【文献】
西田智,自然免疫を活性化する乳酸菌による感染症予防,第62回日本感染症学会東日本地方会学術集会、第60回日本化学療法学会東日本支部総会 合同学会プログラ,2013年10月 7日,p.76, S8-4
【文献】
MAKINO S., et al.,Immunomodulatory Effects of Polysaccharides Produced by Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OL,J. Dairy Sci.,2006年,Vol. 89,pp. 2873-2881
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)における受託番号がNITE BP−02005であるラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0025】
<乳酸菌>
本発明は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)における受託番号がNITE BP−02005であるラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌である。
【0026】
以下、このラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する新規乳酸菌株(#11−1)について詳述する。
形態:本発明の#11−1は、ぬか漬けを分離源として初めて分離された。
【0027】
培地における生育状況:
(1)GAM及びMRS寒天培地上では白色のコロニーを形成する。拡散性の色素は認められない。
(2)炭酸カルシウム入りMRS寒天培地上では乳酸の生成に伴う透明帯の形成が認められる。
【0028】
生理学的性質:本発明の#11−1の生理学的、化学分類学的性質は以下の通りである。
(1)酸素に対する態度:嫌気的
(2)カタラーゼ:−
(3)アルカリフォスファターゼ:−
(4)エステラーゼ:−
(5)エステラーゼリパーゼ:−
(6)リパーゼ:−
(7)ロイシンアリルアミダーゼ:+
(8)バリンアリルアミダーゼ:+
(9)シスチンアリルアミダーゼ:−
(10)トリプシン:−
(11)α−キモトリプシン:−
(12)酸性フォスファターゼ:+
(13)ナフトール−AS−BI−フォスフォヒドロラーゼ:+
(14)α−ガラクトシダーゼ:−
(15)β−ガラクトシダーゼ:−
(16)β−グルクロニダーゼ:−
(17)α−グルコシダーゼ:−
(18)β−グルコシダーゼ:−
(19)N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:−
(20)α−マンノシダーゼ:−
(21)α−フコシダーゼ:−
【0029】
(22)下記の糖類等からの酸及びガスの生成能
グリセロール(Glycerol):−
エリトリトール(Erythritol):−
D−アラビノース(D−Arabinose):−
L−アラビノース(D−Arabinose):−
D−リボース(D−Ribose):±
D−キシロース(D−Xylose):−
L−キシロース(L−Xylose):−
D−アドニトール(D−Adonitol):−
メチル−β−D−キシロピラノサイド(methyl−β−D−xylopyranoside):−
D−ガラクトース(D−Galactose):+
D−グルコース(D−Glucose):+
D−フルクトース(D−Fructose):+
D−マンノース(D−Mannose):+
L−ソルボース(D−Sorbose):−
L−ラムノース(L−Rhamnose):−
ズルシトール(Dulcitol):−
イノシトール(Inositol):−
D−マンニトール(D−Mannitol):+
D−ソルビトール(D−Sorbitol):−
メチル−α−D−マンノピラノサイド(methyl−α−D−mannopyranoside):−
メチル−α−D−グルコピラノサイド(methyl−α−D−glucopyranoside):+
N−アセチルグルコサミン(N−Acetyl glucosamine):+
アミグダリン(Amygdalin):±
アルブチン(Arbutin):+
エスクリン(Esculin):+
サリシン(Salicin):+
D−セロビオース(D−Cellobiose):+
D−マルトース(D−Maltose):+
D−ラクトース(D−Lactose):−
D−メリビオース(D−Melibiose):−
D−スクロース(D−Sucrose):+
D−トレハロース(D−Trehalose):+
インスリン(Insulin):−
D−メレジトース(D−Melezitose):−
D−ラフィノース(D−Raffinose):−
スターチ(Starch):−
グリコーゲン(Glycogen):−
キシリトール(Xylitol):−
ゲンチオビオース(Gentiobiose):+
D−ツラノース(D−Turanose):−
D−リキソース(D−Lyxose):−
D−タガトース(D−Tagatose):−
D−フコース(D−Fucose):−
L−フコース(L−Fucose):−
D−アラビトール(D−Arabitol):−
L−アラビトール(L−Arabitol):−
グルコネート(Gluconate):±
2−ケト−グルコネート(2−Keto−gluconate):−
5−ケト−グルコネート(5−Keto−gluconate):−
【0030】
分子生物学的解析結果:分子生物学的な系統分類の指標として用いられている16S rDNAに関する#11−1の解析結果は以下の通りである。
すなわち、#11−1のゲノムDNAから、PCRにより、16S rDNA領域の塩基配列を増幅し、シーケンサーによる解析を行った結果、16S rDNAのほぼ全長に当たる塩基配列が見出された。
この塩基配列をNCBIのBLAST解析で相同性検索を行ったところ、#11−1の16S rDNA領域の塩基配列は、ラクトバチルス属であるLactobacillus paraplantarum DSM10667株の塩基配列(登録番号:NR_025447.1)と相同率98%を示したので、#11−1は、L. plantarum paraplantarum種に属するものである。
しかしながら、完全には一致していないので、本発明の#11−1は、上記の株とは異なる乳酸菌株(亜種)である。
【0031】
前記の#11−1の生理学的・化学分類学的性質を、バージース・マニュアル・オブ・システマティックバクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology,vol.3 1989)による分類及びその他の文献の記載内容に照らし合わせ、更に、上記16S rDNA解析の結果を考慮して判断した結果、本発明の#11−1は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する新規の微生物である。
ラクトバチルス属に属する既知の株等と比べて、最も高い自然免疫活性化能を示すこと等を含め総合的に検討した結果、#11−1は単離された新規な微生物株であると判断した。
【0032】
#11−1は、千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(Natural Institute of Technology and Evaluation;以下、「NITE」と略記する)の特許微生物寄託センター(NPMD)に国内寄託され、受託番号:NITE P−02005(寄託日:2015年2月5日)として受託された微生物である。
♯11−1は、その後、千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に、原寄託申請書を提出して、国内寄託(原寄託日:2015年2月5日)から、ブタペスト条約に基づく寄託への移管申請を行い(移管日(国際寄託日):2016年1月28日)、生存が証明され、ブタペスト条約に基づく寄託(国際寄託)への移管申請が受領された結果、受託番号「NITE BP−02005」を受けているものである。
【0033】
細菌の一般的な性状として、その菌株としての性質は変異し易いため、#11−1は、先に示した生理学的性状の範囲内に留まらない可能性も有している。また、かかる「変異」には、自然的な変異と人工的な変異の両方を含むことは言うまでもない。
【0034】
以下に、#11−1の培養方法について記載する。#11−1の培養方法は、ラクトバチルス属の微生物に対して行われる一般的な培養方法に準じて行えばよい。
培養は嫌気条件下で行うことが好ましい。培地中の炭素源としては、例えば、D−リボース、D−ガラクトース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、D−マンニトール、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、D−セロビオース、D−マルトース、シュクロース、D−トレハロース、ゲンチオビオース、糖蜜、水飴、油脂類等の有機炭素化合物が用いられ、窒素源としては、肉エキス、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、胚芽、大豆粉、尿素、アミノ酸、アンモニウム塩等の有機・無機窒素化合物を用いることができる。
また、塩類は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、鉄塩、銅塩、亜鉛塩、コバルト塩等の無機塩類を必要に応じて適宜添加する。更に、ビオチン、ビタミンB1、シスチン、オレイン酸メチル、ラード油等の生育促進物質を添加することが、目的物の産生量を増加させる点で好ましい。
また、シリコン油、界面活性剤等の消泡剤を添加してもよい。調製済みの培地としては、例えば、MRS培地、GAM培地等を用いることが好ましい。
【0035】
培養条件は、先に記したようにラクトバチルス属の微生物に対して行われる一般的な培養条件に準じて行えばよい。液体培養法であれば静置培養が望ましい。小規模であれば蓋付きガラス瓶による静置培養法を用いてもよい。
培養温度は、25℃〜37℃間に保つことが好ましく、32℃〜37℃で行うことがより好ましい。培養pHは7付近で行うことが好ましい。培養期間は、用いた培地組成、培養温度等により変動するファクターであるが、#11−1の場合、好ましくは12〜72時間、より好ましくは24〜48時間で充分な量の目的物を確保することができる。
培養して得られたコロニーをピックアップし、再度培地上でシングルコロニー形成を行うことも好ましい。
【0036】
<自然免疫活性化剤>
本発明の新規乳酸菌「#11−1」は、該乳酸菌自身として、また、該乳酸菌の自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌として、自然免疫活性化能を有する。
すなわち、本発明は、受託番号がNITE BP−02005であるラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌であって、自然免疫活性化能を有する乳酸菌である。
自然免疫活性化能の測定は、実施例に具体的に記載した方法、すなわち、Ishii K.,Hamamoto H., Kamimura M., Sekimizu K., J.Biol.Chem. Jan.25;283(4):2185-91(2008)にも詳述されている、カイコの緩行性筋収縮により測定された。
【0037】
「#11−1又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌」、「該乳酸菌の死菌」、「該乳酸菌の処理物」は、何れも自然免疫活性化能を有する。
ここで、「乳酸菌の処理物」としては、乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物が挙げられる。ここで、「乾燥物」としては、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等が挙げられる。
本発明の別の態様は、「前記した本発明の乳酸菌(#11−1又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌)、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を有効成分とする自然免疫活性化剤であって、上記乳酸菌の処理物は、乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とする自然免疫活性化剤」である。
【0038】
本発明の自然免疫活性化剤は、前記の本発明の乳酸菌、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を種々の状態で含むことができる。例えば、懸濁液、乳酸菌体、培養上清液、培地成分を含む状態等が挙げられる。
乳酸菌としては、生菌体、湿潤菌、乾燥菌等が適宜使用可能である。また、殺菌、すなわち、加熱殺菌処理、放射線殺菌処理、破砕処理等を施した死菌であってもよい。
【0039】
本発明の自然免疫活性化剤中の有効成分である、乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の処理物の、自然免疫活性化剤全体に対する含有量は、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができるが、自然免疫活性化剤全体を100質量部としたときに、「乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の処理物の合計量」として、0.001〜100質量部で含有されることが好ましく、より好ましくは0.01〜99質量部、特に好ましくは0.1〜95質量部、更に好ましくは1〜90質量部で含有される。
【0040】
また、前記有効成分は、何れか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の、前記自然免疫活性化剤中の各々の有効成分の含有比については、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
【0041】
本発明の自然免疫活性化剤は、前記乳酸菌、前記乳酸菌の死菌又は前記乳酸菌の処理物を有効成分として含有するが、それら有効成分に加えて、「その他の成分」を含有することができる。
前記自然免疫活性化剤における、上記「その他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容され得る担体等が挙げられる。
かかる担体としては、特に制限はなく、例えば、後述する剤型等に応じて適宜選択される。また、自然免疫活性化剤中の「その他の成分」の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
<感染症予防治療剤>
前記した本発明の乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の処理物は、自然免疫活性化能を有すると共に又は有するが故に感染症予防治療剤として有用であり、特に、経口投与用の感染症予防治療剤として有用である。
本発明者は、本発明の乳酸菌のペプチドグリカンの経口投与が、緑膿菌に感染したカイコに対し延命効果を奏することを確認した。なお、細菌等に感染したカイコの抵抗性が、ヒト等の哺乳類における抵抗性と相関があることは既に確かめられている(例えば、特許文献2、3等)。
【0043】
具体的には、ラクトバチルス・プランタラム乳酸菌のペプチドグリカンが、カイコの緑膿菌感染に対して抵抗性を付与することが確かめられた。
カイコには獲得免疫機構がなく抗原に対して抗体を産生し得ない。従って、経口投与されたラクトバチルス・プランタラムのペプチドグリカンが、腸内等でカイコの自然免疫機構を活性化し、その結果、感染制御に対して効果を奏したためと考えられる。
【0044】
マウス等の獲得免疫機構を有する動物に対しては、細菌のペプチドグリカンを経口投与すると免疫力が付与されることは知られている。
しかし、本発明においては、獲得免疫機構を有さず自然免疫機構しか有さないカイコにおいて、乳酸菌のペプチドグリカンが緑膿菌感染に対して抵抗性を付与した。ペプチドグリカンがカイコの自然免疫機構を活性化し感染に抵抗したと考えられ、このことは、同様に自然免疫機構を有する哺乳類等の動物に対して、本発明の乳酸菌、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を含有する自然免疫活性化剤に、感染症予防治療剤としての効果があることを示している。
【0045】
ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・パラプランタラム等のラクトバチルス属の乳酸菌のペプチドグリカンを有効成分として含有する剤は、ヒト等の哺乳類に対しても感染症予防治療剤として有用である。
従って、本発明の他の態様は、前記の自然免疫活性化剤を有効成分として含有することを特徴とする感染症予防治療剤であり、更には、前記の乳酸菌のペプチドグリカンを有効成分として含有することを特徴とする感染症予防治療剤である。
【0046】
<医薬品;飲食品;健康食品等>
本発明の乳酸菌や該乳酸菌に由来する本発明の自然免疫活性化剤は、医薬品、医薬部外品、一般飲食品、健康食品、粉ミルク等の規格を有する飲食品等に配合することが可能であり、それらの形態によらず様々な医薬品、飲食品等に応用できる。
中でも、前記した本発明の乳酸菌を用いて醗酵する工程を用いて製造された飲食品、更にその中でも醗酵乳は、乳酸菌の通常の効果や、本発明に特有の前記効果を発揮し易いために好ましい。
【0047】
本発明の自然免疫活性化剤や感染症予防治療剤の剤型としては、特に制限はなく、例えば、後述するような所望の投与方法に応じて適宜選択することができる。
具体的には、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶剤、懸濁剤等)、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散布剤等が挙げられる。
【0048】
前記経口固形剤としては、例えば、前記有効成分に、賦形剤、更には必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0049】
該賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。
前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
該崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。
該滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
該着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0050】
前記経口液剤としては、例えば、前記有効成分に、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0051】
該矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0052】
前記注射剤としては、例えば、前記有効成分に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。
該pH調節剤及び該緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。
【0053】
前記軟膏剤としては、例えば、前記有効成分に、公知の基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等を配合し、常法により混合し、製造することができる。
該基剤としては、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。前記保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0054】
前記貼付剤としては、例えば、公知の支持体に前記軟膏剤としてのクリーム剤、ゲル剤、ペースト剤等を、常法により塗布し、製造することができる。前記支持体としては、例えば、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等のフィルム、発泡体シート等が挙げられる。
【0055】
本発明の自然免疫活性化剤や感染症予防治療剤は、例えば、自然免疫機構の活性化を必要とする個体、細菌等に対してあたかも獲得免疫を得ようとする個体等に好適に使用できる。
具体的には、例えば、健康維持や疲労回復を必要とする個体;癌や生活習慣病の予防や治療を必要とする個体;細菌、真菌、ウイルス等に感染した個体;等に投与することにより使用することができる。
【0056】
本発明の自然免疫活性化剤や感染症予防治療剤の投与対象動物としては、特に制限はないが、例えば、ヒト;マウス、ラット等の実験動物;サル;ウマ;ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ等の家畜;ネコ、イヌ等のペット;等が挙げられる。
【0057】
また、前記自然免疫活性化剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記した剤型等に応じ、適宜選択することができ、経口投与、腹腔内投与、血液中への注射、腸内への注入等が挙げられる。中でも、経口投与が、簡便で前記効果を発揮する点から好ましい。
【0058】
前記自然免疫活性化剤又は前記感染症予防治療剤の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である個体の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1日の投与量は、有効成分の量として、1mg〜30gが好ましく、10mg〜10gがより好ましく、100mg〜3gが特に好ましい。
また、投与時期としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、予防的に投与されてもよいし、治療的に投与されてもよい。
【0059】
本発明の前記乳酸菌、該乳酸菌の死菌若しくは処理物、自然免疫活性化剤、又は、感染症予防治療剤を含有する飲食品(以下、「本発明の飲食品」と略記する場合がある)中の、乳酸菌、自然免疫活性化剤又は感染症予防治療剤の含有量は、特に制限がなく、目的や飲食品の態様(種類)に応じて、適宜選択することができるが、飲食品全体を100質量部としたときに、上記の合計量で、0.001〜100質量部で含有することが好ましく、より好ましくは0.01〜100質量部、特に好ましくは0.1〜100質量部の含量である。
【0060】
また、上記の何れか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の、前記飲食品中の各々の物質の含有量比には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0061】
本発明の飲食品は、自然免疫活性化能及び/又は感染症予防治療能を有する。
本発明の飲食品は、前記した本発明の自然免疫活性化剤や感染症予防治療剤に加えて、更に、「その他の成分」を含有することができる。
【0062】
上記「その他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種食品原料等が挙げられる。また、「その他の成分」の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0063】
本発明の乳酸菌は、一般飲食品、健康食品、薬剤、醗酵飲食品、プロバイオティクスの生産等に利用できる。醗酵飲食品としては、醗酵乳、乳酸菌飲料、ヨーグルト、漬物、漬物製造用乳酸菌スターター等としての用途に特に好適である。
【0064】
前記食品の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼリー、キャンディー、チョコレート、ビスケット、グミ等の菓子類;緑茶、紅茶、コーヒー、清涼飲料等の嗜好飲料;醗酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、ラクトアイス等の乳製品;野菜飲料、果実飲料、ジャム類等の野菜・果実加工品;スープ等の液体食品;パン類、麺類等の穀物加工品;各種調味料;等が挙げられる。中でも、ヨーグルト、醗酵乳等の乳製品が好ましい。
これらの食品の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、通常の各種食品の製造方法に応じて、適宜製造することができる。
【0065】
また、前記食品は、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口固形剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口液剤として製造されたものであってもよい。前記経口固形剤、経口液剤の製造方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記した薬剤の経口固形剤、経口液剤の製造方法にならい、製造することができる。
【0066】
本発明の飲食品は、自然免疫機構の活性化や感染症に対して抵抗力を付けること等を目的とした、機能性食品、健康食品等として、特に有用である。
本発明の乳酸菌、該死菌若しくは処理物等を飲食品の製造に使用する場合、製造方法は当業者に周知の方法によって行うことができる。当業者であれば、本発明の乳酸菌の(死)菌体又は処理物を他の成分と混合する工程、成形工程、殺菌工程、醗酵工程、焼成工程、乾燥工程、冷却工程、造粒工程、包装工程等を適宜組み合わせ、目的の飲食品を作ることが可能である。
【0067】
また、本発明の乳酸菌を各種醗酵乳の製造に使用する場合、当業者に周知の方法を用いて製造することができる。例えば、本発明の乳酸菌を醗酵乳に死菌として所要量添加する工程を用いて製造された飲食品や、乳酸菌スターターとして本発明の乳酸菌を用いて醗酵する工程を用いて製造された飲食品が挙げられる。
乳酸菌スターターとして本発明の乳酸菌を用いて醗酵を行う場合、本発明の乳酸菌の培養条件と同様の条件等で行うことができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び検討例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等の具体的範囲に限定されるものではない。
【0069】
<材料>
<<培地及び培養条件>>
GAM培地、MRS寒天培地は、それぞれ、Nissui社、BD(Becton Dickinson)社より入手し、必要な場合には、炭酸カルシウム(CaCO
3)を添加した。
嫌気培養には、AnaeroPak(登録商標)(Mitsubishi gas chemicals社製)を用いた。
【0070】
<<乳酸菌の分離>>
醗酵食品としてぬか漬けを用いた。生理食塩水(0.9質量%のNaCl)中で懸濁した液をMRS培地に塗り広げ、37℃で2日間嫌気培養した。
コロニーをピックアップし、CaCO
3−MRS培地上でのシングルコロニー形成を行った。
【0071】
その中から、後記の方法で自然免疫活性化能を測定し、自然免疫活性化能に優れた乳酸菌株(#11−1)を得た。乳酸菌株(#11−1)を単離した。
CaCO
3−MRS培地上での白いコロニー形成と、透明帯の形成とによって乳酸醗酵を確認し、#11−1が乳酸菌であることを確認した。また、コロニーをグラム染色し、#11−1のグラム陽性を確認した。
【0072】
<<乳酸菌の同定>>
PCR酵素KOD FX Neo (Toyobo), primers 9F, 1541Rを用いたコロニーPCRによって、16S rDNA断片を得た。
BigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit, ABI PRISM(登録商標) 3100 Genetic Analyzerを利用したDirect sequencingによって配列を決定した。
配列情報は、NCBI BLASTN 2.2.27+ (8) を用いて16 S ribosomal RNA sequences databese (Bacteria and Archaea, 7,545 sequences) から解析した。
【0073】
#11−1の16S rDNA領域の塩基配列を、配列表の配列番号1に示した。
【0074】
16S rDNAの塩基配列を決定し、BLAST解析により相同性を検索した結果、
図1と
図2に示すような乳酸菌と相同性の高いものであることが明らかとなった。
この塩基配列は、
図1と
図2に示したように、L. paraplantarum DSM10667株(塩基配列:NR_025447.1)に近縁ではあるが、完全には一致しないので、新規の「L. paraplantarum」であることが分かった。
【0075】
<<寄託>>
実施例において使用する本発明の「#11−1」は、上述の如く、ぬか漬けから分離されたものであり、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌#11−1として、特許法施行規則に基づく寄託機関として、また、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づく国際寄託当局として認められている、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に寄託されている(受託番号:NITE P−02005、寄託日2015年2月5日)。
♯11−1は、その後、千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に、原寄託申請書を提出して、国内寄託(原寄託日:2015年2月5日)から、ブタペスト条約に基づく寄託への移管申請を行い(移管日(国際寄託日):2016年1月28日)、生存が証明され、ブタペスト条約に基づく寄託(国際寄託)への移管申請が受領された結果、受託番号「NITE BP−02005」を受けているものである。
【0076】
実施例1
<自然免疫活性化能の測定>
MRS培地で一晩培養したラクトバチルス・パラプランタラム#11−1(L. paraplantarum#11−1)株を、121℃、20分で滅菌処理後、50μLを5齢カイコの断頭筋肉標本に注射し、緩行性筋収縮により自然免疫活性化能を測定した。
【0077】
緩行性筋収縮による自然免疫活性化能の測定は、Ishii K.,Hamamoto H., Kamimura M., Sekimizu K., J.Biol.Chem. Jan.25;283(4):2185-91(2008)に記載の方法に従って行った。
すなわち、5齢カイコの断頭筋肉標本に、測定物質の濃度を複数段階に振った試料0.05mLをそれぞれ血液内投与し、収縮した長さが最大となったとき(約10分後)に体長をそれぞれ測定した。
注射前の体長から注射後の体長を引き算し、その値を注射前の体長で割り算した値を「C値(Contraction Value)」とし、C値=0.15を1U(unit(ユニット))と定義した。
【0078】
0.9%生理食塩液で試料を1/1、1/4、1/16、1/64、1/256に系列段階希釈した液でそれぞれC値を測定し、横軸を測定物質の濃度、縦軸をC値としてプロットしたグラフから、1U(C値=0.15)を与える「測定物質のカイコへの投与質量(mg)」を求め、単位質量(mg)当たり何U(ユニット)を示すかを求めて、測定物質の自然免疫活性化能の大きさを評価した。
また、生理食塩液0.05mLをネガティブコントロール(C値0.05以下を許容)、空気0.2mLをポジティブコントロール(C値が0.2〜0.4内に収まる場合を許容)として同時に測定した。
【0079】
比較例1〜3
実施例1において、ラクトバチルス・パラプランタラム#11−1(L. paraplantarum#11−1)株に代えて、表1に示したグラム陽性細菌、#4、#11−2及びAを用いた以外は、実施例1と同様に、カイコの筋収縮により自然免疫活性化能を測定した。
【0080】
実施例1及び比較例1〜3の由来・性状を以下の表1に示す。また、参考として、近縁の株の名称と「測定菌株と該株との相同性測定結果」を併せて表1に示す。
自然免疫活性化能の測定結果を以下の表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
本発明の乳酸菌の自然免疫活性化能を測定したところ、表2に示すように、実施例1のL. paraplantarum #11−1は、165U/mgと、極めて自然免疫活性化能が高いものであった。
また、表2における、実施例1及び比較例1、2の「自然免疫活性化能(U/mg)」の測定結果の比較からも分かる通り、ぬか漬けから得られた別株と比較しても、本発明のL. paraplantarum#11−1が極めて高い自然免疫活性化能を示すことが分かった。
また、所謂「植物性乳酸菌」として知られている Leuconostoc citreum KM20の自然免疫活性化能は43U/mgであり、本発明のL. paraplantarum#11−1よりも低いものであった(比較例3)。
【0084】
比較例4
実施例1において、ラクトバチルス・パラプランタラム#11−1(L. paraplantarum#11−1)株に代えて、ラクトバチルス・ブルガリクス OLL1073株を用いた以外は、実施例1と同様に、カイコの筋収縮により自然免疫活性化能を測定した。
【0085】
比較例5
実施例1において、ラクトバチルス・パラプランタラム#11−1(L. paraplantarum#11−1)株に代えて、ラクトバチルス・カゼイ YIT9029株を用いた以外は、実施例1と同様に、カイコの筋収縮により自然免疫活性化能を測定した。
【0086】
比較例6
実施例1において、ラクトバチルス・パラプランタラム#11−1(L. paraplantarum#11−1)株に代えて、ラクトコッカス・ラクティス JCM5805株を用いた以外は、実施例1と同様に、カイコの筋収縮により自然免疫活性化能を測定した。
【0087】
比較例4〜6の結果を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
比較例4〜6の乳酸菌は、実際に市販の醗酵乳の製造に用いられている乳酸菌である。
表3に示されるように、実施例1の本発明の乳酸菌#11−1は、比較例4〜6の乳酸菌に比べても、より高い自然免疫活性化能を有することが分かった。
【0090】
本発明のラクトバチルス・パラプランタラム#11−1の滅菌処理物を測定物質としたとき、自然免疫活性化能が極めて高いことから、本発明の乳酸菌、本発明の乳酸菌の死菌、又は、本発明の乳酸菌の処理物(培養物;濃縮物;ペースト化物;噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等の乾燥物;液状化物;希釈物;破砕物;殺菌加工物;培養物からの抽出物;等)は、自然免疫活性化剤として優れているものである。
【0091】
また、ラクトバチルス・パラプランタラムは、属、種として既に醗酵食品としての安全性が確認されている。
本発明のラクトバチルス・パラプランタラム#11−1を用いて、乳を醗酵させて得られる飲食品は、自然免疫活性化能を有する。
【0092】
実施例2
<細菌感染に対する効果実験>
独立行政法人理化学研究所より入手した、ラクトバチルス・プランタラムに属する「Lactobacillus plantarum subsp. plantarum JCM 1057」(以下、
図3でも「L. plantarum PGN」と略記する)から、常法に従いペプチドグリカン画分を調製し、それをカイコの人工餌に、2.7質量%混ぜて、2日間与え続けた。注射前に総量で、0.041g与えたことになる。
その後、以下のように、緑膿菌感染に対するラクトバチルス・プランタラム乳酸菌のペプチドグリカンの効果を調べた。
【0093】
緑膿菌(PAO1)を30℃にて終夜培養した。その菌液を生理食塩水で1000倍に希釈し、その希釈液50μLをカイコの体液中に注射した。
注射の後は、カイコへのペプチドグリカンの食餌を中止して、27℃で飼育し、経時的に生存数(生存割合)を計測した。
【0094】
図3に示すように、ラクトバチルス・プランタラムのペプチドグリカン画分を食したカイコは、食さないカイコに比べ、緑膿菌感染後の生存時間が延長することが判明した。
ラクトバチルス・プランタラムのペプチドグリカン画分によって、カイコの緑膿菌感染に対する抵抗性が付与されたことが分かった。
この結果は、経口投与されたラクトバチルス・プランタラムのペプチドグリカンが、腸内でカイコの自然免疫を活性化し、その結果、感染制御に対して効果を示したためと考えられる。
【0095】
乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムのペプチドグリカンを有効成分として含有する剤は、ヒト等の哺乳類に対しても感染症予防治療剤として有用であることが分かった。
また、ラクトバチルス・プランタラムは、既に醗酵食品としての安全性が確認されている。従って、乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムのペプチドグリカンを有効成分として含有する感染症予防治療剤は、ヒト等の哺乳類の飲食品として有用である。
【0096】
実施例3
<自然免疫活性化剤及び感染症予防治療剤の製造>
<<錠剤>>
培養した#11−1を、121℃、20分で滅菌処理後、濃縮した。該濃縮させた#11−1の培養液20.0mg、ラクトース40mg、デンプン20mg、及び、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース5mgを均一に混合した後、ヒドロキシプロピルメチルセルロース8質量%水溶液を結合剤として湿式造粒法で打錠用顆粒を製造した。これに、滑沢性を与えるのに必要なステアリン酸マグネシウムを0.5mg〜1mg加えてから打錠機を用いて打錠し錠剤とした。
【0097】
<<液剤>>
上記濃縮させた#11−1の培養液10.0mgを、2質量%の2−ヒドロキシプロピル−β−サイクロデキストリン水溶液10mLに溶解し注射用液剤とした。