特許第6594737号(P6594737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594737
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】寸法基準器の線膨張係数測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/16 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   G01N25/16 B
   G01N25/16 E
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-215241(P2015-215241)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2017-83416(P2017-83416A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】萩野 健
【審査官】 芝沼 隆太
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102012219417(DE,A1)
【文献】 特開2004−226369(JP,A)
【文献】 特開2005−83920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00−25/72
G01B 3/00− 3/08
3/11− 3/56
21/00−21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寸法基準器を測定対象物として、前記測定対象物の測定対象区間における線膨張係数を測定する寸法基準器の線膨張係数測定方法であって、
前記測定対象区間の長さより短い既知の基準ゲージ長さを有する基準ゲージと、前記測定対象物および前記基準ゲージを収容可能、かつ内部温度を調整可能、かつ測定用表面に測定用開口を有する恒温槽と、前記測定用開口から前記恒温槽の内部へ測定プローブを導入可能な三次元測定機と、を準備し、
前記基準ゲージ長さに相当する長さの比較測定区間を複数、所定のずらし量ずつずらして前記測定対象区間に割り当てておき、
前記恒温槽の内部に、前記測定対象物および前記基準ゲージを平行に支持し、
前記恒温槽の内部温度を第1温度とし、複数の前記比較測定区間の長さを順次、前記基準ゲージを基準として比較測定し、
前記恒温槽の内部温度を第2温度とし、複数の前記比較測定区間の長さを順次、それぞれ前記基準ゲージを基準として比較測定し、
複数の前記比較測定区間のそれぞれについて、前記第1温度での比較測定長さと、前記第2温度での比較測定長さとから、前記比較測定区間ごとの区間線膨張係数を計算し、
得られた複数の前記区間線膨張係数から前記測定対象区間全体の線膨張係数を計算する
ことを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載した線膨張係数測定方法において、
前記測定対象区間に前記比較測定区間を割り当てる際には、
前記測定対象区間の長さと前記基準ゲージ長さとが整数比となる前記基準ゲージを用い、
前記測定対象区間の長さと前記基準ゲージ長さとの差の整数分の1を前記ずらし量とし、
前記測定対象区間の長さと前記基準ゲージ長さとの差を、前記ずらし量で除した数より1多い割当数の前記比較測定区間を、前記測定対象区間に割り当てる
ことを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した線膨張係数測定方法において、
前記測定対象区間全体の前記線膨張係数を計算する際には、
前記測定対象区間に、前記ずらし量ごとに区切られた複数の集計区間を割り当て、
前記集計区間の各々において、前記集計区間に割り当てられている前記比較測定区間の前記区間線膨張係数の平均値を求めるとともに、前記測定対象区間の長さに対する前記集計区間の比率から前記集計区間の重み係数を求め、
前記集計区間ごとの前記区間線膨張係数の平均値と前記重み係数との積を合計して前記測定対象区間全体の前記線膨張係数とする
ことを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載した線膨張係数測定方法において、
前記恒温槽内に前記基準ゲージを保持して複数の前記比較測定区間の各々へと移動可能な基準ゲージ移動機構を設けておき、
複数の前記比較測定区間の長さの比較測定を行う際に、比較測定を行う前記比較測定区間へと前記基準ゲージを順次移動させる
ことを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載した線膨張係数測定方法において、
前記基準ゲージとして、複数の前記比較測定区間に対応した複数のゲージ部を有するものを用い、
複数の前記比較測定区間の長さの比較測定を行う際には、前記比較測定区間とこれに対応する前記ゲージ部との比較測定を行う
ことを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載した線膨張係数測定方法において、
前記基準ゲージは、前記比較測定区間の長さに対応する前記基準ゲージ長さを有するブロックゲージを束ね、互いにずらし量ずつずらして固定したものであり、
前記ブロックゲージの中間部であって他の前記ブロックゲージの端部に臨む位置には、表裏を貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする線膨張係数測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載した線膨張係数測定方法において、
前記基準ゲージは、前記第1温度と前記第2温度との間の温度変化では精度上膨張を無視しうる極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されたもの、または、膨張係数が既知である材質から製造されたもの、のいずれかであることを特徴とする線膨張係数測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法基準器の線膨張係数測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元測定機などの測定装置においては、検査のために寸法基準器が用いられる。
寸法基準器としては、端面寸法が高精度に校正された各種ブロックゲージが用いられるとともに、複数の長さに対応したステップゲージが用いられている。
ステップゲージは、凸部と凹部とが交互に配置される櫛歯状とされ、凸部の端面間に複数の基準寸法が得られる。このようなステップゲージは、凸部となる測定ブロックと凹部となる間隔ブロックとを交互に配列してホルダに固定することで製造されるほか、単一の部材から櫛歯状に削り出すことで製造される。
【0003】
ステップゲージの端面間の距離の校正値は、特定の温度における長さとして提供され、多くの場合は工業標準温度の20℃における長さである。
三次元測定機の検査において、測定された長さは校正時の温度に換算して用いる必要がある。これを一般に、長さの温度補正と呼んでいる。この時、ステップゲージの線膨張係数を正確に知る必要がある。
【0004】
ステップゲージを含め多くの寸法基準器は、校正証明書あるいは検査成績書に、温度補正に用いる線膨張係数が記載されている。このような線膨張係数は、それぞれ公差を伴って表示される。
三次元測定機の検査にステップゲージを用いる場合には、検査の不確かさを検討する上で、この公差を不確かさの要因として扱う。従って、検査における不確かさを低減する目的で、ステップゲージの線膨張係数を高精度に評価することが要求される。
【0005】
寸法基準器を含めて、物体の線膨張係数は、物体の温度を変化させ、その温度変化による物体の長さの変化量を測定することにより、求められる。
具体的に、線膨張係数αは、基準温度Toにおける物体の長さをLo、現在の温度Tにおける物体の長さをL、温度変化量ΔT=T−To、長さの変化量(熱膨張量)ΔL=L−Loとして、α=(ΔL/L)・(1/ΔT)によって与えられる。
【0006】
ステップゲージなど、寸法基準器では、物体の長さLの大きさは長さの変化量ΔLに対して10の5乗より大きい。このため、一般に、長さLの数値の正確性は、線膨張係数αの数値に対して影響が小さい。
従って、線膨張係数αを高精度に求めるためには、温度変化量ΔT及び長さの変化量ΔLを高精度に測定することが必要である。
【0007】
このような線膨張係数αの測定を行うために、光波干渉計を用いた測定方法が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1では、同じ測定軸線で対向する2組の光波干渉計を用い、ブロックゲージなどの被測定物の両端面間の長さを高精度に測定できるようにする。そして、温度制御手段により被測定物の温度を変化させ、異なる温度で長さ測定を行うことで、変温による熱膨張量を取得し、線膨張係数を計算する。
【0008】
しかし、このような光波干渉計を用いた長さ測定では、光波干渉計が高価であるという問題がある。すなわち、光波干渉計自体が高価であるだけでなく、測定用の光の波長を補正するために空気の屈折率の算出が必要で、これには温度、湿度、気圧、二酸化炭素濃度といった環境の測定機も必要であり、システム全体として高価となるという問題がある。
【0009】
また、光波干渉計を用いた長さ測定では、被測定物の両端面からの反射光を利用するため、測定する長さは測定対象の長さに限定される。つまり、ステップゲージのような櫛歯状の測定面をもつ基準器において、中間部分の凸部どうしの長さの測定には適用が難しいという問題がある。
【0010】
このような問題に対し、三次元測定機を用いる方法(特許文献2参照)および挟み部と歪みゲージを用いる方法(特許文献3参照)が提案されている。
【0011】
特許文献2の方法では、被測定物であるステップゲージを恒温槽内に配置し、外部の三次元測定機のプローブを恒温槽の開口部から導入し、このプローブによってステップゲージの長さを測定する。そして、恒温槽内の温度設定を変更し、異なる温度で長さ測定を行い、変温の前後の測定長さの差から熱膨張量を計算する。
このような三次元測定機を用いた長さ測定では、光波干渉計を用いる必要がなく、汎用の三次元測定機が使用できる環境であれば十分である。
また、三次元測定機を使用することで、ステップゲージの中間部分の凸部間の長さ測定も行うことができ、中間部分の熱膨張率の均一性についても測定することができる。
【0012】
特許文献3の方法では、ステップゲージの任意の凸部を挟む挟み部を用い、挟み部のステップゲージに接触するチップの一方に歪みゲージを設置しておき、長さ測定する一対の端面を挟み部で挟んだ状態で温度を変化させ、温度変化に伴う熱膨張を歪みゲージで直接検出する。
このような挟み部と歪みゲージを用いた熱膨張の測定では、光波干渉計を用いる必要がなく、挟み部と歪みゲージという簡単かつ安価な構成でよく、ステップゲージの中間部分の凸部間の長さ測定も行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3897655号公報
【特許文献2】特開2004−226369号公報
【特許文献3】特開2005−83920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、ステップゲージなどの寸法基準器は、検査対象の三次元測定機のサイズに合わせて、様々な寸法のものが用いられる。例えば、ステップゲージの長いものでは、呼び寸法(公称長さ)が1.5mを超えるものもある。
前述した寸法基準器の線膨張係数αの測定は、このような長さLが大きな寸法基準器に対しても適用でき、かつ高精度に測定できることが要求される。
【0015】
しかし、前述した特許文献3の方法では、挟み部によって測定長さが固定され、中間部分の長さなど多様な測定ができないという問題がある。また、長尺のステップゲージに対しては、相応の大きさの挟み部を準備する必要があり、実施が制約される。
さらに、歪みゲージの出力にはノイズ成分が含まれるため、長さに変換された量からステップゲージの線膨張係数だけを抽出することが難しいという問題もある。
【0016】
これに対し、前述した特許文献2のように、長さ測定に三次元測定機を利用すれば、様々な長さの寸法基準器に対して、両端面間の長さおよび中間部分の凸部の端面間長さといった多様な測定に対応することができ、異なる温度での測定に基づいて線膨張係数の測定を行うことができる。
【0017】
しかし、特許文献2の方法のように三次元測定機による長さ測定を用いる場合でも、前述した長さが1.5mを超える大きなステップゲージについては、精度低下などの問題が生じる可能性がある。
すなわち、三次元測定機には、その測定性能を示す指標として最大許容長さ測定誤差が用いられる。最大許容長さ測定誤差は、一般的に一次式で与えられ、測定長さに比例して大きくなる。このことは、測定する長さが大きくなるに従って、精度が低下することを意味する。このような理由で、長いステップゲージについては、線膨張係数を高精度に測定することが難しくなる。
【0018】
このような問題に対し、本発明の発明者らにより、様々な長さの寸法基準器に対して、線膨張係数の測定を、高精度かつ安価に行える寸法基準器の線膨張係数測定方法および測定装置が提案されている。
この提案では、三次元測定機を用いて測定対象物の長さを測定する際に、長さの基準として基準ゲージを用い、この基準ゲージに対する長さの比較測定を行う。
具体的には、基準ゲージおよび測定対象物を並列状態で恒温槽に収め、複数の温度に変化させる。そして、各温度で測定対象物の長さを比較測定し、長さ変化と温度変化とから線膨張係数を計算する。この際、長さ測定の結果は、三次元測定機のスケールの精度に依存せず、専ら基準ゲージの精度に依存することになり、測定対象物が長尺化しても高精度を確保できる。
【0019】
しかし、本発明の発明者らにより提案された線膨張係数測定方法および測定装置であっても、長さが1.5mを超える大きなステップゲージなどの長大な寸法測定器を測定対象物について、その全長での線膨張係数を測定する際には、種々の問題があった。
【0020】
すなわち、本発明の発明者らにより提案された線膨張係数測定方法および測定装置において、設備コストを軽減しかつ準備を容易にするためには、基準ゲージとして既存のブロックゲージを用いることが望ましい。
しかし、ブロックゲージには、規格として「JISB7506」あるいは「ISO3650」があり、その規定では全長が0.5mmを超え、1000mm以下のブロックゲージについて定義している。このため、既存のブロックゲージは最大長さ1000mmであり、それ以上の長さについては、別途作成して精度を確保するか、あるいは複数のブロックゲージを継ぎ足して用いるか、という対処が必要となる。
【0021】
このうち、1000mmを超えるブロックゲージを別途作成して精度を確保することは、コスト上昇につながり、採用できない。
一方、複数のブロックゲージを継ぎ足して(密着=リンギングさせて)、全長を1000mm超とすることは、ブロックゲージの本来の使用方法といえる。しかし、線膨張係数の測定のような温度変化を伴う場合、継ぎ足されるブロックゲージどうしの密着状態が安定しなくなるという問題がある。具体的には、温度によって継ぎ足されたブロックゲージの全長が変動したり、相互の密着面に温度変化による歪みが生じ、密着が外れたりすることがある。従って、複数のブロックゲージを継ぎ足して、線膨張係数を測定するための基準ゲージとして用いることは困難であった。
【0022】
このように、基準ゲージの長さを超える長大な寸法基準器に対して、その全長にわたる線膨張係数を測定することには種々の困難があり、その解決が望まれていた。
【0023】
本発明の目的は、基準ゲージの長さを超える長大な寸法基準器であっても、その全長にわたる線膨張係数の測定を、高精度かつ安価に行える寸法基準器の線膨張係数測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の寸法基準器の線膨張係数測定方法は、寸法基準器を測定対象物として、前記測定対象物の測定対象区間における線膨張係数を測定する寸法基準器の線膨張係数測定方法であって、前記測定対象区間の長さより短い既知の基準ゲージ長さを有する基準ゲージと、前記測定対象物および前記基準ゲージを収容可能、かつ内部温度を調整可能、かつ測定用表面に測定用開口を有する恒温槽と、前記測定用開口から前記恒温槽の内部へ測定プローブを導入可能な三次元測定機と、を準備し、前記基準ゲージ長さに相当する長さの比較測定区間を複数、所定のずらし量ずつずらして前記測定対象区間に割り当てておき、前記恒温槽の内部に、前記測定対象物および前記基準ゲージを平行に支持し、前記恒温槽の内部温度を第1温度とし、複数の前記比較測定区間の長さを順次、前記基準ゲージを基準として比較測定し、前記恒温槽の内部温度を第2温度とし、複数の前記比較測定区間の長さを順次、それぞれ前記基準ゲージを基準として比較測定し、複数の前記比較測定区間のそれぞれについて、前記第1温度での比較測定長さと、前記第2温度での比較測定長さとから、前記比較測定区間ごとの区間線膨張係数を計算し、得られた複数の前記区間線膨張係数から前記測定対象区間全体の線膨張係数を計算する、ことを特徴とする。
【0025】
本発明において、測定対象区間としては、測定対象物の全長と同一つまり測定対象物の両端の間(測定対象物の全長に相当)としてもよく、測定対象物の端部からずれた位置を始点および終点とする区間(測定対象物の途中の区間)であってもよい。測定対象物となる寸法測定器としては、ステップゲージなどが該当する。
本発明において、基準ゲージ長さとしては、基準ゲージの全長つまり基準ゲージの両端間の距離であればよく、基準ゲージの端部からずれた位置を始点および終点とする区間(基準ゲージの途中に形成された段差等の間の区間)の長さであってもよい。基準ゲージとしては、基準ゲージ長さが高精度に校正されたブロックゲージが好適である。
本発明において、恒温槽内において測定対象物と基準ゲージとを平行に支持する際には、基準ゲージ長さの方向と測定対象区間の方向とが平行になるように設定する。測定対象物および基準ゲージを支持する際には、それぞれの方向を一定に維持しつつ、各々の延伸方向の熱変形を許容するような支持装置を用いることが望ましい。
【0026】
このような本発明では、測定対象区間の全体をカバーするように複数の比較測定区間を配置し、各比較測定区間においてその長さの比較測定を行うとともに、第1温度および第2温度での各比較測定区間の長さから、各比較測定区間における区間線膨張係数を計算する。
従って、本発明では、測定対象区間の長さが基準ゲージよりも長くても、各比較測定区間においては基準ゲージを用いた比較測定が可能である。
比較測定区間における長さの比較測定では、三次元測定機を用いて基準ゲージの長さに対する比較測定を行うので、高価な光波干渉計を用いることなく、高精度な測定を低コストで行うことができる。
また、三次元測定機を用い、かつ基準ゲージに対する長さの比較測定を行うため、長さ測定の結果は、三次元測定機のスケールの精度に依存せず、専ら基準ゲージの精度に依存する。そして、測定対象区間が長尺化しても、各比較測定区間を短くできるため、既存のブロックゲージなどを基準ゲージとして利用して、低コストとすることができる。
【0027】
さらに、基準ゲージおよび測定対象物は、ともに恒温槽内に収容されており、三次元測定機による各比較測定区間の長さの比較測定においては、恒温槽の測定用開口を開閉し、測定プローブの導入ないし取り出しを行うだけでよい。
そして、各比較測定区間に対応した基準ゲージを準備しておくことで、測定作業の途中で基準ゲージを恒温槽から出し入れする必要がなく、測定作業中の恒温槽内の温度変化を最小限に留めることができ、測定作業時間も最小限とすることができる。
【0028】
以上のように、本発明によれば、基準ゲージの長さを超える長大な寸法基準器であっても、その全長にわたる線膨張係数の測定を、高精度かつ安価に行うことができる。
【0029】
本発明において、前記測定対象区間に前記比較測定区間を割り当てる際には、前記測定対象区間の長さと前記基準ゲージ長さとが整数比となる前記基準ゲージを用い、前記測定対象区間の長さと前記基準ゲージ長さとの差の整数分の1を前記ずらし量とし、前記測定対象区間の長さと前記基準ゲージ長さとの差を、前記ずらし量で除した数より1多い割当数の前記比較測定区間を、前記測定対象区間に割り当てることが望ましい。
【0030】
このような本発明においては、互いにずらし量ずつずれた位置に並ぶ割当数分の比較測定区間により、測定対象区間の全体をカバーすることができる。
そして、各比較測定区間で区間線膨張係数を計算した後、測定対象区間の各部分において、ずらし量ごとの各区間を単位として、各比較測定区間の区間線膨張係数の演算処理を行うことができ、演算処理を効率化することができる。
例えば、各比較測定区間において各々の区間線膨張係数を計算した後、重なり合う比較測定区間どうしで区間線膨張係数の平均値をとることができ、各比較測定区間における区間線膨張係数を利用して、測定対象区間の全体としての線膨張係数を高精度かつ確実に求めることができる。
【0031】
本発明において、前記測定対象区間全体の前記線膨張係数を計算する際には、前記測定対象区間に、前記ずらし量ごとに区切られた複数の集計区間を割り当て、前記集計区間の各々において、前記集計区間に割り当てられている前記比較測定区間の前記区間線膨張係数の平均値を求めるとともに、前記測定対象区間の長さに対する前記集計区間の比率から前記集計区間の重み係数を求め、前記集計区間ごとの前記区間線膨張係数の平均値と前記重み係数との積を合計して前記測定対象区間全体の前記線膨張係数とすることが望ましい。
【0032】
このような本発明では、測定対象区間に複数の集計区間を割り当て、各々において区間線膨張係数の平均値をとるとともに、集計区間の平均値を集計区間に応じた重み付けをしたうえで合計することで、高精度な線膨張係数を効率よく測定することができる。
【0033】
本発明において、前記恒温槽内に前記基準ゲージを保持して複数の前記比較測定区間の各々へと移動可能な基準ゲージ移動機構を設けておき、複数の前記比較測定区間の長さの比較測定を行う際に、比較測定を行う前記比較測定区間へと前記基準ゲージを順次移動させることが好ましい。
このような本発明では、一つの基準ゲージを、複数の比較測定区間で共用することができ、測定精度のばらつきも防止できる。
【0034】
本発明において、前記基準ゲージとして、複数の前記比較測定区間に対応した複数のゲージ部を有するものを用い、複数の前記比較測定区間の長さの比較測定を行う際には、前記比較測定区間とこれに対応する前記ゲージ部との比較測定を行うことが好ましい。
【0035】
このような本発明では、一つの基準ゲージで複数の比較測定区間に対応することができ、基準ゲージを移動させる等の操作を省略することができる。
このような複数のゲージ部を有する基準ゲージとしては、例えば、比較測定区間の長さに対応する基準ゲージ長さを有するブロックゲージを束ね、互いにずらし量ずつずらして固定したものを利用することができる。
【0036】
本発明において、前記基準ゲージは、前記比較測定区間の長さに対応する前記基準ゲージ長さを有するブロックゲージを束ね、互いにずらし量ずつずらして固定したものであり、前記ブロックゲージの中間部であって他の前記ブロックゲージの端部に臨む位置には、表裏を貫通する貫通孔が形成されていることが望ましい。
【0037】
このような本発明では、基準ゲージで隠れる位置に測定対象物の比較測定区間がある場合でも、貫通孔を通して三次元測定機の測定プローブを導入することができる。
【0038】
本発明において、前記基準ゲージは、前記第1温度と前記第2温度との間の温度変化では精度上膨張を無視しうる極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されたもの、または、膨張係数が既知である材質から製造されたもの、のいずれかであることが望ましい。
【0039】
このような本発明では、基準ゲージが、極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されている場合、第1温度と第2温度との間での基準ゲージの長さの温度補正を省略することができる。一方、基準ゲージが、膨張係数が既知である材質から製造されている場合、第1温度および第2温度において、温度補正により各温度における高精度な基準ゲージの長さを計算することができる。いずれの場合も、各温度における基準ゲージ長さを正確にできるので、第1温度での比較測定と第2温度での比較測定とを高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、基準ゲージの長さを超える長大な寸法基準器であっても、その全長にわたる線膨張係数の測定を、高精度かつ安価に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の第1実施形態の線膨張係数測定装置を示す斜視図。
図2】第1実施形態の測定対象物であるステップゲージを示す斜視図。
図3】第1実施形態の基準ゲージを示す平面図。
図4】第1実施形態の基準ゲージを示す側面図。
図5】第1実施形態の測定状態を示す模式図。
図6】第1実施形態の測定手順を示すフローチャート。
図7】第1実施形態の区間設定を示す模式図。
図8】第1実施形態の他の区間設定を示す模式図。
図9】第1実施形態の他の区間設定を示す模式図。
図10】第1実施形態の他の区間設定を示す模式図。
図11】第1実施形態の他の区間設定を示す模式図。
図12】第1実施形態の他の区間設定を示す模式図。
図13】第1実施形態の他の区間設定を示す模式図。
図14】第1実施形態の他の区間設定を示す模式図。
図15】本発明の第2実施形態の基準ゲージを示す側面図。
図16】第2実施形態の基準ゲージを示す平面図。
図17】第2実施形態の測定手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1には、本実施形態の線膨張係数測定装置1が示されている。
線膨張係数測定装置1は、寸法基準器であるステップゲージ10を測定対象物とし、その線膨張係数を高精度に測定するものである。
このために、線膨張係数測定装置1は、ステップゲージ10を収容して所定温度に維持する恒温槽30と、ステップゲージ10とともに恒温槽30に収容される基準ブロックゲージ20と、基準ブロックゲージ20を基準としてステップゲージ10の長さを比較測定する三次元測定機40と、を備えている。
【0043】
三次元測定機40は、定盤41を有し、その上面にはコラム42およびクロスバー43によりヘッド44が支持されている。ヘッド44には下方へ延びるラム45が設置され、その先端には測定プローブ46が支持されている。
三次元測定機40は、コラム42が定盤41に対してY軸方向に移動自在とされ、ヘッド44がクロスバー43に対してX軸方向に移動自在とされ、ラム45がヘッド44に対してZ軸方向に移動自在とされている。これらの3軸移動により、測定プローブ46を定盤41に対して三次元移動させることができる。
【0044】
恒温槽30は、箱状の筐体内部の温度を所望の温度に維持可能な装置であり、定盤41の上面に載置され、その長手方向がY軸方向に沿うように固定されている。
恒温槽30は、上面を開閉することで、内部にステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を収容可能である。
恒温槽30の上面には、開閉式の蓋体を有する測定用開口31が複数、Y軸方向に配列して形成されている。
【0045】
恒温槽30の内部において、ステップゲージ10は、その延伸方向LtがY軸方向に沿うように支持されている。また、基準ブロックゲージ20は、ステップゲージ10の上面側(ステップゲージ10の測定用開口31に対向する側)に配置され、その延伸方向LrがY軸方向に沿って、ステップゲージ10と互いに平行に支持されている。
【0046】
〔測定対象物および基準ゲージ〕
図2には、本実施形態における測定対象物であるステップゲージ10が示されている。
ステップゲージ10は、延伸方向Ltに延びる角柱状の本体を有し、その上面、底面および各側面は延伸方向Ltに交差する2方向である高さ方向Htおよび幅方向Wtのいずれかに平行とされている。
ステップゲージ10の上面には、ブロックゲージ状の凸部19が複数、延伸方向Ltに配列されている。各凸部19の延伸方向Ltの長さはDp、各凸部19の間の凹部の延伸方向Ltの間隔はDcとされている。
【0047】
ステップゲージ10は、一方の端部にある凸部19の第1表面11と、他方の端部にある凸部19の第2表面12との距離で、長さDsが規定されている。
本実施形態では、長さDsより凸部19の一個分短い長さDt=Ds−Dpの部分を測定対象区間とする。
【0048】
図3および図4に示すように、基準ゲージである基準ブロックゲージ20は、延伸方向Lrに延びる長尺のブロックゲージであり、その上面、底面および各側面はステップゲージ10の高さ方向Htおよび幅方向Wtのいずれかに平行とされている。
基準ブロックゲージ20は、延伸方向Lrの両端にあたる一対の端面が第1基準表面21および第2基準表面22とされ、これらの第1基準表面21および第2基準表面22の距離が基準ゲージ長さDrとされている。
【0049】
基準ブロックゲージ20は、後述する第1温度t1と第2温度t2との間の温度変化では精度上膨張を無視しうる極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されている。なお、基準ブロックゲージ20は、膨張係数が既知である材質から製造されたものであってもよい。
【0050】
これらのステップゲージ10および基準ブロックゲージ20は、図1に示すように、恒温槽30内に平行に設置される。
これらのステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を支持するために、恒温槽30内には、図4に示すような測定対象物支持台50および基準ゲージ支持台60が設置されている。
【0051】
測定対象物支持台50は、第1表面11側でステップゲージ10の下面を支持する測定対象物第1支持台51と、第2表面12側でステップゲージ10の下面を支持する測定対象物第2支持台52とを有する。
測定対象物第1支持台51は、ステップゲージ10の延伸方向Ltの変位を規制するが、測定対象物第2支持台52はステップゲージ10の延伸方向Ltの変位を許容する構成とされている。
【0052】
基準ゲージ支持台60は、第1基準表面21側でステップゲージ10の下面を支持する基準ゲージ第1支持台61と、第2基準表面22側でステップゲージ10の下面を支持する基準ゲージ第2支持台62とを有する。
さらに、基準ゲージ支持台60は、ステップゲージ10の上面を押圧してステップゲージ10を基準ゲージ第1支持台61に押し付ける第1押圧部63と、ステップゲージ10の上面を押圧してステップゲージ10を基準ゲージ第2支持台62に押し付ける第2押圧部64とを有する。
基準ゲージ第1支持台61および第1押圧部63は、ステップゲージ10の延伸方向Ltの変位を規制するが、基準ゲージ第2支持台62および第2押圧部64はステップゲージ10の延伸方向Ltの変位を許容する構成とされている。
【0053】
これらの基準ゲージ第1支持台61、基準ゲージ第2支持台62、第1押圧部63および第2押圧部64は、全て移動台71に支持されている。
移動台71は、ローラを介して一対の移動レール72上を水平に移動可能であり、側面に沿わされたガイドレール73によって移動方向を規制され、これらにより移動台71を延伸方向Lt,Lrに沿って移動させることができる。
さらに、移動台71にはボールねじ機構74が接続されており、モータ75で駆動することで、移動台71および基準ブロックゲージ20を延伸方向Lt,Lrに沿った任意位置へと移動させることができる。
これらの移動台71、移動レール72、ガイドレール73、ボールねじ機構74およびモータ75により、基準ゲージ移動機構70が構成されている。
【0054】
〔比較測定区間の割り当て〕
本実施形態では、ステップゲージ10の測定対象区間(長さDt)に対して、基準ブロックゲージ20(長さDr)に応じた複数の比較測定区間を割り当てる。
測定対象区間に比較測定区間を割り当てる際には、予め測定対象区間長さDtに対して基準ゲージ長さDrが整数比となる基準ブロックゲージ20を用い、測定対象区間長さDtと基準ゲージ長さDrとの差の整数分の1をずらし量Ddとし、測定対象区間長さDtと基準ゲージ長さDrとの差を、ずらし量Ddで除した数より1多い割当数nの比較測定区間を、前記測定対象区間に割り当てるものとする。
【0055】
すなわち、基準ゲージ長さDr、比較測定区間の割当数nとして、ずらし量Dd=(Dt−Dr)/(n−1)、測定対象区間長さDt=Dr+(n−1)・Ddとなる。
これにより、長さDtの測定対象区間には、長さDrの比較測定区間がn個割り当てられ、各比較測定区間の始点は順次ずらし量Ddずつずれた状態とされる。
そして、第nの比較測定区間Mnの始点は、測定対象区間の始点(位置P0)からずらし量Ddが(n−1)個分ずれた点とされ、第nの比較測定区間の終点は測定対象区間の始点から長さDr+(n−1)・Ddの位置となる。
【0056】
具体的な一例として、本実施形態では、ステップゲージ10における測定対象区間長さDt=1500mmであれば、比率3:2となる基準ゲージ長さDr=1000mmの基準ブロックゲージ20を用いることができる。
そして、その差500mmの整数分の1として、ずらし量Ds=250mm(1/2)とし、割当数n=(500/250)+1=3と設定することができる。
【0057】
図5には、本実施形態における各比較測定区間の配置が示されている。
第1の比較測定区間M1の始点は、測定対象区間の始点(位置P0)と一致し、第1の比較測定区間M1の終点は、測定対象区間の始点から長さDrの位置P4となる。
第2の比較測定区間M2の始点は、測定対象区間の始点(位置P0)からずらし量Ddだけずれた位置P1とされ、第2の比較測定区間M2の終点は、測定対象区間の始点から長さDr+1・Ddの位置P5となる。
第3の比較測定区間M3の始点は、測定対象区間の始点(位置P0)からずらし量Ddが2個分ずれた位置P2とされ、第3の比較測定区間M3の終点は、測定対象区間の始点から長さDr+2・Ddの位置P6となる。
【0058】
このように、本実施形態においては、各比較測定区間M1〜M3がずらし量Ddずつずれた位置に並び、ずらし量Ddごとの区間を区切りとして各比較測定区間M1〜M3が重なりあう。
従って、ずらし量Ddごとの各区間を単位として、各比較測定区間で得られる区間線膨張係数の計算を行うことができ、演算処理を効率化することができる。
すなわち、本実施形態においては、各比較測定区間において区間線膨張係数α1〜α3を計算した後、長さDdごとの各区間で重なり合う比較測定区間の区間線膨張係数α1〜α3の平均値をとることができ、各比較測定区間における区間線膨張係数α1〜α3を利用して、測定対象区間の全体としての線膨張係数αを高精度かつ確実に求めることができる。
このために、本実施形態では、一連の測定対象区間に複数の集計区間を割り当てる。
【0059】
〔集計区間の割り当て〕
本実施形態において、測定対象区間(長さDt)全体の線膨張係数αを計算する際には、測定対象区間に、ずらし量Ddごとに区切られた複数の集計区間Cnを割り当てておく。さらに、集計区間Cnには、測定対象区間の長さDtに対する集計区間Cnの長さの比率に基づいて、各集計区間Cnの重み係数cを設定しておく。なお、重み係数cは、各集計区間Cnの長さが同じであるから、全ての集計区間Cnについて同じ値となる。
【0060】
このような集計区間Cnを設定しておくことで、集計区間Cnの各々において、集計区間Cnに割り当てられている、つまり同じ集計区間Cnにおいて重複する比較測定区間(本実施形態ではM1〜M3)の区間線膨張係数(同α1〜α3など)の平均値αnを求めることができる。
さらに、集計区間Cnごとに、区間線膨張係数の平均値αnと重み係数cとの積c・αnを求め、全ての集計区間分の積c・αnを合計することにより、測定対象区間全体の線膨張係数αを求めることができる。
【0061】
図5において、本実施形態では、6つの集計区間C1〜C6を割り当てる。
本実施形態の測定対象区間Dtには、3つの比較測定区間M1〜M3が配置され、各々はずらし量Ddずつずらして配置されているとともに、各々の長さDrはずらし量Ddの4倍とされている。従って、測定対象区間Dtは、各々の長さがずらし量Ddに相当する6つの集計区間C1〜C6に分割することができる。
【0062】
第1の集計区間C1は、第1の比較測定区間M1の始点(位置P0)から第2の比較測定区間M2の始点(位置P1)までの長さDdの区間とされる。この集計区間C1には、第1の比較測定区間M1だけが割り当てられている。
第2の集計区間C2は、第2の比較測定区間M2の始点(位置P1)から第3の比較測定区間M3の始点(位置P2)までの長さDdの区間とされる。この集計区間C2には、第1の比較測定区間M1および第2の比較測定区間M2の2つが重複して割り当てられる。
【0063】
第3の集計区間C3は、第3の比較測定区間M3の始点(位置P2)から測定対象区間の中点(位置P3)までの長さDdの区間とされる。この集計区間C3には、第1の比較測定区間M1、第2の比較測定区間M2および第3の比較測定区間M3の3つが重複して割り当てられる。
第4の集計区間C4は、測定対象区間の中点(位置P3)から第1の比較測定区間M1の終点(位置P4)までの長さDdの区間とされる。この集計区間C4には、第1の比較測定区間M1、第2の比較測定区間M2および第3の比較測定区間M3の3つが重複して割り当てられる。
【0064】
第5の集計区間C5は、第1の比較測定区間M1の終点(位置P4)から第2の比較測定区間M2の終点(位置P5)までの長さDdの区間とされる。この集計区間C5には、第2の比較測定区間M2および第3の比較測定区間M3の2つが重複して割り当てられる。
第6の集計区間C6は、第2の比較測定区間M2の終点(位置P5)から第3の比較測定区間M3の終点(位置P6)までの長さDdの区間とされる。この集計区間C6には、第3の比較測定区間M3だけが割り当てられる。
【0065】
これらの第1〜第6の集計区間C1〜C6は、それぞれ長さDd=Dr/6である。従って、各集計区間C1〜C6の重み係数c=1/6と設定する。
以上のような集計区間C1〜C6を設定することで、各比較測定区間M1〜M3において区間線膨張係数α1〜α3を計算した後、長さDdごとの各集計区間C1〜C6で重なり合う比較測定区間M1〜M3の区間線膨張係数α1〜α3の平均値αnをとるとともに、各々の重み、つまり上述の例では6つの区間に応じたc=1/6を各区間の区間線膨張係数の平均値αnに乗じ、全ての集計区間の積c・αnを合計することにより、測定対象区間の全体としての線膨張係数αを高精度かつ確実に求めることができる。
【0066】
具体的には、次式のようになる。
α= (1/6)(α1) …集計区間C1分
+(1/6)(α1+α2)/2 …集計区間C2分
+(1/6)(α1+α2+α3)/3 …集計区間C3分
+(1/6)(α1+α2+α3)/3 …集計区間C4分
+(1/6)(α2+α3)/2 …集計区間C5分
+(1/6)(α3) …集計区間C6分
【0067】
〔線膨張係数の測定手順〕
図6には、線膨張係数測定装置1を用いてステップゲージ10の線膨張係数を測定する手順が示されている。
測定開始にあたっては、先ず、線膨張係数測定装置1として三次元測定機40に恒温槽30を固定し、恒温槽30の内部にステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を設置する(処理S1)。
そして、測定用開口31を全て閉じた状態とし、恒温槽30の内部温度を第1温度t1に設定し、所定時間を待って温度を安定化させる(処理S2)。
【0068】
恒温槽30の内部が第1温度t1で安定化したら、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定を行う(処理S3)。
具体的には、恒温槽30の測定用開口31を開いて三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の端面、上面および側面の複数の点の座標検出を行うことで、各々の延伸方向Lt、Lrの向きおよび位置測定の基準となる座標系が取得される。
【0069】
ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定(処理S3)ができたら、各比較測定区間M1〜M3について、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の寸法の比較測定を行う(処理S4〜S8)。
【0070】
先ず、基準ゲージ移動機構70の移動台71を移動させて、基準ブロックゲージ20を第1の比較測定区間M1に配置する(処理S4)。
そして、第1の比較測定区間M1の始点位置(位置P0)に最寄りの測定用開口31を開き、ここから三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の各々について、第1の比較測定区間M1の始点位置に対応する部位(ここでは第1表面11および第1基準表面21)の位置を計測する(処理S5)。
【0071】
続いて、第1の比較測定区間M1の終点位置(位置P4)に最寄りの測定用開口31を開き、ここから三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の各々について、第1の比較測定区間M1の終点位置に対応する部位(基準ブロックゲージ20の第1基準表面21およびステップゲージ10の対応する凸部19)の位置を計測する(処理S6)。
【0072】
これらにより、第1の比較測定区間M1において、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の各々の始点位置および終点位置が計測される。そして、基準ブロックゲージ20を基準とした比較測定演算を行うことにより、第1温度t1でのステップゲージ10の第1の比較測定区間M1の長さDt11が測定される(処理S7)。
【0073】
第1の比較測定区間M1の比較測定が済んだら、繰り返し状態を判定し(処理S8)、第2の比較測定区間M2および第3の比較測定区間M3について、同様の処理S4〜S8を繰り返す。
そして、全ての比較測定区間M1〜M3について、第1温度t1でのステップゲージ10の長さDt11〜Dt31が測定できたら、第1温度t1での測定を終了し、第2温度での測定に入る。
【0074】
すなわち、測定用開口31を全て閉じた状態とし、恒温槽30の内部温度を第2温度t2に設定し、所定時間を待って温度を安定化させる(処理S9)。
恒温槽30の内部が第2温度t2で安定化したら、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定を行う(処理S10)。なお、処理S10は前述した処理S3と同様である。
【0075】
続いて、第1〜第3の比較測定区間M1〜M3について、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の寸法の比較測定を行う(処理S11〜S15)。なお、処理S11〜S15は、前述した処理S4〜S8と同様である。
これらにより、全ての比較測定区間M1〜M3について、第2温度t2でのステップゲージ10の長さDt12〜Dt32が測定できたら、第2温度t2での測定を終了する。
【0076】
以上により、第1および第3の比較測定区間M1〜M3の各々において、第1温度でのステップゲージ10の長さDt11〜Dt31および第2温度t2でのステップゲージ10の長さDt12〜Dt32が測定できたら、各比較測定区間における区間線膨張係数α1〜α3を計算する(処理S16)。
α1=[(Dt11−Dt12)/Dt11]/(t1−t2)
α2=[(Dt21−Dt22)/Dt21]/(t1−t2)
α3=[(Dt31−Dt32)/Dt31]/(t1−t2)
【0077】
さらに、各比較測定区間M1〜M3における区間線膨張係数α1〜α3が計算できたら、測定対象区間の線膨張係数αを計算する(処理S17)。
この計算にあたっては、前述した第1〜第6の集計区間C1〜C6を用いる。すなわち、長さDdごとの各集計区間C1〜C6で重なり合う比較測定区間M1〜M3の区間線膨張係数α1〜α3の平均値αnをとるとともに、各々の重み係数c=1/6を各区間の区間線膨張係数の平均値αnに乗じ、全ての集計区間の積c・αnを合計することにより、測定対象区間の全体としての線膨張係数αを計算する。
【0078】
〔本実施形態の効果〕
本実施形態では、ステップゲージ10の測定対象区間の全体をカバーするように複数の比較測定区間M1〜M3を配置し、各比較測定区間におけるステップゲージ10の長さDt11〜Dt31,Dt12〜Dt32の比較測定を行うことができ、第1温度t1および第2温度t2での各比較測定区間の長さの差から、各比較測定区間における区間線膨張係数α1〜α3を計算し、全体としての線膨張係数αを計算することができる。
【0079】
従って、本実施形態では、ステップゲージ10の測定対象区間Dtの長さが基準ブロックゲージ20の長さDrよりも長くても、各比較測定区間M1〜M3においては基準ブロックゲージ20を用いた比較測定が可能である。
比較測定区間M1〜M3の各々におけるステップゲージ10の長さの比較測定では、三次元測定機40を用いて基準ブロックゲージ20の長さDrに対する比較測定を行うので、高価な光波干渉計を用いることなく、高精度な測定を低コストで行うことができる。
【0080】
本実施形態では、三次元測定機40を用い、かつ基準ブロックゲージ20に対する長さの比較測定を行うため、長さ測定の結果は、三次元測定機40のスケールの精度に依存せず、専ら基準ブロックゲージ20の精度に依存する。そして、ステップゲージ10の測定対象区間が長尺化しても、それよりも各比較測定区間M1〜M3を短くできるため、既存の基準ブロックゲージ20を基準ゲージとして利用して、低コストとすることができる。
【0081】
さらに、基準ゲージである基準ブロックゲージ20および測定対象物であるステップゲージ10は、ともに恒温槽30内に収容されており、三次元測定機40による各比較測定区間の長さの比較測定においては、恒温槽30の測定用開口31を開閉し、測定プローブ46の導入ないし取り出しを行うだけでよい。
そして、各比較測定区間M1〜M3に対応した基準ブロックゲージ20を準備しておくことで、測定作業の途中で基準ブロックゲージ20を恒温槽30から出し入れする必要がなく、測定作業中の恒温槽30内の温度変化を最小限に留めることができ、測定作業時間も最小限とすることができる。
【0082】
以上により、本実施形態によれば、基準ゲージ(基準ブロックゲージ20)の長さを超える長大な寸法基準器(ステップゲージ10)であっても、その全長にわたる線膨張係数の測定を、高精度かつ安価に行うことができる。
【0083】
本実施形態では、長さDrの比較測定区間M1〜M3を割当数n=3だけ設定し、各々をずらし量Ddずつずらして並べることにより、長さDtの測定対象区間の全体をカバーすることができる。
そして、比較測定区間M1〜M3が互いに重なり合う区間については、区間線膨張係数α1〜α3の平均値をとることができ、測定対象区間の全体としての線膨張係数αを高精度かつ確実に求めることができる。
【0084】
とくに、本実施形態では、測定対象区間に複数の集計区間C1〜C6を割り当て、各々において区間線膨張係数α1〜α3の平均値をとるとともに、各平均値を集計区間C1からC6の重み係数cで重み付けしたうえで合計することで、高精度な線膨張係数αを効率よく測定することができる。
【0085】
本実施形態において、恒温槽30内に基準ゲージ移動機構70を設置し、移動台71により基準ブロックゲージ20を複数の比較測定区間M1〜M3の各々へと移動させるようにしたので、複数の比較測定区間M1〜M3へと基準ブロックゲージ20を順次移動させることができる。
このため、一つの基準ブロックゲージ20を、複数の比較測定区間M1〜M3で共用することができ、測定精度のばらつきも防止できる。
【0086】
本実施形態では、基準ブロックゲージ20が、極低膨張係数ないしゼロ膨張係数の材質から製造されているので、第1温度t1と第2温度t2との間での基準ブロックゲージ20の長さの温度補正を省略することができる。
なお、基準ブロックゲージ20が、膨張係数が既知である材質から製造されている場合、第1温度t1および第2温度t2において、温度補正により各温度における高精度な基準ゲージの長さを計算することで、比較測定を高精度に行うことができる。
【0087】
〔比較測定区間の異なる設定例〕
前述した第1実施形態では、3つの比較測定区間M1〜M3を設定した。
図7に示すように、第1実施形態では、ステップゲージ10の測定対象区間の長さDt=1500mmに対して、基準ゲージ長さDr=1000mmの基準ブロックゲージ20を用い、ずらし量Dd=250mmとした。
基準ゲージ長さDr=1000mmは、測定対象区間の長さDt=1500mmに対して2:3の整数比をなす。
ずらし量Dd=250mmは、基準ゲージ長さDrと測定対象区間の長さDtとの差500mmの1/2(整数分の1)である。
【0088】
比較測定区間を測定対象区間に割り当てる割当数nは、測定対象区間の長さDtと基準ゲージ長さDrとの差500mmを、ずらし量Dd=250mmで除した数2より1多い割当数n=3とした。
集計区間としては、測定対象区間の長さDt=1500mm、ずらし量Dd=250mmから、Dt/Dd=6個の集計区間C1〜C6を設定していた。
これに対し、以下のような異なる設定が可能である。
【0089】
図8に示すように、ステップゲージ10の測定対象区間の長さDt=1500mmに対して、基準ゲージ長さDr=1000mmの基準ブロックゲージ20を用い、ずらし量Dd=500mmとしてもよい。
基準ゲージ長さDr=1000mmは、測定対象区間の長さDt=1500mmに対して2:3の整数比をなす。
ずらし量Dd=500mmは、基準ゲージ長さDrと測定対象区間の長さDtとの差500mmの1/1(整数分の1)である。
この場合、割当数nは、測定対象区間の長さDtと基準ゲージ長さDrとの差500mmを、ずらし量Dd=500mmで除した数1より1多い割当数n=2とすればよい。
また、集計区間は、Dt/Dd=3個の集計区間C1〜C3を設定すればよい。
【0090】
図9に示すように、ステップゲージ10の測定対象区間の長さDt=1500mmに対して、基準ゲージ長さDr=750mmの基準ブロックゲージ20を用い、ずらし量Dd=250mmとしてもよい。
基準ゲージ長さDr=750mmは、測定対象区間の長さDt=1500mmに対して1:2の整数比をなす。
ずらし量Dd=250mmは、基準ゲージ長さDrと測定対象区間の長さDtとの差750mmの1/3(整数分の1)である。
この場合、割当数nは、測定対象区間の長さDtと基準ゲージ長さDrとの差750mmを、ずらし量Dd=250mmで除した数3より1多い割当数n=4とすればよい。
また、集計区間は、Dt/Dd=6個の集計区間C1〜C6を設定すればよい。
【0091】
図10に示すように、ステップゲージ10の測定対象区間の長さDt=2000mmに対して、基準ゲージ長さDr=1000mmの基準ブロックゲージ20を用い、ずらし量Dd=500mmとしてもよい。
基準ゲージ長さDr=1000mmは、測定対象区間の長さDt=2000mmに対して1:2の整数比をなす。
ずらし量Dd=500mmは、基準ゲージ長さDrと測定対象区間の長さDtとの差1000mmの1/2(整数分の1)である。
この場合、割当数nは、測定対象区間の長さDtと基準ゲージ長さDrとの差1000mmを、ずらし量Dd=500mmで除した数2より1多い割当数n=3とすればよい。
また、集計区間は、Dt/Dd=4個の集計区間C1〜C4を設定すればよい。
【0092】
図11に示すように、ステップゲージ10の測定対象区間の長さDt=2000mmに対して、基準ゲージ長さDr=1000mmの基準ブロックゲージ20を用い、ずらし量Dd=250mmとしてもよい。
基準ゲージ長さDr=1000mmは、測定対象区間の長さDt=2000mmに対して1:2の整数比をなす。
ずらし量Dd=250mmは、基準ゲージ長さDrと測定対象区間の長さDtとの差1000mmの1/4(整数分の1)である。
この場合、割当数nは、測定対象区間の長さDtと基準ゲージ長さDrとの差1000mmを、ずらし量Dd=250mmで除した数4より1多い割当数n=5とすればよい。
また、集計区間は、Dt/Dd=8個の集計区間C1〜C8を設定すればよい。
【0093】
図12に示すように、ステップゲージ10の測定対象区間の長さDt=2000mmに対して、基準ゲージ長さDr=1000mmの基準ブロックゲージ20を用い、ずらし量Dd=1000mmとしてもよい。
基準ゲージ長さDr=1000mmは、測定対象区間の長さDt=2000mmに対して1:2の整数比をなす。
ずらし量Dd=1000mmは、基準ゲージ長さDrと測定対象区間の長さDtとの差1000mmの1/1(整数分の1)である。
この場合、割当数nは、測定対象区間の長さDtと基準ゲージ長さDrとの差1000mmを、ずらし量Dd=1000mmで除した数1より1多い割当数n=2とすればよい。
また、集計区間は、Dt/Dd=2個の集計区間C1〜C2を設定すればよい。
【0094】
なお、図12の設定例では、比較測定区間M1,M2は単に並べただけで互いに重なりがない。そして、集計区間C1,C2は比較測定区間M1,M2と同一であり、各々において比較測定区間M1,M2が重なっていないので、集計区間における平均値の計算および重み付けを伴う合計計算も省略することができる。
【0095】
図13に示すように、ステップゲージ10の測定対象区間の長さDt=3000mmに対して、基準ゲージ長さDr=1000mmの基準ブロックゲージ20を用い、ずらし量Dd=500mmとしてもよい。
基準ゲージ長さDr=1000mmは、測定対象区間の長さDt=3000mmに対して1:3の整数比をなす。
ずらし量Dd=500mmは、基準ゲージ長さDrと測定対象区間の長さDtとの差2000mmの1/4(整数分の1)である。
この場合、割当数nは、測定対象区間の長さDtと基準ゲージ長さDrとの差2000mmを、ずらし量Dd=500mmで除した数4より1多い割当数n=5とすればよい。
また、集計区間は、Dt/Dd=6個の集計区間C1〜C6を設定すればよい。
【0096】
図14に示すように、ステップゲージ10の測定対象区間の長さDt=3000mmに対して、基準ゲージ長さDr=1000mmの基準ブロックゲージ20を用い、ずらし量Dd=1000mmとしてもよい。
基準ゲージ長さDr=1000mmは、測定対象区間の長さDt=3000mmに対して1:3の整数比をなす。
ずらし量Dd=1000mmは、基準ゲージ長さDrと測定対象区間の長さDtとの差2000mmの1/2(整数分の1)である。
この場合、割当数nは、測定対象区間の長さDtと基準ゲージ長さDrとの差2000mmを、ずらし量Dd=1000mmで除した数2より1多い割当数n=3とすればよい。
また、集計区間は、Dt/Dd=3個の集計区間C1〜C3を設定すればよい。
【0097】
なお、図14の設定例では、比較測定区間M1〜M3は単に並べただけで互いに重なりがない。そして、集計区間C1〜C3は比較測定区間M1〜M3と同一であり、各々において比較測定区間M1〜M3が重なっていないので、集計区間における平均値の計算および重み付けを伴う合計計算も省略することができる。
【0098】
〔第2実施形態〕
図15から図17には、本発明の第2実施形態が示されている。
この第2実施形態は、前述した第1実施形態と基本構成が共通であり、説明の簡略化のため共通部分については重複する説明を省略し、以下相違する部分について説明する。
【0099】
前述した第1実施形態では、基準ゲージとして基準ブロックゲージ20を用い、これを基準ゲージ移動機構70により移動させることにより、第1〜第3の比較測定区間M1〜M3に配置していた。
これに対し、第2実施形態では、基準ゲージとして、図15および図16に示すように、第1〜第3の比較測定区間M1〜M3に対応する3対の端面を有する基準ブロックゲージ20Aを用いる。
【0100】
基準ブロックゲージ20Aは、3枚のブロックゲージ201,202,203を束ねてボルト204で固定したものである。
ブロックゲージ201,202,203は、それぞれ長さDrを有する既存のブロックゲージであり、互いにずらし量Ddずつずらして重ね合わせられている。
従って、ブロックゲージ201が第1の比較測定区間M1における比較測定の基準となり、同様にブロックゲージ202,203が第2および第3の比較測定区間M2,M3における比較測定の基準となる。
【0101】
ブロックゲージ201,202,203には、それぞれ他の端面に対応する位置に、貫通孔205が形成されている。
各比較測定区間M1〜M3の比較測定にあたって、三次元測定機40の測定プローブ46を接触させる場合、これらの貫通孔205を通すことで、上側のブロックゲージ202,203で覆われる下側のブロックゲージ201,202の端面や、さらに下方のステップゲージ10の各部まで到達させることができる。
【0102】
〔線膨張係数の測定手順〕
図17には、本実施形態におけるステップゲージ10の線膨張係数の測定手順が示されている。
測定開始にあたっては、先ず、線膨張係数測定装置1として三次元測定機40に恒温槽30を固定し、恒温槽30の内部にステップゲージ10および基準ブロックゲージ20を設置する(処理S21)。
そして、測定用開口31を全て閉じた状態とし、恒温槽30の内部温度を第1温度t1に設定し、所定時間を待って温度を安定化させる(処理S22)。
恒温槽30の内部が第1温度t1で安定化したら、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定を行う(処理S23)。
ここまでは、前述した第1実施形態の処理S1〜S3と同様である。
【0103】
ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定(処理S23)ができたら、各比較測定区間M1〜M3について、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の寸法の比較測定を行う(処理S24〜S26)。
【0104】
先ず、処理S24として、第1の比較測定区間M1の始点位置(位置P0)に最寄りの測定用開口31を開き、ここから三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20Aの各々について、第1の比較測定区間M1の始点位置に対応する部位の位置を計測する。基準ブロックゲージ20Aにおいては、ブロックゲージ201の端面が該当する。
続いて、第2の比較測定区間M2の始点位置(位置P1)に最寄りの測定用開口31を開き、ここから三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20Aの各々について、第2の比較測定区間M2の始点位置に対応する部位の位置を計測する。基準ブロックゲージ20Aにおいては、ブロックゲージ202の端面が該当する。
さらに、第3の比較測定区間M3の始点位置(位置P2)に最寄りの測定用開口31を開き、ここから三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20Aの各々について、第3の比較測定区間M3の始点位置に対応する部位の位置を計測する。基準ブロックゲージ20Aにおいては、ブロックゲージ203の端面が該当する。
【0105】
次に、処理S25として、第1の比較測定区間M1の終点位置(位置P4)に最寄りの測定用開口31を開き、ここから三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20Aの各々について、第1の比較測定区間M1の終点位置に対応する部位の位置を計測する。基準ブロックゲージ20Aにおいては、ブロックゲージ201の端面が該当する。
続いて、第2の比較測定区間M2の終点位置(位置P5)に最寄りの測定用開口31を開き、ここから三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20Aの各々について、第2の比較測定区間M2の終点位置に対応する部位の位置を計測する。基準ブロックゲージ20Aにおいては、ブロックゲージ202の端面が該当する。
さらに、第3の比較測定区間M3の終点位置(位置P6)に最寄りの測定用開口31を開き、ここから三次元測定機40の測定プローブ46を導入し、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20Aの各々について、第3の比較測定区間M3の終点位置に対応する部位の位置を計測する。基準ブロックゲージ20Aにおいては、ブロックゲージ203の端面が該当する。
【0106】
これらにより、第1〜第3の比較測定区間M1〜M3において、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の各々の始点位置および終点位置がそれぞれ計測される。そして、各区間において、基準ブロックゲージ20を基準とした比較測定演算を行うことにより、第1温度t1でのステップゲージ10の第1〜第3の比較測定区間M1〜M3の長さDt11〜Dt31が測定される(処理S26)。
【0107】
第1温度t1でのステップゲージ10の長さDt11〜Dt31が測定できたら、第1温度t1での測定を終了し、第2温度での測定に入る。
すなわち、測定用開口31を全て閉じた状態とし、恒温槽30の内部温度を第2温度t2に設定し、所定時間を待って温度を安定化させる(処理S27)。
恒温槽30の内部が第2温度t2で安定化したら、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定を行う(処理S28)。
【0108】
ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の座標系決定(処理S28)ができたら、各比較測定区間M1〜M3について、ステップゲージ10および基準ブロックゲージ20の寸法の比較測定を行う(処理S29〜S31)。
なお、処理S27〜S31は、前述した処理S22〜S26と同様である。
これらにより、全ての比較測定区間M1〜M3について、第2温度t2でのステップゲージ10の長さDt12〜Dt32が測定できたら、第2温度t2での測定を終了する。
【0109】
以上により、第1および第3の比較測定区間M1〜M3の各々において、第1温度でのステップゲージ10の長さDt11〜Dt31および第2温度t2でのステップゲージ10の長さDt12〜Dt32が測定できたら、各比較測定区間における区間線膨張係数α1〜α3を計算する(処理S32)。
さらに、各比較測定区間M1〜M3における区間線膨張係数α1〜α3が計算できたら、測定対象区間の線膨張係数αを計算する(処理S33)。
これらの処理S32,S33は、前述した第1実施形態の処理S16,S17と同様である。
【0110】
このような本実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
さらに、本実施形態では、一つの基準ブロックゲージ20Aで複数の比較測定区間M1〜M3に対応することができ、基準ブロックゲージ20Aを移動させる等の操作を省略することができる。
本実施形態の基準ブロックゲージ20Aは、比較測定区間M1〜M3の長さに対応する基準ゲージ長さDrを有するブロックゲージ201〜203を束ね、互いにずらし量Ddずつずらして固定したものであり、簡単に製造できるとともに、各ブロックゲージ201〜203として既存のブロックゲージを用いることで、比較測定区間M1〜M3において等しく高精度を確保することができる。
【0111】
さらに、本実施形態の基準ブロックゲージ20Aにおいては、ブロックゲージ201〜203の中間部であって他のブロックゲージの端部に臨む位置に、表裏を貫通する貫通孔205が形成されているため、基準ブロックゲージ20Aで隠れる位置に測定対象物の比較測定区間がある場合でも、貫通孔205を通して三次元測定機40の測定プローブ46を導入することができる。
【0112】
〔他の実施形態〕
本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
前述した各実施形態では、ステップゲージ10を測定対象物としていたが、測定対象物としては、ステップゲージ10に限らず、延伸方向Ltに沿って複数の長さ基準を与える形状をもつ他の寸法基準器であってもよい。
また、基準ゲージとしては、基準ブロックゲージ20に限らず、専用の基準ゲージあるいは測定対象物と同様なステップゲージ10であって高精度に校正されたマスターゲージなどを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、寸法基準器の線膨張係数測定方法として利用できる。
【符号の説明】
【0114】
1…線膨張係数測定装置、10…測定対象物であるステップゲージ、11…第1表面、12…第2表面、19…凸部、20,20A…基準ゲージである基準ブロックゲージ、201…ブロックゲージ、202…ブロックゲージ、203…ブロックゲージ、204…ボルト、205…貫通孔、21…第1基準表面、22…第2基準表面、30…恒温槽、31…測定用開口、40…三次元測定機、41…定盤、42…コラム、43…クロスバー、44…ヘッド、45…ラム、46…測定プローブ、50…測定対象物支持台、51…測定対象物第1支持台、52…測定対象物第2支持台、60…基準ゲージ支持台、61…基準ゲージ第1支持台、62…基準ゲージ第2支持台、63…第1押圧部、64…第2押圧部、70…基準ゲージ移動機構、71…移動台、72…移動レール、73…ガイドレール、74…ボールねじ機構、75…モータ、c…重み係数、C1〜C6,Cn…集計区間、Dd…ずらし量、Dt…測定対象区間、Ht…高さ方向、Lr,Lt…延伸方向、M1〜M3,Mn…比較測定区間、n…割当数、P0〜P6…位置、S1〜S33…処理、T…温度、t1…第1温度、t2…第2温度、To…基準温度、Wt…幅方向、α…線膨張係数。
図1
図2
図3
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