(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記注目領域決定部が、前記成熟度の段階が予め設定された拡大成長段階である場合には、前記コロニー領域のエッジを含む領域を前記注目領域として決定するものである請求項1から5いずれか1項記載の細胞画像取得装置。
前記成熟度に関連する情報に基づいて決定された前記注目領域の位置に応じて、オートフォーカスのフォーカス探索初期位置、フォーカス探索範囲、フォーカス探索幅、フォーカス探索順およびフォーカス動作回数の少なくとも1つを決定するフォーカスパラメータ決定部を備えた請求項1から11いずれか1項記載の細胞画像取得装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の細胞画像取得装置および方法並びにプログラムの一実施形態を用いた細胞培養観察システムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、細胞培養観察システムの概略構成を示すブロック図である。
【0026】
細胞培養観察システムは、
図1に示すように、細胞培養装置1と、細胞画像取得装置2と、位相差顕微鏡3と、ディスプレイ4と、入力装置5とを備えている。
【0027】
細胞培養装置1は、細胞の培養を行うための装置である。培養対象の細胞としては、たとえばiPS細胞やES細胞やSTAP細胞といった多能性幹細胞や、幹細胞から分化誘導された神経や皮膚や肝臓などの細胞や、がん細胞などがある。細胞培養装置1内には、培養対象の細胞を培地に播種した培養容器が複数収容されている。そして、細胞培養装置1は、ステージ10と搬送部11と制御部12とを備えている。
【0028】
ステージ10は、位相差顕微鏡3による撮影対象の培養容器が設置されるものである。また、搬送部11は、細胞培養装置1内の所定位置に収容されている複数の培養容器の中から撮像対象の培養容器を選択し、その選択した培養容器をステージ10まで搬送するものでる。また、制御部12は、細胞培養装置1全体を制御するものであり、上述したステージ10や搬送部11の動作以外に、細胞培養装置1内の温度、湿度およびCO
2濃度などの環境条件を制御するものである。なお、温度、湿度およびCO
2濃度を調整するための構成については、公知な構成を用いることができる。
【0029】
位相差顕微鏡3は、ステージ10上に設置された培養容器内の細胞の位相画像を撮像するものである。
図2は、位相差顕微鏡3の概略構成を示す図である。位相差顕微鏡3は、
図2に示すように、白色光を出射する白色光源31と、リング形状のスリットを有し、白色光源31から出射された白色光が入射されてリング状照明光を出射するスリット板32と、スリット板32から射出されたリング状照明光が入射され、その入射されたリング状照明光をステージ10上に設置された培養容器15内の細胞に対して照射する対物レンズ33とを備えている。
【0030】
そして、ステージ10に対して白色光源31とは反対側に、位相差レンズ34と、結像レンズ37と、撮像素子38とが設けられている。
【0031】
位相差レンズ34は、対物レンズ35と、位相板36とを備えたものである。位相板36は、リング状照明光の波長に対して透明な透明板に対して位相リングを形成したものである。なお、上述したスリット板32のスリットの大きさは、この位相リングと共役な関係にある。
【0032】
位相リングは、入射された光の位相を1/4波長ずらす位相膜と、入射された光を減光する減光フィルタとがリング状に形成されたものである。位相差レンズ34に入射された直接光は対物レンズ35によって集光され、位相リングを通過することによって位相が1/4波長ずれるとともに、その明るさが弱められる。一方、培養容器15内の細胞によって回折された回折光は大部分が位相板の透明板を通過し、その位相および明るさは変化しない。
【0033】
位相差レンズ34は、図示省略した駆動機構によって
図2に示す矢印A方向に移動するものであり、このように位相差レンズ34が移動することによってフォーカス位置が変更されてフォーカス制御が行われる。駆動機構は、細胞画像取得装置2の撮像制御部26から出力されたフォーカス制御信号に基づいて位相差レンズ34を移動させるものである。
【0034】
また、本実施形態の位相差顕微鏡3は、倍率の異なる複数の位相差レンズ34を交換可能に構成されている。位相差レンズ34の交換については、ユーザからの指示入力に応じて自動的に行う構成としてもよいし、ユーザが手動で交換するようにしてもよい。
【0035】
本実施形態においては、マクロ観察のための低倍率撮像と詳細観察のための高倍率撮像とが行われるが、低倍率撮像の際には1倍〜4倍の位相差レンズ34が用いられ、高倍率撮像の際には10倍〜20倍の位相差レンズ34が用いられる。ただし、低倍率撮像と高倍率撮像とは相対的に倍率が異なっていればよく、これらの倍率に限定されるものではない。
【0036】
結像レンズ37は、位相差レンズ34を通過した直接光および回折光が入射され、これらの光を撮像素子38に結像するものである。撮像素子38は、結像レンズ37によって結像された像を光電変換することによって細胞の位相画像を撮像するものである。撮像素子38としては、CCD(charge-coupled device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサなどが用いられる。
【0037】
なお、本実施形態においては、撮像装置として位相差顕微鏡3を用いるようにしたが、その他の光学倍率が変更可能な顕微鏡を用いるようにしてもよく、たとえば微分干渉顕微鏡などを用いるようにしてもよい。
【0038】
図1に戻り、細胞画像取得装置2は、低倍率画像取得部20と、コロニー領域特定部21と、成熟度情報取得部22と、注目領域決定部23と、高倍率画像取得部24と、制御部25とを備えている。制御部25は、撮像制御部26と表示制御部27とを備えている。
【0039】
細胞画像取得装置2は、コンピュータに対して本発明の細胞画像取得プログラムの一実施形態がインストールされたものである。
【0040】
細胞画像取得装置2は、中央処理装置、半導体メモリおよびハードディスクなどを備えており、ハードディスクに細胞画像取得プログラムの一実施形態がインストールされている。そして、このプログラムが中央処理装置によって実行されることによって、
図1に示すような、低倍率画像取得部20、コロニー領域特定部21、成熟度情報取得部22、注目領域決定部23、高倍率画像取得部24、撮像制御部26および表示制御部27が動作する。
【0041】
低倍率画像取得部20は、位相差顕微鏡3によって上述した低倍率撮像により撮像された細胞画像を取得するものである。低倍率画像取得部20によって取得される低倍率撮像画像は、1つの細胞コロニーを撮像した1枚の画像でもよいし、1つの細胞コロニーを矩形の複数の分割領域で分割した複数の画像群でもよい。また、1枚の画像内に複数の細胞コロニーが含まれていてもよい。
【0042】
低倍率画像取得部20は、細胞コロニーを識別するための識別情報と低倍率撮像画像とを対応づけて記憶するものである。たとえば、1つの細胞コロニーを1枚の低倍率撮像画像で撮像した場合には、その細胞コロニーの識別情報と低倍率撮像画像とが1対1で対応づけられて記憶される。また、1つの細胞コロニーを複数の分割領域の低倍率撮像画像で撮像した場合には、その細胞コロニーの識別情報と複数の分割領域の低倍率撮像画像群とが対応づけられて記憶される。また、複数の細胞コロニーを1枚の低倍率撮像画像で撮像した場合には、その各細胞コロニーの識別情報と1枚の低倍率撮像画像とが対応づけられて記憶される。
【0043】
このように細胞コロニーの識別情報と低倍率撮像画像とを対応づけて記憶して管理することによって、たとえばユーザが入力装置5から細胞コロニーの識別情報を入力した際、その識別情報に対応づけられた低倍率撮像画像を即座に読み出して表示等することができる。
【0044】
コロニー領域特定部21は、低倍率画像取得部20によって取得された低倍率撮像画像内における細胞コロニー領域の位置を特定するものである。細胞コロニー領域を特定する方法としては、たとえば低倍率撮像画像を2値化画像に変換した後、テンプレートマッチングなどによって細胞コロニー領域を自動的に抽出することによって位置を特定するようにすればよい。また、細胞コロニー領域の自動抽出については、上述した方法に限らず、その他の公知な方法を用いるようにしてもよい。
【0045】
また、自動抽出に限らず、表示制御部27によってディスプレイ4に低倍率撮像画像を表示させ、ユーザが入力装置5を用いて低倍率撮像画像内における細胞コロニー領域を指定し、その指定された座標などの位置情報をコロニー領域特定部21が取得するようにしてもよい。
【0046】
成熟度情報取得部22は、細胞の成熟度に関連する情報を取得するものである。成熟度情報取得部22によって取得された成熟度に関連する情報は、注目領域決定部23において、細胞コロニー領域における注目領域を決定する際に用いられるものである。この注目領域が、上述した高倍率撮像の撮像対象領域となる。
【0047】
本実施形態においては、細胞の成熟度を培養初期、培養中期および培養後期の3段階に区分し、成熟度情報取得部22によって細胞の成熟度に関連する情報を取得することによって、撮像対象の細胞の成熟度が属する段階を取得するものである。
【0048】
細胞の成熟度を培養初期、培養中期および培養後期と区分するのは、これらのそれぞれの段階によって細胞コロニーの形態が異なっており、その形態に応じて注目領域を設定することが望ましいからである。
【0049】
具体的には、たとえば幹細胞コロニーの場合、培養初期は、
図3に示すようにコロニー領域内に未分化細胞が均一に分布している。そして、培養中期になると、
図3に示すようにコロニー領域の中心部は未分化細胞が密集して分布し、周辺部は分化が始まって分化細胞が分布することになる。
【0050】
さらに、培養後期になると、
図3に示すようにコロニー領域の中心部において分化が起こり易くなり、いわゆるホールと呼ばれる現象が起こることがある。これによりコロニー領域の中心部と周辺部には分化細胞が分布し、中心部と周辺部との間の中間部に分化細胞が分布することになる。
【0051】
上述したように、培養初期と培養中期と培養後期とで細胞コロニー領域の形態が変化するので、本実施形態においては、この形態変化に応じて注目領域を設定する。すなわち、高倍率で撮像を行う領域を決定する。
【0052】
成熟度情報取得部22によって取得される細胞の成熟度に関連する情報は、細胞の成熟度の段階を示す情報であれば如何なる情報でもよく、たとえばタイマなどによって計測された培養期間を成熟度に関連する情報として取得することができる。また、培養期間に限らず、たとえば低倍率撮像画像内の細胞コロニー領域の画像情報を解析し、細胞コロニーの大きさや、幹細胞コロニー内の細胞数または幹細胞コロニーよりも小さい単位面積当たりの細胞数を計測し、その計測した細胞数が多いほど成熟度が進んでいるものとして成熟度に関連する情報として取得するようにしてもよい。細胞コロニーの大きさとしては、細胞コロニーの面積、周囲長、最大径などを取得することができる。なお、細胞コロニー領域の画像情報については、コロニー領域特定部21によって特定された細胞コロニーの位置情報に基づいて取得するようにすればよい。また、細胞コロニー内の細胞数の計測については、たとえば個々の細胞または細胞内の核や核小体をパターンマッチングなどによって検出し、その検出した個々の細胞の数をカウントするようにすればよい。
【0053】
また、たとえば細胞コロニー領域の画像の輝度や、均一性や粗さなどのテクスチャを成熟度に関連する情報として取得するようにしてもよい。たとえば撮像対象の細胞が幹細胞である場合には、その成熟度が進行すると幹細胞の密集度が高くなり、さらに幹細胞が積層されて、画像の輝度が次第に高くなる。したがって、輝度が高いほど成熟度が進行しているといえる。
【0054】
また、成熟度が進行して上述したように幹細胞が増殖して積層された状態となった場合、画像の均一性が高くなり、また凹凸の少ない滑らかな画像となる。したがって、画像の均一性が高い、または画像が滑らかであるほど成熟度が進行しているといえる。画像の均一性や滑らかさの特徴量の取得方法については、既に公知な手法を用いることができる。
【0055】
また、成熟度に関連する情報として、幹細胞コロニーの形状の特徴量を取得するようにしてもよい。幹細胞の成熟度が進行すると幹細胞コロニーの形状は次第に円形に近づいた後、周辺部分の分化が進行してエッジの複雑度が大きくなる。したがって、このような幹細胞コロニーの形状の変化の特徴量を成熟度に関連する特徴量として取得することができる。
【0056】
また、成熟度に関連する情報として、幹細胞コロニーの厚さの特徴量を取得するようにしてもよい。幹細胞の成熟度が進行すると幹細胞コロニーは次第に厚くなっていく。したがって、このような幹細胞コロニーの厚さの特徴量を成熟度に関連する特徴量として取得することができる。幹細胞コロニーの厚さについては、たとえば別途設けられた計測装置によって計測するようにすればよい。
【0057】
また、上述した成熟度に関連する情報は、ユーザが入力装置5を用いて設定入力するようにしてもよく、上述した培養期間や細胞コロニーの大きさなどだけでなく、細胞の継代数を成熟度に関連する情報としてユーザが入力するようにしてもよい。
【0058】
なお、本実施形態においては、細胞の成熟度を3段階に区分するようにしたが、3段階に限らず、2段階や4段階以上に区分してもよい。また、各段階の間隔についても、培養条件などに応じて種々の間隔を設定することができる。
【0059】
注目領域決定部23は、成熟度情報取得部22において取得された成熟度に関連する情報とコロニー領域特定部21によって特定されたコロニー領域の位置とに基づいて、細胞コロニーにおける注目領域を決定するものである。
【0060】
本実施形態の注目領域決定部23は、具体的には、
図4に示すような培養期間と注目領域とを対応づけたテーブルを有しており、このテーブルを参照して注目領域を決定する。また、本実施形態においては、注目領域決定部23は、培養期間の他に培養条件も取得し、その取得した培養条件と培養期間とに基づいて、
図4に示すテーブルを参照して注目領域を決定するものである。
【0061】
培養条件としては、足場や培地の種類や、培養対象の細胞とは異なる種類の異種細胞(フィーダー細胞)を使用しているか否かの条件などがある。同じ培養期間であっても、これらの培養条件によって成熟度の段階が異なることになるので、本実施形態では、培養条件も考慮して注目領域を決定する。
【0062】
また、培養条件は、上記に挙げたものに限らず、細胞の成長速度に影響する条件であれば如何なる条件でもよく、たとえば温度、湿度またはCO
2濃度などの培養の環境条件なども含めるようにしてもよい。なお、培養条件の情報は、たとえばユーザによって入力装置5を用いて設定入力されるが、上述したような温度や湿度などは温度計や湿度計で計測した条件を用いるようにしてもよい。
【0063】
注目領域決定部23は、具体的には、たとえば培養条件が条件Aであり、培養期間が培養初期である場合には、未分化細胞の状態を中心に観察するため、
図5に示すように注目領域(太線で示される矩形領域)を中心部に設定し、培養期間が培養中期である場合には、未分化細胞の分化がどの程度進んでいるかを観察するため、
図5に示すように注目領域を周辺部に設定し、培養期間が培養後期である場合には、上述したホールの範囲を観察するため、再び注目領域を中心部に決定する。なお、注目領域の範囲としては、たとえば
図5に示すように低倍率撮像画像の撮像領域を複数の矩形状の領域で分割した分割領域の範囲とすればよい。
【0064】
また、たとえば培養条件が条件Bである場合には、条件Aの場合とは異なり、培養期間が培養後期である場合には、未分化細胞の分化がどの程度進んでいるかを観察するため、注目領域を周辺部に決定する。
【0065】
上述したように注目領域決定部23は、成熟度の段階によって異なる位置の注目領域を決定するものであるが、どの段階でどの位置に注目領域を決定するかについては、ユーザが観察したい細胞や細胞コロニーの状態などによって適宜設定されるものである。
【0066】
上記説明では、培養初期では中心部、培養中期では周辺部、培養後期では中心部を観察領域とすることによって、細胞の成熟によって分化する可能性が高いと推定される領域を注目領域として決定するようにしたが、分化する可能性が高いと推定される領域は、上記のような中央部や周辺部だけでなく、たとえば細胞コロニー領域の左半分は未分化性を保ったまま成熟して右半分だけが分化してしまう場合などもあり、細胞の種類や成熟度によって分化する可能性が高いと推定される領域は異なる。
【0067】
したがって、細胞の種類や成熟度を考慮し、分化する可能性が高いと推定される領域を注目領域として適宜設定するようにすればよい。分化する可能性が高いと推定される領域は、上述したようなテーブルに対してユーザが予め設定入力してもよいし、細胞コロニー領域の画像を解析することによって自動的に決定するようにしてもよい。たとえば、細胞コロニー領域内の各分割領域について細胞の密集度を算出し、その密集度が所定の閾値以下または閾値以上の領域を、分化する可能性が高いと推定される領域としてもよい。なお、細胞の密集度については、上述したように個々の細胞または細胞内の核や核小体をパターンマッチングなどによって検出することによって算出するようにすればよい。
【0068】
また、密集度に限らず、個々の細胞間で発生するハロを検出し、そのハロの面積が所定の閾値以上の領域を、分化する可能性が高いと推定される領域としてもよい。ハロとは、
細胞間を通過した回折光に起因して発生する高輝度のアーチファクトのことである。
【0069】
また、注目領域の位置については、上述したようなコロニー領域の中心部や周辺部だけでなく、たとえば中心部と周辺部との間の中間部を設定し、その中間部に注目領域を決定するようにしてもよい。
【0070】
また、たとえば細胞コロニーの成熟度が進行し、
図6に示すように低倍率撮像画像の撮像領域内に細胞コロニー領域が収まらないような場合には、細胞コロニー領域のエッジを検出し、そのエッジを含む領域を注目領域として決定するようにすればよい。
図6の上段の図は、細胞コロニー領域のエッジが低倍率撮像画像の撮像領域内の右上隅に存在する場合における注目領域の位置の一例を示すものであり、
図6の下段の図は、細胞コロニー領域のエッジが低倍率撮像画像の撮像領域の中央辺りに存在する場合における注目領域の位置の一例を示すものである。
【0071】
具体的には、たとえば、
図4に示すテーブルの条件Cの場合のように拡大成長期の段階を設定し、培養期間がこの段階である場合には、細胞コロニー領域のエッジを検出し、そのエッジを含む領域を注目領域として決定するようにすればよい。なお、拡大成長期の段階であることは、上述したように培養期間から決定するようにしてもよいし、低倍率撮像画像から多数の細胞からなる円形領域が抽出されないことを検出することによって決定するようにしてもよい。
【0072】
図1に戻り、撮像制御部26は、注目領域決定部23によって決定された注目領域に基づいて、細胞培養装置1の制御部12に制御信号を出力し、細胞コロニー内の注目領域が高倍率撮像されるようにステージ10のX−Y方向の移動を制御するものである。また、撮像制御部26は、位相差顕微鏡3が、位相差レンズ34の倍率を自動的に変更可能に構成されたものである場合には、低倍率の位相差レンズ34から高倍率の位相差レンズ34に変更されるように制御信号を出力するものである。なお、位相差顕微鏡3が、位相差レンズ34の倍率を手動で変更するものである場合には、高倍率撮像の際には、ユーザが高倍率の位相差レンズ34に変更するようにすればよい。
【0073】
そして、撮像制御部26によって培養容器15のX−Y方向の位置が調整され、位相差レンズ34の倍率が高倍率に変更された状態で高倍率撮像が行われ、注目領域の高倍率撮像画像が撮像される。
【0074】
高倍率画像取得部24は、上述したようにして位相差顕微鏡3によって撮像された高倍率撮像画像を取得し、これを記憶するものである。
【0075】
表示制御部27は、低倍率撮像画像や高倍率撮像画像をディスプレイ4に表示させるものである。
【0076】
入力装置5は、マウスやキーボードなどを備えたものであり、ユーザによる操作入力を受け付けるものである。たとえば、入力装置5は、低倍率画像を撮像する際の倍率や高倍率画像を撮像する際の設定入力を受け付け可能なものである。また、入力装置5は、上述した培養条件、培養期間などの設定入力を受け付けるものである。
【0077】
次に、上述した細胞培養観察システムの作用について、
図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0078】
まず、細胞培養装置1において、搬送部11によって、収容されている複数の培養容器の中から撮影対象の培養が選択され、その選択された培養容器15がステージ10に設置される(S10)。
【0079】
そして、位相差顕微鏡3の位相差レンズ34の倍率が低倍率に設定されて低倍率撮像画像が撮像され、その撮像された低倍率撮像画像が低倍率画像取得部20によって取得される(S12)。低倍率画像取得部20によって取得された低倍率撮像画像は表示制御部27に出力され、表示制御部27によってディスプレイ4に表示される。
【0080】
また、低倍率画像取得部20によって取得された低倍率撮像画像は、コロニー領域特定部21に出力され、コロニー領域特定部21は、入力された低倍率撮像画像に基づいて、その低倍率撮像画像内におけるコロニー領域の位置を特定する(S14)。
【0081】
一方、ユーザによる設定入力などによって成熟度情報取得部22は、細胞の成熟度に関連する情報としての培養期間の情報と、培養条件の情報とを取得する(S16)。
【0082】
そして、成熟度情報取得部22によって取得された培養期間および培養条件の情報は、注目領域決定部23に出力され、注目領域決定部23は、培養期間および培養条件の情報とコロニー領域の位置とに基づいて、位相差顕微鏡3における高倍率撮像の撮像対象である注目領域を決定し、撮像制御部26に出力する(S18)。
【0083】
撮像制御部26は、注目領域決定部23によって決定された注目領域の位置情報に基づいて、その注目領域が高倍率撮像されるようにステージ10をX−Y方向に移動させる(S20)。また、このとき位相差顕微鏡3における位相差レンズ34は高倍率撮像の位相差レンズ34に変更される。
【0084】
そして、位相差顕微鏡3において、フォーカス位置が調整された状態で詳細観察用の高倍率撮像画像が撮像される。位相差顕微鏡3によって撮像された高倍率撮像画像は細胞画像取得装置2の高倍率画像取得部24によって取得され、表示制御部27に出力される(S22)。表示制御部27は、入力された詳細観察用の高倍率撮像画像をディスプレイ4に表示させる(S24)。
【0085】
上記実施形態の細胞培養観察システムによれば、成熟度に関連する情報に基づいて、細胞のコロニー領域における注目領域を決定し、その注目領域を高倍率で撮像した高倍率撮像画像を取得するようにしたので、注目領域をコロニー領域の形態変化に応じて適切に限定することができ、処理および保存すべきデータの量を削減することができる。
【0086】
なお、上記実施形態の細胞培養観察システムにおいては、細胞の成熟度に関連する情報と培養条件とに基づいて注目領域を決定するようにしたが、細胞の種類によってもその成長の仕方や形態の変化は異なるため、さらに細胞の種類も考慮して注目領域を決定するようにしてもよい。
【0087】
具体的には、たとえば
図4に示すようなテーブルを細胞の種類毎に設定しておき、注目領域決定部23が、細胞の種類の情報も取得して注目領域を決定するようにすればよい。細胞の種類の情報としては、上述したようなiPS細胞やES細胞やSTAP細胞といった多能性幹細胞や、幹細胞から分化誘導された神経や皮膚や肝臓などの細胞や、がん細胞などがある。細胞の種類の情報は、たとえばユーザが入力装置5を用いて設定入力するようにすればよい。
【0088】
具体的には、たとえば心筋細胞コロニーや皮膚細胞コロニーにおける血管の先端位置は、培養期間によって異なると考えられる。したがって、培養期間に応じた血管の先端位置を含む領域を注目領域として設定するようにすればよい。
【0089】
また、上記実施形態の細胞培養観察システムにおいては、細胞の成熟度に関連する情報に基づいて細胞コロニーにおける注目領域の位置を決定するようにしたが、さらに、その決定した注目領域の位置によって、Z方向についてのフォーカス制御におけるフォーカスパラメータを変更するようにしてもよい。
【0090】
上述したように、たとえば幹細胞コロニーの場合、培養初期は、
図3に示すようにコロニー領域内に未分化細胞が均一に分布しているため、コロニー領域の中心部の幹細胞の核の高さh
centerと周辺部の幹細胞の核の高さh
edgeは同じである。
【0091】
そして、培養中期になると、
図3に示すようにコロニー領域の中心部は未分化細胞が密集して分布し、周辺部は分化が始まって分化細胞が分布することになる。
図8は、未分化細胞と分化細胞の平面図(上段の図)と立面図(下段の図)とを示したものであるが、分化細胞は未分化細胞よりも核/細胞質の比が低下するので核の高さが低くなる。したがって、
図3に示すように、コロニー領域の中心部の幹細胞の核の高さh
centerは、周辺部の幹細胞の核の高さh
edgeよりもΔhだけ高くなる。
【0092】
さらに、培養後期になると、
図3に示すようにコロニー領域の中心部において分化が起こり易くなり、いわゆるホールと呼ばれる現象が起こることがある。したがって、コロニー領域の中心部の幹細胞の核の高さh
centerと周辺部の幹細胞の核の高さh
edgeとは同じになるが、中心部と周辺部との間の中間部の幹細胞の核の高さh
middleはΔhだけ高くなる。
【0093】
上述したように、培養初期と培養中期と培養後期とで細胞コロニー領域の形態が変化し、これによりX−Y方向の位置によって核の高さが異なることになるので、注目領域の位置に応じてオートフォーカスのフォーカス探索初期位置を設定することが望ましい。
【0094】
したがって、
図9に示すように、フォーカスパラメータ決定部28をさらに設け、このフォーカスパラメータ決定部28において、注目領域の位置に応じてフォーカス探索初期位置を決定し、その決定したフォーカス探索初期位置に基づいて、撮像制御部26が、位相差顕微鏡3におけるオートフォーカスを制御するようにしてもよい。
【0095】
具体的には、フォーカスパラメータ決定部28には、たとえば
図10に示すようなテーブルが予め設定されている。
図10に示すテーブルは、細胞の種類、培養条件、培養期間および注目位置と、オートフォーカスのフォーカス探索初期位置とを対応づけたテーブルである。すなわち、フォーカスパラメータ決定部28は、注目領域の位置の他に、細胞の種類、培養条件および培養期間も考慮してフォーカス探索初期位置を決定するものである。なお、
図10に示すテーブルにおいては、フォーカス探索初期位置として培養容器15の底面からのオフセット量(距離)の相対的な関係を示しているが、実際にはオフセット量の絶対値が取得され、そのオフセット量がフォーカス探索初期位置として決定される。また、
図5に示すテーブルにおいてES細胞のオフセット量については実際には設定されているが図示省略している。
【0096】
そして、たとえば細胞の種類情報がiPS細胞であり、培養条件の情報が条件Aであり、注目領域が細胞コロニー領域の中心部である場合には、培養期間が培養初期の段階である場合と培養後期の段階である場合に、フォーカス探索初期位置のオフセット量を相対的に小さくし(細胞の設置面側に近くする)、培養期間が培養中期の段階である場合に、フォーカス探索初期位置のオフセット量を相対的に大きくする(細胞の設置面から遠くする)ようにすればよい。
【0097】
また、同様に、細胞の種類情報がiPS細胞であり、培養条件の情報が条件Aであっても、注目領域が細胞コロニー領域の周辺部である場合には、培養期間に応じてオフセット量を変更することなく、相対的に小さいオフセット量を決定するようにすればよい。
【0098】
このように
図10に示すテーブルを参照してオフセット量を取得することによって、注目領域の位置に応じた適切なフォーカス探索初期位置を決定することができる。
【0099】
また、さらに培養容器15の底部のX−Y面内の位置毎の厚さや、足場のX−Y面内の位置毎の厚さ情報などを取得し、これらも考慮してフォーカス探索初期位置を決定するようにしてもよい。
【0100】
また、上記説明では、オートフォーカスにおけるフォーカス探索初期位置を決定する方法について説明したが、フォーカスパラメータ決定部28は、フォーカス探索範囲、フォーカス探索幅、フォーカス探索順、フォーカス動作回数なども決定する。
【0101】
フォーカス探索範囲は、オートフォーカス制御におけるフォーカス位置の変更範囲であり、下限値と上限値とを有するものである。フォーカス探索範囲については、たとえば細胞の種類とフォーカス探索範囲とを対応づけたテーブルを予め設定しておき、細胞のサイズが大きいほど広いフォーカス探索範囲を決定するようにすればよい。
【0102】
また、細胞コロニー領域内の注目領域とフォーカス探索範囲とを対応づけたテーブルを予め設定し、注目領域の位置に応じたフォーカス探索範囲を決定するようにしてもよい。この場合、たとえば注目領域が中央部である場合には、相対的に広いフォーカス探索範囲とし、注目領域が周辺部である場合には、相対的に狭いフォーカス探索範囲を決定するようにすればよい。
【0103】
また、培養期間とフォーカス探索範囲とを対応づけたテーブルを予め設定するようにしてもよい。この場合、たとえば培養期間が長くなるほどフォーカス探索範囲を広げるようにすればよい。
【0104】
また、細胞の種類、注目領域の位置および培養期間の組み合わせ毎にフォーカス探索範囲を決定するようにしてもよい。
【0105】
フォーカス探索幅とは、オートフォーカス制御における1回のフォーカス位置の変更の際の変更幅のことである。培養が進み細胞コロニーが拡大してくると、場所に応じて細胞の密集度にばらつきが生じることが考えられる。したがって、細胞の密集度のばらつきが小さい培養初期に合わせて設定したフォーカス探索幅では、細胞核がフォーカス探索範囲を外れる確率が上がる可能性がある。
【0106】
したがって、たとえば培養期間とフォーカス探索幅とを対応づけたテーブルを予め設定しておき、培養期間が長くなるほどフォーカス探索幅を広くするようにしてもよい。
【0107】
また、細胞コロニー領域の周辺ほど個々の細胞が周りの細胞から受ける外力が小さくなって動きやすくなり、よりばらつきが大きくなる。したがって、細胞コロニー領域内の注目領域の位置とフォーカス探索幅とを対応づけたテーブルを予め設定しておき、細胞コロニー領域の周辺ほどフォーカス探索幅を広くするようにしてもよい。
【0108】
また、細胞コロニー内の注目領域の位置および培養期間の組み合わせ毎にフォーカス探索幅を決定するようにしてもよい。
【0109】
フォーカス探索順としては、培養容器15の底面を基準として高い位置から低い位置にフォーカス位置を順次変更してオートフォーカス制御を行う場合と、低い位置から高い位置にフォーカス位置を順次変更してオートフォーカス制御を行う場合と、培養容器15の底面に近づいていく方向へのフォーカス位置の変更と離れていく方向へのフォーカス位置の変更とを交互に繰り返してオートフォーカス制御を行う場合とがある。
【0110】
分化細胞や、コロニー周辺の細胞は培養容器15の底面に這うように分布していることが多いため、培養容器15の底面側(低い位置)からフォーカス位置を探索する方が効率的である。一方、未分化細胞や細胞コロニー中心付近の細胞は立っていることが多いので、培養容器15の底面から離れた位置からフォーカス位置を探索する方が効率的である。
【0111】
したがって、細胞コロニー領域内の注目領域の位置とフォーカス探索順とを対応づけたテーブルを予め設定しておき、細胞コロニー領域の中心部については低い位置から高い位置に向かってフォーカス位置を探索し、細胞コロニーの周辺部について高い位置から低い位置に向かってフォーカス位置を探索するようにしてもよい。
【0112】
また、培養が進むと、上述したようにフォーカス位置のばらつきが大きくなることから、どちらか一方からフォーカス位置を探索するよりも、高い位置と低い位置とからで挟んで探索した方が細胞コロニー全体での探索回数が減らせてトータルで効率的となる場合があると考えられる。
【0113】
したがって、たとえば培養期間とフォーカス探索順とを対応づけたテーブルを予め設定しておき、培養初期や培養中期は、上述したように低い位置から高い位置に向かって、または高い位置から低い位置に向かってフォーカス位置を探索し、培養後期は、高い位置からと低い位置からとを交互に繰り返して挟んでフォーカス位置を探索するようにしてもよい。
【0114】
また、細胞コロニー内の注目領域の位置および培養期間の組み合わせ毎にフォーカス探索順を決定するようにしてもよい。
【0115】
フォーカス動作回数とは、オートフォーカス制御におけるフォーカス位置の変更回数の上限である。培養初期〜培養中期において、細胞核やそれに準ずる組織(たとえば核小体)の形態を厳密に認識・評価するためには、厳密なフォーカス精度が必要であるといえる。一方、培養が進んでくると細胞の分化や積層により細胞核やそれに準ずる組織が視認しづらくなってくる傾向にあり、その場合は厳密なフォーカス精度が必要でなくなると考えられる。
【0116】
したがって、たとえば培養期間とフォーカス動作回数とを対応づけたテーブルを予め設定しておき、培養が進むほどフォーカス動作回数を少なくするようにしてもよい。また、逆に、培養が進むにつれて発現する性状(核内のクロマチン凝集)を評価したい場合もあり、このような場合には、培養が進むほどフォーカス動作回数を増やしてフォーカス精度を上げるようにしてもよい。
【0117】
また、細胞コロニー領域内の注目領域の位置とフォーカス動作回数とを対応づけたテーブルを予め設定しておき、細胞コロニー領域の周辺部よりも中央部ほどフォーカス動作回数を多くすることによって、中央部のフォーカス精度を上げるようにしてもよい。また、逆に細胞コロニー領域の周辺部を重点的に観察したい場合には、細胞コロニー領域の中央部よりも周辺部ほどフォーカス動作回数を多くすることによって、周辺部のフォーカス精度を上げるようにしてもよい。
【0118】
また、細胞コロニー内の注目領域の位置および培養期間の組み合わせ毎にフォーカス動作回数を決定するようにしてもよい。