特許第6596875号(P6596875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6596875窒化ガリウムを含む積層体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596875
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】窒化ガリウムを含む積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-69913(P2015-69913)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188165(P2016-188165A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】召田 雅実
(72)【発明者】
【氏名】倉持 豪人
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−111883(JP,A)
【文献】 特開2010−219490(JP,A)
【文献】 特開2007−243006(JP,A)
【文献】 特開2012−144424(JP,A)
【文献】 特開2002−003297(JP,A)
【文献】 J. H. Song,Nonpolar α-plane GaN film on Si(100) produced using a specially designed lattice-matched buffer: A fresh approach to eliminate the polarization effect,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,米国,American Institute of Physics,2005年 1月28日,97,043531-1〜043531-3
【文献】 Nam T. Nguyen,Epitaxial growth of nonpolar ZnO and n-ZnO/i-ZnO/p-GaN heterostructure on Si(001) for ultraviolet light emitting diodes,Applied Physics Express,The Japan Society of Applied Physics,2014年 6月 5日,7,062102-1〜062102-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 14/00−14/58
H01L 21/203
C23C 16/00−16/56
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶層、金属硫化物層及び窒化ガリウム層を含んでなる積層体であって、シリコン単結晶層と窒化ガリウム層の間に金属硫化物層が存在し、表面粗さRaが10nm以下であり、窒化ガリウム六方晶(11−20)面の半値幅が1°以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
シリコン単結晶層上に金属硫化物層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
窒化ガリウム層の主な結晶方位が窒化ガリウム六方晶(11−20)面であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
窒化ガリウム層のシリコン単結晶層に近い界面から0〜50nmの範囲における最小含有酸素量が5×1021atm/cm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
金属硫化物層が硫化マンガンを主成分とすることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
シリコン単結晶層がSi(100)基板であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高平坦でかつ、高結晶性の窒化ガリウムを備えた薄膜素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNに代表される窒化物は多様な物性を示すが、中でも単結晶薄膜は多結晶薄膜では得られない高性能な特性を示す。例えばGaN薄膜を用いた高輝度青色系発光素子やAlN/GaN薄膜を用いたMISFETやAlGaN/GaN薄膜を用いたHEMTなど、窒化物薄膜を用いた素子は数多く提案されている。
【0003】
単結晶薄膜は、単結晶基板を用いて、エピタキシャル成長させるのが一般的である。GaN系の場合、サファイア単結晶基板上にMOCVD法(有機金属気相成長法)やガスソースMBE法(分子線エピタキシャル法)の手段で形成する報告や、SiC基板の上に減圧式有機金属気相成長法により形成する報告などがある(非特許文献1参照)。しかしながら、これらサファイア基板、SiC基板等は高価であるため、より汎用的なSi基板上に形成することが望まれている。
【0004】
Si単結晶基板上に薄膜を形成する方法として、バッファ層を介する方法があり、バッファ層に金属硫化物薄膜を用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。Siの硫化物をつくる生成ギブズエネルギは比較的小さく、Siと格子定数が近い場合、バッファ層/Si界面にアモルファス層を形成せずに硫化物をエピタキシャル成長させることが可能となる。
【0005】
また、金属硫化物層の上に窒化アルミニウム層を積層することで高品質な窒化ガリウム薄膜を形成する方法が提案されているが(特許文献2参照)、窒化アルミニウムと窒化ガリウムとの格子歪a軸方向で約2.4%、c軸で約4%あり、より結晶性を高めるためには歪みに対する更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−3297号公報
【特許文献2】特開2004−11183号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】吉田清輝著, 「GaNを用いた電子デバイス」, 「応用物理」,応用物理学会,第68巻,第7号, p.787(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高平坦かつ高結晶性の非極性GaN薄膜を有する薄膜素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では鋭意検討した結果、シリコン単結晶層、金属硫化物層及び窒化ガリウム層を含んでなる積層体であって、シリコン単結晶層と窒化ガリウム層の間に金属硫化物層が存在することで、平坦かつ高結晶性の非極性GaN薄膜を有する薄膜素子が製造可能であることを見出した。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
(1)シリコン単結晶層、金属硫化物層及び窒化ガリウム層を含んでなる積層体であって、シリコン単結晶層と窒化ガリウム層の間に金属硫化物層が存在することを特徴とする積層体。
(2)シリコン単結晶層上に金属硫化物層が積層されていることを特徴とする(1)に記載の積層体。
(3)表面粗さRaが10nm以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の積層体。
(4)窒化ガリウム層の主な結晶方位が窒化ガリウム六方晶(11−20)面であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の積層体。
(5)窒化ガリウム六方晶(11−20)面の半値幅が1°以下であることを特徴とする(4)に記載の積層体。
(6)窒化ガリウム層のシリコン単結晶層に近い界面から0〜50nmの範囲における最小含有酸素量が5×1021atm/cm以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の積層体。
(7)金属硫化物層が硫化マンガンを主成分とすることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の積層体。
(8)シリコン単結晶層がSi(100)基板であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の積層体。
(9)窒化ガリウム層の一部又は全部をスパッタ法で製膜することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の積層体の製造方法。
(10)酸素含有量が10atm%以下である窒化ガリウムスパッタリングターゲットを用いることを特徴とする(9)に記載の積層体の製造方法。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、シリコン単結晶層、金属硫化物層及び窒化ガリウム層を含んでなる積層体であって、シリコン単結晶層と窒化ガリウム層の間に金属硫化物層が存在することを特徴とする。中でも、シリコン単結晶層上に金属硫化物層が積層されていることが好ましい。
【0013】
シリコン単結晶層としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、Si(100)基板を用いることが特に好ましい。シリコン単結晶基板は従来のサファイア基板やGaN単結晶基板と比較し、低コストにて素子を作製することが可能であり、基板サイズについても様々な大きさに対応可能となる。
【0014】
金属硫化物層は、シリコンとの反応性が低いため、非晶質を形成せず、界面反応による非晶質層形成を抑制する。また、金属硫化物層は基板−薄膜間の格子ひずみを軽減するため、転位密度を抑制することが可能となる。格子ひずみは10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。金属硫化物は格子歪の点で問題なければ特にその金属を限定しないが、硫化亜鉛や硫化マンガン(MnS)、硫化マグネシウム、硫化カルシウムを用いることが好ましく、硫化マンガンを用いることがさらに好ましい。
【0015】
窒化ガリウム層は、製膜面を非極性面とすることで、例えば発光素子に利用する場合、シュタルク効果を発生させないため、高効率に光を取り出すことが可能となる。窒化ガリウム層は、六方晶において(0002)面に代表されるc面に対して垂直ならば効果が得られるが、図1に示すように均一に製膜させる点から(11−20)面であることが好ましい。
【0016】
また、窒化ガリウム層の表面粗さRaは10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。表面粗さRaが10nmより大きい場合、発光素子やトランジスタ素子を形成する際に歩留まりの低下が懸念される。
【0017】
また、素子性能を高めるためには結晶性が高く、結晶の欠陥が少ないことが好ましい。より具体的にはXRD測定における半値幅において、1°以下であることが好ましく、0.7°以下であることがより好ましい。
【0018】
さらに、窒化ガリウム層の結晶成長において、不純物の含有量はより大きな影響を持ち、特に結晶成長初期において大きな影響を与えるため、シリコン単結晶層に近い界面から0〜50nmの領域における最小酸素含有量が5×1021atm/cm以下であることが好ましく、1×1021atm/cm以下であることがより好ましい。膜の酸素量に関してはSIMS(二次イオン質量分析法)を用いて酸素に関するプロファイルを測定し、硫化物層とGaN層の界面から50nmの間の測定値の最小値から算出した。酸素含有量が大きい場合、酸素が導入されるために結晶格子のひずみが大きくなるため、結晶性が低下する懸念がある。膜厚が50nmに満たない場合はシリコン単結晶層に近い界面から表層の領域における最小酸素含有量を測定するものとする。
【0019】
本発明の製造方法について説明する。
【0020】
図2は本発明の一例であるGaN/金属硫化物/Si(100)の構成を示した図である。
【0021】
まず、Si単結晶基板1上にバッファ層である金属硫化物層2を製膜する。
膜厚は特に限定しないが、結晶を安定成長させるためには、20nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。
【0022】
次に、金属硫化物層2の上にGaN層3を製膜する。金属硫化物は高温で分解しやすいため、1000℃以上が必要となるMOCVD法を利用することが困難であり、PVD法を用いることが好ましく、スパッタ法を用いることがより好ましい。スパッタ法を用いる場合、利用するスパッタリングターゲットは窒化ガリウムを主成分としたものが好ましく、含有酸素量は10atm%以下のものが好ましく、5atm%以下のものがより好ましく、1atm%以下のものが更に好ましい。含有酸素量の少ないスパッタリングターゲットを使用することで、薄膜中の酸素量を軽減することが可能となる。金属硫化物層を被覆する必要があるため、膜厚は10nm以上とすることが好ましく、50nm以上がより好ましい。GaN層3を製膜した後、図3のように更にGaN層4をMOCVD法を用いて製膜しても構わない。GaN層3を形成することで結晶性が向上するため、例えばGaN層3の上にAlN層を製膜した上にGaNをMOCVD法を用いて製膜しても構わない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各種評価の測定方法は以下に示すとおりである。
【0024】
(結晶方位、半値幅の測定方法)
XRD装置を用いて2θ/ωにて走査し、ピーク位置から窒化ガリウム、金属硫化物の結晶方位を同定し、主な結晶方位を確認した。そのうち、窒化ガリウム(11−20)面に相当するピークに対し、2θ/ωでの半値幅を測定した。
(回転対称性の確認方法)
XRD装置を用いて窒化ガリウム薄膜に対するphiスキャンを実施し、回転対称性を確認した。
(ロッキングカーブ半値幅の測定方法)
XRD装置を用いて同定された窒化ガリウム(11−20)面に対するωスキャンを実施し、ロッキングカーブ半値幅を測定した。
(窒化ガリウム薄膜中の酸素含有量の測定方法)
SIMS(二次イオン質量分析計 装置名:PHI ADEPT1010)を利用し、窒化ガリウム薄膜について、シリコン単結晶層に近い界面から50nmの間の酸素量を測定し、その最小値を酸素含有量とした。界面から50nmの位置の特定はSIMS測定による組成変化から各層の物質を把握することで確認した。
(表面粗さの測定方法)
AFM装置を用いて10μm角の範囲にて表面状態を測定し、その中で10μmの長さの測定における表面粗さRaを測定した。
(GaNスパッタリングターゲット中の酸素量測定方法)
対象物を熱分解させ、酸素・窒素・水素分析装置(Leco社製)を用いて酸素量を熱伝導度法により測定した。
【0025】
(実施例1)
2インチφのSi(100)単結晶基板上にMnSが50nm製膜された基板を利用した。MnSは(100)面に配向していることを確認した。
【0026】
さらに、MnS/Si薄膜上に下記の条件にてGaN薄膜を形成し、積層体とした。
(スパッタ条件)
放電方式 :RFスパッタ
製膜装置 :マグネトロンスパッタ装置
ターゲットサイズ :2インチφ
製膜圧力 :1Pa
導入ガス :アルゴン+10vol%窒素
放電パワー :100W
基板温度 :700℃
膜厚 :10nm
ターゲット中の酸素含有量:3.2atm%
各種評価の結果は以下に示す通りである。
回転対称性 :4回
GaN配向面 :(11−20)面
2θ/ω半値幅 :0.7 °
ロッキングカーブ半値幅 :3.4°
酸素含有量 :3×1021atm/cm
表面粗さ :4.1nm。
【0027】
(実施例2)
実施例1で得られた積層体のGaN層の上に、さらにGaN層を基板温度1100℃にてMOCVD法で約1000nm形成した。各種評価の結果は以下に示す通りである。
回転対称性 :4回
GaN配向面 :(11−20)面
半値幅 :0.18°
ロッキングカーブ半値幅 :1.9°
酸素含有量 :1×1021atm/cm
【0028】
(比較例)
MnSのバッファ層を形成せずに直接Si(100)基板上にGaN薄膜を形成した場合緻密な膜を形成することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】GaN/金属硫化物/Si(100)薄膜の結晶成長方位関係の模式図である。
図2】本発明に係るGaN/金属硫化物/Si(100)の構成を示す断面図である。
図3】本発明に係るGaN/GaN/金属硫化物/Si(100)の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 Si単結晶基板
2 金属硫化物層
3 GaN層(PVD法製膜層)
4 GaN層(MOCVD法製膜層)
図1
図2
図3