特許第6597525号(P6597525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597525
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】光硬化性組成物及びこれを含む硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20191021BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20191021BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C08F2/44 C
   C08F2/50
   C08L83/08
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-173348(P2016-173348)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-39875(P2018-39875A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2018年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清森 歩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄佑
【審査官】 中根 知大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−167552(JP,A)
【文献】 特開2008−248236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00−2/60
C08G77/00−77/62
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C09D1/00−10/00,
101/00−201/10
C09J1/00−5/10,
9/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1)で表される2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサン、(b)一種類以上のエチレン性不飽和一官能モノマー、(c)一種類以上のエチレン性不飽和多官能モノマー及び(d)光重合開始剤を必須成分として含有することを特徴とする光硬化性組成物。
【化1】
[式中、Aは、同一でも異なっていてもよく、シアノ基で置換されてもよい炭素数2〜20の二価炭化水素基であって、当該二価炭化水素基は、メチレン基及び/又はメチン基を含み、これらメチレン基及びメチン基のうち少なくとも一個以上が二価のヘテロ原子連結基であるNR(Rは、水素原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基又は2−シアノエチル基を表す。)、三価のヘテロ原子連結基であるN、またはこれらの組み合わせにより置換されている。ただし、これらのヘテロ原子連結基同士、ヘテロ原子連結基とケイ素原子、及びヘテロ原子連結基とシアノ基は隣接せず、かつ式中のNC−CH2−CH2−基は、Aに含有されるヘテロ原子連結基に結合している。
Bは、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜10の二価炭化水素基を表す。
mは、1〜150の整数を表し、nは、0〜50の整数を表し、m+nは、4〜150である。]
【請求項2】
(b)成分の少なくとも一種類が、シアノ基を有するエチレン性不飽和一官能モノマーである請求項1記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
(b)成分の少なくとも一種類が、シアノ基を有するα,β−不飽和カルボン酸エステル又はα,β−不飽和ニトリルである請求項1記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
(c)成分が、多価アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステルである請求項1〜3のいずれか1項記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
更に、(e)溶媒を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の光硬化性組成物が硬化した硬化物。
【請求項7】
鎖状又は網目状の構造を有する高分子物質と、請求項1〜5のいずれか1項記載の光硬化性組成との混合物が硬化した半相互貫入高分子網目構造又は相互貫入高分子網目構造を有する高分子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料には、一般的に絶縁性、柔軟性に優れ、軽量であるという特徴があり、電気・電子機器用途、例えば、フィルムコンデンサや電界効果トランジスタ用ゲート絶縁膜、樹脂アンテナ等に誘電体として使用されている。
また、光を透過させる透明樹脂は、レンズや光導波路等の光学デバイスやディスプレイ等の表示デバイス等に幅広く利用されている有用な材料である。
【0003】
フィルムコンデンサは、大容量化及び小型化が求められているが、その容量は、使用するフィルムの比誘電率に比例し、フィルムの膜厚に反比例することが知られている。従って、膜厚が同じ場合、フィルムの比誘電率が高いほどコンデンサの容量が増加し、高容量のフィルムコンデンサを得ることができるため好適である。
フィルムコンデンサに使用されるポリプロピレン、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド等の高分子材料は、単独では誘電率が低いため、誘電率向上を目的としてその他の誘電体が添加される。
例えば、特許文献1では、ポリフェニレンスルフィドとチタン酸ストロンチウム等の誘電セラミックスを含む高分子組成物が開示されており、当該組成物がコンデンサやアンテナに使用できることが記載されている。
【0004】
樹脂アンテナに使用される材料に関しては、中間層であるエラストマーに誘電セラミックスを添加して比誘電率を上昇させた誘電エラストマー積層体が特許文献2に開示されており、アンテナの高周波化及び小型化に寄与すると記載されている。また、電界効果トランジスタの絶縁膜に合成樹脂を使用する場合にも、比誘電率が高い樹脂であるほどトランジスタ容量が増加するため好ましい。
【0005】
あるエネルギーが入力されたとき、それを機械エネルギーに変換するデバイスであるアクチュエーターは、トランスデューサーの一種である。
アクチュエーターにはいくつかの種類があるが、高分子材料である誘電エラストマーを使用するアクチュエーターは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換することができ、柔軟な薄膜状であるためマイクロポンプ、スピーカー等の多様な用途への応用が検討されている(特許文献3参照)。逆に、機械エネルギーを電気エネルギーに変換するトランスデューサーにも、誘電エラストマーが使用できることが知られている(特許文献4参照)。
電極で挟持された誘電エラストマーに一定の電圧を印可した際の変位量は、エラストマーの比誘電率に比例するため、エネルギーの変換効率を上げるためには比誘電率を高くすることが望ましい。この点、例えば、特許文献5には、架橋ゴムに比誘電率が1000以上の誘電セラミックス粒子を分散させた誘電エラストマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−501549号公報
【特許文献2】特開2006−290939号公報
【特許文献3】特表2001−524278号公報
【特許文献4】特表2003−505865号公報
【特許文献5】特開2007−153961号公報
【特許文献6】特表2010−505995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上説明した各用途には、いずれも比誘電率の高い樹脂が求められる。
特許文献2の技術のように、高分子材料にチタン酸ストロンチウム等の誘電セラミックスを配合すれば比誘電率は向上するが、十分な効果を得るためには多量に配合する必要があり、その結果、成形性が悪化し、硬い材料となる等の問題が生じる。
また、高分子材料に誘電セラミックスのような無機材料を混合して均一に分散するためには、シランカップリング剤で適切な表面処理を行う等、特殊な処理が必要である。
さらに、誘電セラミックスは比重が大きく、高分子材料の特徴である軽量性が損なわれる場合がある。
【0008】
なお、特許文献6では、比誘電率の高いフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子の使用が検討されているが、フッ素系高分子は高価であり汎用性が高いとはいえない。
従って、高分子材料本来の特徴である軽量性、成形性や機械的性質に重大な影響を与えずに、比誘電率を向上させた高分子材料が望まれている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、成形性が良好で、軽量である上、比誘電率の高い高分子材料を形成し得る光硬化性組成物及びそれを用いた硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサン、特定の重合性モノマー及び光重合開始剤を配合した光硬化性組成物を硬化させることにより、高い比誘電率を有し、かつ透明で軽量な高分子材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. (a)下記一般式(1)で表される2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサン、(b)一種類以上のエチレン性不飽和一官能モノマー、(c)一種類以上のエチレン性不飽和多官能モノマー及び(d)光重合開始剤を必須成分として含有することを特徴とする光硬化性組成物、
【化1】
[式中、Aは、同一でも異なっていてもよく、シアノ基で置換されてもよい炭素数2〜20の二価炭化水素基であって、当該二価炭化水素基は、メチレン基及び/又はメチン基を含み、これらメチレン基及びメチン基のうち少なくとも一個以上が二価のヘテロ原子連結基であるNR(Rは、水素原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基又は2−シアノエチル基を表す。)、三価のヘテロ原子連結基であるN、またはこれらの組み合わせにより置換されている。ただし、これらのヘテロ原子連結基同士、ヘテロ原子連結基とケイ素原子、及びヘテロ原子連結基とシアノ基は隣接せず、かつ式中のNC−CH2−CH2−基は、Aに含有されるヘテロ原子連結基に結合している。
Bは、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜10の二価炭化水素基を表す。
mは、1〜150の整数を表し、nは、0〜50の整数を表し、m+nは、4〜150である。]
2. (b)成分の少なくとも一種類が、シアノ基を有するエチレン性不飽和一官能モノマーである1の光硬化性組成物、
3. (b)成分の少なくとも一種類が、シアノ基を有するα,β−不飽和カルボン酸エステル又はα,β−不飽和ニトリルである1の光硬化性組成物、
4. (c)成分が、多価アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステルである1〜3のいずれかの光硬化性組成物、
5. 更に、(e)溶媒を含有する1〜4のいずれかの光硬化性組成物、
6. 1〜5のいずれかの光硬化性組成物が硬化した硬化物、
7. 鎖状又は網目状の構造を有する高分子物質と、1〜5のいずれかの光硬化性組成との混合物が硬化した半相互貫入高分子網目構造又は相互貫入高分子網目構造を有する高分子材料
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光硬化性組成物は、簡便な方法で得られ、遮光して保存すれば安定でシェルフライフが長い。
また、本発明の光硬化性組成物が硬化した硬化物は、必須成分である2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサンの側鎖が柔軟性の高い構造を有しているため、相溶性に優れ、比誘電率が高い。
さらに、本発明の硬化物は、材料内部で構成成分が凝集せず均一に混合されている透明高分子材料であるため、透明である上に、高比重のセラミックスを含有しないため軽量である。
このような特長を有する本発明の硬化物からなる高分子材料は、構成モノマーの種類や組成を適切に選択することによって電気的性質や機械的性質を調節することができるため、高分子アクチュエーターや有機トランジスタ用の絶縁膜として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
[1][光硬化性組成物の構成成分]
(a)2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサン
本発明の光硬化性組成物は、下記一般式(1)で表される2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサンを必須成分として含有する。
【0014】
【化2】
【0015】
式(1)において、Aは、同一でも異なっていてもよく、シアノ基で置換されてもよい炭素数2〜20の二価炭化水素基であって、当該二価炭化水素基は、メチレン基及び/又はメチン基を含み、これらメチレン基及びメチン基のうち少なくとも一個以上が二価のヘテロ原子連結基であるNR(Rは、水素原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基又は2−シアノエチル基を表す。)、三価のヘテロ原子連結基であるN、またはこれらの組み合わせにより置換されている。ただし、これらのヘテロ原子連結基同士、ヘテロ原子連結基とケイ素原子、及びヘテロ原子連結基とシアノ基は隣接せず、かつ式中のNC−CH2−CH2−基は、Aに含有されるヘテロ原子連結基に結合している。
【0016】
Aの骨格となる二価炭化水素基の具体例としては、エタンジイル基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基、ヘプタンジイル基、オクタンジイル基、ノナンジイル基、デカンジイル基、ウンデカンジイル基、ドデカンジイル基、トリデカンジイル基、テトラデカンジイル基、ペンタデカンジイル基、ヘキサデカンジイル基、ヘプタデカンジイル基、オクタデカンジイル基、ノナデカンジイル基、エイコサンジイル基等の直鎖状のアルカンジイル基;2−メチルプロパンジイル基、4−メチルヘプタンジイル基、4−エチルヘプタンジイル基、4−プロピルヘプタンジイル基、2−ブチルヘプタンジイル基、3−プロピルオクタンジイル基、2−ブチルノナンジイル基、4−メチルデカンジイル基、4−エチルデカンジイル基、3−プロピルデカンジイル基、2−ブチルデカンジイル基、3−ブチルウンデカンジイル基等の分岐鎖状のアルカンジイル基;シクロヘキサンジイル基、エチルシクロヘキサンジイル基、プロピルシクロヘキサンジイル基、4−エチル−1−メチル−2−プロピルシクロヘキサンジイル基、4−エチル−2−メチル−1−プロピルシクロヘキサンジイル基等の環状のアルカンジイル基;1−エチル−4−メチルベンゼンジイル基、1,4−ジメチルベンゼンジイル基、1,3−ジメチルベンゼンジイル基、トリメチルベンゼンジイル基、ブチルベンゼンジイル基、ヘプチルベンゼンジイル基、4−ブチルインデンジイル基、5−ブチルインデンジイル基、4−メチル−1−プロピルインデンジイル基、5−メチル−1−プロピルインデンジイル基、2−メチルフルオレンジイル基、3−ブチルフルオレンジイル基、2−メチル−9−プロピルフルオレンジイル基、3−メチル−9−プロピルフルオレンジイル基等のアレーンジイル基等が挙げられる。特に、式(1)のシルセスキオキサン側鎖の構造の柔軟性及び相溶性の観点から、炭素数3〜16の直鎖状のアルカンジイル基、炭素数4〜16の分岐鎖状のアルカンジイル基、炭素数7〜16の環状のアルカンジイル基が好ましい。
【0017】
なお、上述のとおり、Aの骨格となる上記の二価炭化水素基において、二価炭化水素基を構成するメチレン基及びメチン基のうち少なくとも一個以上、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個が二価のヘテロ原子連結基であるNR、三価のヘテロ原子連結基であるN、またはこれらの組み合わせによって置換されている。
【0018】
また、上記NRにおけるRの一価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基等の炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基等の炭素数3〜20、好ましくは炭素数3〜10、より好ましくは炭素数3〜6の分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基等の炭素数3〜20、好ましくは炭素数3〜10、より好ましくは炭素数5〜8の環状アルキル基;フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等の炭素数6〜12のアリール基;ベンジル基、α−フェネチル基、β−フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の炭素数7〜10のアラルキル基等が挙げられる。特に、相溶性の観点から、炭素数1〜6の直鎖状アルキル基、炭素数3〜6の分岐鎖状アルキル基、炭素数5〜8の環状アルキル基、炭素数6〜9のアリール基、炭素数7〜9のアラルキル基が好ましい。
【0019】
一般式(1)における置換基Aの具体例を以下に示す。ただし、式中の*は隣接する炭素原子またはケイ素原子への結合位置を示す。
【0020】
【化3】
(式中、Rは、互いに独立して、上記と同じ意味を表す。)
【0021】
【化4】
(式中、Rは、互いに独立して、上記と同じ意味を表す。)
【0022】
一方、Bは、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5の二価炭化水素基を表す。
この二価炭化水素基の具体例としては、メチレン基、エタンジイル基、エテンジイル基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基、ヘプタンジイル基、オクタンジイル基、ノナンジイル基、デカンジイル基等の直鎖状脂肪族二価炭化水素基;2−メチルプロパンジイル基、2−メチルブタンジイル基、3−メチルペンタンジイル基等の分岐鎖状脂肪族二価炭化水素基;シクロヘキサンジイル基等の環状の脂肪族二価炭化水素基;1,3−ベンゼンジイル基、1,4−ベンゼンジイル基、2−メチル−1,4−ベンゼンジイル基、3−メチル−1,4−ベンゼンジイル基、2,5−ジメチル−1,4−ベンゼンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基、4−エチルベンゼン−1,2−ジイル基、4−プロピルベンゼン−1,3−ジイル基等の芳香族二価炭化水素基等が挙げられる。
これらの中でも、式(1)のシルセスキオキサン側鎖の構造の柔軟性及び相溶性の観点から、炭素数1〜5の直鎖状脂肪族二価炭化水素基が好ましい。
【0023】
また、mは、1〜150、好ましくは4〜100、より好ましくは6〜50の整数を表す。nは、0〜50の整数を表し、m+nの値は、4〜150、好ましくは6〜100、より好ましくは8〜80である。
m+nの値が4より小さい場合には、一般式(1)の化合物の分子量が小さく、光硬化性組成物や硬化物から揮発する。m+nの値が150を超える場合には、一般式(1)の化合物と本発明の光硬化性組成物に含まれるその他の成分との相溶性が低下し、均一な光硬化性組成物を得ることが困難になる。
【0024】
上記一般式(1)の2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、硬化物の安定性又は光硬化性組成物の相溶性の観点から、好ましくは300〜50,000、より好ましくは400〜40,000、更に好ましくは500〜30,000である。
また、上記一般式(1)の2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサンの分散度(Mw/Mn)は、材料の均一性の観点から、好ましくは1.0〜2.0、より好ましくは1.0〜1.8、更に好ましくは1.0〜1.6である。
【0025】
本発明の光硬化性組成物に含まれる上記一般式(1)で表される2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサンは、単独化合物であっても混合物であってもよい。一般式(1)の化合物を後述の方法により加水分解性シランから製造する場合には、混合物として使用するのが簡便である。
【0026】
本発明の光硬化性組成物において、(a)成分である上記一般式(1)で表される2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサンの含有量は、硬化物の比誘電率又は光硬化性組成物の透明性の観点から、後述する(b)成分との合計量の1〜90質量%、好ましくは5〜70質量%、更に好ましくは10〜50質量%である。
【0027】
上記一般式(1)で表される2−シアノエチル基を有するシルセスキオキサンは、例えば、下記一般式(2)で表される2−シアノエチル基を有するシランの加水分解・縮合により、又は下記一般式(2)で表される2−シアノエチル基を有するシランと、下記一般式(3)で表されるシアノ基を有するシランの共加水分解・縮合によって製造することができる。
この場合、下記一般式(2)で表される2−シアノエチル基を有するシランは単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。また、下記一般式(3)で表されるシランを共存させる場合、一般式(3)で表されるシランは単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0028】
【化5】
(式中、A及びBは上記と同じ意味を表し、Xは、互いに独立して、ケイ素原子と結合して加水分解性を示す基を表す。)
【0029】
Xのケイ素原子と結合して加水分解性を示す基の具体例としては、炭素数1〜6のオルガノキシ基、炭素数1〜3のアシロキシ基、ハロゲン原子が挙げられる。
炭素数1〜6のオルガノキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、2−ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等のアルコキシ基;ビニロキシ基、2−プロペノキシ基等のアルケノキシ基;フェノキシ基等が挙げられる。
炭素数1〜3のアシロキシ基の具体例としては、アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基等が挙げられる。
ハロゲン原子の具体例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
なお、一般式(2)におけるXと一般式(3)におけるXは同一でも異なっていてもよい。
【0030】
上記一般式(2)の2−シアノエチル基を有するシランの加水分解・縮合は、公知の方法で行うことができる。例えば、2−シアノエチル基を有するシランと水を溶媒中で反応させる。
溶媒の具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒等が挙げられる。
【0031】
加水分解及び縮合の際、酸や塩基を触媒として添加したり、加熱したりすることによって反応が加速される。
触媒として用いられる酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、安息香酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸等が挙げられる。
塩基の具体例としては、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機アミンやアンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0032】
上記一般式(3)で表されるシランの共存下に、一般式(2)の2−シアノエチル基を有するシランの加水分解・縮合を行う場合にも、同様の方法で行うことができる。
【0033】
一般式(2)で表されるシランの加水分解・縮合または一般式(2)と一般式(3)ので表されるシランの共加水分解・縮合により得られる一般式(1)で表されるシルセスキオキサンには、加水分解されていない置換基Xや、加水分解されて縮合が進行していない置換基OHが、置換基ORとして残存していてもよい。一般式(1)で表されるシルセスキオキサンにおいて、置換基XやOHが結合しているケイ素原子の割合は、光硬化性組成物や硬化物の安定性の観点から、全てのケイ素原子のうち好ましくは0〜25mol%、より好ましくは0〜15mol%である。
【0034】
なお、上記一般式(2)で表される2−シアノエチル基含有シラン化合物は、一般式(4)で表される化合物とアクリロニトリルをマイケル付加反応させて得ることができる。
【0035】
【化6】
(式中、A及びXは、上記と同じ意味を表すが、式中の水素原子Hは、Aに含有されるヘテロ原子連結基に結合している。)
【0036】
一般式(4)で表される化合物と、アクリロニトリルの配合割合は、特に制限されないが、一般式(4)で表される化合物1molに対してアクリロニトリルを好ましくは1〜4mol、より好ましくは1〜3mol、更に好ましくは1〜2.2molである。
【0037】
上記製造方法においては、反応を行う際に反応を促進させる目的で触媒を添加してもよい。
触媒の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホン酸、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエタンスルホン酸等のスルホン酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、コハク酸、安息香酸等のカルボン酸;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等の金属水酸化物;カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基等が挙げられ、特にスルホン酸、金属水酸化物が好ましい。
【0038】
触媒の使用量は特に限定されないが、反応性、生産性の点から一般式(4)で表される化合物1molに対し、0.0001〜0.5mol、より好ましくは0.001〜0.3mol、更に好ましくは0.01〜0.1molである。
【0039】
反応温度は特に限定されないが、0〜200℃、好ましくは30〜150℃、更に好ましくは50〜130℃である。
反応時間は特に限定されないが、1〜60時間、好ましくは1〜30時間、更に好ましくは1〜20時間である。
反応雰囲気は、大気下でもよいが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0040】
上記反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
用いられる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種を単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
上記溶媒の中でも、特にアルコール系溶媒が反応を促進する効果があり好ましい。
【0041】
反応終了後、触媒を使用した場合は触媒を中和することが好ましい。中和せずに蒸留精製しようとすると、蒸留中に逆マイケル反応が進行して収率が低下することがあるからである。中和に用いられる酸又は塩基は、触媒に用いたものと同様のものが挙げられる。
中和剤の使用量は特に限定されないが、使用する触媒1molに対し、1.0〜2.0mol、好ましくは1.0〜1.8mol、更に好ましくは1.0〜1.5molである。
過剰に用いた中和剤は、更に酸又は塩基を加えて逆中和しても良い。用いられる逆中和剤としては触媒に用いたものと同様のものが挙げられる。使用する逆中和剤は過剰に用いた中和剤1molに対し、1.0〜2.0mol、特に1.0〜1.5molの範囲が好ましい。
なお、上記製法で得られる2−シアノエチル基含有シラン化合物は、その目的品質に応じて、蒸留、ろ過、洗浄、カラム分離、固体吸着剤等の各種の精製法によって更に精製して使用することができる。
触媒等の微量不純物を取り除き、高純度にするためには、蒸留による精製が好ましい。
【0042】
(b)エチレン性不飽和一官能モノマー
本発明の(b)成分であるエチレン性不飽和一官能モノマーは、(a)成分とともに使用することにより相溶化剤として作用し、均一で透明な組成物を与える。
(b)成分の具体例としては、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物やビニル基を有する化合物等が挙げられる。中でも、シアノ基を有するエチレン性不飽和一官能モノマーが(a)成分の相溶化剤として有効であり、好ましい。
シアノ基を有するエチレン性不飽和一官能モノマーの具体例としては、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、3−シアノプロピル(メタ)アクリレート、4−シアノフェニル(メタ)アクリレート等のα,β−不飽和カルボン酸エステル;(メタ)アクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル;メチルα−シアノアクリレート、エチルα−シアノアクリレート、tert−ブチルα−シアノアクリレート等のα−シアノアクリル酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、安定性と反応性のバランスの観点から、シアノ基を有するα,β−不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
【0043】
一方、シアノ基を有しないエチレン性不飽和一官能モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルネニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等の不飽和アミド;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、ビニル安息香酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル化合物;メチルマレイミド、エチルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミド等のN−置換マレイミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル;N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド;アリルグリシジルエーテル、グリセリンアリルエーテル等のアリルエーテル等が挙げられる。
【0044】
(b)成分のエチレン性不飽和一官能モノマーは単独で用いることもできるし、複数の化合物を組み合わせて用いることもできる。複数の化合物を混合して用いると、硬化物の機械特性や熱特性を任意に調節することができる。
【0045】
本発明の光硬化性組成物における(b)成分の含有量は、光硬化性組成物の均一性又は硬化物の電気特性の観点から、(a)成分と(b)成分との総和を基準として、好ましくは10〜99質量%、より好ましくは30〜95質量%、更に好ましくは50〜90質量%である。
【0046】
(c)エチレン性不飽和多官能モノマー
本発明の(c)成分であるエチレン性不飽和多官能モノマーは、架橋剤として作用する。(c)成分としては、エチレン性不飽和基を複数含有する化合物を用いることができる。例えば、多価アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステルや、複数のビニル基や複数のアリル基を有する化合物を使用することができる。これらの中で、多価アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステルは構造のバリエーションが豊富であるため、硬化物の機械特性を任意に調節することができ好ましい。(c)成分のエチレン性不飽和多官能モノマーは単独又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0047】
これらのエチレン性不飽和多官能モノマーのうち、多価アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、エチレングリコールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(メタ)アクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー等の二価アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステル;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、グリセリンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート等の三価アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステル;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の四価アルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステル;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等の五価以上のアルコールのα,β−不飽和カルボン酸エステル等が挙げられる。また、複数のビニル基やアリル基を有する化合物としては、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート、アリル(メタ)アクリレート、ビニルノルボルネン等が挙げられる。
【0048】
本発明の光硬化性組成物において、(c)成分の含有量は、硬化物の耐溶剤性又は硬化物の伸び、強度等の観点から、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の総和に対して、好ましくは0.001〜95質量%、より好ましくは0.01〜90質量%含有される。
【0049】
(d)光重合開始剤
本発明の(d)成分である光重合開始剤は、光ラジカル重合を開始させる。
(d)成分としては、アルキルフェノン類、ベンゾイン類、アシルホスフィンオキサイド類、オキシムエステル類、ビイミダゾール類等の分子内開裂型光重合開始剤、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、α−ジケトン類等の水素引き抜き型光重合開始剤等が使用できる。
【0050】
分子内開裂型光重合開始剤としては、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、2−(ジメチルアミノ)−2−〔(4−メチルフェニル)メチル〕−1−〔4−(4−モルホリニル)フェニル〕−1−ブタノン等のアルキルフェノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;1−〔4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)〕−1,2−オクタンジオン、1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)エタノン等のオキシムエステル類;2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等のビイミダゾール類が挙げられる。
水素引き抜き型光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;チオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等のチオキサントン類;カンファーキノン、ベンジル等のα−ジケトン類等が挙げられる。
【0051】
これらの光重合開始剤は、単独又は任意の2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの光重合開始剤の中では、光硬化性組成物における相溶性の観点から、アルキルフェノン類が好ましい。
【0052】
本発明の光硬化性組成物における(d)成分の含有量は、光硬化性及び得られる硬化物の柔軟性や透明性等の特性の観点から、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の総和に対して、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜2質量%である。
【0053】
なお、上記光重合開始剤に加えて、重合促進のために、還元性化合物を組み合わせて用いることもできる。特に、水素引き抜き型光重合開始剤と還元性化合物とを組み合わせることが有用である。
還元性化合物としては、芳香族第三級アミンが代表的であり、その具体例としては、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジエチルアミノ安息香酸、3−ジメチルアミノ安息香酸等のアミノ安息香酸類;4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジエチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、3−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミノ安息香酸エステル類;ジメチルアミノ−p−トルイジン、ジエチルアミノ−p−トルイジン、p−トリルジエタノールアミン等のアニリン誘導体類等が挙げられる。これらの芳香族三級アミンの中でも、アミノ安息香酸及びアミノ安息香酸エステル類が好適である。
このような還元性化合物の含有量は、通常、光重合開始剤1molに対して、好ましくは0.001〜20mol、より好ましくは0.005〜10molの範囲である。
【0054】
(e)溶媒
本発明の光硬化性組成物は任意に溶媒を含んでいてもよい。
使用可能な溶媒の具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用することもできるし、複数を混合して使用することもできるが、複数を混合する場合には互いに相溶性のある溶媒を使用することが好ましい。また、使用する溶媒は、本発明の光硬化性組成物の成分を室温で溶解できることが好ましい。
【0055】
(e)成分を添加する場合、その含有量は、前述の(a)〜(d)成分の合計に対して質量で通常0.01〜10倍量である。溶媒を含んだまま硬化させることにより硬化物がゲルとして得られる。
【0056】
本発明の光硬化性組成物は、光を照射しない条件において常温で安定であるが、透明性、硬化性等組成物の性状を保つことができる限りにおいて重合禁止剤を含んでいてもよい。
重合禁止剤の具体例としては、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノンモノn−ブチルエーテル、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、ヒドロキノンモノシクロヘキシルエーテル、4−メトキシ−1−ナフトール等のヒドロキノン類;2,6−ビス(tert−ブチル)−4−メチルフェノール、オクタデシル−3−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、イソオクチル−3−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、6−tert−ブチル−o−クレゾール等のヒンダードフェノール類;6−tert−ブチル−2,4−キシレノール、2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、2,4−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、2,4−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、2−tert−ブチルフェノール、2,4−ジtert−ブチルフェノール、2−tert−アミルフェノール、2,4−ジtert−アミルフェノール等のセミヒンダードフェノール類等が挙げられる。これらの重合禁止剤は単独又は2種類以上を併用してもよい。
【0057】
重合禁止剤を添加する場合、その含有量は、本発明の光硬化性組成物の硬化反応性を確保しつつ安定性を向上させ、着色を防止する観点から、(b)及び(c)成分の合計量に対して、好ましくは0.001〜2質量%、より好ましくは0.05〜1質量%、更に好ましくは0.01〜0.1質量%である。
【0058】
[2]光硬化性組成物
本発明の光硬化性組成物は、前述の(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分、更に任意に(e)成分を、例えば常温常圧で撹拌して混合することにより得られ、常温で均一な液状であり、かつ透明である。
(a)成分の添加により材料の比誘電率等の電気特性が向上する。(b)成分の添加により、(a)成分と他の成分との相溶性が向上し、透明で均一な高分子材料が得られる。(c)成分の添加により硬化物の機械特性を調節することができる。(b)成分、(c)成分はそれぞれ光重合性化合物であり、これらの化合物の選択と配合比率に応じて硬化物の機械特性や熱特性が決定される。
【0059】
[3]光硬化性組成物の硬化物
本発明の光硬化性組成物は、光を照射することで硬化させることができ、必須成分の(c)成分が架橋剤であるため、網目状の構造を有する硬化物からなる高分子材料が得られる。
具体的には、光硬化組成物に紫外線や可視光線等の光を照射することにより硬化させる。照射する光の波長は、添加されている光重合開始剤の種類に応じて選択されるが、例えば254nm、365nm(i線)、405nm(h線)、436nm(g線)の紫外光又は可視光が最も好適に使用される。
【0060】
照射する紫外線の量は、10〜1,000mJ/cm2程度が好ましい。また、必要に応じて、光照射後に50〜200℃で更に加熱を行ってもよい。加熱時間は任意であるが、10〜500分間が好ましい。また、低分子量の未硬化物や溶媒を除去するため、光照射後に、例えば(e)成分からの溶媒やシクロヘキサン等の溶媒により洗浄したり、真空乾燥したりしてもよい。これらの後処理は二つ以上を組み合わせてもよい。
【0061】
本発明の光硬化性組成物は常温で液状であるため、モールドを使用して硬化させることもできるし、基材上に塗布して薄膜として硬化させることもできる。
【0062】
[4]半相互貫入高分子網目(セミIPN)構造又は相互貫入高分子網目(IPN)構造を有する高分子材料
鎖状又は網目状の構造を有する高分子物質と、本発明の光硬化性組成物との混合物が硬化した高分子材料は、半相互貫入高分子網目(セミIPN)構造又は相互貫入高分子網目(IPN)構造を有する。
具体的には、セミIPN構造又はIPN構造を有する高分子材料は、鎖状又は網目状の構造を有する高分子物質を本発明の光硬化性組成物に含浸させた後に、光を照射して硬化させるか、あるいは鎖状又は網目状の構造を有する高分子物質を本発明の光硬化性組成物に含浸させ、膨潤した状態で光を照射して硬化させて得ることができる。
鎖状の高分子物質を用いた場合には、半相互貫入高分子網目(セミIPN)が形成され、一方、網目状の構造を有する高分子物質を用いた場合には、透明高分子物質である相互貫入高分子網目(IPN)が形成される。セミIPNやIPNを形成させて高分子物質を複合化させることにより、高分子材料の機械特性や熱特性を向上させることができる。
【0063】
鎖状又は網目状の構造を有する高分子物質の具体例としては、相溶性の観点から、ポリアクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン等の高分子物質が挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下、合成例、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0065】
(1)2−シアノエチル基含有オルガノキシシランの合成
[合成例1]3−[N,N−ビス(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシランの合成
【化7】
【0066】
100mLの3つ口フラスコに、還流冷却器及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、3−アミノプロピルトリメトキシシラン179.1g(1.00mol)、トリフルオロメタンスルホン酸4.5g(0.03mol)を仕込み、アクリロニトリル118.1g(2.22mol)を110℃で4.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を120℃で13時間加熱撹拌した。
得られた溶液に、28質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液5.9g(0.03mol)を加えて中和した後、コハク酸70.3mgを加えた。反応液を蒸留し、沸点192−193℃/0.16kPaの留分168.8gを得た。
この液体のGC−MSスペクトル及び1H−NMRスペクトルを測定した結果、表題の化合物であることが確認された。
GC−MS(EI) m/z:285(M+)、245
1H−NMR(600MHz,δ in CDCl3):0.60−0.67(m,2H)、1.51−1.59(m,2H)、2.46(t,J=7.2Hz,4H)、2.51−2.55(m,2H)、2.85(t,J=6.9Hz,4H)、3.57(s,9H)ppm.
【0067】
[合成例2]3−[N−ブチル−N−(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシランの合成
【化8】
【0068】
100mLの3つ口フラスコに、還流冷却器及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、3−(ブチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン47.0g(0.20mol)、トリフルオロメタンスルホン酸334.5mg(0.002mol)を仕込み、アクリロニトリル11.4g(0.21mol)を115〜125℃で2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を115℃で1.5時間加熱撹拌した。
得られた溶液に、28質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液460.6g(0.002mol)を加えて中和した後、コハク酸28.1mgを加えた。反応液を蒸留し、沸点136−137℃/0.15kPaの留分を43.1g得た。
この液体のGC−MSスペクトル及び1H−NMRスペクトルを測定した結果、表題の化合物であることが確認された。
GC−MS(EI) m/z:288(M+)、248
1H−NMR(600MHz,δ in CDCl3):0.59−0.65(m,2H)、0.90(t,J=7.2Hz,3H)、1.27−1.34(m,2H)、1.37−1.43(m,2H)、1.49−1.56(m,2H)、2.39−2.45(m,6H)、2.77(t,J=7.2Hz,2H)、3.56(s,9H)ppm.
【0069】
[合成例3]3−[N−(2−シアノエチル)−N−メチルアミノ]プロピルトリメトキシシランの合成
【化9】
【0070】
100mLの3つ口フラスコに、還流冷却器及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、3−(メチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン50.0g(0.25mol)、トリフルオロメタンスルホン酸350.1mg(0.0023mol)を仕込み、アクリロニトリル17.8g(0.33mol)を80〜105℃で1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を95℃で1.5時間加熱撹拌した。
得られた溶液に、28質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液452.4g(0.0023mol)を加えて中和した後、コハク酸27.1mgを加えた。反応液を蒸留し、沸点121℃/0.18kPaの留分を53.9g得た。
この液体のGC−MSスペクトル及び1H−NMRスペクトルを測定した結果、表題の化合物であることが確認された。
GC−MS(EI) m/z:246(M+)、206
1H−NMR(600MHz,δ in CDCl3):0.60−0.67(m,2H)、1.52−1.59(m,2H)、2.25(s,3H)、2.36−2.40(m,2H)、2.45(t,J=7.2Hz,2H)、2.70(t,J=7.2Hz,2H)、3.56(s,9H)ppm.
【0071】
[合成例4]3−[N−(2−シアノエチル)ピペラジノ]プロピルトリエトキシシランの合成
【化10】
【0072】
100mLの3つ口フラスコに、還流冷却器及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、1−(3−トリエトキシシリルプロピル)ピペラジン29.1g(0.10mol)を仕込み、アクリロニトリル5.8g(0.11mol)を71〜78℃で1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を75℃で2.0時間加熱撹拌した。
得られた反応液を蒸留し、沸点158−160℃/0.08kPaの留分を22.2g得た。
この液体のGC−MSスペクトル及び1H−NMRスペクトルを測定した結果、表題の化合物であることが確認された。
GC−MS(EI) m/z:343(M+
1H−NMR(600MHz,δ in CDCl3):0.56−0.62(m,2H)、1.20(t,J=6.9Hz,9H)、1.54−1.61(m,2H)、2.30−2.35(m,2H)、2.47−2.51(m,2H)、3.79(q,J=6.9Hz,6H)ppm.
【0073】
(2)シルセスキオキサンの合成
[合成例5]シルセスキオキサンS1の合成
【化11】
【0074】
撹拌機、温度計、還流冷却器及び滴下ロートを備えた100mLの四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。フラスコ内に、合成例1で得られた3−[N,N−ビス(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン14.27g(50mmol)及びアセトン5gを仕込み、混合物を撹拌しながら脱イオン水2.70g(150mmol)を添加して室温で20時間撹拌した。
反応混合物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCという)測定を行ったところ、原料である3−[N,N−ビス(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン及び分子量1,000未満の低分子量オリゴマーは消失していた。生成物のMwは2,767であり、Mnは2,517(各々GPCによるポリスチレン換算)であり、分散度(Mw/Mn)は1.10であった。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を80℃で真空加熱乾燥することにより淡黄色の油状物が得られた。
この油状物の赤外吸収スペクトルを測定したところ、2,247cm-1にシアノ基の伸縮振動ピーク及び1,000〜1,100cm-1にSi−O結合の伸縮振動ピークが観察されたことから、目的のシルセスキオキサンS1が得られたと判断した。
【0075】
[合成例6]シルセスキオキサンS2の合成
【化12】
【0076】
撹拌機、温度計、還流冷却器及び滴下ロートを備えた100mLの四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。フラスコ内に、合成例2で得られた3−[N−ブチル−N−(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン14.42g(50mmol)、トリエチルアミン0.51g(5.0mmol)、及びアセトン5gを仕込み、混合物を撹拌しながら50℃に温度調節した。この混合物に脱イオン水2.70g(150mmol)を添加して50℃で10時間撹拌した。
反応混合物のGPC測定を行ったところ、原料である3−[N−ブチル−N−(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン及び分子量1,000未満の低分子量オリゴマーは消失していた。生成物のMwは2,737であり、Mnは2,561(各々GPCによるポリスチレン換算)であり、分散度(Mw/Mn)は1.08であった。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を80℃で真空加熱乾燥することにより淡黄色の油状物が得られた。
この油状物の赤外吸収スペクトルを測定したところ、2,247cm-1にシアノ基の伸縮振動ピーク及び1,000〜1,100cm-1にSi−O結合の伸縮振動ピークが観察されたことから、目的のシルセスキオキサンS2が得られたと判断した。
【0077】
[合成例7]シルセスキオキサンS3の合成
【化13】
【0078】
撹拌機、温度計、還流冷却器及び滴下ロートを備えた100mLの四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。フラスコ内に、合成例3で得られた3−[N−(2−シアノエチル)−N−メチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン12.32g(50mmol)及びアセトン5gを仕込み、混合物を撹拌しながら脱イオン水2.70g(150mmol)を添加して室温で20時間撹拌した。
反応混合物のGPC測定を行ったところ、原料である3−[N−(2−シアノエチル)−N−メチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン及び分子量800未満の低分子量オリゴマーは消失していた。生成物のMwは2,939であり、Mnは2,507(各々GPCによるポリスチレン換算)であり、分散度(Mw/Mn)は1.17であった。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を80℃で真空加熱乾燥することにより淡黄色の油状物が得られた。
この油状物の赤外吸収スペクトルを測定したところ、2,247cm-1にシアノ基の伸縮振動ピーク及び1,000〜1,100cm-1にSi−O結合の伸縮振動ピークが観察されたことから、目的のシルセスキオキサンS3が得られたと判断した。
【0079】
[合成例8]シルセスキオキサンS4の合成
【化14】
【0080】
撹拌機、温度計、還流冷却器及び滴下ロートを備えた100mLの四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。フラスコ内に、合成例4で得られた3−[N−(2−シアノエチル)ピペラジノ]プロピルトリエトキシシラン17.18g(50mmol)及びアセトン5gを仕込み、混合物を撹拌しながら脱イオン水2.70g(150mmol)を添加して室温で20時間撹拌した。
反応混合物のGPC測定を行ったところ、原料である3−[N−(2−シアノエチル)ピペラジノ]プロピルトリエトキシシラン及び分子量1,000未満の低分子量オリゴマーは消失していた。生成物のMwは2,081であり、Mnは1,171(各々GPCによるポリスチレン換算)であり、分散度(Mw/Mn)は1.78であった。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を80℃で真空加熱乾燥することにより白色の固体が得られた。
この固体の赤外吸収スペクトルを測定したところ、2,247cm-1にシアノ基の伸縮振動ピーク及び1,000〜1,100cm-1にSi−O結合の伸縮振動ピークが観察されたことから、目的のシルセスキオキサンS4が得られたと判断した。
【0081】
[合成例9]混合シルセスキオキサンM1の合成
【化15】
【0082】
撹拌機、温度計、還流冷却器及び滴下ロートを備えた100mLの四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。フラスコ内に、合成例2で得られた3−[N−ブチル−N−(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン3.46g(12mmol)、シアノエチルトリエトキシシラン8.69g(40mmol)、トリエチルアミン0.26g(2.6mmol)、及びアセトン5.2gを仕込み、50℃に温度調節した。この混合物に脱イオン水2.81g(156mmol)を添加して50℃で10時間撹拌した。
反応混合物のGPC測定を行ったところ、原料である3−[N−ブチル−N−(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン及びシアノエチルトリエトキシシランは消失していた。また、分子量800未満の低分子量オリゴマーも消失していた。生成物のMwは2,293であり、Mnは1,937(各々GPCによるポリスチレン換算)であり、分散度(Mw/Mn)は1.18であった。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を80℃で真空加熱乾燥することにより白色の固体が得られた。
この固体の赤外吸収スペクトルを測定したところ、2,249cm-1にシアノ基の伸縮振動ピーク及び1,000〜1,100cm-1にSi−O結合の伸縮振動ピークが観察されたことから、目的のシルセスキオキサンM1が得られたと判断した。
【0083】
[合成例10]混合シルセスキオキサンM2の合成
【化16】
【0084】
撹拌機、温度計、還流冷却器及び滴下ロートを備えた100mLの四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。フラスコ内に、合成例2で得られた3−[N−ブチル−N−(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン6.92g(24mmol)、シアノエチルトリエトキシシラン8.69g(40mmol)、トリエチルアミン0.32g(3.2mmol)、及びアセトン5.2gを仕込み、50℃に温度調節した。この混合物に脱イオン水3.46g(192mmol)を添加して50℃で10時間撹拌した。
反応混合物のGPC測定を行ったところ、原料である3−[N−ブチル−N−(2−シアノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン及びシアノエチルトリエトキシシランは消失していた。また、分子量800未満の低分子量オリゴマーも消失していた。生成物のMwは2,350であり、Mnは2,050(各々GPCによるポリスチレン換算)であり、分散度(Mw/Mn)は1.15であった。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を80℃で真空加熱乾燥することにより無色の油状物が得られた。
この油状物の赤外吸収スペクトルを測定したところ、2,249cm-1にシアノ基の伸縮振動ピーク及び1,000〜1,100cm-1にSi−O結合の伸縮振動ピークが観察されたことから、目的のシルセスキオキサンM2が得られたと判断した。
【0085】
(3)光硬化性組成物及び硬化物の調製
[実施例1〜2、比較例1〜2]
(a)成分として合成例5で得られたシルセスキオキサンS1、(b)成分として2−シアノエチルアクリレート(CEA)、(c)成分として1,4−ブタンジオールジアクリレート(BDA)、(d)成分として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(HMP)、(e)成分として3−メトキシプロピオニトリル(MPN)を表1に示す配合で混合し、実施例1〜2の光硬化性組成物を得た。
また、合成例5で得られたシルセスキオキサンS1を除く、その他の成分を表1に示す配合で混合した比較例1〜2の光硬化性組成物を得た。
【0086】
【表1】
単位:g
【0087】
得られた光硬化性組成物を、深さ1mmの石英ガラス製モールド内に充填し、窒素雰囲気下で365nmを中心波長とする紫外光を照射して硬化させた。更に、80℃で真空乾燥を行い、それぞれゴム状の硬化物E1及びE2、並びにC1及びC2を得た。
硬化物E1及びE2並びにC1及びC2の外観、比誘電率(1kHz、25℃)を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
[実施例3〜8、比較例3]
(a)成分として合成例5〜10で得られたシルセスキオキサンS1〜S4,M1,M2、(b)成分としてCEA、(c)成分としてBDA、(d)成分としてHMPを表3に示す配合で混合し、実施例3〜8の光硬化性組成物を得た。
また、合成例5〜10で得られたシルセスキオキサンを除く、その他の成分を表3に示す配合で混合し、比較例3の光硬化性組成物を得た。
【0090】
【表3】
単位:g
【0091】
別途、CEA50g、BDA1.15g、HMP0.66g及びMPN50gを混合した光硬化性組成物を調製し、上記実施例1と同様の方法により光硬化させた後、シクロヘキサン/トルエンの1/1(v/v)混合液に3時間浸漬して洗浄する操作を二回行い、更に80℃で真空乾燥を行い、ゴム状の透明な高分子物質CEA−Sを得た。
この高分子物質CEA−Sを、実施例3〜8及び比較例3の硬化性組成物にそれぞれ室温で3時間浸漬すると、CEA−Sはこれら組成物により膨潤した。膨潤したCEA−Sの表面に付着した余剰の実施例3〜8及び比較例3の組成物を拭き取った後、窒素雰囲気下で365nmを中心波長とする紫外光を照射して硬化させた。更に、80℃で真空乾燥を行ってゴム状の硬化物E3〜E8並びにC3を得た。これらの硬化物は相互貫入高分子網目(IPN)を形成していると考えられる。
硬化物E3〜E8並びにC3の外観、比誘電率(1kHz、25℃)を表4に示す。
【0092】
【表4】