【実施例1】
【0015】
本発明の一実施例に係る磁気軸受を
図1〜
図3に示す。
本実施例の磁気軸受は、スラストステータコア(材質:磁性材 無垢材)1と、二つのスラスト巻線3,4と、ラジアルステータコア(材質:磁性材 積層鋼板)5と、複数のラジアル巻線6及び複数の永久磁石7とを備える固定子と、この固定子に磁気力によって非接触状態で支持されて回転する回転子であるロータコア8及びシャフト9とを備える。
【0016】
スラストステータコア1は、概略円筒状をなし、ロータコア8及びシャフト9を取り囲む円筒部分と、円筒部分の軸方向両端側の内向きに配置された二つの円環状部分とからなり、それら二つの円環状部分の中心をロータコア8及びシャフト9が貫通している。
スラストステータコア1に形成される空間内には、スラスト巻線3,4、ラジアルステータコア5、ラジアル巻線6及び永久磁石7は、収容される。
【0017】
即ち、ラジアルステータコア5と、スラストステータコア1の円環状部分との間には、周方向に巻回されたスラスト巻線3,4が各々配置されている。
ラジアルステータコア5の外周部には、径方向に磁化された複数の永久磁石(以下、外側磁石という)7が挿入されると共にラジアルステータコア5の内周側においては、ティースにラジアル巻線6が巻回されて磁極が構成される。
【0018】
更に、ラジアルステータコア5の磁極の間であるスロット、即ち、ティースの先端間にはソリッドコア(材質:磁性材 無垢材)2が掛け渡されている。
このソリッドコア2の内径側には、外側磁石7と同一方向に磁化方向を設定された永久磁石(以下、スロット先端磁石という)10が備えられている。
【0019】
従って、
図1中に示すように、外側磁石7の内径側がS極、外径側がN極であれば、スロット先端磁石10の内径側もS極、外径側もN極である。
また、スロット先端磁石10と磁極との間には、周方向の隙間が設けられていない。そのため、後述するように磁束密度が均一化する利点がある。
更に、ソリッドコア2の外周側には、磁極間の磁束漏れを防止するための切欠き21が形成されている。
【0020】
そのため、
図1中では、永久磁石7によって発生する磁束φaは太い破線で示されるように、ラジアルステータコア5を放射状に外径方向に流れる。
そして、
図3中では、磁束φaはスラストステータコア1の円筒部分で軸方向に二つに分かれ、一方の磁束φaは一方の円筒部分を図中右側に流れ、図中右端の円環状部分で内径側に流れ、ロータコア8において図中左側に方向を変え、ラジアルステータコア5に戻る一方、他方の磁束φaは円筒部分1aを図中左側に流れ、図中左端の円環状部分で内径側に流れ、ロータコア8において図中右側に方向を変え、ラジアルステータコア5に戻る。
【0021】
ここで、
図2に示すように、ラジアルステータコア5に戻る磁束φaは、ソリッドコア2の外周側に形成された切欠き21が障害となってソリッドコア2を通過することなく、ラジアルステータコア5の外径側に流れることになる。
一方、
図2において、スロット先端磁石10によって発生する磁束φeは細い二点鎖線で示される通り、スロット先端磁石10からソリッドコア2で周方向に2分岐し、それぞれティース先端からロータコア8を通り、スロット先端磁石10に戻る小さいループを描くことになる。
【0022】
ここで、外側磁石7によって発生し、スラストステータコア1、ロータコア8を通ってきた磁束φa(太い破線)と、スロット先端磁石10によって発生し、小さいループを描く磁束φe(細い二点鎖線)とで、回転子磁束に疎密の関係ができる。
ここで、条件として、外側磁石7の磁束が、スロット先端磁石10の磁束よりも強いとする。
そうすると、
図5に示すように、図中一点鎖線で囲む領域Cであるスロット中心部分は、スロット先端磁石10による磁束φe(細い二点鎖線)と外側磁石7の磁束φa(太い破線)によって、磁束が強め合うために、磁束密度が密になる。
【0023】
また、領域Cの周方向に隣り合う領域(ティース部分)では、スロット先端磁石10による磁束φe(細い二点鎖線)と外側磁石7の磁束φa(太い破線)によって、磁束が弱め合うこととなるが、外側磁石7の磁束φaが、スロット先端磁石10の磁束φeよりも強いため、つまり、外側磁石7の磁束φaが支配的であるため、外側磁石7の磁束φaが少し弱まるだけで、ティース先端部分の磁極はS極となる。
磁束の強弱は、磁石のグレードによる保持力の違いや磁石の厚みの違いなど、どのような方法でもよい。
【0024】
ここで、
図5に示すように、スロット先端磁石10による磁束φeの影響の及ばない、図中一点鎖線で囲む領域D,Eであるティース先端部分は、外側磁石7の磁束φa(太い破線)とラジアル巻線6の磁束φd(細い破線)によって、磁束が強め合うことで磁束密度が密になる。
よって、本実施例では、スロット先端、ティース先端すべてS極になり、対向する回転子の磁束の変化が少なく鉄損が発生しにくい構造となる。
【0025】
なお、図中で例示した場合とは逆に、外側磁石7の内径側がN極、外径側がS極であり、スロット先端磁石10の内径側がN極、外径側がS極であれば、スロット先端、ティース先端すべてN極になることなる。この場合も、対向する回転子の磁束の変化が少なく鉄損が発生しにくい構造となる点については変わらない。
【0026】
本実施例の磁気軸受においては、軸支持力の発生原理は、比較例において後述する通り、ロータコア8及びシャフト9がラジアル力を受けて回転可能に支持される。
なお、スラスト力については、簡単に述べると、永久磁石7が発生する磁束とスラスト巻線3,4を流れる電流により形成される磁束の疎密により、回転子であるロータコア8及びシャフト9に対して軸方向のスラスト力が発生する。
【0027】
[比較例]
比較例として、上記実施例1に係る磁気軸受からスロット先端磁石10及びソリッドコア2を取り除いたものを、
図6及び
図7に示す。
即ち、この比較例に係る磁気軸受は、
図6及び
図7に示す通り、ラジアルステータコア5の外周部には、径方向に磁化された複数の永久磁石(外側磁石)7が挿入されると共にラジアルステータコア5の内周側においては、ティースにラジアル巻線6が巻回されて磁極が構成される。
【0028】
ラジアルステータコア5の磁極の間であるスロット先端には、永久磁石(スロット先端磁石)及びソリッドコアは存在しない。
これらラジアルステータコア5、外側磁石7及びラジアル巻線6は、スラストステータコア(図示省略)に収容されて固定子を構成し、この固定子に磁気力(ラジアル力)によって非接触状態で支持されて回転子であるロータコア8及びシャフト9が回転する。
即ち、
図7ではラジアル力の発生原理を示しており、外側磁石7によって発生する磁束φaを太い破線、ラジアル巻線6に流れる電流によって発生する磁束φdを細い破線で示している。
【0029】
図7に示すように、外側磁石7は、内周側がS極であり、外周側がN極である。そのため、外側磁石7によって発生する磁束φaは、ラジアルステータコア5を放射状に外径方向に流れる一方、ラジアル巻線6に流れる電流によって発生する磁束φdは、右ネジの法則に従い、ラジアルステータコア5及びロータコア8において、交互に図中時計回り又は反時計回りに流れる。
【0030】
そのため、ラジアルステータコア5の右上および左上部(図中、一点鎖線で囲む領域H)では、太い破線で示す磁束φaと細い破線で示す磁束φdが同じ方向に発生するため磁束が強め合う一方、ラジアルステータコア5の右下および左下部(図中、一点鎖線で囲む領域I)では、太い破線で示す磁束φaと細い破線で示す磁束φdが反対の方向に発生す
るため磁束が弱め合う。これにより、ロータコア8には不平衡吸引力によって、図中矢印で示すように、上向きにラジアル力Gが発生する。
このようにラジアル力Gが発生する点に関しては、実施例1においても同様である。
【0031】
一方、
図6に示すように、図中一点鎖線で囲む領域Jであるスロット中心部分は、ラジアル巻線6に流れる電流によって発生する磁束φd(細い破線)と外側磁石7の磁束φa(太い破線)によって、磁束が弱め合うために、磁束密度が疎になる。
しかし、
図6に示すように、図中一点鎖線で囲む領域J,Kであるティース先端部分は、外側磁石7の磁束φa(太い破線)とラジアル巻線6の磁束φd(細い破線)によって、磁束が強め合うことで磁束密度が密になる。
【0032】
このように、比較例では、磁束の疎密が発生することにより、磁束密度にムラができ、鉄損を発生する。この点に関しては、特許文献2の第5の実施形態も同様と考えられる。
具体的な磁束密度について、比較例と実施例1とを対比して、シュミレーションした結果を
図8に示す。
図8(b)に示すように、比較例の回転子における磁束密度分布は、固定子(歯部)近傍に比較して固定子(スロット部)近傍の磁束密度が低くなり、そのため、固定子(歯部)、固定子(スロット部)の磁束密度の変化が大きく、回転子鉄心の鉄損が大きい。
これに対し、
図8(a)に示すように、実施例1の回転子における磁束密度分布は、スロット先端磁石10近傍と固定子(歯部)近傍の磁束密度の変化が小さく抑えられ、回転子鉄心の磁束密度の変化が小さくなり、回転子鉄心の鉄損が発生しにくい。
【0033】
特に、実施例1においては、スロット先端磁石10と磁極との間には、周方向の隙間が設けられていないため、磁束密度がより一層均一化する利点がある。
逆に、特許文献1は、歯部先端部から隙間を設けて永久磁石を配置しているため、磁束密度の変化が大きく、回転子鉄心の鉄損が大きいと考えられる。
図9に示すように、ギャップ磁束密度は、比較例では、1〜0.964[p.u.]の範囲であるのに対し、実施例1では、1〜0.271[p.u.]の範囲である。
図9において、縦軸はギャップ磁束密度[p.u.]、横軸は円周角[deg]である。
表1に、ある固定子形状における、比較例と実施例1との回転子鉄心で発生する鉄損の割合を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表の数値は、各負荷時における比較例の回転子鉄損を100%とした時の、本実施例の回転子鉄損の割合を示している。
表1に示す通り、実施例1は、有負荷時においても比較例の20%以下に回転子鉄損を抑制できていることが分かる。