(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態を説明するための生体情報測定装置100の概略構成を示す模式図である。
【0022】
生体情報測定装置100は、図示しないベルトにより、生体情報の測定対象となる動脈(
図1の例では橈骨動脈TD)が内部に存在する生体部位(
図1の例では利用者の手首)に装着して用いられる。
【0023】
なお、生体情報の測定対象となる動脈としては橈骨動脈TDに限らず、他の動脈を対象としてもよい。
【0024】
生体情報測定装置100は、ハードウェアとして、橈骨動脈TDから圧脈波を検出するための圧力センサ1と、圧力センサ1を生体内の橈骨動脈TDに対し押圧するための押圧機構5と、圧力センサ1の隣に配置され、橈骨動脈TDを流れる血液の流れを示す血流情報を測定するための血流センサ2と、を備える。
【0025】
図1の例では、血流センサ2は、圧力センサ1に対し橈骨動脈TDの血流方向の上流側に配置されている。
【0026】
血流センサ2は、血流情報として血流速度を非侵襲にて測定するためのセンサである。血流センサ2は、超音波ドップラー方式により血流速度を測定する場合には、動脈に向かって超音波を送信する素子と、動脈から反射してくる超音波を受信する素子とが用いられる。
【0027】
また、血流センサ2は、レーザドップラー方式により血流速度を測定する場合には、動脈に向かってレーザを照射する素子と、動脈からの散乱光を受光する素子とが用いられる。
【0028】
生体情報測定装置100は、圧力センサ1により検出される圧脈波を記録する処理と、血流センサ2の出力信号に基づいて測定される血流情報を記録する処理とを同時に行うものである。
【0029】
なお、圧脈波と血流情報を同時に測定する意義としては、例えば、圧脈波に基づいて生成される血圧情報(収縮期血圧、拡張期血圧、及び、脈圧)又は脈拍情報と、血流情報との相関関係により、血圧情報や脈拍情報の変動原因等を把握することが挙げられる。
【0030】
また、血圧情報と血流情報の相関関係により、計測部位よりも末梢側の状態の推定や、計測部位から中枢側の状態の推定
を行うことが挙げられる。
【0031】
このような意義を考えると、圧力センサ1と血流センサ2のセンサ間距離は、例えば15mm〜25mm程度の小さい値に設定しておくのがよいが、この範囲に限るものではない。
【0032】
図2は、
図1に示す生体情報測定装置100の圧力センサ1を生体との接触面側から見た平面模式図である。
図2に示すように、圧力センサ1は、平板状の基体11上に形成された素子列12と素子列13を有する。
【0033】
素子列12と素子列13は、それぞれ、圧脈波の測定対象となる橈骨動脈TDの走行方向に直交する方向Xに並ぶ複数の圧力検出素子により構成されている。
【0034】
圧力検出素子は特に限定されないが、例えばピエゾ抵抗効果を利用したものが用いられる。素子列12と素子列13は、方向Xに直交する方向Yに並んで配置されている。
【0035】
このように、圧力センサ1は、素子列12と素子列13を有しているため、トノメトリ状態にある橈骨動脈TDの真上に圧力検出素子を配置できる可能性を高めることができ、高精度な圧脈波の検出が可能になる。
【0036】
図3は、
図1に示す生体情報測定装置100の内部構成を示すブロック図である。
【0037】
生体情報測定装置100は、圧力センサ1と、血流センサ2と、全体を統括制御する制御部3と、フラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)、及び、RAM(Random Access Memory)等の記録媒体を含むメモリ4と、信号処理部1Aと、信号処理部2Aと、押圧機構5と、を備える。
【0038】
なお、生体情報測定装置100において、圧力センサ1、血流センサ2、信号処理部1A、信号処理部2A、及び、
押圧機構5を除く構成については、生体に装着される筐体とは別の場所に配置されていてもよい。
【0039】
例えば、制御部3及びメモリ4は、圧力センサ1、血流センサ2、信号処理部1A、信号処理部2A、及び、
押圧機構5を収容する筐体と電気的に接続されたコンピュータに内蔵されているものとしてもよい。
【0040】
押圧機構5は、圧力センサ1を生体内の橈骨動脈TDに対し押圧するための機構である。
【0041】
押圧機構5は、例えば、基体11に固定された空気袋と、この空気袋の内圧を調整するためのポンプとにより構成される。押圧機構5による生体への押圧力(上記のポンプの内圧)は、制御部3によって制御される。
【0042】
信号処理部1Aは、圧力センサ1の出力信号に増幅処理及びフィルタ処理等の信号処理を施し、圧脈波信号として制御部3に入力する。
【0043】
信号処理部2Aは、血流センサ2の出力信号に超音波ドップラー方式又はレーザドップラー方式等で知られている公知の信号処理を施して血流速度の情報を生成し、血流速度の情報を制御部3に入力する。
【0044】
信号処理部2Aは、血流センサ2の出力信号に基づいて血流情報を測定する血流情報測定部として機能する。
【0045】
制御部3は、メモリ4に格納されたプログラムを実行するプロセッサを主体に構成されており、プロセッサがこのプログラムを実行することで各種処理を行う。
【0046】
図4は、
図3に示す制御部3の機能ブロック図である。
【0047】
制御部3は、プログラムを実行することにより、押圧制御部31と、押圧力決定部32と、記録制御部33と、生体情報測定部34として機能する。
【0048】
押圧制御部31は、押圧機構5を駆動して、押圧機構5による圧力センサ1の橈骨動脈TDへの押圧力を制御する。
【0049】
押圧制御部31は、予め決められたタイミング、例えば、生体情報測定装置100に対し生体情報の計測指示がなされたタイミングにて、押圧機構5による押圧力を初期値から予め決められた設定値まで所定の増加速度で増加させる押圧力増加制御を行う。
【0050】
押圧力決定部32は、押圧制御部31により押圧力増加制御が行われた期間である押圧力制御期間において、信号処理部2Aにより測定された血流速度の情報、及び、圧力センサ1により検出された圧脈波の情報に基づいて、押圧機構5による第一の押圧力を決定する。
【0051】
橈骨動脈Tが平坦になった部分の真上に位置する圧力検出素子によって検出される圧脈波は、橈骨動脈TDの血管壁の張力の影響がなく、最も振幅が大きくなる。また、この圧脈波は橈骨動脈TD内の血圧値との相関が最も高い。
【0052】
このような理由により、押圧力決定部32は、上記の押圧力制御期間において最大振幅の圧脈波を検出した圧力検出素子を最適圧力検出素子とし、この最適圧力検出素子により検出された圧脈波の情報と、押圧力制御期間において信号処理部2Aにより測定された血流速度の情報と、に基づいて押圧機構5による第一の押圧力を決定する。
【0053】
この第一の押圧力は、第一の押圧力によって押圧された橈骨動脈TDから血管の周方向の張力の影響を受けずに圧脈波を検出できる状態、すなわちトノメトリ状態を実現し、かつ、橈骨動脈TDの変形によって血流速度に変化が生じない(血流速度の測定誤差の少ない)状態を実現する押圧力である。第一の押圧力の決定方法の詳細については後述する。
【0054】
記録制御部33は、押圧制御部31により押圧機構5による押圧力が上記の第一の押圧力に制御された状態で、圧力センサ1の最適圧力検出素子により検出される圧脈波(圧脈波信号)と、この状態で信号処理部2Aにより測定される血流速度の情報とを、時刻情報と関連付けてメモリ4に記録する制御を行う。
【0055】
生体情報測定部34は、押圧制御部31により押圧機構5による押圧力が上記の第一の押圧力に制御された状態で、最適圧力検出素子により検出されメモリ4に記録された圧脈波信号に基づいて、周知の方法により、最高血圧、最低血圧、脈圧、及び、脈拍等の生体情報を測定し、測定した生体情報をメモリ4に記録する。
【0056】
次に、第一の押圧力の決定方法について詳しく説明する。
【0057】
図5及び
図6は、異なる被験者を対象として生体情報測定装置100と同様の測定条件で圧脈波と血流速度の測定を行った結果を示す図である。
【0058】
図5及び
図6は、押圧機構5による押圧力を横軸とし、押圧機構5による押圧力を増加させていく過程で圧力センサ1に含まれる最適圧力検出素子により検出された圧脈波信号の最小値(圧脈波波形のボトム値)を圧脈波の情報として縦軸にプロットし、同過程で信号処理部2Aにより測定された血流速度を同様に縦軸にプロットしたものである。
【0059】
図5及び
図6に示すように、圧脈波の情報は、押圧力が増加を開始すると線形的に増加していき、その後、増加率が一度緩やかとなり、その後、再び線形的に増加していく特徴が観測されている。
【0060】
この圧脈波の情報の増加率が緩やかとなっている期間に、橈骨動脈TDの血管内圧と橈骨動脈TDを押圧する押圧力とがほぼ同じになる平衡状態、すなわちトノメトリ状態があると考えられている。
【0061】
図5の例では、時刻t1〜時刻t4までの期間T1が、圧脈波の情報の増加率が閾値以下となっている第一の期間である。
図6の例では、時刻t1〜時刻t3までの期間T1が、圧脈波の情報の増加率が閾値以下となっている第一の期間である。
【0062】
したがって、圧脈波の検出精度だけを考えれば、この第一の期間における押圧力のいずれかを上記の第一の押圧力として決定すれば十分である。
【0063】
これまでは、
図5及び
図6に示した期間T1のうち、圧脈波の情報の変化率が最も小さくなるタイミングや、最大振幅の圧脈波が検出されたタイミングでの押圧力を第一の押圧力とするのが一般的であった。
【0064】
しかし、
図5の結果では、期間T1において、血流速度が急激に変化するタイミングが存在している(例えば押圧力が76mmHg近傍のタイミング)。このため、従来の方法で第一の押圧力を決定すると、圧脈波については精度よく検出できても、血流速度については本来の値からずれた値が測定される可能性がある。
【0065】
なお、呼吸による心拍出量の変動によって橈骨動脈TDへ供給される血液量は変動するため、血流速度は、例えば血管が圧迫されていない平常状態であっても多少のばらつきを生じる。
図5において、押圧力が76mmHg近傍のタイミングで検出された血流速度は、このばらつきの範囲を超えている。
【0066】
そこで、押圧力決定部32は、押圧力制御期間において検出された圧脈波の情報(圧脈波信号の最小値)の変化率が閾値以下となっている第一の期間の一部の期間のうち、押圧力が最小に制御されたタイミングを起点として、血流速度が所定範囲に収まっている連続した期間である第二の期間を判定し、この第二の期間の押圧力のいずれかを第一の押圧力として決定する。
【0067】
具体的には、押圧力決定部32は、押圧力制御期間において検出された圧脈波の情報について、隣接時刻で検出された圧脈波の情報の差分を圧脈波の情報の変化率として算出し、この差分が閾値以下となっている期間を、圧脈波の情報の変化率が閾値以下となっている第一の期間(
図5及び
図6の例では期間T1)とする。
【0068】
また、押圧力決定部32は、第一の期間のうち、押圧力が最小に制御された時刻(
図5及び
図6の例では時刻t1)から、最大振幅の圧脈波が検出された時刻(
図5の例では時刻t3、
図6の例では時刻t2)までの期間(
図5及び
図6の例では期間T1a)を、第一の期間の一部の期間として選択する。
【0069】
また、押圧力決定部32は、押圧力制御期間のうちの第一の期間よりも押圧力が小さく制御されている第三の期間(
図5及び
図6の例では期間T3)において測定された血流速度に基づいて、以下の式(1)により、被験者の血流速度のばらつきの範囲を算出し、この範囲を上記の所定範囲とする。
【0071】
式(1)において、“v”は血流速度である。また、“m
v”は、第三の期間における血流速度の平均値を示し、以下の式(2)で表される。式(2)における“n”は、第三の期間に測定された血流速度の数を示す。式(2)における“v
i”は、第三の期間においてi番目に測定された血流速度を示す。
【0073】
式(1)において“σ
v”は、第三の期間における血流速度の標準偏差を示し、以下の式(3)で表される。
【0075】
押圧力決定部32は、第一の期間の一部の期間(
図5及び
図6の期間T1a)において押圧力が最小に制御されたタイミング(
図5及び
図6の時刻t1)を起点として、血流速度が式(1)で算出された所定範囲に収まっている連続した期間である第二の期間を判定する。
【0076】
図5の例では、“m
v”が220mm/sであり、“3σ
v”が30mm/sである。このため、時刻t1から始まって、血流速度が220±30mm/sの範囲を初めて超えた時刻の直前の時刻t2までの期間T2が第二の期間となる。
【0077】
図6の例では、“m
v”が170mm/sであり、“3σ
v”が45mm/sである。
図6の例では、期間T1aにおいて血流速度が170±45mm/sの範囲を超えていないため、期間T1aがそのまま第二の期間となる。
【0078】
このようにして決められた第二の期間は、血管内圧と押圧力がほぼ等しいトノメトリ状態にあり、かつ、血流速度がばらつきの範囲に収まっている期間である。したがって、この第二の期間における押圧力のいずれかを第一の押圧力として決定することで、圧脈波を精度よく検出しながら、同時に、血流速度を高精度に測定することができる。
【0079】
第二の期間においてどの押圧力を第一の押圧力とするかは、いくつかの方法がある。
【0080】
(第一の方法)
押圧力決定部32は、第二の期間(
図5の期間T2、
図6の期間T1a)の押圧力のうちの最大押圧力を第一の押圧力として決定する。
【0081】
第一の方法によれば、
図6の結果が得られた被験者のように、第二の期間中に血流速度が大きく変化しない被験者の場合には、圧脈波の振幅が最大となった押圧力が第一の押圧力として決定される。このため、従来技術と同様に高い精度で圧脈波を検出することが可能となる。
【0082】
また、第二の期間の初期は、橈骨動脈TDの血管壁が平らになり始めた状態と言える。このため、第一の方法のようにできるだけ押圧力の大きな状態を圧脈波の測定条件とすることで、圧脈波をより精度よく測定することができる。
【0083】
また、第一の方法によれば、第一の押圧力の決定処理を簡素化でき、制御部3の演算処理を減らして処理負荷を軽減することができる。この結果、生体情報測定装置100を電池駆動にする場合には、連続使用時間を延ばすことができる。
【0084】
(第二の方法)
押圧力決定部32は、第二の期間(
図5の期間T2、
図6の期間T1a)の押圧力のうち、最大振幅の圧脈波が検出されたタイミングの押圧力を第一の押圧力として決定する。この第二の方法でも、圧脈波を精度よく測定することができる。
【0085】
(第三の方法)
押圧力決定部32は、第二の期間(
図5の期間T2、
図6の期間T1a)の押圧力のうち、圧脈波情報の変化率が最も小さくなっているタイミングの押圧力を第一の押圧力として決定する。この第三の方法でも、圧脈波を精度よく測定することができる。
【0086】
なお、押圧力決定部32は、第一の期間の全部を対象として第二の期間を判定してよい。つまり、押圧力決定部32は、第一の期間(
図5及び
図6の期間T1)において押圧力が最小に制御されたタイミング(
図5及び
図6の時刻t1)を起点として、血流速度が式(1)で算出された所定範囲に収まっている連続した期間を第二の期間として決定する。
【0087】
第一の期間における押圧力であれば、圧脈波の検出精度は十分に高くすることができるため、この構成であっても圧脈波と血流速度を同時に精度よく測定することが可能である。
【0088】
以上のように構成された生体情報測定装置100の動作を説明する。
【0089】
図7は、
図1に示す生体情報測定装置100の動作を説明するためのフローチャートである。
【0090】
生体情報測定装置100が利用者の手首に装着され、利用者により電源が投入されて、計測開始の操作がなされると、押圧制御部31は、押圧機構5による押圧力を初期値から所定量増加させる押圧力増加制御を行う(ステップS1)。
【0091】
押圧力の増加が開始されると、圧力センサ1により圧脈波が検出され、圧脈波信号が押圧力決定部32に入力される。押圧力決定部32は、入力された圧脈波信号を検出時刻及びその時刻における押圧力と対応付けてメモリ4に記録する(ステップS2)。
【0092】
また、圧脈波の検出と並行して、血流センサ2と信号処理部2Aにより血流速度が測定され、血流速度の情報が押圧力決定部32に入力される。押圧力決定部32は、入力された血流速度の情報を測定時刻及びその時刻における押圧力と対応付けてメモリ4に記録する(ステップS3)。
【0093】
次に、押圧制御部31は、予め決められた設定値まで押圧力を上昇させたか否かを判定する(ステップS4)。押圧制御部31は、押圧力が設定値に達していない場合(ステップS4:NO)は、ステップ1に処理を戻して押圧力の増加を継続する。押圧力が設定値に達していた場合(ステップS4:YES)はステップS5以降の処理が行われる。
【0094】
ステップS5において、押圧力決定部32は、メモリ4に記録された押圧力の増加期間(押圧力制御期間)中に検出された圧脈波信号を読み出し、振幅が最大となる圧脈波信号を検出した圧力検出素子を最適圧力検出素子として決定する。
【0095】
次に、押圧力決定部32は、押圧力制御期間において、ステップS5で決定した最適圧力検出素子により検出された圧脈波の情報(圧脈波信号の最小値)の変化率が閾値以下となっている第一の期間(
図5の例では期間T1)を判定する(ステップS6)。
【0096】
次に、押圧力決定部32は、ステップS6で判定した第一の期間において、押圧力が最小となるタイミングから最大振幅の圧脈波が検出されたタイミングまでの期間(
図5の例では期間T1a)を選択する(ステップS7)。
【0097】
次に、押圧力決定部32は、押圧力制御期間のうちの第一の期間よりも押圧力が小さく制御されている第三の期間において血流センサ2及び信号処理部2Aにより測定された血流速度に基づいて、式(1)の演算により、利用者の血流速度のばらつき範囲である所定範囲を算出する(ステップS8)。
【0098】
次に、押圧力決定部32は、ステップS7で選択した期間において、押圧力が最小となるタイミングを起点として、この期間に測定された血流速度がステップS8で算出した所定範囲に収まっている連続した第二の期間(
図5の例では期間T2)を判定する(ステップS9)。
【0099】
次に、押圧力決定部32は、ステップS9にて判定した第二の期間における最大押圧力を第一の押圧力として決定する(ステップS10)。
【0100】
ステップS10で第一の押圧力が決定されると、押圧制御部31は、押圧機構5を駆動して、押圧機構5による押圧力を第一の押圧力に制御する(ステップS11)。
【0101】
そして、押圧力が第一の押圧力に固定された状態にて、圧力センサ1により圧脈波が検出され、圧脈波信号が押圧力決定部32に入力される。押圧力決定部32は、入力された圧脈波信号を検出時刻と対応付けてメモリ4に記録する。また、この圧脈波信号に基づき、生体情報測定部34は、血圧情報や脈拍情報を生成し、これらを圧脈波信号の検出時刻と対応付けてメモリ4に記録する(ステップS12)。
【0102】
また、圧脈波の検出と並行して、血流センサ2と信号処理部2Aにより血流速度が測定され、血流速度の情報が押圧力決定部32に入力される。押圧力決定部32は、入力された血流速度の情報を測定時刻と対応付けてメモリ4に記録する(ステップS13)。
【0103】
ステップS13の後、制御部3は、圧脈波及び血流速度の計測の終了指示がなされたか否かを判定し、終了指示がなされていなければ(ステップS14:NO)ステップS12に処理を戻し、終了指示がなされた場合(ステップS14:YES)には計測処理を終了する。
【0104】
以上のように、生体情報測定装置100は、押圧力制御期間において測定された血流速度及び圧脈波の情報に基づいて、押圧機構5による第一の押圧力を決定する。そして、生体情報測定装置100は、この第一の押圧力で圧力センサ1を生体に押圧した状態にて、圧脈波の検出及び記録と、圧脈波に基づく生体情報の測定及び記録と、血流速度の測定及び記録とを行う。
【0105】
このようにして決定された第一の押圧力は、トノメトリ状態を実現し、かつ、橈骨動脈TDの変形によって血流速度に大きな変化が生じない状態を実現する押圧力となっている。このため、第一の押圧力で圧力センサ1を生体に押圧した状態にて、圧脈波の検出及び血流速度の測定を同時に行うことで、血流速度の測定精度への影響を減らしながら、生体情報の測定に必要な圧脈波の検出を高精度に行うことができる。このため、血流速度と圧脈波の測定を同時にかつ高精度に行うことができ、様々な疾患の診断に役立てることができる。
【0106】
また、生体情報測定装置100は、
図5の例で言えば、期間T3において測定された血流速度に基づいて、被験者の血流速度のばらつき範囲を式(1)により求めている。
【0107】
生体情報測定装置100の手首への装着状態や、被験者の体調、個人差等によって血流速度のばらつき範囲は変化する可能性がある。生体情報測定装置100によれば、第一の押圧力を決定するための押圧力制御期間で被験者から測定した血流速度に基づいて、血流速度のばらつき範囲を算出しているため、このようなばらつき範囲の変化を吸収することができ、第一の押圧力を精度よく決めることができる。
【0108】
なお、生体情報測定装置100の制御部3は、
図7のステップS8において所定範囲を算出した後に、この所定範囲をメモリ4に記録しておき、
図7の計測処理が終わった後の次回以降の計測開始時には、メモリ4に記録されている所定範囲の情報を読み出して第二の期間を決定してもよい。このようにすることで、次回以降の計測処理を簡略化することができる。
【0109】
生体情報測定装置100は、橈骨動脈TDの血流方向の上流側に血流センサ2が配置され、下流側に圧力センサ1が配置される構成である。このため、第一の押圧力の決定精度を向上させることができる。理由を以下に述べる。
【0110】
図8は、血管が狭窄した状態における血管全体の総圧力と血流方向の位置との関係を示した図である。
【0111】
図8に示す血管80は位置A〜Cの範囲にて狭窄しているモデルであり、位置Bにおいて最も細くなっている。血管80の下には、血管80の血流方向における位置と、血管80の総圧力との関係を示したグラフが図示されている。
図8において血流方向は左から右の方向である。
【0112】
このグラフに示すように、位置Aから位置Bの範囲では、血管狭窄によって総圧力は血流方向に向かって減少する。このため、位置Aから位置Bの範囲では、位置Aの上流側と比較すると血流速度は上昇する。
【0113】
一方、位置Bから位置Cの範囲では、血管が徐々に太くなるため、総圧力は血流方向に向かって増加する。このため、位置Bから位置Cの範囲では、位置Aから位置Bの範囲と比較すると血流速度は低下する。
【0114】
しかし、位置C近傍においては、狭い血管部位から広い血管部位に血液が流れ出てくるため、血流方向が上流側から下流側に向かって一律とはならず、渦を巻く形になる。このため、グラフに示すように、位置C近傍においては、位置Aより上流側と比べて、総圧力が低くなる圧力損失が発生する。
【0115】
位置C近傍にて圧力損失が発生することで、血流速度は全体として大きくなる可能性があり、この現象が、
図5の例で説明した、トノメトリ状態の期間T1において血流速度が大きく変化する原因の1つと考えらえる。
【0116】
押圧力決定部32により決定された第一の押圧力は、トノメトリ状態で、かつ、この圧力損失が生じない程度の押圧力であると言うことができる。
【0117】
以上の圧力損失の原理を考慮すると、血流センサ2が圧力センサ1よりも血流方向の上流側に配置されていることで、血流センサ2と信号処理部2Aにより、血流速度(又は血流方向)が比較的安定した位置で血流を測定することができる。
【0118】
このため、血流速度のばらつき範囲を精度よく算出することができる。この結果、第一の押圧力を精度よく決定することができ、血流速度の測定精度と圧脈波の検出精度を向上させることができる。
【0119】
もちろん、生体情報測定装置100は、血流センサ2が圧力センサ1よりも血流方向の下流側に配置された構成であってもよい。
【0120】
以上の説明では、
図7のステップS1において、押圧制御部31が押圧力を増加させる過程で、圧脈波の検出と血流速度の測定を行い、この過程で得られた圧脈波の情報と血流速度に基づいて第一の押圧力が決定されるものとした。
【0121】
生体情報測定装置100は、押圧力を上記の設定値まで増加させた後に押圧力を所定量ずつ減少させる制御を行い、この押圧力の減少過程において圧脈波の検出と血流速度の測定を行い、この過程で得られた圧脈波の情報と血流速度に基づいて第一の押圧力を決定してもよい。
【0122】
前述してきた、押圧力を増加させる過程で得られる圧脈波の情報と血流速度に基づいて第一の押圧力を決定する構成によれば、押圧制御期間中における血流速度の変動が大きくなるのを防ぐことができるため、第一の押圧力の決定を精度よく行うことができる。
【0123】
生体情報測定装置100では、
図7のステップS6以降に用いる圧脈波の情報として、圧脈波信号のボトム値を用いているが、この代わりに、圧脈波信号の振幅値、又は、圧脈波信号のピーク値を用いてもよい。どの値を用いても、第一の期間についてはほぼ同じになるため、これまでと同様の効果を得ることができる。
【0124】
生体情報測定装置100の信号処理部2Aは、血流情報として血流速度を測定するものとしたが、血流量を測定してもよい。
【0125】
この場合は、血流センサ2の隣に動脈の断面積を測定するためのセンサが配置される。そして、信号処理部2Aは、血流センサ2の出力信号に基づいて算出した血流速度に、このセンサの出力情報に基づいて算出した断面積を乗算して血流量を算出する。
【0126】
血流センサ2が配置される動脈部分の断面積はほぼ一定であると考えられるため、このようにして算出された血流量は血流速度に比例する値になる。このため、血流速度の代わりに血流量の情報を用いて第一の押圧力を決定することも可能である。
【0127】
なお、血流量は光電容積脈波波形を利用して求めることもできる。この場合は、生体情報測定装置100において血流センサ2の代わりに光電脈波センサを用い、信号処理部2Aが、光電容積脈波波形を利用して血流量を算出する構成とすればよい。
【0128】
生体情報測定装置100の圧力センサ1は、複数の圧力検出素子からなる素子列を複数有する構成である。しかし、圧力センサ1は、圧脈波を検出できる構成であればよく、圧力検出素子が少なくとも1つあればよい。
【0129】
図2に示すように、複数の素子列を有する圧力センサ1は、基体11の面積が大きくなるため、基体11を生体に押圧していったときに、橈骨動脈TDの潰される範囲も広くなる。つまり、血流情報への影響が大きくなりやすいと考えられるため、上述してきた方法で第一の押圧力を決定することが特に有効となる。
【0130】
本実施形態の制御部3が行う
図7に示した各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、当該プログラムをコンピュータが読取可能な一時的でない(non−transitory)記録媒体に記録される。
【0131】
このような「コンピュータ読取可能な記録媒体」は、たとえば、CD−ROM(Compact Disc−ROM)等の光学媒体や、メモリカード等の磁気記録媒体等を含む。また、このようなプログラムを、ネットワークを介したダウンロードによって提供することもできる。
【0132】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0133】
以上説明してきたように、本明細書には以下の事項が開示されている。
【0134】
開示された生体情報測定装置は、圧力検出素子を含む圧力センサと、前記圧力センサを生体内の動脈に対し押圧する押圧機構と、前記押圧機構による押圧力を制御する押圧制御部と、前記圧力センサの隣に配置され、前記動脈を流れる血液の流れを示す血流情報を測定するための血流センサと、前記血流センサの出力信号に基づいて血流情報を測定する血流情報測定部と、前記押圧制御部の制御によって前記押圧力が一方向に変化させられた押圧力制御期間において前記血流情報測定部により測定された血流情報及び前記圧力検出素子により検出された圧脈波の情報に基づいて、前記押圧機構による第一の押圧力を決定する押圧力決定部と、前記押圧制御部によって前記押圧機構による押圧力が前記第一の押圧力に制御された第一の状態で前記圧力検出素子により検出される圧脈波と、前記第一の状態で前記血流情報測定部により測定される血流情報とを記録媒体に記録する記録制御部と、を備えるものである。
【0135】
開示された生体情報測定装置は、前記押圧力決定部は、前記押圧力制御期間において検出された前記圧脈波の情報の変化率が閾値以下となっている第一の期間の少なくとも一部の期間のうち、押圧力が最小に制御されたタイミングを起点として前記血流情報が所定範囲に収まっている連続した期間である第二の期間を判定し、前記第二の期間の押圧力のいずれかを前記第一の押圧力として決定するものである。
【0136】
開示された生体情報測定装置は、前記押圧力決定部は、前記第一の期間の少なくとも一部の期間として、前記第一の期間において押圧力が最小に制御されたタイミングから、前記第一の期間において最大振幅の圧脈波が検出されたタイミングまでの期間を選択するものである。
【0137】
開示された生体情報測定装置は、前記押圧力決定部は、前記第二の期間の押圧力のうちの最大押圧力を前記第一の押圧力として決定するものである。
【0138】
開示された生体情報測定装置は、前記押圧力決定部は、前記押圧力制御期間のうちの前記第一の期間よりも前記押圧力が小さい第三の期間において測定された血流情報の平均値及び標準偏差に基づいて、前記所定範囲を決定するものである。
【0139】
開示された生体情報測定装置は、前記押圧力制御期間は、前記押圧制御部の制御によって前記押圧力が増加する方向に変化させられた期間であるものを含む。
【0140】
開示された生体情報測定装置は、前記血流センサは、前記圧力センサよりも前記動脈の血流方向の上流側に配置されているものである。
【0141】
開示された生体情報測定装置は、前記血流情報は、血流速度又は血流量であるものを含む。
【0142】
開示された生体情報測定装置は、前記圧力センサは、一方向に配列された複数の圧力検出素子からなる素子列を複数有し、前記複数の素子列が前記一方向に直交する方向に配列されているものである。
【0143】
開示された生体情報測定方法は、圧脈波を検出するための圧力検出素子を含む圧力センサを生体内の動脈に対し押圧する押圧機構による押圧力を制御する押圧制御ステップと、前記圧力センサの隣に配置され、前記動脈を流れる血液の流れを示す血流情報を測定するための血流センサの出力信号に基づいて血流情報を測定する血流情報測定ステップと、前記押圧制御ステップにより前記押圧力を一方向に変化させた押圧力制御期間において前記血流情報測定ステップにより測定された血流情報及び前記圧力検出素子により検出された圧脈波の情報に基づいて、前記押圧機構による第一の押圧力を決定する押圧力決定ステップと、前記押圧制御ステップによって前記押圧機構による押圧力を前記第一の押圧力に制御した第一の状態で前記圧力検出素子により検出される圧脈波と、前記第一の状態で前記血流情報測定ステップにより測定される血流情報とを記録媒体に記録する記録制御ステップと、を備えるものである。
【0144】
開示された生体情報測定プログラムは、圧脈波を検出するための圧力検出素子を含む圧力センサを生体内の動脈に対し押圧する押圧機構による押圧力を制御する押圧制御ステップと、前記圧力センサの隣に配置され、前記動脈を流れる血液の流れを示す血流情報を測定するための血流センサの出力信号に基づいて血流情報を測定する血流情報測定ステップと、前記押圧制御ステップにより前記押圧力を一方向に変化させた押圧力制御期間において前記血流情報測定ステップにより測定された血流情報及び前記圧力検出素子により検出された圧脈波の情報に基づいて、前記押圧機構による第一の押圧力を決定する押圧力決定ステップと、前記押圧制御ステップによって前記押圧機構による押圧力を前記第一の押圧力に制御した第一の状態で前記圧力検出素子により検出される圧脈波と、前記第一の状態で前記血流情報測定ステップにより測定される血流情報とを記録媒体に記録する記録制御ステップと、をコンピュータに実行させるためのものである。