【実施例】
【0022】
以下、実施例等に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。
【0023】
(比較例1)
蒸着用真空チャンバー内にターゲット(レーザー光の被照射物)としてPbI
2及びCH
3NH
3Iを設置し、両方のターゲットに対して波長808nmの連続レーザー光がそれぞれ照射されるようにレーザー蒸着装置を設定した。
真空チャンバー内の真空度を10
-5Paとした後、PbI
2側のレーザーのパワーを1.6Wまで上昇させるとともに、CH
3NH
3I側のレーザーのパワーを6Wまで上昇させ、ガラス製の基板表面に共蒸着を行い、有機鉛ぺロブスカイト(CH
3NH
3PbI
3)を成膜しようとした。しかしながら、成膜中CH
3NH
3Iのガス化により真空度が1Paまで悪化した。共蒸着後、PbI
2ターゲットは、CH
3NH
3Iの回り込みにより褐色に汚染されていた。また、得られた膜は、XRD解析および紫外可視吸収スペクトル等からみて、純粋な有機鉛ペロブスカイト(CH
3NH
3PbI
3)とは言えず、未反応の原材料が多く残る混合材料であった。
【0024】
(比較例2)
CH
3NH
3I側のレーザーのパワーを2Wと小さくした以外は比較例1と同様にして共蒸着を行い、有機鉛ぺロブスカイト(CH
3NH
3PbI
3)を成膜しようとした。成膜中CH
3NH
3Iのガス化による真空度の悪化は10
-2Paまで抑えられたものの、共蒸着後、PbI
2ターゲットは、CH
3NH
3Iの回り込みにより褐色に汚染されていた。また、得られた膜は、XRD解析および紫外可視吸収スペクトル等からみて、純粋な有機鉛ぺロブスカイト(CH
3NH
3PbI
3)とは言えず、未反応の原材料が多く残る混合材料であった。
【0025】
(実施例1)<デューティ比の調整例>
蒸着用真空チャンバー内に、ターゲットとしてPbI
2及びCH
3NH
3Iを設置するとともに、該PbI
2と該CH
3NH
3Iの蒸発速度を測定するために水晶振動子膜厚計(蒸発フラックスの経路近くに設けられ、蒸着膜の膜厚を測定するもの。以下の水晶振動子膜厚計も同じ。)を設置した。PbI
2に対しては波長808nmの連続レーザー光が、蒸気圧の高い材料であるCH
3NH
3Iに対して波長808nmで10Hzに変調したパルス状のレーザー光が、それぞれ照射されるようにしたレーザー蒸着装置を設定した。
真空チャンバー内の真空度を10
-5Paとした後、PbI
2側のレーザーは、そのパワーを1.6Wまで上昇させる一方、CH
3NH
3I側のレーザーは、パルス振幅を17.9Wとし、デューティ比を26%に調整して、ガラス製の基板表面に共蒸着を行なった。その際のPbI
2とCH
3NH
3Iの合計の蒸発速度(水晶振動子膜厚計により測定された蒸着膜厚推移を時間微分したもの)は、
図2のグラフに示されるように、大きな変動が生じることなく比較的安定して推移していた。
共蒸着後、PbI
2ターゲットを観察したが、CH
3NH
3Iの回り込みによるPbI
2ターゲットの汚染は全く観察されなかった。また、得られた膜は、XRD解析および紫外可視吸収スペクトル等から、結晶性が比較的良好な有機鉛ぺロブスカイト(CH
3NH
3PbI
3)であることが確認された。
【0026】
(実施例2)<蒸発速度の測定に基づくデューティ比の調整例1>
蒸着用真空チャンバー内に、ターゲットとしてPbI
2及びCH
3NH
3Iを設置するとともに、該CH
3NH
3Iの蒸発速度を測定するための水晶振動子膜厚計を設置し、PbI
2に対してはレーザーを照射せず、CH
3NH
3Iに対して波長808nmで10Hzに変調したパルス状のレーザー光が照射されるようにしたレーザー蒸着装置を設定した。
真空チャンバー内の真空度を10
-5Paとした後、CH
3NH
3I側のレーザーを、パルス振幅を17.9Wとするとともに、デューティ比を40、50%、60%に調整して、ガラス製の基板表面に蒸着を行なった。その際のCH
3NH
3Iの蒸発速度の推移を
図3に示す。CH
3NH
3Iの蒸発速度は、デューティ比の調整幅が10%と大幅であったため調整に伴う変動が見られたが、蒸発速度を所定範囲内に調整可能であることが分かった。また、デューティ比の調整幅を細かくすることによって、蒸発速度の調整性、制御性がより高まるものと予想される。
蒸着後、PbI
2ターゲットを観察したが、CH
3NH
3Iの回り込みによるPbI
2ターゲットの汚染は全く観察されなかった。
【0027】
(実施例3)<蒸発速度の測定に基づくデューティ比の調整例2>
蒸着用真空チャンバー内に、ターゲットとしてPbI
2及びCH
3NH
3Iを設置するとともに、該PbI
2と該CH
3NH
3Iの蒸発速度を測定するための水晶振動子膜厚計を設置し、PbI
2に対しては波長808nmの連続レーザー光が、蒸気圧の高い材料であるCH
3NH
3Iに対しては波長808nmで10Hzに変調したパルス状のレーザー光が、PbI
2とCH
3NH
3Iの蒸発速度と真空チャンバー内の真空度の観測中にそれぞれ照射されるようにしたレーザー蒸着装置を設定した。
真空チャンバー内の真空度を10
-5Paとした後、まず、蒸気圧の高いCH
3NH
3I側のレーザーパルスの振幅をCH
3NH
3Iの蒸発速度が観測可能となるまで徐々に上げた。CH
3NH
3Iの蒸発速度が観測されると、レーザーのデューティ比を徐々に上げて該蒸発速度を目標値の0.5Å/sまで上昇させた。次に、PbI
2側のレーザーのパワーを上げ、PbI
2を蒸発させ、水晶振動子膜厚計で蒸発速度(PbI
2とCH
3NH
3Iの合計の蒸発速度)を観測しながら共蒸着の際の目標値1.0Å/sまで上昇させた。CH
3NH
3I側のレーザーパルス振幅を17.9Wとし、デューティ比を36%に調整した。その後、PbI
2側のレーザーパワーを0.7Wまで上昇させ共蒸着を開始した。蒸発速度を維持するため、膜厚計を観測しながらCH
3NH
3I側のレーザーパルスのデューティ比を36〜32%で調整した。共蒸着中は蒸着膜厚が目標膜厚(100nm)に到達するまで膜厚計を観察するとともに、CH
3NH
3Iの蒸発速度を推算しながらデューティ比を調整し、共蒸着の蒸発速度(1.0Å/s)を維持させた。
図4に共蒸着の蒸発速度(PbI
2とCH
3NH
3Iの合計の蒸発速度)の時間推移グラフを、
図5に完成した薄膜の写真を示す。共蒸着の蒸発速度は、終始1.0±0.1Å/sの範囲内に収まっていた。得られた膜は、いずれもXRD解析および紫外可視吸収スペクトル等から、結晶性が比較的良好な有機鉛ぺロブスカイト(CH
3NH
3PbI
3)であることが確認された。また、CH
3NH
3Iの回り込みによるPbI
2ターゲットの汚染は全く観察されなかった。
【0028】
(実施例4)<真空度の測定に基づくデューティ比の調整例>
実施例3と同様に設定されたレーザー蒸着装置を用い、真空チャンバー内の真空度を10
-5Paとした後、PbI
2側のレーザーのパワーを上げ、PbI
2を蒸発させ、水晶振動子膜厚計でPbI
2の蒸発速度を観測しながら目標値(0.3Å/s)まで速度を上昇させた。一方、蒸気圧の高いCH
3NH
3Iを蒸発させるレーザーについては、真空チャンバーの真空度を観測しながら、まず、レーザーパルスの振幅を徐々に上げていき、真空度を目標値(1.0×10
-3Pa、5.0×10
-3Pa、8.0×10
-3Paのいずれか)まで近づけた。真空度が目標値を超えた場合、CH
3NH
3I蒸発用レーザーのデューティ比を下げること等の操作によって真空度が目標値となるように前記デューティ比を調整した。次に、PbI
2側のレーザーパワーを0.5Wまで上昇させ、その後、CH
3NH
3I側のレーザーパルス振幅を17.9Wとし、デューティ比を41%に調整し共蒸着を開始した。共蒸着中は蒸着膜厚が目標膜厚(100nm)に到達するまで真空計を観察しながら真空度が目標値の90〜110%の範囲内となるようにデューティ比を41〜39%の範囲内で調整した。その結果、共蒸着中、無機材料PbI
2と有機材料CH
3NH
3Iの合計の蒸発速度は約0.6Å/sに維持された。
真空度の目標値が1.0×10
-3Paとした際の蒸発速度の時間推移を
図6に示す。また、真空度の目標値をそれぞれ1.0×10
-3Pa、5.0×10
-3Pa、8.0×10
-3Paとしたときに得られた膜の写真を
図7(a)、(b)、(c)に示す。得られた膜は、いずれもXRD解析および紫外可視吸収スペクトル等から、結晶性が比較的良好な有機鉛ぺロブスカイト(CH
3NH
3PbI
3)であることが確認された。(特に、5.0×10
-3Paとしたときに得られた薄膜の膜質が良好であった。)また、CH
3NH
3Iの回り込みによるPbI
2ターゲットの汚染は全く観察されなかった。
【0029】
実施例3のように、測定した蒸発速度に基づいてデューティ比を調整する方法と、実施例4のように、測定した真空チャンバー内の真空度に基づいてデューティ比を調整する方法のどちらの方法でも有機鉛ペロブスカイト膜の成膜は可能であるが、測定した真空チャンバー内の真空度に基づいてデューティ比を調整する方法の方が均一性の高いペロブスカイト膜を得ることができ、高い光電変換性能が得られた。