(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平面視において、前記磁化自由層の重心である第1の点から前記磁化自由層の外縁までの最長距離をなす方向と、前記第1の方向と、がなす角度が45度以上135度以下である請求項1に記載の磁気センサ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
<磁気センサ>
本実施形態に係る磁気センサは、基板と、基板上に配置された感磁ユニットと、を備える。感磁ユニットは、外部磁場に応じて磁化が変化する磁化自由層と、第1の方向に磁化が固定された磁化固定層と、磁化自由層と磁化固定層との間に配置された非磁性層と、を含む積層部を有する。平面視において、磁化固定層は、磁化自由層と重複する位置で、かつ、第1の方向に垂直な第2の方向で磁化自由層の面積を2分割する軸から外れた位置、に配置されている。すなわち、平面視において、磁化固定層は、磁化自由層と重複する位置で、かつ、第2の方向で磁化自由層の面積を2分割する軸を覆わない位置、に配置されている。これにより、本実施形態に係る磁気センサは、従来の磁気センサと比べて、検出可能な磁場範囲が増大する。
【0011】
なお、本発明における検出可能な磁場範囲(抵抗変化範囲、又は、ダイナミックレンジとも称する)とは、抵抗値が最大になるときの外部磁場と、抵抗値が最小になるときの外部磁場の差分である。抵抗が最大、または最小になるときの外部磁場とは、ゼロ磁場周辺の大きく抵抗変化する領域における1次近似直線と、抵抗が最大または最小となり、変化しなくなった領域における近似直線との交点における外部磁場で定義される。
本実施形態に係る磁気センサが、従来の磁気センサと比べて検出可能な磁場範囲が増大する作用は、磁化自由層の磁区構造に関わるものであると本発明者は推定している。磁区とは、スピンが同じ方向を向いている区画のことである。磁化自由層は、通常、強磁性体の持つエネルギーが最小になるようにいくつかの磁区に分かれて存在しており、これを磁区構造という。
【0012】
本実施形態に係る磁気センサにおいても、磁化自由層に磁区構造が発現しうる。本実施形態に係る磁気センサから得られる磁気抵抗変化は、磁化自由層と磁化固定層の界面の磁化状態に依存する。従来の磁気センサでは磁化状態が急激に変化するため、抵抗変化範囲が非常に狭かったが、本実施形態に係る磁気センサでは磁気状態が緩やかに変化するため、抵抗変化範囲が増大している。
【0013】
以下、本実施形態に係る磁気センサの各構成部について、例を挙げて説明する。
(1)基板
本実施形態の磁気センサにおける基板は、その上に所望の積層部を形成することが可能なものであれば特に制限されない。基板の一例としては、Si基板やガラス基板が挙げられるがこの限りではない。素子との絶縁性を確保する観点から、基板は、Si基板上にSi酸化膜(SiO
2等)を成膜したものが好ましい。このときSi基板は、IC(集積回路)などとの組み合わせの目的でパターニングされたものであってもよい。
【0014】
(2)積層部
本実施形態の磁気センサにおける積層部は、外部磁場に応じて磁化が変化する磁化自由層と、第1の方向に磁化が固定された磁化固定層と、磁化自由層と磁化固定層との間に配置された非磁性層と、を含む。換言すると、本実施形態の磁気センサにおける積層部は、磁化自由層と、非磁性層と、磁化固定層とがこの順で積層される。磁化自由層と、非磁性層と、磁化固定層とが、この順で積層されていれば、本発明の効果を損なわない範囲で層の上下、間に他の層が挿入されていてもよい。積層部の最上部には、酸化防止の観点から、非磁性のキャップ層を備えていることが好ましい。非磁性のキャップ層は、配線部との接続の観点から、Au、Ru、Taなどの導電性材料であることが好ましい。
【0015】
また、積層部は基板上に複数存在してもよい。複数の積層部は、直列もしくは並列、またはその直並列(すなわち、直列と並列との組み合わせ)に接続されていてもよい。また、配線部により接続された積層部の群が、基板上に複数独立に存在していてもよい。
積層部は公知の方法で形成することが可能であり、一例としては、スパッタ法により形成することができる。また、複数の積層部を形成する場合、基板上に形成された積層膜を、フォトリソグラフィー法で形成されたマスク部材を用いてドライエッチングやウェットエッチングすることにより形成することができる。
【0016】
(3)磁化自由層
本実施形態の磁気センサにおける磁化自由層は、外部磁場によって容易に磁化される強磁性材料で主に構成される。磁化自由層は、1つの材料で構成される必要はなく、多層膜であってもよい。強磁性材料としては、NiFe、CoFeB、CoFeSiB、CoFeなどが用いられるがこの限りではない。磁気感度向上のため、磁化自由層中にRuやTaなどの非磁性層が挿入された多層膜であることが好ましい。
【0017】
(4)非磁性層
本実施形態の磁気センサにおける非磁性層は、非磁性材料で構成される。一般的に、非磁性層には、GMR素子の場合はCuなどの金属材料が用いられ、TMR素子の場合はAl
2O
3やMgO等の絶縁材料が用いられるが、この限りではない。高磁気感度化のため、非磁性層にMgOを利用することが好ましい。
【0018】
(5)磁化固定層
本実施形態の磁気センサにおける磁化固定層は、外部磁場によって磁化方向が容易に変化しないように、強磁性材料を主に用いて構成される。磁化固定層は、1つの材料で構成される必要はなく、多層膜であってもよい。一例としては、磁化固定層は、強磁性材料を反強磁性材料でピン止めした構造が用いられる。軟磁性材料としては、NiFe、CoFeB、CoFeSiB、CoFeなどが用いられるがこの限りではない。磁気感度向上のため、磁化固定層中にRuやTaなどの非磁性層が挿入された多層膜であることが好ましい。また、反強磁性材料としてIrMn、PtMnなどが用いられるが、本発明はこの構成に限定されない。
磁化固定層は、第1の方向に磁化が固定されており、平面視において、磁化自由層と重複する位置で、かつ、第2の方向で磁化自由層の面積を2分割する軸から外れた位置、に配置されている。
【0019】
また、磁化固定層が磁化自由層と重複する位置に複数存在する場合であって、複数の磁化固定層のうちの一部(少なくとも1つ以上)の磁化固定層が、第2の方向で磁化自由層の面積を2分割する軸を覆う位置にある場合でも、この軸を覆う位置にある磁化固定層が、軸を覆わない位置(すなわち、軸から外れた位置)にある磁化固定層と電気的に接続されていなければ、本実施形態に該当する。
磁化自由層と重複する位置に磁化固定層を形成する場合、磁化固定層は、公知の方法で形成することが可能であり、一例としては、フォトリソグラフィー法で形成されたマスク部材を形成し、ドライエッチングなどの技術を用いて不要な磁化固定層を除去することで形成することができる。
【0020】
(6)保護層
本実施形態に係る磁気センサにおける保護層は、配線部と積層部との絶縁を保つために用いる。保護層の材料は積層部と配線部を絶縁可能なものであれば特に制限されず、一例として酸化ケイ素、窒化ケイ素が挙げられる。保護層は積層部の表面全体を覆うように形成され、配線部との接合部分に通電窓(すなわち、開口部)が存在する。本発明において通電窓の位置や形状は限定されない。
【0021】
(7)配線部
本実施形態に係る磁気センサにおける配線部は、絶縁層上に形成された通電窓を介して電極と積層部とを接続する。また、直列接続、並列接続を行う場合、積層部同士を電気的に接続するためにも用いる。
配線部の材料としては、積層部同士、電極間を電気的に接続することが可能な導電性の材料(例えばAu、Cu、Cr、Ni、Al、Ta、Ruなど)であれば特に制限されない。また、配線部は単一の材料からなってもよいし、複数の材料の混合又は積層であってもよい。配線部は公知の方法で形成することが可能であり、一例としては、フォトリソグラフィー法で形成されたマスク部材、及び、積層部の全面に、蒸着法やスパッタリング法により導電性材料を形成し、さらに剥離液を用いてマスク部材を剥離すること(すなわち、リフトオフ法)により形成することができる。基板上に電極を形成する場合、電極も配線部と同一プロセスで作製することができる。
【0022】
(8)その他
本実施形態に係る磁気センサは、外部から電力を供給するための外部接続配線をさらに備えていてもよい。外部接続配線は、外部端子と電極とを電気的に接続する部材であり、例えば金属細線(ボンディングワイヤー)や、金属バンプ等を用いることができる。
また、本実施形態に係る磁気センサは、第1の方向に平行な磁場を磁化固定層に印加するバイアス磁石をさらに備えていてもよい。例えば、積層部の上方に保護層(絶縁層)を介してバイアス磁石が配置されていてもよい。
【0023】
<具体例>
以下、本実施形態をより詳細に説明するために、図面を用いて具体例を示す。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0024】
(1)構成の一例
(1.1)第1の例
図1は、本実施形態に係る磁気センサ1の構成例を模式的に示す図である。
図1(a)は平面図であり、
図1(b)は
図1(a)におけるX1−X´1間の断面図である。
図1に示す磁気センサ1は、基板10と、基板10上に配置された感磁ユニット11と、を備える。感磁ユニット11は、外部磁場に応じて磁化が変化する磁化自由層21と、非磁性層22と、第1の方向(
図1中の矢印の方向であり、紙上で左から右の方向)に磁化が固定された磁化固定層23と、がこの順で基板1上に配置された積層部20を有する。平面視において、磁化固定層23は、磁化自由層21と重複する位置で、かつ、第1の方向に垂直な第2の方向で磁化自由層21の面積を2分割する軸(すなわち、直線)A−A’から外れた位置、に配置されている。
なお、
図1では、感磁ユニット11が1つの積層部20を有する場合を例示している。また、
図1では、保護層及び配線部の図示を省略している。さらに、
図1では、第1の方向と第2の方向とにそれぞれ垂直な方向として、第3の方向を示している。第3の方向は、磁気センサの厚さの方向に相当する。
【0025】
(1.2)第2の例
図2は、本実施形態に係る磁気センサ2の構成例を模式的に示す平面図である。磁気センサ2において、磁気センサ1と異なる点は磁化自由層21の形状にある。これ以外は、磁気センサ2は磁気センサ1と同じ構成である。平面視において、磁化自由層21の重心である第1の点(P1)から磁化自由層21の外縁までの最長距離をなす方向αと、第1の方向と、がなす角度θ1が45度以上135度以下となっている。重心とは、物体の各部分に働く重力の合力が作用すると考えられる点のことであり、質量中心、又は重力中心とも称される。
【0026】
例えば、平面視において、磁化自由層21は、第1の方向よりも第2の方向に長い長方形となっている。第2の方向に長い長方形とは、第2の方向と、長方形の長手方向とがなす角が45度未満であることを意味し、好ましくは30度以下であり、より好ましくは25度以下である。
このような構成であれば、磁性体内での反磁場の効果が大きくなる。このため、抵抗変化範囲(ダイナミックレンジ)の増大という観点から、磁気センサ1よりも磁気センサ2の方が好ましい場合がある。上記の角度θ1が60度以上120度以下であればより好ましい。なお、
図2では、保護層及び配線部の図示を省略している。
【0027】
(1.3)第3の例
図3は、本実施形態に係る磁気センサ3の構成例を模式的に示す図である。
図3(a)は平面図であり、
図3(b)は
図3(a)におけるX3−X´3間の断面図である。
磁化自由層21の磁化状態は、還流磁区構造をとりうる。還流磁区構造とは、各磁区の磁化が等価な方向を向き、磁束の流れが還流する磁区構造のことである。磁化自由層21の磁化状態が還流磁区構造をとることで、磁極が外に現れず、静磁的に安定な構造となる。後述の
図18(実施例11、比較例11)、
図21(実施例12、比較例12)も還流磁区構造をとっている。
磁化自由層21の磁化状態が還流磁区構造をとる場合、ノイズ低減のため面積を確保する観点から、磁化固定層は、平面視で次の条件を満たすように形成されていることが好ましい。
【0028】
すなわち、
図3に示すように、平面視において、第1の点(P1)から磁化固定層23の外縁までの最長距離をなす、磁化固定層の外縁上の点を第2の点(P2)とする。また、第2の方向であって第1の点(P1)を通る軸A−A’からの距離が最短となる磁化固定層23の外縁上の点であって、第1の点との距離が最長となる点を第3の点(P3)とする。平面視において、この第2の点(P2)から第3の点(P3)への方向βと、第1の方向と、がなす角度θ2が10度以上170度以下であることが好ましい。例えば、平面視において、磁化固定層23の形状は台形である。なお、
図3では、保護層及び配線部の図示を省略している。
【0029】
(1.4)第4の例
図4は、本実施形態に係る磁気センサ4の構成例を模式的に示す断面図である。
図4(a)は平面図であり、
図4(b)は
図4(a)におけるX4−X´4間の断面図である。
本実施形態では、積層部20を直列、または並列に接続するため、
図4に示すように、平面視において、磁化自由層21と重複する位置に2つ以上の磁化固定層23が存在している。すなわち、磁化自由層21の一方の面側に複数の磁化固定層23が配置されている。なお、
図4では、保護層及び配線部の図示を省略している。
【0030】
図5は、磁気センサ4が備える複数の感磁ユニット11を直列に接続する場合を模式的に示す図であり、
図5(a)は平面図であり、
図5(b)は
図5(a)におけるX5−X´5間の断面図である。
図5に示すように、磁気センサ4は複数の感磁ユニット11を有する。そして、これら複数の感磁ユニット11は、配線部40によって直列接続される。通電の際、電流は、配線部40→(第1の)感磁ユニット11→配線部40→(第2の)感磁ユニット11→配線部40→…の順で流れる。
【0031】
また、各感磁ユニット11の内部では、非磁性層22による接合界面を介して、配線部40→磁化自由層21→配線部40→…の順で流れる。すなわち、配線部40→磁化固定層23→非磁性層22→磁化自由層21→非磁性層22→磁化固定層23→配線部40→…の順で流れる。なお、配線部40の幅は特に限定されない。
図6は、磁気センサ4が備える複数の積層部20を並列に接続する場合を模式的に示す平面図である。
図6に示すように、複数の積層部20は、2つ以上の磁化固定層23が同一の配線部40で覆われることにより、並列に接続される。
本実施形態では、
図5又は
図6に示したように、電気的に接続された磁化固定層23が軸A−A’から外れた位置(すなわち、軸A−A’を覆わない位置)にあれば、その位置や数は制限されない。なお、
図5(a)、
図6では、保護層30の図示を省略している。
【0032】
(1.5)第5の構成例
図7は、本実施形態に係る磁気センサ5の構成例を模式的に示す断面図である。
図7(a)は平面図であり、
図7(b)は
図7(a)におけるX7−X´7間の断面図である。
図7に示すように、本実施形態では、磁化固定層23が基板10側に存在していてもよい。この場合、磁化自由層21と基板10との間に保護層(絶縁層)31が配置されていてもよい。なお、
図7では、保護層及び配線部の図示を省略している。
【0033】
(1.6)第6の構成例
図8は、本実施形態に係る磁気センサ6の構成例を模式的に示す断面図である。
図8(a)は平面図であり、
図8(b)は
図8(a)におけるX8−X´8間の断面図である。本実施形態において、磁化自由層21の平面視による形状は、矩形(正方形、長方形等)に限定されない。例えば
図8に示すように、磁化自由層21の平面視による形状は円形(楕円、正円等)であってもよい。また、図示しないが、磁化自由層21の平面視による形状は、矩形、円形以外の形であってもよい。なお、
図8では、保護層及び配線部の図示を省略している。
以上に記載した第1〜第6の構成例は任意に組み合わせてもよい。そのように組み合わせた態様も、本実施形態に含まれる。
【0034】
(2)製造方法の一例
次に、本実施形態に係る磁気センサ4の製造方法について説明する。
図9は、本実施形態に係る磁気センサ4の製造方法を工程順に示す断面図である。
図9(a)に示すように、まず基板10上にマグネトロンスパッタ法などの公知の方法で積層膜20’を製膜する。次に、この積層膜20’上にフォトリソグラフィー法等により第1のマスク部材50を形成する。第1のマスク部材50は、積層膜20’上に所望の箇所に所望の形状で形成してよい。そして、この第1のマスク部材50をマスクに、ドライエッチング等の公知の方法で積層膜20’をエッチングして分離する。これにより、
図9(b)に示すように、複数の分離された積層膜20’を基板10上に形成する。その後、第1のマスク部材50を除去する。
【0035】
次に、フォトリソグラフィー法等により、磁化固定層23を形成するための第2のマスク部材51を形成する。そして、この第2のマスク部材51をマスクに、ドライエッチング等の公知の方法で、磁化固定層23をエッチングする。この時、第2のマスク部材51に覆われていない非磁性層22の一部またはすべてがエッチングされてもよい。さらに、第2のマスク部材51に覆われていない磁化自由層21の一部がエッチングされてもよい。これにより、
図9(c)に示すように、磁化固定層23を磁化自由層21と重複する位置に形成し、複数の積層部20を基板10上に形成する。その後、第2のマスク部材51を除去する。
【0036】
次に、複数の積層部20上の全面にPCVD法など公知の方法を利用して絶縁膜を成膜する。次に、フォトリソグラフィー法等により、配線部との接続のための通電窓を形成したい部分を露出し、それ以外の領域を覆う第3のマスク部材52を絶縁膜上に形成する。そして、この第3のマスク部材52をマスクに、ドライエッチング等の公知の方法で絶縁膜をエッチングする。これにより、配線部との接続のための通電窓30aを有する保護層(絶縁層)30を形成する。その後、第3のマスク部材52を除去する。
次に、
図9(d)に示すように、フォトリソグラフィー法等により、配線部が形成される領域と電極が形成される領域とを露出し、それ以外の領域を覆う第4のマスク部材53を保護層30上に形成する。そして、この第4のマスク部材53をマスクに配線部及び端部電極の材料となる導電膜(例えば、金属膜)を基板10の上方に成膜する。その後、リフトオフ法等の公知の方法により第4のマスク部材53を除去し、配線部及び電極を形成する。その後、必要に応じて、全体を保護し、電極部のみ開口した保護層(絶縁層)を成膜してもよい。
【0037】
次に、磁化固定層23の磁化を第1の方向に固定するため、第1の方向に磁場をかけながら熱処理を行う。この時、磁化固定層23と磁化自由層21の磁化方向を直交化させるため、まず第2の方向に磁場をかけながら第1の熱処理を行い、その後、第1の熱処理よりも低い温度で、第1の方向に磁場をかけながら第2の熱処理を行ってもよい。第1、第2の熱処理の温度はそれぞれ250℃以上400℃以下が好ましい。熱処理(第1、第2の熱処理)後、めっき膜やバイアス磁石をさらにその上に形成してもよい。
以上の工程により本実施形態に係る磁気センサ4を得ることができる。
【0038】
<実施形態の効果>
本発明の実施形態によれば、平面視において、第1の方向に磁化が固定された磁化固定層23が、磁化自由層21と重複する位置で、かつ、第2の方向で磁化自由層21の面積を2分割する軸A−A’から外れた位置に配置される。これにより、後述の
図13(比較例1)、
図14(比較例2)に示した磁気センサと比べて、磁気センサの検出可能な磁場範囲(ダイナミックレンジ)増大させることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1〜4と比較例1、2では、磁化固定層の位置の違いによる、抵抗変化範囲について検討した。
また、実施例11、12と比較例11、12では、磁化自由層の磁区構造観察を行い、抵抗変化因について考察した。
【0040】
<抵抗変化範囲>
本実施例、比較例における検出可能な磁場範囲(抵抗変化範囲)は、抵抗値が最大になるときの外部磁場と、抵抗値が最小になるときの外部磁場の差分であり、抵抗が最大、または最小になるときの外部磁場をゼロ磁場周辺の大きく抵抗変化する領域における1次近似直線と、抵抗が最大または最小となり、変化しなくなった領域における近似直線との交点として算出した。
【0041】
<実施例1>
まず実施例1について説明する。
[軸方向の定義]
説明の簡単化のため軸方向を以下のように定義する。(
図16参照)
x方向:磁化固定層23の磁化方向であり、第1の方向
y方向:平面視において第1の方向に垂直な第2の方向
z方向:x方向、y方向に垂直な第3の方向
【0042】
[座標の定義]
説明の簡単化のため、平面視で、磁化自由層21における各位置の座標を以下のように定義する。
(0.0):磁化自由層21の重心の座標位置(
図16参照)、基準座標とする
(x,y):
x:磁化自由層21におけるx方向の座標位置
y:磁化自由層21におけるy方向の座標位置
なお、x、yの単位はμmとする。
【0043】
[磁気センサの形成と測定]
図10は、実施例1に係る磁気センサの構成例を模式的に示す平面図である。
図10に示す実施例1では、表面にSiO
2が1μm程度製膜された基板10上に、シード層としてTa、磁化自由層21としてNiFe、Ru、CoFeB、非磁性層としてMgO、磁化固定層23としてCoFeB、Ru、CoFe、キャップ層としてTa、Ruをこの順で積層し、積層膜を形成した。
次にこの積層膜上にフォトリソグラフィー法により、100μm角のサイズの第1のマスク部材を複数形成した。次に、ECRプラズマエッチング装置を用いて、第1のマスク部材で覆われていない積層膜を除去し、100μm角サイズの分離された積層膜を複数形成した。その後、第1のマスク部材を除去した。
【0044】
次に、フォトリソグラフィー法により、磁化固定層23を形成するための第2のマスク部材を、分離された複数の積層膜すべての上に2つずつ形成した。2つの第2のマスク部材を10μm角のサイズに形成するとともに、その重心が磁化自由層21の(−40,25)、(−40,−25)の座標位置にそれぞれ位置するように形成した。次に、ECRプラズマエッチング装置を用いて、第2のマスク部材で覆われていない積層膜を非磁性層まで除去した。これにより、複数の積層部を基板10上に形成した。その後、第2のマスク部材を除去した。
【0045】
次に、複数の積層部が形成された基板10上に、SiO
2からなる保護膜を成膜した。次に、通電窓作製のためフォトリソグラフィー法により、すべての磁化固定層23の中央付近のみ露出し、それ以外の領域を覆う第3のマスク部材を保護膜上に形成した。そして、この第3のマスク部材をマスクに、RIEエッチング装置を用いて保護膜の露出部分をエッチングした。これにより、配線部との接続のための通電窓を有する保護層を形成した。その後、第3のマスク部材を除去した。
次に、フォトリソグラフィー法により、各通電窓を直列に接続するような配線部が形成される領域と、電極が形成される領域とを露出し、それ以外の領域を覆う第4のマスク部材を保護層30上に形成した。次に、マグネトロンスパッタ装置を用いて全面に金属膜を積層した。その後、リフトオフ法により第4のマスク部材を除去し、金属膜から配線部40及び電極を形成した。
次に、磁場中熱処理装置を用いて、y方向に磁場をかけながら325℃で1時間熱処理(第1の熱処理)を行った。その後さらに、x方向に磁場をかけながら300℃で20分熱処理(第2の熱処理)を行った。以上の処理により、磁気センサを作製した。
作製した磁気センサに100mVの電圧をかけながら、x方向から外部磁場を−50Oe〜50Oeまで変化させ、磁気抵抗変化の測定を行った。
【0046】
<実施例2>
次に実施例2について説明する。
図11は、実施例2に係る磁気センサの構成例を模式的に示す平面図である。
図11に示す実施例2では、磁化固定層23を形成する際、2つの第2のマスク部材を10μm角のサイズに形成するとともに、その重心が磁化自由層21の(40,25)、(40,−25)の座標位置にそれぞれ位置するように形成した。これ以外は、実施例1と同様の方法で、磁気センサの形成と、磁気抵抗変化の測定とを行った。
【0047】
<実施例3>
次に実施例3について説明する。
図12は、実施例3に係る磁気センサの構成例を模式的に示す平面図である。
図12に示す実施例3では、磁化固定層23を形成する際、2つの第2のマスク部材を10μm角のサイズに形成するとともに、その重心が磁化自由層21の(−40,0)、(40,0)の座標位置にそれぞれ位置するように形成した。これ以外は、実施例1と同様の方法で、磁気センサの形成と、磁気抵抗変化の測定とを行った。
【0048】
<実施例4>
次に実施例4について説明する。
図13は、実施例4に係る磁気センサの構成例を模式的に示す平面図である。
図13に示す実施例4では、磁化固定層23を形成する際、複数の第2のマスク部材を15μm角のサイズに形成するとともに、その重心が磁化自由層21の(−37.5,15.5)、(−37.5,35.5)、(−37.5,−15.5)、(−37.5,−35.5)の座標位置にそれぞれ位置するように形成した。また、配線部40を形成する際は、2つずつ磁化固定層23を並列接続し、各磁化自由層21は直列に接続した。これ以外は、実施例1と同様の方法で、磁気センサの形成と、磁気抵抗変化の測定とを行った。
【0049】
<比較例1>
次に、比較例1について説明する。
図14は、比較例1に係る磁気センサの構成を模式的に示す平面図である。
図14に示す比較例1では、磁化固定層23を形成する際、2つの第2のマスク部材51を10μm角のサイズに形成するとともに、その重心が磁化自由層21の(0,25)、(0,−25)の座標位置にそれぞれ位置するように形成した。これ以外は、実施例1と同様の方法で、磁気センサの形成と、磁気抵抗変化の測定とを行った。
【0050】
<比較例2>
次に比較例2について説明する。
図15は、比較例2に係る磁気センサの構成を模式的に示す平面図である。
図15に示す比較例2では、磁化固定層23を形成する際、10個のうち5個の磁化自由層21について、y方向で磁化自由層21の面積を2分割する軸A−A’上に4つの第2のマスク部材を15μm角のサイズで形成した。また、配線部40を形成する際は、2つずつ磁化固定層23を並列接続し、各磁化自由層21は直列に接続した。これ以外は、実施例1と同様の方法で、磁気センサの形成と、磁気抵抗変化の測定とを行った。
【0051】
<実施例、比較例の比較>
上述の実施例1〜4及び比較例1、2の各パラメータを表1に示す。
また、実施例1と比較例1の磁気抵抗曲線を
図17に示す。
図17の横軸は外部磁場を示し、縦軸は抵抗変化率を示している。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に各実施例、比較例の抵抗変化範囲を示す。前述のように、実施例と比較例の違いは磁化固定層の位置のみである。表1に示すように、本発明の実施例1〜4はいずれも比較例1、2よりも抵抗変化範囲が広いことが分かり、明らかに本発明の効果があることが分かる。
【0054】
<磁区構造観察>
本発明の抵抗変化の原理は、すでに公知である、GMR効果(Giant Magneto Resistance effect)またはTMR効果(Tunnel Magneto Resistance effect)によるものである。TMR効果による抵抗値の変化は、磁化自由層の磁化と磁化固定層の磁化の相対角の変化によるものであり、これらの界面において抵抗が変化する。本発明は、磁化自由層の一部と磁化固定層が重複した位置にあることから、磁化固定層と重複した位置の磁化自由層の磁化状態で決定されると推測できる。そこで、本発明による抵抗変化範囲の増大は、磁化自由層の磁区構造に由来するものであると考え、これを確かめるために磁区観察顕微鏡を用いて磁化自由層の磁化状態を確認した。
【0055】
磁区観察顕微鏡は、縦Kerr効果を用いて光学的に磁化の向きを検出するための機器であり、入射光と平行な磁化の量に応じて、コントラストが変化する。順平行、反平行がそれぞれ白、黒に対応し、それ以外は磁化方向の向きに応じた明るさの灰色となる。すなわち、所望領域の平均コントラスト値をとることで、相対的な磁化状態の比較が可能となる。そこで磁化自由層のみのサンプルを作製して磁化自由層表面を観察し、一部の領域の平均コントラスト値を抜き出して比較することで、磁化状態の領域依存性を確認した。
【0056】
<実施例11>
実施例11について説明する。
[磁区観察用素子の形成と測定]
磁区観察は、磁化自由層表面の観察を行うため、実施例、比較例の素子構造では測定できない。そこで、磁化自由層21のみを持つ素子を作製した。
まず実施例1と同様の手順で、100μm角サイズの分離された積層膜を形成した。次に、ECRプラズマエッチング装置を用いて、積層膜を非磁性層22まで除去した。次に、TEOS−CVDを利用し、SiO
2からなる保護膜を成膜した。
【0057】
次に、磁場中熱処理装置を用いて、y方向に磁場をかけながら325℃で1時間熱処理(第1の熱処理)を行った。その後さらに、x方向に磁場をかけながら300℃で20分熱処理(第2の熱処理)を行った。以上の処理により、磁区観察用素子を作製した。
次に、磁区観察顕微鏡を用いて、x方向に−20Oe〜20Oeを印加したときの、作製した磁区観察用素子の縦Kerr効果による磁区像(
図18)を取得した。その後、解析ソフトを用いて、磁化自由層21の(−30,25)の座標位置を重心とした、10μm角サイズの領域(
図18のa位置)の平均コントラスト値を取得した。
【0058】
<実施例12>
次に実施例12について説明する。実施例12では、磁化自由層21のx方向長さを60μm、y方向長さを140μmとして形成した。これ以外は、実施例11と同様の方法で、磁区観察用素子の形成と、磁区像(
図21)の取得及び測定を行い、磁化自由層21の(−25,0)の座標位置における、10μm角サイズの領域(
図21のD位置)の平均コントラスト値を取得した。
【0059】
<比較例11>
実施例11と同様の磁区像において、磁化自由層21の(0,25)の座標位置における、10μm角サイズの領域(
図18のb位置)の平均コントラスト値を取得した。
<比較例12>
実施例12と同様の磁区像において、磁化自由層21の(0,55)の座標位置における、10μm角サイズの領域(
図21のC位置)の平均コントラスト値を取得した。
【0060】
<磁区観察結果の比較>
実施例11、比較例11、実施例12、比較例12の平均コントラスト値を縦軸、その時の印加磁場を横軸としてプロットしたものをそれぞれ、
図19、
図20、
図22、
図23に示す。
いずれの比較でも、実施例の方が比較例と比べて、平均コントラスト値の変化を検出可能な磁場範囲(ダイナミックレンジ)が広いことが分かる。コントラスト値の変化は磁化状態の変化に対応し、抵抗値の変化に対応する。すなわち、実施例1〜4と比較例1、2の違いは、実施例11、12と比較例11、12の違いに起因するものであると推定される。
また、実施例11と実施例12を比較すると、実施例12の方が、抵抗変化範囲が広くゼロ磁場付近の抵抗値のジャンプが抑制されている。抵抗変化範囲の拡大は、磁化自由層21のx方向の幅の縮小による効果も含まれるが、より高い線形性を確保できるという点で実施例12の方がより好ましい。
【0061】
図18、
図19によると、磁化が±x方向を向いている場合、黒または白くなり、磁化が±y方向を向いている場合、灰色となっている。したがって、磁区構造は、還流磁区構造をとっていることが分かる。還流磁区構造の場合、x=0の軸上だけでなく、中央付近から4隅の角に向かって広がるように、磁化変化が急激な領域が存在している。すなわち、
図3に示したように、磁化固定層23の平面視による形状を台形等にして、磁化変化が急激な領域を避けるように磁化固定層23を形成することができればより好ましい。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0062】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置および方法における動作、手順等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の順序に関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。