(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597526
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】融液導入管及びこれを用いたシリコン単結晶の製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20191021BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20191021BHJP
F27B 14/16 20060101ALI20191021BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
C30B29/06 502A
C30B15/00 Z
F27B14/16
F27D3/14 C
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-173700(P2016-173700)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-39690(P2018-39690A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】林 三照
(72)【発明者】
【氏名】杉村 渉
(72)【発明者】
【氏名】下▲崎▼ 一平
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−195601(JP,A)
【文献】
特開2000−264774(JP,A)
【文献】
特開2012−189243(JP,A)
【文献】
特開2012−037167(JP,A)
【文献】
特表2014−512330(JP,A)
【文献】
特開平01−148780(JP,A)
【文献】
特開2010−126377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
F27B 14/16
F27D 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造装置に用いられ、坩堝内のシリコン融液にチャンバの外部からシリコン融液を供給する融液導入管において、
前記融液導入管の先端には、前記坩堝の内部に向かって開口する開口部と、前記開口部の外縁に沿って形成された環状の端面とが設けられ、
前記端面は当該融液導入管の軸に対して傾斜するとともに、前記端面の下端部は前記端面の上端部よりも前記坩堝の内部側に位置し、
前記融液導入管は、前記坩堝内のシリコン融液の液面に対して50°〜80°の傾斜角にて配置され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が50kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は60°〜75°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が100kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜80°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が150kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜60°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が60kg〜90kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は55°〜77.5°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が110kg〜140kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜70°に設定されている融液導入管。
【請求項2】
チャンバと、
前記チャンバ内に回転可能及び昇降可能に設けられ、シリコン融液が収容される坩堝と、
前記坩堝に収容されたシリコン原料を融解する第1ヒータと、
チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するために、前記坩堝内のシリコン融液に浸漬されて引き上げられる種結晶が先端に装着され、前記チャンバ内に回転可能及び昇降可能に設けられた引上げ機構と、
前記坩堝内のシリコン融液に前記チャンバの外部からシリコン融液を供給する融液供給機構とを備え、
前記融液供給機構は、
前記シリコン融液の液面に対して50°〜80°の傾斜角にて配置された融液導入管と、
前記融液導入管の基端の開口部に前記シリコン融液を供給する融液生成機構と、を含み、
前記融液導入管の先端には、前記坩堝の内部に向かって開口する開口部と、前記開口部の外縁に沿って形成された環状の端面とが設けられ、
前記端面は当該融液導入管の軸に対して傾斜するとともに、前記端面の下端部は前記端面の上端部よりも前記坩堝の内部側に位置し、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が50kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は60°〜75°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が100kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜80°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が150kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜60°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が60kg〜90kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は55°〜77.5°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が110kg〜140kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜70°に設定されている、シリコン単結晶の製造装置。
【請求項3】
一端が前記融液導入管が挿通する前記チャンバに形成された通孔に設けられ、他端が前記融液導入管の基端に設けられ、前記融液導入管を包囲するベローズと、
前記融液導入管を、前記チャンバを貫通して、その先端が前記坩堝の液面に接近する前進位置と、前記チャンバの外部へ後退する後退位置との間を移動可能に支持し、前記融液導入管を前記前進位置と前記後退位置とに移動させる移動機構と、をさらに備える請求項2に記載のシリコン単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記融液生成機構は、
昇降可能に設けられたサブチャンバと、
前記サブチャンバ内において傾転可能に設けられた容器と、
昇降可能に設けられ、前記容器にシリコン原料を供給する原料ホッパと、
前記容器に投入された前記シリコン原料を融解する第2ヒータと、を含み、
前記原料ホッパから前記シリコン原料を前記容器に供給し、前記第2ヒータにより前記容器に供給されたシリコン原料を融解し、
前記移動機構により前記融液導入管が前進位置に移動した状態で、前記サブチャンバを前記融液導入管の基端に接続し、前記容器を傾転して前記融液導入管の基端の開口部に前記容器内のシリコン融液を供給する請求項3に記載のシリコン単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記容器内のシリコン融液を前記融液導入管を介して前記坩堝に供給し終えた後に、前記サブチャンバと前記融液導入管の基端の開口部との接続を解除し、前記融液導入管を前記前進位置から前記後退位置に移動させる請求項4に記載のシリコン単結晶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融液導入管及びこれを用いたシリコン単結晶の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に大径で長尺なシリコン単結晶をチョクラルスキー法(CZ法)により製造する場合には、多量のシリコン原料が必要とされる。しかし、石英製の坩堝に最初からシリコン原料塊を充填できる量は限られているので、それ以上の原料については融解後に追加する必要がある。この種のシリコン原料塊を坩堝で融解した後にシリコン融液を追加チャージするものとして、追加供給用原料融液坩堝から石英製の坩堝へシリコン融液を供給するための、継ぎ目を有する連通管において、連通管の中心軸に対して継ぎ目部分の絞り面がなす角度αが、連通管の中心軸に対して水平面がなす連通管設置角度βよりも小さくなるように連通管を設置したものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−264773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術ではβ(水平に対する連通管の設置角)が30°と小さいため、融液の投入速度が遅く、αをβより小さくしたとしても、連通管全体としてシリコン融液の詰りが発生するおそれがある。一方において、βの角度を大きくすると坩堝の融液の液跳ねが発生するおそれがあり、これらはトレードオフの関係にある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、第1に液跳ねを抑制し、第2にシリコン融液の詰りを抑制できる融液導入管及びこれを用いたシリコン単結晶の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明
に係る融液導入管は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造装置に用いられ、坩堝内のシリコン融液にチャンバの外部からシリコン融液を供給する融液導入管において、前記融液導入管の先端
には、
前記坩堝の内部に向かって開口する開口部と、前記開口部の外縁に沿って形成された環状の端面とが設けられ、
前記端面は当該融液導入管の軸に
対して傾斜するとともに、前記端面の下端部は前記端面の上端部よりも前記坩堝の内部側に位置し、
前記融液導入管は、前記坩堝内のシリコン融液の液面に対して50°〜80°の傾斜角にて配置され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が50kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は60°〜75°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が100kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜80°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が150kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜60°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が60kg〜90kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は55°〜77.5°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が110kg〜140kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜70°に設定されることによって、上
記課題を解決する。
【0011】
また本発明
に係るシリコン単結晶の製造装置は、チャンバと、
前記チャンバ内に回転可能及び昇降可能に設けられ、シリコン融液が収容される坩堝と、
前記坩堝に収容されたシリコン原料を融解する第1ヒータと、
チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するために、前記坩堝内のシリコン融液に浸漬されて引き上げられる種結晶が先端に装着され、前記チャンバ内に回転可能及び昇降可能に設けられた引上げ機構と、
前記坩堝内のシリコン融液に前記チャンバの外部からシリコン融液を供給する融液供給機構とを備え、
前記融液供給機構は、
前記シリコン融液の液面に対して50°〜80°の傾斜角θ1にて配置された融液導入管と、
前記融液導入管の基端の開口部に前記シリコン融液を供給する融液生成機構と、を含み、
前記融液導入管の先端
には、
前記坩堝の内部に向かって開口する開口部と、前記開口部の外縁に沿って形成された環状の端面とが設けられ、
前記端面は当該融液導入管の軸に
対して傾斜するとともに、前記端面の下端部は前記端面の上端部よりも前記坩堝の内部側に位置し、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が50kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は60°〜75°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が100kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜80°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が150kg±10kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜60°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が60kg〜90kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は55°〜77.5°に設定され、
前記融液導入管によるシリコン融液の供給量が110kg〜140kgの場合は、前記融液導入管の前記傾斜角は50°〜70°に設定されている
ことによって上記第1及び第2の課題を解決する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、融液導入管の先端を軸に対して斜めに切断した上向きの開口部としたので、シリコン融液の流れによって膨張した融液導入管内の気体は、開口部の側方に逃げて坩堝の液面に衝突することが少なくなるので、液跳ねを抑制することができる。また、融液導入管の傾斜角をシリコン融液の供給量に応じて50°〜8
0°の範囲のいずれかにしたので、シリコン融液の投入速度が大きく、シリコン融液の詰りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るシリコン単結晶の製造装置の一実施の形態を示す断面図である。
【
図2A】
図1の融液導入管の先端部を示す側面図及び正面図である。
【
図3】シリコン融液の追加チャージを行う第1工程を示す断面図である。
【
図4】シリコン融液の追加チャージを行う第2工程を示す断面図である。
【
図5】シリコン融液の追加チャージを行う第3工程を示す断面図である。
【
図6】シリコン融液の追加チャージを行う第4工程を示す断面図である。
【
図7】
図3〜
図6の追加チャージを終えたのちにシリコン単結晶の引き上げを開始した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造装置1(以下単に製造装置1とも言う)の一実施の形態を示す断面図である。本実施形態の製造装置1は、特に限定されないが、1本のシリコン単結晶インゴットを製造する場合の製造初期の原料補充(追加チャージ)や、1本のシリコン単結晶を製造した後に続けてもう1本のシリコン単結晶を製造する場合の原料供給(再チャージ)が必要とされる場合に用いるのに好ましい装置である。例えば、1本のシリコンインゴットを製造する場合には、石英製の坩堝21にできる限り隙間なくシリコン原料塊を入れ、これをヒータにて融解するが、隙間の分だけ融液の液面が低くなる。このため所定液面まで追加チャージを行い、できる限り長尺のインゴットを製造し生産性を高めることが行われる。また、複数本のインゴットを連続して引き上げることでもシリコン原料の投入作業に要する時間や融解時間を短縮することができるので、これによっても生産性を高めることができる。
【0016】
そのため、本実施形態のシリコン単結晶の製造装置1は、第1チャンバ11及び第2チャンバ12と、第1チャンバ11内に回転可能及び昇降可能に設けられ、シリコン原料が収容される石英製の坩堝21と、石英製の坩堝21に収容されたシリコン原料を融解する第1ヒータ25と、先端に種結晶Sが装着され、第1チャンバ11及び第2チャンバ12内に回転可能及び昇降可能に設けられた引上げ機構32とを主として備える製造装置1に加え、石英製の坩堝21内の融液Mに第1チャンバ11の外部からシリコン原料の融液を供給する融液供給機構50をさらに備える。
【0017】
最初に融液供給機構50以外の構成について説明すると、本実施形態の製造装置1は、円筒状の第1チャンバ11と、同じく円筒状の第2チャンバ12とを備え、これらは気密に接続されている。第1チャンバ11の内部には、シリコン融液Mを収容する石英製の坩堝21と、この石英製の坩堝21を保護する黒鉛製の坩堝22とが、支持軸23で支持されるとともに、駆動機構24によって回転及び昇降が可能とされている。また、石英製の坩堝21と黒鉛製の坩堝22とを取り囲むように、環状の第1ヒータ25と、同じく環状の、断熱材からなる保温筒26が配置されている。環状の第1ヒータ25からの放射熱は、黒鉛製の坩堝22の側部だけでなく底部にも廻り込み、石英製の坩堝21の側部と底部を加熱する。坩堝21の下方に他の第1ヒータを追加してもよい。
【0018】
第1チャンバ11の内部であって、石英製の坩堝21の上部には、円筒状の熱遮蔽部材27が設けられている。熱遮蔽部材27は、モリブデン、タングステンなどの耐火金属、カーボン又は黒鉛製外殻の内部にカーボン製断熱材を充填したものからなり、シリコン融液Mからシリコン単結晶Cへの放射を遮断するとともに、第1チャンバ11内を流れるガスを整流する。熱遮蔽部材27は、保温筒26にブラケット28を用いて固定されている。この熱遮蔽部材27の下端に、シリコン融液Mの全面と対向するように遮熱部を設け、シリコン融液Mの表面からの輻射をカットするとともにシリコン融液Mの表面を保温するようにしてもよい。
【0019】
第1チャンバ11の上部に接続された第2チャンバ12は、育成したシリコン単結晶Cを収容し、これを取り出すためのチャンバである。第2チャンバ12の上部には、シリコン単結晶をワイヤ31で回転させながら引上げる引上げ機構32が設けられている。引上げ機構32から垂下されたワイヤ31の下端のチャックには種結晶Sが装着される。第1チャンバ11の上部に設けられたガス導入口13から、アルゴンガス等の不活性ガスが導入される。この不活性ガスは、引上げ中のシリコン単結晶Cと熱遮蔽部材27との間を通過した後、熱遮蔽部材27の下端とシリコン融液Mの融液の液面との間を通過し、さらに石英製の坩堝21の上端へ立ち上がった後、ガス排出口14から排出される。
【0020】
第1チャンバ11(非磁気シールド材からなる)の外側には、第1チャンバ11を取り囲むように、石英製の坩堝21内の融液Mに磁場を与える磁場発生装置41が配置されている。磁場発生装置41は、石英製の坩堝21に向けて、水平磁場を生じさせるものであり、電磁コイルで構成されている。磁場発生装置41は、坩堝21内の融液Mに生じた熱対流を制御することで、ウェハ内の不純物分布を均一にする。特に大口径のシリコン単結晶を製造する場合にはその効果が大きい。なお、水平磁場の他、カスプ磁場や縦磁場を発生させる磁場発生装置を用いてもよい。必要に応じて磁場発生装置41を用いなくてもよい。
【0021】
本実施形態の製造装置1を用いて、CZ法によりシリコン単結晶を育成するには、まず、石英製の坩堝21内に、多結晶シリコンや必要に応じてドーパントからなるシリコン原材料塊を充填し、第1ヒータ25を作動させて坩堝21内でシリコン原材料を融解し、シリコン融液Mとする。このとき、シリコン融液Mが坩堝21の最大容量に達しない場合は、融液供給機構50によりシリコン融液を追加チャージする。
【0022】
本実施形態の融液供給機構50は、
図1に示すように、石英製の融液導入管51と、融液生成機構54とを備える。
【0023】
融液導入管51は、第1チャンバ11の側壁に開設された通孔15を挿通し、移動機構52によって支持されながら、
図1に示す後退位置と、
図5に実線で示す前進位置との間を移動可能とされている。また融液導入管51は、伸縮自在のベローズ53によって包囲されている。ベローズ53の一端は、第1チャンバ11の通孔15に気密に設けられ、ベローズ53の他端は、融液導入管51の基端に気密に設けられている。これにより、融液導入管51は、ベローズ53により包囲されつつ、移動機構52によって、
図1に示す後退位置と、
図5に実線で示す前進位置との間を進退移動する。なお図示を省略するが、融液導入管51の基端の開口部512には、当該開口部512を気密に閉塞するバルブが設けられている。
【0024】
本実施形態の融液導入管51は、
図2Aに示すように、石英製の坩堝21の融液Mの液面に対し50°〜80°の傾斜角θ1にて配置されている。この場合の傾斜角θ1とは、融液導入管51の軸と融液Mの液面(すなわち水平面)とのなす鋭角をいう。融液導入管51の傾斜角θ1が50°より小さいと、融液導入管51により供給される原料融液の投入速度が小さく、原料融液の詰りを充分に抑制できないので好ましくない。また投入速度が小さいので投入時間が長くなるという欠点もある。一方、融液導入管51の傾斜角θ1が80°より大きいと、融液導入管51により供給される原料融液の投入速度が大き過ぎ、石英製の坩堝21の液面で発生する液跳ねを充分に抑制できないので好ましくない。
【0025】
また本実施形態の融液導入管51は、
図2Aに示すように、その先端が、当該融液導入管51の軸に垂直な方向に対して角度θ2(0<θ2<90°)が付いた環状面であって、当該環状面のうち鉛直下側511aが鉛直上側511bより軸方向の先端に位置する環状面を有する開口部511とされている。換言すれば、融液導入管51の先端の開口部511は、軸に対して斜めに切断した上向きの開口部とされている。つまり、
図2Bに比較例として示す融液導入管51のように、軸に対して斜めの傾斜角θ3で切断した下向きの開口部511とはされず、環状面のうち鉛直下側511aが鉛直上側511bより軸方向の後端に位置していない。角度θ2は、0°<θ2<90°であるが、θ2が小さいと液跳ね抑制効果が小さいので、θ2は大きい方が望ましい。
【0026】
なお、移動機構52の具体的構造は特に限定されず、ベローズ53で包囲された融液導入管51を支持しながら、融液導入管51の先端が坩堝21の融液Mの液面に接近する前進位置(
図5参照)と、融液導入管51が第1チャンバ11の外部へ後退する後退位置(
図1参照)との間を移動させる機構であればよい。
【0027】
本実施形態の融液生成機構54は、
図1に示すように、昇降機構541により昇降可能に設けられたサブチャンバ542を備える。このサブチャンバ542内には、
図3及び
図4に示すように、当該サブチャンバ542の内部において傾転可能に設けられた石英製の容器543と、容器543に投入されたシリコン原料塊Bを融解する第2ヒータ544と、容器543にシリコン原料塊Bを供給する原料ホッパ545と、容器543で融解された融液Mを融液導入管51に案内する注液口546とが設けられている。
【0028】
すなわち、
図3に示すように、原料ホッパ545には、シリコン原料塊Bが投入され、原料ホッパ545の下部に設けられたバルブ547を開くことで容器543にシリコン原料塊が落下する。容器543に所定量のシリコン原料塊Bが投入されたら第2ヒータ544を作動し、
図4に示すように、シリコン原料塊Bを融解する。そして、
図5に示すように、移動機構52によって融液導入管51を前進位置に移動させたのち、
図6に示すようにサブチャンバ542を回転させ、注液口546と融液導入管51の基端の開口部512とをドッキングさせる。この状態で、容器543を図示しない傾転機構によって、
図4に点鎖線で示すように傾転させ、容器543の融液Mを注液口546を介して融液導入管51の基端の開口部512に供給する。これにより、容器543の融液Mは、融液導入管51を介して石英製の坩堝21へ追加チャージされ、坩堝21の容量が増加する。
【0029】
石英製の坩堝21への追加チャージが終了したら、
図7に示すようにサブチャンバ542を回転させて原位置に戻したのち、移動機構52により融液導入管51を後退位置に移動させるとともに基端の開口部512を閉塞する。続いて、磁場発生装置41を作動させて坩堝21への水平磁場の印加を開始しつつ、シリコン融液Mの温度を引き上げ開始温度となるように調温する。シリコン融液Mの温度と磁場強度が安定したら、ガス導入口13から不活性ガスを導入しガス排出口14から排出しながら、駆動機構24によって坩堝21を所定速度で回転させ、ワイヤ31に装着された種結晶Sをシリコン融液Mに浸漬する。そして、
図7に示すように、ワイヤ31も所定速度で回転させながら静かに引上げて種絞りを形成した後、所望の直径まで拡径し、略円柱形状の直胴部を有するシリコン単結晶Cを成長させる。
【0030】
図1に示す本実施形態のシリコン単結晶の製造装置1を用いて、シリコン原料塊Bの追加チャージ量(kg)、融液導入管51の傾斜角θ1(°)、融液導入管51の先端の開口部511の傾斜角θ2(°)の有無を下記表1のとおり設定し、各条件において石英製の坩堝21の表面における液跳ねの有無を目視確認するとともに、融液導入管51の詰り乃至融液の付着の有無を確認した。石英製の坩堝21の最大容量は480kg、融液導入管51の内径は60mmの石英製のものを用いた。融液導入管51の先端の開口部511の傾斜角θ2の有無は、θ2=0°の場合を「無」、0°<θ2<90°の場合を「有」とした。なお、融液導入管51の先端の開口部511の傾斜角θ2が「無」の場合における当該先端の開口部511の位置は、
図2Aにおいて、開口部511の鉛直下側511aが傾斜角θ2が「有」の場合と同じ位置(換言すれば、
図2Aの鉛直上側511bが先端まで延びている)になるように設定した。
【0032】
《考察》
(1)融液導入管51の先端の開口部511の傾斜角θ2が「有」のものについては、殆どの試料において液跳ねはなく、稀に観察されたものでも小さい液跳ねであった。特に融液導入管51の傾斜角θ1が45°〜60°の試料については、追加チャージ量の多少に拘らず液跳ねは観察されなかった。また、追加チャージ量が50kgの場合は融液導入管51の傾斜角θ1が45°〜75°、追加チャージ量が100kgの場合は融液導入管51の傾斜角θ1が45°〜80°追加チャージ量が150kgの場合は融液導入管51の傾斜角θ1が45°〜60°の試料については、液跳ねは観察されなかった。
【0033】
このように、シリコン融液を追加チャージする際には、融液導入管51の内部にある気体が、シリコン融液が流通する度に熱によって膨張するところ、本実施形態のように融液導入管51の先端を軸に対して斜めθ2に切断した上向きの開口部511とすることにより、気体の膨張圧力を開口部511の真横に逃がすことができ、これが液跳ねの防止に繋がっているものと推察される。これに対して、
図2Bに示す開口部511の形状の場合には、融液導入管51の内部で膨張した気体が液面に直接吹き出すことになり、これにより液跳ねが増すものと推察される。
【0034】
(2)一方、融液導入管51の傾斜角θ1が60°〜85°の試料については、融液導入管51の詰り又は融液の付着は観察されなかった。また、追加チャージ量が50kgの場合は融液導入管51の傾斜角θ1が60°〜85°、追加チャージ量が100kgの場合は融液導入管51の傾斜角θ1が50°〜85°追加チャージ量が150kgの場合は融液導入管51の傾斜角θ1が50°〜85°の試料については、融液導入管51の詰り又は融液の付着は観察されなかった。
【0035】
(3)さらに、追加チャージ量が50kgの場合(試料No.1〜18)、試料No.7,9,11,13の条件、すなわち融液導入管51の傾斜角θ1が60°〜75°且つ融液導入管51の先端の開口部511の傾斜角θ2が「有」のものについては、液跳ねは観察されず且つ融液導入管51の詰り又は融液の付着は観察されなかった。また、追加チャージ量が100kgの場合(試料No.21〜38)、試料No.23,25,27,29,31,33,35の条件、すなわち融液導入管51の傾斜角θ1が50°〜80°且つ融液導入管51の先端の開口部511の傾斜角θ2が「有」のものについては、液跳ねは観察されず且つ融液導入管51の詰り又は融液の付着は観察されなかった。また、追加チャージ量が150kgの場合(試料No.41〜58)、試料No.43,45,47の条件、すなわち融液導入管51の傾斜角θ1が50°〜60°且つ融液導入管51の先端の開口部511の傾斜角θ2が「有」のものについては、液跳ねは観察されず且つ融液導入管51の詰り又は融液の付着は観察されなかった。
【0036】
以上のとおり、本実施形態のシリコン単結晶の製造装置1によれば、融液導入管51の先端を軸に対して斜めに切断した上向きの開口部511としたので、シリコン融液の流れによって膨張した融液導入管51内の気体は、開口部511の側方に逃げて坩堝21の液面に衝突することが少なくなるので、液跳ねを抑制することができる。 また、融液導入管51の傾斜角θ1をシリコン融液の供給量に応じて50°〜85°の範囲のいずれかにしたので、シリコン融液の投入速度が大きく、シリコン融液の詰りを抑制できる。
【0037】
なかでも、特に限定されないが、一例として、シリコン融液の最大収容量が480kg±10kgである坩堝21に対して、融液導入管51によるシリコン融液の供給量が50kg±10kgの場合は、融液導入管51の傾斜角θ1は60°〜75°に設定することが望ましく、融液導入管51によるシリコン融液の供給量が100kg±10kgの場合は、融液導入管51の傾斜角θ1は50°〜80°に設定することが望ましく、融液導入管51によるシリコン融液の供給量が150kg±10kgの場合は、融液導入管51の傾斜角θ1は50°〜60°に設定することが望ましい。こうすることで、液跳ねとシリコン融液の詰りを同時に抑制することができる。この場合、融液導入管51によるシリコン融液の供給量が50kg±10kgの場合、100kg±10kgの場合、および150kg±10kgの場合以外のその他の供給量、すなわち60〜90kg、110〜140kgの場合の融液導入管51の傾斜角θ1は、上記傾斜角θ1の内挿により好ましい範囲とすることができる。すなわち、融液導入管51によるシリコン融液の供給量が60〜90kgの場合の融液導入管51の傾斜角θ1は、55°〜77.5°に設定することが好ましく、融液導入管51によるシリコン融液の供給量が110〜140kgの場合の融液導入管51の傾斜角θ1は、50°〜70°に設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0038】
1…シリコン単結晶の製造装置
11…第1チャンバ
12…第2チャンバ
13…ガス導入口
14…ガス排出口
15…通孔
21…石英製の坩堝
22…黒鉛製の坩堝
23…支持軸
24…駆動機構
25…第1ヒータ
26…保温筒
27…熱遮蔽部材
28…ブラケット
31…ワイヤ
32…引上げ機構
41…磁場発生装置
50…融液供給機構
51…融液導入管
511…先端の開口部
511a…鉛直下側
511b…鉛直上側
512…基端の開口部
52…融液導入管の移動機構
53…ベローズ
54…融液生成機構
541…昇降機構
542…サブチャンバ
543…容器
544…第2ヒータ
545…原料ホッパ
546…注液口
547…バルブ
θ1…融液導入管の傾斜角
θ2…融液導入管の先端の開口角
M…シリコン融液
C…シリコン単結晶
S…種結晶
B…シリコン原料塊