【文献】
村田博司、外3名,分極反転構造電気光学変調器を用いた高速信号処理,電子情報通信学会技術研究報告.MWP, マイクロ波・ミリ波フォトニクス,2012年 3月30日,Vol.112, No.1,pp.31-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、光変調器で変調した光波を光ファイバで伝送することが行われている。一般的に光ファイバは、波長により光の伝搬速度が異なるため、波長分散が発生し、伝送された光信号の波形が歪むこととなる。このため、40Gbpsを超える高速通信や波長多重の高速伝送システムなどにおいては、光ファイバ伝送路の波長分散を補償する技術が不可欠となる。
【0003】
波長分散の補償方法としては、光信号の受信器の直前に波長分散補償のための光ファイバ(分散補償ファイバ)を配置する方法、特許文献1のようなファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)やエタロンなどの光デバイスを用いる方法、さらには、特許文献2や非特許文献1のようなデジタル信号処理回路を利用する方法などがある。デジタル信号処理回路では、波長分散に係る実部や虚部の変化に対応し、デジタルシグナルプロセッサーで補償するインパルス応答を生成している。
【0004】
逆分散ファイバを用いた分散補償モジュールは、一定のスパンごとに設置するが、導入するスパン長が大きいと補償精度が制限されるうえ、波長毎に補償量が異なる。また、波長分割多重(WDM)光などのより正確な波長分散補償には、各波長で必要な補償量に対応した波長分散補償器となる光デバイスも別途必要となる。FBGやエタロン等の光デバイスが一般的に使われるが、FBG等の光デバイスは、取り扱う波長帯域に制限があるだけでなく、光損失も大きい。さらに、デジタル信号処理回路では、40Gbpsを超える高速処理は技術的にも難しいという問題を生じていた。
【0005】
また、それらの課題を解決すべく、本出願人は、特許文献3乃至5において、
図1に示すような分極反転構造光変調技術を巧みに利用した光変調器を提案している。具体的には、電気光学効果を有する材料で構成される基板1と、該基板に形成された光導波路2と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極3とを有する光変調器において、該光導波路から出射する出射光L2を光ファイバ(不図示)で導波し、該光ファイバの波長分散特性と逆の特性の波形歪を有するように、該光導波路に沿って該基板を所定のパターン(10)で分極反転(P1とP2は分極方向を示す。)することで該光ファイバの波長分散特性を補償している。
【0006】
これにより光ファイバ伝送路の波長分散が補償可能であり、数10Gbpsを超える高速伝送においてもその効能が確認されている。さらに、特許文献5では、該変調電極の近傍に誘電体材料又は金属材料からなる調整部材を配置することで、前記波長分散特性の補償量を所定のレベルに調整しており、分散補償量を調整可能とするとともに、その範囲を拡大する技術を提案している。
【0007】
しかしながら、光変調器のサイズや、光やマイクロ波の屈折率の大小関係の制限などにより、分散の補償範囲はファイバ伝送路の距離換算で25km程度である。しかも、特許文献1や2に示す波長分散の補償方法は、上述したように40Gbpsを越える高速伝送においては、実用化できず、伝送路の光ファイバ長が、例えば、メトロネットワークにて一般的な中継スパンである80km以上で、かつCバンドやLバンドのような光通信波長帯全域で適用可能な分散補償技術は実現されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、
図2に示すように、電気光学効果を有する材料で構成される基板1と、該基板に形成された光導波路2と、該光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極(3,30)とを有する光変調器において、該光導波路から出射する出射光L2を光ファイバ(不図示)で所定距離を伝送すると共に、該光ファイバの波長分散特性と逆の特性の波形歪を、該光導波路を伝搬する光波に付与するため、該光導波路に沿って該基板を所定のパターンで分極反転10しており、該変調電極が形成する電界が該光導波路に作用する作用領域Rにおいて、該光導波路を伝搬する光波の伝搬方向と、該変調電極を伝搬する変調信号Sの伝搬方向とが互いに逆になるよう構成されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の電気光学効果を有する材料を用いた基板としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LN)、タンタル酸リチウム(LT)、電気光学ポリマー、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、GaAs(ヒ化ガリウム)及びこれらの材料を組み合わせた基板が利用可能である。特に、電気光学効果の高く、任意の分極反転構造を形成し易い材料であり、かつ、一次の電気光学効果(ポッケルス効果)が大きく二次の電気光学効果(光カー効果)が小さい材料であることが好ましい。具体的には、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、電気光学ポリマー、GaAsが利用可能である。特に、分極反転パターンを書き換える場合や製造工程の途中で調整する必要性がある場合には、電気光学ポリマーは好適に利用可能である。また、後述するように光導波路の屈折率を高くし、遅波導波路を構成する場合には、フォトニック結晶を用いる、特に、半導体のフォトニック結晶を用いることができる。
【0022】
ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどの基板に光導波路2を形成する方法としては、Tiなどを熱拡散させる方法やプロトン交換する方法などで基板表面に高屈折率材料を拡散もしくはプロトン交換させることにより形成することができる。また、光導波路以外の基板をエッチングしたり、光導波路の両側に溝を形成するなど、基板に光導波路に対応する部分を凸状としたリッジ形状の導波路を利用することも可能である。GaAsを基板に光導波路2を形成する方法としては、光導波路に対応する部分を凸状としたリッジ形状の導波路を利用することができる。電気光学ポリマーの光導波路は、スピンコート、フォトリソ、エッチング工程により、電気光学ポリマーより低屈折率のクラッド材に光導波路が埋め込まれた形状に加工し、埋込みリッジ状はあるいは埋込み矩形状のコア部を有する光導波路として形成することができる。
【0023】
基板1上には、信号電極3や接地電極などの変調電極が形成されるが、このような電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO
2等のバッファ層を設け、バッファ層の上に変調電極を形成することも可能である。
図2の符号Sは、変調信号であり、併せて変調信号の入力部を示している。
【0024】
本発明の光変調器(
図2参照)には光ファイバ(不図示)が光学的に結合されている。電気光学効果を有する基板にキャピラリ等を利用して光ファイバを直接接合する方法や、電気光学効果を有する基板に、光導波路を形成した石英基板等を接合し、該石英基板等に光ファイバを接合することも可能である。さらに、電気光学効果を有する基板や石英基板等に空間光学系を介して出射光L2を光ファイバに導入するよう構成することも可能である。両分岐導波路の位相差調整手段の図示は省略している。変調信号波形Sにバイアス電圧を重畳して分岐導波路間に位相差を与えても良いし、別途バイアス調整用の電極や光学的な遅延線部を設けても良い。
【0025】
本発明の光変調器においては、
図2のような、電気光学効果を有する材料の基板を使用し、基板の一部を分極反転10している。矢印P1,P2は基板の分極方向を示している。このような分極反転構造を進行波電極型光変調器に適用すると、マイクロ波帯・ミリ波帯の高速電気信号の有用な処理が行える。一次の電気光学効果(ポッケルス効果)は、三階テンソルで表される物理量であり、分極反転により空間的な反転を行うと対応するテンソル成分の符号が反転する。一方、屈折率や誘電率は二階テンソル量であり、反転しても符号は変わらない。つまり、強誘電性光学結晶中に分極反転領域を形成すると、電気特性・光学特性は反転および非反転領域で同じであるが、一次の電気光学効果による作用の符号が反転と非反転領域とでは互いに異なる。したがって、電気回路や光回路の特性を変えることなく、電気が光に作用する極性を調節することができる。たとえば、進行波型光変調器のように、同方向に伝搬する電気信号が光信号に及ぼす作用を考える。高周波で効率的に動作する変調器を作製するには、通常は、二つの信号の速度を整合させることが行われるが、分極反転構造を導入すると、極性による補償により、両者に速度差がある場合でも効率的な変調作用を得ることができる(非特許文献2参照)。さらに、分極反転を利用することにより、ゼロチャープ強度変調、光SSB(Single Side Band)変調などの有用な特性を得ることもできる。
【0026】
電気光学効果による電気信号の光信号への作用は、線形システムの入出力として扱える。両信号に速度差があり、電気信号が光信号を追い越しながら作用をする場合も、電気信号が光信号に追い越されながら作用をする場合も、光変調特性は変調信号の時間的線形畳み込みとなる。したがって、分極反転構造を持つ進行波電極型光変調器の変調周波数特性は、分極反転パターンに直接的に対応するインパルス応答のフーリエ変換で与えられる。
【0027】
つまり、本発明のように、光ファイバ伝送路の分散量に応じて、光変調器に伝送路の逆伝達関数のインパルス応答の分極反転を用いて形成すれば、光ファイバ伝送路の分散量を補償するプリイコライジング機能を兼ね備えた光変調器が実現可能となる。しかも、本発明の光変調器は、通常のベースバンド変調器と異なり、変調光の群速度と変調信号の群速度を合わせる必要が無いため、信号電極の断面積および表面積を大きくした超低損失な進行波型電極を用いることにより、数10GHzを超える超高速応答が可能である。また、従来のデジタル信号処理回路のように、高速A/D変換技術を用いた電気的イコライジング技術では困難な周波数でのプリイコライジングも可能となる。本発明の光変調器では、高速なデジタル信号処理回路が不要となり、低消費電力の駆動も可能となる。
【0028】
以下では、光ファイバの分散補償を行う光変調器を中心に説明する。本発明の光変調器は、分極反転を用いた電気光学変調技術を用いることにより、電気信号を光信号に変換する際に、あらかじめ所定距離の光ファイバの波長分散による波形歪の逆の特性を持たせることで、特性劣化を補償するものである。
【0029】
本発明の光変調器は、数10Gbps以上、さらには100Gbpsを超える高速伝送の場合にも適用可能である。しかも、波長によらず波形劣化を補償することができる。このため、本発明は、従来の分散補償技術を凌駕する画期的な技術でもある。本発明が利用する分散補償技術の特徴は、以下のような点が列挙できる。
(1)デジタル信号処理技術では対応が困難な40Gbpsを超える高速電子に対応可能
(2)FBG方式のような、波長帯域の制限がない
(3)光変調器自体が分散補償機能を有すること
【0030】
上記(1)及び(2)を兼ね備える特徴は、波長多重の高速伝送システムにおける分散補償技術として有用性が高い。
【0031】
本発明の光変調器における分散補償技術について、詳細に説明する。
光ファイバ中を伝搬する光波の位相定数をβ(ω)とすると、長さLの光ファイバの伝達関数H(ω)は、以下の式となる。
H(ω)=exp(jβ(ω)L)
【0032】
さらに、分散補償において、β(ω)をキャリア角周波数ω=ω
0の周りでテーラー展開した時の2次の項を考えればよく、以下のように変形できる。
H(ω)=exp(jβ
2ω
2L/2)
ここで、β2は、テーラー展開の2次の項を意味し、群速度分散を表す。
【0033】
これにより、光ファイバのインパルス応答h(t)は、以下の数2に示す式で表現できる。
【0035】
光ファイバの分散を補償するには、光ファイバの分散補償するための伝達関数は1/H(ω)=H
*(ω)であるため、光変調器において、分散補償のインパルス応答であるh
*(t)(=1/h(t))に対応する変調を行えばよい。具体的には、
図2に示すマッハツェンダー型導波路2を持つ、MZ干渉型光変調器を用いる場合、一方の分岐導波路21でh
*(t)の実部応答性Re{h
*(t)}の変調を行い、他方の分岐導波路で虚部応答性Im{h
*(t)}の変調を行い、両者を所定の位相差で合成すればよい。位相差は、90°となるように設定することが最も好ましい。
【0036】
図3は、80km伝送を行った際の光ファイバの分散補償のためのインパルス応答h
*(t)であり、(a)は実部応答性Re{h
*(t)}、(b)は虚部応答性Im{h
*(t)}を示すグラフである。
【0037】
一般には、インパルス応答性を自在に設定することは難しいが、強誘電体材料のように一次の電気光学効果を有する材料に分極反転構造をもちいれば、このインパルス応答性を近似的に実現することが可能である。
【0038】
具体的には、
図2のように、光導波路2が2つの分岐導波路を持つマッハツェンダー型導波路を有し、一方の分岐導波路に形成される分極反転10のパターンは、上述した光ファイバのインパルス応答h(t)を補償するインパルス応答h
*(t)(=1/h(t))の実部応答性に対応するパターンとし、他方の分岐導波路に形成される分極反転のパターンは、分散補償のインパルス応答h
*(t)の虚部応答性に対応するパターンを施せば良い。
【0039】
2つの分岐導波路を通過した光波は、所定の位相差で合成される。この位相差を発生する方法としては、各分岐導波路の長さを調整する方法や、分岐導波路に沿って配置した信号電極又はDCバイアス電極を用いて、分岐導波路の屈折率を調整する方法などが利用可能である。
【0040】
図2のような光変調器は、プリイコライジング機能を備えた分散補償変調器として動作する。さらに、デュアルMZ変調器(メインMZ型光導波路の分岐導波路にサブMZ型光導波路を組み込んだ入れ子型の光導波路を有する光変調器)を用いると、プリイコライジングベクトル光変調が可能であるため、より高精度な分散補償が可能である。しかも、QPSK変調、デュオバイナリー変調との併用も可能である。
【0041】
図2では、変調電極として、2つの導波路に跨る信号電極3を接地電極30で挟むコプレーナ型電極を示したが、本発明の光変調器は、
図2に示したものに限らず、特許文献4に示すような、各光導波路に対応して信号電極を配置することが可能である。また、使用する基板の種類により、
図2のようなZカット型に限らず、
図1のようなXカット型を用いることも可能であり、これに伴い、電極の配置構成も種々の形態を採用することが可能である。なお、
図1では、接地電極を図示することを省略している。
【0042】
次に、本発明の光変調器の特徴である、長い距離の光ファイバの分散補償を行う方法について説明する。コプレーナ電極に沿って進行する変調波電界は擬似TEMモードであり、通常、その信号の実効屈折率やインピーダンスの周波数分散は十分小さい。さらに、変調波電界の減衰も無視できる場合には
、光変調器のインパルス応答をステップ応答から求めることができる。
【0043】
図4(a)は、光変調器の光波と変調信号との関係を示すモデルである。まず、この光変調器をステップ電圧で駆動する場合を考える。変調信号の分散と減衰は十分小さく、ステップ電圧は歪むことなくそのまま終端まで達するとすれば、光変調のステップ応答(
図4(b)参照)は、線形な応答を示す。ステップ応答を時間的に微分すればインパルス応答が得られる。したがって、速度整合が取れていない進行波型電極光位相変調器のインパルス応答(
図4(c)参照)は、方形となる。
【0044】
図4(c)に示すインパルス応答時間Tt(ΔT)と、
図4(b)に示すステップ応答に係る時刻(Tg、Tm)との関係は、以下のような式で表示される。
Tt=Tm−Tg=Lt/vm−Lt/vg=(nm−ng)Lt/c
ここで、vmは変調信号の伝搬速度であり、vgは光波の伝搬速度(群速度)である。また、nmは変調信号の実効屈折率、ngは光波の群屈折率を示し、Ltは
図4(a)に示す電極長(作用領域の長さと同じであり、作用領域における光導波路の長さとも同じである。)である。cは光速を示す。
【0045】
分極反転構造を用いた進行波型電極光位相変調器のステップ応答、インパルス応答も同様に求めることができる。分極反転領域では電気光学係数の符号が反転するため、ステップ応答(
図4(b)参照)の変化の極性が反転する。このため,インパルス応答は,
図4(c)に示すように分極反転形状と対応する方形が連続したものとなる。つまり、分極反転形状を変えることで、位相変調器のインパルス応答を自在に設定することができる。インパルス応答の時間幅ΔT(=Tt)と、作用領域の長さΔL(=Lt)との関係は次式で与えられる。
ΔT=(nm−ng)ΔL/c
【0046】
図5には、分極反転構造を用いた進行波型電極光位相変調器の、(a)光波と変調信号との関係を示すモデル、(b)光変調のステップ応答、(c)インパルス応答をそれぞれ示す。
【0047】
より長い光ファイバに対する分散補償特性を得るためには、光変調器のインパルス応答の時間幅ΔTを大きくすることが必要である。
図1に示すような従来の光変調器では、ΔTを大きくするには、作用領域の長さΔLに相当する電極長(Lt)を大きくすれば良いが、これには、信号の伝搬損失、電気光学材料基板のサイズ、送信器ボードのフットプリントなどのよる限界がある。
【0048】
本発明者らは、この問題に対応するため、
図2に示すように、光波の伝搬方向と変調信号の伝搬方向とを互いに逆向きにすることを見出した。電気信号が光信号と逆方向に進行しながら作用をする場合も、光変調特性は変調信号の時間的線形畳み込みとなる。つまり、
図4(a)に示す変調信号の伝搬速度vmと光波の伝搬速度vgとを互いに逆方向になるように設定すると、インパルス応答の時間幅ΔTは、次式で表示することができる。
ΔT=(nm+ng)ΔL/c
つまり、インパルス応答時間幅は、変調信号速度と光波速度の和に比例する。
【0049】
LNやLT結晶を基板としてコプレーナ電極を形成した光変調器では、通常、nm〜4、ng〜2であるので、差が和に置き換わることは、分散補償可能な光ファイバの長さがおよそ3倍となることを意味する。つまり、従来、分散の補償範囲はファイバ伝送路の距離換算で25km程度であったものが、約80kmにまで伸びることを意味している。
【0050】
当然、変調電極を、伝搬する変調信号の速度をより遅くする遅波導波路とした場合には、変調信号の実効屈折率nmが大きくなり、インパルス応答時間幅ΔTも長くなる。コプレーナ電極はマイクロストリップ電極に比べ形状パラメータが多い分だけ、実効屈折率や特性インピーダンスを広範囲に調整することが可能となる。遅波導波路として設計は、信号電極の幅を大きくしたり、変調電極の高さを下げたり、信号電極と接地電極との間隔を広げたりすることで、容易に実現することができる。
【0051】
また、光導波路を、伝搬する光波の速度をより遅くする遅波導波路とした場合にも、光波の群屈折率ngが大きくなり、インパルス応答時間幅ΔTも長くなる。遅波導波路としては、フォトニック結晶(ng≧5)、特に、半導体のフォトニック結晶(ng=10〜50000)を用いることができる。さらに、特許文献6にも開示されているような、回折格子構造等を採用することで、光の群屈折率を調整することも可能である。
【0052】
上述したように、変調信号の伝搬方向と光波の伝搬方向とを互いに逆向きにした場合には、光波の変調度が小さくなる。この問題を解消するため、変調される光波の搬送波成分を除去又は抑圧することで、実効的な変調効率を向上させることができる。光位相変調の深さは、位相変化の振幅の位相差πに対する比で定義され、光信号伝送用途においては、位相変調部における変調度は1(100%)以下である。変調度が0〜100%の範囲では、変調度が増加すると、光搬送波成分に対する一次の側帯波成分は単調に増加する。つまり、光搬送波成分のみを減衰させると光量は減衰するもの、光変調度が高まることになる。光量の減衰は、エルビウムドープファイバアンプ(EDFA)やファイバーラマンアンプなどの光ファイバ増幅器で十分に補うことができる。
【0053】
光搬送波成分を抑圧(除去)する方法としては、
図8に示すように、分散補償を行う光変調部分100に対して、搬送波の一部を導出する光導波路200を設ける。光導波路200の途中には、抽出した搬送波の強度を調整するアッテネータ201が配置される。アッテネータとしては、MZ型強度変調器を使用することも可能である。強度を調整された搬送波は、光変調部分100から出射される、分散補償を行った光波と合波、干渉され、光搬送波成分を抑圧するよう働く。光導波路200には、必要に応じて、光変調部分100と光導波路200との間の位相差を調整する構成を組み込むことも可能である。光搬送波成分の強度は、光搬送波成分を光変調部分100と光導波路200とに分岐、または、合波する比率を変えることでも行える。分岐比または合波比を調整する構成を盛り込んでもよい。
【0054】
搬送波光成分を抑圧する他の方法としては、
図9に示すように、分散補償を行った光波を、特定波長を減衰する光フィルタ300を通過させ、搬送波光成分を抑圧することができる。側帯波成分を減衰させずに光搬送波成分のみを有効に減衰させることが必要であるため、光フィルタ300の減衰波長幅は変調周波数より狭いことが望ましい。フィルタ300として誘電体多層膜フィルタ、FBGフィルタ、AWG(array waveguide)や非対称マッハツエンダーカップラー等の波長分離素子、エタロンなどを用いても良い。またフィルタ300としては、カット波長が固定の光フィルタに限らず、可変エタロン等の透過波長やカット波長を調整する機能を備えた光フィルタを用いることも可能である。光搬送波成分の減衰に加えて、低周波側の光搬送波成分を適宜減衰させることにより、変調光スペクロラムにおける高周波変調の成分を相対的に高め、光変調器や駆動回路の周波数特性に起因する高周波応答性の不足を補償しても良い。
【0055】
具体的に、
図2に示すように、ニオブ酸リチウムを基板として、マッハツェンダー型光導波路とコプレーナ型電極を用いた構成を用いたシミュレーション(伝送特性解析)を行った。作用領域には、
図3に示すような、80kmの分散補償を行うためのパターンを分極反転構造で形成した。これを40Gbpsの2値ASK(On/Off keying)信号で動作させた場合の特性を評価した。
図6(アイパターン)及び
図7(I−Qコンスタレーション・ダイヤグラム)のように、変調器出力直後の光波の時間波形は、一見したところ歪んだ波形や分布を示すが、この波形に、設計した長さ80kmの光ファイバの分散特性を与えたところ、波形歪等が補償されて良好な信号波形やI−Q信号分布が得られた。
【0056】
以上で説明した光変調器に対しては、特許文献5でも開示しているように、光変調器を構成する変調電極の近傍(基板の直上等)に、誘電体材料又は金属材料からなる調整部材を配置(位置調整可能に配置)することも可能である。これにより、変調電極を伝搬する変調信号であるマイクロ波の実効屈折率を大きく変化させることが可能となる。これにより、分散補償量をさらに大幅に調整することができる。