特許第6594785号(P6594785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6594785貯炭場監視システムおよび貯炭場監視方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594785
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】貯炭場監視システムおよび貯炭場監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/50 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   G01N25/50 Z
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-18431(P2016-18431)
(22)【出願日】2016年2月2日
(65)【公開番号】特開2017-138166(P2017-138166A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100097995
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悦一
(72)【発明者】
【氏名】味村 健一
(72)【発明者】
【氏名】前川 宗則
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 睦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕晶
【審査官】 芝沼 隆太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−132575(JP,A)
【文献】 特開2008−195760(JP,A)
【文献】 特開2010−159111(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105181744(CN,A)
【文献】 特開2017−90286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00−25/72
B65G 3/00− 3/04
C10L 5/00− 5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯えられた石炭の自然発熱を監視するための貯炭場監視システムであって、
前記石炭の温度推移のシミュレーション結果が、前記石炭に係わる情報に関する複数の条件により分けられたケース毎に登録されているデータベースと、
前記自然発熱を監視すべき前記石炭に係わる前記情報が入力された場合に、入力された前記情報から前記条件に基づいて前記ケースを決定し、前記データベースから決定された前記ケースに対応する前記シミュレーション結果を抽出し、抽出された前記シミュレーション結果に基づいて前記自然発熱を監視すべき前記石炭の今後の温度推移を予測する温度推移予測手段とを備え、
前記ケース分けの前記条件の1つが、前記石炭に係わる前記情報としての前記石炭の温度拡散率および含水率に基づいて前記石炭の種類を複数のグループにそれぞれグループ化した炭種グループであることを特徴とする貯炭場監視システム。
【請求項2】
前記温度推移予測手段は、前記条件に基づいて、前記データベースから前記シミュレーション結果を抽出する際に、前記条件のうちの前記条件に対応する前記石炭に係わる前記情報の変化に対する前記石炭の温度の変化が大きく、感度が高い前記情報に関する前記条件から順に前記シミュレーション結果を絞り込むことを特徴とする請求項1に記載の貯炭場監視システム。
【請求項3】
前記温度推移予測手段は、抽出された前記シミュレーション結果の時間軸上において、前記自然発熱を監視すべき前記石炭における温度推移の現状の位置を決定する際に、前記石炭の現状の温度と、現状の前記温度に至る温度推移の勾配とに基づいて前記位置を決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の貯炭場監視システム。
【請求項4】
前記石炭には、瀝青炭および亜瀝青炭が含まれ、
前記温度推移予測手段は、前記自然発熱を監視すべき前記石炭の予測される温度推移を出力する際に、貯えられた前記石炭全体の断面を複数の領域に分割し、前記領域毎に予測される温度推移を出力し、
かつ、前記断面の各領域への分割数を、前記瀝青炭を貯炭する場合と、前記亜瀝青炭を貯炭する場合とで異なるものとし、前記瀝青炭の前記分割数より前記亜瀝青炭の前記分割数を多くしていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の貯炭場監視システム。
【請求項5】
貯えられた石炭の自然発熱を監視するために、
前記石炭の温度推移のシミュレーション結果が、前記石炭に係わる情報に関する複数の条件により分けられたケース毎に登録されているデータベースと、
前記自然発熱を監視すべき前記石炭に係わる前記情報が入力された場合に、入力された前記情報から前記条件に基づいて前記ケースを決定し、前記データベースから決定された前記ケースに対応する前記シミュレーション結果を抽出し、抽出された前記シミュレーション結果に基づいて前記自然発熱を監視すべき前記石炭の今後の温度推移を予測する温度推移予測手段とを備える貯炭場監視システムにおける貯炭場監視方法であって、
前記ケース分けの前記条件の1つが、前記石炭に係わる前記情報としての前記石炭の温度拡散率および含水率に基づいて前記石炭の種類を複数のグループにそれぞれグループ化した炭種グループであることを特徴とする貯炭場監視方法。
【請求項6】
前記温度推移予測手段は、前記条件に基づいて、前記データベースから前記シミュレーション結果を抽出する際に、前記条件のうちの前記条件に対応する前記石炭に係わる前記情報の変化に対する前記石炭の温度の変化が大きく、感度が高い前記情報に関する前記条件から順に前記シミュレーション結果を絞り込むことを特徴とする請求項5に記載の貯炭場監視方法。
【請求項7】
前記温度推移予測手段は、抽出された前記シミュレーション結果の時間軸上において、前記自然発熱を監視すべき前記石炭における温度推移の現状の位置を決定する際に、前記石炭の現状の温度と、現状の前記温度に至る温度推移の勾配とに基づいて前記位置を決定することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の貯炭場監視方法。
【請求項8】
前記石炭には、瀝青炭および亜瀝青炭が含まれ、
前記温度推移予測手段は、前記自然発熱を監視すべき前記石炭の予測される温度推移を出力する際に、貯えられた前記石炭全体の断面を複数の領域に分割し、前記領域毎に予測される温度推移を出力し、
かつ、前記断面の各領域への分割数を、前記瀝青炭を貯炭する場合と、前記亜瀝青炭を貯炭する場合とで異なるものとし、前記瀝青炭の前記分割数より前記亜瀝青炭の前記分割数を多くしていることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の貯炭場監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯炭場の石炭を監視して自然発火を防止するために、温度上昇の予測を行う事により、自然発火防止のための監視作業の省力化を図ることができる貯炭場監視システムおよび貯炭場監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災以降国内の原子力発電所が停止し、不足分の電力をどのように補っていくかは、我が国の重要な課題となっている。この課題に対して再生可能エネルギーの利用が期待されているが、当面は、既存の化石燃料による火力発電に頼らざれる得ない状況が続くと考えられる。石炭は埋蔵量が豊富で比較的安価な化石燃料であり、また、我が国は石炭火力発電において高い技術を保有していることから、石炭は重要な発電用燃料と位置付けられる。
【0003】
このような状況の中、石炭火力発電所を安定・安全操業を保っていくには、想定されるリスクを着実に低減していくことが重要と考えられる。リスクの1つに、貯炭場における石炭の自然発火の問題が挙げられる。荷揚げされ貯炭場で積み付けた石炭(以下、貯炭パイルと呼ぶ)は、長時間大気中に放置されると空気中の酸素により酸化・発熱し、貯炭パイルの内部で温度が徐々に上昇することにより自然発火に至ることがある。
【0004】
石炭には様々な種類があるが、日本の石炭火力発電には、比較的高品位な瀝青炭が主に用いられてきた。しかし、今後、電力の低価格化や電力供給量の増加を考えると、亜瀝青炭のような低品位炭の利用を拡大していく必要がある。しかし、低品位炭は瀝青炭より炭化度の低い石炭であり、酸素含有率や含水率が高いという特徴を有するため、低温で酸化され易く、水分の蒸発により内部が乾燥すると温度上昇速度が大きくなるため、瀝青炭に比べ自然発火のリスクが高い。したがって、低品位炭の利用にあたっては、瀝青炭よりも自然発火を未然に防ぐような対策や監視が重要になると考えられる。
【0005】
貯炭パイルの温度監視は、通常、サーモカメラによる表面温度の監視や貯炭パイルへの定期的な温度計の挿入により行われている。なお、貯炭パイルの温度測定装置や温度監視方法としては様々な装置や方法が提案されている(例えば、特許文献1〜6参照)。定期的な温度測定の結果、温度上昇の傾向が認められる場合は、積み付けた石炭をできるだけ早く消費するこが行われる。また、貯炭パイルの表面をブルドーザーなどで押し固め貯炭パイル内への酸素の侵入を防ぐ転圧と呼ばれる対策が実施される。さらには、散水を行うことにより貯炭パイル内の温度上昇を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2761361号公報
【特許文献2】実開平7―14341号公報
【特許文献3】特許第5159646号公報
【特許文献4】特許第5004607号公報
【特許文献5】特許第3042517号公報
【特許文献6】特許第2948798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、現状の方法では、幅十数メートル、高さ十数メートル、長さ数百メートルというような非常に大きな貯炭パイルの温度監視を網羅的に行うことが難しく、測定箇所を増やすほど作業負荷も高くなるという問題がある。また、温度上昇は、貯炭パイルの表層ではなく、内部の深い位置で生じることが知られており、表面または表面から若干深い位置での温度情報から内部に位置する高温領域の温度と今後の温度上昇の傾向を予測しなければならないという課題もある。このため、例えば、炭種(石炭の物性、酸化による発熱速度など)、石炭の温度、石炭の含水率、石炭の熱拡散速度、貯炭パイルの形状(大きさを含む)、気温、湿度、風速等のパラメータの測定と、これら測定されたパラメータを用いた貯炭パイルの自然発火に至る温度変化のシミュレーションを行う必要がある。すなわち、自然発火を防止するためには、例えば、このまま放置した場合に、どのくらいの期間で石炭が自然発火する温度域に達するかを予測し、自然発火が発生する前に対策を講じるために、シミュレーションによる予測が望まれる。また、貯炭パイルの温度測定において、例えば、表面温度や比較的浅い位置しか温度が測定できない場合に、貯炭パイルで最も高温になる部分の温度を推定するためのシミュレーションも自然発火を未然に防ぐために有効である。
【0008】
石炭を積み付ける毎に、積み付けた石炭の炭種や物性や温度等の状態のデータや、気温等の貯炭場の状況のデータ等に基づいて、シミュレーションを行うことが考えられる。しかし、この場合にシミュレーション結果が妥当なものか否かを判断するための基準がなく、積み付け毎にこのようなシミュレーションを繰り返してデータを蓄積するまで、シミュレーションの妥当性を考慮した運用が難しい。
【0009】
そこで、予め、炭種やその他のパラメータを変えた多数のケースでのシミュレーションを行い、これらシミュレーションの結果の妥当性の検証を行うとともに、各パラメータの値等で検索可能なデータベースを構築し、実際の貯炭パイルの自然発火防止のための監視作業では、シミュレーションのデータベースから実際に計測された各パラメータの値が近似するシミュレーション結果を抽出することが考えられる。
【0010】
この場合に、実際の運用に当たっては、既にシミュレーションの計算や検証は済んでいるので、各貯炭場で条件が変わる毎にそれぞれシミュレーションの計算を行ったり、シミュレーション結果の妥当性を検証したりする必要はなく、近似するシミュレーション結果をデータベースから抽出すればよい。したがって、複数の貯炭場で積み付け毎に、それぞれデータベースを使うことができるので、予め多くのシミュレーションのための演算を行うものとしてもコストの低減を図ることができる。
【0011】
シミュレーションは、石炭の種類毎に行う必要があり、例えば、石炭の種類には、無煙炭、半無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭などがあるが、JIS規格では、単位重量当たりの発熱量に応じて、発熱量の高い方から瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭に分類される。それらのうちの瀝青炭と亜瀝青炭を用いる場合であっても、石炭の特性は、産地(炭鉱、炭田)によって大きく異なり、シミュレーションにおいては、瀝青炭と亜瀝青炭に分けた後に、それぞれの産地等によりさらに石炭の種類を分ける必要があり、各地からの輸入を想定すると、石炭の種類が数十種類以上となる虞がある。さらに、各種パラメータ(石炭の種類(炭種)に加えて、貯炭パイルの形状、石炭の粒径(または空隙率)、石炭の初期温度(積み付け時温度)、気温、湿度、風速)の違いによりシミュレーションを多数のケースに分けた場合に、例えば、多くのシミュレーションを行う必要が生じ、データベースの構築に係るコストや時間が多くなり過ぎる虞がある。特に、貯炭場における貯炭パイルの温度変化や自然発熱の詳細なシミュレーションを行うためには、実際の貯炭パイルにおいて、比較的長い期間に渡る各種パラメータとなる価の測定の結果や、各種実験が必要であり、シミュレーションの数が多いと膨大な手間とコストがかかることになる。特に、石炭の種類が多い場合に、石炭の種類毎に実際の貯炭パイルの温度測定や、実験を行う必要があり、データベースの構築にコストと時間がかかる。
【0012】
また、シミュレーションの結果をデータベース化した場合に、最終的に、例えば、現状の貯炭パイルの状態に対応するシミュレーションを抽出する必要があるとともに、抽出されたシミュレーションの時間軸において、現状の貯炭パイルの状態がどこに位置するか、すなわち、自然発火の危険性が高まるまでの期間がどれくらいかを決定する必要がある。いずれにしろ、温度等の監視情報と自然発火のシミュレーションをどのように組み合わせて合理的な監視システムを構築するかに関して、具体的な手法は知られていない。
【0013】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、貯炭された石炭の自然発火防止のための監視を省力化するために、貯炭場に貯炭された石炭の自然発熱に基づく温度推移のシミュレーションのデータベースを有しながら、当該データベースを比較的容易に構築可能な貯炭場監視システムおよび貯炭場監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために本発明に係る貯炭場監視システムは、貯えられた石炭の自然発熱を監視するための貯炭場監視システムであって、
前記石炭の温度推移のシミュレーション結果が、前記石炭に係わる情報に関する複数の条件により分けられたケース毎に登録されているデータベースと、
前記自然発熱を監視すべき前記石炭に係わる前記情報が入力された場合に、入力された前記情報から前記条件に基づいて前記ケースを決定し、前記データベースから決定された前記ケースに対応する前記シミュレーション結果を抽出し、抽出された前記シミュレーション結果に基づいて前記自然発熱を監視すべき前記石炭の今後の温度推移を予測する温度推移予測手段とを備え、
前記ケース分けの前記条件の1つが、前記石炭に係わる前記情報としての前記石炭の温度拡散率および含水率に基づいて前記石炭の種類を複数のグループにそれぞれグループ化した炭種グループであることを特徴とする。
【0015】
本発明の貯炭場監視方法は、貯えられた石炭の自然発熱を監視するために、
前記石炭の温度推移のシミュレーション結果が、前記石炭に係わる情報に関する複数の条件により分けられたケース毎に登録されているデータベースと、
前記自然発熱を監視すべき前記石炭に係わる前記情報が入力された場合に、入力された前記情報から前記条件に基づいて前記ケースを決定し、前記データベースから決定された前記ケースに対応する前記シミュレーション結果を抽出し、抽出された前記シミュレーション結果に基づいて前記自然発熱を監視すべき前記石炭の今後の温度推移を予測する温度推移予測手段とを備える貯炭場監視システムにおける貯炭場監視方法であって、
前記ケース分けの前記条件の1つが、前記石炭に係わる前記情報としての前記石炭の温度拡散率および含水率に基づいて前記石炭の種類を複数のグループにそれぞれグループ化した炭種グループであることを特徴とする。
【0016】
これらのような構成によれば、貯炭場に貯炭された石炭の酸化に基づく自然発熱による自然発火の防止のための貯炭場監視システムは、データベースに記憶されたケース毎のシミュレーション結果から抽出されたシミュレーション結果に基づいて予測される温度推移を出力する。この予測される温度推移を参考にして、自然発火の防止のための対策を確実かつ効率的に行うことができる。
【0017】
ここで、貯炭された石炭は、例えば、火力発電の燃料とされるが、石炭は輸入に頼っており、多くの産地から輸入される異なる炭種の石炭が用いられることになる。特に、瀝青炭だけではなく、亜瀝青炭も用いる場合に、多くの炭種が使用対象となる可能性がある。したがって、予めシミュレーション結果をデータベース化する際に、シミュレーションを炭種によってケース分けする場合に、ケース数が多くなり、データベースの構築にコストと時間がかかることになるが、炭種をグループ分けし、炭種ではなく、それぞれ複数の炭種を含むグループによりケース分けすることで、炭種で直接ケース分けした場合よりも、ケース数を減少させ、データベース構築に必要なコストと時間を削減することができる。
【0018】
これにより、シミュレーションを石炭が貯炭される度に行う必要がなく、各ケースのシミュレーション結果をデータベース化し、このデータベースからシミュレーション結果を抽出して用いるものとしても、貯炭場監視システムのコストを低減することができる。石炭を貯炭する毎に、シミュレーションを行う場合に、シミュレーション結果の妥当性を検証することが困難であり、妥当性を検証するには、シミュレーションを貯炭毎に繰り返し行うとともに、その結果が蓄積される必要がある。したがって、貯炭場監視システムの運用の実質的な開始が遅くなる虞がある。
【0019】
それに対して、設定されたケース毎のシミュレーションを行った後に、これらの結果をデータベース化する場合に、多くのシミュレーション結果から各シミュレーション結果の妥当性を検証することが可能であり、各シミュレーション結果の検証を行ってデータベースを構築した段階で貯炭場監視システムの運用が可能になる。ここで、検証とは、第1に、シミュレーション結果と既往文献との照合であり、第2にシミュレーション結果における傾向の正しさの確認である。
【0020】
本発明の前記構成において、前記温度推移予測手段は、前記条件に基づいて、前記データベースから前記シミュレーション結果を抽出する際に、前記条件のうちの前記条件に対応する前記石炭に係わる前記情報の変化に対する前記石炭の温度の変化が大きく、感度が高い前記情報に関する前記条件から順に前記シミュレーション結果を絞り込むことが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、シミュレーションのデータベースから貯炭されている石炭に適したシミュレーション結果を抽出することが可能となる。すなわち、複数の条件に基づいてケース分けして石炭の温度推移のシミュレーションを行った場合に、石炭の温度変化に対する感度が高い情報に係る条件の順、すなわち、温度変化に大きな影響を与える情報に係る条件の順に上述の条件を用いて、データベースの検索の絞り込みを行うことで、より、現在貯炭されている石炭に適したシミュレーション結果を抽出することが可能となる。
【0022】
また、本発明の前記構成において、前記温度推移予測手段は、抽出された前記シミュレーション結果の時間軸上において、前記自然発熱を監視すべき前記石炭における温度推移の現状の位置を決定する際に、前記石炭の現状の温度と、現状の前記温度に至る温度推移の勾配とに基づいて前記位置を決定することが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、データベースから抽出されたシミュレーション結果における温度推移曲線上における現在の石炭の温度となる時間軸上の位置をより適切に決めることができる。すなわち、自然発熱のシミュレーションにおいて、時間経過に伴う温度推移における温度の値を相対値ではなく、絶対値として正確に算出することは、困難であり、シミュレーション結果における温度推移曲線において、実際に測定された温度だけで時間軸上の位置を決めることは難しい。そこで、測定温度だけでなく、相対的な値として、温度推移の傾向(温度勾配)と合わせて温度推移曲線の時間軸上の位置を決定することで、より適切に時間軸上の位置を決定できる。
したがって、データベース化されたシミュレーション結果を用いるものとしても、貯炭する度に現状をシミュレーションした場合と同様に、シミュレーション結果から現状が温度推移曲線のどの時間に滞在しているかを容易に判定することができる。また、後述のように貯炭パイルの断面位置によって、異なる温度推移曲線が予測結果として得られる場合に、実際の温度の計測位置に近い位置の温度曲線を用いて時間軸上の位置を決定する。
【0024】
また、本発明の前記構成において、前記石炭には、瀝青炭および亜瀝青炭が含まれ、
前記温度推移予測手段は、前記自然発熱を監視すべき前記石炭の予測される温度推移を出力する際に、貯えられた前記石炭全体の断面を複数の領域に分割し、前記領域毎に予測される温度推移を出力し、
かつ、前記断面の各領域への分割数を、前記瀝青炭を貯炭する場合と、前記亜瀝青炭を貯炭する場合とで異なるものとし、前記瀝青炭の前記分割数より前記亜瀝青炭の前記分割数を多くしていることが好ましい。
【0025】
このような構成によれば、できるだけ少ない予測結果としての温度推移曲線を出力すること、すなわち、ユーザが見る必要がある温度推移曲線の数を不必要に多くない適切な数とすることで、ユーザの自然発火の可能性を容易に把握させることができる。貯えられた石炭全体の断面の適切な分割数の決定においては、例えば、断面の各分割領域の面積が、温度推移が明確に異なる可能性が高い最小面積となるように断面を分割する。ここでは、例えば、4m角の分割領域、すなわち、16mの面積の分割領域に断面を分割し、各分割領域の温度推移のシミュレーションによる予測結果を比較し、温度推移が近似する分割領域は、まとめて1つの分割領域とすることで、分轄数を減少させることが好ましい・。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、貯炭パイル内部の温度分布や自然発熱による温度上昇の予測を行う貯炭場監視システムを効率的に構築できる。この貯炭場監視システムから運転者や保全従事者に今後の温度推移予測や内部の高温領域における温度の予測など、自然発火を未然に防ぐために有用な情報を出力することにより、貯炭場の網羅的な監視と監視の省力化を実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態に係る貯炭場監視システムのシステム図である。
図2】同、貯炭場監視システムによる予測結果としての温度推移曲線を示す図である。
図3】同、炭種のグループ化を説明するための図である。
図4A】同、石炭の自然発熱モデルの式を説明するための図である。
図4B】同、石炭の自然発熱モデルの式を説明するための図である。
図4C】同、石炭の自然発熱モデルの式を説明するための図である。
図4D】同、石炭の自然発熱モデルの式を説明するための図である。
図4E】同、石炭の自然発熱モデルの式を説明するための図である。
図5】同、データベースから現状に即したケースのシミュレーション結果を抽出する手順を説明するための図である。
図6】同、貯炭パイルの断面形状と貯炭パイルの石炭の物性等を説明するための図である。
図7】同、貯炭パイルの断面の時間経過に対応するコンター図である。
図8】同、貯炭パイルの断面の時間経過に対応するコンター図である。
図9】同、貯炭パイルの断面の時間経過に対応するコンター図である。
図10】同、貯炭パイルの断面の時間経過に対応するコンター図である。
図11】同、瀝青炭の場合の貯炭パイルの断面を複数の分割領域に分割して、分割領域毎の予測される温度推移曲線を出力する際の分割方法を説明するための図である。
図12】同、亜瀝青炭の場合の貯炭パイルの断面を複数の分割領域に分割して、分割領域毎の予測される温度推移曲線を出力する際の分割方法を説明するための図である。
図13】同、シミュレーション結果としての温度推移曲線を示す図である。
図14A】同、シミュレーション結果の温度推移曲線に基づく温度予測方法を説明する図である。
図14B】同、シミュレーション結果の温度推移曲線に基づく温度予測方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施の形態の貯炭場監視システムを説明する。貯炭場における貯炭方法には、大きく分けて屋外貯炭と、屋内貯炭とがあるが、本実施の形態では、屋外貯炭の場合について説明する。なお、本発明は、屋外貯炭だけではなく、屋内貯炭にも適用可能である。
【0029】
本実施の形態の貯炭場監視システムは、図1のシステム部に示すように、各種データや指示(要求)をユーザが入力するための入力装置としての入力用インターフェース1と、入力用インターフェース1から入力されたデータや指示に応じて貯炭場監視プログラムを実行して、貯炭場に貯炭された石炭の現況が予測される自然発熱過程のいずれの段階なのかを算出する演算処理装置(貯炭場監視プログラム実行装置)2と、ユーザに貯炭場監視プログラムの実行結果として、上述の予測される自然発熱過程のいずれの段階かを出力するための予測結果表示用インターフェース3とを備える。
【0030】
ここでユーザとは、例えば、貯炭場の現場運転者や保全者であり、例えば、貯炭場において、石炭の積み付け、払い出しを行うか管理する者である。なお、ユーザは、運転車や保全者である必要はなく、この貯炭場監視システムの管理者や、貯炭場の管理者であってもよい。
【0031】
入力用インターフェース1が、例えば、キーボード等の入力装置や通信によりデータ等を送受信する通信装置等である。入力用インターフェース1から入力されるデータとしては、積み付ける石炭の種類や性状(石炭の物性や、酸化による発熱速度など)、積み付ける貯炭パイルの位置や形状、石炭初期温度、石炭粒度などの運転情報、現場測定データ(気温、湿度、風速、貯炭パイルへの定期的な温度計の挿入により測定されたデータなどの現場計器情報等)である。
【0032】
演算処理装置2は、基本的にCPU等の演算処理用の回路と、記憶装置とを備えるものである。記憶装置には、石炭の自然発熱による温度推移を予測するための貯炭された石炭の温度推移を予測したシミュレーション結果が多数登録されたシミュレーションのデータベースを有する。また、ここで、多数の石炭の温度推移のシミュレーションのケース分けは、例えば、炭種、貯炭パイルの形状、石炭の粒径、石炭の初期温度、気温、湿度、風速で行う。
【0033】
貯炭パイルの形状は、ここでは基本的に横長の山積みであり、長手方向に直交する断面が略三角形状となっている。すなわち、三角柱の軸方向を、三角形状の断面の頂点を上にするとともに底辺を下にして、水平に寝かせた状態であり、例えば、高さ、長手方向の長さ、長手方向に直交する幅方向の長さ(幅)等で表される。
【0034】
シミュレーションの貯炭パイルの形状によるケース分けとしては、ここでは、上述のような山積みの形状を基本とし、上述の高さ、幅、長さの値を複数段階に分け、それらの組み合わせをそれぞれケースとする。
石炭の粒径、石炭の初期温度、気温、湿度、風速によるシミュレーションのケース分けは、これらの値を複数段階に分け、段階毎のケースを設定することにより行う。
【0035】
炭種は、基本的にJIS規格や、ASTM規格により瀝青炭と、亜瀝青炭に分け、これらをさらに種類分けする。ここで、炭種としては、上述の瀝青炭と、亜瀝青炭がさらに産地により種類分けされる。基本的に日本では、石炭は輸入に頼っており、様々な産地から輸入される。これにより炭種は、例えば、数十種類以上となる。これら炭種でシミュレーションをケース分けすると、ケースの数が膨大になるので、炭種をグループ化し、炭種に代えて各グループでケース分けするようになっている。
【0036】
炭種のグループ化に際しては、各炭種の石炭における温度拡散率αと含水率Wで分類する。石炭の低温酸化速度の特性は、瀝青炭と低品位炭(亜瀝青炭)で大きく異なることが知られている。また、石炭の温度上昇速度は、温度拡散率αが大きく影響する。
温度拡散率αは、図4Bにも示すα=λ/ρCpの式で示される。
ここで、α:温度拡散率、ρ:石炭の密度、Cp:石炭の比熱、λ:石炭の熱伝導度である。
さらに、図2の貯炭された石炭の温度推移(温度の経時変化)の一例のグラフに示すように、貯炭された石炭は、時間経過に対応して昇温し、石炭の温度が70℃〜90℃程度で石炭中の水分の蒸発の気化熱(潜熱)による温度低下と酸化に基づく発熱による温度上昇が略釣り合うことにより、一旦温度上昇が穏やかになる(温度が緩やかに下降する場合もある)ことが知られており、この期間の長さは石炭の含水率Wが大きな影響を与える。
【0037】
したがって、自然発火に至る虞のある石炭の経時的温度変化(温度推移)のシミュレーションにおいて、石炭の種類に応じた温度拡散率αと、含水率Wとに基づいて各炭種をグループ分けすることになる。この場合に、例えば、横軸と縦軸との一方に温度拡散率αをとり、他方に含水率Wをとった図3に示すようなグラフを作成し、上述のように瀝青炭と亜瀝青炭とに分けた後に例えば産地で分けた炭種毎に、その温度拡散率αと、含水率Wに対応して上述のグラフにプロットする。この場合に、例えば、図3に示すように、各炭種を示す点が略一様に分散するのではばく、点が密な部分と疎な部分とに分かれ、点が密にまとまっている部分が複数あるので、疎な部分を境として、密な部分を1つ1つのグループに分けている。なお、上述のように、瀝青炭と亜瀝青炭に分けているので、瀝青炭と亜瀝青炭とが同じグループになることはない。
【0038】
なお、各炭種の温度拡散率αと含水率Wに基づくグループ分けの仕方は、これに限られるものでない。例えば、温度拡散率αと含水率Wをそれぞれ複数の段階に分け、これら両者の各段階の組み合わせでグループ分けを行ってもよい。
なお、図3では、数十種類の炭種を温度拡散率αと含水率Wの2軸上にプロットしたグラフを作成し、数種のグループに分類している。これにより、シミュレーションのケース分けの要素としての炭種を例えば数十種類から数種類のグループにまで減らし、実施すべきシミュレーションのケースを減らすことができ、シミュレーション結果のデータベース構築に必要な時間とコストを大幅に削減できる。ショミレーションのデータベースでは、上述のように貯炭パイルにおける石炭の温度についての複数のシミュレーション結果を記憶しているものであるが、各シミュレーションは、炭種のグループを含む各パラメータの値等により多数のケースで行われ、各ケースでのシミュレーション結果がデータベース化されている。
【0039】
演算処理装置2は。上述のような各炭種がどのグループに属するかを登録した炭種データベースが記憶されており、瀝青炭か亜瀝青炭かと産地とにより検索することで炭種のグループが抽出される。なお、炭種データベースには、各炭種の石炭の性状や熱物性等に係わるデータを登録しておき、炭種から検索可能としてもよい。また、炭種データベースにおいては、温度拡散率αと含水率Wとから炭種のグループを検索可能となっていてもよい。
【0040】
また、演算処理装置2は、これらデータベースをストレージ(記憶装置)に記憶しているとともに、実際に貯炭されている石炭に対応してシミュレーションのデータベースからシミュレーション結果を抽出する。 次いで、実際の貯炭された石炭が抽出されたシミュレーションの時間軸上のどの時間に滞在しているかを判定し、シミュレーションに基づいて、今後(上述の滞在時間以降)の石炭の温度の変化を予測し、例えば、自然発火の時期(自然発火の危険性が高まる時期)を予測する処理を行う自然発熱予測プログラムを実行する。また、演算処理装置2では、自然発熱予測プログラムにより予測された温度上昇等の結果をユーザーに表示するための予測結果表示プログラムが実行される。これら自然発熱予測プログラムおよび予測結果表示プログラムは、貯炭場監視プログラムの一部である。
【0041】
この予測結果表示プログラムが実行されることにより、予測結果表示用インターフェース3から予測結果が表示される。例えば、シミュレーション結果の時間軸に対する石炭の温度変化において、現状がどの時間に滞在しているかをフラフ上で示したり、滞在する時間により自然発火の危険の程度を表示したりすることができる。
【0042】
次に、貯炭所監視システムを用いた貯炭場監方法を説明する前に、上述の炭種データベースおよびシミュレーションのデータベースの構築方法を説明する。
上述のように炭種データベースにおいて、炭種とは、瀝青炭と亜瀝青炭とで分けられ、さらに産地でそれぞれ分けられた石炭の種類である。炭種データベースでは、上述のように炭種をグループ分けした後に、各炭種とグループを紐付けして炭種からその炭種が属するグループを抽出可能に貯炭場監視システムの演算処理装置2のストレージに記憶させたものである。
【0043】
この炭種データベースの作成においては、貯炭場で貯炭している炭種、貯炭したことがある炭種、貯炭する可能性がある(貯炭を予定している)炭種が登録される。炭種の登録においては、各炭種の石炭の性状や熱物性等に係わるデータを登録する。この際のデータは、想定したものであっても、各種文献等のデータでも、石炭の供給者のデータであってもかまわない。各炭種の石炭のデータには、上述の温度拡散率αと、含水率Wが含まれることが好ましい。
【0044】
この温度拡散率αと、含水率Wとに基づいて、上述のように各炭種をグループ分けし、各炭種からその性状等とグループを抽出するデータベースを構築する。なお、取り扱う炭種が増加する際に、当該炭種をグループ分けしてデータベースを更新する。
【0045】
このような各炭種の石炭をグループ分けしたデータを用いて多数にケース分けした石炭の温度推移のシミュレーションを行い、シミュレーションのデータベースを構築する。シミュレーションのケース分けは上述のように、瀝青炭・亜瀝青炭の違いと、炭種の各グループと、各パラメータの値を段階的に分けた値の各範囲の組み合わせにより行う。例えば、炭種のグループの1つに対応して、100ケース程度にケース分けされる。シミュレーションのケース分けにおいて、炭種をそのまま用いずに、炭種をグループ分けしたグループを用いることで、炭種に基づくシミュレーションのケース分け数を減らすことができ、シミュレーションのデータベース構築にかかるコストを大幅に低減可能である。また、複数の炭種を1つのグループと見なしても、グループ分けを上述のように貯炭された石炭の自然発熱に大きな盈虚を与える温度拡散率αと含水率Wを用いているので、炭種に係わるケース数が減っても、自然発熱による温度推移のシミュレーション結果を用いて十分に現実に即した予測を行うことが可能である。
【0046】
シミュレーションにあたっては、図4A図4Eに図示した石炭の自然発熱モデルの式を用いる。ここでは、上述の炭種(石炭の物性や、発熱速度など)、貯炭パイル形状、石炭の粒径、石炭の初期温度、気温、湿度、風速の入力情報から、上述の石炭の自然発熱モデルの式を用い、様々な自然発熱シミュレーションを行う。例えば、(瀝青炭の炭種グループ)x(貯炭パイル形状)x(石炭の粒径(空隙率))x(石炭の初期温度)x(気温)x(湿度)x(風速)のような各種条件の組み合わせでケース分けし、個々の項目に対し想定される範囲を決め、それらの組み合わせに対して自然発熱シミュレーションを行い、図2に示すような石炭の温度推移曲線を作成する。シミュレーションのケースは、例えば、全部で数百ケースとなる。ケース分けに用いられる条件とは、例えば、気温、湿度、風速等の数値で表される情報に関する条件であれば、これらの数値を段階的に分けたものであり、例えば、0〜9、10〜19.20〜29…等のように任意に設定された各数値範囲のいずれに属するかが条件となる。また、条件が石炭の種類やグループ分けした際のグループであれば、条件としては、いずれの種類またはグループに属するかが条件となる。このようにして作成したシミュレーション結果を既往の文献や実験データや、上述のように作成された他の多数のシミュレーション結果などにより評価し、妥当性が確認されたものをデータベース化する。
【0047】
シミュレーションのデータベースが構築されることにより、貯炭場監視システムを用いた貯炭場監視方法を行うことが可能になる。なお、貯炭場監視方法に石炭の自然発熱のシミュレーションのデータベースの構築を加えるものとしてもよい。この場合に、貯炭場監視方法において、一度データベースを構築した後には、データベースを構築する工程を省略し、それ以後の工程から貯炭場監視方法を開始することになる。
【0048】
次に、上述のようにデータベースが構築されて貯炭場監視システムが構築された後の貯炭場監視方法を説明する。ここでは、貯炭場における積み付けが終了し、貯炭パイルが形成された状態において、当該貯炭パイルの自然発熱の予測にデータベースに登録されたシミュレーションのうちのいずれを抽出するかを説明する。なお、データベースに登録され田シミュレーションは、シミュレーションの際に用いた炭種のグループ(温度拡散率α、含水率W)貯炭パイル形状、石炭の粒径、石炭の初期温度、気温、湿度、風速により検索可能となっている。
【0049】
実運転の情報(積み付ける炭種や積み付け条件、また、運転員による貯炭パイルの温度測定の位置と値の履歴情報、現時点での気象条件)から、図5に示すロジックにより、シミュレーションデータベースから最も近いシミュレーションケースを選び、温度測定位置が属する分割領域の温度上昇曲線を取り出す事になる。
【0050】
シミュレーションにより、石炭の自然発熱に対する温度変化の感度解析を行い、鋭意検討を行った結果、炭種の影響(瀝青炭か亜瀝青炭か、どのグループに属するか(温度拡散率、含水率))、貯炭パイルの形状、石炭の粒度、石炭積み付け時の初期温度、外気温度、外気の相対湿度、風速の順に感度が低くなることを見出した。すなわち、炭種のグループや、貯炭パイルの形状や、石炭の粒度などが、自然発熱に対する影響が大きくなっている。
【0051】
この結果をもとに、シミュレーションデータベースの中から、自然発熱特性に対し感度の高い項目順にシミュレーションケースに近いものを選んでいくことにより、対象とする入力情報に最も近いシミュレーションケースを選び出す手法を見出した。
より具体的には、シミュレーションデータベースの中から、対象の入力情報に最も近いシミュレーションケースを選び出すために、図5に示す手順を用いる。
【0052】
本実施の形態では、炭種をまず瀝青炭と亜瀝青炭とに分けているので、上述の手順において、貯炭された石炭が、瀝青炭か亜瀝青炭かを入力する(手順S1)。これにより、データベースに登録されたシミュレーションのうち使用されるシミュレーションが瀝青炭または亜瀝青炭のシミュレーションに絞り込まれる。
【0053】
また、貯炭される石炭に関する情報を入力する(手順S2)。ここでは、石炭情報(石炭の性状)として、例えば、石炭の粒度等が入力される。この際には、温度拡散率α、含水率Wや、上述の自然発熱モデルの式で用いられる石炭の性状にかかわるデータを入力してもよい。また、ここでは、貯炭パイルの上述の形状に係わるデータが入力される。さらに、貯炭パイルが積み付けられた貯炭場において、計器で計測された景気情報として、貯炭パイルの石炭の初期温度、気温(外気温)、湿度(相対湿度)、風速が入力される。
【0054】
また、炭種のグループを入力することになるが、例えば、貯炭された石炭の温度拡散率αと含水率Wを入力してもよい(手順S3)。次に、炭種データベースにおいて、温度拡散率αと含水率Wとから炭種のグループを抽出するか、炭種からグループを抽出するか、直接グループを入力して、炭種のグループを決定し、グループにより抽出するシミュレーションを絞り込む(手順S4)。次に、貯炭パイルの形状により抽出するシミュレーションを絞り込む(手順S5)。次に、石炭の粒度(貯炭パイルの空隙率)により抽出するシミュレーションを絞り込む(手順S6)。次に、貯炭パイルの初期温度により抽出するシミュレーションを絞り込む(手順S7)。次に、外気温により抽出するシミュレーションを絞り込む(手順S8)。次に、外気の相対湿度により抽出するシミュレーションを絞り込む(手順S9)。次に、風速により抽出するシミュレーションを絞り込む(手順S10)。これらの絞り込みは、上述の感度解析の結果、感度の高いパラメータ順に行われている。
【0055】
この絞り込みにより、たとえば、1つのシミュレーションが絞り込まれて抽出されるので、この抽出されたシミュレーションに基づいて石炭の自然発熱の温度推移の予測が行われる。
シミュレーション結果を用いた温度予測においては、現在の貯炭された石炭の状態が、シミュレーションのデータベースから抽出したシミュレーション結果としての温度推移曲線(時間軸)上のどこに位置(滞在)するかを決定する。シミュレーション結果としての温度推移曲線は、例えば、図13に示すように、石炭の酸化による温度上昇と、水分の蒸発による温度低下とが発生し、温度推移曲線から分かるように温度推移の勾配が変化する。図13では、縦軸が石炭の温度で、横軸が時間経過である。温度推移曲線は、石炭の温度Tを時間tの関数としてT=f(t)で表される。
【0056】
図14Aに示すように、シミュレーション結果から今後の貯炭された石炭の温度予測を行うには、第1に、現在の石炭の温度Tと、石炭の温度変化における温度勾配dT/dtが既知となっている必要がある。すなわち、石炭の温度推移の予測のために、シミュレーション結果を決定するとともに、石炭の温度の測定を時間をずらして行うことにより、石炭の温度と温度変化の勾配を求める。
次に、シミュレーションによる温度推移曲線の現在時刻の状態とみなす時間t1を以下のように決定する。
すなわち、図14Aに示す目的関数Fobjを最小化する時間をt1とする。これにより、抽出されたシミュレーション結果としての石炭の温度推移曲線における現在の時間tが決定される。
この時間tに基づいて、図14Bに示すように、現在時刻を出発点とする時間をt'とすると、現在時刻(t'=0)以降の温度推移曲線は、シミュレーションによる温度推移曲線を時間方向にt1、温度方向に、Tobs−f(t)だけ平行移動したものを用いる。温度推移予測の出発点は測定温度に一致させる。
なお、図14Bにおいて、実線の温度推移曲線が抽出されたシミュレーション結果の温度推移曲線であり、破線の温度推移曲線が予測される今度の温度推移曲線である。
また、予測される温度推移曲線が後述のように1つの貯炭パイルに対してその断面の分割された領域毎に出力される場合に、貯炭パイルの温度測定位置に近い領域の温度推移曲線を用いて時間を決定することができる。
【0057】
基本的には、図2に示す自然発熱の温度推移のシミュレーションにおいて、温度推移曲線は、大まかに分けると、最初の温度変化の勾配が急な第1勾配部と、その後の温度勾配が緩やかな第2勾配部と、その後の温度勾配が急な第3勾配部とからなっているので、温度変化が急勾配で温度が低ければ第1勾配部に滞在しており、温度変化が急勾配で温度が高ければ第3勾配部に滞在していることになる。また、温度推移曲線を細かく見た場合にも、温度勾配の変化があり、温度との組み合わせでさらに詳細に温度推移曲線の時間軸上に現在の時間を決定することができる。
【0058】
次に、選択されたシミュレーションにおいて、時間軸上の現在の位置より先の温度推移を予測結果として表示する。表示に際しては、積み付けた貯炭パイルの断面位置によって温度が異なるものとなる。ここで、図6は、貯炭パイルの長手方向に直交する方向に沿った断面形状と、貯炭された石炭の性状を示す情報を記載した図であり、この貯炭パイルの温度特性をシミュレーションした結果を図8(a)〜(d)、図9(a)〜(d)、図10(a)〜(d)に示す。
【0059】
なお、図8から図10においては、貯炭パイルの長さ方向に直交する方向の断面の左右の半分を図示している。また、図8図10は、貯炭パイル断面の温度分布を示すコンター図(等温線図)である。図8図10においては、積み付け日から5,10、15、20、25、30.35.40.45.50.55.60日後の貯炭パイルの断面の温度分布がそれぞれ図示されている。図に示すように、最初は、貯炭パイルの表面近傍の温度が上昇した後に、温度の高い領域が内側に移動していく。また、貯炭パイルの左右の中央部の下部の温度上昇が他の部分より遅くなる。したがって、貯炭パイルの断面位置によって、温度推移曲線は異なるものとなる。なお、温度推移のシミュレーションにおいては、貯炭パイルの断面における位置もケース分けの要素であり、位置によってシミュレーション結果が異なるものとなる。なお、後述のようにシミュレーション結果をコンター図で出力する必要なく、断面上の位置によるケース分けの数を少なくすることが好ましい。
【0060】
上述のように、貯炭パイルの断面内の温度分布をコンター図で表示することができるが、運転者や保全者には時間的な温度変化を表すグラフ表示の方が分かり易く、かつ、温度の値を読み取り易い。したがって、上述のように決定したシミュレーションに基づく温度予測の表示に当たっては、貯炭パイルの断面を複数の領域に分けて、各領域における温度予測(温度推移曲線)を表示するようにした。
【0061】
グラフ表示の場合、表示させる温度推移曲線を何本程度にするか、つまり、貯炭パイルの断面に対して、何点程度の位置に対して温度推移曲線を表示すれば良いかが課題となる。これに対し、様々な温度推移のシミュレーションを行い、鋭意検討を行った結果、貯炭パイル断面内の自然発熱による温度推移の予測をグラフ表示する場合、貯炭パイルの断面が軸対象とみなせれば、断面内を4m角程度(以下)の領域に分割すれば表示解像度は十分である。例えば、図6に示すように、貯炭パイルが底辺30m、高さ14m
の三角形断面を有する場合、瀝青炭で最低3つの領域、亜瀝青炭で最低6つの領域に分割してグルーピングすれば、監視に十分な情報を与えられることを見出した。
【0062】
図11に瀝青炭における検討結果を示す。4m角の領域(この図の例では6つ)に分けて温度推移曲線を出力すると、類似の傾向を示す温度推移曲線があり、これら類似の温度推移曲線はグループ化が可能であり、この例では3つの領域に分割すれば監視に十分な情報を与えられることが分る。同様な手法により亜瀝青炭を検討した結果を図12に示す。この例では、6つの領域のそれぞれで温度推移曲線に明確な差異がある。しかし、上述の4m角より小さく分割して、分割数を増加させてもそれによる大きな効果を望めず、断面を6つの領域に分割してグルーピングすれば、監視に十分な情報を与えられる。
【0063】
次に、上述のシミュレーションのデータベースを含む貯炭場監視システムの構築方法を説明する。上述のように、瀝青炭と亜瀝青炭に分け、それぞれの産地等による炭種でグルーピング処理を行い、各炭種を複数のグループに分けるように各グループを作成する。
【0064】
次に、図4A図4Eに示す自然発熱のシミュレーションモデルを用いて、グループごとに、自然発熱の影響を与える因子(パラメータ)を変化させたシミュレーションを行う(例えば、各グループに対して数百ケース)。その結果として、温度上昇の時間変化のカーブ(温度推移曲線)を得る。
【0065】
次に、上述の自然発熱の多数のシミュレーションをデータベース化したものを貯炭場監視システムに格納する。
次に、実運転の情報(積み付ける炭種や積み付け条件、また、運転員による貯炭パイルの温度測定の位置と値の履歴情報、現時点での気象条件)から、図5に示すロジックにより、シミュレーションデータベースから最も近いシミュレーションケースを選び、温度測定位置が属する分割領域の温度推移曲線を取り出す機能を組み込む。
【0066】
次に、現在の状態が、シミュレーションデータベースから取り出した温度推移曲線上のどこに位置するかを決定するロジックを組み込む。決定に際しては、現在の温度と温度測定履歴から求めた温度勾配から見て、最も近い点を現在の時刻の点として曲線を補正し、その点から先の時間の温度曲線を予測値として表示するようにする。
なお、監視プログラムへの入力値を取得するインターフェース1とグラフなどの結果表示のインターフェース3は別途作成する。
【0067】
このような貯炭場監視システムおよび貯炭場監視方法においては、貯炭パイル内部の温度分布や自然発熱による温度上昇の予測を行うシステムを効率的に構築でき、運転者や保全従事者に今後の温度推移予測や内部の高温領域における温度の予測など、自然発火を未然に防ぐために有用な情報を出力することにより、貯炭場の網羅的な監視を可能とするとともに監視の省力化を実現可能である。なお、本発明は、屋外貯炭場だけではなく、屋内貯炭場にも適用可能であり、例えば、屋内サイロに貯炭された石炭に適用してもよい。この場合に貯炭パイルの断面がサイロ内の石炭の断面に対応する。
【符号の説明】
【0068】
2 演算処理装置(データベース、温度推移予測手段)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B