特許第6595004号(P6595004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6595004積層体、位相差フィルム、偏光板及び画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6595004
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】積層体、位相差フィルム、偏光板及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20191010BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20191010BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20191010BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20191010BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   G02B5/30
   B32B27/34
   C08G69/26
   G02F1/1335 510
   G02F1/13363
【請求項の数】10
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-559197(P2017-559197)
(86)(22)【出願日】2016年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2016088853
(87)【国際公開番号】WO2017115785
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2018年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-256468(P2015-256468)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】野副 寛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晋也
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−277524(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/132456(WO,A1)
【文献】 特表2008−536719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
G02B5/30
C08G69/26
G02F1/1335
G02F1/13363
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル樹脂層と、このセルロースエステル樹脂層上に直接設けられたポリアミド樹脂層とを有し、上記ポリアミド樹脂層を構成するポリアミドが下記一般式(1)で表される繰り返し単位と下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを有する積層体。
【化1】
一般式(1)中、Rはハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基又はアシルオキシ基を示し、kは0〜4の整数である。Lは単結合、アルキレン基又はアリーレン基を示す。但し、Lがアリーレン基の場合、一般式(1)中に示されたベンゼン環と縮合して縮環を形成していてもよい。*は連結部位を示す。
【化2】

一般式(2)中、R及びRはアルキル基を示し、m及びnは0〜10の整数を示す。Xは単結合、アルキレン基又はアルケニレン基を示す。Zは単結合又はアルキレン基を示す。pは0又は1である。*は連結部位を示す。
【請求項2】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位が下記一般式(1−a)で表される繰り返し単位である、請求項1記載の積層体。
【化3】
一般式(1−a)中、R、k及び*は、それぞれ上記一般式(1)におけるR、k及び*と同義である。
【請求項3】
上記一般式(1−a)で表される繰り返し単位が下記一般式(1−b)で表される繰り返し単位である、請求項2記載の積層体。
【化4】
一般式(1−b)中、R、k及び*は、それぞれ上記一般式(1−a)におけるR、k及び*と同義である。
【請求項4】
上記一般式(2)で表される繰り返し単位が下記一般式(2−a)で表される繰り返し単位である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【化5】
一般式(2−a)中、R、R、m、n、X及び*は、それぞれ上記一般式(2)におけるR、R、m、n、X及び*と同義である。
【請求項5】
上記一般式(2−a)で表される繰り返し単位が下記一般式(2−b)で表される繰り返し単位である、請求項4記載の積層体。
【化6】
一般式(2−b)中、R、R、m、n及び*は、それぞれ上記一般式(2−a)におけるR、R、m、n及び*と同義である。
【請求項6】
上記ポリアミド樹脂層を構成する上記ポリアミドが、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【化7】
一般式(3)中、rは2〜12の整数である。*は連結部位を示す。
【請求項7】
上記セルロースエステル樹脂層がセルロースアシレート樹脂層である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項7に記載の積層体を用いた位相差フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層体と、偏光子とを有する偏光板。
【請求項10】
請求項9に記載の偏光板を有する画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、この積層体を用いた位相差フィルム及び偏光板、並びに、この偏光板を用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、液晶表示装置(LCD)等に代表される画像表示装置には、その薄型化への要求が益々高まっている。また、屋外用途をはじめとして画像表示装置の使用環境は多様化しており、画像表示装置には従来に比べて過酷な環境下でも良好な画像品質を安定して維持できる性能(高度な耐久性)が求められるようになっている。
画像表示装置における画像品質の低下は、水分が偏光板内部へと進入し、偏光子を劣化させることが一因とされる。偏光子はその表面に保護フィルムが積層されて保護されているが、保護フィルムにも薄膜化が求められている。保護フィルムを薄膜化すると水分が偏光子とより接触しやすくなり、画像品質が低下しやすくなる。また、かかる画像品質の低下は、屋外用途等の過酷環境下での使用においてより顕在化する。
【0003】
上記保護フィルム(光学フィルム)としては、汎用性、加工性等の観点からセルロース系樹脂、アクリル系樹脂等が広く用いられている。また、これらの樹脂以外で形成された保護フィルムも知られており、例えば特許文献1には、ポリアミドフィルムを偏光子保護フィルムとして用いることが記載されている。また、保護フィルムを積層構造とすることも知られており、例えば特許文献2には、アシルセルロースで両面を挟持された偏光子シートのアシルセルロース表面にアシルセルロース以外の樹脂シートを、接着剤を用いて貼付することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−536719号公報
【特許文献2】特開2014−197226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、偏光子の劣化を抑える観点で検討を重ねた結果、上記特許文献1及び2記載のフィルムをはじめ従来の保護フィルムの構成では、上述した要求水準まで高度に薄膜化した際には水分の侵入を十分に防ぐことができず、偏光子の劣化を目的のレベルに抑えることが困難であることが明らかとなってきた。
本発明は、セルロースエステル樹脂層を備えた積層体であって、薄膜化しても水分の透過を効果的に抑えることができ、偏光子の保護フィルムとして用いた際に偏光子の劣化を効果的に抑えることができ、また層間の密着性に優れ、機械強度にも優れ、さらにセルロースエステル樹脂層が有する光学特性を高めることを可能とする積層体、この積層体を用いた位相差フィルム及び偏光板、並びに、この偏光板を用いた画像表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、特定構造の繰り返し単位を導入して溶解性を高めたポリアミドをセルロースエステルフィルムに塗布して得られる積層体が、層間の密着性に優れ、靭性にも優れること、また透湿度が低く偏光子の保護フィルムとして用いることにより高温高湿条件下での偏光子の劣化を効果的に抑えることができることを見出した。さらに上記積層体は、セルロースエステルフィルムが有する光学特性を大きく高めることができるものであった。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
セルロースエステル樹脂層と、このセルロースエステル樹脂層上に直接設けられたポリアミド樹脂層とを有し、上記ポリアミド樹脂層を構成するポリアミドが下記一般式(1)で表される繰り返し単位と下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを有する積層体。
【化1】
一般式(1)中、Rはハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基又はアシルオキシ基を示し、kは0〜4の整数である。Lは単結合、アルキレン基又はアリーレン基を示す。但し、Lがアリーレン基の場合、一般式(1)中に示されたベンゼン環と縮合して縮環を形成していてもよい。*は連結部位を示す。
【化2】
一般式(2)中、R及びRはアルキル基を示し、m及びnは0〜10の整数を示す。Xは単結合、アルキレン基又はアルケニレン基を示す。Zは単結合又はアルキレン基を示す。pは0又は1である。*は連結部位を示す。
〔2〕
上記一般式(1)で表される繰り返し単位が下記一般式(1−a)で表される繰り返し単位である、〔1〕記載の積層体。
【化3】
一般式(1−a)中、R、k及び*は、それぞれ上記一般式(1)におけるR、k及び*と同義である。
〔3〕
上記一般式(1−a)で表される繰り返し単位が下記一般式(1−b)で表される繰り返し単位である、〔2〕記載の積層体。
【化4】
一般式(1−b)中、R、k及び*は、それぞれ上記一般式(1−a)におけるR、k及び*と同義である。
〔4〕
上記一般式(2)で表される繰り返し単位が下記一般式(2−a)で表される繰り返し単位である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の積層体。
【化5】
一般式(2−a)中、R、R、m、n、X及び*は、それぞれ上記一般式(2)におけるR、R、m、n、X及び*と同義である。
〔5〕
上記一般式(2−a)で表される繰り返し単位が下記一般式(2−b)で表される繰り返し単位である、〔4〕記載の積層体。
【化6】
一般式(2−b)中、R、R、m、n及び*は、それぞれ上記一般式(2−a)におけるR、R、m、n及び*と同義である。
〔6〕
上記ポリアミド樹脂層を構成する上記ポリアミドが、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有する、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の積層体。
【化7】
一般式(3)中、rは2〜12の整数である。*は連結部位を示す。
〔7〕
上記セルロースエステル樹脂層がセルロースアシレート樹脂層である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の積層体。
〔8〕
〔7〕に記載の積層体を用いた位相差フィルム。
〔9〕
〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の積層体と、偏光子とを有する偏光板。
〔10〕
〔9〕に記載の偏光板を有する画像表示装置。
【0008】
本明細書において「〜」で表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0009】
本明細書において、特定の符号で表示された置換基、連結基等(以下、置換基等という)が複数あるとき、あるいは複数の置換基等を同時もしくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。また、複数の置換基等が近接(特に隣接)するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
【0010】
本明細書において化合物の表示については、化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、目的の効果を奏する範囲で、構造の一部を変化させたものを含む意味である。
本明細書において置換、無置換を明記していない置換基(連結基についても同様)については、所望の効果を奏する範囲で、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。これは置換、無置換を明記していない化合物についても同義である。
また本明細書において単に「置換基」という場合、特段の断りが無い限り、下記置換基群Tから選択される基が挙げられる。また、特定の範囲を有する置換基が記載されているだけの場合(例えば「アルキル基」と記載されているだけの場合)は、下記置換基群Tの対応する基(上記の場合はアルキル基)における好ましい範囲、具体例が適用される。
本明細書において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
【0011】
置換基群T:
アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8のものであり、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基などが挙げられる。)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜20、より好ましくは3〜12、特に好ましくは3〜8のものであり、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは6〜20、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20、より好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜6であり、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素原子数0〜20、より好ましくは0〜16、特に好ましくは0〜12であり、例えばスルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルチオ基などが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる。)、ウレタン基、ウレイド基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる。)、及びシリル基(好ましくは、炭素原子数3〜40、より好ましくは3〜30、特に好ましくは3〜24であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)。
これらの置換基は更に置換基を有してもよい。また、置換基が2つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、隣接する置換基は互いに連結して環を形成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層体及び位相差フィルムは、薄膜化しても水分の透過を効果的に抑えることができ、偏光子と重ねあわせることにより高温高湿条件下での偏光子の劣化を効果的に抑えることができる。また本発明の積層体は、層間の密着性および靭性に優れる。さらに本発明の積層体は、セルロースエステルフィルムが有する光学特性を大きく高めることを可能とする。
本発明の偏光板及び画像表示装置は上記効果を奏する本発明の積層体を有し、過酷な高温高湿条件下においても偏光子の劣化が効果的に抑えられる。
なお、本明細書において、高温高湿条件下における偏光子の劣化のし難さを「偏光子耐久性」または「偏光板耐久性」とも言う。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の積層体の一実施形態を示す断面図である。
図2図2は、本発明の偏光板保護フィルムを組み込んだ偏光板を備えた液晶表示装置の一実施形態について、その概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態について以下に説明する。
[積層体]
本発明の積層体は、図1に示すように、セルロースエステル樹脂層11と、このセルロースエステル樹脂層上に直接設けられたポリアミド樹脂層12を有し、このポリアミド樹脂を構成するポリアミドが特定構造の繰り返し単位を有する。本発明の積層体は、図1に示すようにセルロースエステル樹脂層11の片面に設けられていてもよいし、両面にポリアミド樹脂層が設けられた形態であってもよい。より好ましくは、本発明の積層体はセルロースエステル樹脂層11の片面にポリアミド樹脂層が設けられた形態である。
なお、ポリアミド樹脂層は、組成比が異なる2層以上をセルロースエステル樹脂層上に設けてもよい。2層以上のポリアミド樹脂層を形成する場合は、セルロースエステル樹脂層の片面に積層して2層のポリアミド樹脂層を設けてもよく、セルロースエステル樹脂層の両面にそれぞれ設けてもよい。
【0015】
また、本発明の積層体は、セルロースエステル樹脂層11とポリアミド樹脂層12の他、特定の機能に特化した各種機能層(図示していない)を有していてもよい。かかる機能層として、例えばハードコート層、反射防止層、光散乱層、防汚層、帯電防止層、等が挙げられる。
【0016】
<ポリアミド樹脂層>
本発明の積層体を構成するポリアミド樹脂層について説明する。
【0017】
本発明において「ポリアミド樹脂層」とは、後述する一般式(1)の繰り返し単位及び一般式(2)の繰り返し単位を有するポリアミド(以下、単に「ポリアミド」という)を層中に50質量%以上含有する層を意味する。ここで、ポリアミド樹脂層中、ポリアミドの含有量は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましい。ポリアミド樹脂層中のポリアミドの含有量が多い程、セルロースエステル樹脂層との密着性をより高めることができ、また低透湿性と靭性をより高めることができる点で好ましい。したがって、ポリアミド樹脂層中のポリアミドの含有量は100質量%でもよく、通常は99質量%以下である。上記ポリアミド樹脂層中のポリアミドの含有量が100質量%でない場合、残部は各種の慣用添加剤を含むことができる。かかる添加剤としては、可塑剤、有機酸、色素、ポリマー、レターデーション調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤などが例示される。
【0018】
−ポリアミド−
上記ポリアミド樹脂層を構成するポリアミドは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを有する。
【0019】
【化8】
【0020】
上記一般式(1)において、Rは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基又はアシルオキシ基を示し、水素原子であることがより好ましい。
として採り得るハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は臭素原子が好ましい。
として採り得るアルキル基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキル基の炭素数は1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜8がさらに好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜4がさらに好ましい。このアルキル基の好ましい具体例として、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、s−ブチル、イソブチルを挙げることができる。
【0021】
として採り得るシクロアルキル基は、その炭素数が3〜20が好ましく、3〜12がより好ましく、3〜8がさらに好ましい。このシクロアルキル基の好ましい具体例として、例えばシクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシルを挙げることができる。
【0022】
として採り得るアルコキシ基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルコキシ基の炭素数は1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜8がさらに好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜4がさらに好ましい。このアルコキシ基の好ましい具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、t−ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ、ヘプトキシ及びオクトキシが挙げられる。
【0023】
として採り得るアシルオキシ基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアシルオキシ基の炭素数は2〜20が好ましく、2〜10がより好ましく、2〜8がさらに好ましく、2〜4がさらに好ましい。このアシルオキシ基の好ましい具体例としては、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブタノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ピバロイルオキシなどが挙げられる。
【0024】
の数を示すkは0〜4の整数である。kは0〜3が好ましく、0〜2がより好ましく、0又は1がさらに好ましい。
kが2以上の場合、隣接する2つのR同士が連結して環を形成してもよい。R同士が連結して形成される環としては、ベンゼン環又はナフタレン環が好ましく(すなわち、一般式(1)中に示されたベンゼン環と縮合してナフタレン環、アントラセン環又はフェナントレン環を形成していることが好ましく)、ベンゼン環がより好ましい。
【0025】
Lは単結合、アルキレン基又はアリーレン基を示す。このアリーレン基は、一般式(1)中に示されたベンゼン環と縮合して縮環を形成していてもよい。Lは単結合又はアリーレン基が好ましい。
Lとして採り得るアルキレン基は直鎖でも分岐を有していてもよい。このアルキレン基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましく、1又は2がさらに好ましい。
なお、Lは、一般式(1)中のカルボニル基が置換している炭素原子(ベンゼン環中の炭素原子)に対してオルト位、メタ位およびパラ位のいずれの結合位置であってもよい。光学特性、靭性、溶解性向上の観点から、結合位置を適宜変更することができる。すなわち、同一ポリマー中に複数種類の結合位置が存在していてもよく、結合位置が異なるポリマー同士を混合してもよい。溶解性向上の観点からは、同一ポリマー中に複数種類の結合位置が存在していることが好ましい。
【0026】
Lとして採り得るアリーレン基は、その炭素数が6〜20が好ましく、6〜15がより好ましく、6〜12がさらに好ましく、6〜10がさらに好ましい。また、Lがアリーレン基の場合、このアリーレン基Lが有する置換基が、一般式(1)中に示されたベンゼン環と連結し、アリーレン基Lと一般式(1)中に示されたベンゼン環とを含めて3環式の環状構造が形成されている形態も好ましい。この場合、アリーレン基Lと一般式(1)中に示されたベンゼン環の両環に縮合する環(アリーレン基Lと一般式(1)中に示されたベンゼン環との間に形成される環)は5員環が好ましい。
また、Lがアリーレン基であって、このLが一般式(1)中に示されたベンゼン環と縮合して縮環を形成している場合、Lと一般式(1)中に示されたベンゼン環とを含んで形成される環はナフタレン環が好ましい。
【0027】
本明細書において*は連結部位を示す。
【0028】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位は、下記一般式(1−a)で表される繰り返し単位が好ましく、下記一般式(1−b)で表される繰り返し単位であることがより好ましい。
【0029】
【化9】
【0030】
【化10】
一般式(1−a)及び(1−b)中、R及びkは、それぞれ上記一般式(1)におけるR及びkと同義であり、好ましい形態も同じである。
【0031】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
【0033】
【化11】
【0034】
一般式(2)中、R及びRはアルキル基又はシクロアルキル基を示す。R及びRとして採り得るアルキル基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキル基の炭素数は1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜8がさらに好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜4がさらに好ましい。このアルキル基の好ましい具体例として、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、s−ブチル、イソブチルを挙げることができる。
【0035】
及びRとして採り得るシクロアルキル基は、その炭素数が3〜20が好ましく、3〜12がより好ましく、3〜8がさらに好ましい。このシクロアルキル基の好ましい具体例として、例えばシクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシルを挙げることができる。
【0036】
の数を示すm及びRの数を示すnは、いずれも0〜10の整数であり、0〜5が好ましく、0〜2がより好ましく、0又は1がさらに好ましい。Rが2以上の場合、2つのRが1つの環構成炭素原子、すなわち一般式(2)中のシクロヘキサン環を構成する1つの炭素原子に連結していてもよい。同様にRが2以上の場合、2つのRが1つの環構成炭素原子、すなわち一般式(2)中のシクロヘキサン環を構成する1つの炭素原子に連結していてもよい。
【0037】
Xは単結合、アルキレン基又はアルケニレン基を示し、アルキレン基が好ましい。
Xとして採り得るアルキレン基は直鎖でも分岐を有していてもよい。このアルキレン基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましく、1又は2がさらに好ましい。
Xとして採り得るアルケニレン基は直鎖でも分岐を有していてもよい。このアルケニレン基の炭素数は2〜10が好ましく、2〜5がより好ましく、2又は3がさらに好ましく、2がさらに好ましい。
なお、Xは、一般式(2)中の−NH−と結合しているシクロヘキサン環を構成する炭素原子(Rが置換しているシクロヘキサン環中の炭素原子であって、−NH−と結合している炭素原子)に対してオルト位、メタ位およびパラ位のいずれの結合位置であってもよい。結合位置は、光学特性、靭性、溶解性向上の観点から、適宜変更することができる。すなわち、同一ポリマー中に複数種類の結合位置が存在していてもよく、結合位置が異なるポリマー同士を混合してもよい。光学特定の観点からは結合位置をパラ位にすることが好ましい。また溶解性向上の観点からは、同一ポリマー中に複数種類の結合位置が存在していること、または、結合位置をメタ位にすることが好ましい。
【0038】
Zは単結合又はアルキレン基を示す。
Zとして採り得るアルキレン基は直鎖でも分岐を有していてもよい。このアルキレン基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましく、1又は2がさらに好ましい。
なお、後述のようにpが0の場合、Zは一般式(2)中のシクロヘキサン環のうち、Rが置換しているシクロヘキシル環と連結する。すなわち、下記構造となる。
【0039】
【化12】
【0040】
pは0又は1である。
【0041】
一般式(2)で表される繰り返し単位は下記一般式(2−a)で表される繰り返し単位であることが好ましく、下記一般式(2−b)で表される繰り返し単位であることがより好ましい。
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
一般式(2−a)及び(2−b)中、R、R、m、n及びXは、それぞれ上記一般式(2)におけるR、R、m、n及びXと同義であり、好ましい形態も同じである。
【0045】
上記一般式(2)で表される繰り返し単位の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
【化15】
【0047】
一般的に、ポリアミドは結晶性が高いポリマーとして知られており、その結晶性に起因して溶媒に対する溶解性に劣る。しかしながら、本発明に用いるポリアミドは上記一般式(1)で表される繰り返し単位と上記一般式(2)で表される繰り返し単位を有することにより、非晶性が高められている。すなわち、本発明に用いるポリアミドを上記構造とすることにより、溶媒に対する溶解性を大きく高めることができ、通常のポリアミドでは困難な、セルロースエステル樹脂層表面への塗布、成膜が可能となる。また上記ポリアミドは極性が高く、靭性に優れることから、セルロースエステル樹脂層との相互作用性を高めることができ、セルロースエステル樹脂層上に積層して積層体を形成した際の層間密着性を高度に高めることができ、かつ、靭性に優れた積層体を形成することが可能となる。さらに、上記積層体の透湿度は効果的に抑えられ、この積層体を偏光板の保護フィルムとして用いることにより偏光子の耐久性を高度に高めることができる。また、上記積層体を用いた位相差フィルムは、光学特性発現にも優れる。すなわち、波長分散特性がフラットないし逆分散性を示し、且つ位相差(特に面内方向レターデーション)の絶対値を大きく高めることができる。なお、光学特性は後述する延伸等により適宜調整することもできる。したがって、本発明の積層体は液晶セルのインナーフィルム(位相差フィルム)としても好適に用いることができる。
【0048】
上記ポリアミド中、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の含有量と上記一般式(2)で表される繰り返し単位の含有量との合計は、50〜100質量%が好ましく、60〜80質量%がより好ましい。また上記非晶性ポリアミド中、上記一般式(1)で表される繰り返し単位のモル量と上記一般式(2)で表される繰り返し単位のモル量の比は、一般式(1)/一般式(2)=40/60〜70/30を満たすことが好ましく、一般式(1)/一般式(2)=50/50〜60/40を満たすことがより好ましい。
【0049】
上記ポリアミド樹脂層には、上記一般式(1)で表される繰り返し単位と上記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリアミドと、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有するポリアミドを混合して用いることも好ましい。
また、上記ポリアミド樹脂層には、上記一般式(1)で表される繰り返し単位と上記一般式(2)で表される繰り返し単位と一般式(3)で表される繰り返し単位を1分子中に有するポリアミドを用いることがより好ましい。下記一般式(3)で表される繰り返し単位(一方の連結部位に−C(=O)−を有し、もう一方の連結部位に−NH−を有する繰り返し単位)を有することにより、ポリアミドの非晶性をより高めることができる。
【0050】
【化16】
【0051】
一般式(3)中、rは2〜12の整数であり、3〜11が好ましく、4〜11がさらに好ましい。
【0052】
上記一般式(3)で表される繰り返し単位の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
【化17】
【0054】
本発明に用いるポリアミドが、その分子中に上記一般式(1)〜(3)の各式で表される繰り返し単位のすべてを有する場合、このポリアミド中、一般式(3)で表される繰り返し単位の含有量は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。またこの場合、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位の合計モル量と一般式(3)で表される繰り返し単位のモル量との比は、[一般式(1)および一般式(2)の合計]/一般式(3)=50/50〜75/25を満たすことが好ましく、[一般式(1)および一般式(2)の合計]/一般式(3)=60/40〜70/30を満たすことがより好ましい。
【0055】
上記ポリアミドは、上記一般式(1)の繰り返し単位、一般式(2)の繰り返し単位及び一般式(3)の繰り返し単位以外の構造単位を有していてもよい。
上記ポリアミド中、上記一般式(1)の繰り返し単位、一般式(2)の繰り返し単位及び一般式(3)の繰り返し単位の含有量の合計は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また上記ポリアミドは、上記一般式(1)の繰り返し単位、一般式(2)の繰り返し単位及び一般式(3)の繰り返し単位からなる構造であることも好ましい。
【0056】
上記ポリアミドの重量平均分子量は、10,000〜500,000であることが好ましく、20,000〜300,000であることがより好ましく、20,000〜200,000であることがさらに好ましく、30,000〜150,000であることがさらに好ましい。
重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法等で測定することができる。
【0057】
本発明において、上記ポリアミド樹脂層の膜厚に特に制限はなく、1〜25μmが好ましく、2〜20μmがより好ましく、4〜15μmが特に好ましい。
【0058】
[セルロースエステル樹脂層]
本発明の積層体を構成するセルロースエステル樹脂層は、層中にセルロースエステルを50質量%以上含有する層である。セルロースエステル樹脂層中のセルロースエステルの含有量は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。セルロースエステル樹脂層中のセルロースエステルの含有量の上限は、通常は96質量%以下であり、95質量%以下が好ましく、92質量%以下がさらに好ましい。この場合、セルロースエステルを除く残部には、例えば後述する添加剤等が含まれる。
【0059】
<セルロースエステル>
本発明のセルロースエステル樹脂層の製造において、原料として用いるセルロースエステルについて説明する。
本発明で使用されるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、綿花リンタ、木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。原料セルロースは、例えば、丸澤、宇田著,「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」,日刊工業新聞社(1970年発行)又は発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
セルロースエステルとしては、セルロースエステルフィルムの製造に用いられる公知のセルロースエステルを何ら制限なく用いることができる。なかでもセルロースアシレートを用いることが好ましい。
【0060】
(セルロースアシレート)
本発明に用いるセルロースアシレートは、セルロースアシレートフィルムの製造に用いられる公知のセルロースアシレートを何ら制限なく用いることができる。
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離のヒドロキシ基を有している。セルロースアシレートは、これらのヒドロキシ基の一部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。
アシル置換度(以下、単に「置換度」ということがある)は、2位、3位及び6位に位置するセルロースのヒドロキシ基のアシル化の度合いを示すものであり、全てのグルコース単位の2位、3位及び6位のヒドロキシ基がいずれもアシル化された場合、総アシル置換度は3である。例えば、全てのグルコース単位で、6位のみが全てアシル化された場合、総アシル置換度は1である。同様に、全グルコースの全ヒドロキシ基において、各々のグルコース単位で、6位及び2位のいずれか一方の全てがアシル化された場合も、総アシル置換度は1である。
すなわち置換度は、グルコース分子中の全ヒドロキシ基が全てアシル化された場合を3として、アシル化の度合いを示すものである。
セルロースアシレートの置換度は、手塚他,Carbohydrate.Res.,273,83−91(1995)に記載の方法、又は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。
【0061】
本発明に用いるセルロースアシレートの総アシル置換度は透湿度の観点から1.50以上3.00以下であることが好ましく、2.00〜2.97であることがより好ましく、2.30以上2.97未満であることが更に好ましく、2.30〜2.95であることが特に好ましい。
【0062】
本発明に用いるセルロースアシレートのアシル基に特に制限はなく、1種のアシル基を有する形態でもよいし、2種以上のアシル基を有する形態でもよい。本発明に用いうるセルロースアシレートは、炭素数2以上のアシル基を置換基として有することが好ましい。炭素数2以上のアシル基に特に制限はなく、脂肪族のアシル基でもよいし、芳香族のアシル基でもよい。炭素数2以上のアシル基の具体例として、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ヘプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、イソブタノイル、tert−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが挙げられる。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、tert−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルが好ましく、さらに好ましくはアセチル、プロピオニル、ブタノイルである。
【0063】
セルロースアシレートのアシル基としてアセチル基のみを用いたセルロースアセテートは本発明に好適に用いることができ、このセルロースアセテートの総アシル置換度は、透湿度および光学特性の観点から、2.00以上3.00以下であることが好ましく、2.20〜3.00であることがより好ましく、2.30〜3.00であることが更に好ましく、2.30〜2.97であることが更に好ましく、2.30〜2.95であることが特に好ましい。
【0064】
2種類以上のアシル基を有する混合脂肪酸エステルも本発明におけるセルロースアシレートとして好ましく用いることができる。また、特開2008−20896号公報の段落0023〜0038に記載の、脂肪酸アシル基と置換もしくは無置換の芳香族アシル基とを有する混合酸エステルも好ましく用いることができる。なかでも混合脂肪酸エステルのアシル基には、アセチル基と炭素数が3〜4のアシル基が含まれることが好ましい。また、混合脂肪酸エステルがアシル基としてアセチル基を含む場合、そのアセチル置換度は2.5未満が好ましく、1.9未満が更に好ましい。一方、炭素数が3〜4のアシル基を含む場合の炭素数が3〜4のアシル基の置換度は0.1〜1.5であることが好ましく、0.2〜1.2であることがより好ましく、0.5〜1.1であることが特に好ましい。
本発明に用いるセルロースエステル樹脂層として、後述の共流延法などにより、異なるセルロースアシレートからなる複数層からなる樹脂層を採用することも好ましい。
【0065】
本発明に用いるセルロースエステルないしセルロースアシレートは、その重合度が250〜800が好ましく、300〜600が更に好ましい。また、本発明に用いるセルロースエステルないしセルロースアシレートは、その数平均分子量が40000〜230000が好ましく、60000〜230000が更に好ましく、75000〜200000が最も好ましい。重合度は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)によりポリスチレン換算で測定される数平均分子量をセルロースエステルないしセルロースアシレートのグルコピラノース単位の分子量で序することで求めることができる。
【0066】
本発明に用いるセルロースエステルは常法により合成することができる。例えばセルロースアシレートであれば、アシル化剤として酸無水物、酸塩化物等を用いて合成できる。上記アシル化剤が酸無水物である場合は、反応溶媒として有機酸(例えば、酢酸)、塩化メチレン等が使用される。また、触媒として、硫酸のようなプロトン性触媒を用いることができる。アシル化剤が酸塩化物である場合は、触媒として塩基性化合物を用いることができる。セルロースアシレートの一般的な工業的生産では、セルロースを目的のアシル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)又はそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等)を用いてそのヒドロキシ基がエステル化される。
例えば、綿花リンター又は木材パルプ由来のセルロースを原料とし、これを酢酸等の有機酸で活性化処理した後、硫酸触媒の存在下で、所望の構造の有機酸を用いてエステル化することによりセルロースアシレートを得ることができる。また、アシル化剤として有機酸無水物を用いる場合には、一般にセルロース中に存在するヒドロキシ基の量に対して有機酸無水物を過剰量で使用してセルロースをエステル化する。
またセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載された方法により合成することもできる。
【0067】
また、本発明のセルロースエステル樹脂層中には、本発明の効果を損なわない範囲でセルロースエステルに加えて他の樹脂(例えば(メタ)アクリル樹脂等)を併用して用いることもできる。セルロースエステルフィルム中の上記他の樹脂の含有量は、セルロースエステルフィルム中、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
<セルロースエステル樹脂層の形成>
続いて上記セルロースエステル樹脂層の形成について説明する。
上記セルロースエステル樹脂層の形成は、特に限定されるものではなく、例えば溶融製膜法または溶液製膜法(ソルベントキャスト法)により形成することが好ましく、添加剤の揮散、分解等を考慮すると溶液製膜法(ソルベントキャスト法)により形成することがより好ましい。ソルベントキャスト法を利用したポリマーフィルムの製造例については、米国特許第2,336,310号、同第2,367,603号、同第2,492,078号、同第2,492,977号、同第2,492,978号、同第2,607,704号、同第2,739,069号および同第2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号および同第736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号および同62−115035号等の各公報を参考にすることができる。また、上記セルロースエステル樹脂層は、延伸処理が施されていてもよい。延伸処理の方法および条件については、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号等の各公報を参考にすることができる。
【0069】
(流延)
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属等の支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があり、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプ、Tダイタイプ等があるが、いずれも好ましく用いることができる。また、ここで挙げた方法以外にも、従来知られているセルロースエステル溶液を流延製膜する種々の方法で実施することができ、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することができる。
【0070】
セルロースエステル樹脂層は単層であっても複層であってもよく、複層とする場合には、共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に同時共流延(同時多層共流延ともいう。)法を用いることが、安定製造及び生産コスト低減の観点から特に好ましい。
共流延法及び逐次流延法によりセルロースエステル樹脂層を製造する場合には、先ず、各層用のセルロースエステル溶液(ドープともいう)を調製し、この溶液を支持体上に流延する。
共流延法(重層同時流延)では、まず流延用支持体(バンド又はドラム)の上に、各層(3層あるいはそれ以上でもよい)各々の流延用ドープを別々のスリットなどから同時に押出すことができる流延用ギーサを用いてドープを押出して、各層同時に流延する。流延後、適当な時間をおいて支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。共流延ギーサを用いることにより、例えば、流延用支持体の上に表層用ドープから形成された表層2層と、これら表層に挟まれたコア層用ドープからなるコア層の計3層を、支持体上に同時に押出して流延することができる。
【0071】
逐次流延法では、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延し、乾燥あるいは乾燥することなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延する要領で、必要なら第3層以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時間をおいて支持体から剥ぎ取って乾燥し、セルロースエステル樹脂層を形成する。
また塗布法では、一般的には、コア層を溶液製膜法によりフィルム状に形成し、その表層に、目的のセルロースエステル溶液である塗布液を塗布し、乾燥して、積層構造のセルロースエステル樹脂層を形成する。
【0072】
(延伸)
上記セルロースエステル樹脂層は、上記の流延、乾燥後、延伸処理されていることも好ましい。セルロースエステル樹脂層の延伸方向はフィルム搬送方向(MD(Machine Direction)方向)と搬送方向に直交する方向(TD(Transverse Direction)方向)のいずれでもよい。後に続く偏光板加工プロセスを考慮すると、TD方向であることが好ましい。延伸処理は2段階以上に分けて複数回行ってもよい。
【0073】
TD方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。TD方向の延伸の場合、フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによって延伸することができる。またポリマーフィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
MD方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりも巻き取り速度を速くすることで行うことができる。
【0074】
本発明の積層体を偏光子の保護膜(偏光板保護フィルムとも呼ぶ)として使用する場合には、偏光板を斜めから見たときの光漏れを抑制するため、偏光子の透過軸とセルロースエステル樹脂層の面内の遅相軸を平行に配置する態様が好ましい。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光子の透過軸は、一般的に、ロールフィルムの幅方向に平行であるので、上記ロールフィルム状の偏光子とロールフィルム状のセルロースエステル樹脂層からなる保護膜を連続的に貼り合せるためには、ロールフィルム状の保護膜の面内遅相軸は、セルロースエステル樹脂層の幅方向に平行であることが必要となる。従ってTD方向により多く延伸することが好ましい。また延伸処理は、製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。
【0075】
TD方向の延伸は5〜100%が好ましく、より好ましくは5〜80%、特に好ましくは5〜40%とする。なお、未延伸の場合、延伸は0%となる。延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。前者の場合には残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行ってもよく、残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%が0.05〜50%の状態で延伸することが好ましい。残留溶剤量が0.05〜5%の状態で5〜80%延伸することがより好ましい。
【0076】
<添加剤>
上記セルロースエステル樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、公知の可塑剤、有機酸、色素、ポリマー、レターデーション調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤などが例示される。これらについては、特開2012−155287号公報の段落番号0062〜0097の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。また、添加剤としては、剥離促進剤、有機酸、多価カルボン酸誘導体を挙げることもできる。これらについては、国際公報WO2015/005398号段落0212〜0219の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
添加剤の含有量(上記積層体が二種以上の添加剤を含有する場合には、それらの合計含有量)は、積層体100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、5〜20質量部であることがさらに好ましい。
【0077】
<鹸化処理>
上記セルロースエステル樹脂層は、アルカリ鹸化処理することにより、ポリビニルアルコールのような偏光子の材料との密着性を高めることができる。
鹸化の方法については、特開2007−86748号公報の段落番号0211及び段落番号0212に記載されている方法を用いることができる。
【0078】
例えば、セルロースエステル樹脂層に対するアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられる。水酸化イオンの濃度は0.1〜5.0mol/Lの範囲が好ましく、0.5〜4.0mol/Lの範囲がさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲が好ましく、40〜70℃の範囲がさらに好ましい。
【0079】
アルカリ鹸化処理の代わりに、特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。
【0080】
上記セルロースエステル樹脂層の膜厚は、1〜80μmが好ましく、1〜60μmがより好ましく、3〜60μmがさらに好ましい。
【0081】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体の製造方法について説明する。
本発明の積層体は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。溶融製膜法、溶液製膜法(ソルベントキャスト法)の他、後述する方法でセルロースエステル樹脂層を作製した後、各種公知の塗布方法によりポリアミド樹脂層を形成し、積層体を製造することもできる。このような塗布方法としては特に制限はないが、マイクログラビア塗工方式を好ましく用いることができる。なお、いずれの塗布方法を用いた場合であっても、ポリアミドを、適宜の溶媒に適宜の濃度で溶解したものであれば、塗布液は特に限定されず、塗工条件及び成膜条件も特に限定されない。
なお、量産適性の観点から、溶融製膜法、溶液製膜法(ソルベントキャスト法)により製造することが好ましい。溶融製膜法としては、T−ダイ法などの製造法を用いることが好ましく、特に同時共押し出し法を用いることが好ましい。溶液製膜法としては、上記共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に同時共流延(同時多層共流延ともいう。)法を用いることが、安定製造および生産コスト低減の観点から特に好ましい。
本発明の積層体を構成するポリアミド樹脂層の厚さは、1〜80μmが好ましく、1〜60μmがより好ましい。
【0082】
<積層体の物性値>
(ヘイズ)
本発明の積層体は、下記方法により測定されるヘイズが1%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。このようなヘイズを示す積層体は、透明性に優れ、液晶表示装置のフィルム部材として好適である。ヘイズの下限値は、例えば0.001%以上であるが、特に限定されない。
ヘイズは、積層体40mm×80mmを用いて、25℃、相対湿度60%の環境下で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いて、JIS K7136(2000)にしたがって測定する。
【0083】
(膜厚)
本発明の積層体の膜厚は、用途に応じ適宜定めることができるが、例えば、5〜100μmとすることができる。5μm以上とすることにより、ウェブ状のフィルムを作製する際のハンドリング性が向上し好ましい。また、100μm以下とすることにより、湿度変化に対応しやすく、光学特性を維持しやすくなる。積層体の膜厚は、8〜80μmがより好ましく、10〜70μmが更に好ましい。
【0084】
(透湿度)
上記積層体の透湿度は、JIS Z−0208をもとに、40℃、相対湿度90%の条件において測定される。
本発明の積層体の透湿度は、1600g/m/day(24時間)以下であることが好ましく、1000g/m/day以下であることがより好ましく、600g/m/day以下であることがさらに好ましく、200g/m/day以下であることが特に好ましい。積層体の透湿度を上記範囲に制御することで、本発明の積層体を搭載した液晶表示装置の常温、高湿及び高温高湿環境経時後の、液晶セルの反りや、黒表示時の表示ムラを抑制できる。
【0085】
(含水率)
上記積層体の含水率(平衡含水率)は、偏光板の保護フィルムとして用いる際、ポリビニルアルコールなどの親水性熱可塑性樹脂との接着性を損なわないために、膜厚に関わらず、25℃、相対湿度80%における含水率が、0〜4質量%であることが好ましい。0〜2.5質量%であることがより好ましく、0〜1.5質量%であることが更に好ましい。平衡含水率が4質量%以下であれば、レターデーションの湿度変化による依存性が大きくなり過ぎず、液晶表示装置の常温、高湿及び高温高湿環境経時後の黒表示時の表示ムラを抑止の点からも好ましい。
含水率の測定法は、フィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置「CA−03」及び「VA−05」(共に三菱化学(株)製)を用いてカールフィッシャー法で測定することができる。含水率は水分量(g)を試料質量(g)で除して算出できる。
【0086】
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは本発明の積層体を用いてなる。上記で得られる本発明の積層体を延伸し、本発明の位相差フィルムとして用いることが好ましい。本発明の積層体は、延伸により大きな正の配向複屈折を発現しうる。従って、本発明の位相差フィルムは、後述する本発明の液晶表示装置に好ましく組み込むことができ、液晶表示装置において視野角改善効果の高い位相差フィルムとして機能することができる。
【0087】
<位相差フィルムの製造(積層体の延伸)>
上記積層体の延伸では、積層体搬送方向(以下、縦方向とも言う)と積層体搬送方向に直交する方向(以下、横方向とも言う)のいずれの方向に延伸してもよいが、少なくとも横方向に延伸することが、所望のレターデーションを発現させる観点から好ましい。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。
【0088】
積層体搬送方向への延伸における延伸率は、0〜20%であることが好ましく、0〜15%であることがより好ましく、0〜10%であることが特に好ましい。上記延伸の際の積層体ウェブの延伸率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。例えば、2つのニップロールを有する装置を用いた場合、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)に積層体を好ましく延伸することができる。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性を調整することができる。
なお、ここでいう「延伸率」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸率=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0089】
積層体搬送方向に直交する方向への延伸における延伸率は、20%超であることが好ましく、20%超から100%以下であることがより好ましく、25〜80%であることが特に好ましく、25〜60%であることがより特に好ましい。
延伸開始時の温度は100℃以上220℃以下であることが好ましく、120℃以上200℃以下であることがより好ましい。
なお、本発明においては、積層体搬送方向に直交する方向に延伸する方法として、テンター装置を用いて延伸することが好ましい。
幅手方向に延伸する際の、延伸開始時の積層体の残留溶媒量は0質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0質量%以上2.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上2.1質量%以下であることがさらに好ましい。
残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100ここで、Mはフィルム(ウェブ)の任意時点での質量、NはMを測定したフィルムを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0090】
<レターデーション>
本発明において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。
本発明において、Re(λ)、Rth(λ)はAxoScan OPMF−1(オプトサイエンス社製)において、波長λで測定した値である。AxoScanにて平均屈折率((Nx+Ny+Nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
Rth(λ)=(Nz−(Nx+Ny)/2)×d
が算出される。
【0091】
<屈折率>
本発明において、屈折率Nx、Ny、Nzは、アッベ屈折計(NAR−4T、アタゴ(株)製)を使用し、光源にナトリウムランプ(λ=589nm)を用いて測定する。また波長依存性を測定する場合は、多波長アッベ屈折計DR−M2(アタゴ(株)製)にて、干渉フィルタとの組合せで測定できる。
【0092】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子と、この偏光子の保護フィルムとして本発明の積層体を少なくとも1枚含む。
【0093】
偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬して延伸した偏光子を用いる場合、例えば、接着剤を用いて偏光子の少なくとも一方の面に、上記積層体におけるセルロースエステル樹脂層の鹸化処理面を貼り合わせることができる。上記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックス、紫外線硬化型の接着剤を用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0094】
本発明の偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法に準じて作製することができる。例えば、本発明の積層体をアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号に記載されているような易接着加工を施してもよい。また前述のような表面処理を行ってもよい。
積層体がセルロースエステル樹脂層の片面にポリアミド樹脂層が設けられた形態である場合、上記積層体の偏光子との貼合面は、ポリアミド樹脂層の側でもよいし、セルロースエステル樹脂層の側でも良い。本発明の効果をより高める観点から、セルロースエステル樹脂層の側を偏光子と直接貼合することが好ましい。
【0095】
本発明の積層体の偏光子への貼り合せは、偏光子の透過軸と本発明の積層体の遅相軸が平行、直交または45°となるように貼り合せることが好ましい。遅相軸の測定は、公知の種々の方法で測定することができ、例えば、複屈折計(KOBRADH、王子計測機器(株)製)を用いて行うことができる。
ここで、平行、直交または45°については、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含む。例えば、それぞれ平行、直交及び45°に関する厳密な角度から±10°の範囲内であることを意味し、厳密な角度との誤差は、±5°の範囲内が好ましく、±3°の範囲内がより好ましい。
偏光子の透過軸と本発明の積層体の遅相軸についての平行とは、本発明の積層体の主屈折率nxの方向と偏光子の透過軸の方向とが±10°の角度で交わっていることを意味する。この角度は、±5°の範囲内が好ましく、より好ましくは±3°の範囲内、さらに好ましくは±1°の範囲内、最も好ましくは±0.5°の範囲内である。
また、偏光子の透過軸と本発明の積層体の遅相軸についての直交とは、本発明の積層体の主屈折率nxの方向と偏光子の透過軸の方向とが90°±10°の範囲内の角度で交わっていることを意味する。この角度は、好ましくは90°±5°の範囲内、より好ましくは90°±3°の範囲内、さらに好ましくは90°±1°の範囲内、最も好ましくは90°±0.1°の範囲内である。上述のような範囲であれば、偏光板クロスニコル下における偏光度性能の低下が抑制され、光抜けが低減され好ましい。
【0096】
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、保護フィルムの少なくとも1枚を、本発明の積層体とすることが好ましい。更に通常は、この偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0097】
<偏光度>
本発明の偏光板は、偏光度が95.0%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、最も好ましくは99.5%以上である。
【0098】
本発明において、偏光板の偏光度は、日本分光(株)製自動偏光フィルム測定装置VAP−7070を用いて測定することができる。より詳細には、波長380nm〜700nmで測定した直交透過率および平行透過率から以下の式により偏光度スペクトルを算出し、さらに光源(補助イルミナントC)とCIE視感度(Y)の重み付け平均を計算することにより求めることができる。
【0099】
偏光度(%)
={(平行透過率−直交透過率)/(平行透過率+直交透過率)}1/2×100
【0100】
<偏光度変化量>
本発明の偏光板は、湿熱経時条件下における耐久性に優れる。このため、後述する偏光板耐久性試験前後での偏光度の変化量は小さい。
本発明の偏光板は、日本分光(株)製自動偏光フィルム測定装置VAP−7070を用いて直交透過率および平行透過率を測定し、上記式により偏光度を算出し、特に、85℃、相対湿度85%の環境下で500時間保存した場合の偏光度変化量が5%未満であるのが好ましい。
【0101】
<その他の特性>
本発明の偏光板のその他の好ましい光学特性等については特開2007−086748号公報の段落番号0238〜0255に記載されており、これらの特性を満たすことが好ましい。
【0102】
[画像表示装置]
本発明の偏光板は画像表示装置用途として好ましく用いられる。かかる画像表示装置として、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等が挙げられる。有機エレクトロルミネッセンス表示装置に用いる場合、例えば反射防止用途に用いられる。なかでも本発明の偏光板は液晶表示装置に好適に用いられる。
<液晶表示装置>
本発明の画像表示装置としての一実施形態である液晶表示装置は、液晶セルと、この液晶セルの少なくとも一方に配置された本発明の偏光板とを含む。
【0103】
上記液晶表示装置の好ましい実施形態について説明する。
図2は、上記液晶表示装置の一実施形態を示す概略図である。図2において、液晶表示装置20は、液晶層24とこの上下に配置された液晶セル上電極基板23及び液晶セル下電極基板25とを有する液晶セル、液晶セルの両側に配置された上側偏光板21及び下側偏光板26からなる。液晶セルと各偏光板との間にカラーフィルターを配置してもよい。液晶表示装置20を透過型として使用する場合は、冷陰極あるいは熱陰極蛍光管、あるいは発光ダイオード、フィールドエミッション素子、エレクトロルミネッセント素子を光源とするバックライトを背面に配置する。液晶セルの基板は、一般に50μm〜2mmの厚さを有する。
【0104】
上側偏光板21及び下側偏光板26は、通常は、それぞれ2枚の偏光板保護フィルムで偏光子を挟むように積層した構成を有している。本発明の液晶表示装置20は、少なくとも一方の偏光板が本発明の偏光板であることが好ましい。本発明の液晶表示装置20が備える偏光板21及び26は、装置の外側(液晶セルから遠い側)から順に、偏光板保護フィルムとしての本発明の積層体、偏光子、一般の透明保護フィルムの順序で各層が積層された形態が好ましい。また、上記一般の透明保護フィルムに代えて、本発明の積層板を位相差フィルムとして用いた形態も好ましい。
液晶セルの基板は、一般に50μm〜2mmの厚さを有する。
【0105】
(液晶表示装置の種類)
本発明のセルロースエステルフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−PlaneSwitching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectricLiquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。本発明のセルロースエステルは、いずれの表示モードの液晶表示装置にも好適に用いることができる。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0106】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0107】
[合成例]
<合成例1:ポリアミドP−1の合成>
温度計、攪拌羽根、還流管を供えた3Lの三口フラスコに、N−メチルピロリドン1.8L、イソホロンジアミン(東京化成製)59.6gを仕込み、氷冷下、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド88.5gを内温が15℃以下となるように1時間かけて分割添加した。次いで40℃で1時間攪拌し、さらに60℃で4時間攪拌した。反応終了後、反応液を過剰のエタノール中に投入することでポリマーを沈殿させた。沈殿をろ別し、大量のメタノールで洗浄した。得られたポリマーを85℃で8時間真空乾燥することで目的のポリアミドP−1を120.2g得た。(収率98%)
【0108】
<合成例2:ポリアミドP−2〜P−9及び比較ポリアミドHP−1の合成>
上記合成例1において、使用するモノマー種及び仕込み比を下記表1に示す通りに変更したこと以外は合成例1と同様にして、ポリアミドP−2〜P−9及び比較ポリアミドHP−1を得た。
【0109】
下記表1中、ポリアミドの重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)によりポリスチレン換算で測定される重量平均分子量を採用した。具体的な測定条件を以下に示す。
GPC装置:東ソー社製GPC装置(HLC−8320GPC、Ecosec)
カラム:TSK gel SuperHZM−H、TSK gel SuperHZ4000、TSK gel SuperHZ2000併用、(東ソー製、4.6mmID(内径)×15.0cm)
溶離液:N−メチルピロリドン(NMP)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
【0110】
[試験例1:ポリアミドの溶解性試験]
バイアル瓶に、上記で合成したポリアミド0.2gと、塩化メチレン/メタノール(=80/20(w/w))混合溶媒の所定量(ポリアミド濃度が10wt%、5wt%、1wt%となるように調整)とを量りとり、ローター(アズワン社製、MIX ROTOR VMR−SR)を用いて、室温にて1時間攪拌した。攪拌終了後、目視にて溶解状態を観察し、下記評価基準にて評価した。
(評価基準)
A:10wt%で完溶する
B:5wt%で完溶するが、10wt%では完溶しない
C:1wt%で完溶するが、5wt%では完溶しない
D:1wt%で不溶分がある
結果を下表に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
[製造例1:積層体S−1〜S−10および比較積層体HS−1の作製]
【0113】
<セルロースエステル樹脂層CA−1の形成>
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液(ドープA)を調製した。
[セルロースアセテート溶液(ドープA)の組成]
アセチル置換度2.86のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
紫外線吸収剤(チヌビン328 チバ・ジャパン製) 0.9質量部
紫外線吸収剤(チヌビン326 チバ・ジャパン製) 0.2質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 336質量部
メタノール(第2溶媒) 29質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 11質量部
【0114】
バンド流延装置を用い、上記ドープAを2000mm幅でステンレス製のエンドレスバンド(流延支持体)に流延ダイから均一に流延した。ドープ中の残留溶媒量が40質量%になった時点で流延支持体から高分子膜として剥離し、テンターにて積極的に延伸をせずに搬送し、乾燥ゾーンにおいて130℃で乾燥した。得られたセルロースエステル樹脂層(セルロースエステルフィルム)CA−1の厚さは55μmであった。
【0115】
<セルロースエステル樹脂層CA−2の作製>
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、固形分濃度18質量%のセルロースアセテート溶液(ドープB)を調製した。
−セルロースアセテート溶液(ドープB)の組成−
アセチル置換度2.43のセルロースアセテート 100質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 394質量部
メタノール(第2溶媒) 59質量部
【0116】
バンド流延装置を用い、上記ドープBを2000mm幅でステンレス製のエンドレスバンド(流延支持体)に流延ダイから均一に流延した。ドープB中の残留溶媒量が40質量%になった時点で流延支持体から高分子膜として剥離し、テンターにて積極的に延伸をせずに搬送し、乾燥ゾーンにおいて130℃で乾燥を行った。得られたセルロースエステル樹脂層(セルロースエステルフィルム)CA−2の厚さは55μmであった。
【0117】
<積層体S−1の作製>
図1に示す形態の積層体を下記のようにして作製した。
上記ポリアミドP−1を固形分15質量%となるようにテトラヒドロフラン/メタノール(80/20(w/w))混合溶媒中に混合した後、攪拌機をつけたガラス製セパラブルフラスコに仕込み、室温で5時間攪拌した。その後、孔径5μmのポリプロピレン製デプスフィルターでろ過し、ポリアミド樹脂層形成用組成物を得た。上記セルロースエステル樹脂層CA−1上に、上記ポリアミド樹脂層形成用組成物を、グラビアコーターを用いて塗布した。次いで25℃で1分間乾燥し、さらに120℃で約5分間乾燥して膜厚60μmの積層体S−1を得た。
【0118】
<積層体S−2〜S−10及び比較積層体HS−1の作製>
上記積層体S−1の作製において、ポリアミド樹脂層及びセルロースエステル樹脂層を下記表2に示す通りに変更したこと以外は、積層体S−1と同様にして積層体S−2〜S−10を作製した。
また、上記積層体S−1の作製において、テトラヒドロフラン/メタノール混合溶媒の組成を60/40(w/w)に変更し、ポリアミド樹脂層及びセルロースエステル樹脂層を下記表2に示す通りに変更したこと以外は、積層体S−1と同様にして比較積層体HS−1を作製した。
なお、セルロースエステル樹脂層CA−1を用いた積層体の厚さはいずれも60μmであり、セルロースエステル樹脂層CA−2を用いた積層体の厚さも60μmであった。
【0119】
[試験例2:積層体の層間密着性試験]
積層体の層間密着性は、JIS K 5400に準処した碁盤目試験を適用した。具体的な手順を以下に示す。
上記で調製した各積層体のポリアミド樹脂層側の面にカッターナイフおよびカッターガイドを用いて、1mm間隔の11本の切り傷をつけ100個の碁盤目を作製した。この碁盤目上にセロハンテープを強く圧着させた後、テープの端を45°の角度で一気に剥がし、碁盤目の状態(碁盤目を構成する格子の剥がれの状態)を観察した。観察結果を下記評価基準に当てはめ評価した。
<密着性評価基準>
A+:どの格子の目も剥がれない場合
A:格子の目の剥がれが5%未満である場合
B:格子の目の剥がれが5%以上15%未満である場合
C:格子の目の剥がれが15%以上30%未満である場合
D:格子の目の剥がれが30%以上である場合
結果を下記表2に示す。
【0120】
[試験例3:積層体の透湿度(40℃90%相対湿度での透湿度)の評価]
透湿度は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁〜294頁:蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)を適用し、評価した。具体的な手順を以下に示す。
JIS Z−0208の方法に準じて、上記で作製した各積層体を裁断し、この裁断した積層体を透湿カップに装着して試験試料とした。この試験試料を温度40℃、相対湿度90%の条件下で24時間調湿した。
調湿前後における試験試料の質量をそれぞれ秤量し、調湿前の試験試料の質量をA、調質後の試料の質量をBとして、24時間で試料を通過する水分量Δmを、下記式より算出した。
Δm=A−B
次いで、上記Δmを試料面積1mあたりの値に換算し、透湿度(g/m/day)とした。得られた各積層体の透湿度を下記評価基準により評価した。
<透湿度評価基準>
A:透湿度が500g/m/day未満である。
B:透湿度が500g/m/day以上1000g/m/day未満である。
C:透湿度が1000g/m/day以上である。
結果を下記表2に示す。
【0121】
[試験例4:積層体の脆性(靭性)の評価]
積層体の脆性は、JIS K−5600−5−1(第5部:塗膜の機械的性質−第1節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法))に基づき、マンドレル直径の値を用いて評価した。具体的な試験手順を以下に示す。
上記で作製した各積層体の試料片50mm×100mmを、25℃、65%RH条件下に2時間調湿した。次いで、円筒形マンドレル屈曲試験器を用いて上記各試験片のマンドレル直径を測定した。具体的には、試験片のポリアミド樹脂層の側を外側にして屈曲した。割れ又は剥がれが生じるまで、マンドレルをより小さいものに変更し、割れ又は剥がれが初めて生じたマンドレル直径を、各試料におけるマンドレル直径とした。得られたマンドレル直径の値を下記基準に当てはめ評価した。
<脆性(靭性)評価基準>
A:マンドレル直径が2mm未満
B:マンドレル直径が2mm以上3mm未満
C:マンドレル直径が3mm以上5mm未満
結果を下記表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
表2に示される通り、積層体のポリアミド樹脂層に本発明で規定するポリアミドを用いていない比較例1では、ポリアミド樹脂層とセルロースエステル層との密着性に劣り、透湿度も高い結果となった。
これに対し、積層体のポリアミド樹脂層に本発明で規定するポリアミドを用いた実施例1〜11では、積層体を構成するポリアミド樹脂層とセルロースエステル層との密着性に優れ、また透湿度も低く、さらに靭性にも優れる結果となった。
【0124】
[製造例2:位相差フィルムの作製]
上記積層体S−9を、クリップで把持し、固定端一軸の条件で、温度180℃でTD方向に50%延伸することで表3記載の実施例12の位相差フィルムを作製した。積層体S−10、ポリアミド樹脂P−7およびセルロースエステルCA−2も同様の条件で延伸することで表3記載の実施例14、比較例2及び比較例3の位相差フィルムを作製した。
【0125】
[試験例5:位相差フィルムのレターデーション(Re)と波長分散性(ΔRe)の測定]
位相差フィルムのレターデーション(Re)と波長分散性(ΔRe)は、AxoScan OPMF−1(オプトサイエンス社製)において、波長590nmで測定した。
結果を下記表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
上記表3に示される通り、本発明で規定するポリアミドで形成したポリアミド樹脂層のみでは、ΔReがマイナス(−)となり、負の波長分散性を示した(比較例2)。これに対し、セルロースエステル樹脂層(CA−2)はΔReがプラス(+)となり、波長分散性が逆分散性であることがわかる。そして、セルロースエステル樹脂層(CA−2)に本発明で規定するポリアミドで形成したポリアミド樹脂層を積層した積層体においては、波長分散性がフラットか又は逆分散性を示し、且つ、位相差の絶対値が大きく高められることがわかった。
すなわち本発明の積層体を用いた位相差フィルムが、液晶表示装置における偏光板のインナー側フィルムとして好適な光学特性を示すことがわかった。
【0128】
[製造例3:偏光板PL−1、並びに、比較偏光板HPL−1及びHPL−2の作製]
以下のようにして、偏光板PL−1、HPL−1およびHPL−2を作製した。
(1)活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の調製
各成分を下記に示す組成で混合し、50℃で1時間撹拌して、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を得た。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ラジカル重合成化合物:東亜合成社製アロニックスM−220
20.0質量部
興人社製N−ヒドロキシルアクリルアミド
40.0質量部
興人社製アクロイルモルホリン 40.0質量部
ラジカル重合開始剤 :日本化薬社製KAYACURE DETX−S
0.5質量部
ラジカル重合開始剤 :BASF社製IRGACURE907
1.5質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0129】
(2)アートンフィルムF−1の作製
JSR社製アートンG7810を用いて厚み40μmのアートンフィルムF−1(フィルムF−1ともいう)を作製した。フィルムF−1の表面をコロナ処理した。コロナ処理を施した表面に、上記で調製した活性エネルギー線硬化型接着剤組成物をMCDコーター(富士機械社製、セル形状:ハニカム、グラビアロール線数:1000本/INCH、回転速度140%/対ライン速)を用いて、厚み0.5μmになるように塗布した。
【0130】
(3)鹸化
別途、実施例1で作製した各積層体S−9およびHS−1、ならびにセルロースエステル樹脂層CA−1のみからなる単層フィルムを、それぞれ、以下のようにして、鹸化処理した。
各積層体および単層フィルムを、それぞれ、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(鹸化液)に2分間浸漬した後、水洗した。次いで、各積層体および単層フィルムを、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、更に水洗浴を30秒流水下に通して、フィルムを中性の状態にした。得られた各積層体および単層フィルムについて、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、各積層体および単層フィルムを鹸化処理した。
【0131】
(4)偏光子の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて膜厚27μmの偏光子を作製した。
【0132】
(5)貼り合わせ
次いで、フィルムF−1の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布した面と、各積層体および単層フィルムの鹸化処理した面を、それぞれ偏光子の片側表面に、偏光子を挟んで互いに対向するように貼り合わせた。このとき、偏光子の透過軸とフィルムF−1の遅相軸が垂直となるように、配置した。その後、貼り合わせたフィルム(フィルムF−1と各積層体および単層フィルム)の両表面側から、IRヒーターを用いて、50℃に加温した。
更に、貼り合わせたフィルム(フィルムF−1と各積層体および単層フィルム)の両表面側から、下記に示す活性エネルギー線を照射して、上記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物をそれぞれ硬化させた。
その後、70℃で3分間熱風乾燥して、表3記載の偏光板を得た。
【0133】
(活性エネルギー線)
活性エネルギー線として、紫外線(ガリウム封入メタルハライドランプ)、照射装置:Fusion UV Systems,Inc社製Light HAMMER10、バルブ:Vバルブ、ピーク照度:1600mW/cm、積算照射量1000/mJ/cm(波長380〜440nm)を使用した。なお、紫外線の照度は、Solatell社製Sola−Checkシステムを使用して測定した。
【0134】
[試験例6:偏光板の偏光子耐久性の評価]
偏光板の耐久性は、偏光板をガラス板に粘着剤を介して貼り付けた形態で次のようにして直交透過率および偏光度をそれぞれ測定した。
ガラス板の上に偏光板を、フィルムF−1の側がガラス面側となるように貼り付けたサンプル(約5cm×5cm)を2つ作製した。これらのサンプルについて、ガラス板側を光源に向けてセットして偏光度を測定した。2つのサンプルをそれぞれ測定し、算術平均した値を偏光板の偏光度とした。
なお、偏光度は、以下の式により算出した。
【0135】
偏光度(%)=[(平行透過率−直交透過率)/(直交透過率+平行透過率)]1/2×100
【0136】
偏光度は、日本分光社製、自動偏光フィルム測定装置VAP−7070を用いて380nm〜780nmの範囲で測定し、劣化の度合いが他の波長より顕著に出る波長410nmにおける測定値を採用した。
その後、偏光板を温度85℃、相対湿度85%の環境下で500時間保存した。次いで、上記と同様にして2つのサンプルについて偏光度を測定し、2つのサンプルの測定値を算術平均し、保存後の偏光板の偏光度とした。保存前後の偏光度の変化量に基づき、偏光板耐久性を下記評価基準に基づき評価した。
ここで、偏光度変化量は下記式で算出される。
【0137】
偏光度変化量(%)=[上記保存前の偏光度(%)−上記保存後の偏光度(%)]
【0138】
<偏光子耐久性評価基準>
A :偏光度変化量が2.0%未満
B :偏光度変化量が2.0%以上3.0%未満
C :偏光度変化量が3.0%以上
結果を下記表4に示す。
【0139】
【表4】
【0140】
上記表4に示される通り、積層体のポリアミド樹脂層に本発明で規定するポリアミドを用いていない積層体を有する偏光板HPL−1は、積層体の層間密着性が悪く偏光度の測定を行うことができず、偏光子耐久性の評価ができなかった(比較例4)。また、セルロースエステル樹脂層CA−1のみを保護フィルムとして用いた場合には、偏光子耐久性に大きく劣る結果となった(比較例5)。
これに対し、本発明の積層体を保護フィルムとして用いた本発明の偏光板PL−1は、偏光子耐久性に優れることがわかった(実施例13)。
【0141】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0142】
本願は、2015年12月28日に日本国で特許出願された特願2015−256468に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0143】
10 積層体(積層板)
11 セルロースエステル樹脂層
12 ポリアミド樹脂層
20 液晶表示装置
21 上側偏光板
22 上側偏光板吸収軸の方向
23 液晶セル上電極基板
24 液晶層
25 液晶セル下電極基板
26 下側偏光板
27 下側偏光板吸収軸の方向
図1
図2