(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着樹脂が、前記熱可塑性樹脂(A)及び前記熱可塑性樹脂(B)のいずれか一方又は両方と反応して結合する反応性官能基を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
型締め時の金型温度が、前記熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)の軟化温度の低い方の温度よりも5℃以上低い、請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の成形体の製造方法は、金型内に、熱可塑性樹脂(A)を含有するインサート材を配置した状態で、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)を供給して成形することで、賦形されたインサート材と熱可塑性樹脂(B)による射出成形部分とが一体となった成形体を製造する方法である。
【0011】
[第1実施形態]
以下、本発明の成形体の製造方法の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の成形体の製造方法は、金型を閉じるタイミングによって下記の方法(i)及び方法(ii)に分類される。
(i)金型内に熱可塑性樹脂(B)を供給した後に金型を閉じる方法。
(ii)金型内に熱可塑性樹脂(B)を供給しながら金型を閉じる方法。
以下、方法(
i)及び方法(
ii)についてそれぞれ説明する。
【0012】
(方法(i))
方法(i)では、金型内で、熱可塑性樹脂(A)を含有するインサート材上に接着樹脂が配置された材料(X)上に、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)を供給した後に金型を閉じ、前記インサート材を賦形しつつ成形する。そして、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)が固化した後に金型を開き、成形体を取り出す。本発明においては、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)の供給は、材料(X)が熱可塑性樹脂(A)の軟化温度以上に加熱された状態で行う。
なお、材料(X)が熱可塑性樹脂(A)の軟化温度以上に加熱されるとは、インサート材と接着樹脂がともに熱可塑性樹脂(A)の軟化温度以上に加熱されることを意味する。
【0013】
具体例として、
図1に例示した金型100を用いる場合について説明する。金型100は、上面側に凹部110が形成された下型112と、下方に突き出る凸部114が設けられた上型116とを備える。上型116には、凸部114の下面から樹脂を射出するための樹脂流路118が形成されている。
まず、
図1に示すように、下型112における凹部110内に、熱可塑性樹脂(A)を含有するインサート材10を配置し、インサート材10上に接着樹脂12を配置して材料(X)14を形成する。そして、
図2に示すように、材料(X)14が熱可塑性樹脂(A)の軟化温度以上に加熱された状態で、材料(X)14上に溶融状態の熱可塑性樹脂(B)16を射出して供給する。その後、
図3に示すように、金型100を閉じ、インサート材10を賦形しつつ成形する。熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)が固化した後に金型100を開き、成形体を取り出す。
【0014】
方法(i)では、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)を供給する際に材料(X)が加熱されていることで接着樹脂の接着力が充分に発揮され、得られる成形体のインサート材部分と射出成形部分の境界面の接着強度が高くなる。また、接着樹脂が加熱されて接着力が速やかに発現されるため、短時間で成形体を成形でき生産性が高い。接着樹脂が後述する反応性官能基を有する場合、該接着樹脂が加熱されることで反応性官能基の反応がより活性になるため、得られる成形体のインサート材部分と射出成形部分の境界面の接着強度が特に高くなる。
【0015】
本実施形態では、材料(X)を軟化温度以上に加熱してから金型内に配置してもよく、金型内に配置した後に材料(X)を軟化温度以上に加熱してもよい。
材料(X)を加熱する方法は、特に限定されず、例えば、赤外線ヒータ等が挙げられる。
【0016】
熱可塑性樹脂(B)が供給される際の材料(X)の温度をT(℃)、熱可塑性樹脂(A)の軟化温度をT
A(℃)としたとき、温度Tと軟化温度T
Aとの関係は、T
A≦Tであり、T
A+10(℃)≦T≦T
A+150(℃)が好ましく、T
A+30(℃)≦T≦T
A+100(℃)がより好ましい。温度Tが下限値以上であれば、インサート材部分と射出成形部分の境界面の接着強度が高い成形体が得られ、また成形時間が短くなる。温度Tが高すぎると、型締め後において材料(X)中の熱可塑性樹脂(A)が固化するまでの時間が長くなって生産性が低下したり、材料(X)中の熱可塑性樹脂(A)が熱分解を起こすといった問題が発生するおそれがある。しかし、温度Tが上限値以下であれば、型締め後の材料(X)中の熱可塑性樹脂(A)が固化するまでの時間は問題なく、また材料(X)中の熱可塑性樹脂(A)の熱分解も抑制しやすい。
なお、熱可塑性樹脂の軟化温度は、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は熱可塑性樹脂の溶融温度(融点)、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合は熱可塑性樹脂のガラス転移温度であり、これらはJIS K7121に準拠した示差走査熱量測定(DSC)法により測定される値を意味する。
【0017】
型締め時の金型温度は、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)の軟化温度の低い方の温度よりも5℃以上低いことが好ましく、15℃以上低いことがより好ましい。これにより、成形体中の熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)が十分に冷却固化されるため、金型から脱型が容易になる。
【0018】
方法(i)においては、接着樹脂をインサート材上の一部に配置し、当該接着樹脂をインサート材上で流動させて広げつつ成形することが好ましい。例えば、
図2に示すように、インサート材10の上面全体に充分広げられる量の接着樹脂12をインサート材10上の中央に部分的に配置した状態で熱可塑性樹脂(B)16を供給し、金型100を閉めたときに接着樹脂12がインサート材10上で流動して広がりつつ成形されるようにすることが好ましい。成形時にインサート材上で流動することで、接着樹脂で形成される層の表面が波打つため、成形体におけるインサート材部分と射出成形部分との境界面が凸凹になる。その結果、アンカー効果によって境界面の接着強度がより高くなる。
なお、方法(i)においては、接着樹脂をインサート材の上面全体に塗布してもよい。
【0019】
<インサート材>
インサート材は、熱可塑性樹脂(A)を含有する材料である。
インサート材としては、強化繊維及び熱可塑性樹脂(A)を含有する繊維強化複合材料が好ましい。繊維強化複合材料としては、強化繊維に熱可塑性樹脂(A)が含浸されたプリプレグ、該プリプレグが複数枚積層されたプリプレグ積層体等が挙げられる。
【0020】
強化繊維としては、特に限定されず、例えば、無機繊維、有機繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維が使用できる。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。これらの中では、成形体の強度等の機械物性を考慮すると、炭素繊維が好ましい。
【0021】
強化繊維は、連続繊維であってもよく、不連続繊維であってもよい。連続繊維は機械特性に優れ、一方不連続繊維は賦型性に優れるため、必要に応じて使い分けすることが可能である。強化繊維基材の形態としては、多数の連続繊維を一方向に揃えてUDシート(一方向シート)とする形態、連続繊維を製織してクロス材(織物)とする形態、不連続繊維からなる不織布とする形態、不連続繊維を二軸押出機にて樹脂中に混練分散した形態等が挙げられる。クロス材の織り方としては、例えば、平織、綾織、朱子織、三軸織等が挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂(A)としては、特に限定されず、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロンMXD6等)、ポリオレフィン樹脂(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン樹脂(変性ポリプロピレン樹脂等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、アクリロニトリルとスチレンの共重合体、ナイロン6とナイロン66の共重合体等が挙げられる。
変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、マレイン酸等の酸によりポリオレフィン樹脂を変性した樹脂等が挙げられる。
接着樹脂との接着性の観点から、ポリアミド樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂(A)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
なお、インサート材は、繊維強化複合材料には限定されず、強化繊維を含有しないものであってもよい。
インサート材には、目的の成形体の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等の添加剤を配合してもよい。
【0024】
<熱可塑性樹脂(B)>
熱可塑性樹脂(B)としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(A)で挙げたものと同じものが挙げられる。熱可塑性樹脂(B)としては、得られる成形体におけるインサート材部分と射出成形部分との境界面の接着強度がより高くなる点から、熱可塑性樹脂(A)と同じ種類の樹脂であることが好ましい。
熱可塑性樹脂(B)は、目的の成形体の要求特性に応じて、強化繊維、難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等の添加剤を含有していてもよい。
熱可塑性樹脂(B)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<接着樹脂>
接着樹脂は、インサート材及び熱可塑性樹脂(B)に対して接着力を有する樹脂であり、加熱されることでより高い接着力が発揮される公知の樹脂を採用できる。
該樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂、ABS樹脂)、ゴム質重合体、ポリアルキレンオキサイド樹脂等が挙げられる。
【0026】
接着樹脂としては、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)のいずれか一方又は両方と反応して結合する反応性官能基を有する接着樹脂が好ましい。前記反応性官能基を有する接着樹脂としては、例えば、前記反応性官能基を分子鎖中に有する樹脂、すなわちベースとなる樹脂に前記反応性官能基を導入した樹脂が挙げられる。
【0027】
前記反応性官能基としては、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)のいずれか一方又は両方に存在する官能基と反応するものであればよく、例えば、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩、水酸基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、スルホン酸基等が挙げられる。なかでも、反応性が高い点から、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩、エポキシ基、酸無水物基及びオキサゾリン基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
接着樹脂が有する反応性官能基は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
接着樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(方法(ii))
方法(ii)では、金型内で、熱可塑性樹脂(A)を含有するインサート材上に接着樹脂が配置された材料(X)上に、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)を供給しながら金型を閉じ、前記インサート材を賦形しつつ成形する。方法(ii)は、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)を供給した後に金型を閉じる代わりに、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)を供給しながら金型を閉じる以外は、方法(i)と同じである。
【0029】
方法(ii)においても、接着樹脂をインサート材上の一部に配置し、当該接着樹脂をインサート材上で流動させて広げつつ成形することが好ましい。これにより、方法(i)の場合と同様に、得られる成形体における境界面の接着強度がアンカー効果によってより高くなる。
なお、方法(ii)においては、接着樹脂をインサート材の上面全体に塗布してもよい。
【0030】
[第2実施形態]
以下、本発明の成形体の製造方法の第2実施形態について説明する。
本実施形態では、金型内に、熱可塑性樹脂(A)を含有するインサート材上に接着樹脂が配置された材料(X)が熱可塑性樹脂(A)の軟化温度以上に加熱された状態で、金型を閉じて前記インサート材を賦形する。その後、金型内における前記軟化温度以上の材料(X)上に、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)を供給して成形する。そして、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)が固化した後に金型を開き、形成された成形体を取り出す。
【0031】
具体例として、
図4に例示した金型200を用いる場合について説明する。金型200は、上方に突き出る凸部210が設けられた下型212と、下面側に凹部214が形成された上型216と、を備える。上型216には、凹部214の上面から樹脂を射出するための樹脂流路218が形成されている。
まず、
図4に示すように、下型212における凸部210上に、熱可塑性樹脂(A)を含有するインサート材10を配置し、インサート材10上に接着樹脂12を配置して材料(X)14を形成する。そして、
図5に示すように、材料(X)14が熱可塑性樹脂(A)の軟化温度以上に加熱された状態で、金型200を閉じてインサート材10を賦形する。その後、軟化温度以上の材料(X)14上に、溶融状態の熱可塑性樹脂(B)16を射出して成形する。熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)が固化した後に金型200を開き、形成された成形体を取り出す。
【0032】
第2実施形態においては、材料(X)が熱可塑性樹脂(A)の軟化温度以上に加熱された状態で金型内に溶融状態の熱可塑性樹脂(B)を供給して成形する。これにより、第1実施形態の場合と同様に接着樹脂の接着力が充分に発揮されるため、得られる成形体のインサート材部分と射出成形部分の境界面の接着強度が高くなる。また、接着樹脂の接着力が速やかに発現されるため生産性が高くなる。
【0033】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、材料(X)を軟化温度以上に加熱してから金型内に配置してもよく、金型内に配置した後に材料(X)を軟化温度以上に加熱してもよい。
【0034】
第2実施形態における熱可塑性樹脂(B)が供給される際の材料(X)の温度T(℃)と、熱可塑性樹脂(A)の軟化温度T
A(℃)との関係は、第1実施形態と同様の理由から、T
A≦Tであり、T
A+10(℃)≦T≦T
A+150(℃)が好ましく、T
A+30(℃)≦T≦T
A+100(℃)がより好ましい。
型締め時の金型温度は、熱可塑性樹脂(A)の軟化温度よりも5℃以上低いことが好ましく、15℃以上低いことがより好ましい。
【0035】
第2実施形態においても、接着樹脂をインサート材上の一部に配置し、当該接着樹脂をインサート材上で流動させて広げつつ成形することが好ましい。例えば、
図6に示すように、インサート材10上面全体に充分広げられる量の接着樹脂12をインサート材10上の中央に部分的に配置した状態で熱可塑性樹脂(B)16をその中央部分に射出することで、接着樹脂12がインサート材10上で流動して広がりつつ成形されるようにすることが好ましい。これにより、接着樹脂で形成される層の表面が波打つため、得られる成形体におけるインサート材部分と射出成形部分との境界面が凸凹になる。その結果、アンカー効果によって境界面の接着強度がより高くなる。
なお、第2実施形態においては、接着樹脂をインサート材の上面全体に塗布してもよい。
【0036】
以上説明した本発明の成形体の製造方法においては、熱可塑性樹脂(B)の射出成形時に接着樹脂が熱可塑性樹脂(A)の軟化温度以上に加熱されていることで、接着樹脂による高い接着力が得られるため、インサート材部分と射出成形部分との境界面の接着強度が高い成形体が得られる。
特にインサート材に炭素繊維等の剛性の高い強化繊維が含有されている場合には、成形体が曲げられたときにインサート材部分と射出成形部分との境界面に大きなせん断応力が加わって剥離しやすい。しかし、本発明の成形体の製造方法によれば、インサート材に炭素繊維等の強化繊維が含有されている場合でも、インサート材部分と射出成形部分との境界面の接着強度が充分に高い成形体が得られる。
【0037】
また、本発明の成形体の製造方法では、接着樹脂が加熱されることでその接着力が速やかに発現されるため、短時間での成形が可能で生産性が高い。
また、本発明の成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂(B)の射出成形を行う前に別途インサート材を賦形しておく必要がないため、低コストである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[製造例1:インサート材の製造]
炭素繊維(商品名「パイロフィル炭素繊維トウTR 50S」、三菱レイヨン社製)を一方向に、かつ平面状に引き揃えて目付が78g/m
2である繊維シートとする。熱可塑性樹脂(A)として酸変性ポリプロピレン樹脂(商品名「モディックP958V」、三菱化学社製、軟化温度:165℃)を用いた目付が36g/m
2のフィルムによって、該繊維シートを両面から挟む。これらをカレンダロールに複数回通して加熱と加圧を行い、樹脂を繊維シートに含浸させ、繊維体積含有率(Vf)が35体積%、厚み120μmのプリプレグを作製する。
次いで、得られたプリプレグ8枚を、炭素繊維の繊維軸方向が平面視で0゜/90゜/0゜/90゜/90゜/0゜/90゜/0゜となるように積層し、熱溶着により一体化して、平面視形状が40mm×200mmの矩形のプリプレグ積層体からなるインサート材を得る。
【0039】
[実施例1]
図1に例示した金型100を用いる。
図1に示すように、下型112における凹部110内に、製造例1で得たインサート材を配置する。該インサート材上の中央部分に、接着樹脂としてシアノアクリレート基を有する商品名「シアノン722」(高圧ガス工業社製)を0.3g配置して材料(X)を形成する。次いで、
図2に示すように、赤外線ヒータによって前記材料(X)を210℃に加熱した状態で、上型116の樹脂流路118から接着樹脂上に、熱可塑性樹脂(B)として炭素繊維含有ポリプロピレン樹脂である商品名「パイロフィルペレットPP−C−30A」(三菱レイヨン社製、軟化温度:165℃、炭素繊維含有量:30質量%)を溶融状態で射出して供給する。次いで、
図3に示すように、上型116を下型112に向かって移動させて金型100を閉じ、インサート材を賦形しつつ成形する。型締め時の金型100の温度は80℃とする。熱可塑性樹脂(B)の射出から1分後に金型100を開き、成形体を取り出す。成形体における材料(X)由来のインサート材部分と熱可塑性樹脂(B)由来の射出成形部分の界面強度は良好である。
【0040】
[実施例2]
図4に例示した金型200を用いる。
図4に示すように、下型212における凸部210上に、製造例1で得たインサート材を配置する。該インサート材上の中央部分に、接着樹脂としてシアノアクリレート基を有する商品名「シアノン722」(高圧ガス工業社製)を0.3g配置して材料(X)を形成する。次いで、
図5に示すように、赤外線ヒータによって前記材料(X)を210℃に加熱した状態で、金型200を閉じてインサート材を賦形する。次いで、
図6に示すように、210℃に加熱された状態の材料(X)上に、熱可塑性樹脂(B)として炭素繊維含有ポリプロピレン樹脂である商品名「パイロフィルペレットPP−C−30A」(三菱レイヨン社製、軟化温度:165℃、炭素繊維含有量:30質量%)を溶融状態で射出して成形する。型締め時の金型100の温度は80℃とする。熱可塑性樹脂(B)の射出から1分後に金型200を開き、形成された成形体を取り出す。成形体における材料(X)由来のインサート材部分と熱可塑性樹脂(B)由来の射出成形部分の界面強度は良好である。
【0041】
[比較例1]
実施例2において、インサート材を賦形した後に、25℃の状態の材料(X)上に熱可塑性樹脂(B)を溶融状態で射出して成形する以外は、実施例2と同様にして成形体を製造する。成形体における材料(X)由来のインサート材部分と熱可塑性樹脂(B)由来の射出成形部分の界面は一見接着しているが、その接着強度は実施例2と比較すると大きく劣る。
【0042】
[接着強度の評価]
各例における成形体のインサート材部分と射出成形部分の境界面での接着強度は、以下のようにして評価する。
成形体から12.7mm幅×120mm長に試験片を切り出し、JIS K7074に準拠した曲げ試験を実施し、その試験から得られるひずみ−応力曲線の最初の応力降伏点が基材破壊であるものを「〇」、界面剥離であるものを「×」とする。
評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、本発明の製造方法で製造した実施例1、2の成形体は、インサート材部分と射出成形部分の境界面での接着強度が、比較例1の成形体に比べて高い。また、実施例1、2では、成形時間を比較例1に比べて短くでき、生産性が高い。