(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記強化剤(Y)が、シリコーン系、ブタジエン系、アクリル系から選ばれるゴムもしくはこれらの複合ゴムと、一種類以上のビニル系単量体とのグラフト共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[マクロモノマー(a)]
マクロモノマー(a)は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルセグメントの片末端に、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する基を付加させたものである。ここで、マクロモノマーとは、重合可能な官能基を持ったポリマーであり、別名マクロマーとも呼ばれるものである。尚、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」又は「メタクリル酸」を示す。
【0013】
一般式(1)において、R及びR
1〜R
nは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基である。アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基は、置換基を有することができる。nは2以上1000以下であり、3以上500以下が好ましい。
【0014】
アルキル基としては、例えば、炭素数1〜20の分岐又は直鎖アルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びi−プロピル基が挙げられる。
【0015】
シクロアルキル基としては、例えば、炭素数3〜20のシクロアルキル基が挙げられる。具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基及びアダマンチル基が挙げられる。
【0016】
アリール基としては、例えば、炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。具体例としては、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。
【0017】
複素環基としては、例えば、炭素数5〜18の複素環基が挙げられる。具体例としては、γ―ラクトン基及びε―カプロラクトン基が挙げられる。
【0018】
R又はR
1〜R
nの置換基としては、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR’)、カルバモイル基(−CONR’R’’)、シアノ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基(−NR’R’’)、ハロゲン、アリル基、エポキシ基、アルコキシ基(−OR’)、及び親水性若しくはイオン性を示す基からなる群から選択される基又は原子が挙げられる。尚、R’又はR’’は、それぞれ独立して、複素環基を除いてRと同様の基が挙げられる。
【0019】
置換基としてのアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基が挙げられる。
置換基としてのカルバモイル基としては、例えば、N−メチルカルバモイル基及びN,N−ジメチルカルバモイル基が挙げられる。
置換基としてのアミド基としては、例えば、ジメチルアミド基が挙げられる。
置換基としてのハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられる。
置換基としてのアルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜12のアルコキシ基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基が挙げられる。
置換基としての親水性又はイオン性を示す基としては、例えば、カルボキシル基のアルカリ塩又はスルホキシル基のアルカリ塩、ポリエチレンオキシド基、ポリプロピレンオキシド基等のポリ(アルキレンオキシド)基及び四級アンモニウム塩基等のカチオン性置換基が挙げられる。
【0020】
R及びR
1〜R
nは、アルキル基及びシクロアルキル基から選ばれる少なくとも1種が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0021】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はi−プロピル基が好ましく、入手のしやすさの観点から、メチル基がより好ましい。
【0022】
一般式(1)において、X
1〜X
nは、それぞれ水素原子又はメチル基であり、メチル基が好ましい。さらに、マクロモノマー(a)の合成し易さの観点から、X
1〜X
nの半数以上がメチル基であることが好ましい。
【0023】
一般式(1)において、Zは、マクロモノマー(a)の末端基である。マクロモノマー(a)の末端基としては、例えば、公知のラジカル重合で得られるポリマーの末端基と同様に、水素原子及びラジカル重合開始剤に由来する基が挙げられる。
【0024】
マクロモノマー(a)の分子量Mwは、共重合体(X)の成形体の機械物性の点で、1,000以上1,000,000以下が好ましい。マクロモノマー(a)のMwの下限値は、3,000以上がより好ましく、5,000以上が更に好ましい。また、マクロモノマー(a)のMwの上限値は、500,000以下がより好ましく、300,000以下が更に好ましい。
【0025】
マクロモノマー(a)を得るためのモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等のカルボキシル基含有ビニル系単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシブチル等のエポキシ基含有ビニル系単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等のアミド基を含有するビニル系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能性のビニル系単量体;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。
これらの中で、モノマーの入手のし易さの点で、メタクリル酸エステルが好ましい。
【0026】
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル及びメタクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。
【0027】
また、マクロモノマー(a)を得るためのモノマーとしては、生成物である共重合体(X)及びこの成形体の耐熱性の点から、上記のメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルを含有するモノマー組成物が好ましい。
【0028】
アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル及びアクリル酸t−ブチルが挙げられる。これらの中で、入手しやすさの点で、アクリル酸メチルが好ましい。
【0029】
マクロモノマー(a)を得るためのモノマー組成物中のメタクリル酸エステルの含有率としては、生成物である共重合体(X)及びこの成形体の耐熱性の点から、80質量%以上99.5質量%以下が好ましい。メタクリル酸エステルの含有率は、82質量%以上99質量%以下がより好ましく、84質量%以上98質量%以下が更に好ましい。マクロモノマー(a)を得るためのモノマー組成物中のアクリル酸エステルの含有率としては、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上18質量%以下がより好ましく、2質量%以上16質量%以下が更に好ましい。
【0030】
[マクロモノマー(a)の製造方法]
マクロモノマー(a)は、公知の方法で製造できる。マクロモノマーの製造方法としては、例えば、コバルト連鎖移動剤を用いて製造する方法(米国特許第4,680,352号明細書)、α−ブロモメチルスチレン等のα置換不飽和化合物を連鎖移動剤として用いる方法(国際公開第88/04304号パンフレット)、重合性基を化学的に結合させる方法(特開昭60−133007号公報、米国特許第5,147,952号明細書)及び熱分解による方法(特開平11−240854号公報)が挙げられる。
【0031】
これらの中で、マクロモノマー(a)の製造方法としては、製造工程数が少なく、連鎖移動定数の高い触媒を使用する点で、コバルト連鎖移動剤を用いて製造する方法が好ましい。
【0032】
コバルト連鎖移動剤を用いてマクロモノマー(a)を製造する方法としては、例えば、塊状重合法;溶液重合法;懸濁重合法、乳化重合法等の水系分散重合法が挙げられる。
これらの中で、マクロモノマー(a)の回収工程の簡略化の点から、水系分散重合法が好ましい。
【0033】
本発明において使用されるコバルト連鎖移動剤としては、式(2)に示されるコバルト連鎖移動剤が使用でき、例えば、特許第3587530号公報、特公平6−23209号公報、特公平7−35411号公報、米国特許第45269945号明細書、同第4694054号明細書、同第4837326号明細書、同第4886861号明細書、同第5324879号明細書、国際公開第95/17435号、特表平9−510499号公報等に記載されているものを使用することができる。
【0034】
【化2】
(式(2)中、R
1〜R
4は、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基;Xは、それぞれ独立して、F原子、Cl原子、Br原子、OH基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基及びアリール基である。)
【0035】
コバルト連鎖移動剤としては、具体的には、ビス(ボロンジフルオロジメチルジオキシイミノシクロヘキサン)コバルト(II)、ビス(ボロンジフルオロジメチルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビス(ボロンジフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビシナルイミノヒドロキシイミノ化合物のコバルト(II)錯体、テトラアザテトラアルキルシクロテトラデカテトラエンのコバルト(II)錯体、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)錯体、ジアルキルジアザジオキソジアルキルドデカジエンのコバルト(II)錯体、コバルト(II)ポルフィリン錯体などがあげられる。中でも、水性媒体中に安定に存在し、連鎖移動効果が高いビス(ボロンジフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II)(R
1〜R
4:フェニル基、X:F原子)が好ましい。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。
【0036】
コバルト連鎖移動剤の使用量は、マクロモノマー(a)を得るためのモノマー100gに対し20〜350ppmが好ましい。コバルト連鎖移動剤の使用量が20ppm未満であれば分子量の低下が不充分となりやすく、350ppmを超えると得られるマクロモノマー(a)が着色しやすい。
【0037】
マクロモノマー(a)を溶液重合法で得る際に使用される溶剤としては、例えば、トルエン等の炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;アセトン等のケトン;メタノール等のアルコール;アセトニトリル等のニトリル;酢酸エチル等の常温で液体のエステル化合物;エチレンカーボネート等のカーボネート;及び超臨界二酸化炭素が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
後述する共重合体(X)の製造には、合成したマクロモノマー(a)を回収・精製した粉体状物で使用しても、懸濁重合で合成したマクロモノマー(a)の懸濁液をそのまま使用しても良い。共重合体(X)の製造には、マクロモノマー(a)の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
[単量体(b)]
単量体(b)は、マクロモノマー(a)と重合可能であれば特に限定されるものではない。具体的には、マクロモノマー(a)を得るためのモノマーと同様のものが挙げられる。単量体(b)は、マクロモノマー(a)との共重合性が良好であることから、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル及び(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましい。
【0040】
単量体(b)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
[共重合体(X)]
共重合体(X)は、マクロモノマー(a)と単量体(b)とを重合して得られる重合体である。
【0042】
共重合体(X)は、マクロモノマー(a)単位と単量体(b)単位を有するブロックコポリマー、並びに側鎖にマクロモノマー(a)単位を有する、単量体(b)のグラフトコポリマーから選ばれる少なくとも一種を含む。
【0043】
さらに、共重合体(X)は、マクロモノマー(a)単位のみからなるポリマー、単量体(b)単位のみからなるポリマー、未反応のマクロモノマー(a)、未反応の単量体(b)から選ばれる少なくとも1種を含有することができる。
【0044】
共重合体(X)のMwは、共重合体(X)の成形体の機械強度及び熱安定性の観点から、30,000以上5,000,000以下が好ましく、200,000以上、1,000,000以下がより好ましい。
【0045】
また、共重合体(X)の分子量分布は、2.0以上25以下が好ましく、2.0以上10以下がより好ましい。分子量分布が2.0以上であれば、共重合体(X)を溶融成形する際に成形性が良い。また、分子量分布が25以下であれば、成形体の曇価が低下し、外観が良好となる。
【0046】
共重合体(X)の曲げ弾性率は、成形体の柔軟性及び強度の観点から、50以上2000以下が好ましく、100以上、1900以下がより好ましい。
【0047】
[共重合体(X)の製造方法]
共重合体(X)の製造方法は、特に限定されず、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の各種の方法を用いることができる。重合発熱の制御が容易で、生産性に優れることから、懸濁重合又は乳化重合のような水系重合が好ましく、重合、回収操作がより簡便であることから、懸濁重合がより好ましい。
【0048】
懸濁重合による、共重合体(X)の製造方法としては、例えば、以下の[I]又は[II]が挙げられる。
[I]マクロモノマー(a)を単量体(b)に溶解し、ラジカル重合開始剤を添加する。このマクロモノマー(a)溶液を、分散剤を溶解させた水溶液に分散させ、シラップ分散液を得る。そして、得られたシラップ分散液を懸濁重合する。
[II]マクロモノマー(a)を懸濁重合で合成して得られる水性懸濁液に単量体(b)を添加し、シラップ懸濁液として、マクロモノマー(a)を溶解させた単量体(b)の分散体を得る。そして、得られたシラップ懸濁液を懸濁重合する。
【0049】
[I]の製造方法で得られる共重合体(X)は、優れた光学特性を有する傾向にある。また、[II]の製造方法では、マクロモノマー(a)の回収工程を省くことができるため製造工程を短縮できる。
【0050】
[I]、[II]のいずれの方法においても、マクロモノマー(a)を単量体(b)に溶解させる際には加温することが好ましい。加熱温度は30〜90℃が好ましい。加熱温度が30℃以上で、マクロモノマー(a)の溶解性を良好とすることができる。また、加熱温度が90℃以下で、単量体(b)の揮発を抑制できる。加熱温度の下限値は、35℃以上がより好ましい。また、加熱温度の上限値は、75℃以下がより好ましい。
【0051】
[I]の製造方法において、マクロモノマー(a)を溶解した単量体(b)へのラジカル重合開始剤の添加時期は、マクロモノマー(a)を単量体(b)に溶解した後に添加することが好ましい。
【0052】
ラジカル重合開始剤を添加する際の温度は、0℃以上、(ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度+15℃)以下であることが好ましい。ラジカル重合開始剤を添加する際の温度が0℃以上で、ラジカル重合開始剤のモノマーへの溶解性が良好となる。また、ラジカル重合開始剤を添加する際の温度が(ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度+15℃)以下であると安定な重合を行うことができる。
【0053】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及びジ−t−ブチルパーオキサイドが挙げられる。
アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)が挙げられる。
入手しやすさの点で、ベンゾイルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)が好ましい。
【0054】
ラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ラジカル重合開始剤の添加量は、重合発熱制御の点で、マクロモノマー(a)、単量体(b)の合計量100質量部に対して0.0001質量部以上10質量部以下が好ましい。
【0055】
懸濁重合における重合温度としては特に制限はなく、一般的には50〜120℃である。懸濁重合に際しては、目的に応じて連鎖移動剤を使用できる。連鎖移動剤としては、例えば、メルカプタン、α−メチルスチレンダイマー及びテルペノイドが挙げられる。
【0056】
[強化剤(Y)]
本発明の強化剤(Y)は、ゴムと一種類以上のビニル系単量体とのグラフト共重合体である。本明細書においてゴムとは、室温以下で弾性体としてふるまう架橋構造を有する重合体である。ゴムのTgは10℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。
【0057】
ゴムの具体例としては、シリコーン系ゴム、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムからなる群のいずれか、もしくはブタジエン/アクリル複合ゴムやシリコーン/アクリル複合ゴムなどこれらの複合ゴムが挙げられる。
樹脂組成物へのゴムの分散性を向上させる観点から、ゴムに一種類以上のビニル系単量体をグラフトした、グラフト共重合体を用いることができる。
【0058】
グラフト共重合体は、強化剤として樹脂組成物の耐衝撃性を向上させるためにグラフト共重合体100質量%中、ゴムが40〜95質量%を占めることが好ましい。強化剤としての性能と、グラフトさせることで得られる良分散性を鑑みると、グラフト共重合体100質量%中、ゴムは50〜93質量%であることがより好ましく、60〜90質量%であることが更に好ましい。
【0059】
ゴムのグラフト共重合体の質量平均粒子径は300〜2000nmであることが好ましい。ここで質量平均粒子径はラテックスの状態のゴムのグラフト共重合体を測定試料とし、キャピラリー式粒度分布計によって測定した値である。
【0060】
粒子径が300nm以上であれば耐衝撃性向上効果が充分発揮される。粒子径が2000nm以下であれば、強化剤含有樹脂組成物の外観を損ないにくい。
ゴムのグラフト共重合体の質量平均粒子径は300〜1000nmであることがより好ましい。
【0061】
強化剤(Y)は重合により合成してもよく、市販のものを利用しても良い。重合により合成する場合は、粒子径制御および多段重合が可能な点から乳化重合が好ましい。
【0062】
市販で入手可能な強化剤(Y)としては、ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーン系ゴム、またはブタジエン/アクリル複合ゴムを含むものとしては、例えば、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンCタイプ(例えばC233Aなど)、Wタイプ(例えばW450Aなど)、株式会社カネカ製のカネエースBシリーズ(例えばB−561など)、FMシリーズ(例えばFM−40)、Mシリーズ(例えばM−701など)、ダウ・ケミカル株式会社製のパラロイドEXLシリーズ(例えばEXL−2314など)、BTAシリーズ(例えばBTA−730など)が挙げられる。また、市販でシリコーン/アクリル複合ゴムを含むものとしては、例えば、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンSタイプ(例えばS2001など)が挙げられる。
【0063】
低温での耐衝撃性向上効果が充分に発揮されることから、シリコーン系ゴムまたはシリコーン/アクリル複合ゴムが好ましい。
【0064】
[強化剤含有樹脂組成物]
本発明の強化剤含有樹脂組成物は、共重合体(X)と強化剤(Y)を配合したものである。
【0065】
強化剤含有樹脂組成物は、樹脂組成物が脆化する氷点下でも耐衝撃性が向上する。ここで耐衝撃性は、強化剤含有樹脂組成物を成形して得た試験片を用いて、JISK7111に則り測定したノッチ付きシャルピー衝撃強さで比較できる。
【0066】
樹脂組成物と強化剤含有樹脂組成物で、−3℃におけるノッチ付きシャルピー衝撃強さを比較した場合、強化剤含有樹脂組成物のシャルピー衝撃値が樹脂組成物の3倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがより好ましく、15倍以上であることが更に好ましい。
【0067】
共重合体(X)100質量部に対して強化剤(Y)の配合量は5〜40質量部が好ましい。配合量が5質量部以上であれば、耐衝撃性が充分向上する。配合量が40質量部以下であれば良好な流動性を有する。耐衝撃性と流動性の両立の観点から、強化剤(Y)の配合量は7〜40質量部がより好ましく、10〜30質量部が更に好ましい。
【0068】
本発明の強化剤含有樹脂組成物は、強化剤含有樹脂組成物を用いた成形体の透明性や機械特性を損なわない範囲で、種々の添加剤を配合することができる。添加剤の量は少ないほど好ましく、添加剤の配合量は強化剤含有樹脂組成物100質量部に対して0〜20質量部が好ましく、0〜10質量部がより好ましく、0〜5質量部が更に好ましい。
【0069】
添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、合成シリカやシリコーン樹脂粉末等のブロッキング防止剤、流動改質剤、可塑剤、抗菌剤、防カビ剤、ブルーイング剤、帯電防止剤が挙げられる。
【0070】
上記の必須成分及び所望により任意成分を所定量配合し、ロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機等の通常の混練機で混練して強化剤含有樹脂組成物を調製することができる。
【0071】
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の強化剤含有樹脂組成物を成形したものである。
【0072】
強化剤含有樹脂組成物の加工法としては、例えば、射出成形、カレンダー成形、ブロー成形、押出成形、プレス成形、熱成形、溶融紡糸が挙げられる。
【0073】
強化剤含有樹脂組成物を用いて得られる成形体としては、例えば、フィルム、シート、射出成形体、中空成形体、パイプ、角棒、熱成形体、繊維が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
尚、実施例中の「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を示す。
[評価方法]
実施例、比較例における各評価は、以下の方法により実施した。
【0076】
(樹脂組成物の評価方法)
(1)分子量、及び分子量分布
質量平均分子量(Mwともいう)及び数平均分子量(Mnともいう)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製、商品名:HLC−8220)を使用し、以下の条件にて測定した。
カラム:TSK GUARD COLUMN HHR(30)とTSK−GEL GMH HR−H (7.8φ×300mm)を直列に接続
溶離液:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流速:0.6mL/分
【0077】
尚、Mw及びMnは、Polymer Laboratories製のピークトップ分子量(Mpともいう)が141,500、55,600、10,290及び1,590である4種のポリメチルメタクリレートを用いて作成した検量線を使用して求めた。
【0078】
(成形体の評価方法)
(2)曲げ試験
φ30mm二軸混練押出機(Werner&Pfleiderer社製)により最高温度220℃で押出し、ペレット状の共重合体(X)を得た。
【0079】
ペレット状の共重合体(X)を用いて、射出成型機IS100(東芝機械製)にて機台温度220℃、金型温度40℃で成形し、幅10mm、長さ80mm、厚み4mmの成形体を得た。得られた成形体を、JIS−K7171に則り、テンシロン万能試験機RTC−1250A(オリエンテック製)にて曲げ試験を行なった。曲げ速度1mm/分で試験を実施し、その時の応力歪み曲線から、曲げ弾性率を求めた。
【0080】
(3)シャルピー衝撃強さ
ペレット状の強化剤含有樹脂組成物を用いて、射出成型機IS100(東芝機械製)にて機台温度220℃、金型温度40℃で成形し、Aノッチ付き(JIS K7111−2を参照)のシャルピー試験片をそれぞれ2枚得た。
【0081】
得られた試験片を室温下(25℃)で4時間以上放置した試験片、及び室温恒温恒湿槽(エスペック(株)製、商品名:MC811)にて−3℃で4時間冷却した試験片それぞれについて、シャルピー衝撃試験機(東洋精機製作所製、商品名IMPACT TESTER)を用いて試験し、シャルピー衝撃強さを測定した。JIS K7111−2を参照し、Aノッチ付きの試験片でエッジワイズにて5回ずつ測定し、その平均値をシャルピー衝撃強さとした。
【0082】
<製造例1>
[分散剤]
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた容量1200Lの反応容器内に、17%水酸化カリウム水溶液61.6部、メチルメタクリレート(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM、以下同様)19.1部及び脱イオン水19.3部を仕込んだ。次いで、反応装置内の液を室温にて撹拌し、発熱ピークを確認した後、更に4時間撹拌した。この後、反応装置内の反応液を室温まで冷却してカリウムメタクリレート水溶液を得た。
【0083】
次いで、撹拌機、冷却管及び温度計を備えた容量1050Lの反応容器内に、脱イオン水900部、2−(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルSEM−Na)60部、上記のカリウムメタクレート水溶液10部及びメチルメタクリレート12部を入れて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、50℃に昇温した。その中に、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業(株)製、商品名:V−50)0.08部を添加し、更に60℃に昇温した。昇温後、滴下ポンプを利用してメチルメタクレートを0.24部/分の速度で75分間連続的に滴下した。反応溶液を60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、透明な水溶液である固形分10%の分散剤を得た。
【0084】
<製造例2>
[マクロモノマー(a1)]
(コバルト錯体の合成)
撹拌装置を備えた合成装置中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物(和光純薬(株)製、和光特級)2.00g(8.03mmol)及びジフェニルグリオキシム(東京化成(株)製、EPグレード)3.86g(16.1mmol)及び予め窒素バブリングにより脱酸素したジエチルエーテル100mlを入れ、室温で2時間攪拌した。
【0085】
次いで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(東京化成(株)製、EPグレード)20mlを加え、更に6時間攪拌した。得られたものを濾過し、固体をジエチルエーテルで洗浄し、20℃において12時間真空乾燥し、茶褐色固体のコバルト錯体5.02g(7.93mmol、収率99%)を得た。
【0086】
(マクロモノマーの合成)
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた三口セパラブルフラスコに、脱イオン水145部、硫酸ナトリウム0.1部及び製造例1で製造した分散剤(固形分10%)0.02部を入れて撹拌して、均一な水溶液とした。次に、メチルメタクリレート(MMA)95部、メチルアクリレート(MA)(三菱化学(株)製)5部、上記方法で製造したコバルト錯体0.0032部及び重合開始剤としてパーオクタO(日油(株)製1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、商品名)0.1部を加え、水性分散液とした。次いで、フラスコ内を充分に窒素置換し、水性分散液を80℃に昇温してから6時間保持した後に95℃に昇温して1時間保持した。その後、反応液を40℃に冷却して、マクロモノマーの水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、40℃で12時間乾燥して、マクロモノマー(a1)を得た。GPCで分析したところ、マクロモノマー(a1)のMwは31500、Mnは14000、分子量分布(PDI)は2.3であった。
【0087】
結果を表1に示す。
【表1】
【0088】
<製造例3>
[共重合体(X1)]
脱イオン水145部、硫酸ナトリウム0.1部及び製造例1で製造した分散剤0.02部を混合して分散剤の水溶液を調整した。
【0089】
冷却管付セパラブルフラスコに、製造例2で合成したマクロモノマー(a1)を40部、メチルメタクリレート24部、n−ブチルアクリレート(BA)(三菱化学(株)製、商品名)36部及び1−オクタンチオール0.1部を混合し、攪拌しながら50℃に加温して原料シラップを得た。
【0090】
原料シラップを40℃以下に冷却した後、原料シラップにAMBN(大塚化学(株)製2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、商品名)0.3部を溶解させ、シラップを得た。
【0091】
次いで、シラップに分散剤の水溶液を加えた後、窒素バブリングによりセパラブルフラスコ内の雰囲気を窒素置換しながら、攪拌回転数を上げてシラップ分散液を得た。
【0092】
シラップ分散液を75℃に昇温し、重合発熱ピークが出るまでセパラブルフラスコの外温を保持した。重合発熱ピークが出た後、シラップ分散液が75℃になったところで、シラップ分散液を85℃に昇温し、30分保持して重合を完結させ、懸濁液を得た。
【0093】
懸濁液を40℃以下に冷却した後に、懸濁液を濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、40℃で16時間乾燥して共重合体(X1)を得た。共重合体(X1)のMwは252000、Mnは40500、PDIは6.2であった。
各パラメータを改めて表2に示す。
【表2】
【0094】
<実施例1>
[強化剤含有樹脂組成物]
共重合体(X)として製造例3で製造した共重合体(X1)100部と、強化剤(Y)としてシリコーン/アクリル複合ゴムのグラフト共重合体(三菱レイヨン(株)製、商品名:メタブレンS2100)25部を60℃で一晩予備乾燥させた。
共重合体(X)と強化剤(Y)をドライブレンドしたのち、φ30mm二軸混練押出機(Werner&Pfleiderer社製)により最高温度220℃で押出し、ペレット状の強化剤含有樹脂組成物を得た。
【0095】
<実施例2〜4>
強化剤(Y)を表3に記載のとおり用いた以外は、実施例1と同様にして強化剤含有樹脂組成物を得た。
結果を表3に示す。
【0096】
<比較例1>
強化剤(Y)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
結果を表3に示す。
【0097】
<比較例2>
ポリマー(2)の代わりにPMMA(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリペットVH001)を用いた以外は、実施例1と同様にして強化剤含有樹脂組成物を得た。
結果を表3に示す。
【0098】
<比較例3>
PMMA(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリペットVH001)のみを用いた以外は、実施例1と同様にして強化剤含有樹脂組成物を得た。
結果を表3に示す。
【0099】
【表3】
メタブレンS2100(三菱レイヨン(株)製)シリコーン/アクリル複合ゴムのグラフト共重合体
メタブレンS2001(三菱レイヨン(株)製)シリコーン/アクリル複合ゴムのグラフト共重合体
メタブレンW450(三菱レイヨン(株)製)アクリルゴムのグラフト共重合体
メタブレンW377(三菱レイヨン(株)製)ブタジエン/アクリル複合ゴムのグラフト共重合体
【0100】
表3に示す通り、各実施例で得られた試験片のシャルピー衝撃強さは、比較例1の試験片のシャルピー衝撃強さに対して、いずれも室温(25℃)でも十数倍(例えば、実施例2の場合約27倍)となるとともに、低温条件(−3℃)でも2.5倍以上となった。特に、シリコーン/アクリル複合ゴムを用いた実施例1及び実施例2は,低温条件(−3℃)でのシャルピー衝撃強さがそれぞれ比較例1に対して約8.5倍及び6.0倍となった。