特許第6596216号(P6596216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6596216比較電極、その比較電極を用いた測定方法及び測定システム、複合電極、液体分析計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596216
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】比較電極、その比較電極を用いた測定方法及び測定システム、複合電極、液体分析計
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/401 20060101AFI20191010BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20191010BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   G01N27/401 313B
   G01N27/30 315
   C12M1/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-73780(P2015-73780)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-200646(P2015-200646A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2018年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-74795(P2014-74795)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 紘子
(72)【発明者】
【氏名】山内 悠
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭42−019657(JP,Y1)
【文献】 特開平08−145937(JP,A)
【文献】 特開2008−281420(JP,A)
【文献】 特開平05−312763(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0133369(US,A1)
【文献】 特開昭62−187244(JP,A)
【文献】 特開平08−285811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/401
G01N 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部液を補充する補充口を有さない内部液無補充型の比較電極であって
内部極と、
密閉空間を形成し、前記密閉空間に前記内部極を収容する収容体と、
前記内部極に接触するように、前記密閉空間に入れられたゲル状又は液状の前記内部液と、
前記内部液とともに前記密閉空間に入れられた気体と、
前記内部液と測定対象となる試料液とが電気的に接続されるように、前記収容体に設けられたガラスの摺合わせ構造から形成される液絡部と、を具備し
前記気体が熱膨張することにより、前記内部液が加圧されて前記液絡部から流出する比較電極。
【請求項2】
請求項1記載の比較電極を用いた測定方法であって、
前記気体の温度が、前記気体を前記密閉空間に入れたときよりも高くなるようにして前記比較電極を測定に用いることを特徴とする測定方法。
【請求項3】
測定対象となる試料液が入れられる容器と、
前記容器に設けられ、前記試料液を加熱する加熱手段と、
前記容器に、前記液絡部が前記試料液に浸漬するように取り付けられた請求項1記載の比較電極と、を具備する測定システム。
【請求項4】
前記容器が、細胞培養に用いられるものであることを特徴とする請求項3記載の測定システム。
【請求項5】
応答膜を有する支持管と、
前記支持管内に充填された第2の内部液と、
前記第2の内部液に浸漬される第2の内部極と、から構成されるイオン選択性電極と、
請求項1記載の比較電極と、を備えた複合電極。
【請求項6】
請求項5記載の複合電極と、
前記複合電極からの測定情報を所望の情報に変換する変換装置と、
前記変換装置によって変換された情報を表示する表示装置と、を備えた液体分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH測定、ORP測定、ナトリウムやカリウムなどのイオン濃度測定などで用いられる比較電極、その比較電極を用いた測定方法及び測定システム、複合電極、液体分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、実験等で用いられる試料液の、例えば、pHを測定するために、pH電極が使用されている。このpH電極を使用するときは、試料液が入れられた容器に、pH電極をその試料液に浸けて測定するが、例えば、試料液を攪拌しながら測定を行う場合、測定中にその試料液にpH電極から雑菌等が混入すると、実験に悪影響を及ぼすことがある。
また、近年行われている人や動物の細胞や臓器の一部を培養して再生し、病気の治療を行う再生医療においても、細胞を培養する際には、培養状態の管理のため、細胞培養液のpH測定が行われる。この細胞培養におけるpH測定においても、細胞培養液を攪拌する際に、pH電極から雑菌が細胞培養液に侵入しないこと、またそれを防止するために、電極を滅菌しても電極の機能が損なわれない構造であることが望まれている。また、細胞培養が行われる期間、例えば数週間から数カ月間、培養容器に取り付けられたまま、滅菌状態を維持しつつ測定精度を保持することなども望まれている。なお、このような構造はできるだけ簡単な構造であることが望ましい。
【0003】
電極の滅菌状態が維持されるようにするためには、例えば、電極内部を密閉空間にして、滅菌後は外部から雑菌等が入らないようにすることが考えられる。例えば、特許文献1には、任意の面粗さを持つプレートを摺り合わせることに形成された液絡部を有しており、この液絡部からの内部液の流出量が少ないため、長期間使用可能である電極が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電極では、長期間のpH測定は可能だが、プレートにサファイアを用いた複雑な構造をとっており、また密閉構造を有していないので、電極を滅菌して、簡単な構造で、その滅菌状態を長期間維持してpH測定を行うという問題を解決することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−312763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、pH等の測定中にその試料液に電極から雑菌等が混入しない構造を有し、長期間pH測定が可能な比較電極を提供することをその主たる課題とするものである。また、例えば、細胞培養液等のpH測定に極めて好適に用いることができる比較電極を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る比較電極は、内部極と、密閉空間を形成し、前記密閉空間に前記内部極を収容する収容体と、前記内部極に接触するように、前記密閉空間に入れられたゲル状又は液状の内部液と、前記内部液とともに前記密閉空間に入れられた気体と、前記内部液と測定対象となる試料液とが電気的に接続されるように、前記収容体に設けられたガラスの摺合わせ構造から形成される液絡部とを具備していることを特徴とする。
【0008】
このような構成であれば、試料液のpH等の測定中において液絡部が試料液に浸漬して、この測定状態において収容体が密閉状態となっているので、比較電極内に外部から雑菌等の侵入の恐れがない。したがって、長期間、雑菌等の侵入が無い状態でのpH等の測定が可能となる。また、このような比較電極であれば、例えば、細胞培養液のpH測定に極めて好適に用いることができる。即ち、収容体が上述したように密閉空間を形成しているので、この比較電極を一旦滅菌すれば滅菌状態が維持され、細胞培養液のpH測定中に、比較電極内に外部から雑菌等の侵入の恐れがなく、細胞培養に悪影響を及ぼすことを未然に防ぐことができる。
【0009】
また、細胞培養は室温より高い状態で行われる場合が多く、そのような細胞培養液にこの比較電極を浸漬させると、密閉空間に入れられた所定量の気体が温められて熱膨張し、内部液を加圧してガラスの摺合わせ構造から形成されている液絡部から内部液を染み出すように流出させることができる。このようにして内部液が液絡部から流出するので、その流出量を少なくすることができ、長期間、例えば数週間から数カ月程度内部液を補充しなくても継続してpH測定を行うことができる。また、気体の熱膨張により内部液が加圧されるので、別途、バネ等の弾力部材を用いた加圧手段や、機械的に加圧するような加圧装置を設ける必要がなく、比較電極の構成を簡素化することができる。
【0010】
さらに、液絡部がガラスの摺合わせ構造を有しているので、細胞培養液中の細胞によって液絡部が目詰まりすることが起きにくく、pH測定の精度を長期間維持することができる。
【0011】
このような比較電極は、上記細胞培養液以外の試料液のpH測定にも用いることが可能である。例えば、試料液の液温が室温より高いものであれば、同様に上記効果を有し、試料液の粘性が高いものでも、液絡部がガラスの摺合わせ構造を有しているので、液絡部が目詰まりしにくく、pH測定の精度を長期間維持することができる。
【0012】
また、本発明に係る比較電極を用いた測定方法は、前記気体の温度が、前記気体を前記密閉空間に入れたときよりも高くなるようにして前記比較電極を測定に用いることを特徴とする。
【0013】
このような測定方法であれば、例えば、この比較電極を用いて測定する試料液の温度を、密閉空間に入れられたときの気体の温度よりも高くすれば、その気体を加温して熱膨張させることができ、これにより内部液を加圧することができる。
【0014】
また、本発明に係る比較電極を用いた測定システムは、測定対象となる試料液が入れられる容器と、前記容器に設けられ、前記試料液を加熱する加熱手段と、前記容器に、前記液絡部が前記試料液に浸漬するように取り付けられた上述した比較電極とを具備することを特徴とする。
【0015】
具体的な一態様としては、このような比較電極を容器に取り付けて試料液のpH測定を行う測定システムを挙げることができる。このようなものであれば、試料液を加熱する加熱手段によって試料液が室温以上に加熱されている場合、これにより比較電極の気体層が熱膨張し、内部液を加圧することができる。
【0016】
また、本発明に係る測定システムの具体的な一態様としては、前記容器が、細胞培養に用いられるものであるものを挙げることができる。
【0017】
また、本発明に係る比較電極を備えた複合電極の具体的な一態様としては、この比較電極及び応答膜を有する支持管と、前記支持管内に充填された内部液と、前記内部液に浸漬される内部極とから構成されるイオン選択性電極を備えたものを挙げることができる。
【0018】
さらに、具体的な一態様としては、上述した複合電極と、前記複合電極からの測定情報を所望の情報に変換する変換装置と、前記変換装置によって変換された情報を表示する表示装置とを備えた液体分析計が挙げられる。このような液体分析計においても上述した比較電極を備えるので、同様の効果を有することができる。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、収容体が密閉空間を形成しているので、この比較電極を一旦滅菌すれば滅菌状態が維持され、例えば、細胞培養液のpH測定中に、比較電極内に外部から雑菌等の侵入の恐れがなく、細胞培養に悪影響を及ぼすことを未然に防ぐことができる。
【0020】
また、気体が温められて熱膨張して内部液を加圧することによって、ガラスの摺合わせ構造から形成されている液絡部から内部液を染み出すように流出させることができるので、その流出量を少なくすることができ、長期間、例えば数週間から数カ月程度内部液を補充しなくても継続してpH測定を行うことができる。また、気体の熱膨張により内部液が加圧されるので、別途加圧手段を設ける必要がなく、比較電極の構成を簡素化することができる。
【0021】
さらに、液絡部が、スリーブ構造に代表されるガラスの摺合わせ構造を有しているので、細胞培養液中の細胞によって液絡部が目詰まりすることが起きにくく、pH測定の精度を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態における比較電極及び複合電極の全体模式図。
図2】同実施形態における測定システムの全体模式図。
図3】本発明の一実施形態における液体分析計の全体模式図。
図4】(a)(b)(c)液絡部を拡大した拡大断面図。
図5】液絡部から流出する内部液の量と液間電位との関係を示すグラフ。
図6】気体の体積と内部液の流出量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1に、本実施形態に係る複合電極100を示す。この複合電極100は、比較電極2とイオン選択性電極4を具備したものである。
まず、比較電極2について説明する。この比較電極2は、内部極Rと、密閉空間8を形成し、この密閉空間8に内部極Rを収容する収容体6と、内部極Rに接触するように、密閉空間8に入れられたゲル状又は液状の内部液10と、内部液10とともに密閉空間8に入れられた気体12と、内部液10と測定対象となる試料液とが電気的に接続されるように、収容体6に設けられたガラスの摺合わせ構造から形成される液絡部14とを具備している。
【0025】
次に、イオン選択性電極4について説明する。イオン選択性電極4は、応答膜16を有する支持管18と、支持管18内に充填された第2の内部液20と、この第2の内部液20に浸漬される第2の内部極Mとから構成されている。
【0026】
具体的には、複合電極100は、筒状のイオン選択性電極4の外周に比較電極2を一体的に有するものである。イオン選択性電極4は、細長い筒状であって、ガラス製の支持管18の先端部22が拡開するようにテーパ部24が形成され、その先端部22に、応答膜16として球状の応答ガラスが備えられている。支持管18内にはイオン選択性電極用の所定の第2の内部液20が充填されており、銀/塩化銀電極から構成される第2の内部極Mが、第2の内部液20に浸漬されている。
【0027】
比較電極2は、支持管18の外周を取り囲むように、支持管18と同様に細長く形成されたガラス製の収容体6を有しており、この支持管18と収容体6との間に設けられた空間が、密閉空間8を形成するように設けられている。即ち、収容体6には内部液10を補充する補充口等の開口部が設けられていない。この空間に、比較電極2用の内部液10が充填される。内部液10は、ゲル状又は液状の所定濃度、例えば3.3MのKCl溶液であり、測定条件等によって、ゲル状のもの、又は液状のものが選択される。
【0028】
また、この空間には、内部液10とともに所定量の空気等の気体12が入れられている。そのため、密閉空間8には、内部液10からなる液体層と、気体12からなる気体層の2層が存在していることとなる。ここで、以下説明のために、空間に収容された気体を気体層12と記載することとする。また、所定量とは、気体12が加熱されて熱膨張し、内部液10を加圧して液絡部14から適切量の内部液10が流出する量をいう。ここで、密閉空間8に入れられている気体12は、注入されたものであってもよいし、もともと密閉空間8に存在していたものであってもよい。気体は、空気の他、窒素、酸素、二酸化炭素等の種々の気体が測定条件に合わせて選択される。空間に気体12が入れられた後、収容体6は密栓されて密閉空間8が形成される。
【0029】
このように内部液10を液絡部14から流出させるのは、液絡部14の界面では、異なる二つの溶液が接触するために、溶液間のイオンの拡散によって液間電位が生じ、この液間電位が大きくなると、精確にpHを測定できなくなるという問題が生じてしまうからである。そこで、液絡部14から内部液10を少量ずつ安定に流出させて、内部液10に含まれるイオンの拡散によって、液間電位を安定させて、上述の問題を解決している。
【0030】
図5は、液絡部14から流出する内部液10の量と液間電位との関係を示すグラフである。横軸に液絡部14から流出する内部液10の量、縦軸に液間電位を示している。
液間電位として許容することができる電位を−1mV以下とすると、図5に示すように、液絡部14から流出する内部液10の量が減少するにつれて、液間電位が増加し、内部液10の量が5μLを下回ると、液間電位が−1mV以上となって、上述の許容できる電位の範囲を超えてしまう。そのため、液間電位を許容できる範囲に収めるためには、液絡部14から流出させる内部液10の量を5μL以上、さらに好ましくは、20μL以上とする必要がある。
【0031】
但し、液絡部14から流出させる内部液10の量が増加すると、例えば試料液に培養液を用いて、内部液10にKCl溶液を用いている場合、内部液10であるKCl溶液が培養液内の細胞をアタックして、細胞に悪影響を与えるおそれがある。しかし一方で、液絡部14から流出させる内部液10の量が減少すると、上述したように液間電位が発生して測定精度が悪化してしまう。
そのため、液絡部14から流出させる内部液10の量は、上述したように液間電位が生じない5μL以上であって、試料液に応じて適宜、試料液に悪影響を与えない量にする必要がある。
【0032】
そして、気体層12の体積と内部液10の流出量とは、図6に示すように、以下の相関関係がある。
つまり、図6の気体層12の体積を横軸、液体部14からの内部液10の流出量を縦軸に示すグラフに示すように、気体層12の体積と内部液10の流出量とは、気体層12の体積が増えるにつれて内部液10の流出量が増加する比例関係にあることが分かる。そのため、密閉空間8に入れられた気体層12の体積を調整すれば、液絡部14から流出する内部液10の量を調整できることが分かる。なお、図6では、気体として空気を用いている。
【0033】
収容体6の先端部26には、支持管18のテーパ部24と密接するように拡開してテーパ部28が形成されており、この支持管18のテーパ部24と収容体6のテーパ部28とがガラスの摺合わせ構造を形成しており、これによって液絡部14が形成されている。この液絡部14は、密閉空間8に内部液10と気体層12が入れられて密封されたときには内部液10が流出しないが、気体層12が熱膨張して内部液10を加圧するときには、その摺合わせ面が拡開して内部液10が流出するように、摺合わせ面の面間隔が形成されている。
【0034】
この摺合わせ面についてさらに詳しく説明する。
図4(a)(b)(c)のそれぞれの液絡部を用いた複合電極100において、経過時間に対する電位の変化を比較した。
【0035】
まず、図4(a)に示すように、下方に向かって開口するテーパが設けられた摺合わせ面によって形成された液絡部を設けた複合電極では、時間経過による電位の変化はほとんど見られなかった。これは、気体層12によって内部液10が加圧されると、該摺り合わせ面が開口する方向に移動するので、内部液10が液絡部14から流出し易くなり、その結果、液間電位の発生を防いで、長時間電位の変化が生じない複合電極100を実現することができたと考えられる。
【0036】
次に、図4(b)に示すように、上方に向かって開口するテーパが設けられた摺合わせ面によって形成された液絡部を設けた複合電極では、上述の図4(a)よりは、経過時間が経つにつれて電位の変動が見られた。これは、気体層12によって内部液10が加圧されると、該摺り合わせ面が閉口する方向に移動するので、内部液10が液絡部14から多少流出し難くなり、図4(a)よりは液間電位の発生が生じたためと考えられる。しかし、液絡部14から内部液10は流出するので、液間電位自体を6mV以下に抑えることができたと考えられる。
【0037】
最後に、図4(c)に示すように、多孔質体を用いて形成された液絡部を設けた複合電極では、経過時間が経つにつれて電位の変動が生じ、その変動幅が大きくなった。これは、多孔質体では内部液と試料液との出し入れが行われ、これによって比較電極の電極電位が変動が生じ、経時変化とともにその変動幅が大きくなったためと考えられる。
【0038】
そのため、摺り合わせ面で構成した液絡部14であれば、液間電位の影響を抑えることができることが分かる。また、さらに液間電位の影響を抑えることができる摺り合わせ面としては、図4(a)に示すように、下方に向かって開口するテーパが設けられた摺合わせ面が好ましい。
【0039】
収容体6の密閉空間8には、内部液10に浸漬されるように、銀/塩化銀電極から構成される内部極Rが設けられている。この内部極Rとイオン選択性電極4の第2の内部極Mにはそれぞれ配線が設けられており、この配線を介して外部に設けられた電位差計(図示せず)に接続され、この電位差計によって試料液のpHが測定される。なお、各配線と電位差計との接続は、密閉空間8の密閉性が担保されるように、その接続部分は、例えば、接着剤等で隙間なく埋められている。
【0040】
次に、図2を用いて、複合電極100を備えた測定システム200について説明する。この測定システム200は、測定対象となる試料液42が入れられる容器44と、容器44に設けられ、試料液42を加熱する加熱手段46と、容器44に、液絡部14が試料液42に浸漬するように取り付けられた比較電極2及びイオン選択性電極4を備えた複合電極100から構成されている。なお、図示していないが、この複合電極100は、外部に設けられた電位差計、記録装置等に接続されており、この電位差計によって試料液42のpH測定が行われ、そのpH値が記録装置に記録される。
【0041】
具体的に、容器44は、上面が開口する筐体形状をなすものであって、細胞培養に特に好適に使用されるものであり、ガラス製のものが用いられる。ガラス製であれば、ガンマ線などの放射線滅菌による材質劣化を抑えることができる。なお、容器44の材質はガラスに限らず、樹脂性のものでもよく、滅菌によって材質が劣化して機能を損なうものでなければよい。また、容器44は、細胞培養液以外の試料液にも用いることができるものであり、その形状も適宜変更することができる。また、容器44の周囲には、試料液42を加熱するための加熱手段46が設けられている。加熱手段46は、容器44の外部から試料液42を所望の温度に加熱できるものであればよく、例えば、コイル状の電熱線からなるものや、恒温槽のようなものであってもよい。また、容器44には、試料液42を攪拌するための攪拌羽根50が、その底部から上方に延伸して設けられている。この攪拌羽根50の下部には、図示しないモータなどの回転軸が挿入され、その回転軸の回転によって、攪拌羽根50が回転して試料液42を攪拌する。
【0042】
さらに、容器44の開口を形成する開口端48を覆うように、容器44内を密閉状態に保持する蓋部材52が設けられている。この蓋部材52には、チューブ54、56、及び複合電極100を容器内部に挿通するための貫通孔が設けられている。そして、これらチューブ54、56から例えば細胞培養液等の試料液42や細胞培養に必要な緩衝液等を容器44内に流入する。なお、貫通孔とチューブ54、56、及び複合電極100との間は隙間が生じないように例えばシール部材等を用いて密閉されている。
【0043】
このような測定システム200を用いて、細胞培養液等の試料液42のpHを測定する場合、細胞培養液は、加熱手段46によって培養に適した温度、例えば、30℃から50℃程度に加熱される。比較電極2の収容体6に気体層12を密閉するときに、このような温度より低い温度で密閉されていれば、この比較電極2を細胞培養液に浸漬させると、密閉時より細胞培養液の温度が高いので、その温度により気体層12が加熱され、熱膨張するようになる。これによって、内部液10が加圧され、液絡部14から内部液10が流出し、細胞培養液のpH測定が行われる。
【0044】
次に、図3を用いて、複合電極100を備えた液体分析計400について説明する。この液体分析計400は、複合電極100と、複合電極100からの測定情報を所望の情報に変換する変換装置72と、変換装置72によって変換された情報を表示する表示装置74とから構成される。具体的には、複合電極100と変換装置72とは、所定の長さの信号ケーブル76によって接続されている。信号ケーブル76は、複合電極100で検知した細胞培養液等の試料液8の電位を演算処理装置等から構成される変換装置72に伝送し、変換装置72によって、pH値等の所望のデータに変換される。pH値等のデータは、液晶ディスプレイ等の表示装置74によって表示され、それによって、作業者が試料液8のpH値を確認することができる。
【0045】
この液体分析計400を使用するときは、変換装置72に設けられた複数のボタン78によって操作する。ボタン78のそれぞれには、例えば、校正、測定開始、測定終了等の様々な機能が割り当てられており、測定開始機能が割り当てられた測定開始ボタンを押すことによって、試料液8のpH測定が開始され、測定終了機能が割り当てられた測定終了ボタンを押すことによって、pH測定が終了する。
このような液体分析計400の複合電極100を容器44の蓋部材52にセットすることによって、細胞培養を行いながら、細胞にストレスを与えることを抑えて細胞培養液のpH測定を行うことができる。
【0046】
なお、本実施形態では、変換装置72及び表示装置74は複合電極100とは別体に設けたが、これに限らず、変換装置72を小型化して複合電極100の内部に設けるようにして、表示装置74のみを複合電極100の外部に設けるようにしても良い。さらに、表示装置74をも複合電極100と一体的に設けるようにしても良い。このような構成であれば、液体分析計400自体の大きさを小さくすることができ、測定システムの構成を簡素化することができる。
【0047】
比較電極2が上述したように構成されているので、細胞培養液のpH測定に極めて好適にこの比較電極2を用いることができる。即ち、収容体6が密閉空間8を形成しているので、この比較電極2を一旦滅菌すれば滅菌状態が維持され、細胞培養液のpH測定中において液絡部14が細胞培養液に浸漬して、この測定状態において収容体6が密閉状態となっているので、比較電極2内に外部から雑菌等の侵入の恐れがなく、細胞培養に悪影響を及ぼすことを未然に防ぐことができる。特に、比較電極2がガラス製の収容体6を有している場合は、ガンマ線などの放射線により滅菌によっても材質劣化を抑えることができ、比較電極としての機能を維持することができる。なお、収容体6はガラス製に限られず、例えば、樹脂性のものでもよく、細胞培養に悪影響を及ぼさないように滅菌することができ、その滅菌によって材質劣化して機能を損なわないものであればよい。
【0048】
また、収容体6には、内部液の補充口等の開口部を有しないようにして密閉空間8が形成されているが、内部液を最初に注入するための開口部が収容体の側壁等に設けられている場合は、内部液を注入後、その開口部を密封して密閉状態が維持できるようにされていればよい。
また、内部液10は、ゲル状又は液状のKCl溶液が用いられているが、このようなものであれば、滅菌によっても劣化せず、比較電極の機能を数週間から数カ月程度の長期間維持することができる。なお、このようなKCl溶液に限らず、比較電極の滅菌によって劣化されずに、試料液と接触できるようなものであればよい。
【0049】
また、この比較電極2を備えた複合電極100は、細長い筒状を有しているが、できるだけ細い方が好ましく、例えば、その直径が数mm程度になるように構成されることが好ましい。複合電極100がこのように細いものでれば、細胞培養液が攪拌された状態で、その培養液に浸漬させたときに、細胞がこの複合電極100に当たりにくく、細胞がストレスを受けにくくなる。細胞がストレスを受けると培養に悪影響を及ぼすが、複合電極100が細ければそのような細胞への悪影響を防いで、細胞培養を行いながらpH測定が可能となる。
【0050】
また、細胞培養は室温より高い状態、例えば、30℃から50℃程度で行われる場合が多いが、そのような温度よりも低い温度で気体層12が密閉空間8に密閉されていれば、細胞培養液にこの比較電極2を浸漬させると、所定量の気体が入れられた気体層12が温められて熱膨張し、内部液10を加圧してガラスの摺合わせ構造から形成されている液絡部14から内部液10を染み出すように流出させることができる。この加圧によって摺合わせ構造を形成しているガラス面が拡開され、そこから内部液10が流出するので、その流出量を少なくすることができ、長期間、例えば数週間から数カ月程度内部液を補充しなくても継続してpH測定を行うことができる。
【0051】
また、液絡部14がガラスの摺合わせ構造から形成されているので、構造が複雑化せず、ガンマ線などの放射線滅菌によっても材質劣化を抑えることができ、その機能を維持することができ、細胞培養に好適に用いることができる。また、このような構造であるので、細胞が目詰まりしにくく、長期間のpH測定に用いることができる。なお、摺合わせ構造は、液絡部14の先端部が拡開するように形成されているので、内部液10が加圧されたときに、摺合わせ面が拡がりやすく、内部液10の流出が可能となる。なお、摺合わせ構造は、これに限らず、液絡部14の先端部が拡開せずに平行なものでもよく、あるいは先端部が窄んだようなものでもよく、内部液10が加圧されて流出できるような構造であればよい。
【0052】
また、気体層12の熱膨張により内部液10が加圧されるので、別途、バネ等の弾力部材を用いた加圧手段や、機械的に加圧するような加圧装置を設ける必要がなく、比較電極2の構成を簡素化することができる。なお、気体層12の気体量は、熱膨張して内部液10を加圧し、内部液10が液絡部14から流出できるように、適切に調整される。また気体層12の気体の種類も同様に、種々のものが単独あるいは組み合わされて選択される。
【0053】
このような比較電極は、上記細胞培養液以外の試料液のpH測定にも用いることが可能である。例えば、試料液の液温が室温より高いものであれば、同様に上記効果を有し、試料液の粘性の高い場合でも、液絡部がガラスの摺合わせ構造を有しているので、液絡部が目詰まりしにくく、pH測定の精度を長期間維持することができる。
【0054】
また、この比較電極2とイオン選択性電極4を備えた複合電極100においても、イオン選択性電極4の支持管18が、細長い筒状のガラス製のものであるので、ガンマ線などによる放射線滅菌によって材質劣化を抑えることができ、細胞培養液のpH測定に極めて好適に用いることができる。なお、支持管18の材質はガラスに限らず、例えば、樹脂性のものでもよく、細胞培養に悪影響を及ぼさないように滅菌することができ、その滅菌によって材質劣化して機能を損なわないものであればよい。
【0055】
また、このような測定システム100を用いて細胞培養液等の試料液42のpHを測定するので、試料液42の温度が、気体層12が密閉空間8に入れられたときの温度より高い温度であれば、その気体を加温して熱膨張させることができ、これにより内部液10を加圧して液絡部14から流出させることができる。
【0056】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0057】
100・・・複合電極
2・・・比較電極
4・・・イオン選択性電極
6・・・収容体
8・・・密閉空間
10・・・内部液
12・・・気体層
14・・・液絡部
42・・・試料液
44・・・容器
46・・・加熱手段
72・・・変換装置
74・・・表示装置
200・・・測定システム
400・・・液体分析計
図1
図2
図3
図4
図5
図6