特許第6597622号(P6597622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597622
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】電極基板フィルムとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20191021BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G06F3/041 490
   G06F3/041 660
   G06F3/041 495
   G06F3/044 122
   G06F3/041 400
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-545537(P2016-545537)
(86)(22)【出願日】2015年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2015073801
(87)【国際公開番号】WO2016031802
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2017年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-172605(P2014-172605)
(32)【優先日】2014年8月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
【審査官】 木内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−513335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムにおいて、
上記積層細線が、透明基板側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層と第2層目の金属層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であると共に、
透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下で、かつ、上記金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とする電極基板フィルム。
【請求項2】
上記金属製の積層細線が、透明基板側から数えて第3層目の膜厚が20nm以上30nm以下である第2の金属吸収層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記第2の金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であると共に、上記第2の金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とする請求項1に記載の電極基板フィルム。
【請求項3】
上記金属層の膜厚が、50nm以上5000nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電極基板フィルム。
【請求項4】
樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムの製造方法において、
透明基板側から数えて積層膜の第1層目として膜厚が20nm以上30nm以下でかつ可視波長領域(400〜780nm)における光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
である金属吸収層を、Ni単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、または、Cu単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Niより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金を成膜材料とし、成膜装置内に酸素から成る反応性ガスを導入した真空成膜法により形成すると共に、透明基板側から数えて積層膜の第2層目である金属層を真空成膜法により成膜して、透明基板と積層膜とで構成されかつ透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下である積層体フィルムを製造する第1工程と、
得られた積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して、上記積層細線を配線加工する第2工程、
を具備することを特徴とする電極基板フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムから成る透明基板と電極等の回路パターンを有しタッチパネル等に用いられる電極基板フィルムに係り、特に、回路パターンを加工する際に支障を来すことがなく、高輝度照明下においても加工された回路パターンが視認され難い電極基板フィルムとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯電子文書機器、自動販売機、カーナビゲーション等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の表面に設置する「タッチパネル」が普及し始めている。
【0003】
上記「タッチパネル」には、大きく分けて抵抗型と静電容量型が存在する。「抵抗型のタッチパネル」は、樹脂フィルムから成る透明基板と、基板上に設けられたX座標(またはY座標)検知電極シート並びにY座標(またはX座標)検知電極シートと、これ等シートの間に設けられた絶縁体スペーサーとで主要部が構成されている。そして、上記X座標検知電極シートとY座標検知電極シートは空間的に隔たっているが、ペン等で押さえられたときに両座標検知電極シートは電気的に接触してペンの触った位置(X座標、Y座標)が判るようになっており、ペンを移動させればその都度座標を認識して、最終的に文字の入力が行なえる仕組みとなっている。他方、「静電容量型のタッチパネル」は、絶縁シートを介してX座標(またはY座標)検知電極シートとY座標(またはX座標)検知電極シートが積層され、これ等の上にガラス等の絶縁体が配置された構造を有している。そして、ガラス等の上記絶縁体に指を近づけたとき、その近傍のX座標検知電極、Y座標検知電極の電気容量が変化するため、位置検知を行なえる仕組みとなっている。
【0004】
そして、電極等の回路パターンを構成する導電性材料として、従来、ITO(酸化インジウム−酸化錫)等の透明導電膜が広く用いられていた(特許文献1参照)。また、タッチパネルの大型化に伴い、特許文献2や特許文献3等に開示されたメッシュ構造の金属製細線も使用され始めている。
【0005】
ところで、上記透明導電膜と金属製細線を較べた場合、透明導電膜は、可視波長領域における透過性に優れるため電極等の回路パターンが殆ど視認されない利点を有するが、金属製細線より電気抵抗値が高いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化には不向きな欠点を有する。他方、金属製細線は、電気抵抗値が低いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化に向いているが、可視波長領域における反射率が高いため、例え微細なメッシュ構造に加工されたとしても高輝度照明下において回路パターンが視認されることがあり、製品価値を低下させてしまう欠点を有する。
【0006】
上記金属製細線の可視波長領域における反射率を低減させるには金属膜と誘電体多層膜を組み合わせて反射防止膜を構成する方法が考えられる。しかし、電極等の回路パターンを構成する金属製細線はエッチングによって形成するため、金属膜と誘電体多層膜とを組み合わせる方法は好ましくない。
【0007】
このような技術的背景の下、樹脂フィルムと金属膜との間に電解めっき法等により黒化層を形成し(特許文献4参照)、あるいは、樹脂フィルムと金属膜との間に金属酸化物から成る光吸収層(金属吸収層)を設ける(特許文献5参照)等して樹脂フィルム側から観測される金属膜の反射を低減させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−151358号公報(請求項2参照)
【特許文献2】特開2011−018194号公報(請求項1参照)
【特許文献3】特開2013−069261号公報(段落0004参照)
【特許文献4】特開2014−142462号公報(請求項5、段落0038参照)
【特許文献5】特開2013−225276号公報(請求項1、段落0041参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4〜5で提案されている黒化層や金属吸収層の分光光学特性如何によっては黒化層や金属吸収層を設けることでかえって反射を増加させてしまうことがあり、構成材料や成膜条件の選定に困難が伴う問題が存在し、また、金属吸収層を構成する材料如何によってはエッチング作業に支障を来すことがあり、電極等回路パターンの加工精度を低下させてしまう問題が存在した。
【0010】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、回路パターンを加工する際に支障を来すことがなく、高輝度照明下においても加工された回路パターンが視認され難い電極基板フィルムとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上記課題を解決するため本発明者が金属吸収層の成膜と光学薄膜のシミュレーションおよび金属吸収層のエッチング性等について繰り返し実験を行ったところ、可視波長領域(400〜780nm)における分光反射率が低くかつエッチング作業に支障を来さない最適な金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)と膜厚条件が存在することを発見するに至り、更に、可視波長領域の反射率を低減できることにより電極等回路パターンを構成する金属製細線の線幅を大きくできることも確認された。本発明はこのような技術的発見により完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムにおいて、
上記積層細線が、透明基板側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層と第2層目の金属層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であると共に、
透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下で、かつ、上記金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とし、
第2の発明は、
第1の発明に記載された電極基板フィルムにおいて、
上記金属製の積層細線が、透明基板側から数えて第3層目の膜厚が20nm以上30nm以下である第2の金属吸収層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記第2の金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であると共に、上記第2の金属吸収層が窒素とアルミニウムを含まない金属酸化物で構成されることを特徴とし、
の発明は、
第1の発明に記載された電極基板フィルムにおいて、
上記金属層の膜厚が、50nm以上5000nm以下であることを特徴とするものである。
【0013】
次に、本発明に係る第の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムの製造方法において、
透明基板側から数えて積層膜の第1層目として膜厚が20nm以上30nm以下でかつ可視波長領域(400〜780nm)における光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
である金属吸収層を、Ni単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、または、Cu単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Niより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金を成膜材料とし、成膜装置内に酸素から成る反応性ガスを導入した真空成膜法により形成すると共に、透明基板側から数えて積層膜の第2層目である金属層を真空成膜法により成膜して、透明基板と積層膜とで構成されかつ透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下である積層体フィルムを製造する第1工程と、
得られた積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して、上記積層細線を配線加工する第2工程、
を具備することを特徴とするものである
【発明の効果】
【0014】
樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する本発明の電極基板フィルムは、
上記積層細線が、透明基板側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層と第2層目の金属層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であると共に、
透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下であることを特徴としている。
【0015】
そして、透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下と低いため高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが視認され難い電極基板フィルムを提供でき、かつ、エッチング作業に支障を来すこともないため電極等回路パターンの加工精度に優れた電極基板フィルムを提供できると共に、従来と比較して線幅が大きい金属製の積層細線を適用できるため電気抵抗値の低い電極基板フィルムを提供できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(A)は本発明に係る電極基板フィルムの製造に用いられる積層体フィルムの構成を示す断面図、図1(B)は図1(A)の部分拡大図、図1(C)は本発明に係る電極基板フィルムの構成を示す断面図。
図2】成膜条件A〜Eでそれぞれ形成された各金属吸収層における波長(nm)と屈折率(n)との関係を示すグラフ図。
図3】成膜条件A〜Eでそれぞれ形成された各金属吸収層における波長(nm)と消衰係数(k)との関係を示すグラフ図。
図4】成膜条件A(酸素濃度0%)で形成された膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nmおよび30nmの各金属吸収層における波長(nm)と反射率(%)との関係を示すグラフ図。
図5】成膜条件B(酸素濃度11%)で形成された膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nmおよび30nmの各金属吸収層における波長(nm)と反射率(%)との関係を示すグラフ図。
図6】成膜条件C(酸素濃度23%)で形成された膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nmおよび30nmの各金属吸収層における波長(nm)と反射率(%)との関係を示すグラフ図。
図7】成膜条件D(酸素濃度28%)で形成された膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nmおよび30nmの各金属吸収層における波長(nm)と反射率(%)との関係を示すグラフ図。
図8】成膜条件E(酸素濃度33%)で形成された膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nmおよび30nmの各金属吸収層における波長(nm)と反射率(%)との関係を示すグラフ図。
図9】樹脂フィルムから成る透明基板上に金属吸収層と金属層を形成する真空成膜法を実施する成膜装置(スパッタリングウェブコータ)の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
(1)金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)と膜厚条件
(1-1)真空成膜法の一例としてスパッタリング法により金属吸収層を形成する場合、スパッタリング法を実施する装置(スパッタリングウェブコータと称され、成膜装置内に成膜材料であるスパッタリングターゲットがカソードに取り付けられている)内に酸素や窒素ガス等の反応性ガスを導入しながら上記金属吸収層が形成される。そして、成膜条件(酸素や窒素ガス等の反応性ガス添加量)については、成膜装置の形状、透明基板である樹脂フィルムの搬送速度、スパッタリングカソードの成膜速度、反応性ガス放出パイプとスパッタリングカソードおよび樹脂フィルムの位置関係等の影響を受けるため一義的に定めることは困難で、導入した反応性ガスの添加量と成膜された金属吸収層の特性結果から、成膜装置毎に上記成膜条件が導かれる。
【0019】
(1-2)そして、金属吸収層の成膜と光学薄膜のシミュレーションおよび金属吸収層のエッチング性等について繰り返し実験を行った結果、本発明者は、上述したように可視波長領域(400〜780nm)における分光反射率が低くかつエッチング作業に支障を来さない最適な金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)と膜厚条件が存在することを発見している。
【0020】
(1-3)図2のグラフ図は、Ni系合金(Ni−W)ターゲットを用い、以下に述べる成膜条件A〜Eで酸素反応性スパッタリング成膜された各金属吸収層における波長(nm)と屈折率(n)との関係を示し、また、図3のグラフ図は、上記成膜条件A〜Eで成膜された各金属吸収層における波長(nm)と消衰係数(k)との関係を示している。
【0021】
尚、成膜条件A〜Eは、成膜条件A(酸素濃度0%)、成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)、成膜条件D(酸素濃度28%)、および、成膜条件E(酸素濃度33%)である。
【0022】
そして、図2図3のグラフ図から、Ni系合金(Ni−W)の酸化の度合いで光学定数(屈折率、消衰係数)が大きく変化していることが確認され、成膜条件A(酸素濃度0%)が最も酸化度が低く、成膜条件E(酸素濃度33%)に向かって酸化度が高くなっている。
【0023】
従って、形成される金属吸収層について、成膜材料(Ni系合金等の金属材料)や成膜条件(酸素や窒素ガス等の反応性ガス添加量)で特定することは困難であり、その光学定数で規定することが望ましい。
【0024】
(1-4)次に、図4図8のグラフ図は、成膜条件A〜Eにより樹脂フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム)に形成された金属吸収層の上に、一例として膜厚80nmの銅(金属層)がそれぞれ成膜された各積層体フィルムについて、PETフィルムと金属吸収層および金属吸収層と金属層(銅)の各界面での反射による分光反射特性を示している。尚、金属吸収層の膜厚は0nm(金属吸収層が存在しない)〜30nmの範囲で5nm毎に変化させている。
【0025】
そして、図4のグラフ図から、金属吸収層の酸化度が最も低い成膜条件A(酸素濃度0%)の分光反射特性は、平均反射率が高く、膜厚が大きくなるにつれて反射率の変化量は減少することが確認される。他方、図8のグラフ図から、金属吸収層の酸化度が最も高い成膜条件E(酸素濃度33%)の分光反射特性は、平均反射率は低いが、分光反射特性の平坦性(最高反射率と最低反射率の差)が大きいことが確認される。
【0026】
(1-5)更に、以下の表1は、上記成膜条件A〜Eで形成された金属吸収層上に膜厚80nmの銅(金属層)がそれぞれ成膜された各積層体フィルムについて、そのエッチング性の良否(積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して積層細線を加工する際の難易に関し、容易にエッチング加工できる場合を「〇」、困難が伴う場合を「×」で表記している)、および、最高反射率が40%以下である条件を満たす膜厚(5nm〜30nmの範囲で5nm毎に変化させている膜厚について満たす場合を「〇」、満たさない場合を「×」で表記している)を表示している。
【0027】
【表1】
【0028】
(1-6)そこで、各積層体フィルムの可視波長域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下で、かつ、各積層体フィルムにおける積層膜(金属吸収層と金属層)のエッチング性に支障を来さない条件を満たす金属吸収層を図4図8のグラフ図と表1から求めると、成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)および成膜条件D(酸素濃度28%)でそれぞれ成膜され、その膜厚が20nm以上30nm以下の金属吸収層が選定される。
【0029】
そして、成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)および成膜条件D(酸素濃度28%)でそれぞれ成膜された金属吸収層の可視波長域(400〜780nm)における光学定数(屈折率、消衰係数)を図2図3のグラフ図から求めると、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
が導かれる。
【0030】
(1-7)そして、PETフィルム上に成膜された金属吸収層の膜厚が20nm以上30nm以下で、可視波長域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)が上記条件、すなわち、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
を具備する場合、その金属吸収層は、PETフィルムと金属吸収層および金属吸収層と金属層(一例として銅)の各界面での反射による可視波長域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下である条件を満たすため、樹脂フィルム(PETフィルム)側から観測される金属層の反射は低減され、また、各積層体フィルムにおける積層膜(金属吸収層と金属層)のエッチング性に支障を来すこともない。
【0031】
尚、膜厚が20nm以上30nm以下でかつ上記光学定数(屈折率、消衰係数)の条件を具備することで、可視波長域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下で、かつ、各積層体フィルムにおける積層膜(金属吸収層と金属層)のエッチング性に支障を来さない特性を有する金属吸収層の材料は、上述したNi系合金(Ni−W)に限定されず、例えば、Ni単体、若しくは、Ti、V、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、および、Cu単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Niより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金で金属吸収層を構成した場合においても成立することが確認されている。
【0032】
(2)本発明に係る電極基板フィルムとこの製造に用いられる積層体フィルム
(2-1)本発明に係る電極基板フィルム
図1(C)に示すように樹脂フィルムから成る透明基板52と、該透明基板52に設けられかつ金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する本発明に係る電極基板フィルムは、
上記積層細線が、透明基板52側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層51と第2層目の金属層50を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層51の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であると共に、
透明基板52と金属吸収層51および金属吸収層51と金属層50の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下であることを特徴とし、
また、上記電極基板フィルムにおいて、
金属製の積層細線が、透明基板52側から数えて第3層目の膜厚が20nm以上30nm以下である第2の金属吸収層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記第2の金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であることを特徴とするものである。
【0033】
(2-2)本発明に係る電極基板フィルムの製造に用いられる積層体フィルム
図1(A)に示すように樹脂フィルムから成る透明基板42と該透明基板42に設けられた積層膜とで構成される上記積層体フィルムは、
上記積層膜が、透明基板42側から数えて第1層目の膜厚が20nm以上30nm以下である金属吸収層41と第2層目の金属層40を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記金属吸収層41の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であると共に、
図1(A)〜(B)に示すように透明基板42と金属吸収層41および金属吸収層41と金属層40の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下であることを特徴とし、
また、上記積層体フィルムにおいて、
上記積層膜が、透明基板42側から数えて第3層目の膜厚が20nm以上30nm以下である第2の金属吸収層を有し、かつ、
可視波長領域(400〜780nm)における上記第2の金属吸収層の光学定数が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
であることを特徴とするものである。
【0034】
(3)本発明に係る電極基板フィルムと上記積層体フィルムの構成材料
(3-1)透明基板を構成する樹脂フィルム
本発明に係る電極基板フィルムと上記積層体フィルムに適用される樹脂フィルムの材質としては特に限定されることはなく、その具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)、トリアセチルセルロース(TAC)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂フィルムの単体、あるいは、上記樹脂材料から選択された樹脂フィルム単体とこの単体の片面または両面を覆うアクリル系有機膜との複合体が挙げられる。特に、ノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等が挙げられる。
【0035】
尚、本発明に係る電極基板フィルムは「タッチパネル」等に使用するため、上記樹脂フィルムの中でも可視波長領域での透明性に優れるものが望ましい。
【0036】
(3-2)金属吸収層
本発明に係る金属吸収層の膜材料としては、上述したようにNi単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、および、Cu単体、若しくは、Ti、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Niより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金が好ましい。
【0037】
また、金属吸収層は、上記Ni単体若しくはNi系合金、Cu単体若しくはCu系合金を成膜材料とし、かつ、成膜装置内に反応性ガスを導入した真空成膜法により形成される。上記真空成膜方法としては、マグネトロンスパッタ、イオンビームスパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング、CVD等があり、また、上記反応性ガスとしては、酸素の単体ガス、または、酸素を主成分としアルゴン等を含む混合ガスが挙げられる。
【0038】
そして、金属吸収層の各波長における光学定数(屈折率、消衰係数)は、反応の度合い、すなわち酸化度あるいは窒化度に大きく影響され、金属吸収層の構成材料だけで決定されるものではない。
【0039】
(3-3)金属層
本発明に係る金属層の構成材料としては、電気抵抗値が低い金属であれば特に限定されず、例えば、Cu単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Agより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金、または、Ag単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたAg系合金が挙げられ、特に、Cu単体が、回路パターンの加工性や抵抗値の観点から望ましい。
【0040】
また、金属層の膜厚は電気特性に依存するものであり、光学的な要素から決定されるものではないが、通常、透過光が測定不能なレベルの膜厚に設定される。
【0041】
そして、金属層の望ましい膜厚は、電気抵抗の観点からは50nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましい。一方、金属層を配線パターンに加工する加工性の観点からは5μm(5000nm)以下が好ましく、3μm(3000nm)以下がより好ましい。
【0042】
(4)真空成膜法を実施する成膜装置
(4-1)スパッタリングウェブコータ
真空成膜法の一例としてスパッタリング法を挙げ、その成膜装置について説明する。
【0043】
尚、この成膜装置はスパッタリングウェブコータと称され、ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルム表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に用いられる。
【0044】
具体的に説明すると、ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)は、図9に示すように真空チャンバー10内に設けられており、巻き出しロール11から巻き出された長尺樹脂フィルム12に対して所定の成膜処理を行った後、巻き取りロール24で巻き取るようになっている。これら巻き出しロール12から巻き取りロール24までの搬送経路の途中に、モータで回転駆動されるキャンロール16が配置されている。このキャンロール16の内部には、真空チャンバー10の外部で温調された冷媒が循環している。
【0045】
真空チャンバー10内では、スパッタリング成膜のため、到達圧力10-4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素や窒素等のガスが添加される。真空チャンバー10の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく種々のものを使用することができる。また、真空チャンバー10内を減圧してその状態を維持するため、真空チャンバー10にはドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置(図示せず)が組み込まれている。
【0046】
巻き出しロール11からキャンロール16までの搬送経路には、長尺樹脂フィルム12を案内するフリーロール13と、長尺樹脂フィルム12の張力の測定を行う張力センサロール14とがこの順で配置されている。また、張力センサロール14から送り出されてキャンロール16に向かう長尺樹脂フィルム12は、キャンロール16の近傍に設けられたモータ駆動の前フィードロール15によってキャンロール16の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール16の外周面に長尺樹脂フィルム12を密着させることができる。
【0047】
キャンロール16から巻き取りロール24までの搬送経路も、上記同様に、キャンロール16の周速度に対する調整を行うモータ駆動の後フィードロール21、長尺樹脂フィルム12の張力の測定を行う張力センサロール22および長尺樹脂フィルム12を案内するフリーロール23がこの順に配置されている。
【0048】
上記巻き出しロール11および巻き取りロール24では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺樹脂フィルム12の張力バランスが保たれている。また、キャンロール16の回転とこれに連動して回転するモータ駆動の前フィードロール15、後フィードロール21により、巻き出しロール11から長尺樹脂フィルム12が巻き出されて巻き取りロール24に巻き取られるようになっている。
【0049】
キャンロール16の近傍には、キャンロール16の外周面上に画定される搬送経路(すなわち、キャンロール16外周面の内の長尺樹脂フィルム12が巻き付けられる領域)に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19および20が設けられ、この近傍に反応性ガスを放出する反応性ガス放出パイプ25、26、27、28、29、30、31、32が設置されている。
【0050】
上記金属吸収層と金属層のスパッタリング成膜を実施する際、図9に示すように板状のターゲットを使用できるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなくかつターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0051】
(4-2)反応性スパッタリング
上記金属吸収層を形成する目的で酸化物ターゲット若しくは窒化物ターゲットが用いられた場合、成膜速度が遅く量産に適さないため、高速成膜が可能な金属ターゲットを採用し、かつ、成膜中に上記反応性ガスを制御しながら導入する方法が採られる。
【0052】
上記反応性ガスの制御として、以下の4つの方法が知られている。
(4-2-1)一定流量の反応性ガスを放出する方法。
(4-2-2)一定圧力を保つように反応性ガスを放出する方法。
(4-2-3)スパッタリングカソードのインピーダンスが一定になるように反応性ガスを放出する(インピーダンス制御)方法。
(4-2-4)スパッタリングのプラズマ強度が一定になるように反応性ガスを放出する(プラズマエミッション制御)方法。
【0053】
(5)電極基板フィルムの製造方法
(5-1)上記積層体フィルムの積層膜(透明基板42側から数えて第1層目の金属吸収層41と第2層目の金属層40から成る積層膜)をエッチング処理して金属製の積層細線に配線加工することで本発明に係る電極基板フィルムを得ることができる。そして、電極基板フィルムの電極(配線)パターンをタッチパネル用のストライプ状若しくは格子状とすることで、本発明に係る電極基板フィルムをタッチパネルに用いることができる。
【0054】
そして、電極(配線)パターンに配線加工された金属製の積層細線は上記積層体フィルムの積層構造を維持していることから、透明基板と金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下と低いため高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが視認され難い電極基板フィルムを提供でき、かつ、エッチング作業に支障を来すこともないため電極等回路パターンの加工精度に優れた電極基板フィルムを提供できると共に、従来と比較して線幅が大きい(例えば、線幅20μm以下)金属製の積層細線を適用できるため電気抵抗値の低い電極基板フィルムを提供することができる。
【0055】
(5-2)そして、上記積層体フィルムから本発明に係る電極基板フィルムに配線加工するには、公知のサブトラクティブ法により加工することが可能である。
【0056】
サブトラクティブ法は、積層体フィルムの積層膜表面にフォトレジスト膜を形成し、配線パターンを形成したい箇所にフォトレジスト膜が残るように露光、現像し、かつ、上記積層膜表面にフォトレジスト膜が存在しない箇所の積層膜を化学エッチングにより除去して配線パターンを形成する方法である。
【0057】
上記化学エッチングのエッチング液としては、過酸化水素系エッチング液、硝酸セリウムアンモニウム水溶液を用いることができ、更に、塩化第二鉄水溶液や塩化第二銅水溶液の他、塩酸酸性の過マンガン酸塩水溶液や酢酸酸性の過マンガン酸塩水溶液も用いることができ、本発明においてはこれ等の塩化第二鉄水溶液、塩化第二銅水溶液、塩酸酸性の過マンガン酸塩水溶液や酢酸酸性の過マンガン酸塩水溶液が望ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0059】
尚、金属吸収層に係る光学特性(屈折率、消衰係数)の測定にはエリプソメータを用い、分光反射特性の測定には自記分光光度計を用いた。
【0060】
[実施例1]
図9に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用い、かつ、反応性ガスには酸素ガスを用いると共に、上記インピーダンス制御により反応性ガス量を制御した。
【0061】
尚、キャンロール16は、直径600mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。前フィードロール15と後フィードロール21は直径150mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。また、各カソード17、18、19、20の上流側と下流側に反応性ガス放出パイプ25、26、27、28、29、30、31、32を設置し、かつ、カソード17には金属吸収層用のNi−Wターゲット、カソード18、19と20には金属層用のCuターゲットを取り付けた。
【0062】
また、透明基板を構成する樹脂フィルムには幅600mmのPETフィルムを用い、キャンロール16は0℃に冷却制御した。また、真空チャンバー10を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10-3Paまで排気した。
【0063】
(1)電極基板フィルムを製造するための積層体フィルムの製造
そして、樹脂フィルムの搬送速度を4m/分にした後、上記反応性ガス放出パイプ25、26からアルゴンガス(スパッタリングガス)を300sccm導入し、かつ、膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nmの金属吸収層(Ni−Wの酸化膜)が成膜されるようにカソード17を電力制御した。また、反応性ガス(酸素ガス)は反応性ガス放出パイプ25、26へ混合ガスとして導入している。
【0064】
反応性ガスには上記酸素ガスを用い、かつ、所定の濃度になるように酸素ガスをピエゾバルブで制御している。そして、導入する酸素ガス濃度の条件として、成膜条件A(酸素濃度0%)、成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)、成膜条件D(酸素濃度28%)、および、成膜条件E(酸素濃度33%)とした。
【0065】
尚、酸素ガスの導入量により成膜速度の低下が予測されるので、目標とする金属吸収層の膜厚を得るためにはスパッタ電力の調整が必要になる。
【0066】
一方、上記反応性ガス放出パイプ27、28、29、30、31、32からアルゴンガス(スパッタリングガス)を300sccm導入し、かつ、膜厚80nmの金属層(Cu層)が形成されるようにカソード18、19と20を電力制御し、成膜条件A(酸素濃度0%)〜成膜条件E(酸素濃度33%)でそれぞれ成膜された膜厚0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nmの各金属吸収層上に、膜厚80nmの金属層(Cu層)を成膜して、電極基板フィルムの製造に供される複数種類の積層体フィルムを製造した。
【0067】
(2)電極基板フィルムの製造
次に、得られた複数種類の積層体フィルムを用い、公知のサブトラクティブ法により実施例に係る電極基板フィルムを製造した。
【0068】
すなわち、上記積層体フィルムの積層膜(金属吸収層と金属層から成る積層膜)表面にフォトレジスト膜を形成し、配線パターンを形成したい箇所にフォトレジスト膜が残るように露光、現像し、かつ、上記積層膜表面にフォトレジスト膜が存在しない箇所の積層膜を化学エッチングにより除去して実施例に係る電極基板フィルムを製造した。
【0069】
電極等回路パターンは、配線幅5μm、間隔300μmのストライプとした。
【0070】
尚、この実施例においては、化学エッチングのエッチング液として塩酸酸性の過マンガン酸塩水溶液を適用した。また、化学エッチングは、現像後のフォトレジスト膜が付された積層体フィルムをエッチング液に浸漬して行った。
【0071】
「確 認」
(1)上記成膜条件A〜Eで、かつ、その膜厚が0nm、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nmとなるようにPETフィルム上に金属吸収層をそれぞれ成膜した後、膜厚80nmの金属層(Cu層)を成膜して得られた複数種類の積層体フィルムについて、PETフィルム側から、自記分光光度計によりPETフィルムと金属吸収層および金属吸収層と金属層の各界面での反射による可視波長領域(400〜780nm)における分光反射率を測定した。
【0072】
この結果を図4図8のグラフ図に示す。
【0073】
(2)一方、成膜条件A〜Eで膜厚20nmの金属吸収層をそれぞれ成膜し、これ等金属吸収層上に膜厚80nmの金属層(Cu層)を成膜して得られた5種類の積層体フィルムについて、PETフィルム側から、エリプソメータにより成膜条件A〜Eの可視波長域(400〜780nm)における光学定数(屈折率、消衰係数)を測定した。
【0074】
この結果を図2図3のグラフ図に示す。
【0075】
尚、光学定数は膜厚に依存しない定数なため、上述したように膜厚20nmの金属吸収層が成膜された5種類の積層体フィルムで光学定数を測定している。
【0076】
(3)更に、エッチング液として塩酸酸性の過マンガン酸塩水溶液を適用し、複数種類の積層体フィルムにおける「エッチング性」を調べたところ、上記表1に示す結果が得られた。上記「エッチング性」は、金属吸収層をエッチングした後、配線パターンの周囲を光学顕微鏡で観察して行った。成膜条件A(酸素濃度0%)と成膜条件B(酸素濃度11%)で形成された金属吸収層については、配線パターンの周囲にエッチングの残りもなくエッチングできた。また、成膜条件C(酸素濃度23%)と成膜条件D(酸素濃度28%)で形成された金属吸収層については、配線パターン周囲の一部に若干のエッチングの残りが見られたが実用上の問題はなかった。尚、成膜条件E(酸素濃度33%)で形成された金属吸収層は、配線パターンの周囲にエッチングの残りが見られ、実用には適さないものであった。
【0077】
更に、上記成膜条件A、B、C、Dで形成された膜厚20nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルム、および、上記成膜条件Bで形成された膜厚15nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルムについてその金属吸収層側から目視で観察した。観察に際し、導電性基板フィルムの目視側と反対側の面を液晶ディスプレイパネルに接するように配した。
【0078】
上記成膜条件Aで形成された膜厚20nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルムと成膜条件Bで形成された膜厚15nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルムは、それぞれ電極等の回路パターンが視認された。一方、上記成膜条件Bで形成された膜厚20nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルム、および、成膜条件C、Dで形成された膜厚20nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルムについては、電極等の回路パターンを視認することは困難であった。特に、成膜条件C、Dで形成された膜厚20nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルムは、成膜条件Bで形成された膜厚20nmの金属吸収層を有する導電性基板フィルムと較べて電極等の回路パターンを視認することがより困難であった。
【0079】
(4)そこで、各積層体フィルムの可視波長域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下で、かつ、各積層体フィルムにおける積層膜(金属吸収層と金属層)のエッチング性に支障を来さない条件を満たす金属吸収層を図4図8のグラフ図と表1から求めると、成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)および成膜条件D(酸素濃度28%)でそれぞれ成膜され、その膜厚が20nm以上30nm以下の金属吸収層が選定され、かつ、上記成膜条件B(酸素濃度11%)、成膜条件C(酸素濃度23%)および成膜条件D(酸素濃度28%)でそれぞれ成膜された金属吸収層の可視波長域(400〜780nm)における光学定数(屈折率、消衰係数)を図2図3のグラフ図から求めると、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
が導かれる。
【0080】
(5)そして、PETフィルム上に成膜された金属吸収層の膜厚が20nm以上30nm以下で、可視波長域(400〜780nm)における上記金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)が上記条件、すなわち、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
を具備する場合、その金属吸収層は、PETフィルムと金属吸収層および金属吸収層と金属層(銅)の各界面での反射による可視波長域(400〜780nm)における最高反射率が40%以下である条件を満たすため、樹脂フィルム(PETフィルム)側から観測される金属層の反射は低減され、また、各積層体フィルムにおける積層膜(金属吸収層と金属層)のエッチング性に支障を来すこともない。
【0081】
(6)すなわち、PETフィルム上に成膜された金属吸収層の膜厚が20nm以上30nm以下で、可視波長域(400〜780nm)における金属吸収層の光学定数(屈折率、消衰係数)が、
波長400nmにおける屈折率が1.8〜2.2、消衰係数が1.8〜2.4、
波長500nmにおける屈折率が2.2〜2.7、消衰係数が1.9〜2.8、
波長600nmにおける屈折率が2.5〜3.2、消衰係数が1.9〜3.1、
波長700nmにおける屈折率が2.7〜3.6、消衰係数が1.7〜3.3、
波長780nmにおける屈折率が3.1〜3.8、消衰係数が1.5〜3.4、
なる条件を満たす積層体フィルムを適用した場合、
電極等回路パターンの加工精度に優れ、かつ、高輝度照明下においても上記回路パターンが視認され難い電極基板フィルムを提供できることが確認される。
【0082】
(7)本実施例においては、金属吸収層がNi−Wターゲットを用いて形成されかつ金属層が銅により構成されているが、上記金属吸収層については他のNi合金やCu合金ターゲットを用いた場合でも上記光学定数の範囲であれば同様の効果が確認され、また、上記金属層においてもCu(銅)に代えて上述したCu系合金またはAg単体若しくは上述したAg系合金が適用され場合でも同様の効果が確認されている。
【0083】
また、エッチング液に関しても、上記塩酸酸性の過マンガン酸塩水溶液に代えて酢酸酸性の過マンガン酸塩水溶液や塩化第二鉄水溶液および塩化第二銅水溶液の適用が可能であることも確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る電極基板フィルムは、高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが視認され難いためFPD(フラットパネルディスプレイ)表面に設置する「タッチパネル」に利用される産業上の可能性を有している。
【符号の説明】
【0085】
10 真空チャンバー
11 巻き出しロール
12 長尺樹脂フィルム
13 フリーロール
14 張力センサロール
15 前フィードロール
16 キャンロール
17 マグネトロンスパッタリングカソード
18 マグネトロンスパッタリングカソード
19 マグネトロンスパッタリングカソード
20 マグネトロンスパッタリングカソード
21 後フィードロール
22 張力センサロール
23 フリーロール
24 巻き取りロール
25 反応性ガス放出パイプ
26 反応性ガス放出パイプ
27 反応性ガス放出パイプ
28 反応性ガス放出パイプ
29 反応性ガス放出パイプ
30 反応性ガス放出パイプ
31 反応性ガス放出パイプ
32 反応性ガス放出パイプ
40 金属層
41 金属吸収層
42 透明基板
50 金属層
51 金属吸収層
52 透明基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9