(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献4〜5で提案されている黒化層や金属吸収層の分光光学特性によっては、黒化層や金属吸収層を設けることでかえって反射を増加させてしまうことがあり、構成材料や成膜条件の選定に困難が伴う問題が存在した。
【0010】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、高輝度照明下においても上記金属製細線から成る回路パターンが視認され難い電極基板フィルムを提供し、この電極基板フィルムの製造に用いられる積層体フィルムを提供すると共に、これ等積層体フィルムと電極基板フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上記課題を解決するため本発明者が金属吸収層の成膜実験と光学薄膜シミュレーションを繰り返し行ったところ、可視波長領域(400〜780nm)における分光反射率が均一でかつ分光反射率が低くなる最適な金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)と膜厚条件が存在することを見出すに至り、更に、可視波長領域の反射率を低減できることにより電極等回路パターンを構成する金属製細線の線幅を大きくできることも確認された。本発明はこのような技術的発見により完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板に設けられた積層膜とで構成される積層体フィルムにおいて、
上記積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層と第2層目の金属層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
であると共に、
透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における最高
反射率と最低
反射率の差が10%以下である
と共に、上記金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とし、
第2の発明は、
第1の発明に記載された積層体フィルムにおいて、
上記積層膜が、透明基板側から数えて第3層目の膜厚が20nm以上30nm以下である第2の金属吸収層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記第2の金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
である
と共に、上記第2の金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とし、
また、第
3の発明は、
第1の発明に記載された積層体フィルムにおいて、
上記金属層の膜厚が、50nm以上5000nm以下であることを特徴とするものである。
【0013】
次に、本発明に係る第
4の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムにおいて、
上記金属製の積層細線が、線幅20μm以下で、かつ、透明基板側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層と第2層目の金属層を有し、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
であると共に、
透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における最高
反射率と最低
反射率の差が10%以下である
と共に、上記金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とし、
第
5の発明は、
第
4の発明に記載された電極基板フィルムにおいて、
上記金属製の積層細線が、透明基板側から数えて第3層目の膜厚が20nm以上30nm以下である第2の金属吸収層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記第2の金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
である
と共に、上記第2の金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とし、
また、第
6の発明は、
第
4の発明に記載された電極基板フィルムにおいて、
上記金属層の膜厚が、50nm以上5000nm以下であることを特徴とするものである。
【0014】
次に、本発明に係る第
7の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板に設けられた積層膜とで構成される積層体フィルムの製造方法において、
上記積層膜の透明基板側から数えて第1層目として、
膜厚が20nm以上30nm以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
である金属吸収層を
、Ni単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、または、Cu単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Niより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金を成膜材料とし、かつ、成膜装置内に酸素から成る反応性ガスを導入した真空成膜法により形成する第1工程と、
上記積層膜の透明基板側から数えて第2層目として、
金属層を真空成膜法により形成する第2工程を具備し、
透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における最高
反射率と最低
反射率の差が10%以下であることを特徴とする。
【0015】
更に、第
8の発明は、
第
7の発明に記載された積層体フィルムの製造方法において、
上記積層膜の透明基板側から数えて第3層目として、
膜厚が20nm以上30nm以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
である第2の金属吸収層を
、Ni単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、または、Cu単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Niより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金を成膜材料とし、かつ、成膜装置内に酸素から成る反応性ガスを導入した真空成膜法により形成する第3工程を具備することを特徴とし、
第
9の発明は、
第
7の発明に記載された積層体フィルムの製造方法において、
真空成膜法を実施する成膜装置内に
上記成膜材料と
酸素から成る反応性ガスを導入し、かつ、成膜装置内における成膜条件を制御して屈折率と消衰係数の光学定数が調整された上記
金属吸収層を形成することを特徴とし、
第10の発明は、
第8の発明に記載された積層体フィルムの製造方法において、
真空成膜法を実施する成膜装置内に上記成膜材料と酸素から成る反応性ガスを導入し、かつ、成膜装置内における成膜条件を制御して屈折率と消衰係数の光学定数が調整された上記第2の金属吸収層を形成することを特徴とし、
また、本発明に係る第
11の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムの製造方法において、
第1の発明〜第
3の発明のいずれかに記載された積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して、線幅が20μm以下である上記金属製の積層細線を配線加工することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する本発明の電極基板フィルムは、
上記金属製の積層細線が、線幅20μm以下で、かつ、透明基板側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層と第2層目の金属層を有し、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
であると共に、透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における最高
反射率と最低
反射率の差が10%以下である
と共に、上記金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴としている。
【0017】
そして、透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下と低く、かつ、可視波長領域における最高
反射率と最低
反射率の差も10%以下と均一になっているため、高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが視認され難い電極基板フィルムを提供でき、更に、従来と比較して線幅が大きい金属製の積層細線を適用できるため電気抵抗値の低い電極基板フィルムを提供できる効果を有する。
【0018】
更に、樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板に設けられた積層膜とで構成される本発明の積層体フィルムは、
上記積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層と第2層目の金属層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
であると共に、透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における最高
反射率と最低
反射率の差が10%以下である
と共に、上記金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴としている。
【0019】
そして、本発明に係る積層体フィルムの上記積層膜をエッチング処理して、線幅が20μm以下である金属製の積層細線を配線加工することにより本発明の電極基板フィルムを簡便かつ確実に製造することができる効果を有す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
(1)金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)と膜厚条件
(1-1)真空成膜法の一例としてスパッタリング法により金属吸収層を形成する場合、スパッタリング法を実施する装置(スパッタリングウェブコータと称され、成膜装置内に成膜材料であるスパッタリングターゲットがカソードに取り付けられている)内に酸素や窒素ガス等の反応性ガスを導入しながら上記金属吸収層が形成される。そして、成膜条件(酸素や窒素ガス等の反応性ガス添加量)については、成膜装置の形状、透明基板である樹脂フィルムの搬送速度、スパッタリングカソードの成膜速度、反応性ガス放出パイプとスパッタリングカソードおよび樹脂フィルムの位置関係等の影響を受けるため一義的に定めることは困難で、導入した反応性ガスの添加量と成膜された金属吸収層の特性結果から、成膜装置毎に上記成膜条件が導かれる。
【0023】
(1-2)そして、成膜実験と光学薄膜シミュレーションを繰り返し行った結果、本発明者は、上述したように可視波長領域(400〜780nm)における分光反射率が均一でかつ分光反射率が低くなる最適な金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)と膜厚条件が存在することを発見している。
【0024】
(1-3)
図2のグラフ図は、Ni系合金(Ni−W)ターゲットを用い、以下に述べる成膜条件A〜Eで酸素反応性スパッタリング成膜された各金属吸収層における波長(nm)と屈折率(n)との関係を示し、また、
図3のグラフ図は、上記成膜条件A〜Eで成膜された各金属吸収層における波長(nm)と消衰係数(k)との関係を示している。
【0025】
尚、成膜条件A〜Eは、成膜条件A(酸素濃度0%)、成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)、成膜条件D(酸素濃度28%)、および、成膜条件E(酸素濃度33%)である。
【0026】
そして、
図2と
図3のグラフ図から、Ni系合金(Ni−W)の酸化の度合いで光学定数(屈折率、消衰係数)が大きく変化していることが確認され、成膜条件A(酸素濃度0%)が最も酸化度が低く、成膜条件E(酸素濃度33%)に向かって酸化度が高くなっている。
【0027】
従って、形成される金属吸収層について、成膜材料(Ni系合金等の金属材料)や成膜条件(酸素や窒素ガス等の反応性ガス添加量)で特定することは困難であり、その光学定数で規定することが望ましい。
【0028】
(1-4)次に、
図4〜
図8のグラフ図は、成膜条件A〜Eにより樹脂フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム)に形成された金属吸収層の上に、一例として膜厚80nmの銅(金属層)がそれぞれ成膜された各積層体フィルムについて、PETフィルムと金属吸収層および金属吸収層と金属層(銅)の各界面での反射による分光反射特性を示している。尚、金属吸収層の膜厚は0nm(金属吸収層が存在しない)〜30nmの範囲で5nm毎に変化させている。
【0029】
そして、
図4のグラフ図から、金属吸収層の酸化度が最も低い成膜条件A(酸素濃度0%)の分光反射特性は、平均反射率が高く、膜厚が大きくなるにつれて反射率の変化量は減少することが確認される。他方、
図8のグラフ図から、金属吸収層の酸化度が最も高い成膜条件E(酸素濃度33%)の分光反射特性は、平均反射率は低いが、分光反射特性の平坦性(最高反射率と最低反射率の差)が大きいことが確認される。
【0030】
(1-5)そこで、可視波長域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、分光反射特性の平坦性(最高反射率と最低反射率の差)が10%以下である条件を満たす金属吸収層(すなわち、分光反射率が低くかつ可視波長領域における分光反射率が均一である条件を満たす金属吸収層)を
図4〜
図8のグラフ図から求めると、成膜条件C(酸素濃度23%)および成膜条件D(酸素濃度28%)でそれぞれ成膜され、かつ、その膜厚が20nm以上30nm以下の金属吸収層が選定される。
【0031】
そして、成膜条件C(酸素濃度23%)および成膜条件D(酸素濃度28%)でそれぞれ成膜された金属吸収層の可視波長域(400〜780nm)における光学定数(屈折率、消衰係数)を
図2と
図3のグラフ図から求めると、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
が導かれる。
【0032】
(1-6)そして、PETフィルム上に成膜された金属吸収層の膜厚が20nm以上30nm以下で、可視波長域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)が上記条件、すなわち、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
を具備する場合、その金属吸収層は、PETフィルムと金属吸収層および金属吸収層と金属層(一例として銅)の各界面での反射による可視波長域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、分光反射特性の平坦性(最高反射率と最低反射率の差)が10%以下である条件を満たすため、樹脂フィルム(PETフィルム)側から観測される金属層の反射は低減される。
【0033】
尚、膜厚が20nm以上30nm以下でかつ上記光学定数(屈折率、消衰係数)の条件を具備することで、分光反射率が低くかつ可視波長領域における分光反射率が均一となる特性を有する金属吸収層の材料は、上述したNi系合金(Ni−W)に限定されず、例えば、Ni単体、若しくは、
Ti、V、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、および、Cu単体、若しくは、
Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Niより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金で金属吸収層を構成した場合においても成立することが確認されている。
【0034】
(2)本発明に係る積層体フィルムと電極基板フィルム
(2-1)本発明に係る積層体フィルム
図1(A)に示すように樹脂フィルムから成る透明基板42と該透明基板42に設けられた積層膜とで構成される本発明に係る積層体フィルムは、
上記積層膜が、透明基板42側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層41と第2層目の金属層40を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層41の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
であると共に、
図1(B)に示すように透明基板42と金属吸収層41および金属吸収層41と金属層40の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における最高
反射率と最低
反射率の差が10%以下である
と共に、上記金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とし、
また、上記積層体フィルムにおいて、
上記積層膜が、透明基板42側から数えて第3層目の膜厚が20nm以上30nm以下である第2の金属吸収層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記第2の金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
である
と共に、上記第2の金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とするものである。
【0035】
(2-2)本発明に係る電極基板フィルム
図1(C)に示すように樹脂フィルムから成る透明基板52と、該透明基板52に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する本発明に係る電極基板フィルムは、
上記金属製の積層細線が、線幅20μm以下で、かつ、透明基板52側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層51と第2層目の金属層50を有し、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層51の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
であると共に、
透明基板52と金属吸収層51および金属吸収層51と金属層50の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、可視波長領域(400〜780nm)における最高
反射率と最低
反射率の差が10%以下である
と共に、上記金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とし、
また、上記電極基板フィルムにおいて、
金属製の積層細線が、透明基板52側から数えて第3層目の膜厚が20nm以上30nm以下である第2の金属吸収層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記第2の金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
である
と共に、上記第2の金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とするものである。
【0036】
(3)本発明に係る積層体フィルムと電極基板フィルムの構成材料
(3-1)透明基板を構成する樹脂フィルム
本発明に係る積層体フィルムと電極基板フィルムに適用される樹脂フィルムの材質としては特に限定されることはなく、その具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)、トリアセチルセルロース(TAC)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂フィルムの単体、あるいは、上記樹脂材料から選択された樹脂フィルム単体とこの単体の片面または両面を覆うアクリル系有機膜との複合体が挙げられる。特に、ノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等が挙げられる。
【0037】
尚、本発明に係る電極基板フィルムは「タッチパネル」等に使用するため、上記樹脂フィルムの中でも可視波長領域での透明性に優れるものが望ましい。
【0038】
(3-2)金属吸収層
本発明に係る金属吸収層の膜材料としては、上述したようにNi単体、若しくは、
Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、および、Cu単体、若しくは、
Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Niより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金が好ましい。
【0039】
また、金属吸収層は、上記Ni単体若しくはNi系合金、Cu単体若しくはCu系合金を成膜材料とし、かつ、成膜装置内に反応性ガスを導入した真空成膜法により形成される。上記真空成膜方法としては、マグネトロンスパッタ、イオンビームスパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング、CVD等があり、また、上記反応性ガスとしては、
酸素の単体ガス、または、
酸素を主成分としアルゴン等を含む混合ガスが挙げられる。
【0040】
そして、金属吸収層の各波長における光学定数(屈折率、消衰係数)は、反応の度合い、すなわち酸化度あるいは窒化度に大きく影響され、金属吸収層の構成材料だけで決定されるものではない。
【0041】
(3-3)金属層
本発明に係る金属層の構成材料としては、電気抵抗値が低い金属であれば特に限定されず、例えば、Cu単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Agより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金、または、Ag単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたAg系合金が挙げられ、特に、Cu単体が、回路パターンの加工性や抵抗値の観点から望ましい。
【0042】
また、金属層の膜厚は電気特性に依存するものであり、光学的な要素から決定されるものではないが、通常、透過光が測定不能なレベルの膜厚に設定される。
【0043】
そして、金属層の望ましい膜厚は、電気抵抗の観点からは50nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましい。一方、金属層を配線パターンに加工する加工性の観点からは5μm(5000nm)以下が好ましく、3μm(3000nm)以下がより好ましい。
【0044】
(4)真空成膜法を実施する成膜装置
(4-1)スパッタリングウェブコータ
真空成膜法の一例としてスパッタリング法を挙げ、その成膜装置について説明する。
【0045】
尚、この成膜装置はスパッタリングウェブコータと称され、ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルム表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に用いられる。
【0046】
具体的に説明すると、ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)は、
図9に示すように真空チャンバー10内に設けられており、巻き出しロール11から巻き出された長尺樹脂フィルム12に対して所定の成膜処理を行った後、巻き取りロール24で巻き取るようになっている。これら巻き出しロール12から巻き取りロール24までの搬送経路の途中に、モータで回転駆動されるキャンロール16が配置されている。このキャンロール16の内部には、真空チャンバー10の外部で温調された冷媒が循環している。
【0047】
真空チャンバー10内では、スパッタリング成膜のため、到達圧力10
-4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素や窒素等のガスが添加される。真空チャンバー10の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく種々のものを使用することができる。また、真空チャンバー10内を減圧してその状態を維持するため、真空チャンバー10にはドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置(図示せず)が組み込まれている。
【0048】
巻き出しロール11からキャンロール16までの搬送経路には、長尺樹脂フィルム12を案内するフリーロール13と、長尺樹脂フィルム12の張力の測定を行う張力センサロール14とがこの順で配置されている。また、張力センサロール14から送り出されてキャンロール16に向かう長尺樹脂フィルム12は、キャンロール16の近傍に設けられたモータ駆動の前フィードロール15によってキャンロール16の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール16の外周面に長尺樹脂フィルム12を密着させることができる。
【0049】
キャンロール16から巻き取りロール24までの搬送経路も、上記同様に、キャンロール16の周速度に対する調整を行うモータ駆動の後フィードロール21、長尺樹脂フィルム12の張力の測定を行う張力センサロール22および長尺樹脂フィルム12を案内するフリーロール23がこの順に配置されている。
【0050】
上記巻き出しロール11および巻き取りロール24では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺樹脂フィルム12の張力バランスが保たれている。また、キャンロール16の回転とこれに連動して回転するモータ駆動の前フィードロール15、後フィードロール21により、巻き出しロール11から長尺樹脂フィルム12が巻き出されて巻き取りロール24に巻き取られるようになっている。
【0051】
キャンロール16の近傍には、キャンロール16の外周面上に画定される搬送経路(すなわち、キャンロール16外周面の内の長尺樹脂フィルム12が巻き付けられる領域)に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19および20が設けられ、この近傍に反応性ガスを放出する反応性ガス放出パイプ25、26、27、28、29、30、31、32が設置されている。
【0052】
上記金属吸収層と金属層のスパッタリング成膜を実施する際、
図9に示すように板状のターゲットを使用できるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなくかつターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0053】
(4-2)反応性スパッタリング
上記金属吸収層を形成する目的で酸化物ターゲット若しくは窒化物ターゲットが用いられた場合、成膜速度が遅く量産に適さないため、高速成膜が可能な金属ターゲットを採用し、かつ、成膜中に上記反応性ガスを制御しながら導入する方法が採られる。
【0054】
上記反応性ガスの制御として、以下の4つの方法が知られている。
(4-2-1)一定流量の反応性ガスを放出する方法。
(4-2-2)一定圧力を保つように反応性ガスを放出する方法。
(4-2-3)スパッタリングカソードのインピーダンスが一定になるように反応性ガスを放出する(インピーダンス制御)方法。
(4-2-4)スパッタリングのプラズマ強度が一定になるように反応性ガスを放出する(プラズマエミッション制御)方法。
【0055】
(5)電極基板フィルムの製造方法
(5-1)本発明に係る積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して、線幅が20μm以下である金属製の積層細線に配線加工することにより本発明に係る電極基板フィルムを得ることができる。そして、電極基板フィルムの電極(配線)パターンをタッチパネル用のストライプ状若しくは格子状とすることで、本発明に係る電極基板フィルムをタッチパネルに用いることができる。
【0056】
そして、電極(配線)パターンに配線加工された金属製の積層細線は本発明に係る積層体フィルムの積層構造を維持していることから、透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下と低く、かつ、可視波長領域における最高
反射率と最低
反射率の差も10%以下と均一になっているため、高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが極めて視認され難い電極基板フィルムとして提供することができる。
【0057】
(5-2)そして、本発明に係る積層体フィルムから電極基板フィルムに配線加工するには、公知のサブトラクティブ法により加工が可能である。
【0058】
サブトラクティブ法は、積層体フィルムの積層膜表面にフォトレジスト膜を形成し、配線パターンを形成したい箇所にフォトレジスト膜が残るように露光、現像し、かつ、上記積層膜表面にフォトレジスト膜が存在しない箇所の積層膜を化学エッチングにより除去して配線パターンを形成する方法である。
【0059】
上記化学エッチングのエッチング液としては、過酸化水素系エッチング液、硝酸セリウムアンモニウム水溶液を用いることができ、更に、塩化第二鉄水溶液、塩化第二銅水溶液、塩酸酸性の過マンガン酸塩水溶液や酢酸酸性の過マンガン酸塩水溶液も用いることができる。尚、化学エッチングする金属吸収層によっては、上記塩化第二鉄水溶液、塩化第二銅水溶液、塩酸酸性の過マンガン酸塩水溶液や酢酸酸性の過マンガン酸塩水溶液の濃度を調整する必要がある。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0061】
尚、金属吸収層に係る光学特性(屈折率、消衰係数)の測定にはエリプソメータを用い、分光反射特性の測定には自記分光光度計を用いた。
【0062】
[実施例1]
図9に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用い、かつ、反応性ガスには酸素ガスを用いると共に、上記インピーダンス制御により反応性ガス量を制御した。
【0063】
尚、キャンロール16は、直径600mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。前フィードロール15と後フィードロール21は直径150mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。また、各カソード17、18、19、20の上流側と下流側に反応性ガス放出パイプ25、26、27、28、29、30、31、32を設置し、かつ、カソード17には金属吸収層用のNi−Wターゲット、カソード18、19と20には金属層用のCuターゲットを取り付けた。
【0064】
また、透明基板を構成する樹脂フィルムには幅600mmのPETフィルムを用い、キャンロール16は0℃に冷却制御した。また、真空チャンバー10を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
-3Paまで排気した。
【0065】
(1)電極基板フィルムを製造するための積層体フィルムの製造
そして、樹脂フィルムの搬送速度を4m/分にした後、上記反応性ガス放出パイプ25、26からアルゴンガス(スパッタリングガス)を300sccm導入し、かつ、膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nmの金属吸収層(Ni−Wの酸化膜)が成膜されるようにカソード17を電力制御した。また、反応性ガス(酸素ガス)は反応性ガス放出パイプ25、26へ混合ガスとして導入している。
【0066】
反応性ガスには上記酸素ガスを用い、かつ、所定の濃度になるように酸素ガスをピエゾバルブで制御している。そして、導入する酸素ガス濃度の条件として、成膜条件A(酸素濃度0%)、成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)、成膜条件D(酸素濃度28%)、および、成膜条件E(酸素濃度33%)とした。
【0067】
尚、酸素ガスの導入量により成膜速度の低下が予測されるので、目標とする金属吸収層の膜厚を得るためにはスパッタ電力の調整が必要になる。
【0068】
一方、上記反応性ガス放出パイプ27、28、29、30、31、32からアルゴンガス(スパッタリングガス)を300sccm導入し、かつ、膜厚80nmの金属層(Cu層)が形成されるようにカソード18、19と20を電力制御し、成膜条件A(酸素濃度0%)〜成膜条件E(酸素濃度33%)でそれぞれ成膜された膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nmの各金属吸収層上に、膜厚80nmの金属層(Cu層)を成膜して実施例に係る複数種類の積層体フィルムを製造した。
【0069】
(2)電極基板フィルムの製造
次に、得られた複数種類の積層体フィルムを用い、公知のサブトラクティブ法により実施例に係る電極基板フィルムを製造した。
【0070】
すなわち、上記積層体フィルムの積層膜(金属吸収層と金属層から成る積層膜)表面にフォトレジスト膜を形成し、配線パターンを形成したい箇所にフォトレジスト膜が残るように露光、現像し、かつ、上記積層膜表面にフォトレジスト膜が存在しない箇所の積層膜を化学エッチングにより除去して実施例に係る電極基板フィルムを製造した。
【0071】
電極等回路パターンは、配線幅5μm、間隔300μmのストライプとした。
【0072】
尚、この実施例においては、化学エッチングのエッチング液として硝酸セリウムアンモニウム水溶液を適用した。また、化学エッチングは、現像後のフォトレジスト膜が付された積層体フィルムをエッチング液に浸漬して行った。
【0073】
「確 認」
(1)上記成膜条件A〜Eで、かつ、その膜厚が0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nmとなるようにPETフィルム上に金属吸収層をそれぞれ成膜した後、膜厚80nmの金属層(Cu層)を成膜して得られた実施例に係る複数種類の積層体フィルムについて、PETフィルム側から、自記分光光度計によりPETフィルムと金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における分光反射率を測定した。
【0074】
この結果を
図4〜
図8のグラフ図に示す。
【0075】
(2)一方、成膜条件A〜Eで膜厚20nmの金属吸収層をそれぞれ成膜し、これ等金属吸収層上に膜厚80nmの金属層(Cu層)を成膜して得られた実施例に係る5種類の積層体フィルムについて、PETフィルム側から、エリプソメータにより成膜条件A〜Eの可視波長域(400〜780nm)における光学定数(屈折率、消衰係数)を測定した。
【0076】
この結果を
図2〜
図3のグラフ図に示す。
【0077】
尚、光学定数は膜厚に依存しない定数なため、上述したように膜厚20nmの金属吸収層が成膜された5種類の積層体フィルムで光学定数を測定している。
【0078】
(3)そして、可視波長域(400〜780nm)における平均反射率が20%以下で、かつ、分光反射特性の平坦性(最高反射率と最低反射率の差)が10%以下である条件を満たす実施例に係る積層体フィルム(すなわち、分光反射率が低くかつ可視波長領域における分光反射率が均一である条件を満たす積層体フィルム)を
図4〜
図8のグラフ図から求めると、成膜条件C(酸素濃度23%)および成膜条件D(酸素濃度28%)でそれぞれ成膜され、かつ、その膜厚が20nm以上30nm以下の金属吸収層を有する積層体フィルムが選定される。
【0079】
(4)そして、成膜条件C(酸素濃度23%)および成膜条件D(酸素濃度28%)でそれぞれ成膜された積層体フィルムの可視波長域(400〜780nm)における光学定数(屈折率、消衰係数)を
図2と
図3のグラフ図から求めると、
波長400nmにおける屈折率が2.0〜2.2、消衰係数が1.8〜2.1、
波長500nmにおける屈折率が2.4〜2.7、消衰係数が1.9〜2.3、
波長600nmにおける屈折率が2.8〜3.2、消衰係数が1.9〜2.5、
波長700nmにおける屈折率が3.2〜3.6、消衰係数が1.7〜2.5、
波長780nmにおける屈折率が3.5〜3.8、消衰係数が1.5〜2.4、
であることが確認された。
【0080】
(5)更に、エッチング液として上記硝酸セリウムアンモニウム水溶液を適用し、複数種類の積層体フィルムにおける「エッチング性」を調べた。「エッチング性」は、膜厚20nmの金属吸収層をエッチングした後、配線パターンの周囲を光学顕微鏡で観察した。
【0081】
成膜条件A(酸素濃度0%)、成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)、成膜条件D(酸素濃度28%)で形成された金属吸収層は、配線パターンの周囲にエッチングの残りもなくエッチングできた。尚、成膜条件E(酸素濃度33%)で形成された金属吸収層は、配線パターンの周囲にエッチングの残りが見られ、実用には適さないものであった。
【0082】
更に、上記成膜条件A、B、C、Dで形成された膜厚20nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルムについてその金属吸収層側から目視で観察した。観察に際し、導電性基板フィルムの目視側と反対側の面を液晶ディスプレイパネルに接するように配した。
【0083】
上記成膜条件Aで金属吸収層が形成された導電性基板フィルムは電極等回路パターンが視認された。一方、上記成膜条件B、CおよびDで金属吸収層が形成された導電性基板フィルムの電極等回路パターンは視認するのが困難であった。
【0084】
上記成膜条件CおよびDで膜厚20nmの金属吸収層が形成された導電性基板フィルムは、上記成膜条件Bで膜厚20nmの金属吸収層が形成された導電性基板フィルムよりも電極等回路パターンの視認がより困難であった。
【0085】
理想的には、成膜条件C、成膜条件Dで金属吸収層を形成しかつその膜厚を20nm以上とすれば電極等回路パターンの目視での視認が極めて困難な導電性基板フィルムを得ることができることが確認された。
【0086】
(6)尚、実施例に係る金属吸収層はNi−Wターゲットを用いて形成されているが、他のNi合金やCu合金ターゲットを用いても、上記光学定数の範囲であればターゲットの膜材料に限定されないことも確認された。