(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリオレフィン(A)が、カルボン酸基、ジカルボン酸無水物基及びジカルボン酸無水物モノエステル基からなる群より選ばれる1種以上の反応性基(D)を、ポリオレフィン(A):反応性基(D)=100:0.1〜100:5(重量比)の割合で有する、請求項1又は2に記載の水性樹脂分散体。
ポリオレフィン(A)が、重量平均分子量[Mw]10,000〜300,000で、プロピレン含量が50モル%以上のプロピレン−α−オレフィン共重合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性樹脂分散体。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」との総称である。
【0029】
また、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0030】
〔水性樹脂分散体〕
本発明の水性樹脂分散体は、ポリオレフィン(A)とポリエーテル樹脂(B)とが結合してなる重合体(C)を水に分散させてなる水性樹脂分散体であって、ポリエーテル樹脂(B)が、グリフィン法で計算されるHLBが8未満のポリエーテル樹脂(B1)と、HLBが8〜20のポリエーテル樹脂(B2)とを含有することを特徴とする。
【0031】
[ポリオレフィン(A)]
ポリオレフィン(A)としては、反応性基を有しないポリオレフィン(A1)、又は反応性基を有するポリオレフィン(A2)を用いることができる。
【0032】
本発明においては、反応性基を有しないポリオレフィン(A1)も反応性基を有するポリオレフィン(A2)も、ポリエーテル樹脂(B)との組合せ又は目的とする重合体(C)の特性等に応じて適宜用いうるが、好ましくは反応性基を有するポリオレフィン(A2)である。ポリオレフィン(A2)は、ポリエーテル樹脂(B)の結合量の制御がしやすく、また結合に用いうる反応が多様であるなどの利点がある。
【0033】
<反応性基を有しないポリオレフィン(A1)>
反応性基を有しないポリオレフィン(A1)としては、公知の各種ポリオレフィン及び変性ポリオレフィンを用いることができ、特に限定されないが、例えば、エチレン又はプロピレンの単独重合体、エチレン及びプロピレンの共重合体、エチレン及び/又はプロピレンとその他のコモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0034】
エチレン及び/又はプロピレンとその他のコモノマーとの共重合体としては、具体的には、例えば、エチレン及び/又はプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、シクロペンテン、シクロヘキセン及びノルボルネンなどの炭素数2以上のα−オレフィンコモノマーとの共重合体並びにこれらコモノマーの2種類以上の共重合体が挙げられる。
【0035】
α−オレフィンコモノマーとして好ましくは炭素数2〜6のα−オレフィンコモノマーである。またα−オレフィンコモノマーと酢酸ビニル、アクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体、α−オレフィンコモノマーと芳香族ビニルモノマーなどのコモノマーとの共重合体若しくはその水素添加体又は共役ジエンブロック共重合体若しくはその水素添加体なども用いることができる。
【0036】
更に、これらポリオレフィンを塩素化した塩素化ポリオレフィンも使用しうる。塩素化ポリオレフィンの塩素化度は通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、また塩素化度は通常50重量%以下であり、好ましくは30重量%以下である。
【0037】
なお、本発明において、単に共重合体という場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0038】
また、ポリオレフィン(A1)は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0039】
ポリオレフィン(A1)として、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−ヘキセン共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン−プロピレン共重合体、塩素化プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水素添加体(SEBS)及びスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水素添加体(SEPS)などが挙げられる。
【0040】
好ましくはプロピレン単独重合体又はプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体であり、これらは塩素化されていてもよい。より好ましくは、実質的に塩素を含まないプロピレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体である。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
ポリオレフィン(A1)は、メタロセン触媒の存在下の重合反応により製造されることが好ましい。
【0042】
また、ポリオレフィン(A1)の融点は、125℃以下であることが好ましく、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。ポリオレフィン(A1)の融点が低い方が、低い温度で乾燥をしても高い密着性を得ることができる傾向がある。
【0043】
またポリオレフィン(A1)は、プロピレン成分を50モル%〜100モル%含有するポリプロピレン系重合体であることが好ましい。ポリオレフィン(A1)のプロピレン含有量は、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0044】
通常、プロピレンの含有量が高いほどポリプロピレン基材への密着性が増す傾向がある。なお、プロピレン含有量は、ポリオレフィン(A1)を構成する全モノマー由来の構成単位に対するプロピレン由来の構成単位の割合である。
【0045】
ポリオレフィン(A1)がプロピレン単独重合体又はポリプロピレン系共重合体である場合、その立体規則性としては、全体または部分的にアイソタクチック構造を有するものが好ましい。例えば、通常のアイソタクチックポリプロピレンはもちろんのこと、特開2003−231714号公報又は米国特許第4,522,982号公報に記載されているような、アイソタクチックブロックポリプロピレン又はステレオブロックポリプロピレン等も使用することができる。
【0046】
ポリオレフィン(A1)のポリプロピレンの好ましい形態の一つとして、アイソタクチックブロックとアタクチックブロックとを有するステレオブロックポリプロピレンの単独重合体又は共重合体がある。好ましくは、アイソタクチック立体規則性を示す[mmmm]ペンタッドが20%〜90%の範囲である。ペンタッド比率の下限値の値は好ましくは30%であり、より好ましくは35%であり、一方、上限値の値は好ましくは80%であり、より好ましくは70%であり、さらに好ましくは60%である。
【0047】
ペンタッド比率が上記下限値より高いほどべたつき度合いが小さくなる傾向があり、また上記上限値より低いほど結晶化度が低くなり樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。ペンタッド比率の測定方法は特開2003−231714号公報に記載の方法を用いることができる。
【0048】
このほか、一般的に入手可能なポリプロピレン系重合体としては、例えば、日本ポリプロ社製「ウィンテック」、「ウェルネクス」、三井化学社製「タフマーXM」及びクラリアント社製「リコセンPP」などが挙げられる。これらはいずれもメタロセン触媒によって重合されたポリプロピレン系共重合体である。
【0049】
本発明におけるポリオレフィン(A1)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定し各々のポリオレフィンの検量線で換算した重量平均分子量[Mw]が5,000〜500,000であることが好ましい。
【0050】
Mwの下限値の値はより好ましくは10,000、さらに好ましくは30,000である。Mwの上限値の値はより好ましくは400,000、さらに好ましくは300,000である。Mwが上記下限値より高いほどべたつき度合いが小さくなり基材への密着性が増す傾向があり、また上記上限値より低いほど粘度が低くなり樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。
【0051】
また、ポリオレフィン(A1)は、GPCで測定し各々のポリオレフィンの検量線で換算した重量平均分子量[Mw]と数平均分子量[Mn]との比である分子量分布[Mw/Mn]が10〜1であることが好ましく、5〜1であることがより好ましく、3〜1であることがさらに好ましい。
【0052】
[Mw/Mn]が上記下限値より高いと製造時に低粘度化し、容易に製造できる傾向があり、また上記上限値より低いほど水への分散時の粒子径制御がしやすくなり、粒径分布が狭く、かつ安定に分散する傾向がある。
【0053】
なお、GPC測定は、オルトジクロロベンゼンなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。具体的には後掲の実施例の項に示す通りである。
【0054】
ポリオレフィン(A1)の製法については、本発明の要件を満たす重合体(C)を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよい。例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合及び配位重合などが挙げられ、それぞれリビング重合的であってもよい。
【0055】
また配位重合の場合は、例えば、チーグラー・ナッタ触媒により重合する方法又はシングルサイト触媒またはカミンスキー触媒により重合する方法が挙げられる。好ましい製法としては、シングルサイト触媒による製造方法を挙げることができる。この理由としては、一般にシングルサイト触媒がリガンドのデザインにより分子量分布又は立体規則性分布がシャープであることなどが挙げられる。
【0056】
またシングルサイト触媒としては、例えば、メタロセン触媒及びブルックハート型触媒が挙げられる。メタロセン触媒ではC1対称型、C2対称型、C2V対称型又はCS対称型など、重合するポリオレフィンの立体規則性に合わせて好ましい触媒を選択すればよい。好ましくはC1対称型又はC2対称型のメタロセン触媒を用いることができる。
【0057】
また重合は溶液重合、スラリー重合、バルク重合又は気相重合などいずれの重合形態でもよい。溶液重合又はスラリー重合の場合、溶媒としては、例えば、トルエン及びキシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン及びデカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族系炭化水素、クロロホルム及びクロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びn−ブタノール等のアルコール類、ジブチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類並びにジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシド等の極性溶媒類などが挙げられる。
【0058】
なかでも芳香族系炭化水素、脂肪族系炭化水素及び脂環族系炭化水素が好ましく、より好ましくはトルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン及びシクロヘキサンである。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
<反応性基を有するポリオレフィン(A2)>
反応性基を有するポリオレフィン(A2)が有する反応性基としては、例えば、カルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、ジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基及びイソシアネート基などが挙げられる。より好ましくは、ポリオレフィン(A2)はカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基及びジカルボン酸無水物モノエステル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する。これらカルボン酸基等は反応性が高くポリエーテル樹脂(B)と結合が容易なだけでなく、これらの基を有する不飽和化合物も多く、ポリオレフィンへの反応性基の導入のために共重合又はグラフト反応させることも容易である。
【0060】
反応性基を有するポリオレフィン(A2)としては、例えば、重合時に反応性基を有しない不飽和化合物と反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(A2a)、又は、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をポリオレフィンにグラフト重合した重合体(A2b)を用いることができる。
【0061】
反応性基を有するポリオレフィン(A2)としては、重合体(A2a)と重合体(A2b)のいずれも用いうるが、通常、好ましいのは重合体(A2b)である。共重合体(A2b)は、ポリエーテル樹脂(B)の結合量の制御がしやすいなどの利点がある。
【0062】
共重合体(A2a)は、反応性基を有しない不飽和化合物と、反応性基を有する不飽和化合物とを共重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖に挿入された共重合体である。例えば、エチレン、プロピレン又はブテン等のα−オレフィンと、アクリル酸若しくは無水マレイン酸等のα、β−不飽和カルボン酸又はその無水物とを共重合して得られる。
【0063】
共重合体(A2a)として具体的には、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体及びエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。共重合体(A2a)の製造方法はポリオレフィン(A1)で述べた方法を同様に用いることができる。
【0064】
共重合体(A2b)は、予め重合したポリオレフィンに、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖にグラフトされている重合体である。
【0065】
例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィンに、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸若しくはその無水物、イタコン酸若しくはその無水物、クロトン酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸グリシジル又は(メタ)アクリル酸(2−イソシアナト)エチル等をグラフトした重合体である。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
共重合体(A2b)を得るための本反応のポリオレフィンとしては、上述の反応性基を有しないポリオレフィン(A1)を使用することができる。
【0067】
グラフト重合に用いるラジカル重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤から適宜選択して使用することができ、例えば、有機過酸化物及びアゾニトリル等が挙げられる。
【0068】
有機過酸化物としては、例えば、ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類、クメンヒドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド類、ジ(t−ブチル)パーオキシドなどのジアルキルパーオキシド類、ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類及びt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナートなどのパーオキシエステル類が挙げられる。
【0069】
アゾニトリルとしては、例えば、アゾビスブチロニトリル及びアゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。なかでもベンゾイルパーオキシド及びt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナートが特に好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
ラジカル重合開始剤と反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物の使用割合は、通常、ラジカル重合開始剤:反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物=1:100〜2:1(モル比)の範囲、好ましくは1:20〜1:1の範囲である。
【0071】
重合体(A2b)の製法については、本発明の要件を満たす重合体(C)を製造できれば特に限定されず、いかなる製法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応させる方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応させる方法及び押し出し機で加熱混練して反応させる方法等が挙げられる。溶液中で製造する場合の溶媒としては、ポリオレフィン(A1)の製造で用いられる溶媒として挙げた溶媒を同様に用いることができる。
【0072】
反応温度は、通常50℃以上であり、好ましくは80〜250℃の範囲が好ましい。反応時間は、通常1〜20時間程度である。
【0073】
共重合体(A2b)として、具体的には、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体、アクリル酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、アクリル酸変性エチレン−プロピレン共重合体及びその塩素化物並びにアクリル酸変性プロピレン−ブテン共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
反応性基を有するポリオレフィン(A2)は、GPCで測定しポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量[Mw]が5,000〜300,000であることが好ましい。Mwの下限値の値はより好ましくは10,000、さらに好ましくは30,000である。Mwの上限値の値はより好ましくは280,000、さらに好ましくは250,000である。Mwが上記下限値より高いほどべたつき度合いが小さくなり、基材への密着性が増す傾向があり、また上記上限値より低いほど粘度が低くなり樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。
【0075】
また、ポリオレフィン(A2)は、GPCで測定し各々のポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量[Mw]と数平均分子量[Mn]との比である分子量分布[Mw/Mn]が10〜1であることが好ましく、5〜1であることがより好ましく、3〜1であることがさらに好ましい。[Mw/Mn]が上記下限値より高いと製造時に低粘度化し、容易に製造できる傾向があり、また上記上限値より低いほど水への分散時の粒子径制御がしやすくなり、粒径分布が狭く、かつ安定に分散する傾向がある。
【0076】
なおGPCの測定は、テトラヒドロフラン(THF)などを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行なわれる。具体的には後掲の実施例の項に示す通りである。
【0077】
反応性基を有するポリオレフィン(A2)中の反応性基の含有量は、ポリオレフィン(A2)1g当たり0.01〜5mmol、即ち0.01〜5mmol/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい下限値は0.03mmol/gであり、特に好ましくは0.05mmol/gである。より好ましい上限値は1mmol/gであり、更に好ましくは0.5mmol/gである。
【0078】
特に、反応性基を有するポリオレフィン(A2)は、カルボン酸基、ジカルボン酸無水物基及びジカルボン酸無水物モノエステル基からなる群より選ばれる1種以上の反応性基(D)を、反応性基を有しないポリオレフィン(A1):反応性基(D)=100:0.1〜100:5(重量比)の割合で有することが好ましく、この比は、ポリオレフィン(A1):反応性基(D)=100:0.5〜100:4であることがより好ましく、100:1〜100:3であることがさらに好ましい。
【0079】
ポリオレフィン(A2)の反応性基の含有量は、上記の下限値より高いほど該反応性基を介して結合するポリエーテル樹脂(B)の結合量が増し重合体(C)の親水性が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にあり、上記上限値より低いほど、基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。
【0080】
なお、上記のポリオレフィン(A2)の反応性基(D)の重量比は、ポリオレフィン(A2)が前述の共重合体(A2b)である場合、グラフト率に相当するものとなる。
【0081】
[ポリエーテル樹脂(B)]
本発明においてポリエーテル樹脂(B)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定されず用いることができ、合成高分子、半合成高分子又は天然高分子のいずれも用いることができる。
【0082】
本発明に用いるポリエーテル樹脂(B)は、通常、環状アルキレンオキシドまたは環状アルキレンイミンを開環重合することで得られる。ポリエーテル樹脂(B)とポリオレフィン(A)との結合方法は限定されないが、例えば、反応性基を有するポリオレフィン(A2)中で環状アルキレンオキシドを開環重合する方法、及び開環重合等により得られたポリエーテルポリオール又はポリエーテルアミンなどの反応性基とポリオレフィン(A2)の反応性基を反応させる方法が挙げられる。
【0083】
ポリエーテルポリオールはポリエーテル骨格を有する樹脂の両末端に、反応性基としての水酸基を有する化合物である。ポリエーテルアミンは、ポリエーテル骨格を有する樹脂の片末端又は両末端に、反応性基としての1級アミノ基を有する化合物である。親水性を示すポリアルキレンオキシド又はポリアルキレンイミンとして好ましくは、ポリエチレンオキシド又はポリエチレンイミンが挙げられる。
【0084】
ポリエーテルアミンとしては、例えば、ハンツマン社製「ジェファーミン」Mシリーズ、Dシリーズ、EDシリーズ及び「サーフォナミン」Lシリーズなどが挙げられる。
【0085】
本発明に用いるポリエーテル樹脂(B)はポリオレフィン(A)との結合前に、ポリオレフィン(A)と反応しうる反応性基を1以上有しているのが好ましい。反応性基としては、例えば、カルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、ジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基及びイソシアネート基などが挙げられる。これらの中でも、アミノ基及び水酸基の少なくとも一方を有することが好ましく、少なくともアミノ基を有することがより好ましい。
【0086】
アミノ基はカルボン酸基、無水カルボン酸基、グリシジル基又はイソシアネート基など多種の反応性基と反応性が高いので、ポリオレフィン(A)とポリエーテル樹脂(B)を結合させることが容易である。アミノ基は1級、2級又は3級のいずれでもよいが、より好ましくは1級アミノ基である。
【0087】
ポリエーテル樹脂(B)中に反応性基は1以上あればよいが、より好ましくは反応性基を1つのみ有する。反応性基が2以上あると、ポリオレフィン(A)と結合させる際に3次元網目構造となりゲル化してしまう可能性がある。
【0088】
ただし反応性基を複数有していても、他より反応性の高い反応性基が1つのみであればよい。例えば、複数の水酸基と、それより反応性の高い1つのアミノ基を有するポリエーテル樹脂(B)は好ましい例である。ここで反応性とはポリオレフィン(A)の有する反応基との反応性である。
【0089】
本発明に好ましく用いられるポリエーテル樹脂(B)としては、炭素数2のアルキレン基を有するポリエーテルブロックと、炭素数3〜4のアルキレン基を有するポリエーテルブロックとのブロック共重合体が挙げられる。本発明の効果を著しく損なわなければ、炭素数3〜4のアルキレン基を有するポリエーテルブロックは、ブロック共重合体中に2種類以上含まれていてもよい。
【0090】
本発明により好ましく用いられるポリエーテル樹脂(B)としては、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
【0092】
前記一般式(1)中、Xは炭素数3〜4のアルキレン基であり、Yは炭素数2のアルキレン基である。Rは水素原子又はアミノ基又は炭素数1〜3のアルキル基である。nは好ましくは1〜40、mは好ましくは1〜30の数である。
【0093】
本発明において、ポリエーテル樹脂(B)として、グリフィン法で計算されるHLBが8未満のポリエーテル樹脂(B1)とHLBが8〜20のポリエーテル樹脂(B2)とを併用することを特徴とする。
【0094】
<ポリエーテル樹脂(B1)>
ポリエーテル樹脂(B1)はグリフィン法で計算されるHLBが8未満の範囲であれば、ポリエーテル樹脂(B)で挙げたポリエーテル樹脂をいずれも用いうる。
【0095】
ポリエーテル樹脂(B1)のHLBは、上記上限値より低いほど、水性樹脂分散体の表面エネルギーが低下し、濡れ性が良好になる傾向にある。一方、ポリエーテル樹脂(B1)のHLBは高いほど粘度が低く樹脂分散体を調製しやすい傾向にある。ポリエーテル樹脂(B1)のHLBは好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4である。
【0096】
本発明におけるポリエーテル樹脂(B1)は、GPCで測定しポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量[Mw]が200〜200,000であることが好ましい。Mwの下限値の値はより好ましくは300、さらに好ましくは500である。Mwの上限値の値はより好ましくは100,000、さらに好ましくは10,000、特に好ましくは3,000である。
【0097】
Mwが上記下限値より高いほど水性樹脂分散体の表面エネルギーが低下し、濡れ性が良好になる傾向にあり、また上記上限値より低いほど粘度が低く樹脂分散体を調製しやすい傾向にある。なおGPC測定は、THFなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
【0098】
<ポリエーテル樹脂(B2)>
ポリエーテル樹脂(B2)はグリフィン法で計算されるHLBが8〜20であれば、ポリエーテル樹脂(B)で挙げたポリエーテル樹脂をいずれも用いうる。
【0099】
ポリエーテル樹脂(B2)のHLBは上記下限値より高いほど親水性が増し分散粒子径が小さくなり安定に分散する傾向にあり、上記上限値より低いほど、水性樹脂分散体の表面エネルギーが低下し、濡れ性が良好になる傾向にある。ポリエーテル樹脂(B2)のHLBは、好ましくは10〜20、より好ましくは12〜20である。
【0100】
本発明におけるポリエーテル樹脂(B2)は、GPCで測定しポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量[Mw]が200〜200,000であることが好ましい。Mwの下限値の値はより好ましくは300、さらに好ましくは500である。Mwの上限値の値はより好ましくは100,000、さらに好ましくは10,000、特に好ましくは3,000である。
【0101】
Mwが上記下限値より高いほど親水性が増し分散粒子径が小さくなり安定に分散する傾向にあり、また上記上限値より低いほど粘度が低く樹脂分散体を調製しやすい傾向にある。なおGPC測定は、THFなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
【0102】
<ポリエーテル樹脂(B)の結合量>
本発明に係る重合体(C)は、ポリオレフィン(A)とポリエーテル樹脂(B)とが、ポリオレフィン(A):ポリエーテル樹脂(B)=100:1〜100:100(重量比)の割合で結合してなることが好ましい。この重量比は、より好ましくは100:5〜100:70であり、さらに好ましくは100:10〜100:50である。この範囲内であることにより、親水性が良好で分散粒子径が小さく安定な樹脂分散体を得やすく、また、ポリオレフィン基材に対する密着性が増す傾向にある。
【0103】
また、ポリオレフィン(A)に結合しているポリエーテル樹脂(B1)の量は、ポリオレフィン(A)100重量部に対して1〜50重量部の範囲にあることが好ましい。ポリエーテル樹脂(B1)の結合量のより好ましい下限値は3重量部であり、特に好ましくは5重量部である。また、より好ましい上限値は45重量部であり、更に好ましくは40重量部である。
【0104】
ポリエーテル樹脂(B1)の結合量が上記下限値より高いほど水性樹脂分散体の表面エネルギーが低下し、濡れ性が良好になる傾向にあり、上記上限値より低いほど、水樹脂分散体の安定性が上がる傾向にある。
【0105】
ポリオレフィン(A)に結合しているポリエーテル樹脂(B2)の量は、ポリオレフィン(A)100重量部当たり1〜50重量部の範囲にあることが好ましい。ポリエーテル樹脂(B2)の結合量のより好ましい下限値は2重量部であり、特に好ましくは4重量部である。また、より好ましい上限値は30重量部であり、更に好ましくは20重量部である。
【0106】
ポリエーテル樹脂(B2)の結合量が上記下限値より高いほど親水性が増し分散粒子径が小さくなり安定に分散する傾向にあり、上記上限値より低いほど、基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。
【0107】
本発明において、ポリエーテル樹脂(B)としてポリエーテル樹脂(B1)とポリエーテル樹脂(B2)を共に含むことによる効果をより有効に得る上で、ポリオレフィン(A)に結合しているポリエーテル樹脂(B)、即ち、ポリエーテル樹脂(B1)とポリエーテル樹脂(B2)の合計に対して、ポリエーテル樹脂(B1)の割合が1〜95重量%であることが好ましく、特に10〜90重量%であることが好ましい。
【0108】
また、ポリエーテル樹脂(B1)とポリエーテル樹脂(B2)は、HLB差が8以上あることが好ましく、特に12〜16程度の差があることが好ましい。
【0109】
[重合体(C)]
ポリオレフィン(A)にポリエーテル樹脂(B)を結合させてなる重合体(C)としては、ポリオレフィン(A)にポリエーテル樹脂(B)がグラフト結合したグラフト共重合体、又はポリオレフィン(A)の片末端もしくは両末端にポリエーテル樹脂(B)が結合した状態を含むポリオレフィン(A)とポリエーテル樹脂(B)とのブロック共重合体、とがあり得るが、好ましくは前者のグラフト共重合体である。
【0110】
ポリオレフィン(A)にポリエーテル樹脂(B)がグラフト結合したグラフト共重合体は、ポリエーテル樹脂(B)の含有量が制御しやすく、またブロック共重合体に比べてポリエーテル樹脂(B)の含有量を上げやすい利点がある。
【0111】
ポリエーテル樹脂(B)はポリオレフィン(A)に対して、種々の反応形態により結合させることができる。その形態は特に限定されないが、例えば、ラジカルグラフト反応及び反応性基を利用した反応が挙げられる。ラジカルグラフト反応によれば、炭素−炭素共有結合による結合が形成される。
【0112】
反応性基を利用した反応は、ポリオレフィン(A)とポリエーテル樹脂(B)の双方に反応性基を有していてそれらを反応させて結合させるものであり、共有結合又はイオン結合が形成される。この反応としては、例えば、カルボン酸基と水酸基のエステル化反応、カルボン酸基とエポキシ基との開環反応、1級又は2級アミノ基とエポキシ基との開環反応、カルボン酸基と1級又は2級アミノ基のアミド化反応、カルボン酸基と3級アミノ基の4級アンモニウム化反応、カルボン酸基とイソシアナート基のウレタン化反応及び1級又は2級アミノ基とイソシアナート基のウレタン化反応等が挙げられる。
【0113】
各反応の反応率は1〜100%の間で任意に選べばよく、好ましくは50〜100%、さらに好ましくは70〜100%である。カルボン酸基が二塩基酸又はその無水物である場合は、二塩基酸又はその無水物一当量に対し、一当量反応させても二当量反応させてもよい。
【0114】
ポリオレフィン(A)とポリエーテル樹脂(B)を結合させ重合体(C)を製造する方法としては、通常、ポリオレフィン(A)の存在下で親水性モノマーを重合してポリオレフィン(A)に結合したポリエーテル樹脂(B)を形成する方法(R1)、又は予め重合したポリエーテル樹脂(B)をポリオレフィン(A)に結合させる方法(R2)がある。いずれもポリオレフィン(A)としては、反応性基を有しないポリオレフィン(A1)、又は反応性基を有するポリオレフィン(A2)、ともに用いうる。
【0115】
<重合体(C)の製造方法(R1)>
本方法では、ポリオレフィン(A)の存在下で、ポリエーテル樹脂(B)を形成する親水性モノマーを重合させることでポリオレフィン(A)に結合したポリエーテル樹脂(B)を得る。親水性モノマーの重合方法としては、例えば、付加重合、縮合重合及び開環重合などが挙げられる。このとき重合後にポリエーテル樹脂(B)を形成しうる範囲であれば疎水性モノマーを共重合させてもよい。
【0116】
具体的には、例えば、親水性ラジカル重合性不飽和化合物をラジカル重合開始剤の存在下で重合してポリエーテル樹脂(B)を形成するとともにポリオレフィン(A)に結合させる方法がある。この場合ポリオレフィン(A)としては反応性基を有するポリオレフィン(A2)も用いうるが、通常は反応性基を有しないポリオレフィン(A1)を用いる。
【0117】
親水性ラジカル重合性不飽和化合物としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル四級化物及びビニルピロリドンなどが挙げられる。共重合可能な疎水性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類並びに酢酸ビニルが挙げられる。
【0118】
また、ラジカル重合性不飽和化合物をラジカル重合開始剤の存在下で重合して高分子を形成するとともにポリオレフィン(A)に結合させ、次いで変性してポリエーテル樹脂(B)とする方法がある。例えば、(メタ)アクリル酸t−ブチルを重合後、酸性下で加水分解しポリ(メタ)アクリル酸に変性する方法、及び酢酸ビニルを重合後、ケン化してポリビニルアルコールに変性する方法などが挙げられる。
【0119】
共重合可能な疎水性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、並びに酢酸ビニルが挙げられる。この場合ポリオレフィン(A)としては反応性基を有するポリオレフィン(A2)も用いうるが、通常は反応性基を有しないポリオレフィン(A1)を用いる。
【0120】
また、例えば、反応性基を有するポリオレフィン(A2)を用い、この反応性基を開始末端として、親水性ラジカル重合性不飽和化合物又は親水性開環重合モノマー等を重合してポリエーテル樹脂(B)を得る方法が挙げられる。親水性ラジカル重合性不飽和化合物としては上述のものを同様に用いうる。
【0121】
親水性開環重合モノマーとしては、例えば、エチレンオキシド及びエチレンイミンなどが挙げられる。共重合可能な疎水性モノマーとしては、例えば、トリメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン及びε−カプロラクトンなどが挙げられる。
【0122】
これらはいずれも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0123】
反応方法については、本発明の要件を満たす重合体(C)を製造できれば特に限定されず、いかなる方法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応させる方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応させる方法及び押し出し機で加熱混練して反応させる方法等が挙げられる。
【0124】
反応温度は、通常0〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜150℃の範囲である。溶液中で製造する場合の溶媒としては、ポリオレフィン(A1)の製造で用いられる溶媒として挙げた溶媒を同様に用いることができる。
【0125】
<重合体(C)の製造方法(R2)>
本方法では、予め重合したポリエーテル樹脂(B)をポリオレフィン(A)に結合させる。この場合、ポリエーテル樹脂(B)としては、前述のポリエーテル樹脂(B)の説明で挙げたものを用いうる。
【0126】
具体的には、例えば、まず親水性モノマーを重合してポリエーテル樹脂とする際に分子内に不飽和二重結合を残しておき、次いでラジカル重合性開始剤を用いてポリオレフィン(A)にグラフト重合させる方法が挙げられる。この場合、ポリオレフィン(A)としては反応性基を有するポリオレフィン(A2)も用いうるが、通常は反応性基を有しないポリオレフィン(A1)を用いる。
【0127】
また、例えば、まず末端に反応性基を有するポリエーテル樹脂(B)を製造し、次いでこれを、反応性基を有するポリオレフィン(A2)に結合させる方法が挙げられる。末端に反応性基を有するポリエーテル樹脂は、開始剤又は連鎖移動剤として反応性基を有する化合物を用いて親水性モノマーを重合することで得られる。もしくはエポキシ化合物等の親水性開環重合モノマーを開環重合することによっても得られる。
【0128】
このとき用いうる親水性モノマーとしては、<重合体(C)の製造方法(R1)>で挙げた各種親水性モノマーを同様に用いうる。これらはいずれも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0129】
反応方法については、本発明の要件を満たす重合体(C)を製造できれば特に限定されず、いかなる方法であってもよい。例えば、溶液中で加熱攪拌して反応させる方法、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応させる方法及び押し出し機で加熱混練して反応させる方法等が挙げられる。
【0130】
反応温度は、通常0〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜150℃の範囲である。溶液中で製造する場合の溶媒としては、ポリオレフィン(A1)の製造で用いられる溶媒として挙げた溶媒を同様に用いることができる。
【0131】
上記の方法により製造された重合体(C)は、次の方法により、ポリオレフィン(A)とポリエーテル樹脂(B)とが結合したものであって、ポリエーテル樹脂(B)が、グリフィン法で計算されるHLBが8未満のポリエーテル樹脂(B1)と、HLBが8〜20のポリエーテル樹脂(B2)とを含有するものであることを知ることができる。
【0132】
即ち、重合体(C)をトルエン、ベンゼン又はキシレン等の溶剤に溶解後、水酸化ナトリウム及び水を加え、80〜100℃で撹拌することにより加水分解反応させ、重合体(C)からポリエーテル樹脂(B)を解離させる。次に、重合体(C)のポリエーテル樹脂(B)を解離した後のポリオレフィン(A)をアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン又はメチルイソブチルケトン等の溶剤により再沈して除去する。
【0133】
ポリエーテル樹脂(B)をポリエーテル樹脂(B1)とポリエーテル樹脂(B2)とに分離する方法としては、例えば、逆相液体クロマトグラフィーにより分画し、各々分取する方法が挙げられる。分析条件は当業者であれば適宜決定することができる。
【0134】
ポリエーテル樹脂(B1)及びポリエーテル樹脂(B2)は、以下のようにして構造を決定することができ、グリフィン法のHLBを算出することができる。即ち、マススペクトルを用いて分子量及び構成単位を検出測定し、
1H及びC
13−NMRを用いて構造を検出測定し、これらに基づきポリエーテル樹脂(B1)及びポリエーテル樹脂(B2)の構造を同定する。
【0135】
[重合体(C)の水性樹脂分散体]
重合体(C)の水性樹脂分散体である本発明の水性樹脂分散体を製造する方法は特に限定されないが、例えば、前述の重合体(C)に水以外の溶媒を加え、必要に応じ加熱して溶解させた後に水を添加して分散体とする方法及び重合体(C)が溶融する温度以上で溶融させた後に水を添加して分散体とする方法などが挙げられる。好ましくは前者の方法である。
【0136】
重合体(C)に水以外の溶媒を加え、必要に応じ加熱して溶解させた後に水を添加する方法では粒径の細かい水性樹脂分散体を調製しやすい。重合体(C)の溶媒への溶解時、又は添加時の温度は、通常30〜150℃である。
【0137】
また、重合体(C)を水以外の溶媒に一旦溶解させて、水を添加した後に溶媒を留去してもよい。水性樹脂分散体における全溶媒中の水以外の溶媒の比率は、最終的には通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0138】
本方法に用いられる水以外の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン及びt−ブチルベンゼン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン及びデカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族系炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素及びクロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブタンジオール等のアルコール類、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール及びジアセトンアルコール等の2以上の官能基を持つ有機溶媒並びにジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシド等の極性溶媒類などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
なかでも水に1重量%以上溶解する溶媒が好ましく、さらに好ましくは5重量%以上溶解するものである。例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール及び2−エトキシプロパノールが好ましい。
【0140】
重合体(C)を溶媒溶解状態及び溶融状態にした後、水を添加し水性樹脂分散体を製造する装置としては、特に限定されないが、例えば、撹拌装置付き反応釜、及び一軸または二軸の混練機などが挙げられる。その際の攪拌速度は装置の選択に伴い多少異なるが、通常10〜1000rpmの範囲である。
【0141】
本発明で用いられる重合体(C)(樹脂)は水への分散性に非常に優れるので、重合体(C)の水性樹脂分散体は分散粒子径が細かく、かつ樹脂が安定に分散している利点があり、このような本発明の水性樹脂分散体を用いて優れた外観の塗布品が得られる。
【0142】
本発明の水性樹脂分散体における重合体(樹脂)(C)の分散粒子径は、通常50%粒子径D
50で5.0μm以下であり、好ましくは1.0μm以下であるが、本発明によれば、50%粒子径D
50が0.5μm以下とすることができ、より好ましくは0.3μm以下とすることができる。重合体(C)の分散粒子径を小さくすることで、分散安定性を向上させ、凝集が起きにくく、より安定な水性樹脂分散体とすることができる。
【0143】
なお、本発明において分散とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態を含む概念である。従って、分散粒子径の下限値については特に制限はない。
【0144】
本発明の水性樹脂分散体の固形分量は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上である。また好ましくは70重量%以下であり、より好ましくは60重量%以下であり、更に好ましくは50重量%以下である。固形分量が少ないほど樹脂分散体としての安定性が高い傾向にある。ただし、例えば、プライマー又は接着剤として使用する際に、塗布後の水の乾燥に多量のエネルギーと時間をかけないためには固形分量が多い方が好ましい。
【0145】
以上のように本発明で用いられる重合体(C)においては、実質的に界面活性剤を用いることなく水性樹脂分散体を得ることができ、従ってこれを用いて得られる水性樹脂組成物では、従来界面活性剤によって引き起こされていたブリードアウトを抑制できるのが利点の一つである。
【0146】
ただし、他の目的、用途等に応じて、本発明の水性樹脂分散体に必要により界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び反応性界面活性剤などが挙げられる。
【0147】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンセチルエ−テル、ポリオキシエチレンステアリエ−テル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テル及びモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどが挙げられる。
【0148】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテルナトリウムなどが挙げられる。
【0149】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム及び臭化セチルトリメチルアンモニウムなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどが挙げられる。
【0150】
また、上記の界面活性剤にラジカル重合性官能基を有するいわゆる反応性界面活性剤などを使用することができ、反応性界面活性剤を用いた場合は塗布膜の耐水性を向上させることができる。代表的な市販反応性界面活性剤としては、例えば、エレミノールJS−2(三洋化成工業製)及びラテムルS−180(花王製)が挙げられる。
【0151】
本発明の水性樹脂分散体が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は、重合体(C)100重量部に対して、通常20重量部以下であることが好ましく、より好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下である。最も好ましくは界面活性剤を実質的に含まないことである。
【0152】
本発明の水性樹脂分散体は、分散媒及び/又は溶媒として水を含有していればよいが、更にその他の分散媒及び/又は溶媒を含んでいてもよい。
【0153】
その他の分散媒及び/又は溶媒としては、特に限定されず、重合体(C)の水性分散体の製造の際に水以外の溶媒として挙げた溶媒の1種又は2種以上などを用いることができる。なかでも水に5重量%以上溶解する溶媒が好ましく、さらに好ましくは10重量%以上溶解するものである。
【0154】
例えば、シクロヘキサノン、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、テトラヒドロフラン、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール及び2−エトキシプロパノール等が好ましい。
【0155】
例えば、本発明の水性樹脂分散体をプライマー、塗料又はインキ等の用途に使用した場合、乾燥速度の向上又は仕上がり感の良好な表面を得る目的で、水以外の親水性有機溶媒を配合することができる。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール及びエタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、エチレングリコール及びプロピレングリコール等のグリコール類並びにそのエーテル類等が挙げられる。
【0156】
水を含む分散媒及び/又は溶媒におけるその他の分散媒及び/又は溶媒の割合は、通常50重量%以下であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
【0157】
本発明の水性樹脂分散体には、必要に応じて酸性物質又は塩基性物質を添加することができる。酸性物質としては、例えば、塩酸及び硫酸などの無機酸並びに酢酸などの有機酸が挙げられる。塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムなどの無機塩基、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、2−メチル−2−アミノ−プロパノール並びにトリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0158】
例えば、重合体(C)が酸性基を有する場合には塩基性物質を、重合体(C)が塩基性基を有する場合には酸性物質を添加することが好ましく、このようにすることで、重合体(C)の親水性を増し、分散粒子径をより細かくできる利点がある。
【0159】
本発明の水性樹脂分散体には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐候安定剤及び耐熱防止剤等の各種安定剤、染料、有機顔料及び無機顔料等の着色剤、カーボンブラック及びフェライト等の導電性付与剤、顔料分散剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、防腐剤、防かび剤、防錆剤並びに濡れ剤等の各種添加剤を配合使用してもよい。
【0160】
消泡剤としては、例えば、エアープロダクツ社製の「サーフィノール104PA」及び「サーフィノール440」等が挙げられる。
【0161】
また、耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために架橋剤を水性樹脂分散体の重合体(C)100重量部に対して0.01〜100重量部添加することができる。架橋剤としては、例えば、自己架橋性を有する架橋剤、カルボン酸基と反応する官能基を分子内に複数固有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等が挙げられる。
【0162】
このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物及びシランカップリング剤等が好ましい。またこれらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。
【0163】
また、本発明の水性樹脂分散体には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて水溶性樹脂又は重合体(C)以外の他の水に分散しうる樹脂を混合することができ、このような他の樹脂の配合で、例えば、塗装外観の向上(光沢の付与又はツヤ消し)又はタック性の低減などの効果を得ることができる。この樹脂は、界面活性剤を用いて分散しうる樹脂でもよい。
【0164】
水溶性樹脂としては、例えば、ポリエーテル樹脂(B)として挙げたような樹脂が使用でき、例えばこれらの樹脂を水に溶解させた水溶液を本発明の水性樹脂分散体と混合して用いることができる。
【0165】
水に分散しうる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂及びアルキッド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂と重合体(C)を含む水性樹脂分散体の形態は特に限定されない。例えば、これらの樹脂と重合体(C)とをそれぞれ乳化して混合する方法がある。この方法では、これらの樹脂からなる粒子と重合体(C)からなる粒子とがそれぞれ別々に形成され、水に分散された水性樹脂分散体が得られる。
【0166】
或いはこれらの樹脂と重合体(C)とを混合後、乳化する方法がある。この方法では、1粒子中にこれらの樹脂と重合体(C)とが混ざり合った粒子が水に分散された水性樹脂分散体が得られる。例えば樹脂の重合時に重合体(C)を共存させることで両者を混合することができ、水に乳化・分散させて一粒子内に樹脂と重合体(C)とを含む粒子を形成しうる。
【0167】
また樹脂と重合体(C)とを別々に合成後、溶融混練などを行うことによっても両者を混合することができ、水に乳化・分散させて一粒子内に樹脂と重合体(C)とを含む粒子を形成することができる。
【0168】
重合体(C)と樹脂それぞれの性質を有効に発揮するためには、重合体(C)からなる粒子と樹脂からなる粒子とが別々に存在する水性樹脂分散体が好ましい。このような水性樹脂分散体は、例えば、重合体(C)を水に乳化・分散させてなる分散体と、樹脂を水に乳化・分散させてなる分散体とを混合することで得られる。
【0169】
他の樹脂を混合する場合、重合体(C)と上記他の樹脂の合計量と水との重量比は5:95〜60:40が好ましい。すなわち重合体(C)、他の樹脂及び水の総量を100重量部として重合体(C)と他の樹脂の合計量が5重量部以上であり、60重量部以下が好ましい。
【0170】
この割合を5重量部以上とすることにより、塗布又は加熱硬化等の作業性が向上する。好ましくは10重量部以上とし、より好ましくは15重量部以上とする。一方、この割合を60重量部以下とすることにより、水性樹脂分散体の粘度が高くなりすぎるのを防ぐことができ、塗布性が良くなり、均一な塗膜が形成しやすい。好ましくは55重量部以下とし、より好ましくは50重量部以下とする。
【0171】
また、重合体(C)と上記他の樹脂との重量比は90:10〜10:90とするのが好ましい。即ち、重合体(C)と他の樹脂との合計量を100重量部として、重合体(C)の量が10重量部以上であり、90重量部以下が好ましい。
【0172】
重合体(C)の量を10重量部以上とすることにより、ポリオレフィン系基材に対する密着性が十分となる。重合体(C)の量は、好ましくは15重量部以上とし、より好ましくは20重量部以上とする。
【0173】
重合体(C)の量を90重量部以下とすることにより、他の樹脂を併用することによる効果を十分に得ることができ、このような複合水性樹脂分散体から得られる塗膜の物性、具体的には塗膜の強度、耐水性、耐候性、耐擦性又は耐溶剤性などの改善効果を十分に得ることができる。重合体(C)の量は、好ましくは85重量部以下とし、より好ましくは80重量部以下とする。
【0174】
本発明の水性樹脂分散体から重合体(C)を単離する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。即ち、水性樹脂分散体にトルエン、ヘキサン又はベンゼン等の溶剤を滴下し、60℃〜80℃で撹拌し、重合体(C)を溶剤に溶解させる。次いで、重合体(C)が溶解した溶剤を油相分離する。得られた溶液にアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン又はメチルイソブチルケトン等の溶剤を添加して重合体(C)を再沈し、単離できる。
【0175】
本発明の水性樹脂分散体には顔料を加えることができる。顔料を含む水性樹脂分散体は塗料として好ましい。
【0176】
使用しうる顔料は特に限定されないが、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、酸化クロム、紺青、ベンガラ、黄鉛及び黄色酸化鉄等の無機顔料、並びにアゾ系顔料、アントラセン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、インジゴ系顔料及びフタロシアニン系顔料等の有機顔料等の着色顔料;タルク、炭酸カルシウム、クレイ、カオリン、シリカ及び沈降性硫酸バリウム等の体質顔料;導電カーボン又はアンチモンドープの酸化スズをコートしたウイスカー等の導電顔料;アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、スズ若しくは酸化アルミニウム等の金属、合金又は金属酸化物等の無着色或いは着色された金属製光輝材などを挙げることができる。これらの顔料は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0177】
本発明の水性樹脂分散体が顔料を含む場合、顔料の含有量は、樹脂(重合体(C)と必要に応じて用いられる他の樹脂の合計量)100重量部に対して、10重量部以上が好ましい。より好ましくは50重量部以上である。但し400重量部以下が好ましく、より好ましくは200重量部以下である。上記下限値より顔料の添加量が多いほど発色性及び隠蔽性が高くなる傾向にあり、上記上限値より少ないほど密着性、耐湿性及び耐油性が高くなる傾向にある。
【0178】
本発明の水性樹脂分散体が顔料を含む場合、顔料分散剤を用いてもよい。顔料分散剤としては、例えば、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルレジン等の水性アクリル系樹脂;ビックケミー社製のBYK−190等の酸性ブロック共重合体;スチレン−マレイン酸共重合体;エアープロダクツ社製のサーフィノールT324等のアセチレンジオール誘導体;イーストマンケミカル社製のCMCAB−641−0.5等の水溶性カルボキシメチルアセテートブチレート等を挙げることができる。これらの顔料分散剤を用いることで、安定な顔料ペーストを調製することが出来る。
【0179】
本発明の水性樹脂分散体は、プライマー、プライマーレス塗料、接着剤又はインキ等に使用することができる。本発明は特にプライマー、塗料又は接着剤として好ましく用いることができ、特にポリオレフィン基材用のプライマー、塗料又は接着剤として好ましい。具体的な用途としては、例えば、自動車内装用及び外装用等の自動車用塗料、プライマー、携帯電話及びパソコン等の家電用塗料並びに建築材料用塗料等がある。
【0180】
[積層体]
本発明の水性樹脂分散体又はこれを含む塗料を基材に塗布し、加熱することで樹脂層を形成し、積層体とすることができる。
【0181】
本発明の積層体の基材としては熱可塑性樹脂成形体が好ましい。熱可塑性樹脂成形体としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂等が挙げられる。特に、ポリオレフィン樹脂からなる熱可塑性樹脂成形体に適用するのが好ましく、とりわけプロピレン系重合体からなる熱可塑性樹脂成形体に適用するのが好ましい。
【0182】
基材としてのオレフィン系重合体としては、例えば、高圧法ポリエチレン、中低圧法ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリ−1−ブテン及びポリスチレン等のオレフィン系重合体、並びにエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体及びプロピレン−ブテン共重合体等のオレフィン共重合体等が挙げられる。また、例えば、ポリプロピレンと合成ゴムとからなる成形体であってもよい。
【0183】
基材の形状には特に制限はなく、例えば、フィルム状、シート状及び板状体並びにその他の異形形状が挙げられる。
【0184】
本発明の水性樹脂分散体又はこれを含む塗料が適用される基材は、射出成形、圧縮成形、中空成形、押出成形又は回転成形等の公知の成形法のいずれの方法によって成形されたものであってもよい。
【0185】
本発明の水性樹脂分散体又はこれを含む塗料によれば、基材に、タルク、亜鉛華、ガラス繊維、チタン白若しくは硫酸マグネシウム等の無機充填剤、又は顔料等が配合されている場合にも、密着性の良い塗膜を形成することができる。
【0186】
本発明の水性樹脂分散体又はこれを含む塗料により基材上に樹脂層を形成する方法としては、特に限定されることなく公知の方法が使用しうる。塗布法としては、例えば、スプレーコート、バーコート、スピンコート、ディップコート(浸漬塗り)及びグラビアコート等各種の塗布法が挙げられる。一般に自動車用バンパー又は家電製品などの大型の成形体には、スプレーコートによる塗布が行われる。また、プラスチックフィルム又はシートなどには、グラビアコート又はバーコートによる塗布が行われる。
【0187】
本発明の水性樹脂分散体又はこれを含む塗料を基材に塗布した後、通常、ニクロム線、赤外線又は高周波等により加熱して塗膜を硬化させ、所望の塗膜を表面に有する積層体を得ることができる。塗膜の硬化条件は、基材の材質若しくは形状又は使用する塗料の組成等によって適宜選ばれる。硬化温度に特に制限はないが、実用性を考慮して通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。ただし通常150℃以下、好ましくは130℃以下である。
【0188】
積層される樹脂層の膜厚(硬化後)は、基材の材質若しくは形状、使用する塗料の組成又は積層体の用途等によって適宜選定されるが、通常0.1μm以上であり、好ましくは1μm以上、更に好ましくは5μm以上である。但し通常500μm以下であり、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0189】
本発明の積層体は、自動車、家電又は建材など各種工業部品に用いることができ、特に、薄肉化、高機能化又は大型化された部品・材料として実用に十分な性能を有している。例えば、バンパー、インストルメントパネル、トリム及びガーニッシュなどの自動車部品、テレビケース、洗濯機槽、冷蔵庫部品、エアコン部品及び掃除機部品などの家電機器部品、便座、便座蓋及び水タンクなどのトイレタリー部品並びに浴槽、浴室の壁、天井及び排水パンなどの浴室周りの部品などの各種工業部品用成形材料として用いることができる。
【実施例】
【0190】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制限されるものでは無い。
【0191】
[物性測定方法及び評価方法]
(1)重量平均分子量[Mw]および分子量分布[Mw/Mn]
(1)−1 ポリプロピレン換算での分子量の測定法
試料20mgを30mlのバイアル瓶に採取し、安定剤として、ジブチルヒドロキシトルエンを0.04重量%含有するオルトジクロロベンゼン20gを添加した。135℃に加熱したオイルバスを用いて試料を溶解させた後、孔径3μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにて熱濾過を行い、重合体濃度0.1重量%の試料溶液を調製した。
【0192】
次に、カラムとしてTSKgel GM H−HT(30cm×4本)及びRI検出器を装着したウォーターズ(Waters)社製GPC150CVを使用し、GPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量:500μl、カラム温度:135℃、溶媒:オルトジクロロベンゼン、流量:1.0ml/minを採用した。
【0193】
分子量の算出に際しては、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびポリプロピレンの粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、重合体の分子量の算出を行った。
【0194】
粘度式としては[η]=K・M
αを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E−4、α=0.70を、プロピレン−α−オレフィン共重合体に対してはK=1.03E−4、α=0.78を使用した。
【0195】
得られた重量平均分子量[Mw]、数平均分子量[Mn]の値から分子量分布[Mw/Mn]を算出した。
【0196】
(1)−2 ポリスチレン換算での分子量の測定法
試料5mgを10mlのバイアル瓶に採取し、安定剤としてブチルヒドロキシトルエンを250ppm含有するテトラヒドロフランを5g添加し50℃で完全に溶解させた。室温に冷却後、孔径0.45μmのフィルターで濾過し、重合体濃度0.1重量%の試料溶液を調製した。
【0197】
次に、カラムとしてTSKgel GMH
XL−L(30cm×2本)にガードカラムTSKguardcolumnH
XL−Hを装着した東ソー(株)社製GPC HLC−8020を使用し、GPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量:50μl、カラム温度:40℃、溶媒:テトラヒドロフラン、流量1.0ml/minを採用した。
【0198】
分子量の算出に際しては、標準試料として市販の単分散のポリスチレン標準試料を測定し、標準試料の保持時間と分子量から検量線を作成し算出を行った。
【0199】
得られた重量平均分子量[Mw]、数平均分子量[Mn]の値から分子量分布[Mw/Mn]を算出した。
【0200】
(2)グラフト率
重合体200mgとクロロホルム4800mgを10mlのサンプル瓶に入れて50℃で30分加熱し完全に溶解させた。材質NaCl、光路長0.5mmの液体セルにクロロホルムを入れ、バックグラウンドとした。次に溶解した重合体溶液を液体セルにいれて、日本分光社製FT−IR460plusを用い、積算回数32回にて赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0201】
無水マレイン酸のグラフト率は、無水マレイン酸をクロロホルムに溶解した溶液を測定し検量線を作成したものを用いて計算した。そしてカルボニル基の吸収ピーク(1780cm
−1付近の極大ピーク、1750〜1813cm
−1)の面積から、別途作成した検量線に基づき、重合体中の酸成分含有量を算出し、これをグラフト率(重量%)とした。
【0202】
(3)分散粒子径
日機装社製マイクロトラック UPA(モデル9340 バッチ型 動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定した。水性樹脂分散体の密度を0.87kg/m
3、分散粒子形状を球形、分散媒を水、分散媒の屈折率を1.33として、測定時間180秒にて測定し、体積換算として粒径の細かい方から累積で50%粒子径D
50を求めた。
【0203】
(4)耐ブロッキング性評価
表面にコロナ処理が施されたポリプロピレンフィルム(厚み60μm)に、製造された水性樹脂分散体をマイヤーバー(20番)を用いて塗布し、100℃で2分乾燥し、水性樹脂分散体を塗布したポリプロピレンフィルムを作成した。
【0204】
ここに、同様に作成した水性樹脂分散体を塗布したポリプロピレンフィルムを塗布面が向き合って重なるように合わせた後、温度50℃、湿度95%、荷重0.1kg/cm
2で24時間保持した。次に、この試験片を15mm幅にせん断し、FUDOUレオメーター(レオテック社製)で90°剥離試験を行い、剥離強度の測定を行った。測定は温度23℃、湿度65%の雰囲気中、引張速度50mm/minで行った。この剥離強度は10gf/15mm以下であることが好ましい。
【0205】
(5)接触角
製造された水性樹脂分散体について、接触角計(協和界面化学社製Drop MasterDM500)を用いて、ポリプロピレンフィルム(CPP)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、アルミ箔(Al)に対する接触角の測定を行った。CPPに対する接触角は70°以下、PETに対する接触角は40°以下、Alに対する接触角は80°以下であることが好ましい。
【0206】
[ポリエーテル樹脂(B)]
ポリエーテル樹脂(B)としては、以下に示すハンツマン社製「ジェファーミン」Mシリーズのポリエーテルアミンを用いた。
【0207】
【表1】
【0208】
[製造例1:無水マレイン酸変性プロピレン系共重合体の製造及び評価]
メタロセン触媒によって重合されたプロピレン−ブテン共重合体である「タフマーXM−7070」(三井化学社製、融点75℃、プロピレン含有量74モル%、重量平均分子量[Mw]250,000(ポリプロピレン換算)、分子量分布[Mw/Mn]2.2)200kgと無水マレイン酸5kgをスーパーミキサーでドライブレンドした。
【0209】
その後、2軸押出機(日本製鋼所社製「TEX54αII」)を用い、プロピレン−ブテン共重合体100重量部に対して1重量部となるようにt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製「パーブチルI」)を液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混練し、ペレット状の無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体を得た。
【0210】
このようにして得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含有量(グラフト率)は1.0重量%(無水マレイン酸基として0.1mmol/g、カルボン酸基として0.2mmol/g)であった。また重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は156,000、数平均分子量[Mn]は84,000であった。
【0211】
[実施例1:水性樹脂分散体の製造及び評価]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体100gとトルエン50gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後、無水マレイン酸2.0gを加え、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製「パーブチルI」)1gを加え、7時間同温度にて攪拌を続けて反応を行った。
【0212】
得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含有量(グラフト率)は2.0重量%(無水マレイン酸基として0.2mmol/g、カルボン酸基として0.4mmol/g)であった。
【0213】
反応終了後、系を室温付近まで冷却し、トルエン70gを加え、次いで、2−プロパノール90gに溶解した「ジェファーミンM−2005」を10g[ポリオレフィン(A)100重量部に対しポリエーテル樹脂(B1)10重量部に相当]加え70℃で1時間反応させた。その後、2−プロパノール90gに溶解した「ジェファーミンM−1000」を15g[ポリオレフィン(A)100重量部に対しポリエーテル樹脂(B2)15重量部に相当]加え、70℃にて1時間反応させた。
【0214】
その後、ジメチルエタノールアミン2g、水54gを加えて系内を中和した。得られた反応液の温度を45℃に保ち、加熱・撹拌し、水300gを滴下しながら、系内の減圧度を下げてポリマー濃度30重量%になるまでトルエンと2−プロパノールを減圧留去し、乳白色の水性樹脂分散体を得た。
【0215】
得られた水性樹脂分散体の分散粒子径(50%粒子径D
50)は110nmであった。この水性樹脂分散体の耐ブロッキング性及び接触角の評価結果を表2に示す。
【0216】
[実施例2:水性樹脂分散体の製造及び評価]
実施例1に記載の「ジェファーミンM−2005」を10gから20gとした以外は実施例1と同様に行った。得られた水性樹脂分散体の分散粒子径(50%粒子径D
50)は70nmであった。この水性樹脂分散体の耐ブロッキング性及び接触角の評価結果を表2に示す。
【0217】
[実施例3:水性樹脂分散体の製造及び評価]
実施例1に記載の「ジェファーミンM−2005」を10gから20gとし、「ジェファーミンM−1000」を15gから10gとした以外は実施例1と同様に行った。得られた水性樹脂分散体の分散粒子径(50%粒子径D
50)は90nmであった。この水性樹脂分散体の耐ブロッキング性及び接触角の評価結果を表2に示す。
【0218】
[実施例4:水性樹脂分散体の製造及び評価]
実施例1に記載の「ジェファーミンM−2005」を10gから30gとし、「ジェファーミンM−1000」を15gから5gとした以外は実施例1と同様に行った。得られた水性樹脂分散体の分散粒子径(50%粒子径D
50)は100nmであった。この水性樹脂分散体の耐ブロッキング性及び接触角の評価結果を表2に示す。
【0219】
[実施例5:水性樹脂分散体の製造及び評価]
実施例1において、「ジェファーミンM−2005」の代りに、「ジェファーミンM−600」を6g用いた以外は実施例1と同様に行った。得られた水性樹脂分散体の分散粒子径(50%粒子径D
50)は110nmであった。この水性樹脂分散体の耐ブロッキング性及び接触角の評価結果を表2に示す。
【0220】
[実施例6:水性樹脂分散体の製造及び評価]
実施例5に記載の「ジェファーミンM−1000」を15gから10gとした以外は実施例5と同様に行った。得られた水性樹脂分散体の分散粒子径(50%粒子径D
50)は130nmであった。この水性樹脂分散体の耐ブロッキング性及び接触角の評価結果を表2に示す。
【0221】
[比較例1:水性樹脂分散体の製造及び評価]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、トルエン50gと、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体100gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後、無水マレイン酸1.5gを加え、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製:パーブチルI)1gを加え、7時間同温度にて攪拌を続けて反応を行った。
【0222】
得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含有量(グラフト率)は2.0重量%(無水マレイン酸基として0.2mmol/g、カルボン酸基として0.4mmol/g)であった。
【0223】
反応終了後、系を室温付近まで冷却し、トルエン70gを加え、次いで、2−プロパノール180gに溶解した「ジェファーミンM−1000」を20g[ポリオレフィン(A)100重量部に対しポリエーテル樹脂(B2)20重量部に相当]加え70℃にて1時間反応させた。
【0224】
その後、ジメチルエタノールアミンを2g、水を54g加えて系内を中和した。得られた反応液の温度を45℃に保ち、加熱・撹拌し、かつ水300gを滴下しながら、系内の減圧度を下げてポリマー濃度30重量%になるまでトルエンと2−プロパノールを減圧留去し、乳白色の水性樹脂分散体を得た。
【0225】
得られた水性樹脂分散体の分散粒子径(50%粒子径D
50)は140nmであった。この水性樹脂分散体の耐ブロッキング性及び接触角の評価結果を表2に示す。
【0226】
[比較例2:水性樹脂分散体の製造及び評価]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、トルエン50gと、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体100gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後、無水マレイン酸0.7gを加え、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製:パーブチルI)1gを加え、7時間同温度にて攪拌を続けて反応を行った。
【0227】
得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含有量(グラフト率)は1.5重量%(無水マレイン酸基として0.15mmol/g、カルボン酸基として0.3mmol/g)であった。
【0228】
反応終了後、系を室温付近まで冷却し、トルエン70gを加え、次いで、2−プロパノール180gに溶解した「ジェファーミンM−1000」を15g[ポリオレフィン(A)100重量部に対しポリエーテル樹脂(B2)20重量部に相当]加え70℃にて1時間反応させた。
【0229】
その後、アミノメチルプロパノール1g、水54gを加えて系内を中和した。得られた反応液の温度を45℃に保ち、加熱・撹拌し、かつ水300gを滴下しながら、系内の減圧度を下げてポリマー濃度30重量%になるまでトルエンと2−プロパノールを減圧留去し、乳白色の水性樹脂分散体を得た。
【0230】
得られた水性樹脂分散体の分散粒子径(50%粒子径D
50)は100nmであった。この水性樹脂分散体の耐ブロッキング性及び接触角の評価結果を表2に示す。
【0231】
【表2】
【0232】
表2より明らかなように、実施例1〜6の本発明の水性樹脂分散体は、比較例1,2に対して耐ブロッキング性と接触角が改善されていた。これらは実施例1〜6の重合体(C)がポリエーテル樹脂(B2)だけでなく、ポリエーテル樹脂(B1)を含有していることによると考えられる。