特許第6595725号(P6595725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6595725セパレータ、およびセパレータを含む二次電池
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  • 特許6595725-セパレータ、およびセパレータを含む二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6595725
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】セパレータ、およびセパレータを含む二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20191010BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   C08J9/26 101
   C08J9/26CES
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-546958(P2018-546958)
(86)(22)【出願日】2016年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2016081497
(87)【国際公開番号】WO2018078707
(87)【国際公開日】20180503
【審査請求日】2019年3月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 純次
(72)【発明者】
【氏名】緒方 俊彦
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5938512(JP,B1)
【文献】 特開2013−213212(JP,A)
【文献】 特開2006−004844(JP,A)
【文献】 ビギナーズブックス20 はじめての二次電池技術,株式会社工業調査会,2001年,初版,pp.92−93
【文献】 新版高分子辞典,株式会社朝倉書店,1988年,初版,pp.530−531
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
B32B 5/24
C08J 9/26
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ポリエチレンからなる第1の層からなり
前記第1の層のホワイトインデックスが85以上98以下であり、
大気圧、室温、湿度60%以上70%以下、風速0.2m/s以下の条件において、前記第1の層から5mmの高さから前記第1の層上に滴下した20μLのジエチルカーボネートの減少速度が、0.048mg/s以上0.067mg/s以下である、非水電解液二次電池用のセパレータ。
【請求項2】
前記第1の層から5mmの高さから前記第1の層上に20μLのジエチルカーボネートを滴下して形成されたジエチルカーボネートのスポットの直径が、前記スポットの形成の10秒後において20mm以上30mm以下である、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記ホワイトインデックスが90以上98以下である、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項4】
請求項1に記載のセパレータを有する二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、セパレータ、およびセパレータを含む二次電池に関する。例えば本発明の実施形態の一つは、非水電解液二次電池に用いることが可能なセパレータ、およびセパレータを含む非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池の代表例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高く、このため、パーソナルコンピュータや携帯電話、携帯情報端末などの電子機器に広く用いられている。リチウムイオン二次電池は、正極、負極、正極と負極の間に満たされる電解液、およびセパレータを有している。セパレータは正極と負極を分離するとともに、電解液やキャリアイオンが透過する膜として機能する。例えば特許文献1から9には、ポリオレフィンを含むセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−47263号公報
【特許文献2】特開2011−521413号公報
【特許文献3】特開2013−193375号公報
【特許文献4】国際公開第2007/069560号
【特許文献5】特開平5−331306号公報
【特許文献6】国際公開第00/79618号
【特許文献7】特開2014−56843号公報
【特許文献8】特開2013−73737号公報
【特許文献9】特開2015−60686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題の一つは、非水電解液二次電池などの二次電池に用いることが可能なセパレータ、およびセパレータを含む二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、多孔質ポリオレフィンからなる第1の層を有するセパレータである。第1の層のホワイトインデックスは85以上98以下であり、第1の層上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度は、0.048mg/s以上0.067mg/s以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、二次電池の電池特性の低下が抑制可能なセパレータ、およびこれを含む二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態の二次電池、およびセパレータの断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0009】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0010】
本明細書および請求項において、ある構造体の上に他の構造体を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある構造体に接するように、直上に他の構造体を配置する場合と、ある構造体の上方に、さらに別の構造体を介して他の構造体を配置する場合との両方を含むものとする。
【0011】
本明細書および請求項において、「実質的にAのみを含む」という表現、あるいは「Aからなる」という表現は、A以外の物質を含まない状態、Aおよび不純物を含む状態、および測定誤差に起因してA以外の物質が含まれていると誤認される状態を含む。この表現がAと不純物を含む状態を指す場合には、不純物の種類と濃度に限定はない。
【0012】
(第1実施形態)
本発明の実施形態の一つである二次電池100の断面模式図を図1(A)に示す。二次電池100は、正極110、負極120、正極110と負極120を分離するセパレータ130を有する。図示していないが、二次電池100は電解液140を有する。電解液140は主に正極110、負極120、セパレータ130の空隙や各部材間の隙間に存在する。正極110は正極集電体112と正極活物質層114を含むことができる。同様に、負極120は負極集電体122と負極活物質層124を含むことができる。図1(A)では図示していないが、二次電池100はさらに筐体を有し、筐体によって正極110、負極120、セパレータ130、および電解液140が保持される。
【0013】
[1.セパレータ]
<1−1.構成>
セパレータ130は、正極110と負極120の間に設けられ、正極110と負極120を分離するとともに、二次電池100内で電解液140の移動を担うフィルムである。図1(B)にセパレータ130の断面模式図を示す。セパレータ130は多孔質ポリオレフィンを含む第1の層132を有し、さらに任意の構成として、多孔質層134を有することができる。セパレータ130は、図1(B)に示すように、2つの多孔質層134が第1の層132を挟持する構造を有することもできるが、第1の層132の一方の面のみに多孔質層134を設けてもよく、あるいは多孔質層134を設けない構成とすることもできる。第1の層132は単層の構造を有していてもよく、複数の層から構成されていてもよい。
【0014】
第1の層132は内部に連結した細孔を有する。この構造に起因し、第1の層132を電解液140が透過することができ、また、電解液140を介してリチウムイオンなどのキャリアイオンの移動が可能となる。同時に正極110と負極120の物理的接触を禁止する。一方、二次電池100が高温になった場合、第1の層132は溶融して無孔化することでキャリアイオンの移動を停止する。この動作はシャットダウンと呼ばれる。この動作により、正極110と負極120間のショートに起因する発熱や発火が防止され、高い安全性を確保することができる。
【0015】
第1の層132は、多孔質ポリオレフィンを含む。あるいは第1の層132は、多孔質ポリオレフィンから構成されていてもよい。すなわち、第1の層132は多孔質ポリオレフィンのみ、あるいは実質的に多孔質ポリオレフィンのみを含むように構成されていてもよい。当該多孔質ポリオレフィンは添加剤を含むことができる。この場合、第1の層132は、ポリオレフィンと添加剤のみ、あるいは実質的にポリオレフィンと添加剤のみで構成されていてもよい。多孔質ポリオレフィンが添加剤を含む場合、ポリオレフィンは、95重量%以上、あるいは97重量%以上、あるいは99重量%以上の組成で多孔質ポリオレフィンに含まれることができる。また、ポリオレフィンは、95重量%以上、あるいは97重量%以上、あるいは99重量%以上の組成で第1の層132に含まれることができる。前記多孔質フィルムにおけるポリオレフィンの含有量は100重量%でもよく、100重量%以下でもよい。添加剤としては、有機化合物(有機添加剤)が挙げられ、有機化合物は酸化防止剤(有機酸化防止剤)や滑剤であってもよい。
【0016】
多孔質ポリオレフィンを構成するポリオレフィンとしては、エチレンや、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどのα―オレフィンを重合した単独重合体、またはこれらの共重合体を挙げることができる。第1の層132には、これらの単独重合体や共重合体の混合物が含まれていてもよく、異なる分子量を有する単独重合体や共重合体の混合物が含まれていてもよい。すなわち、ポリオレフィンの分子量分布はピークを複数有していてもよい。有機添加剤はポリオレフィンの酸化を防止する機能を持つことができ、例えばフェノール類やリン酸エステル類などを有機添加剤として用いることができる。フェノール性水酸基のα位、および/またはβ位にt−ブチル基などのかさ高い置換基を有するフェノール類を用いてもよい。
【0017】
代表的なポリオレフィンとして、ポリエチレン系重合体が挙げられる。ポリエチレン系重合体を用いる場合、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンのいずれを用いてもよい。あるいはエチレンとα―オレフィンの共重合体を用いてもよい。これらの重合体、あるいは共重合体は、重量平均分子量が10万以上の高分子量体、あるいは100万以上の超高分子量体でもよい。ポリエチレン系重合体を用いることで、より低温でシャットダウン機能を発現することができ、二次電池100に対して高い安全性を付与することができる。また、重量平均分子量が100万以上の超高分子量体を用いることで、セパレータの機械強度を向上させることができる。
【0018】
第1の層132の厚さは、二次電池100中の他の部材の厚さなどを考慮して適宜決定すればよく、4μm以上40μm以下、5μm以上30μm以下、あるいは6μm以上15μm以下とすることができる。
【0019】
第1の層132の目付は、強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよい。例えば二次電池100の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、4g/m2以上20g/m2以下、4g/m2以上12g/m2以下、あるいは5g/m2以上10g/m2以下とすることができる。なお目付とは、単位面積当たりの重量である。
【0020】
第1の層132の透気度は、ガーレ値で30s/100mL以上500s/100mL以下、あるいは50s/100mL以上300s/100mL以下の範囲から選択することができる。これにより、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0021】
第1の層132の空隙率は、電解液140の保持量を高めるとともに、より確実にシャットダウン機能が発現できるよう、20体積%以上80体積%以下、あるいは30体積%以上75体積%以下の範囲から選択することができる。また、第1の層132の細孔の孔径(平均細孔径)は、充分なイオン透過性と高いシャットダウン機能を得ることができるよう、0.01μm以上0.3μm以下、あるいは0.01μm以上0.14μm以下の範囲から選択することができる。
【0022】
<1−2.特性>
第1の層132は、電解液140を保持する特性、および第1の層132内で電解液140を透過する、すなわち溶媒やキャリアイオンを透過させるという特性を有する。したがって第1の層132は、電解液140を保持可能であり、かつ電解液140の透過が可能な程度に、電解液140に対する親和性を有するように構成される。この親和性を適切な範囲内に制御することで、優れた特性を有する二次電池を提供することができる。
【0023】
電解液140に対する親和性は、物理的な親和性と化学的な親和性に大別される。前者は主に第1の層132の表面、および内部の細孔の構造(形状や数、大きさ、分布など)によって左右され、後者は主に第1の層132に含まれる材料の電解液140に対する化学的親和性によって決まる。したがって、材料が固定されている場合、電解液140に対する第1の層132の親和性は、主に細孔の構造によって決まる。
【0024】
後述する実施例で述べられるように、第1の層132の電解液140に対する親和性は、電解液140の溶媒の液滴を第1の層132上に滴下した際の液滴の減少速度、液滴が形成するスポット径、および第1の層132のホワイトインデックス(以下、WIと記す)によって見積もることができ、これらの特性の少なくとも一部が特定の範囲を満たすことで、優れた特性を有する二次電池を提供できることが分かった。
【0025】
本明細書、および請求項において液滴の減少速度とは、第1の層132上に滴下された電解液140の溶媒の、大気圧、室温(約25℃)、湿度60%以上70%以下、風速0.2m/s以下の条件における減少速度である。溶媒の減少は蒸発によって進行する。例えば溶媒がジエチルカーボネートの場合には、液滴の減少速度は第1の層132上に滴下されたジエチルカーボネートの蒸発による減少速度であり、この減少速度が0.048mg/s以上0.067mg/s以下、0.050mg/s以上0.063mg/s以下、あるいは0.053mg/s以上0.059mg/s以下となるように第1の層132を構成することで、優れた電池特性維持性を有する二次電池100が得られることが分かった。
【0026】
本明細書、および請求項において液滴のスポット径とは、電解液140の溶媒の液滴を第1の層132上に滴下し、液滴が形成してから10秒後に観測される第1の層132上の液滴の直径である。例えば溶媒がジエチルカーボネートの場合、スポット径は、第1の層132上に形成されたジエチルカーボネートの液滴の直径であり、このスポット径が20mm以上30mm以下、21mm以上30mm以下、あるいは22mm以上30mm以下になるように第1の層132を構成することで、優れた電池特性維持性を有する二次電池100が得られることが分かった。
【0027】
本明細書および請求項においてWIとは、AMERICAN Standards TEST MethodsのE313に規定されるWIである。WIが85以上98以下、あるいは90以上98以下となるように第1の層132を構成することで、優れた電池特性維持性を有する二次電池100が得られることが分かった。
【0028】
液滴の減少速度は、溶媒が第1の層132の表面、あるいは細孔内部に存在する状態における溶媒の蒸発速度である。このため減少速度は、第1の層132の表面と内部の細孔の構造、および第1の層132に含まれる材料と溶媒との化学的親和性に依存する。したがって材料が同一の場合、主に表面と内部の細孔の構造に依存する。第1の層132に多数の大きな細孔が存在する場合、電解液140を保持する能力が向上し、その結果、液滴の減少速度が低下する。この場合、電解液140に対する親和性は高いものの、この高い親和性は電解液140の移動を制限する。一方、第1の層132の細孔が小さい、あるいは少ない場合、電解液140を保持する能力は低く、その結果、液滴の高い減少速度が観測される。したがって、電解液140に対する親和性は低いが、電解液140の移動が阻害されにくい。液滴の減少速度が上述した範囲を満たすように第1の層132を構成することで、第1の層132による電解液140の保持、および電解液140を第1の層132内を透過させる能力の適切なバランスが得られる。
【0029】
スポット径は、第1の層132の表面における溶媒の広がりであり、主に第1の層132の表面における溶媒との親和性に依存する。スポット径が大きいほど親和性が高いことを示しており、第1の層132は電解液140の保持能力が高いものの、電解液140の移動を制限する。一方、スポット径が小さい場合、第1の層132の溶媒に対する親和性が低く、電解液140を保持する能力は低いものの、第1の層132内における電解液140の大きな移動速度を確保することができる。したがって、スポット径を上述した範囲を満たすように第1の層132を構成することで、第1の層132による電解液140の保持、および電解液140を第1の層132内を透過させる能力の適切なバランスが得られる。
【0030】
WIは色味(白味)を表す指標であり、WIが高いほど白色度が高い。WIが低い(つまり、白色度が低い)ほど、第1の層132の表面や内部にカルボキシ基などの官能基の量が多いと考えられる。したがって、カルボキシ基などの極性官能基によって電解液140の透過が阻害される。一方、高いWIは極性官能基が少ないことを意味している。電解液140中の溶媒は比較的極性が高いため、極性官能基は第1の層132の電解液140に対する親和性に寄与する。このため、WIが高いと電解液の透過は促進されるが、極性官能基による親和性増大の寄与が低下し、電解液140を保持する能力が低下する。したがって、WIを上述した範囲を満たすように第1の層132を構成することで、第1の層132による電解液140の保持、および電解液140を第1の層132内を透過させる能力の適切なバランスが得られる。
【0031】
[2.電極]
上述したように、正極110は正極集電体112と正極活物質層114を含むことができる。同様に、負極120は負極集電体122と負極活物質層124を含むことができる(図1(A)参照)。正極集電体112、負極集電体122はそれぞれ、正極活物質層114、負極活物質層124を保持し、電流を正極活物質層114、負極活物質層124へ供給する機能を有する。
【0032】
正極集電体112や負極集電体122には、例えば、ニッケル、ステンレス、銅、チタン、タンタル、亜鉛、鉄、コバルトなどの金属、あるいはステンレスなど、これらの金属を含む合金を用いることができる。正極集電体112や負極集電体122は、これらの金属や合金を含む複数の膜が積層された構造を有していてもよい。
【0033】
正極活物質層114と負極活物質層124はそれぞれ、正極活物質、負極活物質を含む。正極活物質と負極活物質は、リチウムイオンなどのキャリアイオンの放出、吸収を担う物質である。
【0034】
正極活物質としては、例えば、キャリアイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。具体的には、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルなどの遷移金属を少なくとも1種類を含むリチウム複合酸化物が挙げられる。このような複合酸化物として、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムなどのα−NaFeO2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物が挙げられる。これらの複合酸化物は、平均放電電位が高い。
【0035】
リチウム複合酸化物は、他の金属元素を含んでいてもよく、例えばチタン、ジリコニウム、セリウム、イットリウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、銀、マグネシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズなどから選択される元素を含むニッケル酸リチウム(複合ニッケル酸リチウム)が挙げられる。これらの金属は、複合ニッケル酸リチウム中の金属元素の0.1mol%以上20mol%以下となるようにすることができる。これにより、高容量での使用におけるレート維持特性に優れた二次電池100を提供することができる。例えば、アルミニウム、あるいはマンガンを含み、ニッケルが85mol%以上、あるいは90mol%以上である複合ニッケル酸リチウムを正極活物質として用いることができる。
【0036】
正極活物質と同様、キャリアイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を負極活物質として使用することができる。例えばリチウム金属またはリチウム合金などが挙げられる。あるいは、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、炭素繊維などの高分子化合物焼成体などの炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物などのカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化する、あるいは化合するアルミニウム、鉛、スズ、ビスマス、ケイ素などの元素;アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、Mg2Si、NiSi2);リチウム窒素化合物(Li3-xxN(M:遷移金属))などを用いることができる。上記負極活物質のうち、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素質材料は電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いため、大きなエネルギー密度を与える。例えば負極活物質として、炭素に対するシリコンの比率が5mol%以上あるいは10mol%以上である黒鉛とシリコンの混合物を使用することができる。
【0037】
正極活物質層114や負極活物質層124はそれぞれ、上記の正極活物質、負極活物質以外に、導電助剤や結着剤などを含んでもよい。
【0038】
導電助剤としては、炭素質材料が挙げられる。具体的には、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維などの有機高分子化合物焼成体などが挙げられる。上記材料を複数混合して導電助剤として用いてもよい。
【0039】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体などのフッ化ビニリデンをモノマーの一つとして用いる共重合体、熱可塑性ポリイミドやポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、およびスチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。なお、結着剤は増粘剤としての機能も有している。
【0040】
正極110は、例えば正極活物質、導電助剤、および結着剤の混合物を正極集電体112上に塗布することによって形成することができる。この場合、混合物を作成、あるいは塗布するために溶媒を用いてもよい。あるいは、正極活物質、導電助剤、および結着剤の混合物を加圧、成形し、これを正極110上に設置することで正極110を形成してもよい。負極120も同様の手法で形成することができる。
【0041】
[3.電解液]
電解液140は溶媒と電解質を含み、電解質のうち少なくとも一部は溶媒に溶解し、電離している。溶媒としては水や有機溶媒を用いることができる。二次電池100を非水電解液二次電池として用いる場合には、有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカルバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物;および上記有機溶媒にフッ素が導入された含フッ素有機溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
【0042】
代表的な電解質としては、リチウム塩が挙げられる。例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、Li210Cl10、炭素数2から6のカルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などが挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0043】
なお電解質とは、広義には電解質が溶解した溶液を指す場合があるが、本明細書と請求項では狭義を採用する。すなわち、電解質は固体であり、溶媒に溶解することによって電離し、得られる溶液にイオン伝導性を与えるものとして取り扱う。
【0044】
[4.二次電池の組立工程]
図1(A)に示すように、負極120、セパレータ130、正極110を配置し、積層体を形成する。その後図示しない筐体へ積層体を設置し、筐体内を電解液で満たし、減圧しつつ筐体を密閉することにより、または筐体内を減圧しつつ共体内を電解液で満たしたのちに密閉することにより、二次電池100を作製することができる。二次電池100の形状は特に限定されず、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体などの角柱型などであってもよい。
【0045】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態で述べた第1の層132の作成方法について述べる。第1実施形態と同様の構成に関しては説明を割愛することがある。
【0046】
第1の層132の作成方法の一つは、(1)超高分子量ポリエチレン、低分子量炭化水素、および孔形成剤を混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、(2)ポリオレフィン樹脂組成物を圧延ロールにて圧延してシートを成形する工程(圧延工程)、(3)工程(2)で得られたシートから孔形成剤を除去する工程、(4)工程(3)で得られたシートを延伸してフィルム状に成型する工程、(5)延伸されたシートに対して熱固定を行う工程を含む。工程(3)と工程(4)の順序は入れ替えてもよい。
【0047】
[1.工程(1)]
超高分子量ポリオレフィンの形状に限定はなく、たとえば粉体状に加工されたポリオレフィンを用いることができる。低分子量炭化水素としては、ポリオレフィンワックスなどの低分子量ポリオレフィンやフィッシャートロプシュワックスなどの低分子量ポリメチレンが挙げられる。低分子量ポリオレフィンや低分子量ポリメチレンの重量平均分子量は、例えば200以上3000以下である。これにより、低分子量炭化水素の揮発が抑制でき、かつ、超高分子量ポリオレフィンと均一に混合することができる。なお、本明細書と請求項では、ポリメチレンもポリオレフィンの一種として定義する。
【0048】
孔形成剤としては、有機充填剤、および無機充填剤が挙げられる。有機充填剤としては、例えば、可塑剤を用いてもよく、可塑剤としては流動パラフィンなどの低分子量の炭化水素が挙げられる。
【0049】
無機充填剤としては、中性、酸性、あるいはアルカリ性の溶剤に可溶な無機材料が挙げられ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、などが例示される。これら以外にも、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムなどの無機化合物が挙げられる。
【0050】
孔形成剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。代表的な孔形成剤として炭酸カルシウムが挙げられる。
【0051】
この時、BET(Brunauer−Emmett−Teller)比表面積が6m2/g以上16m2/g以下、8m2/g以上15m2/g以下、あるいは10m2/g以上13m2/g以下の孔形成剤を用いることによって、孔形成剤の分散性が向上し、加工時における第1の層132の局所的な酸化を抑えることができる。このため、第1の層132内においてカルボキシ基などの官能基の生成が抑制され、かつ、平均細孔径の小さい細孔を均一に分布させることができる。その結果、WIが85以上98以下の第1の層132を得ることができる。
【0052】
各材料の重量比としては、例えば超高分子量ポリエチレン100重量部に対し、低分子量炭化水素は5重量部以上200重量部以下、孔形成剤は100重量部以上400重量部以下とすることができる。この時、有機添加剤を添加してもよい。有機添加剤の量は、超高分子量ポリエチレン100重量部に対し1重量部以上10重量部以下、2重量部以上7重量部以下、あるいは3重量部以上5重量部以下とすることができる。
【0053】
[2.工程(2)]
工程(2)は、例えば245℃以上280℃以下、あるいは245℃以上260℃以下の温度においてTダイ成形法を用いてポリオレフィン樹脂組成物をシート状に加工することで行うことができる。Tダイ成形法に代わって、インフレーション成形法を用いてもよい。
【0054】
[3.工程(3)]
工程(3)では、洗浄液として、水、あるいは有機溶剤に酸または塩基を添加した溶液などを用いることができる。洗浄液に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の添加量は0.1重量%以上15重量%以下、あるいは0.1重量%以上10重量%以下の範囲で任意に選択することができる。この範囲から添加量を選択することで、高い洗浄効率が確保できるとともに、界面活性剤の残存を防止することができる。洗浄温度は25℃以上60℃以下、30℃以上55℃以下、あるいは35℃以上50℃以下の温度範囲から選択すればよい。これにより、高い洗浄効率が得られ、かつ、洗浄液の蒸発を抑制することができる。
【0055】
工程(3)では、洗浄液を用いて孔形成剤を除去した後、さらに水洗を行なってもよい。水洗時の温度は、25℃以上60℃以下、30℃以上55℃以下、あるいは35℃以上50℃以下の温度範囲から選択することができる。工程(3)により、孔形成剤を含まない第1の層132を得ることができる。
【0056】
[4.工程(5)]
工程(5)における熱固定温度は、使用するポリオレフィンの分子の運動性を考慮し、超高分子量ポリオレフィンの融点をTmとしたとき、(Tm−30℃)以上Tm未満、(Tm−20℃)以上Tm未満、あるいは(Tm−10℃)以上Tm未満の範囲から選択することができる。これにより、ポリオレフィンの溶融を避けることができ、細孔が閉塞することを防ぐことができる。
【0057】
以上の工程により、内部の細孔の大きさや形状が制御された第1の層132、が得られる。その結果、第1実施形態で述べた特性範囲を満たし、適切な電解液透過性と保持能力を有する第1の層132、およびこれを含むセパレータ130を形成することができる。
【0058】
(第3実施形態)
本実施形態では、セパレータ130が第1の層132とともに多孔質層134を有する態様を説明する。
【0059】
[1.構成]
第1実施形態で述べたように、多孔質層134は、第1の層132の片面、または両面に設けることができる(図1(B)参照)。第1の層132の片面に多孔質層134が積層される場合には、多孔質層134は、第1の層132の正極110側に設けてもよく、負極120側に設けてもよい。
【0060】
多孔質層134は電解液140に不溶であり、二次電池100の使用範囲において電気化学的に安定な材料を含むことが好ましい。このような材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素ポリマー;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ポリマー;芳香族ポリアミド(アラミド);スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、およびポリ酢酸ビニルなどのゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルなどの融点やガラス転移温度が180℃以上の高分子;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸などの水溶性高分子などが挙げられる。
【0061】
芳香族ポリアミドとしては、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(メタベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロパラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、メタフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体などが挙げられる。
【0062】
多孔質層134はフィラーを含んでもよい。フィラーとしては有機物または無機物からなるフィラーが挙げられるが、充填材と称される、無機物からなるフィラーが好適であり、シリカ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、水酸化アルミニウム、ベーマイト等の無機酸化物からなるフィラーがより好ましく、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、ベーマイトおよびアルミナからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーがさらに好ましく、アルミナが特に好ましい。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、何れも好適に使用することができる。この中でも、熱的安定性および化学的安定性が特に高いため、α−アルミナが最も好ましい。多孔質層134には1種類のフィラーのみを用いてもよく、2種類以上のフィラーを組み合わせて用いてもよい。
【0063】
フィラーの形状に限定はなく、フィラーは球形、円柱形、楕円形、瓢箪形などの形状をとることができる。あるいは、これらの形状が混在するフィラーを用いてもよい。
【0064】
多孔質層134がフィラーを含む場合、フィラーの含有量は、多孔質層134の1体積%以上99体積%以下、あるいは5体積%以上95体積%以下とすることができる。フィラーの含有量を上記範囲とすることにより、フィラー同士の接触によって形成される空隙が多孔質層134の材料によって閉塞されることを抑制することができ、充分なイオン透過性を得ることができるとともに、目付を調整することができる。
【0065】
多孔質層134の厚さは、0.5μm以上15μm以下、あるいは2μm以上10μm以下の範囲で選択することができる。したがって、多孔質層134を第1の層132の両面に形成する場合、多孔質層134の合計膜厚は1.0μm以上30μm以下、あるいは4μm以上20μm以下の範囲から選択することができる。
【0066】
多孔質層134の合計膜厚を1.0μm以上にすることで、二次電池100の破損などによる内部短絡をより効果的に抑制することができる。多孔質層134の合計膜厚を30μm以下とすることで、キャリアイオンの透過抵抗の増大を防ぐことでき、キャリアイオンの透過抵抗の増大に起因する正極110の劣化やレート特性の低下を抑制することができる。さらに、正極110および負極120間の距離の増大を回避することができ、二次電池100の小型化に寄与することができる。
【0067】
多孔質層134の目付は、1g/m2以上20g/m2以下、あるいは2g/m2以上10g/m2以下の範囲から選択することができる。これにより、二次電池100の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる。
【0068】
多孔質層134の空隙率は、20体積%以上90体積%以下、あるいは30体積%以上80体積%以下とすることができる。これにより、多孔質層134は充分なイオン透過性を有することができる。多孔質層134が有する細孔の平均細孔径は、0.01μm以上1μm以下、あるいは0.01μm以上0.5μm以下の範囲から選択することができ、これにより、二次電池100に充分なイオン透過性を付与することができるとともに、シャットダウン機能を向上させることができる。
【0069】
上述した第1の層132と多孔質層134を含むセパレータ130の透気度は、ガーレ値で30s/100mL以上1000s/100mL以下、あるいは50s/100mL以上800s/100mL以下とすることができる。これにより、セパレータ130は十分な強度と高温での形状安定性を確保することができ、同時に充分なイオン透過性を有することができる。
【0070】
[2.形成方法]
フィラーを含む多孔質層134を形成する場合、上述した高分子や樹脂を溶媒中に溶解、あるいは分散させたのち、この混合液にフィラーを分散させて分散液(以下、塗工液と記す)を作成する。溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールなどのアルコール;アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。1種類の溶媒のみを用いてもよく、2種類以上の溶媒を用いてもよい。
【0071】
混合液にフィラーを分散させて塗工液を作成する際、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などを適用してもよい。また、混合液にフィラーを分散させたのち、湿式粉砕装置を用いてフィラーの湿式粉砕を行ってもよい。
【0072】
塗工液に対し、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤などの添加剤を加えてもよい。
【0073】
塗工液の調整後、第1の層132上に塗工液を塗布する。例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷法、スプレー法などを用いて塗工液を第1の層132に直接塗布した後、溶媒を留去することで多孔質層134を第1の層132上に形成することができる。塗工液を直接第1の層132上に形成せず、別の支持体上に形成した後に第1の層132上に転載してもよい。支持体としては、樹脂製のフィルム、金属製のベルトやドラムなどを用いることができる。
【0074】
溶媒の留去には、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥のいずれの方法を用いてもよい。溶媒を他の溶媒(例えば低沸点溶媒)に置換してから乾燥を行ってもよい。加熱する場合には、10℃以上120℃以下、あるいは20℃以上80℃以下で行うことができる。これにより、第1の層132の細孔が収縮して透気度が低下することを回避することができる。
【0075】
多孔質層134の厚さは、塗工後の湿潤状態の塗工膜の厚さ、フィラーの含有量や高分子や樹脂の濃度などによって制御することができる。
【実施例】
【0076】
[1.セパレータの作成]
セパレータ130の作成例を以下に述べる。
【0077】
<1−1.実施例1>
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)30重量%を混合した後、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に占める割合が36体積%となるように平均孔径0.1μm、BET比表面積11.6m2/gの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合し、混合物1を得た。その後、混合物1を二軸混練機にて溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物1を得た。ポリオレフィン樹脂組成物1を250℃に設定したTダイからシート状に押し出し、このシートを表面温度が150℃にて一対のロールを用いて圧延することで圧延シート1を作成した。続いて、圧延シート1を非イオン系界面活性剤0.5重量%を含む塩酸(4mol/L)に浸漬させることにより、圧延シート1から炭酸カルシウムを除去し、続いて7.0倍に延伸し、さらに123℃で熱固定を行い、セパレータ130を得た。
【0078】
<1−2.実施例2>
炭酸カルシウムを平均孔径0.1μm、BET比表面積11.6m2/gの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)に替え、熱固定温度を110℃で行った点を除き、実施例1と同様の手法によりセパレータ130を得た。
【0079】
<1−3.実施例3>
炭酸カルシウムを平均孔径0.1μm、BET比表面積11.8m2/gの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)に替え、圧延シート1を6.2倍に延伸した点を除き、実施例1と同様の手法によりセパレータ130を得た。
【0080】
比較例として用いたセパレータの作成例を以下に述べる。
【0081】
<1−4.比較例1>
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2024、ティコナ社製)68重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)32重量%を混合した後、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に占める割合が38体積%となるように平均孔径0.1μm、BET比表面積11.6m2/gの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合し、混合物2を得た。その後、混合物2を二軸混練機にて溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物2とした。続いて、ポリオレフィン樹脂組成物2を240℃に設定したTダイからシート状に押し出し、得られたシートを表面温度が150℃の一対のロールにて圧延することで圧延シート2を作成した。その後、圧延シート2を非イオン系界面活性剤0.5重量%を含む塩酸(4mol/L)に浸漬させることにより、圧延シート2から炭酸カルシウムを除去し、続いて6.2倍に延伸し、さらに126℃で熱固定を行い、セパレータを得た。
【0082】
<1−5.比較例2>
比較例のセパレータとして、市販品のポリオレフィン多孔質フィルム(セルガード社製、#2400)を用いた。
【0083】
[2.二次電池の作製]
実施例1から3、および比較例1、2のセパレータを含む二次電池の作製方法を以下に記す。
【0084】
<2−1.正極>
LiNi0.5Mn0.3Co0.22/導電材/PVDF(重量比92/5/3)の積層をアルミニウム箔に塗布することにより製造された市販の正極を加工した。ここで、LiNi0.5Mn0.3Co0.22は活物質層である。具体的には、正極活物質層の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、アルミニウム箔を切り取り、以下に述べる組立工程において正極として用いた。正極活物質層の厚さは58μm、密度は2.50g/cm3、正極容量は174mAh/gであった。
【0085】
<2−2.負極>
黒鉛/スチレン−1,3−ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極を加工した。ここで、黒鉛が負極活物質層として機能する。具体的には、負極活物質層の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、銅箔を切り取り、以下に述べる組立工程において負極として用いた。負極活物質層の厚さは49μm、の密度は1.40g/cm3、負極容量は372mAh/gであった。
【0086】
<2−3.組立>
ラミネートパウチ内で、正極、セパレータ、および負極をこの順で積層し、積層体を得た。この時、正極活物質層の上面の全てが負極活物質層の主面と重なるように、正極および負極を配置した。
【0087】
続いて、アルミニウム層とヒートシール層が積層で形成された袋状の筐体内に積層体を配置し、さらにこの筐体に電解液を0.25mL加えた。電解液として、濃度1.0mоl/LのLiPF6をエチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチレンカーボネートの体積比が50:20:30の混合溶媒に溶解させた混合溶液を用いた。そして、筐体内を減圧しつつ、筐体をヒートシールすることにより、二次電池を作製した。二次電池の設計容量は20.5mAhとした。
【0088】
[3.評価]
実施例1から3、および比較例1、2のセパレータの各種物性、およびこれらのセパレータを含む二次電池の特性の評価方法を以下に述べる。
【0089】
<3−1.膜厚>
膜厚は、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機を用いて測定した。
【0090】
<3−2.液滴の減少速度>
実施例1から3、および比較例1、2にて作成したセパレータの液滴の減少速度は、以下の方法によって測定した。50mm×50mmのセパレータをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板上に設置した。先端にピペットチップ(エッペンドルフ株式会社製、品名:スタンダード、0.5〜20μL用イエローチップ)を装着したマイクロピペット(エッペンドルフ株式会社製、形名:リファレンス、20μL用)を用い、高さ5mmの位置からセパレータ中心部に20μLのジエチルカーボネートを滴下した。滴下後の重量変化を分析天秤(株式会社島津製作所製、形名:AUW220)を用いて測定し、ジエチルカーボネートの重量が15mgから5mgになるまでの蒸発時間を測定した。ジエチルカーボネートの重量変化量(10mg)を蒸発時間で割ることにより、減少速度を算出した。測定時の条件は、大気圧、室温(約25℃)、湿度60%以上70%以下、風速0.2m/s以下であった。
【0091】
<3−3.液滴のスポット径>
実施例1から3、および比較例1、2にて作成したセパレータの液滴のスポット径は、以下の方法によって測定した。液滴の減少速度の測定と同様に、セパレータの中心部に、高さ5mmの位置から20μLのジエチルカーボネートを滴下して液滴のスポットを形成した。スポットを形成してから10秒経過後に、液滴のスポットの直径を測定した。
【0092】
<3−4.WI>
セパレータのWIは、黒紙(北越紀州製紙株式会社、色上質紙、黒、最厚口、四六版T目)上にセパレータを設置し、分光測色計(CM−2002、MINOLTA社製)を用いてSCI(Specular Component Include(正反射光を含む))法で測定した。3か所以上で測定した平均値を結果とした。
【0093】
<3−5.初期電池抵抗>
上述した方法で作製された二次電池に対し、温度25℃において、LCRメーター(日置電気製、ケミカルインピーダンスメーター:形式3532−80)によって、電圧振幅10mVの交流電圧を印加し、交流インピーダンスを測定した。測定結果から、周波数10Hzの直列等価抵抗値(Ω)を読み取り、当該非水二次電池の初期電池抵抗とした。
【0094】
<3−6.電池特性維持性>
その後、55℃で電圧範囲4.2Vから2.7V、充電電流値1C、放電電流値10Cの定電流を1サイクルとし、二次電池に対して100サイクルの充放電を行った。100サイクルの充放電を行った非水電解液二次電池に対して、55℃で充電電流値;1C、放電電流値が0.2Cと20Cの定電流で充放電を各3サイクル行った。そして、放電電流値が0.2Cと20Cにおける、それぞれ3サイクル目の放電容量の比(20C放電容量/0.2C放電容量)を100サイクルの充放電後のレート特性として算出した。同じ試験を上述の方法で作成された2つの二次電池に対して行い、それぞれの100サイクルの充放電後のレート特性の平均を電池特性維持性とした。
【0095】
[4.セパレータの特性と電池特性]
実施例1から3と比較例1、2のセパレータ、およびこれを用いて作製された二次電池の特性を表1にまとめる。表1に示されるように、実施例1から3のセパレータは、いずれも液滴減少速度が0.048mg/s以上0.067mg/s以下であり、また、WIが85以上98以下である。また、実施例1から3のセパレータは、いずれもスポット径が20mm以上30mm以下であり、また、WIが85以上98以下である。これらのセパレータを用いて形成した二次電池は、電池の初期抵抗が低くなり、かつ、充放電を繰り返した後も高い電池特性を維持することが分かった。
【0096】
【表1】





【0097】
これに対し、比較例1のセパレータは、スポット径は20mm以上30mm以下、WIは85以上98以下であるもの、液滴減少速度が0.048mg/s以上0.067mg/s以下の範囲を満たしていない。
【0098】
比較例1、2のセパレータを用いて作製した二次電池は、いずれも実施例1から3のそれと比較しても電池特性維持性が低い。このことから、第1の層132上に滴下したジエチルカーボネートの減少速度が0.048mg/s以上0.067mg/s以下であり、かつ、第1の層132のWIが85以上98以下であるセパレータを用いることで、電池の初期抵抗が低く、かつ、電池特性維持性の高い二次電池が得られることが確認された。
【0099】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0100】
また、上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0101】
100:二次電池、110:正極、112:正極集電体、114:正極活物質層、120:負極、122:負極集電体、124:負極活物質層、130:セパレータ、132:第1の層、134:多孔質層、140:電解液
図1