【実施例1】
【0015】
図1は、荷電粒子線装置の概要を示す図であり、CD−SEMの構成を例示するものである。
【0016】
CD−SEMのカラム1には、電子銃2が備えられ、電子銃2から放出された電子ビーム4がステージ12上に配置されたウェハ11に照射される。カラム1内部は真空引きされており、真空空間内を電子ビーム4が通過する。電子ビーム4は、偏向器5によって、一次元的、或いは二次元的に走査され、その走査に基づいて、ウェハ11より放出される電子、或いは当該電子が他部材に衝突することによって生じる2次電子13は、検出器13によって検出される。検出信号15は、偏向器7の走査信号8と同期して、制御PC21等に内蔵されたメモリ等に記憶され、波形信号や画像信号となる。
【0017】
制御PC21(制御装置)は、レシピと呼ばれるCD−SEMを動作させる動作プログラムが記憶されたメモリを備えており、CD−SEMに内蔵された光学素子やステージは、レシピに従って動作する。レシピには、測定対象に応じた、電子ビームの加速電圧条件や、その加速電圧に設定したときの対物レンズ9の集束条件(励磁電流)が書き込まれており、測定座標や試料の種類に応じた光学素子(対物レンズ等)の光学条件が自動で設定される。また、レシピにはアライナ7等を用いた光軸調整タイミングの情報も書き込まれており、必要な頻度で光軸調整(ビームアライメント)を行うことができる。なお、光軸調整は電子ビーム4が理想光軸を通過するように、ビームを偏向することによって行われる。例えば対物レンズ9を光学素子とした光軸調整を行う場合には、対物レンズの励磁条件を変化させたときに発生する画像の動き(視差)がゼロ、或いはゼロに近くなるように、アライナ7の偏向条件(調整素子による調整条件)を調整する。
【0018】
カラム1と制御PC21は、バスライン20を介して接続されており、バスライン20は、電子銃2の加速電圧を決定する制御電圧2、検出器14によって得られる検出信号15、アライナ5のアライナ信号6、偏向器7の偏向信号8、及び対物レンズ9のレンズ電流10等の信号を、制御PC21からカラム1へ、及び制御PC21からカラム1へ伝達する。
【0019】
なお、制御PC21は、ウェハ11上の測定点を、電子ビーム4の照射点に位置付けるように、ステージ12を移動する制御を行っている過程で、レンズ電流10をモニタしている。このモニタに基づいて、対物レンズ9の発熱による温度変動26を求めている。更に、制御電圧3(加速電圧)の変化に伴って、変化する温度閾値24を用いて、温度の閾値判定27を行い、装置の状況にあわせて自動調整の選択28をして、アライナ信号6やレンズ電流などで光学素子を制御して自動調整を実施する。
【0020】
温度の閾値判定27は、GUI22に表示されるレシピ編集画面25の自動調整モニタの設定に従って動作し、計測対象パターンに依存した閾値判定をおこなう。自動調整の選択28は、GUI22に表示される計測レシピ編集画面25の自動調整範囲のパラメータ設定に従って、動作する。温度閾値24のメンテナンス又はレシピ編集画面25のチューニング作業時に発熱の温度ログ23を表示する。その結果、光学条件を切替え時の安定待ちをせずに、測長値変動が生じる切り替え条件でのみ自動調整を実施することが可能となり、適切なタイミングでの自動調整により高い自動化率を、不必要な自動調整の回避で高いスループットを両立する自動計測が可能なCD−SEMを実現できた。
【0021】
具体的な動作原理について以下に述べる。対物レンズのコイルに十分な時間に渡り一定の電流を流すと、構成する材料の熱伝導と大気の熱伝導と発熱量がバランスして、温度が平衡状態になる。この時の、熱伝導の式により対物レンズの発熱による平衡状態は、
【0022】
である。Tは温度、T
Bは対物レンズが設置された環境温度、Kは有効熱低効率、Wは発熱量、Ωは対物レンズコイルの抵抗、Iは対物レンズ電流である。一方、発熱量を変えたときの平衡温度からの乖離は、
【0023】
となる。ここで、δTは対物レンズの平衡温度からの乖離、Kは有効熱抵抗率、τは緩和時間、Wは発熱量、tは時間である。この式から、対物レンズが平衡温度の状態から発熱量のモニタを開始して設定履歴を追跡すれば、T
0=K×Ω×I
2としてΔTを追跡することが可能である。ΔT
0が正確でない場合でも、緩和時間よりも十分に長い時間、発熱量をモニタすれば、ΔTの算出への影響を抑制できる。発熱量をモニタする時間間隔が緩和時間τよりも十分短い場合、平衡温度からの乖離は、
【0024】
である。Wiとtiをモニタし、1回前に計算してメモリに記憶したΔT
i−1とt
i−1からΔTiを求めるフローを繰り返せばδTを正確に求めることができる。
【0025】
図2は、具体的な対物レンズの設定による温度変動追跡のフローチャートである。時間間隔又は対物レンズの電流変化量などを判断基準として、対物レンズの温度モニタ要否判断202をおこない、モニタが必要な場合は平衡温度からの乖離の算出203でδTとΔTiを求めて装置に保持し、温度変動追跡の継続判断204をしてSTART201に戻る。次に、平衡温度からの乖離の算出203がおこなわれる場合は、δTとΔT
i+1を求めて装置に保持する。
【0026】
電子ビームの設定条件を変更後に、δTが閾値を超えて自動調整を実施した場合、次の要否判定時にδTが閾値を超える場合が多い。しかし、非平衡状態で自動調整した電子ビームの設定条件は、対物レンズの平衡状態の該設定条件とは異なり、該要否判定では自動調整が必須ではなく誤った閾値判定をしている場合が多い。その結果、電子ビームの設定条件を変更後、不適切に自動調整が連続して実施されてしまう。この問題を回避するためには、前回自動調整からの経過時間と温度変動量を自動調整の要否判定基準に変更しなければならない。
【0027】
図3は、自動計測中の閾値判定のフローチャートである。
図2の温度変動追跡を事前に開始してδTをすぐに参照できる状態で、ウェハをロードしてレシピを読み込み、電子ビームの設定した状態をSTART301とする。対物レンズの平衡温度からの乖離により、閾値判定302をする。自動調整303をして、その時のδTと実施時間を装置に保持する。測定点に移動して計測304をおこなう。
【0028】
305で計測を継続する場合はSTART301に戻り、電子ビームの設定が変更された場合は、対物レンズの平衡温度からの乖離により閾値判定302をおこない、変更されていない場合は、前回の自動調整303で記録したδTと実施時間とのそれぞれの差分に対して閾値判定302をおこなう。閾値判定302は、電子ビーム設定に対する温度閾値とレシピ設定に従う。測定点に移動して計測304するときの測定点数はレシピ設定に従う。
【0029】
一般に、平衡状態の光学素子で、電子ビームの設定条件を調整しているため、光学素子の特長量が基準値から乖離すると、電子ビームのフォーカスと非点と軸がずれる。電子ビームのフォーカスと非点と軸のずれ量は、電子ビームの加速と電流及び焦点深度に依存するため、光学素子の特長量の閾値のリストを装置に保持する必要がある。
図4は、電子ビームの加速と電流及び焦点深度に対する温度閾値のリストの例である。加速と電流と焦点深度の組み合わせは、装置の型式に依存し、装置間でも異なる場合がある。閾値は対物レンズの平衡温度からの乖離の許容値である。閾値は基準値の範囲で指定する場合もある。モニタする光学素子の特長量が複数ある場合はそれぞれに対して閾値のリストを持ち、GUIに表示できるようにすれば装置メンテナンスやレシピチューニング時に使用する。
【0030】
半導体デバイス量産工場では、1日に50個〜2000個の測長レシピを1台の装置に投入している。該測長レシピには、光学素子の特長量の閾値は、測定対象パターンにも依存する場合も含まれる。電子ビームのフォーカスと非点と軸の許容誤差が測定対象パターンに依存する場合があるためである。このとき、電子ビームの加速と電流及び焦点深度に依存する光学素子の特長量の閾値とは異なり、対象となる測長レシピ毎に該閾値判定の設定が必要となる。
【0031】
図5では、自動計測中の閾値判定の設定ができる測長レシピの編集画面の5つの例を取り上げる。
図5−aは、自動計測中の閾値判定のON/OFFボタンを測長レシピの編集画面例である。
図5−bは、測長シーケンス毎に自動調整の範囲を設定できるようにした編集画面例である。
図5−cは、強制的に自動調整を実施する場合の編集画面例である。
図5−dは、測定対象パターンにあわせて閾値判定の変更設定を測長レシピの編集画面に追加した例である。
図5−eは、電子ビームの設定履歴によって閾値判定を変更するための閾値リスト編集画面の例である。
【0032】
測長レシピの閾値判定のチューニングや光学素子の特長量の閾値のリストのメンテナンスなどが必要となる場合がある。しかし、切り替え条件の組み合わせは、装置が保持する電子ビームの設定条件の階乗分あり、実機でのチューニングやメンテナンスが困難である。そこで、閾値判定の精度確認方法とチューニング・メンテナンス方法など効率的な稼働中の装置の作業手順をマニュアルに記載した。マニュアルに沿って作業を進めるため、
図6の光学素子の特長量の平衡状態からの乖離のログ画面を表示し、マニュアルにもログ画面の説明を記載した。
図6は、光学素子の特長量の平衡状態からの乖離のログ画面の例である。時間軸601と対物レンズの平衡温度からの乖離δT軸602のログ画面に、自動調整のマーカー604をプロットした例である。時間軸605に対して、δT軸606と測長再現性3σ軸607の座標でログを表示した例である。3σ軸607に変えて、測長値や分解能やフォーカス値などの軸でも良い。
【0033】
計測対象パターンの微細化・複雑化により、電子ビームの設定をサンプル種類ごとに変更して計測する必要が生じている。特に昨今、500V〜1600Vという比較的低エネルギーの範囲の電子ビームに加え、2000V〜5000Vの電子ビームも用いるようになりつつある。しかし、電子ビームの加速エネルギーを大きく変化させると、長時間、電子ビームのフォーカスがずれ、更に非点や軸ずれが発生する。これらフォーカスずれ等は測長値変動の要因となる可能性がある。測長値変動が発生するレベルで光学条件を切り替える場合、装置が安定するまで待ち時間を設けることで測長値変動を抑制することができる。しかし、更なる高スループット化が求められる半導体デバイス等の量産工場では、装置の稼働時間の向上を求められるものと考えられる。
【0034】
一方、電子ビームのフォーカス調整、非点補正、軸調整等の自動調整機能を利用すると、待ち時間なく測長変動を抑制できる。しかし、調整のためにも相応の時間が必要となるため、適正な光学条件を満たしつつ、これらの調整を極力行わないような自動計測アルゴリズムが求められると考えられる。
【0035】
測長値は、気温と気圧などの環境やカラム内の光学素子の設定の変化によって、変動する。特に、対物レンズの光学条件の切り替え時の発熱量の変動に応じて測長値が変動する。
図7は、自動計測中に光学条件を切り替えるシーケンスの例を示す図である。対物レンズの発熱量の変動履歴をモニタする機能と、光学条件毎の変動履歴の閾値のリストと、閾値を超えた場合に自動調整を実施する機能と、閾値を超えていた場合に生じる連続発動と測長シーケンスに対する自動調整の排他処理機能をCD−SEMに搭載することによって、サンプルの切り替えによって、大きく光学条件を変化させる場合であっても、高精度測定を待ち時間なく行うことが可能となる。
【0036】
図9は、レシピに記憶された動作プログラムに基づいて、半導体ウェハの測定を実行するときの測定処理工程を示すフローチャートであり、特に対物レンズの平衡温度からの乖離算出、前回の自動調整時間からの経過時間、及び前回の自動調整時の対物レンズ温度と現在の対物レンズ温度との差分演算を、測定処理と並行して行う工程を示すものである。まず、制御PC21は、測定対象試料に応じて選択、或いは生成されたレシピを読み込み、動作プログラムとして装置に設定する(ステップ901)。次に、ウェハ11を図示しない試料室に導入し、ステージ12に載置する(ステップ902)。試料をステージに載置する前に、プリアライメント等のステージ上の適正な位置にウェハを載置するための処理を実行する。
【0037】
次に、レシピを参照して光学条件(例えば対物レンズの励磁条件)を大きく変更する必要があるか否かを判定し、必要がある場合には光学条件の設定を行うと共に、その設定時間(起算時間)を記録する(ステップ903)。この起算時間は前述したδT等を算出するために用いられる。また、光学条件を変更する必要がない場合には、測定点とビームの照射位置が一致するようにステージ移動を行う(ステップ906)。光学条件を大きく変更する必要がある場合とは、例えば電子ビームの加速エネルギーを500eVから5000eVに変更するような場合であり、加速エネルギーの大きな変化に伴って、対物レンズの集束条件を大きく変えるようなケースが相当する。
【0038】
ステップ903にて光学条件を変化させたとき、軸調整等の自動調整を実行するか否かの判定を行う(ステップ904)。まず第1の判断基準(Th1)に基づいて、自動調整の要否を判定する。具体的には、前回の自動調整時間からの経過時間ΔTpが所定値以上(Th11≦ΔTp)の場合に、自動調整を実行する。このような判定を行う理由は、前回の自動調整から相当の時間が経過した後では、光軸が大きくずれていることが考えられるためである。また、前回の自動調整時のレンズ温度taと、現在のレンズ温度tnの変化分が所定値以上(Th12≦(ta−tn))である場合に、自動調整を実行する(ステップ905)。ステップ905では、上記ΔTpを算出するための起算時間を登録する。
【0039】
レンズの温度の変化が所定値以上である場合、対物レンズ条件が平衡状態に近づくために大きく変動していることが考えられ、それに伴って光軸等の条件が変化している場合があるため、このような判断基準に基づいて、自動調整の要否を判定する。更に、上述したδTが所定値以上(Th13≦δT)である場合に、自動調整を行う判定を行う。δTが大きい状態とはレンズ条件の時間経過に対する変動が大きい状態であるため、自動調整を行うタイミングとして判定する。ステップ903では、3つのパラメータについて、それぞれ閾値判定を行っており、この3つのパラメータの少なくとも1つが上記所定の条件を満たしたときに、自動調整を実行する。δTは、対物レンズの状態を示す特徴量の1つである温度の乖離を示す指標値である。即ち、現在の温度(第1の特徴量)と、平衡状態となったときに到達する温度(第2の特徴量)との差異を示すものであり、このような指標値を求めて、閾値判定を行うことによって、対物レンズを第1の状態から第2の状態とし、すぐに第1の状態に戻したような場合に、不必要な自動調整を行うことなく、測定を継続することが可能となる。
【0040】
以上のように、自動調整時と現在の時間との乖離の程度や、対物レンズ等の光学素子の光学条件(励磁電流)と経過時間から求められるレンズの温度情報(平衡温度からの乖離の程度や、前回調整時の対物レンズの温度と現在の対物レンズの温度の差分情報等)を用いて、自動調整の要否判定を行うことによって、適正なタイミングでの調整を行うことが可能となる。
【0041】
ステップ905にて自動調整が行われた後、電子ビームの照射位置を測定対象パターンに位置付けるようにステージ移動を行う(ステップ906)。なお、
図9に例示するフローチャートでは、測定点移動の前に自動調整を行う例について説明しているが、自動調整を行う場合の画像取得を測定点で行うようにしても良い。次にステップ907にて、第2の閾値(Th2)判定を行う(ステップ907)。ここでは前回の自動調整時間からの経過時間が所定値以上(Th21≦Tp)の場合、或いは前回の自動調整時のレンズ温度と、現在のレンズ温度との乖離が所定値以上(Th22≦ta−tn)である場合、又はいずれの条件をも満たす場合に、自動調整(ステップ908)の判定を行う。
【0042】
光学条件を変更し、第1の閾値判定に基づく自動調整を行ってすぐのタイミングでは、Th21、Th22を用いた閾値判定条件を満たすことはないが、光学条件を変更することなく、しばらく測定を継続していくと、計時変化や対物レンズの平衡状態への推移に伴って発生する軸ずれ等が顕在化してくる可能性があるため、ステップ907のような自動調整の要否判断を行うことによって、適切なタイミングで自動調整を行うことが可能となる。
【0043】
以上のような工程を経ることによって、画像を取得することなく、自動調整の適切なタイミングを知ることができるようになり、適正な光学条件のもと、画像取得、及び取得画像に基づく測定を実行することが可能となる(ステップ909、910)。或る測定点の測定を実行した後、未計測の測定点がある場合には、再度、自動調整の要否を判定した上で、測定を継続する。試料室に導入したウェハの全ての測定点の測定が終了したら、ウェハを試料室外に搬出し、当該ウェハの測定を終了する(ステップ911)。
【0044】
本実施例では、SEMの画像取得とは別に、対物レンズ等の光学素子の温度状態を継続的にモニタしているため、光学条件がずれた状態で取得した画像を用いた誤った判定等を行うことなく、適切なタイミングでの自動調整を行うことができる。