特許第6597065号(P6597065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6597065炭化珪素単結晶、炭化珪素単結晶ウェハ、炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ、電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597065
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶、炭化珪素単結晶ウェハ、炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ、電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20191021BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20191021BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20191021BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C23C16/42
   C23C14/06 B
   H01L21/205
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-170814(P2015-170814)
(22)【出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2017-48068(P2017-48068A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2017年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 武志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏行
(72)【発明者】
【氏名】金村 高司
(72)【発明者】
【氏名】宮原 真一朗
(72)【発明者】
【氏名】海老原 康裕
(72)【発明者】
【氏名】恩田 正一
(72)【発明者】
【氏名】土田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 功穂
(72)【発明者】
【氏名】田沼 良平
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3745668(JP,B2)
【文献】 特開2010−184833(JP,A)
【文献】 特開2014−159351(JP,A)
【文献】 特開2014−227319(JP,A)
【文献】 HARADA, Shunta et al.,Dislocation Conversion during SiC Solution Growth for High-quality Crystals,Materials Science Forum,2015年,Vols.821-823,P. 3-8
【文献】 NEUDECK, Philip G.,Electrical Impact of SiC Structural Crystal Defects on High Electric Field Devices,NASA/TM-1999-209647,1999年,p. 1-6
【文献】 恩田 正一,4H−SiCにおける結晶欠陥の微細構造とデバイス特性への影響に関する研究,筑波大学博士論文,2013年,P. 66-81
【文献】 山口 博隆,X線トポグラフィーによるSiCの転位評価,平成26年度 SAGA−LS実験技術セミナー〜X線トポグラフィの基礎と応用〜実施報告書,2014年,P. 31-48
【文献】 YAO, Yong-zhao,Materials Science Forum ,2014年,Vols. 778-780,p. 346-349
【文献】 姚永昭 ほか,高温KOH・NaOH蒸気エッチングを用いたSiC結晶貫通転位検出・分類技術のX線トポグラフィー検証及びSiC表面潜傷の評価,先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業フォトンファクトリーの産業利用促進利用報告書,2014年,P. 1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在する炭化珪素単結晶(2、3)であって、
前記貫通転位のうち、前記バーガースベクトルと前記転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が40°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする炭化珪素単結晶。
【請求項2】
前記角度が0°より大きく20°以内である前記貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が20°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶。
【請求項3】
前記角度が0°より大きく7°以内である前記貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が7°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶。
【請求項4】
転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在する炭化珪素単結晶ウェハ(101)であって、
前記貫通転位のうち、前記バーガースベクトルと前記転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が40°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする炭化珪素単結晶ウェハ。
【請求項5】
前記角度が0°より大きく20°以内である前記貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が20°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
【請求項6】
前記角度が0°より大きく7°以内である前記貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が7°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
【請求項7】
炭化珪素単結晶基板(2)と、
前記炭化珪素単結晶基板上に形成されたエピタキシャル成長層(3)とを備える炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハであって
前記炭化珪素単結晶基板および前記エピタキシャル成長層は、転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在し、
前記貫通転位のうち、前記バーガースベクトルと前記転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が40°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項8】
前記角度が0°より大きく20°以内である前記貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が20°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項9】
前記角度が0°より大きく7°以内である前記貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が7°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【請求項10】
転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在する炭化珪素単結晶基板(2)を備え、
前記炭化珪素単結晶基板は、前記貫通転位のうち、前記バーガースベクトルと前記転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が40°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする電子デバイス。
【請求項11】
炭化珪素単結晶基板(2)と、
前記炭化珪素単結晶基板上に形成されたエピタキシャル成長層(3)とを備え、
前記炭化珪素単結晶基板および前記エピタキシャル成長層は、転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在し、前記貫通転位のうち前記バーガースベクトルと前記転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が40°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする電子デバイス。
【請求項12】
前記角度が0°より大きく20°以内である前記貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が20°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする請求項10または11に記載の電子デバイス。
【請求項13】
前記角度が0°より大きく7°以内である前記貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、前記角度が7°よりも大きく90°より小さい前記貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴とする請求項10または11に記載の電子デバイス。
【請求項14】
前記炭化珪素単結晶ウェハの直径は、100mm以上であることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶ウェハ。
【請求項15】
前記炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハの直径は、100mm以上であることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)単結晶、SiC単結晶ウェハ、SiC単結晶エピタキシャルウェハ、電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高品質なSiC単結晶として、特許文献1に記載のものがある。この特許文献1のSiC単結晶は、螺旋転位を、ひずみが大きな転位とひずみが小さな転位とにバーガースベクトルのみを用いて区分けし、ひずみが大きな転位の密度が低くされていることを要件としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−159351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者がデバイス特性と貫通転位との関係を調べた結果、次のことがわかった。すなわち、SiC単結晶中に存在する貫通転位には、バーガースベクトルの向きと転位線の向きとのなす角度が大きな転位がある。この角度が大きい転位がSiC単結晶中に多く存在すると、デバイス特性が著しく悪化することがわかった。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、デバイス特性を改善できる高品質なSiC単結晶、SiC単結晶ウェハ、SiC単結晶エピタキシャルウェハを提供することを目的とする。また、本発明は、デバイス特性が改善された電子デバイスを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、
転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在する炭化珪素単結晶(2、3)であって、
貫通転位のうち、バーガースベクトルと転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、その角度が40°よりも大きく90°より小さい貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴としている。
【0007】
このようにバーガースベクトルと転位線の向きとのなす角度(θ1)が大きいことでひずみが大きな貫通転位の密度が低い炭化珪素単結晶を電子デバイスに用いることで、デバイス特性を改善することができる。よって、これによれば、高品質な炭化珪素単結晶を提供できる。
【0008】
また、請求項4に記載の発明では、
転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在する炭化珪素単結晶ウェハ(101)であって、
貫通転位のうち、バーガースベクトルと転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、その角度が40°よりも大きく90°より小さい貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴としている。
【0009】
このようにひずみが大きな貫通転位の密度が低い炭化珪素単結晶ウェハを用いて電子デバイスを製造することで、デバイス特性を改善することができる。よって、これによれば、高品質な炭化珪素単結晶ウェハを提供できる。
【0010】
また、請求項7に記載の発明では、
炭化珪素単結晶基板(2)と、
炭化珪素単結晶基板上に形成されたエピタキシャル成長層(3)とを備える炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハであって
炭化珪素単結晶基板およびエピタキシャル成長層は、転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在し、
貫通転位のうち、バーガースベクトルと転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、その角度が40°よりも大きく90°より小さい貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴としている。
【0011】
このようにひずみが大きな貫通転位の密度が低い炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハを用いて電子デバイスを製造することで、デバイス特性を改善することができる。よって、これによれば、高品質な炭化珪素単結晶エピタキシャルウェハを提供できる。
【0012】
また、請求項10に記載の発明では、
転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在する炭化珪素単結晶基板(2)を備え、
炭化珪素単結晶基板は、貫通転位のうち、バーガースベクトルと転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、その角度が40°よりも大きく90°より小さい貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴としている。
【0013】
また、請求項11に記載の発明では、
炭化珪素単結晶基板(2)と、
炭化珪素単結晶基板上に形成されたエピタキシャル成長層(3)とを備え、
炭化珪素単結晶基板およびエピタキシャル成長層は、転位線(21)がc面を貫通するとともに、バーガースベクトル(bv)が少なくともc軸方向の成分を有する貫通転位(20)が存在し、貫通転位のうちバーガースベクトルと転位線の向きとのなす角度(θ1)が0°より大きく40°以内である貫通転位の密度が300個/cm以下とされ、その角度が40°よりも大きく90°より小さい貫通転位の密度が30個/cm以下とされていることを特徴としている。
【0014】
請求項10、11に記載の発明によれば、炭化珪素単結晶基板、または、炭化珪素単結晶基板およびエピタキシャル成長層は、ひずみが大きな貫通転位の密度が低いので、ひずみが大きな貫通転位の密度が高い場合と比較して、デバイス特性を改善できる。
【0015】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態におけるSiC単結晶エピタキシャルウェハの断面図である。
図2】第1実施形態におけるMOSキャパシタの断面図である。
図3】貫通転位を示す模式図である。
図4】貫通転位のバーガースベクトルと転位線がなす角度と、MOSキャパシタの寿命との関係を示す図である。
図5】他の実施形態におけるSiC単結晶ウェハの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。なお、結晶の方位を示す場合、本来ならば所望の数字の上にバー(−)を付すべきであるが、電子出願に基づく表現上の制限が存在するため、本明細書においては、所望の数字の前にバーを付すものとする。
【0018】
(第1実施形態)
本実施形態では、SiC単結晶エピタキシャルウェハと、このウェハを用いて製造されるMOSキャパシタについて説明する。
【0019】
図1に示すように、SiC単結晶エピタキシャルウェハ1は、SiC単結晶基板2と、SiC単結晶基板2の表面上にエピタキシャル成長によって形成されたSiCエピタキシャル成長層3とを有する。以下では、SiC単結晶エピタキシャルウェハ1をウェハ1とも言い、SiC単結晶基板2を単結晶基板2とも言い、SiCエピタキシャル成長層3をエピ層3とも言う。単結晶基板2およびエピ層3を構成するSiC単結晶の結晶多形は4Hである。ウェハ1の表面1a(すなわち、エピ層3の表面3a)における{0001}面に対する<11−20>方向のオフ角度は約4°である。エピ層3の導電型はn型である。なお、SiC単結晶は、6H、3C等の他の結晶多形であってもよい。また、ウェハ1の表面1aは、{0001}面に対して<11−20>方向に10°以内のオフ角が設定されていればよい。
【0020】
なお、ウェハ1としては、直径が100mm以上または約150mm以上のものを用いることができる。また、ウェハ1は、マイクロパイプ密度が1個/cm未満、貫通刃状転位密度が3000個/cm未満、積層欠陥密度が0.1個/cm未満、インクルージョン密度が1個/cm未満であることが好ましい。
【0021】
図2に示すように、MOSキャパシタ10は、MOS構造を有する電子デバイスである。MOSキャパシタ10は、単結晶基板2と、SiC単結晶基板2の表面上に形成されたn型ドリフト層としてのエピ層3と、エピ層3の表面3a上に形成された酸化膜4と、酸化膜4の表面上に形成された第1電極5と、SiC単結晶基板2の裏面上に形成された第2電極6とを備えている。
【0022】
このMOSキャパシタ10は、図1に示すウェハ1の表面1a上に酸化膜4を形成し、酸化膜4の表面上に第1電極5を形成し、単結晶基板2の裏面上に第2電極6を形成した後、このウェハ1を所望のサイズにダイシングすることで製造される。ウェハ1の単結晶基板2およびエピ層3が、MOSキャパシタ10の単結晶基板2およびエピ層3に対応する。このように、本明細書において、「基板」は、ダイシング前のウェハの状態を指す場合と、ウェハをダイシングした後の状態を指す場合とがある。また、本実施形態では、ウェハ1の単結晶基板2およびエピ層3と、MOSキャパシタ10の単結晶基板2およびエピ層3とが、本発明のSiC単結晶に対応する。
【0023】
図1、2に示すように、ウェハ1、MOSキャパシタ10の単結晶基板2およびエピ層3には、貫通転位20が存在する。この貫通転位20は、原子面が転位線21の周りで螺旋状に配置された結晶欠陥である。この貫通転位20は、転位線21がSiC単結晶のc面を貫通し、バーガースベクトルが少なくともc軸方向の成分を有する転位である。
【0024】
ここで、c面は{0001}面であり、c軸は<0001>軸である。バーガースベクトルが少なくともc軸方向の成分を有するとは、バーガースベクトルがc軸方向の成分のみを有する場合と、バーガースベクトルがc軸方向の成分と他の軸方向の成分とを有する場合を含む意味である。バーガースベクトルがc軸方向の成分と他の軸方向の成分とを有する場合としては、bv=a+c、bv=m+c、bv=2a+cの場合が挙げられる。ここで、bvはバーガースベクトルを示し、aは1/3<11−20>方向のベクトルを示し、cは<0001>方向のベクトルを示し、mは<1−100>方向のベクトルを示す。
【0025】
さらに、この貫通転位20は、図3に示すように、バーガースベクトルbvの向きと転位線21の向きとがずれている転位である。バーガースベクトルbvと転位線21の向きとのなす角度θ1が大きいほど、ひずみが増加する。なお、この角度θ1の取り得る範囲は、0°よりも大きく、90°よりも小さい(0°<θ1<90°)。
【0026】
そこで、本実施形態では、単結晶基板2およびエピ層3は、このような貫通転位20のうちバーガースベクトルbvと転位線の向きとのなす角度θ1が0°より大きく40°以内(0°<θ1≦40°)である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が40°よりも大きな(θ1>40°)貫通転位20の密度が30個/cm以下とされている。好ましくは、単結晶基板2およびエピ層3は、角度θ1が20°以内(0°<θ1≦20°)である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が20°よりも大きな(θ1>20°)貫通転位20の密度が30個/cm以下とされる。さらに好ましくは、単結晶基板2およびエピ層3は、角度θ1が7°以内(0°<θ1≦7°)である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が7°よりも大きな(θ1>7°)貫通転位20の密度が30個/cm以下とされる。角度θ1が0°より大きく40°以内とは、角度θ1が0°より大きく40°以内の要件を満たす角度であることを意味し、角度θ1の大きさが均一である場合に限らず、不均一である場合も含まれる。角度θ1が20°以内、7°以内についても同様である。
【0027】
バーガースベクトルbvは、LACBED法(大角度収束電子回折法:Large-angle convergent-beam electron diffraction)によって求められる。例えば、電子線をデフォーカスさせ試料に照射すると、転位周辺のひずみによりHOLZ線が分裂する。そこで、分裂したHOLZ線をシミュレーションにより指数付けする。HOLZ線の指数と分裂数から貫通転位20のバーガースベクトルbvを解析することが可能である。
【0028】
転位線21の向きは、TEM(透過電子顕微鏡:transmission electron microscope)の3D(三次元)観察法によって求められる。通常のTEM観察では、電子線入射方向と垂直な方向の転位の傾きは評価可能であるが、平行な方向の傾きは評価できない。すなわち、電子線入射方向と平行な面内での転位の傾きは評価できない。そこで、入射電子線方向または試料を傾斜させることで、所定の入射方向と平行な方向の傾きを評価する。
【0029】
例えば、電子線回折像から入射方向を[1−100]に合わせて観察することで、<0001>軸から[11−20]方向の傾斜角度を観察できる。なお、<0001>軸方向は電子線回折像から判断する。次に、電子線照射方向を<0001>軸に対称に回転させる。これにより、観察される転位の傾きが変化する。その変化量から[1−100]方向の傾きを計算し求める。
【0030】
転位線21の向きは、共焦点機能を有するフォトルミネッセンス装置(3DPL)を用いて求めたり、共焦点機能を有するラマン分光装置(3Dラマン)を用いて求めたりすることも可能である。
【0031】
バーガースベクトルbvと転位線21のなす角度は、空間図形における二つのベクトルのなす角度を求める算出方法を用いて求められる。
【0032】
貫通転位20の密度は、SiC単結晶の所定の面における1cm当たりに存在する貫通転位20の個数を数えることで求められる。例えば、エピ層3に対して、KOHを含む溶融塩を用いたエッチングを行い、TEMや光学顕微鏡を用いて、略六角形形状のエッチピットが観察された貫通転位20の数を数える。観察する面としては、c面から傾斜した面であって傾斜角度が10°以下の面を用いる。観察する領域は、1cm×1cmの大きさの領域である。なお、観察する領域は、1cm×1cmの大きさ以上の領域であっても、1cm×1cmの大きさ未満であってもよい。ただし、観察領域が十分な大きさを有していない場合、正確な転位密度を評価できないため、観察する領域は1cm×1cmの大きさ以上の領域であることが好ましい。
【0033】
ここで、図4に、上記したMOSキャパシタ10の寿命と、単結晶基板2およびエピ層3に存在する貫通転位20のバーガースベクトルbvと転位線21とがなす角度θ1との関係について、本発明者が調べた実験結果を示す。
【0034】
この実験では、図4中の点P1〜P6のように、貫通転位20の角度θ1が所定の大きさ以下のものの密度が所定の大きさであるウェハ1を用いた。また、実験で用いたウェハ1のうち点P1、P2、P3のウェハ1については、各点の角度を超える貫通転位の密度が30個/cm以下のものであった。例えば、点P3のウェハ1は、点P3の角度よりも大きな貫通転位20の密度が30個/cm以下のものであった。図4中の点P1、P2、P3についての近似曲線TL1は、各点を最小二乗法により指数関数で近似することで求めたものである。
【0035】
また、図4中の点P1、P2、P4、P5、P6のウェハ1については、貫通転位20のバーガースベクトルbvはa+cであった。また、点P3のウェハ1については、貫通転位20のバーガースベクトルbvはm+cであった。用いたウェハ1は、特許第3745668号に記載の製造方法によって製造されたものである。また、用いたウェハ1は、表面1aが{0001}面に対して<11−20>方向に約4°のオフ角が設定されたものである。また、密度を測定した貫通転位20は、表面1aに到達していたものである。
【0036】
MOSキャパシタ10の寿命の測定では、MOSキャパシタ10に対して逆方向に一定の電圧を印加し、リーク電流値が所定値に増加するまでの時間を測定した。
【0037】
図4に示す実験結果より、2000秒以上の寿命を持つような高品質デバイスを作製するためには、角度θ1が0°より大きく40°以内の貫通転位20が300個/cm以下に抑えられており、角度θ1が40°より大きな貫通転位20が30個/cm以下に抑えられていればよいことがわかった。また、5000秒以上の寿命を持つような高品質デバイスを作製するためには、角度θ1が0°より大きく20°以内の貫通転位20が300個/cm以下に抑えられており、角度θ1が20°より大きな貫通転位20が30個/cm以下に抑えられていればよいことがわかった。さらに、10000秒以上の寿命を持つような高品質デバイスを作製するためには、角度θ1が0°より大きく7°以内の貫通転位20が300個/cm以下に抑えられており、角度θ1が7°より大きな貫通転位20が30個/cm以下に抑えられていればよいことがわかった。
【0038】
なお、図4は、ウェハ1に存在する貫通転位の角度θ1が特定の大きさ以下である場合の実験結果であるが、この実験結果より、角度θ1の大きさが不均一であっても、角度θ1が40°よりも小さければ、2000秒以上の寿命を持つ高品質なデバイスを作製できることが推測できる。
【0039】
以上の説明の通り、本実施形態のウェハ1は、単結晶基板2およびエピ層3に存在する貫通転位20のうちバーガースベクトルbvと転位線21の向きとのなす角度θ1が0°より大きく40°以内である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が40°よりも大きな貫通転位20の密度が30個/cm以下とされている。本実施形態のウェハ1は、好ましくは、角度θ1が20°以内である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が20°よりも大きな貫通転位20の密度が30個/cm以下とされる。本実施形態のウェハ1は、さらに好ましくは、角度θ1が7°以内である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が7°よりも大きな貫通転位20の密度が30個/cm以下とされる。
【0040】
このように、本実施形態のウェハ1は、ひずみが大きな貫通転位の密度が低くされている。したがって、本実施形態のウェハ1を用いて、MOSキャパシタ10を製造することで、MOSキャパシタ10の寿命を長くできる。
【0041】
また、本実施形態のMOSキャパシタ10は、単結晶基板2およびエピ層3に存在する貫通転位20のうちバーガースベクトルbvと転位線21の向きとのなす角度θ1が0°より大きく40°以内である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が40°よりも大きな貫通転位20の密度が30個/cm以下とされており、好ましくは、角度θ1が20°以内である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が20°よりも大きな貫通転位20の密度が30個/cm以下とされており、さらに好ましくは、角度θ1が7°以内である貫通転位20の密度が300個/cm以下とされ、角度θ1が7°よりも大きな貫通転位20の密度が30個/cm以下とされている。
【0042】
このように、MOSキャパシタ10を構成する単結晶基板2およびエピ層3は、ひずみが大きな貫通転位の密度が低くなっている。このため、ひずみが大きな貫通転位の密度が高い場合と比較して、MOSキャパシタ10の寿命を長くできる。すなわち、電子デバイスのデバイス特性を改善できる。
【0043】
なお、本実施形態では、ウェハ1およびMOSキャパシタ10のエピ層3の表面3aが{0001}面に対して<11−20>方向に10°以内のオフ角が設定されており、この表面3aに到達するように存在する貫通転位20の角度θ1と密度を特定している。これは、ひずみが大きな貫通転位20がエピ層3の表面3a近傍に存在する場合に、デバイス特性への影響が特に大きいと考えられるからである。ただし、ひずみが大きな貫通転位20がエピ層3の表面3a近傍に存在する場合に限らず、エピ層3のうち表面3a近傍以外の部位に存在する場合においても、貫通転位20がデバイス特性に悪影響を及ぼすと考えられる。したがって、角度θ1と密度を特定する貫通転位20は、表面3aに到達するように、エピ層3に存在するものに限られない。
【0044】
また、本実施形態のウェハ1は、特許第3745668号に記載の製造方法によって製造されたものであるが、他の製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0045】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、下記のように、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0046】
(1)第1実施形態では、SiC単結晶を用いて製造される電子デバイスの一例としてMOSキャパシタ10を挙げ、このMOSキャパシタ10の寿命について調べたが、他の電子デバイスの寿命についても図4と同様の結果が得られるものと考えられる。他の電子デバイスとしては、MOSキャパシタ以外のMOS構造を有する電子デバイスや、ダイオードを有する電子デバイスが挙げられる。MOS構造を有する電子デバイスは、MOSキャパシタ10と同様に、SiC単結晶の上に酸化膜4を介して第1電極5を形成した構造のものである。例えば、MOS構造を有する電子デバイスとしては、第1電極5をゲート電極とするMOSFETなどが挙げられる。ダイオードを有する電子デバイスとしては、ショットキーダイオードやPNダイオードが挙げられる。例えば、図2における酸化膜4を除いた構造、すなわちエピ層3の表面3aに第1電極5を形成し、第1電極5をエピ層3に対してショットキー接触させることでショットキーダイオードを構成できる。また、図2において、エピ層3の表層部にp型層を形成し、p型層に対して第1電極5をオーミック接触させることでPNダイオードを構成できる。
【0047】
(2)第1実施形態では、SiC単結晶エピタキシャルウェハ1を用いて電子デバイスを製造したが、図5に示すSiC単結晶ウェハ101を用いて電子デバイスを製造してもよい。このSiC単結晶ウェハ101は、SiC単結晶が基板状にされたものであり、エピタキシャル成長層を有していないものである。すなわち、このSiC単結晶ウェハ101は、第1実施形態のウェハ1の単結晶基板2とエピ層3のうち単結晶基板2のみで構成されたものに相当する。
【0048】
このSiC単結晶ウェハ101は、第1実施形態のウェハ1の単結晶基板2と同様に、ひずみが大きな貫通転位の密度が低くなっている。このため、SiC単結晶ウェハ101を用いて、電子デバイスを製造することで、第1実施形態と同様に、電子デバイスの寿命を長くできる。
【0049】
なお、このSiC単結晶ウェハ101は、表面101aが{0001}面に対して<11−20>方向に10°以内のオフ角が設定されたものであり、この表面101aに到達する貫通転位20について、第1実施形態と同様の特定がされていることが好ましい。
【0050】
この場合に製造される電子デバイスは、SiC単結晶基板とSiCエピタキシャル成長層とを有する構造に限らず、SiC単結晶基板を有しているが、エピタキシャル成長層を有してない構造のものでもよい。エピタキシャル成長層を有してない構造の電子デバイスとしては、例えば、図2に示すMOSキャパシタ10において、エピ層3が形成されておらず、エピ層3に相当する部位を単結晶基板2が構成する構造のものが挙げられる。このとき、単結晶基板2の表面がSiC単結晶ウェハ101の表面101aに対応する。
【0051】
(3)上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 SiC単結晶エピタキシャルウェハ
2 SiC単結晶基板
3 SiCエピタキシャル成長層
10 MOSキャパシタ
20 貫通転位
21 転位線
101 SiC単結晶ウェハ
図1
図2
図3
図4
図5