは3〜10質量%、より好ましくは4〜7質量%含有される。液晶配向剤における可溶性ポリイミドとポリアミック酸の合計の含有量は、好ましくは3〜10質量%、より好ましくは4〜7質量%含有される。
【0097】
また、液晶配向剤中において、上記ポリアミック酸は、可溶性ポリイミド100質量部に対して、好ましくは10〜1000質量部、より好ましくは10〜800質量部含有される。
【0098】
液晶配向剤に含有される有機溶媒は、好ましくは90〜97質量%、より好ましくは93〜96質量%であるのが良好である。
【0099】
本発明の液晶配向剤において、可溶性ポリイミド及びポリアミック酸を溶解するのに使用される有機溶媒としては、本発明の液晶配向剤に用いる有機溶媒(溶剤)は、重合体成分を溶解させる有機溶媒であれば特に限定されない。その具体例を以下に挙げる。
【0100】
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、2−ピロリドン、N−エチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、γ−ブチロラクトン、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−エトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジグライム、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、混合して使用してもよい。
【0101】
本発明の液晶配向剤は、上記の重合体成分以外の成分を含有してもよい。その例としては、液晶配向剤を塗布した際の膜厚均一性や表面平滑性を向上させる溶媒や化合物、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる化合物などである。
【0102】
膜厚の均一性や表面平滑性を向上させる溶媒(貧溶媒)の具体例としては次のものが挙げられる。
【0103】
例えば、イソプロピルアルコール、メトキシメチルペンタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール−tert−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノプロピルエーテル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジイソブチレン、アミルアセテート、ブチルブチレート、ブチルエーテル、ジイソブチルケトン、メチルシクロへキセン、プロピルエーテル、ジヘキシルエーテル、1−ヘキサノール、n−へキサン、n−ペンタン、n−オクタン、ジエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸メチルエチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸、3−メトキシプロピオン酸、3−メトキシプロピオン酸プロピル、3−メトキシプロピオン酸ブチル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステルなどの低表面張力を有する溶媒などが挙げられる。
【0104】
これらの貧溶媒は1種類でも複数種類を混合して用いてもよい。上記のような溶媒を用いる場合は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の5〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜60質量%である。
【0105】
膜厚の均一性や表面平滑性を向上させる化合物としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノ二オン系界面活性剤などが挙げられる。
【0106】
より具体的には、例えば、エフトップEF301、EF303、EF352(トーケムプロダクツ社製))、メガファックF171、F173、R−30(大日本インキ社製)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム社製)、アサヒガードAG710、サーフロンS−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子社製)などが挙げられる。これらの界面活性剤の使用割合は、液晶配向剤に含有される樹脂成分の100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0107】
液晶配向膜と基板との密着性を向上させる化合物の具体例としては、次に示す官能性シラン含有化合物やエポキシ基含有化合物などが挙げられる。
【0108】
例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6−テトラグリシジル−2,4−ヘキサンジオール、N,N,N’,N’,−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’,−テトラグリシジル−4、4’−ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。
【0109】
更に、基板と膜の密着性向上に加え、バックライトによる電気特性低下などをさらに防ぐ目的で以下のようなフェノプラスト系の添加剤や、ブロックイソシアネート、ヒドロキシエチルアミド系架橋剤などを導入しても良い。具体的な添加剤を以下に示すが、この構造に限定されない。
【0110】
【化30】
【0111】
【化31】
【0112】
基板との密着性を向上させる化合物を使用する場合、その使用量は、液晶配向剤に含有される重合体成分の100質量部に対して0.1〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。使用量が0.1質量部未満であると密着性向上の効果は期待できず、30質量部よりも多くなると液晶配向性が悪くなる場合がある。
【0113】
本発明の液晶配向剤には、上記の他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的で、誘電体や導電物質、さらには、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的の架橋性化合物を添加してもよい。
【0114】
<液晶配向膜、液晶表示素子>
本発明の液晶配向剤は、基板等上に塗布、焼成した後、ラビング処理や光照射などで配向処理をして、又は垂直配向用途などでは配向処理無しで液晶配向膜として用いることができる。この際、用いる基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、若しくはアクリル基板やポリカーボネート基板などのプラスチック基板などを用いることができる。また、液晶駆動のためのITO(Indium Tin Oxide)電極などが形成された基板を用いることがプロセスの簡素化の観点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極はアルミ等の光を反射する材料も使用できる。
【0115】
液晶配向剤の塗布方法は特に限定されないが、工業的には、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェットなどで行う方法が一般的である。その他の塗布方法としては、ディップ、ロールコーター、スリットコーター、スピンナーなどがあり、目的に応じてこれらを用いてもよい。含有する式(1)および(2)で表されるジアミンを用いて得られる重合体の溶剤への溶解性が良好であるため、本発明の液晶配向剤は印刷性に優れている。したがって、基板等へ塗布したときに析出や白化(すなわち凝集物の発生)が抑制されて塗布・成膜性が向上する。また、基板等へ塗布した後の放置時間を長くしても均一性や透明性に優れた液晶配向膜を製造することができる。
【0116】
液晶配向剤を基板上に塗布した後の焼成は、ホットプレートなどの加熱手段により50〜300℃、好ましくは80〜250℃で行い、溶媒を蒸発させて、塗膜を形成させることができる。この焼成により、式(1)および(2)で表されるジアミン由来の熱によって脱離し得る有機基Aが、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミドやポリアミドから脱離し、上記の環化反応や、分子間反応に費やされる。したがって、得られる液晶配向膜は、ラビング処理時の膜削れが起こりにくくラビンク耐性に優れ、長期間高温高湿下やバックライトに暴露されても電圧保持率の低下が起こりにくくなる。また、焼成後の重合体の構造は、環化反応により液晶に近い構造に変化することが推測され、故に良好な液晶配向性を示す。
【0117】
焼成後に形成される塗膜の厚みは、厚すぎると液晶表示素子の消費電力の面で不利となり、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、好ましくは5〜300nm、より好ましくは10〜100nmである。液晶を水平配向や傾斜配向させる場合は、焼成後の塗膜をラビング又は偏光紫外線照射などで処理する。
【0118】
本発明の液晶表示素子は、上記した手法により本発明の液晶配向剤から液晶配向膜付き基板を得た後、公知の方法で液晶セルを作製し、液晶表示素子としたものである。一例を挙げるならば、対向するように配置された2枚の基板と、基板間に設けられた液晶層と、基板と液晶層との間に設けられ本発明の液晶配向剤により形成された上記液晶配向膜とを有する液晶セルを具備する液晶表示素子である。液晶セル作製方法としては、液晶配向膜の形成された一対の基板を用意し、片方の基板の液晶配向膜上にスペーサーを散布し、液晶配向膜面が内側になるようにして、もう片方の基板を貼り合わせ、液晶を減圧注入して封止する方法、又は、スペーサーを散布した液晶配向膜面に液晶を滴下した後に基板を貼り合わせて封止を行う方法などが例示できる。このときのスペーサーの厚みは、好ましくは1〜30μm、より好ましくは2〜10μmである。
【0119】
液晶には、正の誘電異方性を有するポジ型液晶や負の誘電異方性を有するネガ型液晶、具体的には、例えば、メルク社製のMLC−2003、MLC−2041、MLC−6608、MLC−6609などを用いることができる。
【0120】
以上のようにして、本発明の液晶配向剤を用いて作製された液晶表示素子は、信頼性に優れたものとなり、大画面で高精細の液晶テレビなどに好適に利用できる。
【実施例】
【0121】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではないことはもちろんである。
【0122】
実施例及び比較例で使用する化合物の略号は以下の通りである。
【0123】
<テトラカルボン酸二無水物>
A−1:1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
A−2:1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物
A−3:3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−
ナフタレンコハク酸二無水物
A−4:ピロメリット酸二無水物
A−5:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
【0124】
【化32】
【0125】
<ジアミン>
B−1:1,4−フェニレンジアミン
B−2:B−3:4,4−ジアミノジフェニルメタン
B−3:4,4‘−ジアミノジフェニルアミン
B−4:3,5−ジアミノ安息香酸
B−5:1,2−ビス(4−アミノフェノキシ)エタン
B−6:1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ペンタン
B−7:N1,N4−ビス(2−tert―ブトキシカルボニルアミノ−4−アミノフェニル)アジパミド
B−8:4−アミノ−N−(2−tert―ブトキシカルボニルアミノ−4−アミノフェニル)ベンズアミド
【0126】
【化33】
【0127】
<有機溶媒>
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
GBL:γ−ブチロラクトン
BCS:ブチルセロソルブ
【0128】
以下に、本実施例で行った評価方法について示す。
【0129】
<粘度測定>
合成例又は比較合成例において、ポリアミック酸溶液の粘度は、E型粘度計TVE−22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE−1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0130】
<イミド化率の測定>
ポリイミドのイミド化率は次のようにして測定した。ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d、0.05%TMS混合品)0.53mlを添加し、完全に溶解させた。この溶液を日本電子データム社製NMR測定器(JNM−ECA500)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。
【0131】
イミド化率は、以下の式によって算出した。なお、式(1)で表されるジアミンを用いないポリイミドのイミド化率は、下記の式中の「ポリアミック酸重合時の式(1)ジアミンの導入量」の値をゼロとして算出した。
【0132】
イミド化率(%)=
(100−ポリアミック酸重合時の式(1)ジアミンの導入量(mol%)/2)×α
式中αは、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5〜10.0ppm付近に現れるアミック酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い次式によって求めた。
【0133】
α=(1−α・x/y)
上記式において、xはアミック酸のNH基由来のプロトンピーク積算値、yは基準プロトンのピーク積算値、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミック酸のNH基プロトン一個に対する基準プロトンの個数割合である。
【0134】
<液晶配向剤の調製>
合成例−1
A−3/B−1(70)、B−8(30)可溶性ポリイミドの合成とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーが取り付けられた200mlの四口フラスコに、ジアミン成分としてB−1を 2.27g(20.98mmol)、B−8を5.00g(8.99mmol)計り取り、NMPを64.3g加え、ジアミン成分が完全に溶解したのを確認し、氷浴中で冷却しながらA−3を8.81g(29.37mmol)加え、10分間攪拌した後、50℃に昇温し粘度が安定するまで反応させ、20質量%のポリアミック酸溶液[PAA−1]を得た。安定後の粘度は約1500mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。
【0135】
得られたポリアミック酸溶液を300mlのナス型フラスコに60.0g移し取り、NMPを140.0g加え、6.0重量%の溶液を調整した。この溶液に無水酢酸を11.41g(111.76mmol)、ピリジンを8.84g(111.76mmol)加え、室温で30分間攪拌した後、45℃に昇温し、3時間反応させた。
【0136】
反応後、この溶液を10℃以下に冷却したメタノール770g中にゆっくり注ぎ、固体を析出させた。吸引濾過により固体を回収し、500gのメタノールで2回リパルプを行った後、60℃で真空乾燥させることにより、本発明のポリイミド[SPI−1]を得た。イミド化率は84%であった。
【0137】
攪拌子を備えた50mlの三角フラスコにSPI−1を2.00g測りとり、GBLを18.0g加え50℃で24時間攪拌し溶解させ、完全に溶解しているのを確認し、GBLを13.33g加え、室温で30分攪拌することで、SPI−1が6.0質量%、GBLが94質量%nポリイミド溶液[SPI−1S]を得た。
【0138】
合成例2
A−3/B−1(70)、B−9(30) 可溶性ポリイミドの合成とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーが取り付けられた100mlの四口フラスコに、ジアミン成分としてB−1を2.95g(27.29mmol)、B−9を4.00g(11.70mmol)計り取り、NMPを73.64g加え、ジアミン成分が完全に溶解したのを確認し、氷浴中で冷却しながらA−3を11.46g(38.21mmol)加え、10分間攪拌した後、50℃に昇温し粘度が安定するまで反応させ、20質量%のポリアミック酸溶液[PAA−2]を得た。安定後の粘度は約1300mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。
【0139】
得られたポリアミック酸溶液を300mlのナス型フラスコに70.0g移し取り、NMPを163.0g加え、6.0重量%の溶液を調整した。この溶液に無水酢酸を15.12g(148.10mmol)、ピリジンを11.72g(148.10mmol)加え、室温で30分間攪拌した後、45℃に昇温し、3時間反応させた。
【0140】
反応後、この溶液を10℃以下に冷却したメタノール800g中にゆっくり注ぎ、固体を析出させた。吸引濾過により固体を回収し、500gのメタノールで2回リパルプを行った後、60℃で真空乾燥させることにより、本発明のポリイミド[SPI−2]を得た。イミド化率は81%であった。
【0141】
攪拌子を備えた50mlの三角フラスコにSPI−2を2.00g測りとり、GBLを18.0g加え、50℃で24時間攪拌し溶解させ、完全に溶解しているのを確認し、GBLを13.33g加え、室温で30分攪拌することで、SPI−2が6.0質量%、GBLが94質量%nポリイミド溶液[SPI−2S]を得た。
【0142】
合成例3
A−1、A−4(50)/B−2 ポリアミック酸の重合とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーを備えた200ml四口フラスコに、B−2を9.91g(50.00mmol)測り取り、NMPを56.04g、GBLを56.04g加え溶解させ、約10℃に冷却し、A−1を4.41g(22.50mmol)測り取り、少しずつ加え、A−4を5.45g(25.00mmol)を少しずつ加え、室温に戻し粘度が安定するまで反応させ、15質量%のポリアミック酸溶液[PAA−3]を得た。安定後の粘度は約350mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。
【0143】
攪拌子を備えた500mlの三角フラスコに上記で得られたポリアミック酸溶液を100.0g計り取り、γBLを23.33g、NMPを26.67g、BCSを50.00gを加え、室温で30分攪拌し、PAA−3が6.0質量%、γBLが59質量%、NMPが20質量%、BCSが15質量%のポリアミック酸溶液[PAA−1S]を得た。
【0144】
合成例4
A−1、A−3(20)/B−2、B−3(20)ポリアミック酸の重合とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーを備えた200ml四口フラスコに、B−2を1.98g(10.00mmol)、B−3を8.40g(40.00mmol)測り取り、NMPを152.10g加え溶解させ、約10℃に冷却し、A−1:7.35g(38.00mmol)を少しずつ加え、つづいてA−3:3.00g(10.00mmol)を少しずつ加え、室温に戻し粘度が安定するまで反応させ、15質量%のポリアミック酸溶液[PAA−4]を得た。安定後の粘度は約180mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。
【0145】
攪拌子を備えた500mlの三角フラスコに上記で得られたポリアミック酸溶液を100.0g計り取り、NMPを40g、BCSを60.00gを加え、室温で30分攪拌し、PAA−3が6.0質量%、NMPが64質量%、BCSが30質量%のポリアミック酸溶液[PAA−2S]を得た。
【0146】
合成例5
A−1、A−2(65)/B−6、B−8(30)可溶性ポリイミドの合成とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーが取り付けられた100mlの四口フラスコに、ジアミン成分としてB−6を6.84g(28.00mmol)、B−8を6.68g(12.00mmol)計り取り、NMPを57.60g加え、ジアミン成分が完全に溶解したのを確認し、氷浴中で冷却しながらA−2を5.15g(26.00mmol)加え、続いてA−1を2.26g(11.50mmol)加え、NMPを25.8g加え10分間攪拌した後、40℃に昇温し粘度が安定するまで反応させ、20質量%のポリアミック酸溶液[PAA−5]を得た。安定後の粘度は約1200mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。
【0147】
得られたポリアミック酸溶液を200mlのナス型フラスコに40.0g移し取り、NMPを83.0g加え、6.5重量%の溶液を調整した。この溶液に無水酢酸を3.90g(3.79mmol)、ピリジンを1.81g(2.28mmol)加え、50℃に昇温し、2時間反応させた。
【0148】
反応後、この溶液を10℃以下に冷却したメタノール450g中にゆっくり注ぎ、固体を析出させた。吸引濾過により固体を回収し、200gのメタノールで2回リパルプを行った後、60℃で真空乾燥させることにより、本発明のポリイミド[SPI−3]を得た。イミド化率は65%であった。
【0149】
攪拌子を備えた100mlの三角フラスコにSPI−3を5.3g測りとり、NMPを19.4g、GBLを10.6g加え50℃で20時間攪拌し溶解させ、完全に溶解しているのを確認し、NMP.12.4g、γBLを14.1g、BCSを20.6g加え、室温で30分攪拌することで、SPI−3が6.0質量%、NMPが39.0質量%、GBLが30.0質量%、BCSが25.0質量%のポリイミド溶液[SPI−3S]を得た。
【0150】
合成例6
A−1、A−5(45)/B−3、B−6(50)ポリアミック酸の重合とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーを備えた100ml四口フラスコに、B−3を3.98g(20.00mmol)、B−6を4.88g(20.00mmol)測り取り、NMPを32.50g、GBLを32.50g加え溶解させ、約10℃に冷却し、A−1を3.68g(18.80mmol)測り取り、少しずつ加え、NMPを13.50g、γBLを13.50g加え、2時間撹拌し、その後A−5を5.30g(18.00mmol)を少しずつ加え、NMPを19.40g、γBLを19.40g加えた後、40℃にて粘度が安定するまで反応させ、12質量%のポリアミック酸溶液[PAA−6]を得た。安定後の粘度は約270mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。
【0151】
攪拌子を備えた100mlの三角フラスコに上記で得られたポリアミック酸溶液を40.0g計り取り、γBLを23.33g、NMPを26.67g、BCSを20.00gを加え、室温で30分攪拌し、PAA−3が6.0質量%、γBLが30.0質量%、NMPが39.0質量%、BCSが25.0質量%のポリアミック酸溶液[PAA−3S]を得た。
【0152】
合成例7
A−5/B−3、B−5(20)ポリアミック酸の重合とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーを備えた200ml四口フラスコに、B−3を8.21g(41.20mmol)、B−5を15.60g(10.30mmol)測り取り、NMPを69.5g、GBLを69.5g加え溶解させ、約10℃に冷却し、A−5を13.90g(47.20mmol)測り取り、少しずつ加え、NMPを17.4g、γBLを17.4g加え、しばらく撹拌した後、40℃にて粘度が安定するまで反応させ、12質量%のポリアミック酸溶液[PAA−7]を得た。安定後の粘度は約300mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。
【0153】
攪拌子を備えた100mlの三角フラスコに上記で得られたポリアミック酸溶液を40.0g計り取り、γBLを23.33g、NMPを26.67g、BCSを20.00gを加え、室温で30分攪拌し、PAA−3が6.0質量%、NMPが39.0質量%、γBLが30.0質量%、BCSが25.0質量%のポリアミック酸溶液[PAA−4S]を得た。
【0154】
合成例8
A−3/B−6 可溶性ポリイミドの合成とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーが取り付けられた100mlの四口フラスコに、ジアミン成分としてB−6を 5.00g(20.47mmol)計り取り、NMPを44.6g加え、ジアミン成分が完全に溶解したのを確認し、氷浴中で冷却しながらA−3を6.14g(20.47mmol)加え、10分間攪拌した後、50℃に昇温し粘度が安定するまで反応させ、20質量%のポリアミック酸溶液[PAA−4]を得た。安定後の粘度は約1100mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。
【0155】
得られたポリアミック酸溶液を200mlのナス型フラスコに30.0g移し取り、NMPを60.0g加え、6.0重量%の溶液を調整した。この溶液に無水酢酸を5.60g(55.13mmol)、ピリジンを4.36g(55.13mmol)加え、室温で30分間攪拌した後、40℃に昇温し、3時間反応させた。
【0156】
反応後、この溶液を10℃以下に冷却したメタノール350g中にゆっくり注ぎ、固体を析出させた。吸引濾過により固体を回収し、200gのメタノールで2回リパルプを行った後、60℃で真空乾燥させることにより、比較対象のポリイミド[SPI−4]を得た。イミド化率は63%であった。
【0157】
攪拌子を備えた50mlの三角フラスコにSPI−4を2.00g測りとり、GBLを18.0g加え50℃で24時間攪拌し溶解させ、完全に溶解しているのを確認し、GBLを13.33g加え、室温で30分攪拌することで、SPI−4が6.0質量%、GBLが94質量%ポリイミド溶液[SPI−4S]を得た。
【0158】
合成例9
A−4/B−7 ポリアミック酸の重合とワニス調整
窒素導入管とメカニカルスターラーを備えた200ml四口フラスコに、B−7を5.00g(17.46mmol)測り取り、NMPを56.67g加え溶解させ、約10℃に冷却し、A−4を3.50g(16.06mmol)測り取り、少しずつ加え、室温に戻し粘度が安定するまで反応させ、15質量%のポリアミック酸溶液[PAA−5]を得た。安定後の粘度は約420mPa・sであった。尚、反応は窒素雰囲気にて行った。得られたPAA−の数平均分子量12,500、重量平均分子量は33800であった。
【0159】
攪拌子を備えた500mlの三角フラスコに上記で得られたポリアミック酸溶液を50.0g計り取り、γBLを11.67g、NMPを13.34g、BCSを25.00gを加え、室温で30分攪拌し、PAA−4が6.0質量%、NMPが20質量%、BCSが15質量%のポリアミック酸溶液[PAA−5S]を得た。
【0160】
実施例1
液晶配向剤−1[SPI−1S/PAA−1S 30:70(重量比)]の調整と液晶配向膜評価
撹拌子を備え付けた100ml三角フラスコに、合成例1の方法にて得たSPI−1Sを30.0g、合成例3の方法にて得たPAA−1Sを70.0g測り取り、窒素雰囲気下で20時間撹拌した。その後、細孔径1μmのメンブランフィルタで加圧濾過することで、本発明の液晶配向剤−1を得た。
【0161】
実施例2
液晶配向剤−2[SPI−2S/PAA−2S 30:70(重量比)]の調整と液晶配向膜評価
撹拌子を備え付けた100ml三角フラスコに、合成例2の方法にて得たSPI−2Sを30.0g、合成例4の方法にて得たPAA−2Sを70.0g測り取り、窒素雰囲気下で20時間撹拌した。その後、細孔径1μmのメンブランフィルタで加圧濾過することで、本発明の液晶配向剤−2を得た。
【0162】
実施例3
液晶配向剤−3[SPI−3s/PAA−3s 30:70(重量比)]の調整と液晶配向膜評価
撹拌子を備え付けた100ml三角フラスコに、合成例5の方法にて得たSPI−3Sを30.0g、合成例6の方法にて得たPAA−3Sを70.0g測り取り、窒素雰囲気下で20時間撹拌した。その後、細孔径1μmのメンブランフィルタで加圧濾過することで、本発明の液晶配向剤−3を得た。
【0163】
実施例4
液晶配向剤−4[SPI−3s/PAA−4s 30:70(重量比)]の調整と液晶配向膜評価
撹拌子を備え付けた100ml三角フラスコに、合成例5の方法にて得たSPI−3Sを30.0g、合成例7の方法にて得たPAA−4Sを70.0g測り取り、窒素雰囲気下で20時間撹拌した。その後、細孔径1μmのメンブランフィルタで加圧濾過することで、本発明の液晶配向剤−4を得た。
【0164】
比較例1
液晶配向剤−5[SPI−4s/PAA−3s 30:70(重量比)]の調整と液晶配向膜評価
撹拌子を備え付けた100ml三角フラスコに、合成例8の方法にて得たSPI−4Sを30.0g、合成例6の方法にて得たPAA−3Sを70.0g測り取り、窒素雰囲気下で20時間撹拌した。その後、細孔径1μmのメンブランフィルタで加圧濾過することで、比較対象となる液晶配向剤−5を得た。
【0165】
比較例2
液晶配向剤−6[PAA−5s/PAA−2s 20:80(重量比)]の調整と液晶配向膜評価
撹拌子を備え付けた100ml三角フラスコに、合成例9の方法にて得たPAA−5Sを20.0g、合成例4の方法にて得たPAA−2Sを80.0g測り取り、窒素雰囲気下で20時間撹拌した。その後、細孔径1μmのメンブランフィルタで加圧濾過することで、比較対象となる液晶配向剤−6を得た。
【0166】
実施例1〜4、および、比較例1〜2で得られた液晶配向剤を用いて、下記手法に基づき、液晶配向膜の評価を実施した。
【0167】
<配向剤の膜均一性の評価>
液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、電極付き基板(横30mm×縦40mmの大きさで、厚さが1.1mmのガラス基板。電極は幅10mm×長さ40mmの矩形で、厚さ35nmのITO電極)に、スピンコート塗布にて塗布した。スピンコート後、室温23℃、湿度50%下で5分間放置し、220℃のIRオーブンで20分間焼成させ、得られた膜の均一性をDFM(ダイレクトフォース原子間力顕微鏡:日立ハイテク製)を用いて表面分析し、10μmあたりのラフネスを算出し比較を行った。ラフネスが小さいほど膜の均一性や成膜性が良好であることを意味する。
【0168】
<電圧保持率のバックライト耐性の評価>
電圧保持率のバックライト耐性は以下のようにして評価した。
【0169】
[電圧保持率測定用液晶セルの作成]
液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、電極付き基板(横30mm×縦40mmの大きさで、厚さが1.1mmのガラス基板。電極は幅10mm×長さ40mmの矩形で、厚さ35nmのITO電極)に、スピンコート塗布にて塗布した。50℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、230℃のIR式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させて液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜をレーヨン布(吉川化工製YA−20R)でラビング(ローラー直径:120mm、ローラー回転数:1000rpm、移動速度:20mm/sec、押し込み長:0.4mm)した後、純水中にて1分間超音波照射をして洗浄を行い、エアブローにて水滴を除去した後、80℃で15分間乾燥して液晶配向膜付き基板を得た。
【0170】
上記の液晶配向膜付き基板を2枚用意し、その1枚の液晶配向膜面上に4μmのスペーサーを散布した後、その上からシール剤を印刷し、もう1枚の基板をラビング方向が逆方向、かつ膜面が向き合うようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、ネガ型液晶MLC−7206(メルク株式会社製)と、MLC−2041(メルク株式会社製)を注入し、注入口を封止して液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを110℃で1時間加熱し、23℃で一晩放置し、電圧保持率測定用液晶セルを得た。
【0171】
[バックライト耐性の評価]
上記の電圧保持率測定用液晶セルに60℃の温度下で1Vの電圧を60μsec印加し、100msec後の電圧を測定して、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として算出した。これを初期の電圧保持率とする。
【0172】
次いでバックライト耐性試験として、この液晶セルを、温度70℃、LED光源(1000cd)の下で72時間放置した。この液晶セルの電圧保持率を上記と同様に測定した。これを耐性試験後の電圧保持率とする。
【0173】
電圧保持率のバックライト耐性は、以上のようにして測定された電圧保持率の大小で評価した。即ち初期の電圧保持率と比較して耐性試験後の電圧保持率の変化量が少なければ、バックライト耐性は良好であることを意味する。
【0174】
[RDCの緩和特性]
上記の電圧保持率測定用液晶セルを、偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、画素電極と対向電極とを短絡して同電位にした状態で、2枚の偏光板の下からLEDバックライトを照射しておき、2枚の偏光板の上で測定するLEDバックライト透過光の輝度が最小となるように、液晶セルの角度を調節した。
【0175】
次に、この液晶セルに周波数30Hzの矩形波を印加しながら、23℃の温度下でのV−T特性(電圧−透過率特性)を測定し、相対透過率が23%となる交流電圧を算出した。この交流電圧は電圧に対する輝度の変化が大きい領域に相当するため、RDCを輝度を介して評価するのに都合がよい。
【0176】
次に、相対透過率が23%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波を印加しながら、+3.0Vの直流電圧を重畳し1時間駆動させた。その後、直流電圧を切り、再び相対透過率が23%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波のみを30分間印加し、このときに発生するフリッカー(チラつき)の回復時間を測定した。
【0177】
蓄積した電荷の緩和が速いほど、この時間が短いほどRDCの緩和特性が良好である。
【0178】
尚、フリッカー強度の算出はフォトダイオードとAC−DCコンバータを用いて輝度を直流電圧に変換し、これをオシロスコープで読み取ることで行うことができる。フリッカーが発生した場合、30Hzの矩形波に相関した交流電圧としてモニターされるため、この交流電圧が直流になる時間をRDCの緩和時間とみなすことができる。
【0179】
液晶の駆動上、ネガ型液晶であるMLC−7206では評価できないため、本測定にはMLC−2041を用いて行った。
【0180】
<液晶配向性の評価>
液晶配向性の評価は、以下のようにして評価した。
【0181】
[FFS方式用電極付き基板の準備]
FFS方式用電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×35mmの大きさで、厚さが0.7mmのガラス基板である。基板上には第1層目として対向電極を構成するIZO電極が全面に形成されている。第1層目のIZO電極の上には第2層目として、CVD法により成膜されたSiN(窒化珪素)膜が形成されている。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目としてIZO膜をパターニングして形成された櫛歯状の画素電極が配置され、第1画素および第2画素の2つの画素を形成している。各画素のサイズは、縦10mmで横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により電気的に絶縁されている。
【0182】
第3層目の画素電極は、中央部分が屈曲した「く」の字形状の電極要素を複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極が、中央部分の屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成されているため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字の「く」の字に似た形状を備える。そして、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
【0183】
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する液晶配向膜のラビング方向を基準とした場合、画素の第1領域では画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成され、画素の第2領域では画素電極の電極要素が−10°の角度(時計回り)をなすように形成されている。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される液晶の、基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が互いに逆方向となるように構成されている。
【0184】
<液晶配向性評価用液晶セルの作成>
液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、上記のFFS方式用電極付き基板にスピンコート塗布にて塗布した。100℃のホットプレート上で100秒間乾燥させた後、230℃の熱風循環式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚60nmのポリイミド膜を得た。このポリイミド膜をレーヨン布(吉川化工製YA−20R)でラビング(ローラー直径:120mm、ローラー回転数:500rpm、移動速度:30mm/sec、押し込み長:0.3mm、ラビング方向:3層目IZO櫛歯電極に対して80°傾いた方向)した後、イソプロピルアルコールと純水の3/7混合溶媒中にて1分間超音波照射をして洗浄を行い、エアブローにて水滴を除去した後、80℃で15分間乾燥して液晶配向膜付き基板を得た。
【0185】
また、対向基板として、高さ4μmの柱状スペーサーを有し、裏面にITOが形成されているガラス基板にも、上記と同様にしてポリイミド膜を形成し、上記と同様の手順で配向処理が施された液晶配向膜付き基板を得た。
【0186】
上記2枚の液晶配向膜付き基板を1組とし、基板上に液晶注入口を残した形でシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合いラビング方向が逆平行になるようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させてセルギャップが4μmの空セルを作製した。
【0187】
この空セルに減圧注入法によって、ネガ液晶MLC−7206(メルク株式会社製)、また比較対象としてMLC−2041(メルク株式会社製)を注入したものを調整し、注入口を封止して、FFS方式の液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを110℃で30分加熱し、23℃で一晩放置し液晶配向性評価用の液晶セルを得た。
【0188】
[液晶配向性の評価]
上記の液晶配向性評価用液晶セルを、60℃の恒温環境下、周波数30Hzで相対透過率が100%となる交流電圧を168時間印加した。その後、液晶セルの画素電極と対向電極との間をショートさせた状態にし、そのまま室温に一日放置した。放置の後、液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。そして、第1画素の第2領域が最も暗くなる角度から第1領域が最も暗くなる角度まで液晶セルを回転させたときの回転角度を角度△として算出した。第2画素でも同様に、第2領域と第1領域とを比較し、同様の角度△を算出した。そして、第1画素と第2画素の角度△値の平均値を液晶セルの角度△として算出し、その値の大小で液晶配向性を評価した。即ちこの角度△の値が小さければ、液晶配向性は良好である。
【0189】
【表1】
※P=MLC−2041、N=MLC−7206
【0190】
【表2】
※1 P=MLC−2041、N=MLC−7206
※2 MLC−2041を使用して測定。
※3 フリッカーが収まった後、再度フリッカーが発生。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明の液晶配向剤により、塗布・成膜性が良好で、ラビング時の膜剥がれや削れに強く、直流電圧が印加されても初期の電荷の蓄積が起こり難く、信頼性の乏しい液晶を用いても良好な信頼性を得ることができ、且つ長期間バックライトに暴露されても電圧保持率の低下が起こり難い液晶配向膜が得られる。そのため、本発明の液晶配向剤を用いて作製した液晶表示素子は、信頼性の高い液晶表示素子とすることができ、TN液晶表示素子、STN液晶表示素子、TFT液晶表示素子、VA液晶表示素子、IPS液晶表示素子、OCB液晶表示素子など、種々の方式による表示素子に好適に用いられる。