【文献】
C.R.Osterwald et al.,Electrochemical corrosion of SnO2:F transparent conducting layers in thin-film photovoltaic modules,Solar Energy Materials & Solar Cells,米国,Elsevir,2003年,79(2003),21-33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような接続を行うと、太陽電池モジュールの金属フレームはいずれも0Vとなる一方で、太陽電池アレイでは昇圧させるための直列接続から、アレイ端の+極端と−極端では大きな電位差を有し、家庭用で200V以上、産業用では600V〜1000Vとなる。これが意味するところは、アレイ端の太陽電池モジュールでは金属フレームの電位が0Vに対し、最低でも太陽電池セルは家庭用では±100V、産業用では±300V〜±500Vの電位差を有することになる。これだけの電位差がガラスと封止材を介し、長期に渡って太陽電池セル表面に誘起されると問題が生じてくる。これによる太陽電池モジュールの劣化をPIDと称しており、今日、重大な問題となっている。
【0009】
PIDがどうして生じるかは、未だ解らない部分があるが、少なくとも太陽電池モジュールのガラス内に存在するナトリウムイオンが原因の一つと考えられる。ナトリウムイオンは陽イオンであるため、太陽電池セルに対して太陽電池モジュールのガラスや金属フレームの電位が高くなると、この陽イオンはクーロン力により、ガラス内、さらには封止材内を移動し、太陽電池表面近傍に追いやられる。これが、太陽電池セルのpn接合の電界を狂わせたり、電極を腐食したりして、太陽電池特性を損ねると考えられる。
【0010】
PID対策は、このナトリウムイオンの可動を封じることであり、封止材ではEVAに換えて電気抵抗率の低いアイオノマー、ポリオレフィン等を利用するとPIDが抑制される。また、ガラスを化学処理し、ナトリウムをカリウムに置換したガラスでもPIDは生じにくいことが分かっている。これは、ナトリウムイオンと比較してカリウムイオンの半径が大きいため、ガラスや封止材内の可動に制限がかかるためと考えられる。また、反射防止膜等の太陽電池表面の膜の導電性を高めるとPIDが生じにくいと言われている。これは、ナトリウムイオンが太陽電池セル近傍に集まってきても、その導電性の高い膜がセル内部に及ぼうとするクーロン力を弱めるためと解釈することができる。
【0011】
しかしながら、上記対策はどれも太陽電池モジュールの製造コストを高くするだけであり、太陽光発電の普及を阻害するものでしかない。また、温度や湿度が高い等、環境の劣悪なところではPIDは発生しやすいと言われており、上記対策を行ったからといって、環境によってはPIDをゼロにできないという問題がある。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、太陽電池モジュールの製造コストの上昇を抑制しながら、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる太陽光発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、1枚以上の太陽電池モジュールからなる太陽電池アレイと、パワーコンディショナーとを有する太陽光発電システムであって、前記太陽電池モジュールは1枚以上の太陽電池セルを含み、前記太陽電池モジュールに設けられ前記太陽電池セルと絶縁されている導体部に接続される第1導線と、一端が前記第1導線に接続される定電圧電源とを有し、前記定電圧電源によって、前記導体部に電位が供給されるものであることを特徴とする太陽光発電システムを提供する。
【0014】
このように、太陽電池モジュールに設けられ太陽電池セルと絶縁されている導体部に接続される第1導線と、一端が前記第1導線に接続される定電圧電源とを有し、定電圧電源によって導体部に電位を供給する太陽光発電システムであれば、太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができる。それにより、太陽電池モジュールの製造コストを抑制し、かつ、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる太陽光発電システムとすることができる。
【0015】
このとき、前記導体部に供給される電位が負電位であることが好ましい。
【0016】
太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンがナトリウムのような陽イオンである場合、導体部に供給される電位を負電位とすることで、封止用のガラスに含まれる不純物イオンを効果的に太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、PIDによる太陽電池特性の劣化を効果的に抑制することができる。
【0017】
このとき、前記太陽電池モジュールは複数の太陽電池セルを含み、前記太陽電池セル同士が第2導線で連結されていることが好ましい。
【0018】
このような構成により、太陽電池モジュールの開放電圧をより高くすることができる。
【0019】
このとき、前記定電圧電源の他端が第3導線に接続されており、前記第1導線が、前記定電圧電源及び前記第3導線を介して接地極に接続されていることが好ましい。
【0020】
このような構成により、導体部に安定した電位を供給することができる。
【0021】
このとき、前記太陽電池アレイが複数の太陽電池セルを含み、前記定電圧電源の他端が第3導線に接続されており、前記第1導線が、前記定電圧電源及び前記第3導線を介して、前記太陽電池アレイに含まれる複数の太陽電池セルの中で最も電位の低い太陽電池セルに接続されていることが好ましい。
【0022】
このような構成により、前記導体部に供給される電位を確実に太陽電池セルの電位より低くすることができる。
【0023】
このとき、前記第1導線、前記定電圧電源、前記第3導線のいずれかに電流計が連結されていることが好ましい。
【0024】
このような構成であれば、上記の電流計が電流を検知した場合、すなわち電流が流れた場合、その信号をキャッチし、しかるべき判断により定電圧電源からの電圧印加をストップできる。電流が検知されるということは太陽電池モジュールのどこかに漏電があるということなので、この信号を知ることにより、太陽電池モジュールの交換・修理を優先的に行うことができる。
【0025】
このとき、前記第1導線が接続される前記導体部が、前記太陽電池モジュールを取り囲むように設けられている金属フレームであることが好ましい。
【0026】
このように、電位が供給される導体部として通常アース電位に電位固定される金属フレームを好適に用いることができる。
【0027】
このとき、前記第1導線が接続される前記導体部が、前記太陽電池モジュールを取り囲むように設けられている導電膜であり、前記第1導線が、絶縁膜を介して前記導電膜を取り囲むように設けられている金属フレームと絶縁されていることが好ましい。
【0028】
このように、第1導線が金属フレームと絶縁されていることにより、たとえ電位供給時であっても、金属フレームに接触しても感電事故等が起きる可能性をより低くできる。
【0029】
また、本発明は、上記の太陽光発電システムを使用する方法であって、前記定電圧電源によって前記導体部に電位が供給されることを特徴とする太陽光発電システムの使用方法を提供する。
【0030】
このような太陽光発電システムの使用方法であれば、定電圧電源によって導体部に電位が供給されることにより、太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、それにより、太陽電池モジュールの製造コストを抑制し、かつ、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる。
【0031】
このとき、非発電時に前記定電圧電源によって前記導体部に電位が供給されることが好ましい。
【0032】
このようにすることにより、発電時には導体部に電位を供給させないことにより、太陽電池モジュールが漏電していた場合であったとしても、その漏れ電流を安全にアースさせることができる。その一方で、非発電時に導体部に電位を供給することによって、太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、発電中にPIDが発現していたとしても、非発電時にその劣化を回復させることができる。
【0033】
このとき、前記非発電時に前記定電圧電源によって前記導体部に前記太陽電池モジュールの開放電圧の30%以上の絶対値を有する電位が供給されることが好ましい。
【0034】
非発電時のそれぞれの太陽電池セルの電位はほぼ一定で差がほとんど無いため、太陽電池アレイを構成する太陽電池モジュールの開放電圧の30%以上の絶対値を有する電位を導体部に供給することにより、発電時にPIDが発現していたとしても、非発電時にその劣化を効果的に回復させることができる。
【発明の効果】
【0035】
以上のように、本発明の太陽光発電システムであれば、太陽電池モジュールに設けられ太陽電池セルと絶縁されている導体部に接続される第1導線と、一端が前記第1導線に接続される定電圧電源とを有し、定電圧電源によって導体部に電位を供給することによって、太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができる。これにより、太陽電池モジュールの製造コストの上昇を抑制しながら、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる太陽光発電システムとすることができる。また、本発明の太陽光発電システムの使用方法であれば、定電圧電源によって導体部に電位が供給されることにより、太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、それにより、太陽電池モジュールの製造コストを抑制し、かつ、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
前述したように、太陽光発電システムでは、太陽電池モジュールに設けられる金属フレームからアース線を取り出し、接地極へ接続しているが、このような接続を行うと、モジュール内で(すなわち、太陽電池セルと金属フレームとの間で)非常に大きな電位差を有することになる。この電位差によって、太陽電池モジュールのガラス内に存在する不純物イオンは、クーロン力により、ガラス内、さらには封止材内を移動し、太陽電池表面近傍に追いやられ、これにより太陽電池の出力特性を損ね、太陽電池モジュール特性が劣化するという問題があった。これはPIDと称され、今日の重大な問題となっている。
【0039】
これに対し、封止に用いる封止材やガラスの材料を変更することや、反射防止膜等の太陽電池セル表面の膜の導電性を高めることも提案されているが、いずれの方法も製造コストがかかるという問題や、環境の劣悪なところではPIDをゼロにできないという問題が残っていた。
【0040】
そこで、本発明者は、製造コストの上昇を抑制しながら、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる太陽光発電システムについて鋭意検討を重ねた。その結果、
太陽電池モジュールに設けられ太陽電池セルと絶縁されている導体部に接続される第1導線と、一端が前記第1導線に接続される定電圧電源とを有し、定電圧電源によって導体部に電位を供給する太陽光発電システムであれば、太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、それにより、太陽電池モジュールの製造コストの上昇を抑制しながら、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる太陽光発電システムとすることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0041】
まず、本発明の太陽光発電システムについて、
図1を参照しながら、説明する。
【0042】
本発明の太陽光発電システムは
図1に例示するように、1枚以上の太陽電池モジュール11からなる太陽電池アレイ10と、パワーコンディショナー13とを有しており、太陽電池モジュール11は1枚以上の太陽電池セル24を含んでいる。本発明の太陽光発電システムはさらに、太陽電池モジュール11に設けられ太陽電池セル24と絶縁されている導体部(例えば、金属フレーム16)に接続される第1導線18と、一端が第1導線18に接続される定電圧電源17とを有し、定電圧電源17によって、導体部に電位が供給されるものである。太陽電池アレイ10は、接続箱12を介してパワーコンディショナー13に接続することができ、パワーコンディショナー13を経由して外部に電力を供給することができる。
【0043】
本発明の太陽光発電システムは、このように、太陽電池モジュール11に設けられ太陽電池セル24と絶縁されている導体部(例えば、金属フレーム16)に接続される第1導線18と、一端が第1導線18に接続される定電圧電源とを有し、定電圧電源によって導体部に電位を供給するものであるので、太陽電池モジュール11の封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、それにより、太陽電池モジュール11の製造コストの上昇を抑制しながら、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる太陽光発電システムとすることができる。
【0044】
本発明の太陽光発電システムにおいて、導体部に供給される電位が負電位であることが好ましい。
太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンがナトリウムのような陽
イオンである場合、導体部に供給される電位を負電位とすることで、封止用のガラスに含まれる不純物イオンを効果的に太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、PIDによる太陽電池特性の劣化を効果的に抑制することができる。
【0045】
本発明の太陽光発電システムにおいて、太陽電池モジュール11は複数の太陽電池セル24を含み、太陽電池セル24同士が第2導線25で連結されていることが好ましい(
図1参照)。このような構成により、発電時の太陽電池モジュール11の開放電圧をより高くすることができる。
【0046】
本発明の太陽光発電システムにおいて、定電圧電源17の他端(第1導線18に接続される側と反対側)が第3導線26に接続されており、第1導線18が、定電圧電源17及び第3導線26を介して接地極19に接続されていることが好ましい(
図1参照)。このような構成により、導体部(例えば、金属フレーム16)に安定した電位を供給することができる。
【0047】
本発明の太陽光発電システムにおいて、第1導線18、定電圧電源17、第3導線26のいずれかに電流計が連結されていることが好ましい。このような構成であれば、上記の電流計が電流を検知した場合、すなわち電流が流れた場合、その信号をキャッチし、しかるべき判断により定電圧電源からの電圧印加をストップできる。電流が検知されるということは太陽電池モジュールのどこかに漏電があるということなので、この信号を知ることにより、太陽電池モジュールの交換・修理を優先的に行うことができる。
【0048】
本発明の太陽光発電システムにおいて、第1導線18が接続される導体部を、太陽電池モジュール11を取り囲むように設けられている金属フレーム16とすることができる(
図1参照)。このように、電位が供給される導体部として通常アース電位で電位固定される金属フレームを好適に用いることができる。
【0049】
また、後述のように、本発明の太陽光発電システムにおいて、第1導線18が接続される導体部が、太陽電池モジュール11を取り囲むように設けられている導電膜(例えば、導電性テープ)であり、第1導線18が、絶縁膜(例えば、絶縁性テープ)を介して上記導電膜を取り囲むように設けられている金属フレーム(例えば、アルミフレーム)16と絶縁されているようにすることもできる。このように、第1導線18が金属フレーム16と絶縁されていることにより、たとえ電位供給時であっても、金属フレームに接触しても感電事故等が起きる可能性をより低くことができる。
【0050】
次に、本発明の太陽光発電システムの使用方法について、
図1を参照しながら、説明する。
【0051】
本発明の太陽光発電システムの使用方法は、上記で説明した太陽光発電システムを用いて、定電圧電源17によって導体部(例えば、金属フレーム16)に電位が供給される(
図1参照)。このように定電圧電源17によって導体部(例えば、金属フレーム16)に電位が供給されることにより、太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、それにより、製造コストを抑制し、かつ、PIDによる太陽電池特性の劣化を抑制することができる。
【0052】
本発明の太陽光発電システムの使用方法において、非発電時に前記定電圧電源によって前記導体部に電位が供給されることが好ましい。定電圧電源17の第1導線18側にスイッチを設けて、スイッチを切り替えることで第1導線18を定電圧電源17又は接地極19に接続できるようにして、非発電時にはスイッチを定電圧電源17側に切り替えて導体部(例えば、金属フレーム16)に定電圧電源17により電位を供給し、発電時にはスイッチを接地極19側に切り替えて導体部を接地する。このようにすることによって、発電時には、太陽電池モジュール11が漏電していた場合であっても、その漏れ電流を安全にアースさせることができる。その一方で、非発電時には、導体部に電位を供給することによって、太陽電池モジュールの封止用のガラスに含まれる不純物イオンを太陽電池セル側から導体部側に引き寄せることができ、発電中にPIDが発現していたとしても、非発電時にその劣化を回復させることができる。
【0053】
本発明の太陽光発電システムの使用方法において、非発電時に定電圧電源17によって導体部(例えば、金属フレーム16)に太陽電池モジュール11の開放電圧の30%以上の絶対値を有する電位が供給されることが好ましい。
【0054】
非発電時のそれぞれの太陽電池セルの電位はほぼ一定で差がほとんど無いため、太陽電池アレイを構成する太陽電池モジュールの開放電圧の30%以上の絶対値を有する電位を導体部に供給することにより、発電時にPIDが発現していたとしても、非発電時にその劣化を効果的に回復させることができる。
【0055】
以下、
図1〜3を参照しながら、本発明の太陽光発電システムの実施態様の一例(第1の態様)を詳細に説明する。
【0056】
まず、
図2に示すように、太陽電池アレイ10を用意する。具体的には、太陽電池モジュール11を用意し、結線する。太陽電池アレイ10内のモジュール数は、通常、パワーコンディショナー13の入力電圧範囲から決定される。例えば、最大枚数は最大入力電圧に安全率0.8〜0.9を乗じ、太陽電池モジュール11の開放電圧で割った値の近傍の整数とする。寒冷地等では太陽電池モジュール11の電圧が高まるため、この分を安全率として考慮に入れておくべきである。一方、最小枚数は最小入力電圧を安全率0.9で割り、モジュールの最適動作電圧で割った値近傍の整数とする。高温地域での太陽電池モジュール11の電圧降下を考慮に入れ、安全率を検討に入れておくべきである。
【0057】
太陽電池モジュール11を直列接続した一系列の太陽電池アレイの端子は複数系列集められ、接続箱12を介してパワーコンディショナー13に接続される。パワーコンディショナー13は太陽電池アレイで発電した直流電力を交流電力に変換するとともにシステム全体の運転を自動管理し、さらに、連系保護を行なう機能を有する。接続箱12は太陽電池アレイ10で発電した直流電力を集めパワーコンディショナーへ供給するとともに、直流側開閉器を内蔵し、電流の逆流を防止する。接続箱12はまた、サージを吸収する機能を有する。パワーコンディショナー13の定格は家庭用で5kW前後、産業用で10〜500kW程度のものがある。家庭用では太陽電池アレイ10の出力が5kW以下であることが多いためパワーコンディショナー13を1台で済ませるケースが多いが、大規模産業用の場合、パワーコンディショナー13の価格や接地条件等を勘案して、パワーコンディショナー13の台数を決定している。
【0058】
さらに太陽光により発電した電力を家庭内で消費するには分電盤14を介して、負荷(家庭用の電気機器)に接続する必要がある。電力系統へ逆潮流する場合は受電盤15に地絡過電圧継電器を搭載する必要であり、逆潮流しない場合は受電盤15に地絡過電圧継電器に加え、逆電力継電器、不足電力継電器を搭載する必要がする。このように分電盤14と受電盤15は電力会社や太陽電池アレイから供給された電力を分配し、家庭内の電気機器へ送ったり、太陽電池によって発電した電力を電力会社へ送電する機能を有する。
【0059】
その他、瞬時発電電力や積算発電電力量などをリアルタイムに表示する表示装置も用意する場合が多く、温度計や日射計のデータも取り込むのに利用される。
【0060】
このように太陽光発電システムを組む中で、本発明の太陽光発電システムにおいては、例えば、
図1に示すように、太陽電池モジュールの導体部(例えば、金属フレーム16)に定電圧電源17を接続する。具体的には、金属フレーム16端に穴を開け、そこにネジを差し込み、導線(第1導線)18で定電圧電源17と結ぶ。安全上から、太陽電池モジュールで感電しないよう、ネジには絶縁性テープを施すのが安全上好ましい。ここで、太陽電池モジュール毎に定電圧電源17を用意していてはコストがかかるため、隣の太陽電池モジュールとは金属フレーム16同士を導線(第1導線)18で連結し、アレイ毎、又は複数のアレイで一つの定電圧電源17を接続することができる。定電圧電源17のもう一方の端子はA〜D種接地工事で埋設された接地極19に接続する。
【0061】
また、
図3に示すように太陽電池モジュール11のアース線20の一端に第1導線18、スイッチ21を介し、定電圧電源17を接続することも可能である。このようなシステムでは、太陽電池モジュール11を設置する際、電位供給時の漏電を防ぐため、導体部と太陽電池モジュール内の太陽電池セルとは充分に絶縁されていなければならない。また、導体部としてアルミフレーム16を用いる場合には、太陽電池モジュールに設けられたアルミフレームに直接、高電圧がかかるため、通常、太陽電池モジュールのアルミフレームはアルマイト処理が施されているので、アルミフレーム表面は内部とは絶縁されているが、安全上、太陽電池システムに近寄れないよう周りに厳重な柵やフェンスを用意する必要がある。
【0062】
このようなシステムを組むことができれば、ある時間、太陽電池モジュール筐体を含む非セル部(すなわち、導体部)の電位が太陽電池セルの電位に対し相対的に同等か低くなるように、導体部に電位を供給することにより、ナトリウムイオンが太陽電池セル側に引き寄せられにくいようにすると共に、ナトリウムイオンを太陽電池セルの近傍から遠ざけることができる。これにより、PIDの発現を抑えることが可能である。
【0063】
この作用については、
図4において太陽電池モジュール内の太陽電池セルと太陽電池モジュールの導体部(例えば、金属フレーム16)の電位との関係を示しながら、詳細を以下に示す。
【0064】
図4は太陽電池アレイ一系統に太陽電池モジュールが9枚直列接続している場合を表わしている。ここで、太陽電池モジュールのそれぞれの最適動作電圧は25Vとする。すなわち、太陽光照射下では太陽電池モジュールは発電し、太陽電池モジュール一枚につき25Vずつ昇圧していく。一方、太陽電池モジュールの導体部からアースをとると、導体部の電位は0Vとなる。これに対して、各モジュール内の太陽電池セルの電位は、導体部の電位(アース電位)に対して、一般的に−100V〜100Vを示す(図内◆印)。この場合、9枚の太陽電池モジュールの中で、4枚の太陽電池モジュールの太陽電池セルは導体部の電位に対してマイナス電位となる。ガラス内に含まれるナトリウムイオンはガラスや内封止材であるEVA内を動くことができ、かつ陽イオンであるため、金属フレームの電位に対してマイナス電位である太陽電池セル近傍へ引き寄せられる。これにより、太陽電池セルのpn接合の電界が狂ったり、電極が腐食されたりし、太陽電池特性が劣化する。
【0065】
一方、
図1に示すように、導体部に接続される第1導線18を設け、これに定電圧電源17を接続し、導体部の電位を意図的に100V下げたとすると、導体部に対する太陽電池モジュール11内の太陽電池セルの電位はすべて0V以上となる(図内■印)。つまり、導体部に対する太陽電池セル24の電位がより高くなるため、陽イオンであるナトリウムイオンはクーロン力により太陽電池セル24に近づくことができなくなり、すなわち、PIDは生じなくなる。
【0066】
これは、非発電時も同様である。非発電時は、基本的に太陽電池モジュール11内の太陽電池セル24の電位は0Vである(図内▲印)。このとき、導体部の電位を意図的に100V下げたとすると、導体部に対する太陽電池モジュール11内の太陽電池セル24の電位はすべて100Vとなる(図内×印)。このときも、導体部より太陽電池セル24の電位が高くなるため、陽イオンであるナトリウムイオンはクーロン力により太陽電池セル24に近づくことができず、PIDは生じなくなる。
【0067】
PIDを抑制するには常時、上記のように電位を太陽電池モジュールの導体部(例えば金属フレーム16)に供給するのが理想的であるが、漏電を考慮すると、24時間電位を供給するのは好ましくなく、夜間等の非発電時に電位を供給し、発電時は漏電に対応できるように導体部を接地しておくのが好ましい。これは、
図3に示したスイッチ21を切り替えることにより行うことができる。
【0068】
また、PIDを低減させるために、非発電時に定電圧電源17により導体部に電位を供給する場合、太陽電池アレイを構成する太陽電池モジュールの開放電圧の30%以上の電圧の絶対値を有する負電位をかけることが好ましい。例えば、開放電圧25Vのモジュールで構成した太陽電池アレイの場合、非発電時に太陽電池モジュール開放電圧の30%にあたる−7.5Vの電位を導体部に供給すれば、各太陽電池モジュールの各太陽電池セルに対して、導体部の電位が7.5V低くなるため、結果的にナトリウムイオン等が太陽電池セル近傍から導体部側に引き寄せられ、PIDを回復させることが可能である。この程度の電圧であれば、たとえ感電したとしても重大災害につながることは少ない。一方、太陽電池モジュール開放電圧の30%未満である7.5V未満の絶対値を有する負電位を供給する場合では、非発電の時間ではPIDの回復が間に合わず、7.5V以上の絶対値を有する負電位を供給する場合と比較してPIDを抑制する効果は低い。
【0069】
次に、
図5を参照しながら、本発明の太陽電池用システムの実施態様の他の例(第2の態様)を詳細に説明する。第1の態様と重複する説明は適宜省略する。
【0070】
まず、太陽電池アレイ10を用意する。上記の第1の態様同様、太陽電池モジュール11を直列接続した一系列の太陽電池アレイの端子は複数系列集められ、接続箱12を介してパワーコンディショナー13に接続される。さらに、太陽光により発電した電力を自家消費できるよう分電盤14を介し、負荷(家庭用の電気機器)に接続する(
図2参照)。また、電力系統へ逆潮流できるよう受電盤15に接続する(
図2参照)。その他、瞬時発電電力や積算発電電力量などをリアルタイムに表示する表示装置等も用意することができる。
【0071】
PIDを抑制するため、上記の第1の態様同様、この太陽光発電アレイ10の各太陽電池モジュール11の導体部(例えば、金属フレーム16)を前述の通りアース線20で連結し、終端に第1導線18及びスイッチ21を介して定電圧電源17を接続する。定電圧電源17の端子のもう一端はA〜D種接地工事で埋設された接地極19に接続する。このとき、例えば、定電圧電源17と太陽電池モジュールの結線間もしくは太陽電池モジュール11と接地極19との間の電流を計測できるよう電流計22を差し込む。この電流計は導線の被覆を破ることのないクランプメーターでも構わない。定電圧電源17に電流計の機能があれば、それを利用しても構わない。
【0072】
このようなシステムを組むことにより、電流計22が電流を検知したとき、すなわち太陽電池モジュール11の漏電を検知したとき、導体部(例えば、金属フレーム16)への電位供給をストップでき、早期に太陽電池モジュール11を故障の無いものに換えることができる。電流計を本システムに挿入することで、太陽光発電ロスを抑制できるだけでなく、安全性も高めることができる。
【0073】
次に、
図6を参照しながら、本発明の太陽電池用システムの実施態様の他の例(第3の態様)を詳細に説明する。第1および第2の態様と重複する説明は適宜省略する。
【0074】
太陽電池モジュール11を直列接続した一系列の太陽電池アレイ10の端子を複数系列集め、接続箱12を介してパワーコンディショナー13に接続する。さらに、太陽光により発電した電力を自家消費できるよう分電盤14を介し、負荷に接続する(
図2参照)。また、電力系統へ逆潮流できるよう受電盤15に接続する(
図2参照)。その他、瞬時発電電力や積算発電電力量などをリアルタイムに表示する表示装置等も用意することができる。
【0075】
PIDを抑制するため、上記の第1および第2の態様同様、この太陽光発電アレイの各太陽電池モジュールの導体部(例えば、アルミフレーム16)をアース線20で連結し、終端に第1導線18及びスイッチ21を介して定電圧電源17を接続する。このとき、定電圧源17の端子のもう一端を直接、太陽電池モジュールの直列回路のケーブル27に接点23で接続し、ケーブル27を介して太陽電池アレイ10内で最も電位の低い太陽電池セル24’に接続する。この際、定電圧電源17の前後に電流計22を設置し、電流計22が漏電を検知したら本回路をオープンにできるようにスイッチ21を設定しておくといっそう安全性が高まる。
【0076】
このような回路構成にすると、定電圧電源17によって電位が供給されない場合でも、太陽電池モジュール内の太陽電池セルの電位は、太陽電池モジュールの導体部の電位に対して同一電位以上になる。これにより、電圧を印加した場合、外部要因に関係なく確実にセルと導体部(アルミフレーム)間に電位差を設けることが可能である。この際、上述の通り導体部側の電位を低くすることで、PIDをより確実に解消することが可能である。
【0077】
上記の
第3の態様で説明したように、本発明の太陽光発電システムにおいて、太陽電池アレイ10が複数の太陽電池セル24を含み、定電圧電源17の他端が第3導線26に接続されており、第3導線26を接地極19に接続するのではなく、接点23に接続することにより、第1導線18が、定電圧電源17及び第3導線26を介して、太陽電池アレイ10に含まれる複数の太陽電池セル24の中で最も電位の低い太陽電池セル24’に接続されていることもできる。このような構成により、導体部に供給される電位をより確実に太陽電池セルの電位より低くすることができる。
【0078】
次に、
図7を参照しながら、本発明の太陽電池用システムの実施態様の他の例(第4の態様)を詳細に説明する。第1〜第3の態様と重複する説明は適宜省略する。
【0079】
本態様では、電位が供給される導体部として、金属フレーム(例えば、絶縁のためアルマイト処理が施されたアルミフレーム)16ではなく、絶縁膜により金属フレームと絶縁された導電膜を用いる。
図7は、太陽電池モジュール11の金属フレームの装着方法を示している。
図7において、太陽電池モジュール11内のガラス、セル、封止材、バックシートからなるラミネート成型体71の外周に導電性テープ72、例えばアルミテープを装着し、導電性テープ72を定電圧電源17と接続し、太陽電池モジュールのガラスに外部から電圧が印加できる状態とする。導電性テープ72と定電圧電源17の接続は被覆導線75により行うことができる。さらに導電性テープ72上を絶縁性テープ73、例えばブチルゴムテープで覆うことにより、絶縁し、その周りにアルミフレーム部品74を組むことで太陽電池モジュール11に金属フレーム(例えば、アルミフレーム)76を装着する。導電性テープ72や絶縁性テープ73が透湿性の低いものであれば、より太陽電池モジュールの信頼性を向上させることができる。
【0080】
このように、太陽電池モジュールにおいて、電位が供給される導体部として、金属フレーム76と電気的に絶縁された導電膜72を用いることにより、たとえ定電圧電源17により導体部に電位が供給されている時であっても、金属フレーム76に接触しても感電事故等が起きる可能性をより低くすることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
図5に示すような3.38kW太陽光発電システムを用意した。太陽電池モジュール11は一般的な単結晶p型基板からなるシリコン太陽電池モジュールである。太陽電池モジュールは、封止材で封止され、さらに、白板強化ガラスとバックシートではさまれ、ラミネートされている。封止材にはEVA、バックシートにはPET(
Poly
Ethylene
Terephthalate)の両側をデュポン社のテドラーPVF(Poly
Vinyl
Fluoride)フィルムで挟んだシートを用いた。この太陽電池モジュールは太陽電池セル60枚を直列につないで作られ(いわゆる、60直)、最大出力260Wの出力を有し、その公称開放電圧は37.9V、公称短絡電流は9.10Aであった。本実施例では、これら太陽電池モジュール13枚を直列に接続し、日当たりの良い場所に設置した。このように直列に接続された太陽電池モジュールを、接続箱12を介し、パワーコンディショナー13に接続した。この際のパワーコンディショナーは定格出力4.4kWのものを用いた。太陽電池モジュール11の設置角度は90°から設置している場所の緯度を差し引いた角度が理想的であるが、太陽電池モジュール11同士の距離を減らすため、より低くするのが一般的であり、本実施例では20°とした。
【0083】
定電圧電源17は最大で350Vまで印加可能なものを用い、その負極をスイッチ21を介して、太陽電池アレイ10の端に設置されている太陽電池モジュール11のアルミフレーム16のアース取り出し穴に導線ケーブル(
図5の第1導線18)で接続した。
【0084】
次に、太陽電池アレイ10の端に設置されている太陽電池モジュールと、その他の太陽電池モジュールとは、このアース取り出し穴をアース線20で結ぶ形で連結した。この際、第1導線18又はアース線20と、アルミフレーム16との間は異種同士の金属の接触による腐食を防ぐため、ステンレス製のスターワッシャを利用し、ネジでしっかりと締め付けた。一方、定電圧電源17の正極側はC種接地工事により接地極19に接続した。本実施例では、電流計22で電流を検知した場合、電流計から信号が発せられ、自動的に電位供給がストップするようスイッチ21を設定しておいて、24時間定電圧電源17を接続し、アルミフレーム16に−180Vの電位を供給し続けた。
【0085】
(比較例1)
太陽電池アレイ10を実施例1と同様のモジュール構成として、
図8に示すような太陽光発電システムを構築した。すなわち、各太陽電池モジュール11のアルミフレーム16のアース取り出し穴をアース線20で接続し、アース線20の端を接地する(接地極19に接続する)接地工事を行うことにより、太陽光発電システムのアースをとることはしたが、定電圧電源、スイッチ、及び電流計は設けなかった。その他の点は実施例1と同一とした。
【0086】
(実施例2)
図6に示すような5.40kW太陽光発電システムを用意した。太陽電池モジュール11は単結晶n型基板からなるシリコン太陽電池セルを直列接続した太陽電池モジュールである。封止材、バックシートは実施例1と同様のものを用いた。
【0087】
この太陽電池モジュールは60直で最大出力270Wの出力を有し、公称開放電圧38.5V、公称短絡電流は9.35Aであった。本実施例では、これらの太陽電池モジュール20枚を直列に接続し、日当たりの良い場所に設置した。このように直列に接続された太陽電池モジュールを、接続箱12を介し、パワーコンディショナー13に接続した。この際のパワーコンディショナー13は定格出力5.5kWのものを利用した。太陽電池モジュール11の設置角度は、本実施例でも実施例1と同様に、20°とした。
【0088】
本実施例では、感電の可能性をより低くするため、
図7に示すように、アルミフレーム装着前に、ラミネートされた白板強化ガラス/EVA/太陽電池セル/EVA/バックシートからなるラミネート成型体71の周りをアルミテープ72で囲み、さらにその周りをアルミテープ72とアルミフレーム76とが導通しないようブチルゴムテープ73を用いて囲って絶縁した。その後、アルミフレーム部品74を組んだ。この際、アルミテープ72に電位を供給できるよう、アルミテープ72に接触させた被覆導線75をアルミフレーム76の脇から、太陽電池モジュールの背面側へ出した。
【0089】
本実施例においても、定電圧電源17は最大で350Vまで印加可能なものを利用し、その負極を、スイッチ21を介し、太陽電池アレイ10端に設置されている太陽電池モジュールのアルミテープ72と導通させている一方の被覆導線75に接続した。次に、太陽電池アレイ10中の別の太陽電池モジュール11とも被覆導線75を結ぶ形で連結した。一方、定電圧電源17の正極側は
図6に示すように太陽電池アレイ回路の低電位側の接点23に接続した。
【0090】
本実施例ではスイッチ21を常時定電圧電源17側にし、接点23に対して−10Vの電位をアルミテープ72に供給した。本実施例においても、電流計22で電流を検知した場合は、電流計から信号が発せられ、即刻、電位供給がストップするようフィードバック回路を導入しておいた。
【0091】
(比較例2)
太陽電池アレイを実施例2と同様のモジュール構成として、
図8に示すような太陽光発電システムを構築した。すなわち、各太陽電池モジュールのアルミテープをアース線20で接続し、アース線20の端を接地する接地工事を行うことにより、太陽光発電システムのアースをとることはしたが、定電圧電源およびスイッチは設けなかった。その他の点は実施例2と同一とした。
【0092】
(実施例3)
実施例2と同一のシステム構成の5.40kW太陽光発電システムシステムを用意した。ただし、本実施例では、感電や漏電といった安全性の観点から、スイッチ21を夜間(非発電時)にのみ定電圧電源17側に切り替え、昼間(発電時)は接点23側に切り替えた(
図6参照)。その際、夜間(非発電時)においては、接点23に対して太陽電池モジュールの開放電圧の約30%にあたる(30%をやや上回る)−12Vの電位をアルミテープ72(
図7参照)に供給した。その他の運営方法は実施例2と同一とした。
【0093】
(実施例4)
実施例3と同一のシステム構成の5.40kW太陽光発電システムを用意した。ただし、夜間(非発電時)においては、接点23に対して太陽電池モジュールの開放電圧の30%を下回る−9Vの電位をアルミテープ72(
図7参照)に供給した。その他の運営方法は実施例3と同一とした。
【0094】
実施例1〜4、比較例1、2において、太陽光発電システムに太陽電池モジュールを装着する前に、初期の太陽電池電気特性を太陽電池モジュール用のソーラーシミュレーターで測定した。測定する太陽電池モジュールは、いずれも太陽電池アレイの中で最も低電位側の太陽電池モジュールとした。測定に用いた照射光のスペクトルはAM1.5Global/ClassA、その強度は1kW/m
2である。ソーラーシミュレーターは、少数キャリヤライフタイムが比較的長い結晶系太陽電池でも正確に測定可能なパルス長が50ミリ秒のロングパルスのものを用いた。
【0095】
次に太陽電池モジュール内の太陽電池セルと金属フレーム(又はアルミテープ)との間に実際にどの程度の電圧が印加されているかを調べるために、
図9に示す要領で昼間と夜間の各モジュールの金属フレーム(又はアルミテープ)と太陽電池セルとの電位差を測定した。
【0096】
テスター94を用意し、一方の端子針(テスター+端子)95でアルミフレーム(又はアルミテープ)92を、もう一方の端子針(テスター−端子)96で太陽電池モジュールを直列に結ぶケーブルに接触させて、電位差を測定した。実際はアルミフレームもケーブルも感電防止のため被覆されており、アルミテープは絶縁性テープで覆われているので、測定には工夫が必要である。例えば、アルミフレームに対してはアース端子用の穴のアルマイト処理が施されていない箇所にテスターの針(テスター+端子95)を当てればよい。一方、太陽電池モジュールを直列に結ぶケーブル97(すなわち、太陽電池モジュール裏面90に設けられたジャンクションボックス91同士を接続する導線)に直接、テスターの針を当てるには、被覆をむく必要があるので、問題がある。この場合は、例えば太陽電池モジュールのケーブル97のコネクター93に合う雄雌のコネクターを両端に持ち、かつその中間点辺りの被覆を故意に剥がした検査用補助ケーブル98を用意し、それを太陽電池モジュール間のケーブル97に接続し、故意に被覆を剥がした箇所にテスターの針(テスター−端子96)を当てればよい。こうすることにより、電位差を測定することが可能である。
【0097】
低電位側の太陽電池モジュールから調べた金属フレーム(又はアルミテープ)に対する太陽電池モジュール内の太陽電池セルの電位の測定結果を
図10および
図11に示す。本測定では低電位側の端子とフレーム(又はアルミテープ)の電位差を測定したことから、
図10、
図11で示される値は、正確には「アルミフレーム(又はアルミテープ)に対するモジュール内一番目の太陽電池セルの電位」と言うことができる。
図10は実施例1及び比較例1の測定結果であり、
図11は実施例2、比較例2、及び、実施例3の測定結果である。ここで横軸の番号は測定した太陽電池モジュールの番号を表す。
【0098】
実施例1では、−180Vの電位を太陽電池モジュール11のアルミフレーム16に印加し続けているため、相対的に太陽電池モジュール11内の太陽電池セル24の電位が高くなり、昼間(発電時)、最も電位が低い端の太陽電池モジュール内のセルでもアルミフレーム16に対し、その電位は0V以上となった。よって、このシステムの反対の端では、太陽電池モジュール11のアルミフレーム16に対する電位は360V以上となった。こうすることにより、基本的に実施例1のシステム内で太陽電池セルの電位がアルミフレーム16より低くなる箇所は無くなった。夜間(非発電時)は太陽電池が発電しないことから各太陽電池モジュール毎の昇圧は見られず、アルミフレーム16に電位を供給することによって生じる電圧差180V分だけ、どの太陽電池モジュール内の太陽電池セルのアルミフレーム16に対する電位も高くなった。
【0099】
一方、比較例1では、昼間は基本的に低電位側の太陽電池モジュール内の太陽電池セルの電位はアルミフレーム16に対しマイナスを示し、高電位側の太陽電池モジュール内の太陽電池セルの電位はアルミフレーム16に対しプラスを示した。つまり、太陽電池システムのうち、約半分の太陽電池の電位がアルミフレーム16に対してマイナスを示し、ナトリウムイオンを太陽電池セル側へ引き寄せるような状況を作り出していた。なお、
図10に示すように、いくつかの太陽電池モジュールは規則的な昇圧による電位を示さないものが見られたが、測定ではしばしばこのような現象が観測される。詳細は分からないが、恐らく、アースが完全になされておらず、フローティング状態となって、電位が定まらないためと考えられる。
【0100】
実施例2では、−10Vを印加し続けた結果、実施例1と同様に、アルミテープ72に対してマイナス電位となる太陽電池セルは見られなくなった。また、時折、いくつかの太陽電池モジュールで電位が予想から外れて観測されるようなことはなくなった。これは、定電圧源の負極側を太陽電池アレイの中の最も電位が低い太陽電池セルと接続したことによる。これにより、フローティング状態の太陽電池モジュールが無くなったことによると考えられる。なお、この実施例2の夜間のアルミテープとの電位差は
図11内で示さなかったが、どの太陽電池モジュールの太陽電池セルもアルミテープに対して+10V近辺の電位が観測された。
【0101】
比較例2では比較例1と同様のアルミテープとの電位差の傾向を示した。夜間(非発電時)は発電しないのでアルミテープの電位に対してほぼ0Vであった。一方、昼間(発電時)は、約半分の太陽電池モジュール(低電位側の太陽電池モジュール)がアルミテープの電位に対してマイナス電位を示し、これらの太陽電池モジュールがPIDの脅威に晒されているのがわかる。
【0102】
実施例3では夜間(非発電時)のみ太陽電池モジュールの開放電圧の約30%にあたる(30%をやや上回る)電位を供給しており、実際に電位を測定してみると、夜間(非発電時)ではどの太陽電池モジュールもアルミテープの電位に対して12V前後の値が得られた。また実施例4では夜間(非発電時)のみ太陽電池モジュールの開放電圧の30%未満にあたる電位を供給した結果、
図11では図示していないが、測定すると夜間(非発電時)では太陽電池モジュール内の太陽電池セルのアルミテープに対する電位は9V±1Vの範囲を示した。
【0103】
40日後、太陽電池モジュールの性能がどのように変化したか調べるため、実施例1〜4、比較例1〜2について、太陽電池モジュールを架台から外し、前記ソーラーシミュレーターを用いて、太陽電池電気特性を調べた。測定する太陽電池モジュールは、上記と同様にいずれも太陽電池アレイの中で最も低電位側の太陽電池モジュールとした。測定条件は上記と同条件である。測定結果を表1に示す。
【0104】
表1は、パワーコンディショナーの負極に直接につながっている太陽電池モジュールの初期データと40日間設置した後のデータを示すものである。すなわち、表1のデータは、太陽電池セルの電位が太陽光発電システム内で最も低く、ナトリウムイオンが太陽電池セル側に最も引き寄せられやすい太陽電池モジュールの特性である。つまり、PIDが最も発現しそうな太陽電池モジュールの特性と言ってよい。ちなみに、実施例1〜4、比較例1、2のいずれにおいても装着期間中、電流計22はゼロであり、漏電等はなく、太陽電池モジュールを交換することは無かった。
【0105】
また、実施例2および比較例2の太陽電池モジュールについて、太陽電池セルの受光面側のpn接合に対し順方向に電流を流し、EL(
Electro
Luminescence)発光した像(以下、EL像と称する)をカメラで撮影した。その結果を
図12に示す。ここで、
図12(a)は実施例2のEL像であり、
図12(b)は、比較例2のEL像である。
【0106】
【表1】
【0107】
表1からわかるように、太陽電池のモジュールの外部から負電位をアルミフレームに供給し、アルミフレームの電位を太陽電池セルの電位より意図的に低くした場合、実施例1では、比較例1と比べて、フィルファクタおよび最大出力が低下しなかったことがわかる。これは、PIDの原因であるナトリウムイオンを太陽電池セル近傍に集積させていないことによる。一方、比較例2では、比較例1と劣化の形態が異なるのか、短絡電流、開放電圧が低下し、結果、最大出力の低下を招いた。実施例2では、アルミテープの電位を太陽電池セルの電位より意図的に低くしたので、やはり劣化が見られなかった。夜間(非発電時)のみ接点23に対して負電圧を供給した実施例3及び実施例4では、供給する負電位の絶対値が少ない実施例4で太陽電池特性の劣化が少し見られた。これは、実施例4では供給する負電位の絶対値が実施例3に比べて小さいため、昼間(発電時)に発現したPIDの回復の程度が実施例3よりも小さいことを示す。よって、PIDを抑制するためには、太陽電池モジュールの開放電圧の約30%以上にあたる電圧の絶対値を有する負電位を供給することが好ましい。
【0108】
上記結果は、
図12のEL像を見ればよりはっきりとする。
図12に示すように、外部から負電位を供給しなかった比較例2の最も低電位側の太陽電池モジュールのEL像はアルミフレーム近傍が暗くなり(
図12(b)参照)、PIDが発現していることが確認できる。一方、外部から負電位を供給し、アルミテープの電位を太陽電池セルの電位と同等かそれよりも低くした実施例2では、EL像に影は見られない。むしろアルミフレーム近傍の太陽電池セルは明るく見え、さらに特性が良くなっているようにも見える(
図12(a)参照)。このように、本発明のようにモジュールのアルミフレーム(又はアルミテープ)に定電圧電源によって電圧を供給することがPID対策になることがわかる。
【0109】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。