特許第6593868号(P6593868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593868
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】変位検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/347 20060101AFI20191010BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   G01D5/347 110E
   G02B5/18
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-148382(P2015-148382)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-26567(P2017-26567A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100080252
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 征四郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 彰秀
【審査官】 吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−16997(JP,A)
【文献】 特開2007−40996(JP,A)
【文献】 特開平7−55506(JP,A)
【文献】 特開2007−10659(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0014184(KR,A)
【文献】 米国特許第5214280(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26−5/38
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子を有するメインスケールと、
前記メインスケールに対して相対移動可能に設けられ、前記メインスケールに対する相対変位量を検出する検出ヘッド部と、を具備し、
前記検出ヘッド部は、
光を前記メインスケールに向けて発射する光源と、
前記メインスケールで回折された信号光を受光する受光部と、
前記メインスケールから受光部に至る光路の途中に配設されたインデックススケール群と、を有し、
前記インデックススケール群は、回折格子からなる二以上のインデックススケールを含み、
前記メインスケールによる回折光のうち+s次回折光と−s次回折光とを信号光とする変位検出装置であって、
次の第1条件および第2条件を満たす
ことを特徴とする変位検出装置。
(第1条件):λ×(u1−u2)×(mN÷g)=2×sinα
(第2条件):λ×u1×(mN÷g)-sinα≠λ÷g×Σi=1(ti×mi)
ここで、
λは光源光の波長である。
sは1以上の整数である。
インデックススケール群を構成する複数のインデックススケールに対しメインスケールに近い側から1、2、・・・N−1、Nと付番し、メインスケールの格子ピッチP0、第1インデックススケールの格子ピッチP1、第2インデックススケールの格子ピッチP2、第3インデックススケールの格子ピッチP3、・・・、第(N−1)インデックススケールの格子ピッチPN−1、第Nインデックススケールの格子ピッチPN、を次のように表わす。
P0=g、P1=g/m1、P2=g/m2、P3=g/m3、・・、Pi=g/mi、・・PN−1=g/mN−1、PN=g/mN。
+s次回折光が第(N−1)インデックススケールから第Nインデックススケールに入射する入射角を+αとする。
スケール回折格子からの+s次回折光が第Nインデックススケールで回折(あるいは透過)した光束のうちu1次光が受光部に入射し、スケール回折格子からの−s次回折光が第Nインデックススケールで回折(あるいは透過)した光束のうちu2次光が受光部に入射する。(u1、u2は整数である。)
tiは、スケール回折格子を透過した0次光がインデックススケール群のi番目のインデックススケールで回折するときの回折次数を表わす。
【請求項2】
請求項1に記載の光電式エンコーダにおいて、
N=2、m1=2、m2=2、u1=1、u2=0とする
ことを特徴とする光電式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変位検出装置に関し、具体的には、光電式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
変位検出装置として回折格子を用いた光電式エンコーダが広く利用されている。光電式エンコーダは、スケール回折格子で回折した2つの光束を干渉させて干渉信号を得る。この干渉信号に基づき、スケール回折格子と検出ヘッド部との相対変位量および相対変位方向を高精度に検出する。
【0003】
干渉信号を得るにあたって2つの回折光を干渉させる。2つの回折光だけが干渉すれば理想的な干渉縞(干渉信号)が得られ、理論通りの検出精度が得られるはずである。干渉させる2つの回折光としては、例えば、+1次回折光と−1次回折光とを干渉させることが多い。
【0004】
しかし、スケール回折格子の回折で生じる回折光は±1次回折光だけではく、もっと高次の回折光も生じるし、回折せずに単に反射(あるいは透過)する0次光もある。このような意図しない迷光が干渉信号に混じってしまうと、干渉信号に本来の周期以外の周期が含まれることになる。すると、理想的な干渉信号ではないため、計測精度が格段に低下してしまうことになる。
【0005】
例えば、図1は、特許文献1(特公平06−097171)に開示された変位測定装置である。
光学系が主として回折格子だけで構成されており、極めてシンプルな構造である。この変位測定装置では、±1次光だけでなく0次光も光電検出器18に入射する構造となっている。ここで、インデックススケール14の格子高さhを上手く調整することで、インデックススケール14による±1次光と0次光との位相差が所定位相(位相差Ω)になるようにしている。
理想の設計通りに実現すればよいが、インデックススケール14の極僅かな製造誤差や光源光の波長の極僅かなズレがあるだけで、検出信号に乱れが生じ、計測精度が格段に低下する。
【0006】
このような問題を解決する1つの案として、例えば図2に示すように、スケール回折格子からの0次光が受光部に入射しないように遮蔽してしまうという考え方がある(特許文献2:特許4856844)。
しかしながら、この構造にあっては、マスクで0次光を確実に遮蔽するため、入射ビーム径を十分に小さくしなければならない。すると、スケール回折格子が極僅かでも汚れていると回折光の光量が大きく変動してしまう。したがって、スケール汚れに極めて敏感になってしまうという問題が生じる。
【0007】
従来技術をもう一例紹介する。
図3は、本出願人によって提案された光学式エンコーダの構成例である(特許文献3:特許4938926)。
この光学式エンコーダにおいては、スケール回折格子に対して光源光を斜めから入射させる。そして、0次光をノイズ光ではなく「信号光」として利用する。つまり、0次光と1次回折光との二光束干渉とする。これにより、0次光が受光部に入射することによる検出信号の乱れを間接的に解決するというアイデアである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平06−097171
【特許文献2】特許4856844
【特許文献2】特許4938926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に開示される光学式エンコーダの構成は画期的なアイデアであるが、本発明者らは次のような問題に気付いた。
光源光の波長が変動したとする。このとき、0次光の回折角(反射角)は変化を受けない。
その一方、波長の変動に伴って1次回折光の回折角は変化する。すると、左右の光路長(0次光の光路長と1次回折光の光路長)が非対称になって、光路長に差が生じ、干渉信号(干渉縞)の変化を生じさせる。
このように、光源光の波長変動が検出精度に大きく影響してしまう。
【0010】
本発明の目的は、スケール回折格子で回折した2つの光束を干渉させて干渉信号を得る高精度の光電式エンコーダにおいて、光源光の波長変動やスケール回折格子の汚れに対しロバスト性を有する光電式エンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光電式エンコーダは、
回折格子を有するメインスケールと、
前記メインスケールに対して相対移動可能に設けられ、前記メインスケールに対する相対変位量を検出する検出ヘッド部と、を具備し、
前記検出ヘッド部は、
光を前記メインスケールに向けて発射する光源と、
前記メインスケールで回折された信号光を受光する受光部と、
前記メインスケールから受光部に至る光路の途中に配設されたインデックススケール群と、を有し、
前記インデックススケール群は、回折格子からなる二以上のインデックススケールを含み、
前記メインスケールによる回折光のうち+s次回折光と−s次回折光とを信号光とする光電式エンコーダであって、
次の第1条件および第2条件を満たす
ことを特徴とする。
(第1条件):λ×(u1−u2)×(mN÷g)=2×sinα
(第2条件):λ×u1×(mN÷g)-sinα≠λ÷g×Σi=1(ti×mi)
各パラメータの意味は実施形態の説明のなかで明らかになる。
【0012】
本発明の好ましい一例は、
N=2、m1=2、m2=2、u1=1、u2=0とする
ことである。

【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】特許文献1(特公平06−097171)に開示された変位測定装置を示す図である。
図2】特許文献2(特許4856844)に開示された変位測定装置を示す図である。
図3】特許文献3(特許4938926)に開示された変位測定装置を示す図である。
図4】本発明を説明するための図である。
図5】本発明を説明するための図である。
図6】本発明を説明するための図である。
図7】本発明に基づく実施例1を示す図である。
図8】本発明に基づく実施例1を示す図である。
図9】対比例として特開平8−219812号公報に開示された従来技術を示す図である。
図10】対比例として特開平8−219812号公報に開示された従来技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(本発明の原理説明)
図4図5図6を参照しながら本発明を説明する。
なお、図6図5の部分拡大図である。
変位検出装置100は、メインスケール110と、メインスケール110に対して相対移動可能な検出ヘッド部130と、を備える。
メインスケール110は、測長軸方向となる長手方向に沿って回折格子112を有する。ここでは、差し当って透過型の回折格子とするが、反射型の回折格子であってもよい。
説明のため、メインスケール110の長手方向(測長軸方向)にX軸をとり、メインスケール110の短手方向にY軸をとり、メインスケール110の法線方向にZ軸をとることとする。
【0015】
メインスケール110は、例えば、ガラス基板に金属薄膜を蒸着したものである。
カラス基板の上に、例えばアルミニウム、クロム、金などを蒸着した後、エッチングによって格子ピッチgの回折格子112にパターニングする。
その他、ガラス基板上に透明な樹脂で凹凸を作るようにしてもよいし、非透過部の部分を削るなどして回折格子112を形成してもよく、特段限定されない。
【0016】
検出ヘッド部130は、光源131と、インデックススケール群140と、受光部132と、を有する。
光源131としては、レーザー光を発射する光源であって、例えばレーザーダイオード(LD)であってもよい。光源131は、Z軸に沿って光Lを発射し、光Lはメインスケール110に垂直に入射する。なお、過干渉光を発することができればよいのであって、光源の種類は限定されない。
メインスケール110に入射した光Lは、メインスケール110の回折格子112で回折される。このとき、±1次、±2次・・・±s次・・・の回折光が生じるととともに、回折を受けずに透過する0次光L0がある。
【0017】
インデックススケール群140は、複数(二以上)のインデックススケールからなり、複数(二以上)のインデックススケールが所定間隔を隔てて並列されている。
メインスケール110を透過型としたので、インデックススケール群140は、メインスケール110を間にして光源131とは反対側にある。
いま、インデックススケールをメインスケール110に近い側から順に1、2、3・・・、N−1、Nと番号付けする。そして、各インデックススケールの格子ピッチを次のように表わす。すなわち、メインスケール110の格子ピッチP0、第1インデックススケールの格子ピッチP1、第2インデックススケールの格子ピッチP2、第3インデックススケールの格子ピッチP3、・・・、第(N−1)インデックススケールの格子ピッチPN−1、第Nインデックススケールの格子ピッチPN、を次のように表わす。
【0018】
P0=g
P1=g/m1
P2=g/m2
P3=g/m3
・・・
PN−1=g/mN−1
PN=g/mN
【0019】
miは正の数(実数)である。
【0020】
受光部132は、受光素子を有する光電変換素子である。
【0021】
この構成において、光源131から受光部132に至る光路を図5のように表わす。すなわち、光源131からの光源光Lがメインスケール110に垂直に入射し、回折光と0次の透過光が生じる。
ここで、メインスケール110からの回折光のうち、±s次の回折光を最終的に受光部132に入射させて計測に利用したいとする。(sは1以上の整数である)。
【0022】
メインスケール110からの回折光のうちの+s次の回折光Ls1の光路について考える。
メインスケール110からの回折光のうちの+s次回折光Ls1は、インデックススケール群140に入射する。すると、この+s次回折光Ls1は、各インデックススケール1〜Nを通過する際に、複数回の回折をうける。
もちろん、いくつかのインデックススケール1〜Nでは回折を受けずに0次の透過光として透過してもよい。
【0023】
+s次回折光Ls1がインデックススケール群140から射出するところに注目する。すなわち、+s次回折光Ls1が第(N−1)インデックススケールから第Nインデックススケールに入射し、第Nインデックススケールから射出して受光部132に至る光路に注目する。
+s次回折光Ls1が第(N−1)インデックススケールから第Nインデックススケールに入射する入射角を+αとする。そして、+s次回折光Ls1が第Nインデックススケールで回折(あるいは第Nインデックススケールを透過)して第Nインデックススケールから射出する。
+s次回折光Ls1が第Nインデックススケールで回折(あるいは透過)した光束のうちu1次光Lu1が受光部132に入射するとする。
このu1次光Lu1が第Nインデックススケールから射出する射出角を+β1とする。
【0024】
次に、メインスケール110からの回折光のうちの−s次の回折光Ls2の光路について考える。
メインスケール110からの回折光のうちの−s次回折光Ls2は、インデックススケール群140に入射する。
−s次回折光Ls2は、各インデックススケールを通過する際に複数回の回折を受け、あるいは、いくつかのインデックススケールでは回折を受けずに0次の透過光として透過する。
−s次回折光Ls2がインデックススケール群140から射出するところに注目する。すなわち、−s次回折光Ls2が第(N−1)インデックススケールから第Nインデックススケールに入射し、第Nインデックススケールから射出して受光部132に至る光路に注目する。
−s次回折光Ls2が第(N−1)インデックススケールから第Nインデックススケールに入射する入射角を−αとする。
【0025】
最終的に+s次回折光Ls1と−s次回折光Ls2とが受光部132上で干渉信号として検出されるためには、+s次回折光Ls1の光路と−s次回折光Ls2の光路とが対称(つまり光路長が互いに同じ)となっているはずである。したがって、+s次回折光Ls1が第Nインデックススケールに入射する入射角が+αであれば、必然的に、−s次回折光Ls2が第Nインデックススケールに入射する入射角は−αである。
【0026】
そして、−s次回折光Ls2が第Nインデックススケールで回折(あるいは第Nインデックススケールを透過)して第Nインデックススケールから射出する。−s次回折光Ls2が第Nインデックススケールで回折(あるいは透過)した光束のうちu2次光Lu2が受光部132に入射するとする。
このu2次光Lu2が第Nインデックススケールから射出する射出角を+β2とする。
【0027】
最後に、メインスケール110を透過した0次光L0の光路について考える。
メインスケール110を透過した0次光L0はインデックススケール群140に入射し、複数回の回折あるいは透過をして、インデックススケール群140から射出する。
0次光L0がインデックススケール群140から射出するところに注目する。
すなわち、0次光L0が第(N−1)インデックススケールから第Nインデックススケールに入射し、第Nインデックススケールから射出する光路に注目する。
0次光L0が第(N−1)インデックススケールから出射するときの角度を+δとする。(図6を参照されたい。)
0次光L0が第Nインデックススケールに入射する入射角は、錯角の関係なので、−δとなる。
そして、0次光L0は、第Nインデックススケールで回折(あるいは第Nインデックススケールを透過)して第Nインデックススケールから射出する。
【0028】
メインスケール110を透過した0次光L0がインデックススケール群140のi番目のインデックススケールで回折するときの回折次数をtiと表す(tiは整数である)。
そして、メインスケール110からの0次光L0が第Nインデックススケールで回折(あるいは透過)した光を総称的にtN次光LtNと称することとする。
このtN次光LtNが第Nインデックススケールから射出するときの射出角を+γとする。
本発明の趣旨としては、このtN次光LtNが受光部132に入射しないようにしたいわけである。
【0029】
本発明者は鋭意研究の結果、上記構成の光電式エンコーダ100において高精度かつロバスト性を確保するためには次の2条件を満たすように光学系を設計すればよいことに想到した。
【0030】
(第1条件)
λ×(u1−u2)×(mN÷g)=2×sinα ・・・(式1)
【0031】
(第2条件)
λ×u1×(mN÷g)-sinα≠λ÷g×Σi=1(ti×mi) ・・・(式2)
【0032】
ここで、λは光源光の波長である。
また、tiは、メインスケール110を透過した0次光L0がインデックススケール群140のi番目のインデックススケールで回折するときの回折次数を表わす。
【0033】
(第1条件式の導出)
第1条件および第2条件のそれぞれの導出を説明する。
まず、第1条件式について説明する。
第1条件は、メインスケール110からの回折光のうちの+s次回折光Ls1と−s次回折光Ls2とが重なって受光部132に入射するための条件である。
+s次回折光Ls1が第Nインデックススケールから回折角β1で射出して受光部132に入射する式(回折条件の式)は次のように表わされる。
【0034】
sinα+sinβ1=λ×u1×(mN÷g) ・・・(式3)
【0035】
−s次回折光Ls2が第Nインデックススケールから回折角β2で射出して受光部132に入射する式(回折条件の式)は次のように表わされる。
【0036】
sin(−α)+sinβ2=λ×u2×(n÷g) ・・・(式4)
【0037】
+s次回折光Ls1と−s次回折光Ls2とが重なって受光部132に入射するためには、β1=β2、すなわち、sinβ1=sinβ2が必要である。
【0038】
(式3)より、
sinβ1=λ×u1×(mN÷g)−sinα ・・・(式5)
【0039】
(式4)より、
sinβ2=λ×u2×(n÷g)−sin(−α) ・・・(式6)
【0040】
したがって、第1条件が導かれる。
λ×u1×(mN÷g)−sinα=λ×u2×(mN÷g)−sin(−α)
λ×(u1−u2)×(mN÷g)=2×sinα ・・・(式1)
【0041】
(第2条件式の導出)
次に、第2条件式について説明する。
メインスケール110を透過した0次光L0がインデックススケール群140のi番目のインデックススケールで回折するときの回折次数をtiと表わした。
したがって、メインスケール110からの0次光L0が第Nインデックススケールで回折(あるいは透過)した光を総称的にtN次光LtNと称することとする。
第2条件式は、このtN次光LtNが受光部132に入射しないための条件式である。
【0042】
メインスケール110からの0次光L0が途中の各インデックススケールで回折を受け、角度−δで第Nインデックススケールに入射し、角度γで第Nインデックススケールから射出するとする。
このとき、回折の式は次のようになる。
【0043】
sin(−δ)+sinγ=λ×tN×(mN÷g) ・・・(式7)
【0044】
ここで、
sinδ=+Σi=1N−1{ti×λ×(mi÷g)} ・・・(式8)
と表わすことができる。
(なお、tiは、メインスケール110を透過した0次光L0がインデックススケール群140のi番目のインデックススケールで回折するときの回折次数である(再掲))
【0045】
tN次光LtNが受光部132に入射しないためには、γ≠β1、すなわち、sinγ≠sinβ1となることが必要である。
(なお、γ≠β1が成り立てば、第1条件式により、γ≠β2は自動的に成立する。)
【0046】
(式7)より、
sinγ=λ×tN×(mN÷g)−sin(−δ) ・・・(式9)
(式8)を代入すると、
sinγ=λ×tN×(mN÷g)+Σi=1N−1{ti×λ×(mi÷g)} ・・・(式10)
である。
整理して、
sinγ=(λ÷g)×Σi=1(ti×mi) ・・・(式11)
となる。
【0047】
したがって、sinγ≠sinβ1より、第2条件式を得る。
λ×u1×(mN÷g)−sinα
≠(λ÷g)×Σi=1(ti×mi) ・・・(式2)
【0048】
光電式エンコーダ100の光学系の設定(設計)が上記第1条件式(式1)および第2条件式(式2)を満たすようになっていれば、メインスケール110からの信号光(±s次光Ls1、Ls2)と0次光L0とが分離されるので、理想的な高い検出精度を実現できる。
そして、信号光として±s次光Ls1、Ls2を使用するのであるから信号光(±s次光Ls1、Ls2)の光路が対称構造になっているのが当然の前提であり、したがって、光源131光の波長変動に対するロバスト性を確保することができる。
また、従来技術のごとく0次光を遮蔽するためのマスクやアパーチャーを要しないので、光源光Lのビーム径に制限を設ける必要はない。
たとえば、光源光Lのビーム径がある程度の大きさになるようにすることでメインスケール110の汚れに対する感度(光量変化率)を抑制し、メインスケール110の汚れに対するロバスト性を確保することができる。
【0049】
(実施例1)
図7は本発明に基づく実施例1である。
メインスケール110の回折格子112の格子ピッチをgとする。
インデックススケール群140は2つのインデックススケールを有し、第1インデックススケールと第2インデックススケールとを有する。
第1インデックススケールおよび第2インデックススケールの格子ピッチはg/2とする。
この構成であれば、信号光と0次光とを分離できる。
【0050】
実施例1の構成に第1条件式および第2条件式を適用してみる。
各パラメータは次の通りである。
【0051】
λ(光源光波長):任意
g(メインスケール110の格子ピッチ):任意
N(インデックススケール群140を構成するインデックススケールの数):2
m1(メインスケール110の格子ピッチと第1インデックススケールの格子ピッチとの比):2
m2(メインスケール110の格子ピッチと第2インデックススケールの格子ピッチとの比):2
s(信号光の回折次数):1
α(信号光が第2インデックススケールに入射する角度):sin−1(λ/g)
u1(信号光(+1次回折光Ls1)が第2インデックススケールで回折するときの回折次数):1
u2(信号光(−1次回折光Ls2)が第2インデックススケールで回折するときの回折次数):0
【0052】
第1条件式(式1)の(左辺)を計算してみる。
(左辺)=λ×1×(2÷g)
=2λ/g
【0053】
第1条件式(式1)の(右辺)を計算してみる。
(右辺)=2×sin(sin−1(λ/g))
=2λ/g
したがって、(左辺)=(右辺)であるので、第1条件式を満たす。
【0054】
次に第2条件式について考える。
第2条件式(式2)の(左辺)を計算してみる。
(左辺)=λ×1×(2÷g)−sin(sin−1(λ/g))
=λ/g ・・・(式9)
【0055】
第2条件式(式2)の(右辺)を計算してみる。
(右辺)=λ÷g×(t2×2)+λ÷g×2×t1
=(t2+t1)×2×λ/g ・・・(式10)
【0056】
さて、ここで、第2条件式(式2)の(左辺)をみると、λ/gの係数は1、つまり、奇数である。
一方、第2条件式(式2)の(右辺)をみると、λ/gの係数には2が含まれる。つまり、偶数である。
したがって、t2とt1とがどんな値であっても、(左辺)≠(右辺)が成立する構成になっている。
【0057】
実際、図8のように光路を作図してみると、メインスケール110からの0次光が受光部132には入射しないことがわかる。
言葉を換えて詳しく表現する。
メインスケール110での+1次回折光のうち第2インデックススケールで+1次回折した光を一方の信号光と取り出す。
また、メインスケール110での−1次回折光のうち第2インデックススケールを透過した光(0次光)を他方の信号光と取り出す。
この+1次回折光と透過光(0次光)とが最終的に到達する位置が受光部132である。
この受光部132の位置に対し、メインスケール110からの0次光(透過光)が到達する位置は必ず異なる。
【0058】
メインスケール110からの0次光がインデックススケール群140に入射して、第1インデックススケールで回折あるいは透過する。
第1インデックススケールでの±1次光と透過光(0次光)とを考え、(0、+1)、(0−1)、(0、0)と表わし図8中に記す。
これら(0、+1)、(0−1)、(0、0)はそれぞれ第2インデックススケールで回折あるいは透過する。
例えば、(0、0)光は第2インデックススケールで回折あるいは透過して、(0、0、+1)、(0、0、−1)、(0、0、0)などとなるが、そのいずれも受光部132に到達しない。
(0、+1)や(0−1)の回折光(あるいは透過光)を考えても同様で、いずれも受光部132に到達しない。
【0059】
このように第1条件式および第2条件式を満たすように光学系を設計することで、信号光と0次光とを巧みに分離できることがご理解いただけるであろう。
【0060】
(比較例)
次に比較例を示す。
図9は、特開平8−219812号公報に開示された従来技術である。
この従来技術においては、メインスケール110の格子ピッチ:第1インデックススケールの格子ピッチ:第2インデックススケールの格子ピッチ=1:1/2:1、となっている。
このような格子ピッチ比をもつ光学系を採用してしまうと、メインスケール110からの信号光と0次光とが重なってしまうのである。
【0061】
従来技術の構成に第1条件式および第2条件式を適用してみる。
各パラメータは次の通りである。
【0062】
λ(光源光波長):任意
g(メインスケール110の格子ピッチ):任意
N(インデックススケール群140を構成するインデックススケールの数):2
m1(メインスケール110の格子ピッチと第1インデックススケールの格子ピッチとの比):2
m2(メインスケール110の格子ピッチと第2インデックススケールの格子ピッチとの比):1
s(信号光の回折次数):1
α(信号光が第2インデックススケールに入射する角度):sin−1(λ/g)
u1(信号光(+1次回折光Ls1)が第2インデックススケールで回折するときの回折次数):1
u2(信号光(−1次回折光Ls2)が第2インデックススケールで回折するときの回折次数):−1
【0063】
第1条件式(式1)の(左辺)を計算してみる。
(左辺)=λ×(1−(−1))×(1÷g)
=2λ/g
【0064】
第1条件式(式1)の(右辺)を計算してみる。
(右辺)=2×sin(sin−1(λ/g))
=2λ/g
したがって、(左辺)=(右辺)であるので、第1条件式を満たす。
つまり、受光部132で信号光による干渉信号を検出することはできる。
【0065】
次に第2条件式について考える。
第2条件式(式2)の(左辺)を計算してみる。
(左辺)=λ×1×(1÷g)−sin(sin−1(λ/g))
=0 ・・・(式11)
【0066】
第2条件式(式2)の(右辺)を計算してみる。
(右辺)=λ÷g×(t2×1)+λ÷g×2×t1
=(t2+2・t1)×λ/g ・・・(式12)

【0067】
第2条件式(式2)の(左辺)は0である。
第2条件式(式2)の(右辺)をみると、t2とt1の組み合わせによっては0になることが有り得る。
したがって、(左辺)=(右辺)となる可能性があり、メインスケール110からの0次光が受光部132に入射してしまう。
【0068】
実際、図10のように光路を作図してみると、メインスケール110からの0次光が受光部132に入射することがわかる。
信号光にメインスケール110の透過光(0次光)が混入してしまう従来技術は本発明の技術的範囲に属さないことがわかる。
【0069】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、メインスケールが反射型であっても本発明は成り立つ。
【符号の説明】
【0070】
100…変位検出装置(光電式エンコーダ)、
110…メインスケール、112…回折格子、
130…検出ヘッド部、131…光源、
132…受光部、
140…インデックススケール群。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10