特許第6595841号(P6595841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社荏原製作所の特許一覧

<>
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000002
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000003
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000004
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000005
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000006
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000007
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000008
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000009
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000010
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000011
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000012
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000013
  • 特許6595841-測定方法、傾向管理方法及び診断方法。 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6595841
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】測定方法、傾向管理方法及び診断方法。
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20191010BHJP
   G01S 17/89 20060101ALI20191010BHJP
   G01B 17/02 20060101ALI20191010BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   G01N29/07
   G01S17/89
   G01B17/02 B
   G01B11/24 A
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-165097(P2015-165097)
(22)【出願日】2015年8月24日
(65)【公開番号】特開2017-44497(P2017-44497A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】菊田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀伸
(72)【発明者】
【氏名】石渡 隆行
【審査官】 小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−344026(JP,A)
【文献】 特開昭60−021448(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161834(WO,A1)
【文献】 特開2001−227935(JP,A)
【文献】 特開2005−106824(JP,A)
【文献】 特表2002−501178(JP,A)
【文献】 特開2012−068071(JP,A)
【文献】 特開平08−035952(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0229364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00 − G01B 11/30
G01B 17/00 − G01B 17/08
G01N 29/00 − G01N 29/52
G01S 7/48 − G01S 7/51
G01S 17/00 − G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する第1の工程と、
超音波送信器が送信した超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行う第2の工程と、
前記第2の工程により位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する第3の工程と、
前記第3の工程で決定された厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する第4の工程と、
を有する測定方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記超音波送信器と前記超音波受信器との位置あわせを、前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置の組が互いに異なる少なくとも三つの位置において実行し、
前記第3の工程において、前記第2の工程による位置あわせが行われる毎に、前記被測定物の厚みを決定し、
前記第4の工程において、前記第3の工程で決定された少なくとも三つの厚みと、前記第2の工程により位置あわせされた、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置の少なくとも三つの組と、を用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記被測定物の補修材が施された表面に配置された超音波送受信器が当該表面に対して略垂直に超音波を送信した時から送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定し、前記決定した厚みと前記第4の工程で決定された相対的な位置関係に基づく対応する箇所の厚みとを比較することによって、前記補修材が剥がれている箇所を判定する
請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記被測定物の補修材が施されていない表面に配置された超音波送受信器が当該表面に対して略垂直に超音波を送信した時から送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて、前記被測定物の金属部分の厚みを決定する
請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項5】
被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する第1の工程と、
超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行う第2の工程と、
前記第2の工程により位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する第3の工程と、
前記第3の工程で決定された厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する第4の工程と、
を有する傾向管理方法。
【請求項6】
被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する第1の工程と、
超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行う第2の工程と、
前記第2の工程により位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器が超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する第3の工程と、
前記第3の工程で決定された厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する第4の工程と、
を有する診断方法。
【請求項7】
被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する3次元データ取得装置と、
超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行うことで位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する厚み測定装置と、
前記厚み測定装置により得られた前記被測定物の厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する座標位置調整装置と、
を有する傾向管理システム。
【請求項8】
被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する3次元データ取得装置と、
超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行うことで位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器が超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する厚み測定装置と、
前記厚み測定装置により得られた前記被測定物の厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する座標位置調整装置と、
を有する診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定方法、傾向管理方法及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揚水や排水設備に用いられる大型ポンプは、一般的に寿命を30〜50年と長くするため、軸受等の摺動部分やケーシング等における腐食や壊食などを定期的に観察し、その状況によってポンプのメンテナンスや、全体的な更新の時期及び/または要否を判断している。これを保全計画(余寿命予測を含む)という。ところで、大型ポンプの補修や更新時期を決定する一つの指標に、腐食や壊食(エロージョン)によるケーシング等の肉厚減少がある。特に鋳物によるケーシングにおいては脆性材料であるため主要部位の厚さが許容値以下になると、強度不足によって割れる恐れがある。
【0003】
従来、流体機械の部材(特にケーシング)の腐食や摩耗等の進行具合を管理し、機器の劣化状況を判断する方法として、定期的に現地で目視観察し、腐食が見られた部位を計測した結果が、当初の設計値に比較して、どの程度減少しているかを見極めることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−173867号公報
【特許文献2】特開平11−23543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような流体機器(例えば、ポンプ)の部材の腐食や摩耗等の進行具合の傾向管理方法、及び機器の劣化状況の診断方法における重要な技術的課題は測定技術である。すなわち、出荷時の初期形状の計測と、流体機器が設置された現地での運転以降における部材の腐食や摩耗等の進行具合の経年変化の傾向管理に技術的課題がある。
【0006】
出荷時の初期形状については、出荷時の新規製品であれば、設計製作図をもとに形状特定及びその管理を行うべきであるが、流体機器(特にポンプ)に用いられるケーシングは、鋳造品(FC材)が多く、鋳込み等で設計肉厚より大きく仕上がっているとともに、設計上の管理値も、厚くなる方向には許容値を設けていない場合も多く、また、流路等で複雑な三次元形状を形成するため、設計製作図が実物の形状を正確に表しているとは言えない。
【0007】
そこで、実物の形状を直接測ることで初期値を得る手段として、特殊計測工具(パス)を用いて計測を行っていた。しかしながらパスによる計測は点の計測であり、基本的には部分的な計測しかできない。そのため、全体的な計測を行おうとすると、莫大な日数が必要となり、かつ全体の詳細を把握することは難しい。
【0008】
ところで、近年、対象物の表面形状を感知して3次元データとして取り込む3次元スキャナを用いる計測方法が知られている。3次元スキャナのスキャンの方式には、接触式スキャンと非接触式スキャンの二つに大別される。接触式スキャンは、被測定物にセンターをあてながら座標を測定するものである。一方、非接触式スキャンは、スキャナから被測定物に光を照射してこのスキャナから被測定物までの距離を計測するものである。非接触式スキャンは、原則一視点からの表面形状を計測する物であり、見えている面(表面)は計測できるが、反対側の面(裏側)は計測できない。図13は、従来の定点を定めた位置観測方法を説明するための図である。図13のようにケーシング111の肉厚を計測するには少なくともケーシング111の表裏面の計測が必要である。したがって、視点P101からの測定点と視点P102からの測定点に共通な定点(例えば、図13の点F101)を設定しないと視点P101からの測定位置と点P102からの測定位置の相対的な位置関係が分からず、ケーシング111の肉厚を算出することができない。特に表裏面の形状が広い場合や被測定物が大きい場合は表裏面における互いの具体的な場所が不明であり、そのままでは相対位置を決定することは出来ない。
【0009】
しかしながら特に大型のポンプでは、ポンプ全体の見通しの良い定点を定めながら撮影することは容易ではなく、定点に対する表裏の評価面との位置合わせが困難である。なぜなら、ポンプ全体を見通せるスケールと、腐食や壊食(エロージョン)によるケーシング肉厚減少のスケールは違いがあるからである。更に、根本的な問題として、出荷時の地点と設備設置における地点が異なるので、出荷時と現地設備とで同じ定点を定めることはできない。
【0010】
その他の方法として、超音波厚さ計(超音波探傷器)による計測の手段もある。超音波厚さ計(超音波探傷器)は、超音波を発信し、反射や干渉する音波を受信することにより肉厚を測定するものである。しかしながら、超音波厚さ計(超音波探傷器)は測定可能な範囲が限られるため、1点毎の厚みを計測することが可能であるが、全体の各点の厚みを精密に計測するためには、何箇所も厚みを測定しなければならない。
【0011】
このように、従来の技術では、現地での非接触式スキャンによる計測は定点の設置が困難であるため、被測定物全体の各点の厚みを測定することは難しい。超音波厚さ計(超音波探傷器)による計測によって、被測定物の厚みについて局所的な範囲の計測は可能であるが、被測定物全体の各点の厚みを測定するには工数や手間が掛かるという問題がある。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、容易に被測定物の厚み分布を決定することが可能な測定方法、傾向管理方法及び診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る測定方法は、被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の座標を表す第2の3次元データを取得する第1の工程と、超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行う第2の工程と、前記第2の工程により位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器が超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する第3の工程と、前記第3の工程で決定された厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する第4の工程と、を有する。
【0014】
これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る測定方法において、前記第2の工程において、前記超音波送信器と前記超音波受信器との位置あわせを、前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置の組が互いに異なる少なくとも三つの位置において実行し、前記第3の工程において、前記第2の工程による位置あわせが行われる毎に、前記被測定物の厚みを決定し、前記第4の工程において、前記第3の工程で決定された少なくとも三つの厚みと、前記第2の工程により位置あわせされた、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置の少なくとも三つの組と、を用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する。
【0016】
これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係の精度を向上させ、被測定物の任意の箇所における厚みの精度を向上させ、被測定物の厚み分布の精度を向上させることができる。
【0017】
本発明の一態様に係る測定方法において、前記被測定物の補修材が施された表面に配置された超音波送受信器が当該表面に対して略垂直に超音波を送信した時から送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定し、前記決定した厚みと前記第4の工程で決定された相対的な位置関係に基づく対応する箇所の厚みとを比較することによって、前記補修材が剥がれている箇所を判定する。
【0018】
これにより、補修材が剥がれている箇所の分布を把握することができるので、表面の目視では不可能となる適切な補修が可能となる。
【0019】
本発明の一態様に係る測定方法において、前記被測定物の補修材が施されていない表面に配置された超音波送受信器が当該表面に対して略垂直に超音波を送信した時から送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて、前記被測定物の金属部分の厚みを決定する。
【0020】
これにより、被測定物の金属部分の厚みが分かるので、この金属部分の厚みから余寿命を判断することができる。
【0021】
本発明の一態様に係る傾向管理方法は、被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の座標を表す第2の3次元データを取得する第1の工程と、超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行う第2の工程と、前記第2の工程により位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器が超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する第3の工程と、前記第3の工程で決定された厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する第4の工程と、を有する。
【0022】
これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。
【0023】
本発明の一態様に係る診断方法は、被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の座標を表す第2の3次元データを取得する第1の工程と、超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行う第2の工程と、前記第2の工程により位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器が超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する第3の工程と、前記第3の工程で決定された厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する第4の工程と、を有する。
【0024】
これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。
【0025】
本発明の一態様に係る傾向管理システムは、被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する3次元データ取得装置と、超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行うことで位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する厚み測定装置と、前記厚み測定装置により得られた前記被測定物の厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する座標位置調整装置と、を有する。
【0026】
これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。このため、現在の被測定物の厚み分布と過去の被測定物の厚み分布とを比較することにより、被測定物の肉厚減少の傾向を管理することができる。
【0027】
本発明の一態様に係る診断システムは、被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する3次元データ取得装置と、超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行うことで位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器が超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する厚み測定装置と、前記厚み測定装置により得られた前記被測定物の厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する座標位置調整装置と、を有する。
【0028】
これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。このため、現在の被測定物の厚み分布と過去の被測定物の厚み分布とを比較することにより、被測定物の劣化状態を診断することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1の実施形態におけるポンプの斜視図である。
図2】第1の実施形態における上部ケーシング11の斜視図である。
図3図2の上部ケーシング11の概略断面図である。
図4】(A)は、視点P1から非接触式の3次元スキャナで観測できる上部ケーシング11の表面上の位置を示す図である。(B)は、視点P2から非接触式の3次元スキャナで観測できる上部ケーシング11の表面上の位置を示す概略平面図である。
図5】超音波送信器と超音波受信器の位置あわせを説明するための図である。
図6】位置合わせ後の超音波送信器D1と超音波受信器D2の各位置の一例を示す図である。
図7】第1の実施形態に係る測定方法の一例を示す図である。
図8】上部ケーシングの時間的な変遷の一例を示す概略図である。
図9】補修材が施された上部ケーシングの一例を示す概略断面図である。
図10】鋳鉄の厚みの分布を決定する方法を説明するための図である。
図11】補修材が剥がれかかった上部ケーシングの一例を示す概略断面図である。
図12】補修材が剥がれている箇所の分布を決定する方法を説明するための図である。
図13】従来の定点を定めた位置観測方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1の実施形態>
第1の実施形態では、一例としてポンプを対象とし、定点が定めらない場合において、ポンプの出荷時及びポンプが設置された現地において、広範囲における肉厚を容易に精度よく測定する方法について説明する。
図1は、第1の実施形態におけるポンプの斜視図である。図1はポンプ100として単段の両吸込渦巻ポンプを例示しており、ポンプ100はケーシング1、主軸2、ラジアル軸受6、スラスト軸受7、吐出口15、吸込口16などから構成される。ケーシング1は、上部ケーシング11と下部ケーシング12とから構成され、主軸2の軸心を通る水平面で分離可能に連結されている。図1に示すように、ポンプ100は、複雑な3次元形状を有する。
【0032】
以上の構成を有するポンプ100の動作について以下説明する。電動機(不図示)によって主軸2が回転すると、不図示の羽根車が回転する。これにより、吸込口16から水が流入する。流入した水は回転する不図示の羽根車に吸い込まれ、不図示の吐出室に吐出される。そして、この水は吐出室に連通した吐出口15から排出される。
【0033】
本実施形態では、被測定物を一例として上部ケーシング11として、以下、上部ケーシング11の厚み分布の決定方法について説明する。図2は、第1の実施形態における上部ケーシング11の斜視図である。図3は、図2の上部ケーシング11の概略断面図である。図3に示すように、視点P1からは上部ケーシング11の表面S1側を観測でき、視点P2からは上部ケーシング11の表面S2側を観測することができる。
【0034】
続いて、図4図6を参照しつつ、第1の実施形態に係る測定方法について説明する。図4(A)は、視点P1から非接触式の3次元スキャナで観測できる上部ケーシング11の表面上の位置を示す概略平面図である。図4(B)は、視点P2から非接触式の3次元スキャナで観測できる上部ケーシング11の表面上の位置を示す概略平面図である。図5は、超音波送信器と超音波受信器の位置あわせを説明するための図である。図6は、位置合わせ後の超音波送信器D1と超音波受信器D2の各位置の一例を示す図である。図7は、第1の実施形態に係る測定方法の一例を示す図である。本実施形態に係る非接触式の3次元スキャナは、スキャナから被測定物に光を照射してこのスキャナから被測定物までの距離を計測する。非接触式の3次元スキャナは、例えば、レーザー光タイプの3次元スキャナ、またはパターン光タイプの3次元スキャナである。レーザー光タイプの3次元スキャナは、被測定物にレーザー光線を照射し、被測定物から反射されたレーザー光をセンサで識別して三角法により対象物までの距離を計測する。一方、パターン光タイプの3次元スキャナは、被測定物にパターン光を照射し、縞模様のパターンのラインを識別することで、スキャナから被測定物までの距離を計測する。
【0035】
(ステップS101)まず、図3に示す視点P1に設置された非接触式の3次元スキャナは、第1の基準点K1を含む一方側の表面S1を3Dスキャンする。これにより、非接触式の3次元スキャナは、図4(A)に実線で示す表面S1上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得する。ここで、各座標は例えば、(x、y、z)の3軸で表される座標である。一方、視点P1に設置された非接触式の3次元スキャナでは、図4(A)に破線で示す表面S2上の複数の点の相対的位置関係を測定することができない。
【0036】
(ステップS102)次に、図3に示す視点P2に設置された非接触式の3次元スキャナは、第2の基準点K2を含む他方側の表面S2を3Dスキャンする。これにより、非接触式の3次元スキャナは、図4(B)に実線で示す表面S2の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する。ここで、各座標は例えば、(x’、y’、z’)の3軸で表される座標であり、第2の座標系と第1の座標系では基準となる原点が異なっている。一方、視点P2に設置された非接触式の3次元スキャナでは、図4(B)に破線で示す表面S1上の複数の点の相対的位置関係を測定することができない。
【0037】
(ステップS103)次に、超音波送信器D1と超音波受信器D2の位置あわせをする。具体的には、まず、計測者は、超音波送信器D1と超音波受信器D2を、上部ケーシング11を隔てて概ね同位置と思われる位置に設置する。ここでは一例として、計測者は、超音波送信器D1を表面S1上に接触させ、超音波受信器D2を表面S2上に接触させる。超音波送信器D1は、上部ケーシング11の一方側の表面S1に対して略垂直な方向に超音波を送信する。それに対して超音波受信器D2は、上部ケーシング11の他方側の表面S2側から超音波を受信する。なお、計測者は、超音波送信器D1を表面S2上に接触させ、超音波受信器D2が表面S1上に接触させてもよい。
【0038】
超音波送信器D1から送信された超音波を超音波受信器D2が少なくとも受信可能となるように、この超音波送信器D1を一方側の表面S1に沿って移動させるか、図5に示すように超音波受信器D2を他方側の表面S2に沿って移動させるか、またはこれら双方を行う。このとき、例えば、超音波受信器D2が受信した信号の強度が予め決められた閾値以上となるように超音波送信器D1と超音波受信器D2を位置あわせしてもよい。より好ましくは、超音波受信器D2が受信した信号の強度が最も大きくなるように、超音波送信器D1と超音波受信器D2を位置あわせする。これにより、上部ケーシング11を隔てて超音波送信器D1と超音波受信器D2の距離が最も小さくなるようにすることができ、表面S1上の各点と表面S2上の各点との相対的位置関係の推定精度を向上させることができる。上記位置合わせの結果、例えば図6に示すように、超音波送信器D1が座標X1に位置し、超音波受信器D2が座標X1'に位置するものとして以下説明する。
【0039】
(ステップS104)次に、計測者は、第1の座標系における超音波送信器D1の座標X1を特定する。例えば、計測者は、上部ケーシング11の一方側の表面S1において、目視で、基準点K1からの超音波送信器D1の位置を確認する。そして、計測者は、第1の座標系における基準点K1の座標を参考にしつつ、目視で確認した超音波送信器D1の位置が、第1の3次元データに含まれる複数の座標のどの座標になるか決定する。
また、計測者は、第2の座標系における超音波受信器D2の座標X1'を特定する。例えば、計測者は、上部ケーシング11の他方側の表面S2において、目視で、基準点K2からの超音波送信器D1の位置を確認する。そして、計測者は、第2の座標系における基準点K2の座標を参考にしつつ、目視で確認した超音波受信器D2の位置が、第2の3次元データに含まれる複数の座標のどの座標になるか決定する。
【0040】
(ステップS105)次に、超音波送信器D1は、ステップS103で位置合わせされた超音波送信器D1と超音波受信器D2の座標X1、X1'(図6参照)において、上部ケーシング11の厚み(以下、第1の厚みという)d1(図6参照)を測定する。例えば、計測者は、超音波送信器D1から送信され超音波が上部ケーシング11の他方側の表面S2で反射して戻ってきた超音波を超音波送信器D1が受信した時間を用いて、上部ケーシング11の第1の厚みd1を決定する。具体的には例えば、計測者は、この時間と上部ケーシング11の材質によって決まる超音波の伝搬速度とを乗じたものを2で割ることによって、上部ケーシング11の第1の厚みd1を決定する。
なお、計測者は、超音波送信器D1が超音波を送信してから超音波受信器D2がこの超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、上部ケーシング11の第1の厚みd1を決定してもよい。
【0041】
(ステップS106)次に、上記位置合わせ位置とは別の位置で超音波送信器D1と超音波受信器D2の位置あわせをする。位置合わせの具体的な方法は、ステップS103で説明した方法と同じであるので、その説明を省略する。上記位置合わせの結果、例えば図6に示すように、超音波送信器D1が座標X2に位置し、超音波受信器D2が座標X2'に位置するものとして以下説明する。
【0042】
(ステップS107)次に、計測者は、ステップS104と同様な方法で、第1の座標系における超音波送信器D1の座標X2を特定する。また、計測者は、ステップS104と同様な方法で、第2の座標系における超音波受信器D2の座標X2'を特定する。
【0043】
(ステップS108)次に、超音波送信器D1は、ステップS106で位置合わせされた超音波送信器D1と超音波受信器D2の座標X2、X2'(図6参照)において、上部ケーシング11の厚み(以下、第2の厚みという)d2(図6参照)を測定する。例えば、計測者は、超音波送信器D1から送信され上部ケーシング11の他方側の表面S2で反射して戻ってきた超音波を超音波送信器D1が受信した時間を用いて、上部ケーシング11の第2の厚みd2を決定する。具体的には例えば、計測者は、この時間と上部ケーシング11の材質によって決まる超音波の伝搬速度とを乗じたものを2で割ることによって、上部ケーシング11の第2の厚みd2を決定する。
なお、計測者は、超音波送信器D1が超音波を送信してから超音波受信器D2がこの超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、上部ケーシング11の第2の厚みd2を決定してもよい。
【0044】
(ステップS109)次に、上記二つの位置合わせ位置とは別の位置で超音波送信器D1と超音波受信器D2の位置あわせをする。位置合わせの具体的な方法は、ステップS103で説明した方法と同じであるので、その説明を省略する。上記位置合わせの結果、例えば図6に示すように、超音波送信器D1が座標X3に位置し、超音波受信器D2が座標X3'に位置するものとして以下説明する。
【0045】
(ステップS110)次に、計測者は、ステップS104と同様な方法で、第1の座標系における超音波送信器D1の座標X3を特定する。また、計測者は、ステップS104と同様な方法で、第2の座標系における超音波受信器D2の座標X3'を特定する。
【0046】
(ステップS111)次に、超音波送信器D1は、ステップS109で位置合わせされた超音波送信器D1と超音波受信器D2の座標X3、X3'(図6参照)において、上部ケーシング11の厚み(以下、第3の厚みという)d3(図6参照)を測定する。例えば、計測者は、超音波送信器D1から送信され上部ケーシング11の他方側の表面S2で反射して戻ってきた超音波を超音波送信器D1が受信した時間を用いて、上部ケーシング11の第3の厚みd3を決定する。具体的には例えば、計測者は、この時間と上部ケーシング11の材質によって決まる超音波の伝搬速度とを乗じたものを2で割ることによって、上部ケーシング11の第3の厚みd3を決定する。
なお、計測者は、超音波送信器D1が超音波を送信してから超音波受信器D2がこの超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、上部ケーシング11の第3の厚みd3を決定してもよい。
【0047】
(ステップS112)次に、計測者は、被測定物の一方側の表面S1上の複数の点の座標と被測定物の他方側の表面S2上の複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する。具体的には、計測者は例えば、第1の座標系における超音波送信器の座標X1と第2の座標系における超音波受信器の座標X1'との距離が第1の厚みd1となり、第1の座標系における超音波送信器の座標X2と第2の座標系における超音波受信器の座標X2' との厚みが第2の厚みd2となり、且つ第1の座標系における超音波送信器の座標X3と第2の座標系における超音波受信器の座標X3'との厚みが第3の厚みd3となるように、第2の3次元データに含まれる第2の座標系における全座標を、第1の座標系における座標に座標変換する。これにより、上部ケーシング11の一方側の表面S1上の複数の座標と、上部ケーシング11の他方側の表面S2上の複数の座標が、一つの座標系で表される。このため、上部ケーシング11の任意の箇所における厚みを算出することができ、上部ケーシング11の厚み分布を決定することができる。
なお、本実施形態では一例として、第2の3次元データに含まれる第2の座標系における全座標を、第1の座標系における座標に座標変換したが、これに限らず、第1の3次元データに含まれる第1の座標系における全座標を、第2の座標系における座標に座標変換してもよい。
【0048】
なお、本実施形態では、各座標系における超音波送信器及び超音波受信器の位置と厚みの組(例えば、第1の厚みd1、座標X1、座標X1'の組)を三つ用いたが、これに限らず、一つまたは二つでもよいし、四つ以上であってもよい。
但し、各座標系における超音波送信器及び超音波受信器の位置と厚みの組を三つ以上用いることが好ましい。仮に、第1の厚みd1、座標X1、座標X1'の1組だけ用いた場合、第1の3次元データが表す第1の座標系における位置に対して、第2の3次元データが表す第2の座標系における位置が、座標X1を中心として球状に回転することにより、第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係にずれが発生する恐れがあるからである。また、第1の厚みd1、座標X1、座標X1'の組と第2の厚みd2、座標X2、座標X2'の組の2組だけ用いた場合、第1の3次元データが表す第1の座標系における位置に対して、第2の3次元データが表す第2の座標系における位置が、座標X1及び座標X2を通る直線を軸として回転することにより、第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係にずれが発生する恐れがあるからである。
【0049】
以上、第1の実施形態における傾向管理方法は、被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する第1の工程を有する。
更に傾向管理方法は、超音波送信器が送信した超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、被測定物の一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を一方側の表面に沿って移動させるか、または被測定物の他方側の表面側から超音波を受信する超音波受信器を他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行う第2の工程を有する。
更に傾向管理方法は、第2の工程により位置あわせされた超音波送信器と超音波受信器の位置において、超音波送信器が送信した超音波が被測定物の他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を超音波送信器が受信した時間、または超音波送信器が送信した超音波を超音波受信器が受信するまでにかかる時間を用いて、被測定物の厚みを決定する第3の工程を有する。
更に傾向管理方法は、第3の工程で決定された厚みと、第1の座標系における超音波送信器の位置と、第2の座標系における超音波受信器の位置とを用いて、第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する第4の工程と、を有する。
【0050】
これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。このため、腐食または壊食などによる被測定物の肉厚減少量を正確に測定することができる。また、それらの腐食または壊食が、被測定物全体のうちどの部位に発生しているかを正確に把握することができる。
【0051】
続いて、本実施形態に係る肉厚減少の傾向管理方法について説明する。図8は、上部ケーシング11の時間的な変遷の一例を示す概略図である。稼働時間毎に、図7のフローチャートの処理を実行し、実行して得られた第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を示すデータから、上部ケーシング11の形状を表す形状データを作成し、この形状データを蓄積していく。
【0052】
そして、計測者は、この形状データを図8に示すように3次元的に表示することにより、腐食形態を判断してもよい。ここで、腐食形態には、均一腐食、部分腐食、孔食、割れ、欠損などがある。また、計測者は、この腐食形態から補修方法、次回診断時期及び/または余寿命を評価してもよい。
【0053】
また、計測者は、上部ケーシング11の表面の形状データを図8のように異なる稼働時間で比較することにより、計測者は、どこの部分がどれだけ減肉していっているかといった減肉の進行状況を把握することができる。これにより、計測者は、減肉する傾向が示された箇所を、傾向管理に適した評価点(例えば、図8の評価点P11〜P33)に定めることができる。図8の例では、初期から数年後、十数年後と経るうちに、縦縞部分が腐食していく状況を、三つの組の評価点で把握することができる。このようにして、腐食または壊食などによる肉厚減少の傾向管理を行うことができる。
【0054】
次に重要な技術的課題は、機器の劣化状況の診断方法であり、以下、機器の劣化状況の診断方法についての課題について説明する。従来は、全体の各点の厚みを把握することは工数や手間が掛かるため、腐食が激しい局所的な部分(特定部位)の厚みを重点的に測定して、腐食や壊食の状況を把握し、肉厚減少の進度からメンテナンス方針を判断してきた。
【0055】
しかしながらポンプは一般的な寿命が30〜50年と長いため、運用期間の間に水量や水位、運転方法(例えば増設等に伴う並列運転方法の変更など)など運用が変更になる場合が多い。このように運用が変更される場合、ポンプの運転点(状態)が運転方法の変更前後で変わってしまうため、腐食等を発生する箇所も変更前後で異なり、変更前と違う箇所での腐食が将来支配的になる可能性がある。つまり従来注目していた特定部位のみに着目し、劣化状況の診断を行っていると診断を誤る可能性がある。このことから、特定箇所の厚みのみを管理する方法では、運用変更で腐食等を発生する箇所が変わり、劣化状況の診断を誤る恐れがあり、被測定物の真の余寿命予測は出来ない。
【0056】
また目視観察により腐食部位(箇所)を特定し、測定する方法においては腐食箇所をヒューマンエラーにより見過ごされる危険性がある。更に傾向管理で測定した計測結果が点である場合は、適切なポイント(最も腐食等の激しい部分)を捉えているかどうかが不明であり、精度の良い診断結果とは言えない。そこで、工場において持ち込みし、計測による腐食部位の調査、診断を行うこともある。しかしながらその場合には機器の搬出、分解等多大な労力と費用が発生する。
【0057】
上記の問題を解決する本実施形態に係る劣化状態の診断方法について説明する。本実施形態に係る劣化状態の診断方法では、一度の計測で形状を評価するのではなく、定期的にもしくは複数回計測した結果を基に、計測結果を比較して劣化状態を診断する。例えば、計測者は、定期的に形状データを計測し、計測する毎に得られた形状データを記憶装置に蓄積させていく。そして、計測者は、現在の形状データを計測すると、記憶装置内の過去の形状データを参照し、現在の形状データと過去の形状データとを比較する。この比較により、機器の劣化状態を診断する。その際、計測者は、ある稼働時間における形状データを初期の形状データと比較することにより、減肉厚または減肉体積を算出してもよい。そして、計測者は、減肉厚または減肉体積を用いて、上部ケーシング11の劣化状態を診断してもよい。
【0058】
また、計測者は、減肉の進行状況からケーシングの余寿命を予測してもよい。例えば、計測者は、図8において十数年後に最も減肉する傾向が示された評価点P33及び対応する評価点P13、P23を選び出してそれぞれの評価点における減肉量を算出し、経過時間と減肉量の近似式を算出し、上部ケーシング11に最低限必要な厚みまで減肉する年数を余寿命として予測してもよい。
【0059】
<第2の実施形態>
続いて、第2の実施形態について説明する。従来、ケーシングの外側に塗装が施されていたり、補修材(例えば、コーキング等)が施されていたりする場合は、塗装または補修材の厚みがあるため、ケーシングの肉厚からケーシングを構成する金属部分の厚みを読み取ることができないという問題があった。それに対して、本実施形態では、塗装または補修材が施されていない表面に配置された超音波送受信器が超音波を送信した時から、送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて、金属部分の厚みを決定する。
【0060】
図9は、補修材が施された上部ケーシング11の一例を示す概略断面図である。図9に示すように、上部ケーシング11は一例として鋳鉄111でできており、表面S1には補修材が施されていないが、表面S2には補修材112が施されている。このような場合に、図10に示すような三つのステップで、鋳鉄111の厚みの分布を決定する。図10は、鋳鉄111の厚みの分布を決定する方法を説明するための図である。
【0061】
まず、第1のステップとして、第1の実施形態における図7のフローチャートの処理を行う。これにより、図10(A)に示すように、第1の3次元データDT1が表す第1の座標系における複数の点の座標と第2の3次元データDT2が表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定することができるので、上部ケーシング11の厚さ分布dd1(x,y)を決定することができる。
【0062】
次に、第2のステップとして、図10(B)に示すように、補修材が施された場所において、超音波送受信器D3(例えば、超音波探触子)を、上部ケーシング11の表面S1上に設置し、超音波送受信器D3に、表面S1に対して略垂直に超音波を送信させる。超音波は音響インピーダンスの低いものから高いものへは音波が通るが、高いものから低いものへはその界面で反射する特性を有する。この特性を有するがゆえに、超音波は音響インピーダンスの高い鋳鉄と音響インピーダンスが低い補修材との境界(例えば、図10(B)では点P41)で反射する。
【0063】
超音波送受信器D3が表面S1に略垂直に超音波を送信した時から送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて、超音波送受信器D3が設置された位置における鋳鉄111の厚みを決定する。具体的には、超音波送受信器D3が超音波を送信した時から送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間に、鋳鉄111固有の伝搬速度を乗算し、2で割ることによって、超音波送受信器D3が設置された位置における鋳鉄111の厚みを決定する。この処理を、超音波送受信器D3の設置位置を表面S1に沿ってずらす毎に行う。
【0064】
このように複数点における鋳鉄111の厚みを測定し、測定した得られた複数の位置における厚みで、他の位置における厚みを補間することにより、上部ケーシング11の鋳鉄111の厚さ分布を推定する。これにより、図10(c)に示すように、鋳鉄111の領域R1と補修材の領域R2を区別することができる。
【0065】
以上、第2の実施形態において、被測定物の補修材が施されていない表面S1に配置された超音波送受信器D3が当該表面S1に対して略垂直に超音波を送信した時から、送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて、被測定物の金属部分の厚みを決定する。このように、被測定物の金属部分の厚みが分かるので、この金属部分の厚みから余寿命を判断することができる。
【0066】
<第3の実施形態>
続いて、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、上記超音波の特性を利用して、補修材が剥がれているか否か判定する。
【0067】
図11は、補修材が剥がれかかった上部ケーシング11の一例を示す概略断面図である。図11に示すように、上部ケーシング11は一例として鋳鉄111でできており、表面S2には補修材112が施されているが一部剥がれている。このような場合に、図12に示すような三つのステップで、補修材が剥がれている箇所の分布を決定する。図12は、補修材が剥がれている箇所の分布を決定する方法を説明するための図である。
【0068】
補修材が剥がれている箇所には、補修材の背面に空気層ができる。このため、図12に示す手順から、見た目上の厚さが極端に減ることにより、剥がれ部分を判断することが可能となる。
まず、第1のステップとして、第1の実施形態における図7のフローチャートの処理を行うことにより、第1の3次元データDT1が表す第1の座標系における複数の点の座標と第2の3次元データDT2が表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する。そして、この相対的な位置関係から、図12(A)に示すように、上部ケーシング11の厚さ分布dd2(x,y)を決定する。
【0069】
次に、ステップ2として、図12(B)に示すように、補修材が施された場所において、超音波送受信器D4(例えば、超音波探触子)を上部ケーシング11の表面S2上に設置し、超音波送受信器D4に、表面S2に対して略垂直に超音波を送信させる。超音波は音響インピーダンスの低いものから高いものへは音波が通るが、高いものから低いものへはその界面で反射する特性を有する。この特性を有するがゆえに、補修材が剥がれていない健全な箇所では、超音波は音響インピーダンスの高い鋳鉄111と音響インピーダンスが低い空気との境界(例えば、図12(B)では点P51)で反射する。この場合に、上部ケーシング11の補修材112が施された表面S2に配置された超音波送受信器D4が当該表面S2に対して略垂直に超音波を送信した時から、送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて上部ケーシング11の厚みを求める。このようにして求めた上部ケーシング11の厚みは、第1のステップで決定された、対応する箇所の上部ケーシング11の厚みを基準とする許容範囲に収まる。このため、観測者は、超音波送受信器D4が配置された表面S2の直下の補修材112が剥がれていないと判断することができる。
【0070】
一方、補修材が剥がれている箇所では、超音波は音響インピーダンスの高い補修材112と音響インピーダンスが低い空気層113との境界(例えば、図12では点P52)で反射する。この場合に同様にして、上部ケーシング11の補修材112が施された表面S2に配置された超音波送受信器D4が当該表面S2に対して略垂直に超音波を送信した時から、送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて上部ケーシング11の厚みを求める。このようにして求めた上部ケーシング11の厚みは、ステップ1で決定された、対応する箇所の上部ケーシング11の厚みを基準とする許容範囲から外れ、この許容範囲の最小値を下回る。このため、観測者は、超音波送受信器D4が配置された表面S2の直下の補修材112が剥がれていると判断することができる。
【0071】
このようにして、補修材112が施された領域について、超音波送受信器D4の配置する位置をずらす毎に、上部ケーシング11の厚みを決定し、決定した厚みをステップ1で決定された対応する箇所の厚みと比較することによって、前記補修材が剥がれている箇所を判定する。例えば、図12(C)に示すように、第2の3次元データDT2に含まれる複数の位置のうち、補修材全体の領域R3に含まれる位置と、補修材が剥がれている領域R4に含まれる位置を決定することができる。これにより、補修材112が剥がれている箇所の分布を把握することができる。
【0072】
以上、第3の実施形態において、被測定物の補修材112が施された表面S2に配置された超音波送受信器D4が当該表面S2に対して略垂直に超音波を送信した時から送信後に戻ってきた超音波を受信した時までに経過した時間を用いて、被測定物の厚みを決定し、決定した厚みとステップ1で決定された相対的な位置関係に基づく対応する箇所の厚みとを比較することによって、補修材112が剥がれている箇所を判定する
これにより、補修材112が剥がれている箇所の分布を把握することができるので、表面の目視では不可能となる適切な補修が可能となる。
【0073】
なお並行して、通常カメラによる画像も記録してもよい。これにより、塗装や補修材の表面状態を把握することで検証精度を上げることができる。
【0074】
なお、各実施形態において、傾向管理方法または診断方法について説明したが、これらの方法を実行するシステムについても実現可能である。その場合、被測定物の肉厚減少の傾向を管理する傾向管理システムは、3次元データ取得装置と、厚み測定装置と、座標位置調整装置とを備え、各装置はそれぞれ以下の処理を実行する。
3次元データ取得装置は、被測定物の一方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記一方側の表面上の第1の座標系における複数の点の座標を表す第1の3次元データを取得し、前記被測定物の他方側の表面を非接触式の3次元スキャナでスキャンすることにより、前記他方側の表面上の第2の座標系における複数の点の座標を表す第2の3次元データを取得する。
厚み測定装置は、超音波送信器から送信された超音波を超音波受信器が少なくとも受信可能となるように、前記被測定物の前記一方側の表面に対して略垂直な方向に超音波を送信する超音波送信器を前記一方側の表面に沿って移動させるか、または前記被測定物の前記他方側の表面側から前記超音波を受信する超音波受信器を前記他方側の表面に沿って移動させるか、またはこれら双方を行うことで位置あわせされた前記超音波送信器と前記超音波受信器の位置において、前記超音波送信器から送信され前記被測定物の前記他方側の表面で反射して戻ってきた超音波を前記超音波送信器が受信した時間、または前記超音波送信器超音波を送信してから前記超音波受信器が前記超音波を受信するまでにかかる時間を用いて、前記被測定物の厚みを決定する。
座標位置調整装置は、前記厚み測定装置により得られた前記被測定物の厚みと、前記第1の座標系における前記超音波送信器の位置と、前記第2の座標系における前記超音波受信器の位置とを用いて、前記第1の3次元データが表す第1の座標系における複数の点の座標と前記第2の3次元データが表す第2の座標系における複数の点の座標との相対的な位置関係を決定する。
これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。このため、現在の被測定物の厚み分布と過去の被測定物の厚み分布とを比較することにより、被測定物の肉厚減少の傾向を管理することができる。
【0075】
同様にして、被測定物の劣化状態を診断する診断システムは、3次元データ取得装置と、厚み測定装置と、座標位置調整装置とを備え、各装置はそれぞれ上述した処理を実行してもよい。これにより、一方側の表面上の任意の点と他方側の表面上の任意の点の相対的な位置関係が分かるので、被測定物の任意の箇所における厚みを算出することができ、被測定物の厚み分布を決定することができる。このため、現在の被測定物の厚み分布と過去の被測定物の厚み分布とを比較することにより、被測定物の劣化状態を診断することができる。
【0076】
以上、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1:ケーシング、2:主軸、6:ラジアル軸受、7:スラスト軸受、11:上部ケーシング、12:下部ケーシング、15:吐出口、16:吸込口、100:ポンプ、D1:超音波送信器、D2:超音波受信器、D3:超音波送受信器、D4:超音波送受信器、K1:第1の基準点、K2:第2の基準点、S1:表面、S2:表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13