(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶液Bに前記ケイ素化合物を接触させる工程において、前記ケイ素化合物を前記溶液Bに3分以上接触させることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記リチウム挿入工程において、リチウムを含む溶液A(但し、溶液Aは、溶媒がエーテル系溶媒のものである。)に、前記ケイ素化合物を3分以上接触させることにより、前記ケイ素化合物にリチウムを挿入することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記溶液Bに含まれる前記多環芳香族化合物として、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン、及びこれらの誘導体のうち1種以上を用いることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記溶液Aに含まれる前記多環芳香族化合物として、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン、及びこれらの誘導体のうち1種以上を用い、前記溶液Aに含まれる直鎖ポリフェニレン化合物としてビフェニル、ターフェニル、及びこれらの誘導体のうち1種以上を用いることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記分子中にキノイド構造を持つ化合物は、ベンゾキノン、キノジメタン、キノジイミン、又はそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記リチウム挿入工程の前に、前記ケイ素化合物を含む電極を形成する工程を含み、該電極に含まれるケイ素化合物に対して、前記リチウム挿入工程、前記溶液Bに接触させる工程、及び前記溶液Cに接触させる工程を施すことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法で非水電解質二次電池用負極活物質を製造し、該非水電解質二次電池用負極活物質を含む電極を用いて非水電解質二次電池を製造することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
請求項12に記載の非水電解質二次電池用負極の製造方法で製造された非水電解質二次電池用負極を備える非水電解質二次電池を製造することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源である二次電池、特にリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなる非水電解質二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いた非水電解質二次電池は炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。
【0016】
そこで、Liの挿入、一部脱離により改質されたケイ素酸化物を負極活物質として使用することで、電池のサイクル維持率、及び初回効率を改善してきた。しかしながら、改質後のケイ素酸化物はLiを用いて改質されたため、比較的耐水性が低い。そのため、負極の製造時に作製する、改質後のケイ素酸化物を含むスラリーの安定化が不十分となりやすいという問題があった。
【0017】
また、特許文献14に開示された方法によって、改質後の合金系材料からアルカリ金属を脱離しても、合金系材料の活性が依然高いままであるため、電極作製工程で、合金系材料を水系スラリー化する時にLi金属と同等の活性を持つLi合金が、水やバインダと激しく反応(発火や溶媒の沸騰を伴う反応)し、スラリー化が難しくなるという問題があった。また、このような急激な反応により、必要以上に高温となった状態を経たスラリーを用いて非水電解質二次電池を作製すると、電池特性の悪化が生じるという問題があった。また、合金系材料を電極としてからこの手法を適用すると、Li分の失活が不十分であるため、低湿度環境(室温20度で露点−20℃以下)において失活が見られ、表面にLi酸化物、水酸化物、炭酸塩などの余分なLi化合物が生じ、電池特性が低下するという問題があった。
【0018】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、電池容量を増加させ、サイクル特性を向上させることが可能な非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法、非水電解質二次電池の製造方法、及び非水電解質二次電池用負極の製造方法を提供することを目的とする。また、電池容量が大きく、高いサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明は、リチウムを含むケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含む非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を作製する工程と、前記ケイ素化合物にリチウムを挿入する工程と、前記リチウムが挿入されたケイ素化合物を、多環芳香族化合物若しくはその誘導体又はこれらの両方を含む溶液B(ただし、溶液Bは、溶媒としてエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、及びアミン系溶媒から選ばれる1種以上を含むものである。)に接触させる工程と、前記溶液Bと接触させたケイ素化合物を溶液C(ただし、溶液Cは、溶媒としてエーテル系材料、ケトン系材料、及びエステル系材料から選ばれる1種以上を含み、溶質として分子中にキノイド構造を持つ化合物を含むものである。)に接触させる工程と、を有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の負極活物質の製造方法では、リチウムを挿入されたケイ素化合物を溶液Bに接触させ、活性なLiの一部をケイ素化合物から脱離させることで、次の溶液Cと接触させる工程で急激な反応(発火や溶媒の沸騰を伴う反応)が起こることを防止する。また、溶液Cの溶媒として、エーテル系材料、ケトン系材料、及びエステル系材料を用いれば、溶媒分子に含まれるプロトンの活性が低いため、リチウムを挿入されたケイ素化合物からのLiの脱離反応における副反応が起こり難い。また、溶液Cの溶質である、分子中にキノイド構造を持つ化合物は、上記のような溶媒中で、活性なLiを含むケイ素化合物から、Liを引き抜き、Liとキノン類体の塩となって溶媒に溶解するため、平衡状態となるまでLiを引き抜くことが可能である。
【0021】
このとき、前記溶液Bに前記ケイ素化合物を接触させる工程において、前記ケイ素化合物を前記溶液Bに3分以上接触させることが好ましい。
【0022】
ケイ素化合物を溶液Bに3分以上接触させることで、活性なLiをより十分に脱離することができる。
【0023】
またこのとき、前記リチウム挿入工程において、リチウムを含む溶液A(但し、溶液Aは、溶媒がエーテル系溶媒のものである。)に、前記ケイ素化合物を3分以上接触させることにより、前記ケイ素化合物にリチウムを挿入することが好ましい。
【0024】
このようにすれば、温度を大きく上げることなくLiを挿入できる。これにより、ケイ素化合物中に、サイクル特性の悪化の原因となる結晶性のLiシリケートが生成し難く、サイクル特性の悪化を防止できる。また、溶液Aに3分以上接触させることで、ケイ素化合物にLiをより十分に挿入することができる。
【0025】
このとき、前記リチウムを含む溶液Aとして、リチウム及び多環芳香族化合物若しくはその誘導体又は直鎖ポリフェニレン化合物若しくはその誘導体を含む溶液A
1又はリチウム及びアミン類を含む溶液A
2(但し、溶液A
1及び溶液A
2は、溶媒がエーテル系溶媒のものである。)を用いることが好ましい。
【0026】
リチウムを含む溶液Aとして、これらのような溶液を使用すれば、ケイ素化合物へのより均一なLiの挿入を行うことができ、また、効率良くLiの挿入を行うことができる。
【0027】
またこのとき、本発明の負極活物質の製造方法において、前記リチウムを含む溶液Aとして、前記溶液A
1を用いることが好ましい。
【0028】
溶液A
1を使用した場合、特に効率よくLiの挿入を行うことができる。溶液A
1として、特に直鎖ポリフェニレン化合物若しくはその誘導体を含む溶液を使用した場合、特に効率よくLi挿入を行うことができる。
【0029】
このとき、前記多環芳香族化合物として、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン、及びこれらの誘導体のうち1種以上を用い、直鎖ポリフェニレン化合物としては、芳香環が単結合で直鎖状に連結した化合物、すなわちビフェニル、ターフェニル、及びこれらの誘導体のうち1種以上を用いることが好ましい。トリフェニレンは芳香環の結合が環状であるため、直鎖ポリフェニレン化合物ではなく、多環芳香族化合物に分類する。
【0030】
上記の溶液A
1及び溶液Bに含まれる多環芳香族化合物、及び溶液A
1に含まれる直鎖ポリフェニレン化合物としては、これらのようなものを用いることができる。
【0031】
またこのとき、前記分子中にキノイド構造を持つ化合物は、ベンゾキノン、キノジメタン、キノジイミン、又はそれらの誘導体であることが好ましい。
【0032】
溶液Cの溶質としては、これらのようなものを用いることができる。分子中にキノイド構造を持つ化合物の中でも、特に、これらの化合物を用いれば、溶媒中で、活性なLiを含むケイ素化合物から、効率よく活性なLiを引き抜くことが可能である。
【0033】
このとき、前記リチウム挿入工程の前に、前記ケイ素化合物を含む電極を形成する工程を含み、該電極に含まれるケイ素化合物に対して、前記リチウム挿入工程、前記溶液Bに接触させる工程、及び前記溶液Cに接触させる工程を施すことができる。
【0034】
本発明の負極活物質の製造方法では、ケイ素化合物を電極の状態にしてから、リチウムの挿入、溶液B、溶液Cとの接触工程を行ってよい。このようにして負極活物質を作製した場合、予め、ケイ素化合物に含まれる活性なLi分を失活させているため、低湿度環境でも活物質の表面に余分なLi化合物が生じ難く、電池特性の悪化を抑制できる。
【0035】
また、本発明は、上記目的を達成するために、上記のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法で非水電解質二次電池用負極活物質を製造し、該非水電解質二次電池用負極活物質を含む電極を用いて非水電解質二次電池を製造することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法を提供する。
【0036】
このようにすれば、電極作製時の発熱や、電極表面の余分なLi化合物の生成などに起因する電池特性の悪化が抑制されるため、良好な電池特性を有する非水電解質二次電池を製造することができる。
【0037】
また、上記目的を達成するために、本発明は、リチウムを含むケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含む負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極の製造方法であって、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含む電極を形成する工程と、前記電極に含まれるケイ素化合物にリチウムを挿入する工程と、前記リチウムが挿入されたケイ素化合物を含む電極を、多環芳香族化合物若しくはその誘導体又はこれらの両方を含む溶液B(ただし、溶液Bは、溶媒としてエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、及びアミン系溶媒から選ばれる1種以上を含むものである。)に接触させることで、前記ケイ素化合物に前記溶液Bを接触させる工程と、前記溶液Bと接触させた電極を溶液C(ただし、溶液Cは、溶媒としてエーテル系材料、ケトン系材料、及びエステル系材料から選ばれる1種以上を含み、溶質として分子中にキノイド構造を持つ化合物を含むものである。)に接触させることで、前記ケイ素化合物に前記溶液Cを接触させる工程と、を有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極の製造方法を提供する。
【0038】
このような方法によれば、予め、ケイ素化合物に含まれる活性なLi分を失活させているため、低湿度環境であっても活物質の表面に余分なLi化合物が生じ難い負極を製造できる。これにより、この方法によって製造された負極を用いた非水電解質二次電池の電池特性の悪化を抑制できる。
【0039】
また、本発明は、上記目的を達成するために、上記の非水電解質二次電池用負極の製造方法で製造された非水電解質二次電池用負極を備えることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0040】
上記のような方法により負極を製造すれば、電極作製時の発熱や、電極表面の余分なLi化合物の生成を防止できるため、このような負極を備えた非水電解質二次電池は良好な電池特性を有する。
【発明の効果】
【0041】
本発明の負極活物質の製造方法及び負極の製造方法は、非水電解質二次電池に用いた際に、高容量で良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる負極活物質及び負極を製造できる。
【0042】
また、本発明の製造方法により製造された負極活物質を含む二次電池においても同様の特性を得ることができる。また、この二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
前述のように、非水電解質二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極を非水電解質二次電池の負極として用いることが検討されている。
【0046】
このケイ素材を用いた非水電解質二次電池は、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極材は提案されていなかった。また、特に酸素を含むケイ素化合物は、炭素材と比較し初回効率が低いため、その分電池容量の向上は限定的であった。
【0047】
そこで、Liの挿入、一部脱離により改質されたケイ素酸化物を負極活物質として使用することで、電池のサイクル維持率、及び初回効率を改善してきた。しかしながら、改質後のケイ素酸化物はLiを用いて改質されたため、耐水性が比較的低い。そのため、負極の製造時に、スラリーに対する改質後のケイ素酸化物の安定化が不十分となりやすいという問題があった。また、負極を形成してから負極中のケイ素化合物を、Liを用いて改質する場合においても、改質後のケイ素化合物中のLi分の失活が不十分であるため、乾燥空気中で放置すると、徐々にLi分の失活が起こり、表面にLi酸化物、水酸化物、炭酸塩などが生じ、電池特性が低下するという問題があった。
【0048】
そこで、発明者らは、非水電解質二次電池に用いた際に、良好なサイクル特性及び初回効率が得られる負極活物質の製造方法及び負極の製造方法について鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0049】
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法は、
図1に示すように、まず、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を作製する工程を実施する(
図1の工程1)。続いて、ケイ素化合物にリチウムを挿入する工程を実施する(
図1の工程2)。このとき、リチウム挿入工程の前に、予め、ケイ素化合物を含む電極を形成する工程を実施しても良い(
図1の工程5)。
【0050】
続いて、リチウムが挿入されたケイ素化合物を、多環芳香族化合物若しくはその誘導体又はこれらの両方を含む溶液B(ただし、溶液Bは、溶媒としてエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、及びアミン系溶媒から選ばれる1種以上を含むものである。)に接触させる工程を実施する(
図1の工程3)。続いて、溶液Bと接触させたケイ素化合物を溶液C(ただし、溶液Cは、溶媒としてエーテル系材料、ケトン系材料、及びエステル系材料から選ばれる1種以上を含み、溶質として分子中にキノイド構造を持つ化合物を含むものである。)に接触させる工程(
図1の工程4)を実施する。また、工程5を経て、電極の状態にしてから工程3、4を実施する場合は、例えば、電極を溶液B、溶液Cに浸漬したり、溶液B、溶液Cを電極にふりかけるなどしたりして、電極に含まれているケイ素化合物に溶液B、溶液Cを接触させればよい。
【0051】
このような本発明の製造方法で製造されたケイ素化合物を含む負極活物質は、ケイ素化合物を主体とするケイ素系活物質であるので、電池容量を大きくすることができる。また、ケイ素化合物に、Liを含ませることで、ケイ素系活物質を含む電池の初回充放電に際し、不可逆容量が低減される。また、本発明の負極活物質の製造方法が、ケイ素化合物に含まれるLiの不活性化工程である、
図1の工程3及び工程4を含むことにより、ケイ素化合物に含まれるLiが十分に失活するので、負極活物質が水系スラリーと激しい反応を起こし難いものとなる。
【0052】
また、ケイ素化合物を電極の状態にしてから、リチウムの挿入、溶液B、溶液Cとの接触工程(工程2〜工程4)を行った場合、予め、ケイ素化合物に含まれる活性なLi分を失活させているため、活物質の表面に余分なLi化合物が生じ難いため、電池特性の悪化を抑制できる。
【0053】
続いて、本発明の負極活物質の製造方法をより具体的に説明する。
【0054】
<1.負極活物質の製造方法>
まず、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を作製する(
図1の工程1)。このような、一般式SiO
x(但し、0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物は、例えば、以下のような手法により作製できる。まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合物を用いることができ、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。原料から発生したガスは吸着板に堆積される。続いて、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。なお、ケイ素化合物のSi結晶子のサイズ等の結晶性は、仕込み範囲(混合モル比)や原料の加熱温度を調整することによって制御することができる。また、結晶性はケイ素化合物の生成後、熱処理することで制御することもできる。
【0055】
特に、ケイ素化合物は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であるものを作製することが好ましい。
【0056】
このような半値幅及び結晶子サイズを有するケイ素化合物は、結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないため、電池特性を向上させることができる。また、このような結晶性の低いケイ素化合物が存在することで、安定的なLi化合物の生成を行うことができる。
【0057】
また、作製するケイ素化合物の組成としてはxが1に近い方が好ましい。これは、高いサイクル特性が得られるからである。また、本発明におけるケイ素化合物の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいても良い。
【0058】
また、ケイ素化合物には炭素材料が複合化されていてもよい。複合化の方法としては、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法によりケイ素化合物の表面に炭素被膜を作成する方法や、物理的にケイ素化合物と炭素材料を混合する方法などがある。ケイ素化合物に炭素材料を複合化することで、高い導電性を付与することが可能である。
【0059】
特に、ケイ素化合物の表面に炭素被膜を生成する手法としては、熱CVD法が望ましい。熱CVD法では、まず、ケイ素化合物を炉内にセットする。続いて、炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。炉内温度を上昇させることで、炭化水素ガスが分解し、ケイ素化合物の表面に炭素被膜が形成される。炭化水素ガスの分解温度は、特に限定されないが、1200℃以下が望ましく、特に望ましいのは950℃以下である。これは、ケイ素化合物の意図しない不均化を抑制することが可能であるからである。
【0060】
熱CVD法によって炭素被膜を生成する場合、例えば、炉内の圧力、温度を調節することによって、炭素被膜の被覆率や厚さを調節しながら炭素被膜を粉末材料の表層に形成することができる。
【0061】
熱CVD法で使用する炭化水素ガスは特に限定することはないが、C
nH
m組成のうち3≧nが望ましい。製造コストを低くすることができ、分解生成物の物性が良いからである。
【0062】
続いて、ケイ素化合物にリチウムを挿入する(
図1の工程2)。このとき、リチウム挿入工程の前に、予め、ケイ素化合物を含む電極を形成しておいても良い(
図1の工程5)。
【0063】
本発明の負極活物質はリチウムイオンを吸蔵、放出可能なケイ素化合物を含有している。そして、この本発明の製造方法を適用したケイ素化合物の表面、内部、又はその両方にはLiが含まれている。このようなLiが含まれるケイ素化合物は、リチウムの挿入によって、ケイ素化合物の内部に生成したSiO
2成分の一部をLi化合物へ選択的に改質(以下、選択的改質という)することにより得ることができる。
【0064】
より具体的には、リチウムを含む溶液A(但し、溶液Aは、溶媒がエーテル系溶媒のものである。)に、ケイ素化合物を3分以上接触させることにより、ケイ素化合物にリチウムを挿入することができる。また、リチウムを含む溶液Aとして、リチウム及び多環芳香族化合物若しくはその誘導体又は直鎖ポリフェニレン化合物若しくはその誘導体を含む溶液A
1又はリチウム及びアミン類を含む溶液A
2(但し、溶液A
1及び溶液A
2は、溶媒がエーテル系溶媒のものである。)を用いることが好ましい。
【0065】
このように、溶液A(但し、溶媒がエーテル系溶媒のものである。)をケイ素化合物に接触させることで、リチウムを挿入する方法を用いると、例えば、ケイ素化合物と金属リチウムを混合して加熱する熱ドープ法などを用いる場合と比較し、ケイ素化合物内部の不均化が抑えられ、サイクル特性がより向上する。また、リチウムは多環芳香族化合物や直鎖ポリフェニレン化合物やアミン類と錯化して溶液に溶解するため、ケイ素化合物へのより均一なLi挿入が行える。中でも、リチウム及び多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物などを含む溶液A
1を用いることが特に好ましい。これは、溶液A
1によるリチウムの挿入反応は室温付近で取り扱え、なおかつリチウムが多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物と錯化して溶液に溶解するため、ケイ素化合物へのより均一なLi挿入が行えるためである。また、溶媒としてエーテル系溶媒を用いることで、リチウムと多環芳香族化合物や直鎖ポリフェニレン化合物やアミン類との錯体がより安定するため、ケイ素化合物へのリチウム挿入が効率よく起こる。
【0066】
このような手法による選択的改質では、Liをケイ素化合物に挿入する過程で、温度を大きく上げないため、結晶性Liシリケートの生成を抑制することができる。結晶性のLiシリケートの生成を抑制できれば、ケイ素化合物内のLiイオン伝導性が向上し、さらにケイ素化合物内の結晶化が進み難くなるため、サイクル特性が一層向上する。
【0067】
溶液A、A
1、A
2に用いるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。この中でも特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンを用いることが好ましい。これらの溶媒は、脱水されていることが好ましく、脱酸素されていることが好ましい。
【0068】
また、溶液A
1に含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用い、溶液A
1に含まれる直鎖ポリフェニレン化合物としては、ビフェニル、ターフェニル、及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0069】
溶液A
1中の多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物の濃度としては、10
−2mol/Lから5mol/Lの間が好ましく、10
−1mol/Lから3mol/Lの間がより好ましい。多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物の濃度が10
−2mol/L以上であれば、リチウム金属と多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物との反応が進みやすく、反応時間を短縮できる。多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物の濃度が、5mol/L以下であれば、多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物とリチウム金属との反応物がケイ素化合物に付着し難く、ケイ素化合物粉末の分離が容易となる。また、負極活物質を非水電解質二次電池とした際に、反応残が電解液に流出せず、副反応による電池特性の低下を抑制できる。また、リチウム金属は、多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物に対し、0.5当量以上含まれていることが好ましく、一部が溶解していなくてもよい。
【0070】
また、溶液A
2に含まれるアミン類としては、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチレントリアミンなどを用いることができる。
【0071】
また、ケイ素化合物と溶液A、A
1、又はA
2とケイ素化合物を接触させる時間は、3分以上100時間以下とすることが好ましい。接触時間が3分以上であれば、十分なリチウムのドープ量が得られる。また、接触時間が100時間となった時点で、ケイ素化合物へのリチウム挿入がほぼ平衡状態に達する。また、反応温度は−20℃から200℃が好ましく、さらに0℃から50℃が好ましい。この中でも特に反応温度を20℃付近とすることが好ましい。上記のような温度範囲であれば、反応速度の低下が起こり難く、かつ、副反応によるリチウム化合物の沈殿等が生じ難いため、ケイ素化合物からのリチウム挿入反応の反応率が向上する。
【0072】
続いて、リチウムが挿入されたケイ素化合物を、多環芳香族化合物若しくはその誘導体又はこれらの両方を含む溶液B(ただし、溶液Bは、溶媒としてエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、及びアミン系溶媒から選ばれる1種以上を含むものである。)に接触させる(
図1の工程3)。
【0073】
溶液B中の多環芳香族化合物は、ケイ素化合物中に含まれるリチウムと反応し、錯体を形成する。この錯体が安定なものであるため、ケイ素化合物からのリチウム脱離が進む。また、上記のような溶媒中では、多環芳香族化合物とリチウムとの錯体が一時的に、あるいは持続的に安定して存在することが可能で、急激な反応(発火や溶媒の沸騰を伴う反応)を起こさず穏やかにリチウムがケイ素化合物から脱離する。
【0074】
このようにして、工程3において、活性なLiの一部をケイ素系材料から脱離させることで、次の工程4で急激な反応が起こることを抑制できる。なお、工程3を経るのみでは活性なLiの脱離が不十分であり、この状態で電極を作製しようとすると水系スラリー作製時にスラリー中の水分あるいはバインダとの反応が起こり、時には大きな発熱が生じ、塗工可能な水系スラリーが得られない、あるいは得られても、発熱により、活物質中のLi分が溶出し、電池特性の向上がみられない。ケイ素化合物を電極としてから工程3を経たものについても、Li分の失活が不十分であるため、乾燥空気中(露点−20℃以下)で放置すると、徐々にLi分の失活が起こり、表面にLi酸化物、水酸化物、炭酸塩などが生じ、電池特性が低下する原因となる。そのため、本発明のように次工程である工程4を行い、活性なリチウムをさらに失活させる必要が有る。
【0075】
溶液Bに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0076】
また、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル等を用いることができる。
【0077】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン等を用いることができる。
【0078】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸イソプロピル等を用いることができる。
【0079】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0080】
アミン系溶媒としては、メチルアミン、エチルアミン、及びエチレンジアミン等を用いることができる。
【0081】
また、上記のエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、及びアミン系溶媒のうち、2種以上を組み合わせた混合溶媒等を用いても良い。
【0082】
溶液B中の多環芳香族化合物の濃度は、10
−2mol/Lから5mol/Lの間が好ましく、特に10
−1mol/Lから3mol/Lの間が好ましい。多環芳香族化合物の濃度が10
−2mol/L以上であれば、リチウム金属と多環芳香族化合物との反応が進みやすく、脱離反応の時間を短縮できる。多環芳香族化合物の濃度が、5mol/L以下であれば、多環芳香族化合物とリチウム金属との反応物がケイ素化合物に付着し難く、ケイ素化合物粉末の分離が容易となる。また、負極活物質を非水電解質二次電池とした際に、反応残が電解液に流出せず、副反応による電池特性の低下を抑制できる。
【0083】
また、溶液Bとケイ素化合物を接触させる時間は、3分以上100時間以下とすることが好ましい。接触時間が3分以上であれば、十分なリチウムの引き抜き量が得られる。また、接触時間が100時間となった時点で、ケイ素化合物から溶液Bへのリチウムの脱離がほぼ平衡状態に達する。また、反応温度は−20℃から200℃が好ましく、さらに0℃から50℃が好ましい。特に、反応温度は20℃付近とすることが好ましい。上記のような温度範囲であれば、反応速度の低下が起こり難く、かつ、副反応によるリチウム化合物の沈殿等が生じ難いため、ケイ素化合物からのリチウムの脱離率が向上するためである。
【0084】
また、工程3において、溶液Bを新しいものに取り換えながら、ケイ素化合物と溶液Bを複数回接触させてもよい。
【0085】
続いて、溶液Bと接触させたケイ素化合物を溶液C(ただし、溶液Cは、溶媒としてエーテル系材料、ケトン系材料、及びエステル系材料から選ばれる1種以上を含み、溶質として分子中にキノイド構造を持つ化合物を含むものである。)に接触させる(
図1の工程4)。
【0086】
溶液Cの溶質である、分子中にキノイド構造を持つ化合物は、上記のような溶媒中で、活性なLiを含むケイ素化合物から、Liを引き抜き、Liとキノン類体の塩となって溶媒に溶解するため、平衡状態となるまでLiを引き抜くことが可能である。
【0087】
また、エーテル系材料、ケトン系材料、及びエステル系材料のような溶媒中では、溶媒分子に含まれるプロトンの活性が低く、とりわけエーテル系溶媒ではその活性が特に低いため、リチウムを挿入されたケイ素化合物からのLiの脱離反応における副反応が起こり難い。
【0088】
このように、工程4において、溶液Cとケイ素化合物を接触させることにより活性なLiを完全に失活させる。これにより、水系スラリーへの、Liを含むケイ素系活物質の適用を可能にしている。また、ケイ素化合物を電極としてから工程2〜4を経たものについても、Liが十分失活しており、空気中での保管にも耐えうる耐性を持つ電極となる。
【0089】
溶液Cの溶媒として用いるエーテル系材料としては、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0090】
溶液Cの溶媒として用いるケトン系材料としては、アセトン及びアセトフェノン、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0091】
溶液Cの溶媒として用いるエステル系材料としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸イソプロピル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0092】
また、上記のエーテル系材料、ケトン系材料、及びエステル系材料のうち、2種以上を組み合わせた混合溶媒等を用いても良い。
【0093】
また、溶液Cの溶質として用いる分子中にキノイド構造を持つ化合物としては、ベンゾキノン、キノジメタン、キノジイミン、又はそれらの誘導体を用いることができる。キノイド構造とは、キノン構造又は単にキノイドとも呼ばれ、通常の芳香族化合物の環内二重結合が1つ減って、代わりにパラ又はオルト位置に環外二重結合2個を持つ構造である。溶液Cの溶質として用いる分子中のキノイド構造は、p−キノイド及びo−キノイドのいずれであっても良い。なお、「分子中にキノイド構造を持つ化合物」とは、例えば、分子中に下記の式(1)又は式(2)で表される構造を有する化合物である。
【0096】
上記式(1)のR
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子若しくは置換基を表していても良いし、又は、R
1とR
2と、若しくは、R
3とR
4とが、互いに結合して、R
1、R
2、R
3、及びR
4のそれぞれが結合している炭素原子と共に置換基を有していても良い環、特に芳香環を形成していても良い。この芳香環としては、ベンゼン環及びナフタレン環などが挙げられる。X
1及びX
2は、例えば、酸素原子を表していても良く、窒素原子を含み、その窒素原子が上記式(1)に示す炭素環を構成する炭素と二重結合を形成している原子団を表していても良く、又は炭素原子を含み、その炭素原子が上記式(1)に示す炭素環を構成する炭素と二重結合を形成している原子団を表していても良い。
【0097】
上記式(2)のR
5、R
6、R
7、及びR
8は、それぞれ独立に、水素原子若しくは置換基を表していても良いし、R
5とR
6と、R
6とR
7と、若しくは、R
7とR
8とが、互いに結合して、R
5、R
6、R
7、及びR
8のそれぞれが結合している炭素原子と共に置換基を有していても良い環、特に芳香環を形成していても良い。この芳香環としては、ベンゼン環及びナフタレン環などが挙げられる。X
3及びX
4は、上記式(1)と同様に、例えば、酸素原子を表していても良く、窒素原子を含み、その窒素原子が上記式(2)に示す炭素環を構成する炭素と二重結合を形成している原子団を表していても良く、又は炭素原子を含み、その炭素原子が上記式(2)に示す炭素環を構成する炭素と二重結合を形成している原子団を表していても良い。
【0098】
本発明において用いることができる、分子中にキノイド構造を持つ化合物として、好ましいものとして、より具体的には、p−ベンゾキノン、o−ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、テトラシアノキノジメタン、N,N’−ジシアノキノジイミン及びそれらの誘導体が挙げられる。
【0099】
また、反応時に用いる溶液C中の溶質(分子中にキノイド構造を持つ化合物)の濃度は、10
−3mol/L以上1×10
0mol/L以下であれば良好な電池特性が得られる。
【0100】
以上のようにして、本発明の負極活物質の製造方法により負極活物質を製造できる。このようにして製造した負極活物質は、以下に説明するような負極を構成するものとすることができる。
【0101】
<2.非水電解質二次電池用負極の製造方法>
[負極の構成]
図2に示すように、負極20は、負極集電体21の上に負極活物質層22を有する構成になっている。この負極活物質層22は負極集電体21の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。
【0102】
[負極集電体]
負極集電体は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体21に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0103】
負極集電体21は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。これは、負極集電体21の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、負極集電体が上記の元素を含んでいれば、負極集電体を含む電極の変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0104】
負極集電体21の表面は、粗化されていても、粗化されていなくても良い。表面を粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。表面を粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0105】
[負極活物質層]
本発明の負極活物質の製造方法で製造されたケイ素系活物質は、負極活物質層22を構成する材料となる。負極活物質層22は、ケイ素系活物質を含んでおり、電池設計上、さらに負極結着剤や負極導電助剤など、他の材料を含んでいても良い。負極活物質として、ケイ素系活物質の他に、炭素系活物質なども含んでいても良い。
【0106】
このような負極は、上述の本発明の負極活物質の製造方法により製造したケイ素系活物質を使用した塗布法により製造することができる。塗布法とは負極活物質粒子と結着剤など、また必要に応じて上記の導電助剤、炭素系活物質を混合したのち、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0107】
この場合、まず、本発明の負極活物質の製造方法により製造した負極活物質と、導電助剤、結着剤、及び水などの溶媒と混合し、水系スラリーを得る。このとき、必要に応じて、炭素系活物質も混合しても良い。なお、本発明の方法で製造されたケイ素系活物質は、活性なLiの量が少ないため、水系スラリーと激しい反応を起こさず、安定して負極活物質層を形成できる。次に、水系スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させて、
図2の負極活物質層22を形成する。
【0108】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、鱗片状黒鉛等の黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどのうちいずれか1種以上を使用できる。これらの導電助剤は、ケイ素化合物よりもメディアン径の小さい粒子状のものであることが好ましい。その場合、例えば、導電助剤としてアセチレンブラックを選択することができる。
【0109】
また、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等を使用することができる。
【0110】
また、炭素系活物質としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などを使用できる。これにより、負極活物質層22の電気抵抗を低下させるとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。
【0111】
また、本発明の負極の製造方法のように、ケイ素化合物の作製後、作製したケイ素化合物を含む電極を形成(
図1の工程5)してから、リチウムの挿入工程、溶液Bへの接触工程、及び溶液Cへの接触工程を実施することで負極を作製してよい。より具体的には、まず、電極を形成してから、電極に含まれるケイ素化合物にリチウムを挿入する。リチウムの挿入は、例えば、上記溶液Aを電極に接触させることにより、電極中のケイ素化合物に溶液Aを接触させるなどして行うことができる。次に、リチウムが挿入されたケイ素化合物を含む電極を、溶液Bに接触させることで、電極中のケイ素化合物に溶液Bを接触させる。次に、溶液Bと接触させた電極を溶液Cに接触させることで、ケイ素化合物に溶液Cを接触させる。なお、電極中のケイ素化合物に溶液A、B、Cを接触させるには、例えば、電極を溶液A、B、Cに浸漬(含浸)したり、溶液A、B、Cを電極にふりかけるなどしたりして、電極に含まれているケイ素化合物に溶液A、B、Cを接触させればよい。
【0112】
<3.非水電解質二次電池の製造方法>
次に、本発明の非水電解質二次電池の製造方法を説明する。本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、上記本発明の負極活物質の製造方法で負極活物質を製造し、該負極活物質を含む電極を用いて非水電解質二次電池を製造する。以下、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池(以下、ラミネートフィルム型二次電池と呼称することも有る)を製造する場合を例に、本発明の非水電解質二次電池の製造方法をより具体的に説明する。
【0113】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図3に示すラミネートフィルム型二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0114】
正負極リードは、例えば外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0115】
外装部材35は、例えば融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が巻回電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0116】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0117】
[正極]
正極は、例えば、
図2の負極20と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0118】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0119】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0120】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
xM
1O
2あるいはLi
yM
2PO
4で表される。式中、M
1、M
2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0121】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0122】
[負極]
負極は、上記した
図2の負極20と同様の構成を有し、例えば、負極集電体21の両面に負極活物質層22を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これは、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができるためである。
【0123】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0124】
非対向領域、即ち、上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため負極活物質層の状態が形成直後のまま維持される。これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0125】
[セパレータ]
セパレータは正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどが挙げられる。
【0126】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又はセパレータには液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0127】
溶媒は、例えば非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン、又はテトラヒドロフランが挙げられる。
【0128】
この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせるとより優位な特性を得ることができる。これは、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0129】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどがあげられる。
【0130】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0131】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0132】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、次の材料があげられる。六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0133】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0134】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロールまたはダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱を行っても良い。また、圧縮、加熱を複数回繰り返しても良い。
【0135】
次に、上記した負極20の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する(
図2を参照)。
【0136】
正極及び負極を上記した同様の作製手順により作製する。この場合、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成することができる。この時、
図2に示すように、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い。
【0137】
続いて、電解液を調製する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に、
図3の正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体を作成し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ開放状態にて、巻回電極体を封入する。正極リード32、及び負極リード33と外装部材35の間に密着フィルム34を挿入する。開放部から上記調製した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、開放部を真空熱融着法により接着させる。
【0138】
以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【実施例】
【0139】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0140】
(実施例1−1)
最初に、ケイ素系活物質を以下のように作製した。
【0141】
まず、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料(気化出発材)を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物(SiO
x:x=1)を取出しボールミルで粉砕した。続いて、ケイ素化合物の粒子の粒径を分級により調整した。その後、熱CVDを行うことで、ケイ素化合物の粒子の表面に炭素被膜を被覆した。
【0142】
続いて、炭素被膜を被覆した後のケイ素化合物の粉末を、リチウム片とビフェニルをテトラヒドロフラン(以下、THFとも呼称する)に溶解させた溶液(溶液A
1)に浸漬した。実施例1−1の溶液A
1は、THF溶媒にビフェニルを1mol/Lの濃度で溶解させた後に、このTHFとビフェニルの混合液に対して10質量%の質量分のリチウム片を加えることで作製した。また、ケイ素化合物の粉末を浸漬する際の溶液の温度は20℃で、浸漬時間は10時間とした。その後、ケイ素化合物の粉末を濾取した。以上の処理により、ケイ素化合物にリチウムを挿入した。
【0143】
次に、THFにナフタレンを溶解させた溶液(溶液B)に、リチウム挿入後のケイ素化合物の粉末を浸漬した。実施例1−1の溶液Bは、THF溶媒にナフタレンを2mol/Lの濃度で溶解させて作製した。また、ケイ素化合物の粉末を浸漬する際の溶液の温度は20℃、浸漬時間は20時間とした。その後、ケイ素化合物の粉末を濾取した。
【0144】
次に、溶液Bに接触させた後のケイ素化合物の粉末を、THFにp−ベンゾキノンを1mol/Lの濃度で溶解させた溶液(溶液C)に浸漬した。浸漬時間は2時間とした。その後、粉末を濾取した。
【0145】
次に、ケイ素化合物を洗浄処理し、洗浄処理後のケイ素化合物を減圧下で乾燥処理した。以上のようにして、ケイ素系活物質を製造した。
【0146】
続いて、上記のように製造したケイ素系活物質を含む電極と対極リチウムから成る試験セルを作製し、初回充放電における初回充放電特性を調べた。この場合、試験セルとして2032型コイン電池を組み立てた。
【0147】
ケイ素系活物質粒子を含む電極は以下のように作製した。まず、ケイ素系活物質粒子(上記ケイ素系化合物の粉末)と結着剤(ポリアクリル酸(以下、PAAとも称する))、導電助剤1(鱗片状黒鉛)、導電助剤2(アセチレンブラック)とを76.5:10.00:10.80:2.70の乾燥質量比で混合したのち、水で希釈してペースト状の合剤スラリーとした。結着剤として用いたポリアクリル酸の溶媒としては、水を用いた。続いて、コーティング装置で集電体の両面に合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この集電体としては、電解銅箔(厚さ=20μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中90℃で1時間焼成した。これにより、負極活物質層が形成された。
【0148】
試験セルの電解液は以下のように作製した。溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとした。
【0149】
対極としては、厚さ0.5mmの金属リチウム箔を使用した。また、セパレータとして、厚さ20μmのポリエチレンを用いた。
【0150】
続いて、2032型コイン電池の底ブタ、リチウム箔、セパレータを重ねて、電解液150mLを注液し、続けて負極、スペーサ(厚さ1.0mm)を重ねて、電解液150mLを注液し、続けてスプリング、コイン電池の上ブタの順にくみ上げ、自動コインセルカシメ機でかしめることで、2032型コイン電池を作製した。
【0151】
続いて、作製した2032型コイン電池を、0.0Vに達するまで定電流密度、0.2mA/cm
2で充電し、電圧が0.0Vに達した段階で0.0V定電圧で電流密度が0.02mA/cm
2に達するまで充電し、放電時は0.2mA/cm
2の定電流密度で電圧が1.2Vに達するまで放電した。そして、この初回充放電における初回充放電特性を調べた。
【0152】
続いて、本発明の負極活物質を用いた非水電解質二次電池のサイクル特性を評価するために、
図3に示したようなラミネートフィルム型二次電池30を、以下のように作製した。
【0153】
最初にラミネートフィルム型の二次電池に使用する正極を作製した。正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoO
2を95質量部と、正極導電助剤(アセチレンブラック)2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:Pvdf)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0154】
負極としては、上記の試験セルのケイ素系活物質を含む電極と同様の手順で作製したものを使用した。
【0155】
電解液としては、上記の試験セルの電解液と同様の手順で作製したものを使用した。
【0156】
次に、以下のようにしてラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調製した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0157】
このようにして作製したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池のサイクル特性(維持率%)を調べた。
【0158】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り(%表示のため×100)、容量維持率を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cm
2で充電し、電圧4.3Vに達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が3.0Vに達するまで放電した。
【0159】
(実施例1−2〜1−15)
溶液Bに加える芳香族化合物種、溶媒、芳香族化合物の濃度、溶液Bへの浸漬時間、溶液Bの温度を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1−1と同様に負極活物質を作製した。そして、実施例1−1と同様に、電池特性を評価した。
【0160】
(比較例1−1〜1−4)
比較例1−1では、溶液Bの代わりとして、多環芳香族化合物の代わりにベンゼン(THF溶液、1mol/L)を用い、浸漬時間を10時間としたこと以外は、実施例1−1と同様に負極活物質を作製した。そして、実施例1−1と同様に、電池特性を評価した。
【0161】
比較例1−2では、工程3を実施しなかった、すなわち、Li挿入後のケイ素化合物を溶液Bに接触させることなく、溶液Cに接触させた。
【0162】
比較例1−3では、溶液Bの代わりに、溶質として多環芳香族化合物を含まず、THFのみから成る液体を用いた。また、この液体への浸漬時間は10時間とした。
【0163】
比較例1−4では、溶媒に水を使用し、該水中にナフタレンを分散させた。すなわち、ナフタレンはほとんど水に溶けないため、溶液Bの代わりに、ナフタレンの水分散液を用いた。また、この水分散液への浸漬時間は1分とした。
【0164】
実施例1−1〜1−15、比較例1−1〜1−4において作製した試験セル(コイン電池)の初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0165】
【表1】
【0166】
表1からわかるように、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンなどの多環芳香族化合物を含む溶液Bを用いた場合は、良好な初回効率が得られた。特に、実施例1−1〜実施例1−3に示すように、多環芳香族化合物としてナフタレン、アントラセンを用いた場合の方が、フェナントレンを用いた場合よりも維持率が向上する。これは、ケイ素化合物中に含まれるリチウムと、ナフタレン又はアントラセンとの反応で生成した錯体が特に安定なものであるため、ケイ素化合物からのリチウム脱離がより一層進むからである。
【0167】
また、溶液Bに用いる溶媒として、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミン系溶媒から選ばれる少なくとも1種以上を用いる。これらの溶媒では多環芳香族化合物とリチウムとの錯体が一時的に、あるいは持続的に安定して存在することが可能で、穏やかにリチウムがケイ素化合物から脱離する。特に、実施例1−1〜実施例1−7の結果より、エーテル系溶媒を用いることが望ましいことがわかる。
【0168】
また、溶液Bにおける多環芳香族化合物の濃度としては、10
−2mol/Lから5mol/Lの間が好ましく、10
−1mol/Lから3mol/Lの間が特に好ましい。実施例1−8のような多環芳香族化合物の濃度が10
−2mol/L未満である場合に比べ、多環芳香族化合物の濃度が10
−2mol/L以上5mol/L以下である場合(例えば、実施例1−1)は、維持率、初回効率が向上する。これは、ケイ素化合物からのリチウムの脱離が、より効率よく進んだためである。また、実施例1−11のように、多環芳香族化合物の濃度が5mol/Lを超える場合と比べ、多環芳香族化合物の濃度が10
−2mol/L以上5mol/L以下である場合は、維持率、初回効率が向上する。これは、負極活物質を非水電解質二次電池とした際に、反応残が電解液に流出せず、副反応による電池特性の低下を抑制できたためである。
【0169】
また、溶液Bの温度は20℃に近いことが好ましい。溶液Bの温度が20℃付近であれば、反応速度の低下が起こり難く、かつ、副反応によるリチウム化合物の沈殿等が生じ難いため、ケイ素化合物からのリチウムの脱離率が向上するためである。従って、実施例1−12や実施例1−13のように、溶液Bの温度が20℃より高い又は低い場合に比べ、溶液の温度が20℃の実施例(例えば、実施例1−1)の方が、維持率がより良好となった。
【0170】
また、ケイ素化合物と溶液Bの接触時間(浸漬時間)は3分以上であることが好ましい。表1から分かるように、接触時間が3分未満である実施例1−14よりも、接触時間が3分以上である実施例(例えば、実施例1−1、1−15)の方が、電池特性がより良好となった。
【0171】
比較例1−1〜1−3では、ケイ素化合物と溶液Cとを接触させる際に、ケイ素化合物の粉末が赤熱したため、その後の電池特性の評価をすることができなかった。このように、溶液Bにケイ素化合物を接触させなかった比較例1−2や、多環芳香族化合物を含まない溶液でケイ素化合物を処理した比較例1−1、1−3では、リチウムの脱離が不十分であったため、溶液Cと激しく反応してしまった。
【0172】
また、比較例1−4では、ケイ素化合物と溶液Bとを接触させる際に、ケイ素化合物の粉末が赤熱したため、その後の電池特性の評価をすることができなかった。これは、溶媒として、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、及びアミン系溶媒ではなく水を使用したためである。
【0173】
(実施例2−1〜2−7)
溶液Cの溶媒種、溶質種、溶質の濃度を表2に示すように変えたこと以外は、実施例1−1と同様に負極活物質を作製した。そして、実施例1−1と同様に、電池特性を評価した。
【0174】
(比較例2−1、比較例2−2)
比較例2−1では、溶液Cにケイ素化合物を接触させる工程4を行わなかったこと以外、実施例1−1と同様に負極活物質を作製した。比較例2−2では、溶液Cの代わりに、溶媒としてTHF、溶質として分子中にキノイド構造を持たない化合物であるシアノベンゼンを用いた液体を用いたこと以外、実施例1−1と同様に負極活物質を作製した。比較例2−1、2−2においても、実施例1−1と同様に、電池特性を評価した。
【0175】
実施例2−1〜2−7、比較例2−1、比較例2−2の試験セルの初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0176】
【表2】
【0177】
表2から分かるように、溶液Cとして分子中にキノイド構造(実施例1−1、2−1〜2−6は、p−キノイド構造、実施例2−7はo−キノイド構造)を有する化合物を溶質として含むもの用いた場合、良好な電池特性が得られた。比較例2−1、2−2のように、分子中にキノイド構造を持つ化合物を含む溶液Cを用いなかった場合には、電極作製時にスラリーが赤熱してしまったため、電極化ができなかった。溶液Cの溶媒としては、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒が好ましく、特に、エーテル系溶媒が好ましい。これらの溶媒では、溶媒分子に含まれるプロトンの活性が低く、とりわけエーテル系溶媒ではその活性が特に低いため、酸化剤とケイ素化合物中の活性リチウムとの反応における副反応を生じにくいためである。また、反応時に用いる溶液C中の溶質の濃度は、10
−3mol/L以上1×10
0mol/L以下であれば良好な電池特性が得られる。
【0178】
(実施例3−1〜3−19)
Liを含む溶液Aの芳香族化合物種、溶媒種、芳香族化合物の濃度、溶液Aへの浸漬時間、溶液Aの温度を表3に示すように変えたこと以外は、実施例1−1と同様に負極活物質を作製した。そして、実施例1−1と同様に、電池特性を評価した。
【0179】
(比較例3−1)
ケイ素化合物にリチウムを挿入する工程を行わなかったこと以外は、実施例1−1と同様に負極活物質を作製した。そして、実施例1−1と同様に、電池特性を評価した。
【0180】
実施例3−1〜3−19、比較例3−1において作製した試験セル(コイン電池)の初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0181】
【表3】
【0182】
ケイ素化合物にリチウムを挿入する方法としては、リチウムを含む溶液Aにケイ素化合物を接触させる方法が挙げられる。その中でも、リチウムを含む溶液Aとして、リチウム及び多環芳香族化合物若しくはその誘導体又は直鎖ポリフェニレン化合物若しくはその誘導体を含む溶液A
1を用いること、又はリチウム及びアミン類を含む溶液A
2を用いることが好ましく、このうち溶液A
1を用いることが特に好ましい。これは、溶液A
1は室温付近で取り扱えるためである。また、溶液A
1に含まれる多環芳香族化合物としてナフタレン、フェナントレン、直鎖ポリフェニレン化合物としてビフェニルを用いた場合は、多環芳香族化合物、或いは直鎖ポリフェニレン化合物でないベンゼンを加えた場合(実施例3−16)と比較し、有意な初回効率の向上が見られた。また、特に、実施例1−1、3−1、3−2を比較すると、直鎖ポリフェニレン化合物としてビフェニルを使用した実施例1−1の場合に、電池特性がより向上した。これは、リチウムとビフェニルとの反応で生成した錯体が高活性かつ安定なため、ケイ素化合物へのリチウム挿入がより速い速度で持続するためである。
【0183】
また、エーテル系溶媒を用いた場合の方が、エーテル系溶媒を用いなかった実施例3−17よりも電池特性が向上した。これは、エーテル系溶媒の中では、リチウムと多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物との錯体が安定に存在できるため、ケイ素化合物へのリチウム挿入が持続しやすいためである。さらに、エーテル系溶媒として、ジエチルエーテルやtert−ブチルメチルエーテルを用いた場合(実施例3−3、3−4)よりもTHFを用いた場合(実施例1−1)の方が、電池特性がより向上した。これは、エーテル系溶媒の中で、比較的誘電率の高いTHFでは、リチウムと多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物との錯体が特に安定に存在するため、ケイ素化合物へのリチウム挿入が持続しやすいからである。
【0184】
また、溶液Aにおける多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物の濃度としては、10
−2mol/Lから5mol/Lの間が好ましく、10
−1mol/Lから3mol/Lの間が特に好ましい。実施例3−5のような多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物の濃度が10
−2mol/L未満である場合に比べ、多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物の濃度が10
−2mol/L以上5mol/L以下である場合(例えば、実施例3−6、3−7、1−1)は、維持率、初回効率が向上する。これは、ケイ素化合物へのリチウムの挿入が、より効率よく進んだためである。また、実施例3−8のように、多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物の濃度が5mol/Lを超える場合と比べ、多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物の濃度が10
−2mol/L以上5mol/L以下である場合は、維持率、初回効率が向上する。これは、負極活物質を非水電解質二次電池とした際に、反応残が電解液に流出せず、副反応による電池特性の低下を抑制できたためである。なお、実施例3−8ではビフェニルは一部溶け残っていた。
【0185】
また、溶液Aの温度は20℃に近いことが好ましい。溶液Aの温度が20℃付近であれば、反応速度の低下が起こり難く、かつ、副反応によるリチウム化合物の沈殿等が生じ難いため、ケイ素化合物からのリチウム挿入反応の反応率が向上するためである。従って、実施例3−9、3−10のように、溶液Aの温度が20℃より高い又は低い場合に比べ、溶液の温度が20℃の実施例(例えば、実施例1−1)の方が、電池特性がより良好となった。
【0186】
また、ケイ素化合物粉末と溶液Aとの接触時間は3分以上100時間以下であることが望ましい。接触時間が3分以上(例えば、実施例3−19)であれば、3分未満の場合(実施例3−18)と比べて、ケイ素化合物へのリチウム挿入が十分に起きる。また、接触時間が100時間に至る頃に、ケイ素化合物へのリチウム挿入がほぼ平衡状態に達する。
【0187】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。