(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1ウエーハ上に接着層を介して第2ウエーハが貼着された積層ウエーハの該第2ウエーハ側から切削ブレードを切り込ませ該積層ウエーハを回転させることで、該積層ウエーハを円形に切削するウエーハの加工方法であって、
ウエーハを保持する保持面と該保持面に直交し該保持面の中心を通る回転軸とを有し一の方向に移動可能なチャックテーブルと、該回転軸に直交する直線上で該回転軸の両側に回転軸から等距離な位置に対向してそれぞれ位置することが可能であり該一の方向に対して平面方向に直交する方向にそれぞれ移動可能でかつ回転可能な第1の切削ブレードと第2の切削ブレードとを少なくとも備える切削装置を用いて、
該積層ウエーハの中心を該回転軸に一致させて該積層ウエーハを表面を上側に露出させて保持するウエーハ保持ステップと、
該積層ウエーハの接線方向に沿って該積層ウエーハの側方に該第1の切削ブレード及び該第2の切削ブレードをそれぞれ位置させると共に、該第1の切削ブレードのウエーハ厚み方向における位置を該積層ウエーハに対する切り込み深さに対応する位置に設定する第1の切削ブレード位置付けステップと、
該第1の切削ブレード位置付けステップの実施後、該第1の切削ブレードを回転させた状態で、該第1の切削ブレードが該積層ウエーハの下側を向いた裏面から該表面に向かって回転しつつ該積層ウエーハに切り込む方向に、該第1の切削ブレードを該積層ウエーハの接線方向に沿って該積層ウエーハに対して相対的に移動させ、これによって該第1の切削ブレードを該積層ウエーハに直線的に進入させて該積層ウエーハ内に設定する切削加工開始点を通過させ、該第1の切削ブレードがウエーハに接触しない位置まで相対的に移動させる第1移動ステップと、
該第1移動ステップの実施後、該第2の切削ブレードのウエーハ厚み方向における位置を該積層ウエーハに対する切り込み深さに対応する位置に設定する第2の切削ブレード位置付けステップと、
第2の切削ブレード位置付けステップの実施後、該第2の切削ブレードを回転させた状態で、該第2の切削ブレードが該積層ウエーハの下側を向いた裏面から該表面に向かって回転しつつ該積層ウエーハに切り込む方向に、該第2の切削ブレードを該積層ウエーハの接線方向に沿って相対的に移動させ、これによって該第2の切削ブレードを該積層ウエーハに直線的に進入させて該積層ウエーハ内に設定する切削加工開始点に到達させる加工開始位置到達ステップと、
加工開始位置到達ステップを実施した後、該第1の切削ブレード及び該第2の切削ブレードが該積層ウエーハの該裏面から該表面に向かって回転しつつ該積層ウエーハに切り込む回転方向にチャックテーブルを回転させ該積層ウエーハを円形に切削する切削ステップと、を実施することを特徴とするウエーハの加工方法。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおけるウエーハの研削において、外周部分が丸く面取りされたウエーハを研削して薄化すると、ウエーハの外周部は、外周部に向かって尖ったエッジ状に形成される。そして、この尖ったエッジが原因となってウエーハの外周の強度が低下することで、ウエーハの外周に衝撃が加わった際にウエーハが割れやすくなるという問題がある。このウエーハ割れを防ぐために、ウエーハを薄化する前に、デバイスが形成されていないウエーハの外周部分を切削等によりトリミングすることにより、薄化後のウエーハに尖ったエッジが形成されないようにするウエーハの加工方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、ウエーハの外周部分を切削する場合における切削ブレードのウエーハへの切り込み方としては、以下に示す代表的な2つの切り込み方がある。
【0004】
切削ブレードによるウエーハへの切り込み方の代表的な1つは、チョッパーカットである。チョッパーカットとは、ウエーハ表面を上に向けチャックテーブル上に水平に保持したウエーハの上方から、高速回転している切削ブレードを下降させてウエーハの表面の切削加工開始点からウエーハ内部の所定深さまで切り込ませ、この状態からウエーハに対して切削ブレードを相対回転移動させることにより、切削ブレードを水平方向に切り込ませながら切削する切り込み方である。
【0005】
しかし、チョッパーカットには、切削速度が遅くなるという問題がある。すなわち、切削ブレードは、回転軸を有するスピンドル(通常、スピンドルの軸方向は水平方向となっている)の先端に同軸的に装着されており、スピンドルは軸方向に平行な方向及び鉛直方向に移動自在に支持されている。このように構成された切削ブレードを用いて切削加工を行う際には、スピンドルの下降速度が水平方向の移動速度よりも比較的低速に設定されているのが一般的であり、また、ウエーハに対して切削ブレードを切り込ませる際に切削ブレードに負荷が大きく掛かり切削ブレードに撓みが生じることを回避するために、切削ブレードの下降速度を上げることにも限度もある。これらの理由から、切削ブレードの下降速度は比較的遅く、したがって、チョッパーカットを行うにあたり、切削加工開始点におけるウエーハ内部の所定深さまで切削ブレードが達するまでに時間が多く掛かり、生産効率が劣ってくるという問題がある。
【0006】
切削ブレードによるウエーハへの切り込み方の代表的なもう1つは、上記特許文献1にも記載されているスライドインカットと呼ばれる切り込み方である。スライドインカットとは、加工開始までの時間を短縮するために、ウエーハにおける円状の切削加工予定ラインの接線上の切削予定高さに切削ブレードを配設し、この状態から切削ブレードをウエーハに向けてウエーハの接線方向に沿って相対的に移動させ、切削ブレードを回転させながらウエーハの外端縁からウエーハにおける切削加工予定ラインに直線的に進入させて切り込ませ、切削ブレードをウエーハに設定されている切削加工開始点に到達させる。次いで、ウエーハをチャックテーブルごと回転させて円形状の切削予定加工予定ラインに沿って切削ブレードによって切削加工を施していくものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年においては、切削対象となるウエーハとして、第1ウエーハ上に接着層を介して第2ウエーハが貼着された積層ウエーハ(例えば、シリコンウエーハ上にシリコンウエーハが積層されたものや、ガラス基板上にシリコンウエーハが積層されたもの等)が増加している。このような積層ウエーハの第2ウエーハを円形状にトリミングする場合においては、切削ブレードがウエーハの移動方向の前方においてウエーハの表面から裏面に向かう方向に回転しつつウエーハに切り込むことで(いわゆる、ダウンカットを行うことで)、第2ウエーハから発生した端材部分が第1ウエーハ側(下側)に押し付けられて、第1ウエーハにクラックが発生するという問題がある。
【0009】
そのため、切削ブレードがウエーハの移動方向の前方においてウエーハの裏面から表面に向かう方向に回転しつつウエーハに切り込むようにする(いわゆる、アップカットをする)必要がある。これは、積層ウエーハをアップカットして第2ウエーハから発生した端材部分が上側に向かって排出されながら切削がされていくことで、端材による第1ウエーハに対する押し付けが発生しないようにするためである。したがって、2つの切削ブレード(第1ブレード及び第2ブレード)が対向して配設される切削装置を用いて積層ウエーハの外周部分をトリミングする場合には、第1ブレードの回転方向に対して第2ブレードは逆方向に回転するように設定される。
【0010】
2つのブレードで同時にウエーハをトリミングしていけば、ウエーハは180度回転するだけで、その外周部分全てがトリミングされて円形状になるため、切削効率が優れることになる。しかし、ウエーハへの切り込み始めは、チョッパーカット又はスライドインカットのどちらの切り込み方を選択したとしても、ダウンカットとなる部分が生じてしまうために、2つの対向する切削ブレードで同時にウエーハのトリミング加工を行うことは難しいという問題があった。
【0011】
よって、2つの対向する切削ブレードで同時にウエーハを円形状にトリミングする切削加工を行う場合においては、2つの切削ブレードがウエーハを常にアップカットしていくようにするという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、第1ウエーハ上に接着層を介して第2ウエーハが貼着された積層ウエーハの該第2ウエーハ側から切削ブレードを切り込ませ該積層ウエーハを回転させることで、該積層ウエーハを円形に切削するウエーハの加工方法であって、ウエーハを保持する保持面と該保持面に直交し該保持面の中心を通る回転軸とを有し一の方向に移動可能なチャックテーブルと、該回転軸に直交する直線上で該回転軸の両側に回転軸から等距離な位置に対向してそれぞれ位置することが可能であり該一の方向に対して平面方向に直交する方向にそれぞれ移動可能でかつ回転可能な第1の切削ブレードと第2の切削ブレードとを少なくとも備える切削装置を用いて、該積層ウエーハの中心を該回転軸に一致させて該積層ウエーハを
表面を上側に露出させて保持するウエーハ保持ステップと、該積層ウエーハの接線方向に沿って該積層ウエーハの側方に該第1の切削ブレード及び該第2の切削ブレードをそれぞれ位置させると共に、該第1の切削ブレードのウエーハ厚み方向における位置を該積層ウエーハに対する切り込み深さに対応する位置に設定する第1の切削ブレード位置付けステップと、該第1の切削ブレード位置付けステップの実施後、該第1の切削ブレードを回転させた状態で、該第1の切削ブレード
が該積層ウエーハの下側を向いた裏面から該表面に向かって回転しつつ該積層ウエーハに切り込む方向に、該第1の切削ブレードを該積層ウエーハの接線方向に沿って該積層ウエーハに対して相対的に移動させ、これによって該第1の切削ブレードを該積層ウエーハに直線的に進入させて該積層ウエーハ内に設定する切削加工開始点を通過させ、該第1の切削ブレードがウエーハに接触しない位置まで相対的に移動させる第1移動ステップと、該第1移動ステップの実施後、該第2の切削ブレードのウエーハ厚み方向における位置を該積層ウエーハに対する切り込み深さに対応する位置に設定する第2の切削ブレード位置付けステップと、第2の切削ブレード位置付けステップの実施後、該第2の切削ブレードを回転させた状態で、該第2の切削ブレード
が該積層ウエーハの下側を向いた裏面から該表面に向かって回転しつつ該積層ウエーハに切り込む方向に、該第2の切削ブレードを該積層ウエーハの接線方向に沿って相対的に移動させ、これによって該第2の切削ブレードを該積層ウエーハに直線的に進入させて該積層ウエーハ内に設定する切削加工開始点に到達させる加工開始位置到達ステップと、加工開始位置到達ステップを実施した後、該第1の切削ブレード及び該第2の切削ブレードが
該積層ウエーハの
該裏面から
該表面に向かって回転しつつ
該積層ウエーハに切り込む回転方向にチャックテーブルを回転させ該積層ウエーハを円形に切削する切削ステップと、を実施することを特徴とするウエーハの加工方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るウエーハの加工方法においては、各工程のいずれにおいてもウエーハをダウンカットすることはなく、また、最終的に2つの切削ブレードで同時にウエーハ(積層ウエーハ)を円形状にする切削ステップにおいても、2つの切削ブレードは積層ウエーハに対してアップカットで切削していき、かつ、ウエーハを180度回転させるだけでその全周が切削される。そのため、積層ウエーハを構成する下側のウエーハ(第1ウエーハ)に対して、第2ウエーハから発生する端材が押し付けられることがなくなることから、第1ウエーハにクラックを生じさせることがない。この効果は、ウエーハの厚み方向における加工位置が深くなるプロセスにおいてより顕著な効果となり、生産効率を向上させることにも寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示す切削装置1は、チャックテーブル30が保持する積層ウエーハWに対して、第1の切削ブレード613を備える第1の切削手段61及び
図3(A)、(B)に示す第2の切削ブレード623を備える第2の切削手段62によって切削加工を施す装置である。
【0016】
切削装置1の基台10上には、X軸方向にチャックテーブル30を往復移動させる切削送り手段11が配設されている。切削送り手段11は、X軸方向の軸心を有するボールネジ110と、ボールネジ110と平行に配設された一対のガイドレール111と、ボールネジ110を回動させるモータ112と、内部のナットがボールネジ110に螺合し底部がガイドレール111に摺接する可動板113とから構成される。そして、モータ112がボールネジ110を回動させると、これに伴い可動板113がガイドレール111にガイドされてX軸方向に移動し、可動板113上に配設されたチャックテーブル30が可動板113の移動に伴いX軸方向に移動することで、チャックテーブル30に保持された積層ウエーハWが切削送りされる。
【0017】
可動板113上に配設されたチャックテーブル30は、例えば、その外形が円形状であり、積層ウエーハWを吸着する吸着部300と、吸着部300を支持する枠体301とを備える。吸着部300は図示しない吸引源に連通し、吸着部300の露出面である保持面300a上で積層ウエーハWを吸引保持する。チャックテーブル30は、チャックテーブル30の底面側に配設された回転手段302により駆動されて回転可能となっている。回転手段302の回転軸302aの軸方向は、保持面300aに直交する方向(Z軸方向)であり、回転軸302a上には保持面300aの中心が位置している。また、チャックテーブル30の周囲には、固定クランプ304が図示の例では4つ配設されている。チャックテーブル30の近傍には、第1の切削ブレード613をドレスするためのドレッシングボード31及び第2の切削ブレード623をドレスするためのドレッシングボード32が配設されている。
【0018】
基台10上の後方側(+X方向側)には、門型コラム14が切削送り手段11を跨ぐように立設されている。門型コラム14の前面には、Y軸方向に第1の切削手段61を往復移動させる第1の割り出し送り手段12と、Y軸方向に第2の切削手段62を往復移動させる第2の割り出し送り手段13とが配設されている。
【0019】
第1の割り出し送り手段12(第2の割り出し送り手段13)は、Y軸方向の軸心を有するボールネジ120(130)と、ボールネジ120(130)と平行に配設された一対のガイドレール121と、ボールネジ120(130)を回動させるモータ122(132)と、内部のナットがボールネジ120(130)に螺合し側部がガイドレール121に摺接する可動板123(133)とから構成される。そして、モータ122(132)がボールネジ120(130)を回動させると、これに伴い可動板123(133)がガイドレール121にガイドされてY軸方向に移動し、可動板123(133)上に配設された第1の切削手段61(第2の切削手段62)が可動板123(133)の移動に伴いY軸方向に割り出し送りされる。
【0020】
可動板123上には、Z軸方向に第1の切削手段61を往復移動させる第1の切り込み送り手段16が配設されている。また、可動板133上には、Z軸方向に第2の切削手段62を往復移動させる第2の切り込み送り手段17が配設されている。第1の切り込み送り手段16(第2の切り込み送り手段17)は、Z軸方向の軸心を有するボールネジ160(170)と、ボールネジ160(170)と平行に配設された一対のガイドレール161(171)と、ボールネジ160(170)を回動させるモータ162(172)と、内部のナットがボールネジ160(170)に螺合し側部がガイドレール161(171)に摺接する支持部材163(173)とから構成される。そして、モータ162(172)がボールネジ160(170)を回動させると、これに伴い支持部材163(173)がガイドレール161(171)にガイドされてZ軸方向に移動し、支持部材163(173)が支持する第1の切削手段61(第2の切削手段62)が支持部材163(173)の移動に伴いZ軸方向に切り込み送りされる。
【0021】
第1の切削ブレード613(第2の切削ブレード623)は、チャックテーブル30の移動方向(X軸方向)に対して平面方向に直交する方向(Y軸方向、Z軸方向)に、第1の割り出し送り手段12(第2の割り出し送り手段13)及び第1の切り込み送り手段移動可能16(第2の切り込み送り手段17)によって駆動されて移動可能である。したがって、第1の切削ブレード613と第2の切削ブレード623とは、チャックテーブル30のX軸方向の位置に応じて、チャックテーブル30の回転軸302aに直交する直線La上でかつ、回転軸302aから等距離な位置に対向してそれぞれが位置することが可能となっている。
【0022】
第1の切削手段61は、軸方向がチャックテーブル30の移動方向(X軸方向)に対し水平方向に直交する方向(Y軸方向)であるスピンドル610と、スピンドル610を回転可能に支持するハウジング611と、スピンドル610を回転させるモータ612と、スピンドル610に固定されている第1の切削ブレード613とを備えており、モータ612がスピンドル610を回転駆動することに伴って、第1の切削ブレード613も高速回転する。
【0023】
第2の切削手段62は、軸方向がチャックテーブル30の移動方向(X軸方向)に対し水平方向に直交する方向(Y軸方向)である
図3に示すスピンドル620と、スピンドル620を回転可能に支持するハウジング621と、スピンドル620を回転させるモータ622と、スピンドル620に固定されている
図3に示す第2の切削ブレード623とを備えており、モータ622がスピンドル620を回転駆動することに伴って、第2の切削ブレード623も高速回転する。第1の切削ブレード612と第2の切削ブレード623とは、少なくとも、ブレード直径及び刃厚は同一であると好ましく、ブレードの構成(ボンド、砥粒等)も同一であるとより好ましい。
【0024】
図2(A)〜(C)に示す積層ウエーハWは、例えば、サポートウエーハとなる第1ウエーハW1上に、
図2(B)に示す接着層B(
図2(A)には不図示)を介して、デバイスウエーハである第2ウエーハW2が貼着されて構成されている。第2ウエーハW2は、円盤状の半導体ウエーハ(例えば、シリコンウエーハ)であり、その表面W2aには、デバイス領域W2dと、デバイス領域W2dを囲む外周余剰領域W2cとが設けられている。
【0025】
デバイス領域W2dは、格子状に配列されたストリートSで複数の領域に区画されており、各領域にはIC等のデバイスDがそれぞれ形成されている。
図2(C)に示すように第2ウエーハW2の外周端W2eは面取り加工されており、断面形状は略円弧状となっている。
【0026】
第1ウエーハW1は、第2ウエーハW2と同等の外径を有する円盤状の板状物(例えば、ガラス基板)であり、接着層Bとして機能する樹脂等を介して、その表面W1aが第2ウエーハの裏面W2bに貼着されている。
図2(C)に示すように第1ウエーハW1の外周端W1eは面取り加工されており、断面形状は略円弧状となっている。
【0027】
第2ウエーハW2の表面W2aは、積層ウエーハWの表面W2aとなり、第1ウエーハW1の裏面W1bは、積層ウエーハWの裏面W1bとなる。
【0028】
以下に、
図1〜9を用いて、
図1に示す切削装置1を用いて本発明に係る加工方法を実施して積層ウエーハWを切削する場合の、加工方法における各工程及び切削装置1の動作について説明する。
【0029】
(1)ウエーハ保持ステップ
本発明に係る加工方法においては、まず、積層ウエーハWの中心をチャックテーブル30の回転軸302aに一致させて積層ウエーハWを保持するウエーハ保持ステップを行う。ウエーハ保持ステップにおいては、まず、図示しない搬送手段が積層ウエーハWを吸着して、チャックテーブル30の保持面300a上へと積層ウエーハWを移動させる。積層ウエーハWの中心がチャックテーブル30の回転軸302a上に位置するように積層ウエーハWを位置付けた後、積層ウエーハWをチャックテーブル30の保持面300aに下降させ、積層ウエーハWをチャックテーブル30の保持面300a上に載置する。そして、保持面300aに連通する図示しない吸引源を作動させ、チャックテーブル30の保持面300a上に積層ウエーハWを吸引保持する。
【0030】
(2)第1の切削ブレード位置付けステップ
ウエーハ保持ステップを完了させた後、積層ウエーハWの接線方向(図示の例においては、X軸方向)に沿って積層ウエーハWの側方に第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623をそれぞれ位置させると共に、第1の切削ブレード613のウエーハ厚み方向(Z軸方向)における位置を積層ウエーハWに対する切り込み深さに対応する位置に設定する第1の切削ブレード位置付けステップを行う。
【0031】
第1の切削ブレード位置付けステップにおいては、
図3(A)、(B)に示すように、まず、積層ウエーハWの接線方向(図示の例では、X軸方向)に沿って積層ウエーハWの側方に第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623をそれぞれ位置させる。すなわち、第1の切削手段61及び第2の切削手段62が、それぞれ第1の割り出し送り手段12及び第2の割り出し送り手段13によってY軸方向に駆動され、積層ウエーハWとのY軸方向での位置合わせが行われる。この位置合わせは、
図3(B)に示す切削加工予定ラインLcを基準として行われる。切削加工予定ラインLcはこの時点で設定されるものであって、チャックテーブル30の回転軸302aを中心とした直径に対応し、かつデバイス領域W2dを囲む外周余剰領域W2cに仮想的に形成される円である。例えば、切削加工予定ラインLcは、切削加工予定ラインLcから積層ウエーハWの外周端までの距離が、第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623の刃厚と同程度となるように設定される。
【0032】
また、例えば、積層ウエーハWの内部にあり、かつ、切削加工予定ラインLc上の積層ウエーハWの中心から最も+Y方向側にある点が、第1の切削ブレード613が通過する切削加工開始点P1として設定される。同様に、積層ウエーハWの内部にあり、かつ、切削加工予定ラインLc上にあり積層ウエーハWの中心から最も−Y方向側にある点が、第2の切削ブレード623を到達させる切削加工開始点P2として設定される。
【0033】
そして、第1の切削ブレード613は、Y軸方向に割り出し送りされ、切削加工開始点P1を通りX軸方向側に延びる切削加工予定ラインLcの接線L1上に位置付けされる。すなわち、第1の切削ブレード613の厚み方向(Y軸方向)における端(図示の例では、−Y方向側の端)が接線L1に重なるように位置付けられる。また、第2の切削ブレード623は、Y軸方向において割り出し送りされ、切削加工開始点P2を通りX軸方向側に延びる切削加工予定ラインLcの接線L2上に位置付けされる。すなわち、第2の切削ブレード623の厚み方向(Y軸方向)における端(図示の例では、+Y方向側の端)が接線L2に重なるように位置付けられる。
【0034】
また、第1の切削ブレード613のウエーハ厚み方向(Z軸方向)における位置(すなわち、第1の切削ブレード613の下端の位置)を積層ウエーハWに対する切り込み深さに対応する位置に設定する。すなわち、第1の切削手段61が、第1の切り込み送り手段16によってZ軸方向に駆動され、積層ウエーハWとのZ軸方向における位置合わせが行われる。
【0035】
第1の切削ブレード613の下端の位置、すなわち、積層ウエーハWに対する切り込み深さに対応する位置の例としては、例えば、
図3(A)に示すように、接着層Bまで第1の切削ブレード613の下端が到達し、かつ、第1ウエーハW1には第1の切削ブレード613の下端が到達しない位置Z1がある。この位置Z1は、積層ウエーハWを切削することにより、第2ウエーハW2については切削加工予定ラインLcに沿って完全に切断し、第1ウエーハW1については元の状態を維持することを目的として設定される位置である。位置Z1は、切削加工開始点P1のZ軸方向における座標位置でもある。本実施形態においては、例えば、第1の切り込み送り手段16によって、第1の切削ブレード613が−Z方向に降下され、第1の切削ブレード613の下端が位置Z1に位置するように位置付けされる。
【0036】
なお、積層ウエーハWに対する切り込み深さに対応する位置の別の例としては、例えば、
図3(A)に示すように、第1ウエーハW1の所定の厚みまで第1の切削ブレード613の先端が到達する位置Z2がある。この位置Z2は、積層ウエーハWを切削することにより、第2ウエーハW2については切削加工予定ラインLcに沿って完全に切断し、さらに、第1ウエーハW1についても第1ウエーハW1の表面W1aからその厚み方向に向かって所定量切削すること目的として設定される位置である。位置Z2は、切削加工開始点P1のZ軸方向における座標位置でもある。
【0037】
(3)第1移動ステップ
第1の切削ブレード位置付けステップの実施後、第1の切削ブレード613を回転させた状態で、第1の切削ブレード613を積層ウエーハWの接線方向に沿って相対的に移動させ、これによって第1の切削ブレード613を積層ウエーハWに直線的に進入させて積層ウエーハW内に設定する切削加工開始点P1を通過させ、第1の切削ブレード613が積層ウエーハWに接触しない位置まで相対的に移動させる第1移動ステップを行う。本ステップでは、チャックテーブル30は回転しない。
【0038】
図4に示すように、第1の移動ステップにおいては、まず、モータ612がスピンドル610を+Y方向側から見て時計回り方向に高速回転させることで、スピンドル610に固定された第1の切削ブレード613を+Y方向側から見て時計回り方向に高速回転させる。また、チャックテーブル30に保持された積層ウエーハWを切削送り手段11によって+X方向(往方向)に所定の切削送り速度で切削送りすることで、第1の切削ブレード613を積層ウエーハWの接線方向(X軸方向)に沿って相対的に移動させる。
【0039】
これによって第1の切削ブレード613が積層ウエーハWに対して接線L1に沿って直線的に進入し、積層ウエーハWをアップカットしていく。チャックテーブル30に保持された積層ウエーハWの+X方向の切削送りをさらに行い、第1の切削ブレード613を積層ウエーハW内に設定した切削加工開始点P1を通過させ、第1の切削ブレード613が積層ウエーハWに接触しないX軸方向における位置X1までチャックテーブル30が到達したら、チャックテーブル30の切削送りを停止させる。第1の切削ブレード613については、+Y方向側から見て時計回り方向に高速回転している状態を保つ。このように第1の切削ブレード613を積層ウエーハWに進入させることで、第1の切削ブレード613の進入点から退出点まで接線L1に沿って積層ウエーハWの外周余剰領域W2cの一部が切り取られ、例えば、第1ウエーハW1の表面W1aが視認可能となる。なお、チャックテーブル30の切削送りを停止した後、第1の切り込み送り手段16が第1の切削ブレード613をZ軸方向上向きに引き上げて、積層ウエーハWから離間させてもよい。
【0040】
(4)第2の切削ブレード位置付けステップ
第1移動ステップの実施後、第2の切削ブレード623のウエーハ厚み方向における位置を積層ウエーハWに対する切り込み深さに対応する位置に設定する第2の切削ブレード位置付けステップを行う。すなわち、第2の切削手段62が、第2の切り込み送り手段17によってZ軸方向に駆動され、積層ウエーハWとのZ軸方向における位置合わせが行われる。
【0041】
第2の切削ブレード623の下端の位置、すなわち、積層ウエーハWに対する切り込み深さに対応する位置の例としては、第1の切削ブレード位置付けステップにおいて、第1の切削ブレード613をZ軸方向において位置付けた位置と同一の位置Z1とする例がある。すなわち、
図5に示すように、接着層Bまで第2の切削ブレード623の下端が到達し、かつ、第1ウエーハW1には第2の切削ブレード623の下端が至らない位置Z1である。位置Z1は、切削加工開始点P2のZ軸方向における座標位置でもある。第2の切り込み送り手段17によって、第2の切削ブレード623が−Z方向に降下され、第2の切削ブレード623の下端が位置Z1に位置するように位置付けされる。
【0042】
なお、例えば、第1の切削ブレード位置付けステップにおいて第1の切削ブレード613をZ軸方向における位置Z2に位置付けている場合には、第2の切削ブレード位置付けステップにおいても、第2の切削ブレード623のウエーハ厚み方向における位置も位置Z2とする。位置Z2は、切削加工開始点P2のZ軸方向における座標位置でもある。
【0043】
(5)加工開始位置到達ステップ
第2の切削ブレード位置付けステップの実施後、第2の切削ブレード623を回転させた状態で、第2の切削ブレード623を積層ウエーハWの接線方向に沿って相対的に移動させ、これによって第2の切削ブレード623を積層ウエーハWに直線的に進入させて積層ウエーハW内に設定する切削加工開始点P2に到達させる加工開始位置到達ステップを行う。本ステップでは、チャックテーブル30は回転しない。
【0044】
図6に示すように、加工開始位置到達ステップにおいては、まず、モータ622がスピンドル620を+Y方向側から見て反時計回り方向に高速回転させることで、スピンドル620に固定された第2の切削ブレード623を+Y方向側から見て反時計回り方向に高速回転させる。また、チャックテーブル30に保持された積層ウエーハWを切削送り手段11によって−X方向(復方向)に所定の切削送り速度で切削送りすることで、第2の切削ブレード623を積層ウエーハWの接線方向(X軸方向)に沿って相対的に移動させる。
【0045】
これによって第2の切削ブレード623が積層ウエーハWに対して接線L2に沿って直線的に進入し、積層ウエーハWをアップカットしていく。チャックテーブル30に保持された積層ウエーハWの−X方向の切削送りをさらに行い、第2の切削ブレード623を積層ウエーハW内に設定した切削加工開始点P2まで到達させてから、チャックテーブル30の切削送りを停止させる。第2の切削ブレード623を進入させた積層ウエーハWには、第2の切削ブレード623の進入点から切削加工開始点P2まで、接線L2に沿って積層ウエーハWの外周余剰領域W2cの一部が切り取られる。
【0046】
加工開始位置到達ステップにおいて、第1の切削ブレード613はすでに切削された第2ウエーハW2の接線L1上を通過するため、回転している第1の切削ブレード613が積層ウエーハWに当接し切削を行うことはない。
【0047】
(6)切削ステップ
加工開始位置到達ステップを実施した後、第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623が積層ウエーハWの裏面Wbから表面Waに向かって回転しつつ積層ウエーハWに切り込む回転方向でチャックテーブル30を回転させ積層ウエーハWを円形に切削する切削ステップを行う。
【0048】
すなわち、
図7に示すように、例えば、第1の切削ブレード613を+Y方向側から見て時計回り方向に高速回転させ続け、かつ、第2の切削ブレード623を+Y方向側から見て反時計回り方向に高速回転させ続けた状態で、チャックテーブル30を+Z方向側から見て反時計方向に回転させることで、切削加工予定ラインLcに沿って第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623をそれぞれアップカットで積層ウエーハWに切り込ませていく。積層ウエーハWを180度回転させることで、第1の切削ブレード613を切削加工開始点P2に到達させ、また、第2の切削ブレード623を切削加工開始点P1に到達させることで、積層ウエーハWの第2ウエーハW2には、切削加工予定ラインLcに沿った新たな外周端W2fが形成される。次いで、第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623をZ軸方向上向きに引き上げて、積層ウエーハWから離間させる。
【0049】
図8に示すように、切削ステップを実施した積層ウエーハWは、
図2(C)に示す第2ウエーハW2の外周端W2eが取り切られており、第2ウエーハW2の新たな外周端W2fは、その断面形状は直線状になっており、第1ウエーハW1の外周端W1eは、面取り加工された略円弧状の断面形状のままとなる。なお、第1の切削ブレード位置付けステップにおいて、第1の切削ブレード613の下端の位置を位置Z1ではなく位置Z2にした場合には、
図9に示すように、第2ウエーハW2の新たな外周端W2fは、その断面形状は直線状になり、さらに、第1ウエーハW1の新たな外周端W1fの断面形状は、直線と略円弧とからなる段差が形成された形状となる。
【0050】
本発明に係るウエーハの加工方法においては、従来からあるスライドインカットと異なり、本発明にかかるウエーハの加工方法を構成する(1)ウエーハ保持ステップ、(2)第1の切削ブレード位置付けステップ、(3)第1移動ステップ、(4)第2の切削ブレード位置付けステップ、(5)加工開始位置到達ステップ、及び(6)切削ステップのいずれのステップにおいても、積層ウエーハWをダウンカットすることはない。そのため、積層ウエーハWを構成する第1ウエーハW1に対して、第2ウエーハW2から発生する端材等が押し付けられることがなくなることから、第1ウエーハW1にクラックを生じさせることがない。また、(6)切削ステップにおいて、回転する第1の切削ブレード613及び回転する第2の切削ブレード623により、同時に積層ウエーハWを円形状に切削しても、第1の切削ブレード613及び回転する第2の切削ブレード623は積層ウエーハWに対してアップカットで切削していき、かつ、積層ウエーハWを180度回転するだけでその全周を切削することが可能となる。そして、チョッパーカットに比べてスライドインカットの利点となる高速度での切削も維持できるため、生産効率を向上させることにも寄与する。
【0051】
切削ステップを終えた後、積層ウエーハWは洗浄され切削屑が除去され、次いで、研削装置に搬送される。さらに、研削装置に搬送された積層ウエーハWの表面W2aに対して、+Z方向から回転する研削砥石を当接させて積層ウエーハWを研削していく。例えば、
図8に示す積層ウエーハWの第2ウエーハW2の厚み方向の中間部Z3に至るまで研削を行っても、第2ウエーハW2の外周端W2fに尖ったエッジは形成されない。この後、例えば、サポート部材である第1ウエーハW1を第2ウエーハW2から取り外す。
【0052】
図9に示す積層ウエーハWの第2ウエーハW2の厚み方向の中間部Z3に至るまで研削を行っても、
図9に示す第2ウエーハW2の外周端W2fには、尖ったエッジは形成されない。この後、例えば、サポート部材である第1ウエーハW1を第2ウエーハW2から取り外す。
【0053】
なお、本発明に係る加工方法は上記実施形態に限定されるものではなく、また、添付図面に図示されている切削装置1の各構成の大きさや形状等についても、これに限定されず、本発明の効果を発揮できる範囲内で適宜変更可能である。例えば、本実施形態においては、(2)第1の切削ブレード位置付けステップにおいて、切削加工予定ラインLcから積層ウエーハWの外周端までの距離が、第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623の刃厚と同程度となるように切削加工予定ラインLcを設定しているが、切削加工すべき位置の幅(トリミング幅)が、第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623の刃厚より大きい場合は、複数回に分けてトリミングを行う。例えば、トリミング幅が6mmを越える場合であって第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623の刃厚が3mmの場合は、トリミングを2回行う。また、トリミング幅が5mmであって第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623の刃厚が3mmの場合は、1回あたりのトリミング幅を2.5mmとして2回のトリミングを行う。2回のトリミングを行う場合は、(2)第1の切削ブレード位置付けステップ→(3)第1移動ステップ→(4)第2の切削ブレード位置付けステップ→(5)加工開始位置到達ステップ→(6)切削ステップを一度ずつ実施した後、2回目の第1の切削ブレード位置付けステップにおいて第1の切削ブレード613のY軸方向の位置をずらしてから再度第1移動ステップを実施し、さらに、2回目の第2の切削ブレード位置付けステップにおいて第2の切削ブレード623のY軸方向の位置をずらしてから再度加工開始位置到達ステップを行い、その後、第1の切削ブレード613及び第2の切削ブレード623のY軸方向の位置を変えずに切削ステップを行う。このように、2回に分けてトリミングを行う場合も、本発明に係る加工方法の効果は担保される。
【符号の説明】
【0054】
1:切削装置 10:基台 14:門型コラム
11:切削送り手段 110:ボールネジ 111:ガイドレール
112:モータ 113:可動板
12(13):第1の割り出し送り手段(第2の割り出し送り手段)
120(130):ボールネジ 121:一対のガイドレール
122(132):モータ 123(133):可動板
16(17):第1の切り込み送り手段(第2の切り込み送り手段)
160(170):ボールネジ 161(171):一対のガイドレール
162(172):モータ 163(173):支持部材
61(62):第1の切削手段(第2の切削手段) 610(620):スピンドル
611(621):ハウジング 612(622):モータ
613(623):第1の切削ブレード(第2の切削ブレード)
30:チャックテーブル 300:吸着部 300a:保持面 301:枠体
302:回転手段 302a:回転軸 304:固定クランプ
31:ドレッシングボード 32:ドレッシングボード
W:積層ウエーハ
W1:第1ウエーハ
W1a:第1ウエーハの表面 W1b:第1ウエーハの裏面(積層ウエーハの裏面) B:接着層 W1e:第1ウエーハの外周端
W2:第2ウエーハ W2a:第2ウエーハの表面(積層ウエーハの表面)
W2b:第2ウエーハの裏面 W2d:デバイス領域 W2c:外周余剰領域
S:ストリート D:デバイス W2e:第2ウエーハの外周端