【文献】
NAFAR, F. et al.,Coconut oil protects cortical neurons from amyloid beta toxicity by enhancing signaling of cell surv,Neurochemistry International,2017年,Vol. 105,pp. 64-79,(Available online 2017.01.23) ISSN 0197-0186, 要約、Fig. 1.C、第67頁3.2.第1段落、Fig. 6、第72頁
【文献】
岩佐幹恵 ほか,MCTを用いた脂肪乳剤,JJPEN 輸液・栄養ジャーナル,1990年,Vol. 12, No. 9,pp. 1115-1120,ISSN 0388-127X, 第1116頁右欄III.の第1段落
【文献】
MCCARTY, M. F. et al.,Lauric acid-rich medium-chain triglycerides can substitute for other oils in cooking applications an,Open Heart,2016年,Vol. 3, No. 2,pp. 1-5,ISSN 2053-3624, 要約及び第3頁左欄 Neuroprotective potential (略) の項の最終段落
【文献】
NONAKA, Y. et al.,Lauric Acid Stimulates Ketone Body Production in the KT-5 Astrocyte Cell Line,Journal of Oleo Science,2016年,Vol. 65, No. 8,pp. 693-699,ISSN 1345-8957, 要約及びFig. 2
【文献】
野中雄大 ほか,中鎖脂肪酸によるアストロサイトにおけるケトン体産生の増強効果,日本油化学会第55回年会講演要旨集,2016年 9月 7日,p. 199,2G-03, 「3.結果と考察」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0023】
<総ケトン体濃度上昇剤>
本発明の総ケトン体濃度上昇剤は、中鎖脂肪酸を含む。以下、「中鎖脂肪酸」を「MCFA」ともいう。
【0024】
(中鎖脂肪酸(MCFA))
MCFAは、炭素数6〜12の直鎖飽和脂肪酸であり、通常の食品等(例えば、食用油脂や乳製品等)に含まれる油脂成分である。本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、30質量%以上75質量%以下の炭素数8のMCFAと、0質量%以上25質量%未満の炭素数10のMCFAと、25質量%以上60質量%以下の炭素数12のMCFAと、が含まれる。以下、炭素数8のMCFA、炭素数10のMCFA、炭素数12のMCFAをあわせて「本発明における3種のMCFA」ともいう。
【0025】
本発明者による検討の結果、上記の比率で本発明における3種のMCFAを摂取すると、長時間(例えば、4時間以上)にわたって、脳内で、総ケトン体濃度を維持できることが見出された。他方、上記の比率を満たさない配合を摂取した場合(例えば、炭素数8のMCFAのみを摂取した場合)、一時的に総ケトン体濃度は上昇するものの、その効果は摂取後1〜2時間程度しか維持することができなかった。このような結果がもたらされた一因としては以下のように推察される。即ち、炭素数12のMCFAは、他の中鎖脂肪酸である炭素数8のMCFAや炭素数10のMCFAと比較して肝臓でケトン体へ代謝される割合が少ない。そのため、ケトン体へと代謝されなかった炭素数12のMCFAは血中を流れる。このような炭素数12のMCFAが脳に到達すると、星状細胞においてケトン体に代謝され得る(J.Oleo Sci.65,(8)693−699(2016)参照)。このように、代謝経路や、代謝速度の異なるMCFAを組み合わせることにより、長時間(例えば、4時間以上)にわたって、脳内で、総ケトン体濃度を維持できるものと考えられる。
【0026】
本発明によれば、食間にエネルギー源を摂取しなくとも、脳内の総ケトン体濃度が低下しづらいので、アルツハイマー型認知症又は加齢に伴う認知機能低下の予防や治療に好適に利用できる。なお、本発明において、「食間」とは、食事と次の食事との間の時間を意味し、通常は6〜7時間である。食間においては、食事以外の任意の活動を行ってもよく、覚醒状態であっても睡眠状態であってもよい。
【0027】
長時間にわたって総ケトン体濃度をより維持しやすいという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上の炭素数8のMCFAが含まれる。炭素数8以外のMCFAを十分に配合するという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、75質量%以下、より好ましくは69質量%以下、さらに好ましくは67質量%以下、さらにより好ましくは66質量%以下の炭素数8のMCFAが含まれる。
【0028】
長時間にわたって総ケトン体濃度をより維持しやすいという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、0質量%以上の炭素数10のMCFAが含まれる。本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、炭素数10のMCFAが含まれなくともよい。炭素数10以外のMCFAを十分に配合するという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、25質量%未満、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、さらにより好ましくは10質量%以下の炭素数10のMCFAが含まれる。本発明の効果がより奏されやすいという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤には炭素数10のMCFAが含まれなくともよい。
【0029】
長時間にわたって総ケトン体濃度をより維持しやすいという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、25質量%以上、好ましくは31質量%以上、より好ましくは33質量%以上、さらに好ましくは34質量%以上の炭素数12のMCFAが含まれる。炭素数12以外のMCFAを十分に配合するという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下の炭素数12のMCFAが含まれる。
【0030】
長時間にわたって総ケトン体濃度を特に維持しやすいという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、60質量%以上70質量%以下の炭素数8のMCFAと、30質量%以上40質量%以下の炭素数12のMCFAと、が含まれることが好ましい。より好ましくは、本発明の総ケトン体濃度上昇剤は、該上昇剤に含まれるMCFAの総量に対して、60質量%以上70質量%以下の炭素数8のMCFAと、30質量%以上40質量%以下の炭素数12のMCFAと、からなる。
【0031】
炭素数8のMCFAとしては、カプリル酸(n−オクタン酸)が挙げられる。炭素数10のMCFAとしては、カプリン酸(n−デカン酸)が挙げられる。炭素数12のMCFAとしては、ラウリン酸が挙げられる。
【0032】
総ケトン体濃度上昇剤中に含まれるMCFAの形態としては特に限定されず、中鎖脂肪酸そのものであってもよく、生体内で中鎖脂肪酸に変換される脂肪酸前駆体(例えば、塩、エステル(後述するアシルグリセロール等))であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0033】
MCFAは、例えば、パーム核油やヤシ油を加水分解した後に精製することにより得られる。また、MCFAとして市販品や試薬を使用することもできる。
【0034】
MCFAは、通常、脂肪酸前駆体、より具体的にはMCFAとグリセリンとがエステル結合したアシルグリセロールの形態で体内に摂取される。摂取されたアシルグリセロールは、消化管内で分解吸収されMCFAを放出し、肝臓や脳でエネルギー化されることが知られる。安全性等がより高いという観点から、本発明の総ケトン体濃度上昇剤に含まれるMCFAの形態は、アシルグリセロールであることが好ましい。
【0035】
アシルグリセロールは、脂肪酸とグリセリンとがエステル結合した構造を有し、グリセリンに結合する脂肪酸の数の違いにより、3種の形態(モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、及びトリアシルグリセロール)のいずれかで存在する。本発明におけるアシルグリセロールは上記3種の形態のいずれであってもよい。総ケトン体濃度上昇剤に含まれるアシルグリセロールの種類や量は、総ケトン体濃度上昇剤に含まれるMCFAの総量に対する本発明における3種のMCFAの比率が上記の要件を満たせば、特に限定されない。
【0036】
本発明におけるアシルグリセロールとしては、通常の食品形態に近いという観点からトリアシルグリセロールが好ましい。また、本発明において、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールを構成する脂肪酸は、同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。異なる種類の脂肪酸から構成されるアシルグリセロールの場合、各々の脂肪酸のグリセリンへの結合位置は、特に限定されない。また、アシルグリセロールの構成脂肪酸として、本発明における3種のMCFA以外の脂肪酸(例えば、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、ペンタン酸、ヘプタン酸、ノナン酸等の本発明における3種のMCFA以外のMCFA、炭素数4の短鎖脂肪酸(ブタン酸)、炭素数14〜22の長鎖脂肪酸等)が含まれていてもよい。
【0037】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤には、構成脂肪酸に本発明における3種のMCFAを含まないアシルグリセロールをさらに配合してもよい。かかる場合、総ケトン体濃度上昇剤に配合されたアシルグリセロールの全構成脂肪酸のうち、MCFAの総量に対して本発明における3種のMCFAの占める割合が上記の範囲であればよい。
【0038】
アシルグリセロールの製造方法は特に限定されないが、例えば、パーム核油やヤシ油由来のMCFAとグリセリンとをエステル化反応することで得られる。エステル化反応は、例えば、加圧下で無触媒かつ無溶剤にて反応させる方法、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を用いて反応させる方法、及び、触媒としてリパーゼを用いて反応させる方法等が挙げられる。
【0039】
より安全性の高い総ケトン体濃度上昇剤が得られやすいという観点から、本発明におけるアシルグリセロールとしては、構成脂肪酸に本発明における3種のMCFAのいずれか1以上と、長鎖脂肪酸(例えば、炭素数14〜22の直鎖長鎖脂肪酸)と、を含有するトリグリセリド、即ち中長鎖脂肪酸トリグリセリド、又は、構成脂肪酸の全てがMCFAであるトリグリセリド、即ち中鎖脂肪酸トリグリセリドが好ましい。本発明におけるアシルグリセロールとしては、構成脂肪酸の全てが本発明における3種のMCFAのいずれかである中鎖脂肪酸トリグリセリドが特に好ましい。以下、「中長鎖脂肪酸トリグリセリド」を「MLCT」ともいい、「中鎖脂肪酸トリグリセリド」を「MCT」ともいう。
【0040】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤中に含まれるMCFAの形態としては、MLCT及び/又はMCTを含むことが好ましく、MLCTとMCTの合計に対して、MCTを30質量%以上含むことが好ましく、MCTを60質量%以上含むことがより好ましく、MCTを80質量%以上含むことがさらに好ましく、MCTのみを含むことが最も好ましい。本発明の総ケトン体濃度上昇剤は、MCTからなるものが特に好ましく、本発明における3種のMCFAのみを含むMCTからなるものが最も好ましい。
【0041】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤は、MCFA(MCFAそのもの、MCFAの脂肪酸前駆体(MLCT、MCT等)、又は、これらの混合物)からなるものであってもよいが、MCFAとともにMCFA以外の成分を含んでいてもよい。本発明の総ケトン体濃度上昇剤は、MCFAからなるものが好ましく、本発明における3種のMCFAからなるものがより好ましい。
【0042】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤に、本発明における3種のMCFA以外の成分が含まれる場合、総ケトン体濃度上昇剤に含まれる本発明における3種のMCFA(MCFAそのもの、MCFAの脂肪酸前駆体(MLCT、MCT等)、又は、これらの混合物)の配合量の下限値は、総ケトン体濃度上昇剤に対して好ましくは33質量以上%、さらに好ましくは50質量%以上である。上限値は、総ケトン体濃度上昇剤に対して好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。上記範囲であれば、本発明における3種のMCFAによる総ケトン体濃度上昇作用をより効果的に発揮できる。
【0043】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤に含まれる、本発明における3種のMCFA以外の成分としては、これらのMCFAの作用を阻害しない限り特に限定されない。このような成分としては、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、甘味料、抗酸化剤、乳化剤、各種調味料、膨張剤、香料、着色料等が挙げられる。これらの成分の種類や配合量は、得ようとする効果に応じて適宜設定できる。
【0044】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤に含まれる、本発明における3種のMCFAの含量は、ガスクロマトグラフィー法により特定できる。
【0045】
(総ケトン体濃度上昇作用)
本発明の総ケトン体濃度上昇剤は、脳内の総ケトン体濃度を上昇させることができる。
【0046】
一般に、総ケトン体とは、アセトン、アセト酢酸、及び3−ヒドロキシ酪酸の総称である。ただし、アセトンはエネルギー源とはならずに呼気から排出されることから、本発明において「総ケトン体」とは、アセト酢酸、及び3−ヒドロキシ酪酸の総称を意味し、「総ケトン体濃度」とはこれら2種の化合物の総濃度を意味する。総ケトン体濃度は、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を用いた酵素サイクリング法に基づいた市販のキットによって特定する。
【0047】
本発明において、「総ケトン体濃度を上昇させる」とは、本発明の総ケトン体濃度上昇剤の摂取により、脳内の総ケトン体濃度が、摂取前よりも上昇することを意味する。本発明によれば、総ケトン体濃度上昇剤の摂取により、総ケトン体濃度が上昇するだけではなく、その濃度を長時間にわたって維持することができる。例えば、本発明によれば、総ケトン体濃度上昇剤の摂取後、総ケトン体の濃度を、4時間以上(好ましくは6時間以上、より好ましくは、8時間以上)維持できる。本発明において、「総ケトン体濃度を維持する」とは、総ケトン体濃度上昇剤の摂取後に上昇した総ケトン体濃度が、時間が経過しても低下しにくいことを意味する。本発明においては、例えば、総ケトン体濃度上昇剤の摂取後4時間又は6時間の時点での脳内の総ケトン体濃度を、総ケトン体濃度上昇剤の摂取後2時間の時点での脳内の総ケトン体濃度に対して、70%以上(好ましくは80%以上)の数値に維持できる。
【0048】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤を摂取することで、脳内において、総ケトン体濃度が上昇するだけではなく、その濃度を長時間にわたって維持することができる。本発明によれば、脳内へのエネルギー補充を効率的に行うことができるので、脳内でのエネルギー不足が病因である疾患等に対し、治療又は予防の効果が期待できる。
【0049】
本発明によって治療又は予防の効果が期待できる疾患としては、認知症、軽度認知障害(MCI)、加齢に伴う記憶障害(age−associated memory impairment、AAMI)、加齢に伴う認知機能低下(age−associated cognitive decline、AACD)、脳ガン、てんかん、グルコーストランスポーター1欠損症候群(GLUT−1DS)、自閉症、うつ病、不安障害等が挙げられる。
【0050】
本発明において、「認知症」とは、一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を意味する。本発明における認知症の種類としては特に限定されず、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症等が挙げられる。これらのうち、アルツハイマー型認知症は、本発明による効果を特に期待できる。本発明における認知症の原因疾患としては特に限定されず、脳血管障害(脳梗塞等)、パーキンソン病、ハンチントン病等が挙げられる。
【0051】
本発明において、「軽度認知障害(MCI)」とは、2003年のMCIキーシンポジウムで定義されたとおり、本人及び第三者(家族等)から認知機能低下に関する訴えがあり、認知機能は正常ではないが認知症の診断基準を満たさない状態である。即ち、基本的な日常生活は保たれており、複雑な日常生活機能の障害が軽度にとどまる状態を意味する。
【0052】
本発明において、「加齢に伴う記憶障害(AAMI)」とは、健常高齢者における記憶障害であり、1986年に米国の国立精神保健研究所のCrookらにより定義されたとおり、年齢50歳以上を対象とし、日常生活上の記憶障害の訴えがあり、記憶検査が若年健常者の平均値から1標準偏差(SD)以上下回っているが認知症ではない状態を意味する。
【0053】
本発明において、「加齢に伴う認知機能低下(AACD)」とは、1994年に国際老年精神医学会においてLevyにより提唱された概念である。これは、AAMIとは異なり「記憶・学習以外にも注意・集中、思考、言語、視空間認知等複数の認知機能について、年齢や教育歴を考慮した認知機能検査の正常平均から少なくとも1標準偏差(SD)以上低下しているもの」とされる。この概念には健常加齢と認知症前駆状態の両方が含まれ得る。
【0054】
本発明において、「認知機能低下」とは、一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下しているが、日常生活や社会生活は保たれている状態を意味する。本発明における軽度認知障害の種類としては特に限定されず、軽度認知障害(MCI)、加齢に伴う記憶障害(AAMI)、加齢に伴う認知機能低下(AACD)等が挙げられる。これらのうち、加齢に伴う記憶障害(AAMI)は、本発明による効果を特に期待できる。
【0055】
ガン細胞ではブドウ糖の消費が多いので、脳のガン細胞が利用できるブドウ糖量を最小限にしつつ本発明の総ケトン体濃度上昇剤を摂取することで、ガン細胞の増殖を抑制しながら正常細胞へのエネルギー補充を行うことができる。したがって、本発明によれば、患者の脳機能障害の発症を抑制しながら脳ガンの治療又は予防の効果が期待できる。
【0056】
本発明において、「治療」とは、例えば、認知症又は加齢に伴う認知機能低下等の進行の遅延、並びに、症状の緩和、軽減、改善及び治癒等を意味し、「予防」とは、例えば、認知症又は加齢に伴う認知機能低下等の発症の抑制又は遅延等を意味する。
【0057】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤を摂取することで、脳内の総ケトン体濃度を長時間にわたって維持することができるので、食間にエネルギー源を摂取しなくとも、脳内の総ケトン体濃度の低下を抑制できる。そのため、本発明の総ケトン体濃度上昇剤を通常の食事のタイミングで摂取すれば、脳内の総ケトン体濃度を適切に維持できる。例えば、本発明の総ケトン体濃度上昇剤を1日あたり2〜4回摂取することで、1日にわたって脳内の総ケトン体濃度を維持することができる。
【0058】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤は、ヒトや、ヒト以外の哺乳類(イヌ、ネコ、家畜(ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等)、ウマ、パンダ等)に適用することができる。
【0059】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤の投与方法は、製剤の形態、投与対象の年齢や性別、投与対象の症状の程度、その他の条件に応じて選択できる。
【0060】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤の製造方法は特に限定されず、上記成分を適宜混合、撹拌等する方法や、公知の製剤方法を採用できる。
【0061】
<油脂組成物>
本発明は、本発明における3種のMCFAを構成脂肪酸として含む油脂を含有する油脂組成物も提供する。具体的には、本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、その構成脂肪酸が、該油脂組成物に含まれるMCFAの総量に対して、50質量%以上75質量%以下の炭素数8のMCFAと、0質量%以上25質量%未満の炭素数10のMCFAと、25質量%以上50質量%以下の炭素数12のMCFAと、を含む。好ましくは、本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、その構成脂肪酸が、該油脂組成物に含まれるMCFAの総量に対して、50質量%以上75質量%以下の炭素数8のMCFAと、0質量%以上25質量%未満の炭素数10のMCFAと、25質量%以上50質量%以下の炭素数12のMCFAと、からなる(つまり、油脂組成物に含まれる油脂の構成脂肪酸として、上記の量の本発明における3種のMCFA以外の脂肪酸を含まない。)。
【0062】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤に代えて、又は、本発明の総ケトン体濃度上昇剤とともに本発明の油脂組成物を摂取することで、脳内で高い総ケトン体濃度を維持できる。
【0063】
長時間にわたって総ケトン体濃度をより維持しやすいという観点から、本発明の油脂組成物には、該油脂組成物に含まれるMCFAの総量に対して、50質量%以上、好ましくは55質量%以上、より好ましくは58質量%以上の炭素数8のMCFAが含まれる。炭素数8以外のMCFAを十分に配合するという観点から、本発明の油脂組成物には、該油脂組成物に含まれるMCFAの総量に対して、75質量%以下、より好ましくは69質量%以下、さらに好ましくは66質量%以下の炭素数8のMCFAが含まれる。
【0064】
長時間にわたって総ケトン体濃度をより維持しやすいという観点から、本発明の油脂組成物には、該油脂組成物に含まれるMCFAの総量に対して、0質量%以上の炭素数10のMCFAが含まれる。本発明の油脂組成物には、炭素数10のMCFAが含まれなくともよい。炭素数10以外のMCFAを十分に配合するという観点から、本発明の油脂組成物には、該油脂組成物に含まれるMCFAの総量に対して、25質量%未満、10質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下の炭素数10のMCFAが含まれる。本発明の効果がより奏されやすいという観点から、本発明の油脂組成物には炭素数10のMCFAが含まれなくともよい。
【0065】
長時間にわたって総ケトン体濃度をより維持しやすいという観点から、本発明の油脂組成物には、該油脂組成物に含まれるMCFAの総量に対して、25質量%以上、好ましくは31質量%以上、より好ましくは34質量%以上の炭素数12のMCFAが含まれる。炭素数12以外のMCFAを十分に配合するという観点から、本発明の油脂組成物には、該油脂組成物に含まれるMCFAの総量に対して、50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは42質量%以下の炭素数12のMCFAが含まれる。
【0066】
本発明の油脂組成物に含まれる油脂は、構成脂肪酸に本発明における3種のMCFAのいずれか1以上と、長鎖脂肪酸(例えば、炭素数14〜22の直鎖長鎖脂肪酸)と、を含有するトリグリセリド、即ちMLCT、及び/又は、構成脂肪酸の全てがMCFAであるトリグリセリド、即ちMCT、を含む。本発明の油脂組成物に含まれる油脂としては、構成脂肪酸の全てが本発明における3種のMCFAのいずれかであるMCTが特に好ましい。
【0067】
本発明の油脂組成物に含まれる油脂としては、MLCT及び/又はMCTを含むことが好ましく、MLCTとMCTの合計に対して、MCTを30質量%以上含むことが好ましく、MCTを60質量%以上含むことがより好ましく、MCTを80質量%以上含むことがさらに好ましく、MCTのみを含むことが最も好ましい。本発明の油脂生成物は、MCTからなるものが特に好ましく、本発明における3種のMCFAのみを含むMCTからなるものが最も好ましい。
【0068】
本発明の油脂組成物に含まれる油脂を構成する脂肪酸は、同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。また、MLCT及びMCTの製造方法は、上記アシルグリセロールの製造方法と同様の方法を採用できる。
【0069】
本発明の油脂組成物には、本発明における3種のMCFAの作用を阻害しない限り、任意の成分を配合できる。このような成分としては、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、甘味料、抗酸化剤、乳化剤、各種調味料、膨張剤、香料、着色料等が挙げられる。これらの成分の種類や配合量は、得ようとする効果に応じて適宜設定できる。
【0070】
本発明の油脂組成物に含まれる、本発明における3種のMCFAの含量は、ガスクロマトグラフィー法により特定できる。
【0071】
<医薬組成物>
本発明の総ケトン体濃度上昇剤及び本発明の油脂組成物は、認知症又は加齢に伴う認知機能低下の治療又は予防に使用される医薬組成物の製造のために適用できる。本発明の総ケトン体濃度上昇剤及び/又は本発明の油脂組成物を含む認知症又は加齢に伴う認知機能低下の治療又は予防に使用される医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」ともいう。)は、副作用の懸念が少なく、継続投与に適した医薬品として好ましく利用できる。
【0072】
本発明の医薬組成物は、固形状、液状、ゲル状のいずれであってもよい。
【0073】
本発明の医薬組成物の形態としては特に限定されないが、経口投与用医薬組成物又は非経口投与用医薬組成物のいずれとしても調製できる。継続的に摂取しやすいという観点から、本発明の医薬組成物は経口投与用医薬組成物であることが好ましい。
【0074】
経口投与用医薬組成物の形態としては、例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等の製剤が挙げられる。非経口投与用医薬組成物の形態としては、注射剤、輸液剤等の製剤が挙げられる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、本発明の総ケトン体濃度上昇剤及び/又は本発明の油脂組成物、並びに、薬理上及び製剤上許容し得る添加物を含む組成物であることが好ましい。「薬理上及び製剤上許容し得る添加物」としては、通常、製剤分野において賦形剤等として常用され、かつ、本発明の総ケトン体濃度上昇剤及び本発明の油脂組成物に含まれる有効成分(つまり、MCFA)と反応しない物質を使用できる。
【0076】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与目的(予防又は治療)、投与方法、投与期間、その他の諸条件(例えば、患者の症状、年齢、体重)に応じて、適宜設定できる。
【0077】
本発明の医薬組成物の投与量は、経口投与の場合、下限値を、本発明における3種のMCFAの量に換算して、好ましくは0.02g/kg体重/日以上、さらに好ましくは0.08g/kg体重/日以上に設定できる。上限値については、本発明における3種のMCFAの量に換算して、好ましくは0.70g/kg体重/日以下、さらに好ましくは0.45g/kg体重/日以下に設定できる。
【0078】
本発明の医薬組成物の投与量は、非経口投与の場合、下限値を、本発明における3種のMCFAの量に換算して、好ましくは0.026g/kg体重/日以上、さらに好ましくは0.09g/kg体重/日以上に設定できる。上限値については、本発明における3種のMCFAの量に換算して、好ましくは0.72g/kg体重/日以下、さらに好ましくは0.56g/kg体重/日以下に設定できる。なお、非経口投与の場合は、上記投与量を数時間かけて(例えば、4〜8時間かけて)投与することが好ましい。
【0079】
本発明の医薬組成物は、副作用の懸念が少ないうえ、一般的な有効成分との相互作用が生じる可能性が低いため、既存薬(アルツハイマー病治療薬、コリンエステラーゼ阻害薬、N−メチル−D−アスパラギン受容体拮抗薬等)と組み合わせて用いてもよい。本発明の医薬組成物と組み合わされる既存薬がアルツハイマー病治療薬である場合、既存薬の用量を下げることができると考えられるので、該既存薬が有する副作用を低減できる可能性がある。
【0080】
本発明の医薬組成物は、副作用の懸念が少ないため、継続投与に適する。投与期間としては特に限定されないが、認知症又は加齢に伴う認知機能低下の予防や治療において症状の改善が認められる場合、継続摂取が好ましい。投与は、上記期間中、数時間おきに行ってもよいし、間隔(例えば、1日〜数日)をあけて行ってもよい。
【0081】
<食品組成物>
本発明の総ケトン体濃度上昇剤及び本発明の油脂組成物は、認知症又は加齢に伴う認知機能低下の治療又は予防に使用される食品組成物の製造のために適用できる。本発明の総ケトン体濃度上昇剤及び本発明の油脂組成物の有効成分であるMCFAは、副作用の懸念が少ないだけではなく、食品の風味や嗜好性を損ないにくい。そのため、本発明の総ケトン体濃度上昇剤及び/又は本発明の油脂組成物を含む認知症又は加齢に伴う認知機能低下の治療又は予防に使用される食品組成物(以下、「本発明の食品組成物」ともいう。)は摂食しやすい食品として好ましく利用できる。
【0082】
本発明の食品組成物は、固形状、液状、ゲル状のいずれであってもよい。
【0083】
本発明の食品組成物の形態としては、サプリメントや、一般食品、動物用食品、動物用飼料が挙げられる。
【0084】
サプリメントの形態は特に限定されず、固形製剤又は液体製剤のいずれでもよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、徐放性製剤、懸濁液、エマルジョン剤、内服液、糖衣錠、丸剤、細粒剤、シロップ剤、エリキシル剤等の製剤が挙げられる。
【0085】
一般食品の形態は特に限定されず、例えば、パン・菓子類(パン、ケーキ、クッキー、ビスケット、ドーナツ、マフィン、スコーン、チョコレート、スナック菓子、ホイップクリーム、アイスクリーム等)、飲料類(果汁飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンク等)、スープ類、調味加工食品(ドレッシング、ソース、マヨネーズ、バター、マーガリン、調製マーガリン等)、ファットスプレッド、ショートニング、ベーカリーミックス、炒め油、フライ油、フライ食品、加工肉製品、冷凍食品、フライ食品、麺、レトルト食品、流動食、嚥下食等が挙げられる。
【0086】
本発明の総ケトン体濃度上昇剤及び/又は本発明の油脂組成物を一般食品の製造のために使用する場合は、MCFAを、MLCT及び/又はMCT(より好ましくはMCT)の形態で原材料に追加するか、原材料の油脂をMLCT及び/又はMCT(より好ましくはMCT)に置き換えて使用することが好ましい。
【0087】
本発明の食品組成物に含まれる、本発明における3種のMCFA(MCFAそのもの、MCFAの脂肪酸前駆体(MLCT、MCT等)、又は、これらの混合物)の配合量の下限値は、好ましくは1質量%であり、より好ましくは5質量%である。上限値は、好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。上記範囲であれば、本発明の食品組成物を一般食品と同様に無理なく摂取しやすい。
【0088】
本発明の食品組成物には、食品として使用できる成分を配合してもよい。このような成分として、乳化剤、ゲル化剤(グルコマンナン、カラギーナン等)、糖類、クエン酸、甘味料、フレーバー等が挙げられる。
【0089】
本発明の食品組成物の摂取量は、摂取目的(予防又は治療)、摂取期間、その他の諸条件(例えば、摂食者の症状、年齢、体重)に応じて、適宜設定できる。
【0090】
本発明の食品組成物の摂取量は、下限値を、本発明における3種のMCFAの量に換算して、好ましくは0.008g/kg体重/日以上、さらに好ましくは0.08g/kg体重/日以上に設定できる。上限値については、本発明における3種のMCFAの量に換算して、好ましくは3.0g/kg体重/日以下、さらに好ましくは1.5g/kg体重/日以下に設定できる。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0092】
<油脂の準備>
実施例及び比較例において用いる油脂を下記のとおり準備した。
【0093】
(実施例1)
トリグリセリドの構成脂肪酸が、オクタン酸(炭素数8のMCFAに相当する。)及びラウリン酸(炭素数12のMCFAに相当する。)からなり、かつ、その質量比がオクタン酸:ラウリン酸=65:35であるMCT(日清オイリオグループ株式会社製造品)を実施例1の油脂として準備した。該油脂は、本発明の総ケトン体濃度上昇剤又は油脂組成物に相当する。
【0094】
(比較例1)
精製ココナッツ油(商品名「日清ココナッツオイル」、日清オイリオグループ株式会社製造品)を比較例1の油脂として準備した。この油脂は、トリグリセリドの構成脂肪酸が、オクタン酸、デカン酸(炭素数10のMCFAに相当する。)、ラウリン酸及びその他の脂肪酸からなり、かつ、その質量比はオクタン酸:デカン酸:ラウリン酸:その他の脂肪酸=8.3:6.4:46.7:38.6である。なお、この油脂についてオクタン酸、デカン酸、及びラウリン酸の合計質量を100とした場合、オクタン酸、デカン酸、及びラウリン酸の質量比は、オクタン酸:デカン酸:ラウリン酸=14:10:76である。
【0095】
(比較例2)
トリグリセリドの構成脂肪酸が、オクタン酸のみであるMCT(日清オイリオグループ株式会社製造品)を比較例2の油脂として準備した。
【0096】
(比較例3)
トリグリセリドの構成脂肪酸が、オクタン酸(炭素数8のMCFAに相当する。)、デカン酸(炭素数10のMCFAに相当する。)、及びラウリン酸(炭素数12のMCFAに相当する。)からなり、かつ、その質量比がオクタン酸:デカン酸:ラウリン酸=40:25:35であるMCT(日清オイリオグループ株式会社製造品)を比較例3の油脂として準備した。
【0097】
表1に、各油脂の構成脂肪酸について、オクタン酸、デカン酸、及びラウリン酸の合計質量を100とした場合の、オクタン酸、デカン酸、及びラウリン酸のそれぞれの比率(単位:質量%)を示す。
【0098】
【表1】
【0099】
<ラットへの油脂の投与試験−1>
試験には、7週齢のSprague−Dawley系雄性ラット(日本クレア株式会社)を用いた。ラットを個別飼育ケージに入れ、室温23±1℃、相対湿度50±5%、12時間サイクルで明暗の切り換えを行う飼育室にて飼育した。水及び飼料(商品名「CE−2」、日本クレア株式会社)は自由摂取とした。
【0100】
ラットは、試験開始前における各群のマウスの平均体重が均一となるように下記の3群に分けた。なお、各群6匹のラットを用いた。
(1)実施例1の油脂を摂取させる群
(2)比較例1の油脂を摂取させる群
(3)比較例2の油脂を摂取させる群
【0101】
各個体の暗期の摂餌重量を計測した。2日間の摂餌重量の平均を算出し、各試験群の油脂を投与する前日には、暗期の平均摂餌重量の3分の2の餌を与えた。各試験群の油脂を投与する当日は、明期になってから、2時間絶食したラットに経口投与針を用いて、各試験群の油脂を投与(10mg/g体重)し、その後は絶水させた。
【0102】
各油脂の投与前、並びに、投与後2時間、4時間及び6時間のそれぞれの時点において、マイクロウェーブアプリケータ(商品名「MMW−5」、室町機械株式会社)を用いて、ラットの頭部にマイクロウェーブを1.5秒照射し、諸酵素を不活性化した後に海馬を採取し、即時−80℃で冷凍保存した。全ての試料はβ−HBアッセイバッファー(バイオビジョン株式会社)溶液中で超音波破砕し、均一化した。
【0103】
<ラットへの油脂の投与試験−2>
試験には、7週齢のSprague−Dawley系雄性ラット(日本クレア株式会社)を用いた。ラットを個別飼育ケージに入れ、室温23±1℃、相対湿度50±5%、12時間サイクルで明暗の切り換えを行う飼育室にて飼育した。水及び飼料(商品名「CE−2」、日本クレア株式会社)は自由摂取とした。
【0104】
ラットは、試験開始前における各群のマウスの平均体重が均一となるように下記の4群に分けた。なお、各群6匹のラットを用いた。
(1)実施例1の油脂を摂取させる群
(2)比較例1の油脂を摂取させる群
(3)比較例2の油脂を摂取させる群
(4)比較例3の油脂を摂取させる群
【0105】
各個体の暗期の摂餌重量を計測した。2日間の摂餌重量の平均を算出し、各試験群の油脂を投与する前日には、暗期の平均摂餌重量の3分の2の餌を与えた。各試験群の油脂を投与する当日は、明期になってから、2時間絶食したラットに経口投与針を用いて、各試験群の油脂を投与(2.5mg/g体重)し、その後は絶水させた。
【0106】
各油脂の投与前、並びに、投与後2時間、及び4時間のそれぞれの時点において、マイクロウェーブアプリケータ(商品名「MMW−5」、室町機械株式会社)を用いて、ラットの頭部にマイクロウェーブを1.5秒照射し、諸酵素を不活性化した後に海馬を採取し、即時−80℃で冷凍保存した。全ての試料はβ−HBアッセイバッファー(バイオビジョン株式会社)溶液中で超音波破砕し、均一化した。
【0107】
<海馬中の総ケトン体濃度の測定>
上記で得られた海馬試料中の総ケトン体濃度(つまり、アセト酢酸、及び3−ヒドロキシ酪酸の総濃度)を、キット(商品名「オートワコー 総ケトン体」、和光純薬工業株式会社)を用いて、測定した。<ラットへの油脂の投与試験−1>の結果を
図1に示し、<ラットへの油脂の投与試験−2>の結果を
図2に示す。なお、図中、総ケトン体濃度は、各群の平均値を表した。
【0108】
図1から理解されるとおり、実施例1の油脂を投与されたラットにおいては、投与後に海馬中の総ケトン体濃度が上昇し、さらには投与後6時間にわたって総ケトン体濃度が維持されていた。したがって、本発明の総ケトン体濃度上昇剤又は油脂組成物によれば、脳内の総ケトン体濃度が高まるだけではなく、その濃度を6時間以上にわたって維持できることがわかる。
【0109】
他方、
図1から理解されるとおり、比較例1及び2の油脂を投与されたラットにおいては、投与後に海馬中の総ケトン体濃度が上昇したものの、その濃度は投与後の時間経過とともに顕著に低下した。さらには、投与後6時間の時点で、総ケトン体濃度は投与前とほぼ変わらないレベルとなった。
【0110】
また、
図2から理解されるとおり、実施例1の油脂を投与されたラットにおいては、投与後に海馬中の総ケトン体濃度が上昇し、さらには、少なくとも投与後4時間にわたって総ケトン体濃度が維持されていた。
【0111】
なお、
図2には示していないが、比較例3において、トリグリセリドの構成脂肪酸におけるデカン酸の割合を25質量%未満にし、そのぶんオクタン酸及びラウリン酸の比率を高めると、実施例1同様の傾向を示した。
【0112】
<ゲル状組成物の製造方法>
本発明の食品組成物をゲル状組成物として調製するために、後述する原材料を用いて、下記の方法を実施した。まず、水に油脂以外の原料を分散させた後、ゲル化剤の溶解温度(90℃)まで昇温して原料を混合溶解し、均一な溶液を得た。次いで、該溶液に油脂を投入してミキサー(ホモジナイザー等でもよい。)で乳化を行い、水中油型乳化物を得た。その後、得られた水中油型乳化物(1400g)をゲル化剤の凝固温度以上に保持しながらアルミパウチ袋に15gずつ充填し、密封した後、冷却してゲル化させ、ゲル状組成物を得た。なお、該ゲル状組成物を殺菌する場合は、容器に充填後、密封して加熱殺菌する方法、加熱殺菌しながら容器に充填する方法、充填前に加熱殺菌し、その後無菌充填する方法等のいずれも使用可能だった。
【0113】
(ゲル状組成物の原材料)
油脂(40質量%):トリグリセリドの構成脂肪酸が、オクタン酸(炭素数8のMCFAに相当する。)及びラウリン酸(炭素数12のMCFAに相当する。)からなり、かつ、その質量比がオクタン酸:ラウリン酸=65:35であるMCT(日清オイリオグループ株式会社製造品)を油脂として準備した。該油脂は、本発明の総ケトン体濃度上昇剤又は油脂組成物に相当する。
乳化剤(1.5質量%):グリセリン脂肪酸エステル、商品名「ポエムJ−0081HV」、理研ビタミン(株)製
ゲル化剤−1(0.3質量%):カラギーナン、商品名「GENUGEL WG−108」、三晶(株)製
ゲル化剤−2(0.3質量%):キサンタンガム、商品名「エコーガム」、DSP五協フード&ケミカル(株)製
ゲル化剤−3(0.3質量%):寒天、商品名「伊那寒天S−6」、伊那食品工業(株)製
ゲル化剤−4(0.5質量%):ローカストビーンガム、商品名「メイプロディン 200」、三晶(株)製
クエン酸(0.2質量%):商品名「クエン酸(無水)」、扶桑化学工業(株)製
ヨーグルトフレーバー(0.2質量%):商品名「HL01043」、小川香料(株)製
甘味料(0.2質量%):商品名「プレジロン SU−10」、ツルヤ化成工業(株)製
水(56.5質量%)
【0114】
上記で得られたゲル状組成物には、1袋(15g)あたり6gの油脂(本発明の総ケトン体濃度上昇剤又は油脂組成物に相当する。)が含まれる。体重60kgのヒトであれば、このようなゲル状組成物を食品として1日あたり2〜4回摂取することで、手軽に本発明の総ケトン体濃度上昇剤又は油脂組成物を摂取しつつ、本発明の効果を奏することができる。