【文献】
ACOLEYEN,K.V.,"Off-chip beam steering with a one-dimensional optical phased array on silicon-on-insulator,OPTICS LETTERS,2009年 5月 1日,Vol.34,No.9,1477-1479
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の光導波路からなるアレイ型光導波路において、基板に平行でかつ光波の進行する方向と垂直方向をX方向、光波の進行する方向をY方向、基板と垂直方向をZ方向と定義し、第1表面と、前記第1表面の反対側に位置する第2表面とを有するクラッド層と、
電気光学材料によって前記クラッド層の内部に形成され、Y方向に伸延し、X方向の有限の幅を有するコア層と、
平面視で前記コア層を有する前記複数の光導波路からなる前記アレイ型光導波路と重なるように前記クラッド層の前記第1表面に導電薄膜によって形成される第1電極と、
平面視で前記コア層を有する前記複数の光導波路からなる前記アレイ型光導波路と重なるように前記クラッド層の前記第2表面に形成され、前記クラッド層及び前記コア層を挟んで前記第1電極と対向する第2電極と、
前記クラッド層、前記コア層、前記第1電極、又は前記第2電極に形成され、前記コア層の内部を前記Y方向に沿って伝搬する光を前記X方向とY方向によって規定される第1平面に対して第1仰角である90°−θ方向に偏向する複数の回折格子と、
前記コア層を有する前記複数の光導波路からなる前記アレイ型光導波路における前記複数の回折格子よりも上流側の位置において、前記コア層と平面視で重なるように配置され、前記複数の光導波路からなる前記アレイ型光導波路における前記コア層の屈折率を制御することにより、前記X方向とZ方向によって規定されるXZ平面内においてZ軸正方向に伝搬する光をX軸に近づけるように偏向角Ψの方向に偏向する、位相制御部と
を含み、
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧に応じて前記第1電極と前記第2電極の間に印加する電界制御により前記第1仰角を制御することにより、前記複数の回折格子によって前記第1仰角の方向に偏向される複数の光を合成し、
前記第1電極は、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧が印加されると、平面視での位置によって電位勾配が形成されるように薄膜化されており、
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧に応じて、前記複数の回折格子によって偏向される光の前記第1仰角に分布が生じる、光偏向素子。
【背景技術】
【0002】
従来、人間の目に自然な立体表示を提供する表示装置として、インテグラルフォトグラフィー(IP)立体表示装置が提案されている。この表示装置については、投射型ディスプレイとレンズアレーを組み合わせた立体表示装置が試作されている(例えば、非特許文献1参照)。従来のIP立体表示装置において、各画素から射出される光線数は、1画素に対して一つの方向(一方向)に限定されている。各画素から射出される光線数が一つに限定されているため、IP立体表示装置の解像度は特に遠景と近景が低下すること、さらには、立体表示の視域角が狭いことが課題となっている(例えば、非特許文献1参照)。今後、IP立体表示の解像度をさらに拡大させるためには、電気的に偏向方向を可変することで、1画素から複数方向へ光線を射出させることができるIP立体表示装置の開発が望まれている。
【0003】
本願の発明者らは、逆圧電効果とポッケルス効果を利用して動的に出射方向を変化させることができる発光素子を用いたIP立体表示装置を提案している(特許文献1参照)。このような新しいIP立体表示装置では、画素から射出される光の偏向方向を可変することで一つの画素から複数の方向に光線が射出されるため、1画素が従来の複数画素分の働きをして画素数が増えることで解像度が向上する。このため、遠景から近景まで広い範囲で解像度が高まり、奥行方向の立体解像度が向上し、さらには視域角の拡大も可能となる。1画素から複数方向に光線射出を可能とする偏向制御技術として、発光素子に比べてさらに高速変調と波面制御が容易な電気光学効果を使った光フェーズドアレイの適用が考えられる。電気光学効果の材料開発としては、近年、100GHz以上の超高速変調を可能とする有機電気光学ポリマー材料の開発も進んでいる(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
電気光学効果は、媒質に印加される外部電界の大きさに比例して、屈折率が変化する効果である。外部電場が屈折率に与える効果については次式(1)で求めることができる。
Δn=n0^3・r・E/2 (1)
ここで、Δnは屈折率変化、n0は電界を印加していない場合の屈折率、rは電気光学テンソルによる電気光学係数、Eは媒質に印加される電界を表す。
【0005】
この電気光学係数rは、最も広く用いられているLiNbO3の場合でも30pm/V(pピコ:10^-12)、最近注目されている有機EOポリマーの場合であっても、最大200〜300pm/V程度と大変小さい効果である。このため、10^6V/mの高電界を媒体に印加した場合であっても屈折率変化を1%得ることは容易ではない(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
そこで、電界を印加した際の媒質における光の伝搬距離(光路長)を長くとって、屈折率すなわち光の位相変化を大きくとる工夫が施されてきた。
【0007】
一般に、電気光学効果を有する媒質からなる光導波路において、導波路の上下に平行電極を配置した構造が用いられている。この媒質の電極間で挟まれた領域の長さLとし、電圧Vを印加した場合を想定すると光学的な位相シフト量Δφは、次式(2)で求めることができる。
Δφ=πn0^3・r・V・L/(λ・d) (2)
ここで、Lは電圧が印加される際の光の伝搬方向での光路長、λは光の波長である。
【0008】
(2)式において、光の伝搬方向について光路長Lを長くとることにより、電気光学乗数rの値が小さく、また印加電圧Vが小さい場合にも、電圧が印加される光路長を長くとることによって、大きな位相シフト量を生じさせることが可能となる。
【0009】
(2)式において、電気光学効果の位相が位相変調される目安として、位相が180°シフトされる場合の電圧Vについては、特に次式(3)によって定義することができる。
V
π=λ/(n0^3・r)・d/L (3)
(3)式中の係数n0^3・rやV
πLの大きさについて、電気光学効果の材料性能指数として評価することが広く行われている(例えば、非特許文献2参照)。
【0010】
(2)式において、導波路の途中に例えば上方に形成した三角形の形状を有する電極と下方に形成した全面電極の間に加える電圧を変化させると、光の伝搬方向(導波路の長手方向)に垂直な方向(導波路の幅方向)に光を偏向制御させることが可能となる。このような導波路構造については、スラブ型が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0011】
一方、複数個の導波路をアレイ状に並置し、それら導波路の上方に回折格子を形成し、導波路内を伝搬する光について回折格子を介して、導波路の上方に取り出し、光を導波路の幅方向に偏向制御するアレイ型の方法も提案されている。このアレイ型では、その際、回折格子を離散的に並べて、それぞれの開口部から光線を射出させる。その際、加熱による屈折率の変化を利用した熱光学効果による光を偏向制御する方法と回折格子を導波路の上方全面に形成して光線を射出させる方法とを組み合わせた光フェーズドアレイが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0012】
ここで、上で述べた電気光学効果による偏向制御と複数の導波路を複数本並置したアレイ型導波路において、アレイの伝搬方向に垂直な方向に刻みを入れた回折格子を導波路上に形成することによる光フェーズドアレイが構成できる。ここでは、
図1を用いて、この光フェーズドアレイから射出される光線の主軸方向の制御法について述べる。
【0013】
図1に示す光偏向素子10のアレイ型導波路11を平面から見て垂直方向をZ軸方向と規定し、アレイ型導波路11における光の進行方向をY軸、アレイ型導波路11の幅方向をX軸とするXYZ座標系を規定する。アレイ型導波路11は、板状のクラッドの上面側に形成されており、屈折率を制御することによりアレイ型導波路11を伝搬する光の位相を制御する位相制御部13も形成されている。
【0014】
図1において、XZ平面内においてZ軸正方向に伝搬する光をX軸に近づけるように偏向する偏向角をΨ、YZ平面内においてZ軸正方向に伝搬する光をY軸に近づけるように偏向する偏向角をθとする。この場合に、偏向角Ψは次式(4)で与えられる。
sinΨ=λ・δ/(2π・s) (4)
ここで、δは、導波路開口間の位相差、sは導波路間の距離である。(4)式は、一般的なフェーズドアレイアンテナの場合の位相整合条件と同じである。
【0015】
また、偏向角θは次式(5)で与えられる。
sinθ=(Λ・Ne−λ)/(n
ct・Λ) (5)
ここで、Λは回折格子11Aの刻み幅(ピッチ)、Neは導波路の伝搬モードの実行屈折率、n
ctは、導波路から光が射出された際の周囲媒質(例えば空気)の屈折率である。
【0016】
(4)式によって示されているように、偏向角Ψを調整するには、アレイ型導波路11を伝搬する複数の光の位相を変化させればよい。これは、位相制御部13の三角形状の電極13Aと下部電極13Bとの間に印加する電圧を制御することによって実現可能となる。その際、アレイ型導波路11における光の伝搬方向(y軸正方向)に対して、アレイ型導波路の上下に挟んだ電極13A、13Bによって、アレイ型導波路11の伝搬特性を電気制御することから、伝搬する光の電界振幅が基板と垂直な偏光成分を有するため、TMモードである。
【0017】
アレイ型導波路11のY軸負方向側の導波路端面に光源を置いた(正確にはY軸負方向において無限遠に線光源を配設した)場合、光源から放射される光波の一部は、導波路端面で全反射されて、その中で特定の位相成分をもつ光波成分は、アレイ型導波路11の層内に閉じ込められて導波モードとして伝搬する。この導波モード以外の光波成分は、アレイ型導波路11内で生じる干渉によって、互いに打ち消しあって伝搬できない。
【0018】
一方、偏向角θの調整を実現させるためには、(5)式において、Neは、一般的に温度依存性があるため、光フェーズドアレイの温度制御を行うか、または、(5)式において、入力光の波長λを変化させればよい(例えば、非特許文献3参照)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の光偏向素子を適用した実施の形態について説明する。
【0029】
<実施の形態1>
図2及び
図3は、実施の形態1の光偏向素子100を示す図である。なお、
図2及び
図3では、共通の直交座標系であるXYZ座標系を用いて説明する。
【0030】
図2に示すように、光偏向素子100は、基板10、クラッド層20、コア層30、偏向制御部40(電極40A、40B)、及び位相制御部50(電極50A、50B)を含む。
図3(A)には、
図2(A)におけるA−A矢視断面を示し、
図3(B)には、
図2(A)におけるB−B矢視断面を示す。
【0031】
基板10は、例えば、バッファー層として酸化シリコン(SiO
2)層で被膜したシリコン(Si)ウェハ基板を用いることができる。基板10は、一つの面に電極40B、50Bを形成し易い基板であることが好ましいが、シリコン基板に限られず、例えば、ガラスや石英、さらに樹脂等の絶縁体製の基板であってもよい。
【0032】
また、ここでは、基板10が平面視(XY面視)でクラッド層20と同一の矩形形状を有する形態について説明する。しかしながら、基板10は、平面視でクラッド層20よりも大きくてもよい。
【0033】
クラッド層20は、基板10のZ軸正方向側の面に形成される。クラッド層20は、平面視で矩形状であり、平面視のサイズは基板10と等しい。また、クラッド層20の厚さは、一例として2μmである。クラッド層20の厚さは、光の伝搬方向に垂直な方向へのビーム広がりを考慮することで、光の減衰が少なくなるように、適切な厚さに設定すればよい。また、上記のクラッド層の厚さと同様の理由から、シリコン基板など基板として屈折率の大きい基板を用いる場合にも、下部電極40Bおよび50Bと基板との間に、コア層30よりも屈折率の小さい例えばSiO
2などのバッファー層を設けることが有効である。バッファー層の厚みとしては、できるだけ厚い方が望ましく、例えば1〜10μmである。
【0034】
クラッド層20は、コア層30よりも屈折率の低い材料で形成されていればよく、周知のクラッド層用の材料を用いることができる。クラッド層20は、例えば、スピンコート法でクラッド層用の薄膜を作製することにより、電極50BのZ軸正方向側の面に形成される。
【0035】
コア層30は、クラッド層20の内部において、クラッド層20のY軸負方向側の側面から、クラッド層20のY軸正方向側の側面に至るまで形成される。コア層30の厚さは、一例として1μmである。コア層の厚さが1μm以下になると、モードが1本のシングルモードになるため、波面の形成が容易化される。
【0036】
コア層30は、電気光学ポリマー材料で構成される。電気光学ポリマー材料としては、例えば、屈折率n = 1.7、電気光学定数r = 150 pm/Vのトリシアノフラン(TCF)を用いることができる。なお、コア層30の材料は、クラッド層20よりも屈折率の高いコア材料であれば、他の材料を用いてもよい。
【0037】
コア層30は、クラッド層20のY軸負方向側の側面に表出する端面30AからY軸正方向側に向かって分岐し、互いに平行な複数の光導波路31を有する。各光導波路31は、クラッド層20によってZ軸正方向側、Z軸負方向側、X軸正方向側、及びX軸負方向側の4側面が覆われる。なお、コア層の形成方法については、半導体プロセスと同様、フォトリソグラフィー法(露光とリフトオフ)により形成できる。
【0038】
また、光導波路31には、回折格子31A(
図3(B)参照)が形成されている。回折格子31Aは、光導波路31を構築するコア層30の上面に形成されている凹凸部によって構成される。回折格子31Aは、
図3(B)に矢印で示すようにY軸正方向に伝搬する光をZ軸正方向に回折させて、光を光偏向素子100のZ軸正方向側に取り出すために設けられている。
【0039】
偏向制御部40は、電極40A、40Bを有する。電極40Aは、クラッド層20のZ軸正方向側の表面に形成されており、電極40Bは、クラッド層20のZ軸負方向側の表面に(クラッド層20と基板10との間に)形成されている。電極40A、40Bは、ともに平面視で矩形状である。
【0040】
電極40Aと40Bは、平面視で互いに重複する領域に配置されており、電極40Aと40Bで光導波路31を挟むように形成されている。電極40Aと40BのY軸方向における位置は、光導波路31における光の伝搬方向(Y軸正方向)において、位相制御部50の電極50Aと50Bよりも下流側(Y軸の正方向側)である。
【0041】
電極40Aは、例えば、金(Au)又はITO(Indium Tin Oxide)、またIZO(Indium Zinc Oxide)製の薄膜電極である。金(Au)をはじめとする金属薄膜やITOやIZOなどの薄膜状の透明電極の膜厚を薄くすると、比抵抗値が大きく増大する。例えば、金(Au)で形成する薄膜電極の膜厚を薄くしていくと、膜厚15nm以下になると比抵抗が急激に増大する。このため、膜厚15nm程度以下の金(Au)薄膜に電圧を印加すると電位勾配を形成することが可能になる。
【0042】
実施の形態1では、このような電位勾配を利用して、回折格子31AによってZ軸正方向側に回折される光の偏向角θを制御するとともに光の波面の形状を制御することができる。なお、回折格子31AによってZ軸正方向側に回折される光は、電極40Aを透過する。電極40Aを金(Au)で形成する場合に、上述のように電位勾配が得られる程度に薄膜化すると、ほぼ透明になり、光を透過させることができる。
【0043】
なお、ここでは電極40Aが電位勾配を形成可能な薄膜によって構成される形態について説明するが、電極40Aは電位勾配を形成せずに光を透過する薄膜であってもよい。このような場合は、光の波面の形状の制御はできなくなるが、光の偏向角θの制御は行うことができる。
【0044】
電極40Bは、例えば、金(Au)又はITO、IZOなど、クラッド層を伝搬させる波の波長領域において光の透過率が高い材料製の薄膜電極が好適である。電極40Bは、電極40Aほど薄膜化する必要はないので、クラッド層20と基板10との間に配設するのに適し、かつ、電極40Aと協働して偏向制御部40を実現するのに必要な厚さを有するように形成されていればよい。
【0045】
位相制御部50は、電極50Aと50Bを有する。電極50Aは、クラッド層20のZ軸正方向側の表面に形成されており、電極50Bは、クラッド層20のZ軸負方向側の表面に(クラッド層20と基板10との間に)形成されている。電極50Aと50Bは、例えば、金(Au)又はITO、IZOなど製の薄膜電極である。
【0046】
電極50Aと50Bは、平面視で互いに重複する領域に配置されており、電極50Aと50Bで光導波路31を挟むように形成されている。電極50Aと50BのY軸方向における位置は、光導波路31における光の伝搬方向(Y軸正方向)において、偏向制御部40の電極40A、40Bよりも上流側(Y軸の負方向側)である。
【0047】
電極50Aは、平面視で三角形状に形成されている。電極50Bは、平面視で矩形状の薄膜電極である。
【0048】
位相制御部50は、電極50Aと50Bの間に電圧を印加してコア層30の屈折率を制御するために用いられる。コア層30は、電気光学ポリマー材料で構成されるため、電極50Aと50Bの間に電圧を印加して、クラッド層20とコア層30に電界Eを印加すると、コア層30の屈折率が変化する。
【0049】
電極50Aは、平面視で三角形状に形成されているため、電極50Aと50Bの間に電圧を印加すると、X軸方向に配列される複数の光導波路31の屈折率は互いに異なる値に設定される。
【0050】
これにより、複数の光導波路31の中を伝搬する光の位相は互いに異なるようになり、Y軸正方向への伝搬速度が変わるため、回折格子31でZ軸正方向側に回折されると、回折格子31によって回折される複数の光を合成した光の偏向角Ψを制御できることになる。
【0051】
次に、
図4を用いて、電極40Aに生じる電位勾配について説明する。
図4は、金(Au)薄膜の膜厚とシート抵抗との関係を示す特性図である。
【0052】
一般に、金(Au)をはじめとする金属薄膜やITOなどの透明電極薄膜を薄膜化すると、比抵抗値が大きく増大する。例えば、金(Au)電極を薄膜状に形成して、金属薄膜の膜厚を薄くしていくと、膜厚15nm以下になると比抵抗が急激に増大する。このため、膜厚15nm程度以下のAu薄膜の端部間に電圧を印加すると電位勾配を形成することが可能となる。
【0053】
このような薄膜状の電極40Aの光学的な透過性は高く、コア層30の光導波路31から射出される光線は、金属薄膜製の電極40Aを透過して上面から射出される。
【0054】
一方、このような電位勾配は、金(Au)などの金属薄膜ばかりでなく、ITOなどの透明電極の場合についても成り立つ。ITO薄膜を100nm以下に薄膜化した場合、Auと同様に薄膜上に電位勾配を形成することが可能となる。
【0055】
このような金属薄膜製の電極40Aを光導波路31の上に形成し、電極40Aに印加する電圧を制御することによって、光導波路31の光伝搬方向において電位勾配を生じさせることが可能となる。
【0056】
例えば、(1)式で表記される特性からなるポリマー導波路材料を用いて、光導波路31を形成し、その上に薄膜電極製の電極40Aを形成し、
図3に示すような光導波路31を形成した場合、光導波路31中の屈折率nは、(1)式より、次式(6)で与えられる。
n(E)=n−n
0^3・r・E/2=n−Δn (6)
回折格子31Aを介した伝搬ベクトルβを持つ光が光導波路31中に入射した場合は、以下の整合条件が成り立つ。
nak0sinθa=nck0sinθc=|β|−m|K| (7)
ここで、naは空気の屈折率、ncはクラッド層20の屈折率、k0は真空中の波数(k0=2π/λ)、mは次数、βは導波モードの伝搬ベクトルβ=Nek0u
Y、Neは光導波路31中の導波モードの実効屈折率、u
YはY方向の単位ベクトル、θaは回折格子31Aにより光導波路31からZ軸正方向側に回折する光の偏向角、θcは回折格子31Aにより光導波路31からZ軸負方向側に回折する光の偏向角である。一方、(7)式右辺のKは回折格子31AのベクトルK=(2π/Λ)u
Yであり、mはm次の回折光を表わす。回折格子31AのベクトルKは、回折格子31Aのピッチに対応したスカラー量と、光導波路31に沿って回折格子31Aが配列される方向(Y軸正方向)とを有する。
【0057】
次に、これらのベクトルによる導波モードと偏向角θの制御について説明する。
図5乃至
図9は、光偏向素子100の導波モードと偏向角θを示す図である。
図5乃至
図9において、(A)は導波モードを示し、(B)は回折格子31Aで回折される光の伝搬方向を示し、(C)は(B)に示す光の波面を示す。
【0058】
なお、ここでは、電極40Aが電位勾配を形成せずに光を透過する薄膜で構成される場合(
図5乃至
図7)と、電極40Aが電位勾配を形成可能な薄膜によって構成される場合(
図8、
図9)との両方を説明する。
【0059】
光導波路31中の屈折率が、(6)式を満たして電極40A、40Bに印加された電圧に応じて変わると、光導波路31中のコア材料の実効屈折率Neが変化し、導波モードの伝搬ベクトルβの大きさ|β|が変わる。その際、光導波路31の伝搬モードmが変わらない範囲で制御した場合には、光導波路31の実効屈折率は、光導波路31中のコア材料の屈折率nfとの大小関係(式(8))を満たしながら変わる。この結果、コア材料の屈折率n
f変化量に応じて、回折格子31Aによって回折される光の偏向角θが変化することになる。
【0060】
その際、光伝搬するためには、以下の関係を満たすことになる。
n
f>Ne>n
c>n
a (8)
このため、電極40Aが電位勾配を形成せずに光を透過する薄膜で構成される場合において、電極40A、40Bに印加する電圧が0V(電圧を印加しない)の場合に、例えば、
図5(B)に示すように回折格子31Aによって光が回折され、
図5(A)に示す導波モードが得られたとする。光導波路31中を
図5(B)に示す矢印のように伝搬した光は、光導波路31の上に形成した回折格子31Aによって上方側と下方側に形成された屈折率ncからなるクラッド層20の上下両方に射出される。その際、上方側に射出された光は、光偏向素子100の上面(Z軸正方向側の面)から空気中に射出される。
【0061】
また、この場合には、電極40Aが電位勾配を形成せずに光を透過する薄膜で構成されているため、各回折格子31で回折される光の角度は互いに等しくなる。このため、複数の回折格子31Aで回折される光を合成した光の波面は、
図5(C)に示すように平面状になる。
【0062】
また、電極40Aが電位勾配を形成せずに光を透過する薄膜で構成される場合において、電極40A、40Bに正電圧を印加した(電極40Bに対して電極40Aに正電圧を印加した)場合には、
図6(B)に示すように回折格子31Aによって光が回折され、
図6(A)に示す導波モードが得られる。
【0063】
電極40Bに対して電極40Aに正電圧を印加すると、光導波路31中の屈折率が、(6)式を満たして電極40A、40Bに印加された電圧に応じて変わり、光導波路31中のコア材料の実効屈折率Neが変化し、導波モードの伝搬ベクトルβの大きさ|β|が変わる。光導波路31の屈折率が変化し、光導波路31内を伝搬する光の位相がシフトする。なお、光導波路31中の屈折率(実効屈折率Ne)が変化すると、伝搬ベクトルβの大きさが変わる。これは、光導波路31中のコアを伝搬する光の波長が変化する事(言い換えると光の伝搬速度が変化する事)を意味する。これが位相シフトである。光の波長が変化すると、回折格子31Aのベクトルとの差分が生じ、結果的に、偏向角θが変化する。このとき、回折格子31Aから異なる偏向角θ方向に出された光の波長は、元の波長(光導波路31に入力光を入力させた際の光の波長)に戻る。光の波長の変化は、コア中を伝搬する光に生じる。
【0064】
このため、
図5(A)に示す伝搬ベクトルβに比べて
図6(A)に示す伝搬ベクトルβ'は短くなり、回折格子31AのベクトルKと伝搬ベクトルβ'との差分は
図5(A)に示す回折格子31AのベクトルKと伝搬ベクトルβとの差分よりも大きくなり、
図6(A)、(B)に示すように偏向角θ
a、θ
cは大きくなる。また、この結果、
図6(C)に示すように、複数の回折格子31Aで回折される光は、
図5(C)に示す場合よりも偏向角θが大きくなり、これに応じて波面の角度も変わる。
【0065】
一方、電極40Bに対して電極40Aに負電圧を印加すると、光導波路31の屈折率が変化し、光導波路31内を伝搬する光の伝搬速度が変わる。このため、
図5(A)に示す伝搬ベクトルβに比べて
図7(A)に示す伝搬ベクトルβ''は長くなり、回折格子31AのベクトルKと伝搬ベクトルβ''との差分は
図5(A)に示す回折格子31AのベクトルKと伝搬ベクトルβとの差分よりも小さくなり、
図7(A)、(B)に示すように偏向角θ
a、θ
cは小さくなる。また、この結果、
図7(C)に示すように、複数の回折格子31Aで回折される光は、
図5(C)に示す場合よりも偏向角θが小さくなり、これに応じて波面の角度も変わる。
【0066】
また、電極40Aが電位勾配を形成可能な薄膜によって構成される場合において、電極40Bに対して電極40Aに正電圧を印加すると、光導波路31の屈折率が変化し、光導波路31内を伝搬する光の伝搬速度が電位勾配に応じて変化する。また、
図8では、電極40Aが電位勾配を形成可能な薄膜によって構成されているので、電位勾配により、回折格子31Aの位置によって偏向角が異なる。
図8(B)では、偏向角θ
a1、θ
c1、θ
a2、θ
c2、θ
a3、θ
c3が得られる。
【0067】
このため、偏向角θ
a1、θ
c1とθ
a3、θ
c3とに対応する伝搬ベクトルβ'1、β'3は長さが異なる。なお、偏向角θ
a1、θ
c1とθ
a3、θ
c3とに対応する回折格子31AのベクトルK'1、K'3は、基点が異なるが、長さは等しい。
【0068】
この結果、
図8(C)に示すように、複数の回折格子31Aで回折される光は、進行方向に対して波面が凹状に収束した形状になる(凹状波面)。
【0069】
一方、電極40Aが電位勾配を形成可能な薄膜によって構成される場合において、電極40Bに対して電極40Aに負電圧を印加すると、光導波路31の屈折率が変化し、光導波路31内を伝搬する光の位相が電位勾配に応じて変化する(位相がシフトする)。また、電位勾配が異なれば、伝搬速度も異なる。
【0070】
また、
図9では、電極40Aが電位勾配を形成可能な薄膜によって構成されているので、電位勾配により、回折格子31Aの位置によって偏向角が異なる。
図9(B)では、偏向角θ
a1、θ
c1、θ
a2、θ
c2、θ
a3、θ
c3が得られる。
【0071】
このため、偏向角θ
a1、θ
c1とθ
a3、θ
c3とに対応する伝搬ベクトルβ''1、β''3は長さが異なる。なお、偏向角θ
a1、θ
c1とθ
a3、θ
c3とに対応する回折格子31AのベクトルK''1、K''3は、基点が異なるが、長さは等しい。
【0072】
この結果、
図9(C)に示すように、複数の回折格子31Aで回折される光は、進行方向に対して波面が凸状に収束した形状になる(凸状波面)。
【0073】
次に、光導波路100のデバイス構造を実現するための作製手順を実施例として記載する。この形態では、コア層30の上方と下方の両方にクラッド層20を設けている。
【0074】
(1)シリコン基板(基板10)上に、金電極(電極40B)を厚さ400nmで、蒸着法にて形成する。この電極40Bは、EO素子の下地電極として機能させる。
【0075】
(2)電極40Bの上に、エポキシ系からなるUV硬化樹脂をスピンコート法によって塗布し、さらにUV光を照射することによって下部のクラッド層を形成する。スピンコート法の回転数と回転時間を制御することによって、約2μmからなる膜厚の下部クラッド層を形成する。このクラッド層を形成した後、ベーキングにより溶媒除去を行う。
【0076】
(3)下部クラッド層上に、EOポリマー材料溶液をスピンコート法により約1μmの膜厚のコア層30を形成する。このスピンコートによる形成時には、下部クラッド層は硬化しているため、溶解せずに形成できる。このため塗布するEOポリマー溶液によってダメージを受けることはない。コア層30を形成した後にもベーキングによる溶媒除去処理を行う。
【0077】
(4)コア層30上に約800nmフォトレジストを塗布する。さらにフォトリソグラフィーにより光導波路31のパターンを形成する。この際に使用するレジスト材料は、後の工程で使用する酸素を使ったイオンエッチングに対し耐性のあるものを使用する。フォトレジストパターンをマスクにして、酸素ガスを流したRIE(Reactive Ion Etching)でコアリッジを形成し、さらにフォトレジストを除去する。このコア層の上方より、例えば収束性イオンビームFIBなどを用いて、周期構造を形成し、回折格子31Aを形成する。
【0078】
(5)コアリッジ上をUV硬化樹脂で被膜して上部クラッド層を形成する。これによりクラッド層20が完成する。
【0079】
(6)コア層30とクラッド層20の上に金薄膜を膜厚約5nmで、蒸着法により形成する。この蒸着では、マスクを使い、形成領域を限定することにより、電極40Aを形成することができる。
【0080】
(7)(1)の工程と(6)の工程で形成した電極40Aと40Bの間に交流電圧を印加し、ポーリング(ポリマー配向処理)を行う。具体的には、EOポリマー材料のガラス転移点近傍まで基板を加熱しつつ、金属電極間に電圧を徐々に印加する。
【0081】
以上、実施の形態1によれば、電気光学ポリマー材料(EOポリマー材料)で構成されるコア層30で構成される光導波路31の屈折率を変化させて伝搬される光の位相を変化させるとともに、光導波路31を伝搬する光を光導波路31の厚さ方向(Z軸方向)に回折させるので、光の偏向角θを調整することができる。偏向角θは、光導波路31の伝搬方向から光導波路31の厚さ方向に回折させた光を伝搬方向に近づけるように偏向する際に必要になる偏向角である。
【0082】
また、コア層30で構成される光導波路31の屈折率を変化させるために用いる電極40を電位勾配を形成可能な薄膜によって構成することにより、光偏向素子100から出射される光の波面を光の伝搬方向(Y軸方向)において、凸状、平坦、又は凹状に制御することができる。
【0083】
このような偏向角θの制御は、従来のように加熱による温度制御、又は、波長制御を行うものとは異なり、光導波路31に印加する電界を変化させて光導波路31の屈折率を変化させることによって実現される。
【0084】
従って、従来のように制御精度の低下、及び、色見の変化を生じさせることなく、光導波路31の伝搬方向から光導波路31の厚さ方向に回折させた光を伝搬方向(Y軸方向)に近づけるように偏向角θを即座に制御できる光偏向素子100を提供することができる。
【0085】
また、さらに、偏向角θに加えて、位相制御部50で偏向角Ψを制御すれば、光偏向素子100の出射面に対する鉛直方向(Z軸方向)に対して2軸方向に光を偏向させることができる。
【0086】
<実施の形態2>
図10は、実施の形態2の光偏向素子200を示す図である。なお、
図10では、実施の形態1と共通の直交座標系であるXYZ座標系を用いて説明する。
【0087】
光偏向素子200は、基板10、クラッド層220、コア層230、偏向制御部240(電極240A、40B)を含む。
図10(A)には、
図3(A)に対応する断面を示し、
図10(B)には、
図3(B)に対応する断面を示す。なお、
図10には位相制御部50(電極50A、50B)を示さないが、光偏向素子200は、位相制御部50(電極50A、50B)を含んでいてもよい。
【0088】
光偏向素子200は、実施の形態1の光偏向素子100のクラッド層20、コア層30、偏向制御部40(電極40A、40B)を、それぞれ、クラッド層220、コア層230、偏向制御部240(電極240A、40B)に変更したものである。その他の構成要素は実施の形態1の光偏向素子100と同様であるため、以下では相違点を中心に説明する。
【0089】
クラッド層220はコア層230の上面を覆っていない点が実施の形態1のクラッド層20と異なる。
【0090】
コア層230は、光導波路231の上面に回折格子が形成されていない点が実施の形態1のコア層30と異なる。
【0091】
偏向制御部240は、電極240A及び40Bを有する。電極240Aは、回折格子241Aが形成されている点が実施の形態1の電極40Aと異なる。
【0092】
図11乃至
図15は、光偏向素子200の導波モードと偏向角θを示す図である。
図11乃至
図15において、(A)は導波モードを示し、(B)は回折格子241Aで回折される光の伝搬方向を示し、(C)は(B)に示す光の波面を示す。
【0093】
図11乃至
図15に示す光偏向素子200の導波モードと偏向角θは、
図5乃至
図9に示すものと同様であるため、ここでは簡単に説明する。
【0094】
電極240Aが電位勾配を形成せずに光を透過する薄膜で構成される場合において、電極240A、40Bに印加する電圧が0V(電圧を印加しない)の場合に、例えば、
図11(B)に示すように回折格子241Aによって光が回折され、
図11(A)に示す導波モードが得られたとする。光導波路231中を
図11(B)に示す矢印のように伝搬した光は、光導波路231の上に形成した回折格子241Aによって上方側と下方側に形成された屈折率ncからなるクラッド層220の上下両方に射出される。その際、上方側に射出された光は、光偏向素子100の上面(Z軸正方向側の面)から空気中に射出される。
【0095】
また、この場合には、電極240Aが電位勾配を形成せずに光を透過する薄膜で構成されているため、各回折格子31で回折される光の角度は互いに等しくなる。このため、複数の回折格子241Aで回折される光を合成した光の波面は、
図11(C)に示すように平面状になる。
【0096】
また、電極240Aが電位勾配を形成せずに光を透過する薄膜で構成される場合において、電極240A、40Bに正電圧を印加した(電極40Bに対して電極240Aに正電圧を印加した)場合には、
図12(B)に示すように回折格子241Aによって光が回折され、
図12(A)に示す導波モードが得られる。
【0097】
電極40Bに対して電極240Aに正電圧を印加すると、光導波路231の屈折率が変化し、光導波路231内を伝搬する光の位相がシフトするため、
図11(A)に示す伝搬ベクトルβに比べて
図12(A)に示す伝搬ベクトルβ'は短くなり、回折格子241AのベクトルKと伝搬ベクトルβ'との差分は
図11(A)に示す回折格子241AのベクトルKと伝搬ベクトルβとの差分よりも大きくなり、
図12(A)、(B)に示すように偏向角θ
a、θ
cは大きくなる。また、この結果、
図12(C)に示すように、複数の回折格子241Aで回折される光は、
図11(C)に示す場合よりも偏向角θが大きくなり、これに応じて波面の角度も変わる。
【0098】
一方、電極40Bに対して電極240Aに負電圧を印加すると、光導波路231の屈折率が変化し、光導波路231内を伝搬する光の位相がシフトするため、
図11(A)に示す伝搬ベクトルβに比べて
図13(A)に示す伝搬ベクトルβ''は長くなり、回折格子241AのベクトルKと伝搬ベクトルβ''との差分は
図11(A)に示す回折格子241AのベクトルKと伝搬ベクトルβとの差分よりも小さくなり、
図13(A)、(B)に示すように偏向角θ
a、θ
cは小さくなる。また、この結果、
図13(C)に示すように、複数の回折格子241Aで回折される光は、
図11(C)に示す場合よりも偏向角θが小さくなり、これに応じて波面の角度も変わる。
【0099】
また、電極240Aが電位勾配を形成可能な薄膜によって構成される場合において、電極40Bに対して電極240Aに正電圧を印加すると、光導波路231の屈折率が変化し、光導波路231内を伝搬する光の位相がシフトする。
【0100】
また、電位勾配により、回折格子241Aの位置によって偏向角が異なるので、偏向角θ
a1、θ
c1、θ
a2、θ
c2、θ
a3、θ
c3が得られる。偏向角θ
a1、θ
c1とθ
a3、θ
c3とに対応する伝搬ベクトルβ'1、β'3は長さが異なる。
【0101】
この結果、
図14(C)に示すように、複数の回折格子241Aで回折される光は、進行方向に対して波面が凹状に収束した形状になる(凹状波面)。
【0102】
一方、電極240Aが電位勾配を形成可能な薄膜によって構成される場合において、電極40Bに対して電極240Aに負電圧を印加すると、光導波路231の屈折率が変化し、光導波路231内を伝搬する光の位相がシフトする。
【0103】
また、電位勾配により、回折格子241Aの位置によって偏向角が異なるので、偏向角θ
a1、θ
c1、θ
a2、θ
c2、θ
a3、θ
c3が得られる。偏向角θ
a1、θ
c1とθ
a3、θ
c3とに対応する伝搬ベクトルβ''1、β''3は長さが異なる。
【0104】
この結果、
図15(C)に示すように、複数の回折格子241Aで回折される光は、進行方向に対して波面が凸状に収束した形状になる(凸状波面)。
【0105】
次に、光導波路200のデバイス構造を実現するための作製手順を実施例として記載する。この形態では、コア層230の下方のみにクラッド層220を設けている。
【0106】
(1)シリコン基板(基板10)の上に、金電極(電極40B)を厚さ400nmで、蒸着法にて形成する。電極40Bは、EO素子の下地電極として機能させる。
【0107】
(2)電極40Bの上に、エポキシ系からなるUV硬化樹脂をスピンコート法によって塗布し、さらにUV光を照射することによってクラッド層220を形成する。スピンコート法の回転数と回転時間を制御することによって、約2μmからなる膜厚のクラッド層220を形成する。クラッド層220を形成した後、ベーキングにより溶媒除去を行う。
【0108】
(3)クラッド層220の上に、EOポリマー材料溶液をスピンコート法により約1μmの膜厚のコア層230を形成する。このスピンコートによる形成時には、クラッド層は硬化しているため、溶解せずに形成できる。このため塗布するEOポリマー溶液によってダメージを受けることはない。コア層230を形成した後にもベーキングによる溶媒除去処理を行う。
【0109】
(4)コア層230の上に約800nmフォトレジストを塗布する。さらにフォトリソグラフィーにより導波路パターンを形成する。この際に使用するレジスト材料は、後の工程で使用する酸素を使ったイオンエッチングに対し耐性のあるものを使用する。フォトレジストパターンをマスクにして、酸素ガスを流したRIEでコアリッジを形成し、さらにフォトレジストを除去して、アレイ状のコア層230を完成させる。
【0110】
(5)コア層230の上に金薄膜を膜厚約5nmで、蒸着法により形成する。この蒸着では、マスクを使い、形成領域を限定した。
【0111】
(6)(1)の工程と(5)の工程とで形成した電極240A、40Bの間に交流電圧を印加し、ポーリング(ポリマー配向処理)を行う。具体的には、EOポリマー材料のガラス転移点近傍まで基板を加熱しつつ、金属電極間に電圧を徐々に印加する。
【0112】
(7)(5)の工程で作製した金属膜の上方より、例えば収束性イオンビームFIBなどを用いて、周期構造を形成し、回折格子241Aを形成する。これにより、電極240Aが完成する。
【0113】
以上、実施の形態2によれば、電気光学ポリマー材料(EOポリマー材料)で構成されるコア層230で構成される光導波路231の屈折率を変化させて伝搬される光の位相を変化させるとともに、光導波路231を伝搬する光を光導波路231の厚さ方向(Z軸方向)に回折させるので、光の偏向角θを調整することができる。偏向角θは、光導波路231の伝搬方向から光導波路231の厚さ方向に回折させた光を伝搬方向に近づけるように偏向する際に必要になる偏向角である。
【0114】
また、コア層230で構成される光導波路231の屈折率を変化させるために用いる電極240Aを電位勾配を形成可能な薄膜によって構成することにより、光偏向素子200から出射される光の波面を光の伝搬方向(Y軸方向)において、凸状、平坦、又は凹状に制御することができる。
【0115】
このような偏向角θの制御は、従来のように加熱による温度制御、又は、波長制御を行うものとは異なり、光導波路231に印加する電界を変化させて光導波路231の屈折率を即座に変化させることによって実現される。
【0116】
従って、従来のように制御精度の低下、及び、色見の変化を生じさせることなく、光導波路231の伝搬方向から光導波路231の厚さ方向に回折させた光を伝搬方向(Y軸方向)に近づけるように偏向角θを制御できる光偏向素子200を提供することができる。
【0117】
また、さらに、偏向角θに加えて、位相制御部50で偏向角Ψを制御すれば、光偏向素子200の出射面に対する鉛直方向(Z軸方向)に対して2軸方向に光を偏向させることができる。
【0118】
なお、実施の形態1、2において、回折格子31A、241Aを形成する箇所は、光導波路31、231よりも上側に設けたが、回折格子を形成する箇所はこれに限定されるものではない。
【0119】
光導波路の厚さ方向の中央部分に屈折率の異なる屈折率変調層を設けることによって回折格子を作製してもよく、コア層の厚さ方向における下部側に回折格子を設けてもよい。
【0120】
また、実施の形態1、2では、コア層30、230に有機ポリマー材料を用いたが、それに限定されず、無機系誘電体や半導体をはじめ、有機、無機を問わずに適用可能である。誘電体材料としては、SiO2、SiON、やニオブ酸リチウムLN、また半導体材料としてはGaAs系、GaN系、InP系材料についても適用可能である。
【0121】
以上、本発明の例示的な実施の形態の光偏向素子について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。